関連審決 | 異議1999-70616 |
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関連ワード | 製造方法 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 一致点の認定 / 相違点の認定 / 置き換え / 特許発明 / 設定登録 / 請求の範囲 / 独立特許要件 / 訂正明細書 / 取消決定 / |
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事件 |
平成
13年
(行ケ)
155号
特許取消決定取消請求事件
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原告 三洋電機株式会社 訴訟代理人弁理士 芝野正雅 被告 特許庁長官太田信一郎 指定代理人 伊東和重 同 張谷雅人 同 森田 ひとみ 同 一色 由美子 同 大橋良三 同 涌井幸一 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2003/04/10 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成11年異議第70616号事件について平成13年2月26日にした特許取消決定を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 2 被告 主文と同旨。 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,発明の名称を「光ディスクの製造方法」とする特許第2789608号の特許(昭和63年9月2日出願(以下「本件出願」という。),平成10年6月12日に特許権設定登録,以下「本件特許」といい,その発明を「本件発明」という。)の特許権者である。 本件特許の請求項1,2について,特許異議の申立てがなされ,その申立ては,平成11年異議第70616号事件として審理された。原告は,この手続の過程で,本件出願の願書に添付した明細書(以下,図面と併せて「本件明細書」という。)の訂正を請求した(以下「本件訂正」といい,訂正後の明細書及び図面を「訂正明細書」という。)。特許庁は,平成13年2月26日に,「特許第2789608号の請求項1,2に係る特許を取り消す。」との決定をし,そのころ,その謄本を原告に送達した。 2 特許請求の範囲 (1) 本件訂正前 「【請求項1】透明基板の情報記録面に形成された反射膜を保護する保護層上に印刷を施した光ディスクの製造方法であって, 水なし平板を用いて前記保護層上にアクリル系紫外線硬化型インクをオフセット印刷する第1工程と, 前記第1工程によってオフセット印刷されたアクリル系紫外線硬化型インクに紫外線を照射する第2工程と, を含むことを特徴とする光ディスクの製造方法。」(以下「本件発明1」という。) 「【請求項2】透明基板の情報記録面に形成された反射膜を保護する保護層上に印刷を施した光ディスクの製造方法であって, 水なし平板を用いて前記保護層上にアクリル系紫外線硬化型インクをオフセット印刷する第3工程と, 前記第3工程を所望の回数だけ繰り返して,複数の色のアクリル系紫外線硬化型インクをオフセット印刷する第4工程と, 前記第4工程によってオフセット印刷された複数の色のアクリル系紫外線硬化型インクに紫外線を照射する第5工程と, を含むことを特徴とする光ディスクの製造方法。」(以下「本件発明2」という。) (2) 本件訂正後(下線部が訂正個所である。) 「【請求項1】透明基板の情報記録面に形成された反射膜を保護する保護層上に印刷を施した光ディスクの製造方法であって, 水なし平版を用いて前記保護層上に,シルク印刷に使用されるアクリル系溶剤インクに比しインクの粘度が高い アクリル系紫外線硬化型インクをオフセット印刷する第1工程と, 前記第1工程によってオフセット印刷されたアクリル系紫外線硬化型インクに紫外線を照射する第2工程と, を含むことを特徴とする光ディスクの製造方法。」(以下「訂正発明1」という。) 「【請求項2】透明基板の情報記録面に形成された反射膜を保護する保護層上に印刷を施した光ディスクの製造方法であって, 水なし平版を用いて前記保護層上にアクリル系紫外線硬化型インクをオフセット印刷する第3工程と, 前記第3工程を所望の回数だけ繰り返して,複数の色のアクリル系紫外線硬化型インクをオフセット印刷する第4工程と, 前記第4工程によってオフセット印刷された複数の色のアクリル系紫外線硬化型インクに紫外線を照射する第5工程と, を含み,前記第5工程において紫外線の照射により硬化されたアクリル系紫外線硬化型インクの膜厚は,シルク印刷によるものに比し薄い ことを特徴とする光ディスクの製造方法。」(以下「訂正発明2」という。) 3 決定の理由の要点 別紙決定書の写し記載のとおりである。要するに,@訂正発明1,2は,いずれも,特開昭62-275752号公報(甲第3号証(審決甲第1号証)。以下「刊行物1」という。)記載の発明(以下「刊行物1発明」という。),特開昭61-246944号公報(甲第4号証(審決甲第2号証)。以下「刊行物2」という。)記載の発明(以下「刊行物2発明」という。),「プラスチックの塗装・印刷便覧」(材料技術研究協会編集委員会編集,1984年8月20日株式会社総合技術出版発行)259ないし260頁(甲第5号証。以下「刊行物3」という。)