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関連審決 無効2000-35576
関連ワード 技術的思想 /  使用方法 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  参酌 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  設定登録 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 13年 (行ケ) 259号 審決取消請求事件
原告 日興調理機株式会社
原告 タニコー株式会社
両名訴訟代理人弁護士 窪田 英一郎
同 柿内瑞絵
同 弁理士 平井正司
同 神津尭子
被告 株式会社中西製作所
訴訟代理人弁理士 西澤茂稔
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/05/26
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2000-35576号事件について平成13年4月25日にした審決を取り消す。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告らは,名称を「食器の洗浄方法及びこれに使用する食器かご」とする特許第3092876号発明(平成4年2月10日特許出願,平成12年7月28日設定登録,以下「本件発明」といい,この特許を「本件特許」という。)の特許権者である。
被告は,平成12年10月18日,本件特許を無効にすることについて審判の請求をした。
特許庁は,同請求を無効2000-35576号事件として審理した上,平成13年4月25日,「特許第3092876号の請求項1乃至4に係る発明についての特許を無効とする。」との審決をし,その謄本は,同年5月10日,原告らに送達された。
2 願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の記載 【請求項1】 多人数で食事をする場所で,使用済みの食器が立設した状態で且つ隣接の食器と重ならない状態で食器かごの中に収容される食器収容工程と, 該食器収容工程で前記食器を収容した食器かごを,食器を洗浄する場所に搬入する搬入工程と, 前記食器を洗浄する場所に運び込まれた前記食器かごを,該食器かごの中の食器に少しも手を触れることなく,該食器かごの中の食器と一緒に洗浄する食器洗浄工程とを有する食器の洗浄方法。
【請求項2】 前記食器収容工程で,前記使用済みの食器がほぼ垂直に立設した状態で収容される,請求項1に記載の食器の洗浄方法。
【請求項3】 前記食器洗浄工程が,前記食器かごの中の食器に向けて洗浄液を噴射する工程を含む,請求項1又は2に記載の食器洗浄方法。
【請求項4】 請求項1〜3のいずれか一項に記載の食器洗浄方法を実施するのに使用する,丸棒にて金網状に構成された食器かごであって,該食器かごの中に立設した状態で収容した食器の上部を支えるのに充分な位置に,前記食器かごの底部の複数の丸棒と平行に丸棒が配置すると共に,前記食器かごの相対する面に,食器洗浄機のコンベアの吊手を嵌入する空間を有することを特徴とする食器かご。
(以下,【請求項1】〜【請求項4】に係る発明を「本件発明1」〜「本件発明4」という。) 3 審決の理由 審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本件発明1〜3は,いずれも実願昭62-150155号(実開昭64-558711号)のマイクロフィルム(本訴乙2,審判甲2,以下「刊行物1」という。)に記載された発明(以下「引用発明1」という。)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,本件発明4は,実願平1-98691号(実開平3-38058号)のマイクロフィルム(本訴乙3,審判甲3,以下「刊行物2」という。)に記載された発明(以下「引用発明2」という。)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件発明1〜4についての本件特許は,いずれも特許法29条2項の規定に違反してされたものであり,平成5年法改正前(注,平成5年法律第26号による改正前の趣旨と解される。)の同法123条1項1号に該当し,無効とすべきものであるとした。
原告ら主張の審決取消事由
審決は,本件発明1と引用発明1との一致点の認定を誤り(取消事由1),本件発明1と引用発明1の相違点についての判断を誤り(取消事由2),本件発明4と引用発明2の相違点についての判断を誤り(取消事由3),本件発明1,4の顕著な作用効果を看過し(取消事由4),本件発明2,3の容易想到性の判断を誤った(取消事由5)ものであるから,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(本件発明1と引用発明1との一致点の認定の誤り) (1) 審決は,本件発明1と引用発明1との一致点を,「食器を収容した食器かごを,食器を洗浄する場所に搬入する搬入工程と,食器を洗浄する場所に運び込まれた食器かごを,該食器かごの中の食器に少しも手を触れることなく,該食器かごの中の食器と一緒に洗浄する食器洗浄工程とを有する食器の洗浄方法」(審決謄本5頁第3段落)である点と認定したが,誤りである。
