審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成12ワ3563特許権に基づく損害賠償請求事件 | 判例 | 特許 |
平成13ワ9922特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成13ワ17772特許権持分確認等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成13ワ17772特許権持分確認等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成15ネ1223特許権侵害差止請求控訴事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 特許を受ける権利 / 承継 / 協議 / 技術的範囲 / 債務不履行 / 契約の解除 / 警告 / 模倣 / ライセンス / 権利の濫用(権利濫用) / 存続期間 / 均等 / 不存在 / 信義則 / 特許発明 / 実施 / 社会通念 / 構成要件 / 差止請求(差止) / 侵害 / 販売数量(販売数) / 市場価格 / 実施料 / 実施権 / 専用実施権 / 通常実施権 / 実施許諾(実施の許諾) / 設定登録 / 独占的通常実施権 / 移転登録 / 対価 / 変更 / 公序良俗 / 合理的な理由 / 補助参加 / 相当期間 / 忌避 / |
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事件 |
平成
14年
(ネ)
4085号
特許権に基づく損害賠償請求控訴事件
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控訴人 アルゼ株式会社 同訴訟代理人弁護士 升永英俊 同 松本司 同 岩坪哲 同訴訟復代理人弁護士 江口 雄一郎 同補佐人弁理士 廣瀬邦夫 被控訴人 サミー株式会社 同訴訟代理人弁護士 牧野利秋 同 飯田秀郷 同 栗宇一樹 同 早稲本 和徳 同 七字賢彦 同 鈴木英之 同 片山英二 同 北原潤一 同 大月雅博 同補佐人弁理士 黒田博道 同 米山淑幸 同 廣瀬隆行 被控訴人補助参加人 日本電動式遊技機特許株式会社 同訴訟代理人弁護士 島田康男 同補佐人弁理士 紺野正幸 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2003/06/04 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 控訴人 (1) 原判決を取り消す。 (2) 被控訴人は,控訴人に対し,15億円及びこれに対する平成11年1月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (3) 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。 (4) 仮執行の宣言 2 被控訴人 主文と同旨 |
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事案の概要
1 被控訴人補助参加人は控訴人との間で,控訴人の保有する特許権等につき,平成6年以降,毎年4月1日から翌年3月31日までの期間を1年間として,多数のパチスロ機製造業者への再実施許諾権付きで実施許諾をする旨の実施許諾契約を締結している者であるが,同契約は平成7年,同8年に更新され,平成8年の更新時に,控訴人の保有する発明の名称をスロットマシンとする特許権(昭和58年4月8日出願,平成3年11月18日出願公告,平成7年2月24日登録。特許番号第1905552号)が上記実施許諾契約の対象に加えられた。本件は,控訴人が,被控訴人補助参加人から発明の名称をスロットマシンとする上記特許権の再実施の許諾を得ている被控訴人に対し,平成8年に更新された上記実施許諾契約は平成9年3月31日をもって終了しているとした上,被控訴人の製造・販売する原判決別紙物件目録記載のパチンコ型スロットマシンは,控訴人の上記特許権の技術的範囲に属し,上記特許権を侵害すると主張して,被控訴人に対し損害賠償を求めた事件である。 原判決は,被控訴人の製造・販売する上記物件は上記特許権の技術的範囲に属すると認定したものの,上記実施許諾契約が終了しているとの控訴人の主張を排斥し,控訴人の請求を棄却したので,控訴人は,原判決を不服として,本件控訴を提起した。 2 争いのない事実等及び争点は,次のとおり補正,付加するほか,原判決「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要1及び2」に記載のとおりであるから,これを引用する。 (1) 原判決3頁2行目冒頭から同3行目の「吸収合併された」までを「本件特許権は,株式会社ユニバーサルの出願に係るものであるが,同社はユニバーサル販売株式会社に吸収合併され,後記本件特許発明の特許を受ける権利は同会社に承継され,平成7年2月24日に本件特許権に係る設定登録がされて,同社が本件特許権を取得した。その後,同社が控訴人に吸収合併されたことに伴い,本件特許権は控訴人に承継され,平成11年5月14日にその旨の移転登録がされた」と改める。 (2) 同5頁3行目の「再実施許諾して」を「再実施許諾をして」と,同8行目から9行目にかけての「特許権等の保有者が保有する特許権等を被告補助参加人に集積し,保有者が,」を「パチスロ機に関する特許権等を被控訴人補助参加人に集中させて管理すべく,上記特許権等の権利者が,その保有する特許権等につき,」と,同10行目の「実施許諾する」を「実施許諾をする」と,同6頁10行目から11行目にかけての「同契約においては,」を「同契約において,」と,同11行目から12行目にかけての「実施許諾されていた。」を「実施許諾がされ,また,被控訴人補助参加人から,本件パテントプールに参加している被控訴人を含むパチスロ機製造業者に対して再実施許諾がされていた。」とそれぞれ改める。 (3) 同8頁4行目の「甲の」を「甲に対する」と,同22行目の「平成9年6月18日」を「平成9年6月18日開催」とそれぞれ改める。 (4) 同8頁19行目から20行目にかけての「パチスロ機製造業者から徴収した再実施許諾の対価を不当利得としてその返還を求める内容の」を「控訴人並びに平成12年4月10日に控訴人が吸収合併したエレクトロコインジャパン株式会社及び株式会社瑞穂製作所が平成9年4月1日以降に被控訴人補助参加人に証紙代金(再実施料)として支払った金額を不当利得としてその返還を求めること等を内容とする」と改め,同9頁4行目から5行目にかけての「理由中で,」の次に「控訴人の上記追加主張のうち,」を加え,同9頁6行目から7行目にかけての「違反するとの原告の主張に対しては,」を「違反し,又はそのおそれがあることを理由に,控訴人には平成8年度契約8条の「契約を継続し難い特段の事由」がある旨の主張に対しては,」と改める。 (5) 同9頁19行目の「終了したか」を「終了したか否か等」と改める。 |
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争点に関する当事者の主張の概要
1 争点1(イ号物件が構成要件Bを充足するかどうか。すなわち,イ号物件が乱数発生手段を備えているかどうか),争点2(イ号物件が構成要件D及びEを充足するかどうか。すなわち,イ号物件がリクエスト信号発生手段を備えているかどうか)及び争点4(控訴人の損害)についての当事者の主張は,次のとおり補正するほか,原判決「事実及び理由」欄の「第3 争点に関する当事者の主張の概要 1,2及び4」(原判決9頁22行目冒頭から同13頁1行目末尾まで,同31頁2行目冒頭から同11行目末尾まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。 (1) 原判決10頁2行目の「自認するとおり,」から同4行目「カウンタ」は,」までを「自認するとおり,イ号物件の構成中のカウンタ9は,「スタートレバーの操作という任意性のあるタイミングで読み出され,極めて高速に「+1」ずつ計算していくカウンタ」であり,これが,」と改める。 (2) 同12頁24行目から25行目にかけての「わけでない。」を「わけではない。」と改める。 (3) 同31頁7行目の「原告は」を「控訴人は被控訴人に対し」と改める。 2 争点3(本件特許権についての実施許諾契約は終了したか否か等)について (控訴人の主張) (1) 以下に述べるとおり,控訴人と被控訴人補助参加人との間の平成8年度契約(実施許諾契約)は,イ号物件が製造・販売された平成10年7月1日から同年12月31日までの期間より前の時点である平成9年3月31日(平成8年度契約の契約期間満了日)に終了した。したがって,被控訴人によるイ号物件の製造・販売は本件特許権を違法に侵害するものである。 ア 被控訴人補助参加人の取締役会の決定及び株主総会の決議等による平成8年度契約の合意解除(更新しない旨の合意)の成立 (ア) 取締役会における決定 被控訴人補助参加人は,後記ウに述べるように,本件パテントプールが独禁法に違反するおそれがあることから,平成9年3月28日開催の取締役会において,平成8年度契約を更新せず,平成9年3月31日の期間満了により終了させて,以後は控訴人ら特許権等の権利者と本件パテントプールに参加している各社との間で直接特許権等の実施許諾契約を締結するように切り換えること等を決定するとともに,これを控訴人の代表者であるA(以下「A」という。)が本件パテントプールに参加している各社(再実施許諾の対象者)に説明することを決定した。 (イ) 株主総会における決議 上記取締役会の決定を受けて,平成9年6月18日開催の被控訴人補助参加人の株主総会において,平成8年度契約を更新せず,平成9年3月31日の期間満了により終了させることが決議された。 その際の決議された内容は,@本件パテントプールを平成9年3月31日をもって終了すること,A控訴人ら特許権等の権利者は,本件パテントプールに参加している各社との間で,直接特許権等の実施許諾契約を締結すること(ただし,上記直接の実施許諾契約における実施料単価は,平成12年3月末日までの3年間は従前と同額とし,同年4月以降は各当事者の協議による。),B被控訴人補助参加人は上記直接の実施許諾契約の仲介及び権利者の証紙の発行業務の代行をすること,であった。 イ(ア) 知的財産権は,特許権が20年,実用新案権が6年ときわめて存続期 間が短いうえ,技術革新の進展により短期間で陳腐化することも多く,きわめて短命な権利というべきであるので,特許権者等が締結し,更新されてきた実施許諾契約を継続的供給契約の範ちゅうに含め,その解消のためには被契約解消者の保護という特別な法的意味を有する「契約を継続し難いやむを得ない事由」を必要とするとの結論を導くべきではなく,その契約解除や更新拒絶による契約の解消の成否については,契約条項の解釈,信義則,権利濫用の法理を用いてその効力を決すべきである。また,仮に,上記実施許諾契約が継続的契約の範ちゅうに入るものとしても,そのことだけから,同契約の解消に上記の「契約を継続し難いやむを得ない事由」を必要とするということはできず,上記の一般法理を用いて,その効力を判断すべきである。平成8年度契約8条は「甲は,・・・その他本契約を継続し難い特段の事由がない限り当該契約の更新を拒否できないものとする。」と定めているから,同条項の解釈の範囲内でその要件を要求することには問題がないが,この条項について,同契約の更新拒絶を実質的に許さないとするに等しい程にハードルを高くして解釈することは許されない。 (イ) 更新申出の不存在 平成8年度契約には,契約が自動更新されることを定めた条項はないので,被控訴人補助参加人が平成8年度契約の更新の申出をしない以上,同契約は平成9年3月31日で期間満了により終了する。しかるところ,被控訴人補助参加人は,更新の申出をしていない。したがって,同契約8条の「契約を継続し難い特段の事由」が存在するか否かを検討するまでもなく,同契約は平成9年3月31日で期間満了により終了したというべきである。 (ウ) 協議の不調による契約の終了 a 平成8年度契約8条の定めの成立経緯からすれば,同条にいう「契約を継続し難い特段の事由」には,契約の両当事者が誠意をもって交渉したにもかかわらず,遂に契約条項につき,合意に至らなかった場合(すなわち,契約条件について誠実な協議をしたが,協議が不調となった場合)等を含むものと解すべきである。 また,継続的契約関係において,事情変更の原則が適用されるほどでない事情の変更があった場合であっても,事情変更による不利益を負担する当事者は,不利益軽減のため相手方と交渉し,交渉が不調となったときは,契約を解消できるものというべきであり,この観点からも,上記の解釈は肯定されるべきである。 本件において,控訴人は,公正取引委員会(以下「公取委」という。)が平成8年3月28日,パチンコ機製造業界のパテントプールに対して立入調査を行ったことなどから,合理的な裏付けをもって本件パテントプールにも独禁法違反の疑いがあると考え,これを解消して,特許権等の権利者が各製造業者に直接特許権等の実施許諾をする個別実施許諾契約締結方式を採用するよう,その契約条件を提示して,被控訴人補助参加人及び本件パテントプールの参加者らと協議成立に向けて努力を重ねたが,特許権等の権利者でない者が多数派を占める被控訴人補助参加人及びその多数派の上記参加者らはこれに応ぜず,協議不成立となった。 