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関連審決 異議1997-74926
関連ワード 技術的思想 /  進歩性(29条2項) /  同一技術分野(同一の技術分野) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  相違点の認定 /  参酌 /  技術的意義 /  置き換え /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  交換 /  設定登録 /  請求の範囲 /  拡張 /  変更 /  独立特許要件 /  訂正明細書 /  取消決定 /  異議申立 / 
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事件 平成 13年 (行ケ) 60号 特許取消決定取消請求事件
原告 日本電気株式会社
訴訟代理人弁理士 工藤実
同 中尾圭策
被告 特許庁長官太田信一郎
指定代理人 武井 袈裟彦
同 大塚良平
同 大橋良三
同 小林信雄
同 涌井幸一
同 高橋泰史
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/04/24
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成9年異議第74926号事件について平成12年12月25日にした特許取消決定を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,発明の名称を「無線電話装置」とする特許第2601001号の特許(平成2年9月12日特許出願(以下「本件出願」という。),平成9年1月29日特許権設定登録,以下「本件特許」という。)の特許権者である。
本件特許(請求項1)について,特許異議の申立てがなされ,その申立ては,平成9年異議第74926号事件として審理された。原告は,この審理の過程で,本件出願の願書に添付した明細書(以下,図面も含めて「本件明細書」という。)の訂正を請求した(以下「本件訂正」という。)。特許庁は,審理の結果,平成12年12月25日に,「特許第2601001号の請求項1に係る特許を取り消す。」との決定をし,平成13年1月17日にその謄本を原告に送達した。
2 特許請求の範囲 (1) 本件訂正前 「【請求項1】収容接続された端末に対し付加情報として『発信者情報』を送出することが可能なデジタル交換機に収容された固定接続無線装置に無線回線を介して接続することにより無線電話サービスを提供する無線電話装置において,前記デジタル交換機に直接収容された前記固定無線接続装置に無線回線を通して接続されるアンテナを含む無線送受信部と,前記無線送受信部に接続され電話サービスを実現する為の音声処理を行うベースバンド回路部と,時計情報の生成を行うと共に当該無線電話装置全体の制御を行う制御部と,前記無線送受信部に接続され前記デジタル交換機から前記固定無線接続装置を介して受信する着信情報に対して応答できなかった着信呼の発信者情報及び時計情報のペアを少なくとも1組以上記憶することが可能なメモリ部と,前記制御部に接続された操作キー部と,前記発信者情報及び時計情報を表示することが可能な素子で実現された表示部とを有して構成され,前記デジタル交換機からの着信時,当該着信呼に応答しなかった場合に前記デジタル交換機から送出される『発信者情報』と前記制御部にて生成される『当該着信呼の発生した時間情報』とをペアとして前記メモリに記憶し,着信状態の復旧後,前記操作キー部から予め定められた特別なキー操作が行われると,前記制御部は前記表示部に順次,前記メモリ部に記憶されている前記発信者情報と前記当該着信呼の発生時計情報とを表示させることを特徴とする無線電話装置。」(以下「本件発明」という。) (2) 本件訂正後(下線部が訂正個所である。) 「【請求項1】収容接続された端末に対し付加情報として『発信者電話番号』を送出することが可能なデジタル交換機に収容された固定接続無線装置に無線回線を介して接続することにより無線電話サービスを提供する無線電話装置において,前記デジタル交換機に直接収容された前記固定無線接続装置に無線回線を通して接続されるアンテナを含む無線送受信部と,前記無線送受信部に接続され電話サービスを実現する為の音声処理を行うベースバンド回路部と,時計情報の生成を行うと共に当該無線電話装置全体の制御を行う制御部と,前記無線送受信部に接続され前記デジタル交換機から前記固定無線接続装置を介して受信する着信情報に対して応答できなかった着信呼の発信者電話番号及び時計情報のペアを少なくとも1組以上記憶することが可能なメモリ部と,前記制御部に接続された操作キー部と,前記発信者電話番号 及び時計情報を表示することが可能な素子で実現された表示部とを有して構成され,前記デジタル交換機からの着信時,当該着信呼に応答しなかった場合に前記デジタル交換機から送出される『発信者電話番号』と前記制御部にて生成される『当該着信呼の発生した時間情報』とをペアとして前記メモリに記憶するとともに,前記発信者電話番号を前記表示部に表示 し,着信状態の復旧後,前記操作キー部から予め定められた特別なキー操作が行われると,前記制御部は前記表示部に順次,前記メモリ部に記憶されている前記発信者電話番号と前記当該着信呼の発生時計情報とを表示させることを特徴とする無線電話装置。」(以下「訂正発明」という。) 3 決定の理由 別紙決定書の写し記載のとおりである。要するに,@訂正発明は,特開平2-58459号公報(甲第3号証。以下「引用例」という。)記載の発明(以下「引用例発明」という。)及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法29条2項に該当し,特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから,本件訂正は認められない,A本件発明は,引用例発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項に該当し,特許を受けることができない,とするものである。
決定が上記結論を導くに当たり認定した訂正発明と引用例発明との一致点・相違点は,次のとおりである。
(一致点) 「収容接続された端末に対し付加情報として『発信者電話番号』を送出することが可能なデジタル交換機に収容された固定接続手段に回線を介して接続することにより電話サービスを提供する電話装置において,前記デジタル交換機に直接収容された前記固定接続手段に回線を通して接続される送受信手段と,前記送受信手段に接続された電話サービスを実現する為の音声処理を行うベースバンド回路部と,当該電話装置全体の制御を行う制御部と,前記送受信手段に接続され前記デジタル交換機から前記固定接続手段を介して受信する着信情報に対して応答出来なかった着信呼の発信者電話番号及び時計情報のペアを少なくとも1組以上記憶することが可能なメモリ部と,前記制御部に接続された操作キー部と,前記発信者電話番号を表示することが可能な素子で実現された表示部とを有して構成され,前記デジタル交換機からの着信時,当該着信呼に応答しなかった場合に前記デジタル交換機から送出される『発信者電話番号』と『当該着信呼の発生した時間情報』とをペアとして前記メモリに記憶するとともに,前記着信呼に応答しなかったことを示す表示を前記表示部に表示し,着信状態の復旧後,前記操作キー部から予め定められた特別なキー操作が行われると,前記制御部は前記表示部に順次,前記メモリ部に記憶されている前記発信者電話番号を表示させることを特徴とする電話装置。」 (相違点) 「(1) 固定接続手段と電話装置とを,訂正発明では,無線回線を介して接続するのに対し,引用例発明では,バス回線(有線回線)により接続する点」(以下「相違点(1)」という。) 「(2) 時計情報の生成に関し,訂正発明では,制御部で生成するのに対し,引用例発明では,着呼時間情報をどこで生成するかについて記載されていない点」(以下「相違点(2)」という。) 「(3) 着信呼に応答しなかったことを示す表示の内容が,訂正発明では,発信者電話番号であるに対し,引用例発明では,「不在中着呼有り」を示すメッセージである点」(以下相違点(3)」という。) 「(4) 特別なキー操作が行われた場合の表示の内容に関し,訂正発明では,発信者電話番号と着信呼の発生時計情報とを表示させるのに対し,引用例発明では,着呼時間情報の表示については特に記載していない点」(以下「相違点(4)」という。)