記載の発明(以下「刊行物3発明」という。),「特殊印刷」(松本和雄ほか22名著,昭和58年7月15日株式会社印刷出版研究所発行)29頁(以下「刊行物4」という。)記載の発明(以下「刊行物4発明」という。)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定に該当し,特許出願の際,独立して特許を受けることができず,本件訂正は認められない。A本件発明1,2は,刊行物1ないし3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項に該当する,とするものである。 決定が上記結論を導くに当たり認定した訂正発明1,2と刊行物1発明との一致点・相違点は,次のとおりである。 (一致点) 「(1)被印刷物面上に印刷を施した光ディスクの製造方法であって,水なし平版を用いて前記被印刷物面上に,粘度が特定比較粘度である紫外線硬化型インクをオフセット印刷する第1工程と,前記第1工程によってオフセット印刷された紫外線硬化型インクに紫外線を照射する第2工程と,を含むことを特徴とする光ディスクの製造方法。(2)被印刷物面上に印刷を施した光ディスクの製造方法であって,水なし平版を用いて前記被印刷物面上に紫外線硬化型インクをオフセット印刷する第3工程と,前記第3工程を所望の回数だけ繰り返して,複数の色の紫外線硬化型インクをオフセット印刷する第4工程と,前記第4工程によってオフセット印刷された複数の色の紫外線硬化型インクに紫外線を照射する第5工程と,を含み,前記第5工程において紫外線の照射により硬化された紫外線硬化型インクの膜厚は,特定比較膜厚であることを特徴とする光ディスクの製造方法。」 (相違点) 「a.上記被印刷物面が,前者では透明基板の情報記録面に形成された反射膜を保護する保護層であるのに対して,後者では不明である点(本件訂正発明1,2との共通の相違点)。」(以下「相違点a」という。) 「b.上記紫外線硬化型インクが,前者ではアクリル系のインクであるのに対して,後者では何系のインクか不明である点(本件訂正発明1,2との共通の相違点。)」(以下「相違点b」という。) 「c.上記インクの特定比較粘度が,前者ではシルク印刷に使用されるアクリル系溶剤インクに比し高いものであるのに対して,後者では不明である点(本件訂正発明1との相違点)。」(以下「相違点c」という。) 「d.上記インクの特定比較膜厚が,前者ではシルク印刷によるものに比し薄いものであるのに対して,後者では不明である点(本件訂正発明2との相違点)」(以下「相違点d」という。) |
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原告主張の決定取消事由の要点
決定の理由中,「1.手続きの経緯」は認める。「2.訂正の適法性」の うち,「(1)本件訂正発明」は認める。「(2)独立特許要件の判断」のうち,刊行物1ないし4の記載事項の認定(3頁21行ないし6頁2行)及び相違点の認定(6頁20行ないし31行)は認め,その余は争う。「3.特許異議の申立てについての判断」のうち,「(1)本件特許発明」,「(2)引用刊行物」は認め,「(3)対比・判断」,「(4)むすび」は争う。 決定は,@訂正発明1,2と刊行物1発明との一致点でないものを一致点と認定して相違点を看過し,訂正発明1,2と刊行物1発明との相違点についての判断を誤り,その結果,訂正発明1,2の独立特許要件の判断を誤り,A本件発明1,2と刊行物1発明との一致点でないものを一致点と認定して相違点を看過し,本件発明1,2と刊行物1発明との相違点についての判断を誤り,その結果,本件発明1,2の進歩性の判断を誤った ものであり,これらの誤りが,それぞれ,請求項1,2のいずれについても,決定の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,全部,違法として取り消されるべきである。 1 訂正発明1,2と刊行物1発明との一致点の認定の誤り(相違点の看過) (1) 訂正発明1,2と刊行物1発明とが「光ディスクの製造方法」である点で一致する,とした認定の誤り ア 刊行物1に記載されているのは,「水なし平板とロール形転写体を用いた印刷方法」であって,光ディスクの製造方法ではない。 刊行物1には,「CDディスク(現在はスクリーン印刷によって印刷している)のUVインキ印刷などに最適である。」(甲第3号証4頁右上欄17行〜19行)との記載がある。しかし,同記載は,印刷の対象とされ得る被印刷物の適用例として,適用の可能性を示す程度のものにすぎず,これをもって,刊行物に光ディスクの製造方法が記載されているとすることはできない。 刊行物1には,一貫して「印刷方法」が記載されており,この印刷方法を適用した製造方法,例えば「CDの製造方法」などについては,記載されていない。刊行物1を見た当業者は,同刊行物が印刷方法を開示したものと理解し,たとい,そこに被印刷物の適用例が単なる一行書きで記載されているとしても,それはあくまで例示にとどまるものと理解するのであり,例示された被印刷物に当該印刷方法を適用して,印刷方法とは別の製造技術を想起することはない。 イ 刊行物1記載の印刷方法をCDディスクに適用する場合には,主として転写体を被印刷物であるCDディスクに押しつける圧力との関係で,@アルミニウム反射膜の剥離,A印刷品質のばらつき,B反りの発生という技術的な障害がある。これらの技術的障害があることは当業者において容易に認識しうる。