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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成18行ケ10078審決取消請求事件 判例 特許
平成20行ケ10416審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 発明者 /  技術的思想 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  発明特定事項 /  相違点の判断 /  周知技術 /  上位概念 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  優先権 /  着想 /  援用権(援用) /  特許出願日 /  参酌 /  発明の要旨認定 /  置き換え /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  構成要件 /  設定登録 /  混同 /  訂正審判 /  請求の範囲 /  減縮 /  拡張 /  変更 /  釈明 /  独立特許要件 /  訂正明細書 /  異議申立 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10551号 審決取消請求事件
原告 株式会社SNKプレイモア
訴訟代理人弁理士 岩永和久,永田健太郎
被告 特許庁長官中嶋誠
指定代理人 原光明,藤内光武,西谷憲人,小池正彦,青木博文
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/02/27
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
「特許庁が訂正2004-39265号事件について平成17年5月25日にした審決を取り消す。」との判決。
事案の概要
本件は,後記本件発明の特許権者である原告が,後記1(2)記載の訴外オムロン株式会社及びオムロンエンタテインメント株式会社の請求に係る無効審判において,本件発明のうち請求項1,3,4,6に記載された発明についての特許を無効とするとの審決がされたため,同審決の取消しを求めて後記1(2)記載の訴えを提起した上,後記1(3)記載のとおり,本件訂正審判の請求をしたところ,審判請求は成り立たないとの審決がされたため,同審決の取消しを求めた事案である。
1 特許庁における手続の経緯等 (1) 本件特許(甲10) 特許権者:株式会社SNKプレイモア(原告。設定登録時の特許権者は株式会社エス・エヌ・ケイであり,登録後,原告に特許権が移転された。) 発明の名称:「フォトブース及び撮影方法」 特許出願日:平成10年5月6日(特願平10-545485号。優先権主張:平成9年5月9日,同年6月25日,同年7月29日・日本) 設定登録日:平成12年7月28日 特許番号:第3093286号(なお,設定登録後,特許異議申立てがあり,平成13年10月9日付けで訂正請求がされ,これが認められている。同訂正後の特許請求の範囲の記載は,甲11に記載のとおり。)。
(2) 無効審判に関する手続 無効審判請求日:平成15年8月8日(無効2003-35324号。請求人は訴外オムロン株式会社及びオムロンエンタテインメント株式会社であり,請求項1,3,4及び6に係る発明についての特許を無効とすることを求めたもの。) 訂正請求日:平成15年10月27日 審決日:平成16年8月12日 審決の結論:「訂正を認める。特許第3093286号の請求項1,3,4,6に記載された発明についての特許を無効とする。」 審決謄本送達日:平成16年8月24日(原告に対し) 審決取消訴訟の提起:平成16年9月22日(当庁平成17年(行ケ)第10331号事件。なお,同事件についても,本訴と同日に口頭弁論が終結され,本訴と同日に判決言渡期日が指定された。) (3) 本件手続 訂正審判請求日:平成16年11月20日(訂正2004-39265号。以下「本件訂正審判請求」という。) 審決日:平成17年5月25日 審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」 審決謄本送達日:平成17年6月6日(原告に対し) 2 本件訂正審判請求に係る特許請求の範囲の記載(甲7。以下,請求項番号に対応して,それぞれの発明を「訂正発明1」などといい,各発明を総称して「訂正発明」ということがある。本件で争われている請求項1,3,4,6のみを記載し,請求項2,5の記載は省略。なお,本件訂正審判請求は,請求項1,3,4,6を対象とするものであるが,請求項5が請求項4を引用していることから訂正の影響を間接的に受ける。しかし,請求項5については,審決において触れられておらず,本訴においても争われていない上,本件主張及び証拠に照らせば,原告は請求項5のみの訂正が認められることを求める趣旨ではないことが認められるので,本判決でも触れないこととする。)【請求項1】被撮影者が自ら動いている間,表示装置の表示映像を被撮影者自身にリアルタイムで視認させつつ前記被撮影者を撮影可能に配置した1つのカメラと,前記表示映像を印刷または印面などに再現する映像再現手段とからなり金銭投入スイッチにより作動するフォトブースにおいて,前記フォトブースには,前記1つのカメラにより同じ被撮影者の2回以上の撮影を行い,前記1つのカメラにより撮影した映像を一旦記憶する記憶部と,この記憶部に記憶した映像のうちから前記被撮影者により前記映像再現手段で再現することが決定された映像であって,前記記憶部への更なる書き換えがなくなった映像に対して追加補正を行う追加補正部とが備えられ,前記記憶部に記憶した2回以上の撮影により得られた映像を合成回路により合成可能に構成することを特徴とするフォトブース。
【請求項3】被撮影者が自ら動いている間,表示装置の表示映像を被撮影者自身にリアルタイムで視認させつつ前記被撮影者を撮影可能に配置した1つのカメラと,前記表示映像を印刷または印面などに再現する映像再現手段とからなり金銭投入スイッチにより作動するフォトブースであって,かつ,当該フォトブースはタイマーシャッタを備え,そのタイマーシャッタのシャッタタイミングは当該フォトブースからの音声によって被撮影者がタイミングを取れるフォトブースにおいて,前記フォトブースには,前記1つのカメラにより同じ被撮影者の2回以上の撮影を行い,前記1つのカメラにより撮影した映像を一旦記憶する記憶部と,この記憶部に記憶した映像のうちから前記タイマーシャッタの作動により前記映像再現手段で再現することが決定された映像であって,前記記憶部への更なる書き換えがなくなった映像に対して追加補正を行う追加補正部とが備えられ,前記記憶部に記憶した2回以上の撮影により得られた映像を合成回路により合成可能に構成することを特徴とするフォトブース。
