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関連審決 異議2001-72498
関連ワード アクセス /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  相違点の認定 /  技術常識 /  優先権 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  設定登録 /  取消決定 / 
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事件 平成 14年 (行ケ) 242号 特許取消決定取消請求事件
原告 ロイス・ドットコム株式会社
訴訟代理人弁護士 橘高郁文
被告 特許庁長官太田信一郎
指定代理人 服部和男,西川一,小林信雄,高橋泰史,林栄二
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/05/13
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
「特許庁が異議2001-72498号事件について平成14年3月26日にした決定を取り消す。」との判決。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 本件特許第3144776号「電力量の自動計量システム」の発明は,平成10年9月9日特許出願(優先権主張平成10年5月26日)で,平成13年1月5日に設定登録されたが,特許異議の申立てがあって(異議2001-72498号),平成14年3月26日,本件特許の請求項1ないし10に係る特許を取り消す,との決定があり,その謄本は同年4月15日原告に送達された。
2 本件発明の要旨 【請求項1】 電力供給会社からの電力の供給を受けて電力を消費する各電力需要家と,電力発電機能を保有し電力発電機能により発電した電力を電力供給会社が保有する送電線網を経由して各電力需要家に小売り電力として供給する各発電事業者と,前記各電力需要家並びに各発電事業者と,計量センタとの間で交信可能になされたデータ伝送手段を介することによって,計量センタにおいて前記各電力需要家における需要電力量並びに前記各発電事業者における小売り電力量を遠隔計量する電力量の自動計量システムであって, 前記各電力需要家に配置され,電力供給会社又は各発電事業者から供給される電力の消費に応じた需要電力量を計数する需要電力量計における各計数値を蓄積する伝送端末装置,及び前記各発電事業者に配置され,前記電力発電機能により発電し送電線網を経由して送電した小売り電力量を計数する小売り電力量計における各計数値を蓄積する伝送端末装置と, 前記各伝送端末装置に対しデータ伝送手段を介した計量センタに配置され,マイクロプロセッサの制御により前記各伝送端末装置を呼び出し,伝送端末装置に蓄積した各需要電力量計及び各小売り電力量計の計数値をそれぞれ収集して記録する記録媒体と, が具備され,前記計量センタにおいて,前記記録媒体に記録された各電力需要家における需要電力量及び各発電事業者から供給した小売り電力量を集計することを特徴とする電力量の自動計量システム。
【請求項2】 電力供給会社からの電力の供給を受けて電力を消費する各電力需要家と,電力供給会社からの電力の供給を受けて電力を消費するとともに,電力発電機能により発電した電力のうち余剰した電力を電力供給会社が保有する送電線網を経由して各電力需要家に小売り電力として供給する各卸電力事業者と,前記各電力需要家並びに各卸電力事業者と,計量センタとの間で交信可能になされたデータ伝送手段を介することによって,計量センタにおいて前記各電力需要家における需要電力量並びに前記各卸電力事業者における小売り電力量を遠隔計量する電力量の自動計量システムであって, 前記各電力需要家に配置され,電力供給会社又は各卸電力事業者から供給される電力の消費に応じた需要電力量を計数する需要電力量計における各計数値を蓄積する伝送端末装置,及び前記各卸電力事業者に配置され,前記電力発電機能により発電した電力のうちの余剰した小売り電力量を計数する小売り電力量計における各計数値を蓄積する伝送端末装置と, 前記各伝送端末装置に対しデータ伝送手段を介した計量センタに配置され,マイクロプロセッサの制御により前記各伝送端末装置を呼び出し,伝送端末装置に蓄積した各需要電力量計及び各小売り電力量計の計数値をそれぞれ収集して記録する記録媒体と, が具備され,前記計量センタにおいて,前記記録媒体に記録された各電力需要家における需要電力量及び各卸電力事業者から供給した小売り電力量を集計することを特徴とする電力量の自動計量システム。
【請求項3】 前記各伝送端末装置には,電力量計の計数値をパルス信号として取り込み,前記パルス信号の数を計数積算するカウンタと,計量センタからデータ伝送手段を介したデータ転送要求によって計数積算したカウンタ値に対応するデータを送出する制御部とが具備されている請求項1又は請求項2に記載の電力量の自動計量システム。
【請求項4】 前記各伝送端末装置には,計量センタからデータ伝送手段を介したデータ転送要求の到来に基づいて,前回の転送データ及び今回の転送データ並びに今回データと前回データの差分値を更新して蓄積するメモリ機能が具備されている請求項3に記載の電力量の自動計量システム。
【請求項5】 前記計量センタにおけるマイクロプロセッサは,設定されたプログラムに基づいて定期又は不定期にデータ伝送手段を介して各電力需要家,各発電事業者若しくは各卸電力事業者に設置された各伝送端末装置に対してデータ転送要求を発生し,各需要電力量のデータ及び各小売り電力量のデータを取得するように構成されている請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の電力量の自動計量システム。
【請求項6】 前記計量センタにおけるマイクロプロセッサは,各電力需要家,各発電事業者若しくは各卸電力事業者ごとに消費電力量及び小売り電力量に応じた請求書等の発行処理を実行するように構成されている請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の電力量の自動計量システム。
【請求項7】 前記計量センタにおけるマイクロプロセッサは,電力供給会社から供給した所定期間における消費電力量とその電力単価,発電事業者若しくは卸電力事業者から供給した所定期間における小売り電力量とその電力単価に基づいて請求額等を演算実行することを特徴とする請求項6に記載の電力量の自動計量システム。
