関連審決 | 審判1999-15568 |
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関連ワード | 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 一致点の認定 / 相違点の認定 / 発明の詳細な説明 / パリ条約 / 優先権 / 参酌 / 技術的意義 / 発明の要旨認定 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 加工 / 拒絶査定 / 請求の範囲 / 変更 / |
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事件 |
平成
14年
(行ケ)
506号
審決取消請求事件
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原告 ボブストソシエテ アノニム 同訴訟代理人弁護士 熊倉禎男 同 吉田和彦 同 渡辺光 同訴訟代理人弁理士 弟子丸健 同 松下満 被告 特許庁長官太田 信一郎 同指定代理人 西野健二 同 松下聡 同 高木進 同 涌井幸一 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2003/03/31 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁が平成11年審判第15568号事件につき平成14年5月20日にした審決を取り消す。 |
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事案の概要
本件は,原告が,特許庁から受けた特許出願の拒絶査定について,不服があるとして,特許庁に対し,上記拒絶査定に対する審判を請求したところ,特許庁が,審判の請求は成り立たない旨の審決をしたことから,原告が,被告に対し,同審決の取消しを求めた事案である。 1 争いのない事実 (1) 原告は,平成10年6月1日,発明の名称を「比質量の小さなシート状又はプレート状加工物のローラ又はベルト式運搬装置」とする発明(以下「本願発明」という)について,特許出願したが(パリ条約による優先権主張平成9年5月30日,スイス国),その請求項1ないし5に係る発明は,同11年5月10日付け,同14年4月2日付けの手続補正書によって補正され,請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という)は,次のとおりとなっている。 板紙や厚紙のような比質量の小さなシート状又はプレート状加工物(21)を運搬するための,並置された2つのローラ式又はベルト式の運搬要素(11,12)と,該運搬要素(11,12)上で前記比質量の小さな加工物(21)の向きを加工物(21)に対して垂直な軸線を中心に変えるための手段とを有し,該手段が,前記運搬要素(11,12)の夫々に連結され,前記運搬要素(11,12)を互いに異なる速度で駆動するようになった速度調節可能な2つの駆動手段(18,18)と,前記比質量の小さな加工物(21)と前記運搬要素(11,12)との間の接触圧力を増大させるように,前記比質量の小さな加工物(21)に圧力を加えるための手段とを備え, 前記運搬要素(11,12)が,エンクロージャ(22)の空気透過性の上面を構成し,前記エンクロージャ(22),前記運搬要素(11,12)によって形成されたエンクロージャ上面を通じて加工物に及ぼされる負圧をエンクロージャ内部に生じさせる手段(23)と連携している, 運搬装置。 (2) 特許庁が,平成11年6月23日,本願発明の特許出願につき,拒絶査定をしたので,原告が,同年9月27日,その査定に不服があるとして,審判を請求したところ,特許庁は,同14年5月20日,概ね,次の理由で,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(出訴期間として90日を附加,以下「本件審決」という)を行い,本件審決の謄本は,同年6月5日,原告に送達された。 ア 実願平2-78841号(実開平4-37142号)のマイクロフィルム(以下「引用例」という)には,次の考案が記載されている。 アルミニウム合金製の板Pを運搬するための,並置された2つの駆動側ベルト36,操作側ベルト42と,該駆動側ベルト36,操作側ベルト42上で前記板Pの向きを板Pに対して垂直な軸線を中心に変えるための手段とを有し,該手段が,前記駆動側ベルト36,操作側ベルト42の夫々に連結された速度調節可能な1つのモータ46と,前記駆動側ベルト36,操作側ベルト42を互いに異なる速度で駆動するために,前記操作側ベルト42と前記モータ46との間に介在された無段変速機48と,前記板Pと前記駆動側ベルト36,操作側ベルト42との間の接触圧力を増大させるように,前記板Pに圧力を加えるための手段とを備え, 前記駆動側ベルト36,操作側ベルト42が,吸引ダクト24の空気透過性の上面を構成し,前記吸引ダクト24,前記駆動側ベルト36,操作側ベルト42によって形成された吸引ダクト24上面を通じて板Pに及ぼされる負圧を吸引ダクト24内部に生じさせる吸引ブロア28と連携している, 運搬装置。 