【請求項4】表示装置の表示映像を被撮影者自身にリアルタイムで視認させつつ被撮影者の操作によりカメラで第1回目の被撮影者の撮影を行い,この撮影した映像を第1の映像処理部で一旦記憶し,次に,表示装置の表示映像を被撮影者自身にリアルタイムで視認させつつ被撮影者の操作により,前記第1回目の撮影を行ったカメラと同一のカメラで第2回目の被撮影者の撮影を行い,撮影した映像から人物映像だけを切り取り第2の映像処理部で記憶し,前記第1の映像処理部に記憶した映像に,第2の映像処理部に記憶した映像を上書きし,前記第1回目の被撮影者の撮影を行った映像と,第2回目の被撮影者の撮影を行った映像とを合成して表示装置に表示し,その後,被撮影者が前記表示装置に表示された合成画像を視認し,映像再現手段で再現する映像を決定することによって前記第2の映像処理部の記憶部への更なる書き換えがなくなってから,当該記憶部に記憶された映像電子情報に基づき追加補正を行い,それによって先に行った人物映像の切り取りの処理時間に比べて長い処理時間を取れるようにすることを特徴とするフォトブースにおける撮影方法。 【請求項6】表示装置の表示映像を被撮影者自身にリアルタイムで視認させつつ被撮影者の操作によりカメラで第1回目の被撮影者の撮影を行い,この撮影した映像を第1の映像処理部で一旦記憶し,次に,表示装置の表示映像を被撮影者自身にリアルタイムで視認させつつ,フォトブースからの音声によりシャッタタイミングを知らせ,被撮影者の操作により,前記第1回目の撮影を行ったカメラと同一のカメラで第2回目の被撮影者の撮影を行い,撮影した映像から人物映像だけを切り取り第2の映像処理部で記憶し,前記第1の映像処理部に記憶した映像に,第2の映像処理部に記憶した映像を上書きし,前記第1回目の被撮影者の撮影を行った映像と,第2回目の被撮影者の撮影を行った映像とを合成して表示装置に表示し,その後,被撮影者が前記表示装置に表示された合成映像を視認し映像再現手段で再現する映像を決定することによって前記第2の映像処理部の記憶部への更なる書き換えがなくなってから,当該記憶部に記憶された映像電子情報に基づき追加補正を行い,それによって先に行った人物映像の切り取りの処理時間に比べて長い処理時間を取れるようにすることを特徴とするフォトブースにおける撮影方法。
3 審決の理由の要点 (1) 審決は,本件訂正審判に係る訂正事項につき,特許請求の範囲減縮を目的とするもの又は明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当し,いずれも,願書に添付した明細書及び図面に記載された範囲内のものであり,実質的に特許請求の範囲拡張又は変更するものではないと判断した。
(2) 審決は,独立特許要件として,特許法29条2項に違反するか否かについての検討に入り,公知例として特表平4-506264号公報(審判甲1,本訴甲1。これに記載された発明を以下「甲1発明」という。),審判甲2ないし6(本訴甲2ないし6)などを摘示した上,以下のとおり,訂正発明について順次検討を加えた。
(3) 訂正発明1について (a) 審決は,訂正発明1と甲1発明との一致点を次のように認定した。
「被撮影者が自ら動いている間,表示装置の表示映像を被撮影者自身にリアルタイムで視認させつつ前記被撮影者を撮影可能に配置した1つのカメラと,前記表示映像を印刷または印面などに再現する映像再現手段とからなり金銭投入スイッチにより作動するフォトブースにおいて,前記フォトブースには,前記1つのカメラにより被撮影者の撮影を行い,前記1つのカメラにより撮影した映像を一旦記憶する記憶部と,前記記憶部に記憶した撮影により得られた映像を合成回路により合成可能に構成することを特徴とするフォトブース。」 (b) 審決は,訂正発明1と甲1発明との相違点を次のように認定した。
「相違点1 訂正発明1においては,カメラにより「同じ」被撮影者の「2回以上」の撮影を行い,また,2回以上の撮影により得られた映像を合成回路により合成可能に構成するのに対して,甲1発明ではそのようになされていない点。
相違点2 上記フォトブースには,訂正発明1においては,「記憶部に記憶した映像のうちから前記被撮影者により前記映像再現手段で再現することが決定された映像であって,前記記憶部への更なる書き換えがなくなった映像に対して追加補正を行う追加補正部」を備えているのに対して,甲1発明ではそれを備えていない点。」 (c) 審決は,上記相違点2について,次のように判断した(相違点1についての審決の判断については,原告が争わないので,記載を省略する。)。
「画像の合成処理に際し,追加補正を行うことは引用例を挙げるまでもなく必然的な要件であり,また,最終的に合成画像をプリント出力することがフォトブースの利用目的といえ,甲1発明において,プリントすべき画像が決定されると当該画像は書き換えられない状態になるのは明らかであるから,プリント出力すべき映像,即ち,記憶部に記憶した映像のうちから前記被撮影者により前記映像再現手段で再現することが決定された映像であって,前記記憶部への更なる書き換えがなくなった映像に対して追加補正を行うことは当業者が当然になし得ることである。」 (d) 審決は,相違点の判断として次の点を指摘した。
「そして,これらを総合的に検討しても,当業者が容易に推考し得るものであり,また,上記相違点に基づく訂正発明1の効果に格別顕著なものがあるともいえない。」 (4) 訂正発明3について (a) 審決は,訂正発明3と甲1発明との一致点を次のように認定した。
「被撮影者が自ら動いている間,表示装置の表示映像を被撮影者自身にリアルタイムで視認させつつ前記被撮影者を撮影可能に配置した1つのカメラと,前記表示映像を印刷または印面などに再現する映像再現手段とからなり金銭投入スイッチにより作動するフォトブースであって,かつ,当該フォトブースはタイマーシャッタを備え,被撮影者がタイミングを取れるフォトブースにおいて,前記フォトブースには,前記1つのカメラにより被撮影者の撮影を行い,前記1つのカメラにより撮影した映像を一旦記憶する記憶部と,前記記憶部に記憶した撮影により得られた映像を合成回路により合成可能に構成することを特徴とするフォトブース。」 (b) 審決は,訂正発明3と甲1発明との相違点を次のように認定した。
「相違点1 訂正発明3においては,上記1つのカメラにより,「同じ」被撮影者の「2回以上」の撮影を行い,また,2回以上の撮影により得られた映像を合成回路により合成可能に構成するのに対して,甲1発明ではそのようになされていない点。
相違点2 タイマーシャッタのシャッタタイミングは,訂正発明3においては,「音声によって」いるのに対して,甲1発明では,時計などの映像を表示して通告される点。
相違点3 前記フォトブースには,訂正発明3においては,「記憶部に記憶した映像のうちから前記タイマーシャッタの作動により前記被撮影者により前記映像再現手段で再現することが決定された映像であって,前記記憶部への更なる書き換えがなくなった映像に対して追加補正を行う追加補正部」を備えているのに対して,甲1発明ではそれを備えていない点。」 (c) 審決は,上記相違点3について,次のように判断した(相違点1,2についての審決の判断については,原告が争わないので,記載を省略する。)。
「画像の合成処理に際し,追加補正を行うことは引用例を挙げるまでもなく必然的な要件であり,また,最終的に合成画像をプリント出力することがフォトブースの利用目的といえ,甲1発明において,プリントすべき画像が決定されると当該画像は書き換えられない状態になるのは明らかであるから,プリント出力すべき映像,即ち,記憶部に記憶した映像のうちから前記タイマーシャッタの作動により前記被撮影者により前記映像再現手段で再現することが決定された映像であって,前記記憶部への更なる書き換えがなくなった映像に対して追加補正を行うことは当業者が当然になし得ることである。」 (d) 審決は,相違点の判断として次の点を指摘した。
「そして,これらを総合的に検討しても,当業者が容易に推考し得るものであり,また,上記相違点に基づく訂正発明3の効果に格別顕著なものがあるともいえない。」 (5) 訂正発明4について (a) 審決は,訂正発明4と甲1発明との一致点を次のように認定した。
「表示装置の表示映像を被撮影者自身にリアルタイムで視認させつつ被撮影者の操作により,カメラで被撮影者の撮影を行い,撮影した映像から人物像だけを切り取り,第1の映像に上書きし,前記第1の映像と,被撮影者の撮影を行った映像とを合成して,それぞれの映像を表示装置に表示し,その後,被撮影者が前記表示装置に表示された合成画像を視認し,映像再現手段で再現する映像を決定することを特徴とするフォトブースにおける撮影方法。」 (b) 審決は,訂正発明4と甲1発明との相違点を次のように認定した。
「相違点1 被撮影者の撮影に関し,訂正発明4では,同一のカメラで「第1回目」と「第2回目」の撮影を行っているのに対して,甲1ではそのようにしていない点。
