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関連審決 異議2000-74033
関連ワード 容易に発明 /  容易に想到(容易想到性) /  加工 /  交換 /  設定登録 /  請求の範囲 /  減縮 /  変更 /  取消決定 / 
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事件 平成 14年 (行ケ) 49号 特許取消決定取消請求事件
原告 東芝キヤリア株式会社
訴訟代理人弁理士 鈴江武彦
同 峰隆司
同 幸長 保次郎
被告 特許庁長官太田信一郎
指定代理人 井上茂夫
同 粟津憲一
同 大橋良三
同 大野克人
同 涌井幸一
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/05/22
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 (1) 特許庁が異議2000-74033号事件について平成13年12月3日にした決定中,「特許第3038135号の請求項1,2,5,6,7に係る特許を取り消す。」との部分を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,発明の名称を「空気調和機の室内ユニット」とする特許第3038135号の特許(平成7年5月22日特許出願(以下「本件出願」という。),平成12年2月25日設定登録,以下「本件特許」という。)の特許権者である。
本件特許に対し,請求項1ないし7につき,特許異議の申立てがあり,特許庁は,この申立てを,異議2000-74033号事件として審理した。原告は,この審理の過程で,平成13年9月10日,本件出願に係る願書に添付された明細書の訂正を請求した(以下,この訂正を「本件訂正」という。)。特許庁は,審理の結果,平成13年12月3日,「訂正を認める。特許第3038135号の請求項1,2,5,6,7に係る特許を取り消す。同請求項3,4に係る特許を維持する。」との決定をし,平成13年12月26日にその謄本を原告に送達した。
2 特許請求の範囲(本件訂正による訂正後のもの。各請求項により特定される発明を,以下「本件発明1」,「本件発明2」などという。別紙図面A参照) 「【請求項1】前面パネルと後板とを組合わせた筐体であるユニット本体と,このユニット本体内部に収容配置され,側面視で逆V字状に折り曲げられる,前側熱交換器と後側熱交換器との連設体である熱交換器と,この熱交換器に被空調室の熱交換空気を導き,熱交換させて再び被空調室へ送風する室内送風機とを具備した空気調和機の室内ユニットにおいて, 上記熱交換器側面部から少なくとも2本の補助配管が突出され, 上記室内送風機は,上記前側熱交換器および後側熱交換器が傘状となって覆う位置で,これら熱交換器と相対向して配置される送風ファンおよびこれら熱交換器の一側部から突出し上記送風ファンとの隙間を短縮した位置に配置されるファンモータとからなり, 上記補助配管は,上記ファンモータの上部側に形成されるスペースを介して,ファンモータ周面と上記後板の板面との隙間を挿通して配管されることを特徴とする空気調和機の室内ユニット。 【請求項2】上記後板は,その角部に熱交換器の組み込み時に,上記補助配管端部を後板表側から裏側へ通す切欠部が設けられ,この切欠部は,熱交換器を組み込んだあと遮蔽部材によって覆われることを特徴とする請求項1記載の空気調和機の室内ユニット。
【請求項3】(省略) 【請求項4】(省略) 【請求項5】前面パネルと後板とを組合わせた筐体であるユニット本体と,このユニット本体内部に収容配置され,側面視で逆V字状に折り曲げられる,前側熱交換器と後側熱交換器との連設体である熱交換器と,熱交換器に被空調室の熱交換空気を導き熱交換させて再び被空調室へ送風する室内送風機とを具備した空気調和機の室内ユニットにおいて, 上記熱交換器側面部から少なくとも2本の補助配管が突出され, 上記室内送風機は,上記前側熱交換器および後側熱交換器が傘状となって覆う位置で,これら熱交換器と相対向して配置される送風ファンおよびこれら熱交換器の一側部から突出し上記送風ファンとの隙間を短縮した位置に配置されるファンモータとからなり, 上記後板は,上記ファンモータの背面側に,上記補助配管挿通用の凹溝部が一体に凹陥形成され,上記補助配管は,上記ファンモータの上部側に形成されるスペースを介して上記補助配管挿通用の凹溝部を挿通して配管されることを特徴とする空気調和機の室内ユニット。
