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関連審決 異議2002-70589
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  周知技術 /  技術的意義 /  実施 /  設定登録 /  請求の範囲 /  変更 /  訂正明細書 /  取消決定 /  国際公開 / 
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事件 平成 14年 (行ケ) 548号 特許取消決定取消請求事件
原告 株式会社巴川製紙所
訴訟代理人弁理士 渡部剛
被告 特許庁長官太田信一郎
指定代理人 鹿股俊雄、大野克人、林栄二
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/06/19
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
特許庁が異議2002-70589号事件について平成14年9月9日にした決定を取り消す、との判決。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 原告は、発明の名称を「防眩材料及びそれを使用した偏光フィルム」とする特許第3206713号(本件特許)の特許権者である。本件特許は、平成7年10月27に特許出願され、平成13年7月6日に設定登録された。本件特許の請求項1ないし6に対して特許異議の申立てがされ(異議2002-70589号)、原告は平成14年7月23日に訂正請求をしたが、特許庁は、平成14年9月9日、
「訂正を認める。特許第3206713号の請求項1ないし6に係る特許を取り消す。」との決定をした(同年9月30日原告に決定謄本送達。)。
2 本件発明の要旨 平成14年7月23日付け訂正請求書添付の訂正明細書における特許請求の範囲の記載によれば、以下のとおりである。 【請求項1】透明基体の片面または両面を粗面化してなる防眩材料において、該粗面化した面の表面粗さ(JIS B0601)が、下記式(1)ないし式(3)の条件を満たすことを特徴とする防眩材料。 80Ra≦Sm≦1000Ra (1) Sm≦40 (2) 0.03≦Ra≦0.30 (3) 〔式中、Smは表面の凹凸の平均間隔(μm)、Raは表面の中心線平均粗さ (μm)を意味する。〕 【請求項2】透明基体の粗面化した面のHAZE値(JIS K7105)が、1〜25の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の防眩材料。 【請求項3】透明基体が、透明フィルムであることを特徴とする請求項1に記載の防眩材料。 【請求項4】第1の保護材の片面を粗面化した面の表面粗さ(JIS B0601)が、下記式(1)ないし式(3)の条件を満たす防眩材料の非粗面化面に、偏光基体を介して第2の保護材を積層してなることを特徴とする偏光フィルム。 80Ra≦Sm≦1000Ra (1) Sm≦40 (2) 0.03≦Ra≦0.30 (3) 〔式中、Smは表面の凹凸の平均間隔(μm)、Raは表面の中心線平均粗さ (μm)を意味する。〕 【請求項5】第1の保護材のHAZE値(JIS K7105)が、1〜25の範囲にあることを特徴とする請求項4に記載の偏光フィルム。 【請求項6】第1および第2の保護材が、透明フィルムであることを特徴とする請求項4に記載の偏光フィルム。 (以下、各請求項の発明をその項番号に対応させて「本件発明1」などという。) 3 決定の理由の要点 (1) 決定は、本件発明1ないし6は、刊行物に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、その特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものであるとした。
刊行物1:国際公開第WO95/31737号再公表特許公報(甲3) 刊行物2:特開昭57-204002号公報(甲4) 刊行物3:特開昭62-27703号公報(甲5) 刊行物4:特開平6-234175号公報(甲6) 刊行物5:特開昭61-230125号公報(甲7) 刊行物6:JIS B0601-1976表面粗さ(昭和51年)(甲8) 刊行物7:JIS B0601-1982表面粗さの定義と表示(昭和57年)(甲9) 刊行物8:JIS B0601-1994 表面粗さ-定義及び表示(平成6年)(甲10) 刊行物9:社団法人計量管理協会編「長さの計測(下)」森吉雄著、1990年3月25日、株式会社コロナ社(甲11) (2) 本件発明1ないし6と刊行物記載の発明との対比判断の要旨は、以下のとおりである(表記の一部を改めたほかは、決定の理由欄の「(III)特許異議の申立て」の「4 本件発明1と刊行物2記載の発明との対比」から「9 本件発明6について」までを、ほぼそのまま引用する。)。