相違点2 第1の映像が,訂正発明4においては,第1の映像処理部に記憶した第1回目の被撮影者の撮影映像であるのに対して,甲1発明では,予め記憶されている補助的画像である点。
相違点3 訂正発明4においては,(第2回目の)被撮影者の撮影映像から人物映像だけを切り取り映像処理部で記憶しているのに対して,甲1発明には,そのことが明記されていない点。
相違点4 訂正発明4では,「映像処理部の記憶部への更なる書き換えがなくなってから,当該記憶部に記憶された映像電子情報に基づき追加補正を行い,それによって先に行った人物映像の切り取りの処理時間に比べて長い処理時間を取れるようにする」構成であるのに対して,甲1発明ではそのような構成を備えていない点。」 (c) 審決は,上記相違点4について,次のように判断した(相違点1ないし3についての審決の判断については,原告が争わないので,記載を省略する。)。
「画像の合成処理に際し,追加補正を行うことは引用例を挙げるまでもなく必然的な要件であり,また,最終的に合成画像をプリント出力することがフォトブースの利用目的といえ,甲第1号証の発明において,プリントすべき画像が決定されると当該画像は書き換えられない状態になるのは明らかであるから,プリント出力すべき画像,即ち,映像処理部の記憶部へ更なる書き換えがなくなってから,当該記憶部に記憶された映像電子情報に基づき追加補正を行うことは当業者が当然になし得ることである。
なお,追加補正の処理時間をどの程度にするかは追加補正の処理方法に伴う設計的事項である。」 (d) 審決は,相違点の判断として次の点を指摘した。
「そして,これらを総合的に検討しても,当業者が容易に推考し得るものであり,上記相違点に基づく訂正発明4の効果に格別顕著なものがあるともいえない。」 (6) 訂正発明6について (a) 審決は,訂正発明6と甲1発明との一致点を次のように認定した。
「表示装置の表示映像を被撮影者自身にリアルタイムで視認させつつ,シャッタタイミングを知らせ,被撮影者の操作により,カメラで被撮影者の撮影を行い,撮影した映像から人物映像だけを切り取り,第1の映像に,上書きし,前記第1の映像と,被撮影者の撮影を行った映像とを合成して表示装置に表示し,その後,被撮影者が前記表示装置に表示された合成映像を視認し映像再現手段で再現する映像を決定するフォトブースにおける撮影方法。」 (b) 審決は,訂正発明6と甲1発明との相違点を次のように認定した。
「相違点1 被撮影者の撮影に関して,訂正発明6においては,同一のカメラにより,「第1回目」と「第2回目」の撮影を行うのに対して,甲1発明ではそのようになされていない点。
相違点2 訂正発明6では,上記第1の映像は,カメラで撮影された被撮影者の第1回目の撮影映像を一旦記憶した映像処理部の映像であるのに対して,甲1では,補助的画像である点。
相違点3 タイマーシャッタのシャッタタイミングは,訂正発明6においては,「音声によって知らせて」いるのに対して,甲1発明では,時計などの映像を表示して通告される点。
相違点4 訂正発明6においては,(第2回目の)撮影映像から人物映像だけを切り取り第2の映像処理部で記憶するのに対して,甲1発明では,そのことが明記されていない点。
相違点5 訂正発明6においては,「映像処理部の記憶部への更なる書き換えがなくなってから,当該記憶部に記憶された映像電子情報に基づき追加補正を行い,それによって先に行った人物映像の切り取りの処理時間に比べて長い処理時間を取れるようにしているのに対して,甲1発明ではそのようにされていない点。」 (c) 審決は,上記相違点5について,次のように判断した(相違点1ないし4についての審決の判断については,原告が争わないので,記載を省略する。)。
「画像の合成処理に際し,追加補正を行うことは引用例を挙げるまでもなく必然的な要件であり,また,最終的に合成画像をプリント出力することがフォトブースの利用目的といえ,甲1発明において,プリントすべき画像が決定されると当該画像は書き換えられない状態になるのは明らかであるから,プリント出力すべき画像,即ち,映像処理部の記憶部への更なる書き換えがなくなってから,当該記憶部に記憶された映像電子情報に基づき追加補正を行うことは当業者が当然になし得ることである。
なお,追加補正の処理時間をどの程度にするかは追加補正の処理方法に伴う設計的事項である。」 (d) 審決は,相違点の判断として次の点を指摘した。
「そして,これらを総合的に検討しても,当業者が容易に推考し得るものであり,上記相違点に基づく訂正発明6の効果に格別顕著なものがあるともいえない。」 (7) 審決は,請求人(原告)の主張に対して,次のとおり説示した。(なお,審決は,(1)〜(3)と表記しているが,混同を避けるため,(@)〜(B)に書き換えて,また,審決の「刊行物1」との記載は「甲1」のことと解されるので,「甲1」に改めた上,引用する。) 「請求人は,…以下の点を主張している。
(@)無効審判における甲号証及び参考資料に記載の「補正」と,訂正発明の「追加補正」とは,異なる概念である。
(A)甲1には,「プリントすべき画像が決定されると,プリント出力される」という技術思想しか開示されておらず,「書き換えられない状態になる」という点の開示や示唆はない。
(B)甲号証及び参考資料には,「更なる書き換えが無くなった映像」に対し追加補正を行うという記載・示唆がなく,訂正発明では,「映像再現手段で再現することが決定された映像」に対し追加補正を行う。
しかしながら, (@)については,いずれも補正には相違なく,また,本件特許明細書の段落【0088】【0091】を参酌しても,追加補正とは,輪郭補正,色補正であるから,甲号証及び参考資料のものと格別変わりないものといえるし,(A)については,甲1には,「肖像と背景もしくは前景画像との複合画像が決定されてから…さらに他の背景複合画像のプリントを要求し,あるいは例えば肖像の引伸ばしプリントを要求することができる。」(6頁右下欄22行ないし7頁左上欄3行)という記載からして,甲1のものは,肖像の方は決定のままで背景のみが変更されるものと解されるし,決定された肖像に対して引伸ばしプリントが要求できるものと解されるから,結局,合成時には(肖像は)決定のまま書き換えられない状態といえ,また,(B)については,合成時に適宜補正することは,常套であり技術常識といえる。
よって,請求人の上記主張は採用できない。」 (8) 審決は,次のとおり結論付けた。
「以上のとおりであるから,訂正発明1,3,4,6は,甲1ないし6に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。よって,訂正発明1,3,4,6は,特許法29条2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。したがって,本件訂正審判の請求は,特許法126条4項の規定に適合しない。」
原告の主張(審決取消事由)の要点
原告の審決取消事由の主張は,要するに,審決の相違点の判断に誤りがあるということに尽きるが,原告は,以下のとおり,審決の判断に誤りがあるとする部分ごとに取消事由として主張するものである。
1 取消事由1(「追加補正」に関する認定判断の誤りによる進歩性判断の誤り=訂正発明1,3,4,6についての取消事由) 「追加補正」と「補正」との相違について,「追加」という用語は,「後から増し加えること。また,その加えられたもの」を意味する(広辞苑第5版(甲8))。
訂正発明の「追加補正」についても,「補正」とは別に後から増し加えられた「補正」,すなわち「追加補正」を行うことを発明の要旨としており,かかる「追加補正」は,被撮影者が再現しようと決定した映像に対してのみに行い,映像再現手段における再現のための仕上げの補正であって,再現が決定されなかった映像に対しては行われないものである。