(2) 審決は,引用発明1の「浸漬洗浄槽」が本件発明1の「食器を洗浄する場所」に当たるとしている(同頁第2段落)が,誤りである。本件発明1には,「多人数で食事をする場所」と「食器を洗浄する場所」が存在し,食器収容工程は前者で,食器洗浄工程は後者でそれぞれ行われ,これをつなぐものとして搬入工程がある。本件発明1は,「使用済みの食器が立設した状態」で食器が食器かごの中に収容されるが,ホテル,レストラン及び社員食堂などでは,「食事をする場所」で残滓などがこぼれ落ちるままに食器を「立設」することや「立設」するために残滓などをゴミバケツのような容器に捨てて容器を空にする方法を選択することはあり得ないから,本件発明1の「多人数で食事をする場所」は,一斉に食事をして一斉に片付けを行う学校給食における教室及び食堂に限定され,「食器を洗浄する場所」は,おのずから給食センターに限定される。また,「搬入」という語が使用されていることからも,「食器を洗浄する場所」が個々の洗浄機を指しているのではなく,一連の洗浄設備を備えた空間そのものを指していることは明らかである。ここで,「搬入」という語は,「はこび入れること。持ち込むこと」(広辞苑第5版)を意味しており,これは人の視点から見て,「運び入れられる」のであり,「持ち込まれる」のであるから,搬入場所(食器を洗浄する場所)は当然に人のいるところでなければならず,キッチンのような洗浄場所中で流し台から洗浄機械に食器かごを移動させることは「搬入」とはいわない。審決は,浸漬洗浄槽の供給部への載置を「搬送」であるととらえ,また,同供給部から洗浄液中への移動を「搬送」であるとする(同)が,このような解釈は明らかに無理である。引用発明1には,食器かごを食器を洗浄する場所に搬入する搬入工程について,開示も示唆もない。
(3) また,審決は,引用発明1の洗浄機が自動化されていることから,引用発明1は「食器を洗浄する場所に運び込まれた食器かごを,該食器かごの中の食器に少しも手を触れることなく,該食器かごの中の食器と一緒に洗浄する食器洗浄工程」(上記一致点)を有するとする。しかし,本件発明1より以前には,給食システムの全工程を通じて同じ食器かごを使用する技術は存在しておらず,引用発明1は単に洗浄機について述べているだけである。すなわち,引用発明1は,従来の給食システムを前提として,給食センター内に設置される洗浄システムの一部を構成する洗浄機に関する技術開示を行っているにすぎず,給食センター内では積み替えが行われなければならない。したがって,引用発明1においては,当然に食器に人の手が触れているはずであり,上記の点を同一であるとした審決は,明らかに誤りである。
2 取消事由2(本件発明1と引用発明1の相違点についての判断の誤り) (1) 相違点1について 審決は,本件発明1と引用発明1の相違点1として認定した「本件発明1が,『多人数で食事をする場所で,使用済みの食器が立設した状態で且つ隣接の食器と重ならない状態で食器かごの中に収容される食器収容工程』を有するのに対し,甲第2号証(注,乙2)記載のもの(注,引用発明1)は,洗浄工程において,使用済みの食器が立設した状態で且つ隣接の食器と重ならない状態で食器かごの中に収容される態様を開示しているものの,かかる食器収容工程については明確にされていない点」(審決謄本5頁第3段落(1))について,「『使用済みの食器が立設した状態で且つ隣接の食器と重ならない状態で食器かごの中に収容される』態様は,甲第2号証の中に,食器洗浄工程の態様として開示されているところであり,かかる態様を食器収容工程において実現することも当業者にとって容易である」(同6頁相違点1について)と判断するが,誤りである。従来食事をする場所で始めから食器を立てた状態で収容するという技術は存在せず,食器は平積みにされて収容されていた。これには,食器を立てることによって,汁等がこぼれてしまうという嫌悪感のようなものがあったかも知れないが,平積みにして食器を配送するということが当然のこととされていた状況において,ただ単に食器を立てることには意味があるとは考えられておらず,単に食器を立てるということに対する動機付けは何ら存在しなかった。したがって,引用発明1の図から,食器収容工程において食器を立てて収容する方式を採用することが,当業者が容易に想到し得るということはできない。
