関連審決 | 無効2001-35026 |
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関連ワード | 加工方法 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 一致点の認定 / 公知技術 / 発明の詳細な説明 / 援用権(援用) / 特許出願日 / 技術的意義 / 特許発明 / 実施 / 加工 / 設定登録 / 請求の範囲 / 変更 / 訂正明細書 / |
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事件 |
平成
13年
(行ケ)
576号
審決取消請求事件
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原告A 訴訟代理人弁理士 鈴江孝一,鈴江正二 被告 株式会社レザック 訴訟代理人弁護士 松本司,同(復代理)山形康郎,弁理士 中谷武嗣 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2003/05/08 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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原告の求めた裁判
特許庁が無効2001-35026号事件について平成13年11月9日にした審決を取り消す。 |
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事案の概要
本件は,後記本件発明の特許権者である原告が,被告の請求に係る本件特許の無効審判において特許庁が本件特許を無効とする審決をしたため,審決の取消しを求めた事案である。 1 前提となる事実等 (1) 特許庁における手続の経緯 (1-1) 本件特許 特許権者:A(原告) 発明の名称:「板材などの曲げ方法」 特許出願日:昭和63年7月6日(特願昭63-168547号) 特許権設定登録日:平成10年9月25日 特許番号:第2829350号 (後記(2)記載の本件訂正後の請求項1に係る発明を「本件発明」という。) (1-2) 本件審判手続 無効審判請求日:平成13年1月23日(無効2001-35026号) 訂正請求日:平成13年9月17日(本件訂正) 審決日:平成13年11月9日 審決の結論:「訂正を認める。特許第2829350号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。」 審決謄本送達日:平成13年4月18日(原告に対し) (2) 本件発明の要旨(本件訂正後のもの)「【請求項1】 板材やパイプ材などの被加工部材を湾曲形状に曲げ加工する場合は,上下方向及び左右方向で出口まわりが連結された型材の上記出口から被加工部材を間欠的に送り出しつつ,被加工部材の送りが停止されているときに,押し具を一定幅だけ移動させることにより上記被加工部材を上記型材の出口側端部に押し付けて一定角度だけ折り曲げることを繰り返すことによって湾曲形状に曲げ加工し,また,上記被加工部材を直角に曲げ加工する場合は,上記押し具を上記一定幅よりも大きな幅で移動させることにより行なうことを特徴とする板材などの曲げ加工方法。」 (3) 審決の理由 審決の理由は,【別紙】の「審決の理由」(ただし,理由中の「3 本件特許発明に対する判断」の部分の抜粋)に記載のとおりである。要するに,本件発明は,審判甲1(1982年3月4日出願・出願番号8206356号・英国特許出願GB2 116 086 Aの明細書,本訴甲4)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって,本件特許は,特許法29条2項の規定に違反してなされたものであり,無効事由に該当するというものである。 2 原告の主張(審決取消事由)の要点 (1) 取消事由1(一致点の認定の誤り,相違点2の判断の誤り) (1-1) 審決は,甲4(審判甲1,以下,「引用例」といい,引用例に記載の発明を「引用発明」という。)