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関連審決 無効2000-35521
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  慣用技術 /  上位概念 /  発明の詳細な説明 /  分割出願 /  援用権(援用) /  実施 /  交換 /  構成要件 /  設定登録 /  移転登録 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 13年 (行ケ) 538号 審決取消請求事件
原告 日本ゲームカード株式会社
訴訟代理人弁理士 河野登夫、中尾真一、河野英仁
原告 日本レジャーカードシステム株式会社
訴訟代理人弁護士 堤義成、田宮武文、依田修一、中村しん吾、裄V 泰
被告 クリエイションカード情報システム株式会社
訴訟代理人弁護士 山上和則、尾崎英男
同 弁理士 鈴木由充、稲岡耕作
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/06/03
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
原告らの求めた裁判
特許庁が無効2000-35521号事件について平成13年10月18日にした審決を取り消す、との判決。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等 本件は、特許を無効とした審決に対する審決取消訴訟であり、原告らは下記アの特許(本件特許)の特許権者で、被告は下記イの審判(本件審判)の請求人である。
ア 本件特許 登録番号 第2761843号 発明の名称 「遊技設備」 昭和62年5月27日に株式会社ソフィアがした特許出願(特願昭62-130086号、以下「原出願」という。)の一部を新たな特許出願として平成6年5月25日に特許出願され(特願平6-111363号、以下「本件分割出願」という。)、平成10年3月27日設定登録された。
その後、株式会社ソフィアから原告らに対して本件特許に係る特許権の譲渡がされ、平成11年10月19日に特許権移転登録がされた。
イ 本件審判 審判番号 無効2000-35521号 審判請求 平成12年9月26日 訂正請求 平成13年1月15日 審決 平成13年10月18日 審決の結論 「訂正を認める。特許第2761843号の請求項1につ いての特許を無効とする。」 (平成13年10月30日原告らに審決謄本送達) 2 本件特許請求の範囲(訂正後のもの。審決の分説記載に倣って符号を付した。以下、この発明を「本件発明」という。) (A)(A1)所要の情報を記憶可能な情報記憶部を有する記憶媒体が挿入される ことに関連して所要の遊技が実行可能とされる遊技装置と、
(A2)記憶手段を有し少なくとも上記記憶媒体の情報を管理する管理装置とを備え、
(A3)上記遊技装置と上記管理装置とが通信可能に構成されてなる遊技設備において、
(B)上記記憶媒体の情報記憶部には、少なくとも記憶媒体ごとに付与される固有の固有識別情報を記憶させ、
(C)上記遊技装置には、
(C1)上記記憶媒体の情報記憶部の情報を読み取り可能な記憶媒体読取手段と、(C2)上記記憶媒体の金額情報を表示する金額情報表示手段と、
(C3)上記記憶媒体の金額情報に基づいて所要の金額から所定数の遊技媒体に変換させる指令を与える変換操作手段と、
(C4)少なくとも上記記憶媒体読取手段を制御する制御手段と、
を設け、
(D)上記制御手段には、上記記憶媒体読取手段によって上記記憶媒体より読み取られた当該記憶媒体の固有識別情報および上記遊技装置を特定する情報を上記管理装置へ送信する送信手段を設け、
(E)上記管理装置は、上記固有識別情報の受信に基づいて当該記憶媒体の所要の情報を上記記憶手段に記憶媒体ごとに時系列的に記憶するように構成されてなることを (A)特徴とする遊技設備。