4 本件発明1と刊行物2記載の発明との対比 可視光線透過率が77.5〜91.0であるから、本件発明1の「透明」が開示されており、表面正反射率が75%以下であるから、本件発明の「防眩材料」が開示されており、また、刊行物2記載の発明の「硬化被膜」が、本件発明1の「基体」に相当するから、両者は、透明基体の片面または両面を粗面化してなる防眩材料で一致し、 A 本件発明1の表面粗さ(JIS B0601)が 80Ra≦Sm≦1000Ra (1) 〔式中、Smは表面の凹凸の平均間隔(μm)、Raは表面の中心線平均粗さ(μm)を意味する。〕の条件を満たすのに対して、刊行物2記載の発明では、JISB061-1976の5にいうCLA(中心線平均あらさ)で0.05〜0.5〔μ〕の範囲であり、凹凸の凸から凸までの距離として10〜60〔μ〕である点、 B 本件発明1の表面粗さ(JIS B0601)が Sm≦40 (2) 〔式中、Smは表面の凹凸の平均間隔(μm)、Raは表面の中心線平均粗さ(μm)を意味する。〕の条件を満たすのに対して、刊行物2記載の発明では、凹凸の凸から凸までの距離として10〜60〔μ〕である点、 C 本件発明1の表面粗さ(JIS B0601)が 0.03≦Ra≦0.30 (3) 〔式中、Smは表面の凹凸の平均間隔(μm)、Raは表面の中心線平均粗さ(μm)を意味する。〕の条件を満たすのに対して、刊行物2記載の発明では、JISB061-1976の5にいうCLA(中心線平均あらさ)で0.05〜0.5〔μ〕の範囲である点で相違する。 そこでまず、相違点Cについて検討すると、JISB061(JIS B0601の誤記であると認められる。)-1976の5にいうCLA(中心線平均あらさ)が、(JIS B0601)の表面の中心線平均粗さ(μm)Raを意味することは、上記刊行物6〜8の記載から明らかである。 そして、0.05〜0.5〔μ〕の範囲は、式(3)の殆どの部分を満たすから、
結局、実質的な差異は無い。 次に、相違点Bについて検討すると、凹凸の凸から凸までの距離と、表面の凹凸の平均間隔(μm)Smとは、同一の概念ではないが、刊行物7及び8の記載からみて、表面粗さを表すための非常に近接したパラメーターであるといえる。 また、凹凸の凸から凸までの距離として10〜60〔μ〕とは、平均値(以下、Sという。)としても10〜60〔μ〕を取りうることを示唆している。 仮に、凹凸の凸から凸までの平均値Sと表面の凹凸の平均間隔(μm)Smとが同一であると仮定して、数値範囲を比較してみると、10〜60〔μ〕は、式(2)の殆どの部分を満たす。 また、凹凸の凸から凸までの平均値Sが表面の凹凸の平均間隔(μm)Smより小さい値であると仮定して、仮にSの値がSmより10μ小さいと仮定して、数値範囲を比較してみると、Sの10〜60〔μ〕は、Smの20〜70〔μ〕となり、式(2)を満たす。 逆に、凹凸の凸から凸までの平均値Sが表面の凹凸の平均間隔(μm)Smより大きい値であると仮定して、仮にSの値がSmより10μ大きいと仮定して、数値範囲を比較してみると、Sの10〜60〔μ〕は、Smの0〜50〔μ〕となり、式(2)を満たす。 してみれば、SとSmとが同一の概念でなくても、実質的な差異はないといえる。 最後に、相違点Aについて検討すると、訂正請求書に添付された図面図5に、上記相違点Cで検討した値0.05〜0.5に基づきRa=0.05とRa=0.5の線を引き、上記相違点Bで検討した値10〜60に基づきSm=10とSm=60の線を引いて、これら4本の線に囲まれた部分と図5のハッチングを施された部分とを対比すると、重複する部分がある。 してみれば、上記相違点Cで検討した値0.05〜0.5と上記相違点Bで検討した値10〜60とを満たせば、自ずから式(1)を満たす部分を含むことになり、格別の差異はないといえる。 それゆえ、刊行物2記載の発明の数値範囲に換えて、本件発明の式(1)から(3)を推考することは、当業者なら容易になし得たといえる。 そして、本件発明の式(1)から(3)を用いたことによって格別顕著な作用効果が生じるものでもない。 