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関連審決 異議2001-70457
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  上位概念 /  分割出願 /  特許出願日 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  構成要件 /  設定登録 /  変更 /  取消決定 /  異議申立 / 
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事件 平成 14年 (行ケ) 234号 特許取消決定取消請求事件
原告 富士ゼロックス株式会社
訴訟代理人弁理士 早川明
被告 特許庁長官太田信一郎
指定代理人 吉國信雄,山ア豊,高木進,林栄二
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/06/03
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
「特許庁が異議2001-70457号事件について平成14年3月22日にした決定を取り消す。」との判決。
事案の概要
本件は,後記本件発明の特許権者である原告が,特許異議申立て事件において特許庁により本件特許を取り消す旨の決定がされたため,同決定の取消しを求めた事案である。
なお,本判決においては,書証等を引用する場合を含め,公用文の用字用語例に従って表記を統一した部分がある。
1 前提となる事実等 (1) 特許庁における手続の経緯 (1-1) 本件特許 特許権者:富士ゼロックス株式会社(原告) 発明の名称:「画像形成装置」 特許出願番号:特願平11-143071号(特願平1-51559号からの分割出願) 特許出願日:平成1年3月3日(特願平1-51559号の出願日) 設定登録日:平成12年6月9日 特許番号:第3075282号 (1-2) 本件手続 特許異議事件番号:異議2001-70457号 訂正請求日:平成13年9月3日(本件訂正) 異議の決定日:平成14年3月22日 決定の結論:「訂正を認める。特許第3075282号の請求項1ないし4に係る特許を取り消す。」 決定謄本送達日:平成14年4月10日(原告に対し) (2) 本件発明の要旨(本件訂正後のもの。以下,各請求項に係る発明を「本件発明1」のようにいう。)【請求項1】用紙に記録を行う記録部と, 前記記録部よりも下方に,上下方向に複数重ねられる形で配置される,用紙を収容する用紙トレイと, 前記用紙トレイに積載された用紙に当接して送り出す給紙手段と, 前記画像形成装置本体側面に沿って,下から上に向かって用紙を通過させる用紙搬送路と, 前記複数の用紙トレイの各トレイ毎に対応して設けられ,前記給紙手段によって送り出された用紙をガイドして前記用紙搬送路に合流させる第1のガイド部と,本体側面に沿って下から上に向かって用紙をガイドする第2のガイド部とを備えたガイド手段と, 複数の用紙トレイの各用紙トレイ毎に対応して,前記ガイド手段の用紙搬送方向下流側に設けられ,前記用紙搬送路で用紙を搬送する搬送装置と, 画像形成装置本体に開閉可能に設けられた,装置側面の少なくとも一部をカバーするドア部材と, 前記ドア部材の内側に設けられ,下から上に向かって用紙をガイドする第3のガイド部と,を有する画像形成装置であって, 前記用紙搬送路の前記搬送装置の上流側の少なくとも一部は前記第2のガイド部と前記第3のガイド部とによって形成され,さらに前記用紙搬送路の前記搬送装置の下流側に第3のガイド部が設けられたことを特徴とする画像形成装置。 【請求項2】前記ドア部材は,搬送装置部分をカバーすることを特徴とする請求項1に記載の画像形成装置。 【請求項3】前記ドア部材は,前記用紙搬送路の複数の用紙トレイにまたがる箇所をカバーすることを特徴とする請求項1または2に記載の画像形成装置。 【請求項4】前記ドア部材は,前記用紙搬送路の複数の用紙トレイにまたがる箇所の全てをカバーすることを特徴とする請求項3に記載の画像形成装置。 (3) 決定の理由 決定の理由は,【別紙】の「異議の決定の理由」(ただし,「5.本件発明1の特許について」以下の部分の抜粋)に記載のとおりである。要するに,本件訂正を認めるとした上で,訂正後の本件発明1ないし4は,いずれも刊行物1ないし3に記載のものから当業者が容易に発明できたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。 なお,刊行物1とは,実願昭61-81016号(実開昭62-194634号)のマイクロフィルム(本訴甲3,これに係る発明を「引用発明1」という。),刊行物2とは,特開昭64-53944号公報(本訴甲4,これに係る発明を「引用発明2」という。),刊行物3とは,特開昭59-207364号公報(本訴甲5,これに係る発明を「引用発明3」という。)である。
2 原告の主張(決定取消事由)の要点 (1) 取消事由1(本件発明1に関する相違点1の判断の誤り) 本件発明1における「ガイド手段」は,「前記複数の用紙トレイの各トレイ毎に対応して設けられ」ているのに対し,刊行物2には,一つのカセット42に対応して仕切壁54の案内突条56と一端部54aが設けられた構成のみが示されているにすぎない。したがって,「本件発明1のガイド部1及びガイド部2に相当するガイド部材が記載されており」との決定の認定は誤りである。