(2) 相違点2について 審決は,本件発明1と引用発明1の相違点2として認定した「本件発明1が,『『該食器収容工程で前記食器を収容した食器かご』を,食器を洗浄する場所に搬入する搬入工程』及び『前記食器を洗浄する場所に運び込まれた『前記食器かご』を,・・・洗浄する食器洗浄工程』とあるところから,各工程で扱われる食器かごは,一貫して共通のものを使用しているのに対し,甲第2号証(注,乙2)記載のもの(注,引用発明1)は,そのような食器かごの共通性について明確にされていない点」(審決謄本5頁第3段落(2))について,「食器洗浄方法における各工程で扱う食器かごについて考察すると,各工程を通して共通の食器かごを用いる場合と,食器の移し替えにより各工程毎に異なる食器かごを用いる場合とが想定されるところである。そして,上記のうちのいずれかのタイプを選択する際に,作業効率や食器かごのコスト等を考慮すれば,共通の食器かごを用いるタイプが好ましいことは明らかであるから,甲第2号証記載のものにおいて,各工程で共通の食器かごを用いるように選択することは,当業者が容易に想到し得る」(同6頁相違点2について)と判断するが,誤りである。多人数の食器を扱う場合に,食器収容工程,運搬工程及び食器洗浄工程を通じて同じ食器かごを使用するという発想は,本件発明1より以前には存在しておらず,食器収容工程と食器洗浄工程とでは異なるかごが使用されることが当業者にとっては当然のこととされ,何人もそのような工程を疑わなかった。食器収容工程,運搬工程及び食器洗浄工程を通じて同じ食器かごを使用するということは,これまでの給食システムを根底から見直す極めて画期的なことであり,この点について,引用発明1には何らの開示も示唆もないから,当業者がこれを容易に想到し得たとする審決の判断は,明らかな誤りである。
3 取消事由3(本件発明4と引用発明2の相違点についての判断の誤り) 審決は,本件発明4と引用発明2の相違点アとして認定した「食器洗浄方法の特定に関し,本件発明4が,『請求項1〜3のいずれか一項に記載の』食器洗浄方法としたのに対し,甲第3号証(注,乙3)に記載のもの(注,引用発明2)は,そのような特定がなされていない点」(審決謄本7頁「本件発明4について」(1))について,「食器洗浄機用の食器かごであれば・・・当業者が適宜の洗浄方法を対象として使用し得るものと考えられる。・・・甲第3号証に記載の食器かごが用いられる食器洗浄方法を,上記相違点アの如く特定することは当業者にとって容易」(同頁最終段落〜8頁第1段落)であり,また,同相違点イとして認定した「食器かごの相対する面に設けた空間に関し,本件発明4が,『食器洗浄機のコンベアの吊手を嵌入する』ための空間としたのに対し,甲第3号証に記載のものは,該空間の上記用途については明確にされていない点」(同7頁「本件発明について」(2))について,「食器かごの相対する面に設けられた空間を,食器洗浄機のコンベアの吊手を嵌入するために用い得ることは明らかであり,かかる用途の特定を行うことは当業者が必要に応じて任意になし得る」(同8頁第4段落)と判断するが,誤りである。
引用発明2は,「本考案は一般家庭において使用する食器洗浄機の食器かごに関する」(乙3,2頁〔産業上の利用分野〕)と記載されているように,そもそも一般家庭に使用する食器洗浄機に関する考案であり,本件発明4に関する多数者が使用した多量の使用済み食器を前提とする業務用の食器洗浄機とは発想が全く異なる。引用発明2のような家庭用の食器洗浄機では,食器かごが台所を出ることはなく,食器は食器かごが食器洗浄機に設置された状態で食器かご内に収容されるのが一般的である。また,家庭用食器洗浄機の製造者は,多くの場合家電メーカーであり,これが販売されるのも電器店を通じてであるのに対し,本件のような多人数の食器を扱う業務用食器洗浄機は,厨房機器メーカー等が直接営業を行って,客先との間で仕様を確定して納入するものであり,両者は実質的に技術分野を異にする。
したがって,家庭用洗浄機に関する引用発明2は,本件発明4の参考となるものではない。審決は,食器洗浄機用の食器かごであれば,それをどんな洗浄方法に使用しても問題はなく,構造自体に格別の変更を加える必要はないとするが,家庭用洗浄機の食器かごをそのまま業務用に使用できるとすることは,あたかもラジコン飛行機のエンジンをそのまま旅客機に使用できるとするようなことであり,その非現実的なことは明らかである。また,審決は,家庭用洗浄機の食器かごの空間を食器洗浄機のコンベアの吊手を嵌入するために用いることも容易であるとするが,家庭用洗浄機でコンベアが使われることが多いとはいえない。家庭用洗浄機では,一つの槽ですべての過程が終了するのであり,食器かごを移動させるという発想は,引用発明2から容易に想到し得るものではない。
4 取消事由4(本件発明1,4の顕著な作用効果の看過) 審決は,本件発明1により奏される効果は,引用発明1から当業者が予測し得る範囲内のものであるとし(審決謄本6頁第5段落),また,本件発明4により奏される効果は,引用発明2から当業者が予測し得る範囲内のものであると判断した(同8頁第5段落)が,誤りである。従来の学校給食では,食事が終わると食器配送及び回収用かごに食器を平らに積み重ね,この状態で洗浄場所である給食センターにこの配送及び回収用かごを運搬し,給食センターでは食器配送及び回収用かごから食器を取り出して洗浄用のかごに積み替えるか,あるいは1枚1枚を洗浄機のコンベアに乗せて洗浄し,さらに,洗浄済みの食器を1クラスごとに仕分けしながら,上記食器配送及び回収用かごの中に入れるという作業を行っていた。このため,洗浄場所である給食センターでは,食器の積み替え,あるいは仕分けのために作業員を確保せざるを得ず,市区町村等の自治体においては,この人員の人件費が大きな負担になっていた。