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関連審決 審判1998-18437
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事件 平成 14年 (行ケ) 126号 審決取消請求事件
原告 ウエスチングハウス・エヤー・ブレーキ・テクノロジーズ・コーポレイション
訴訟代理人 弁理士 曾我道照、曾我道治、鈴木憲七、梶並順
被告 特許庁長官太田信一郎
指定代理人 神崎潔、尾崎和寛、高木進、林栄二
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/05/22
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
原告の求めた裁判
特許庁が平成10年審判第18437号事件について平成13年10月29日にした審決を取り消す、との判決。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 原告は、名称を「改良無緩型牽引棒組立体」とする発明(本願発明)につき、平成7年1月30日に特許出願(特願平7-13065号、優先権主張日平成6年9月19日)をし、平成10年8月14日拒絶査定を受けたので、これに対する審判の請求(平成10年審判第18437号)をしたが、特許庁は、平成13年10月29日、「本件審判の請求は成り立たない。」との審決をし、その謄本を平成13年11月14日原告に送達した(出訴期間として90日付加)。
2 本願発明の要旨 (以下、各請求項の発明を請求項番号に従い「本願第1発明」などという。)【請求項1】 実質的に半永久的な状態に一対の貨車の隣接して配置された端部を一緒に連結するために、それぞれの貨車に取り付けられるメス連結部材とこれらのメス連結部材にそれぞれ係合可能なオス連結部材とからなる改良無緩型牽引棒組立体において、 (a)少なくとも一方のメス連結部材であって、次のものを備えたメス連結部材と、
(i)第1貨車の車両本体部の底部に配置された中央土台部の外側端部内に嵌合可能な第1所定輪郭を有する第1端部と、 (A)前記中央土台部の外側端部から外方向に延びる、半径方向に対向した第2端部、 (b)前記メス連結部材の半径方向に対向した第2端部に形成された空洞であって、第2所定輪郭を有する背壁部の内側表面と、頂壁部の内側表面と、第3所定輪郭を有する一対の側壁部の夫々の内側表面とにより画成され、 前記半径方向に対向した第2端部の底部の少なくとも一部分と半径方向に対向した一対の側壁部の外側端部とにおいて開放された空洞と、 (c)前記一対の内の第一の側壁部を貫いて形成された、第4所定輪郭を有する第1開口と、 (d)前記一対の内の第二の側壁部を貫いて形成された、第5所定輪郭を有する、
第1開口と半径方向に対向した第2開口と、 (e)少なくとも一方のオス連結部材であって、第6所定輪郭を有すると共に次のものを備えたオス連結部材と、 (i)少なくとも一部分が、前記メス連結部材の半径方向に対向した第2端部に形成された前記空洞の内部に回転可能に配置されている第1端部と、 (A)半径方向に対向した第2端部、 (f)前記第1端部付近において所定部分を貫いて形成された穴部と、 (g)少なくとも一部分が、前記オス連結部材の第1端部を貫いて形成された穴部の内部に配置された球形部材と、 (h)前記球形部材の半径方向に対向して、ほぼ垂直に形成された外側表面から所定距離だけ外方向に延びている、ほぼ水平に配置された一対の軸部材であって、一対の内の第一の軸部材の少なくとも一部分が、前記第一の側壁部を貫いて形成された第1開口の内部に配置され、 一対の内の第二の軸部材の少なくとも一部分が、前記第二の側壁部を貫いて形成された第2開口の内部に配置され、 夫々に、半径方向に対向してほぼ平坦な平坦表面部を有する一対の軸部材と、(i)前記オス連結部材の第1端部の穴部の内部に配置されると共に、前記オス連結部材の第1端部に固定された軌道輪組立体であって、 その内側表面が、少なくとも一方の前記オス連結部材の第1端部を貫いて形成された穴部の内部に位置する前記球形部材の少なくとも一部分の回りに配置された軌道輪組立体と、