b 控訴人は,平成9年3月31日までに,被控訴人補助参加人に対し,平成8年度契約の更新を拒絶する旨の意思表示をした。 したがって,平成8年度契約は,その期間の満了日である平成9年3月31日に終了したというべきである。 ウ 仮に,知的財産権の実施許諾契約である平成8年度契約が「継続的契約」の範ちゅうに入り,その解消には被契約解消者の保護という特別な法的意味を有する「契約を継続し難いやむを得ない事由」を必要とするものであり,同契約8条の「契約を継続し難い特段の事由」がある場合に更新を拒絶できる旨の定めがその趣旨を定めたものである解されるとしても,控訴人には同契約8条の「契約を継続し難い特段の事由」があるというべきである。 (ア) 平成8年度契約等をその内容とする本件パテントプールが独禁法に違反し又はそのおそれがあり,同法違反又はそのおそれのある状態を本件パテントプールの運用により回避することは不可能であるから,控訴人には同契約8条の「契約を継続し難い特段の事由」がある。 a 平成8年度契約等をその内容とする本件パテントプールは,独禁法に違反するものである。 すなわち,平成8年度契約は,3条及びこれを受けた同契約に係る契約書の別紙「実施許諾契約第3条に基づく再実施許諾対象者一覧表」により,再実施許諾先を20社に制限しているものであり,同条は,この20社の利益に反する新規参入を阻止するための条項である。現に,平成6年度契約における再実施許諾先は21社,平成7年度契約及び平成8年度契約における再実施許諾先は20社で,平成6年4月1日から平成9年3月31日までの3年間,被控訴人補助参加人から再実施許諾を受けるパチスロ機製造業者は全く増加しておらず,1社たりとも新規参入者が被控訴人補助参加人の管理する本件パテントプールの参加者として認められていないのである。これから分かるように,平成8年度契約3条はパテントプールを閉鎖的・制限的に行う目的の下に設けられた条項である。また,本件パテントプールにおける実施料率は,0.2%(同契約における控訴人への実施料配分額509円をパチスロ機の販売価格で除したもの)と異常に低いが,このような低率の実施料は,本件パテントプールが新規参入を阻止するための競争制限的なものであるからこそ,成り立っているのである。そうであれば,平成8年度契約を更新することは,独禁法3条違反の実行行為を行うことになる。控訴人が被控訴人補助参加人からこのようなことを強いられるいわれはないから,控訴人には同契約8条の「契約を継続し難い特段の事由」がある。 b 平成9年3月31日までの平成8年度契約等をその内容とする本件パテントプールの現実の運用も,独禁法3条に違反するものであった。 すなわち,@本件パテントプールは,パチスロ機の製造・販売に必須の特許権等を含んでおり,また,その特許権等の権利者と被控訴人補助参加人との間で締結される本件実施契約においては,被控訴人補助参加人が再実施を許諾できる対象者は日電協の組合員に限定されていたにもかかわらず,A平成9年3月31日までに13社が日電協へ加入した上,被控訴人補助参加人からパチスロ機の特許権等の再実施許諾を受けてパチスロ機製造・販売業へ新規参入することを希望していたのに,日電協は上記各社の組合加入を認めず,被控訴人補助参加人は上記各社に対する再実施許諾を拒絶し,B現実に,本件パテントプールの参加者によるパチスロ機の販売シェアは,本件パテントプールが存在した平成6年4月1日から平成9年3月31日までほぼ100%であった。なお,平成6年11月30日ころ,平成8年度契約の再実施許諾対象者となっていないパチスロ機製造業者(以下「非参加者」という。)である日本回胴式遊技機株式会社は,パチスロ機の検定を行う財団法人保安電子通信技術協会(以下「保通協」という。)の検定を通過しその製造するパチスロ機を販売することが可能となったが,被控訴人補助参加人がパチンコ・パチスロパーラー業者に対し本件パテントプールの参加者でないメーカーからパチスロ機を購入しないよう通告したことから,被控訴人補助参加人の意向に逆らう上記業者が存在せず,結局,日本回胴式遊技機株式会社は上記パチスロ機を300台しか販売できなかった。また,統計によれば,平成8年9月から平成9年8月までに,非参加者であるマツヤ商会がパチスロ機7000台を販売しているが,平成8年度契約の契約期間満了後の販売台数を含んでおり,さらに,7000台のうち2759台は,本件パテントプールの参加者であるバルテック社から特許権侵害訴訟を提起されこれに敗訴したため,実質的に販売実績と評価できるものは4241台で,全メーカーの総販売台数の0.8%にすぎず,パチスロ機の販売競争に影響していない。これらの事実は,本件パテントプールの参加者がその運用によりパチスロ機製造・販売業への非参加者の新規参入を排除する行為があったことを示している。 さらに,現在までの被控訴人補助参加人の運用も閉鎖的なもので全く変わっていない。平成5年の被控訴人補助参加人設立後,日電協に新たに加入し,本件パテントプールに参加した外国企業は,アイジーティージャパン社(平成7年10月加入),ロデオ社(旧バークレスト社,平成7年12月加入),アリストクラートテクノロジー社(平成11年4月加入)の3社であるが,これは日電協においていわゆる外圧に屈して加入を認めたものにすぎない。被控訴人補助参加人設立後,日電協に新たに加入し,本件パテントプールに参加した日本企業は,@マックスアライド社(平成5年6月加入),Aベルコ社(平成8年4月加入),Bオーイズミ社(平成13年9月加入),Cニイガタ電子社(平成13年9月加入)の4社しかない。そして,この4社の加入が認められたのは,以下のような理由によるのであり,組合員数が増加する形で新規参入者の加入が認められた例(実質的な意味の新規参入)は,現在まで1社もない。すなわち,@マックスアライド社は,以前日電協の組合員であったのが脱税をしたため脱退していたところ,再加入を許されたにすぎない。Aベルコ社は,代表者が日電協の組合員である興進産業株式会社の関係者として以前日電協の理事をしていたことと,アークテクニコ社が除名されて空席が生じたため,加入を許されたにすぎない。Bニイガタ電子社は,以前日電協の組合員であったのが,不正遊技機問題に関連して脱退していたところ,再加入を許されたにすぎない。Cオーイズミ社は,平成2年以前から協力会員であり,平成4年から約9年間申込みをしていたことに加え,エレクトロコインジャパン社と瑞穂製作所が除名されて空席が生じたため,加入を許されたにすぎない。しかもこれら4社は,以上の事由に加え,既に再実施許諾を受けていた業者の競争相手とならない弱小企業であったので,新たに再実施許諾を受けることができたものである。このように,平成8年度契約及び本件パテントプールの運用はきわめて閉鎖的で,独禁法3条に違反するものである。 本件パテントプールの参加者においては,特許権等を有しない業者が多数派を占めているが,これらの者は,中小企業なので競争制限の継続を望んでおり,他方,これらの者は再実施許諾を受ける者にすぎないので公取委審決の名宛人になる可能性がなく,公取委の立入調査を恐れない。これらの者は,新規参入自由化に賛成するはずがなく,本件パテントプールから独禁法違反の要素を除くことに協力しないので,控訴人が独禁法違反行為に加担することを回避するには,自ら契約から脱退するしか方法がない。 したがって,平成8年度契約を更新することは,独禁法3条違反の実行行為(又はそのおそれある行為)を行うことにほかならず,控訴人がこのような独禁法違反行為に加担することを強いられるいわれはないから,控訴人には同契約8条の「契約を継続し難い特段の事由」がある。 c 控訴人は,独禁法違反の疑いにより公取委による立入調査を受けるおそれがあり,そうなれば,その経営上に支障が生じることは明らかであった。 すなわち,上記のとおり,平成8年度契約等をその内容とする本件パテントプールの運用は独禁法に違反し又はそのおそれがあるものであり,平成9年3月31日当時,平成8年度契約を更新すると,パチンコ機製造業界同様,パチスロ機製造業界も公取委に立入調査されるおそれが大きかった。当時控訴人は,平成10年9月に株式店頭公開の準備に入っていた。また,平成9年当時,控訴人のグループ企業であるUDN社が米国ネバダ州ゲーミング委員会からスロットマシンの製造・販売の免許を得て事業を行っていた。控訴人が独禁法3条違反で公取委から摘発されれば,控訴人は,店頭公開を中止せざるを得ず,かつUDN社の株式取得を禁じられ,米国ネバダ州でスロットマシンの製造・販売を行うことができなくなることが明らかだったのであり,控訴人としては,このような危険を甘受することはできなかった。 したがって,控訴人としては,平成8年度契約から脱退する必要があったのであり,同契約8条の「契約を継続し難い特段の事由」が存在するというべきである。 d この点に関し,本件パテントプールはその運用いかんにより独禁法違反又はそのおそれのある状態を回避できるから,本件において,平成8年度契約8条の「契約を継続し難い特段の事由」はないとの議論がある。しかし,契約の更新とは,同一の契約内容で契約を継続することであり,契約の内容を変更するのであれば,もはや契約の更新とはいえない。したがって,独禁法違反又はそのおそれのある状態を回避するために平成8年度契約の内容を変更しなければならないことは,まさに「契約の継続をし難い特段の事由」に該当する。 e 仮に,本件パテントプールの運用により独禁法違反又はそのおそれのある状態を回避するために,本件パテントプールの利用を広く新規参入者にも認めるとすると,特許権等の開発に多額の投資の負担を負っている控訴人は,資本力のある新規参入者(例えば,ソニー,セガなど)との競争に耐えられず,0.2%という低率の実施料を強いられている下では,市場から退場せざるを得なくなる。 このようなことは,控訴人等の「特許権を誰に実施許諾するかを決定できる特許権者の権利」を不当に侵害し,財産権を保障した憲法29条に違反するものである。 なお,新規参入者に対してのみ,自由市場で成立する通常の実施料率(例えば5%)で許諾することは,独禁法19条,2条9項1号,不公正な取引方法(昭和57年6月18日公正取引委員会告示第15号。以下「一般指定」という。)3項所定の「差別的対価の禁止」に該当し,許されない。 したがって,仮に百歩譲って,平成8年度契約3条があるにもかかわらず,新規参入者に再実施許諾をする運用を行うとしても,控訴人には同契約8条の「契約を継続し難い特段の事由」があるというべきである。 f したがって,控訴人が平成9年3月31日までに被控訴人補助参加人に対してした平成8年度契約の更新を拒絶する旨の意思表示は有効である。 (イ)a 控訴人は,次に述べる理由から,本件パテントプール又はその構成要素の1つである平成8年度契約の条項どおりの契約の履行が独禁法に違反するかも知れないとのおそれをもっていたものであり,そのようなおそれをもったことには合理性があるから,控訴人には,同契約8条の「契約を継続し難い特段の事由」が存在する。 @ 公取委が,平成8年3月28日,「パチンコメーカーの権利者間で構成されたパテントプールが独禁法に違反するとの嫌疑で,同パテントプールに参加している特許権等の権利を有する各会社及び日本遊技工業組合(パチスロ業界における日電協に相当する組織。以下「日工組」という。)に対する立入調査を行ったこと。 A 本件パテントプールは,パチンコ業界のパテントプールを模倣したものであるが,法形式上,権利者と被控訴人補助参加人との間の再許諾先を20社に限定する再実施許諾権付き実施契約という,権利者たるパチンコメーカー間のパテントプールより新規参入障壁としてより強力な方式を採用している。よって,パチンコ業界のパテントプールが独禁法に違反するものであれば,本件パテントプールはそれ以上に独禁法に違反するものであると考えられたこと。 B 被控訴人補助参加人から特許権等の再実施許諾を希望する日電協の非組合員が少なからず存在したにもかかわらず,日電協は,これらの新規参入希望者に日電協への加入を認めず,また,被控訴人補助参加人は,新規参入希望者に証紙を販売しなかった。その結果,平成8年度契約の期間の満了日現在,パチスロ機製造業における新規参入者のマーケットシェアーは0%であったこと。 C 9名の独禁法学者が,関係記録を精査の上,本件パテントプールは独禁法3条等に違反する旨の意見を述べていたこと。 D 本件パテントプールの対象特許権等を使用しなければ,風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(以下「風俗営業法」という。)に基づく型式検定に合格し,かつ商品性のあるパチスロ機を製造することは,事実上不可能であったこと。 E 被控訴人補助参加人は,同補助参加人発行の証紙を貼付していないパチスロ機を購入しないよう警告する警告文を,定期的に業界紙に掲載していた。そのため,全国のパチンコ・パチスロパーラーは,被控訴人補助参加人及びそれに加盟する20社との特許訴訟を回避するため,実際上,被控訴人補助参加人発行の証紙を貼付していないパチスロ機を購入しようとしなかった。