刊行物1に,CDディスクへの適用の可能性を単に示唆するだけの記載があったとしても,当業者は,上記技術的障害を直感し,上記示唆は,あくまで,可能性を例示したにすぎないものと理解し,それ以上の技術を想起することはない。 ウ 本件出願当時,CDのラベル印刷はスクリーン印刷で十分とされており,水なし平版による印刷法を採用する必要性はなかったから,水なし平版の技術をCDのラベル印刷に転用することが慣用的であったということはできない。 エ 刊行物1が光ディスクの製造方法を開示しているとした決定の認定及びこれに基づく一致点の認定は誤りである。 (2) 訂正発明1,2と刊行物1発明とが第4工程,第5工程を有する点で一致するとした認定の誤り 決定は,訂正発明2と刊行物1発明とは,「第3工程(判決注・水なし平版を用いて被印刷物面上に紫外線硬化型インクをオフセット印刷する工程であって,訂正発明1における第1工程に対応する。)を所望の回数だけ繰り返して,複数の色の紫外線硬化型インクをオフセット印刷する第4工程と,第4工程によってオフセット印刷された複数の色の紫外線硬化型インクに紫外線を照射する第5工程」(決定書6頁14行〜17行)を含む点において一致する,と認定した。 しかしながら,刊行物1には,複数色の紫外線硬化型インクを印刷する点は示唆されているものの,複数色のインクをどのように印刷し,これにどのように紫外線を照射して硬化させるかについては,一切記載されていない。 刊行物1には,複数色の印刷に関する説明として,「これによって,ロール形転写体の各区分版B1〜B 4の版パターンが夫々異なったものであれば,4種類のパターンの印刷が可能であり,各色彩を違ったものとすれば,多色印刷が可能であり,同じ版パターンであれば,連続的な印刷を効率的に行い得る特徴がある。」(甲第3号証4頁左上欄4行〜9行)との記載があるのみである。 この記載は,単に可能性を記載するにとどまり,具体的構成を開示するものではない。 同記載における多色印刷が,一つの被印刷物に複数色を重ね印刷するものであるのか,複数の被印刷物にそれぞれ異なる1色を印刷するものであるのか(この場合には,それぞれの被印刷物に印刷されるのは単色のインクである。),不明確である。同記載で引用されている刊行物1の第3図(ホ)(別紙図面参照)では,90度ずつ区分された四つの版(B1〜B4)のうち,例えば版B1のインク7のみが一つの被印刷物9に印刷されているので,各版のインクの色を替えた場合には,一つの被印刷物には単色のインクが印刷されることになり,一つの被印刷物に複数色のインクが重ね印刷されることはないから,上記記載中の「多色印刷」は複数の印刷物にそれぞれ異なる1色を印刷するものである,と認定するのが自然である。刊行物1中の上記「同じ版パターンであれば,連続的な印刷を効率的に行い得る。」との記載によれば,各版が同じパターンであるから,それぞれの版のインクが一つの被印刷物に複数回重ねて印刷されることはあり得ない。この記載によれば,四つの被印刷物に対し,それぞれ別々に各版のインクを印刷することになる,と理解するのが自然であることは明らかである。 仮に,上記記載中の「多色印刷」を,一つの被印刷物に複数色の紫外線インクを印刷すること,と認定することができるとしても,刊行物1には紫外線の照射に関する記載が一切ない。上記複数色の紫外線インクに紫外線をどのように照射するのか,具体的には,複数色の紫外線インクを重ね印刷した後に紫外線を照射して複数色のインクを一度に硬化させるのか,1色印刷するごとに逐一紫外線を照射して1色ごとに硬化させるのか,紫外線の照射タイミングないしインクの硬化方法については,不明である。 決定の,刊行物1に第4,第5工程が記載されているとの認定及びこれに基づく一致点の認定は誤りである。 2 訂正発明1,2と刊行物1発明との相違点についての判断の誤り (1) 相違点aないしdに係る事項が周知であるとした誤り 決定は,刊行物2ないし4を挙げつつ,訂正発明1,2と刊行物1との相違点として認定した事項は周知である,と認定した。 しかしながら,上記の周知性は,何ら立証されていない。刊行物2は公開特許公報であって,このような公報が当業者に広く読まれたものであるかは不明である。一つの技術が周知であることを特許公報によって示すためには,少なくとも複数件の特許公報を提示すべきである。刊行物3,4は雑誌であり,極めて専門性の高いものであって,当業者に広く読まれたものであるか疑わしい。 (2) 相違点a,bに係る構成を得ることに格別の困難性がない,との判断の誤り 決定は,刊行物2,3に記載された周知の事項を適用して,相違点a,bに係る訂正発明1,2の構成を得ることに格別の困難性は認められない,と認定判断したが,誤りである。 ア 被告は,相違点aについて,刊行物2における「光ディスクの保護層上にスクリーン印刷する技術」が刊行物1の「現在スクリーン印刷によって印刷している」と記載されている技術に該当するので,刊行物2の上記スクリーン印刷技術を刊行物1の印刷法にそのまま置き換えた場合,当然にCDディスクの保護層上に印刷がなされることになる,と主張する。しかし,刊行物1の「現在スクリーン印刷する技術」が,刊行物2の「光ディスクの保護層上にスクリーン印刷する技術」に該当するとした理由が不明である。 イ 被告は,相違点bについて,刊行物1が,CDディスクに対しUVインク印刷が最適であるとしており,刊行物3には,UVオフセットインキの処方としてアクリル系のものが列挙されているから,UVインキとしてこのような典型的な処方を採用することは容易である,と主張する。