(j)第一の楔止め手段が、前記一対の軸部材に夫々形成された、ほぼ平坦な第一の平坦表面部に係合する第1表面と、前記第1開口の一部分に隣接して第一の側壁部に形成された、ほぼ平坦で垂直に形成された表面部に係合する第2表面とを備え、 第二の楔止め手段が、前記一対の軸部材に夫々形成されたほぼ平坦な第二の平坦表面部に係合する第1表面と、前記第2開口の一部分に隣接して第二の側壁部に形成された、ほぼ平坦で垂直な表面部に係合する第2表面とを備えているところの一対の楔止め手段と、
(k)改良無緩型牽引棒組立体を形成するように、少なくとも一方のオス連結部材の第2端部を他方のオス連結部材の第2端部に固定するための、一方のオス連結部材の第2端部と他方のオス連結部材の第2端部とを係止可能とした固定手段と から成る改良無緩型牽引棒組立体。
【請求項2】ないし【請求項28】の記載は省略(いずれも請求項1の従属項である。)。
3 審決の理由の要点 審決の理由は、別紙審決書のとおりである。要するに、(1)本願第1発明は、第3引用例(米国特許第4580686号明細書。甲8)の記載事項を考慮すると、第1引用例(米国特許第5232106号明細書。甲6)及び第2引用例(米国特許第5042393号明細書。甲7)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、(2)同様の理由により、本願第2発明ないし本願第28発明も特許を受けることができない、というものである。
原告主張の審決取消事由
審決における本願第1発明と第1引用例記載の発明との一致点及び相違点の認定は争わない。
審決は、第2引用例の認定を誤り(取消事由1)、その結果、第1引用例に開示される無緩型牽引棒組立体に第2引用例記載の連結部材の構成を採用して本願発明の構成とすることは当業者が容易になし得ることであると判断して、本願第1発明の進歩性を否定する誤った判断をし(取消事由2)、本願第2発明ないし本願第28発明についても、同様の理由に基づき進歩性を否定する誤った判断をした(取消事由3)ものであるから、違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(第2引用例の認定の誤り) 審決は、本願第1発明と第1引用例記載の発明とを対比し、第1引用例には本願特許請求の範囲に(a)〜(j)で規定される連結部材の構成について言及がない点を相違点と認定した上、第2引用例には、鉄道貨車車両の連結具であって、当該メス及びオスの連結部材に関して、上記(a)〜(j)で規定される基本的な構成が開示されていると認定したが、第2引用例に関する審決の上記認定は誤りである。
第2引用例には、関節式連結装置が一貫して記載されているとともに、第2引用例の先行技術である米国特許第4,258,628号明細書(甲10)には、このような関節式連結装置は自動車運搬用の鉄道車両の連結に使用され、隣接車体の端部を支持するために、1つの標準車両台車を使用するものであることが記載されている。
してみると、第2引用例には、関節式連結装置、特に、メス連結部材が車両台車のセンタプレートボウルに回転可能に係合する関節式連結装置のみについて、本願第1発明の(a)〜(j)の構成が記載されているにすぎない。このように、第2引用例は、関節式連結装置以外の鉄道貨車車両に関して記載したものではないので、鉄道貨車車両の一般的な連結具に関して本願第1発明の(a)〜(j)で規定される構成が開示されているという審決の認定は誤っている。
第2引用例に記載された関節式連結装置は、隣接車体の支持を目的とする車両台車において、車体を連結する連結装置であって、鉄道貨車車両の連結具ではない。