しかし,本件発明1,4を採用することにより,一貫して同じ食器かごを用いることができるようになったため,このような従来の学校給食の問題点は大きく解消された。本件発明1,4では,食器かごに食器を収容する工程で,食器を立設させて食器を重ならないようにするため,食器かごに食器を収容した状態そのままで食器を運搬,洗浄することができる。この結果,本件発明1,4を実施した場合には,給食センターで食器を積み替える必要もなくなり,同時に食器を仕分けする必要もなく,これによって自治体は大幅に人件費を削減することができるようになった。また,本件発明1,4は,食器洗浄工程において食器に人の手が触れないことを要件としているため,衛生的にも極めて優れたものであり,とくにO-157等の食中毒の問題を回避することができる。審決は,このような本件発明1,4の顕著な作用効果を看過した違法がある。
5 取消事由5(本件発明2,3の容易想到性の判断の誤り) 本件発明2,3は,本件発明1の構成を前提とするものであるところ,審決は,上記のとおり本件発明1についての判断が誤っているから,本件発明2,3についての判断も誤りである。
被告の反論
審決の認定判断は正当であり,原告ら主張の取消事由はいずれも理由がない。
1 取消事由1(本件発明1と引用発明1との一致点の認定の誤り)について (1) 刊行物1(乙2)には,食器を収納した「食器籠2」を「供給部4」より洗浄液中に浸漬して自動洗浄し,槽外に搬出する工程が記載されているが(4頁第1段落,第1図),これは,本件発明1にいう搬入工程及び洗浄工程にほかならない。そして,食器を収納した「食器籠2」を「供給部4」より洗浄液中に浸漬するためには,必ず何らかの方法で,食事した場所から食器を「食器籠2」に収納して「供給部4」まで搬送する工程が存在する。原告ら提出の準備書面(1)の別紙1(従来の学校給食)のチャート図においても,学校で,使用済みの皿などを食器かごに収納して洗浄機のところまで搬送する工程が記載されている。したがって,本件発明1と引用発明1との一致点についての審決の認定に誤りはない。
(2) 本件発明1では,「多人数で食事をする場所」での食器かごへの食器の収納工程と,その食器かごを「洗浄する場所」への搬入工程が記載されているだけで,学校での食器収納とか,給食センターでの洗浄とかについて,本件明細書には何も記載されていない。したがって,本件発明1の対象には,学校給食や給食センターを含むものであるが,学校給食に限定されるものでなく,他の食事をする場所やその洗浄場所,すなわち,社員食堂,セルフサービス食堂,レストラン,ホテル等及びそれらの食器洗浄場所をも含むものである。そして,「多人数で食事をする場所」が食堂であって,「食器を洗浄する場所」は食堂の隣の洗浄装置がある場所でもよく,食堂と洗浄場所は,同一建物の中の隣の場所であっても,また,同一構内で,別の棟であってもよい。引用発明1においては,明細書(乙2)に,「数個の食器1を収容した多数の食器籠2を浸漬洗浄するようにした水平長尺の浸漬洗浄槽3の上部1側に前記食器籠2の供給部4が設置されていて,この供給部4より洗浄液中に浸漬した食器籠2を載置して搬送する搬送コンベア5が水平に設置されている」(4頁第1段落),「食器を収容した多数の食器籠を浸漬洗浄槽内の洗浄液中に浸漬し」(1頁,実用新案登録請求の範囲)と記載され,これは搬入工程を意味する。この食器を収納した食器籠は,どこから運ばれてくるかについて記載はないが,食事をする場所から運ばれて来たことは明らかであり,食器が,食事をする場所から食器かごに入れられて洗浄装置のある場所へ搬送され,洗浄装置に投入されることは自明である。
2 取消事由2(本件発明1と引用発明1の相違点についての判断の誤り)につ いて (1) 相違点1について 刊行物1(乙2)の第1図には,「供給部4」から食器を収納した食器かごを,浸漬洗浄槽内に搬入した時から洗浄終了して搬出するまで食器は立設している状態が記載され,刊行物2(乙3)には,食器が立設し,隣接の食器と重ならない状態で収容される食器かごが記載されるとともに,食器が上向きになったり,下向きになったり,また,食器同士が重なり合ったりすると,洗浄ノズルよりの洗浄水を食器の内面に満遍なく噴射させることができず,食器の洗浄が不十分になったり,糸底に洗浄水がたまり,通常の乾燥時間では完全に乾燥しきれない等の問題があることが記載され,特公昭40-17868号公報(乙1)の第3図及び昭和45年12月20日柴田書店発行の浅見安彦著「調理機器の手びき」(乙9)の図(233頁)にも,食器かごの中に食器が立設し重ならない状態で収容されているものが図示されており,また,特開平3-26225号公報(乙4)には,「洗浄槽2に食器かご7を保持する底面ピン11の片方に垂直又は,角度のある状態で食器を保持する保持ピン13が固定されている」(2頁右上欄)と記載され,その構成が図面で示され(3頁),これらの刊行物には,本件特許の特許出願前から,「食器が立設した状態で且つ隣接の食器と重ならない状態で・・・収容される食器かご」が存在していたことが開示されている。そして,上記刊行物に記載された食器かごを,食器収容工程,搬入工程,洗浄工程で一連に用いることについて,これを阻害する理由はない。
