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審判番号(事件番号) データベース 権利
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事件 平成 13年 (ワ) 11003号 特許権侵害差止等請求事件
原告 日進基礎工業株式会社
訴訟代理人弁護士 窪木 登志子
被告 金子工業株式会社
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2003/04/22
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 被告は、別紙イ号物件目録ないしハ号物件目録記載の各装置を製造し、
販売し、使用し、貸し渡し、又は販売若しくは貸渡しのために展示してはならない。
2 被告は、別紙イ号方法目録ないしハ号装置目録記載の各方法を使用して、土木工事をしてはならない。
3 被告は、第1項記載の装置を廃棄せよ。
4 被告は、原告に対し、金150万円及びこれに対する平成13年10月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 原告のその余の請求を棄却する。
6 訴訟費用は、これを2分し、その1を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
7 この判決は、第4項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨 (1) 主文第1項ないし第3項同旨 (2) 被告は、原告に対し、金2150万円及びこれに対する平成13年10月25日(本件訴状送達の日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 請求の趣旨に対する答弁 (1) 原告の請求を棄却する。
(2) 訴訟費用は原告の負担とする。
当事者の主張
1 請求原因 (1) 当事者 ア 原告は、建設等を業とする会社である。
イ 被告は、土木及び建築工事の施工、とび・土工工事業、土木建築資材の賃貸、土木建築資材の販売等を業とする会社である。
(2) 本件実用新案権 原告は、次の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい、その実用新案登録請求の範囲請求項1の考案を「本件考案」という。)を日立建機株式会社(以下「日立建機」という。)と共有している。
登録番号 第2563856号 考案の名称 回転式ケーシングドライバの回転反力取り装置およびそれに用いられる回転反力取りビーム 出 願 日 昭和63年1月11日(実願平9-557) 公 開 日 平成9年9月5日(実開平9-470) 登 録 日 平成9年11月14日 訂正請求日 平成10年12月10日 異議決定日 平成11年1月11日 実用新案登録請求の範囲 【請求項1】 建築、土木の基礎工事に使用するケーシングを地中に圧入、もしくは、地中から引抜くための回転式のケーシングドライバにおいて、一端に反力支持体に当接する反力受け部を有する固定ビームの他端を、その延在方向と並行するケーシングドライバの一側面よりも突出しないようにケーシングドライバに着脱可能に設けたことを特徴とする回転式ケーシングドライバの回転反力取り装置。
(3) 本件特許権 原告は、次の特許権(以下「本件特許権」といい、その特許請求の範囲請求項1の発明を「本件発明」という。)を日立建機と共有している。
登録番号 第2806922号 発明の名称 回転式ケーシングドライバの回転反力取り方法 出 願 日 昭和63年1月11日(特願平9-300046) 公 開 日 平成10年10月6日(特開平10-266206) 登 録 日 平成10年7月24日 訂正審判請求日 平成13年6月6日 訂正審決確定日 平成13年7月23日 特許請求の範囲 【請求項1】回転式ケーシングドライバにより発生する回転反力を、前記ケーシングドライバに設けた回転反力取り装置を構成するビームを介して受止める方法において、前記ビームは長尺構造物であり、前記ビームの一端は前記ケーシングドライバに連結され、前記ビームの他端側には反力受け部が設けられ、その反力受け部において、作業機のクローラをピン等の連結を伴わないように当接して、
前記回転反力を前記作業機の自重による作業機と地面との摩擦力を用いて受け止めるようにしたことを特徴とする回転式ケーシングドライバの回転反力取り方法。
(4) 本件考案の構成要件 本件考案の構成要件は、次のとおり分説することができる。
A 建築、土木の基礎工事に使用するケーシングを地中に圧入、もしくは、
地中から引抜くための回転式のケーシングドライバにおいて、
B 一端に反力支持体に当接する反力受け部を有する固定ビームの C 他端を、その延在方向と並行するケーシングドライバーの一側面よりも突出しないようにケーシングドライバに着脱可能に設けたことを特徴とする 回転式ケーシングドライバの回転反力取り装置。
(5) 本件発明の構成要件 本件発明の構成要件は、次のとおり分説することができる。
D 回転式ケーシングドライバにより発生する回転反力を、前記ケーシングドライバに設けた回転反力取り装置を構成するビームを介して受止める方法において、
E 前記ビームは長尺構造物であり、
F 前記ビームの一端は前記ケーシングドライバに連結され、前記ビームの他端側には反力受け部が設けられ、
G その反力受け部において、作業機のクローラをピン等の連結を伴わないように当接して、
H 前記回転反力を前記作業機の自重による作業機と地面との摩擦力を用いて受け止めるようにしたことを特徴とする 回転式ケーシングドライバの回転反力取り方法。