原告主張の決定取消事由の要点
決定の理由中,「[1]手続きの経緯」は認める。「[2]訂正の適否について」のうち,「1.訂正明細書の請求項1に係る発明」は認め,「2.訂正発明の独立特許要件について」,「3.むすび」は争う。「[3]特許異議申立について」のうち,「1.本件発明」は認め,「2.取消理由の引用刊行物」,「3.対比・判断」及び「4.むすび」は争う。
決定は,引用例発明の認定を誤るなどして,訂正発明と引用例発明との一致点・相違点の認定を誤り,相違点とすべきものを一致点として,結果として相違点を看過し,訂正発明と引用例発明との相違点についての判断を誤り, 本件発明と引用例発明との一致点・相違点の認定及び相違点についての判断を誤ったものであり,これらの誤りがそれぞれ結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違法として取り消されるべきものである。
1 訂正発明と引用例発明との一致点・相違点の認定の誤り (1) 「発信者電話番号」をISDN網から送出し,RAM24に記憶する点について ア 決定は,引用例発明について,「ISDN網に収容された網終端装置にバス回線を介して接続することにより電話サービスを提供するデジタル電話器において,前記ISDN網に直接収容された前記網終端装置にバス回線を通して接続される通信チップと,デジタル電話器全体を制御するCPUと,前記通信チップに接続され前記ISDN網から前記網終端装置を介して受信するSETUPメッセージに対して応答出来なかった着呼の相手先番号及び着呼時間情報を複数記憶することができるRAM24と,前記CPUに接続された操作キー群と,前記相手先番号を表示することが可能な表示装置とを有して構成され,前記ISDN網からの着呼時,当該着呼に応答しなかった場合に前記ISDN網から送出される相手先番号と着呼時間情報とを前記RAM24に記憶するとともに,「不在中着呼有り」を示すメッセージを前記表示装置に表示し,着呼状態の復旧後,前記操作キー群中の表示キー操作が行われると,前記CPUは前記表示装置に順次,前記RAM24に記憶されている前記相手先番号を表示させることを特徴とするデジタル電話器」(決定書3頁下から9行〜4頁5行)に係る発明が記載されている,と認定した。
しかし,上記の点についての引用例の記載は不明瞭である。
引用例(甲第3号証)には,次の記載がある。
@ 「ステップS14に進んで,先に受信したSETUPメッセージ中に含まれる発呼側のサブアドレス情報を抜き出しRAM24中に予め確保された相手先番号エリアに格納(登録)し,ステップS9に進んで回線切断処理を行う。」(甲第3号証3頁右下欄3行〜7行) A 「先ず,ステップS11で操作キー群26中のキーの押下を検出したときには,ステップS12に進み,その入力キーが表示キーであるか否かを判断する。表示キーであると判断した場合には,ステップS13に進んで,先の着呼処理で登録した相手先番号をRAM24より読出し,その番号を表示装置29に表示することにより,どこから着呼があったかをオペレータに知らせる。尚,説明が前後するが,不在中にいくつも着呼があったときには,それら相手先番号はRAM24に格納されている。従って,表示キーを押下する毎に,順次それら相手先番号を表示することも可能である。」(甲第3号証4頁左上欄5行〜右上欄1行) B 「また,相手番号を記憶するときには,発呼側番号及び発呼側サブアドレスのみを登録するのでは無く」(甲第3号証4頁左下欄7行〜9行) 引用例においてRAM24に登録されるのは,@の記載では「発呼側のサブアドレス情報」であり,Aの記載では「相手先番号」である。Bの記載によれば,「相手先番号」と「発呼側サブアドレス」とは異なるものとされているから,@の記載とAの記載とは整合せず,RAM24の格納対象が「発呼側のサブアドレス情報」なのか,「相手先番号」なのかを特定することができない。
このような不明瞭な引用例の記載から,決定が「発信者電話番号」に相当するとした「相手先番号」が,RAM24に記憶されることが記載されている,と認めることはできないというべきである。
イ 引用例における「相手先番号」は,訂正発明の「発信者電話番号」に相当しない。
ISDN(Intergrated Services Digital Network)についてのCCITT勧告(以下「CCITT勧告」という。)95頁(甲第9号証)によれば,「ISDNアドレス」は,「国番号」,「国内ISDN番号(国内対地番号とISDN加入者電話番号)」と「ISDNサブアドレス」とから成る。「サブアドレスは,ISDN番号や,加入者間情報とは分離された要素として,そのまま運ばれるものとする」の規定(同号証)によれば,「ISDN番号」と「ISDNサブアドレス」とは分離された要素である。電話機が網終端装置を介して網に接続される構成では,電話機特定のため「ISDNサブアドレス」が付加されるが,電話機が網に直接接続される構成では「ISDNサブアドレス」は付加されない。
これを引用例についてみる(別紙図面参照)。呼が発生すると,発呼側から「発呼側ISDNアドレス」及び「着呼側ISDNアドレス」を含むSETUPメッセージが送信され,同メッセージ中の「着呼側ISDN番号」に対応する網終端装置1に呼が到着する。続いて,網終端装置1から「着呼側ISDNサブアドレス」がバス回線2に転送され,それに対応する電話器6が着信を受ける。すなわち,網終端装置1に「加入者電話番号」を割り当て,電話器6に「サブアドレス」を割り当てる。電話器には「加入者電話番号」が割り当てられない。
上記CCITT勧告287頁(甲第12号証)の表25によれば,「発アドレス」はオプションであるから,SETUPが「発アドレス」を含むようにも含まないようにも網を構築することができる。同勧告の323頁の表42及び331頁の図30(甲第12号証)によれば,「発アドレス」の「オクテット3」において「アドレスタイプ」を特定するに際し,どのような「アドレスタイプ」を「発アドレス」に含ませるかはISDNサービス提供者が自由に選択することができる。例えば,国内だけの閉じたISDN網を構築する場合には「国際番号」は含まれず,いわゆる企業内内線ネットワークを構築する場合は,「サブアドレス」のみが重要であって,「国内番号」及び「市内(番号簿)番号」は含まなくてもよい。
引用例発明は上記企業内内線ネットワークに関するものである。「SETUPメッセージ中に含まれる発呼側のサブアドレス情報を抜き出し」(記載@)とは,文字どおり発呼側の「ISDNサブアドレス」に格納された情報を抜き出すことを意味し,発呼側の「ISDN番号」に格納された情報を抜き出す意味ではない。したがって,「加入者電話番号」を抜き出すものではない。