【請求項8】 前記計量センタにおけるマイクロプロセッサは,発電事業者若しくは卸電力事業者から電力需要家に対して小売り電力を供給した期間,及び又は小売り電力量に基づいて,電力供給会社が保有する送電線網の使用料を演算実行するように構成されている請求項6に記載の電力量の自動計量システム。
【請求項9】 前記各電力需要家,各発電事業者若しくは卸電力事業家と計量センタとの間で交信可能になされたデータ伝送手段は,電話網又は無線伝送手段若しくは衛星通信手段である請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の電力量の自動計量システム。
【請求項10】 前記データ伝送手段として電話網を用いる場合においては,ノーリンギング機能を付加した電話網を用いる請求項9に記載の電力量の自動計量システム。
以下,請求項番号に対応してそれぞれの発明を「本件発明1」などと表記する。
3 決定の理由の要点 決定は,平成13年11月29日(起案日)の取消理由通知書の理由を引用している。同通知書の理由の要点は,以下のとおりである。
(1) 刊行物に記載の発明 刊行物1(特開平6-194386号公報)には,「電力供給業者からの電力が供給される商用電力系統と,商用電力系統を介して電力供給業者からの電力の供給を受けて電力を消費するとともに,発電設備(太陽電池アレイ(1))により発電した電力のうち余剰した電力を商用電力系統に売電力として供給する各電力発電機能を有する電力需要者と,各電力発電機能を有する電力需要者と電力供給業者の自動検針システムとの間でデータ伝送手段(通信回線(9))を介することによって,自動検針システムにおいて各電力発電機能を有する電力需要者における売電力量を遠隔計量する電力量の自動計量システムであって,積算売電力量を蓄積するとともに,商用電力系統から供給された買電力を積算して積算買電力量を蓄積するシステム制御装置(8)と,各システム制御装置(8)に対してデータ伝送手段(通信回線(9))を介して接続され,各システム制御装置(8)を呼び出し,システム制御装置(8)に蓄積した積算売電力量及び積算買電力量を収集する自動検針システムとを備える電力量の自動計量システム。」の発明が記載されている。
刊行物2(特開平8-202980号公報)には,「各電力需要家ごとの消費電力量を遠隔で計量するために,各電力需要家に配置され,電力系統から供給される電力の単位電力の消費を検出してパルス信号を発生する電力量計(1)からのパルス信号の計数値を蓄積する検針装置(2)と,各検針装置(2)に対しデータ伝送手段を介して接続され,マイクロプロセッサの制御により各検針装置(2)を呼び出し,各検針装置(2)に蓄積した計数値をそれぞれ収集する中央監視装置(3)とを備え,中央監視装置(3)において,収集した各電力需要家における需要電力量を集計する」技術及び,「各検針装置(2)の計数値は,中央監視装置(3)からの要求により計数値を中央監視装置(3)に出力した後,計数値をクリアする」技術が記載されている。
なお,検針システムの中央監視装置における制御がマイクロプロセッサ(CPU)で行われることは,後述するように,技術常識である。
刊行物3(“1998年からの電力取引の全面自由化の枠組(英国)〜計量と決済〜”,田山幸彦,「海外電力」,社団法人海外電力調査会,第39巻No.2(通巻379号),1997年2月1日,p.20〜27)には,「読み取り期間内の積算電力量を,前回の計量時点における前回メーター読み取り値と,今回の計量時点における今回メータ一読み取り値との差分により求める」技術が記載されている。
刊行物4(“特集2 電力規制緩和の現状と今後の展開 IPP・自己託送の現状と今後の展開 -東京電力-”,鈴木紀臣,「OHM」,株式会社オーム社,第85巻第1号,1998年1月12日,p.74〜79)には,「自社からの電力系統への電力の供給,他社からの電力系統への電力の供給,自家発電設備設置者への電力系統からの電力の供給,自家発電設備設置者により発電した電力の余剰電力の電力系統への供給を行う電力供給システムを構成する」技術及び,「電力会社の送電線を使用して電力を供給する場合,利用時間,供給電力量に基づいて送電線の使用料を演算する」技術が記載されている。
刊行物5(特開昭64-12119号公報)には,「電力量等を計量する計量システムにおいて,データ伝送手段として,電話綱又は無線伝送手段若しくは衛星通信手段を用いる」点が記載されている。
刊行物6(特公昭63-20071号公報)には,「電力量等のデータを収集するデータ収集システムにおいて,データ伝送手段として,ノーリンギング機能を付加した電話網を用いる」技術及び,「電力量等のデータを収集するデータ収集システムにおいて,データ伝送手段として電話網又は無線伝送手段を用いる」技術が記載されている。
刊行物7(“配電自動化方式・・・・・配電自動化方式専門委員会 第3章配電自動化システム3-3自動検針システム”,「電気協同研究」,社団法人電気協同研究会,第36巻第5号,昭和55年12月,p.101〜109)には,「自動検針システムには中央装置が設けられており,中央装置には,データ伝送手段を介して各電力需要家の端末装置を呼び出し,各端末装置に蓄積した需要電力量計の計数値を収集する制御を行う中央処理装置CPU(マイクロプロセッサ)と,収集した需要電力量計の計数値を記録する記憶装置(記録媒体)が設けられており,中央装置において,記憶装置(記録媒体)に記録された各電力需要家における需要電力量を集計する」技術が記載されている。
(2) 本件発明1についての対比・判断 (2)-1 本件発明1と刊行物1記載の発明とを比較する。
ここで,通常,商用電力系統には,電力供給会社から電力が供給され,また,電力供給会社からの電力の供給を受けて電力を消費する各電力需要家が接続されているから,刊行物1の「商用電力系統」には,電力供給会社からの電力の供給を受けて電力を消費する「電力需要家」が接続されていることは明らかである。
また,刊行物1に記載の「電力需要者」は,電力発電機能を保有しており,電力発電機能により発電した電力を売電力として商用電力系統,すなわち電力供給会社が保有する送電線網に供給している。
ところで本件明細書には,「この小売り電力量計26における小売り電力量表示器26dには,電力変換演算部26cにおいて演算された電力値(W)の積算値である小売り電力量(WH)の表示がなされる。換言すれば,これは発電事業者7若しくは卸電力事業者21より電力供給会社に対して供給(売電)した電力量の積算値となる。」(段落0025)という記載があるから,電力発電機能に着目すれば刊行物1に記載の「電力発電機能を保有する電力需要者」は,本件発明1の「電力発電機能を保有し電力発電機能により発電した電力を電力供給会社が保有する送電線網を経由して各電力需要家に小売り電力として供給する各発電事業者」に対応する。
