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関連審決 審判1999-7597
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  技術常識 /  先行技術 /  容易に想到(容易想到性) /  拒絶査定 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 13年 (行ケ) 512号 審決取消請求事件
原告 富士写真フイルム株式会社
訴訟代理人弁護士 宮寺利幸
同 弁理士 千葉剛宏
被告 特許庁長官太田信一郎
指定代理人 藤内光武
同 菅原道晴
同 小林信雄
同 高橋泰史
同 宮川久成
同 伊藤三男
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/06/11
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が平成11年審判第7597号事件について平成13年9月26日にした審決を取り消す。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,平成3年1月21日,名称を「固体撮像素子を用いた撮像装置」とする発明につき特許出願をした(特願平3-5187号)が,平成11年3月26日,拒絶査定を受けたので,同年5月6日,これに対する不服の審判の請求をした。
特許庁は,同請求を平成11年審判第7597号事件として審理した上,平成13年9月26日に「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同年10月15日,原告に送達された。
2 平成13年1月30日付け手続補正書により補正された明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1の記載(以下「本願発明」という。) ムービー動作とスチル動作を切り換えることが可能な固体撮像素子を用いた撮像装置において, 撮像装置に含まれるシステム制御回路と電子シャッター制御回路を, スチル撮像時であることを示す信号がシステム制御回路に入力された時に,システム制御回路が,電子シャッター制御回路を,設定された電子シャッター速度に応じて動作させるよう構成し, 前記電子シャッター制御回路は,前記固体撮像素子に対して, 前記ムービー動作においては,画像に影響を与えないために,露光開始を指示する不要電荷の基板への掃き出しを水平ブランキング期間に行い, 前記スチル動作においては,電子シャッター速度を正確に制御するために,露光開始を指示する不要電荷の基板への掃き出しを水平走査期間に行う ことを特徴とする固体撮像素子を用いた撮像装置。
3 審決の理由 審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本願発明は,特開昭63-281580号公報(甲2,以下「引用例1」という。)及び特開昭64-46379号公報(甲3,以下「引用例2」という。)記載の各発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。
原告主張の審決取消事由
審決は,本願発明と引用例1記載の発明との一致点の認定を誤り(取消事由1),相違点を看過し(取消事由2),相違点についての判断を誤った(取消事由3)結果,本願発明が,引用例1及び引用例2記載の各発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとの誤った結論に至ったものであるから,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(一致点の認定の誤り) (1) 審決は,「引用例1に記載された発明は,レリーズスイッチSW1を全押しすることにより第2接点S2がオンになり(スチルモード),システムコントローラ11はこの接点信号を受けると(すなわち,スチル撮像時であることを示す信号が入力された時)タイミング発生器10にシャッタ信号を与え,1フィールド期間ではなく所定時間Δtだけ露光させるものであるから・・・引用例1に記載された発明のシステムコントローラは・・・本願発明のシステム制御回路に相当している」(審決謄本4頁対比(2))と認定した。しかし,引用例1において,「CCDカメラ部1」が露光主体であるとすると,前記所定時間Δtだけ「CCDカメラ部1」を付勢して露光させるのは,前記「システムコントローラ11」ではなく,「タイミング発生器10」である。したがって,引用例1の「システムコントローラ11」と「タイミング発生器10」の果たす機能について,審決の上記認定は誤りである。また,審決は,引用例1に,「CCDカメラ部1」がフィールド電荷を掃き出し,所定時間Δtだけ露光させるとの記載があると認定し(同2頁引用例(3))ながら,他方,「タイミング発生器10」が所定時間Δtだけ露光すると認定し(同4頁対比(2)),露光主体について,「CCDカメラ部1」あるいは「タイミング発生器10」との食い違った認定をした上,後者の認定を前提として,上記「引用例1に記載された発明のシステムコントローラは・・・本願発明のシステム制御回路に相当している」との誤った認定に至ったものである。
