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関連審決 異議2000-72434
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  相違点の認定 /  相違点の判断 /  技術分野の関連性 /  課題の共通性 /  発明の詳細な説明 /  分割出願 /  置換 /  特許発明 /  設定登録 /  請求の範囲 /  変更 /  訂正明細書 /  取消決定 / 
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事件 平成 13年 (行ケ) 548号 特許取消決定取消請求事件
原告 株式会社三洋物産
訴訟代理人弁理士 川口光男
同復代理人弁理士 山田強
被告 特許庁長官太田信一郎
指定代理人 村山隆、前田健男、山口由木、高木進、林栄二
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/06/03
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
特許庁が異議2000-72434号事件について平成13年10月5日にした決定を取り消す、との判決。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 (1) 本件特許出願手続 発明の名称 「遊技機の表示ユニット」 特許出願 平成1年5月16日(特願平1-121990) 分割出願 平成7年6月22日(特願平7-180887) 分割出願 平成10年1月28日(特願平10-16132) 分割出願 平成11年2月9日(特願平11-31836号) 分割出願(本件出願) 平成11年3月11日(特願平11-65176号) 特許権設定登録 平成11年10月15日 特許第2991207号(本件特許) 特許権者 原告 (2) 本件特許についての異議手続 事件番号 異議2000-72434号 訂正請求 平成13年7月27日 異議の決定 平成13年10月5日 決定の結論 「訂正を認める。特許第2991207号の請求項1に 係る特許を取り消す。」 決定謄本送達 平成13年11月5日 2 本件発明の要旨 平成13年7月27日付け訂正請求に係る訂正明細書の特許請求の範囲の記載は、次のとおりである(以下、請求項1の発明を「本件発明」という。)。
【請求項1】 所定の図柄が表示されるディスプレイと、同ディスプレイと電気的に接続された基板と、前記ディスプレイおよび前記基板に対するカバー部材とを備えた遊技機の表示装置ユニットであって、
前記カバー部材には切り欠き孔が設けられ、かつ前記基板 に取り付けられた コネクタ が前記切 り欠き孔に嵌合 されるとともに 該切 り欠き孔から 突出 されることで 、
この切り欠き孔 を介して前記基板と外部 とが 前記 コネクタによって 接続されるようにしたことを特徴とする遊技機の表示装置ユニット。
(下線は訂正による変更又は付加箇所) 3 決定の理由の要点 (1) 決定は、本件発明は、刊行物1(特開昭62-117579号、甲6)に記載された引用発明1の1、引用発明1の2、刊行物2(実願昭61-101845号(実開昭63-8076)のマイクロフィルム、甲7)に記載された引用発明2、及び刊行物3(実願昭58-199953号(実開昭60-109682号)のマイクロフィルム、甲8)に記載された引用発明3並びに従来周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであると判断し、本件発明についての特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであるから、特許法113条2号に該当し、取り消されるべきであるとした。
(2) 決定が上記結論を導くに当たって認定した本件発明と引用発明3との一致点及び相違点、並びに相違点についてした判断の要点は、以下のとおりである。
【一致点】「所定の図柄が表示されるディスプレイと、同ディスプレイと電気的に接続された基板と、前記ディスプレイにおいて前記基板に対するカバー部材とを備えた遊技機の表示装置ユニットであって、
前記カバー部材には基板に接続されたコネクタが突出する開部が設けられ、該開部を介して前記基板と外部とが前記コネクタによって接続されるようにした遊技機の表示ユニット」である点。