において,「上記帯状材を上記一定角度よりも大きな角度に曲げ加工する場合は,曲げ具を上記一定幅よりも大きな幅で移動させることにより行なう帯状材の曲げ加工方法」が記載されていると認定した上で,本件発明と引用発明とが,「被加工部材を上記一定角度よりも大きな角度に曲げ加工する場合は,曲げ具を上記一定幅よりも大きな幅で移動させることにより行なう板材などの曲げ加工方法」の点で一致すると認定したが,誤りである。 (1-2) 本件発明は,複数の繰り返される小さな曲げによって湾曲形状に曲げ加工する以外に,その湾曲形状に曲げ加工する一定幅よりも大きな幅で一気に移動させて直角に曲げることも組み合わせることによって,迅速かつ精度よく直角の曲げ加工を遂行できるようにしているものである。 しかし,引用発明は,複数の繰り返される小さい曲げによって被加工部材(板材)を湾曲形状に曲げ加工する方法であり,この方法のみを記載しているにすぎず,複数の繰り返される小さい曲げと送り出し量の調整によって視覚的にはあたかも直角に曲げているかのような様相にすることはできるであろうが,本件発明のように,湾曲形状に曲げ加工する一定幅よりも大きな幅で一気に移動させて直角に曲げ加工する方法は,開示も示唆もされていない。 (1-3) 被告は,引用発明においても,ピンの回転角度を適宜調整することにより,一回で直角にする曲げ加工ができることは当然の前提とされている旨主張し,まず,引用例(甲4)の図2(Fig.2)を理由に挙げる。しかし,図2は,引用例に記載されているとおり,「…異なるカーブと複数曲げ(bends)を形成するためにどのように曲げられるかを幾分概略的に示す」(訳文は甲7の10頁のもの)ものであって,一回の直立ピン40の移動で一気に帯状材が直角に曲げ加工される場合を示すものではない。また,被告は,引用例における「…このようなアクチュエータは,280゜までの回転,すなわち中心からプラスマイナス140゜ずつの回転ができ,これは最も鋭い複数曲げ(bends)以外はすべてに対して適切である。」(訳文は甲7の8頁のもの)との記載を援用するが,この記載は,一回の直立ピン40の移動で最も鋭い曲げ以外はほとんどの曲げが一気にできるということを記載しているものではない。さらに,被告の挙げる引用例(甲4)の図6(Fig.6)も,複数の段階的(間欠的)小曲げ部を形成する方法と装置で形成された刃部を示しているものであって,一回の直立ピン40の移動で一気に帯状材を直角に曲げ加工したものを示しているのではない。被告の上記主張は,引用例に記載された事項を正確に理解していないのであって,失当である。 なお,引用例に記載された発明は,図2をみる限り,直立ピン40を口先出口36からかなり間を開けて配置しているため,直立ピン40を中心から140゜回転させても,帯状金属部材34は弾性変形の曲がり分が非常に多くなり,直立ピン40を復帰させた後には,曲げた帯状金属部材34が大きく戻ることになるから,必ずしも直角の曲げ加工になるとは限らない。 むしろ,引用発明は,複数の段階的(間欠的)曲げ部を形成することを前提として制御されており,一回の曲げ部の形成が直角をも含んでいると,180゜以上の曲げ部の形成となり,帯状金属部材34がガイド32に当たって曲げ加工の続行が不可能になるのみならず,帯状金属部材34がガイド32に当たると,帯状金属部材34が不本意な変形をして曲げ加工の続行が不可能になるから,引用発明は,直立ピン40を140°回転させても直角の曲げ加工はできず,直角の曲げ加工をしているとみることができない。このことは,上記の「最も鋭い複数曲げ(bends)以外はすべてに対して適切である。」との記載とも符合する。 (1-4) 審決は,「前者(注:本件発明)において,湾曲形状に加工する場合の1回毎の曲げ角度よりも大きい曲げ角度が直角であるのに対し,後者(注:引用発明)では,角度が特定されない点。」で相違するとした上で,「甲第1号証に記載された発明(注:引用発明)において,帯状材を直角に曲げ加工を行う場合には,曲げ具の移動量を適宜調節することにより行うことができるものと認められ,その場合にも湾曲形状に曲げ加工する場合に比べて大きな幅で移動させることは明らかである。したがって,相違点2も格別な差異であると認めることはできない。」と判断した。 しかし,上記のとおり,審決は,本件発明及び引用発明の把握,一致点の認定を誤り,そのため,相違点2の判断も誤ったものである。 (2) 取消事由2(相違点1の判断の誤り) (2-1) 審決は,「前者(注:本件発明)において,型材の出口まわりは左右方向でも連結されているのに対し,後者(注:引用発明)においては,この点の限定がない点」を本件発明と引用発明との相違点1と認定した上で,「甲第1号証に記載された発明(注:引用発明)において,…出口が左右方向にも開かないように連結するという程度のことは,設計上,曲げ加工の方向に合わせて当然に検討されるべき事項である。…装置を構成する部材間の連結を,必要な加工精度に合わせて設計することは,…この点は単なる設計上の事項に過ぎず,格別なものとはいえない。」と判断したが,この判断は誤りである。 (2-2) 本件発明は,型材をいくら頑丈に垂設しても,押し具の移動により被加工部材を型材に押し付けて折り曲げたときに,型材の出口の上下において開く方向に相対的な歪みが生じ易く,この歪みが被加工部材の湾曲形状あるいは直角曲げの精度に悪影響をもたらすことを究明し,この解決法として,型材の出口まわりの上下方向及び左右方向を連結してしまうことが最も有効な手段であることを知見し,この相違点1に係る構成によって,型材の出口が開く方向に歪みを生じることなく,精度のよい所定の湾曲形状あるいは直角曲げを可能にしたのである。 このようなことは,本件発明の出願当時,ごく当然に行われていたことではなく,単なる設計上の事項でもない。審決は,上記曲げ加工方法における本件発明の出願当時の技術水準を念頭におかずに後知恵で判断しているものであり,誤った判断であるといわざるを得ない。 また,引用発明は,左右の型材の下側を装置に頑丈に取り付けているのに対し,板材を押し付けて曲げるピン40は,小さなもので,しかも出没自在に構成しているものである。したがって,ピン40を板材42に押しつけた場合には,ピン40の方が型材よりもはるかに剛性が低く,しかも,頑丈に取り付けている型材よりもはるかに取り付け強度が弱いから,ピン40の方が板材42の押し付け方向とは逆方向に斜めに歪むものであり,型材の出口側の方が開く方向に歪むものではない。それゆえ,引用発明は,ピン40が歪んで曲げの加工精度を低下させるものであって,型材の出口側が歪んで板材の曲げ加工精度を低下させるものとは理解できるものではない。この点において,審決は,引用発明について誤った解釈をし,相違点1の判断を誤った。 (2-3) 被告は,実公昭53-39732号公報(乙3)には,出口まわりが完全に包囲状に一体成型された送りガイド体4が開示されている旨主張する。 しかし,そもそも,乙3は,審決から除外され,審決の理由にもなっていない。 また,乙3に記載の発明は,送りガイド体4のガイド孔4aの出口から出た線材2を,ガイド孔4aの出口の前方に位置する曲げダイス5により曲げ加工する方法であって,送りガイド体4は,単なる線材2の送りガイドにすぎない。したがって,乙3記載の送りガイド体4は,本件発明の「型材」のように,出口側端部に被加工部材を押し付けて迅速に所望の湾曲形状の曲げ加工及び直角の曲げ加工を行える構成のものでも機能のものでもない。また,上下方向及び左右方向の出口まわりを連結することが,その出口側端部に被加工部材を押し付けて所望の湾曲形状の曲げ加工及び直角の曲げ加工を行う上で制度よく曲げ加工できることを示唆しているものでもない。よって,この送りガイド体4をもって,本件発明の「型材」が公知技術であったということはできない。 3 被告の主張の要点 (1) 取消事由1(一致点の認定の誤り,相違点2の判断の誤り)に対して (1-1) 引用発明では,スピンドル38に設けられた直立ピン40が,図2(Fig.2)の矢印で示されるように回転して帯材を押すことにより曲げるが,その回転角度は「280°までの回転,すなわち中心からプラスマイナス140゜ずつの回転ができ,これは最も鋭い曲げを除いてほとんどの曲げに適切である。」(訳文は乙4の8頁のもの)と記載されている。そして,図2には帯材が90゜以上曲げられることが示されているし,図6(Fig.6)には,90゜以上に曲げ加工された帯材が示されている。 したがって,引用発明においても,ピンの回転角度を適宜調整することにより,一回で直角にする曲げ加工ができることは当然の前提とされている。 (1-2) そもそも,引用例において,「帯状材を湾曲形状に曲げ加工する場合に,上下方向で出口まわりが連結されたガイドの上記出口から帯状材を間欠的に送り出しつつ,上記帯状材の送りの間に曲げ具を一定幅だけ移動させることにより上記帯状材を上記ガイドの出口側端部に押し付けて一定角度だけ折り曲げることを繰り返すことによって湾曲形状に曲げ加工する帯状材の曲げ加工方法」が開示されていることは,原告も認めるところである。