(6) 被告による本件各工事の施工並びに各工事において使用した装置及び方法 ア 被告は、別紙工事目録(1)ないし(6)記載の工事に関し、基礎工事(杭打ち工事)を施工した(以下、同目録記載の各工事を番号順に「本件工事(1)」等という。)。
イ 被告は、本件工事(1)ないし(6)において、次のとおり、別紙イ号物件目録ないしハ号物件目録記載の各装置(以下、各目録の表記に従い「イ号物件」等という。)及び別紙イ号方法目録ないしハ号方法目録記載の各方法(以下、各目録の表記に従い「イ号方法」等という。)を使用した(かっこ内の年月日は後記CD工法研究会が調査確認を行った日である。)。
(ア) 本件工事(1) イ号物件、イ号方法(平成13年8月5日頃、同月9日頃)〔工事期間-平成13年8月9日頃〜同月30日頃〕 (イ) 本件工事(2) ロ号物件、ロ号方法(平成12年7月24日) (ウ) 本件工事(3) ロ号物件、ロ号方法(平成13年9月6日)〔工事期間-平成13年9月6日頃〜約1か月間〕 (エ) 本件工事(4) ハ号物件、ハ号方法(平成11年10月20日) (オ) 本件工事(5) ロ号物件、ロ号方法(平成13年2月19日、同年5月24日) (カ) 本件工事(6) ハ号物件、ハ号方法(平成11年10月20日) (7) 技術的範囲の属否 ア イ号ないしハ号物件は、いずれも、「回転式ケーシングドライバの回転反力取り装置」であり、本件考案の構成要件AないしCをすべて充足する。したがって、イ号ないしハ号物件は、本件考案の技術的範囲に属する。本件考案の「固定ビーム」とは、明細書の記載からすれば、「てこの原理を応用できるような長尺の物一般」を意味する。
イ イ号ないしハ号方法は、いずれも、「回転式ケーシングドライバの回転反力取り方法」であり、本件発明の構成要件DないしHをすべて充足する。したがって、イ号ないしハ号方法は、本件発明の技術的範囲に属する。
ウ 被告は、本件工事(1)の平成13年8月の盆過ぎ頃までを除き、「回転反力受け装置鉄板」を使用したと主張するが、仮にそのとおりであったとしても、被告の説明によれば、当接した重量物の自重だけで回転反力を取るもの(公知例)よりも、てこの原理を使うことによって大きく回転反力を取るものであるから、本件考案及び本件発明の技術的範囲に属する。
(8) 被告は、前記のとおり、本件工事(1)ないし(6)においてイ号ないしハ号物件、イ号ないしハ号方法を使用した。工事期間は平均1週間ないし1か月間であることから、被告は年平均12工事でこれらの物件ないし方法を使用しているものと推認される。
(9) 損害 ア 本件実用新案権及び本件特許権等に係る工法である「CD工法」は、建築土木業界において著名なものであり、原告や実施権者である施工会社等が参加してCD工法研究会を構成している。イ号ないしハ号物件あるいはイ号ないしハ号方法を使用するためには、CD工法研究会を介して原告及び日立建機に対し1台当たり500万円の基本実施料を支払った上で許諾を受け、さらに、ランニング実施料として1工事当たり10万円を支払う必要があるものである。そして、CD工法研究会作成の「秘・CD工法特許侵害警告行動基準マニュアル(H13.2.15改訂)」(甲46の1、2。以下「CD研究会マニュアル」という。)によれば、訴訟後和解する場合の基本実施料は、回転反力取りバー1台につき・・・万円であり、また、ランニングロイヤリティとして、他社機に反力取りバーを付けた場合に、貸し出し工事件数1件当たり・・・万円を徴収している。したがって、被告は、原告に対し、本来、次の算定式に基づく金員を支払わなければならない。
@ 基本実施料(イニシャルロイヤリティ) 被告は、少なくとも「回転反力取り装置」(反力取りバー)を5台使用している。
500万円×5台=2500万円 A ランニングロイヤリティ 被告は、反力取りバーを年平均12工事で使用しているものと推定される。
10万円/件×12件/年×3年間×5台=1800万円 B 本件実用新案権及び本件特許権は、いずれも原告と日立建機の共有である。
(@+A)/2=2150万円 イ CD研究会マニュアルが定める基本実施料500万円及びランニングロイヤリティ1件10万円は、次のとおり適正である。
(ア) 平成13年度におけるCD工法による工事見積例23件(甲52〜68)中、見積金額(甲49の2上表@A)と受注決定額(同D)の双方が開示された7件によれば、見積金額に対する受注決定金額の割合の平均値は、79.7%である。
(イ) 施工1日当たり平均見積金額(同G)は、見積金額から運搬費用を除いた実際の工事に要する金額(同A)の合計8億5824万9890円を延べ施工日数(同B)の合計858日で除した100万0291円となる。よって、施工1日当たり平均受注決定金額推定値(同I)は、79万7232円である。
(ウ) 社団法人日本建設機械化協会の「大口径岩盤削孔工法の積算 平成14年度版」(甲50)によれば、ケーシング回転掘削機の共用日数は160日であるから、平均年間工事金額は、1億2755万7120円となる(797,232×160=127,557,120)。
(エ) また、上記文献によれば、掘削機関係の標準使用年数は10年と定められているから、反力取りバーの使用限度までの工事金額総額は12億7557万1200円となる。
(オ) CD機や反力取りバーの標準使用年数10年間の工事金額総額に、
回転反力取りバーあるいは方法が寄与する工事はおよそ半分、少なくとも40%とし、寄与する工事における実施料率は3%として実施料を計算すると、10年間の実施料合計は1530万6854円となる。