特許請求の範囲に「追加補正」という文言が記載されている以上,「追加補正」はもとより,その前提となる「補正」についての記載があるものと客観的に読み取ることができる。
また,「追加補正」を特許請求の範囲に規定し,その前提となる「補正」を明確に規定しなかったのは,原告が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載すればよいとの特許法36条5項の規定に基づき,「追加補正」を本件明細書段落【0088】〜【0091】等によるサポートの下で特許請求の範囲に規定し,その前提となる「補正」を本件明細書段落【0082】,【0089】〜【0091】に記載したものであるから,訂正発明の要旨である「追加補正」のみを規定することで,明細書に十分なサポートがなされている「補正」と「追加補正」の意義を導き出すことが客観的に可能だからである。
なお,「追加補正」の記載からは,やはり「補正」については記載がないと判断されるとしても,特許請求の範囲には,「補正」が規定されているに等しいと解釈することが可能である。すなわち,「補正」が必然的な要件であるとの技術常識の下では,特許請求の範囲に敢えて「補正」を規定しなくとも,訂正発明に規定された特許請求の範囲の文言から,「補正」が規定されているに等しいと解釈することは可能である。本件明細書の段落【0085】,【0086】などの記載に照らしても,このように解釈することができる。
本件明細書の段落【0089】,【0082】の記載からもわかるように,背景除去コントローラ31による背景抜きに際しては,一般的に周知なクロマキー法を用いることは記載されており,クロマキー法については,合成画像の違和感を低減するための補正が必然的に行われるものである。したがって,「前記記憶部への更なる書き換えがなくなった映像」を形成する際に,合成画像の違和感を低減するための補正(1回目の補正)が行われることは自明である。訂正発明の「追加補正」は,上記の「前記記憶部への更なる書き換えがなくなった映像」に対して行われる補正である。このように,本件明細書においても,「追加補正」とは,1回目の補正を施した通常の合成画像に対してさらに追加的に行う補正ことであることが示唆ないし開示されている。
しかし,審決は,訂正発明の「追加補正」は,「補正」と相違はないとして(前記第2,3(7)の(@)の判断),訂正発明1の相違点2についての判断,訂正発明3の相違点3についての判断,訂正発明4の相違点4についての判断,及び訂正発明6の相違点5についての判断において,いずれも,「画像の合成処理に際し,追加補正を行うことは引用例を挙げるまでもなく必然的な要件である」(同(3)(c),(4)(c),(5)(c),(6)(c))と判断したものであって,誤りである。
2 取消事由2(「書き換えられない状態」に関する認定判断の誤りによる進歩性判断の誤り=訂正発明1,3,4,6についての取消事由) 審決が援用する甲1の記載(6頁右下欄22行目〜7頁左上欄3行目)は,「複合画像が決定されてからプリント作成までの間に,使用者はさらに他の選択を行う」として,「複合画像が決定されて,プリント作成」を行いつつも,「他の選択」によって「別の複合画像が決定されて,プリント作成」を行うという意味としてとらえることができ,結局は,「プリントすべき画像が決定されると,プリント出力される」ということが記載されているだけであって,「書き換えられない状態になる」という点の開示や示唆にはならず,審決の説示するところは,単なる推測としてしかとらえることができないものである。
しかし,審決は,上記の記載から,「肖像の方は決定のままで背景のみが変更されるものと解されるし,決定された肖像に対して引伸ばしプリントが要求できるものと解されるから,結局,合成時には(肖像は)決定のまま書き換えられない状態といえ」と判断して(前記第2,3(7)の(A)の判断),訂正発明1の相違点2についての判断,訂正発明3の相違点3についての判断,訂正発明4の相違点4についての判断,及び訂正発明6の相違点5についての判断において,いずれも,「甲1発明において,プリントすべき画像が決定されると当該画像は書き換えられない状態になるのは明らか」(同(3)(c),(4)(c),(5)(c),(6)(c))と判断したものであって,誤りである。
3 取消事由3(「追加補正」を行う対象とタイミングに関する認定判断の誤りによる進歩性判断の誤り=訂正発明1,3,4,6についての取消事由) 訂正発明1,3における追加補正を行う対象となる「プリント出力すべき映像」については,訂正発明の効果を奏するために追加補正の対象が必然的に導かれるようなものではなく,追加補正の対象が,本件特許出願当時に当業者に周知の技術的事項であったとも考えられない。
また,訂正発明4,6における追加補正を行うタイミングとなる「前記第1回目の被撮影者の撮影を行った映像と,第2回目の被撮影者の撮影を行った映像とを合成して表示装置に表示し,その後,被撮影者が前記表示装置に表示された合成画像を視認し,映像再現手段で再現する映像を決定することによって前記第2の映像処理部の記憶部への更なる書き換えがなくなってから,当該記憶部に記憶された映像電子情報に基づき追加補正を行い」については,訂正発明の効果を奏するために追加補正のタイミングが必然的に導かれるようなものではなく,追加補正のタイミングが,本件特許出願当時に当業者に周知の技術的事項であったとも考えられない。
さらに,本件特許出願当時の技術常識からすれば,追加補正された後のものが「プリント出力すべき映像」になるのが通常であって,訂正発明4,6のように「プリント出力すべき映像」が追加補正を行う対象になるということを当業者が容易に想到し得るものではない。
しかし,審決は,「合成時に適宜補正することは,常套であり技術常識といえる」として(前記第2,3(7)の(B)の判断),訂正発明1の相違点2及び訂正発明3の相違点3について(同),それぞれ,「プリント出力すべき映像,…に対して追加補正を行うことは当業者が当然になし得ること」と判断し(同(3)(c),(4)(c)),訂正発明4の相違点4及び訂正発明6の相違点5についても,それぞれ同旨の判断をした(同(5)(c),(6)(c))ものであって,誤りである。
4 取消事由4(訂正発明特有の効果の看過による進歩性判断の誤り=訂正発明1,3,4,6についての取消事由) 訂正発明と甲1発明の大きく異なる点が,映像を処理する際に追加補正が行われるか否かにあることは,原告及び被告の共通認識である。
訂正発明が有する追加補正によれば,製造コストの低廉化を図る一方で,より良い品質の映像が再現されたシートの提供とそのための機能アップとを図らなければならないという,相反する課題(本件明細書段落【0086】〜【0090】)を解消できる。これに対し,甲1発明は,上記の追加補正を行うための要素を有していないので,上記の相反する課題を解消することができない。
このように,訂正発明は,追加補正に伴う上記の特有の効果を奏するのにもかかわらず,審決は,訂正発明1の相違点2についての判断,訂正発明3の相違点3についての判断,訂正発明4の相違点4についての判断,及び訂正発明6の相違点5についての判断において,前記1ないし3で指摘した判断(前記第2,3(3)(c),(4)(c),(5)(c),(6)(c))をしたものであって,相違点の判断を誤っている。
5 取消事由5(「追加補正の処理時間」に関する認定判断の誤りによる進歩性判断の誤り=訂正発明4,6についての取消事由) 訂正発明4,6と甲1発明とが大きく異なる点が,映像を処理する際に追加補正が行われるか否かにあって,追加補正によって先に行った人物映像の切り取りの処理時間に比べて長い処理時間を取れるようにすることにあるのは,原告及び被告の共通認識である。
「設計変更であるか否かの問題は,その目的のために具体的に如何なる構造を採用したのか,それが具体的に如何なる点で至便であるという効果をもたらし得たかの点からみる必要があり,その構造と効果とが機能的に結合されているかぎり,これを設計上の問題ということはできない。」(東京高判昭和44年3月25日・同昭和40年(行ケ)第24号)というべきである。
