関連審決 | 審判1999-9624 |
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関連ワード | 頒布された刊行物 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 発明の詳細な説明 / 技術的意義 / 置き換え / 拒絶査定 / 請求の範囲 / 変更 / |
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事件 |
平成
14年
(行ケ)
391号
審決取消請求事件
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原告A 訴訟代理人弁理士 原田信市,原田敬志 被告 特許庁長官太田信一郎 指定代理人 木原裕,鈴木憲子,大野克人,林栄二 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2003/04/08 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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原告の求めた裁判
「特許庁が平成11年審判第9624号事件について平成14年6月18日にした審決を取り消す。」との判決。 |
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事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 原告は,平成9年3月28日「水底地盤改良工法とその改良地盤」なる発明について特許出願(平成9年特許願第77792号)をしたが,平成11年5月11日拒絶査定があったので,同年6月15日審判を請求するとともに(平成11年審判第9624号),特許請求の範囲の補正を含む手続補正(本件補正)をしたが,平成14年6月18日本件補正を却下する旨の決定とともに,本件審判の請求は成り立たないとする審決があり,その謄本は同年7月3日原告に送達された。 2 本願発明の要旨(請求項1に係る発明の要旨)(本件補正前のもの) 軟弱不良な水底地盤上に,捨石投入によって捨石層を形成し,その捨石層を,これをなす捨石どうしが圧密しかつそれらの隙間に上記水底地盤の土砂類が圧詰めされるようにタンピングハンマーでタンピングすることにより,その水底地盤に圧入することを特徴とする水底地盤改良工法。 (本件補正後のもの) 軟弱不良な粘性土水底地盤上に,捨石投入による捨石層を形成し,その捨石層を,タンピングハンマーの吊上げと自由落下を繰り返し行うことによりタンピングして,捨石各々とそれを取り巻く土砂類をそれらの間に空隙を残さない状態に圧密しながら上記水底地盤に圧入し,周辺水底地盤と一体化することを特徴とする水底地盤改良工法。 3 審決の理由の要点 審決は,下記の理由による補正却下決定を前提として,請求項1に係る発明の要旨を本件補正前のものと認め,請求項1に係る発明は,特開平7-259101号公報記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであると判断した。 4 補正却下決定の理由 (1) 補正後の本願請求項1に係る発明が,出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か検討する。 本件出願前,国内に頒布された刊行物(特開平7-259101号公報。引用刊行物)には,「軟弱不良な砂地水底地盤10上に,雑石や小割石などの投入によってベースマウンド12を形成し,締固め装置14を振動させ,締固め装置14自体の重量と振動によって,そのベースマウンド12を締め固めながら上記水底地盤10に沈設する水底地盤改良工法。」という発明が記載されていると認められる。 (2) 補正後の本願請求項1に係る発明と引用刊行物記載の発明とを比較すると, 引用刊行物記載の発明においても,相互の空隙が大きい状態の雑石や小割石などを締め固めながら水底地盤に沈設するものであるから,雑石や小割石など各々とそれを取り巻く土砂類をそれらの間に空隙を残さない状態に圧密しながら,周辺水底地盤と一体化することとなるのは,自明の事柄であるということができ,そして,引用刊行物記載の発明の「雑石や小割石など」,「ベースマウンド」,「締め固め」,「沈設」は,補正後の本願請求項1に係る発明の「捨石」,「捨石層」,「圧密」,「圧入」に相当しているから,両者は,「軟弱不良な水底地盤上に,捨石投入により捨石層を形成し,その捨石層を,捨石各々とそれを取り巻く土砂類をそれらの間に空隙を残さない状態に圧密しながら,上記水底地盤に圧入し,周辺水底地盤と一体化する水底地盤改良工法。」