すなわち、メス連結部材は車両台車のボルスタのセンタプレートボウルに回転可能に係合して一方の車体の重量を支持し、オス連結部材はメス連結部材と回転可能に係合して他方の車体の重量を支持するものであり、第2引用例に記載された関節式連結装置の基本的な機能は車体の支持であり、2次的な機能として車体を連結するものである。
それゆえ、第2引用例には、鉄道貨車車両の連結具であってそのメス及びオスの連結部材に関して(a)〜(j)の点が明示されている、という審決の認定は誤りである。
2 取消事由2(容易性の判断の誤り) (1)第1引用例と第2引用例の組合せの容易性についての判断の誤り 本願明細書に記載された、本願第1発明の先行技術の一例である米国特許第5,000,330号明細書(甲11)によれば、「牽引棒」は、鉱石、タコナイト、
石炭、穀物、リン酸などの大量産物用の専用列車の各車両間の連結に使用され、隣接する車両を永続的に連結しながら、各車両を個々に回転させることによって、各車両の荷が降ろされ、又は空にされることを可能とするものであり、第1引用例にも同様の記載がある。してみると、第1引用例における無緩型牽引棒組立体の牽引棒も、必要に応じて牽引棒がその軸の周りに回転し、各車両を個々に回転させることによって、荷降ろしをさせる機能を有するものであることは明らかである。
一方、第2引用例に記載されている関節式連結装置は、メス連結部材が車両台車のボルスタのセンタプレートボウルにピン部材を介して回転可能に係合し、オス連結部材が水平面に対してたわむことのできる部分を有するものである。第2引用例に記載された関節式連結装置は、強度の少ないピン部材やたわむ部分を考慮すれば、各車両を個々に回転させることのないものであることが明らかである。
したがって、車両がオス連結部材の軸の周りに回転しない、車体重量を支持する関節式連結装置の技術(第2引用例)を、両連結部材が車体重量を支持することなく、牽引棒の軸の周りに相対的に回転する牽引棒(第1引用例)に適用することは、当業者が容易に思い付くことではない。
第1引用例記載の連結部に第2引用例記載の構成を採用するためには、メス連結部材がセンタープレート部材を有さず、また、オス連結部材がたわむための傾斜部分を有さず、メス連結部材が頂壁部を有する必要がある。
「無緩型牽引棒組立体に係る連結部の構成として、第2引用例記載の連結部材の構成を採用することに格別の支障はみあたらない。」(審決書11頁)とした審決は、本願発明の改良無緩型牽引棒組立体の機能や作用を看過したもので、誤っている。
(2)メス連結部材の空洞部を下方に開放して設置することが単なる設計事項とした判断の誤り 審決は、「第2引用例記載の構成を、無緩型牽引棒組立体に係る連結部に採用するに際しては、第3引用例(米国特許第4,580,686号明細書、甲8)にも示されるように、オス連結部材とメス連結部材との連結部が、車両底面の端部よりも、相当内側(前後方向でみた中央より)の車両床下に位置する場合がありうることも考慮すると、連結部材の取付け等に際しての作業上の煩瑣を回避するべく、メス連結部材の空洞部が下方に向かって開放するように(即ち、第2引用例に示される状態とは上下が逆となるように)、メス連結部材を設置することは当然の設計事項というべきである。」(審決書11頁)と判断した。
しかしながら、第3引用例には、牽引棒の端部が車両台車に近付けられていることが記載されているが、その設置の際に、作業上の煩瑣を回避するために連結部材の空洞部を下方に向けて開放するように設置することについての記載や示唆はない。
したがって、車両床下に位置する装置の作業について考慮するとしても、メス連結部材がその空洞部が横方向に開放されるように設置されるのではなく、下方に開放するように設置されることがどうして当然の設計事項となるのか、理解することができない。審決の上記判断には、論理の飛躍があり、誤っている。