また,刊行物2には,一つのカセット42に対応して仕切壁54の案内突条56と一端部54aが設けられた構成のみが示されているにすぎない。したがって,何ら具体的なガイド手段についての記載がない刊行物1に刊行物2に記載されたガイド部材を採用することができるとする決定は,飛躍しすぎている。
(2) 取消事由2(本件発明1に関する相違点2の判断の誤り) 刊行物1記載のものに刊行物2に記載されたガイド部材を適用できないことは前記のとおりである上,刊行物2には,本件発明1の構成要件である「搬送装置」に該当するものは見当たらない。
刊行物2には,一対の搬送ローラ対24が示されているが,この一対の搬送ローラ対24は装置本体側の搬送手段22の一部を構成するものであり,カセット36又は42からは直接搬送ローラ対24に導かれるようになっており,本件発明1に規定する用紙搬送路の用紙を搬送する「搬送装置」に該当するものではない。
したがって,決定は,刊行物1に記載されていないガイド手段と刊行物2に記載されていない搬送装置とを組み合わせていることになり,論理の飛躍がある。
(3) 取消事由3(本件発明1に関する相違点3の判断の誤り) (3-1) 決定は,刊行物1記載の発明の認定を誤っている。
すなわち,刊行物1においては,複写機本体とキャビネットとの間の紙詰まりを問題にしているのであり,複写機本体とキャビネットにそれぞれ側壁を設けた場合には二度手間になるのに対し,刊行物1においては,一度の手間で済むので,「容易に紙詰まりを取り除くことができる。」と述べているにすぎない。
ところで,刊行物1には,キャビネットの内部については,搬送ローラ対80,74,68が示されているが,用紙搬送路の具体的構成についての記載はない。刊行物1における82,84はキャビネットの側壁として認識されており,刊行物1の図面を参照すれば,側壁82,84と用紙搬送路とは独立であり,関連性がないとするのが自然である。すなわち,キャビネットの側壁82,84を開いた場合であっても,用紙搬送路のガイドはそのまま残り,搬送ローラ間に詰まった用紙を取り除くには,用紙搬送路のガイドをさらに開く等の操作が必要である。
したがって,刊行物1記載の発明は,決定のように「紙詰まりが発生した場合であっても,キャビネット側壁82を開閉することにより,紙詰まりを簡単に取り除くことができる効果が記載されている。」と広く認定すべきではなく,複写機本体とキャビネットとの間の紙詰まりに限定して解釈すべきである。
(3-2) 刊行物2における開閉部材52は,手差しのテーブルを兼ねるものであり,刊行物1のキャビネットの側壁に適用できるものではない。
また,刊行物3には,単にシートを搬送する搬送路の片面を扉のガイド板として構成したものが示されているにすぎず,2つのガイド部に相当する構成が示されているのみであり,本件発明1のように「第3のガイド部」に相当する構成は示されておらず,同様に刊行物1のキャビネットの側壁に適用できるものではない。
(3-3) 以上からすれば,決定の相違点3についての判断は誤りである。
(4) 取消事由4(本件発明1に関する相違点4の判断の誤り) 刊行物3は,単にシートを搬送する搬送路の片面を扉のガイド板として構成したものが示されているにすぎず,2つのガイド部のみが示されているだけである。それに対し,本件発明1は,第1のガイド部と第2のガイド部との関連で第3のガイド部を有するものであり,第1のガイド部でガイドされた用紙と第2及び第3のガイド部でガイドされた用紙との双方が詰まりやすい搬送装置部分の紙詰まりを,搬送装置の上流及び下流で第3のガイド部を開放することにより,容易に除去できるようにしたものである。刊行物3は,本件発明1のように2つの用紙搬送路が合流する部分の用紙除去に関しては何ら示唆していない。
決定の相違点4についての判断は誤りである。
(5) 取消事由5(本件発明1の相違点1ないし4の相乗効果の看過) 決定は,相違点1ないし4の一つ一つについて容易性を判断しているが,本件発明1は,相違点1ないし4が相まって,「ドア部材がジャムの生じやすい合流部分を含む搬送装置の上流及び下流に第3のガイド部を有する構成としたので,ドア部材の開放により,搬送装置の上流及び下流で第3のガイド部が開かれ,ジャム等の処理はより容易である。」とする効果を奏するのであり,決定は,この点について判断していない。
(6) 取消事由6(本件発明2ないし4に関する進歩性判断の誤り) 本件発明2ないし4は,いずれも本件発明1を引用しているので,本件発明1に関する前記の点に照らせば,本件発明2ないし4が刊行物1ないし3に記載されたものから当業者が容易に発明できたものであるとの決定の認定は誤りである。