【請求項6】上記補助配管は,個々に分割されてシールドパイプに収納されることを特徴とする請求項1または請求項5記載の空気調和機の室内ユニット。
【請求項7】上記少なくとも2本の補助配管は,互いに後板の板面と平行に並べて配置されることを特徴とする請求項1または請求項5記載の空気調和機の室内ユニット。」 3 決定の理由 (1) 別紙決定書の写しのとおりである。要するに,本件訂正を認めた上,本件発明1は,実公昭62-19851号公報(以下,審決と同じく「刊行物1」という。)に記載された発明(以下「引用発明1」という。別紙図面B参照)並びに実願平2-110884号(実開平4-68921号)のマイクロフィルム(以下,審決と同じく「刊行物2」という。)に記載された発明(以下「引用発明2」という。別紙図面C参照)及び実願昭56-7112号(実開昭57-120930号)のマイクロフィルム(以下,審決と同じく「刊行物3」という。)に記載された発明(以下「引用発明3」という。別紙図面D参照)に基づいて,本件発明2は,引用発明1ないし引用発明3及び特開平1-118038号公報に記載された発明に基づいて,本件発明5は,引用発明1ないし引用発明3及び実願平3-98674号(実開平5-47721号)のCD-ROM(以下,審決と同じく「刊行物5」という。)に記載された発明に基づいて,本件発明6は,引用発明1ないし引用発明3並びに刊行物5及び実願昭60-155839号(実開昭62-63618号)のマイクロフィルム(以下,審決と同じく「刊行物6」という。
)に記載された各発明に基づいて,本件発明7は,引用発明1ないし引用発明3並びに刊行物5及び刊行物6に記載された各発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができた,とするものである(以下,本件発明1,本件発明2,及び,本件発明5ないし本件発明7を,まとめて「本件発明」という。)。
(2) 決定が,上記認定判断において,本件発明1と引用発明1との一致点・相違点として認定したところは,次のとおりである。
一致点 「前面パネルと後板とを組合わせた筐体であるユニット本体と,このユニット本体内部に収容配置される熱交換器と,この熱交換器に被空調室の熱交換空気を導き,熱交換させて再び被空調室へ送風する室内送風機とを具備した空気調和機の室内ユニットにおいて, 上記熱交換器から補助配管が突出され, 上記室内送風機は,熱交換器と相対向して配置される送風ファンおよび熱交換器の一側部から突出した位置に配置されるファンモータとからなる空気調和機の室内ユニット」 相違点(1-1) 「本件発明1は,熱交換器が「側面視で逆V字状に折り曲げられる,前側熱交換器と後側熱交換器との連設体」であり,送風ファンが「前側熱交換器および後側熱交換器が傘状となって覆う位置に配置される」のに対し,刊行物1のものにはそのような記載がない点。」 相違点(1-2) 「本件発明1は,補助配管が熱交換器側面部から少なくとも2本,突出されているのに対し,刊行物1のものには,明確にそのように記載されていない点。」 相違点(1-3) 「本件発明1は,「補助配管は,ファンモータの上部側に形成されるスペースを介して,ファンモータ周面と後板の板面との隙間を挿通して配管」して,送風ファンとファンモータとの隙間を短縮したのに対し,刊行物1のものは,モータの出力軸と送風機(6)の回転軸の連結部分とフレーム本体の板面との隙間を挿通して配管されている点。」 (3) 決定が,上記認定判断において,本件発明2と引用発明1との一致点・相違点として認定したところは,一致点は上記一致点と同じであり,相違点は,上記相違点と同一のもの及びそれ以外のもの(相違点(2))である(相違点(2)は,本訴の争点と関係がないので,その記載を省略する。)。
(4) 決定が,上記認定判断において,本件発明5と引用発明1との一致点・相違点として認定したところは,一致点は上記一致点と同一であり,相違点は,相違点(5-1),(5-2)及び(5-3)である。相違点(5-1)及び(5-2)は,上記相違点(1-1)及び(1-2)と同じである。
相違点(5-3)は,次のとおりである。