しかし刊行物1にはCDディスクのUVインキ印刷などにも最適である,と記載されているのみであって,UVインク印刷が最適であることはどこにも記載されていない。 (3) 訂正発明1,2の顕著な作用効果の看過 訂正発明1,2は次の顕著な作用効果を有する。決定はこの顕著な作用効果を看過した結果,訂正発明1,2の想到容易性の判断を誤った。 @ 水なし平版を用いたオフセット印刷によってディスク上に膜厚の薄い印刷部を形成するので,ディスク全体に対する印刷部の重量比を小さくすることができるため,印刷部にいかなる模様を形成したとしても,これによりディスクの重量バランスが乱れることはない。この結果,ミクロンの位での再生制御が要求される光ディスクであっても,ディスクの回転制御が阻害されることはない。 A シルク印刷に使用されるアクリル系溶剤インクに比しインク粘度が高いアクリル系紫外線硬化型インクを用いているので,繊細な模様を表出する印刷部を形成することができる。 B 印刷部の膜厚を薄くし,かつ粘度の高いインクを用いることにより,印刷膜を多数繰り返し形成してもディスク全体に対する印刷部の重量比を抑制でき,かつ,複数色の繊細な印刷膜をディスク上に形成することができる。その結果,再生良好でかつ視覚的効果が飛躍的に向上したディスクラベル(印刷部)を備えた光ディスクを提供することができ,光ディスクの商品価値を飛躍的に向上させることができる。 C 多色印刷する場合には,オフセット印刷を複数回繰り返して複数の色を印刷した後に,紫外線を照射して複数色の印刷を一度に硬化するようにしたので,紫外線照射の回数を抑制でき,紫外線照射によって生じる基板へのストレスを低減させることができる。 3 本件発明1,2と刊行物1発明との一致点の認定及び相違点についての判断の誤り 決定の,本件発明1,2と刊行物1発明との一致点の認定及び相違点についての判断が誤りであることは,1,2で述べたところから明らかである。 |
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被告の反論の要点
1 訂正発明1,2と刊行物1発明との一致点の認定の誤り(相違点の看過),の主張について (1) 訂正発明1,2と刊行物1発明とが「光ディスクの製造方法」である点で一致する,とした認定の誤り,の主張について ア 刊行物1には,そこに開示された印刷方法の適用例に関するものとして,「CDディスク(現在はスクリーン印刷によって印刷している)のUVインキ印刷などに最適である。」(甲第3号証4頁右上欄17行〜19行)との記載がある。 CDディスクの製造工程においてラベル印刷が存在することは周知であり(乙第1号証),その印刷が通常スクリーン印刷で行われること(甲第4号証)も知られている。本件明細書中の「(ハ)発明が解決しようとする課題」の欄にも,従来技術としてシルク印刷(スクリーン印刷と同義)が挙げられていることから分かるように,これは,原告も熟知していることである。 当業者であれば,刊行物1の上記記載から,通常のCDディスクの製造方法におけるスクリーン印刷を刊行物1の印刷方法(水なし平版と凹版転写印刷法を用い,UVインキを使用する印刷方法)に置き換えた「CDの製造方法」を直ちに導き出すことができる。 イ 刊行物1には,この印刷方法は,転写体の弾力性を利用して,平面及び曲面,球面,凹凸面等の変形面に自在に印刷することが可能なものであること(甲第3号証3頁右上欄14行〜15行),ロール転写体を被印刷物に対面した状態で垂直下降接触させて印刷するか,若しくは,ロール型転写体を被印刷物面に接触させながら中心軸を軸として回転させる(同3頁左下欄2行〜6行)方法で印刷するものであることが記載されており,さらに,これに加えて,この印刷法はCDディスクのUVインキ印刷などに最適であることも明記されているのであるから(同4頁右上欄17行〜19行),これを素直に読めば,CDディスクへの適用が推奨されており,適用に当たっての技術的障害は格別存在しない,と解するのが自然である。 当業者は,仮に,印刷時の圧力が強すぎたり,圧力に違いが生じたりすると好ましくないことが生ずると直感的に認識したとしても,この不都合は,単に被印刷物に掛かるロール型転写機の圧の調整をするだけで解決できる事柄であることも,同様に直感的に認識し得る。圧の問題が回避しがたい技術的障害となると理解されるとは考えられない。 (2) 訂正発明1,2と刊行物1発明とが第4工程,第5工程を有する点で一致するとした認定の誤り,の主張について 刊行物1には,「ロール形転写体の各区分版B1〜B4の版パターンが夫々異なったものであれば,4種類のパターンの印刷が可能であり,各色彩を違ったものとすれば,多色印刷が可能であり」(甲第3号証4頁左上欄4行〜8行)との記載がある。この記載によれば,刊行物1発明の印刷法が多色刷りにも適用されることは明らかである。 一般に,オフセット印刷における「多色印刷」には,被印刷物に1色ごとにインクを乾燥(又は硬化)させる方法と,複数色印刷した後最後に乾燥(又は硬化)させる方法とがあることも,周知である(乙第2,第3,第8号証参照)。刊行物1には,UVインキ(紫外線硬化型インク)の使用も記載されているのであるから,紫外線硬化型インクをオフセット印刷する「第3工程を所望の回数だけ繰り返して,複数の色の紫外線硬化型インクをオフセット印刷する第4工程」と,これに紫外線照射する「第5工程」は,同刊行物に記載されているに等しいということができる。 