イ 本願発明1と引用例記載の考案との対比 (ア) 一致点 引用例記載の考案の「アルミニウム合金製の板P」「駆動側ベルト36,操作側ベルト42」「モータ46」「吸引ダクト24」「吸引ブロア28」は,それぞれ,本願発明1の「シート状又はプレート状加工物(21)」「ベルト式の運搬要素(11,12)」「駆動手段(18)」「エンクロージャ(22)」「手段(23)」に相当するから,両者は,シート状又はプレート状加工物を運搬するための,並置された2つのベルト式の運搬要素と,該運搬要素上で前記加工物の向きを加工物に対して垂直な軸線を中心に変えるための手段とを有し,該手段が,前記運搬要素を互いに異なる速度で駆動する手段と,前記加工物と前記運搬要素との間の接触圧力を増大させるように,前記加工物に圧力を加えるための手段とを備え,前記運搬要素が,エンクロージャの空気透過性の上面を構成し,前記エンクロージャ,前記運搬要素によって形成されたエンクロージャ上面を通じて加工物に及ぼされる負圧をエンクロージャ内部に生じさせる手段と連携している運搬装置という点で一致している。 (イ) 相違点 a 相違点1 運搬の対象となるシート状又はプレート状加工物が,本願発明1では「板紙や厚紙のような比質量の小さな」ものであるのに対して,引用例記載の考案では「板紙や厚紙のような比質量の小さな」ものに該当するか否か不明である点。 b 相違点2 2つの運搬要素を互いに異なる速度で駆動する手段について,本願発明1は「2つの運搬要素の夫々に連結された速度調節可能な2つの駆動手段」であるのに対して,引用例記載の考案は「2つの運搬要素の夫々に連結された速度調節可能な1つの駆動手段と,前記2つの運搬要素の一方と前記1つの駆動手段との間に介在された無段変速機」である点。 ウ 相違点1,2に係る進歩性 (ア) 相違点1について 本願発明1と引用例記載の考案とは,いずれも,「加工物と運搬要素との間で摩擦力の欠如により滑りが生じてしまう」ことを解決の課題としていること,また,板紙や厚紙をベルトコンベヤ,ローラコンベヤ等で運搬することは,従来普通に行われていることの各事実に照らすと,引用例記載の考案が「アルミニウム合金製の板P」を運搬の対象とするのに代えて,「板紙や厚紙」を運搬の対象とする程度のことは,当業者が格別困難なく想到し得ることにすぎない。 したがって,引用例記載の考案の「アルミニウム合金製の板P」が,本願発明1の「板紙や厚紙のような比質量の小さな」ものに該当するか否かを検討するまでもない。 (イ) 相違点2について 2つの運搬要素を互いに異なる速度で駆動するために,「2つの運搬要素の夫々に連結された速度調節可能な2つの駆動手段による」か,「2つの運搬要素の夫々に連結された速度調節可能な1つの駆動手段と,前記2つの運搬要素の一方と前記1つの駆動手段との間に介在された無段変速機構とによる」かは,いずれも,従来周知の手段であり,どちらの手段を選択するかは,当業者が適宜なし得る設計的事項に過ぎない。 エ むすび したがって,本願発明1は,引用例記載の考案に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるので,特許法29条2項により,特許を受けることができない。 (3) そこで,原告は,被告に対し,平成14年10月2日,本件審決に不服があるとして,審決取消訴訟を提起した。 2 争点 本件審決に関し,原告の主張する次の各取消事由の当否 (1) 本件審決の一致点の認定及び相違点1の認定の誤り ア 原告の主張 (ア) 本願発明1の「比質量の小さな」ものの定義について,特許請求の範囲の記載自体では,数値的な観点からは明らかでないものの,運搬の対象について,特許請求の範囲には例示として「板紙や厚紙」が採用され,また,公開特許公報の発明の詳細な説明には「発泡ポリスチレン」と例示されているところ,これらの例示物は,密度が約1かあるいはこれよりも小さなものであるから,「板紙や厚紙」よりも明らかに比質量の大きなもの,すなわち,密度が1よりも大きなものについては,「比質量の小さな」ものには該当しないというべきである。 これを引用例記載の考案についてみると,運搬の対象となる「アルミニウム合金製の板P」は,いずれも,密度が2から3程度のものであるから,「比質量の小さな」ものには該当しないというべきである。 したがって,運搬の対象となるシート状又はプレート状のものについては,本願発明1では「比質量の小さな」ものであるのに対し,引用例記載の考案では「比質量の小さな」ものに該当しないと認定すべきであったにもかかわらず,本件審決は,誤って,引用例記載の考案において,運搬の対象となるシート状又はプレート状のものが,「比質量の小さな」ものに該当するか否か不明であると認定した。 (イ) 特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するにあたり,明細書の詳細な説明書の記載を考慮することは特に禁じられているわけではないところ(特許法70条2項),本願発明の公開特許公報の発明の詳細な説明【0015】に「・・・この運搬装置は,板紙又は厚紙のような加工物の製造,特に包装分野における加工物の製造のためのフォルダグルア機に特に適用できる(ただし,これに限られない)。この場合,プレート21の一側部を折り曲げた後,隣接の反対側の側部を折り曲げるために,プレート21を90°又は180°回転させる。」