また,刊行物1に記載の「システム制御装置」は,電力発電機能を保有する電力需要者に配置され,電力発電機能により発電し商用電力系統に供給した売電力を積算して積算売電力量,すなわち売電力量を計数する売電力量計における計数値を蓄積している。さらに,刊行物1に記載の「システム制御装置」は,通信回線(データ伝送手段)を介して電力事業者の「自動検針システム」に接続され,「自動検針システム」からの呼び出しに応答して各システム制御装置に蓄積されている各電力需要家の積算売電力量や積算買電力量を「自動検針システム」に出力する。ここで,「自動検針システムにはマイクロプロセッサ(CPU)を有する中央装置が設けられており,中央装置には,データ伝送手段を介して各電力需要家の端末装置を呼び出して各端末装置に蓄積した需要電力量計の計数値を収集する制御をマイクロプロセッサ(CPU)で行う」ことは,例えば刊行物7に示されているように,従来一般的に行われている技術常識である。
したがって,刊行物1に記載の「システム制御装置」は本件発明1の「各発電事業者に配置された伝送端末装置」に対応し,刊行物1に記載の「自動検針システム」は本件発明1の「各伝送端末装置にデータ伝送手段を介して交信可能な計量センタ」及び「各伝送端末装置を呼び出し制御を行うマイクロプロセッサ」に対応する構成を備えるものである。
(2)-2 以上の点から,本件発明1と刊行物1記載の発明とは,「電力供給会社からの電力の供給を受けて電力を消費する各電力需要家と,電力発電機能を保有し電力発電機能により発電した電力を電力供給会社が保有する送電線網を経由して各電力需要家に小売り電力として供給する各発電事業者と,前記各発電事業者と,計量センタとの間で交信可能になされたデータ伝送手段を介することによって,計量センタにおいて前記各発電事業者における小売り電力量を遠隔計量する電力量の自動計量システムであって,前記各発電事業者に配置され,前記電力発電機能により発電し送電線網を経由して送電した小売り電力量を計数する小売り電力計における計数値を蓄積する伝送端末装置と,前記各伝送端末装置に対しデータ伝送手段を介して接続され,マイクロプロセッサの制御により前記各伝送端末装置を呼び出し,各伝送端末装置に蓄積した小売り電力量計の計数値を収集する計量センタとを備えることを特徴とする電力量の自動計量システム。」である点で一致し,以下の点で相違する。
【相違点1】 本件発明1では,各電力需要家と計量センタとの間で交信可能になされたデータ伝送手段を介することによって,計量センタにおいて各電力需要家における需要電力量を遠隔計量可能であり,各電力需要家に配置され,電力供給会社又は各発電事業者から供給される電力の消費に応じた需要電力量を計数する需要電力量計における各計数値を蓄積する伝送端末装置を備え,計量センタは,各電力需要家に配置された伝送端末装置を呼び出して,各伝送端末装置に蓄積した各需要電力量計の計数値を収集しているのに対し,刊行物1記載の発明では,発電機能を有していない各電力需要家に配置される伝送端末装置や,発電機能を有していない各電力需要家の需要電力量を計量センタに収集することについての具体的構成が明らかでない点。
【相違点2】 本件発明1では,計量センタには各伝送端末装置に蓄積した各需要電力量計及び各小売り電力量計の計数値をそれぞれ収集して記録する記録媒体が設けられ,計量センタでは,記録媒体に記録された需要電力量及び小売り電力量を集計しているのに対し,刊行物1記載の発明では,計量センタに,各伝送端末装置に蓄積した積算電力量をそれぞれ収集して記録する記録媒体が設けられているか否か,また,計量センタでは,記録媒体に記録された需要電力量及び小売り電力量を集計しているか否か明らかでない点。
(2)-3 相違点1についての検討 本来,電力供給会社の自動検針システムは,各電力需要家の需要電力量を遠隔計量することを目的とするものであり,「電力量の自動計量システムにおいて,各電力需要家と計量センタとの間で交信可能になされたデータ伝送手段を介することによって,計量センタにおいて各電力需要家における需要電力量を遠隔計量を可能であり,各電力需要家に配置され,供給される電力の消費に応じた需要電力量を計数する需要電力量計における各計数を蓄積する伝送端末装置を備え,計量セン夕は,各電力需要家に配置された伝送端末装置を呼び出して,各伝送端末装置に蓄積された各需要電力量の計数値を収集する」構成を設けることは,例えば,刊行物2や刊行物7に示されているように従来一般的に行われている事項である。すなわち,刊行物1記載の発明の自動検針システムを構成する際には,通常,前記相違点1のような構成が設けられる。
したがって,相違点1は実質的な相違点とはいえない。
(2)-4 相違点2についての検討 「自動検針システムにおいて,センタ側で検針データを収集して集計する際に,センタ側に,収集したデータを記録する記録媒体を設け,記録媒体に記録されたデータを集計する」ことは,例えば刊行物7に示されているように,従来一般的に行われている事項である。
したがって,刊行物1記載の発明において,「計量センタに各伝送端末装に蓄積した各需要電力量計及び各小売り電力量計の計数値をそれぞれ収集して記録する記録媒体を設け,計量センタでは,記録媒体に記録された需要電力量総及び小売り電力量を集計する」ことは,当業者が容易に想到し得る事項にすぎない。
(2)-5 よって,本件発明1は,刊行物1記載の発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。
(3) 本件発明2についての対比・判断 (3)-1 本件発明2と刊行物1記載の発明とを比較する。
ここで,刊行物1に記載の「商用電力系統」には,電力供給会社からの電力の供給を受けて電力を消費する「電力需要家」が接続されていることについては,本件発明1についての説示のとおりである。
また,刊行物1に記載の「電力発電機能を有する電力需要者」は,電力供給会社からの電力の供給を受けて電力を消費するとともに,電力発電機能により発電した電力のうちの余剰した電力を電力供給会社が保有する送電線網を経由して各電力需要家に小売り電力として供給している。したがって,刊行物1に記載の「電力発電機能を有する電力需要者」は,本件発明2の「卸電力事業者」に対応する。
また,刊行物1に記載の「システム制御装置」は,電力発電機能を保有する電力需要者に配置され,電力発電機能により発電した電力のうち余剰した売電力を積算して積算売電力量,すなわち売電力量を計数する売電力量計における計数値を蓄積しているから,刊行物1に記載の「システム制御装置」は,本件発明2の「各卸電力事業者に配置された伝送端末装置」に対応する。