「発呼側のサブアドレス情報」は発呼側端末を識別するものであるから,「相手先番号」中の「発呼側番号」は発呼側の「サブアドレスに対応する端末番号」を意味する。この解釈は,引用例の「不在中の着呼があった発呼側端末番号を表示手段で表示するものである」(甲第3号証2頁左下欄11行〜12行)の記載によっても裏付けられる。
以上のとおり,引用例における「相手先番号」中の「発呼側番号」は「サブアドレスに対応する端末番号」であって「加入者電話番号」ではない。
このように,引用例の「相手先番号」は,訂正発明の「発信者電話番号」(加入者電話番号)に相当するものではないから,発信者電話番号がISDN網から送出されRAM24に記憶される点は,訂正発明と引用例発明との一致点ではない。
ウ 被告は,引用例における「発呼側のサブアドレス情報」は「発呼側サブアドレス」と同義ではないと主張する。
しかし,CCITT勧告104頁のISDN番号用語及び定義(甲第11号証)中の,「A.1 アドレス(網内のアドレス) 加入者設備(端末群,端末又は端末の特定の機能)内のあるポイントを識別するために必要な情報。」,及び,「A.2 サブアドレス(網アドレス拡張部) アドレスの一部であり,例えば加入者設備(端末群,端末または端末の特定の機能)内のある点に接続している加入者端末を識別する。」の記載によれば,「アドレス」もその一部である「サブアドレス」もともに「情報」そのものである。
フィールド名と格納情報名とを同一の用語で呼ぶことは日常である。
「サブアドレス」は「サブアドレスというフィールド」と「サブアドレスの格納情報」の両方を意味するというのが当業者としての合理的な解釈である。また,上記勧告(甲第11号証)中には,「サブアドレスは発着両側の合意のもとに使うことができ,網内を転送される。しかし,サブアドレス情報を公衆網内で処理することはない」との記載もあり,これによれば,「サブアドレス」をフィールド名を指す用語として使用し,「サブアドレス情報」をフィールド名と区別し格納情報を指す用語として使用していることも明らかである。
そうすると,「サブアドレス情報」と「サブアドレス」とは同義であると解釈するのが当業者の妥当な解釈であり,「情報」の語の有無によって区別することはできない,というべきである。
(2) 着呼時間情報をRAM24に記憶する点について ア 決定は,引用例発明について,「着呼時間情報を複数記憶することができるRAM24」(決定書3頁下から4行〜3行)を有する,と認定した。
しかし,引用例(甲第3号証)には,「着呼時間やその他の情報を登録する様にしても良い」との記載があるのみで,その回路構成,登録方法,登録場所などが明確でない。上記記載中の「・・・しても良い」は願望の表明であり,技術の開示ではない。引用例発明に着呼時間情報をRAM24に記憶するという構成が記載されていると認定することはできない,というべきである。
イ 被告は,引用例発明において記憶手段は唯一RAM24だけであるから、その登録場所等につき記載はなくとも「着呼時間情報」はRAM24に記憶されると主張する。しかし,図面においてRAMが1個とされていても,引用例中には,記憶手段が唯一であるとの記載はないから,被告の主張は失当である。
(3) 発信者電話番号と着呼時間とをペアで記憶する点について ア 決定は,訂正発明と引用例発明とは「前記デジタル交換機から送出される『発信者電話番号』と『当該着信呼の発生した時間情報』とをペアとして前記メモリに記憶する」点で一致する,と認定した(決定書5頁1行〜3行)。
しかし,引用例には,発信者電話番号と着呼時間とをペアとしてRAM24に登録することは記載されていない。上記一致点の認定は誤りである。
イ 被告は、特開昭64-89846号公報(乙第1号証。以下「乙第1号証刊行物」という。)を挙げて,「発信者電話番号と時計情報とをペアとしてメモリに記憶する」ことは周知事項であると主張する。
乙第1号証刊行物には,「記憶部9は第2図に示すように不在モードが設定されているときに着信があった場合その着信を行った発呼者側の電話番号を選択番号及び着信日時と共に記憶するものである。」(2頁右上欄17行〜20行)との記載がある。しかし,同刊行物中の,「リスト呼出しキイ15を入力して記憶部9内に記憶された内容を表示部21に表示」(2頁左下欄15行〜17行)、
「リスト呼出しキイ15を押すことにより記憶部9の内容をそのまま表示部21に表示」(3頁左上欄3行〜5行)及び「記憶部9の内容の1部を表示部21に表示させるようにしてもよい」(3頁左上欄5行〜6行)との記載によれば,同刊行物記載の技術は,リストの「全体」又は「一部」を表示するものであり、その表示方法は訂正発明の「順次表示する」方法とは異なるものである。乙第1号証刊行物をもって,訂正発明の進歩性を否定する根拠とすることはできない。
(4) 回線の点について 決定は,「訂正発明の「無線回線」と引用例発明の「バス回線」とは,「固定接続手段」と「電話装置」とを接続する「回線」である点で差異がない。」(決定書4頁19行〜20行)と認定した。
しかし,引用例発明のバス回線は有線回線であり,訂正発明の無線回線とは,技術分野が異なる。バス回線はサブアドレスを伝送するたけで,電話番号を伝送しないのに対し,無線回線は電話番号を伝送するので,技術的意義も異なる。両者が同一の技術分野であるとする上記認定は誤りであり,この認定を前提とした一致点の認定も誤りである。
2 訂正発明と引用例発明との相違点についての判断の誤り (1) 相違点(1)についての判断の誤り 決定は,相違点(1)(固定接続手段と電話装置とを,訂正発明では,無線回線を介して接続するのに対し,引用例発明ではバス回線(有線回線)により接続する点)について,「端末と回線終端装置との接続に無線回線を用いることは,周知の事項(例えば,特開昭61-248698号公報(判決注・甲第4号証,以下「甲第4号証刊行物」という。)参照)であるから,引用例発明において,デジタル電話器に接続される回線を,無線回線に変更することは当業者が容易に想到し得たものである。なお,無線回線に変更した場合に,網終端装置,及びデジタル電話器の通信チップを,訂正発明のように無線通信に対応した構成とすることは,無線回線への変更に伴い設計変更されるべき当然の事項にすぎない。」(決定書5頁23行〜29行)と認定判断した。
ア しかし,甲第4号証刊行物に記載された交換装置200/300は,有線通信にも無線通信にも使用することが可能な装置ではあるものの,同刊行物には,「以上の動作で,端末装置100と交換装置200/300間の無線チャンネルが設定されたので,以後の交換装置200/300の動作は公知のものと同様に行なわれる。」(甲第4号証11頁右下欄8行〜11行)との記載があり,さらに,同刊行物の9頁右上欄11行ないし11頁右下欄7行には,交換装置200/300との通信のためには,端末装置の電源投入後,「同期の確立,同期の捕捉」が必要である,との記載がある。これらの記載によれば,同刊行物は,このような有線通信にも無線通信にも使用することが可能な交換装置を用いて無線通信を行う場合にも「無線チャンネル」の設定がまず必要である,として,無線技術と有線技術とが全く異なることを示唆するものである,と解釈するのが相当である。
このような甲第4号証刊行物を根拠に,有線から無線への変更が容易なことあるいは設計変更事項であるとした,決定の上記判断は誤りである。
イ 甲第4号証刊行物を周知例とすることはできない。