,平成11年5月10日付けの手続補正書【0002】に「特に製造工程における運搬装置は,運搬されている加工物を所定の位置に差し向ける手段と連携していることが多い。・・・折り曲げ糊付け装置の場合,事実,折曲げ及び糊付け作業が移動中の加工物に対して行われるこの種の機械では,別の折曲げ及び糊付け作業を行うために設けられた装置との関係でやっかいな問題が生じるのを避けるために,これら加工物が,これら作業の実施に見合った所定位置にあることが非常に重要である。」と記載されているように,本願発明は,板紙や厚紙等の「加工物」に,折曲げ及び糊付け作業等を施して包装用加工物等を製造するためのラインにおいて,折曲げ及び糊付け作業等を行うための装置の直前に設置され,当該作業が容易な任意の方向に向きを変えるための装置にかかるものであるから,本願発明1の「加工物」とは,折曲げ及び糊付け等の加工工程にあるシート状,プレート状のものであって,加工のために運搬されている加工前のもの,または,加工中のものを意味するというべきであり,加工の終了したものを含まないというべきである。 これを引用例記載の考案についてみると,「アルミニウム合金製の板P」は,切断という加工を終了したものであり,「作業の実施に見合った所定位置にあること」は求められていないのであるから,本願発明1の「加工物」には該当しない。 したがって,運搬の対象となるシート状又はプレート状のものについて,本願発明1では「加工物」であるのに対し,引用例記載の考案では「加工物」に該当しないと認定すべきであったにもかかわらず,本件審決は,誤って,引用例記載の考案において,運搬の対象となるシート状又はプレート状のもの,すなわち,「アルミニウム合金製の板P」が,「加工物」に相当すると認定した。 イ 被告の主張 (ア) 本願発明1の「比質量の小さな」ものとの記載は,相対的表現であって,比質量についての具体的数値を特定するものではないから,運搬の対象となるシート状又はプレート状のものが,本願発明1では「板紙や厚紙のような比質量の小さな」ものであるのに対して,引用例記載の考案では「板紙や厚紙のような比質量の小さな」ものに該当するか否か不明である点を相違点1とした本件審決の認定には,誤りはない。 (イ) 引用例の考案の詳細な説明に「本実施例では,アルミニウム合金製の,板厚0.2〜0.4o,板幅600〜1000o,板長600〜1000oの板Pを搬送の対象にしている。この板Pは,前記板厚と板幅のものが,切断装置1によりその板長に切断されて,上記形状に形成される。そして,切断された板Pを収納するパイリング装置2と,この切断装置1との間に本実施例の搬送装置4が配置されている。」(明細書5頁17行目から6頁5行目)と記載されているように,引用例記載の考案の「アルミニウム合金製の板P」は,上記板厚と板幅のものが,切断装置1によりその板長に切断されて,上記形状に形成されたもの,すなわち,切断装置1により切断加工されたものであり,本願発明1の「加工物」に相当することは明らかであるから,引用例記載の考案において,運搬の対象となるシート状又はプレート状のもの,すなわち,「アルミニウム合金製の板P」が,「加工物」に相当するとした本件審決の認定には,誤りはない。 (2) 相違点の看過(その1) ア 原告の主張 (ア) 本願発明1の「向きを加工物(21)に対して垂直な軸線を中心に変えるための手段」の定義についても,特許請求の範囲の記載自体では,明らかでないものの,公開特許公報の発明の詳細な説明に「【0015】・・・プレート21の一側部を折り曲げた後,隣接の反対側の側部を折り曲げるために,プレート21を90°又は180°回転させる。」,「【0014】・・・他の回転角度を随意に選択できる。必要ならば,これらシート又はプレートの回転方向も選択できる」と記載されており,また,上記のとおり,本願発明は,板紙や厚紙等の「加工物」に,折曲げ及び糊付け作業等を施して包装用加工物等を製造するためのラインにおいて,折曲げ及び糊付け作業等を行うための装置の直前に設置され,当該作業が容易な任意の方向に向きを変えるための装置にかかるものであるから,本願発明1の「向きを加工物(21)に対して垂直な軸線を中心に変えるための手段」とは,運搬物を任意の方向に回転させることのできる回転手段を意味するというべきであり,運搬物を任意の方向に回転させることのできない手段を含まないというべきである。 (イ) これを引用例記載の考案についてみると,実用新案登録請求の範囲には「ずれを修正する修正機構とを有する」と記載されているに留まるから,運搬物を任意の方向に回転させることのできる回転手段ではなく,運搬物を任意の方向に回転させることのできない回転手段にすぎないというべきである。 (ウ) したがって,本願発明1は,運搬物を任意の方向に回転させることのできる回転手段を有しているのに対し,引用例記載の考案は,そのような手段を有しておらず,運搬物のずれを修正する修正機構しか有していない点を相違点として認定すべきであったにもかかわらず,本件審決は,これを看過し,誤って,「該運搬要素上で前記加工物の向きを加工物に対して垂直な軸線を中心に変えるための手段」を有している点で,本願発明1と引用例記載の考案とが一致すると認定した。 