【相違点】 本件発明においては、@開部がカバー部材に設けられた切り欠き孔であり、A基板とコネクタとの接続がコネクタの基板への取り付けであり、Bコネクタと開部との関係が嵌合である、のに対して、
引用発明3では、@’開部がカバー部材間の間隙、すなわち、2部材からなるカバー部材の部材間の間隙であり、A’基板とコネクタとの接続が基板にハンダ付けされたリード線を介したものであり、B’コネクタと開部との関係が嵌合ではない点。
【上記相違点についての判断】 引用発明2には、「開部が切り欠き孔であり、コネクタが基板に取り付けられる」という構成(前記@、A)が備わっている。また、引用発明1の1には、前記「コネクタが基板に取り付けられる」という構成(前記A)が備わっており、引用発明1の2には前記@の「開部が切り欠き孔である」という構成が備わっている。
そこで、コネクタと開部との関係(前記B)について検討すると、「コネクタが切り欠き孔に嵌合される」こと自体、すなわち「コネクタと開部との関係が嵌合であること」自体は、従来周知の技術的事項であり、コネクタと開部との関係を嵌合とすることは、当業者が適宜採用し得る単なる設計事項にすぎない。
そして、引用発明3も引用発明2も共に遊技機の表示装置に関するものである以上、引用発明3に引用発明2を適用して、引用発明3の「2部材からなるカバー部材の部材間の間隙」に代え、引用発明2の「カバー部材に設けられた切り欠き孔」を採用し、「基板にハンダ付けされたリード線を介した基板とコネクタの接続」に代え、引用発明2の「基板へのコネクタの取り付け」を採用することは、当業者が格別創意工夫を要することではなく、また、「コネクタを開部に嵌合させること」は、当業者が適宜採用し得る単なる設計事項にすぎない。
加えて、本件発明の効果が引用発明3、引用発明2、引用発明1の1及び1の2並びに従来周知の技術的事項の各効果の総和以上の格別なものとは認められない。
原告主張の取消事由
1 引用発明3についての認定の誤り(取消事由1) 決定は、刊行物3について、「上部保護板43及び下部保護板44間に間隙が設けられ、かつプリント基板46にハンダ付けされたリード線47に取り付けられたコネクタが前記間隙から突出されているものと認められる」(決定の理由欄の3.(2)ウ.(ウ)、決定書5頁)と認定しているが、「プリント基板46にハンダ付けされたリード線47に取り付けられたコネクタ」は、相手先部品に接続されるコネクタであって、プリント基板に対する接続を目的とするものではない。かかる相手先用のコネクタを本件発明の「基板に取り付けられたコネクタ」と同一視すること自体が誤っている。
本件発明のコネクタは、「基板に取り付けられ」るものであり、かつ、カバー部材に設けられた「切り欠き孔から突出される」ものであるから、コネクタの一部はカバー部材内部に存在し、一部が突出されるものである。
これに対し、刊行物3に記載のコネクタは、相手先部品に接続されるものであって、上部保護板43及び下部保護板44から相当距離離れた位置の相手先部品に接続される。つまり、刊行物3に記載のコネクタは、全部が上部保護板43及び下部保護板44とは離れた位置に存在するものであるから、刊行物3には、コネクタが「突出され」るとの概念は、記載されていない。
したがって、決定の、刊行物3には「・・・パチンコ機の蛍光画像表示装置40であって、前記上部保護板43及び下部保護板44には間隙が設けられ、かつ前記プリント基板46にハンダ付けされたリード線47を介して取り付けられたコネクタが前記間隙 から 突出 される ことで、この間隙を介して前記プリント基板46と外部とが前記コネクタによって接続されるようにしたパチンコ機の蛍光画像表示装置40」(引用発明3)が記載されているとの認定も誤っている。
2 本件発明と引用発明3との対比における認定の誤り(取消事由2) (1) 一致点の認定の誤り ア 前記1で述べたとおり、本件発明の「コネクタ」は基板に接続されるものであるのに対し、刊行物3の「コネクタ」は外部(相手先)に接続されるものであって、両者は相違するから、「基板に接続 された コネクタ 」を一致点とすることはできない。
イ また、本件発明のコネクタの一部はカバー部材内部に存在し、一部が突出されるものであるのに対し、刊行物3に記載のコネクタは、全部が上部保護板43及び下部保護板44とは離れた位置に存在するものであるから、「コネクタが突出する 開部 」、つまり、「開部からコネクタが突出する」点が一致するとの認定も、