である点で一致し, 補正後の本願請求項1に係る発明は,粘性土水底地盤上に形成した捨石層を,タンピングハンマーの吊上げと自由落下を繰り返し行うことによりタンピングして,水底地盤に圧入しているのに対して,引用刊行物記載の発明は,砂地水底地盤上に形成した捨石層を,締固め装置自体の重量と振動によって,水底地盤に圧入している点,で相違している。 (3) 上記相違点について検討する。 本件出願前,軟弱不良な水底地盤の締固め工法として,ハンマーの打撃による方法も,振動による方法も,共に周知・慣用の事項(特開昭59-41508号公報,特開昭60-175625号公報,実願昭61-107874号(実開昭63-14638号)のマイクロフィルム等参照)にすぎず,また土質により,その締固め圧密手段が相違することも,常識的事項であり,当業者であれば,必要に応じて容易に変更できることにすぎないから,上記相違点において,軟弱不良な水底地盤を,引用刊行物記載の発明の砂地盤に代えて補正後の本願請求項1に係る発明のように粘性土とし,捨石層の圧密,圧入を行う方法として,引用刊行物記載の発明の方法に代えて補正後の本願請求項1に係る発明のようにタンピングハンマーの吊上げと自由落下を繰り返し行う方法とすることは,当業者であれば,容易に変更なし得ることである。 よって,補正後の本願請求項1に係る発明は,引用刊行物記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により,出願の際独立して特許を受けることができないものであり,本件補正は,特許法17条の2第5項の規定により準用される同法126条4項の規定に違反するものである。 したがって,本件補正は,特許法159条1項の規定により読み替えて準用される同法53条1項の規定により,却下すべきものである。 |
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原告主張の審決取消事由
審決は,補正却下決定に基づいて,請求項1に記載された本願発明の要旨を,補正前明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明と認定したが,補正却下決定は誤りであり,審決は,その誤った補正却下決定に基づいて本願請求項1に係る発明の要旨を認定し,それを引用刊行物に記載の発明と対比判断したものであるから,違法であり,取り消されるべきものである。 1 補正後の本願請求項1に係る発明と引用刊行物記載の請求項1の発明は,改良前対象である水底地盤が,粘性土水底地盤と砂地水底地盤というように,その性質,性状を異にし,かつ,改良後の水底地盤についても,「粘性土水底地盤を構成していた土砂類と上記捨石層を構成する捨石各々が圧密状態をなし,その土砂類が一種の接着剤の作用をして捨石どうしを結合し,全体が周辺水底地盤と一体化したもの」と「砂地盤10の当該部分をベースマウント12に置き換えた状態のもの」というように,その構成を異にする。 砂地盤(水底砂地盤では表面数cmを除く。)は,軟弱不良な粘性土水底地盤とは違い,N値及び地耐力が極めて大きいから,雑石や小割石などにより形成したベースマウンドを,その砂地盤中に荷重付加手段の重量と振動だけで,すなわち,その下部の砂を排除することなしに沈設することが技術的に可能であるとは,当業者には想定できない。 引用刊行物において砂地盤に沈設するベースマウンドは,雑石や小割石などにより形成しているものであって,少なくとも捨石(雑石や小割石とは異なる)を水底地盤に圧入することに関する記載はない。たまたま,引用刊行物記載の発明は,「ベースマウンド下部の砂を排除し,砂地盤10をベースマウンド12に置き換えることを必須の要件として」記載していないからといって,それを不要としていると断定することができるものではない。 2 補正後の本願請求項1に係る発明は,タンピングハンマーの自由落下によるタンピングで「粘性土水底地盤を構成していた土砂類と上記捨石層を構成する捨石各々とが圧密状態をなし,その土砂類が一種の接着剤の作用をして捨石どうしを結合し,全体が周辺水底地盤と一体化した」地盤を得ようとしていることなどから当業者であれば容易に推量できるように,使用する「捨石」は,中割石(重さ30〜300s,径30〜70p)又は大割石(重さ300s以上,径70〜90p)である。 