また,刊行物1に記載の「自動検針システム」は本件発明2の「各伝送端末装置にデータ伝送手段を介して交信可能な計量センタ」及び「各伝送端末装置を呼び出し制御を行うマイクロプロセッサ」を備えていることについては,本件発明1についての説示のとおりである。
(3)-2 以上の点から,本件発明2と刊行物1記載の発明とは,「電力供給会社からの電力の供給を受けて電力を消費する各電力需要家と,電力供給会社からの電力の供給を受けて電力を消費するとともに,電力発電機能により発電した電力のうち余剰した電力を電力供給会社が保有する送電線網を経由して各電力需要家に小売り電力として供給する各卸電力事業者と,前記各卸電力事業者と,計量センタとの間で交信可能になされたデータ伝送手段を介することによって,計量センタにおいて前記各卸電力事業者における小売り電力量を遠隔計量する電力量の自動計量システムであって,前記各卸電力事業者に配置され,前記電力発電機能により発電した電力のうちの余剰した小売り電力量を計数する小売り電力量計における各計数値を蓄積する伝送端末装置と,前記各伝送端末装置に対しデータ伝送手段を介して接続され,マイクロプロセッサの制御により前記各伝送端末装置を呼び出し,各伝送端末装置に蓄積した小売り電力量計の計数値を収集する計量センタとを備えることを特徴とする電力量の自動計量システム。」である点で一致し,以下の点で相違する。
【相違点1】 本件発明2では,各電力需要家と計量センタとの間で交信可能になされたデータ伝送手段を介することによって,計量センタにおいて各電力需要家における需要電力量を遠隔計量可能であり,各電力需要家に配置され,電力供給会社又は各卸電力事業者から供給される電力の消費に応じた需要電力量を計数する需要電力量計における各計数値を蓄積する伝送端末装置を備え,計量センタは,各電力需要家に配置された伝送端末装置を呼び出して,各伝送端末装置に蓄積した各需要電力量計の計数値を収集しているのに対し,刊行物1記載の発明では,発電機能を有していない各電力需要家に配置される伝送端末装置や,発電機能を有していない各電力需要家の需要電力量を計量センタに収集することについての具体的構成が明らかでない点。
【相違点2】 本件発明2では,計量センタには各伝送端末装置に蓄積した各需要電力量計及び各小売り電力量計の計数値をそれぞれ収集して記録する記録媒体が設けられ,計量センタでは,記録媒体に記録された需要電力量及び小売り電力量を集計しているのに対し,刊行物1に記載の発明では,計量センタに,各伝送端末装置に蓄積した積算電力量をそれぞれ収集して記録する記録媒体が設けられているか否か,また,計量センタでは,記録媒体に記録された需要電力量及び小売り電力量を集計しているか否か明らかでない点。
(3)-3 相違点についての検討 相違点1,2は,当業者が容易に想到し得る事項であることについては,本件発明1についての説示のとおりである。
したがって,本件発明2は,刊行物1記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4) 本件発明3についての対比・判断 本件発明3は,本件発明1又は本件発明2に更に構成を加えたものであるから,追加された構成について検討する。
刊行物2には,「各電力需要家ごとの消費電力量を遠隔で計量するために,各電力需要家に配置され,電力系統から供給される電力の単位電力の消費を検出してパルス信号を発生する電力量計(1)からのパルス信号の計数値を蓄積する検針装置(2)と,各検針装置(2)に対しデータ伝送手段を介して接続され,マイクロプロセッサの制御により各検針装置(2)を呼び出し,各検針装置(2)に蓄積した計数値をそれぞれ収集する中央監視装置(3)とを備え,中央監視装置(3)において,収集した各電力需要家における需要電力量を集計する」技術,すなわち,「電力量の自動計量システムにおいて,各伝送端末装置には,電力量計の計数値をパルス信号として取り込み,パルス信号の数を計数積算するカウンタと,計量センタからデータ伝送手段を介したデータ転送要求によって数積算したカウンタ値に対応するデータを送出する制御部とを設ける」技術が記載されている。
したがって,本件発明3は,刊行物1記載の発明に刊行物2に記載された技術を適用して当業者が容易に発明をすることができたものである。
(5) 本件発明4についての対比・判断 本件発明4は,本件発明3に更に構成を加えたものであるから,追加された構成について検討する。
また,刊行物3には,「読み取り期間内の積算電力量を,前回の計量時点における前回メーター読み取り値と,今回の計量時点における今回メータ一読み取り値との差分により求める」技術が記載されてる。そして刊行物3に記載の技術を用いる場合には,今回データ読み取り値,前回データ読み取り値,今回データ読み取り値と前回データ読み取り値との差分を蓄積するメモリが必要であり,また,各メモリに蓄積されるデータを読み取り期間ごとに更新する必要であることは自明のことである。
したがって,本件発明4は,刊行物1記載の発明に刊行物2,3に記載された技術を適用して当業者が容易に発明をすることができたものである。
(6) 本件発明5についての対比・判断 本件発明5は,本件発明1ないし本件発明4に更に構成を加えたものであるから,追加された構成について検討する。
刊行物1記載の発明では,発電機能を有する電力需要家に対して検針日になると自動検針システムよりデータのリンクが張られ自動検針がなされる。
また,自動検針システムにおいて,センタ側から需要家にデータ転送要求を送信してデータを収集することは,例えば刊行物2,刊行物7に示されているように,従来普通に行われている。
更に,データ転送要求を定期的に発生するか,不定期で発生するかは,必要に応じて適宜選択し得る事項にすぎない。
したがって,本件発明5は,刊行物1記載の発明に刊行物2,3に記載された技術を適用して当業者が容易に発明をすることができたものである。
(7) 本件発明6についての対比・判断 本件発明6は,本件発明1ないし本件発明5に更に構成を加えたものであるから,追加された構成について検討する。
刊行物1記載の発明では,システム制御装置は,売電力量や買電力量に応じた請求書の発行処理を実行する(2頁右欄24行〜29行)。
また,自動検針システムにおいて,センタ側で中央処理装置CPU(マイクロプロセッサ)を用いて請求書の発行処理等を行うことは,例えば刊行物2,刊行物7に示されているように普通に行われている。
したがって,本件発明5は,刊行物1記載の発明に刊行物2,3に記載された技術を適用して当業者が容易に発明をすることができたものである。
(8) 本件発明7についての対比・判断 本件発明7は,本件発明6に更に構成を加えたものであるから,追加された構成について検討する。