2 訂正発明1,2と刊行物1発明との相違点についての判断の誤り,の主張について (1) 相違点aないしdに係る事項が周知であるとした誤り,の主張について ア 保護膜上に印刷する点(刊行物2関係)について 決定は,光ディスクの被印刷面を保護層とすること自体が周知であるとし,その事実が記載されている文献として刊行物2を挙げたものである。現に,同刊行物には,保護層上に印刷を行うことが従来技術として示されている(甲第4号証2頁左上欄15行〜17行)。 保護膜上への印刷が周知の事実であることは,「SANYO TECHNICAL REVIEW Vol.19 No.1 FEB 1987」の55ないし61頁(乙第1号証)中の「コンパクトディスクの基本的な構造を図1に示す。・・・このAl膜を保護する目的で,主として紫外線硬化型の樹脂を塗布し,最後にその上からラベル印刷が施されている」(同55頁左欄22行〜右欄7行)との記載からも裏付けられる。 イ 粘度,膜厚について 原告は,刊行物3,4は極めて専門性が高く,当業者に広く読まれたものか疑わしいと主張する。 しかし,刊行物3の表題は「塗装・印刷便覧」であり,表題からも,多岐にわたる目次の項目からも,この文献が塗装・印刷の技術分野における技術事項について基本的,常識的知識を得るために幅広く利用できる辞書的な書物であることは,明らかである。原告主張のような疑いを入れる余地はない。 刊行物4も,印刷技術について一般的な解説を行っている内容の書物である上,日比谷図書館にも所蔵され貸出しの対象とされるものであるから,同様に,上記のような疑いを入れる余地はない。 オフセット印刷のインクの膜厚がスクリーン印刷によるものに比し薄いものであることが周知であることは,「印刷インキ技術」(相原二郎他2名著 株式会社シーエムシー 1982年8月30日発行)(乙第4号証)中の 「 版 式 インキ膜の厚さ オフセット平版 2ミクロン (中略) スクリーン 30 」(177頁3行〜7行) の記載からも明らかである。 (2) 相違点a,bに係る構成を得ることに格別の困難性がない,との判断の誤り,の主張について ア 刊行物2発明は,光ディスクの保護層上にスクリーン印刷を行う技術であり,刊行物1で「現在はスクリーン印刷によって印刷している」と記載されている技術に該当する。そうすると,このスクリーン印刷を刊行物1の印刷法にそのまま置き換えた場合,当然にCDディスクの保護層上に印刷がなされることになるから,相違点aに係る訂正発明1,2の構成は,このことを単に明記したという意味を有するにすぎない。 イ 刊行物3にはUVオフセットインキの処方としてアクリル系のものが列挙されている。そうすると,UVインクとしてこのような典型的な処方を採用すること(相違点bに係る訂正発明1,2の構成の採用)は,当業者にとって容易なことである。 (3) 訂正発明1,2の顕著な作用効果の看過,の主張について 原告の主張する作用効果@ないしCは,本件明細書及び訂正明細書のいずれにも記載されていない。 仮に記載されていたとしても,オフセット印刷は,もともと,他の印刷方法に比較して微細部分の表現力に優れており(乙第2号証),精巧な画像がほとんどあらゆる種類の被印刷物に鮮明に刷られる(乙第5号証)ものであって,繊細な模様が得られることが,オフセット印刷の特徴であることは,よく知られている。 インク皮膜の厚さがスクリーン印刷の場合よりも薄いこともよく知られている(甲第6,乙第4号証)。CDディスク印刷にオフセット印刷を適用した場合に,上記のようなオフセット印刷の利点がもたらされ,原告主張の作用効果@ないしBが奏されることは,自明のことである。 原告の主張する作用効果Cについては,オフセット印刷がされた複数の色の紫外線硬化型インクに紫外線を照射することが周知であり(乙第1,第2号証),複数の印刷に対して1回の紫外線硬化の方法を採用した場合には,1色ごとに紫外線照射を行う場合に比し紫外線照射回数を減らすことができるから,その結果として紫外線照射によって生じる被印刷物へのストレスを低減することができることは,当業者が容易に予測することが可能な作用効果である。 3 本件発明1,2と刊行物1発明との一致点の認定及び相違点についての判断の誤り,の主張について 原告の主張に理由がないことは,1,2で述べたところから明らかである。 |
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当裁判所の判断
1 訂正発明1,2と刊行物1発明との一致点の認定の誤り(相違点の看過),の主張について (1) 決定は,訂正発明1,2と刊行物1発明とは,「(1)被印刷物面上に印刷を施した光ディスクの製造方法であって,水なし平版を用いて前記被印刷物面上に,粘度が特定比較粘度である紫外線硬化型インクをオフセット印刷する第1工程と,前記第1工程によってオフセット印刷された紫外線硬化型インクに紫外線を照射する第2工程と,を含むことを特徴とする光ディスクの製造方法。(判決注・訂正発明1と刊行物1発明との一致点)(2)被印刷物面上に印刷を施した光ディスクの製造方法 であって,水なし平版を用いて前記被印刷物面上に紫外線硬化型インクをオフセット印刷する第3工程と,前記第3工程を所望の回数だけ繰り返して,複数の色の紫外線硬化型インクをオフセット印刷する第4工程と,前記第4工程によってオフセット印刷された複数の色の紫外線硬化型インクに紫外線を照射する第5工程と,を含み, 前記第5工程において紫外線の照射により硬化された紫外線硬化型インクの膜厚は,特定比較膜厚であることを特徴とする光ディスクの製造方法。