訂正発明では,「追加補正」を採用したことに伴い「先に行った人物映像の切り取りの処理時間に比べて長い処理時間を取れるようにする」という効果をもたらすことから,その構造と効果とが機能的に結合されていることは特許請求の範囲上明確である。
しかし,審決は,訂正発明4の相違点4についての判断及び訂正発明6の相違点5についての判断において,「追加補正の処理時間をどの程度にするかは追加補正の処理方法に伴う設計的事項である。」(前記第2,3(5)(c),(6)(c)の「なお」以下。)と判断したものであって,誤りである。
6 取消事由6(商業的成功を考慮しなかったことによる進歩性判断の誤り=訂正発明1,3,4,6についての取消事由) 本件発明者等は,プリントマシンにおける画面表示よりもプリントアウト画像を重視した(すなわち,少なくともプリント結果を良くするための)機能アップ,つまり「追加補正を行う」ことを着想して,そこに研究開発コストをかけるようにした。その結果,プリントマシンは,ゲームセンターのみならず,ホテル・旅館などの宿泊施設,スーパーマーケット,本屋,ファミコンショップ,カラオケボックス,飲食店などからも引き合いがあるようになり,その販路が拡大していった。訂正発明の構成を採用した実施品によって商業的な成功を収めているのであるから,このような事情をふまえて進歩性の存在を肯定する判断をすべきである。
訂正発明では,「追加補正を行うに当たって十分に長い映像処理時間が取れることができるようにして,簡略化した計算による映像処理であっても再現された映像の違和感を少なくすることで,上記カ)の効果を発するに至った。」というものであるのに対して,本件証拠のいずれにも,上記の発明の動機付け及び技術的思想は一切存在しておらず,そのための具体的手段も一切記載されていない。よって,当業者といえども本件証拠に基づいて訂正発明を容易に想到し得るものではない。
しかし,審決は,既に指摘した誤りがある下で,訂正発明1,3,4,6の相違点についての総括的な判断部分において,訂正発明は当業者が容易に推考し得るものであり,上記相違点に基づく訂正発明の効果に格別顕著なものがあるともいえないなどと判断したものであって(前記第2,3(3)(d),(4)(d),(5)(d),(6)(d)),進歩性を誤ったものである。
被告の主張の要点
1 取消事由1に対して 原告の主張は,「訂正発明でいう『追加補正』は,『補正』とは別に,後から増し加えられる補正である。」ということを前提に,「(原告が主張する意味での)『追加補正』は必然的な要件とはいえないから,それを必然的な要件であるとした審決の判断は誤りである。」といった趣旨のことを主張するものと解されるが,訂正発明でいう「追加補正」を上記原告主張の意味に解することはできないし,審決も,上記原告主張の意味における「追加補正」が必然的な要件であると判断しているわけではないから,失当である。
特許請求の範囲はもとより,発明の詳細な説明の欄にも,「追加補正」とは別の「補正」については何ら記載がないこと,「追加補正」なる文言は,「映像(画像)に補正を後から増し加える」ことを意味するとも解され,そのように解しても,本件明細書(全文訂正明細書も同じ)の記載とも,原告が挙げる広辞苑における「追加」の意味とも何ら矛盾しないことなどを勘案すれば,訂正発明でいう「追加補正」は,「映像(画像)に補正を後から増し加える」の意味に解するのが妥当であり,審決も,その意味における「追加補正」が必然的な要件であると判断したものである。審決の判断に誤りはない。
2 取消事由2に対して 刊行物1には,「肖像と背景もしくは前景画像との複合画像が決定されてから…例えば肖像の引伸ばしプリントを要求することができる。」という記載があり,刊行物1のものは,少なくとも決定された肖像に対して引き伸ばしプリントが要求できるものと解するのが自然である。してみると,少なくとも,決定されてから引き伸ばし処理までの間は,肖像自体のデータは維持されていると解されるので,書き換えられることはなく,前記決定した肖像を引き伸ばし処理してプリントするものと解するのが自然である。してみれば,「書き換えられない状態」についての示唆があるといえる。また,仮に原告のいうように「『プリントすべき画像が決定されると,プリント出力される』ということが記載されているだけ」であったとしても,プリントすべき画像が決定されてから,プリント出力されるまでの間に前記決定された画像が「書き換えられ」てはいけないことは技術常識であるから,実質的に「書き換えられない状態」となっていると解するのが自然である。してみると,上記いずれにしても,「書き換えられない状態」については示唆があるといえるから,「プリントすべき画像が決定されると当該画像が書き換えられない状態になるのは明らかである」とした審決の判断に誤りはない。
3 取消事由3に対して 審決の判断に誤りはない。
(1) 「追加補正」の対象を訂正発明のようにすることが容易である旨の審決の判断は正しい。
本件明細書の段落【0088】,【0090】等の記載によれば,訂正発明でいう「追加補正」は,具体的には,合成画像の違和感を低減するための輪郭補正や色補正等を指すものと解される(特許請求の範囲には「追加補正」をそのような補正に限定する旨の記載がないので,訂正発明でいう「追加補正」はそのような補正には限定されないとも解される。そして,そのように解した場合には,刊行物1(甲1)の第3頁右下欄や第6頁右下〜第7頁左上欄等に記載されたプリント前の調整や変形,引き延ばし等もこれに含まれることになるので,訂正発明1についての相違点2と訂正発明3についての相違点3は,本来の相違点ではなかったということになり,検討するまでもなく本論点に関する審決の違法性は阻却される。しかし,ここでは,上記のように限定的に解釈し,そのように限定的に解釈した場合であってもなお審決の判断は正しいといえることについて説明する。)。
そして,そのような合成画像の違和感を低減するための輪郭補正や色補正等は,本件に係る無効審判において提示された参考資料1,3,7(乙1,2,3)にあるような常套のものであり,合成処理に際しての必然的な処理ともいえるものである(審決でいう「必然的要件」はこのことである。)。
以上の事実に,「画像をプリント出力することがフォトブースの利用目的である」という事実を併せ考えれば,刊行物1(甲1)記載のフォトブースに「2回以上の撮影により得られた映像を合成回路により合成可能にする」という構成を付加したもの(容易であることに争いがない,審決で取り上げた相違点1を克服したもの)においては,プリント対象として決定された画像に対してそのような補正(追加補正)を施すことは,当業者が当然に考慮することといえる。そして,プリント対象として決定された画像を「映像再現手段で再現することが決定された映像であって,記憶部への更なる書き換えがなくなった映像」とすることは,単なる設計事項にすぎない。
この点に関し,原告は,「本件特許出願当時の技術常識からすれば,追加補正された後のものが『プリント出力すべき映像』になるのが通常であって,『プリント出力すべき映像』が追加補正を行う対象になるということを当業者が容易に想到し得るものではない。」旨の主張もしている。しかしながら,一般に,記憶部に記憶したデータに所要の補正を施してプリント出力する際,最終的にどの段階のものを記憶データとして残すかは,補正が可逆的か否か,どの段階のデータが再利用される可能性が高いか,等の事情を考慮して当業者が適宜決定すべき設計事項であり,「追加補正も含めた最終的補正が終了した後の映像を記憶部へ記憶し,それをプリント出力するのが通常である」などとはいえない。したがって上記原告主張も失当である。「記憶部への更なる書き換えがなくなった映像に対して追加補正を行う」ようにすることも当業者には容易である。