(2) 相違点(2)についての判断の誤り 決定は,相違点(2)(時計情報の生成に関し,訂正発明では制御部で生成するのに対し,引用例発明では,着呼時間情報をどこで生成するかについて記載されていない点)について,「時計情報を扱う通信装置において,時計情報を通信装置の制御手段で生成することは,周知の事項(例えば,特開平2-228857号公報(判決注・甲第5号証,以下「甲第5号証刊行物」という。)参照)であるから,引用例発明において,着呼時間情報をCPUで生成するよう構成することに格別の困難はない。」(決定書5頁31行〜34行)と認定判断した。
ア しかし,上記判断は,訂正発明の特徴である,発信者電話番号及び時計情報をペアとしてメモリに記憶するとの構成を引用例発明が有しない点についての判断をしていない点において,誤っている。
イ 甲第5号証刊行物には,「着信時刻制御回路13では同期検出回路12の「H」出力を受けると,制御回路6からの時刻信号をメモリ14に書き込む」(甲第5号証2頁左下欄11行〜14行)との記載があり,同記載によれば,制御回路13が時刻信号を生成したとしても,それを書き込むためには,同期検出回路12からの出力信号が必要である。引用例発明は同期検出回路を有していないから,どのようにして甲第5号証刊行物記載の技術を組み合わせることができるのか不明である。決定の上記判断は誤りである。
ウ 甲第5号証刊行物を周知例とすることはできない。
(3) 相違点(3)についての判断の誤り 決定は,相違点(3)(着信呼に応答しなかったことを示す表示の内容が,訂正発明では,発信者電話番号であるのに対し,引用例発明では,「不在中着呼有り」を示すメッセージである点)について,「着信呼に応答しなかったことを示す表示の内容として,発信者電話番号を用いることは周知の事項(例えば,発明協会公開技報 公技番号87-8480(判決注・甲第8号証,以下「甲第8号証刊行物」という。),特開平2-56154号公報(判決注・甲第7号証,以下「甲第7号証刊行物」という。)参照)であるから,引用例発明において,「不在中着呼有り」を示すメッセージに代えて,相手先番号を採用することに格別の困難はない。」(決定書5頁下から4行〜6頁1行)と認定判断した。
ア しかし,訂正発明は,従来技術には,「操作者が不在等にしているときに発生し,応答できなかった着信呼が“いくつ発生しており”,“どこから”,“いつ”発生したのかを知り,円滑な情報交換を推進したいというニーズに対応出来ないという欠点」(甲第2号証3欄23行〜27行)があったことから,これを解決するためになされたものである。これに対し,引用例発明においては,得られるのは,「不在中着呼あり」を示すメッセージだけで,“どこから”着信呼があったのか知ることができない。決定は,訂正発明の「発信者電話番号の表示」の構成の有する意義を不当に過小評価している。
イ 甲第7号証刊行物は,有線電話機に関するものであるから,もともと無線電話機に関する訂正発明の進歩性についての引用例としては,用いることができないものである。
仮にこの点は問わないとしても,甲第7号証刊行物は,訂正発明の進歩性を否定する根拠となるものではない。
甲第7号証刊行物には,「着信コマンド中に含まれる発信者番号を抽出して・・・RAM3中に・・・一次的にセーブ」し,「応答がなく,・・・呼を切断(途中放棄)した場合には,・・・発信者番号が発信者テーブルの発信者番号格納領域に登録されているか否かを検索」し,「検索の結果,一致する発信者電話番号がない場合には,発信者番号を・・・登録」し,「表示・ダイヤル送出器キー制御部6を制御して表示部10に発信者テーブルの内容を表示させ」ている,との記載がある(甲第7号証3頁右上欄9行〜4頁右上欄3行参照)。甲第7号証刊行物のこれらの記載によれば,同刊行物に記載されている技術においては,着信があり,応答がない場合に,発信者番号が発信者テーブルに登録され,その後自動的に,既に発信者テーブルに格納されているすべての登録内容を同時に表示している。応答がない場合に,自動的にすべての発信者番号を表示することと,引用例発明の「表示キーの押下を検出したときには,・・・その番号を表示する」(甲第3号証4頁左上欄5行〜12行)とは整合しないから,引用例発明と甲第7号証刊行物記載の技術とを組み合わせることはできない。
ウ 甲第8号証刊行物には,「自局がマイク8のプレス動作により応答した場合」(甲第8号証2頁左欄1行〜2行)との記載がある。同記載によれば,甲第8号証刊行物に記載された発明は無線電話装置ではなく,トーキーのようなものであるから,訂正発明のような無線電話装置とは技術分野を異にし,訂正発明の進歩性についての判断において,引用例として用いることができないものである。
甲第8号証刊行物には,「応答できなかった場合,監視制御部9のタイマ制御により,相手局の終話でリセットせず一定時間間隔で,制御操作部6に対し,相手局番号表示信号・・・を送出し」(甲第8号証2頁左欄6行〜右欄2行)との記載はあるものの,タイマ制御のタイマがどこにあり,どのようにリセットされ,どのように表示信号を送出しているのかについての具体的な記載がないため,そこに記載された発明を認識することができない。内容を認識することができないこのようなものを進歩性判断の引用例として用いることはできない。
エ 甲第7,第8号証刊行物を,周知例とすることはできない。
(4) 相違点(4)についての判断の誤り 決定は,相違点(4)(特別なキー操作が行われた場合の表示の内容に関し,訂正発明では,発信者電話番号と着信呼の発生時計情報とを表示させるのに対し,引用例発明では,着呼時間情報の表示については特に記載していない点)について,「所定のキー操作に応じて表示される,応答しなかった着信呼に関する表示の内容として,発呼者番号と着信時刻とを表示することが,周知の事項(例えば,特開平1ー278150号公報(判決注・甲第6号証(以下「甲第6号証刊行物」という。)参照)であり,また,引用例発明において,相手先番号と着呼時間情報を記憶する構成となっていることを考慮すると,引用例発明において,表示キー操作に応じて,相手先番号と着呼時間情報とを表示するよう構成することに格別の困難はない。」(決定書6頁3行〜8行)と認定判断した。
ア しかし,甲第6号証刊行物記載のデジタル通信端末は,有線端末に関するものであり(甲第6号証2頁右上欄1行〜6行参照),無線電話装置である訂正発明の進歩性についての判断において,引用例として用いることができないものである。
仮にこの点は問わないとしても,甲第6号証刊行物は,訂正発明の進歩性を否定する根拠となるものではない。
甲第6号証刊行物には,着信呼があり,応答できなかった場合に「発呼者番号と時刻を制御部4内に蓄積する」(甲第6号証3頁左上欄7行〜8行),「要求する信号を受信した場合,蓄積された発呼者の情報を表示部7に送出する」(甲第6号証3頁左上欄10行〜11行)ことが記載されているだけであり,訂正発明の「発信者電話番号及び時計情報のペアを少なくとも1組以上記憶することが可能」なように制御部4が構成されているとの記載はどこにもなく,また,「特別なキー操作が行われると,前記制御部は,前記表示部に順次,前記メモリ部に記憶されている前記発信者電話番号と前記当該着信呼の発生時計情報とを表示」するとの記載もどこにもない。
決定の上記判断は,技術分野が異なり,かつ訂正発明と異なり順次表示することができない技術を訂正発明の進歩性を否定する根拠として用いた点において誤っている。
イ 甲第6号証刊行物を,周知例とすることはできない。
3 本件発明と引用例発明との一致点・相違点の認定の誤り及び相違点についての判断の誤り 決定の,本件発明と引用例発明との一致点・相違点の認定及び相違点についての判断(決定書7頁11行〜36行)が誤りであることは,1,2で述べたことから明らかである。
被告の反論の要点