イ 被告の主張 (ア) 原告の主張は,特許請求の範囲の記載に基づくものでなく,本願発明の実施例に限定して解釈しようとするものであるところ,原告の主張のように限定して解釈すべき特段の事情は存在しないのであるから,原告の主張は,失当である。 (イ) ところで,引用例の考案の詳細な説明に「このずれが生じた状態で,板Pが第3ベルトコンベア8に移動する。但し,このずれは,張力の具合い等による装置の設定要因により生じるものであるので,各板Pについて,同じ方向に同じ量だけ一定の状態で生じる。そして,この第3ベルトコンベア8でも,前述したと同様に,吸引孔22を介して吸引され,板Pは駆動側ベルト36及び操作側ベルト42に吸着される。また,駆動側ベルト36及び操作側ベルト42との間には,相対的に速度差△V(=V1-V 2≠0)があり,それにより,例えば第1図の場合では,駆動側ベルト36よりも操作側ベルト42の方が速度が速い。よって,板Pが第3ベルトコンベア8からパイリング装置2に投入されるまでの間に,板Pは操作側ベルト42側が速く移動する。これにより,板Pは,第3ベルトコンベア8からパイリング装置2に投入されるときには,ずれを修正され,板Pは搬送方向と平行に一定の状態で搬出される。」(明細書11頁14行目から12頁14行目),「以上詳述したように本考案の搬送装置は,吸引機構によりベルトに板を吸着し,修正機構により一対のベルトを相対的に異なる速度で移動して板を搬送するので,板とベルトとの間で滑りが生ぜず,装置の設定要因等により生じるずれを修正するので,ベルトコンベアの速度を速くしても,一定の状態で搬出することができるという効果を奏する。」(同13頁18行目から14頁5行目)と記載されていることによると,引用例記載の考案の「ずれを修正する」とは,各板Pについて,同じ方向であってかつ搬送方向と平行でない方向に同じ量だけ一定の状態で生じるずれを,駆動側ベルト36,操作側ベルト42上で前記板Pに対して垂直な軸線を中心に修正し,搬送方向と平行な一定の状態にすることというべきであり,そうすると,引用例記載の考案は,駆動側ベルト36,操作側ベルト42上で板Pの方向,すなわち,向きを板Pに対して垂直な軸線を中心に変えるための手段を有するものということができる。 したがって,「該運搬要素上で前記加工物の向きを加工物に対して垂直な軸線を中心に変えるための手段」を有している点で,本願発明1と引用例記載の考案とが一致するとした本件審決の認定には,誤りはない。 (3) 相違点の看過(その2) ア 原告の主張 (ア) 「並置」とは,「2つ以上のものを同じ所に置くこと。また,同時に設けること。」を意味する。 また,本願発明の実施例でも,2つの運搬要素に間隔のないものが開示されている。 さらに,本願発明の運搬要素が運搬する加工物は,回転軸線に対して非対称であってもいいし,一部が折り曲げられていたり,糊付けされているなど形状も様々であるところ,このような物の向きを任意に変える際に,2つの運搬要素の間に隙間があると,その間に,物が落ち込んでしまい,運搬装置として意味をなさず,しかも,2つの運搬要素の間に実質的な隙間があるとすれば,エンクロージャ内部の気圧を低く保つことができず,運搬中の加工物に負圧を与えることができないのであるから,2つの運搬要素の間に間隔がないのは当然である。 以上に照らすと,本願発明1の「並置された2つのローラ式又はベルト式の運搬要素」とは,2つの運搬要素の間に実質的な隙間のない構成を意味するというべきである。 (イ) これを引用例記載の考案についてみると,引用例に「平行に張設された一対のベルト間に板を渡して」と記載されているなど,一対のベルトについては,大きな間隔の空いたものというべきである。 (ウ) したがって,本願発明1は,実質的な間隔がなく並置された2つのベルト式の運搬要素を有するのに対し,引用例記載の考案は,隙間を空けて平行に配置された2本のベルトを有している点を相違点として認定すべきであったにもかかわらず,本件審決は,これを看過し,誤って,「並置された2つのベルト式の運搬要素」を有している点で,本願発明1と引用例記載の考案とが一致すると認定した。 イ 被告の主張 (ア) 本願発明1の特許請求の範囲には「2つの運搬要素の間に実質的な間隔がない」という記載は存在しないから,原告の主張は,特許請求の範囲の記載に基づくものではない。そして,「並置」について,「2つの運搬要素の間に実質的な間隔がない構成」と限定して解釈する合理性は存在せず,また,原告の主張のように限定して解釈すべき特段の事情は存在しない。したがって,原告の主張は,失当である。 (イ) ところで,引用例の考案の詳細な説明に「・・・第3ベルトコンベア8は,第3図に示すように,所定間隔で配置された1組の駆動側ベルト車32,34を備えており,この駆動側ベルト車32,34に駆動側ベルト36が張設されている。・・・また,別の1組の操作側ベルト車38,40が,前記駆動側ベルト車32,34と並列に配置され,両操作側ベルト車38,40に操作側ベルト42が張設されている。」(明細書7頁19行目から8頁7行目)と記載されていることによると,引用例記載の考案の「2つの駆動側ベルト36,操作側ベルト42」は,「並置されたもの」ということができる。 したがって,「並置された2つのベルト式の運搬要素」を有する点で本願発明1と引用例記載の考案とが一致するとした本件審決の認定には,誤りはない。 |