すなわち,本件発明の「板材やパイプ材などの…繰り返すことによって湾曲形状に曲げ加工し」までの部分と一致する方法が開示されている。本件発明の直角に曲げ加工する方法とは,上記の曲げ加工方法のうちの各曲げの際に「上記押し具を上記一定幅よりも大きな幅で移動させる」だけの一方法にすぎない。 (1-3) したがって,審決が上記認定に加えて,引用例に,「上記帯状材を上記一定角度よりも大きな角度に曲げ加工する場合は,曲げ具を上記一定幅よりも大きな幅で移動させることにより行なう帯状材の曲げ加工方法」が記載されていると認定したことに誤りはなく,したがって,本件発明と引用発明との一致点の認定にも誤りがない。そして,審決の相違点2の判断にも誤りがない。 (2) 取消事由2(相違点1の判断の誤り)に対して (2-1) 型材の出口は,押し具により被加工板材(型材)を押圧する力がかかる部分であり,しっかりと型材を把持していないと,型材に歪みを生ずることは,当業者でなくても自明の事実である。 したがって,引用例には,この出口まわりを連結するとの限定はないが,審決の相違点1についての判断に誤りはない。 原告は,引用発明においては,ピン40の方が歪み,型材の出口側は歪まない旨主張するが,原告の独断であり,これを裏付ける根拠はない。原告の主張が正しいと仮定しても,引用発明を実施するに当たって,ピン40の剛性及び取り付け強度を向上させれば済むことであり,引用発明の構成自体から不可避に生ずるような問題ではない。 (2-2) 実公昭53-39732号公報(乙3)には,出口まわり部分を完全に包囲状に一体成型した送りガイド体4が開示されている。乙3記載の発明は,曲げ加工を精密に行うことを目的とする発明であり,実施例でも送りガイド体の出口まわり部分を包囲状に一体成型したものを記載していながら,その実用新案登録請求の範囲では,出口まわり部分を一体成型することについて一切触れていない。これは,乙3の出願当時ですら,既に出口まわり部分を一体成型することは,設計上当然になされるべき公知技術であったことの現れにほかならない。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点の認定の誤り,相違点2の判断の誤り)について (1) 引用例(甲4)には以下の記載がある(「bends」の解釈については,原告提出の甲7と被告提出の乙4とで違いがあるが,その点は後記(4)で検討することとし,ここではその点を留保した上で,甲7の訳文に基づいて記載する。)。 @ 「発明の要約」として,「6)出口を通して帯材を進める第1駆動手段」,「7)帯材に複数曲げを施すために曲げ具を動かす第2駆動手段」及び「8)…各曲げ部が,進み長さと横方向の曲げ量の制御により,帯状材料が直線状に進む過程の進行につれてできる複数の段階的小曲げ部で形成され,帯状材料が各段階状進行の間の静止状態で顎部に保持される間に各段階的曲げ部が形成されるように第1,第2駆動手段を制御する制御手段」(以上,甲4の1頁,甲7の4頁) A 「曲げ動作は,顎部を含む出口隙間を通る帯材の一連の間欠的前進と,ピンを含むプラットフォームの角運動により,各間欠的前進の後で行われるので,一連の小曲げが行われ,曲げの半径は複数曲げの頻度と間欠的曲げの角度により決まる。これらの両変数は,間欠的前進の長さ調整と,プラットフォームとピンの角運動により制御されるので,帯材の降伏強度以内でほぼ所望の曲げを帯材に行うことが可能である。」(甲4の2頁,甲7の6頁) B 「曲げピンを含むプラットフォームの角度を変化させる駆動手段は,…中心からプラスマイナス140゜ずつの回転ができ,これは最も鋭い複数曲げ以外はすべてに対して適切である。」(甲4の3頁,甲7の8頁) (2) 以上の記載によると,引用発明においては,帯材(審決では「帯状材」と記載され,本件発明の「板材」に相当するものと認める。この点は両当事者とも争うものではない。)が間欠的に前進駆動され,その前進駆動間の静止状態においてピンを含むプラットフォームの角運動により曲げられ,この繰り返しによって曲げ部が形成されるものと認められる。そして,帯材の前進量及びプラットフォームの回転量は制御可能,すなわち,適宜選択可能であり,これらの量を適宜に選ぶことによって,所望の曲げが実現されるものと認めることができる。 