1 訂正発明と引用例発明の一致点・相違点の認定の誤り,の主張について (1) 発信者電話番号をISDN網から送出し,RAM24に記憶する点について ア 引用例には,「ステップS13に進んで,先の着呼処理で登録した相手先番号をRAM24により読出し」(甲第3号証4頁左上欄9行〜10行),「不在中にいくつも着呼があったときには,それらの相手先番号はRAM24に格納されている。」(同4頁左上欄13行〜15行)との記載がある。これらの記載によれば,引用例発明において,「相手先番号」をRAM24に記憶していることは,他の記載を参酌するまでもなく,明白である。
また,引用例の次の記載によれば,引用例発明の「発呼側サブアドレス情報」は,「相手先番号」を含む情報であるということができる。
@ 「ステップS14に進んで,先に受信したSETUPメッセージ中に含まれる発呼側のサブアドレス情報を抜き出しRAM24中に予め確保された相手先番号エリアに格納(登録)し」(甲第3号証3頁右下欄3行〜7行) A 引用例中の第4図のS14の欄内には「相手番号登録」と記載されている。
B 「ステップS13に進んで,先の着呼処理で登録した相手先番号をRAM24より読出し」(同4頁左上欄9行〜10行。同記載中の「先の着呼処理」は,Aの第4図のステップS14の処理,すなわち,@で述べた処理を指す。) さらに,引用例中の「相手番号を記憶するときには,発呼側番号及び発呼側サブアドレスのみを登録するのでは無く」(甲第3号証4頁左下欄7行〜9行)との記載から,相手(先)番号は,発呼側番号と発呼側サブアドレスからなることは明らかである。
イ 引用例においては,「SETUPメッセージ中に含まれる発呼側のサブアドレス情報」(甲第3号証3頁右下欄4行〜5行)の「発呼側のサブアドレス情報」は,「相手番号を記憶するときには,発呼側番号及び発呼側サブアドレスのみを登録するのでは無く」(同4頁左下欄7行〜9行)における「発呼側サブアドレス」とは区別された表現形式(「情報」の用語が付加されている。)となっている。引用例発明における「発呼側のサブアドレス情報」の技術的意味については,引用例に記載された関連する事項から総合的に判断する必要がある。
引用例の「ステップS14に進んで,先に受信したSETUPメッセージ中に含まれる発呼側のサブアドレス情報を抜き出しRAM24中に予め確保された相手先番号エリアに格納(登録)し」(甲第3号証3頁右下欄3行〜7行)の記載から,「発呼側のサブアドレス情報」は,RAM24中の相手先番号エリアに格納(登録)されていることが明らかである。引用例の第4図のS14の欄内には「相手番号登録」と記載されていること,引用例には,「ステップS13に進んで,先の着呼処理で登録した相手先番号をRAM24より読出し」(同4頁左上欄9行〜10行)とも記載されていることからすれば,引用例発明においては,RAM24に格納(登録)した「SETUPメッセージ中に含まれる発呼側のサブアドレス情報」から「相手先番号」が読み出されることになるのであるから,「SETUPメッセージ中に含まれる発呼側のサブアドレス情報」が「相手先番号」を含むことは明らかである。「相手先番号」が「発呼側番号及び発呼側サブアドレス」を含むことは上記のとおりであるから,結局,SETUPメッセージは「発呼側番号及び発呼側サブアドレス」を含むことになる。
SETUPメッセ-ジが発信元アドレス及び発信元サブアドレスを含むことは周知であり(乙第6号証),「ISDNアドレス」は「国内ISDN番号(加入者番号を含む)」を含み「ISDNサブアドレス」が付加されることも周知であるから(甲第9号証),SETUPメッセージが「国内ISDN番号(加入者番号を含む)」と「ISDNサブアドレス」を含むことは明らかである。
そうすると,引用例発明において,「発呼側番号」が発呼側の「国内ISDN番号(加入者番号を含む)」中の「加入者電話番号」すなわち「発信者電話番号」を意味し,「発呼側サブアドレス」が発呼側の「ISDNサブアドレス」を意味することは明らかである。
さらに,着呼側の電話装置において,どこから着呼があったかを表示するために発呼側の電話番号を表示することは,周知の事項であるから(乙第4ないし第6号証参照),「発呼側番号」が発信者側の加入者電話番号(発信者電話番号)であることは,明らかである。
このように,「発呼側番号」は「発信者電話番号」であるから,決定がISDN網から送出された発信者電話番号をメモリに記憶する点を一致点としたことに誤りはない。
ウ 原告は,引用例発明における「発呼側番号」とは,バス回線を介し網終端装置に接続された通信端末に割り当てられる「サブアドレスに対応する端末番号」を意味する,と主張する。
しかしながら,引用例には,「発呼側番号」が発呼側端末の「サブアドレスに対応する端末番号」であるとの記載はない。原告主張の上記意味解釈によれば,引用例発明においては,サブアドレスから「サブアドレスに対応する端末番号」を得る手段が必要となるのに,引用例には,そのような手段についての記載もない。
サブアドレスは内線番号に相当するものであり,サブアドレスのみで発呼側端末を識別するのは通常困難である。発呼側の加入者電話番号が網から送信されるにもかかわらず,これを,あえて表示しないのは,「不在中に着呼が発生したときに,どこから着呼があったか否かを判断可能にした通信端末装置を提供」する,という引用例発明の技術的課題からみても不合理な解釈である。
「発呼側番号」は「発信者電話番号」であって「サブアドレスに対応する発呼側端末番号」ではない。
(2) 着呼時間情報をRAM24に記憶する点について 引用例には,「相手番号を記憶するときには,発呼側番号及び発呼側サブアドレスのみを登録するのでは無く,着呼時間・・・を登録する様にしても良い。」(甲第3号証4頁左下欄7行〜10行)との記載があり,相手先番号を記憶するときには,着呼時間をも登録することが開示されている。
相手先番号がRAM24に記憶されることは,(1)で述べたとおりである。
引用例には,「24はCPU22のワークエリアとして使用するRAM」(甲第3号証2頁右下欄14行〜15行)と記載され,RAM24が引用例発明のデジタル電話器で唯一の読み書き可能な記憶手段であるから,上記着呼時間もRAM24に登録されることは,当然のことである。
(3) 発信者電話番号と着呼時間とをペアで記憶する点について 引用例発明において,「相手先番号」と「着呼時間」とはRAM24に記憶されるものであることは,前記のとおりである。
引用例発明は,「不在中に着呼が発生したときに,どこから着呼があったか否かを判断可能にした通信端末装置を提供しようとするものである。」(甲第3号証2頁右上欄6行〜8行)ことを発明の技術的課題としていることからみて,登録した相手先番号の表示の際,相手先番号に対応した着呼時間を何らかの形で利用しようとすることは当然のことであり,そのためには,着呼した相手先番号とその着呼時間をペアとして記憶する必要があることも,また当然のことであるから,引用例発明において,「相手先番号」と「着呼時間」をペアとしてRAM24に登録することは,自明ともいうべき事項である。
相手先番号とその着呼時間を記憶する際には,それらを関連付けて,ペアとして記憶し,相手先番号の表示の際,記憶した着呼時間を利用することは,電話装置の分野において周知の事項(乙第1,第5号証参照)である。引用例発明において,「相手先番号」と「着呼時間」をペアとしてRAM24に登録することは,当業者にとって記載されているに等しいともいうべき事項である。
相手先番号中に含まれる「発呼側番号」が「発信者電話番号」であることは前記のとおりであるから,上記点を一致点としたことに誤りはない。