刊行物1には,「電力発電機能を有する電力需要者から供給した所定期間における売電力量とその電力単価に基づいて請求額等を演算する」点(2頁右欄6行〜14行),「売電力量や買電力量に相当する請求額等を演算する」点(2頁右欄24行〜29行)が記載されていいる。
また,自動検針システムにおいて,センタ側で中央処理装置CPU(マイクロプロセッサ)を用いて請求額の演算等を行うことは,例えば刊行物2,刊行物7に示されているように普通に行われている。
したがって,本件発明7は,刊行物1記載の発明に刊行物2,3に記載された技術を適用して当業者が容易に発明をすることができたものである。
(9) 本件発明8についての対比・判断 本件発明8は,本件発明6に更に構成を加えたものであるから,追加された構成について検討する。
刊行物4には,「電力会社の送電線を使用して電力を供給する場合,利用時間,供給電力量に基づいて送電線の使用料を演算する」技術が記載されている。
したがって,本件発明8は,刊行物1記載の発明に刊行物2〜4に記載された技術を適用して当業者が容易に発明することができたものである。
(10) 本件発明9についての対比・判断 本件発明9は,本件発明1ないし本件発明8に更に構成を加えたものであるから,追加された構成について検討する。
「電力量等のデータを収集するデータ収集システムにおいて,データ伝送手段として電話網又は無線伝送手段若しくは衛星通信手段を用いる」ことは,例えば刊行物5に示されているように,周知の技術である。
したがって,本件発明9は,刊行物1記載の発明に刊行物2〜4に記載された技術を適用して当業者が容易に発明することができたものである。
(11) 本件発明10についての対比・判断 本件発明10は,本件発明9に更に構成を加えたものであるから,追加された構成について検討する。
「電力量等のデータを収集するデータ収集システムにおいて,データ伝送手段として,ノーリンキング機能を付加した電話網を用いる」ことは,例えば刊行物6に示されているように,従来周知の技術である。
したがって,本件発明10は,刊行物1記載の発明に刊行物2〜4に記載された技術を適用して当業者が容易に発明することができたものである。
原告主張の決定取消事由
1 刊行物1記載の発明の認定の誤り 刊行物1には次の点の記載がないのに,これがあるとした決定の認定は誤りである。
@ 電力供給業者からの電力が供給される商用電力系統 A 各電力発電機能を有する電力需要者 B 各電力発電機能を有する電力需要者と電力供給業者の自動検針システムとの間でデータ伝送手段を介する。
C 各電力発電機能を有する電力需要者における売電力量を遠隔計量する電力量の自動検針システム。
まず,@がない理由は,刊行物1記載の発明では,「系統連系装置」が商用電力系統と発電装置にそれぞれ接続されている旨の説明として「商用電力系統」の記載があるだけで,発明の構成には「商用電力系統」がない点である。
AないしCがない理由は,「各電力発電機能を有する電力需要者」とは,「電力発電機能を有する電力需要者」が複数存在する旨の記載であろうが,刊行物1記載の発明では,「電力発電機能を有する電力需要者」は単数だからである。
2 刊行物1記載の発明と本件発明1との相違点の看過 刊行物1記載の発明と本件発明1には,次の@〜Dの相違点があるが,決定はこれらを看過している。
@ 刊行物1記載の発明は,単一の自家発電者と単一の電力供給事業者という2者間の電力料金等の処理システムが開示されているにすぎない。刊行物1には,本件発明1の「電力供給会社からの電力の供給を受けて電力を消費する各電力需要家と,電力発電機能を保有し電力発電機能により発電した電力を電力供給会社が保有する送電線網を経由して各電力需要家に小売り電力として供給する各発電事業者と,・・・計量センタ」という,多数当事者(刊行物1記載の発明とは,当事者もその数も異なる。)間の電力料金等の処理システムは,開示されていない。
A 刊行物1記載の発明は,自家発電装置を持つ電力需要者の家屋内で,電力の測定,計算等を処理するシステムにすぎず,そこには,本件発明1の「前記各電力需要家並びに各発電事業者と,計量センタとの間で交信可能になされたデータ伝送手段を介することによって,計量センタにおいて前記各電力需要家における需要電力量並びに前記各発電事業者における小売り電力量を遠隔計量する電力量の自動計量システム」は,開示されていない。
B 刊行物1記載の発明では,本件発明1の「各電力需要家」も「各発電事業者」もいないため,そこには,本件発明1の「前記各電力需要家に配置され(た)・・・伝送端末装置,及び前記各発電事業者に配置され(た)・・・伝送端末装置」という構成は,開示されていない。
C 刊行物1記載の発明には,「電力供給会社から供給される電力の消費に応じた需要電力量を計数する検出器」の記載はあるが(1欄20〜28行),本件発明1の「各発電事業者」に該当する者がいないために,本件発明1のように「各発電事業者から供給される電力の消費に応じた需要電力量を計数する需要電力量計」は,刊行物1には開示されていない。
D 刊行物1記載の発明は,自家発電装置を持つ電力需要者の家屋内で,電力の測定,計算等を処理するシステムにすぎず,本件発明1の「前記各伝送端末装置に対しデータ伝送手段を介した計量センタに配置され,マイクロプロセッサの制御により前記各伝送端末装置を呼び出し,伝送端末装置に蓄積した各需要電力量計及び各小売り電力量計の計数値をそれぞれ収集して記録する記録媒体と,が具備され,前記計量センタにおいて,前記記録媒体に記録された各電力需要家における需要電力量及び各発電事業者から供給した小売り電力量を集計する」という構成とは異なるものである。
3 刊行物1記載の発明と本件発明2との相違点の看過 刊行物1記載の発明と本件発明2の間には次の相違点があるのに,決定はこれを看過したものである。
@ 刊行物1に記載された発明は,単に単一の自家発電者と単一の電力供給事業者という2者間の電力料金等の処理システムが開示されているにすぎないものであって,そこには,本件発明2の「電力供給会社からの電力の供給を受けて電力を消費する各電力需要家と,電力供給会社からの電力の供給を受けて電力を消費するとともに,電力発電機能により発電した電力のうち余剰した電力を電力供給会社が保有する送電線網を経由して各電力需要家に小売り電力として供給する各卸電力事業者と,・・・計量センタ」という,多数当事者(刊行物1に記載された発明とは,当事者もその数も異なるものである。)間の電力料金等の処理システムは,開示されていない。
A 刊行物1に記載された発明は,自家発電装置を持つ電力需要者の家屋内で,電力の測定,計算等を処理するシステムにすぎず,そこには,本件発明2の「前記各電力需要家並びに各卸電力事業者と,計量センタとの間で交信可能になされたデータ伝送手段を介することによって,計量センタにおいて前記各電力需要家における需要電力量並びに前記各卸電力事業者における小売り電力量を遠隔計量する電力量の自動計量システム」は,開示されていない。
