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関連ワード 協議 /  債務不履行 /  実施 /  実施権 /  専用実施権 /  設定登録 /  移転登録 /  対価 / 
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事件 平成 14年 (ワ) 6316号 専用実施権設定登録抹消登録等請求事件
原告A
訴訟代理人弁護士 緒方道夫
被告 ニットク工業株式会社
訴訟代理人弁護士 岡田優
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2003/04/18
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告は,原告に対し,別紙第1目録記載の特許権について,特許庁平成12年12月28日受付受付番号005797号の別紙第2目録記載の専用実施権設定登録の抹消登録手続をせよ。
2 被告は,別紙第1目録記載の特許権について専用実施権を有しないことを確認する。
事案の概要
1 争いのない事実等 (1) 被告は,平成13年1月23日,別紙第2目録記載の専用実施権設定登録(以下「本件設定登録」という。)をした。
(2) 被告は,平成14年2月24日,上記専用実施権を株式会社エヌ・ティー・シー(代表者B)に無償で譲渡し,同年3月12日,移転登録手続がされた(甲9,弁論の全趣旨)。
2 本件は,原告が,被告に対し,「別紙第1目録記載の特許(以下「本件特許」という。)について,原告は被告に対して専用実施権を設定していないにもかかわらず,被告は,原告に無断で本件設定登録手続をした,仮に設定したとしても,被告には,原被告間で専用実施権設定登録をしないとの合意があったにもかかわらず,その合意に反して本件設定登録手続をしたこと等の債務不履行があったので,原告は被告に対して専用実施権設定契約を解除した。」と主張して,本件特許権の専用実施権設定登録の抹消登録手続を求めるとともに,本件特許権について専用実施権を有しないことの確認を求めている事案である。
3 本件の争点 (1) 原告が被告に対し専用実施権を設定したかどうか (2) 原告が被告に対し専用実施権の設定をした場合,被告主張に係る債務不履行による解除は認められるか
争点に対する当事者の主張
1 争点(1)について 【原告の主張】 (1) 原告は,平成2年に被告(当時の商号は株式会社ニットク)を設立して代表者となり,平成3年に本件特許を出願し,被告に本件特許を実施させていた。被告は,平成9年12月末現在で開発資金運転資金等のために1億8000万円以上の債務を負担していた。
(2) 原告は,平成8年暮れころ,日本機工株式会社(以下「日本機工」という。)を経営していたBに会った。Bは,原告の焼却炉に興味を持ち,原告に対し被告の共同経営の話を申し入れ,原告とBとは次のとおり合意した。
@ 債権債務に関する契約書添付の一覧表記載の債務をB又は日本機工が肩代わりする,特に借入金等7517万5201円については,2,3か月以内にB又は日本機工が肩代わりして支払う。
A @の債務をB又は日本機工が支払ってから,本件特許の専用実施権を設定する。
B Bは,原告に対し,給料として毎月45万円,本件特許のロイヤルティとして毎月65万円を支払う。
被告は@を履行していないにもかかわらず,原告に無断で原告の氏名,認印を冒用して専用実施権設定契約証書(甲7)を作成し,登録申請書にも原告に無断で原告の氏名,認印を冒用して本件設定登録手続を行った。
(3) 以上のとおり,原告は被告に対して専用実施権を設定していないにもかかわらず,被告は,原告に無断で本件設定登録手続をした。
【被告の主張】 原告は,被告に対し,本件特許につき,平成10年1月14日,専用実施権 設定契約を締結し(甲2),その際,被告が専用実施権設定登録をすることも 合意していた。
専用実施権設定契約証書(甲7)は,原告の承諾を得て被告が作成し,被告の事務所内にあった「A」という印鑑を押捺して作成したものであり,偽造文書ではない。