(2) 審決は,「引用例1に記載された発明のタイミング発生器10は・・・『固体撮像素子に対して,スチル動作においては,電子シャッター動作をなすようにする』点で本願発明の電子シャッター制御回路と差異がない」(審決謄本4頁最終段落〜5頁第1段落)と認定した。しかしながら,引用例1(甲2)の「システムコントローラ11は,・・・タイミング発生器10にシャッタ信号を与える。タイミング発生器10は・・・電荷転送パルスのタイミングを制御して,該CCDカメラ部1を電子シャッタとして動作させる。即ち・・・所定時間Δtだけ露光させる」(3頁右上欄)との記載によれば,引用例1では,「タイミング発生器10」は,単に電荷転送パルスのタイミングを制御するものである。これに対し,本願発明においては,スチル撮像時に「電子シャッター制御回路」は,設定された電子シャッター速度に応じて動作するものであり,単に電荷転送パルスのタイミングを制御するものではない。したがって,引用例1の「タイミング発生器10」は本願発明の「電子シャッター制御回路」と差異がないとする審決の上記認定は誤りである。
(3) 審決は,「撮像装置に含まれるシステム制御回路と電子シャッター制御回路を,スチル撮像時であることを示す信号がシステム制御回路に入力された時に,システム制御回路が,電子シャッター制御回路を,電子シャッター動作させるよう構成し,前記電子シャッター制御回路は,前記固体撮像素子に対して,前記スチル動作においては,電子シャッター動作をなすようにする」(審決謄本5頁第2段落)構成において,本願発明と引用例1記載の発明とは,その構成が一致すると認定した。そうすると,審決は,「システム制御回路が,電子シャッター制御回路を,電子シャッター動作させる」と認定しながら,他方,「電子シャッター制御回路は,固体撮像素子に対して,スチル動作時に,電子シャッター動作させる」と認定しているのであるから,電子シャッター動作する主体について,「電子シャッター制御回路」あるいは「固体撮像素子」との食い違った認定をしたことになる。また,本願発明の電子シャッター動作は,不要電荷を基板に掃き出すことを必須の構成とする電子シャッター動作であるから,引用例1の高速駆動掃き出し動作とは,その内容が異なる。したがって,電子シャッター制御回路が電子シャッタ動作させるとの認定をした上,本願発明と引用例1記載の発明が,上記構成において一致するとした審決の認定は誤りである。
2 取消事由2(相違点の看過) 審決は,本願発明の「システム制御回路」を引用例1と対比し,相違点1として,「本願発明のシステム制御回路は,スチル撮像時であることを示す信号がシステム制御回路に入力された時に,『電子シャッター制御回路を,設定された電子シャッター速度に応じて』動作させるよう構成されているのに対し,引用例1に記載された発明は,『シャッタ信号が与えられたタイミング発生器がそれまでチャージされていたフィールド電荷を第2図(イ)に示すように掃き出し,所定時間Δtだけ露光させる』との記載にとどまり,電子シャッター速度の設定については明記されていない点」(審決謄本5頁(相違点1))を認定するにとどまり,本願発明の「電子シャッター制御回路」と引用例1の「タイミング発生器」は,他の機能においても異なることを看過している。引用例1の「タイミング発生器」は,本願発明の「電子シャッター制御回路」とは異なり,電荷転送パルスのタイミングを制御するだけであって,所定時間Δtだけ露光するものではなく,その露光動作は「CCDカメラ部1」で行われる。したがって,審決は,引用例1について,「シャッタ信号が与えられたタイミング発生器が・・・所定時間Δtだけ露光させる」と誤って認定した結果,本願発明と引用例1記載の発明の上記相違点を看過したものである。
3 取消事由3(相違点についての判断の誤り) (1) 相違点1について 審決は,本願発明と引用例1記載の発明の相違点1として,上記2のとおり認定した上,同相違点について,「引用例1に記載された発明は,シャッタ信号を受けると所定時間Δt(第2図の記載からみて,Δtは1フィールド期間よりも短いと認められる。)だけ露光させるものであるから・・・,所定時間Δtの電子シャッタ速度が設定され,当該設定されたシャッタ速度に応じて電子シャッタを動作させるものと認められる」(審決謄本5頁最終段落〜6頁第1段落)とした。しかしながら,引用例1には,Δtは,所定時間とあるだけであり,設定されたシャッタ速度に応じて電子シャッタ動作させるとの記載はない。引用例1の所定時間Δtは,1フィールドよりも短く描出されていることから,当業者は,ユーザ側で設定される時間ではなく,設計上決定されている固定的な時間であると理解する。したがって,相違点1についての審決の判断は誤りである。