誤っている。
(2) 相違点の看過 決定における相違点の認定は、「基板に接続されたコネクタ」が一致するとの認定が誤っていることから、この点について相違点を看過したものである。
また、「開部からコネクタが突出する」点が一致するとの認定が誤っていることから、「前者においては、コネクタ(の一部)が切り欠き孔から突出するものであるのに対し、後者においては、(相手先用の)コネクタ(の全部)が開部とは離れた位置に存在するものである」という相違点を看過している。
3 相違点についての判断の誤り(取消事由3) (1) 「嵌合」について ア 決定は、「「嵌合」、すなわち、「はめあい」、には、例えば、「すきまばめ」、「とまりばめ」、「しまりばめ」等の種類があり、願書に添付された図面の【図5】の記載だけによっては、前者(本件発明)における嵌合が、平成13年7月27日付け特許異議意見書第3頁第12ないし14行に記載された「カバー部材の切り欠き孔周辺部分によってコネクタが支えられ、コネクタに若干の負荷がかかっても断線等する等の不都合が生じることがない」という効果及び同頁第21ないし24行に記載された「本件特許発明では、コネクタが切り欠き孔に遊挿されるのではなく嵌合されていてコネクタに遊びが殆どないため、カバー部材によってコネクタが支えられる形となり、コネクタに加わる負荷によって容易にコネクタと基板との接続部分が断線する等の不都合がなくなる」という効果を奏する種類のものであると迄は到底認められない。」(決定の理由欄3.(3)、決定書8頁)とするが、誤りである。
イ 特許用語、明細書用語としての「嵌合」は、「すきまなく」又は「すきまがほとんどなく」という意味を含んでいる。また、本件特許公報(甲2)の【図5】では、コネクタ60とカバー部材43の切り欠き孔との境界線が二重線とはなっておらず、一重線となっていることから、コネクタ60は切り欠き孔に対し「すきまなく」、「すきまがほとんどなく」嵌め合わされていることが明白である。したがって、本件発明の「嵌合」は、「すきまなく」又は「すきまがほとんどなく」との意味を含むものである。
ウ 本件発明は、上記の意味の「嵌合」により、カバー部材の切り欠き孔周辺部分によってコネクタが支えられ、コネクタに若干の負荷がかかっても断線等する等の不都合が生じることがないという効果、及び、コネクタが切り欠き孔に遊挿されるのではなく嵌合されていてコネクタに遊びがほとんどないため、カバー部材によってコネクタが支えられる形となり、コネクタに加わる負荷によって容易にコネクタと基板との接続部分が断線する等の不都合がなくなるという効果を奏するものである。
なお、上記の意味の「嵌合」によって、強固に位置決めがなされることや、外力が加わったりしてもずれたりすることが防止されるという効果が奏されることは、
明らかである。 エ 以上のことからすれば、決定の「「コネクタと開部との関係が嵌合である」こと自体は、従来周知の技術的事項であり・・・コネクタと開部との関係を嵌合とすることは、当業者が適宜採用し得る単なる設計事項にすぎない。」(決定書8頁)との判断は、誤りである。
本件発明がウに述べた特有の効果を奏する以上、「コネクタと開部との関係を嵌合とすることは、当業者が適宜採用し得る単なる設計事項」ではない。なお、決定が従来周知の技術として挙げた甲第9号証ないし甲第11号証にも、技術分野の関連性課題の共通性等、パチンコ機に適用するための動機付けとなりうる記載は一切存在しない。
(2) 「基板へのコネクタの取り付け」及び「コネクタを開部に嵌合させる」ことについて 決定は、「・・・後者(判決注:引用発明3)の「基板にハンダ付けされたリード線を介した基板とコネクタの接続」に代え、引用発明2の「基板へのコネクタの取り付け」を採用することは、当業者が格別創意工夫を要することではなく、又、
「コネクタを開部に嵌合させること」は、当業者が適宜採用し得る単なる設計事項にすぎないというべきである。加えて、前者(判決注:本件発明)の効果が、後者(引用発明3)、引用発明2、引用発明1の1及び引用発明1の2並びに従来周知の技術的事項の各効果の総和以上の格別なものとも認められない。」(決定書9頁)と判断したが、誤りである。