(4) 回線の点について 訂正発明の「無線回線」と引用例発明の「バス回線」とは,「固定接続手段」と「電話装置」とを接続する「回線」である点において,同じ技術的意義を有する。訂正発明と引用例発明とは,発明の対象が,電話装置という同じ技術分野に属し,かつ,不在中の着呼を知らせるという技術的課題においても共通する。上記の点を一致点と認定したことに誤りはない。
2 訂正発明と引用例発明の相違点についての判断の誤り,の主張について (1) 相違点(1)についての判断の誤り,の主張について 決定が,周知例として記載した甲第4号証刊行物において引用するのは,同刊行物に記載された具体的な実施例そのものではなく,具体的な実施例から把握される,端末と回線終端装置との接続に無線回線を用いる,という技術的思想である。この技術的思想を引用例発明に適用して,デジタル電話器に接続される回線を無線回線に変更することは,当業者が容易に想到し得たことである。
(2) 相違点(2)についての判断の誤り,の主張について ア 発信者電話番号と着呼時間とをペアとしてメモリに記憶するという特徴的な構成について判断していない,との原告の主張は,相違点(2)と関係のない事項である。
イ 決定が,周知例として記載した甲第5号証刊行物において引用するのは,同刊行物に記載された具体的な実施例そのものではなく,具体的な実施例から把握される,時計情報を通信装置の制御手段で生成する,という技術的思想である。この技術的思想を引用例発明における着呼時間の生成に適用して,着呼時間をCPUで生成するよう構成することに格別の困難はない。
(3) 相違点(3)についての判断の誤り,の主張について 決定が,周知例として記載した甲第7,第8号証刊行物において引用するのは,これらの刊行物に記載された具体的な実施例そのものではなく,具体的な実施例から把握される,着信呼に応答しなかったことを示す表示の内容として,発信者番号を用いる,という技術的思想である。この技術的思想が周知であることは,実開昭63-35357号公報(乙第2号証)及び特開平2-159859号公報(乙第3号証)の各記載からも明らかである。この技術的思想は電話装置に関するものであるから,これを,電話装置である点において同じ技術分野に属する引用例発明に適用することに,何ら困難性はない。
(4) 相違点(4)についての判断の誤り,の主張について 決定が,周知例として記載した甲第6号証刊行物において引用するのは,同刊行物に記載された具体的な実施例そのものではなく,具体的な実施例から把握される,所定のキー操作に応じて表示される,応答しなかった着信呼に関する表示の内容として,発呼者番号と着信時刻とを表示する技術的思想である。この技術的思想は,電話装置に関するものであるから,これを,電話装置である点において同じ技術分野に属する引用例発明に適用することに誤りはない。
3 本件発明と引用例発明との一致点・相違点の認定の誤り及び相違点についての判断の誤り,の主張について 決定の,本件発明と引用例発明との一致点の認定及び相違点についての判断に誤りがないことは,1,2で述べたところから明らかである。
当裁判所の判断
1 一致点・相違点の認定の誤り,の主張について (1) 発信者電話番号をISDN網から送出し,RAM24に記憶する点について ア 引用例(甲第3号証)には,次の記載がある。
@「[発明が解決しようとする課題]ところで,オペレータが不在等で応答できない状態に着呼が発生したとき等は,通常,一定時間読出しを続けた後,網から切断され通常の空き状態になっていた。従って,この様な状態が発生したこと自体,オペレータには認識できなかった。本発明はかかる課題に鑑みなされたものであり,不在中に着呼が発生したときに,どこから着呼があったか否かを判断可能にした通信端末装置を提供しようとするものである。」(甲第3号証2頁左上欄14行〜右上欄8行) A「[課題を解決するための手段]この課題を解決するために本発明は以下に示す構成を備える。すなわち,デジタル回線網に接続された通信端末装置において,網よりの呼設定情報中に含まれる発呼側端末番号を検出する第1の検出手段と,・・・不在中着呼受信に対応する前記発呼側端末番号を表示する表示手段とを備える。」(同2頁右上欄9行〜左下欄6行) B「[作用]かかる本発明の構成において,第2の検出手段で不在による回線開放或いは遮断を検出したときには,不在中に着呼あった旨を報知手段で報知する。そして,不在中の着呼があった発呼側端末番号を表示手段で表示するものである。」(同2頁左下欄7行〜12行) C「[発明の効果]以上説明したように本発明によれば,不在中に着呼があったときにも,どこから着呼があったかを知ることが可能となる。不在中にいくつも着呼があった場合も,それら全てを記憶し,且つ表示することにより,全ての発呼側端末の番号を知ることが可能となる。」(同4頁右下欄3行〜9行) D「[実施例]・・・本実施例においては通信端末装置として,ISDN網に接続されるデジタル電話機を例にして説明する。」(同2頁左下欄13行〜右上欄1行) E「着呼側端末は網よりSETUP(呼設定)メッセージをステップS2で受信すると,次のステップS3において,そのSETUPメッセージが受け入れられるものかの整合性をチェックを行う。そして,・・・。次に・・・。ここで,・・・。一方,・・・。ステップS8では,・・・。この様に,無応答による呼開放であると判断した場合には,ステップS13に進んで,不在中着呼有りを示すメッセージ・・・をI/Oコントローラを介して表示装置29に表示させる。そして,ステップS14に進んで,先に受信したSETUPメッセージ中に含まれる発呼側のサブアドレス情報を抜き出しRAM24中に予め確保された相手先番号エリアに格納(登録)し,」(同3頁左上欄13行〜右下欄7行) F「表示キーであると判断した場合には,ステップS13に進んで,先の着呼処理で登録した相手先番号をRAM24より読出し,その番号を表示装置29に表示することにより,どこから着呼があったかをオペレータに知らせる。・・・不在中にいくつも着呼があったときには,それら相手先番号はRAM24に格納されている。従って,表示キーを押下する毎に,順次それら相手先番号を表示することも可能である。」(同4頁左上欄8行〜右上欄1行) G「以上,説明した様に本実施例によれば,不在中の着呼があった場合には,その旨を報知し,且つどこから着呼があったかを知らせることが可能となる。
不在中にいくつも着呼があった場合も,それら全てを記憶することにより,全ての発呼側端末の番号を知ることが可能となる。」(同4頁右上欄12行〜左下欄2行) H「相手番号を記憶するときには,発呼側番号及び発呼側サブアドレスのみを登録するのでは無く,着呼時間やその他の情報を登録するようにしても良い。」(同4頁左下欄7行〜10行) イ 上記@ないしCの記載によれば,引用例には,網よりの呼設定情報中に含まれる「発呼側端末番号」を検出し,不在中の着呼があった「発呼側端末番号」を表示することにより,不在中の着呼につき「発呼側端末の番号」を知ることができる通信端末装置が記載されているということができる。
上記DないしHの記載によれば,引用例には,実施例として,SETUPメッセージ中に含まれる「発呼側のサブアドレス情報」を抜き出し,「相手先番号」として「発呼側番号及び発呼側サブアドレス」をRAM24に登録するとともに,「着呼時間」をも登録し,その「相手先番号」を表示することにより,不在中の着呼につき「発呼側端末の番号」を知ることができるデジタル電話機が記載されているということができる。ここにいう「相手先番号」が「発呼側番号及び発呼側サブアドレス」であることは,上記Fの「先の着呼処理で登録した相手先番号をRAM24より読み出し」,及び上記Hの「相手番号を記憶するときには,発呼側番号及び発呼側アドレスのみを登録するのでは無く」の各記載に照らし明らかである。