5 本件発明2について 本件発明2は、本件発明1の粗面化した面の「HAZE値(JIS K7105)が1〜25の範囲にある」と限定するものであるが、上記刊行物3に「ヘイズは5〜20%」(第3頁右上欄)と記載され、上記刊行物4に「ヘイズ値4.0%」(表1)と記載され、上記刊行物5に「曇価が5%以下」と記載され、上記刊行物11には「ヘーズ(曇価)」(第15頁)と記載されており、従来周知の技術手段であるといえるから、刊行物2及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたといえる。 6 本件発明3について 本件発明3は、本件発明1の透明基体を「透明フィルム」と限定するものであるが、上記刊行物4には「プラスチックフイルム」(特許請求の範囲請求項1)と記載されている。そして、上記刊行物2と上記刊行物4とは、非常に近接した技術分野に属するから、上記刊行物4に記載された発明を上記刊行物2に記載された発明に適用して、本件発明3を推考することは、当業者なら容易になし得たといえる。
また、当該適用によって、格別顕著な作用効果が生ずるものでもない。 7 本件発明4と刊行物5記載の発明との対比 外光の正反射の影響をできるだけ取り除くことのできるフイルターであるから、
本件発明4の「防眩材料」が開示されており、また、刊行物5記載の発明の「透光性薄層またはフイルム層1’」、「艶消面2」、「直線偏光フイルム31」、「透光性プラスチックシート1」が、夫々本件発明4の「第1の保護材」、「粗面化した面」、「偏光基体」、「第2の保護材」に相当するから、両者は、第1の保護材の片面を粗面化した防眩材料の非粗面化面に、偏光基体を介して第2の保護材を積層した偏光フイルムで一致し、 A’本件発明4の表面粗さ(JIS B0601)が 80Ra≦Sm≦1000Ra (1) 〔式中、Smは表面の凹凸の平均間隔(μm)、Raは表面の中心線平均粗さ(μm)を意味する。〕の条件を満たすのに対して、刊行物5記載の発明では、そのような記載がない点、 B’本件発明4の表面粗さ(JIS B0601)が Sm≦40 (2) 〔式中、Smは表面の凹凸の平均間隔(μm)、Raは表面の中心線平均粗さ(μm)を意味する。〕の条件を満たすのに対して、刊行物5記載の発明では、JISB-0601-1982解説の凹凸の平均間隔が5〜50μである点、 C’本件発明1の表面粗さ(JIS B0601)が 0.03≦Ra≦0.30 (3) 〔式中、Smは表面の凹凸の平均間隔(μm)、Raは表面の中心線平均粗さ(μm)を意味する。〕の条件を満たすのに対して、刊行物5記載の発明では、十点平均粗さがそれぞれ0.6μ、0.45μ、0.35μである点で相違する。 そこでまず、相違点B’について検討すると、JISB-0601-1982解説の凹凸の平均間隔は、上記刊行物7の記載からみて本件発明4のSmを意味することは明らかである。 そして、5〜50μは、式(2)の殆どの部分を満たすから、結局、実質的な差異は無い。 次に、相違点C’について検討すると、表面粗さを表すパラメーターとして、十点平均粗さと中心線平均粗さRaとがあり、かつ、いずれもが従来周知の技術手段であることは、上記刊行物6〜8の記載から明らかである。 そして、上記刊行物2には、「JISB061-1976の5にいうCLA(中心線平均あらさ)で0.05〜0.5〔μ〕の範囲」(第3頁右上欄)と記載され、
上記刊行物3には、「中心線平均粗さ0.05〜0.1μm」(特許請求の範囲請求項4)と記載され、上記刊行物4には、「平均粗さはRa:0.1〜0.2」(段落【0013】)と記載され、いずれも、式(3)を満たしているから、式(3)を満たすようにすることは従来周知の技術手段に過ぎない。 それゆえ、刊行物5記載の発明の、十点平均粗さがそれぞれ0.6μ、0.45μ、0.35μに換えて、従来周知の中心線平均粗さRaを適用し、従来周知の式(3)を満たすような数値範囲とするようなことは、当業者が容易に推考できたものといえる。 また、当該適用によって、格別顕著な作用効果が生ずるものでもない。 最後に、相違点A’について検討すると、訂正請求書に添付された図面図5に、