よって,本件パテントプールは,パチスロ機製造業に新規参入しようとする者にとって巨大な参入障壁であったこと。 b 自らの所属する集団が違法集団と信じた者の当該集団からの脱退の自由 自らの所属する特定の集団の目的が違法であると信じた者は,それが事実違法である場合はもちろん,そう信ずるにつき合理的な根拠がある場合においても,その集団から脱退する自由を有する。なぜならば,違法集団であることが裁判上確定するまで当該参加者のその集団からの脱退が認められないとすると,当該参加者は,裁判確定までの数年間,違法集団にかかわる契約の履行を常に強要され,その違法な契約の履行に係わる刑事上・民事上の責任を100%負担させられることになり,不当だからである。本件において,控訴人は,被控訴人補助参加人が独禁法違反の目的を有する集団であると信じた者であり,前述した事実関係から明らかなとおり,そう信じるについては合理的な根拠があるというべきであるから,控訴人は,被控訴人補助参加人との平成8年度契約に基づく関係からの脱退を認められるべきであり,控訴人には同契約8条の「契約を継続し難い特段の事由」(やむを得ない事由)があるというべきである。 (ウ) 協議不調による信頼関係破壊に基づく契約終了 一方の当事者が協議成立に向けて真摯な努力をしたのに協議が不調になった場合には,信頼関係を維持していくことができなくなったのであるから,将来に向かって契約を終了させることができるというべきである。 本件においては,平成8年度契約等をその内容とする本件パテントプールの独禁法違反又はそのおそれのある状態を回避するため,控訴人は同契約を解消して,権利者が各製造業者に直接特許権等の実施許諾をする個別実施許諾契約締結方式を採用するよう提案して,真摯に平成8年度契約の改訂の協議を求めたのに,被控訴人補助参加人及び多数派組合員は対案も示さず,上記契約の改定を一方的に拒否したものであって,これは「契約を継続し難いやむを得ない事由」に該当し,控訴人は契約を終了させることができるというべきである。 (エ) 被控訴人補助参加人の法令遵守義務違反による信頼関係破壊に基づく 契約終了 被控訴人補助参加人及び多数派の本件パテントプールの参加者は,控訴人に対し,平成8年度契約期間満了日以後も,平成8年度契約を包含する本件パテントプールの独禁法違反又はそのおそれのある状態を回避できるような契約案を一切提案せず,控訴人が,上記独禁法違反等の状態を回避するために,同契約を解消して,権利者が各製造業者に直接特許権等の実施許諾をする個別実施許諾契約締結方式を採用するよう提案したにもかかわらず,被控訴人補助参加人及び多数派の上記参加者は,平成8年度契約の下では,非権利者がパチスロ機1台の売値の0.2%という,いわばただに近い実施料率で権利者の特許権を利用できるという独禁法が支配する自由市場尊重の法秩序の中では保護に値しない,不当な利益を守るために,上記提案を誠意なく拒否し続けた。これは平成8年度契約13条の「法令その他の商慣習に従う」との定めに違反する被控訴人補助参加人側の重大な債務不履行であり,同契約10条1項(ホ)の「その他本契約条項に関して重大な違反があったとき」に該当するから,控訴人は同契約8条により同契約の更新を拒絶できる。 また,被控訴人補助参加人の上記重大な債務不履行により,控訴人と被控訴人補助参加人との間の信頼関係は完全に破壊された。しかして,かかる事情は,平成8年度契約8条の「契約を継続し難い特段の事由」に該当する。 (オ) したがって,上記(イ)ないし(エ)につき,控訴人が平成9年3月31日までに被控訴人補助参加人に対してした平成8年度契約の更新を拒絶する旨の意思表示は有効である。 エ(ア) 平成8年度契約は,控訴人と被控訴人補助参加人との間の2当事者間の単なる特許権実施許諾契約にとどまるものでなく,パチスロ機製造業者がその全体的利益を守るため結束(談合)し,いわゆるパテントプール方式による一種の共同事業を営むことを目的として作り上げた複合的契約関係の一部に組み込まれた1つの契約であると理解することが可能である。このような集団的契約関係からの離脱(又は契約終了)の規範については,組合員の脱退の規定(民法678条)が類推されるべきである。すなわち,平成8年度契約の存続期間をどのように考えるべきかいかんにかかわらず,同契約の当事者は,「巳むことを得ざる事由」がある場合には,同契約関係から離脱することが認められるべきである。 本件パテントプールは独禁法3条に違反し又はそのおそれのあるものであることから,控訴人は独禁法違反等の状態を回避すべく,平成8年度契約を解消して,権利者が各製造業者に直接特許権等の実施許諾をする個別実施許諾契約締結方式を採用するよう提案したものであり,控訴人には同契約関係から離脱すべき「巳むことを得ざる事由」がある。 (イ) 少数派組合員の脱退の自由 集団において,多数派と利害の対立する少数派は,集団に存続すると自己の事業が著しく不利益を受けるという事態に至った場合には,当該集団から脱退する「巳むことを得ざる事由」があるとして,民法678条の類推適用により,その脱退を認められるべきである(大判昭和18年7月20日民集22巻16号681頁)。 本件パテントプールの参加者であるパチスロ機製造業者の間では,有力な特許権等の約50%を有する少数派(控訴人等)とそれ以外の多数派(特許権等を全く有しないか,有していてもわずかである業者)との間に,根本的な利害の対立が存在していた。少数派の欲するところは,パチスロ機の販売額のわずか約0.2%という異常に低い本件パテントプールにおける実施料率を市場価格並の率に高めることであり,他方,多数派の利益は,現在の異常に低率の実施料を維持することにあった。被控訴人補助参加人の株主総会では,参加者たる各製造業者が平等に議決権を有しているので,議決権の圧倒的多数を有する多数派が,常に少数派の利益を無視して議決権を行使することになり,控訴人の利益が被控訴人補助参加人の株主総会に反映されることは永久にあり得ない状態にあった。本件パテントプールにおいては,このように少数派と多数派の間に根本的な利害の対立があり,少数派は常に集団の中で自らの利益を実現できず,永久に犠牲のみ強いられることになるという状態にあったものであるから,少数派に属する控訴人は,民法678条の類推適用により,平成8年度契約の更新を拒絶して本件パテントプールから離脱する自由を認められるべきである。 (ウ) したがって,控訴人が平成9年3月31日までに被控訴人補助参加人に対してした平成8度契約の更新を拒絶する旨の意思表示は,民法678条の「巳むことを得ざる事由」に基づくものというべきであり,同契約は平成9年3月31日に終了した。 オ 平成8年度契約において,控訴人は,@その保有する特許権等の実施許諾の対価について,自由市場で成立する通常のロイヤルティよりもはるかに低い0.2%のロイヤルティ(実施料)とされ,A自らが上記特許権等を実施する場合にも自ら受け取る実施料よりも高い2000円を再実施許諾の対価として支払わねばならず,Bその下請企業に上記特許権等を実施させる場合にも被控訴人補助参加人の取締役会決議を経なければならないとされ,C自己の有する特許権等を処分できず,D被控訴人補助参加人は自由に更新拒絶ができるのに対し,自らは「契約を継続し難い特段の事由」がなければ更新拒絶ができないという立場に置かれているのであって,平成8年度契約は,控訴人にとって一方的に著しく不利益な契約である。この契約において,控訴人の唯一の権利は「契約を継続し難い特段の事由」が存する場合に更新拒絶ができることであり,このような,いわば控訴人の唯一の保険ともいうべき上記更新拒絶理由を著しくハードルの高いものとし,実質的にこれを具備し得ないものとするような解釈をとることは,公序良俗に反し,独禁法19条,一般指定13項の「拘束条件付取引」に該当するといわざるを得ない。 したがって,もしもそのような解釈しかとり得ないものとすれば,平成8年度契約ないし同契約8条は公序良俗に反し無効となるから,同契約が更新されることはあり得ない。 カ 社会通念上の履行不能による契約終了 前記のとおり,本件パテントプールについて,その運用により独禁法違反となるのを回避することが可能であるとしても,平成8年度契約等の本件実施契約をそのまま維持することは認められず,その運用を変更して,第3者に実施許諾をするほかない。 しかし,本件パテントプールは,日電協の組合員が新規参入者を排除して自らの利益を確保することを目的としたもので,新規参入希望者に実施許諾をする目的で形成されたものではない。独禁法違反の状態を回避しよとすれば,同契約の目的到達は不可能であるから,平成8年度契約は社会通念上履行不能ということができ,同契約は更新されずに終了したというべきである。 キ 商法84条1,2項の類推適用 合名会社の社員は,定款をもって会社の存続時期を定めなかったとき又は社員の終身間会社の存続すべきことを定めたときは,各社員は,理由の存否を問わず,6か月前にその予告をすることにより,営業年度の終わりにおいて退社することができ(商法84条1項),また,会社の存続時期を定めたると否とを問わず,巳むことを得ざる事由があるときは,各社員はいつでも退社することができる(同条2項)。本件においては,既に述べたように,控訴人には平成8年度契約を継続し難いやむことを得ざる事由があり,かつ控訴人は被控訴人補助参加人に対して,平成8年度契約を終了させ,個別実施許諾契約を締結する旨の意思表示をしているので,商法84条2項の類推適用により,平成8年度契約の期間の満了日である平成9年3月31日に,控訴人の同契約を包含する本件パテントプールからの脱退が認められるべきである。 また,仮にやむを得ない事由が存しないとしても,控訴人は,平成9年1月に平成8年度契約の終了の意思表示をしているので,商法84条1項の類推適用により,平成9年度の営業年度の末日(平成10年3月31日)に,本件パテントプールから離脱する。したがって,仮に平成10年3月31日より前に控訴人が平成8年度契約又は更新された平成8年度契約から離脱した旨の主張が認められないときには,上記理由により,同日,控訴人が本件パテントプールから離脱した旨を主張する。 (2) 控訴人が平成8年度契約を解消し,本件パテントプールから脱退するためには,本件パテントプールの参加者すべてに同契約終了ないし同脱退の意思表示をしなければならないとした場合でも,控訴人は,次のとおり,本件パテントプールの参加者すべてに同契約終了ないし同脱退の意思表示をし,これにより控訴人は本件パテントプールから脱退した。 すなわち,仮に,本件パテントプールの参加者すべてに上記契約終了ないし脱退の意思表示をしていないために,平成8年度契約が更新されたとしても,控訴人は,被控訴人補助参加人の全体会議又は株主総会が開催された平成9年6月18日に上記意思表示をしたから,同日,更新された平成8年度契約は解消され,控訴人は本件パテントプールから脱退した。また,仮に,更新された平成8年度契約の契約期間中は,控訴人は本件パテントプールから脱退できないと解されるとしても,控訴人は更新された平成8年度契約の期間が満了する平成10年3月31日に,本件パテントプールから脱退した。さらに,控訴人は,書面により控訴人保有の特許権等にかかる個別実施契約案を提案していないので,本件パテントプールから脱退する意思表示をしたとは認められないとしても,控訴人は,平成10年10月30日,本件パテントプールの参加者(再実施許諾の対象者)に上記暫定個別実施契約案を書面で交付したので,同日,本件パテントプールから脱退した。 (3) 平成8年度契約8条の「契約を継続し難い特段の事由」に該当する事情が仮に存在せず,契約が期間満了後も更新されたとしても,平成8年度契約は,更新日である平成9年4月1日以降,期限の定めのない契約となる。控訴人が平成9年3月中にした平成8年度契約の契約終了の意思表示は,実質的には,期間の定めのない契約についての解約告知に該当するので,相当期間である5か月又は1年の経過により,同契約は終了したというべきである。 (4) 仮に上記(2)の主張が認められないとしても,前記(1)ウ(ウ)又は(エ)に記載のと おり控訴人と被控訴人補助参加人との間の信頼関係は破壊されたので,控訴人は,これを理由として,平成11年1月4日及び平成12年11月21日に,被控訴人補助参加人に対し,平成8年度契約を解除する旨又はこれを終了させる旨の意思表示を行った。 (5) 更新された平成8年度契約の履行義務の不存在 平成8年度契約等をその内容とする本件パテントプールは,平成8年度契約3条により,被控訴人補助参加人による再実施許諾先が明文で20社に制限されているから,同契約を更新してこれを履行するとすれば,本件パテントプールは独禁法3条に違反する合理的な疑いがある。それゆえ,平成8年度契約を更新してこれを履行することは,強行法規である独禁法3条違反の合理的疑いのある契約を履行することになり,公序良俗に反する。そうすると,仮に,平成8年度契約が更新されたものとしても,更新後の契約は無効というべきであり,控訴人は,更新後の契約を履行する義務を負わないというべきである。 したがって,被控訴人によるイ号物件の製造・販売は本件特許権を違法に侵害するものである。 (被控訴人及び被控訴人補助参加人の主張) (1) 控訴人と被控訴人補助参加人との間の平成8年度契約(実施許諾契約)は,イ号物件が製造・販売された平成10年7月1日から同年12月31日までの期間より前の時点である平成9年3月31日(平成8年度契約の契約期間満了日)に終了したとの控訴人の主張は,いずれも理由がない。 ア (控訴人の主張)(1)ア(被控訴人補助参加人の取締役会の決定及び株主総会の決議等による平成8年度契約の合意解除(更新しない旨の合意)の成立)について (控訴人の主張)(1)アの主張事実は否認する。 イ (控訴人の主張)(1)イについて (ア) 更新申出の不存在について 平成8年度契約が更新のために契約当事者からの申出を要する旨の主張は争う。同契約は,平成6年度契約同様,「継続し難い特段の事由」に基づき事前に更新拒絶の意思表示がされた場合を除き,自動更新されるものである。 (イ) 協議不調による契約の終了について a この点に関する控訴人の主張は争う。 控訴人は,独禁法違反等の状態を回避するため,平成8年度契約を解消して,特許権等の権利者が製造業者に直接特許権等の実施許諾をする個別実施許諾契約締結方式を採用するよう,その契約条件を提示して,被控訴人補助参加人及び参加人と協議したというが,本件パテントプールが独禁法に違反するとの控訴人の主張は全く根拠がなく,控訴人の提案なるものは,自ら本件パテントプールの契約関係を築きながらこれを無視する行為であって,上記協議が不調になったからといって,それが契約の終了原因になるものではない。 b 同(1)イ(ウ)bの主張事実(更新拒絶の意思表示をしたとの事実)は否認する。 ウ (控訴人の主張)(1)ウについて (ア) 同(1)ウ(ア)の主張は争う。 a 次に述べるとおり,平成8年度契約等をその内容とする本件パテントプールは独禁法に違反するものではない。 @ パテントプールとは,特許権等を有する複数の権利者が,それぞれの有する特許権等又は特許権等のライセンス(実施許諾)をする権限を一定の企業体や組織体に集中し,当該企業体や組織体を通じてパテントプールの構成員等が必要なライセンスを受けるものをいう。本件パテントプールにおいて,被控訴人補助参加人に集中され,再実施許諾の対象となる特許権等は,控訴人と被控訴人補助参加人との間及びその他の特許権等の権利者と被控訴人補助参加人との間の特許権等の実施許諾契約(平成8年度契約を含む本件実施契約)に係る各契約書の別紙目録に記載のものに限られるものでなく,出願中のもの及び将来登録されるものも含め,控訴人その他の特許権等の権利者が有するすべての特許権等である。特許権等の権利者が自由にその一部の特許権等を一定の企業体や組織体に集中させることなく,手元に留め置くことができるようなものは,そもそもパテントプールとはいわない。このように,本件パテントプールは,特許権等の権利者が有するすべての特許権等を対象とするものであるが,以下に述べるとおり,独禁法に違反するものではない。 A パテントプールは,特許権等の権利者がその有する特許権等を一定の企業等にライセンスをし,またライセンスを受けた企業等がその構成員に再許諾するという形態の「特許権等の行使」であるから,独禁法21条(平成12年法律第76号による改正前は同法23条)により,原則として独禁法の適用を受けないものである。したがって,パテントプールという方式を採用していること自体が,直ちに独禁法に違反するというものではない。 しかし,パテントプールを採用し,これを運用する場合において,その運用の方針,現実の運用が,特許法等の技術保護制度の趣旨を逸脱し,又は同制度の目的に反すると認められる場合には,特許法等による権利の行使と認められる行為とはいえず,独禁法の適用を受けることになる。 B 日電協が設立された趣旨は,パチスロ機遊技を国民生活の向上に伴う余暇の増大に対応する健全娯楽産業とし,パチスロ機業界を遵法営業に徹する健全な業界として発展させるとともに,パチンコ機製造業界に対抗すべく業界として自立するということにあったものであり,それは新規参入の阻止を目的としたものではない。 また,パチスロ機の草創期からメーカー間の競争も熾烈であり,メーカー間において,特許権等をめぐる紛争がしばしば起こり,メーカー各社ともにその対応に苦慮していたことから,上記特許権等をめぐる業界各社の利害調整を行うべく,昭和59年3月に日本電動特許株式会社(代表取締役C),平成2年3月に全国回胴遊技機特許株式会社(代表取締役D),平成4年3月ころに電動式特許株式会社(代表取締役A)がそれぞれ設立され,各会社ともにパテントプール方式により上記特許権等をめぐる利害調整を行っていた。なお,これらの会社に参加している企業には,日電協に加盟している企業もあれば,加盟していない企業もあった。その後,このようなパテントプール方式による利害調整のための特許管理会社が3社に分裂し,業界各社が各特許管理会社に分属し,結果的に,業界各社も分裂し,各特許管理会社間の特許権等をめぐる利害調整が困難になっている状況を改善するため,後に被控訴人補助参加人の代表者となったCの提案により,上記利害調整を行う特許管理会社を1社にまとめることになり,その実現のため,平成5年に被控訴人補助参加人が設立された。このような経緯からして,被控訴人補助参加人が新規参入を阻止するために日電協の組合員によって設立されたものでないことは明らかである。 C パチスロ機の業界では,技術的に突出した企業はなく,いくつかのグループに分かれて特許権等侵害問題で係争していた程度であって,被控訴人補助参加人が設立された当時から,特定の企業の特許権等を実施しなければパチスロ機を製造することができない状況にはなかった。その状況は,現在においても同様であり,控訴人らをはじめとする権利者らが有する特許権等を利用しなくても,風俗営業法に適合するパチスロ機を製造することは可能であり,本件パテントプールに加入せずに,保通協の検定にパスし,パチスロ機を製造している業者も存在している。また,ソニーやセガといった巨大なゲーム機開発製造業者がパチスロ機の製造業界に参入すれば,既存のパチスロ機製造業者の生き残りは困難な状況にある。 本件のパテントプールに係る継続的集団的契約関係形成時以降,その状況に変わりはなく,パチスロ機製造業界が本件パテントプールの当事者の努力によって,パチスロ機製造・販売のシェアを増しつつある現在においても,各企業が生き残ることに努力をはらっている状況であり,本件パテントプールの参加者に市場支配力などない。 控訴人が本件パテントプールが独禁法に違反するとの主張の根拠として挙げる,本件パテントプールがパチスロ機に関するほとんどすべての特許権等をプールしているという点がそもそも事実と異なる。平成8年度契約の契約書の別紙目録に記載された11件の特許権等は,必ずしもパチスロ機製造に必須のものではない。 有力な特許権等の権利者といわれる控訴人と高砂電器は,被控訴人補助参加人設立以前の,特許権等管理会社3社が鼎立していた時代において,それぞれ別の特許管理会社に所属していたが,各パチスロ機製造業者は,自己の所属する陣営と異なる他の陣営の特許権等を侵害することなくパチスロ機を製造・販売してきたものであって,このことは,上記両社の保有する特許権等の全部が,それらを実施しなくても,パチスロ機を製造・販売できるということを示している。これらの権利が被控訴人補助参加人に実施許諾され,本件パテントプールの対象特許権等として取り扱われた後も事情は同様である。また,被控訴人補助参加人に参加していない会社,例えばパチンコ機製造業界の大手である株式会社三共やソフィア株式会社なども,多数のパチスロ機に関する特許権等を保有しているのであり,被控訴人補助参加人に参加する業者のみがパチスロ機に関する特許権等を独占していたものではない。 D 本件パテントプールについては,以下に述べる事情があり,これらの事情も,本件パテントプールが独禁法に違反しないことを裏付けるものである。 @ 被控訴人補助参加人は,本件パテントプールの運用において,販売数量の制限や販売価格の統制,競合機種の製造・販売に対する先行業者の事前承認,販売業者の登録制といった規制を行った事実はなく,新規参入を排除するなど,独禁法に違反するような運用は行っていなかった。この点,公取委がパチンコ機製造業界のパテントプールが独禁法に違反するとして同業界に対してした勧告審決(違法行為を排除するために必要な一定の措置を採るよう求めるもの)において認定された事実状況とは,全く異なる。新規参入希望者に対し,パチスロ機製造業界が慎重であったのは,業界健全化のため不正機(違法パチスロ機)を製造・販売するような業者を排除する必要があり,被控訴人補助参加人としても加入申込業者に対し審査を慎重にしたにすぎない。被控訴人補助参加人を中心とする集団的契約関係の取扱いとは関係のない次元の話である。 A 平成8年度契約を含む本件実施契約において再実施許諾の対象者が限定列挙されていても,契約期間の途中で新規加入者を加える覚書を締結したり,1年ごとの契約期間満了時に,再実施権者を追加することはいつでも可能である。 B 本件パテントプールの当事者間には,新規参入者を排除するとの合意はなく,かえって,本件パテントプールが独禁法に違反することにならないように運用しなければならないとの考えを当事者がもっており,新規参入には慎重に対応してきた。ひとり控訴人代表者Aのみが独禁法に違反することのないようにしようと考えていたのではない。 C 被控訴人補助参加人においては,当初販売会社であった企業にパチスロ機の製造を認めたこともある。また,いわゆるOEM(相手先商標製造)についても,参加企業でこれを行っているところもあるが,格別問題とされていない。 D パチスロ機製造業への新規参入については,エレクトロコインジャパン株式会社が平成6年3月11日に被控訴人補助参加人の株式を取得して株主となって,本件パテントプールに参加している。平成8年にはベルコ社及びバークレスト社が本件パテントプールに参加を認められ,それぞれ平成9年の1月と3月から証紙の交付を受けている。 逆に,本件パテントプールの参加者であっても,違法改造機問題を起こしたり,倒産した場合には本件パテントプールから脱退させられており,この場合には,契約の解除という形を取っている。平成7年5月22日にはアークテクニコ社が,平成8年5月23日には株式会社パル工業が脱退している。契約の解除という形で参加者を脱退させたのは,この2社だけであり,パチンコ機製造業界のパテントプールのように再実施許諾の対象者たる企業における役員変更等の理由で脱退させた例はない。 E 平成6年度ないし平成8年度契約に係る各契約書においては,再実施許諾の対象者を同契約書の別紙「実施許諾契約第3条に基づく再実施許諾対象者一覧表」に列挙された者に限定しているが,これは,特許権等の実施許諾が特許権等の行使の一態様であることから当然に合意されるべき内容だからである。すなわち,特許権等の再実施権を無制限に認めては,特許権等の権利者が,権利の行使によって得られるべき利益を確実に得ることができなくなるおそれがあることから,再実施許諾権付き実施許諾を行う場合には,再実施許諾先を予め特許権の権利者と実施権者との間で決めておくのが通常である。上記契約締結時に再実施許諾の対象者が限定列挙されているとの一事をもって,本件パテントプールが独禁法違反であるということはできない。 b 新規参入を認めることが,控訴人の主張するように控訴人が市場から退場することに結びつくとする論拠は全くなく,仮に控訴人が市場から退場することを強制されることになるとすれば,それは控訴人の製品に競争力がないからにすぎない。 c 上記のような本件パテントプールの性質から,これが独禁法に違反するとの控訴人の主張は全く独自の見解にすぎない。したがって,公取委がパチスロ機製造業界に対して立入調査を行うような可能性は全くなく,そのようなおそれも存在しなかった。 (イ) 同ウ(イ)について 同ウ(イ)の主張は争う。 本件パテントプールは,双務的な債権債務関係から成り立つものである。本件パテントプールの形成に当たり,控訴人は中心的な役割を果たしたものであり,その意思表示に瑕疵があったわけではない。有効に成立した債権債務関係においては,一方当事者の意思のみで契約を解消することは許されない。本件パテントプールに基づいて実施料を収受しておきながら,都合が悪くなったからといって,一方的に契約関係から脱退しようとすることは,単なる債務不履行にすぎず,許されない。 本件パテントプールの集団的契約関係は,むしろ特許権等の排他的効力を減ずる方向で締結されており,その意味で競争促進的なものである。したがって,本件パテントプールは独禁法に違反するものとはいえず,控訴人がこれを独禁法に違反するというのは全く独自の見解にすぎない。 したがって,仮に控訴人が独禁法違反と信じたとしても,これにより当該契約関係を終了させることはできない。 (ウ) 同ウ(ウ),(エ)の主張は,いずれも争う。 控訴人は,独禁法違反等の状態を回避するため,平成8年度契約を解消して,特許権等の権利者が各製造業者に直接特許権等の実施許諾をする個別実施許諾契約締結方式を採用するよう,その契約条件を提示して,被控訴人補助参加人及び参加人と協議したというが,本件パテントプールが独禁法に違反するとの控訴人の主張は全く根拠がなく,控訴人の提案なるものは,自ら本件パテントプールの契約関係を築きながらこれを無視する行為である。協議不調による信頼関係の破壊,あるいは法令遵守義務違反による信頼関係の破壊をいう控訴人の主張は,いずれも,本件パテントプールが独禁法に違反するとの根拠のない見解を前提とするものであって,その前提を欠く。 エ (控訴人の主張)(1)オについて 同(1)オの主張は争う。 控訴人は,被控訴人補助参加人の設立に当たり中心的な役割を果たし,それ以前から存在していた他の特許権等管理会社における集団的契約関係と同様の集団的契約関係を形成した。控訴人は,自らの意思に基づきその利益を考慮してこのような形態を選択したのであって,こうして契約関係に入った以上,当該契約関係に拘束されるのは当然である。 オ (控訴人の主張)(1)カについて 同(1)カの主張は争う。 本件パテントプールは,むしろ特許権等の効力(排他的効力)を減ずる方向で締結されたものであり,この意味で,本件パテントプールは競争促進的なものということができる。控訴人がこれを独禁法に違反するというのは独自の見解にすぎない。したがって,平成8年度契約が履行不能であるということはできない。 カ (控訴人の主張)(1)キ(商法84条1,2項の類推適用)について 同(1)キの主張は争う。 商法84条1,2項が,本件のような契約関係に類推適用される余地は全くない。 (2) (控訴人の主張)(5)(更新された平成8年度契約の履行義務の不存在)について 前記(1)ウ(イ)において述べたように,本件パテントプールの集団的契約関係は,むしろ特許権等の排他的効力を減ずる方向で締結されており,その意味で競争促進的なものである。したがって,本件パテントプールは独禁法に違反するとはいえず,控訴人がこれを独禁法に違反するというのは全く独自の見解にすぎない。 (3) (控訴人の主張)のうちその余の主張について (控訴人の主張)のうちその余の主張はいずれも争う。 |