B 刊行物1に記載された発明では,本件発明2の「各電力需要家」も「各卸電力事業者」もいないため,そこには,本件発明2の「前記各電力需要家に配置され(た)・・・伝送端末装置,及び前記各卸電力事業者に配置され(た)・・・伝送端末装置」という構成は,開示されていない。
C 刊行物1には,「電力供給会社から供給される電力の消費に応じた需要電力量を計数する検出器」の記載はあるが(1欄20〜28行),本件発明2の「各卸電力事業者」に該当する者がいないために,そこには,本件発明2のように「各卸電力事業者から供給される電力の消費に応じた需要電力量を計数する需要電力量計」は,開示されていない。
D 刊行物1に記載された発明は,自家発電装置を持つ電力需要者の家屋内で,電力の測定,計算等を処理するシステムにすぎず,本件発明2の「前記各伝送端末装置に対しデータ伝送手段を介した計量センタに配置され,マイクロプロセッサの制御により前記各伝送端末装置を呼び出し,伝送端末装置に蓄積した各需要電力量計及び各小売り電力量計の計数値をそれぞれ収集して記録する記録媒体と,が具備され,前記計量センタにおいて,前記記録媒体に記録された各電力需要家における需要電力量及び各卸電力事業者から供給した小売り電力量を集計する」という構成とは異なるものである。
4 本件発明3ないし10についての進歩性の判断の誤り 本件発明3ないし10は,本件発明1,2の構成を前提とする。本件発明1,2が上記のように進歩性を有するものである以上,本件発明3ないし10も進歩性を有し,これに反する決定の認定判断は誤りである。
当裁判所の判断
1 取消事由1(刊行物1記載の発明の認定の誤り)について (1) 原告は,刊行物1には,「系統連系装置」が商用電力系統と発電装置にそれぞれ接続されている旨の説明として「商用電力系統」の記載があるだけで,発明の構成には「商用電力系統」がないから,刊行物1には,「@電力供給業者からの電力が供給される商用電力系統」に関する記載はないと主張する。
そこで刊行物1(甲第4号証)の記載をみるに,そこには,次の記載があることが認められる。
「【0001】【産業上の利用分野】本発明は系統連系装置に関し,特に商用電力系統と電気的に接続されて,電力を相互に融通する系統連系装置に関する。」(1欄18〜20行) 「【0009】【課題を解決するための手段】以上のような問題点は,商用電力系統と発電装置にそれぞれ接続され,売電力量と買電力量の両方若しくは一方の明細,若しくは前記電力量に相当する金額の明細を出力する装置を設けたことを特徴とする本発明の系統連系装置によって,完全に解決される。」(2欄24〜29行) 「【0012】(実施例1)・・・この交流電力は交流負荷3に供給されて消費されるが,交流負荷3における消費電力よりも直交流変換装置2からの供給電力が上回った場合,系統連系装置4を通し,柱上変圧器71を介して,商用電力系統である変電所側に逆潮流される。」(2欄44〜48行) 「【0015】もし,発電量が下がるなどして,直流交流変換装置2から供給される電力が交流負荷3にて消費される電力を下回った場合,その不足電力分は系統連系装置4を通して商用系統から補われる。」(3欄20〜23行) 以上の記載によれば,系統連系装置は商用電力系統に電気的に接続されて変電所側と電力を売買するものであり,商用電力系統から独立して存在するものではないから,決定が刊行物1記載の発明を認定するに際し,商用電力系統を含めた点に誤りはない。したがって,刊行物1に「@電力供給業者からの電力が供給される商用電力系統」に関する記載はないとする原告の主張は理由がない。
(2) 原告が取消事由1においてA〜Cの記載が刊行物1にないと主張するのは,刊行物1記載の発明では,「電力発電機能を有する電力需要者」は単数であって複数存在するものでないことを前提とするものである。
しかしながら,(1)で判断したように,決定が,刊行物1記載の系統連系装置に商用電力系統を含ませて刊行物1記載の発明を認定した点に誤りはない。そして商用電力系統には,電力需要家が多数接続されるのが一般常識であるから,電力発電機能を有する電力需要者は単数に限られる必要はなく,むしろ複数接続されると考えるのが自然である。
これを裏付けるものとして,刊行物1(甲第4号証)には次の記載も認められる。
「【0013】上記の逆潮流時,例えば電圧計からなる電圧検出装置41によって系統の2線間の電圧の瞬時値vが検出され,また電流計よりなる電流検出器42によって系統に流出する電流の瞬時値iが検出される。これらの値は演算回路81並びに例えばマイクロプロセッサとメモリからなる制御回路82で構成されるシステム制御装置8に入力され,これら検出された電圧と電流の位相の差から商用系統に流出している事が検知されるとともに売電力が計算される。計算された売電力は制御回路82の上記メモリに記憶されている値と積算され,積算売電力量として再び記憶される。」(3欄2〜12行) 「【0021】本実施例においては,印刷装置の代わりに例えば変復調装置などからなる通信装置47を出力装置として構成している。また,この通信装置47には通信事業者の設置する公衆通信回線,若しくは電力供給業者が独自に設置する自営通信回線などの通信回線9が接続される。これらの回線はデジタル回線の場合もアナログ回線である場合もある。システム制御装置8の出力はこの通信回線9を通して電力供給業者の自動検針システム等に接続される。」(4欄17〜25行) 「【0022】そして月一回の検針日になると,上記自動検針システム等より,通信回線を通じてデータのリンクが張られ,自動的に検針がなされる。電力売買を行う両者間で契約がなされれば,紙による請求書の発行を廃止することも可能である。」(4欄26〜30行) これらの記載によれば,系統連系装置のシステム制御装置8で積算された積算売電力が通信回線を通じて電力供給業者の自動検針システムにより自動的に検針されるから,刊行物1記載の発明に「各電力発電機能を有する電力需要者における売電力量を遠隔計量する電力量の自動検針システム」があると認定することができる。
また,「各電力発電機能を有する電力需要者」と「電力供給業者の自動検針システム」との間でデータ伝送手段を介して遠隔計量することも上記記載から明らかである。
(3) したがって,決定には,原告主張のような刊行物1記載の発明に関する認定の誤りがあるということはできない。
2 取消事由2(本件発明1と刊行物1記載の発明との相違点の看過)について (1) 本件発明1と刊行物1記載の発明との間の相違点の看過の誤りに関する原告の主張を,原告の準備書面のその余の記載も踏まえた上で次のように整理し,判断する(前記取消事由2の@〜Dは原告第1準備書面7頁〜8頁に記載の@〜Dに対応するものである。)。