(3)作用効果に関する判断の誤り 本願第1発明は、組立(及び分解)の際には、(球形部材を組み付けた)オス連結部材をジャッキ等の押上げ装置により単純に押し上げ(あるいは下降させ)、下方から楔止め手段にアクセスすることにより容易に組立(及び分解)をすることができ、定期整備の必要が少なく、有効寿命が長く、そして組立が比較的簡単であること、及び、上方から岩石や細石がこの組立体に入ることがなく、入ったとしても底部から落下して蓄積せず、岩石や細石が球形部材と軌道輪組立体の間に入ってこれらを傷付けたり、両者の回動を妨げて貨車の脱線の原因を作ることがない等という有利な効果を有している。
これに対して、第1引用例には、専ら、中空のシャンク(本願第1発明のオス連結部材の第2端部の固定手段)と牽引棒の一端部に固定端部連結部を他端部に回転式連結部を有する牽引棒連結装置を使用することについて記載されているのみで、
それらがどのように組み立てられるかについては記載されていない。
また、第2引用例には、関節式連結装置において、軸受けアッセンブリを脱着可能に固定するための部品数を少なくすること、またその組立及び分解が比較的簡単な装置を提供することを目指している点で本願第1発明に対する示唆があるとしても、牽引棒組立体についての本願第1発明の上述の作用効果を予測させる記載はされていない。例えば、第2引用例においては、オス連結部材とメス連結部材を分離(組立)するには、オス連結部材の固着されている車両の該当端部を、軸受けアッセンブリを構成する球形部材の軸部材をメス部材の側壁部の開口から取り出せるように持ち上げなければならない。
さらに、第3引用例には、牽引棒組立体を分解するためには、オス部材を下方から支え、メス連結部材を構成する楔部材を器具により持ち上げながら第4ラグの溶接されている底カバープレート(ボルトとナットにより中バリに固着されている。)を外さなければならないという記載があるけれども、上述の本願第1発明の効果を予測させる記載は見当たらない。
したがって、上述の本願第1発明の作用効果が各引用例の記載事項から容易に予測できるとする審決の認定は不当である。
3 取消事由3(本願第2ないし第28発明の進歩性判断の誤り) 審決は、本願第2ないし第28発明の構成は、いずれも実質上第2引用例に指摘されている構成か又は当該指摘されている構成から当業者が容易に想到できる構成であって、本願第2ないし第28発明も、本願第1発明と同様に、第1及び第2引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである、としている。
しかしながら、この判断は、上述のように、第2引用例に記載された事項についての誤った認定及び本願第1発明の特有の作用効果を看過したことに基づくもので、誤っている。
被告の反論の要点
1 取消事由1に対して 原告は、関節式連結装置は、自動車運搬用の鉄道車両の連結に使用され、「隣接車体の支持を目的とする車両台車において、車体を連結する連結装置」であって、
「鉄道貨車車両の連結具ではない」から、審決が第2引用例に「鉄道貨車車両の連結具」が明示されていると認定したことは誤っていると主張する。しかし、「貨車」とは、貨物運搬用の車両を意味する語であって、「自動車運搬用の鉄道車両」も、明らかに「鉄道貨車車両」といえるのであるから、原告の上記主張は合理的な根拠がない。
自動車等を運搬する「鉄道車両の連結装置」と、「連結された状態のままで車両全体を回転させる」(甲第6号証翻訳文2頁下から2行参照)石炭等の輸送に使用する「鉄道貨車の連結装置」との間で、それらの構成、用途や使用態様等に関して相違があること自体を争うわけではないが、審決では、上記のような相違を十分認識した上で、「第2引用例には、メス連結部材とオス連結部材とで構成される鉄道貨車車両の連結具であって、当該メス及びオスの連結部材に関して次の(a)〜(j)の点が明示されている」(審決書8頁15〜17行)としているのであって、第2引用例に鉄道貨車車両の一般的な連結具が開示されているという認定をしているわけではない。
審決が第2引用例記載事項の認定を誤ったという原告の主張は失当である。