上記実施例(デジタル電話機)において,不在から復帰したオペレータが知る「発呼側端末の番号」とは「相手先番号(発呼側番号及び発呼側サブアドレス)」であり,その「相手先番号」は,SETUPメッセージ中に含まれる「発呼側のサブアドレス情報」に含まれるものであることが,明らかである。
原告は,引用例においてRAM24に登録されるのが「発呼側のサブアドレス情報」なのか「相手先番号」なのか不明確であると主張する。しかしながら,引用例における「相手先番号」と「発呼側のサブアドレス情報」との関係は上記のとおり明確であるというべきである。原告の上記主張は,引用例における「発呼側のサブアドレス情報」と「発呼側サブアドレス」とが同一であるとの理解を前提とするものである。しかしながら,上記認定の記載によれば,引用例において,「発呼側サブアドレス」は,「発呼側番号」とともに,「発呼側のサブアドレス情報」に含まれる情報の一つとして記載されていることは明らかである。原告の主張は採用することができない ウ 原告は,「発呼側のサブアドレス情報」に含まれる「発呼側番号」は「発信者電話番号」(加入者番号)ではない,と主張する。
上記認定によれば,引用例発明において,「発呼側番号及び発呼側サブアドレス」は,SETUP(呼設定)メッセージに含まれる。
甲第9号証及び弁論の全趣旨によれば,SETUPメッセージには発呼側ISDNアドレスが含まれること,ISDNアドレスには国内ISDN番号(加入者番号を含む。)が含まれ,これにISDNサブアドレスが付加されていることは周知の事項であることが認められる。
また,ISDN絵とき絵本(1989年2月25日第1版第2刷 オーム社刊。乙第4号証)には,「本付加サービスは,発信者の番号を応答以前の入呼の時点で,受信端末のディスプレイなどに表示する機能を提供するものです。発信端末がサブアドレスをもつ場合には,発信番号にはサブアドレスも含まれます。」との記載が,特開平2-222250号公報(乙第5号証)には,「発信者番号にサブアドレスが含まれているとき「0532450537」に引続きサブアドレス例えば「0002」がISDNから着信側の端末TE2へ送出される。・・・ユーザ・ユーザ間の情報を使って例えば「電話してほしい」等をコード化しておけば簡単な情報を発信者番号と同時に表示できる。また,発信者番号対氏名を索引する索引表を設ければ発信者番号と氏名を同時に表示できる。」(3頁右下欄1行〜16行)との記載があり,これらの記載によれば,ISDN網に接続される着呼側の電話装置において,どこから着呼があったかを表示するために発呼側の加入者電話番号に相当する発信者番号を表示することは周知の事項であると認められる。
上に述べた周知の事項に照らすと,引用例発明においてSETUPメッセージに含まれる「発呼側番号」は,反対の結論に導く特段の事情が認められない限り,発呼側の「国内ISDN番号(加入者番号を含む。)」中の「加入者電話番号」すなわち「発信者電話番号」を意味し,「発呼側サブアドレス」は発呼側の「ISDNサブアドレス」を意味するものと解するのが相当である。
原告は,引用例におけるSETUPメッセージ中に含まれる「発呼側のサブアドレス情報」とは,ISDNサブアドレスについての情報であり,発信者電話番号は含まれない,と主張する。
前記のとおり,ISDNについてのCCITTの勧告(甲第9号証)においては,「ISDNアドレス」は,「ISDNサブアドレス」と「国内ISDN番号(加入者番号を含む)」とから成るとされているから,用語の観点のみからすれば,引用例における「発呼側のサブアドレス情報」は,上記「ISDNサブアドレス」に格納された情報であって,発信者電話番号に相当する「ISDN番号(加入者電話番号を含む)」を含まないものと解する余地がある。
しかしながら,引用例発明において,「発呼側のサブアドレス情報」は,「発呼側番号及び発呼側サブアドレス」を含むものとされていることは,前記のとおりである。原告主張のように「発呼側のサブアドレス情報」が発信者電話番号を含まないとすると,ここにいう「発呼側番号」が何を意味するのかが問題となる。原告は,引用例発明における「発呼側番号」とは,バス回線を介し網終端装置に接続された通信端末に割り当てられる「発呼側のサブアドレスに対応する端末番号」(いわゆる内線番号に相当するもの。)を意味する,と主張する。しかしながら,引用例中には,上記「発呼側のサブアドレス情報」の語以外に,「発呼側番号」が「サブアドレスに対応する端末番号」であることの根拠となり得る記載は見当たらない。前記のとおり,引用例中には「発呼側端末番号」との語が用いられているものの,これが「発呼側サブアドレスに対応する端末番号」を指すと解すべき根拠となる記載も見当たらない。
引用例は,「不在中に着呼が発生したときに,どこから着呼があったか否かを判断可能にした通信端末装置を提供」することを技術的課題にしているものである。原告主張のように,表示されるのが内線番号及び発呼側サブアドレスのみであったのでは,発呼側端末を識別するのは通常困難である。SETUPメッセージに含まれる,網から送信される発信者電話番号を,あえて表示しないことにするのは,上記技術的課題からみても極めて不合理である。
これらの事情を総合すると,引用例において,「発呼側のサブアドレス情報」の語は,厳密にサブアドレスに関する情報のみを含むものとして用いられているものとみることはできず,「発呼側のサブアドレス情報」の語が用いられていることは,「発呼側番号」が「発信者電話番号」に当たるとする前記解釈を左右するものではないということができる。
エ 以上のとおりであるから,決定が,引用例発明における「発呼側番号」を含む「相手先番号」が訂正発明における「発信者電話番号」に相当するとし,これを前提として,ISDN網から送出された発信者電話番号をメモリに記憶する点を訂正発明と引用例発明との一致点と認定したことに誤りはない。
(2) 着呼時間情報をRAM24に記憶する点について 原告は,引用例には,「着呼時間」を登録する回路構成,登録方法,登録場所などの記載がないので,「着呼時間情報をRAM24に記憶する」ことが記載されているとはいえない,と主張する。
しかしながら,引用例発明におけるRAM24は,「CPU22のワークエリアとして使用するRAM」(甲第3号証2頁右下欄14行〜15行)であり,CPU処理に使用される通常の記憶装置であって,特定のデータを格納する専用の記憶装置ではない。「着呼時間」に限り通常の記憶装置を使用しないとか使用できないとかいう記載又は事情も見当たらない。
また,乙第1号証刊行物(特開昭64-89846号公報)には,「第2図に示すよう選択番号,着信日時,発呼者電話番号,を記憶部9に格納する。」(2頁左下欄12行〜14行)との記載が,特開平2-222250号公報(乙第5号証)には,「RAM4には・・・発信者番号メモリ・・・を有し,・・・0ワード目の0〜20ビットを着信日付ICD,21ビット〜29ビットを表示番号DPN,30,31ビットを状態番号STN,・・・桁番号DSO〜DS23は先頭から順次国コード,市外,市内局番,加入者番号,サブアドレス番号が記入される。」(2頁左下欄19行〜右下欄16行)との記載があり,これらの記載によれば,相手先番号(発呼者電話番号,加入者番号)とその着呼時間情報(着信日時,着信日付ICD)とを同じ記憶手段(記憶部9,発信者番号メモリ)に記憶することは周知の事項であると認められる。