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当裁判所の判断
1 本件特許権は,平成8年度契約に係る契約書の別紙目録に記載されているものであり,平成8年度契約において,控訴人から被控訴人補助参加人に対して再実施許諾権付きで実施許諾がされ,被控訴人を含む本件パテントプールの参加者であるパチスロ機製造業者に対して再実施の許諾がされていたことは,前記引用に係る原判決「事実及び理由」欄の第2の1(4),(5)に記載のとおりである。したがって,被控訴人は,平成8年度契約により本件特許権の実施権を付与されたものであるから,平成8年度契約ないし更新後の平成8年度契約の終了,更新後の平成8年度契約の公序良俗違反による無効をいう控訴人の主張が認められず,平成8年度契約が逐次更新され,継続しているとすれば,イ号物件が本件特許発明の技術的範囲に属し,同製品の製造・販売が本件特許権を侵害するか否かについて判断するまでもなく,被控訴人が本件特許権を侵害したことを理由とする控訴人の本件請求はいずれも理由がないことに帰する。そこで,イ号物件の製造・販売が本件特許権を侵害するか否かの点(争点1,2)はさておき,まず,平成8年度契約終了等をいう控訴人の主張の当否(争点3)について判断することとする。 2 争点3(本件特許権についての実施許諾契約は終了したか否か等)について (1) 前提となる事実関係は,次のとおり補正するほか,原判決「事実及び理由」欄の「第4 争点に対する判断 3(1)」に記載のとおりであるから,これを引用する。 ア 原判決34頁22行目の「甲6ないし8」を「甲6ないし9,甲11の1ないし4」と,同23行目の「甲12の1ないし14,甲12の16ないし29」を「甲12の14,甲12の29」と,同24行目の「丙1」を「丙2」と,同25行目の「11,丙12の2ないし丙19,丙22ないし丙24,丙26ないし丙37」を「15,丙17ないし丙19,丙22ないし丙37」とそれぞれ改める。 イ 原判決35頁10行目の「被告補助参加人」から同18行目末尾までを「昭和59年3月に日本電動特許株式会社(代表取締役C),平成2年3月に全国回胴遊技機特許株式会社(代表取締役D),平成4年3月に電動式特許株式会社(代表取締役A)がそれぞれ設立され,各会社ともにパテントプール方式により上記特許権等をめぐる紛争の解決に当たっていた。しかし,上記3社が併存するようになって以降,上記3社間で主導権争いが演じられ,業界各社が各特許管理会社に分属し,結果的に,業界各社も分裂し,各社間の特許権等をめぐる利害調整が困難になっている状況が生じた。そこで,この状況を改善するため,被控訴人補助参加人の代表者であるCの提案により,上記利害調整を行う特許管理会社を一元化することになり,その実現のため,平成5年,被控訴人補助参加人が設立されたものである。被控訴人補助参加人は,設立当初,控訴人を含む20社が40株ずつ均等出資して株主となっていたが,その後,エレクトロコインジャパン社が平成6年3月11日に第三者割当増資40株を引き受けて,被控訴人補助参加人の株主に加わった。」と改め,同18行目末尾の次に改行の上次のとおり加える。 「なお,日電協は,パチスロ機製造業者の団体である。パチスロ機業界も,パチンコ機業界と同様,風俗営業法の適用を受ける業種であるが,顧客は射幸心を煽るゲーム機に興味を示し,パチンコ・パチスロホールの営業者は集客力のあるゲーム機を設置する傾向にあることから,このような傾向が不正機の製造・販売につながることを防止しつつ,パチンコ機業界に対抗し,パチスロ機遊技を国民生活の向上に伴う余暇の増大に対応する健全娯楽産業とし,同法の下で健全な業界として自立,発展することを目ざし,監督官庁の指導の下に,パチスロ機製造業者及びその関連の販売会社11社により設立され,その後,逐次組合員数が増加していったものである。」 ウ 同37頁3行目の「実施予想の申告を」を「各企業が実施していると考えられる特許権等の申告を」と改める。 エ 同37頁19行目から20行目にかけての「独禁法違反と認め,違法行為を排除するよう勧告を行った。」までを「上記のパテントプール制度は,パチンコ機製造業への参入を排除する方針の下に,日特連が所有又は管理運営する特許権等の実施許諾を拒絶することによって,パチンコ機を製造しようとする者の事業活動を排除することにより,公共の利益に反して,我が国におけるパチンコ機の製造分野における競争を実質的に制限しているものであって,これらの実施許諾の拒絶は,特許法等による権利の行使とは認められないものであるとして,これを独禁法2条5項の規定に定める私的独占に該当し,同法3条に違反するものと認め,上記10社及び日特連に対し,違法行為を排除するために必要な一定の措置を採るよう勧告を行った。これに対し,上記10社及び日特連は,この勧告を応諾する旨申し出たので,公取委は,平成9年8月6日,勧告と同趣旨の審決を行った。また,公取委は,上記10社らで組織される日工組に対し,同組合が上記10社らが行っていた排除行為等に関与していた行為等について独禁法8条1項の規定に違反するおそれがあるとし,また,上記10社及び日特連に対し,これらの者が行っていた価格監視行為等について独禁法3条及び19条の規定に違反するおそれがあるとして,それぞれ警告を行った。」と改める。 (2) 被控訴人補助参加人の取締役会の決定及び株主総会の決議等による平成8年度契約の合意解除(更新しない旨の合意)の成立の有無について この点に関する当裁判所の判断は,次のとおり補正,付加するほか,原判決「事実及び理由」欄の「第4 争点に対する判断 3(3)」に記載のとおりであるから,これを引用する。 ア 原判決39頁18行目の「証拠(甲9,甲12のa5及び前記(1)掲記の証拠)」を「証拠(甲12のa5,a8,a10の3,4,甲85,丙16及び前記(1)掲記の証拠)」と改める。 イ 同41頁15行目の「本件実施許諾契約及び再実施許諾契約」を「本件実施契約及び再実施契約」と改める。 ウ 同41頁22行目の「決定」を「決定があった旨の主張」と改め,同22行目末尾の次に改行の上,次のとおり加える。 「上記アに認定したように,平成9年2月12日から同年6月11日まで5回にわたり開催された被控訴人補助参加人の取締役会においては,被控訴人補助参加人の取締役である控訴人代表者のAから,本件パテントプールを解消して,特許権等の権利者がパチスロ機製造業者との間で個別に実施契約を締結する方式に切り替えるべきであるとの提案が行われたが,意見集約ができず,Aの提案を了承する旨の決定が出されるには至らなかったものである。」 エ 同42頁2行目の「議事録」の次に「(丙17)」を加え,同11行目の「(なお,」から同20行目末尾までを「なお,控訴人は,当該議事録はA名義の三文判を使用して偽造されたものであるとしてその成立を争うが,証拠(丙16ないし丙19の存在)及び弁論の全趣旨によれば,他の取締役会議事録(平成9年2月12日,同年4月16日,同年5月22日開催のもの)等についても,取締役Aの名下には上記と同一の印鑑が押捺されているのであって,Aは,被控訴人補助参加人において議事録等関係書類作成の際に上記印鑑を使用することを了承していたもの認められるし,また,上記のような重要な案件を提案した控訴人代表者のAとすれば,議事録の内容に関心を寄せ,議事録の内容に目を通したはずであり,その結果,議事録の内容に記載漏れがあれば,その点を議事録の作成担当者に当然指摘しているはずであるが,そのような指摘があったことをうかがわせる証拠はない。したがって,上記議事録は真正に成立したものと認められる。)。証拠(甲12のa18,12のa29(いずれも控訴人代表者Aの陳述書),甲12のa46(控訴人従業員Eの作成に係る発言録取メモ),甲21(高砂電器の代表者Fの陳述書))には,控訴人の上記主張に沿う記載があるが,上記の事情及び前記引用に係る原判決「事実及び理由」欄の「第4 争点に対する判断 3(1)」掲記の各証拠に照らしてこれらはたやすく信用することができず,他に被控訴人補助参加人の取締役会において平成8年度契約を包含する本件パテントプールを解消する旨の決定がされた旨の控訴人主張事実を認めるに足りる証拠はない。」と改める。 オ 同42頁21行目の「決定の主張」を「決議があった旨の主張」と,同24行目の「本件実施許諾契約及び再実施許諾契約」を「本件実施契約及び再実施契約」とそれぞれ改める。 カ 同43頁2行目の「議事録」の次に「(丙9)」を加える。 キ 同43頁9行目の「旨が決定」を「旨の決定又は決議が」と改める。 (3) 更新申出の不存在の主張について この点に関する当裁判所の判断は,次のとおり補正,付加するほか,原判決「事実及び理由」欄の「第4 争点に対する判断 3(2)」に記載のとおりであるから,これを引用する。 ア 原判決38頁12行目,同18行目の各「拒絶」を「拒否」とそれぞれ改める。 イ 同38頁22行目の「本件実施許諾契約」から同39頁1行目の「本件実施許諾契約は,」までを「本件実施契約は,本件パテントプールに参加する複数のパチスロ機製造業者がパチスロ機の製造・販売を行うための特許権等についての再実施許諾権付きの実施許諾契約であり,また,上記パチスロ機製造業者は,被控訴人補助参加人との間の本件再実施契約に基づいて上記特許権等の再実施許諾を受けた上,多額の投資をしてパチスロ機の製造のために設備を備え,人員を雇用するなどし,上記特許権等を使用することを前提にパチスロ機の製造・販売の事業計画に基づいて,同業を継続的に行うものである。そして,もしも本件再実施契約が解消された場合に,上記パチスロ機製造業者が他の代替特許権等を見出して上記事業計画に基づく事業を継続することは困難であると考えられる。したがって,本件パテントプールの基礎をなす本件実施契約は,」と改める。 ウ 同39頁7行目の「拒絶」を「拒否」と,同10行目の「ただし書きのみを」を「ただし書きとして記載されている部分のみを」とそれぞれ改める。 エ 同39頁13行目から14行目にかけての「申出がなかったとしても,」の次に「期間満了日より前に被控訴人補助参加人からの更新拒絶の申出又は平成8年度契約10条1項所定の事由その他本契約を継続し難い特段の事由に基づく控訴人からの更新拒絶の申出がない限り,」を加える。 (4) 協議不調による契約終了の主張について 控訴人は,平成8年度契約8条の規定の成立経緯からすれば,同条にいう「契約を継続し難い特段の事由」には,契約の両当事者が誠意をもって交渉した結果,遂に契約条項につき,合意に至らなかった場合(すなわち,契約条件について誠実な協議をしたが,協議が不調となった場合)等を含むものと解すべきであり,また,継続的契約関係において,事情変更の原則が適用されるほどでない事情の変更があった場合であっても,事情変更による不利益を負担する当事者は,不利益軽減のため相手方と交渉し,交渉が不調となったときは,契約を解消できるというべきである旨主張する。 しかしながら,平成8年度契約が重大な契約違反又は契約を継続し難い特段の事由がない限り,原則として更新され継続されることとした趣旨は,前記引用に係る原判決「事実及び理由」欄の「第4 争点に対する判断 3(2)」に説示したとおりであり,この趣旨からすれば,同契約8条にいう「契約を継続し難い特段の事由」とは,同10条1項所定の事由に準ずるような重大な事情をいうものと解するのが相当であり,これに反する控訴人の見解は採用することができない。