3 審決の理由の要点 (1)審決は、別紙審決の写しのとおり、(a)本件分割出願は、原出願の願書に最初に添付された明細書又は図面(以下、この明細書と図面を併せて「原出願当初明細書」という。)に記載されていない事項を含むから、特許法44条2項の規定の適用を受けることができず、その出願日は本件分割出願の実際の出願日(平成6年5月25日)であるとした上、(b)本件発明は、上記出願日前に公知となった実願昭61-80646号(実開昭62-192770号、審判甲1、本訴甲4)のマイクロフィルム及び特開昭63-292986号公報(原出願の公開公報、審判甲2、本訴甲5)に各記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明の特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、同法123条1項2号に該当するから、無効とされるべきである、とした。
(2)審決が本件分割出願は特許法44条2項の規定の適用を受けない不適法な分割出願であるとした理由は、要旨以下のとおりである。
本件発明の構成要件C2、C3に記載された「記憶媒体の金額情報を表示する」、
「記憶媒体の金額情報に基づいて所要の金額から所定数の遊技媒体に変換させる」における「記憶媒体の金額情報」は、請求人(被告)及び被請求人ら(原告ら)両者の主張どおり、「記憶媒体に記憶されている金額情報」、「記憶媒体から読み取られた金額情報」を含むと解される。
原出願当初明細書の発明の詳細な説明には、カード内に記憶されている識別手段を使って、管理装置に記録されている購入金額や持玉数のデータを引き出し可能にしているもの以外の記載はなく、特許請求の範囲をカードに有価データが記憶されているとするように解釈できる記載はない。原出願当初明細書の特許請求の範囲の記載を、発明の詳細な説明の記載を無視し、文言のみをもって被請求人らの主張どおり記憶媒体(カード)に金額情報が記憶されているものであると解することはできない。
以上の点を考慮に入れて本件発明をみると、分割出願時に、
「【発明の解決しようとする課題】従来、パチンコ遊技設備において各パチンコ機の稼働情報を収集する技術が提案されている。これによって、遊技店側は各パチンコ機の稼働情報を分析し、営業方針の決定に反映させることが可能になるという利点があった。一方、記憶媒体(カード)を用いた遊技設備においては、各パチンコ機の稼働情報の他に各記憶媒体の情報をも収集、記憶することができると、
遊技店側においてはさらに適切な営業方針を決定するのに貢献できることが明らかになった。・・・この発明の目的は、記憶媒体の情報記憶部に各記憶媒体に対応して固有の固有識別情報を記憶させ、当該固有識別情報に基づいて各記憶媒体の所要の情報を記憶手段に記憶媒体毎に記憶することができるようにして、遊技店の経営者が適切に営業方針を決定できるようにすることにある。」(段落【0005】〜【0011】)、
「【作用】本発明によれば、記憶媒体の情報記憶部に各記憶媒体に対応して固有の固有識別情報を記憶させ、遊技装置の記憶媒体読取手段において上記固有識別情報を読み取り可能とし、当該固有識別情報に基づいて各記憶媒体の所要の情報を管理装置の記憶手段に記憶媒体毎に記憶することができるようにして、記憶媒体の信憑性を向上させることにより不正記憶媒体の使用を未然に防止することができるとともに、記憶媒体の使用動向を把握することも可能となるため、遊技店の経営者が記憶手段に記憶されている記憶媒体の所要の情報を参照することによって、適切な営業方針を決定することも可能となる。」(段落【0016】。【発明の効果】の欄にも同様の記載がある。)、 「上記実施例ではカードに識別符号(カード番号)のみを記憶させカードが保有すべき有価データは管理装置の側で管理するようにしているが、カードに識別符号とともに有価データを記憶させるようにしてもよい。」(段落【0331】)、
等の記載を加え、特許請求の範囲の記載を、
「記憶媒体の金額情報を表示する・・」(C2)、「記憶媒体の金額情報に基づいて所要の金額から所定数の遊技媒体に変換させる・・・」(C3)とし、記憶媒体(カード)に金額情報が記憶されている場合をも含むと解することができるような記載とすることは、原出願当初明細書に記載されていない事項を含むというべきである。
原告らの主張(審決取消事由)
