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関連ワード 技術的範囲 /  債務不履行 /  業として実施 /  特許発明 /  実施 /  権原 /  方法の使用 /  業として /  差止請求(差止) /  侵害 /  損害額 /  損害額推定(損害額の推定) /  逸失利益 /  不法行為(民法709条) /  実施権 /  専用実施権 /  通常実施権 /  実施許諾(実施の許諾) /  請求の範囲 /  変更 /  釈明 /  公序良俗 / 
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事件 平成 15年 (ネ) 320号 特許権侵害差止等請求控訴事件

控訴人(1審原告) アンドウケミカル株式会社
同訴訟代理人弁護士 北方貞男
被控訴人(1審被告) 有限会社空閑園芸
同訴訟代理人弁護士 後藤昌弘
同 川岸弘樹
同補佐人弁理士 広江武典
同 宇野健一
裁判所 大阪高等裁判所
判決言渡日 2003/05/27
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は,控訴人の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 控訴の趣旨等 (1) 原判決を次のとおり変更する。
(2) 被控訴人は,控訴人に対し,180万円及びこれに対する平成13年9月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 控訴人の当審における予備的請求 被控訴人は,控訴人に対し,180万円及びこれに対する平成13年9月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4) 訴訟費用は,第1審における上記(2)の請求について生じた部分及び控訴について生じた部分は被控訴人の負担とする。
(5) 仮執行宣言 2 控訴の趣旨等に対する答弁 (1) 本件控訴を棄却する。
(2)ア 主位的答弁 控訴人の当審における予備的請求に係る訴えを却下する。
イ 予備的答弁 控訴人の当審における予備的請求を棄却する。
(3) 控訴費用は,控訴人の負担とする。
事案の概要
本件は,発明の名称を「育苗ポットの分離治具及び分離方法」とする後記特許権を有する控訴人が,被控訴人に対し,被控訴人が控訴人から後記貸与契約に基づいて貸与されたポットカッターを,同契約の条項に反して,控訴人以外の他社製造に係る連結育苗ポットの分離等に使用した行為が,上記特許権の侵害に当たるとして,特許権侵害に基づき損害賠償を請求した事案である。
原判決は,控訴人の請求を棄却したため,控訴人が控訴を提起した(なお,原審においては,控訴人は,被控訴人が上記特許発明技術的範囲に属するポットカッターを製造した旨主張し,ポットカッターの製造・使用の差止め及び廃棄を求め,原判決はこの請求についても棄却したが,控訴人はこの点については不服を申し立てていない。)。
また,控訴人は,当審において,予備的に,被控訴人に対し,被控訴人が控訴人から貸与されたポットカッターを控訴人以外の他社製造に係る連結育苗ポットの分離に使用した行為が,前記貸与契約上の債務不履行に当たると主張して,債務不履行に基づく損害賠償を請求した。
1 前提となる事実等 原判決3頁10行目の「以下」の次に「併せて」を加えるほかは,原判決2頁9行目から5頁3行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。
2 争点 (1) 被控訴人が,本件禁止条項に違反して,本件ポットカッターを他社製連結育苗ポットの分離に使用することは,本件特許権の侵害となるか。
(2) 被控訴人が,本件禁止条項に違反して,本件ポットカッターを他社製連結育苗ポットの分離に使用することは,本件貸与契約上の債務不履行となるか。
(3) 本件禁止条項は,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)19条が禁止する不公正な取引方法に該当し,公序良俗に違反するものとして無効か。
(4) 本件特許には無効理由が存在することが明白か。
(5) 控訴人の被った損害額