したがって,平成8年度契約を更新するかどうかについて当事者間に意見の対立があり,契約の両当事者が誠意をもって同契約の解消と新たな関係の形成について協議をしたにもかかわらず,その協議が不調になったからといって,直ちに同契約8条の「契約を継続し難い特段の事由」があるということはできない。 また,本件において,控訴人は,公取委が平成8年3月28日,パチンコ機製造業界のパテントプールに立入調査したことなどから,合理的な裏付けをもって本件パテントプールにも独禁法違反の疑いがあると考え,これを解消して,特許権等の権利者が各製造業者に直接特許権等の実施許諾をする個別実施許諾契約締結方式を採用するよう,その契約条件を提示して,被控訴人補助参加人及び本件パテントプールの参加者らと協議成立に向けて努力を重ねたが,特許権等の権利者でない者が多数派を占める被控訴人補助参加人及びその多数派の上記参加者らはこれに応ぜず,協議不成立となったというのであるが,本件パテントプールが独禁法に違反するものでないことは,後に説示するとおりであり,控訴人が主観的に本件パテントプールが独禁法に違反すると信じて,上記のような提案を行ったなどの事情があるとしても,上記の判断を左右するに足りない。 (5) 平成8年度契約等をその内容に含む本件パテントプールが独禁法に違反し,又はそのおそれがあり,同違反等の状態を本件パテントプールの運用により回避することは不可能であるから,控訴人には,同契約8条の「契約を継続し難い特段の事由」がある旨の主張について ア パテントプールとは,特許権等を有する複数の権利者が,それぞれの有する特許権等又は特許権等のライセンス(実施許諾)をする権限を一定の企業体や組織体に集中し,当該企業体や組織体を通じてその構成員等が必要なライセンスを受けるものをいう。本件パテントプールにおいては,その参加者である特許権等の権利者は被控訴人補助参加人との間でその特許権等につき再実施許諾権付きの本件実施契約を締結し,被控訴人補助参加人は本件パテントプールに参加している各パチスロ機製造業者との間で上記特許権等につき本件再実施契約を締結し,上記各パチスロ機製造業者は上記特許権等を使用してパチスロ機の製造・販売を行っていたものと認められる。 しかして,上記パテントプールの仕組みは,複数の権利者が所有する特許権等を相互に使用可能とすることにより,当該特許権等の利用価値を高め,権利者間の技術交流を促進するなどの効果を有するものであり,それ自体は上記のような形態の「特許権等の行使」に該当するものあるから,独禁法21条により,原則として独禁法の適用を受けないものであり,したがって,パテントプールという方式を採用していること自体が,直ちに独禁法に違反するというものではない。もっとも,当該パテントプールの運用の方針,現実の運用が,特許法等の技術保護制度の趣旨を逸脱し,又は同制度の目的に反すると認められる場合には,特許法等による権利の行使と認められる行為に該当せず,独禁法違反の問題が生ずることがある。平成8年度契約の期間満了後に出されたものではあるが,「特許・ノウハウライセンス契約に関する独占禁止法上の指針」(平成11年7月30日公取委。乙43)は,@企業体等にプールされている特許権等のライセンス(実施許諾)契約において,ライセンスを受けるパテントプールの構成員が共通の制限を受けるとの認識の下に,構成員に特許製品等の販売価格,製造数量,販売数量,販売先,販売地域等についての制限が相互に課され,これにより一定の製品市場における競争が実質的に制限される場合には,不当な取引制限として独禁法違反となる,また,Aパテントプールの構成員に対し研究開発の分野,ライセンスの許諾先,採用する技術などについての制限が相互に課され,これにより一定の製品分野又は技術市場における競争が実質的に制限される場合についても同様である,さらに,B一定の製品分野において競争関係にある複数の権利者が当該製品分野に関連する特許権等のパテントプールを組織し,この組織体に特許権等を集積するとともに,現在及び将来の改良技術等をすべて当該組織体に集積する結果,当該集積された特許権等のライセンスを受けることなくしては当該製品分野等における事業活動が困難となっている場合において,当該パテントプールを利用して,複数の権利者が新規参入者や特定の既存事業者に対するライセンスを合理的な理由なく拒絶することなどにより,他の事業者の新規参入を阻害したり,既存事業者の事業活動を困難にさせることは,これらの行為により一定の製品市場又は技術市場における競争が実質的に制限される場合には,私的独占として違法となるなどの指針を掲げているが,パテントプールが上記指針のように運営され,一定の製品分野又は技術市場における競争が実質的に制限されることになる場合には,パテントプールは独禁法に違反するものとなり得るというべきである。 イ そこで,以下,平成8年度契約等を内容とする本件パテントプールの運用の方針及び現実の運用がどのようなものであったかについて検討する。 (ア) 被控訴人補助参加人が設立された経緯は,前記引用に係る原判決「事 実及び理由」欄の「第4 争点に対する判断 3(1)」に記載のとおりである。パチスロ機の製造・販売の草創期にあっては,パチスロ機のメーカー間の競争も熾烈であり,上記メーカー間において,特許権等をめぐる紛争がしばしば起こり,メーカー各社ともにその対応に苦慮していたことから,上記特許権等をめぐる業界各社の利害調整を行うべく,昭和59年3月に日本電動特許株式会社(代表取締役C),平成2年3月に全国回胴遊技機特許株式会社(代表取締役D),平成4年3月に電動式特許株式会社(代表取締役A)がそれぞれ設立され,各会社ともにパテントプール方式により上記特許権等をめぐる利害調整を行っていた。しかし,上記特許管理会社3社が併存するようになって以降,その3社間で主導権争いが演じられ,業界各社が各特許管理会社に分属し,結果的に,業界各社も分裂し,各会社間の特許権等をめぐる利害調整が困難となる状況も生じた。そこで,この状況を改善するため,後に被控訴人補助参加人の代表者となったCの提案により,上記利害調整を行う特許管理会社を1社にまとめることになり,その実現のため,平成5年,被控訴人補助参加人が設立されたものである。このような経緯からして,被控訴人補助参加人が設立された目的は,パチスロ機のメーカー間で特許権等をめぐる紛争が絶えなかったことから,特許権等を被控訴人補助参加人に集中させて,上記メーカー間の利害を調整し,特許権等をめぐる紛争を未然に防止して,パチスロ機製造業界の健全な発展を期するということにあったものであり,被控訴人補助参加人がパチスロ機製造業界への新規参入を阻止することを目的としたものであったとは認められない。 なお,被控訴人補助参加人の株主として本件パテントプールの参加者となっている会社は,いずれも日電協の組合員であるが,日電協が設立された経緯は,前記引用に係る原判決「事実及び理由」欄の「第4 争点に対する判断 3(1)」に記載のとおりであり,その設立の趣旨は,パチスロ機遊技を国民生活の向上に伴う余暇の増大に対応する健全娯楽産業とし,パチスロ機業界を遵法営業に徹する健全な業界として発展させるとともに,パチンコ機製造業界に対抗すべく業界として自立するということにあったものであり,それが新規参入の阻止を目的としたものであったとは認められない。 (イ) 前記争いのない事実等に前記引用に係る原判決「事実及び理由」欄の「第4 争点に対する判断 3(1)」に認定の事実,証拠(甲12のa21ない25,a27,a28,a50,a53ないし58,甲14,甲26,甲37ないし甲46,甲58,乙44ないし乙48,丙16,丙19,丙32,丙40,丙41,丙44,丙45,原審証人C。甲12以外の枝番号は省略する。)及び弁論の全趣旨を総合すれば,本件パテントプールの仕組み等は以下のとおりであると認められる。 本件パテントプールにおいては,控訴人を含む特許権等を有するパチスロ機製造業者5社等が,被控訴人補助参加人との間で本件実施契約を締結し,その保有する特許権等を被控訴人補助参加人に管理委託し,被控訴人補助参加人が,日電協の組合員20社(平成7年度契約及び平成8年度契約。平成6年度契約では21社であるが,いずれにせよ国内のパチスロ機製造業者のほとんどである。)に実施許諾している。上記特許権等の権利者が被控訴人補助参加人に管理委託する特許権は,その保有する特許権の全部ではなく,一部が留保されることがあった。現に平成8年度契約において,控訴人が被控訴人補助参加人に実施許諾をしたパチスロ機の特許権等は,控訴人が保有する特許権等のすべてではなかった。また,パチスロ機に関する特許権等は,本件パテントプールに参加している企業だけが保有しているものではなく,パチンコ機製造業界の大手である株式会社三共やソフィア株式会社,その他の関係業者もその特許権等を有していた。そして,被控訴人補助参加人の設立前,パチスロ機に関する特許権等の管理会社3社が鼎立していた時期には,どの特許権等管理会社にも帰属しないでパチスロ機を製造する会社もあった。 本件パテントプールの参加者(日電協組合員)によるパチスロ機の販売シェアは,平成6年度契約ないし平成8年度契約が存在した平成6年4月1日から平成9年3月31日までほぼ100%であった。なお,平成6年11月30日ころ,非参加者である日本回胴式遊技機工業株式会社は,その製造に係るパチスロ機が保通協の検定を通過したことから,これを販売することが可能となったが,被控訴人補助参加人がパチスロ機の需要者であるパチンコ・パチスロホールの経営業者らに対し被控訴人補助参加人から特許権等の再実施許諾を受けていないパチスロ機メーカーからはこれを購入しないよう通告したことなどから,その製造に係るパチスロ機は300台しか販売できなかった。また,統計によれば,平成8年10月から平成9年9月までに,非参加者であるマツヤ商会がパチスロ機7000台を販売しているが,これは平成8年度契約の契約期間満了後の販売台数を含んでおり,さらに,7000台のうち2759台については,マツヤ商会が本件パテントプールの参加者であるバルテック社から実用新案権侵害差止等請求訴訟を提起されこれに敗訴したことから,実際の販売実績として評価できるのは4241台で,平成9年度の全メーカーの総販売台数の0.8%にすぎなかった。 パチスロ機製造業界において,平成9年3月31日までに,日電協への加盟と,被控訴人補助参加人からパチスロ機製造に係る特許権等の再実施許諾を受けることを希望する会社が13社存在したが,これら各社とも日電協への加盟を認められず,被控訴人補助参加人も上記各社に対し上記特許権等の再実施許諾をしなかった。平成6年度契約から平成8年度契約の契約期間3年間において,被控訴人補助参加人から新たに再実施許諾を受けることができるようになったパチスロ機製造業者は,外国企業2社(アイジーティージャパン社,ロデオ社(旧商号バークレスト社))と日本企業1社(ベルコ社)にとどまった。このように,被控訴人補助参加人においては,新規参加希望者に対する審査を厳しくし,結果的に容易に参加が認められないという実情が存在したが,そのことに関しては,パチスロ機業界がパチンコ機業界やゲーム機業界等の他の業界との競争が激しく,安定的な経営を確保することが困難な状況の下で,業者が不正機の製造・販売に走るおそれがあることから,被控訴人補助参加人において,そのような業者を排除するため,基本的な製造設備の具備や技術開発体制の確立のほかに,過去に風俗営業法違反の行為のないことなど経営内容等の審査を慎重にしたという側面があった。 (ウ) 平成8年度契約(甲8)においては,控訴人は本件特許権を含む特許権等につき被控訴人補助参加人に対して通常実施権を許諾し,被控訴人補助参加人は,所定の本件パテントプールに参加するパチスロ機製造業者に対して再実施許諾することとされ(1条,3条),特許権等の再実施許諾の対象者を同契約に係る契約書の別紙「実施許諾契約第3条に基づく再実施許諾対象者一覧表」に列挙されたものに限定している。そして,控訴人はこれらの特許権等を自ら実施する場合であっても,被控訴人補助参加人から再実施許諾を受ける必要があるものとされている(3条2項)。なお,平成8年度契約においては,契約条項の文言上,控訴人は第三者に対して専用実施権を設定し,独占的通常実施権を許諾することは禁じられているものの(4条),第三者に非独占的通常実施権を設定することは禁じられておらず,また,自ら被控訴人補助参加人から再実施許諾を受けた場合に第三者に再々実施許諾をすることも自由であるとされているように読める(3条3項は,同条1項により再実施権を許諾された者が第三者に再々実施権を許諾するには,そのことにつき被控訴人補助参加人の取締役会の承諾を要するとの制限を課しているが,同条2項により再実施権の許諾を受けた控訴人が第三者に対して再々実施権の許諾をすることについてはそのような制限を課していない。)が,弁論の全趣旨によれば,当事者双方の認識としては,控訴人が第三者に対して非独占的通常実施権を許諾することは禁じられており,また,同条2項により再実施許諾を受けた控訴人が第三者に再々実施権を許諾するには,そのことについて被控訴人補助参加人の取締役会の承諾を受けなければならないものと解され,そのような取扱いが行われていたものと認められる。 