上記相違点B’で検討した値10〜60に基づきSm=10とSm=60の線を引き、上記相違点C’で検討したRa=0.03とRa=0.30の線を引き、これら4本の線に囲まれた部分と図5のハッチングを施された部分とを対比すると、重複する部分がある。 してみれば、上記相違点B’で検討した値10〜60と上記相違点C’で検討した値Ra=0.03〜0.30を満たせば、自ずから式(1)を満たす部分を含むことになり、格別の差異はないといえる。 それゆえ、刊行物5記載の発明の十点平均粗さの数値に換えて、従来周知の中心線平均粗さRaの数値範囲を適用し、本件発明の式(1)から(3)を推考することは、当業者なら容易になし得たといえる。 そして、本件発明の式(1)から(3)を用いたことによって格別顕著な作用効果が生じるものでもない。 8 本件発明5について 本件発明5は、本件発明4の第1の保護材の「HAZE値(JIS K7105)が1〜25の範囲にある」と限定するものであるが、上記刊行物3に「ヘイズは5〜20%」(第3頁右上欄)と記載され、上記刊行物4に「ヘイズ値4.0%」(表1)と記載され、上記刊行物5に「曇価が5%以下」と記載され、上記刊行物11には「ヘーズ(曇価)」(第15頁)と記載されており、従来周知の技術手段であるといえるから、刊行物5及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたといえる。 9 本件発明6について 本件発明6は、本件発明4の第1及び第2の保護材を「透明フィルム」と限定するものであるが、上記刊行物4には「プラスチックフイルム」(特許請求の範囲請求項1)と記載されている。そして、上記刊行物5と上記刊行物4とは、非常に近接した技術分野に属するから、上記刊行物4に記載された発明を上記刊行物5に記載された発明に適用して、本件発明6を推考することは、当業者なら容易になし得たといえる。また、当該適用によって、格別顕著な作用効果が生ずるものでもない。
原告主張の取消事由の要点
1 本件発明1ないし3と刊行物2記載の発明との対比判断の誤り (1) 相違点Bについての判断の誤り 決定は、相違点Bについて、刊行物2記載の発明の「凹凸の凸から凸までの距離」と、本件発明1の「表面の凹凸の平均間隔(μm)Sm」とは、「表面粗さを表すための非常に近接したパラメーターであると言える。」と認定し、これを前提として相違点Bの判断をしているが、前提が誤りであるから、相違点Bの判断も誤りである。
刊行物2記載の発明における「凹凸の凸から凸までの距離」とは、凹部を挟んで隣接する凸部の山頂と凸部の山頂との間隔(以下「局部山頂間の距離」という。)を意味しているのに、決定は、これを誤って「山」と「山」との間の距離と解釈している。局部山頂間の距離は、平均線とは無関係のものであるから、本件発明における「表面の凹凸の平均間隔(Sm)」(基準長さの範囲において、平均線のところで、平均線の方向に測った山又は谷の間隔の平均値)と明確な対応関係はなく、
両者は明らかに相違する概念である。
(2) 相違点Aについての判断の誤り 決定は、刊行物2には、SmとRaとの関係に関して何ら記載がないから、SmとRaの関係に関しては何ら意図されておらず、刊行物2記載の発明から本件発明1の式(1)を見いだすことは困難である。
(3) 上記(1)(2)の誤りに基づく推考容易性の判断の誤り 決定は、刊行物2記載の発明の数値範囲に換えて、本件発明の式(1)から(3)を推考することは当業者が容易になし得たと判断するが、その前提となっている相違点A及びBについての判断が誤りであるから、この判断も誤りである。
(4) 本件発明1の作用効果の看過 本件発明の式(1)ないし(3)を満たす実施例1ないし4は、画像コントラスト、ぎらつき、防眩性の点で、上記式を満たさない比較例に比して、顕著な作用効果を奏している。決定は、本件発明の顕著な作用効果を看過しており、誤りである。
(5) 上記(1)ないし(4)に主張したことは、本件発明2及び3についても同様である。
2 本件発明4ないし6と刊行物5記載の発明との対比判断の誤り (1) 相違点C’の認定の誤り 成形型を用いて成形物を作製する場合、成形物が成形型のとおりに常に作製されるとは限らず、特に刊行物5(甲7)に記載されたようなミクロン単位以下の微小な凹凸が形成された成形型を用いた場合、それと同一の凹凸を有する成形物が作製されるとは考え難い。にもかかわらず、決定は、刊行物5に記載された成形型の凹凸の値に基づいて成形物である透明プラスチックフィルターが十点平均粗さ0.6μm、0.45μm、0.35μmを有すると認定した誤りがある。
(2) 相違点C’についての判断の誤り 「十点平均粗さ」と「中心線平均粗さ」とは、各々の定義が異なり、直接関係を有するものでないから、決定が「十点平均粗さ」の値に換えて「中心線平均の粗さ」の値を用い、式(3)を満たすような数値範囲とすることは容易であるとしたことは、誤りである。