1,275,571,200×0.4×0.03≒15,306,854 (カ) CD研究会マニュアルは、上記10年間の実施料合計のうち500万円をイニシャル(基本)実施料とし、残額約1030万円を10年間のランニング実施料としたものである。年間工事件数を7件〜12件とすると、工事1件当たりのランニング実施料は14万7000円から8万5800円となるから、1件当たり10万円というランニング実施料は適正なものである。
(10) よって、原告は被告に対し、本件実用新案権及び本件特許権に基づき、
請求の趣旨記載のとおり、侵害行為の差止めとイ号ないしハ号物件の廃棄、本件実用新案権及び特許権侵害による損害賠償として金2150万円及びこれに対する本件訴状送達の日(不法行為の後)である平成13年10月25日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
2 請求原因に対する認否 (1) 請求原因(1)ないし(3)の事実は認める。
(2)ア 同(6)アのうち、被告が本件工事(1)ないし(5)の杭工事に被告が関わったことは認めるが、本件工事(6)に関与したことは否認する。
イ 同(6)イのうち、被告が本件工事(1)において平成13年8月9日から盆過ぎまでイ号物件及びイ号方法を使用したことは認めるが、それ以降にイ号物件及びイ号方法を使用したことは否認する。被告は、その頃以降、回転反力取り装置を「回転反力受け装置鉄板」(乙3号証の鉄板状のもの)に切り替えた。被告は、その所有していた反力取りバーを平成11年10月20日頃滅却している。それ以後は鉄板で作った反力バーを使用していたところ、本件工事(1)においては、他社から掘削機、反力バー、クレーン等を借り受けて使用していたものであり、工事途中で原告主張の「回転反力取り装置」に気づき、直ちに返却している。
本件工事(2)、(3)においてロ号物件、ロ号方法を使用したこと、本件工事(4)においてハ号物件及びハ号方法を使用したこと、本件工事(5)においてロ号物件及びロ号方法を使用したことは否認する。これらの工事でも、前記「回転反力受け装置鉄板」を使用した。
この「回転反力受け装置鉄板」は、厚さ22o、幅1.5m、長さ6m、重量1.65tで構成され、鉄板底部にあるギザギザ状の異形鋼鉄棒の摩擦と矢形突起物を土中に突き刺すことにより大きな反力を取るものであり、また、鉄板上にベッセル(土砂入れ・重量約15t)を置くことで一段と大きな反力を取れるものである。
(3) 同(7)は争う。
被告が使用した鉄板状の「回転反力受け装置鉄板」及びこれを使用した工法は、本件考案の「固定ビーム」、本件発明の「ビーム」、「長尺構造物」の構成を備えておらず、本件考案の「回転反力取り装置」、本件発明の「回転式ケーシングドライバにより発生する回転反力を、前記ケーシングドライバに設けた回転反力取り装置を構成するビームを介して受止める方法」に当たらない。
(4) 同(8)は争う。
(5) 同(9)は争う。
CD研究会マニュアルの許諾実施料の算出根拠には、次のとおり、問題があり、これを損害額算定の基礎とすることはできない。
ア 見積金額に対する受注金額の割合の平均値が79.7%という原告の主張は高割合過ぎる。現在の建設業では何社かの相見積りを取って安値受注で受注が決定し、又は、最初から施主の指し値で受注価格が決まるので、最低見積70%に抑えられるのが常識である。
イ 原告主張の見積額は高額過ぎる。大方の杭業者の一般の見積は、直径1500o杭仕様の杭工事で1m当たり1万2000円である。現在一般の市場に出回っている見積で、直径1500o、掘削長30mの施工見積をすると50万9300円となり、最終工事金額は、前記アのとおり、多くとも見積金額の70%である約35万円である。
ウ 売上高には残土処分等も含まれるので、反力取りバーについての損害賠償請求について、工事売上金全額を基準とするのは過大である。
理 由1 請求原因(1)ないし(3)の事実は、当事者間に争いがない。
本件考案の構成要件は請求原因(4)のとおり、本件発明の構成要件は請求原因(5)のとおり、それぞれ分説するのが相当である。
2 被告が使用した装置及び工法について (1) 被告が本件工事(1)ないし(5)に関わったことは、当事者間に争いがない。
(2) 証拠(甲17、19)と弁論の全趣旨によれば、被告は本件工事(2)において、ロ号物件及びロ号方法を使用したことが認められる。証拠(甲17、18)と弁論の全趣旨によれば、被告は本件工事(3)において、ロ号物件及びロ号方法を使用したことが認められる。証拠(甲27〔写真6〜8枚目を除く。〕、45)と弁論の全趣旨によれば、被告は本件工事(4)において、ハ号物件及びハ号方法を使用したことが認められる。証拠(甲31、32、45)と弁論の全趣旨によれば、被告は本件工事(5)において、ロ号物件及びロ号方法を使用したことが認められる。
(3) 本件工事(6)については、被告は関与したことを否認しているが、証拠(甲24、25)によれば、被告が本件工事(6)(福岡市西区姪浜地内で行われた第110工区高架橋下部工新設工事(その1))においてケーシングドライバを用いた杭打ち工事を行ったことが平成11年5月25日にCD工法研究会によって確認されていることが認められる。そして、この事実に証拠(甲27〔写真7、8枚目〕、
45)と弁論の全趣旨を総合すれば、被告は本件工事(6)において、ハ号物件及びハ号方法を用いたことが認められる。
(4) 被告は、本件工事(1)の途中から、回転反力取り装置を「回転反力受け装置鉄板」(乙3号証の鉄板状のもの)に切り替えた、その所有していた反力取りバー(回転反力取り装置)は平成11年10月20日頃滅却しており、それ以後は鉄板で作った反力バーを使用していたものであり、本件工事(1)においては、他社から掘削機、反力バー、クレーン等を借り受けて使用していたところ、工事途中で原告主張の「回転反力取り装置」に気づき、直ちに返却している、他の工事においても「回転反力装置受け鉄板」を使用した旨主張する。この点について、被告代表者本人尋問の結果中には、上記主張に沿う供述部分が存在する。しかしながら、乙3、