上記のとおり,平成8年度契約においては,被控訴人補助参加人が特許権等の再実施を許諾することができる対象者が上記契約書の別紙に列挙された者に限定されているが,元来,控訴人が特許権等の実施権をだれに付与するかは控訴人の自由に属する事柄であるから,控訴人が被控訴人補助参加人に対し再実施許諾権付きで実施許諾をするに当たって,再実施権を無制限に認めれば,当該特許権等を使用した製品につき無秩序な価格競争を生じ,ひいては特許権等の行使によって得られるべき利益を確保することが困難になることも予想されるから,このような危険を回避すべく,再実施許諾先を限定する合意をすることは,控訴人の特許権等の権利の行使として当然認められるべきことである。また,本件パテントプールが,パチスロ機メーカー同士の特許権等をめぐる紛争を未然に防止し,パチスロ機製造業界の自立と健全な発展を目指すことを目的としていることからすれば,特許権等の権利者自身も,自らの特許権等を実施する場合には被控訴人補助参加人の再実施許諾を受けることを要するなど,上記特許権等の行使に関して非権利者と同様の立場に立つものとすることも上記目的に沿うものである。 したがって,平成8年度契約締結時に再実施許諾の対象者が限定列挙されていること等の一事をもって,本件パテントプールが独禁法違反であるということはできない。 (エ) 被控訴人補助参加人において,パチスロ機の特許権等の実施許諾を受 ける本件パテントプールの構成員が共通の制限を受けるとの認識の下に,本件パテントプールの構成員に対し,対象特許権等を使用した製品等の販売価格,製造数量,販売数量,販売先等の制限を相互に課するとの方針を掲げ,かかる規制を行ったとこと,また,日電協や被控訴人補助参加人において,新規参入の防止を何らかの方針として掲げ,関係当事者間でこの方針を確認したことを認めるに足りる証拠はなく,かえって,弁論の全趣旨によれば,そのような事実はなかったと認められる。 ウ 前記引用に係る原判決「事実及び理由」欄の「第4 争点に対する判断3(1)」に認定したとおり,パチンコ機製造業界に対しては,公取委により,そのパテントプールが独禁法違反行為に当たるとして違法行為を排除するために必要な一定の措置を採るよう求める勧告審決がされたものである。控訴人は,パチスロ機製造業界の本件パテントプールも,パチンコ機製造業界のパテントプールと同様のものであり,そのため,本件パテントプールも独禁法違反であるか,又はそのおそれがあるものであった旨主張する。そこで,まずパチンコ機製造業界のパテントプールについて検討するに,証拠(甲9,甲12のa26)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (ア) パチンコ機製造業界においては,特許権等を有する製造業者10社が,その保有する特許権等を,日特連に管理委託し,日工組の組合員(19社。国内のパチンコ機製造業者のほとんどすべて)に実施許諾していた。 日特連が保有又は管理する特許権等はパチンコ機の製造を行う上で重要な権利であり,これらの実施許諾を受けることなしにはパチンコ機の製造を行うことは困難となっていると公取委に認定されている。日工組の組合員はすべて日特連から特許権等の実施許諾を受けてパチンコ機の製造を行っていた。 (イ) 日特連は,既存のパチンコ機製造業者である日工組組合員の利益の確保を図るため,かねてから,パチンコ機の製造分野への参入を抑止する方針の下に,自己が所有又は管理する特許権等の実施許諾に当たり,パチンコ機を製造している組合員以外の者に実施許諾を行わず,同分野への参入を抑止していた。 パチンコ機製造業界のパテントプールには,以下のような新規参入防止方策があった。すなわち,他業界からの新規参入防止のため,組合員の資本が買収されることを防ぐよう,実施許諾契約において,実施許諾の相手方の会社において,商号,標章,代表者及び役員の構成等に変更があった場合には日特連に届け出て承認を得なければ契約を解除され得るものとされ,また,企業の構成又は営業状態に変更があった場合には,特許権等の権利者に届け出てその承認を得なければ,特許権者が実施許諾を拒否できることとされていた。加えて,昭和60年秋ころまでに,新規参入の希望が増えたことから,上記10社のうち9社は,新たに特許権等を取得して日特連及び上記9社における特許権等の集積に努め,日特連の取締役会などにおいて,新規参入防止のための障壁を強化するとの方針を確認して,この方針に基づいて新規参入を排除してきた。 (ウ) 次に,パチンコ機製造業界のパテントプールにおける競争制限的方策には,以下のようなものがあった。@日特連の,組合員向け実施許諾契約には,原価を割る販売を禁ずる乱売禁止条項があり,パチンコ機に貼付する証紙の販売の際,製造業者と販売の相手方との間の契約書を提出させて価格を監視し,これを根拠に日工組の会合において安売りを行わないよう指導がなされ,A他の組合員が開発し,既に検定承認を受けている新機種と同等又は類似のパチンコ機を製造・販売するときには,当該組合員の承認を要することとされ,Bパチンコ機の販売業者の日工組への登録制がとられ,Cパチンコ機の検定を代行する保通協への型式試験の申請台数の組合員ごとの上限が設定されていた。 (エ) このような制度に対し,公取委は,パチンコ機製造の分野における競争を実質的に制限しているものと認め,独禁法2条5項の私的独占に該当し,同法3条に違反するとした。そして,上記10社及び日特連に対し,パチンコ機の製造分野への新規参入排除の方針の破棄,同方針に基づいて行った措置の撤回,特許権等の実施許諾契約書中の商号,標章,代表者及び役員の構成等に変更があった場合並びに上記企業の構成又は営業状態に変更があった場合に関する条項の削除等,これらによって,今後,同分野への新規参入排除をしないことなどの措置をとるよう求める勧告をした。そして,上記10社及び日特連がこれを受け入れたため,公取委は上記と同趣旨の勧告審決を行った。 エ(ア) 以上検討したところによれば,本件パテントプールは,パチンコ機製 造業界のパテントプールの運用の在り方とは異なり,その運用において,販売数量の制限や販売価格の統制,競合機種の製造・販売に対する先行業者の事前承認,販売業者の登録制といった競争制限的な内部規制は存在せず,また,日電協や被控訴人補助参加人において,新規参入の防止を何らかの方針として掲げ,この方針を確認したようなこともなかったことが認められる。さらに,本件パテントプールでは,権利者たる参加者がパチスロ機に関する特許権等のすべての権利を拠出していたわけではない上,上記特許権等は,上記権利者たる参加者だけが有しているものではなく,パチンコ機製造業界の株式会社三共やソフィア株式会社等もその特許権等を有していたものであり,実際上も,被控訴人補助参加人の設立前,パチスロ機に関する特許権等の管理会社3社が鼎立していた時期には,どの特許権等管理会社にも帰属しないでパチスロ機を製造する会社もあったのであり,平成9年当時もこの状況に格別変化があったとは認められないから,本件パテントプールが,現在及び将来においてパチスロ機の製造に不可欠な特許権等を網羅する仕組みであったとは認められない。 結局,平成8年度契約等をその内容とする本件パテントプールの運用は,特許法等の技術保護制度の趣旨を逸脱し,一定の製品分野又は技術市場における競争を実質的に制限するものではなく,特許権等の行使と認められる範囲にとどまるものと考えられる。したがって,控訴人主張のように平成8年度契約等をその内容とする本件パテントプールが独禁法3条等に違反し,又はその具体的なおそれがあるものであったということはできない。 (イ) 控訴人は,被控訴人補助参加人から特許権等の再実施許諾を受けずにパチスロ機を製造することは事実上不可能であったかのように主張し,証拠(甲12のa1,甲21,甲26,甲57)にはこれに沿う部分がある。 しかしながら,本件パテントプールが,現在及び将来においてパチスロ機の製造に不可欠な特許権等を網羅する仕組みであったと認められないことは上記(ア)に認定したとおりであり,上記各証拠が,被控訴人補助 参加人を通じての特許権等の行使により通常生じ得る新規参入の規制効果として,パチスロ機製造業界への新規参入が認められにくい状況があったとの趣旨を超えて,本件パテントプールが上記のとおりパチスロ機製造に不可欠の特許権等を網羅的に集積した競争制限的な組織として機能していたとの趣旨をいうのであれば,これをたやすく採用することはできない。 証拠(甲21(高砂電器の代表者であるFの陳述書),甲22(日電協の元理事長であるGの陳述書))には,「日電協組合員が,新規参入者により自分達のパイが少なくなることを極端に忌避しており,新規参入のための客観的な要件が整っていても直ちに新規参入が認められるわけではなく,特に,国内事業者の場合,加入申込みから加入を果たすまでに相当期間を要し,自分が日電協の理事長在任中の平成4年5月26日から平成12年5月25日までの8年間,10数社の加入申込みがありながら,新規加入のための手続が滞っていた。」旨(甲22)など,日電協が本件パテントプールへの新規参入の防止を意図的に行っていたかのような記載がある。確かに,上記イ(イ)に認定したとおり,日電協組合員を中心とする組織である被控訴人補助参加人においては,新規参加希望者に対する審査を厳しくし,結果的に容易に参加が認められないという実情が存在したことが認められるし,また,証拠(原審証人C)によれば,被控訴人補助参加人は,平成6年4月から平成9年3月までの間,日電協の組合員にのみ特許権等の再実施許諾をしていたことが認められる。しかしながら,特許権等の行使自体が新規参入を規制するという側面があることは否定できず,また,上記イ(イ)に認定したとおり,パチスロ機業界がパチンコ機業界やゲーム機業界等の他の業界との競争が激しく,安定的な経営を確保することが困難な状況の下で,業者が不正機の製造・販売に走るおそれがあることから,被控訴人補助参加人において,そのような業者を排除するため,経営内容等の審査を慎重にしたということも,被控訴人補助参加人への参加が認められにくい状況を生んだ1つの要因であったと認められる。しかして,日電協や被控訴人補助参加人が,組織として,パチスロ機製造業界への新規参入の防止を何らかの方針として掲げ,関係当事者間でこの方針が確認されて,これが実行されていたとは認められず,実際上,外国企業2社(アイジーティージャパン社,ロデオ社(旧商号バークレスト社))と日本企業1社(ベルコ社)が,被控訴人補助参加人から新たに再実施許諾を受けてパチスロ機製造業に参入を認められていることは,上記イ(イ)に認定したとおりである。かかる事情を考慮すれば,上記証拠の記載が,事実上の問題として,日電協への加入,ひいては本件パテントプールへの参加が認められにくい状況にあった旨いうのであれば首肯できないものではないが,それを越えて日電協や被控訴人補助参加人が新規参入の阻止を組織的に行っていたかのようにいう部分はたやすく採用できない。 また,証拠(甲58,甲83の1及び2,甲101,甲106,甲107,原審証人C)及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人補助参加人は,平成9年1月から同年3月の期間にベルコ社に対する証紙発行枚数を3000台分に限定して発行したこと,また,日電協は外資系企業に対し,同組合加入後3年間は,国外で製造されて,日本に輸入されたパチスロ機の販売しか行わないという不利益(日本の市場のニーズに応えてタイムリーに機械を製造することが困難であること,輸送費及び関税等の余計なコストがかかることなど)を課していたことが認められる。しかしながら,証拠(原審証人C)によれば,被控訴人補助参加人のベルコ社に対する証紙発行枚数が限定されたのは,被控訴人補助参加人とベルコ社との間の個別合意に基づくものと認められ,被控訴人補助参加人が,組織的に,本件パテントプールの構成員に対し,対象特許権等を使用した製品等の製造数量,販売数量の制限を相互に課するとの方針を掲げ,かかる規制を行ったと認められないことは,上記イ(エ)に認定したとおりである。また,外資系企業に対する上記規制は,日電協がその設立の趣旨に基づき独自に行った行為であることは上記証拠から明らかであり,被控訴人補助参加人が本件パテントプールの運用として行ったものとは認められないし,その規制の態様も新規参入阻止という厳しいものではない。 したがって,控訴人が本件パテントプールが独禁法に違反することの徴憑として挙げる上記証拠や事実関係は,上記(ア)の認定判断を左右する ものとはいえない。 (ウ) 証拠(甲13,甲19,甲23ないし25,甲27ないし30,甲32ないし34,甲102)には,いずれにも本件パテントプールが独禁法に違反するものである旨の鑑定意見が記載されているが,これらの鑑定意見は,上記認定と異なる事実関係を前提とするか,独禁法3条等の解釈・適用に関して上記と異なる見解に立つものであって,いずれも採用することができない。 (エ) 他に,上記(ア)の認定判断を左右するに足りる的確な証拠はない。 オ 公取委による立入調査のおそれがあるとし,このことが「契約を継続し難い特段の事由」に該当する旨の主張について 上記イ,ウに認定したとおり,パチンコ機製造業界のパテントプールと本件パテントプールとは少なからず相違があり,パチンコ機製造業界に公取委が立入調査をしたからといって,パチスロ機製造業界も同様に公取委の立入調査を受けるおそれがあったと直ちにいうことはできない。