【原告の反論】 専用使用実施権協定契約書(甲2)は,原告が被告から,「来週資金を作るには,どうしても特許に関する契約書を投資家に見せなければならない。」「調印だけでもお願いしたい。」と言われて,資金調達のためだけであることを前提として調印したもので,専用実施権を設定したものではない。
2 争点(2)について 【原告の主張】 (1) 原告が,被告に対し,本件特許につき,専用実施権を設定したとしても,原被告間には,専用実施権設定登録をしない旨の合意があった。
(2) 被告と原告とは,平成13年3月1日,協定書(甲3)に調印し,次のとおり合意した。
@ 被告は,原告に対し,毎月30万円を支払う。
A ロイヤルティは売価の5%とする。
B 被告は,上記1【原告の主張】(2)@の残債務のうち1800万円を1週間以内に支払う。
(3) 被告は,原告に対し,同年4月1日から5月31日までの間に合計55万円を支払ったが,その余の(2)@Bの支払をしなかった。また,被告は,(1)の合意に反し,本件設定登録手続をした。
(4) 原告は,被告に対し,平成13年10月1日到達の書面で,上記金員の10日以内の支払と専用実施権設定登録の抹消を催告するとともに,10日以内に上記金員の支払がないときは,専用実施権設定契約を解除する旨の意思表示をした。
(5) よって,本件特許の専用実施権設定契約は解除された。
【被告の主張】 (1) 原告と被告との間で,上記【原告の主張】(1)記載の合意が成立したとの原告の主張は否認する。
(2) 協定書(甲3)は,被告が本件特許の専用実施権を有することを前提に,原告が被告の「ニットク式熱分解処理施設」の普及,製造,販売に協力して施設の改善,改良を行った場合は,被告が原告に対し,対価として毎月金30万円を支払い,また,原告の功績により被告が利益を上げたときは,ロイヤルティを支払い,さらに,このロイヤルティの中から1800万円の債務を優先して支払うという内容であって,この30万円の支払や1800万円の債務の支払は,本件特許について被告が専用実施権の設定を受けたことの対価ではなく,上記仕事及び功績の対価である。しかるに,原告は,上記仕事を行わず,功績もないので,上記支払義務はない。
(3) したがって,本件特許の専用実施権設定契約が解除されたということはない。
当裁判所の判断
1 証拠(甲1ないし4,6ないし8,12,甲14の1ないし6,乙8,10,原告本人,被告代表者)と弁論の全趣旨によると,次の事実が認められる。
(1) 原告は,平成3年に本件特許を出願した。
(2) 原告は,平成6年に被告を設立して代表者になり,被告に本件特許を実施させていた。被告は,平成9年12月末現在で約7500万円の債務を負担していたが,返済困難で倒産状態であった。
(3) 原告は,Bに対し,株式会社コーシンメディカルサポートや小坂産業株式会社と売買契約を締結していて,売掛金は約1億5000万円あり,在庫等もあるから,資金を出してくれれば営業を継続できると述べて,被告を経営することを依頼した。
(4) そして,被告とBが経営していた富士インターナショナル株式会社(以下「富士インター」という。)との間で,平成10年1月9日,「債権債務に関する契約書」(甲1)が締結された。その内容は,次のとおりであった。
@ 富士インターは,別紙明細書に記載されているとおりの債権債務の継承を承諾した。
A 被告の業務全般について富士インターが継承し営業することを承諾した。 B 原告が有している本件特許を富士インターに移譲し,製造及び販売実施権を富士インターが取得することを被告及び原告は承諾した。
C 原告は,最低3年間,本事業発展のために協力し,営業に努力する。
D 被告の株式全部を富士インターに譲渡する。
(5) 原告と被告は,平成10年1月14日,@原告は,被告に本件特許について専用使用権を設定する,A被告は,原告に対し,売上げの1パーセントを使用料として支払っても決算が黒字の場合のみ,売上げの1パーセントを使用料として支払うという内容の「専用使用実施権協定契約書」(甲2)を作成し,同契約を締結した。