9、10の写真(特に、乙9の写真では、鉄板を通して土中に圧入された杭ピン棒の上に重力約15トンの排出土砂を入れたベッセルが載置されている。)は、いずれも撮影年月日あるいは同装置が上記写真に撮影されたままの状態で使用された工事の具体的名称等を示す裏付けが存在せず、本件訴訟提起後、原告の主張に対応して作成された疑いが否定できないから、これらの証拠はその信用性に疑問がある。
したがって、これらの証拠から、被告が本件各工事において、「回転反力受け装置鉄板」により、鉄板の底部に設けられた鋼鉄物の矢形突起物を土中に突き刺し、更に重量物であるベッセルを載置して回転式ケーシングドライバの回転反力を取っていたと認めることはできず、他にそのような事情をうかがわせる証拠もない。被告が主張する、その所有していた反力取りバー(回転反力取り装置)を滅却したとの事実についても、これを裏付ける確たる証拠はない。
3(1) イ号物件ないしハ号物件の本件考案の構成要件充足性 ア イ号物件 (ア) イ号物件は、「建築、土木の基礎工事に使用するケーシングを圧入、
又は地中から引き抜くための回転式ケーシングドライバ」に用いられているものであるから、本件考案の構成要件Aを充足する。
(イ)a イ号物件は、「長尺の一体構造のビームであって、その一端の側面に、作業機械のクローラその他の重い物を置いて当てるようになっている」構造を有する。
b 本件考案の構成要件Bにいう「固定ビーム」の意義について検討するに、「ビーム」という語は、一般的には「梁。桁」という意味であり(広辞苑〔第5版〕2219頁)、土木用語としては、「軸に対して直角方向から荷重を受け、
曲げの作用に抵抗する部材」(図説 土木用語事典346頁)を意味するものと認められる。
本件考案の「固定ビーム」は、実用新案登録請求の範囲の記載によれば、「一端に反力支持体に当接する反力受け部を有する」、「他端を、その延在方向と並行するケーシングドライバの一側面よりも突出しないようにケーシングドライバに着脱可能に設けた」とされている。
また、本件考案に係る実用新案登録公報(甲6)の考案の詳細な説明には、「敷地内は勿論のこと敷地境界ぎりぎりの地中にも、ケーシングを押込むことができると共に、ケーシングを地中から引抜くことができるケーシングドライバの回転反力取り装置を提供することを目的とするものである。」(【0012】)、「回転反力取り装置3を構成するビーム19がケーシングドライバ2の1つの側面からその外方に延在し、その回転反力の作用箇所がケーシング1の中心より離れた位置となるので、回転反力の作用箇所での接線方向力が小さくなる。その結果、掘削機4の自重による地面との摩擦力でも、前述した回転反力を十分に受止めることができる。」(【0035】)、「回転反力取り装置3は固定式のビーム19で構成し得るので、その構成部品が少なく、その管理も簡単である。」(【0043】)との各記載がある。
以上のような「ビーム」の一般的ないし土木用語としての意義や実用新案登録公報の記載を参酌すると、本件考案の構成要件Bにいう「ビーム」は、一端をケーシングドライバの1つの側面に装着し、他端を作業機のクローラ等に当接させて使用する一定の長さを有する長尺物であり、ケーシングの中心よりも離れた位置で回転反力の接線方向の力を受けることにより作用箇所における回転反力の接線方向の力を減少させ、作業機の自重による作業機と地面との摩擦力程度の力でケーシングドライバの回転反力を受け止めることを可能にするものであれば足り、必ずしも、全体的に梁のような厚みがある必要はないと解するのが相当である。
c イ号物件は、別紙イ号物件目録記載のように、ビームの一端の側面を作業機のクローラ等に当接させて使用することができる一方、ビームの他端に設けられた2個の構成部材(角材)の上面に穴が開けられていて、構成部材とケーシングドライバのベースフレームとをピンで連結でき、これにより、ビームの他端をケーシングドライバに着脱自在に連結することができるようになっているものである。そして、上記構造により、イ号物件は、ケーシングの中心より離れた位置であるビームの一端の側面で回転反力の接線方向の力を受けることにより、作用箇所(クローラに当接するビームの一端)における回転反力の接線方向の力を減少させ、作業機の自重によるクローラと地面との摩擦力程度の力でケーシングドライバの回転反力を受け止めることを可能にするものといえる。
したがって、イ号物件にいう一体構造のビームの一端の側面は、本件考案の構成要件Bにいう「反力受け部」に当たり、上記ビームは、本件考案の構成要件Bにいう「固定ビーム」に当たるものと認められる。
(ウ) イ号物件は、別紙イ号物件目録記載のように、「@ビームの他端には、ケーシングドライバのベースフレームに設けられている角穴に差し込まれる、
構成部材(角材)が2個取り付けられており、A前記構成部材(角材)は、上面に穴が開けられていて、ケーシングドライバのベースフレームとピンで連結することができ、B前記ビームの他端が前記構成部材(角材)によりケーシングドライバと着脱するので、前記ビームは、その延在する方向と並行するケーシングドライバの一側面より突出しない」という構造を有する。
したがって、イ号物件は、「(ビームの)他端を、その延在方向と並行するケーシングドライバーの一側面よりも突出しないようにケーシングドライバに着脱可能に設けた」ものであるから、本件考案の構成要件Cを充足する。
(エ) 以上によれば、イ号物件は、「回転式ケーシングドライバの回転反力取り装置」であると認められる。
よって、イ号物件は、本件考案の技術的範囲に属する。
イ ロ号物件 (ア) ロ号物件は、別紙ロ号物件目録記載のとおりであるところ、「建築、