2 取消事由2に対して (1)第1引用例と第2引用例の組合せの容易性 原告は、「車両がオス連結部材の軸の周りに回転しない」第2引用例記載の関節式連結装置の技術を、二つの連結部材が「牽引棒の軸の周りに相対的に回転する」第1引用例に記載の牽引棒に適用することを思いつくのは容易なことではなく、
「無緩型牽引棒組立体に係る連結部の構成として、第2引用例記載の連結部材の構成を採用することに格別の支障はみあたらない」という判断は、誤っていると主張する。
しかしながら、審決で指摘したとおり、「オス連結部材とメス連結部材とで鉄道車両を連結する」点では、第1及び第2引用例記載のものの間で共通しているし、
いずれも、貨物輸送用の鉄道車両を連結するために使用される点でも共通しているのであるから、両者それぞれの属する技術分野は、少なくとも、「オス連結部材」と「メス連結部材」とからなる連結部分の構成の互換性を想到するに足りる程度には近接しているとみるべきである。
したがって、第1引用例記載の連結部について、仮に原告主張のように「牽引棒の軸の周りに相対的に回転する」ような使用態様を想定するとしても、当該連結部に第2引用例記載の連結部材の構成を採用することに「格別の支障はみあたらない」とした審決の判断は、常識的かつ妥当なものであって、誤りはない。
なお、第1引用例記載の連結部に第2引用例記載の構成を採用するのに際して、
仮に、連結部材の軸周り方向の回転を可能とするために「メス連結部材がセンタープレート部材を有さず、また、オス連結部材がたわむための傾斜部分を有さず、メス連結部材が頂壁部を有する必要」が生じるとしても、そのような必要性は、用途や使用態様が相違する場合に当然考慮されるべきものであって、「格別の支障」となるほどのものではない。
(2)メス連結部材の空洞部を下方に開放して設置することの容易性 メス連結部材30を車両床下側に設けるに際しては、「空洞部が上方」に開放する状態のままで車両床下側に設けても、オス連結部材20を着脱させるための上方の開放部は車両の床で閉ざされることになるし、下方には底壁部32のセンタプレート部材52が位置することになるから、オス連結部材の着脱は極めて困難となる。
また、「空洞部が横方向」に開放するように設けることは、一方の車両の他方の車両に対する左右いずれかの動き(水平動)を、第1図に示される底壁部32のセンタプレート部材52で妨げることにつながり、事実上不可能である。
したがって、メス連結部材30を車両床下側に設けるに際しては、「空洞部が上方」に開放する状態と、「空洞部が横方向」に開放する状態の、いずれにも不都合があるのであるから、審決が指摘しているように、「メス連結部材の空洞部が下方に向かって開放するように(すなわち、第2引用例に示される状態とは上下が逆となるように)、メス連結部材を設置すること」は、ほぼ必然の設計事項となる。
(3)作用効果について 確かに各引用例には、岩石等が「入ることがなく、入ったとしても底部から落下」することや、「組立や分解、更には楔止め部材の取り外しも容易になる」というような作用効果を直截的に明示する記載はない。
しかし、「メス連結部材の空洞部が下方に向かって開放するように(すなわち、
第2引用例に示される状態とは上下が逆となるように)、メス連結部材を設置する」ことが当然の設計事項であって、その結果として、上記「空洞部」の上方が、
第2引用例(第1図)に示される「底壁部32のセンタプレート部材52」や車両の床等で覆われることになるのであるから、上方から岩石等が「入ることがなく、
入ったとしても底部から落下」することは明らかであるし、「メス連結部材の空洞部が下方に向かって開放する」ように設置すれば、上方の車両の床等が空洞部を閉ざすことがないのであるから、「組立や分解、更には楔止め部材の取り外しも容易になる」ことも、当然のこととして予測が可能である。
以上のとおり、審決の判断は、各引用例の記載事項から窺える自明の理をその根拠としているのであって、これを不当とする原告の主張は当たらない。
3 取消事由3に対して 上述したところから明らかなように、本願第1発明についての審決の判断に、誤りはない。