(6) Bは,平成10年1月14日付けの「専用実施権設定契約証書」(甲7),原告名義の平成10年1月14日付け単独申請承諾書(甲14の5),B及び原告名義の平成10年1月14日付け取締役会承認書(甲14の6)を作成した。これらの書類の原告名下の印鑑は,Bがいわゆる三文判を押捺したものである。
Bは,平成12年12月28日,上記各書類を添付して,本件設定登録申請を行い,平成13年1月23日に本件設定登録がされた。
(7) 原告は,平成13年2月ころ,本件設定登録がされていることを知り,Bと話し合った結果,同年3月1日,協定書(甲3)を締結した。その内容は,次のとおりであった。
@ 被告と原告は,平成13年2月20日以降,ニットク式熱分解処理施設の普及,販売にかかわる製造,販売を協力して行う。
A 被告は,原告に対し,毎月30万円を支払うこととする。
B Aの支払は,製造販売した都度被告が原告に支払う本件特許の専用実施権に対するロイヤルティーの中で精算する。
C 被告が原告に対して支払うBのロイヤルティーは,原告の負債のうち1800万円を優先して支払い,残債務4200万円については,利益に基づいて,原被告協議の上支払う。
2 上記1認定の事実によると,原告と被告は,平成10年1月14日,「専用使用実施権協定契約書」(甲2)により,本件特許について専用実施権設定契約を締結したものと認められる。
原告は,「専用使用実施権協定契約書」(甲2)について,被告から,「来週資金を作るには,どうしても特許に関する契約書を投資家に見せなければならない。」「調印だけでもお願いしたい。」と言われて,資金調達のためだけであることを前提として調印したものであると主張し,それに沿う証拠として,原告の陳述書(甲6,8)の記載及び原告の本人尋問における供述があるが,上記1認定の事実からすると,原告は,倒産状態になった被告の経営を全般的にBに委ねたのであり,被告と富士インターとの間で,平成10年1月9日,原告が有している本件特許を富士インターに移譲し,製造及び販売実施権を富士インターが取得することを内容とする契約が締結されていること,原告は,本件設定登録がされていることを知った上で上記1(7)認定のような契約を締結していること,原告の上記陳述書の記載及び本人尋問における供述以外に原告主張事実を裏付けるに足りる証拠(契約書が仮想のものである旨記載した書面など)は存しないことからすると,原告の上記陳述書の記載及び供述は,直ちに信用することはできず,「専用使用実施権協定契約書」(甲2)が資金調達のためだけの仮想のものであるとは認められない。
また,原告は,原被告間に,@債権債務に関する契約書添付の一覧表記載の債務をB又は日本機工が肩代わりする,特に借入金等7517万5201円については,2,3か月以内にB又は日本機工が肩代わりして支払う,Aこれらの債務をB又は日本機工が支払ってから,本件特許の専用実施権を設定する旨の合意があったとも主張し,それに沿う証拠として,原告の陳述書(甲6)の記載及び原告の本人尋問における供述があるが,原告が主張する合意が成立したことを証する契約書等の書証はないうえ,原告が主張する合意の内容は,前記1(4)(5)認定の各契約書の記載と矛盾するから,原告の上記陳述書の記載及び供述は,信用することができない。
3 被告代表者(B)の陳述書(乙8)には,「専用実施権設定契約証書」(甲7)を作成するに当たってあらかじめ原告の承諾を得た旨の記載があり,被告代表者は,代表者尋問において,同旨の供述をするが,承諾を得たときの状況に関する被告代表者の供述はあまり明確なものではないこと,上記1認定の事実によると,本件設定登録手続に用いられた「専用実施権設定契約証書」(甲7),単独申請承諾書(甲14の5),取締役会承認書(甲14の6)の原告名下の印鑑は,いずれもBがいわゆる三文判を押捺したものであるところ,真に原告から承諾を得ているのであれば,原告に押捺を求めるのが通常であると考えられるから,このようにBがいわゆる三文判を押捺したというのは,不自然であること,原告の陳述書(甲6,8)の記載及び原告の本人尋問における供述によると,原告は一貫して,承諾を与えたことを否定していることからすると,「専用実施権設定契約証書」(甲7)を作成するに当たってあらかじめ原告の承諾を得た旨の上記陳述書の記載及び被告代表者の供述は直ちに信用することはできず,他にその事実を認めるに足りる証拠はない。そして,他に本件設定登録手続をすることについて原告がそれを事前に承諾したことを認めるに足りる証拠はない。