土木の基礎工事に使用するケーシングを圧入、又は地中から引き抜くための回転式ケーシングドライバ」に用いられているものであるから、本件考案の構成要件Aを充足する。
(イ) ロ号物件は、「長尺で全体的には厚みのない鉄板状のもので、その一端に厚みのある部材が取り付けられており、他端に作業機械のクローラその他の重い物を当接するブラケットを有しており」との構造を有する。
ロ号物件は、鉄板状のものを用いている点で、一体構造のビームを有するイ号物件と異なっている。しかし、前記アで検討したところからすれば、このような長尺の鉄板状のものも、本件考案の構成要件Bの「固定ビーム」に該当し、
「一端に反力支持体に当接する反力受け部を有する」との構成を備えているものといえる。
(ウ) ロ号物件は、「@前記鉄板状のものの一端に設けられた厚みのある部材には、ベースフレームにある角穴に差し込まれる構成部材(角材)が2個取り付けられており、A前記構成部材(角材)は、ケーシングドライバのベースフレームに設けられた角穴に差し込まれることにより、ケーシングドライバと着脱可能になっており、B長尺の鉄板状のものは、この長尺物の延在する方向と並行するケーシングドライバの一側面より突出しない」との構造を有するから、本件考案の構成要件Cを充足する。また、ロ号物件は、「回転式ケーシングドライバの回転反力取り装置」に当たる。
(エ) よって、ロ号物件は、本件考案の技術的範囲に属する。
ウ ハ号物件 (ア) ハ号物件は、イ号物件と比べると、イ号物件では、2個の構成部材(角材)の上面に穴が開けられていて、ケーシングドライバのベースフレームとピンで連結できるようになっているのに対して、2個の構成部材(角材)がケーシングドライバのベースフレームにある角穴に差し込まれることによりケーシングドライバと着脱可能になっているという点で構造上の違いがある。しかし、上記のようにピンで連結するか角穴に差し込むだけになっているかの違いは、本件考案との対比の上では差を生じない。
(イ) したがって、ハ号物件は、本件考案の構成要件をすべて充足し、その技術的範囲に属する。
(2) イ号ないしハ号方法の本件発明の構成要件充足性 ア イ号ないしハ号方法は、別紙イ号方法目録ないしハ号方法目録記載のとおりである。
イ 本件発明に関する訂正明細書(甲8)には、本件発明の構成要件Dの「回転式ケーシングドライバにより発生する回転反力を、前記ケーシングドライバに設けた回転反力取り装置を構成するビームを介して受止める方法」について、発明の詳細な説明には、【発明が解決しようとする課題】の項に、「敷地内は勿論のこと敷地境界ぎりぎりの地中にも、ケーシングを押込むことができると共に、ケーシングを地中から引抜くことができるケーシングドライバの回転反力取り方法を提供することを目的とする」(【0012】)との記載があり、【発明の実施の形態】の項に、「この回転反力取り方法によれば、回転反力取り装置3を構成するビーム19がケーシングドライバ2の1つの側面からその外方に延在し、その回転反力の作用箇所がケーシング1の中心より離れた位置となるので、回転反力の作用箇所での接線方向力が小さくなる。その結果、掘削機4の自重による地面との摩擦力でも、
前述した回転反力を十分に受止めることができる。」(【0036】)との記載があることが認められる。
そうすると、本件発明の構成要件Dにいう「回転反力を…ビームを介して受止める」とは、長尺物である「ビーム」の長さを利用して、てこの原理により、
作用箇所となる同長尺物の他端にかかる回転反力の接線方向の力を減少させ、当該他端にケーシングドライバの回転方向の反対方向から作業機のクローラを当てることにより、作業機の自重によるクローラと地面との摩擦力程度の力で回転式ケーシングドライバの回転反力を支持することを可能にすることをいい、そのような機能を果たすものを使用して回転反力を取っていれば、梁のように全体的に厚みのある長尺物を用いた方法でなくても、本件発明の構成要件Dを充足すると解するのが相当である。
イ号ないしハ号方法は、回転式ケーシングドライバの回転反力受け装置として、長尺の一体構造のビーム(イ号方法、ハ号方法)、あるいは、長尺で全体的に厚みのない鉄板状のもので、その一端に厚みのある部材が設けられているもの(ロ号方法)を使用するものであり、これらのビーム又は鉄板状のものの長さを利用して、てこの原理により、回転反力の作用箇所となる上記長尺状のビーム状の一端又は鉄板の一端(ケーシングドライバより遠い方の端部)にかかる回転反力の接線方向の力を減少させ、当該ビーム状のもの及び鉄板状のものの一端にケーシングドライバの回転方向の反対方向から作業機のクローラを当接することにより、作業機の自重によるクローラと地面との摩擦力程度の力で、回転式ケーシングドライバの回転反力を支持することを可能とするものであると認められる。
そうすると、イ号ないしハ号方法は、いずれも本件発明の構成要件Dを充足するものということができる。
ウ イ号方法ないしハ号方法におけるビームないし鉄板状のものは、いずれも長尺物であるから、本件発明の構成要件Eを充足する。
エ イ号ないしハ号方法においては、ビームの一端ないし鉄板状のものの一端の厚みのある部材は、ケーシングドライバのベースフレームに連結され、他端側(イ号方法では、フォーク形状に形成された部分が設けられ)、その部分のケーシングドライバの回転方向の反対側の側面に作業機のクローラのような重い物を当接させるようになっており(イ号方法、ハ号方法)、あるいは、ブラケットが設けられ、そのブラケットの立ち上がり部分に、ケーシングドライバの回転方向の反対側から、作業機のクローラのような重い物を当接させるようになっており(ロ号方法)、前記ウで述べたところからすれば、これらの他端側は反力受け部として機能するものということができる。したがって、イ号ないしハ号方法は、本件発明の構成要件Fを充足する。