(2) 相違点3について ア 審決は,本願発明と引用例1記載の発明の相違点3として,「本願発明は,電子シャッター制御回路は,固体撮像素子に対して,スチル動作時においては,『電子シャッタ速度を正確に制御するために,露光開始を指示する不要電荷の基板への掃き出しを水平走査期間に行う』のに対し,引用例1に記載された発明は,この点について明記していない点」と認定した。そして,相違点3の「a.電子シャッタ速度を正確に制御する点」(以下「相違点3a」という。)について,「『垂直ブランキング期間内の任意の時刻に基板パルスPsをN型シリコン基板(4)に印加する』(注,引用例2〔甲3〕4頁左上欄)こととは,従来の問題の原因である掃き出しタイミングを水平ブランキング期間に限定せずに任意の時刻とすることであるから,本願明細書に記載の『電子シャッターを水平ブランキング期間と一致させることなしに任意のタイミングで基板電圧駆動回路28を駆動し,フォトダイオードPDから不要電荷を掃き出す。』(第23段落)ことと同義である」(審決謄本7頁第1段落)とした。確かに,引用例2の目的が,高速シャッター時に最適な露光量を選ぶために,基板パルスを任意の時刻に制御することにあることは認めるが,引用例2の上記「任意の時刻」は,あくまでも垂直ブランキング期間の範囲内に限定されるものである。これに対し,本願発明は,垂直ブランキング期間を用いることを全く考慮することなく,水平走査期間に露光開始を指示する不要電荷の基板の掃き出しを行うことで「電子シャッター速度を正確に制御する」ものであり,目的が全く異なる。引用例2の「垂直ブランキング期間内の任意の時刻」と本願発明の「水平ブランキング期間と一致させることなしに」とは同義ではなく,しかも,引用例2は,水平ブランキング期間を使わないことを前提にして垂直ブランキング期間を用いて不要電荷を掃き出しする点において,本願発明と明らかに異なる。したがって,相違点3aについて,「引用例2に記載された技術事項が露出時間t2を連続的に任意に設定するようにしたことは,結局,正確に設定された500μsecや200μsec等のシャッタ速度を実現することに他ならないことは当業者に明らかである」(同7頁第2段落),「電子シャッタ速度を正確に制御するようにすることは,引用例2に記載された事項から当業者が容易に想到し得ることである」(同第3段落)とした審決の判断は誤りである。
イ 審決は,相違点3の「b.露光開始を指示する不要電荷の基板への掃き出しを水平走査期間に行う点」(以下「相違点3b」という。)について,引用例2(甲3)に記載されている従来技術を,「1フィールド期間の任意の期間t1の間(すなわち水平ブランキング期間と一致させることなく水平走査期間)に信号電荷を・・・基板部分に掃き出させると・・・再生画像が影響を受けることから・・・掃き出しを水平・垂直ブランキング期間に行うものである」(審決謄本7頁下から第2段落)と認定した上,「出力部からの読み出しと基板への掃き出しが同時に行われることがなく,再生画像への影響の心配がないスチル動作においては,掃き出しを水平・垂直ブランキング期間に限定する必要がないことは,当業者に明らかである。したがって・・・『露光開始を指示する不要電荷の基板への掃き出しを水平走査期間に行う』ことは・・・引用例2に記載された技術事項から当業者が容易になし得ることである」(同段落〜8頁第1段落)と判断した。しかしながら,この引用例2記載の固体撮像装置は,水平ブランキング期間に基板パルスを印加する点及び垂直ブランキング期間に基板パルスを印加する点についての記載はあるものの,水平走査期間での基板への掃き出しは,その「従来技術」の項及び「発明が解決しようとする問題点」の項で明確に否定している。すなわち,引用例2には,「この固体撮像装置は・・・再生画面(1)上にコントラストの相違する部分,即ち明るい部分(2)と暗い部分(3)とが生ずるという不都合があった」(2頁左上欄〜右上欄),「上述の問題点を解決するために・・・信号電荷を水平ブランキング期間内に半導体基板に掃き出させる様にした固体撮像装置を提案した。・・・しかしながら・・・結果的に不連続な可変シャッターしか実現されず」(2頁右上欄〜左下欄)との記載があり,同記載からは,水平走査期間での基板への掃き出しを明確に否定していると解釈される。したがって,本願発明の「露光開始を指示する不要電荷の基板への掃き出しを水平走査期間に行う」との構成が,引用例2に記載された技術事項から当業者が容易になし得ることであるとの審決の判断は何ら根拠がなく,誤りである。
ウ 審決は,相違点3の「c.引用例1に記載された発明に引用例2に記載された技術事項を適用することの可否」について,「引用例1に記載されたムービー動作とスチル動作とを切り換えることが可能な固体撮像素子を用いた撮像装置の発明において,当業者であれば,電子シャッター速度を正確に制御することを目的として引用例2の技術事項を適用することができないとはいえない」(審決謄本8頁第4段落)と判断した。しかしながら,引用例2は,上記のとおり,水平走査期間での基板への掃き出しを明確に否定したものであるから,引用例1のスチルビデオカメラに引用例2の固体撮像装置を当然に適用し得るものではない。さらに,引用例1(甲2)は,その技術内容を明確に示すものではなく,引用例としての価値はない。すなわち,引用例1の第2図(イ)のタイミング図では,最左側の「1フィールド」と最右側の「1フィールド」では矩形の長さが異なる点が明確ではなく,また,同図(イ)において,右側から二つの矩形で表される二つの「1フィールド」の間の長さと,左側から二つの矩形で表される「1フィールド」の間の長さとがなぜ異なるのかも不明である。また,右から二つの矩形で表される二つの「1フィールド」の間に,なぜ矢印がないのかも明らかでなく,3頁左下欄に「レリーズスイッチSW1の全押しが終わると,接点S1のみがオンとなり,再びビデオモードになる」と記載され,第2図の最下端の線図に対する図面中の説明にスチルモードからビデオモードに切り替わっているのに,第2図(ハ)のタイミング図では接点S2がオン状態となったままとなっているのかも明確でない。さらに,第2図(イ)のスチルモードのタイミングで,図面中,Δtの区間が露光(期間)とされているが,図面中「露光」の左側の「掃き出し」と記載されている区間も露光期間に含まれるものであることから,第2図の内容自体に誤りがある。このように,引用例1は,本願発明に対する先行技術としての適格性を否定されるべきである。