審決は、原出願当初明細書には記憶媒体(カード)に金額情報を記憶させることが記載されていないとの誤った認定に基づいて、本件分割出願を不適法と判断し、
実際の出願日を基準として本件発明の進歩性を判断したものであり、その分割の適否に関する認定判断の誤りが結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、取り消されるべきである。
1 原出願当初明細書の特許請求の範囲には、カードに有価データ(金額情報)が記憶されていることを表す次の記載(下線は原告ら)がある(甲5の1頁左欄5行〜14行)。
「自己の識別符号を記憶する記憶媒体を金額に対応して発行する記憶媒体発行装置と、前記記憶媒体の読取装置を有し、所定の有価価値により遊技が可能となり特定の状態の発生によって付加価値を遊技者に与えるようにされた遊技機と、前記記憶媒体 に保持 された 金銭 と実質的 に等価 な第1の有価 データ およびこの第1の有価データから変換された遊技権利と実質的に等価な第2の有価データとを前記識別符号を用いて前記記憶媒体ごとに記憶する 記憶手段 を備えた管理装置 。」 すなわち、「管理装置」に備えられた「記憶手段」は、「前記記憶媒体に保持された金銭と実質的に等価な第1の有価データ」と「この第1の有価データから変換された遊技権利と実質的に等価な第2の有価データ」とを「前記識別符号を用いて前記記憶媒体ごとに記憶する」のであり、管理装置が記憶するデータは、記憶媒体が有する有価データそのものである。
2 記憶媒体が有価データを有すると解しても、発明の詳細な説明欄の記載と矛盾が生じることはない。
まず、原出願の発明の目的とされる不正(カードコピー)の防止という点については、記憶媒体が有価データを有するとしても、識別符号を用いて管理装置から有価データを引き出すようにすることは当然可能であり、矛盾はない。
また、審決が引用する、「本発明は、記憶媒体としてのカードには持玉数を記録する代わりに識別符号を記憶し、持玉数はこの識別符号を用いて管理装置内の記憶手段に記憶させるようにするとともに、カード購入に際しては購入金額のまま払戻し可能な第1の有価データとして記録し、パチンコ機にはこの第1の有価データから持玉数と等価な第2の有価データに変換するための変換機能とその操作手段を設けるようにした。」(甲5の2頁左下欄19行〜右下欄7行)という解決手段についての記載は、要約すると、「カードに識別符号を記憶し、持玉数は管理装置に記憶され、購入金額を第1の有価データとして記憶し」ということであり、その文脈からみても「第1の有価データ」は管理装置に記憶するのではなく、むしろカードに記憶させると解するのが自然である。
3 審決は、「原出願の当初明細書の特許請求の範囲の文言を、その発明の詳細な説明の記載を無視し、その文言のみをもって被請求人(原告ら)の主張通り記憶媒体(カード)に金額情報が記憶されているものであると解することはできない。」と判断したが、これは、発明の詳細な説明の記載には、特許請求の範囲に記載された上位概念化された発明に包含されるものが全て記載される必要がないことを無視した判断であって、誤りである。
原出願の当初明細書には、カードに記録される情報には「・・・購入金額や持玉数は記録されない・・・」(甲5の3頁右下欄5行)として、カードに金額情報は記憶されていない実施例が記載されているが、実施例はあくまでも上位概念化した特許請求の範囲に包括されるもののうちの「一実施例」であるにすぎない。
4 本件発明の「記憶媒体の金額情報を表示する」(C2)ことについては、原出願当初明細書の「そして、ユニットコントローラ190がユニットメモリ170の内のメッセージを読み取って応答があったことを確認すると、カードリーダ180内にカードを保持させたまま、ユニットメモリ170の送信データエリアSDA内の稼働情報を「遊技中」に変更すると共に、玉表示器163と金額表示器162にカードの持玉数と金額を表示させ、また金額が零でない場合には購入可表示ランプ113aを点灯させて購入可能状態を表示させる」(甲5の29頁左上欄7行〜16行)という記載によって、
出願当初から開示されていた。