「本件発明5は,「後板は,ファンモータの背面側に,補助配管挿通用の凹溝部が一体に凹陥形成され,補助配管は,ファンモータの上部側に形成されるスペースを介して上記補助配管挿通用の凹溝部を挿通して配管」して,送風ファンとファンモータとの隙間を短縮したのに対し,刊行物1のものにはそのような記載がない点。」 (5) 決定が,上記認定判断において,本件発明6と引用発明1との一致点・相違点として認定したところは,一致点は上記一致点と同じであり,相違点は,上記(1-1),(1-2),(1-3),(5-1),(5-2)及び(5-3)と同一のもの及びそれ以外のもの(相違点(6))である(相違点(6)は,本訴の争点と関係がないので,その記載を省略する。)。
(6) 決定が,上記認定判断において,本件発明7と引用発明1との一致点・相違点として認定したところは,一致点は上記一致点と同じであり,相違点は,上記(1-1),(1-2),(1-3),(5-1),(5-2)及び(5-3)と同一のもの及びそれ以外のもの(相違点(7))である(相違点(7)は,本訴の争点と関係がないので,その記載を省略する。)。
原告主張の決定取消事由の要点
決定は,本件発明1,本件発明2,本件発明6及び本件発明7と引用発明1との各相違点(1-3)についての判断を誤り(本件発明1,本件発明2,本件発明6及び本件発明7についての各取消決定に共通の取消事由-取消事由1),本件発明5ないし本件発明7と引用発明1との各相違点(5-3)についての判断を誤り(本件発明5ないし本件発明7についての各取消決定に共通の取消事由-取消事由2),本件発明の顕著な作用効果を看過したものであり(本件発明すべてについての各取消決定に共通の取消事由-取消事由3),これらの誤りが本件発明のそれぞれについての取消決定の各結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,本件発明に係る部分すべてにつき,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(相違点(1-3)についての判断の誤り) (1) 決定は,相違点(1-3)について, 「刊行物1には,・・・配管38を,筐体1内から外部に引き出すために,下フレーム5の送風機取付部分15とモータ収納室17との間に設けられている軸受ハウジングの頸部に設けたガイド溝39と,室内ユニットの後面の上フレーム4の挟持板40とで支持することが示されていることからみて,刊行物1の熱交換器7に接続された配管38は,ファンモータと同軸上にある軸受ハウジングの上部側に形成されるスペースを介して,軸受ハウジングと上フレーム4の板面との隙間を挿通して配管されていると認められる。
さらに・・・刊行物3には,ユニット全体の横幅を減縮するために,熱交換器用パイプ(2)をモータ(5)周面に面して,モータ(5)の下部に配管した構造が記載されている。また,ユニットの小型化は,空調機器の設計者にとって常に要求されている課題であるから,通風ファンとファンモータの間の隙間を,障害物がなければ,可能な限り短縮しようとすることは,当業者が容易になし得ることである。
よって,熱交換器の補助配管の挿通位置を,ユニット全体の横幅を減縮するために,刊行物1のモータと送風機の連結部分の上部側を介して,その連結部分とフレーム本体の板面の間としたものから,モータ周面に面する位置に換え,ファンモータの上部側のスペースを介してファンモータ周面と後板の板面との隙間に挿通して配管し,送風ファンとファンモータとの隙間を短縮することは,当業者が容易に想到し得たものである。」(決定書16頁第2〜第4段落) と認定判断した。しかし,決定の上記認定判断は,誤りである。
引用発明3は,刊行物3の第1図及び第2図(別紙図面D参照)に示されるとおり,熱交換器の側方から突出した補助パイプ2を,モータ5の周面の下方の空間を経て,そのまま本体の背面側へ導き,これをユニット外に導出しているとの構成である。引用発明3は,ユニットの小型化を図る目的で,モータ5の側方に配置していた電装部品配設部を,モータ5の位置はそのままとしながら,その上部の空間に移動させたものである。引用発明3では,モータ5の上部空間がその電装部品配設部でふさがれたため,従来,ファンとモータ5との連結部に形成される上部空間と後板との隙間に挿通される構成であった補助パイプ2を,モータ5周面の下側の空間に移したものであり,単に,補助パイプ2の配設位置の変更に関するものにすぎず,本件発明のように,熱交換器の形状とファンとファンモータとの連結構造及び配設位置の関係を考慮し,製品の性能及び品質を損なわずに,室内ユニットの小型化を図ることを意図したものとは異なる。刊行物3には,本件発明にみられるような,補助配管を補助配管用のファンモータ上面の空間を経てファンモータと後板との間の隙間に挿通するとの技術思想については全く記載がなく,また,それを示唆する記載も一切ない。