被告の反論
審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について (1) 引用例1(甲2)には,「システムコントローラ11は,この接点信号を受けるとタイミング発生器10にシャッタ信号を与える。タイミング発生器10は,このシャッタ信号を受けるとCCDカメラ部1に印加する電荷転送パルスのタイミングを制御して,該CCDカメラ部1を電子シャッタとして動作させる。即ち,それまでチャージされていたフィールド電荷を第2図(イ)に示すように掃き出し,所定時間Δtだけ露光させる」(3頁右上欄)と記載されている。そして,審決の「システムコントローラ11はこの接点信号を受けると・・・タイミング発生器10にシャッタ信号を与え,1フィールド期間ではなく所定時間Δtだけ露光させるものである」(審決謄本4頁対比(2))との記載は,「システムコントローラ11はこの接点信号を受けると・・・タイミング発生器10にシャッタ信号を与え,タイミング発生器10は,シャッタ信号を受けると,CCDカメラ部1に対して,1フィールド期間ではなく所定時間Δtだけ露光させるものである」の趣旨であることは明らかであるから,審決の認定に,原告主張の誤りはない。
また,原告は,露光主体について,審決は「CCDカメラ部1」と「タイミング発生器10」との食い違った認定をしたと主張する。しかしながら,審決は,引用例1には,「タイミング発生器10は,・・・CCDカメラ部1を電子シャッタとして動作させる。即ち,・・・フィールド電荷を・・・掃き出し,所定時間Δtだけ露光させる」と記載されているとし(審決謄本2頁引用例(3)),また,「タイミング発生器10にシャッタ信号を与え,・・・所定時間Δtだけ露光させる」(同4頁対比(2))としているのであって,原告の上記主張は,審決を正解しないものであり,失当である。
(2) 審決は,引用例1の「タイミング発生器10」は,ムービー動作及び「電子シャッター速度を正確に制御するために,露光開始を指示する不要電荷の基板への掃き出しを水平走査期間に行う」点は別として,「固体撮像素子に対して,スチル動作においては,電子シャッター動作をなすようにする」点で,本願発明の電子シャッター制御回路と差異がないとしており(審決謄本4頁最終段落〜5頁第1段落),ムービー動作及び「電子シャッター速度を正確に制御するために,露光開始を指示する不要電荷の基板への掃き出しを水平走査期間に行う」点を,相違点2,3として正しく抽出している。したがって,引用例1の「タイミング発生器10」は本願発明の「電子シャッター制御回路」と差異がないとする審決の認定に誤りはない。
(3) 審決は,「システムコントローラは,電子シャッター制御回路を『設定された電子シャッター速度に応じて』動作させる」(審決謄本4頁対比(2))と認定しているのであるから,「システム制御回路」は,「電子シャッタ制御回路」を「動作させる」ことを意味し,また,「タイミング発生器10は・・・該CCDカメラ部1を所謂電子シャッタとして動作させる」(同4頁最終段落)と認定しているのであるから,スチル動作において,CCDカメラ部(固体撮像素子)が,電子シャッターとして動作することを意味することは明らかである。そうすると,電子シャッター動作する主体は,CCDカメラ部(固体撮像素子)であることが明確であって,「電子シャッター制御回路」あるいは「固体撮像素子」との食い違った認定をしたものではない。また,原告は,本願発明の電子シャッター動作は,不要電荷を基板に掃き出す点で引用例1と異なる旨主張するが,審決は,不要電荷を基板に掃き出す点を,相違点2,3として正しく抽出している。
2 取消事由2(相違点の看過)について 原告は,引用例1の「タイミング発生器」は電荷転送パルスのタイミングを制御するだけであり,少なくとも,所定時間Δtだけ露光するものではなく,その露光動作はCCDカメラ部1で行われると主張するが,審決は,「所定時間Δtだけ露光する」とはしておらず,「所定時間Δtだけ露光させる」(審決謄本5頁(相違点1))としているのであるから,原告の上記主張は,審決の記載と異なり,失当である。