そして、審決で指摘したとおり、本願第2ないし第28発明は、本願第1発明に、各引用例に実質上開示された構成、あるいは当該開示された構成から当業者が容易に想到しうる構成を、限定事項として付加するものであるから、本願第2ないし第28発明についての審決の判断にも誤りがないことは明らかである。
当裁判所の判断
1 取消事由1(第2引用例の認定の誤り)について (1)原告は、第2引用例には本件発明の(a)〜(j)の構成に相当するもの(以下「(a)〜(j)の構成」という。)が開示されていないという主張の理由として、「第2引用例に記載された関節式連結装置の基本的な機能は車体の支持であり、2次的な機能として車体を連結するものである。」ことを挙げる。
しかし、第2引用例に記載された関節式連結装置の車体を連結する機能が2次的なものであるかどうかと、第2引用例から、メス連結部材とオス連結部材とで構成される鉄道貨車車両の連結具について(a)〜(j)の構成を認定できるかどうかとは関係がなく、第2引用例に記載された技術事項の認定は、当業者が第2引用例に接して当該技術事項を読み取ることができるかどうかによって決まるものである。
当業者が第2引用例の記載をみれば、メス連結部材とオス連結部材とで構成される鉄道貨車車両の連結具に関し、上記(a)〜(j)の点を読み取ることができるのは明らかである。
したがって、原告の上記主張は採用できない。
(2)なお、原告は、「第2引用例に記載された関節式連結装置は、・・・鉄道貨車車両の連結具ではない。」とも主張しているが、「貨車」の用語は貨物車という程度の広い意味で用いられるものであり、第2引用例の「自動車運搬用の鉄道車両」も明らかに「鉄道貨車車両」といえる。してみると、第2引用例に記載された関節式連結装置も鉄道貨車車両の連結具であることに変わりはなく、原告の上記主張も採用できない。
(3)以上のとおり、原告主張の取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(容易性についての判断の誤り)について (1)第1引用例と第2引用例の組合せについて 原告は、車両がオス連結部材の軸の周りに回転しない、車体重量を支持する第2引用例に記載された関節式連結装置の技術(第2引用例)を、両連結部材が車体重量を支持することなく、牽引棒の軸の周りに相対的に回転する牽引棒(第1引用例)に適用することは、当業者が容易に想到し得ることでないと主張する。
ア 第2引用例記載の関節式連結装置が車両の回転(連結装置の軸周り方向への回転)を許容するものであるか否かはさておき、第1引用例記載の牽引棒も第2引用例記載の関節式連結装置も、ともにオス連結部材とメス連結部材とで鉄道車両を連結して牽引するものであるから、両者は、審決が認定したとおり、「第1引用例で開示される無緩型牽引棒組立体の果たしている連結機能についてみると、・・・オス連結部材とメス連結部材とで鉄道車両を連結する点では、第2引用例記載の連結部材の果たしている連結機能と共通している」(審決書11頁2〜6行)と認められる。
そして、1、2引用例記載のものにおいて車両の回転が許容されるかどうかの相違は、連結機能という観点からする両者の共通性を否定するものではないから、
「無緩型牽引棒組立体に係る連結部の構成として、第2引用例記載の連結部材の構成を採用することに格別の支障はみあたらない。」(審決書11頁6〜8行)とした審決の判断に誤りはない。
審決の上記判断が本願第1発明の改良無緩型牽引棒組立体の機能や作用を看過してなされたものであるという原告の主張は採用することができない。
イ なお、原告が主張する軸周り方向への回転可能性について付言するに、