本件発明の従来技術では,送風ファンとファンモータとの連結部によって形成された空間を利用して,補助配管を引き回し,配管するというのが通常であったのに対して,本件発明では,ユニット本体の小型化のために,補助配管を前記補助配管用のファンモータ上面の空間を経てファンモータと後板との間の隙間に挿通するとの構成を採用したものである。引用発明1ないし引用発明3は,それぞれ本件発明が解決した課題を課題のまま有する従来例の一つにすぎないものであって,本件発明の補助配管の配置についての構成を何ら開示,示唆するものではなく,これらを組み合せたところで,本件発明が想到されるものではない。
決定の相違点(1-3)についての上記判断は,何らの根拠も提示していないものであり,全くの誤りである。
(2) 決定は,相違点(1-3)について,「ユニットの小型化が常に求められる空調機器において,熱交換器から取り出した補助配管を,ユニット外に引出す際,空いているスペースがあれば,そこを有効に利用することは,当業者であれば通常行うことであり,熱交換器を逆V字型として,ファンモータの上部のスペースが空いていれば,そこを活用しようとすることは,容易に成し得るものであると認められる。」(決定書17頁2行〜7行)とも判断した。しかし,この判断は,単なる仮想に基づくものであって,何ら根拠のないものである。
決定は,本件発明が,従来例にない構成により,利用できる空間を意識的に創り出した構成であることを看過している。本件発明は,逆V字状の熱交換器が傘状となって送風ファンを覆い,その送風ファンがこれら熱交換器と相対向して配置されることによって,ユニット本体の中心部分に配置されることになり,その際,これら熱交換機の一側部から突出して,送風ファンと相対向して配置されるファンモータの上部側に空間が形成されることになるため,この空間を利用して,補助配管をファンモータ周面とユニット本体の後面の板面との間に挿通するという構成から成るものである。このような構成は,刊行物1ないし3には,全く開示も示唆もされていないのである。
2 取消事由2(相違点(5-3)についての判断の誤り) 決定は,相違点(5-3)について, 「刊行物1の配管は,ファンモータと同軸上にある軸受ハウジングの上部側に形成されるスペースを介して,室内ユニット外に引き出されているものと認められ,また,・・・刊行物3には,ユニット全体の横幅を減縮するために,熱交換器用パイプ(2)をモータ(5)周面に面して,モータ(5)の下部に配管した構造が記載されている。
さらに,・・・刊行物5には,補助配管(8)を配置する保持溝(11)を背面(7)に一体形成し,その保持溝内に補助配管を挿通させ補助配管を室内ユニット内から引き出す構造が記載されている。
室内ユニットの設計をする際,ユニットの小型化は,空調機器の設計者にとって常に要求されている課題であり,通風ファンとファンモータの間の隙間を,障害物がなければ,可能な限り短縮しようと試みること,及び,補助配管のユニット内の配置で,室内ユニット内の空きスペースを見つけて利用しようとすることは,当業者が容易になし得ることであるから,ユニット全体の横幅を減縮するために,凹溝部を後板のファンモータ周面に面する位置に設け,補助配管をファンモータの上部側に形成されるスペースを介して凹溝部を挿通することは,当業者が容易に想到し得たものである。」(決定書21頁第5〜第7段落) と認定判断した。しかし,決定のこの認定判断は,上で述べたのと同様の理由により,引用発明1ないし引用発明3と本件発明との対比判断を誤ったものであり,誤りである。