また、本件発明の「記憶媒体の金額情報に基づいて所要の金額から所定数の遊技媒体に変換させ・・・」は、原出願当初明細書の「一方、パチンコ機に設けられた購入スイッチ113がオンされ、制御ユニット160がこれを確認すると、ユニットメモリ170からそのカードの未使用金額を読み出してきてゼロでないことを確認する。そして、ゼロでないときは、予め定められた購入単位分の金額を未使用金額から減算してそれを金額表示器162に表示させる。」(甲5の44頁右上欄10行〜18行)という記載によって、出願当初から開示されていたものである。
5 「記憶媒体(カード)に金額情報を記憶させる」技術は、本件発明が属する技術分野の周知慣用技術であるから、「記憶媒体(カード)に金額情報を記憶させる」ことは、当業者が自明な事項として読み取ることができるのであって、実質的に原出願当初明細書に開示されていたというべきである。
被告の反論の骨子
原出願当初明細書には、記憶媒体(カード)に金額情報も記憶させることは開示されていない。原告らの主張の実質上唯一の根拠は、特許請求の範囲の「記憶媒体に保持された金銭と実質的に等価な第1の有価データ」という記載であるが、有価データが記憶媒体(カード)に「保持」されていることと「記憶」されていることとは同じではない。第1の有価データは、識別符号と対応づけて管理装置に記憶されているのである。記憶媒体(カード)に有価データが記憶されていると解することは、原出願当初明細書に記載された発明の目的に反するから、特許請求の範囲の記載を原告らの主張するように読むことはできない。発明の詳細な説明にも原告らの主張を支持するような記載はない。本件発明は、当業者に、記憶媒体(カード)に金額情報を記憶させるという周知慣用技術から脱却することによって、不正利用を防止する発明と認識されるものであるから、「記憶媒体(カード)に金額情報を記憶させる」ことが原出願当初明細書の記載から自明な事項であると解する余地はない。
当裁判所の判断
1 本件では、本件発明の特許請求の範囲に記載された「記憶媒体の金額情報」(C1、C2)は「記憶媒体に記憶されている金額情報」及び「記憶媒体から読み取られた金額情報」を含むものであるという、当事者双方及び審決が一致して認める事実を前提として、本件発明の分割出願が特許法44条1項の定める分割要件を満たすかどうか、具体的には、記憶媒体(カード)に金額情報も記憶させることが原出願の当初明細書に記載されていたか、という点のみが争点となっているものである(分割が不適法であって出願日が本件分割出願の実際の出願日となる場合に本件発明が進歩性を欠くことは、原告らも争わない。)。
2 そこで、分割の適否を判断する前提として、まず、原出願当初明細書の内容を検討すると、原出願当初明細書(甲5)には以下の各記載がある。
【特許請求の範囲】 @「自己の識別符号を記憶する記憶媒体を金額に対応して発行する記憶媒体発行装置と、前記記憶媒体の読取装置を有し、所定の有価価値により遊技が可能となり特定の状態の発生によって付加価値を遊技者に与えるようにされた遊技機と、前記記憶媒体に保持された金銭と実質的に等価な第1の有価データおよびこの第1の有価データから変換された遊技権利と実質的に等価な第2の有価データとを前記識別符号を用いて前記記憶媒体ごとに記憶する記憶手段を備えた管理装置と、前記記憶媒体の読み取り装置と前記第1有価データに相当する金銭を払い出す金銭返却装置と前記第二有価データに相当する有価媒体を発行する有価媒体発行装置を有する記憶媒体精算装置とを、伝送媒体を介して有機的に接続せしめることにより有機的結合体を形成し、前記記憶媒体によってのみ前記有機的結合体への介入を可能とならしめ、かつ有機的結合体によってのみ前記第1有価データと第2有価データとの運用を可能とならしめるように構成したことを特徴とする遊技システム。」 【発明が解決しようとする問題点】 A「上記従来のカード方式のうち、カード自体に玉数を記憶させて、・・・カードを挿入して遊技を行う第1の方式にあっては、・・・コスト高となる。また、