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争点に対する判断
1 争点(1)(本件審決の一致点の認定及び相違点1の認定の誤り)について (1) 原告の主張(ア)について ア 原告は,「板紙や厚紙」よりも明らかに比質量の大きなもの,すなわち,密度が1よりも大きな引用例記載の考案の「アルミニウム合金製の板P」等は,本願発明1の「比質量の小さな」ものには該当しないというべきであると主張する。 イ しかしながら,仮に原告主張のとおり,引用例記載の考案の「アルミニウム合金製の板P」が,本願発明1の「比質量の小さな」ものに該当しないとしても,後記4認定のとおり,引用例記載の考案の「アルミニウム合金製の板P」に代えて,「板紙や厚紙」を対象とする程度のことは,当業者であれば,格別困難なく想到し得ることにすぎないから,本件審決が,引用例記載の考案の「アルミニウム合金製の板P」について,本願発明1の「比質量の小さな」ものに該当しないと認定していないとしても,これをもって,本件審決を取り消し得るものではない。 (2) 原告の主張(イ)について ア 原告は,本願発明1の「加工物」とは,折曲げ及び糊付け等の加工工程にあるシート状,プレート状のものであって,加工のために運搬されている加工前のもの,または,加工中のものを意味し,加工を終了し,今後加工する余地のなくなったものを意味するものではないと主張する。 イ しかしながら,特許出願に係る発明の要旨認定は,特段の事情のない限り,明細書の特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきであり,特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか,あるいは,一見してその記載が誤記であることが明細書の発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなどの特段の事情がある場合に限って,明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することが許されるにすぎないと解されるところ(最高裁昭和62年(行ツ)第3号平成3年3月8日第2小法廷判決・民集45巻3号123頁参照),本願発明1の「加工物」が,加工を終了し,今後加工する余地のなくなったものをも意味することは,明らかというべきである。 ウ したがって,本願発明1の「加工物」の解釈にあたって,明細書の発明の詳細な説明の記載(甲2の【0015】及び甲3の【0002】参照)を参酌することは許されず,これについて,折曲げ及び糊付け等の加工工程にあるシート状,プレート状のものであって,加工のために運搬されている加工前のもの,または,加工中のもののことを意味するものであり,加工を終了し,今後加工する余地のなくなったものを意味するものではないなどと限定して解釈することは許されないというべきであるから,原告の主張(イ)も,到底採用することができない。 エ そして,引用例(甲5)の考案の詳細な説明に「本実施例では,アルミニウム合金製の,板厚0.2〜0.4o,板幅600〜1000o,板長600〜1000oの板Pを搬送の対象にしている。この板Pは,前記板厚と板幅のものが,切断装置1によりその板長に切断されて,上記形状に形成される。そして,切断された板Pを収納するパイリング装置2と,この切断装置1との間に本実施例の搬送装置4が配置されている。」(明細書5頁17行目から6頁5行目)と記載されていることに照らすと,引用例の「アルミニウム合金製の板P」は,切断という加工を加えたものであるから,本願発明1の「加工物」に相当することは明らかというべきである。 したがって,引用例記載の考案において,運搬の対象となるシート状又はプレート状のもの,すなわち,「アルミニウム合金製の板P」が,本願発明1の「加工物」に相当するとした本件審決の認定には,誤りはないというべきである。 2 争点(2)(相違点の看過(その1))について (1) 原告は,本願発明1の「向きを加工物(21)に対して垂直な軸線を中心に変えるための手段」とは,運搬物を任意の方向に回転させることのできる回転手段を意味し,運搬物を任意の方向に回転させることのできない手段を含まないというべきであると主張する。 (2) 確かに,本願発明の公開特許公報(甲2)の発明の詳細な説明には「【0014】・・・例えばシート又はプレート21を90°又は180°回転させることができる。これらシート又はプレート21の形状に応じて,他の回転角度を随意に選択できる。必要ならば,これらシート又はプレートの回転方向も選択できることは明らかである。一方よりも高速で駆動される一連のローラ11又は12に応じて,板紙又は厚紙のシート又はプレート21は,時計回り又は反時計回りの方向に回転することになろう。【0015】・・・プレート21の一側部を折り曲げた後,隣接の反対側の側部を折り曲げるために,プレート21を90°又は180°回転させる。」と記載されているから,本願発明1においては,運搬物を任意の方向に回転させることが念頭に置かれているものと窺わせるところがないわけではない。 (3) しかしながら,上記のとおり,特許出願に係る発明の要旨認定は,特段の事情のない限り,明細書の特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきであると解されるところ,「軸線」とは,「物体の回転の中心となる線」を意味するものであることは当裁判所に顕著であり(マグローヒル科学技術用語大辞典改訂第3版参照),また,本願発明1においては,特に,回転の角度等について限定を加えることのないまま,単に,「向きを・・・変えるための手段」という用語が用いられているのであるから,本願発明1の「向きを加工物(21)に対して垂直な軸線を中心に変えるための手段」が,回転角度の大小を問うことなく,加工物の向きを加工物の回転の中心となる線の回りに変える手段を意味するものであることは,一義的に明らかというべきである。 (4) したがって,本願発明1の「向きを加工物(21)に対して垂直な軸線を中心に変えるための手段」の解釈にあたって,明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することは許されず,これについて,運搬物を任意の方向に回転させることのできる回転手段を意味するものであり,運搬物を任意の方向に回転させることのできない手段を含まないなどと限定して解釈することは許されないというべきであるから,原告の主張は,採用することができない。 (5) そして,引用例(甲5)の実用新案登録請求の範囲に「平行に張設された一対のベルト間に板を渡して前記ベルトの移動により前記板を搬送するベルトコンベアを備えた搬送装置において,・・・少なくとも一台の前記ベルトコンベアの前記一対のベルトを相対的に異なる速度で移動してずれを修正する修正機構とを有することを特徴とする搬送装置。」(明細書1頁5から14行目)と記載されており,その考案の詳細な説明にも,同旨(同4頁17行目から5頁6行目)の記載があるとともに,「[作用]前記構成を有する搬送装置は,吸引機構が吸引孔を介して吸引して,板をベルトに吸着させる。そして,修正機構が少なくとも一台のベルトコンベアの一対のベルトを相対的に異なる速度で移動して,ずれを修正し,板を一定の状態で搬出する。」(同5頁7から12行目)と記載されていることに照らすと,引用例の「ずれを修正する修正機構」も,板の向きを板の回転の中心となる線の回りに変える機構ということができるから,本願発明1と引用例記載の考案とは,いずれも,「向きを加工物に対して垂直な軸線を中心に変えるための手段」を有する点で一致するというべきである。 したがって,本願発明1と引用例記載の考案とが,「該運搬要素上で前記加工物の向きを加工物に対して垂直な軸線を中心に変えるための手段」とを有する点で一致するとした本件審決の認定には,誤りはないというべきである。 3 争点(3)(相違点の看過(その2))について (1) 原告は,本願発明1の「並置された2つのローラ式又はベルト式の運搬要素」とは,2つの運搬要素の間に実質的な隙間のない構成を意味するというべきであると主張する。 (2) しかしながら,上記のとおり,特許出願に係る発明の要旨認定は,特段の事情のない限り,明細書の特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきであると解されるところ,「並置」とは,「2つ以上のものを同じ所に置くこと。また,同時に設けること。」を意味するものであることは当裁判所に顕著であり(広辞苑第5版参照),また,本願発明1においては,特に,2つの運搬要素の間隔について限定を加えることのないまま,単に,「並置された2つのローラ式又はベルト式の運搬要素」という用語が用いられているのであるから,本願発明1の「並置された2つのローラ式又はベルト式の運搬要素」が,2つの運搬要素の間の間隔の大小を問うことなく,同じ場所に置かれた2つのローラ式又はベルト式の運搬要素を幅広く意味するものであることは,一義的に明らかというべきである。 したがって,本願発明1の「2つのローラ式又はベルト式の運搬要素」の解釈にあたって,明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することは許されず,これについて,2つ運搬要素の間に実質的な隙間のない構成を意味するなどと限定して解釈することは許されないというべきであるから,この点においても,原告の主張は,採用することができない。 (3) なお,原告は縷々主張するので,念のため,付言すると,証拠(甲2)によれば,本願発明の実施例においても,2つの運搬要素の間には隙間のあることが認められるから,本願発明の実施例でも,2つの運搬要素に間隔のないものが開示されているなどということはできない。 そして,運搬する加工物が2つの運搬要素の隙間に落ち込むか否かは,2つの運搬要素の間に隙間があるか否かのみによって決せられるものでなく,2つの運搬要素上で運搬する加工物の大きさと2つの運搬要素の隙間の大きさの関係によって決せられるものであることは明らかであるので,2つの運搬要素の間に隙間があるからといって,直ちに,その間に,物が落ち込んでしまい,運搬装置として意味をなさないなどということはできない。 