3 取消事由3(顕著な作用効果の看過) 本件発明は,本件出願の願書に添附された明細書及び図面(以下,まとめて「本件明細書」という。)に記載されているとおり,その構成によって,「逆V字状熱交換器を構成する前側熱交換器と後側熱交換器の間に室内送風機を配置し,ファンモータと後板との空間スペースに補助配管を挿通する。したがって,ファンモータと横流ファンとの間が短縮され,その分,送風機の長手方向およびユニット本体の横幅寸法が短縮され,ユニット本体の小型化を図れるとともに,最も強度を必要とする後板上部には加工が不要となって後板の剛性増大を得る。ユニット本体の横幅寸法を従来通りとすると,熱交換器の熱容量を増大することができて熱交換能力の向上が得られ,併せて送風ファンの軸方向長さを長くして送風量の増大を図れる。」(甲第3号証の2【0079】【0080】)との効果を奏する。
すなわち,本件発明は,送風ファンを前側熱交換器及び後側熱交換器が傘状となって覆う形状の熱交換器の配置によって,送風ファンがユニット本体の中心部分に配置されるため,熱交換器の側端面側に位置するファンモータの上面側と背面側に配管可能な空間が形成され,この空間を利用して,熱交換器の一側部から突出した補助配管をファンモータの上面側から背面側に導き,後板の板面との隙間を挿通して配置することによって,配管の取り回しを円滑に行うことができるようになり,ユニット全体の寸法を短縮し,その小型化を実現することができたのである。
本件発明の上記効果は,このような構成による,ファンモータ周面と後板との間の空間の形成と,その空間への補助配管の挿通という巧みな構成によって初めて実現されたものである。従来は,室内ユニットの小型化,薄型化を実現するために,送風ファンとファンモータとの隙間,すなわち両者の連結部分に生じる空間に補助配管を挿通することが常套手段として採用されていたものを,本件発明においては,逆V字状の熱交換器を配置し,熱交換器の能力増大と,ファンモータ周面と後板との間に形成される空間に補助配管を挿通できるように構成した結果,室内ユニットの小型化,薄型化と,熱交換器の能力増大とを併せて実現したものである。
本件発明の上記の顕著な作用効果は,本件発明の構成によってこそ,初めて得られるものなのであって,単に従来技術に個々に存在する構成を採用し,これを組み合わせることから予測されるものではない。本件発明が奏する作用効果は,引用発明1ないし引用発明3から容易に予測できたものであるとする決定の判断(決定書17頁第2段落,18頁第2段落,22頁第1段落,23頁第4段落)は明らかに誤りである。
被告の反論の骨子
決定の認定判断は,いずれも正当であって,決定を取り消すべき理由はない。
1 取消事由1(相違点(1-3)についての判断の誤り)について 刊行物1には,ユニット本体の後面の板面と,ファンモータと送風ファンを結ぶ連結部の上部側に,補助配管を挿通した構造が記載されている。そして,刊行物3には,ユニット本体の下面の板面と,モータ5の周面の間に,補助パイプ2を設けた構造が記載されている。
室内ユニットの限られた空間内で,熱交換器からユニット本体の後部に補助配管を挿通する必要があることからすれば,当業者は,その設計に当たり,各部品との配置関係を考慮しながら,補助配管の挿通位置を種々検討するのは当然のことである。そして,室内ユニットの小型化は,空調装置の設計者にとって常に要求されている課題であるから,引用発明1の構成(ファンモータと送風ファンの間の連結部の上部側を介してユニット後面と連結部の間に補助配管を挿通する。)に換えて,引用発明3の構成(モータ5の周面とユニット後板の板面の間に補助配管を配管する。)を選択し,これにより上記連結部を不要として,ファンモータと送風ファンの間の隙間を短縮し,室内ユニットの小型化を図ることは,当業者であれば容易に成し得たことである。
2 取消事由3(顕著な作用効果の看過)について 本件明細書に記載された本件発明の作用効果である,ファンモータと横流ファンとの間が短縮され,その分,送風機の長手方向及びユニット本体の横幅寸法が短縮され,ユニット本体の小型化を図り得るとともに,最も強度を必要とする後板上部には加工が不要となって後板の剛性増大を得るという効果は,本件発明におけるファンモータ周面と後板との空間スペースに補助配管を挿通するとの構成から,当然に予測されるものであるにすぎない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点(1-3)についての判断の誤り)について 原告は,@引用発明3では,モータ5の上部空間がその電装部品配設部で塞がれたため,従来,ファンとモータ5との連結部に形成される上部空間と後板との隙間に挿通される構成であった補助パイプ2を,モータ5周面の下側の空間に移したものであり,単に,補助パイプ2の配設位置の変更に関するものにすぎず,本件発明のように,室内ユニットの小型化を図ることを意図したものではない,A引用発明1ないし引用発明3は,それぞれ本件発明が解決した課題を課題のまま保有する従来例の一つにすぎないものであって,本件発明の補助配管の配置についての構成を何ら開示,示唆するものではなく,これらを組み合せたところで,本件発明が想到されるものではない,などと主張する。