争点に関する当事者の主張
次のとおり付加,訂正するほかは,原判決6頁10行目から11頁4行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。
1 原判決6頁10行目及び同11行目を「1 争点(1)(被控訴人が,本件禁止条項に違反して,本件ポットカッターを他社製連結育苗ポットの分離に使用することは,本件特許権の侵害となるか)について」と改める。
2 原判決6頁下から2行目の後に,改行して,次のとおり加える。
「【控訴人の当審における追加主張】 (1) 特許権は,特許発明を排他,独占的に実施しうる権利である(特許法68条)。したがって,特許権者以外の者の特許発明実施は,すべて特許権侵害となる。
一方,通常実施権が設定された場合,設定契約により許諾された範囲内の特許発明実施は,特許権侵害にはならないものとされている(同法78条2項)。許諾範囲は契約により自由に定め得るものであり,強行法規に違反しない限り,契約に定めたとおりの効力を有する。すなわち,通常実施権の許諾範囲は,特許権侵害性を阻却する範囲を画するものであるから,許諾範囲内の実施は特許権侵害にならないが,許諾範囲を超えた実施は特許権侵害になる。
原判決は,本件禁止条項の有効性を認めつつ,その許諾範囲を超えた実施で,なお特許権侵害にならない場合があるとするものであり,背理である。
原判決が問題にしようとしたことは,本件禁止条項が特許権の濫用に当たるのかどうかのレベルでとらえるべきことであり,特許権の「非本来的使用」という概念を使用して,実施許諾範囲を逸脱した実施を正当化することに法的根拠はない。
(2) 本件ポットカッターは,作業効率を少なくとも2倍に上げる有用な道具であり,これを売却する場合は,売買価格は本件貸与契約の賃料よりはるかに高い価格に設定されるはずである。また,控訴人は,貸与した本件ポットカッターが破損した場合には無償で取り替えている。
したがって,本件貸与契約の本質が売買であるということはできない。」 3 原判決7頁16行目の後に,改行して,次のとおり加える。
「【控訴人の当審における追加主張に対する被控訴人の反論】 (1) 物権的権利としての特許権を侵害した場合には,特許権者に差止請求権及び損害賠償請求権が認められ,さらには刑事罰による制裁が存在するから,特許権侵害の範囲は明確であることが必要であるところ,通常実施権は,当事者が種々の要因に応じて定めるため,広範な態様になることは自明の理である。したがって,通常実施権の範囲を逸脱した行為が特許権を侵害するか否かを判断するためには,特許法が特許権をいかなる権利として定めているかという観点から判断することが必要である。
特許権とは,特許発明技術的範囲に含まれる物の生産,使用,譲渡等あるいは方法の使用から,特許権者が他人を排除できるという権利であり,通常実施権者は通常実施権を与えられることにより,特許権者からの差止請求や損害賠償請求を免れることになる。このような通常実施権の性質にかんがみれば,通常実施権はあくまでも特許法上認められる特許権を保護するためのものであり,特許権が上記のような性質を持つ権利である以上,特許法が保障する特許発明の無断実施自体の禁止という効力に直接関わり,当該効力を実現するために必要な範囲の行為に限って,通常実施権の許諾に付された制限に違反した行為が特許権侵害を構成すると解するべきである。
(2) 本件においては,被控訴人が本件ポットカッターを使用すること自体が特許権の本来的行使に当たるものであり,控訴人がかかる特許権の本来的行使について被控訴人に対して通常実施権を設定している以上,被控訴人が本件ポットカッターを使用する限りでは通常実施権によって認められた使用の範囲内というべきであり,被控訴人の行為は控訴人の特許権を侵害しない。
2 争点(2)(被控訴人が,本件禁止条項に違反して,本件ポットカッターを他社製連結育苗ポットの分離に使用することは,本件貸与契約上の債務不履行となるか)について 【控訴人の主張】 被控訴人が本件ポットカッターを他社製連結育苗ポットの分離に使用したことは,本件貸与契約上の債務不履行である。
【被控訴人の主張】 控訴人は,損害賠償請求の主張につき,原審の平成14年9月27日の第7回弁論準備手続期日において,本件の訴訟物を特許権侵害に基づく損害賠償請求に限定しているのであり,控訴人の主張は,故意又は重大な過失により時機に後れて提出された攻撃防御方法として却下されるべきである。