また,2つの運搬要素の間に隙間がある場合に,隙間がない場合と比較して,エンクロージャ内部の気圧を低くする効率が下がることはありうるとしても,そうであるからといって,直ちに,加工物に負圧を及ぼすことができなくなるということはできないから,本願発明1において,エンクロージャ内部の気圧を低くするという構成を採用していることをもって,直ちに,2つの運搬要素の間に間隔のないのが当然であるなどと断ずることはできない。 (4) そして,引用例(甲5)の考案の詳細な説明に「第3ベルトコンベア8は,・・・所定間隔で配置された1組の駆動側ベルト車32,34を備えており,この駆動側ベルト車32,34に駆動側ベルト36が張設されている。・・・また,別の1組の操作側ベルト車38,40が,前記駆動側ベルト車32,34と並列に配置され,両操作側ベルト車38,40に操作側ベルト42が張設されている。」(明細書7頁19行目から8頁7行目)と記載されていることに照らすと,引用例の「2つの駆動側ベルト36,操作側ベルト42」は,並列に配置されたものということができるから,本願発明1の「並置された2つのベルト式の運搬要素」に相当するというべきである。 したがって,「並置された2つのベルト式の運搬要素」を有する点で本願発明1と引用例記載の考案とが一致するとした本件審決の認定には,誤りはないというべきである。 4 原告のその余の主張について 原告は,専ら,上記各争点に係る相違点の認定の誤りや相違点の看過が存在することを前提として,本件審決の進歩性の判断に誤りがあると主張するものであるが(原告準備書面(1)18頁参照),上記認定判断のとおり,その前提となるべき相違点の認定の誤りや相違点の看過を認めることができない以上,この主張は,失当というべきであり,採用することができない。 もっとも,下記のとおり,原告は,本件審決に上記瑕疵が存在しないとしても,本件審決の相違点1に係る進歩性の判断は誤りであると主張しているものと善解する余地があるので,この点について,念のため,検討する。 (1) 原告は,引用例記載の考案について,ベルトコンベアの振動や一対のベルトコンベアの条件が異なることによるずれに専ら起因して,「アルミニウム合金製の板P」が斜めにずれることから,これを修正するために,負圧を用いて,「アルミニウム合金製の板P」とベルトコンベアとの間の摩擦力を大きくするものであり,「アルミニウム合金製の板P」と運搬要素との摩擦力が小さいために,「アルミニウム合金製の板P」が斜めにずれるものではないのに対し,本願発明1については,ベルトコンベア等の振動や一対のベルトコンベア等の条件が異なることによるずれに起因して,加工物が斜めにずれる余地は乏しいものの,加工物と運搬要素との間の摩擦力が小さいために,加工物の方向を変えようとしても,これを的確に行うことができないことから,これを的確に行うために,負圧を用いて,加工物と運搬要素との間の摩擦力を大きくするものであるから,引用例記載の考案が,本願発明1における技術思想を示唆又は開示しているということはできず,したがって,引用例記載の考案が「アルミニウム合金製の板P」を運搬の対象とするのに代えて,「板紙や厚紙」を運搬の対象とすることは,当業者であっても,容易に想到し得るものではないと主張するものと善解する余地がある。 (2) しかしながら,引用例(甲5)の考案の詳細な説明に「こうした従来の搬送装置では,板Pとベルト56との間で滑りが生じ,2本のベルト56での滑り量が同じにならないことから,・・・搬送途中に板Pが搬送方向に対して斜めにずれてしまう場合があった(板とベルトとの摩擦が小さいために板がずれる現象を,本明細書では,「滑り」と呼ぶことにする。)。また,2本のベルト56の張り具合いの違い等などの,平行な2本のベルト56の設定要因の違いから,板Pが流れたりして,板Pが搬送方向に対して斜めにずれてしまう場合があった(ベルトの設定要因の違いに起因して,板がずれる現象を,本明細書では,「流れ」と呼ぶことにする。)。しかも,このような板Pの滑りや,流れによりずれは,搬送する板P毎に違った状態で表れ,搬送方向に対して色々な方向にずれて,ベルトコンベア54から板Pがパイリング装置52に投入される際に,ランダムな状態で搬出されていた。従って,板Pがベルトコンベア54からパイリング装置52等に投入される際に,うまく投入されない場合があり,搬送速度が速くなればなるほど,その傾向が強くなり,搬送速度を速くすることができないという問題があった。・・・そこで本考案は上記の課題を解決することを目的とし,搬送速度を速くしても,板を一定の状態で搬出することができる搬送装置を提供することにある。」(明細書3頁2行目から4頁13行目),「[課題を解決するための手段]かかる目的を達成すべく,本考案は課題を解決するための手段として次の構成を取った。即ち,平行に張設された一対のベルト間に板を渡して前記ベルトの移動により前記板を搬送するベルトコンベアを備えた搬送装置において,前記ベルトに多数の吸引孔を穿設し,該吸引孔を介して吸引して前記板を前記ベルトに吸着させる吸引機構と,少なくとも一台の前記ベルトコンベアの前記一対のベルトを相対的に異なる速度で移動してずれを修正する修正機構とを有することを特徴とする搬送装置の構成がそれである。」(同4頁14行目から5頁6行目),「[作用]前記構成を有する搬送装置は,吸引機構が吸引孔を介して吸引して,板をベルトに吸着させる。