上に述べたところによれば,「着呼時間」も「相手先番号」と同じくRAM24に記憶されると解釈するのが自然である。RAMにデータを登録することはCPUの一般的な処理であり,その回路構成,登録方法はあえて記載するまでもないことである。回路構成等の記載がないことは,RAM24に登録するという解釈を妨げるものではない。
決定が,着呼時間をRAM24に記憶する点を訂正発明と引用例発明との一致点として認定したことに誤りはない。
(3) 発信者電話番号と時間情報とをペアで記憶する点について 引用例に発信者電話番号に相当する相手先番号と着呼時間とをRAM24に記憶することが記載されていることは,前記のとおりである。
「着呼時間」は着呼と対応づけて,初めて意味を持つ時間情報であり,かつ,引用例発明は不在中の着呼の相手先番号を記憶するものであるから,「相手先番号」と「着呼時間」とが「ペアとして」の構造となるのは当然のことというべきである。また,前記(2)のとおり,相手先番号とその着呼時間とをペアとして同じ記憶手段に記憶することも周知の事項である(乙第1,第5号証)。
原告は,乙第1号証刊行物は着信リストの全体又は一部を表示する点において,これを順次表示する訂正発明とは方法が異なる,と主張する。しかし,このような方法の違いが,同刊行物に相手先番号と着呼時間とをペアとして同じ記憶手段に記憶することが記載されていると認めることを妨げるものではないことは,明らかである。
決定が,相手先番号に相当する発信者電話番号と着呼時間とをペアとしてRAM24に記憶することが記載されていることを訂正発明と引用例発明との一致点としたことに誤りはない。
(4) 回線の点について 特開昭61-248698号公報(甲第4号証刊行物)には,「本発明の目的は,通信端末装置と交換装置の間のワイヤレス化を可能にし,損失の大きい,雑音の大きい回線を用いて高速ディジタル伝送を可能にし,または同一回線に複数の端末装置を並列に連接接続して個別同時通信を行うことを可能にするもので,」(2頁右下欄12行〜17行)との記載がある。同記載からも明らかなように,「回線」とは,端末装置と交換装置との間などを接続して通信を行うという技術的意義を有し,「ワイヤ」及び「ワイヤレス」のいずれの形態も可能な通信要素の概念である。
訂正発明の「無線回線」は固定接続無線装置と無線電話装置との間を接続し,引用例発明の「バス回線」は網終端装置と電話機との間を接続する点において,両者は同じ技術的意義を有する。
決定が,訂正発明と引用例とが「回線」の点で一致すると認定したことに誤りはない。
原告は,無線回線と有線回線の相違を指摘するが,この点については,決定も,相違点(1)として認定している。原告は,訂正発明の「無線回線」は電話番号を伝送するのに対して引用例発明の「バス回線」は電話番号を伝送しない点において,両発明は相違する,と主張する。しかしながら,引用例発明のバス回線が電話番号を伝送すると解すべきことは,前記(1)で説示したとおりである。
原告の主張は採用することができない。
2 相違点についての判断の誤り,の主張について (1) 相違点(1)についての判断の誤り,の主張について 原告は,無線電話装置と有線電話装置とは技術分野が異なるから,引用例発明の「バス回線」を訂正発明の「無線回線」とすることは容易ではないと主張する。
しかしながら,相違点(1)は単なる回線形態の相違にすぎない。
引用例発明の網終端装置のバス回線側とデジタル電話機のバス回線側とにおいて,バス回線を上記1(4)の甲第4号証刊行物に記載された周知の無線回線に置き換えることを困難とするような技術的問題は見当たらない。
相違点(1)についての決定の判断に誤りはない。
(2) 相違点(2)についての判断の誤り,の主張について 原告は,引用例発明は,甲第5号証刊行物記載の技術におけるような着呼時間信号の書込みに必要な信号を出力する「同期検出回路」を有しないので,引用例発明に甲第5号証刊行物記載の事項を適用することはできないと主張する。
しかしながら,引用例に,CPU及びRAMの記載がある以上,引用例発明においてRAMへの書込信号が生成されていることは当然のことである。「同期検出回路」を有していなくとも書込信号は存在するので,引用例発明が甲第5号証刊行物記載の「同期検出回路」を有しない点は,同刊行物記載の技術を引用例発明に適用することを妨げるものではない。
相違点(2)についての決定の判断に誤りはない。
(3) 相違点(3)についての判断の誤り,の主張について 原告は,@甲第7号証刊行物及び甲第8号証刊行物は無線電話装置に関するものではないから,無線電話機に関する訂正発明の進歩性を否定するための引用例とすることができない,A甲第7号証刊行物記載の技術は,応答がない場合にすべての登録内容を同時に表示するものであるから,表示キーを押したときに番号を表示する引用例発明と組み合わせることができない,B甲第8号証刊行物には,応答できなかった場合に,監視制御部9のタイマ制御により,相手局の終話でリセットせず,一定時間間隔で,相手局番号表示信号を送出するとの記載はあるものの,タイマ制御のタイマがどこにあり,どのようにリセットされ,どのように表示信号を送出しているのかについて具体的記載ががないため,そこの記載された発明の内容を認識することができない,と主張する。
しかしながら,決定は,甲第7,第8号証刊行物における,「着信時に応答しなかったことを示す表示の内容として発信者番号を用いる」という技術的思想を周知の事項として適用したものであり,特定の具体的技術事項を適用したものではないことは,その説示自体で明らかである。これらの刊行物が無線電話装置に関するものであるかどうかや,同刊行物の具体的実施例の上記内容は,上記技術的思想の適用を妨げるものではないというべきである。
相違点(3)についての決定の判断に誤りはない。
(4) 相違点(4)についての判断の誤り,の主張について 原告は,甲第6号証刊行物は,@有線端末に関するものであり,無線電話装置に関するものでないこと,A訂正発明の「発信者電話番号と時刻情報をペアとして記憶する」こと及びそのペアを「順次表示する」ことの記載がないことから,引用例発明に甲第6号証刊行物記載の技術を適用しても訂正発明に至ることはできない,と主張する。
しかしながら,決定は,甲第6号証刊行物における,「所定のキー操作に応じて表示される,応答しなかった着信呼に関する表示の内容として,発呼者番号と着信時刻とを表示する」という技術的思想を周知の事項として適用したものであり,特定の具体的技術的事項を適用したものではないことは,その説示自体で明らかである。甲第6号証刊行物が無線電話装置に関するものであるかどうかや,同刊行物の上記具体的記載内容は,上記技術的思想の適用を妨げるものではないというべきである。
相違点(4)についての決定の判断に誤りはない。
(5) 原告は,上記(1)ないし(4)中の甲第4ないし第8号証刊行物を周知例とすることはできない,と主張する。
しかし,決定が上記各刊行物に示されているものとした技術的思想が,電話装置の分野において周知となっていたことは,各刊行物の公開時期及び各刊行物に係る特許出願の時期並びにそこに記載された技術内容等に照らし,明らかである。
原告の主張は,採用することができない。
3 本件発明と引用例発明との一致点・相違点の認定の誤り及び相違点についての判断の誤り,の主張について 決定の,本件発明と引用例発明との一致点・相違点の認定及び相違点についての判断に誤りはない。その理由は,1,2に述べたところと同じである。
結論
以上のとおりであるから,原告主張の決定取消事由はいずれも理由がなく,その他,決定にはこれを取り消すべき誤りは見当たらない。
よって,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 設樂隆一
裁判官 阿部正幸