ところで,引用発明では,帯材が間欠的前進を行うものであるが,所望の曲げの実現に当たっては,帯材の前進量及びプラットフォームの回転量だけでなく,前進回数をも選択決定しておかなければならないことはいうまでもなく,その回数が,すべての曲げにおいて二回以上でなければならない理由を見いだすことはできない。 そして,引用発明においては,上記Bのとおり,プラットフォームの回転量が「中心からプラスマイナス140゜」であり,引用例の図6(Fig.6)には,極めて緩やかに湾曲した部分と,急峻に曲がった部分があるところ,上記の「中心からプラスマイナス140゜」というのは,急峻に曲がった部分を一回の操作で曲げるに十分なプラットフォームの回転量であるというべきである。 (3) この点につき,原告は,引用例の図2(Fig.2)における出口とピン(本件発明の「押し具」に相当する。)の間隔が広いことを理由として,ピンを140゜回転させても直角加工することができない旨主張する。 しかし,そもそも,審決は,「被加工部材を上記一定角度よりも大きな角度に曲げ加工する場合は,曲げ具を上記一定幅よりも大きな幅で移動させることにより行なう」という点を,本件発明と引用発明との一致点として認定したのであって,直角加工することは相違点として認定しているのであるから,上記の点が一致点の認定を誤りであるとする理由にはならない。 その点を別としても,引用例の図2(Fig.2)と本件特許公報(甲3)の【第1a図】〜【第1e図】とを比較しても,本件発明の出口と押し具の間隔が引用発明のそれよりも狭いと認められるほど,その差が顕著であるとはいえず,いずれの発明においても,板材の厚さ程度の間隔であるとみられる。しかも,引用発明のピンは,板材に垂直に並進するのではなく,回転するのであるから,上記の間隔が板材の厚さよりも若干大きくても,140゜までの適宜の角度の回転によって直角曲げを行うことは十分に可能であるというべきである。 原告の上記主張は,採用することができない。 (4) さらに,原告は,引用発明は,複数の段階的(間欠的)曲げ部を形成することを前提として制御されており,一回の曲げ部の形成が直角をも含んでいると,180゜以上の曲げ部の形成となり,曲げ加工の続行が不可能になるから,直立ピン40を140°回転させても直角の曲げ加工はできないものであり,このことは,上記Bの「最も鋭い複数曲げ(bends)以外はすべてに対して適切である。」との記載とも符合する旨主張する。 原告の上記主張は,Bの「最も鋭い複数曲げ(bends)以外はすべてに対して適切である。」に対応する引用例の原文が「…this is adequate for all but the most acute bends.」(甲4の3頁38〜39行)となっているなど,随所に「bends」という複数形が使われていることなどによるものと解される。しかし,例えば,引用発明の「発明の背景」として,「プレスナイフの従来製法の1つは,『V』型のブロックを使用し,刃の各所を足により操作されるピン又は他の曲げ具により曲げるものである。…刃に沿って局部的曲げ(bends)を多数の別個の点でつくる。特に鋭い曲げ(bends)が求められる場合は,熱と追加の工具を使った穴ぐりの組み合わせで,材料に亀裂を作らずに充分な変形をさせることができる。…約60回の別個の曲げ(bends)が必要とされる。」(原文である甲4の1頁24〜46行,訳文である甲7の3頁14〜26行)との記載があるなど,原文(甲4)においては,一箇所における複数の段階的(間欠的)曲げについて「bends」とされているだけでなく,一箇所ではなく複数箇所に各曲げ部分が存在することから「bends」との表記がされている(引用発明は,短靴などの製造用に皮革を切り抜くためのプレスナイフなどの切断刃として使用される刃の形成装置にするもので〔甲4の1頁6〜10行,甲7の3頁〕,図6(Fig.6)にみられるように,複数箇所の曲げ加工をすることも予定されている。)ものと解される部分がある。そして,上記Bの「the most acute bends」は,後者の趣旨で複数形とされたものとの解釈が十分に成り立つものである。結局,原文(甲4)における用語法等を検討しても,引用発明が,すべて複数の段階的(間欠的)曲げをするもので,一回の動作によるいわゆる一気曲げを排除するものであるとする理由を見いだすことはできない。 (5) 以上によれば,審決が,引用発明について「帯状材を上記一定角度よりも大きな角度に曲げ加工する場合は,曲げ具を上記一定幅よりも大きな幅で移動させることにより行なう帯状材の曲げ加工方法」であると認定した上,本件発明と引用発明とが,「被加工部材を上記一定角度よりも大きな角度に曲げ加工する場合は,曲げ具を上記一定幅よりも大きな幅で移動させることにより行なう板材などの曲げ加工方法」の点で一致すると認定したことに誤りはない。そして,審決が,「前者(注:本件発明)において,湾曲形状に加工する場合の1回毎の曲げ角度よりも大きい曲げ角度が直角であるのに対し,後者(注:引用発明)では,角度が特定されない点。」で相違するとした上で,「甲第1号証に記載された発明(注:引用発明)において,帯状材を直角に曲げ加工を行う場合には,曲げ具の移動量を適宜調節することにより行うことができるものと認められ,その場合にも湾曲形状に曲げ加工する場合に比べて大きな幅で移動させることは明らかである。したがって,相違点2も格別な差異であると認めることはできない。」と判断した点にも誤りがあるとはいえない。 よって,原告は,取消事由1として,上記審決の引用発明についての認定が誤りであるとした上,本件発明と引用発明との一致点の認定及び相違点2の判断も誤りであると主張するが,理由がないというほかない。 2 取消事由2(相違点1の判断の誤り)について (1) 相違点1に係る本件発明の構成は,「型材の出口まわりは左右方向でも連結されている」ことである。この点につき,審決は,「甲第1号証に記載された発明(注:引用発明)において,ガイドの出口まわりが開かないように連結する場合に,上記出口が左右方向にも開かないように連結するという程度のことは,設計上,曲げ加工の方向に合わせて当然に検討されるべき事項である。」とし,「装置を構成する部材間の連結を,必要な加工精度に合わせて設計することは,ごく当然に行われていることであって,本件特許発明が,加工精度を高めるために特定の構成を有するわけでもないから,この点は単なる設計上の事項に過ぎず,格別なものとはいえない。」と判断したが,この審決の判断は,是認し得るものである。 (2) 原告は,本件発明は,型材の出口の上下において開く方向に相対的な歪みが生じ易く,この歪みが被加工部材の湾曲形状あるいは直角曲げの精度に悪影響をもたらすことを究明し,この解決法として,型材の出口まわりの上下方向及び左右方向を連結してしまうことが最も有効な手段であることを知見し,相違点1に係る構成によって,型材の出口が開く方向に歪みを生じることなく,精度のよい所定の湾曲形状あるいは直角曲げを可能にしたものであって,本件発明の出願当時,ごく当然に行われていたことではなく,単なる設計上の事項でもないと主張する。 検討するに,訂正明細書(甲6に添付)には,実施例として,上下方向を型材10,10自体の一体結合によって連結させ,左右方向をねじ軸20,21によって連結させることで,出口14のまわりを連結している構成が記載されている。しかし,本件発明の特許請求の範囲請求項1には,「上下方向及び左右方向で出口まわりが連結された型材」と記載されているのみであって,本件発明は,連結の態様として,出口の上下両端部をねじ軸で連結した構成に限定されるものではなく,要するに,被加工部材が出口まわりにおいて,型材又はその連結部材によって取り囲まれている構成をいうにとどまり,それ以上の特定の構成を有するものとはいえない。したがって,原告が主張する上記作用効果は,訂正明細書(甲6に添付)の[作用],[発明の効果]として同旨の記載がされてはいるものの,上記のような本件発明の構成からその作用効果を奏することができるものと断定し難く,原告の上記主張は,にわかに採用の限りではない。 (3) 原告は,引用発明ではピン40の方が型材よりもはるかに剛性が低く,しかも型材よりもはるかに取り付け強度が弱いから,ピン40の方が板材42の押し付け方向とは逆方向に斜めに歪むものであり,型材の出口側の方が開く方向に歪むものではないとし,引用発明は,ピン40が歪んで曲げの加工精度を低下させるものであって,型材の出口側が歪んで板材の曲げ加工精度を低下させるものとは理解できるものではないと主張する。 しかし,仮に,原告の主張のとおりであるとすれば,なおさら,相違点1に係る本件発明の構成には技術的意義がないことになり,型材を左右方向に連結するかどうかは,実施に当たっての軽微な設計事項にすぎないといわざるを得ない。