3 取消事由3(相違点についての判断の誤り)について (1) 相違点1について 引用例1記載の発明において,シャッタ信号を受け,「所定時間Δtだけ露光させる」ためには,所定時間Δtの電子シャッタ速度が何らかの形で設定されていると理解するのが,技術常識である。しかも,電子スチルカメラの技術分野において,撮影に適した露光時間を得るために,シャッタ速度を設定すること,あるいは,自動的に設定するようにすることは,引用例2(甲3)に,「これによって第3図に示すように基板パルスPSが印加された時刻から読み出しパルスP2(第3図B参照)までの間が露出時間t2となり,所謂シャッタ速度が設定される」(3頁右下欄〜4頁左上欄)と記載されているように,周知事項であるから,当業者は,引用例1の所定時間Δtを,固定的なものではなく,撮影条件に応じて変化させられるものと理解する。
(2) 相違点3について ア 引用例2記載の発明は,高速シャッター時に最適な露光量を選ぶために,基板パルスを任意に制御することを目的としている。そして,この目的を達成するために,任意の時刻に基板パルスを基板に印加することにより,露出時間t2を連続的に任意に設定するようにしたものである。なお,垂直ブランキング期間に基板パルスを印加するのは,再生画像への基板パルスの影響を考慮したからであって,これを考慮しなければ,基板パルスの基板への印加時刻は,垂直ブランキング期間に限定されるものではない。そうすると,掃き出しタイミングを任意の時刻とすることにより,任意に設定されたシャッター速度を実現するという観点において,引用例2の「垂直ブランキング期間内の任意の時刻に基板パルスPsをN型シリコン基板(4)に印加する」ことと,本件明細書(甲4)の「電子シャッターを水平ブランキング期間と一致させることなしに任意のタイミングで基板電圧駆動回路28を駆動し,フォトダイオードPDから不要電荷を掃き出す」(段落【0023】)こととは同義であり,また,引用例2に記載された技術事項が,正確に設定されたシャッター速度を実現することにほかならないことは明らかであるから,審決の認定に原告主張の誤りはない。
イ 引用例2の固体撮像装置は,1フィールド期間の任意の期間t1の間(すなわち水平ブランキング期間と一致させることなく水平走査期間)に信号電荷をN型シリコン基板部分に掃き出させると,出力部からの読み出しと基板への掃き出しが同時に行われることになって再生画像が影響を受けることから,再生画像への影響を避けるために,掃き出しを水平・垂直ブランキング期間に行うものである。そうすると,引用例2においては,「水平走査期間」での基板への掃き出しをいかなる場合にも否定しているのではなく,出力部から読み出される再生画像が基板への掃き出しにより影響を受ける場合,すなわち,出力部からの読み出しと基板への掃き出しが同時に行われる場合について,否定しているだけである。したがって,ムービー動作の場合においては,「水平走査期間」での基板への掃き出しを否定しているものの,スチル動作の場合までも否定するものではない。
ウ 引用例2(甲3)が水平走査期間に不要電荷を掃き出す点について否定したものではないことは上記(3)のとおりあるから,引用例1のスチルビデオカメラに対して引用例2の固体撮像装置は当然に適用し得るものである。
また,原告は,引用例1(甲2)は,引用例としての価値はないと主張し,第2図の最下端の線図に対する図面中の説明で,スチルモードからビデオモードに切り替わっているのに,第2図(ハ)のタイミング図では接点S2がオン状態となったままとなっているのかが明確でないと主張するが,電子シャッタ動作及び録画に要する期間(掃き出し,露光期間及び2フィールド期間)は約1/30秒である一方,オペレータが全押しし,それを終了するまでの期間(接点S2が立ち上がった状態の期間)は,人間の動作であるということを考えると,前記電子シャッタ動作及び録画に要する期間(掃き出し,露光期間及び2フィールド期間)である約1/30秒よりも長くなることは明白であり,そうすると,録画が終わり,スチルモードが終了してビデオモードとなった後も,接点S2のオン状態が継続していることに,技術的な誤りはなく,引用例1の第2図において,発明の本質的な部分についての不備はない。また,原告が指摘している第2図の「最左側と最右側のフィールドを表す矩形の長さ」「1フィールドを表す矩形の間の長さ」「1フィールドを表す矩形の間の矢印の有無」等の部分は,引用例1に記載されている発明において,いわゆる補助的な記載部分であり,仮に,このような補助的記載部分の不備があったとしても,引用例1の第2図は,発明の内容が当業者に明確に理解し得る程度に記載されており,原告の上記主張は失当である。引用例1記載のスチルビデオカメラは,ビデオモードからスチルモードへの移行を問題としているのであって,スチルモードからビデオモードへの移行は,特に考慮されていないために,原告主張の点において,技術的に正確な記載となっていないと考えられる。しかしながら,第2図の最下段に記載されたスチルモードがビデオモードになった時点で,第2図のタイミング図(ハ)のS2がオンのままであっても,レリーズスイッチの全押しによるシャッタ信号によって,結果的に,フィールド電荷を掃き出し,所定時間Δtだけ露光させるという技術事項が不明確となることはない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について (1) 原告は,審決が,引用例1(甲2)の「システムコントローラ11」と「タイミング発生器10」の果たす機能について,認定を誤り,また,露光主体について,「CCDカメラ部1」あるいは「タイミング発生器10」との食い違った認定をした上,後者の認定を前提として,「引用例1に記載された発明のシステムコントローラは・・・本願発明のシステム制御回路に相当している」との誤った認定に至ったものであると主張するので検討する。