オ イ号ないしハ号方法は、いずれも、前記反力受け部においては、作業機のクローラをピン等の連結を伴わないように当接させるようになっているから、本件発明の構成要件Gを充足する。
カ イ号ないしハ号方法は、前記イのとおり、いずれも、回転式ケーシングドライバにより発生する回転反力を、作業機の自重による作業機と地面との摩擦力を用いて受け止めるようにした方法であるから、本件発明の構成要件Hを充足する。
キ 以上によれば、イ号ないしハ号方法は、本件発明の構成要件DないしGを充足する「回転式ケーシングドライバの回転反力取り方法」であるから、本件発明の技術的範囲に属する。
4 以上によれば、被告は、本件工事(1)ないし(6)における基礎工事(杭工事)を施工し、その際、イ号物件ないしハ号物件及びイ号方法ないしハ号方法を使用することにより、本件実用新案権及び本件特許権を侵害したものというべきである。
原告は、本件工事(1)ないし(6)だけでなく、年平均12工事でイ号ないしハ号物件、イ号ないしハ号方法を使用していると推認されると主張する。しかし、本件工事(1)ないし(6)以外に、被告がイ号ないしハ号物件、イ号ないしハ号方法を使用したことを具体的に認めるに足りる証拠はない。
被告は、反力回転バーは既に滅却し、現在、回転式ケーシングドライバの回転反力取り装置及び回転式ケーシングドライバの回転反力取り方法として「回転反力受け装置鉄板」を使用していると主張するが、被告が反力回転バーを滅却した事実を裏付ける確たる証拠がないことは前記のとおりであり、被告が、本件工事(1)ないし(6)以外の工事において「回転反力受け装置鉄板」を使用している事実があるとしても、将来、「回転反力受け装置鉄板」を使用しないで、イ号ないしハ号物件、イ号ないしハ号方法を使用する可能性も依然として否定できないものとみるべきである。
また、弁論の全趣旨によれば、被告は、自らイ号ないしハ号物件を組み立てて製造し、販売し、あるいは、他に貸し渡したり、販売又は貸渡しのための展示をするおそれがあることも肯定できる。
5 損害 (1) 証拠(甲14ないし17、20ないし23、44、46の1、2)及び弁論の全趣旨によれば、原告及び日立建機が開発したCD(ケーシングドライバの略)工法は、建設、土木の基礎工事に使用する大口径鋼管杭あるいは鋼管類のケーシングの圧入、引抜きを行うために、ケーシングをケーシングドライバによって全周回転させて、地中掘削を行う工法であり、本件特許権、本件実用新案権を含む多くの特許権、実用新案権、ノウハウ等からなっていること、CD工法研究会は、CD工法の実施許諾を受けて実際に施工している会社による任意団体であり、広告活動のほか、無許諾でCD工法を実施する者の調査、これらの者に対する警告や示談交渉等の活動を行っていることが認められる。
証拠(甲46の1・2)及び弁論の全趣旨によれば、CD工法研究会は、平成13年2月15日改訂した「CD研究会マニュアル」7頁「8.和解条件」に従い、@侵害者との間で通常の実施許諾を行う場合には、基本実施許諾料(Aランク)として、侵害者が回転反力取りバー1台当たり・・・万円のイニシャルロイヤリティを支払い、かつ反力取りバー1回の使用に当たり・・・万円のランニングロイヤリティを支払うという条件で和解を成立させる、A実施料の支払に協力的な一般会社の場合(Bランク)には、イニシャルロイヤリティ・・・万円、ランニングロイヤリティ1回・・・万円の条件で和解を成立させる、B準会員又は会員会社の協力会社でかつ会員会社の推薦があった場合(Cランク)には、イニシャルロイヤリティ・・・万円とし、ランニングロイヤリティ1回・・・万円の条件で和解を成立させるとなどの取り決めを内部的に作成していることが認められる。
(2) 原告は、CD研究会マニュアルの定める上記(1)@のイニシャルロイヤリティ及びランニングロイヤリティの算定が適正なものであると主張するので、検討する。
ア 平成14年度に愛知県、神奈川県、静岡県及び東京都等でCD工法の工事見積りが行われた17件(甲52〜68)を抽出し、見積り金額(甲49の2上表@)と受注決定金額(同D)の双方が開示された7件(N-1〜5、K-1・2)について見積り金額に対する受注決定金額の割合を算出すると、61.5%〜91.5%の範囲内にあり、平均値は79.7%であった。そして、上記工事17件について、見積り金額(同@)から運搬費を除いた実工事費用(同A)の合計を算出すると、8億5824万9890円となり、これを上記17件の工事延べ施工日数(同B)858日で除すると、施工1日当たり平均見積り金額(同G)は100万0291円となり、施工1日当たり平均受注決定金額推定値(同I)は、その79.7%の79万7232円となる(1,000,291×0.797=797,231.9)。
イ 社団法人日本建設機械化協会作成に係る「大口径岩盤削孔工法の積算 平成14年度版」(甲50)の「第7編 参考資料 2.4 ケーシング回転掘削機の機械損料算定表」には、ケーシング回転掘削機の年間供用日数が160日と記載されている(194頁(5)欄)。したがって、ケーシングドライバによる平均年間工事金額は、上記アの施工1日当たり平均受注決定金額推定値にケーシングの年間供用日数160日を掛けた1億2755万7120円となる(797,232×160=127,557,120)。
ウ また、前掲甲50には、ケーシング回転掘削機の標準使用年数は10年と記載されているから(194頁(2)欄)、ケーシングドライバの反力取り装置(及びその部品である回転反力取り装置)を標準使用年数の間使用した場合の工事金額総額は金12億7557万1200円となる(127,557,120×10=1,275,571,200)。