カード自体に持玉数を記憶させているので、不正(カードのコピー)が簡単に行われ易いという欠点がある。・・・・従来のカード方式では、いずれも一旦カードを購入すると、購入金額分がすべて玉数となってしまうため、・・・少額を単位として購入できるようにしておかないと遊技客に多額に投資を強制する結果となってしまう。」(2頁左上欄17行〜右上欄12行) B「この発明の目的は、遊技客が安心して高額のカードを購入することができ、これによって玉切れによる遊技中断の回数を減少させるとともに、カードコピーによる不正を防止することにある。」(2頁左下欄14行〜17行) 【問題点を解決するための手段】 C「本発明は、記憶媒体としてのカードには持玉数を記憶する代わりに識別符号を記憶し、持玉数はこの識別符号を用いて管理装置内の記憶手段に記憶させるようにするとともに、カード購入に際しては購入金額を金額のまま払戻し可能な第1の有価データとして記録し、パチンコ機にはこの第1の有価データから持玉数と等価な第2の有価データに変換するための変換機能とその操作手段を設けるようにした。」(2頁左下欄19行〜右下欄7行) 【作用】 D「本発明のパチンコ遊技システムによれば、カード発行時には持玉数という直接的に遊技可能な有価データ(第2)を購入するのではなく、持玉数という直接的に遊技可能な有価データ(第2)に変換し得る前段としての第1有価データを得、パチンコ機において第1有価データを、遊技権利と等価な第2有価データに変換してパチンコ遊技を行い、残存している第1有価データに対しては景品交換ではなく、未使用金として返却がなされるので、遊技客は安心して高額のカードを購入することができ、・・・また、カード内に記憶されるのは有価データを呼び出すための識別符号であるので、カードコピーによる不正を防止するという上記目的を達成することができる。」(2頁右下欄15行〜3頁左上欄11行) 【実施例】 E「・・・実施例のカードの磁気面に記録される情報は、・・・識別コードと、・・・発行年月日と、・・・識別符号としてのカード番号と、エラー検出用のチェックコードのみであり、購入金額や持玉数は記録されないようになっている。・・・これによって,カードのコピーによる不正を防止し、かつ不正による被害を最小限にとどめることができる。」(3頁左下欄19行〜右下欄10行) F「そして,ユニットコントローラ190がユニットメモリ170の内のメッセージを読み取って応答があったことを確認すると、カードリーダ180内にカードを保持させたまま、ユニットメモリ170の送信データエリアSDA内の稼働情報を「遊技中」に変更すると共に、玉表示器163と金額表示器162にカードの持玉数と金額を表示させ、また金額が零でない場合には購入可能表示ランプ113aを点灯させて購入可能状態を表示させる。」(29頁左上欄7行〜16行) G「一方、パチンコ機に設けられた購入スイッチ113がオンされ、制御ユニット160がこれを確認すると、ユニットメモリ170からそのカードの未使用金額を読み出してきてゼロでないことを確認する。そして、ゼロでないときは、予め定められた購入単位分の金額を未使用金額から減算してそれを金額表示器162に表示させる。」(44頁右上欄10行〜18行) 【発明の効果】 H「以上説明したごとくこの発明は、遊技開始に使用されるカードに持玉数を記憶する代わりに識別符号を記憶し、持玉数はこの識別符号を用いて中央管理装置内の記憶装置に記憶させるようにするとともに、カード購入に際しては購入金額を金額のまま払戻し可能な第1の有価データとして記録し、パチンコ機にはこの第1の有価データ数から持玉数と等価な第2の有価データに変換するための変換機能とその操作手段を設けるようにしたので、カード発行時には持玉数という直接的な遊技可能な有価データ(第2)を購入するのではなく、持玉数という直接的に遊技可能な有価データ(第2)に変換し得る前段としての第1有価データを得、パチンコ機において第1有価データを、遊技権利と等価な第2有価データに変換してパチンコ遊技を行い、残存している第1有価データに対しては景品交換ではなく、未使用金としての返却がなされる。そのため遊技客は安心して高額のカードを購入することができ、・・・遊技店にとってはカード発行枚数を減少させて、カードのコストを低減することができる。しかも、カード内に記憶されるのは有価データを呼び出すための識別符号であるので、カードコピーによる不正を防止することができる。」