以上によれば,訂正発明1,3のように「映像再現手段で再現することが決定された映像であって,前記記憶部への更なる書き換えがなくなった映像に対して追加補正を行う」ようにすることが容易であったことは明らかである。
(2) 「追加補正」のタイミングを訂正発明のようにすることが容易である旨の審決の判断は正しい。
「追加補正」の対象が「映像再現手段で再現することが決定された映像であって,記憶部への更なる書き換えがなくなった映像」である場合には,「追加補正」のタイミングは,必然的に,「映像再現手段で再現する映像を決定することによって,記憶部への更なる書き換えがなくなってから」になる。したがって,「追加補正」の対象を訂正発明のようにすることが容易であるといえる以上,「追加補正」のタイミングを訂正発明のようにすることも容易であるといえる。
なお,訂正発明4,6では,「第2の映像処理部の記憶部(合成前の映像を記憶した記憶部)に記憶された映像電子情報に基づき追加補正を行う」ことも規定されているが,そのようにすることは,合成画像の違和感を低減するという「追加補正」の目的に照らせば当然のことである。このことは,本件に係る無効審判において提示された参考資料8,9(乙4,5)にも示されるように,「合成前の映像をそれぞれ記憶部に記憶して合成すること」が常套であるという事実によっても裏付けられる。
4 取消事由4に対して 製造コストの低廉化を図る一方でより良い品質の映像が再現されたシートの提供とそのための機能アップとを図るという相反する課題の,追加補正による解消という効果については,本件明細書に記載されておらず,本件明細書の記載に基づかない主張である。また,上記原告主張に係る訂正発明の効果は,甲1発明から当業者が容易に想到し得たものが当然に奏し得る効果にすぎないものでもある。
5 取消事由5に対して 訂正発明4,6が,原告がいう「追加補正」すなわち,「映像処理部の記憶部への更なる書き換えがなくなってから,当該記憶部に記憶された映像電子情報に基づき追加補正を行い」という発明特定事項を採用することで,「先に行った人物映像の切り取りの処理に比べて長い処理時間を取れるようにする」という効果をもたらすものであることは,被告も特に争うものではないが,そのことは,「なお,追加補正の処理時間をどの程度にするかは追加補正の処理方法に伴う設計的事項である。」とした審決の判断が誤っていることを何ら意味しないから,ここでの原告主張も失当である。追加加補正処理は,プリント作成に先だって行われるものであるから,前記追加補正処理中は,プリント作成を行うことができずユーザを待たせることになる。一方,この手の遊技機製品としては,プレー時間は重要な解決課題であることを考慮すれば,追加補正の処理時間が長いといってもユーザを必要以上に待たせない程度の時間が選択されるはずなのであり,処理方法にかかる処理時間とユーザ待ち時間との相克の下に,実際の処理時間が処理方法に付随して設計上決定されるものと解される。してみると,「追加補正の処理時間をどの程度にするかは追加補正の処理方法に伴う設計的事項である」といえる。
6 取消事由6に対して 原告のいう効果は技術的効果ではなく,訂正発明の進歩性を肯定する根拠とはなり得ない。たとえ原告が主張するような商業的な成功が事実であったとしても,訂正発明の構成が容易に想到できたものである以上,訂正発明の進歩性は否定されるのであり,審決の判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(「追加補正」に関する認定判断の誤りによる進歩性判断の誤り=訂正発明1,3,4,6についての取消事由)について (1) 本件では,訂正発明の要旨認定,特に,「追加補正」の意義が争われているので,この点から検討する。
(2) 証拠(甲7,10,11)及び弁論の全趣旨によれば,本件特許査定の段階では,特許請求の範囲には,「補正」はもとより,「追加補正」という構成要件は存在せず,発明の詳細な説明中の「(実施の形態1)」の説明において,「追加補正部」,「追加補正」との記載がみられること(甲10の段落【0087】〜【0091】),前記の異議審における平成13年10月9日付けの手続補正によって,特許請求の範囲に「追加補正部」,「追加補正」との構成要件が追加されたが,「補正」という構成要件は依然として記載がないこと(甲11),その限りでは,本件訂正請求においても同様の状況にあること(甲7)が認められる。
(3) 「追加補正」の一般的な意義について検討すると,広辞苑第5版(甲8)の定義にかんがみれば,日常的な用語として「追加○○」といった場合には,「○○」と同一ないし同質のものが既にあって,これに「○○」を後から増し加えることを意味するのが通常であろうと解される。もっとも,被告が主張するような意味に使われる余地も想定し得ないではなく,いずれにしても,訂正発明の特許請求の範囲の記載(前記第2,2)における記載によるだけでは,記載はないものの「(1回目の)補正」が先行して存在し,それに「追加補正」がされるものであると,一義的に確定することは困難である。
(4) そこで,発明の詳細な説明欄の記載をも参酌すべきことになる。本件訂正明細書(甲7)において,「補正」ないし「追加補正」の記載(この部分に下線を付した。)がある段落は,以下のとおりである。また,原告は,背景除去コントローラ31による背景抜きに際してのクロマキー法を用いる際に合成画像の違和感を低減するための補正が必然的に行われるとの主張もするので,これに関係する記載も挙げておくと,以下のとおりである。
(a) 「さらに,別の発明では,前記映像処理部の少なくとも1つには,背景除去コントローラを有し,この背景除去コントローラによって,前記カメラで撮影した映像から背景を切り取り人物映像のみを残し記憶するように構成することを特徴としている。」(【0013】) (b) 「フォトブースシステムの少なくとも1つには,背景除去コントローラによって背景を除去された人物映像だけが記憶されるから,他のフォトブースシステムで記憶された映像を合成する場合,他のフォトブースシステムで撮影された映像を背景として人物映像が溶け込んだ映像を作成することができる。また,背景を除去された人物映像を他の映像に上書きする簡単な制御で合成映像が作成可能となる。」(【0014】) (c) 「(実施の態様1)」(【0048】【発明の実施の形態】) (d) 「前記第2の映像処理部30は,カメラJで撮影された映像をA/Dコンバータ15によりA/D変換し,この変換した映像電子情報から人物映像だけを残し背景を切り取る背景除去コントローラ31と,この背景除去コントローラ31によって切り取られた人物映像の電子情報のみを記憶する第2の記憶部32とから構成されている。」(【0081】) (e) 「前記背景除去コントローラ31によって行われる背景除去は,一般的に周知なクロマキー法を用い,このクロマキー法を行うために,第3図の背景カーテンKのカメラJでの撮影される面はブルー色としている。このようにブルー色としたのは,クロマキー法が色調の変化を検出して切り取りを行う方法であり,一般的に知られるように人間の肌色と最も色調が明確に検出できるのがブルーと言われているからで,このブルー色に限らずクロマキー法により人物映像を切り取ることができれば他の色に変更しても良いのは勿論である。」(【0082】) (f) 「第2の記憶部32には,フィールドメモリを採用しており,前記背景コントローラ31によって一画面(第2の記憶部32のメモリ領域)を1/60秒でブルーの単色背景部位を切り取りながらラスタ走査順各ピクセルごとに書き込まれると共に,書き込まれた前記ピクセルごとの映像電子情報は一画面分を1/60秒で合成回路50に送られ,他の背景や前景と合成されて前記表示画面G1に表示される。このように1/60秒で背景の切り取りを行うようにしているのは,前述したように先に固定した背景や前景に被撮影者が自ら動いて位置決めを行わせるようにしているため,リアルタイムで背景を切り取り表示させる必要があるからである。」