(2) 相違点2について 食器収納工程から洗浄工程の終了まで一貫して同じ食器かごを使用することは,本件発明1の特許出願前に既に当業者に認識され,実行されていた技術的思想である。そして,食器かごを一貫して使用することについて何ら特別な技術を必要とせず,当業者として容易に採用し得ることであるから,「作業効率や食器かごのコスト等を考慮すれば,共通の食器かごを用いるタイプが好ましいことは明らかであるから,甲第2号証(注,乙2)記載のもの(注,引用発明1)において,各工程で共通の食器かごを用いるように選択することは,当業者が容易に想到し得るところであり,かかる選択を阻害する要因は何等見出せない」(審決謄本6頁第4段落)とした審決の判断に誤りはない。
3 取消事由3(本件発明4と引用発明2の相違点についての判断の誤り)について 引用発明2の食器かごの構造は,コンベアの吊手を挿入し得る空間を有し,この食器かごを業務用の洗浄機に使用することは当業者の容易に想到し得たことであり,そのように使用するについて構造の変更を要するものではなく,また,何等支障となる要因がない。本件発明4は,「請求項1〜3のいずれかの一項に記載の食器洗浄方法を実施するのに使用する・・・食器かご」(甲2,1頁【請求項4】)と使用方法を限定するが,他の使用方法にはなく上記使用方法に特有の構成は,何も記載されていない。すなわち,本件発明4の食器かごは,業務用として,家庭用とは異なる特徴を何も備えていない。本件発明4の食器かごの「食器かごの相対する面に,食器洗浄機のコンベアの吊手を嵌入する空間」とは,本件明細書(甲2)の段落【0021】に「コンベアー6に自動装着及び解除する際にコンベアー6より吊手19が挿入,脱出するための空間部20が設けられている」とだけ記載されており,図5では,その「空間部20」は相対する面の縦棒と横棒よりなる単なる矩形の空間を示しているにすぎない。引用発明2の食器かごも,相対する面に空間を有し,この空間をコンベアの吊手を嵌入するために用い得ることは明らかである。
4 取消事由4(本件発明1,4の顕著な作用効果の看過)について 原告らが本件発明1,4の格別の効果として説明するものは,同発明の出願前から,実願昭60-118862号(実開昭62-27557号)のマイクロフィルム(乙6)に記載されているように,当業界では,一般的に,「一定地域の学校給食を一手に賄う総合給食センターなどにおいては,各学校から回収された給食後の大量の各種給食用容器を学校毎に各クラス別にまとめて洗浄から保管まで一連の工程を円滑かつ能率的に処理する必要がある」(乙6,2頁「従来の技術」)と認識されており,上記マイクロフィルム記載の洗浄装置は,「各種給食容器の洗浄,収集等を時間的にも場所的にも関連一体化させて連続自動的に行うことができる」(同13頁第1段落)ので,原告らが本件発明1,4の格別の効果として説明するものは,上記認識から容易に想到し得たものであり,また,引用発明2の食器かごを上記洗浄装置に使用することで容易に実現できる効果であって,予測し得ない顕著な作用効果ではない。
5 取消事由5(本件発明2,3の容易想到性の判断の誤り)について 上記のとおり本件発明1についての審決の判断に誤りはないから,本件発明2,3についての判断にも誤りはない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(本件発明1と引用発明1との一致点の認定の誤り)について (1) 原告らは,本件発明1には,「多人数で食事をする場所」と「食器を洗浄する場所」が存在し,食器収容工程は前者で,食器洗浄工程は後者でそれぞれ行われ,これをつなぐものとして搬入工程があるが,「多人数で食事をする場所」は学校給食における教室及び食堂に,「食器を洗浄する場所」は給食センターにそれぞれ限定されるのであり,洗浄場所中で流し台から洗浄機械に食器かごを移動させることは「搬入」とはいわず,引用発明1には,食器かごを食器を洗浄する場所に搬入する搬入工程について,開示も示唆もないから,引用発明1の「浸漬洗浄槽」が本件発明1の「食器を洗浄する場所」に当たるとした審決の認定は誤りであると主張する。
(2) 本件明細書(甲2)には,「多人数で食事をする場所」がいかなる場所であるかを直接説明する箇所はなく,「食器を洗浄する場所」を給食センターに限定する直接的な記載もない。原告らは,ホテル,レストラン及び社員食堂などでは,「食事をする場所」で残滓などがこぼれ落ちるままに食器を「立設」することや「立設」するために残滓などをゴミバケツのような容器に捨てて容器を空にする方法を選択することはあり得ないから,本件発明1の「多人数で食事をする場所」は,一斉に食事をして一斉に片付けを行う学校給食における教室及び食堂に限定され,「食器を洗浄する場所」は,おのずから給食センターに限定されると主張する。しかしながら,たとえ,学校給食において,利用者の前で食後の食器の残滓や水分を処理することが可能であるとしても,このためには残滓や水分の廃棄場所あるいは廃棄装置を当然に備えるか準備することを要し,これを備えるか準備していない場合には,廃棄装置が備えられた場所において残滓や水分の処理が行われることは他の食堂等と変わりはない。