また,この主張は,引用発明のピン40は弱く,歪む可能性があるが,本件発明の押し具(引用発明のピンに相当する。)は堅牢で,歪む可能性のないものであることを前提として,引用発明と本件発明における型材の出口側の歪みに関する差異等をいうものとも解されるが,そもそも,本件発明の特許請求の範囲請求項1の記載に照らし,本件発明は,押し具の堅牢さを限定するものでないことが明らかであり,原告の主張は前提を欠くものである。 いずれにしても,原告の上記主張は,採用することができない。 (4) なお,実公昭53-39732号公報(乙3)についてみるに,「線材2が送りガイド体4から送出されるときには,ガイド孔4aの孔径が線材径とほぼ等しく形成されているので,線材2は径方向への微動が抑止され,常に一定位置から送出される。送り出された線材2は曲げダイス5の曲げ面5a…により所定径…のコイルに捲成加工されてゆくことになる。」(2欄),及び「線ガイドの出口孔は線径に対し精度が要求される」(3欄)との記載がある。乙3記載の発明は,出口から送出される被加工材料を曲げ加工する技術である点において,引用発明と共通するものであり,乙3記載の「ガイド体4」は,被加工材料を送出し,被加工材料の微動を抑える部材である点において,引用発明の型材と共通するものである。そして,乙3の第2図及び第3図によれば,ガイド体4は,線材2を取り囲むものであるから,これと機能において上記のとおり共通する引用発明の型材を,被加工部材を取り囲む構成とすることに困難性があるとはいえない。 (5) 以上によれば,相違点1についての審決の判断に誤りがあるとはいえず,原告主張の取消事由2も理由がない。 3 結論 以上のとおり,原告の審決取消事由の主張は理由がないので,原告の請求は棄却されるべきである。 |
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【別紙】審決の理由無効2001-35026号事件,平成13年11月9日付け審決(下記は,上記審決の理由のうち,「3本件特許発明に対する判断」の部分について,文書の書式を変更したが,用字用語の点を含め,その内容をそのまま掲載したものである。)理由3本件特許発明に対する判断(1)上記2に示したように訂正が認められるから、本件特許発明は、上記訂正された明細書及び登録時の図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。 「【請求項1】板材やパイプ材などの被加工部材を湾曲形状に曲げ加工する場合は、上下方向及び左右方向で出口まわりが連結された型材の上記出口から被加工部材を間欠的に送り出しつつ、被加工部材の送りが停止されているときに、押し具を一定幅だけ移動させることにより上記被加工部材を上記型材の出口側端部に押し付けて一定角度だけ折り曲げることを繰り返すことによって湾曲形状に曲げ加工し、 また、上記被加工部材を直角に曲げ加工する場合は、上記押し具を上記一定幅よりも大きな幅で移動させることにより行なうことを特徴とする板材などの曲げ加工方法。」(2)これに対し、当審が平成13年7月18日付けで通知した無効理由において引用した甲第1号証には、次の発明が記載されているものと認める。 帯状材を湾曲形状に曲げ加工する場合に、上下方向で出口まわりが連結されたガイドの上記出口から帯状材を間欠的に送り出しつつ、上記帯状材の送りの間に曲げ具を一定幅だけ移動させることにより上記帯状材を上記ガイドの出口側端部に押し付けて一定角度だけ折り曲げることを繰り返すことによって湾曲形状に曲げ加工する帯状材の曲げ加工方法。 上記帯状材を上記一定角度よりも大きな角度に曲げ加工する場合は、曲げ具を上記一定幅よりも大きな幅で移動させることにより行なう帯状材の曲げ加工方法。 なお、甲第1号証には、ガイドの出口まわりの連結構造について明確な記載はないが、甲第1号証のガイドは、訂正された明細書の発明の詳細な説明に記載された型材と同様(訂正明細書第3頁第7から10行参照)、上下方向に一体結合となっているので、上記のように認定した。 また、上記認定のうち「上記帯状材を上記一定角度よりも大きな角度に曲げ加工する場合は、‥‥帯状材の曲げ加工方法。」