また,平成9年当時,パチスロ機製造業界に公取委が立入調査をする可能性があったことをうかがわせる具体的な証拠も存しない。 この点に関する控訴人の主張は,その前提を欠き,理由がない。 カ 独禁法違反の状態を回避するためには平成8年度契約等をその内容とする本件パテントプールの運用を変更せざるを得ず,そうなると控訴人は市場からの退場を迫られるから,控訴人には「契約を継続し難い特段の事由」がある旨の主張について しかしながら,上記主張は,本件パテントプールが独禁法に違反し又はそのおそれのあるものであることを前提とするものと解されるところ,本件パテントプールが直ちに独禁法に違反し又はその具体的なおそれがあるものであったといえないことは,上記アないしエに説示したとおりであるから,控訴人の主張はその前提を欠き,理由がない。 キ したがって,平成8年度契約等をその内容とする本件パテントプールが独禁法に違反し又はそのおそれがあることを理由に,平成8年度契約には同契約8条の「契約を継続し難い特段の事由」がある旨の控訴人の主張はいずれも理由がない。 (6) 控訴人は,本件パテントプール又はその構成要素の1つである平成8年度契約の条項どおりの契約の履行が独禁法に違反するかも知れないとのおそれをもっていたものであり,そのようなおそれをもったことには合理性があるから,控訴人には同契約8条の「契約を継続し難い特段の事由」が存在する旨,また,上記の点に関して,自らの所属する集団が違法集団と信じた者の当該集団からの脱退の自由を有する旨主張する。 しかしながら,パテントプール方式による特許権等の行使自体をもって独禁法に違反するとはいえないこと,また,平成8年度契約をその内容に含む本件パテントプールの運用が独禁法に違反するといえないことは上記(5)に説示したとおりであるところ,本件パテントプールの運用とパチンコ機製造業界のパテントプールの運用とは前記のとおり少なからず相違するものであるから,後者のパテントプールが独禁法に違反するとして公取委から立入調査を受け,違法行為を排除する措置をとるよう勧告を受けたからといって,直ちに本件パテントプールも独禁法に違反するものであるとか,独禁法に違反するおそれがあると考えることに合理性があるとはいえず,他にも控訴人が本件パテントプールの運用が独禁法に違反し,又は違反するおそれがあると考えたことに合理的な根拠があるとする事情は認められない。 また,前記(4)に説示したとおり,平成8年度契約8条にいう「契約を継続し難い特段の事由」とは,同10条1項所定の事由に準ずるような重大な事情をいうものと解するのが相当であるところ,仮に控訴人の主張するように,契約上特定の集団に属している構成員は,当該集団の目的が違法であることを理由として当該集団から脱退する自由を有しているとしても,そのためには当該集団の目的が違法であると認めるに足りる具体的な事由が客観的に存在するか,そのような事由があると考えるだけの合理的な根拠があることを要し,単に構成員において主観的にそのように信じたというだけでは足りないというべきである。しかして,本件において,控訴人がその属する本件パテントプールの運用が独禁法に違反し,又は違反するおそれがあると考えたことに合理的な根拠があるとはいえない。 したがって,控訴人の上記主張は理由がない。 (7) 協議不調による信頼関係破壊に基づく契約終了の主張,すなわち,継続的契約関係の一方の当事者が平成8年度契約等を内容とする本件パテントプールの独禁法違反状態を回避すべく協議成立に向けて真摯な努力をしたのに協議が不調になった場合には,当事者間の信頼関係を維持していくことができなくなったのであるから,その当事者は将来に向かって契約を終了させることができる旨の主張について 前記(4)に説示したとおり,平成8年度契約8条にいう「契約を継続し難い特段の事由」とは,同10条1項所定の事由に準ずるような重大な事情をいうものと解するのが相当であるところ,控訴人は,本件パテントプールの独禁法違反の状態を回避するため,同契約を解消して,権利者が各製造業者に直接特許権等の実施許諾をする個別実施許諾契約締結方式を採用するよう提案して,真摯に協議成立を求めて努力したのに,被控訴人補助参加人及び多数派組合員は対案も示さず,上記契約の解消等を一方的に拒否したというが,平成8年度契約等をその内容とする本件パテントプールが独禁法に違反せず,その具体的なおそれがあるといえないことは前記(5)に説示したとおりであるから,控訴人の上記協議の申出は必ずしも合理的な理由に基づくものとはいえない。そうすると,被控訴人補助参加人ないし本件パテントプールの参加者が上記協議に応じなかったからといって,このことをもって直ちに控訴人との信頼関係を破壊する背信的行為ということはできない。 したがって,上記協議の不調が当事者の信頼関係を破壊するものとして,同契約8条の「契約を継続し難い特段の事由」に該当するという控訴人の主張は理由がない。 (8) 被控訴人補助参加人の法令遵守義務違反による信頼関係破壊に基づく契約終了の主張について ア 控訴人は,被控訴人補助参加人及び多数派の本件パテントプールの参加者は,控訴人に対し,平成8年度契約期間満了日以後も,平成8年度契約等をその内容とする本件パテントプールの独禁法違反の状態を回避できるような契約案を一切提案せず,控訴人が,上記独禁法違反状態を回避するために,特許権等の権利者と本件パテントプールの参加者との間で特許権等につき直接的な個別実施契約を締結することなどを提案したにもかかわらず,被控訴人補助参加人及び多数派の上記参加者は,平成8年度契約の下では,非権利者がパチスロ機1台の売値の0.2%という,いわばただに近い実施料率で権利者の特許権等を利用できるという独禁法が支配する自由市場尊重の法秩序の中では保護に値しない,不当な利益を守るために,上記提案を誠意なく拒否し続けたとし,これは平成8年度契約13条2項の「法令その他の商慣習に従う」との定めに違反する被控訴人補助参加人側の重大な債務不履行である旨主張する。 しかしながら,控訴人の上記主張は,平成8年度契約等をその内容とする本件パテントプールが独禁法に違反し又はそのおそれがあるものであることを前提とするものと解されるところ,これが独禁法に違反し又はその具体的なおそれがあるものであったといえないことは,前記(5)に説示したとおりであるから,控訴人の上記主張は,その前提を欠き,理由がない。 イ 控訴人は,上記ア記載のとおり控訴人と被控訴人補助参加人との信頼関係は破壊されたので,控訴人は,これを理由として,平成11年1月4日及び平成12年11月21日に,被控訴人補助参加人に対し,平成8年度契約を解除する旨又はこれを終了させる旨の意思表示を行ったとし,これにより契約が終了した旨の主張もしているが,この主張は上記アと同様に理由がない。 (9) 控訴人は,平成8年度契約をその内容に含む本件パテントプールは,一種の共同事業を営むことを目的として作り上げた集団的契約関係であるから,これからの離脱(又は同契約関係の終了)の規範については,組合員の脱退の規定(民法678条)が類推されるべきである旨,また,これに関連して,集団において,多数派と利害の対立する少数派は,集団に存在し続けると自己の事業が著しく不利益を受けるという事態に至った場合には,当該集団から脱退する「巳むを得ない事由」があるとして,民法678条の類推適用により,その脱退を認められるべきである旨主張する。 しかしながら,既に認定したところから明らかなとおり,本件パテントプールにおいては,その参加者である特許権等の権利者は被控訴人補助参加人との間でその特許権等につき再実施許諾権付きの本件実施契約を締結し,被控訴人補助参加人は本件パテントプールに参加している各パチスロ機製造業者との間で上記特許権等につき本件再実施契約を締結するというものであるが,それ以上に被控訴人補助参加人やこれに参加する他のパチスロ機製造業者と共同で事業を行うものではないし,新たな債務等を負担する責任を生ずるものでもない。したがって,平成8年度契約において形成される控訴人と被控訴人補助参加人との間の法的関係は,民法上の組合とは異なるものであり,これに類似するものともいえないから,これに関する規定である民法678条を類推適用する余地はない。 のみならず,控訴人のこの点に関する主張は,本件パテントプールが独禁法に違反し又はそのおそれがあるものであることを前提とするものと解されるところ,これが独禁法に違反し又はその具体的なおそれがあるものであったといえないことは前記(5)に説示したとおりであるから,控訴人の上記主張は,この点でも理由がないというべきである。 (10) 控訴人は,平成8年度契約は,控訴人にとって一方的に著しく不利益な契約であり,この契約において,控訴人の唯一の権利は「契約を継続し難い特段の事由」が存する場合に更新拒絶できることであるところ,このような,いわば控訴人の唯一の保険ともいうべき上記更新拒絶理由を著しくハードルの高いものとし,実質的にこれを具備し得ないものとするような解釈をとることは,公序良俗に反し,独禁法19条,一般指定13項の「拘束条件付取引」に該当する旨主張する。 前記説示のとおり,平成8年度契約8条にいう「契約を継続し難い特段の事由」とは,同10条1項所定の事由に準ずるような重大な事情をいうものと解するのが相当であるところ,弁論の全趣旨によれば,控訴人は,本件パテントプールの有力な参加者の1人であり,その代表者は被控訴人補助参加人の取締役の地位にもあったところ,平成8年度契約は,このような控訴人が被控訴人補助参加人と対等な立場に立って締結されたものと認められるから,同契約の解消について上記のような契約上の制限があるからといって,それが公序良俗に反するとか,独禁法19条,一般指定13項に該当するということは到底できない。 控訴人の上記主張は理由がない。 (11) 社会通念上の履行不能による契約終了の主張について 控訴人のこの点に関する主張は,平成8年度契約等をその内容とす本件パテントプールが独禁法に違反し又はそのおそれがあるものであることを前提とするものと解されるところ,これが独禁法に違反し又はその具体的なおそれがあるものであったといえないことは前記(5)に説示したとおりであるから,控訴人の上記主張はその前提を欠き,理由がない。 (12) 商法84条1,2項の類推適用による平成8年度契約の終了の主張について 既に認定したとおり,本件パテントプールにおいては,その参加者である特許権等の権利者は被控訴人補助参加人との間でその特許権等につき再実施許諾権付きの本件実施契約を締結し,被控訴人補助参加人は本件パテントプールに参加している各パチスロ機製造業者との間で上記特許権等につき本件再実施契約を締結するというものであるが,それ以上に被控訴人補助参加人や本件パテントプールに参加する他のパチスロ機製造業者と共同で事業を行うものではなく,平成8年度契約において形成される控訴人と被控訴人補助参加人との間の法的関係は,合名会社とは異なるものであり,これに類似するものともいえないから,合名会社に関する規定である商法84条1項,2項を類推適用する余地はない。 (13) 平成8年度契約8条の「契約を継続し難い特段の事由」に該当する事情が仮に存在せず,契約が期間満了後も更新されたとしても,平成8年度契約は更新日である平成9年4月1日以降期限の定めのない契約となり,控訴人が平成9年3月中にした平成8年度契約の契約終了の意思表示は実質的には,期間の定めのない契約についての解約告知に該当するから,相当期間である5か月又は1年の経過により同契約は終了した旨の主張について 平成8年度契約に同契約8条の「第10条第1項所定の事由,その他本契約を継続し難い特段の事由」がなく,同契約が更新される場合,更新された契約の内容は平成8年度契約と同一になるものと解されるから,契約期間は1年となるものである。これと異なる控訴人の上記主張は理由がない。 (14) 平成8年度契約は独禁法3条等に違反する合理的な疑いが存在するから,その履行義務を課す更新後の平成8年度契約は公序良俗に反し無効である旨の主張について 上記主張は,平成8年度契約等をその内容とする本件パテントプールが独禁法に違反し又はそのおそれがあるものであることを前提とするものと解されるところ,これが独禁法に違反し又はその具体的なおそれがあるものであったといえないことは前記(5)に説示したとおりであるから,控訴人の上記主張はその前提を欠き,理由がない。 3 結論 上記判示のとおり,控訴人の平成8年度契約の終了に関する主張はいずれも理由がない。 そうすると,平成8年度契約は自動更新されて,現在も控訴人と被控訴人補助参加人との間では,これと同内容の契約関係が存続していると認められるから,本件特許権は,控訴人から被控訴人補助参加人に実施許諾され,被控訴人補助参加人から被控訴人に再実施許諾されているものと認められる。したがって,その余の点について検討するまでもなく,控訴人の請求は理由がなく,これを棄却した原判決は相当である。 よって,本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 北山元章 |
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裁判官 | 青蜉] |
裁判官 | 橋本英史 |