(判決注・訂正発明2と刊行物1発明との一致点。以上の下線部は判決において加えたものである。)」(決定書6頁7行〜19行)である点で一致する,と認定した。 (2) 訂正発明1,2と刊行物1発明とが「光ディスクの製造方法」である点で一致する,とした認定の誤り,の主張について 原告は,刊行物1には「光ディスクの製造方法」が記載されていないから,訂正発明1,2と刊行物1発明とが「光ディスクの製造方法」である点で一致する,とした決定の認定は誤りである,と主張する。 刊行物1(甲第3号証)には,「本発明印刷方法は,水なし平版と凹版転写印刷法とを応用した印刷方法であり,・・・上記水なし平版Aの凹版部6に,インキロール11またはスクイジー等によって適宜インキ7(UVインキ)を詰めたのち,該水なし平版Aに上記ロール形転写体Bの一部を圧接して凹版部6内のインキ7をロール形転写体Bの周面の一部に移転保持せしめ,該ロール形転写体Bをその中心軸8を中心として設定角度回転し・・・,該部分を被印刷物9と対面した状態で垂直下降接触して印刷するか,若しくは,ロール形転写体Bを被印刷物面に接触し乍ら中心軸8を軸として回転して印刷するようにしたものである。」(3頁左上欄18行〜左下欄6行),「ロール型転写体は,上記の如く,ロール形(円柱形)に形成して,軸線方向に長い寸法のものの形成が可能で,長さ寸法の長い印刷が可能であり,また,径の設定によって円周面方向に広い面積の形成が可能で,広面積の凹凸ある変形面への印刷が可能な,従来にない秀れた特長を保有しているので,・・・(C)…また,近時需要が激増している,CDディスク(現在はスクリーン印刷によって印刷している)のUVインキ印刷などにも最適である。」(4頁左上欄16行〜右上欄19行)との記載がある。 原告は,刊行物1には一貫して「水なし平版とロール形転写体を用いた印刷方法」が記載されていることを挙げて,刊行物1中の上記記載に接した当業者は,これを被印刷物の例示にとどまるもの理解し,例示された被印刷物に印刷方法を適用したCDディスクの製造方法を想起することはない,と主張する。 しかしながら,CDディスクに関する刊行物1の上記記載は,既に存在する,スクリーン印刷により印刷されたCDディスクの製造方法を前提に,その印刷に関する部分だけをUVインキ印刷に換えた方法を述べたものであることが明らかであるから,たとい,印刷方法に着目した形で表現されているとしても(この点は,訂正発明1,2も同様である。),これを反対に解すべき事情が認められない限り,当業者は,そこには,被印刷物面であるCDディスク上に,UVインキ(紫外線硬化型インク)をオフセット印刷する「光ディスクの製造方法」が記載されていると理解するというべきである。 原告は,刊行物1記載の印刷方法であるオフセット印刷をCDディスクへの印刷に適用する場合には,転写体をCDディスクに押し付ける圧力により,@アルミニウム反射膜の剥離,A印刷品質のばらつき,B反りの発生という技術的障害があり,当業者は,上記認定の記載に接しても,上記技術的障害を認識して,上に認定した記載は,あくまで可能性を例示したにすぎないと理解するにとどまり,それ以上に上記印刷方法をCDディスクへの印刷に適用することを想起することはない,と主張する。 しかしながら,オフセット印刷をCDディスクへの印刷に適用することを想起することを困難とするような技術的障害があったことについては,これを認めるに足りる証拠はない(本件明細書及び訂正明細書中には,原告主張の技術的障害や,この技術的障害を克服したことについての記載が全くない。原告自身,オフセット印刷をCDディスクへの印刷に適用することについて,克服することが困難な技術的障害はなかったと認識していたものとみることができる。)他に上記反対の事情があることを認めるに足りる証拠はない。 原告は,水なし平版による印刷技術をCDディスクへの印刷に転用することが慣用的であったとはいえない,と主張する。しかし,刊行物1自体に水なし平版とロール形転写体を用いたオフセット印刷の被印刷物としてCDディスクが明示されていることは,前記説示のとおりである。刊行物1の解釈に当たり,CDディスクへの「転用」を問題とする余地はない。 原告の主張は,いずれも採用することができない。 (3) 訂正発明1,2と刊行物1発明とが第4工程,第5工程を有する点で一致するとした認定の誤り,の主張について ア 原告は,刊行物1には,複数の色の紫外線硬化型インクをオフセット印刷する第4工程の記載も,オフセット印刷された複数の色の紫外線硬化型インクに紫外線を照射する第5工程の記載もない,と主張する。 イ 刊行物1(甲第3号証)には,「これによって,ロール形転写体の各区分版B1〜B4の版パターンが夫々異なったものであれば,4種類のパターンの印刷が可能であり,各色彩を違ったものとすれば,多色印刷が可能であり,同じ版パターンであれば,連続的な印刷を効率的に行い得る特徴がある。」(4頁4行〜9行)との記載がある。 原告は,ここにいう「多色印刷」は,複数の被印刷物にそれぞれ異なる1色を印刷するものを指し,一つの印刷物に複数色のインクを重ね印刷するものを指すものではない,と主張する。 しかしながら,一般に,「多色印刷」の語は,「二色以上の色を刷り重ねる印刷」(小学館 日本大百科全書。乙第6号証)を意味し,「多色刷り」の語は「数色を使って印刷すること,またはその印刷物。・・・写真製版が実用される以前には,・・・十数色も刷り重ねることがあったが,3原色説にもとづく写真製版技術が用いられるようになってからは,・・・3原色でいかなる原稿もたいてい複製されるようになった。」