まず、相違点の認定において、コネクタの意味合いを無視し、電気的接続にのみ着目して、引用発明3を「基板とコネクタとの接続が基板にハンダ付けされたリード線を介したものであり」と認定したことが誤りであるから、この誤った認定に基づいて、「基板にハンダ付けされたリード線を介した基板とコネクタの接続に代え」るという置換を想定し、「当業者が格別創意工夫を要することではなく」と判断したことは、誤りである。また、刊行物3の(相手先用の)コネクタ(の全部)は開部とは離れた位置に存在するものであるという前記(2)に述べた相違点を看過し、この相違点についての判断をすることなく、単なる設計事項との結論を導いている点も誤りである。
本件発明は、(a)ディスプレイ及び基板がカバー部材によって保護されているので破損等の可能性が低くなる、(b)ディスプレイ及び基板をカバー部材で保護しつつこれらで表示装置ユニットを構成するものであるため、表示装置ユニット単体として比較的乱雑に取り扱うことが可能となり、遊技機への組み付け前においても破損の可能性を低くしつつ取扱を容易にすることができる、(c)基板と外部電源との接続のためのコネクタは基板に取り付けられており、コネクタだけがカバー部材の切り欠き孔から突出されているだけであるため、基板の保護とともに外部電源との接続容易性を担保することができる、(d)コネクタがカバー部材の切り欠き孔から突出しているものの、コネクタが切り欠き孔に嵌合された状態にあるため、カバー部材の切り欠き孔周辺部分によってコネクタが支えられ、コネクタに若干の負荷がかかっても断線等する等の不具合が生じることがない、等の特有の効果が奏する。特に、(d)の効果は、(b)及び(c)の相乗的効果であり、接続容易性とコネクタ保護という相反する事項を一挙に解決できる等のメリットがあるのである。
本件発明の効果は、各引用発明及び従来周知の技術的事項の各効果の総和以上の格別なものである。それゆえ、単なる設計事項との判断が誤りであることは明らかである。
当裁判所の判断
1 引用発明3の認定及びこれに基づく本件発明との一致点、相違点の認定について(取消事由1、2) (1) 原告は、引用発明3のコネクタは、相手先部品に接続されるコネクタであるから、本件発明の「基板に取り付けられたコネクタ」と同一視することはできないと主張する。
しかし、「基板に取り付けられた」本件発明のコネクタも、「該プリント基板にはコネクタ48の付いたリード線47がハンダ付けされている。」(甲8の10頁6、7行)引用発明3のコネクタも、基板と外部の相手先の電気部品とを接続するためのもので、どちらも基板に接続されていなければならないものであるから、
「コネクタ」であるという点において両者に差異はない。
(2) 原告は、本件特許請求の範囲の「基板に取り付けられたコネクタ」及びコネクタが「切り欠き孔から突出される」との記載から、本件発明のコネクタは、基板に取り付けられ、かつ、その一部がカバー部材内に存在するものでなければならないのに対し、引用発明3のコネクタは、全部が保護板43、44(本件発明のカバー部材に対応する。)の外部に、かつ、保護板43、44から離れた位置に存在するものであるから、これらの点において本件発明のコネクタと一致せず、相違するものであると主張する。
しかし、引用発明3も基板に接続されたコネクタを有することは、前記「該プリント基板にはコネクタ48の付いたリード線47がハンダ付けされている。」との記載から明らかであるから、両者はともに、基板に接続されたという意味において「基板に取り付けられたコネクタ」を有する点で一致するということができる。また、本件発明と引用発明3とは、コネクタの一部がカバー部材の内側に存在するか、全部が保護板43、44(カバー部材)から離れた外側に存在するかという点の相違はあるものの、コネクタが外部との接続のために間隙より外に出ている点で一致することも明らかである。
そして、両者の間で、基板とコネクタとの接続態様及びカバー部材とコネクタとの位置関係が異なることについては、決定において、本件発明では「・・・基板とコネクタとの接続がコネクタの基板への取付けであり」、引用発明3では「基板とコネクタとの接続が基板にハンダ付けされたリード線を介したものであり」と認定することによって、両者の相違点と認定した上で、基板とコネクタとの接続が「コネクタの基板への取付け」である構成を備える引用発明2及び引用発明1の1を引用し、この点は当業者が格別創意工夫を要することではない旨説示することによって、実質的に判断をしているところである。
したがって、引用発明3の認定及び一致点・相違点の認定の誤りをいう原告主張の取消事由1及び2は、理由がない。