そして,修正機構が少なくとも一台のベルトコンベアの一対のベルトを相対的に異なる速度で移動して,ずれを修正し,板を一定の状態で搬出する。」(同5頁7から12行目)と記載されていることに照らすと,引用例記載の考案は,ベルトコンベアの振動や一対のベルトコンベアの設定条件のずれのみに起因して,「アルミニウム合金製の板P」が斜めにずれるものではなく,「アルミニウム合金製の板P」と運搬要素との間の摩擦力が小さく,滑り状態が生じることにも起因して,「アルミニウム合金製の板P」が斜めにずれてしまうことから,負圧を用いて,「アルミニウム合金製の板P」と運搬要素との間の摩擦力を大きくすることにより,上記ずれの修正を適切に行う運搬装置というべきである。 したがって,引用例記載の考案について,ベルトコンベアの振動や一対のベルトコンベアの設定条件が異なることによるずれに専ら起因して,「アルミニウム合金製の板P」が斜めにずれることから,これを修正するために,負圧を用いて,「アルミニウム合金製の板P」とベルトコンベアとの間の摩擦力を大きくするものということはできず,また,「アルミニウム合金製の板P」と運搬要素との摩擦力が小さいために,「アルミニウム合金製の板P」が斜めにずれるものではないということもできないから,原告の上記主張は,前提を誤ったものであり,採用することができない。 (3) そして,本願発明の公開特許公報(甲2)及び平成11年5月10日付けの手続補正書(甲3)の発明の詳細な説明に「【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】・・・【0005】・・・各々が別々の速度で別個独立に駆動される並置された2つのコンベヤを用いて平らな接触面をもつ加工物の向きを変え,かくして2つのコンベヤと同時接触状態にある加工物の回転を行うことが提案された。 一つの加工物の接触表面の2つの部分を互いに異なる速度で駆動できるようにするためには,運搬されている加工物の比質量が,各コンベヤと接触表面との間に,他方のコンベヤと係合しているこの共通接触表面の他の部分とは異なる速度で駆動するようにする摩擦力を生じさせるのに適したものでなければならないことは明らかである。これとは逆の場合,危険な滑り状態が生じ,適当な精度で回転角度を決定することは不可能になる。【0006】板紙又は厚紙から成る加工物の製造,特に包装材料の製造に用いられるフォルダグルアの場合,事実上,厚紙プレート又は板紙シートのブランクの比質量が小さいので,これらプレート又はシートの向きをコンベヤと接触しているこれらの表面に垂直な軸線の回りに変えるための並置された2つのコンベヤを用いる方法は利用できない。本発明の目的は,上述の探索の問題を少なくとも部分的には解決することにある。【0007】【課題を解決するための手段】この目的を考慮して,本発明は,板紙又は厚紙のような比質量の小さなシート状又はプレート状加工物の向きをこれら加工物に垂直な軸線の回りに変える手段を有し,該加工物の向きを変える前記手段が,加工物の経路に沿って並置された2つの運搬要素と,運搬要素の各々に連結された速度調節可能な別個の駆動手段とを備えた前記加工物用のローラ又はベルト式運搬装置において,運搬要素の方向においてこれら加工物に作用して加工物の比質量に効果を加え,その結果生じるこれら運搬要素と加工物との間の摩擦力により,運搬装置の各々の速度にほぼ一致した速度が運搬要素にそれぞれ隣接した加工物の各表面部分にそれぞれ伝達されるようにするための手段とを有することを特徴とする運搬装置を提供する。・・・」と記載されていることに照らすと,本願発明1については,加工物と運搬要素との間の摩擦力が小さく,滑り状態が生じるために,加工物の方向を変えようとしても,適当な精度で回転角度を決定することができないことから,負圧を用いて,加工物と運搬要素との間の摩擦力を大きくすることにより,上記加工物の方向変更を適当な精度で行う運搬装置というべきである。 そうすると,本願発明1と引用例記載の考案とは,いずれも,運搬装置という共通の技術分野に属するところ,運搬物と運搬要素との間で摩擦力が小さいために,滑り状態が生じるという共通の課題について,負圧を用いて,運搬物と運搬要素との間の摩擦力を大きくすることにより,運搬物の方向付けを適当な精度で行うという共通の手段によって解決するものというべきであるから,引用例記載の考案は,本願発明1における技術思想を示唆又は開示しているというべきである。 また,証拠(甲6)によれば,板紙や厚紙をベルトコンベア等で運搬することは,従来ごく普通に行われているものと認められる。 以上に照らすと,引用例記載の考案が「アルミニウム合金製の板P」を運搬の対象とするのに代えて,「板紙や厚紙」を運搬の対象とすることは,当業者であれば,容易に想到し得ることというべきであり,したがって,本件審決の相違点1に係る進歩性の判断には,誤りはないというべきである。 5 結論 以上のとおり,原告主張に係る各取消事由はいずれも理由がなく,本件審決の判断は相当である。よって,原告の請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 北山元章 |
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裁判官 | 青柳馨 |
裁判官 | 絹川泰毅 |