(平凡社 世界大百科事典 乙第7号証)と記載され,数色を塗り重ねて印刷することを意味する,とされている。このような「多色印刷」の一般的な意味に照らすと,刊行物1の「多色印刷」には,一つの印刷物に複数色のインクを重ね印刷することが,少なくとも含まれる,と解するのが相当である。 原告は,自らの主張する解釈の根拠として,刊行物1の第3図(ホ)(別紙図面参照)を挙げる。しかし,同図の被印刷物9の印刷パターンは,ロール形転写体の版パターンB1ないしB4と一致していないことから,同図はあくまで略図にすぎず,各版パターンB1ないしB4が四つの被印刷物に必ず別々に印刷されるとか,被印刷物9上のインクが必ず一層であるとかいうことを示すものではない,と解するのが相当である。原告の主張は採用することができない。 ウ 特開昭57-14664号公報(乙第2号証)には,「本発明は,プラスチツクフィルムへオフセツト印刷し印刷フイルムを連続巻取り可能な印刷インキおよびこれを用いるオフセツト印刷法に関する。」(1頁右下欄2行〜4行),「多色刷りのためには,1色印刷ごとに紫外線照射により硬化させる方法あるいは多色印刷した後,最後に紫外線照射により全色を同時に硬化させる方法がとられる。」(4頁右下欄14行〜17行)との記載がある。 特開昭57-43893号公報(乙第3号証)には,「多色印刷装置3は中央の転写ドラム18の周囲に,あらかじめ赤,白,青,黒等の紫外線乾燥型インクが別々に供給されている版ロール19〜22が当接して転写ドラム18と完全に同期するように連動しており,転写ドラム18は下地塗装装置1の転写ドラム12と同様に,ゴム状弾性体でできた円筒体である。1個のビール樽10が回転中の転写ドラム18に圧接して1回転する間に転写ドラム18を通過し,その間にビール樽10の外筒面にはビールの銘柄や製造業者,模様等が同時に多色印刷される。 印刷済のビール樽10は次の紫外線乾燥機4内を通過し,前工程で多色印刷されたインクはその間に完全に焼き付けられる。」(2頁右上欄5行〜18行)との記載がある。 上記各公報の上記認定の記載に照らすと,本件出願当時,オフセット印刷における多色印刷には,被印刷物に1色ごとにインクを乾燥又は硬化させる方法と複数色を印刷した後に最後に同時に乾燥又は硬化させる方法とがあることは周知の事項であったということができる。これらの周知の事項と前記イで述べたところに照らすと,刊行物1には,紫外線硬化型インク(UVインキ)をオフセット印刷する第3工程を所望の回数だけ繰り返して,複数の色の紫外線硬化型インクをオフセット印刷する第4工程と,これに紫外線を照射する第5工程が実質的に記載されているものと認めるのが相当である。 原告の主張は採用することができない。 2 訂正発明1,2と刊行物1発明との相違点についての判断の誤り,の主張について (1) 相違点aないしdに係る事項が周知であるとした誤り,の主張について 相違点aに係る事項は,光ディスクの被印刷部(被印刷物面)を透明基板の情報記録面に形成された反射膜を保護する保護層とすることである。このように光ディスクの被印刷部を保護層とすることは,昭和60年4月に出願された特許出願についての公開特許公報である刊行物2に従来技術として記載されている(同刊行物には,「第4図に保護膜の設けられたディスク上にレーベル印刷膜を形成する従来の印刷膜形成装置の断面図を示す。11は印刷膜形成装置を示し,保護膜の設けられたディスク上に印刷インク付着装置12と乾燥装置13とによりレーベル印刷膜が形成される。」(甲第4号証2頁左上欄15行〜20行)との文言とこれに対応する図(第4図)の記載がある。)。本件明細書及び訂正明細書にも,従来技術に関する説明中に,「光ディスクは,一般に,透明基板の一面にピットの有無により記録面を形成し,この記録面上に反射膜及び保護層を順次形成したディスク盤と,前記保護層上に形成される印刷部とよりなる。」(甲第2号証1頁右欄14行〜2頁左欄2行,甲第8号証全文訂正明細書2頁1行〜3行)として記載されている。これらのことからすれば,相違点aに係る事項は,本件出願当時周知であったと優に認めることができる。 刊行物3(甲第5号証)は,昭和58年に発行された「プラスチックの塗装・印刷便覧」と題する刊行物であり,刊行物4(甲第6号証)は,昭和58年に発行された「特殊印刷」と題する刊行物である。これらの刊行物はいずれも本件出願の数年前に刊行されたものであること,これらの刊行物は入手困難なものでなく,当業者において容易に参照することができるものであることに照らすと,これらに記載された相違点bないしdに係る事項は,いずれも本件出願当時周知であったと認めるのが相当である。 原告の主張は採用することができない。 (2) 相違点a,bに係る構成を得ることに格別の困難性がない,との判断の誤り,の主張について ア 光ディスクの被印刷部(被印刷物面)を透明基板の情報記録面に形成された反射膜を保護する保護膜とすることが周知であると認められることは,前記(1)で述べたとおりである。この周知事項を刊行物1発明に適用することによって訂正発明1,2の上記相違点aに係る構成を得ることに格別の困難性はない,とした決定の判断に誤りはないというべきである。 原告は,被告が,相違点aに関し,刊行物2発明は,光ディスクの保護層上にスクリーン印刷する技術であり,刊行物1の「現在スクリーン印刷によって印刷している」と記載されている技術に該当する,と主張したのに対し,その理由が不明である,と主張する。 