(【0085】) (g) 「しかしながら,このような人間の目で見て違和感のない画面の書き換えを行う1/60とか1/50秒とかの短時間では,違和感なく背景を切り取ることは非常に難しい。すなわち,1/50とか1/60秒とかのリアルタイムで違和感なく背景を切り取るためには,その切り取りに複雑な計算を要するため,非常に処理速度の早い高価な計算機を必要とするなど問題がある。したがって,リアルタイムで表示画面G1に表示させるため,短時間で処理を終了させようと前述した複雑な計算の幾つかを簡略化した計算で間に合わせるしかない。しかしながら,このような簡略化した計算処理での背景抜きを行った場合には,抜き取られた人物映像の輪郭がギザギザで,明らかに背景を抜いた人物映像を他の背景等に合成したことが人目で明らかに分かってしまう問題がある。」(【0086】) (h) 「そこで,本形態の更に好ましい例として,図1の点線で示す追加補正部33を設けること良い。この追加補正部は第2の記憶部32と入力側と出力側にそれぞれ接続され,被撮影者が第2回目の撮影映像を固定し,第2の記憶部32への更なる書き換えがなくなってから,第2の記憶部32に記憶された映像電子情報に基づき追加補正を行う。」(【0087】) (i) 「この追加補正は,先に行った背景の切り取りの処理時間1/60秒に比べて十分長い処理時間を取ることができるから,人物映像の輪郭のギザギザの違和感を少なくする。あるいは,隣接するピクセルの色調を比較し,誤って前述した背景抜き時に抜いてしまった可能性のあるピクセルを色補正する。この補正 は隣り合うピクセルを考慮して補間処理を行うなどの追加処理を行い,再度,前記2の記憶部32に戻し記憶させる。」(【0088】) (j) 「つまり,この好ましい例では,前記背景除去コントローラ31で簡単な計算による背景抜きを行い表示画面G1にリアルタイムで表示させ,使用者に対し切り取られた人物映像の位置決めを行わせ,位置決めが終了した後に,前記第2の記憶部32の映像電子情報を基に追加補正部33により更なる計算を施す追加補正 を行い,第2の記憶部32に戻すようにしている。この第2の記憶部32に記憶される電子情報は,画面G1に表示しても違和感の少ない背景抜きした人物映像に処理されている。
また,53はプリンタコントローラであって,前記制御部51の命令により,合成回路から送られる映像データをプリンタで再現するための制御を行う。」(【0089】) (k) 「このように背景除去コントローラ31によってカメラJで撮影した映像から人物映像を簡単な計算で仮抜きした映像でリアルタイムに画面G1に表示させるようにしているから,背景や前景に被撮影者たる使用者が自ら動いて位置合わせすることが可能で,且つ,追加補正部33により仮抜きした人物映像を追加補正 するようにしているから,最終的にプリンタなどの映像再現手段で印刷物などに再現される場合には,違和感の少ない人物映像をして再現されるといったメリットがある。」(【0090】) (l) 「前記背景除去コントローラ31で行う簡略化された計算とは,ラスタ走査順に隣り合うピクセル色との比較を行い,カーテンKの色であるブルーから人物の顔の色(肌色)との色調の変化を見ながら人物映像の輪郭を抽出し,背景を切り取るといった計算が考えられる。また,違和感のないような追加補正を行うとは,前述した補正のほか,輪郭のぼかしや輪郭の強調,合成回路50で合成する前景や背景とのコントラストと比較し,合成した場合にコントラストでの違和感が生じることを低減する補正を行うなどが考えられる。」(【0091】) (m) 「前記第1の記憶部20は,カメラJで撮影した第1回目の撮影映像を記憶する第1の記憶部21のみから構成されている。しかしながらこのような構成に限らず前記背景除去コントローラ31を設けて,ここでも他の被撮影者の人物映像だけを切り取り前記第1の記憶部21に記憶させ,前記ロジック映像発生回路40から抽出した背景に,第1の記憶部21と第2の記憶部32に記憶された2人の人物映像を重ね書きした合成映像を作成できるように構成することも可能である。」(【0092】) (5) 上記記載によれば,訂正発明の「追加補正」は,被撮影者が再現しようと決定した映像に対してのみに行う(再現が決定されなかった映像に対しては行われない)ものであって,映像再現手段における再現のための仕上げの補正であり,最終的にプリンタで印刷物などに再現される合成された映像データに対して行う,輪郭補正等の補正からなる追加処理を意味するものと解される。
そして,画像の合成処理に際し,「補正」を行うことが必然的な要件であることや,最終的に合成画像をプリント出力することがフォトブースの利用目的であることは明らかであるところ,プリント出力する映像に対する補正は,最終的にプリント出力するまでに行えばよく,フォトブースにおける合成処理のどの段階で行うかは,当業者が必要に応じて適宜決定し得る設計事項と認められる。
したがって,最終的にプリント出力すべき映像が確定した段階だけで,輪郭補正等の補正を行うようにすること,すなわち,訂正発明にいう上記「追加補正」をすることに困難性はないというべきである。結局,訂正発明の「追加補正」は,画像の合成処理に際し必然的に行う「補正」を,最終的にプリント出力すべき映像が確定した段階だけで行うようにしたものであると認められる。よって,審決が「画像の合成処理に際し,追加補正を行うことは引用例を挙げるまでもなく必然的な要件」であるとした認定判断は,是認し得るものである。
(6) 原告は,1回目の補正が行われることは自明であり,本件明細書においても,「追加補正」とは,1回目の補正を施した通常の合成画像に対してさらに追加的に行う補正のことであることが示唆ないし開示されている旨主張する。
(a) しかし,上記(4)の明細書の記載によれば,「背景除去コントローラ」は,映像から背景を切り取り,人物映像を残す処理のみを行うものであり,背景の切り取りに際しては,(原告が主張する1回目の)「補正」は行われていないと理解するほかない。上記記載によれば,背景除去コントローラ31による背景抜きにおいてクロマキー法が用いられることとされているものの,その処理の際に補正が行われていることを認め得る記載は存在しない上,本件全証拠によって技術常識を検討しても,クロマキー法による処理の際に補正を行うことが多いであろうことはうかがえるものの,クロマキー法による処理の際に補正を行うことが技術的に不可欠であると認めることはできないし,その際に補正を行わずに後の段階で補正を行うこととしても,技術常識に反するものとは認められない。
結局,上記明細書の記載によれば,訂正発明では,背景除去時においては補正を行わず,最終的にプリント出力すべき映像が確定した段階においてのみ,輪郭補正等の補正からなる(訂正発明にいう)「追加補正」を行っているものであり,訂正発明では,「追加補正」と区別される「補正」は,行われていないと理解せざるを得ない。
(b) 「追加」という用語の意味との整合性という観点から補足して説明しておく。
(b-1) 前記(4)のうち「追加補正」を説明した段落【0088】の文脈を追うと,「追加補正」は,「先に行った背景の切り取りの処理」の結果に対して,「色補正する」ものであり,「この補正は隣り合うピクセルを考慮して補間処理を行うなどの追加処理を行い」とされている。すなわち,補正の具体例として「色補正」が挙げられ,その「補正」は,補間処理などの「追加処理」というのであり,「追加」というのは,いみじくも「追加処理」と明記されているように,「補正」を含む上位概念としての「処理」のレベルでみて「追加」というものであることが認められる。すなわち,「先に補正が行われたものに補正が追加される」ということが記載されているわけではなく,「先に処理が行われたものに補正という処理が追加される」ということが記載されているものと理解される。