エ CD工法研究会は、ケーシング回転掘削機を用いた工事への回転反力取り装置あるいは方法の寄与率は少なくとも40%はあると考えており(甲49の1)、
従来の実施料率を参考にして、実施料率を3%とすると、CD機及び回転反力取り装置の標準使用年数10年間の工事金額総額に対する実施料合計は、1530万6854円となる(1,275,571,200×0.4×0.03≒15,306,854)。
オ この点につき、被告は、見積金額に対する受注金額の割合の平均値79.7%(上記ア)は高すぎると主張し、本件工事(1)の「見積書」(乙18)、「工事見積内訳書」(乙19)、「実行予算書」(乙20)、「実行予算書と精算比較」(乙21)を提出した。
しかし、上記各証拠(乙18〜21)及び被告代表者本人尋問の結果によれば、本件工事(1)の見積り金額に対する受注決定金額の割合は、約69%(10,000,000÷14,495,800=0.6898)であり、上記アの平均値79.7%よりも低いものではあるが、上記アでCD工法研究会が平均値算出の対象とした7件の工事の見積り金額に対する受注金額の割合61.5%〜91.5%の範囲内には含まれている。また、本件工事(1)の見積り金額は、工期27日に対して1449万5800円であり(乙18、19)、1日当たりの見積り単価は53万6881円となるが(14,495,800÷27=536,881)、この金額も、CD工法研究会が施工1日当たり平均見積り金額(同G)を算出するに当たり参考にした各数値の範囲に含まれている。
そうすると、上記エで認定したCD工法研究会算定に係る回転式ケーシングドライバ及び回転反力取り装置の標準使用年数(10年間)の工事金額総額に対する実施料総額が1530万6854円であることは、格別不相当であるとはいえない。
カ CD工法研究会の「CD工法用回転反力取り装置許諾実施料算出根拠」(甲49の1)によれば、CD工法研究会は、上記エで算出した10年間の工事金額総額に対する実施料合計(約1530万円)のうち、1030万円を10年分のランニングロイヤリティとして基礎工事1件ごとに割り振ることとし、その際、基礎工事業者の年間受注件数には、地域性やその時の経済状況により幅があることから、これを7件から12件と推定し、それによって計算した数値(14万7000円〜8万5800円)の中間の値を採って、1件当たりのランニングロイヤリティを10万円としたことが認められる。
他方、CD工法研究会は、上記エで算出した10年間の工事金額総額に対する実施料合計からランニングロイヤリティ分を控除した残金500万円については、イニシャルロイヤリティとして実施許諾に当たり最初に徴収することとしており、上記(1)のとおり、@侵害者との間で通常の実施許諾を行う場合(Aランク)は、残余実施料の・・・と・・・の・・・万円、A実施料の支払に協力的な一般会社の場合(Bランク)は・・・%の・・・万円、B準会員又は会員会社の協力会社の協力会社でかつ会員会社の推薦があった場合(Cランク)は・・・%の・・・万円とのランク付けをしており(いずれも回転反力バー1台当たりの金額)、さらに、C会員会社で平成11年4月以降保有した他社機の場合で平成11年4月以降正会員になった場合(Dランク)や、D会員会社で平成11年4月以前に保有した他社機の場合(Eランク)には、具体的な額こそ示されていないが、より定額のイニシャルロイヤリティにより、本件実用新案権及び本件特許権等の実施許諾をしているものと推定される(甲46の1、2)。
(3) 原告は、本件訴訟において、上記(1)の「CD研究会マニュアル」に従って、基本実施料(イニシャルロイヤリティ)として500万円の5台分である2500万円とランニングロイヤリティとして1件10万円に被告の推定使用工事数を乗じた金額の合計(ただし、本件特許権及び本件実用新案権の共有持分に応じてその2分の1の額)の支払を求めている。しかし、原告の主張のうち、被告がイ号ないしハ号物件、イ号ないしハ号方法を年平均12工事で使用したとの事実は認められないから、この点は損害額の算定根拠にならない。また、原告主張の算定方法はイニシャルロイヤリティとランニングロイヤリティからなるところ、そもそも、CD工法は、前記のとおり、本件特許権、本件実用新案権以外の多くの特許権、実用新案権及びノウハウ等を含むものであるし、イニシャルロイヤリティは、本来、一定期間(本件においては、回転式ケーシングドライバ及びその部品である回転反力取り装置の使用限度期間である10年間)にわたる将来の実施を保証するための対価(一時金)の性質を有するものであるから、原告が被告に対し、イ号ないしハ号物件の使用及びイ号ないしハ号方法の使用が本件特許権及び本件実用新案権の侵害に当たるとしてその差止めを求めながら、同時に、イニシャルロイヤリティを基にして算定した損害を請求できるとすることは相当でない。しかも、上記(1)で認定した「CD研究会マニュアル」の和解基準は、原告及び日立建機という私企業の関連組織であるCD工法研究会が内部的基準として定めたものにとどまり、土木建設業界一般においてこのような実施料率の算出方法が普及していることを示す証拠はないから、特許法102条3項ないし実用新案法29条3項に基づく損害賠償額を算定するに当たり、「CD研究会マニュアル」の定める基準をそのまま採用することはできない。
(4) そこで、本件において特許法102条3項、実用新案法29条3項に基づき原告が被告に請求し得る損害額を検討するに、「CD研究会マニュアル」の定めるロイヤリティの額とその算定根拠(上記(2)で検討したところからすれば、その定めるロイヤリティは、掘削機の標準使用年数全体で考えた場合には不合理なものではない。)のほか、CD研究会では、ケーシング掘削機を用いた工事において、回転反力取り装置が寄与する工事の割合は40%とみていること(甲49の1)、本件考案及び本件発明の内容等も参酌すると、被告が本件工事(1)ないし(6)の6回の工事において、イ号ないしハ号物件、イ号ないしハ号方法を使用して本件実用新案権及び本件特許権を侵害したことにより、原告が受けるべき金銭の額は、工事受注金額の5%とみるのが相当である。