(50頁右上欄18行〜右下欄3行) 3 上記各記載(@〜H)によれば、原出願当初明細書に記載された発明は、(1)従来のカード方式では、カード自体に持玉数を記憶させるため不正(カードコピー)が行われやすく、また、カードを一旦購入すると購入金額分がすべて玉数となってしまうという問題があったことにかんがみ、(2)この問題を解消して、遊技客が安心して高額のカードを購入することができるようにし、カードコピーによる不正を防止することを目的(課題)とするものであると認められ、上記課題の具体的解決手段として、(3)-1記憶媒体(カード)には持玉数(特許請求の範囲の記載にいう「第2の有価データ」)を記憶させず、代わりに識別符号を記憶させ、識別符号を用いて管理装置に持玉数を記憶させること(記載C)、(3)-2 カード購入に際しては「購入金額を金額のまま払戻し可能な第1の有価データとして記録し」(記載C)、パチンコ機において第1の有価データを持玉数(第2の有価データ)に変換して遊技を行った後、残存している第1の有価データに対しては未使用金として返却をすること(記載C、D)が開示されている。
なお、原出願当初明細書の発明の詳細な説明には、個々のカードに関連付けられる情報に関して、「持玉数」、「金額」、「購入金額」、「未使用金額」、「第1の有価データ」、「第2の有価データ」等の記載があるが、「金額情報」という用語は使用されていない。そして、特許請求の範囲に規定された2種の有価データのうち、「第2の有価データ」は、「持玉数と等価な第2の有価データ」、「持玉数という直接的に遊技可能な有価データ(第2)」(記載D、H)等の記載から、持玉数のデータを意味するものであり、また、「第1の有価データ」は、「カード購入に際しては購入金額を金額のまま払戻し可能な第1の有価データとして記憶し」(記載C)、「第1有価データを、遊技権利と等価な第2有価データに変換してパチンコ競技を行い、残存している第1有価データに対しては景品交換ではなく、未使用金として返却がなされる」(記載D)等の記載から、「購入金額」又は購入金額から玉数分を差し引いた「未使用金額」に相当するデータを意味するものであると認められる。
4 以上に認定したところによれば、原出願当初明細書に記載された発明において、カードに関連付けられた2種類の有価データのうち、持玉数(第2の有価データ)が記憶媒体(カード)に記憶されるものでないことは明白である。
しかし、「第1の有価データ」(カードの購入時においては購入金額、遊技後においては第1の有価データから遊技玉に変換した分を差し引いた残存額)がどこに記憶されるかについては明記されておらず、原告らは、原出願当初明細書には第1の有価データを記憶媒体(カード)に記憶させることも開示されていると主張するのに対し、被告は、第1の有価データもカードの識別符号と対応させてパチンコ遊技機の管理装置に記憶されるものであって、記憶媒体(カード)に記憶されることはないと反論している。
5 そこで、原告らが記憶媒体(カード)には有価情報(金額情報)が記憶されているとする主張の根拠として挙げる点を、順次検討する。
(1)原出願当初明細書の特許請求の範囲の記載について 原告らは、原出願当初明細書の特許請求の範囲の「前記記憶媒体に保持された金銭と実質的に等価な第1の有価データ」との記載は、記憶媒体が「第1の有価データ」を記憶していることを表しているから、原出願当初明細書には記憶媒体に有価データ(金額情報)を記憶させることが記載されている旨主張する。
しかし、特許請求の範囲の上記記載は、記憶媒体が金銭と実質的に等価な第1の有価データを「保持」しているというものにすぎず、その記載から直ちに記憶媒体が第1の有価データ(金額情報)を「記憶」しているとまで断定し得るものではない。
そこで、この点について、原出願当初明細書の発明の詳細な説明を全体を通して検討すると、原出願に記載された発明は、前記3で認定したとおり、カードコピーによる不正の防止を主要な目的としたものである。このような発明の目的と、発明の作用として「カード内に記憶されるのは有価データを呼び出すための識別符号であるので、カードコピーによる不正を防止するという上記目的を達成することができる。」(記載D)と記載され(発明の効果についても同旨の記載がある。)、実施例として「実施例のカードの磁気面に記録される情報は、・・・と識別符号としてのカード番号と、・・・のみであり、購入金額や持玉数は記録させないようになっている。・・・これによってカードのコピーによる不正を防止し・・」として、