本願第1発明において、オス連結部材の第1端部は、メス連結部材の第2端部に形成された空洞の内部に「回転可能に配置されている」(請求項1の(e)(i))が、図1によれば、球形部材(58)の一対の軸部材(60)は、上記空洞の一対の側壁部にそれぞれ配置されるので、オス連結部材の第1端部の回転範囲は、上記軸部材により規制されることが明らかである。したがって、本願第1発明において、オス連結部材は、所定の角度の範囲でしかその軸周りに回転することができないものと認められ、各車両を個々に回転させて荷下ろしをすることが可能な程度にまで牽引棒がその軸の周りに回転すると認めることはできない。このことは、第2引用例記載の関節式連結装置についても同様である。
そうすると、第1引用例記載の連結部に第2引用例記載の構成を採用した場合(その採用に支障がないことは前記アのとおりである。)に得られる構造は、連結部材の軸周り方向への回転可能性という点に関して、本願第1発明と別段異なるところがないということになる。
ウ 以上のとおりであるから、原告が主張する点を考慮しても、「第1引用例に開示される無緩型牽引棒組立体において、第2引用例記載の連結部材の構成を・・・採用して、本願発明と同様の構成とすることは、当業者が容易に想到できる」とした審決の判断に誤りはない。 (2)メス連結部材の空洞部を下方に開放して設置することについて 原告は、第2引用例記載の構成を、無緩型牽引棒組立体に係る連結部に採用するに際し、メス連結部材の空洞部が下方に向かって開放するようにメス連結部材を設置することは当然の設計事項であるとした審決の判断が誤りであると主張する。
ア 第2引用例には、「本発明のさらに別の目的は、1対の鉄道車両の隣接端部を半永久的な状態に互いに連結するために使用される関節式連結装置に軸受けアセンブリを脱着可能に固定するための、組み立て及び分解が比較的簡単な装置を提供することである。」(甲7号の3欄43〜48行、翻訳文5頁17〜19行)、「空洞26が、メス連結部材30の第2端部に形成されている。この空洞26に、オス連結部材20の第2端部14と、オス連結部材20の第2端部の所定部分に貫設された穴部16の各々の少なくとも一部分が入っている。」(同5欄47〜52行、翻訳文7頁26行〜28行)、「上面及び前面付近で開放された空洞26・・・対の側壁部36の各々の所定部分に開口38が貫設されている。各開口38は少なくとも、それぞれの側壁部36の上表面付近にスロット状部分を含む。」(同5欄67行〜6欄5行、翻訳文8頁4〜7行)、「関節式連結装置10は、軸受けアセンブリ40を含む。軸受けアセンブリ40は、ほぼ球形の球形部材42を含む。球形部材42の少なくとも所定部分が、オス連結部材20の第2端部14の所定部分に貫設された穴部16にはまっている。」(同6欄7〜13行、翻訳文8頁9〜11行)、「1対の軸部材46が、球形部材42の軸方向両側の表面から所定長さだけ外向きに延出している。対の軸部材46の一方が、メス連結部材30の第2端部に形成された空洞26の対の側壁部36の各々に形成された開口38の1つにはまっている。」(同6欄33〜39行、翻訳文8頁21〜23行)、「軸受けアセンブリ40をメス連結部材30に固定し、それによってオス連結部材20をメス連結部材30に係合することによって、本発明の関節式連結装置10が形成できる。」(同6欄47〜52行、翻訳文8頁27〜29行)という記載が認められる。
上記記載から判断して、第2引用例記載の関節式連結装置は、連結装置の組立に際して、オス連結部材20の第2端部14の穴部16に球形部材42を配置したものを、メス連結部材30の第2端部に形成された空洞26に簡単に挿入することを目的としていることは明らかである。
上記挿入に際しては、第2引用例の上記記載からみて、球形部材42の一対の軸部材46を空洞26の上部に開放された部分である開口38のスロット状部分からはめる必要があると解されるので、オス連結部材20の第2端部14はメス連結部材30の第2端部に形成された空洞26の上部に開放された部分から挿入しなければならないことも明らかである。
イ 上記のような第2引用例記載の構成を、第1引用例記載の無緩型牽引棒組立体に係る連結部に採用する場合、メス連結部材の空洞26の開放された部分に、オス連結部材20の第2端部14を挿入、連結するに当たり、作業性からして容易な方向から挿入できるように連結部材を配置することは、第2引用例の上記開示事項及び技術常識からして当然に考慮される事項である。