(1) 決定は,相違点(1-1)について,「刊行物2には熱交換器を逆V字形に形成し,この熱交換器の下部にファンを配置した構造が記載されている。刊行物1及び2は,ともに空気調和器の室内ユニットの熱交換器に関するものであるから,刊行物1の熱交換器と送風ファンにおいて,熱交換器を側面視で逆V字状に折り曲げられる,前側熱交換器と後側熱交換器との連設体とし,送風ファンが前側熱交換器および後側熱交換器が傘状となって覆う位置に配置されるように構成することは,当業者が容易に想到し得たものである。」(決定書15頁第5段落)と認定判断した。引用発明1に,引用発明2の逆V字形の熱交換器を,送風ファンを傘状に覆う位置に配置するように構成することが,当業者が容易に想到し得たものである,との決定のこの認定判断が正当であることは,甲第1号証の2及び3並びに弁論の全趣旨から,明らかである。
刊行物2には,決定が上記のように認定したとおり,室内ユニットで逆V字状の熱交換器を使用すること,及び,その逆V字状の熱交換器の傘状に覆われた部位に送風ファンが熱交換器と対向する位置に配置されることが記載されている(甲第1号証の3)。この引用発明2の構成を引用発明1に適用すれば,引用発明1の一体の直線上の熱交換器に換えて,逆V字状の熱交換器を設置することにより,ユニット本体の垂直方向の高さを短縮することが可能となるものの,その厚み(奥行きの寸法)が増すのを避けることができないことは,明らかである。そして,送風ファンは,逆V字状の熱交換器により傘状に覆われるのであるから,この送風ファンとこれに対向して設置されるファンモータとが,逆V字の中心線付近に設置されることになることは,熱交換器と送風ファンとファンモータの配置関係を考慮すれば,容易に理解することができるところである(引用発明2も本件発明も,そのような構成となっている。)。その結果,逆V字状の熱交換器を採用したことにより,ユニット本体におけるファン及びファンモータの配置が,引用発明1のような一体の直線状の熱交換器を採用した場合に比べて,ユニット本体の後板からみて正面前方にずれたものとなり,ユニット本体の後板とファンモータとの間の間隔が拡がり,そこに空間が形成されることになる。このことは,逆V字状という熱交換器の形状と各部品の位置関係とによって必然的に生じることであり,特に設計者の特別な配慮の結果実現した構成というわけではないことが明らかである。このようなユニット本体内の各部品の位置関係から必然的に形成される空間を前提とすれば,熱交換器の補助配管を室内ユニット内部から背部に引き出す位置を決めようとする当業者にとって,ファンモータと後板との間に存在する従来より広い空間を利用することは,当然に考慮すべき設計的検討事項であって,何らの特別な配慮も工夫も必要としない事項であるということができる。
決定が,相違点(1-3)について,「ユニットの小型化が常に求められる空調機器において,熱交換器から取り出した補助配管を,ユニット外に引出す際,空いているスペースがあれば,そこを有効に利用することは,当業者であれば通常行うことであり,熱交換器を逆V字型として,ファンモータの上部のスペースが空いていれば,そこを活用しようとすることは,容易に成し得るものであると認められる。」(決定書17頁第1段落)と判断したのは,上記の趣旨であると理解することができ,この判断に誤りはない。