審決は,「引用例1に記載された発明は,レリーズスイッチSW1を全押しすることにより第2接点S2がオンになり(スチルモード),システムコントローラ11はこの接点信号を受けると(すなわち,スチル撮像時であることを示す信号が入力された時)タイミング発生器10にシャッタ信号を与え,1フィールド期間ではなく所定時間Δtだけ露光させるものであるから・・・引用例1に記載された発明のシステムコントローラは,電子シャッター制御回路を『設定された電子シャッター速度に応じて』動作させるようにする点は別として,本願発明のシステム制御回路に相当している」(審決謄本4頁対比(2))とし,引用例1において,スチル撮像時であることを示す信号が入力された時「タイミング発生器10」にシャッタ信号を与え,露光させることを根拠とし,本願発明の「設定された電子シャッター速度に応じて」動作させるようにする点を別として,引用例1の「システムコントローラ」は本願発明の「システム制御回路」に相当していると認定した。本件明細書の特許請求の範囲には,「システム制御回路」について,「スチル撮像時であることを示す信号がシステム制御回路に入力された時に,システム制御回路が,電子シャッター制御回路を,設定された電子シャッター速度に応じて動作させる」と記載されており,引用例1のシステムコントローラは,スチル撮像時であることを示す信号が入力された時に,次の回路に所定の動作をさせる点で,本願発明のシステム制御回路と共通しているのであるから,引用例1のシステムコントローラは本願発明のシステム制御回路に相当しているとした審決の認定に誤りはない。
原告は,審決においては,電荷の掃き出しと露光の主体が「CCDカメラ部1」あるいは「タイミング発生器10」と食い違った認定がされているとも主張するが,本件明細書の特許請求の範囲にも,「電荷の掃き出しと露光の主体」との記載はなく,引用例1における電荷の掃き出しと露光の主体の認定は,審決の上記認定を何ら左右するものではないから,原告の上記主張は失当である。
(2) 原告は,引用例1の「タイミング発生器10」は,単に電荷転送パルスのタイミングを制御するものであるのに対し,本願発明の「電子シャッター制御回路」は,スチル撮像時において,設定された電子シャッター速度に応じて動作するものであり,単に電荷転送パルスのタイミングを制御するものではないから,引用例1の「タイミング発生器10」は本願発明の「電子シャッター制御回路」と差異がないとする審決の認定は誤りであると主張する。しかしながら,審決は,固体撮像素子に対して,スチル動作においては,電子シャッター動作をするようにした点で,引用例1の「タイミング発生器10」は本願発明の「電子シャッター制御回路」と差異がないとしているのであり,設定された電子シャッター速度に応じて動作する点については,相違点1として挙げているところである。したがって,原告の上記主張は,審決を正解しないものであり,失当である。
(3) 原告は,審決は,電子シャッター動作する主体について,「電子シャッター制御回路」あるいは「固体撮像素子」との食い違った認定をし,また,本願発明の電子シャッター動作は,不要電荷を基板に掃き出すことを必須の構成とする電子シャッター動作であるから,引用例1の高速駆動掃き出し動作とは,その内容が異なるのに,本願発明と引用例1記載の発明が,「撮像装置に含まれるシステム制御回路と電子シャッター制御回路を,スチル撮像時であることを示す信号がシステム制御回路に入力された時に,システム制御回路が,電子シャッター制御回路を,電子シャッター動作させるように構成し,前記電子シャッター制御回路は,前記固体撮像素子に対して,前記スチル動作においては,電子シャッター動作をなすようにする」(審決謄本5頁第2段落)構成において一致するとした審決の認定は誤りであると主張する。しかしながら,審決は,上記のとおり,「システム制御回路が,電子シャッター制御回路を,電子シャッター動作させる」,「電子シャッター制御回路は,前記固体撮像素子に対して,前記スチル動作においては,電子シャッター動作をなすようにする」としているのであり,電子シャッター動作する主体が「電子シャッター制御回路」と「固体撮像素子」の二つと記載しているのものではない。審決が,「電子シャッター動作」という表現を2箇所について用いているとしても,「システム制御回路」の制御動作の対象を「電子シャッター制御回路」と明記し,「電子シャッター制御回路」の制御動作の対象を「固体撮像素子」と明記しているのであるから,電子シャッター動作する主体をCCDカメラ部(固体撮像素子)としていることは明らかである。また,不要電荷を基板に掃き出す点については,審決は相違点として認定しているところであるから,審決の一致点の認定が誤りであるということはできない。
(4) 以上のとおり,原告の取消事由1の主張は理由がない。