ところで、第2引用例記載の連結装置のメス連結部材30は、審決で認定されているように、「次のものを備えたメス連結部材(female connection member 30)、 (i)一方の貨車の車両本体部の底部に配置された中央土台部の外側端部内に嵌合可能な所定輪郭を有する第1端部(first end 24)」(審決書8頁19〜22行)であることから、第2引用例記載の連結部材に係る構成を第1引用例記載の無緩型牽引棒組立体に係る連結部に採用する場合、メス連結部材30は、車両床下に配置され、第3引用例に示されるようにオス連結部材とメス連結部材の連結部も車両床下に位置すると解すべきである。
してみると、車両床下で連結部材の連結、組立作業を行う場合、まず、オス連結部材20を上方から挿入することは、車両の床に邪魔されて困難であることが明白であるから、オス連結部材20の挿入の容易な方向を選択する際に、上方以外の挿入方向として下方を選択すること、すなわち、メス連結部材30の第2端部に形成された空洞26を下方に向かって開放するように、メス連結部材30を配置することは、当業者であれば連結部材の使用態様に応じて適宜採用可能な選択肢の一つにすぎない。
ウ したがって、「この第2引用例記載の構成を、無緩型牽引棒組立体に係る連結部に採用するに際しては、第3引用例にも示されるように、オス連結部材とメス連結部材との連結部が、・・・車両床下に位置する場合がありうることも考慮すると、連結部材の取付け等に際しての作業上の煩瑣を回避するべく、メス連結部材の空洞部が下方に向かって開放するように(即ち、第2引用例に示される状態とは上下が逆となるように)、メス連結部材を設置することは当然の設計事項というべきである。」(審決書11頁8〜15行)とした審決の判断に、誤りはない。
(3)作用効果について 原告は、本願第1発明が、組立(分解)の際には、(球形部材を組み付けた)オス連結部材をジャッキ等の押上げ装置により単純に押し上げ(下降させ)、下方から楔止め手段にアクセスすることにより、容易に組立(分解)することができ、定期整備の必要が少なく、有効寿命が長く、組立が比較的簡単であり、上方から岩石や細石がこの組立体に入ることがなく、入ったとしても底部から落下して蓄積せず、岩石や細石が球形部材と軌道輪組立体の間に入ってこれらを傷付けたり、両者の回動を妨げて貨車の脱線の原因を作ることがない等の有利な効果を有しているのに対して、第1ないし第3引用例には、上述の本願発明の効果を予測させる記載は見当たらず、本願第1発明の上記作用効果が各引用例の記載事項から容易に予測できるとの審決の認定は、不当であると主張する。
しかしながら、「メス連結部材の空洞部が下方に向かって開放するように」メス連結部材を設置することは、前示のとおり当然の設計事項であって、原告が主張する効果は、メス連結部材の空洞部が下方に向かって開放するように設置したことに付随する、当業者であれば予測し得る程度の効果にすぎない。
したがって、原告の上記主張は採用できない。
(4)まとめ 以上のとおりであるから、原告主張の取消事由2は理由がない。
3 取消事由3について 原告は、審決の本願第2ないし第28発明についての判断は第2引用例に記載された事項についての誤った認定及び本願第2ないし第28発明の特有の作用効果を看過したことに基づくものであるので誤っていると主張しているが、上記のように審決の第2引用例に記載された事項についての認定に誤りはなく、しかも、本願第2ないし第28発明に特有の作用効果を看過したものとも認められないから、原告の上記主張は採用できない。
原告主張の取消事由3は理由がない。
4 結論 以上のとおり、原告主張の取消事由はいずれも理由がないから、原告の請求は棄却されるべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 塩月秀平
裁判官 古城春実