上記申立てが理由がないとすれば,控訴人の前記主張は争う。」 4 原判決7頁17行目の「同(3)」を「争点(3)」と,同20行目から21行目にかけての「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(独占禁止法)」を「独占禁止法」と,10頁7行目の「この金額が」から同8行目末尾までを「この金額が,特許法102条2項の適用ないしは類推適用により原告が受けた損害の額と推定される。」と各改める。
5 原判決10頁8行目の後に,改行して,次のとおり加える。
「(3) 控訴人は,本件発明の実施品である本件ポットカッターを販売したり賃貸することにより利益を上げるのではなく,原告ポットの販売促進品として顧客に貸与することにより原告ポットの売上増進を図って利益を上げようとする実施形態を採っている。その目的のために,控訴人は,被控訴人に対して,本件ポットカッターにつき,原告ポットの分離にのみ使用することの制限を付して使用許諾した。
控訴人は,貸与品を使用許諾の範囲を超えて他社製連結育苗ポットの分離に使用されることによって,本件発明を他社製連結育苗ポットの分離に使用されない利益を喪失した。
これによる逸失利益損害額の直接的な立証は困難であるから,特許法102条2項の適用ないしは類推適用により,侵害者が得た利益から控訴人の受けた損害額を推定すべきである。
また,特許法105条の3により,損害額を180万円と認定することを求める。」 6 原判決10頁25行目の「損害賠償義務が」を「損害賠償義務を」と,同行目から同末行にかけての「前記2、争点(2)【被告の主張】(2)」を「前記1,争点(1)【被控訴人の主張】(2)」と各改め,11頁4行目の後に,改行して,次のとおり加える。
「(4) 債務不履行に基づく損害賠償請求については,特許法上の損害額の推定規定を適用ないし類推適用することはできない。」
当裁判所の判断
1 争点(1)について 当裁判所も,被控訴人が,本件禁止条項に違反して,本件ポットカッターを他社製連結育苗ポットの分離に使用することは,本件特許権の侵害を構成しないものと判断する。その理由は,次のとおりである。
(1) 前記引用に係る原判決第2の1(4)によれば,本件貸与契約は,本件ポットカッターの賃貸借契約の形式を採用しているが,その内容は,控訴人が被控訴人に対し,本件発明の実施品である本件ポットカッターの占有を有償で移転し,これを連結育苗ポットの分離という本件発明の目的を達成するような方法で使用することを認めるというものであり,実質的には,本件発明についての特許出願人である控訴人が育苗業者である被控訴人に対し,本件発明が特許を受けた場合は,実施態様を使用(特許法2条3項)のみに限定した上で,本件発明を業として実施することを許諾したもの(同法78条1,2項)と解することができる(本件貸与契約が本件特許権の実施許諾の性質を有することは,当事者双方もこれを認めている。)。
(2) 許諾による通常実施権(以下,単に「通常実施権」という。)の法的性質は,許諾者である特許権者又は専用実施権者(以下「特許権者等」という。)と通常実施権者との間における,通常実施権者が特許権者等から差止請求権や損害賠償請求権の行使を受けないことを本質的な内容とする債権関係と解されるところ,その範囲は当事者間の契約(設定行為)によって決定されるもので,これを特許権の全範囲に設定することもできるし,また,その一部に制限して設定することもできる(同法78条2項)。
上記制限としては,時間的制限,場所的制限,内容的制限があり,そのうち内容的制限には,特許法2条3項が定める生産,使用,譲渡等の実施態様のうち一つ又は複数に制限する場合,特許請求の範囲の複数の請求項のうち一部の実施のみに制限する場合,複数の分野の製品に利用できる特許について分野ごとに制限する場合等が考えられる。
そして,通常実施権者がその制限範囲を超えて特許発明業として実施するときは,正当な権原なく特許発明業として実施する行為として特許権の侵害となり,特許権者等に,差止請求権(特許法100条)や不法行為に基づく損害賠償請求が認められることになる。