そして、証拠(乙18ないし21)によれば、本件工事(1)の杭打ち工事を被告は工事金額1000万円で受注して施工したことが認められる。本件工事(2)ないし(6)については、被告において受注金額を開示しないが、前掲各証拠によって認められる工事規模等に照らすと、平均すれば本件工事(1)とほぼ同程度と推認するのが相当である。
そうすると、原告が被告に対して請求できる損害額は、150万円となる。
1000万円×6×0.05×0.5(共有持分)=150万円6 以上によれば、原告の請求は、主文第1ないし第4項掲記の限度で理由があるが、その余は失当である。
追加
イ号物件目録長尺の、一体構造のビームであって、
このビームの一端には、建築、土木の基礎工事に使用するケーシングを圧入、又は地中から引き抜くための回転式ケーシングドライバのベースフレームにある角穴に差し込まれる、構成部材(角材)が2個取り付けられており、
前記構成部材(角材)は、上面に穴が開けられていて、ケーシングドライバのベースフレームとピンで連結できるようになっており、
このビームの他端には、側面に作業機械のクローラその他の重い物を置いて当てるようになっており、
このビームは、このビームの延在する方向と並行するケーシングドライバの一側面より突出しない、
回転式ケーシングドライバの回転反力取り装置。
イ号方法目録回転式ケーシングドライバにより発生する回転反力を、長尺構造物であるビームを介して受け止める方法であって、
前記ビームの一端には、前記ケーシングドライバに連結され、他端側には、フォーク形状に形成された部分が設けられ、その部分の前記ケーシングドライバの回転方向の反対側の側面に、作業機のクローラのような重い物をピン等の連結を伴わないで当接させることにより、前記回転反力を、前記作業機の自重と地面との摩擦力を用いて受け止めるようにしたことを特徴とする、回転式ケーシングドライバの回転反力取り方法。
ロ号物件目録縦方向の長さが横幅よりも数倍長く、全体的には厚みのない鉄板状のもので、その一端に厚みのある部材が設けられているものであって、
上記鉄板状のものの厚みのある一端には、建築、土木の基礎工事に使用するケーシングを圧入、又は地中から引抜くための回転式ケーシングドライバのベースフレームにある角穴に差し込まれる、構成部材(角材)が2個取り付けられており、
前記構成部材(角材)は、ケーシングドライバのベースフレームにある角穴に差し込まれることにより、ケーシングドライバと着脱可能になっており、
この長尺の鉄板状のものの他端には、作業機械のクローラその他の重い物を置いて当てるブラケットを有しており、
この長尺物は、この長尺物の延在する方向と並行するケーシングドライバの一側面より突出しない、
回転式ケーシングドライバの回転反力取り装置。
ロ号方法目録回転式ケーシングドライバにより発生する回転反力を、縦方向の長さが横幅よりも数倍長く、全体的には厚みのない鉄板状のもので、その一端に厚みのある部材が設けられているものを介して受け止める方法であって、
上記鉄板状のものの一端の厚みのある部材は、前記ケーシングドライバのベースフレームに連結され、他端側にはブラケットが設けられ、そのブラケットの立ち上がり部分に、前記ケーシングドライバの回転方向の反対側から、作業機のクローラのような重い物をピン等の連結を伴わないで当接させることにより、前記回転反力を、前記作業機の自重と地面との摩擦力を用いて受け止めることを特徴とする、回転式ケーシングドライバの回転反力取り方法。
ハ号物件目録長尺の、一体構造のビームであって、
このビームの一端には、建築、土木の基礎工事に使用するケーシングを圧入、又は地中から引き抜くための回転式ケーシングドライバのベースフレームにある角穴に差し込まれる、構成部材(角材)が2個取り付けられており、
前記構成部材(角材)は、ケーシングドライバのベースフレームにある角穴に差し込まれることによりケーシングドライバと着脱可能になっており、
このビームの他端には、作業機械のクローラその他の重い物を置いて当てる部分を有しており、
このビームは、このビームの延在する方向と並行するケーシングドライバの一側面より突出しない、
回転式ケーシングドライバの回転反力取り装置。
ハ号方法目録回転式ケーシングドライバにより発生する回転反力を、長尺構造物であるビームを介して受け止める方法であって、
前記ビームの一端には、前記ケーシングドライバに連結され、他端側には、作業機のクローラその他の重いものを当接させる部分を有し、その部分の前記ケーシングドライバの回転方向の反対側の側面に、作業機のクローラのような重い物をピン等の連結を伴わないで当接させることにより、前記回転反力を、前記作業機の自重と地面との摩擦力を用いて受け止めるようにしたことを特徴とする、回転式ケーシングドライバの回転反力取り方法。
工事目録(1)工事名:下部工新設工事場所:福岡市西区飯氏地内(2)工事名:第501工区高架橋下部工新設工事(その2)場所:福岡市博多区西月隈地内(3)工事名:第501工区高架橋下部工新設工事(その8)場所:福岡市南区井尻地内(4)工事名:第110工区高架橋下部工新設工事(その4)場所:福岡市西区石丸地内(5)工事名:第501工区高架橋下部工新設工事(その5)場所:福岡市博多区板付地内(6)工事名:第110工区高架橋下部工新設工事(その1)場所:福岡市西区姪浜地内
裁判長裁判官 小松一雄
裁判官 中平健
裁判官 前田郁勝