2 取消事由2(相違点の看過)について 原告は,引用例1(甲2)の「タイミング発生器」は,本願発明の「電子シャッター制御回路」とは異なり,電荷転送パルスのタイミングを制御するだけであって,所定時間Δtだけ露光するものではなく,その露光動作は「CCDカメラ部1」で行われるのに,審決は,引用例1について,「シャッタ信号が与えられたタイミング発生器が・・・所定時間Δtだけ露光させる」と誤って認定した結果,本願発明と引用例1記載の発明の相違点を看過したものであると主張する。しかし,引用例1には,露光動作について,「タイミング発生器10は,このシャッタ信号を受けると・・・それまでチャージされていたフィールド電荷を第2図(イ)に示すように掃き出し,所定時間Δtだけ露光させる」(3頁右上欄)と記載されているから,審決の引用例1に係る上記認定は,同記載と一致するものであり,これと異なる認定をすべき理由はうかがわれないから,誤りであるということはできない。したがって,原告の取消事由2の主張は理由がない。
3 取消事由3(相違点についての判断の誤り)について (1) 相違点1について 原告は,引用例1(甲2)には,Δtは,所定時間とあるだけであり,設定されたシャッタ速度に応じて電子シャッタ動作させるとの記載はなく,引用例1の所定時間Δtは,1フィールドよりも短く描出されていることから,当業者は,ユーザ側で設定される時間ではなく,設計上決定されている固定的な時間であると理解するから,本願発明と引用例1記載の発明の相違点1について,「引用例1に記載された発明は,シャッタ信号を受けると所定時間Δt(第2図の記載からみて,Δtは1フィールド期間よりも短いと認められる。)だけ露光させるものであるから・・・,所定時間Δtの電子シャッタ速度が設定され,当該設定されたシャッタ速度に応じて電子シャッタを動作させるものと認められる」(審決謄本5頁最終段落〜6頁第1段落)とした審決の判断は誤りであると主張する。引用例1(甲2)には,「タイミング発生器10は,このシャッタ信号を受けると・・・それまでチャージされていたフィールド電荷を第2図(イ)に示すように掃き出し,所定時間Δtだけ露光させる」(3頁右上欄)との記載があり,同記載によれば,引用例1記載の発明においては,所定時間Δtだけ露光させていることが明らかである。そして,引用例2(甲3)に「これによって第3図に示すように基板パルスPSが印加された時刻から読み出しパルス・・・までの間が露出時間t2となり,所謂シャッタ速度が設定される」(3頁右下欄〜4頁左上欄)記載されるように,露出時間によってシャッタ速度の設定をすることは周知であるから,引用例1の露光時間Δtをシャッター速度に対応させ,露光時間Δtの設定をシャッター速度の設定に対応させる技術事項が開示されているということができる。したがって,相違点1についての審決の上記判断に誤りはない。また,原告は,引用例1の所定時間Δtは,1フィールドよりも短く描出されていることから,当業者は,ユーザ側で設定される時間ではなく,設計上決定されている固定的な時間であると理解するとも主張するが,本件明細書の特許請求の範囲には,「ユーザー側で設定」との記載はないから,引用例1のΔtがユーザー側で設定されるか否かは相違点1についての上記判断を左右しない。
(2) 相違点3について ア 原告は,引用例2(甲3)の「垂直ブランキング期間内の任意の時刻」と本願発明の「水平ブランキング期間と一致させることなしに」とは同義ではなく,しかも,引用例2は,水平ブランキング期間を使わないことを前提にして垂直ブランキング期間を用いて不要電荷を掃き出しする点において,本願発明と明らかに異なるから,相違点3aについて,「引用例2に記載された技術事項が露出時間t2を連続的に任意に設定するようにしたことは,結局,正確に設定された500μsecや200μsec等のシャッタ速度を実現することに他ならないことは当業者に明らかである」(審決謄本7頁第2段落),「引用例2に記載された事項から当業者が容易に想到し得ることである」(同第3段落)とした審決の判断は誤りであると主張する。しかしながら,審決の「上記(注,引用例2)『水平ブランキング期間に基板パルスを印加する場合』とは,本願明細書(注,本件明細書)の第12段落に記載の『不要電荷を(中略)掃き出すタイミングが従来のものは水平ブランキング期間に行うようにしている』ことと同義であり」(同第1段落)との記載は,同項表題の「電子シャッタ速度を正確に制御する点について」記載したものであり,引用例2記載の発明の目的が,高速シャッター時に最適な露光量を選ぶために,基板パルスを任意の時刻に制御することにあることは原告の自認するところであり,引用例2記載の発明が正確に設定されたシャッタ速度を実現するものであるということができる。そうすると,「上記(注,引用例2)『水平ブランキング期間に基板パルスを印加する場合』とは,本願明細書の第12段落に記載の『不要電荷を(中略)掃き出すタイミングが従来のものは水平ブランキング期間に行うようにしている』ことと同義であり・・・さらに,上記(注,引用例2)『垂直ブランキング期間内の任意の時刻に基板パルスPSをN型シリコン基板(4)に印加する』こととは,従来の問題の原因である掃き出しタイミングを水平ブランキング期間に限定せずに任意の時刻とすることであるから,本願明細書に記載の『電子シャッターを水平ブランキング期間と一致させることなしに任意のタイミングで基板電圧駆動回路28を駆動し,フォトダイオードPDから不要電荷を掃き出す。』(第23段落)ことと同義である」(同第1段落)との審決の認定が誤りであるということはできず,相違点3aについての「電子シャッタ速度を正確に制御するようにすることは,引用例2に記載された事項から当業者が容易に想到し得ることである」(同第3段落)との審決の判断が誤りであるということもできない。