(a) 刊行物1記載の発明には,「電力供給会社からの電力の供給を受けて電力を消費する各電力需要家」が存在せず,したがって「各電力需要家」の電力量の計算等を処理するシステムが存在しない。
(b) 刊行物1記載の発明の「電力需要者」は,「送電線網を経由して各電力需要家に小売り電力として供給する」という要件を欠くから,本件発明1の「各発電事業者」に対応するものでない。また,「各発電事業者」に該当するものがいないため,「各発電事業者から供給される電力の消費に応じた需要電力量を計数する需要電力量計」は,開示されていない。
(c) 刊行物1記載の発明の「自動検針システム」は,単なる「システム制御装置」の出力装置にすぎず,本件発明1の「計量センタ」や「マイクロプロセッサ」に対応するものではない。
(d) 刊行物1記載の発明は,本件発明1の「電力供給会社からの電力の供給を受けて電力を消費する各電力需要家」も「計量センタ」も欠くものであって,「電力供給事業者」と単一の「発電事業者」との間のシステムにしかすぎず,本件発明1の多数当事者間の電力料金等の処理システムとは異なる。
(e) 刊行物1記載の発明には,「各電力需要家並びに各発電事業者と計量センタとの間で交信可能になされたデータ伝送手段を介することによって,計量センタにおいて前記各電力需要家における需要電力量並びに前記各発電事業者における小売り電力量を遠隔計量する電力量の自動計量システム」は存在しない。
(f) 刊行物1記載の発明には,「各電力需要家」も「各発電事業者」もいないため,「各電力需要家に配置され(た)・・・伝送端末装置」及び「各発電事業者に配置され(た)・・・伝送端末装置」は存在しない。
(g) 刊行物1記載の発明は,「前記各伝送端末装置に対しデータ伝送手段を介した計量センタに配置され,マイクロプロセッサの制御により前記各伝送端末装置を呼び出し,伝送端末装置に蓄積した各需要電力量計及び各小売り電力量計の計数値をそれぞれ収集して記録する記録媒体と,が具備され,前記計量センタにおいて,前記記録媒体に記録された各電力需要家における需要電力量及び各発電事業者から供給した小売り電力量を集計する」という構成とは異なるものである。
(h) 刊行物1記載の発明には,「発電機能を有していない各電力需要家」も「計量センタ」も存在せず,これらが存在することを前提とした相違点の認定は誤っている。
以下,原告の主張につきこの整理に基づいて検討する。
(2) (a)の点は,前記1で判断したところからみて,相違点に当たらないことは明らかである。
(3) (b)の点であるが,本件発明1の「電力発電機能により発電した電力を電力供給会社が保有する送電線網を経由して各電力需要家に小売り電力として供給する」ことの意味について検討するに,一般に,発電事業者は各需要家に電力を供給するに際して電力供給会社が保有する送配電網に電力を供給するのであり,需要家は電力の消費に際してその供給元を区別することはできず,電力供給会社からの電力を消費するか,発電事業者からの電力を消費するかは,単なる契約上や会計処理上の事項にすぎないこととなる。しかしながら,このような処理を特定する事項は,本件発明1の構成となっていない。
一方,刊行物1において,電力需要者が発電した電力は,商用系統に売電力として供給されるが,最終的には,商用電力系統に接続される一般の電力需要者により消費されることは,技術常識から明らかである。
したがって,本件発明1の「小売り電力」と刊行物1記載の発明の「売電力」との差異は単なる表記上のものにすぎず,刊行物1記載の発明の「電力発電機能を有する電力需要者」を本件発明1の「送電線網を経由して各電力需要家に小売り電力として供給する発電事業者」に対応させて一致するとした判断に,誤りはない。
なお,「各発電事業者から供給される電力の消費に応じた需要電力量を計数する需要電力量計」との構成は,決定で相違点1に含めて認定し,その容易想到性を判断しているところである。
(4) (c)の点であるが,前記(決定の理由の要点(2)-1)のように,決定は,「自動検針システムには中央装置が設けられており,中央装置には,データ伝送手段を介して各電力需要家の端末装置を呼び出し,各端末装置に蓄積した需要電力量計の計数値を収集する制御を行う中央処理装置CPU(マイクロプロセッサ)と,収集した需要電力量計の計数値を記録する記憶装置(記録媒体)が設けられており,中央装置において,記憶装置(記録媒体)に記録された各電力需要家における需要電力量を集計する」技術は,例えば刊行物7(甲第10号証)に示されているように,従来一般的に行われている技術常識であると認定判断しており,そこに誤りがあるものと認めることはできない。
自動検針システムについての上記技術常識を踏まえて刊行物1記載の発明を認定すれば,刊行物1記載の発明の自動検針システムが,本件発明1の「マイクロプロセッサの制御により前記各伝送端末装置を呼び出し,伝送端末装置に蓄積した各需要電力量計」及び「各小売り電力量計の計数値をそれぞれ収集する計量センタ」に対応するものであることは明らかである。
原告の準備書面中には,刊行物1の【発明が解決しようとする課題】,段落15及び【発明の効果】に記載されるとおり,刊行物1記載の発明では,検針とそれに基づく電力量あるいは電力量に相当する金額の計算は「システム制御装置」でなされることが発明の中核となっているから,実施例2の自動検針システムは集中管理方式のものではないとの主張部分がある(第2準備書面2頁以下の8の項)。しかし,商用電力系統には多数の電力需要家が接続されることから,刊行物1記載の発明の自動検針システムが集中管理方式のものであって,多数の検針端末にアクセスし,電力量を収集して電力量に相当する金額の計算等を処理すると考えるのが相当である。刊行物1記載の発明においても,システム制御装置が積算電力量をそのメモリに記憶し,自動検針システムにより収集・管理し,電力量に相当する金額の計算等を行うものと解することができる。
(5) (d),(e)の点であるが,刊行物1記載の発明において,「電力供給会社からの電力の供給を受けて電力を消費する各電力需要家」や「計量センタ」が認定でき,刊行物1記載の発明が「電力供給事業者」と単一「発電事業者」との間のシステムにとどまるものでないことは,前記1の(2)及び上記(4)において説示したとおりである。刊行物1記載の発明の売電力も一般の電力需要家に消費されるものであって,発電事業者と電力需要家との間の個別の電力の売買は単に契約や会計処理の問題にすぎず,計量システムとしてみた場合,本件発明1と刊行物1記載の発明との間では決定が認定した相違点以外に差異は認められない。