(b-2) 同様に段落【0089】の文脈を追うと,「背景除去コントローラ31で簡単な計算による背景抜きを行い…」,「追加補正部33により更なる計算を施す追加補正を行い」とされている。ここでは,「簡単な計算による背景抜き」という処理が先行し(ここで「補正」が行われるとは記載されていない。),「更なる計算を施す」という処理が追加されることが記載されていると理解されるのであり,この「更なる計算を施す」ことを「追加補正」と称していることが明らかである。ここでも,「処理」のレベルでみて「追加」というものであることが認められる。
(b-3) 段落【0090】では,「背景除去コントローラ31によって…人物影像を簡単な計算で仮抜きした映像…」,「追加補正部33により仮抜きした人物映像を追加補正するようにしているから,…違和感の少ない人物映像…」とされているが,上記(b-1)及び(b-2)で指摘したことと平仄が合っている。
(b-4) 段落【0091】では,「背景除去コントローラ31で行う簡略化された計算とは」として,その計算の具体例が挙げられ,「違和感のないような追加補正を行うとは」として,既に記載されたもののほかに考えられる補正の例が挙げられているが,上記(b-1)及び(b-2)で指摘したことと平仄が合っている。
(b-5) 前判示のとおり,特許請求の範囲に記載された「追加補正」は,上記の明細書の記載に根拠をおくものと解されるが,特許請求の範囲はもとより発明の詳細な説明欄においても,先行する補正(1回目の補正)が存在することは記載されていないのみならず,明細書の記載を子細に検討すると,「追加」というのは,「補正」を含む上位概念としての「処理」のレベルでみて「追加」というものであることが認められる。したがって,「追加」という用語の意味を前記(3)に記載した通常の意味として解しても,前記(5)のように理解することは,何ら矛盾するものではないというべきである。
(7) 原告が前記第3,1において主張する点は,既に判示したところに照らし,いずれも採用し得ないものであり,取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(「書き換えられない状態」に関する認定判断の誤りによる進歩性判断の誤り=訂正発明1,3,4,6についての取消事由)について (1) 甲1によれば,「プリントすべき画像が決定されると,プリント出力される」ことが記載されていることは明らかである(この限りでは原告も争わない趣旨である。)。そして,一般に,プリント出力される対象の画像を決定した時点で固定し,プリント出力している間は,別の画像に書き換えられない状態にすることは,プリントの際に当然に行われている処理であると考えられるから,甲1において,プリントすべき画像が決定されると,画像が「書き換えられない状態になる」という点の示唆があるといって差し支えない。したがって,「甲1発明において,プリントすべき画像が決定されると当該画像は書き換えられない状態になるのは明らか」とした審決の判断に誤りはない。
なお,甲1の記載(3頁右下欄7〜19行,6頁右上欄9行〜左下欄12行,6頁右下欄5行〜7頁左上欄3行)によれば,甲1において,プリント前に画像を書き換えるとは,プリント出力する対象の画像を修正したり,別の画像と置き換えることを意味するものと解されるので,プリント出力する対象として決定した「書き換えられ」てはならない画像に対し,違和感を低減するための補正を別途行うことは,何ら矛盾するものではない。
(2) 原告が前記第3,2において主張する点は,採用し得ないものであり,取消事由2は理由がない。
3 取消事由3(「追加補正」を行う対象とタイミングに関する認定判断の誤りによる進歩性判断の誤り=訂正発明1,3,4,6についての取消事由)について (1) プリント出力する映像に対する補正は,最終的にプリント出力するまでに行えばよく,フォトブースにおける合成処理のどの段階で行うかは,当業者が必要に応じて適宜決定し得る設計事項と認められ,最終的にプリント出力すべき映像が確定した段階だけで,輪郭補正等の補正を行うようにすること,すなわち,訂正発明にいう「追加補正」をすることに困難性はないこと,訂正発明の「追加補正」は,画像の合成処理に際し必然的に行う「補正」を,最終的にプリント出力すべき映像が確定した段階だけで行うようにしたものであると認められること,訂正発明では,「追加補正」と区別される「補正」は,行われていないと理解せざるを得ないことは,既に判示したとおりである。
これらに照らせば,原告の主張が採用し得ないことは,明らかである。
なお,審決は,訂正発明4,6に関し,「プリント出力すべき画像,即ち,映像処理部の記憶部への更なる書き換えがなくなってから,当該記憶部に記憶された映像電子情報に基づき追加補正を行うことは当業者が当然になし得ることである。」と説示しているところ,追加補正のタイミングについて認定判断していることは明らかであって,審決に誤りがあるとはいえない。
(2) 原告が前記第3,3において主張する点は,採用し得ないものであり,取消事由3は理由がない。
4 取消事由4(訂正発明特有の効果の看過による進歩性判断の誤り=訂正発明1,3,4,6についての取消事由)について (1) 最終的にプリント出力すべき映像が確定した段階だけで,輪郭補正等の補正を行うようにすること,すなわち,訂正発明にいう「追加補正」をすることに困難性はないことは,前判示のとおりである。
そうすると,原告の主張する効果は,プリント出力すべき映像が確定した段階だけで輪郭補正等の補正を行うことによって,当然に生じるものと予測される程度のものであって,格別顕著なものではない。したがって,相違点に基づく訂正発明の効果に格別顕著なものがあるともいえないとした審決の判断に,誤りはない。
(2) 原告が前記第3,4において主張する点は,採用し得ないものであり,取消事由4は理由がない。
5 取消事由5(「追加補正の処理時間」に関する認定判断の誤りによる進歩性判断の誤り=訂正発明4,6についての取消事由)について (1) 最終的にプリント出力すべき映像が確定した段階だけで,輪郭補正等の補正を行うようにすること,すなわち,訂正発明にいう「追加補正」をすることに困難性はないことは,前判示のとおりである。
そうすると,「先に行った人物映像の切り取りの処理時間に比べて,長い処理時間を取れるようにする」などという原告主張の作用効果は,プリント出力すべき映像が確定した段階だけで輪郭補正等の補正を行うことによって,当然に生じるものと予測される程度のものであって,格別顕著なものとはいえない。したがって,追加補正の具体的な処理時間について,「追加補正の処理時間をどの程度にするかは追加補正の処理方法に伴う設計的事項である。」とした審決の判断は,是認し得るものである。
(2) 原告が前記第3,5において主張する点は,採用し得ないものであり,取消事由5は理由がない。
6 取消事由6(商業的成功を考慮しなかったことによる進歩性判断の誤り=訂正発明1,3,4,6についての取消事由)について (1) 最終的にプリント出力すべき映像が確定した段階だけで,輪郭補正等の補正を行うようにすること,すなわち,訂正発明にいう「追加補正」をすることに困難性はないこと,原告主張の作用効果が格別顕著なものとはいえないことは,既に判示したとおりである。
そして,商業的成功に関する点を考慮するとしても,訂正発明1,3,4,6の進歩性に関して既に判示したところを覆して,進歩性を肯定し得るほどの事情は,本件全証拠によっても見いだすことはできない。
(2) 原告が前記第3,6において主張する点は,採用し得ないものであり,取消事由6は理由がない。
7 結論 以上のとおり,原告主張の審決取消事由は理由がないので,原告の請求は棄却されるべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 田中昌利
裁判官 佐藤達文