カードに購入金額や持玉数を記録させないもののみが記載されていることとを併せて考慮すると、「保持」との用語は、第1の有価情報(金額情報)がカードの識別符号に対応させて管理装置に記憶されることにより個々のカード自体に対応づけられた情報となっていることを表現したものであって、カード自体が金額情報を記憶していることまで意味するものではないと解される。むしろ、原出願当初明細書の全体の記載からみれば、「第1の有価データ」である金額情報は、管理装置の側にカードの識別符号と対応する形で記憶され、カード自体には記憶されていないというのが自然かつ合理的な理解であり、原出願当初明細書に接した当業者がカードに金額情報が記憶されていると理解するとは認め難い。
原告らは、記憶媒体が有価データ(金額情報)を有するとしても、識別符号を用いて管理装置から有価データを引き出すようにすることは当然可能であり、特許請求の範囲を原告ら主張のように記憶媒体に第1の有価データである金額情報を記載させると理解しても、不正(カードコピーの防止)という発明の目的との間に矛盾は生じないと主張する。しかし、原出願当初明細書に記載された発明において、購入金額や残存金額に対応する「第1の有価情報」が記憶媒体(カード)自体に記憶されているとすれば、カードをコピーすることによって不正にカードの残存金額の払戻しを受けることが可能であるから、カードコピーによる不正の防止という目的を達成することはできない。原告らが主張するような、記憶媒体に金額情報(有価データ)を記憶させ、なおかつ、その有価データはカードの識別符号を用いて管理装置から引き出すようにするというような無駄の多い構成は、敢えて考えるとすれば不可能ではないという程度のものであって、当業者が当然に理解する構成とはいえない。
(2)原出願当初明細書の発明の詳細な説明について ア 原告らは、原出願当初明細書の発明の詳細な説明に、「本発明は、記憶媒体としてのカードには持玉数を記録する代わりに識別符号を記憶し、持玉数はこの識別符号を用いて管理装置内の記憶手段に記憶させるようにするとともに、カード購入 に際しては 購入金額 のまま 払戻 し可能 な第1の有価 データ として 記録 し、パチンコ機にはこの第1の有価データから持玉数と等価な第2の有価データに変換するための変換機能とその操作手段を設けるようにした。」(甲5号の2頁左下欄19行〜右下欄7行)との記載があることを指摘し、この記載は、要約すると、「カードに識別符号を記憶し、持玉数は管理装置に記憶され、購入金額を第1の有価データとして記憶し」ということであり、その文脈からみても「第1の有価データ」は管理装置に記憶するのではなく、むしろカードに記憶させると解するのが自然であると主張する。
しかし、原告らが援用する上記記載は、第1の有価データをどこに記録するのかということまで述べたものではない。そして、第1の有価データをどこに記録するかという点については、カードコピーによる不正を防止するという発明の目的や「カード内に記憶されるのは有価データを呼び出すための識別符号であるので、カードコピーによる不正を防止するという上記目的を達成することができる。」という作用効果の記載(記載D、H)からみて、カードではなく、管理装置の側であると解される。当業者が上記記載から第1の有価データ(金額情報)はカードに記憶されると理解する旨の原告らの主張は、採用することができない。
なお、出願当初明細書の発明の詳細な説明には、「持玉数という直接的に遊技可能な有価データ(第2)に変換し得る前段としての第1有価データを得(る)」という記載があることも認められるが、ここでの「第1の有価データを得る」とは、
単に、「第1の有価データ」が識別符号と対応づけて管理装置に記憶されることを指していると解することができ、また、そう解する方が発明の目的及び作用効果に関する記載に照らして合理的である。