イ 原告は,引用例2(甲3)記載の固体撮像装置は,水平ブランキング期間に基板パルスを印加する点及び垂直ブランキング期間に基板パルスを印加する点についての記載はあるものの,水平走査期間での基板への掃き出しは,その「従来技術」の項及び「発明が解決しようとする問題点」の項で明確に否定しているから,本願発明の「露光開始を指示する不要電荷の基板への掃き出しを水平走査期間に行う」との構成が,引用例2に記載された技術事項から当業者が容易になし得ることであるとの審決の判断は誤りであると主張する。しかし,引用例2には,「[従来の技術]・・・この固体撮像装置は・・・1フィールド期間の任意の期間t1の間,N型シリコン基板部分に例えば直流電圧30[V]を印加し,この期間t1の間,受光部の信号電荷蓄積領域に生ずる信号電荷をすべてN型シリコン基板部分に掃き出させ,1フィールド期間の残りの期間t2の間,N型シリコン基板部分に例えば直流電圧10[V]を印加し,この期間t2の間に受光部の信号電荷蓄積領域に信号電荷を蓄積し,この信号電荷を読み出しパルスP1に続く読み出しパルスP2によって読み出そうとするものであり,斯る固体撮像装置によれば,N型シリコン基板部分に30[V]の直流電圧を印加する期間t1を可変制御することによって露出時間t2の制御を行うことが可能となる。しかし,斯る固体撮像装置においては,第5図に示す様に,再生画面(1)上にコントラストの相違する部分,即ち明るい部分(2)と暗い部分(3)とが生ずるという不都合があった」(1頁右下欄〜2頁右上欄)との記載があり,同記載によれば,引用例2には,従来技術ではあるが,「1フィールド期間の任意の期間t1の間・・・信号電荷をすべてN型シリコン基板部分に掃き出させ」ることが示されており,この期間t1は,引用例2の第4図Bに示されるように,「1フィールド期間の任意の期間」であり,水平走査期間を含むものということができる。そうすると,水平走査期間に信号電荷を基板部分に掃き出させることは引用例2に示されているということができるから,審決がいうように,本願発明の「露光開始を指示する不要電荷の基板への掃き出しを水平走査期間に行う」との構成が,引用例2に記載された技術事項から当業者が容易に想到し得るものということができる。原告は,上記技術は引用例2の従来技術であり,その「従来技術」の項及び「発明が解決しようとする問題点」の項で明確に否定されていると主張するが,引用刊行物に記載された技術がその引用刊行物における従来技術であること自体は,その従来技術を引用発明として用いることを妨げるものではなく,また,本件において,引用例2に従来技術として記載された「1フィールド期間の任意の期間」に信号電荷を基板部分に掃き出させる技術の適用を妨げる理由も見いだせない。したがって,相違点3bについての審決の判断が誤りであるということはできない。
ウ 原告は,引用例2は,水平走査期間での基板への掃き出しを明確に否定したものであるから,引用例1のスチルビデオカメラに引用例2の固体撮像装置を当然に適用し得るものではないと主張する。しかし,引用例2の「1フィールド期間の任意の期間」は水平走査期間を含むものということができ,水平走査期間に信号電荷を基板部分に掃き出させることは引用例2に示されているということができることは上記イのとおりであるから,原告の上記主張は前提において失当である。
また,原告は,引用例1は,記載に不備があることを理由に,本願発明に対する先行技術としての適格性を否定されるべきであると主張する。すなわち,原告は,引用例1の第2図について,「1フィールド」の矩形の長さが異なる点,二つの「1フィールド」の間の長さが異なる点,二つの「1フィールド」の間に矢印の有無がある点,スチルモードからビデオモードに切り替わっているのに第2図(ハ)のタイミング図では,接点S2がオン状態となっている点,Δtの区間が露光(期間)とされている点を挙げ,引用例1自体その技術内容を明確に示すものではないと主張する。しかし,スチルモードからビデオモードに切り替わっているのに第2図(ハ)のタイミング図では接点S2がオン状態となっている点については,引用例1には具体的な説明がされていないが,オペレータがレリーズスイッチSW1を全押しし,それを終了するまでの接点S2がオン状態の期間は,人間の動作によるものであり,電子シャッタ動作及び録画に要する期間よりも長くなることが考えられ,ビデオモードとなった後も,接点S2のオン状態が継続していると理解することも可能である。また,仮に,原告の指摘する点において誤りであるとしても,単なる誤記ともいうべきものであり,審決が引用例2から認定した技術内容を左右するものではなく,審決の上記判断に影響を及ぼすものということはできず,原告の上記主張も採用することができない。
(3) したがって,原告の取消事由3の主張も理由がない。
4 以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 岡本岳
裁判官 長沢幸男