3 被告の主張の要点 (1) 取消事由1(本件発明1に関する相違点1の判断の誤り)に対して 決定は,送給ローラ44によって送り出されたシート部材をガイドする役割を担っているから,仕切壁54の一端部54aの内面に設けられた案内突状56の上縁が第1ガイド部材に相当し,また,本体側面に沿って用紙を下から上に向かってガイドする役割を担っているから,仕切壁54の一端部54aの外面が第2ガイド部に相当すると認定している。本件発明1の「第1のガイド部材」は,給紙手段によって送り出された用紙をガイドして用紙搬送路に合流させるためのガイド部であり,「第2のガイド部材」は,本体側面に沿って下から上に向かって用紙をガイドするガイド部であるから,刊行物2には,本件発明1のガイド部1及びガイド部2に相当するガイド部材が記載されているとした決定の認定に誤りはない。
また,刊行物1に記載されたものは,複数段からなるカセットから用紙がフィードロールによって給紙されるものであり,カセットから給紙される用紙は,それぞれ,搬送ローラ対によって下から上部に搬送されるものであり,明記されていないとしても,カセットからの用紙供給と下から上部への用紙供給を円滑にするための手段が設けられていることは当然のことである。してみると,刊行物2には,カセットからの用紙供給を円滑に行うための第1ガイド部材と下から上部に用紙を円滑に搬送するための第2ガイド部材が開示されているのであるから,それらの2つのガイド部材を刊行物1記載の用紙供給機構に適用することに格別の困難はない。論理に飛躍があるとする原告の主張は失当である。
(2) 取消事由2(本件発明1に関する相違点2の判断の誤り)に対して 本件発明1の「搬送装置」は,画像形成装置本体側面に沿って,下から上に向かって用紙を通過させる搬送路で用紙を搬送するものであるが,刊行物2には,用紙を搬送する手段としての搬送ローラ対24がガイド部材とともに記載されている。
刊行物2に記載されたガイド部材は,搬送される用紙を円滑に案内するために設けられたものであり,その案内機能は,用紙を送り出す搬送装置の有無にかかわらず同様に発揮できるものであり,刊行物2においても用紙が搬送されていくことはいうまでもないことであるので,本件発明1で特定しているような「搬送装置」に該当するものが見当たらないことをもって,刊行物2記載のガイド部材を刊行物1記載のものに適用し難いとする原告の主張は,理由のないものである。
(3) 取消事由3(本件発明1に関する相違点3の判断の誤り)に対して 刊行物1には,側壁82を開けることにより,容易に紙詰まりを取り除くことができることが記載されていることは明らかであり,決定の認定に誤りはない。また,一般に,用紙搬送路上の紙詰まりの箇所がどこであれ,側壁の開かない画像形成装置に比べ,側壁が開く構造のものの方が,用紙搬送路を開放して紙詰まりを取り除く作業を容易にできることは明らかであるので,刊行物1記載の発明の効果を複写機本体とキャビネットとの間の紙詰まりに限定して解釈すべきものでもない。
刊行物1記載の発明に関する決定の認定の誤りをいう原告の主張は失当である。
そして,刊行物2あるいは刊行物3には,「上下方向に用紙を搬送する装置において,開閉する扉の内側にガイド部を設け,紙詰まりの処理を容易にすること」が記載されている。相違点3に関して,「第3のガイド部」に相当する構成が刊行物2あるいは刊行物3に開示されているとした決定の認定には誤りはない。
また,手差しのテーブルを兼ねるものであろうとなかろうと,刊行物2に記載のものは,「上下方向に用紙を搬送する装置において,開閉する扉の内側にガイド部を設け,紙詰まりの処理を容易にする」ものであることは明らかであるから,決定の認定に誤りはない。
(4) 取消事由4(本件発明1に関する相違点4の判断の誤り)に対して 決定は,相違点1ないし3について検討した中で,2つの用紙搬送路が合流する部分の用紙除去に関しての判断は行っているのであって,2つの用紙搬送路が合流する部分の用紙除去に関しての判断を行うために刊行物3を引用したのではない。
決定が刊行物3に記載のガイド板20を引用したのは,搬送装置の下流側にも第3のガイド部材が設けられていると特定した点に対してであって,特定した点には格別のものがないことを示すために引用したものであり,刊行物3記載のガイド部を採用すれば,搬送装置の上流側は第2のガイド部と第3のガイド部によって形成されることとなり,下流側には第3のガイド部が設けられることとなるのであるから,決定の認定に誤りはない。
(5) 取消事由5(本件発明1の相違点1ないし4の相乗効果の看過)に対して 原告の主張する効果は,相違点4における効果と同じものであり,相違点1ないし4が相まって生じる効果とはいえないものである。原告の主張は失当である。
(6) 取消事由6(本件発明2ないし4に関する進歩性判断の誤り)に対して 以上のとおり,本件発明1を取り消すとした決定には誤りはないのであるから,本件発明2ないし4についての決定の認定にも原告主張のような誤りはない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(本件発明1に関する相違点1の判断の誤り)について 原告は,本件発明1における「ガイド手段」は,「前記複数の用紙トレイの各トレイ毎に対応して設けられ」ているのに対し,刊行物2には,一つのカセット42に対応して仕切壁54の案内突条56と一端部54aが設けられた構成のみが示されているにすぎないから,刊行物2に「本件発明1のガイド部1及びガイド部2に相当するガイド部材が記載されて」いるとの認定は誤りであると主張する。