したがって,学校給食における教室及び食堂における残滓や水分の処理が,その他の食堂と異なることを根拠に本件発明1における「多人数で食事をする場所」が,学校給食における教室及び食堂に限定されると解することはできず,学校給食における教室及び食堂が含まれるとしても,当該用語から一般的に認識されるホテルやレストランを含む一般の食堂等をいうものと解するのが相当であり,そうである以上,「食器を洗浄する場所」が給食センターに限定されると解することもできない。また,原告らは,「搬入」という語が使用されていることからも,「食器を洗浄する場所」が個々の洗浄機を指しているのではなく,一連の洗浄設備を備えた空間そのものを指していることは明らかであり,キッチンのような洗浄場所中で流し台から洗浄機械に食器かごを移動させることは「搬入」とはいわないと主張する。しかし,「搬入」の語に,その作業距離の長短関係の概念が含まれるものではないから,「食器かごを移動させる」ことが「搬入」の概念に含まれないということはできない。もっとも,刊行物1(乙2)には,食器の「食器籠」への収容及び食器を収容した「食器籠」の「食器類浸漬自動洗浄装置」へのセットについては,具体的な説明がない。しかしながら,引用発明1の実施例が記載された第1図及びその説明(乙2,4頁第1段落〜6頁第2段落)には,食器を収容した「食器籠」に対して洗浄をどのように行うかの詳細が記載され,その洗浄を行うべく,食器を洗浄する場所と認め得る「浸漬洗浄槽3」の上部側に設置された「供給部4」に,食器を収容した食器籠を載置する作業が十分理解し得るのであり,また,「搬入」の語は,「はこび入れること。持ち込むこと」(広辞苑第5版)を意味するにすぎないから,引用発明1における食器を収容した「食器籠」を洗浄する場所である浸漬洗浄槽の上部側に設置された供給部に食器を収容した食器籠を載置する作業及びこの「食器籠」を供給部から何らかの手段により上記浸漬洗浄槽の洗浄液中に搬送する作業を,審決が,本件発明1の「搬入工程」に相当するとしたことに,何ら不合理なところはない。そうすると,本件発明1の「食器を洗浄する場所」は,その文言どおり,「多人数で食事をする場所」である一般の食堂等で食器を洗浄する(物理的な)場所を意味するものであって,食器洗浄機を設置した調理室,キッチンあるいは食器洗浄機そのもの,更に狭義には,食器洗浄機の食器を洗浄する部位(例えば浸漬洗浄槽)を指すものと解するのが相当である。
したがって,引用発明1の「浸漬洗浄槽」が本件発明1の「食器を洗浄する場所」に当たるとした審決の認定が誤りであるということはできない。
(3) 原告らは,引用発明1は,従来の給食システムを前提として,給食センター内に設置される洗浄システムの一部を構成する洗浄機に関する技術開示を行っているにすぎず,給食センター内では積み替えが行われなければならず,当然に食器に人の手が触れているはずであるから,引用発明1は「食器を洗浄する場所に運び込まれた食器かごを,該食器かごの中の食器に少しも手を触れることなく,該食器かごの中の食器と一緒に洗浄する食器洗浄工程」を有する(審決謄本5頁第3段落)とした審決の認定は明らかに誤りであると主張するので検討する。刊行物1(乙2)には,「食器籠を浸漬洗浄槽内の洗浄液中に浸漬し,この食器籠を搬送コンベヤにより一定方向に搬送させながら槽底部に設置した空気圧入による気泡発生装置により洗浄液中に発生させた気泡を洗浄液と共に食器籠内の食器に向って噴射し,清浄化して槽外に搬出するように構成した食器類浸漬物洗浄装置」(実用新案登録請求の範囲)と記載され,同記載によれば,引用発明1が「食器を収容した食器かごを,食器を洗浄する場所に搬入する搬入工程と,食器を洗浄する場所に運び込まれた食器かごを・・・該食器かごの中の食器と一緒に洗浄する食器洗浄工程」(審決謄本5頁第3段落)との一連の工程を備えることは明らかであるところ,当該一連の工程において,ひとたび食器籠が装置にセットされた後に洗浄が完了して搬出されるまでの間に人手が関与する可能性があることを示す記載は見当たらず,また,人手が関与しなければならない必要性も見いだし難い。そして,本件発明1において特定されている「食器を洗浄する場所に運び込まれた食器かごを,該食器かごの中の食器に少しも手を触れることなく,該食器かごの中の食器と一緒に洗浄する食器洗浄工程」は,この「食器洗浄工程」の中では搬入された食器かご内の食器に「少しも手を触れることなく」洗浄が行われることを意味しているにすぎず,「食器洗浄工程」に先立つ「食器収容工程」で食器が収容された時点以降,「搬入工程」をも含めて,いずれの時点においても「食器に少しも手を触れない」ことが特定されているものではないから,引用発明1における「食器洗浄工程」と何ら異なるものとはいえない。
(4) 以上検討したところによれば,本件発明1と引用発明1との一致点の認定に係る審決の誤りをいう原告らの主張はいずれも採用することができず,原告らの取消事由1の主張は理由がない。