2 相違点の判断について(取消事由3) (1) 原告は、本件発明にいう「コネクタが前記切り欠き孔に嵌合される」(訂正後の特許請求の範囲)とは、コネクタが切り欠き孔に「すきまなく」又は「すきまがほとんどなく」嵌め合わされた状態を意味し、このようなすきまのない「嵌合」によって、コネクタがカバー部材の切り欠き孔周辺部分によって支えられ、コネクタに若干の負荷がかかっても断線する等の不具合が生じることがないという効果を奏するものであると主張する。
「嵌合」なる語は、本件特許の登録時の明細書(甲2)の特許請求の範囲にも発明の詳細な説明中にも記載されておらず、【図5】の記載を根拠として、訂正請求によって特許請求の範囲の記載に新たに加えられたものであると認められる(甲5の訂正請求書)ところ、訂正は、訂正に係る事項が訂正前の明細書又は図面に記載された事項の範囲を超えないことを前提として許されるものであるから、訂正請求によって特許請求の範囲に新たに加えられた「嵌合」がいかなる技術事項を意味するかは、登録時の明細書及び図面の記載に基づいて理解すべきである。
そこで、上記観点から本件特許の登録時の明細書を検討するに、「嵌合」に関連性のある記載としては、わずかに、「上記コネクタ60に対応した部分には逃がし孔61が開口している。」(【0024】)、「表示装置19内の装着基板42がカバー部材43によって覆われており、僅かにコネクタ60の一部が突出するだけ・・」(【0030】)との記載が認められるのみであり、これと第5、第8図の記載を併せてみても、コネクタと切り欠き孔との嵌め合わせの態様が、原告の主張するような「すきまなく」又は「すきまがほとんどなく」嵌め合わされることによってコネクタがカバー部材の切り欠き孔周辺部によって支持されるような態様のものに限られると理解することはできない。
原告は、特許用語としての「嵌合」は、「すきまなく」又は「すきまがほとんどなく」嵌め合わされることを意味すると主張し、そのような用語例に沿った文献を挙示するが、原告指摘の文献に記載されたところを勘案しても、「嵌合」が原告主張のような態様のものに限定されることが本件特許の登録時の明細書及び図面の記載内容から当業者によって無理なく理解されるとは認められない。
また、原告は、上記【図5】においてコネクタ60とカバー部材43の切り欠き孔との境界線が一重線となっていると指摘するが、同図は、表示装置を裏面側から見た斜視図と説明されており、その図面の性格上、表示装置の形状及び各部材の配置関係を概略的に示したものであって、細部にわたる正確な寸法関係まで意識して描かれたものではないから、境界線が一重線で表示されているというだけで「すきまが(ほとんど)ない」状態が示されていると認めるのは無理である。
以上のとおり、本件発明の「嵌合」を原告主張のような限定された態様のものと理解することはできないから、この点に関する原告の主張は採用することができない。
(2) 以上に説示した「嵌合」についての理解を前提とするとき、基板に取り付けたコネクタを、基板の保護部材、カバー等の切り欠き孔に「嵌合」すること(すきまがある場合も含めて、嵌め合わせること)自体は、何ら格別の事項ではないというべきである。したがって、「コネクタと開部との関係を嵌合とすることは、当業者が適宜採用し得る単なる設計事項にすぎない。」とした決定の判断に誤りはない。
また、刊行物2(甲7)及び刊行物1(甲6)には、それぞれ、決定が認定したとおりの引用発明2及び引用発明1の1、2が記載されていると認められるところ、引用発明3の「2部材からなるカバー部材の部材間の間隙」に代え、引用発明2の「カバー部材に設けられた切り欠き孔」を採用し、「基板にハンダ付けされたリート線を介した基板とコネクタの接続」に代えて、例えば引用発明2のような「基板へのコネクタの取り付け」を採用することは、当業者が格別の創意工夫をしなくてもなし得ることである。この点についての決定の判断にも誤りはない。
(3) 原告は、本件発明は、接続容易性とコネクタ保護という相反する事項を一挙に解決できる等の格別な効果を奏すると主張するが、本件発明の構成によってもたらされる効果は、引用発明3、引用発明2及び引用発明1の1、2及び周知の技術事項の総和以上の格別なものとは認められない。
(4) 以上のとおりであるから、原告主張の取消事由3も理由がない。
3 結論 原告主張の取消事由1ないし3は、いずれも理由がないから、原告の請求は棄却されるべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 塩月秀平
裁判官 古城春実