検討するに,決定は,「刊行物2には,本件発明1のガイド部1及びガイド部2に相当するガイド部材が記載されており…,それらの部材は,それぞれ,給紙手段によって送り出された用紙を円滑にガイドする機能と本体側面に沿って下から上に向かって用紙をガイドする機能を有している」と,刊行物2の第1ガイド手段が給紙手段によって送り出された用紙をガイドする機能を有し,第2ガイド部が本体側面に沿って下から上に向かって用紙をガイドする機能を有しているから,これらが本件発明1のガイド部1及びガイド部2に相当すると認定しているのであって,「前記複数の用紙トレイの各トレイ毎に対応して設けられ」ていることをも記載されていると認定しているものではない。そして,「複数の用紙トレイの各トレイ毎に対応して」ガイド部材を設けることについては,決定は,「刊行物1には…給紙手段によって送り出された用紙を円滑にガイドする手段と本体側面に沿って下から上に向かって用紙をガイドするガイド手段がなければ用紙が円滑に搬送されていかないことは明らかである」と説示し,また,刊行物1のガイド部材として,刊行物2に記載されたガイド部材を採用すると本件発明1のガイド部材になると判断しているのであるから,決定は,刊行物1には複数の用紙トレイがあり,各トレイ毎にガイド部材がなければ用紙が円滑に搬送されていかないので,刊行物2のガイド部材を刊行物1の各トレイ毎のガイド部材として採用することは容易であると判断した趣旨であると解される。そして,この判断は,相当として是認し得るものである。よって,原告の上記主張は採用の限りではない。
さらに,原告は,刊行物2には,一つのカセット42に対応して仕切壁54の案内突条56と一端部54aが設けられた構成のみが示されているにすぎず,何ら具体的なガイド手段についての記載がない刊行物1に,刊行物2に記載されたガイド部材を採用することができるとするのは飛躍しすぎていると主張している。
しかしながら,刊行物1の各トレイ毎にガイド部材が必要なことは前記のとおりであり,この各トレイ毎のガイド部材に刊行物2のガイド部材を採用することが容易であることも前判示のとおりであるから,原告の主張は採用することができない。
2 取消事由2(本件発明1に関する相違点2の判断の誤り)について 原告は,刊行物2の一対の搬送ローラ対24は本件発明1の搬送装置に該当するものではなく,刊行物2には搬送装置は記載されていないから,刊行物1に記載されていないガイド手段と,刊行物2に記載されていない搬送装置とを組み合わせている決定の論理には飛躍があると主張する。
検討するに,刊行物2の一対の搬送ローラ対24は,本件発明1に規定する用紙搬送路の用紙を搬送する搬送装置に該当するものではないとしても,装置本体側の搬送手段22の一部を構成するものであり,カセット36又は42からシート部材を直接搬送ローラ対24に導くものである(この点は原告の認めるところである。)。そして,カセットと搬送ローラ対との途中にガイド部材があるのであるから,その機能は本件発明1のガイド部材と異なるものではなく,搬送ローラ対が用紙搬送路にないことをもって,刊行物2のガイド部材を刊行物1のガイド部材として採用することの妨げになると認めることはできない。原告の主張は採用し得ない。
なお,上記のほか,原告の主張中には,本件発明1は,第1のガイド部,第2のガイド部,第3のガイド部及び搬送装置の位置関係が重要であるとする部分もあるが,相違点2は,搬送装置がガイド手段の用紙搬送方向下流側に設けられていることに関するものであり,刊行物2においても,搬送装置は,ガイド手段の用紙搬送方向下流側に設けられていると解されるので,刊行物2のガイド部材を刊行物1に採用した場合には,本件発明1の位置関係と同じになるというべきである。
原告主張の取消事由2は理由がない。
3 取消事由3(本件発明1に関する相違点3の判断の誤り)について 原告は,本件発明1が搬送装置部分の紙詰まりを問題にしているのに対し,刊行物1は,複写機本体とキャビネットとの間の紙詰まりを問題にしており,「容易に紙詰まりを取り除くことができる。」という効果は文言上共通するが,技術的意味を全く異にしており,刊行物2における開閉部材52は手差しのテーブルを兼ねるものであり,刊行物1のキャビネットの側壁に適用できるものではなく,また,刊行物3には,「第3のガイド部」に相当する構成は示されておらず,同様に刊行物1のキャビネットの側壁に適用できるものではないと主張する。
検討するに,決定の認定した相違点3は,「本件発明1において,『前記ドア部材の内側に設けられ,下から上に向かって用紙をガイドする第3のガイド部』を有しているのに対して,刊行物1に記載されたものは,ドア部材の内側のガイド部材についての記載がない点」であり,紙詰まりに関する事項は,相違点3とは無関係である(なお,刊行物1記載の発明の認定の誤りをいう原告の主張につき,付言しておくと,刊行物1における上端部分が複写機本体10の下部側壁を構成するキャビネット12の側壁82,84は,複写機本体10の下部及びキャビネット12の両者を覆うものであり,図面を参照しても,用紙搬送路の垂直部分全体をカバーするものであるから,側壁を開けるとすべての用紙搬送路における紙詰まりに対処できるものと認められる。仮に,原告の主張するとおり,側壁82,84と用紙搬送路とは独立で,キャビネットの側壁82,84を開いても用紙搬送路のガイドはそのまま残り,搬送ローラ間に詰まった用紙を取り除くには,用紙搬送路のガイドをさらに開く等の操作が必要なものであるとしても,刊行物2又は刊行物3に記載された,開閉する扉の内側にガイド部を設ける構成を,刊行物1のドア部材に適用すれば,本件発明1と同様に,ドア部材の開閉により用紙搬送路の開閉ができ,ジャム等が生じたときの用紙の除去作業を容易に行うことができるとの作用効果を奏するようになるので,原告の主張する上記の点は,決定の結論に影響しない。)。