(6) (f)の点であるが,刊行物1記載の発明に「電力発電機能を有する電力需要者」が複数存在し,本件発明1の「各発電事業者」に対応するものであることは,1の(2)において説示したとおりである。
そして,刊行物1(甲第4号証)に「【0013】上記の逆潮流時,例えば電圧計からなる電圧検出器41によって系統の2線間の電圧の瞬時値vが検出され,また電流計よりなる電流検出器42によって系統に流出する電流の瞬時値iが検出される。これらの値は演算回路81並びに例えばマイクロプロセッサとメモリからなる制御回路82で構成されるシステム制御装置8に入力され,これら検出された電圧と電流の位相の差から商用系統に流出している事が検知されるとともに売電力が計算される。計算された売電力は制御回路82の上記メモリに記憶されている値と積算され,積算売電力量として再び記憶される。」(3欄2〜12行)と記載されているので,刊行物1記載の発明の「電力需要者」の系統連系装置に備えられた「システム制御装置」が,本件発明1の「各発電事業者に配置され,前記発電機能により発電し送電線網を経由して送電した小売り電力量を計数する小売り電力量計における各計数値を蓄積する伝送端末装置」に対応することは明らかである。
なお,本件発明1の「各電力需要家に配置され(た)・・・伝送端末装置」を備える構成については,決定では相違点1としても認定され,その容易想到性を判断したところでもある。
(7) (g)の点であるが,刊行物1記載の発明の自動検針システムが,技術常識及び刊行物1の記載から,本件発明1の「マイクロプロセッサの制御により前記各伝送端末装置を呼び出し,伝送端末装置に蓄積した各需要電力量計」及び「各小売り電力量計の計数値をそれぞれ収集する計量センタ」に対応することは,上記(4)において説示したとおりである。また,本件発明1の「計量センタには,収集した各需要電力量計及び各小売り電力量計の計数値を記録する記憶媒体が設けられ,計量センタでは,記録媒体に記録された需要電力量及び小売り電力量を集計する」点は,決定において相違点2として認定され,その容易想到性を判断したところでもある。
(8) (h)の点であるが,「発電機能を有していない各電力需要家」,「計量センタ」が刊行物1記載の発明に存するとした決定の認定に誤りはないことは,前記1の(2)及び上記(4)に説示したとおりであり,そうである以上,これらの存否をもって本件発明1と刊行物1記載の発明との相違点ということはできない。
(9) 以上のとおりであって,取消事由2は理由がない。
3 取消事由3(本件発明2と刊行物1記載の発明の相違点の看過)について (1) 本件発明2と刊行物1記載の発明との一致点及び相違点の認定に誤りがあるという原告の主張を,原告の準備書面のその余の記載も踏まえた上で次のように整理し,判断する(前記取消事由2の@〜Dは原告第1準備書面16頁〜18頁に記載の@〜Dに対応するものである。)。
(a) 刊行物1記載の発明には,「電力供給会社からの電力の供給を受けて電力を消費する各電力需要家」が存在せず,したがって「各電力需要家」の電力量の計算等を処理するシステムが存在しない。
(b) 刊行物1記載の発明の「電力需要者」は,「各電力需要家に電気を売る」のでなく,「電力供給会社に電気を売る」ものであるから,本件発明2の「各卸電力事業者」に対応するものでない。また,「各卸電力事業者」に該当するものがいないため,「各卸電気事業者から供給される電力の消費に応じた需要電力量を計数する需要電力量計」は,開示されていない。
(c) 刊行物1記載の発明の「自動検針システム」は,単なる「システム制御装置」の出力装置にすぎず,本件発明2の「計量センタ」や「マイクロプロセッサ」に対応するものではない。
(d) 刊行物1記載の発明は,本件発明2の「電力供給会社からの電力の供給を受けて電力を消費する各電力需要家」も「計量センタ」も欠くものであって,「電力供給事業者」と単一の「卸電力事業者」との2者間の電力料金等の処理システムにしかすぎず,本件発明2の多数当事者間の電力料金等の処理システムとは異なる。
(e) 刊行物1記載の発明には,「各電力需要家並びに各発電事業者と計量センタとの間で交信可能になされたデータ伝送手段を介することによって,計量センタにおいて前記各電力需要家における需要電力量並びに前記各発電事業者における小売り電力量を遠隔計量する電力量の自動計量システム」は存在しない。
(f) 刊行物1記載の発明には,「各電力需要家」も「各卸電力事業者」もいないため,「各電力需要家に配置され(た)・・・伝送端末装置」及び「各卸電力事業者に配置され(た)・・・伝送端末装置」は存在しない。
(g) 刊行物1記載の発明は,「前記各伝送端末装置に対しデータ伝送手段を介した計量センタに配置され,マイクロプロセッサの制御により前記各伝送端末装置を呼び出し,伝送端末装置に蓄積した各需要電力量計及び各小売り電力量計の計数値をそれぞれ収集して記録する記録媒体と,が具備され,前記計量センタにおいて,前記記録媒体に記録された各電力需要家における需要電力量及び各卸電力事業者から供給した小売り電力量を集計する」という構成とは異なるものである。
(h) 刊行物1記載の発明には,「発電機能を有していない各電力需要家」も「計量センタ」も存在せず,これらが存在することを前提とした相違点の認定は誤っている。
(2) 上記(a)〜(h)の主張は,本件発明1における「発電事業者」が本件発明2においては「卸電力事業者」となっている点を除けば,取消事由2における原告の主張と実質的に同じものである。
刊行物1記載の発明の「発電機能を有する電力需要者」が本件発明2の「卸電力事業者」に対応するものでないという主張は,刊行物1記載の発明の「電力需要者」が「各電力需要家に電気を売る」のでなく,「電力供給会社に電気を売る」ものであるというにあるところ,その主張に理由がないことは,前記2の(3)で検討したとおりである。
したがって,本件発明2と刊行物1記載の発明の相違点の認定に誤りがあるという主張は理由がない。
4 取消理由4(本件発明3ないし10についての進歩性判断の誤り)について 本件発明3ないし10についてした決定の判断に誤りがあるという原告の主張は,本件発明1,本件発明2に進歩性があることを前提とするものである。
しかしながら,本件発明1,本件発明2に進歩性がないとする決定の理由に誤りがないことは,前記1〜3で説示したとおりである。本件発明3ないし10についてした決定の判断に,原告主張の誤りはない。
結論
以上のとおり,原告主張の決定取消事由は理由がないので,原告の請求は棄却されるべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 塩月秀平
裁判官 古城春実