イ 原告らは、本件発明の「記憶媒体の金額情報を表示する」(C2)ことについては、原出願当初明細書の「そして、ユニットコントローラ190がユニットメモリ170の内のメッセージを読み取って応答があったことを確認すると、カードリーダ180内にカードを保持させたまま、ユニットメモリ170の送信データエリアSDA内の稼働情報を「遊技中」に変更すると共に、玉表示器163と金額表示器162にカードの持玉数と金額を表示させ、また金額が零でない場合には購入可表示ランプ113aを点灯させて購入可能状態を表示させる」(甲5の29頁左上欄7行〜16行)という記載によって、また、本件発明の「記憶媒体の金額情報に基づいて所要の金額から所定数の遊技媒体に変換させ」(C3)については、原出願当初明細書の「一方、パチンコ機に設けられた購入スイッチ113がオンされ、制御ユニット160がこれを確認すると、ユニットメモリ170からそのカードの未使用金額を読み出してきてゼロでないことを確認する。そして、ゼロでないときは、予め定められた購入単位分の金額を未使用金額から減算してそれを金額表示器162に表示させる。」(甲5の44頁右上欄10行〜18行)という記載によって、出願当初から開示されていた、と主張する。
しかしながら、原告らが指摘する原出願当初明細書の上記各記載は、いずれも、
記憶されている金額がカードリーダーへのカードの挿入・読取りという動作によって金額表示器に表示されることを示すのみであって、カードに金額情報が記憶されていることまで示すものとは認められない。
ウ 以上のとおり、原出願当初明細書の発明の詳細な説明には、カードに購入金額や未使用金額などの「金額情報」が記憶されることを示す記載はないというべきである。
(3)原告らは、発明の詳細な説明の記載には特許請求の範囲に記載された上位概念化された発明に包含される全てのものが記載される必要はない、実施例にはカードに金額情報は記憶されていないものが記載されているが、実施例はあくまでも上位概念化した特許請求の範囲に包括されるもののうちの「一実施例」であるにすぎないなどと述べて、有価情報をカードに記憶させることが詳細な説明や実施例に示されていないことは、有価情報をカードに記憶させることを含む「上記概念化」された発明が原出願当初明細書に記載されていたと認める妨げとはならない旨主張する。
しかし、原告らの上記主張は、有価情報をカードに記憶させることが特許請求の範囲の記載自体から明白である場合にのみ成り立つ主張である。原出願当初明細書の特許請求の範囲の記載がそのような明白なものでないことは、前記(1)に示したとおりであるから、原告らの主張は採用できない。
(4)原告らは、「記憶媒体(カード)に金額情報を記憶させる」技術は、本件発明が属する技術分野の周知慣用技術であるから、記憶媒体(カード)に金額情報を記憶させることは、当業者が原出願当初明細書の記載から自明な事項として読み取ることができるのであって、実質的に開示されていたと主張する。
しかし、原出願当初明細書には、カード自体に有価データを記憶させるとカードコピーによる不正が行われやすいという問題を解決することが発明の目的として記載されていることからすると、原出願当初明細書にはカードに金額情報を記憶させるという周知慣用技術から脱却した発明が記載されていると考えるのがむしろ当業者の通常の理解と考えられる。したがって、「記憶媒体(カード)に金額情報を記憶させる」ことは、原出願当初明細書の記載から当業者が自明なものとして読み取ることのできる事項ではないというべきである。
6 以上のとおり、原告らの主張の根拠とするところをすべて検討しても、原出願当初明細書に金額情報を記憶媒体(カード)に記憶させることが記載されていたと認めることはできない。
したがって、審決が原出願当初明細書には記憶媒体(カード)に金額情報が記憶されている場合も含むと解することができる記載は存在しないと認定し、この認定に立って、本件発明は原出願当初明細書に記載されていない事項を含むから、その分割出願は特許法44条2項の適用を受けることができないと判断したことに誤りはない。
原告ら主張の審決取消事由は理由がないから、原告らの請求は棄却されるべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 古城春実
裁判官 田中昌利