また,原告は,決定の刊行物2及び刊行物3の記載の認定並びに一致点の認定を争わず,認めているのであるから,刊行物1に「画像形成装置本体に開閉可能に設けられた,装置側面の少なくとも一部をカバーするドア部材を有する」ことが記載されていること,刊行物2に「下から上に向かって用紙をガイドする案内突条86が,開閉部材52の内側に設けられている構成が開示されている」こと,刊行物3に「開閉する扉13の内側に,ガイド板20を設け,紙詰まりの処理を容易にする」ことが開示されていることは,いずれも認めているのであって争いがない。
そうすると,刊行物2及び刊行物3に開示されている,開閉する扉の内側にガイド部を設ける構成を,刊行物1のドア部材に適用すれば,開閉する開閉部材の内側にあり,下から上に向かって用紙をガイドするガイド部となり,これは本件発明1の第3のガイド部に相当することは明らかである。よって,決定の相違点3の判断に誤りがあるとすることはできない。
なお,原告は,刊行物2及び刊行物3に記載された技術を刊行物1のキャビネットの側壁に適用できないとも主張するが,その理由を示していないだけでなく,適用できないとする理由も見当たらないので,上記主張は採用することができない。
さらに,被告の主張に対する原告の反論中に,本件発明1は,特に第1のガイド部,第2のガイド部,第3のガイド部及び搬送装置の位置関係を規定することにより効果を奏するのであり,「上下方向に用紙を搬送する装置」と上位概念化ないし一般化することは,本件発明1の要旨を逸脱した認定であるとする部分がある。
しかし,このような上位概念化などは相違点3の判断に影響するものではないから,原告の主張は結論に影響を及ぼさない事柄に関するものである。なお,刊行物3の実施例においては,用紙の搬送は上から下方向であるが,「本実施例では垂直搬送部での紙の流れは上から下であるが,これは下から上の場合であってもよいことは明らかである。」(甲5の2頁右下欄)との記載があり,下から上に向かって用紙をガイドすることも開示されている。
原告主張の取消事由3は理由がない。
4 取消事由4(本件発明1に関する相違点4の判断の誤り)について 原告は,刊行物3は,2つのガイド部が示されているだけであり,2つの用紙搬送路が合流する部分の用紙除去に関しては何ら示唆していないのに対し,本件発明1は,第1のガイド部と第2のガイド部との関連で第3のガイド部を有するものであり,第1のガイド部でガイドされた用紙と第2及び第3のガイド部でガイドされた用紙との双方が詰まりやすい搬送装置部分の紙詰まりを,搬送装置の上流及び下流で第3のガイド部を開放することにより,容易に除去できるようにしたものであると主張する。
決定は,相違点4として,「本件発明1において,『前記用紙搬送路の前記搬送装置の上流側の少なくとも一部は前記第2のガイド部と前記第3のガイド部とによって形成され,さらに前記用紙搬送路の前記搬送装置の下流側に第3のガイド部が設けられている』のに対して,刊行物1に記載されたものにおいてはガイド部材についての記載がない点」と認定した上,相違点4の判断として,「上記で述べたように,第1のガイド部,第2のガイド部材及び第3のガイド部を設けることは,当業者であれば容易に想到することができたものと認められるが,特に,刊行物3記載のガイド板20(本件発明1の第3のガイド部に相当する)は,搬送装置の上下に設けられており,刊行物3記載のガイド部を採用すれば,当然の事ながら,搬送装置の上流側は第2のガイド部と第3のガイド部によって形成されることとなり,また,搬送装置の下流側には,第3のガイド部が設けられることとなり,相違点4の構成を特定した点に格別のものがあるとは認められない。」と説示した。
ところで,刊行物1のガイド部材として,刊行物2及び刊行物3のガイド部材を採用して,本件発明1の第1のガイド部,第2のガイド部及び第3のガイド部に相当する構成を設けることが容易であることは前判示のとおりであり,刊行物3にはガイド板20が搬送装置の上下に設けられていることも図面上明らかである。したがって,決定が,刊行物1のガイド部として,刊行物3記載のガイド部を採用すれば,搬送装置の上流側は第2のガイド部と第3のガイド部によって形成されることとなり,また,搬送装置の下流側には,第3のガイド部が設けられることとなると判断したことに誤りはない。原告の主張は,相違点4の判断の当否に影響を及ぼさないものであって,採用することができない。
原告主張の取消事由4は理由がない。