他方,原告は,原被告間には,専用実施権設定登録をしない旨の合意があったと主張し,原告の陳述書(甲8)には,原告がBに「実施権の登録はしないだろうね。」と聞いたところ,Bは,「そんなことをするはずがない。原告の印鑑がないと登録できないので,手続上もできない。」旨答えた旨の記載があり,原告は,本人尋問において,Bは,専用実施権設定登録をしない旨述べていたとの供述をする。しかし,これらの事実については,他に裏付ける証拠はないうえ,上記1認定のような経緯で被告の経営を引き受けたBが簡単に専用実施権設定登録をしない旨を約するとも考えられず,原告は,本件設定登録がされていることを知った上で上記1(7)認定のような契約を締結していることをも考え併せると,原告の上記陳述書の記載及び本人尋問における供述は直ちに信用することはできず,原被告間に,専用実施権設定登録をしない旨の合意があったとは認められない。
以上によると,本件設定登録手続をすることについて原告が事前に承諾をしたとは認められないものの,原被告間において専用実施権設定登録をすることが禁じられていたものではなく,また,原告は,本件設定登録がされていることを知った上で上記1(7)認定のような契約を締結しているのであるから,原告は,事後的に本件設定登録を承諾したものと認めるのが相当である。
4 次に解除について判断する。
前記1(7)認定の事実に証拠(甲11の1ないし3,甲12,乙8,原告本人,被告代表者)と弁論の全趣旨を総合すると,協定書(甲3)において,被告は,原告に対し,毎月30万円を支払うことを約したこと,これは,原告がニットク式熱分解処理施設の製造,販売にかかわる行為をすることに対する対価であること,しかし,原告は,ほとんどそのような活動をしなかったこと,協定書(甲3)において,被告は,原告に対し,同施設を製造販売した都度本件特許の専用実施権に対するロイヤルティを支払うことを約したこと,しかし,同協定書締結後同施設が製造販売されたことはないこと,協定書(甲3)において,被告は,原告に対し,上記ロイヤルティのうちから,原告の負債のうち1800万円を優先して弁済することを約したこと,Bは,原告に対して,平成13年4月1日から同年5月31日にかけて合計55万円を支払ったこと,以上の事実が認められる。これらの事実からすると,被告が,原告に対し,上記55万円以外に支払をせず,原告の負債のうち1800万円を弁済しなかったとしても,そのことをもって被告の債務不履行であるということはできない。なぜならば,毎月30万円の支払については,原告がほとんど活動をしなかったことからすると,上記55万円を超えて支払を受けることができたとは認められないし,1800万円の弁済については,ニットク式熱分解処理施設が製造販売されなかった以上,ロイヤルティは発生せず,被告に弁済の義務があったとは認められないからである。
上記の点について,原告は,被告と原告とは,平成13年3月1日,協定書(甲3)に調印し,@被告は,原告に対し,毎月30万円を支払う,Aロイヤルティは売価の5%とする,B被告は,残債務のうち1800万円を1週間以内に支払う旨の合意をしたと主張するが,協定書(甲3)の合意は,上記認定のようなものであったと認められ,これに反する原告の陳述書(甲6)の記載及び本人尋問における供述は,いずれも信用できない。
原被告間に,専用実施権設定登録をしない旨の合意があったとは認められないことは,3で判示したとおりである。
したがって,本件特許の専用実施権設定契約が解除されたとは認められない。
5 よって,本件請求はいずれも理由がないので,棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判官 上田洋幸
裁判官 内藤裕之