これに対し,引用刊行物に記載の発明において使用される「捨石」は雑石,小割石であり,それらは,通常,重さ1s以下,径10p以下のものであるにすぎない。 引用刊行物に記載の発明が,ベースマウンド12を締固め装置14の自重と振動で沈設し,砂地盤10の当該部分をそのベースマウンド12で置き換えた水底地盤を得ようとしている以上,上記雑石,小割石等を使用することは必然ともいうべきことである。 補正後の本願請求項1に係る発明においては,タンピングハンマーによるタンピングにより,捨石層を,捨石各々とそれを取り巻く土砂類をそれらの間に空隙を残さない状態に圧密しながら軟弱不良な粘性土水底地盤に圧入し,全体を周辺水底地盤と一体化させるものであるのに対し,引用刊行物記載の発明においては,「雑石や小割石など」で形成したベースマウンド自体を,荷重付加手段の重量と振動で単に「締め固め」るとともに砂地盤中に「沈設」することにより,「砂地盤10の当該部分をベースマウンド12に置き換えた状態」にするだけのものである。 したがって,引用刊行物に記載の発明の「雑石や小割石など」「ベースマウンド」「締め固め」「沈設」は,それぞれ補正後の本願請求項1に係る発明の「捨石」「捨石層」「圧密」「圧入」とはいずれも相違する。 3 捨石層のタンピングをタンピングハンマーでタンピングし圧密状態にすることは,周知慣用のことであるとして被告が提出した乙1〜4の公報におけるタンピングハンマーによるタンピングは,水底地盤上に形成した捨石層自体を,専ら締め固めによる圧密又は圧密均しを行うのに終始している。これに対し補正後の本願請求項1に係る発明では,捨石層を,捨石各々とそれを取り巻く土砂類をそれらの間に空隙を残さない状態に圧密しながら軟弱不良な粘性土水底地盤に圧入しているものである。両者は,タンピングハンマーによるタンピングの目的,内容及び効果を自ずと異にしている。 |
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当裁判所の判断
改良を目指す個別対象地盤に応じて適切な工法が採用されること,また,改良を目指す個別対象地盤により適切な捨石の大きさが異なることは原告主張のとおりのものと理解できるとしても,引用刊行物における単に例示として挙げられた「雑石,小割石等」が,原告主張のように,用いられる捨石の大きさを明確に限定しているものとは,引用刊行物の記載(甲6)によっても認めることはできない。そして,捨石の大きさは,補正前の本願請求項1に係る発明においても,また補正後の本願請求項1に係る発明においても特定されていない(甲3の2,3,4の2,5の2)。したがって,補正後の本願請求項1に係る発明が引用刊行物記載の発明で用いられる大きさの捨石を排除するものということはできない。 地盤を締め固めることで圧密状態が得られることは,本願明細書記載の発明の詳細な説明【0011】(甲5の2)からも明らかなように,当業者には自明な事項であると認められる。また,この【0011】に記載のように,ハンマーの打撃による締固め工法あるいはタンピングハンマーにクレーンで吊下げで自由落下を繰り返す工法がいずれも周知である以上,タンピングハンマーを用いることに格別な差異があるものと認めることもできない。 原告主張のように,砂地盤と軟弱不良な粘性土水底地盤とは改良対象が現実的には異なるものであるとしても,乙7(「新版土木工学ハンドブック中巻」1164頁,技報堂出版1974年)からも明らかなように,これらの地盤は軟弱地盤として共通に認識されているのであり,これら地盤の間で改良工法を適用することを当業者が想起し得ないものとは認めることはできない。 原告は,補正後の本願請求項1に係る発明は,タンピングハンマーによるタンピングにより,捨石層を,捨石各々とそれを取り巻く土砂類をそれらの間に空隙を残さない状態に圧密しながら軟弱不良な粘性土水底地盤に圧入し,全体を周辺水底地盤と一体化させるものである点で,引用刊行物と相違する旨主張するが,そこに格別の技術的意義を見いだすことはできない。 その他原告が主張するところをすべて考慮しても,補正却下決定に誤りがあると認めることはできない。 |
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結論
よって,原告主張の審決取消事由は理由がなく,原告の請求は棄却されるべきである。 |
裁判長裁判官 | 塚原朋一 |
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裁判官 | 塩月秀平 |
裁判官 | 古城春実 |