2 取消事由2(本件発明1と引用発明1の相違点についての判断の誤り)について (1) 相違点1について 原告らは,従来食事をする場所で始めから食器を立てた状態で収容するという技術は存在せず,食器は平積みにされて収容され,食器を立てるということに対する動機付けは何ら存在しなかったから,引用発明1の図から食器収容工程において食器を立てて収容する方式を採用するということが,当業者が容易に想到し得るということはできないと主張する。刊行物1(乙2)の第1図には,「食器類浸漬自動洗浄装置の全体構成が示され,かつ,食器籠2に使用済みの食器1を垂直に立てて,互いに重ならないように収容し,食器1が食器籠2と共に洗浄されるようにしたものが示されている」(審決謄本3頁,4-1.c))ことは原告らの自認するところである。そして,「食器洗浄工程」においては,「食器を立設する」ことが良好な洗浄を行う上で必要なこととして認識され,また,「平積み」の食器を「立設する」べく移し換える作業が,きわめて作業者の労力を必要とするものであることの認識が存在していることは明らかであるから,「食器収容工程」において「食器を立設する」動機付けが存在しないということはできない。
したがって,「『使用済みの食器が立設した状態で且つ隣接の食器と重ならない状態で食器かごの中に収容される』態様は,甲第2号証(注,乙2)の中に,食器洗浄工程の態様として開示されているところであり,かかる態様を食器収容工程において実現することも当業者にとって容易である」(同6頁相違点1について)とした審決の判断が誤りであるということはできない。
(2) 相違点2について 原告らは,本件発明1と引用発明1の相違点2について,「食器洗浄方法における各工程で扱う食器かごについて考察すると,各工程を通して共通の食器かごを用いる場合と,食器の移し替えにより各工程毎に異なる食器かごを用いる場合とが想定されるところである。そして,上記のうちのいずれかのタイプを選択する際に,作業効率や食器かごのコスト等を考慮すれば,共通の食器かごを用いるタイプが好ましいことは明らかであるから,甲第2号証記載のものにおいて,各工程で共通の食器かごを用いるように選択することは,当業者が容易に想到し得る」(同6頁相違点2について)とした審決の判断が誤りであると主張する。しかしながら,当業者において,食器洗浄方法における各工程で扱う食器かごを,各工程を通して共通の食器かごを用いる方法と,食器の移し替えにより各工程において異なる食器かごを用いる方法とを想定することが明らかであるならば,上記各方法のいずれかを選択するに当たって,作業効率,食器かごのコスト等を考慮することは当然のことであり,この際に,より好ましいことが明らかな,各工程を通して共通の食器かごを用いる方法を採用することが,当業者にとって容易であることも明らかというべきである。
原告らは,多人数の食器を扱う場合に,食器収容工程,運搬工程及び食器洗浄工程を通じて同じ食器かごを使用するという発想は,本件発明1より以前には存在しておらず,食器収容工程と食器洗浄工程とでは異なるかごが使用されることが当業者にとっては当然のこととされ,何人もそのような工程を疑わなかったのであって,食器収容工程,運搬工程及び食器洗浄工程を通じて同じ食器かごを使用するということは,これまでの給食システムを根底から見直す極めて画期的なことであり,この点について,引用発明1には何らの開示も示唆もないと主張する。しかしながら,食器収容工程と食器洗浄工程とでは異なるかごが使用されることが当業者にとっては当然のこととされていたとの原告らの主張を認めるに足りる証拠はなく,かえって,刊行物1(乙2)の食器類浸漬自動洗浄装置においては,添付された図面を参酌すれば,食器かごの中に「食器を立設」して洗浄する装置が記載されており,食器を食器かごに収容されたままの状態で洗浄することが従来行われていたことが明らかであるところ,食器を移し替えて異なる食器かごを用いることについて記載は見当たらず,また,刊行物1記載の食器類浸漬自動洗浄装置が,「食器を収容した食器かごを,食器を洗浄する場所に搬入する搬入工程と,食器を洗浄する場所に運び込まれた食器かごを・・・該食器かごの中の食器と一緒に洗浄する食器洗浄工程」(審決謄本5頁第3段落)との一連の工程を備えることは上記のとおりであるから,そうである以上,食器を移し替えて異なる食器かごを用いなければならない必要性も見いだし難い。したがって,原告らの上記主張も採用することができず,本件発明1と引用発明1の相違点2について,当業者が容易に想到し得るとした審決の判断が誤りであるということはできない。
(3) 以上によれば,原告らの取消事由2の主張は理由がない。