しかしながら,前述のとおり,CDディスクにおける印刷は一般にその保護層上に行われていたことを前提に,刊行物1中の,「近時需要が激増している,CDディスク(現在はスクリーン印刷によって印刷している)のUVインキ印刷などにも最適である。」(甲第3号証4頁右上欄17行〜19行)との記載をみれば,この記載における「CDディスク(現在はスクリーン印刷によって印刷している)」によって示される技術が光ディスクの保護層上にスクリーン印刷する技術に当たることは明らかであり,同刊行物に接した当業者は,そのように理解すると認められる。 原告の主張は採用することができない。 イ アクリル系の紫外線硬化型インクが周知であると認められることは,前記(1)で述べたとおりである。この周知事項を刊行物1に適用することによって訂正発明1,2の上記相違点bに係る構成を得ることに格別の困難性はない,とした決定の判断に誤りはないというべきである。 原告は,被告が,相違点bに関し,刊行物1は,CDディスクに対しUVインクが最適であるとしている,と主張したことに対し,刊行物1にはそのような記載はない,と主張する。上記アで認定した刊行物1の記載部分は,CDディスクのUVインキ印刷にオフセット印刷が最適であるとの趣旨であり,UVインキ印刷自体が最適である,と述べたものではない,と理解すべきである。この意味において,被告の上記主張が正確でないことは,原告の指摘のとおりである。しかし,被告の主張が正確でないことが上記相違点bについての決定の判断に影響を及ぼすものでないことは,上記説示したところから明らかである。 原告の主張は採用することができない。 (3) 訂正発明1,2の顕著な作用効果の看過の主張について 原告は,訂正発明1,2には,@シルク印刷に使用されるアクリル系溶剤インクに比しインク粘度が高いアクリル系紫外線硬化型インクを用いているので,繊細な模様を表出する印刷部を形成できる,A印刷部の膜厚を薄くし,かつ粘度の高いインクを用いることにより,印刷膜を多数繰り返し形成してもディスク全体に対する印刷部の重量比を抑制でき,かつ,複数色の繊細な印刷膜をディスク上に形成できる,Bその結果,再生良好で且つ視覚的効果が飛躍的に向上したディスクラベル(印刷部)を備えた光ディスクを提供でき,光ディスクの商品価値を飛躍的に向上させることができる,C多色印刷する場合には,オフセット印刷を複数回繰り返して,複数の色を印刷した後に紫外線を照射して複数色の印刷を一度に硬化するようにしたので,紫外線照射の回数を抑制でき,紫外線照射によって生じる基板へのストレスを低減させることができる,という顕著な作用効果がある,と主張する。 しかしながら,特開昭57-14664号公報(乙第2号証)には,「オフセット印刷法は,他の印刷方法に比較して微細部分の表現力に優れており」(1頁右下欄5行〜6行)との記載が,「増補版 印刷事典」(社団法人日本印刷学会編 昭和62年発行。乙第5号証)には,「オフセット印刷の特長は,精巧な画像がほとんどあらゆる種類の被印刷物に鮮明に刷られること」(67頁の「オフセットいんさつ」の項)との記載が,「特殊印刷」(印刷出版研究所 昭和58年発行。甲第6号証)には,スクリーン印刷について,「インキ着肉層が厚い。通常10〜30ミクロン程度で,オフセット印刷などの5〜10倍のインキ層を形成する。」との記載が,「印刷インキ技術」(株式会社シーエムシー 1982年発行。乙第4号証)には,オフセット印刷のインク膜の厚さがスクリーン印刷のインク膜の厚さよりも薄い,との記載があることが認められる。これらの記載によれば,オフセット印刷が微細部分の表現力に優れ,精巧な画像をほとんどあらゆる種類の被印刷物に鮮明に刷ることができること,オフセット印刷のインク膜の厚さがスクリーン印刷におけるインク膜よりも薄いことは,周知の事項であるということができ,これらの周知な事項に照らすと,原告主張の作用効果@ないしBは,訂正発明1,2においてオフセット印刷を用いたことに伴う自明の作用効果にすぎないというべきである。 また,原告主張の作用効果Cである紫外線照射によって生じる基板へのストレスを低減させるという作用効果も,訂正発明2において,紫外線照射の回数を減らす構成を採用したことに伴う自明の作用効果にすぎない,というべきである。 原告主張の作用効果@ないしCは,いずれも自明の作用効果にすぎず,訂正発明1,2の進歩性を根拠付けるに足る顕著な作用効果ということはできない。 原告の主張は採用することができない。 3 本件発明1,2と刊行物1発明との一致点の認定及び相違点についての判断の誤りの主張について 本件発明1,2についての決定の認定判断は,本件訂正により訂正された個所に関する判断部分を除き,訂正発明1,2についての認定判断と同一である。本件発明1,2についての決定の認定判断の誤りをいう原告の主張に理由がないことは,前記1,2で述べたところから明らかである。 |
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結論
以上のとおりであるから,原告主張の決定取消事由はいずれも理由がなく,その他,決定にはこれを取り消すべき誤りは見当たらない。 よって,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 山下和明 |
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裁判官 | 阿部正幸 |
裁判官 | 高瀬順久 |