5 取消事由5(本件発明1の相違点1ないし4の相乗効果の看過)について 原告は,本件発明1は,相違点1ないし4に係る構成が相まって,また,個々の構成要件を組み合わせることにより,「ドア部材がジャムの生じやすい合流部分を含む搬送装置の上流及び下流に第3のガイド部を有する構成としたので,ドア部材の開放により,搬送装置の上流及び下流で第3のガイド部が開かれ,ジャム等の処理はより容易である。」とする効果を奏するのであり,決定はこの顕著な作用効果を看過していると主張する。
しかしながら,刊行物1のガイド部材を本件発明1の第1のガイド部,第2のガイド部及び第3のガイド部に相当するガイド部材とすることが容易であることは前判示のとおりであり,また,そのようなガイド部材とすれば,前記原告の主張する作用効果を奏することも明らかである。
したがって,原告の主張する作用効果は,予測困難な顕著な作用効果であるとはいえず,原告の主張は採用することができない。
6 取消事由6(本件発明2ないし4に関する進歩性判断の誤り)について 原告の主張は,本件発明1に関する決定の判断が誤っていることを前提に,本件発明2ないし4は,いずれも本件発明1を引用しているので,本件発明2ないし4が刊行物1ないし3に記載されたものから当業者が容易に発明できたものであるとの決定の認定は誤りであるというものである。
しかし,上記説示したとおり,本件発明1に関する決定の判断の誤りをいう原告の主張はいずれも採用し得ないのであるから,原告の主張は前提を欠くものであり,採用することができない。
7 結論 以上のとおり,原告主張の決定取消事由は理由がないので,原告の請求は棄却されるべきである。
追加
【別紙】異議の決定の理由異議2001-70457号事件,平成14年3月22日付け決定(下記は,上記決定の理由のうち,「5.本件発明1の特許について」以下の部分について,文書の書式を変更したが,用字用語の点を含め,その内容をそのまま掲載したものである。)理由5.本件発明1の特許について(1)刊行物記載の発明当審が通知した取消しの理由に引用した刊行物1(実願昭61-81016号(実開昭62-194634号)のマイクロフィルム)には、画像形成装置の側部に沿って上下方向に用紙搬送路を構成し、該用紙搬送路の開放を行うものに関し、
以下のことが記載されている。
(記載ア)第4頁13行〜第5頁16行には、「複写機本体10内には感光体ドラム14が回転自在に設けられており、…感光体ドラム14は帯電コロトロン16により一様に帯電され、次いで走査露光装置18により原稿に対応する静電潜像が感光体ドラム14状に形成される。…感光体ドラム14上の静電潜像は現像装置38により現像され可視像化される。…感光体ドラム14上のトナー像は…搬送されてきたコピー用紙に転写コロトロン44の作用により転写され、…トナー像の転写されたコピー用紙は、…定着装置48により定着されて、…排出される。」と、感光体ドラム14、帯電コロトロン16、走査露光装置18、現像装置38、転写コロトロン44によって、搬送されているコピー用紙上に画像を形成することが記載されている。
(記載イ)第6頁8〜11行には「フィードロール66が駆動されると、給紙トレー64中のコピー用紙が送出され、搬送口一ラ対68により…搬送され」と、第6頁19行〜第7頁2行には「給紙トレー64は、…通常の給紙トレーとしても使用できる」と、第7頁3〜9行には「給紙トレー70中に収納されたコピー用紙は、
フィードローラ72を回転駆動することにより送出され、搬送口一ラ対74、68により転写位置まで搬送される。一方給紙トレー76中に収納されたコピー用紙は、フィードローラ78を回転駆動することにより送出され、搬送口一ラ対80、
74、68により転写位置まで搬送される。」とそれぞれ記載されており、画像形成装置本体の下部に、コピー用紙を収納する給紙トレー64、70、76を、上下方向に重ねて配置するとともに、各給紙トレー64、70、76毎に、収納されたコピー用紙を送り出すフィードローラ66、72、78が設けられている。また、
画像形成装置本体側面に沿って、下から上に向かって用紙を通過させる用紙搬送路を有している。
また、本体側面に沿って下から上に向かって用紙を搬送する搬送口一ラ対68、74、80は、給紙トレー64、70、76の各給紙トレーに対応して設けられているが、その位置は、各給紙トレーから送り出された用紙を搬送する搬送口一ラ対が、用紙搬送路と合流した後である。
(記載ウ)第7頁10〜13行には、「82、84はキャビネット12の側壁であり、それぞれ軸86、88の回りに回動自在に取り付けられており、それぞれの上端部分が複写機本体10の下部側壁を構成するようになっている。」と、画像形成装置の側壁82は、画像形成装置本体に開閉可能に設けられ、装置側面の一部をカバーするものが開示されている。
(記載エ)第7頁17行〜第8頁4行、或いは、第8頁16行〜第9頁5行には、
紙詰りが発生した場合であっても、キャビネット側壁82を開閉することにより、
紙詰まりを簡単に取り除くことができる効果が記載されている。
同じく引用した刊行物2(特開昭64-53944号公報)には、画像形成装置の側部に沿って上下方向に用紙搬送路を構成し、該用紙搬送路の開放を行うものに関して、以下のことが記載されている。