これに対し,現実の通常実施権設定契約において,原材料の購入先,製品規格,販路,標識の使用等について種々の約定がなされることがあるとしても,これらは,特許発明実施行為とは直接関わりがなく,いわば,それに付随した条件を付しているにすぎず,その違反は,単なる契約上の債務不履行となるにとどまると解するのが相当である。
(3) 本件貸与契約は,前記のように,その実質は,本件特許権についての通常実施権を許諾することを約したものと解されるが,そのうちの本件禁止条項は,通常実施権の範囲につき,実施態様を使用に限定するだけではなく,さらに,本件ポットカッターを他社製連結育苗ポットの分離等に用いてはならないという制限を付する旨の合意であると解される。しかし,本件特許権に係る特許請求の範囲は,原判決別紙特許公報該当欄請求項1ないし4記載のとおりであり,本件ポットカッターにより切断される育苗ポットについては,「カップ状に成形された育苗ポットを縦横方向に整列状態で連設した樹脂成形体」と定めているにすぎないから,本件ポットカッターをそのような連結育苗ポットに用いるものである限り,さらにその育苗ポットの供給先がどこであるかというような点は,本件発明の実施行為と直接関係がなく,本来は,本件特許権とは無関係に,被控訴人において決定すべき事柄であることにかんがみると,本件禁止条項は,通常実施権の範囲を制限するものではなく,これとは別異の約定であるというべきである。
(4) そうすると,本件禁止条項の違反は,本件貸与契約上の債務不履行となることはともかく,本件禁止条項の違反等を原因として本件貸与契約が解除されない限りは,被控訴人が正当な権原なく本件発明を業として実施するものとはいえず,したがって,本件特許権の侵害となるということはできないから,控訴人の被控訴人に対する本件特許権の侵害に基づく損害賠償請求は理由がない。
2 争点(2)について (1) 控訴人が,原審の平成14年9月27日の第7回弁論準備手続期日において,口頭で,本件の訴訟物は特許権侵害に基づく損害賠償請求のみであると述べたことは当裁判所に顕著であり,これは,とりもなおさず,控訴人が本件訴訟においては債務不履行に基づく損害賠償請求をしない趣旨を手続的に明確にしたものといえる。そして,現実に,原審においては,債務不履行に基づく損害賠償請求の当否について主張立証がなされてこなかったことは,訴訟の審理の経過及び内容に照らし,明らかである。
そうであるにもかかわらず,控訴人が,当審において,特許権侵害に基づく損害賠償請求に加えて,新たに債務不履行に基づく損害賠償請求を追加的,予備的に申し立てることは,上記手続上の釈明に反して,請求を変更するもの(民事訴訟法143条1項)というべきである。
(2) 本件において,債務不履行に基づく損害賠償請求の当否を判断するためには,本件禁止条項の有効性,すなわち,本件禁止条項が独占禁止法2条9項に定める不公正な取引方法に該当し,公序良俗違反により無効であるか否かを審理する必要がある。
また,その結果,本件禁止条項が無効ではないと判断され,被控訴人に債務不履行に基づく損害賠償責任が認められる場合には,上記債務不履行により控訴人に生じた損害(得べかりし利益)の有無及び額について審理しなければならず(債務不履行に基づく損害賠償請求の場合には,特許権の侵害を前提とする特許法102条2項又は同法105条を適用ないし類推適用することはできない。),当審において,控訴人は,改めて控訴人が債務不履行により被った損害の有無及び額について立証する必要がある。
(3) そうすると,控訴人の当審における予備的請求の申立て,すなわち請求の変更は,著しく訴訟手続を遅滞させるものであるというべきであるから,民事訴訟法143条1項ただし書により,これを許さないことにする。
3 結論 以上によれば,その余の争点について判断するまでもなく,控訴人の特許権侵害に基づく損害賠償請求は理由がなく,これと同旨の原判決は正当として是認できるから,本件控訴は理由がない。
よって,主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結の日 平成15年4月15日)
裁判長裁判官 竹原俊一
裁判官 小野洋一
裁判官 中村心
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