3 取消事由3(本件発明4と引用発明2の相違点についての判断の誤り)について 原告らは,本件発明4と引用発明2の相違点アについて,「食器洗浄機用の食器かごであれば・・・当業者が適宜の洗浄方法を対象として使用し得るものと考えられる。・・・甲第3号証に記載の食器かごが用いられる食器洗浄方法を,上記相違点アの如く特定することは当業者にとって容易」(審決謄本7頁最終段落〜8頁第1段落)であり,また,同相違点イについて,「食器かごの相対する面に設けられた空間を,食器洗浄機のコンベアの吊手を嵌入するために用い得ることは明らかであり,かかる用途の特定を行うことは当業者が必要に応じて任意になし得る」(同8頁第4段落)とした審決の判断が誤りであると主張するので,検討する。本件発明4は,上記第2の2の【請求項4】に記載されているように,本件発明1〜3に係る食器洗浄方法を実施するのに使用する食器かごの具体的構成を特定するものであるが,その特定は,「該食器かごの中に立設した状態で収容した食器の上部を支えるのに充分な位置に,前記食器かごの底部の複数の丸棒と平行に丸棒が配置すると共に,前記食器かごの相対する面に,食器洗浄機のコンベアの吊手を嵌入する空間を有することを特徴とする」(甲2,1頁【請求項4】)と規定されるものであって,相違点アに係る部分については具体的な構成が特定されているものではなく,相違点イに係る部分については,「丸棒にて金網状に構成」「前記食器かごの底部の複数の丸棒と平行に丸棒が配置する」「食器洗浄機のコンベアの吊手を嵌入する空間を有する」というものであって,上記「空間」が,食器かごを移動する際の把持部を構成することが特定されているにすぎない。したがって,本件発明4の食器かごは,「食器洗浄機」に用いられるものであること,また,その際に「食器洗浄機のコンベアの吊手」により移動されるものであることを把握し得るのみで,「食器洗浄機」及び「食器洗浄機のコンベアの吊手」と関連した格別の構成が特定されているものではない。また,引用発明2の食器かごが,「丸棒にて金網状」及び「相対する面に空間を有する」との構成を備えている点で本件発明4と一致することは原告らの自認するところであり,使用される状況に合わせて必要な機械強度,具体的な形状を与えることは,いずれの分野においても設計段階において考慮されていることにかんがみれば,本件発明4の食器かごと引用発明2の食器かごとは,格別に異なる特徴を備えるものとはいえない。そして,一般に,食器かごの相対する面に設けられた空間の用途については,人が手で持ち運ぶため,搬送用器具の支持部材を係合させるため,あるいは収納保管時に保持部材で保持させるため等種々の利用の仕方が想定されるが,食器かごが用いられる食器洗浄機のタイプが,本件明細書において従来技術として紹介されている搬送用器具の支持部材として食器洗浄機のコンベアの吊手を備えるもの(甲2,段落【0003】特開昭50-663号公報)であれば,食器かごの備える上記空間を,コンベアの吊手を嵌入するために用いることも容易に推認されることは,審決の説示(審決謄本8頁第3段落)のとおりである。したがって,本件発明4と引用発明2の相違点ア,イについて,いずれも当業者が容易に想到し得るものであるとした審決の判断が誤りであるとはいえない。
原告らは,引用発明2が,「本考案は一般家庭において使用する食器洗浄機の食器かごに関する」(乙3,2頁〔産業上の利用分野〕)ものである以上,本件発明において多数者が使用した多量の使用済み食器を前提とする業務用の食器洗浄機とは発想がまったく異なり,家庭用と業務用は実質的に技術分野を異にすると主張するが,引用発明2の食器かごの上記構成は,家庭用であることによる特別の構成を有するものではなく,一般的な食器かごにすぎないから,原告らの上記主張は,相違点ア,イに係る容易想到性についての上記判断を何ら左右しない。
したがって,原告らの取消事由3の主張は理由がない。
4 取消事由4(本件発明1,4の顕著な作用効果の看過)について 原告らは,本件発明1により奏される効果は,引用発明1から当業者が予測し得る範囲内のものであるとし(審決謄本6頁第5段落),また,本件発明4により奏される効果は,引用発明2から当業者が予測し得る範囲内のものであるとした(同8頁第5段落)審決の判断は,本件発明1,4による,一貫して同じ食器かごを用いることができるようになったため,食器の積み替え,あるいは仕分けのために作業員を確保するという従来の学校給食の問題点は大きく解消され,かつ,食器洗浄工程において食器に人の手が触れないことを要件としているため,衛生的にも極めて優れたものであり,とくにO-157等の食中毒の問題を回避することができるという顕著な作用効果を看過した誤りがあると主張する。しかし,本件発明1,4が,学校給食に限定されるものではないことは,上記1(2)のとおりであり,また,「人の手を触れることなく」「一貫して同じ食器かごを用いること」自体は,引用発明1が既に備えているものであることは上記のとおりであるから,原告らの主張する上記各効果は,本件発明1,4の顕著な作用効果ということはできず,原告らの取消事由4の主張も理由がない。
5 取消事由5(本件発明2,3の容易想到性の判断の誤り)について 上記第2の2の本件明細書の特許請求の範囲の記載によれば,本件発明2,3は,本件発明1の構成を前提とするものということができるが,上記説示のとおり,本件発明1に係る取消事由1〜4は理由がないから,これを前提とする原告らの取消事由5の主張も理由がないことに帰する。
6 以上のとおり,原告ら主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告らの請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 岡本岳
裁判官 長沢幸男