(記載オ)第3頁左下欄11行〜右下欄6行には、「第1の送給経路40の片側は、下部枠4の右端壁48(詳しくは、その内面に間隔を置いて設けられた案内突条50の弧状の上縁)及び開閉部材52…によって規定され、その他側は第1のカセット式供給手段32と第2のカセット式供給手段34の間に配設された仕切壁54の一端部54aの外面によって規定されている。また、第2の送給経路46の片側は、仕切壁54の上記一端部54aの内面に設けられた案内突条56…の弧状の上緑及び開閉部材52…の上部によって規定されている。」と、送給口一ラ44によって送り出されたシート部材をガイドする第1ガイド部(仕切壁54の一端部54aの内面に設けられた案内突条56の上縁)と、仕切壁54の一端部54aの外面とを、一体的に構成するとともに、仕切壁54の一端部54aの外面は、下部枠4の右端壁48と開閉部材52とに対向する部分に分けることができ、開閉部材対向する外面部分が、下から上に向かってガイドするものが記載されており、送給口一ラ44によって送り出されたシート部材をガイドする第1ガイド部(仕切壁54の一端部54aの内面に設けられた案内突条56の上縁)と、本体側面に沿って下から上に向かってガイドする第2ガイド部(仕切壁54の一端部54aの外面)とを、一体的に構成している。
(記載カ)第4頁石上欄3〜5行には、「シート部材を搬送経路に導く送給経路(第1の送給経路40及び第2の送給経路46)の一部を開放するために設けられた開閉部材52」の記載、及び、第l図から、開閉部材52が、装置側面の少なくとも一部をカバーし、画像形成装置本体に開閉可能に設けられている構成が開示されている。
(記載キ)第4頁右下欄12行〜第5頁左上欄5行には、「プレート状部材68の片面(内面)には、シート部材の送給方向に対して垂直な方向・・がに間隔を置いて複数の案内突条86が設けられている。…従って、かかる開閉部材52が上記閉位置にあるときには,・送給経路(第1の送給経路40及び第2の送給経路46)を閉じ、送給経路の一部を規定する。」と、下から上に向かって用紙をガイドする案内突条86が、開閉部材52の内側に設けられている構成が開示されている。
(記載ク)第3頁左下欄11行〜右下欄6行には、本体側面に沿って下から上に向かって用紙を通過させる用紙搬送路の少なくとも一部が、仕切壁54の一端部54aの外面と、開閉部材52の内側に設けられた案内突条86とによって形成された構成が開示されている。
(記載ケ)第6頁石上欄14行〜左下欄4行目には、「開閉部材52を開位置にせしめると送給経路の一部…が所要の通り開放され、それ故に、送給経路にてシート部材が詰まった場合に開閉部材52を開位置にせしめることによって詰まったシ-ト状部材を容易に取り除くことができる。」と効果について記載されている。
さらに同じく引用した刊行物3(特開昭59-207364号公報)には、
(記載コ)第1頁左下欄l3行〜15行「本発明は複写機・印刷器・記録器・その他シートを搬送する機構を具備する各種機械等の搬送部開閉装置に関するものである。」と、本件発明の技術分野と同じ分野に関するものであることが示されており、また、第1頁左下欄16行〜19行「シート搬送装置内に詰まったシートを除去する場合にシート搬送経路を開放して、その搬送路内のシートを取り除く方法が行われている」と、上下方向に用紙を搬送する装置において、開閉する扉13の内側に、ガイド板20を設け、紙詰まりの処理を容易にするが開示されている。
(2)対比・判断上記記載(ア)〜(エ)に記載されたものからみて、刊行物1に記載された画像形成装置は、用紙に記録を行う記録部を有し(上記(ア)参照)、さらに、記録部より下方に、上下方向に複数配置された、用紙を収容する用紙トレイと、前記用紙トレイに積載された用紙に当接して送り出す給紙手段と、前記画像形成装置本体側面に沿って、下から上に向かって用紙を通過させる用紙搬送路とを有しており(上記(イ)参照)、また、記載(ウ)からみて、画像形成装置本体に開閉可能に設けられた、装置側面の少なくとも一部をカバーするドア部材を有している。
本件発明1と刊行物1に記載された発明とを対比すると、両者は、用紙に記録を行う記録部と、前記記録部より下方に、上下方向に複数配置された、用紙を収容する用紙トレイと、前記用紙トレイに積載された用紙に当接して送り出す給紙手段と、前記画像形成装置本体側面に沿って、下から上に向かって用紙を通過させる用紙搬送路と、画像形成装置本体に開閉可能に設けられた、装置側面の少なくとも一部をカバーするドア部材を有する点で一致しており、以下の点で相違している。
(相違点1)本件発明1において、「前記複数の用紙トレイの各トレイ毎に対応して設けられ、前記給紙手段によって送り出された用紙をガイドして前記用紙搬送路に合流させる第1のガイド部と、本体側面に沿って下から上に向かって用紙をガイドする第2のガイド部とを備えたガイド手段」を有しているのに対して、刊行物1に記載されたものは、対応するガイド手段についての記載がない点。
(相違点2)本件発明1においては、搬送装置はガイド手段の用紙搬送方向下流側に設けられているのに対して、刊行物1に記載のものにおいては、各給紙トレーから送り出された用紙を搬送する搬送路と、下から上に向かって用紙を搬送する用紙搬送路とが合流した後に搬送装置が設けられているものの、ガイド手段についての記載がない点。