(2) 刊行物3には,「本案は空気調和機の室内ユニットに関し,熱交換器の側方空間におけるモータ,熱交換器用補助パイプ及び電装部品配設部の位置関係を考慮してユニット全体の横幅を減縮し,小型化及び軽量化を計れるようにしたものである。」(甲第1号証の4第1頁第3段落),「従来では第3図及び第4図に示すように熱交換器1の側方において熱交換器用補助パイプ2をモータ5・・・の上方部を通してケース主体3の背面側に導出し,さらにケース主体3の背面に沿わせていた為・・・モータ5の上方部に電装組品8を配設できず,専らモータ5のさらに外側に電装組品8を配設しており,これがユニット全体の横幅の拡大を招き,小型化及び軽量化等の妨げになっているものであった。然るに,本案は・・・熱交換器用補助パイプをモータの下方を通して背面側に導出し,モータの上方部空間を電装部品等の配設に有効に活用できるようにしたことにより,ユニット全体の横幅を減縮・・・することができ,従前のものに比べて小型化及び軽量化を計れる,利点を有する。」(同2頁第2段落〜3頁第2段落)との記載がある。この記載から明らかなように,引用発明3は,モータ5の更に外側に配設されていた電装組品8を,モータ上部に配設し,ユニット全体の横幅を減縮するために,従来,モータ5の上方部に配設されていた補助パイプ2を,モータ5の下方を通して背面側に導出し,電装組品8を配設する空間を形成したものである。
引用発明3がこのようなものである以上,そこには,補助配管を,ファンモータと送風ファンとの連結部ではなく,ファンモータの周面の空間を利用して配設するなどの工夫を加えることにより,室内ユニットの小型化を達成し得たことが示唆ないし開示されている,ということができ,また,「ユニットの小型化は,空調機器の設計者にとって常に要求されている課題である」(決定書16頁第3段落)ことも,これにより,確認することができるのである。
(3) 以上によれば,決定が,「熱交換器の補助配管の挿通位置を,ユニット全体の横幅を減縮するために,刊行物1のモータと送風機の連結部分の上部側を介して,その連結部分とフレーム本体の板面の間としたものから,モータ周面に面する位置に換え,ファンモータの上部側のスペースを介してファンモータ周面と後板の板面との隙間に挿通して配管し,送風ファンとファンモータとの隙間を短縮することは,当業者が容易に想到し得たものである。」(決定書16頁第4段落)と認定判断したことに誤りはないというべきである。原告の上記各主張及び取消事由1に関するその余の主張は,上記説示に照らし,いずれも理由がないことが明らかである。
2 取消事由2(相違点(5-3)についての判断の誤り)について 原告は,決定の相違点(5-3)についての認定判断は,引用発明1ないし引用発明3と本件発明との対比判断を誤ったものであり,取消事由1と同様の理由により誤りである,と主張する。
しかし,原告の取消事由1の主張が理由がないものであることは,上記のとおりである。原告の取消事由2の主張も理由がない。
3 取消事由3(顕著な作用効果の看過)について 原告は,本件発明の顕著な作用効果は,本件発明の構成によってこそ,初めて得られるものであって,単に従来技術に個々に存在する構成を採用し,これを組み合わせることから予測されるものではない,などと主張する。
しかしながら,相違点(1-1)及び(1-3)に係る構成が,引用発明1ないし引用発明3から容易に想到することができるものであることは前記のとおりである。そして,本件明細書に記載されている本件発明の「ファンモータと横流ファンとの間が短縮され,その分,送風機の長手方向およびユニット本体の横幅寸法が短縮され,ユニット本体の小型化を図れるとともに,最も強度を必要とする後板上部には加工が不要となって後板の剛性増大を得る。ユニット本体の横幅寸法を従来通りとすると,熱交換器の熱容量を増大することができて熱交換能力の向上が得られ,併せて送風ファンの軸方向長さを長くして送風量の増大を図れる。」(甲第3号証の2【0079】【0080】)との効果は,「逆V字状熱交換器を構成する前側熱交換器と後側熱交換器の間に室内送風機を配置し,ファンモータと後板との空間スペースに補助配管を挿通する」(甲第3号証の2【0079】)との本件発明の構成から当然に予想される作用効果であり,本件発明の構成から予測し得ない顕著な作用効果である,ということができないものであることは明らかである。
したがって,本件発明の上記構成が,上記のとおり,引用発明1ないし引用発明3から容易に想到し得るものである以上,本件発明が,引用発明1ないし引用発明3から予測し得ない作用効果を奏するものということはできない。原告の取消事由3の主張は,理由がない。
4 結論 以上に検討したところによれば,原告の主張する取消事由はいずれも理由がなく,その他,決定には,これを取り消すべき誤りは見当たらない。そこで,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 設樂隆一
裁判官 阿部正幸