については、甲第1号証に記載された装置により、湾曲形状に加工する場合の一回毎の曲げ角度よりも大きく曲げ加工する場合には、湾曲状に加工する場合に比べ、曲げ具の移動の幅が大きくなることは明らかであることから、上記のように認定した。 (3)本件特許発明(前者)と甲第1号証に記載された発明(後者)とを対比する。 後者における「帯状材」は、加工の対象となる板状材であるから、前者における「板材やパイプ材などの被加工部材」に相当し、後者における「ガイド」は、その出口側端部で帯状材が当接して折り曲げ形状を作ることから、前者における「型材」に相当する。 また、後者における「曲げ具」は、前者における「押し具」に相当するから、前者において「帯状材の送りの間に曲げ具を一定幅だけ移動させる」ことは、前者において「被加工物の送りが停止されているときに、押し具を一定幅だけ移動させる」ことに相当する。 さらに、前者において、被加工部材を直角に曲げ加工する場合は、湾曲形状に曲げ加工する場合の一定角度よりも大きな角度の曲げ加工であるから、両者は、被加工部材を湾曲形状に曲げ加工する場合の一定角度よりも大きな角度に曲げ加工する場合は、曲げ具を湾曲形状に加工する場合の一定幅よりも大きな幅で移動させることにより行なう点で共通する。 したがって、両者は、次の点で一致する。 板材やパイプ材などの被加工部材を湾曲形状に曲げ加工する場合は、上下方向で出口まわりが連結された型材の上記出口から被加工部材を間欠的に送り出しつつ、 被加工部材の送りが停止されているときに、押し具を一定幅だけ移動させることにより上記被加工部材を上記型材の出口側端部に押し付けて一定角度だけ折り曲げることを繰り返すことによって湾曲形状に曲げ加工し、また、上記被加工部材を上記一定角度よりも大きな角度に曲げ加工する場合は、曲げ具を上記一定幅よりも大きな幅で移動させることにより行なう板材などの曲げ加工方法。 一方、両者は、次の2点で相違する。 (相違点1)前者において、型材の出口まわりは左右方向でも連結されているのに対し、後者においては、この点の限定がない点。 (相違点2)前者において、湾曲形状に加工する場合の1回毎の曲げ角度よりも大きい曲げ角度が直角であるのに対し、後者では、角度が特定されない点。 (4)まず、上記相違点1について検討する。 被請求人は、平成13年7月6日付けの口頭審理陳述要領書において、「「出口まわりが連結された型材」の「連結された」とは、押し具で被加工部材を型材の出口側端部に押し付けて被加工部材を折り曲げても型材の出口が上下方向及び左右方向に開かない型材の繋がりであることを意味する」(第2頁第16〜19行)と主張しているから、本件特許発明において「上下方向及び左右方向で出口まわりが連結された」とは、型材の出口が上下方向及び左右方向に開かないように、出口付近が連結されることを意味するものと認められる。 一方、甲第1号証に記載された発明において、ガイドの出口まわりが開かないように連結する場合に、上記出口が左右方向にも開かないように連結するという程度のことは、設計上、曲げ加工の方向に合わせて当然に検討されるべき事項である。 また、この相違点に関し、被請求人は、平成13年9月17日付けの意見書において、甲第1号証に記載された発明においては、±0.1mm程度の誤差がでるのはやむを得ないのに対し、本件特許発明では、例えば±0.025mmの誤差ですむ旨を主張している。 しかし、装置を構成する部材間の連結を、必要な加工精度に合わせて設計することは、ごく当然に行われていることであって、本件特許発明が、加工精度を高めるために特定の構成を有するわけでもないから、この点は単なる設計上の事項に過ぎず、格別なものとはいえない。 (5)次に、上記相違点2について検討する。 甲第1号証に記載された発明において、帯状材を直角に曲げ加工を行う場合には、曲げ具の移動量を適宜調節することにより行うことができるものと認められ、 その場合にも湾曲形状に曲げ加工する場合に比べて大きな幅で移動させることは明らかである。したがって、相違点2も格別な差異であると認めることはできない。 (6)結局、上記各相違点はいずれも格別なものではなく、また、上記相違点を総合的に検討しても、これらによって奏する効果は当業者が当然に予測できる範囲内のものであると認められる。 (以上) |
裁判長裁判官 | 塚原朋一 |
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裁判官 | 塩月秀平 |
裁判官 | 田中昌利 |