(相違点3)本件発明1において、「前記ドア部材の内側に設けられ、下から上に向かって用紙をガイドする第3のガイド部」を有しているのに対して、刊行物1に記載されたものは、ドア部材の内側のガイド部材についての記載がない点。
(相違点4)本件発明1において、「前記用紙搬送路の前記搬送装置の上流側の少なくとも一部は前記第2のガイド部と前記第3のガイド部とによって形成され、さらに前記用紙搬送路の前記搬送装置の下流側に第3のガイド部が設けられている」のに対して、刊行物1に記載されたものにおいてはガイド部材についての記載がない点。
そこで、上記相違点について検討する。
(相違点1について)一般に、用紙を搬送する場合、用紙をガイドするガイド部を設けることは周知のことであり、刊行物1には、用紙をガイドするガイド部を設けることに関して明確な記載はないが、図で示されたように用紙が搬送されるためには、給紙手段によって送り出された用紙を円滑にガイドする手段と本体側面に沿って下から上に向かって用紙をガイドするガイド手段がなければ用紙が円滑に搬送されていかないことは明らかである。
一方、刊行物2には、本件発明1のガイド部1及びガイド部2に相当するガイド部材が記載されており(上記記載(オ)参照)、それらの部材は、それぞれ、給紙手段によって送り出された用紙を円滑にガイドする機能と本体側面に沿って下から上に向かって用紙をガイドする機能を有している。
刊行物2に記載されたガイド部材も、本件発明1と同様の画像形成装置における用紙搬送に関するものであるので、刊行物2に記載されたガイド部材を採用することに格別の困難があったとは認められない。
(相違点2について)刊行物1の搬送口一ラ対80、74、68は、本件発明1の搬送装置に相当するものであるが、それぞれ、各給紙トレーから送り出された用紙を搬送する搬送路と、下から上に向かって用紙を搬送する用紙搬送路とが合流した後に設けられている。してみると、刊行物1記載のものに刊行物2に記載されたガイド部材を適用すれば、搬送装置の位置はガイド手段の用紙搬送方向下流側に位置することとなるので、本件発明1において、相違点2のように特定した点に格別のものはない。
(相違点3について)上下方向に用紙を搬送する装置において、開閉する扉の内側に、ガイド部を設け、紙詰まりの処理を容易にすることは、刊行物2あるいは刊行物3にも開示されており、刊行物1に記載の開閉する開閉部材の内側に、下から上に向かって用紙をガイドするガイド部(本件発明1の第3のガイド部)を設けることは、当業者であれば容易に想到することができたものと認められる。
(相違点4について)上記で述べたように、第1のガイド部、第2のガイド部材及び第3のガイド部を設けることは、当業者であれば容易に想到することができたものと認められるが、
特に、刊行物3記載のガイド板20(本件発明1の第3のガイド部に相当する)は、搬送装置の上下に設けられており、刊行物3記載のガイド部を採用すれば、当然の事ながら、搬送装置の上流側は第2のガイド部と第3のガイド部によって形成されることとなり、また、搬送装置の下流側には、第3のガイド部が設けられることとなり、相違点4の構成を特定した点に格別のものがあるとは認められない。
以上のことから、本件発明1は刊行物1乃至3に記載のものから当業者が容易に発明できたものである。
6.本件発明2の特許について本件発明1を、「前記ドア部材は、搬送装置部分をカバーする」ことでさらに特定したものであるが、刊行物1及び2記載のドア部材も、搬送装置部分をカバーしているおり、本件発明2は刊行物1乃至3に記載のものから当業者が容易に発明できたものである。
7.本件発明3の特許について本件発明1または2を、「前記ドア部材は、前記用紙搬送路の複数の用紙トレイにまたがる箇所をカバーする」ことでさらに特定したものであるが、刊行物1記載のドア部材(側壁82)は、図からも明らかなように、用紙搬送路の複数の用紙トレイにまたがる箇所をカバーしていることが開示されており、本件発明3は、刊行物1乃至3に記載のものから当業者が容易に発明できたものである。
8.本件発明4の特許について本件発明3を、「前記ドア部材は、前記用紙搬送路の複数の用紙トレイにまたがる箇所の全てをカバーする」ことでさらに特定したものであるが、刊行物1記載のドア部材(側壁82)は、図からも明らかなように、用紙搬送路の複数の用紙トレイにまたがる箇所の全てをカバーしていることが開示されており、本件発明4は、
刊行物1乃至3に記載のものから当業者が容易に発明できたものである。
9.むすび以上のとおりであるから、本件発明1乃至4は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件発明1乃至4の特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してなされたものと認める。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
平成14年3月22日
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 古城春実
裁判官 田中昌利