(3) 相違点A’についての判断の誤り 決定は、相違点B’ではなく相違点Bについての検討で用いた「10〜60」という値を、相違点A’の判断に用いており、根拠のない不明な判断をしている。
また、刊行物5には、「表面の凹凸の平均間隔」Smと「表面の中心線平均粗さ」Raとの関係に関して何ら記載がないから、決定が本件発明の式(1)ないし(3)は容易に推考し得るとしたことは、誤りである。
(4) 上記の誤りに基づく推考容易性の判断の誤り 決定は、刊行物5記載の発明の数値範囲に換えて、従来周知の中心線平均粗さRaの数値範囲を適用し、本件発明の式(1)から(3)を推考することは当業者が容易になし得たことであると判断するが、その前提となっている認定判断が誤りであるから、この判断も誤りである。
(5) 本件発明4の作用効果の看過 本件発明4においては、式(1)ないし(3)を満たすことにより顕著な作用効果が生じるのに、決定はこの点を看過しているから、誤りである。
(6) 上記(1)ないし(4)に主張したことは、本件発明5及び6についても同様である。
当裁判所の判断
原告主張の審決取消事由の要点は第3に摘記したとおりであり、これに対する被告の反論及び原告の再反論も踏まえて、以下のとおり判断する。
1 本件発明1ないし3について (1) 本件発明1と刊行物2記載の発明の相違点Bについて ア 刊行物2にいう「凹凸の凸から凸までの距離」の意味 刊行物2(甲4の3頁右上欄6〜14行)には、「本発明の硬化被膜はその表面が微小に粗化されている。すなわち、その表面粗度としては、JIS B061-1976(判決注:「JIS B0601-1976」の誤記)の5にいうCLA(中心線平均あらさ)で0.05〜0.5〔μ〕の範囲である。ここでいう微小に粗化とは、例えば被膜表面の凹凸、すなわち凹凸の凸から凸までの距離として10〜60〔μ〕、好ましくは25〜45〔μ〕、孔の深さとして0.05〜2〔μ〕、好ましくは0.1〜1.0〔μ〕のようなものをいう。」と記載されている。原告は、上記記載における「凹凸の凸から凸までの距離」とは、局部山頂間の距離をいうものであって、本件発明1にいう「表面の凹凸の平均間隔」とは対応付けることができないと主張する。
表面粗さに関して、刊行物6ないし8(甲8ないし10)の各JIS B0601に記載されたところによれば、従来から、表面粗さの代表的パラメーターとして、粗さ曲線(断面曲線から低周波成分を除去するような特性をもつ測定方法で求められた曲線のこと。甲8の1頁)に基づき計算で求められる中心線平均粗さが用いられていたことが認められ、また、断面曲線又は粗さ曲線においては、一般的に、平均線(又は中心線)を挟んで「山」(断面曲線を平均線で切断したとき、それらの交差点の隣り合う2点を結ぶ断面曲線のうち、平均線に対し実体が突出している部分。その最も高い点が「山頂」)と「谷」(上記断面曲線のうち、平均線に対し実体がへこんでいる部分。その最も低い点が「谷底」)が現れること、二つの隣り合う極小点の間に「局部山」が現れ、この「局部山」は、谷底と山頂の間に現れるものであること、「局部山」間の距離は、隣り合う二つの「局部山」が「山頂」でない限り、「山(山頂)」間の距離よりも小さいものであることが認められる(甲9の1、2頁、甲10の2、3頁)。
刊行物2においては、上記のとおり、表面粗度(粗さ)を、JIS B0601-1976の中心線平均粗さにより表しており、中心線平均粗さが粗さ曲線により求められるものであることからすると、刊行物2における「凹凸の凸から凸までの距離」も、この粗さ曲線により求めたものと解される。そして、粗さ曲線を念頭に置いて「凹凸」を考えるとき、「凹」及び「凸」とは、中心線からみた「谷」及び「山」を意味しているとみることが最も自然な理解であり、刊行物2の記載全体を見ても、これと異なる意味に「凹凸」を理解すべき理由は見いだせない。
そうすると、刊行物2にいう「凹凸の凸から凸までの距離」とは、粗さ曲線における「山」から「山」までの距離と解するのが相当である。
なお、原告は、刊行物2の出願時点においては、表面粗さに関して「山」の定義は存在しなかったと主張しているが、刊行物2の出願前のJIS B0601-1976(甲8)に、「十点平均粗さ」の求め方に関して、「断面曲線から基準長さだけ抜き取った部分(以下、抜き取り部分という。)の平均線に平行な直線のうち高い方から3番目の山頂を通るものと、深い方から3番目の谷底を通るものを選び、この2本の直線の間隔を断面曲線の縦倍率の方向に測定してその値をマイクロメートル単位(μm)で表したものを、抜き取り部分の十点平均粗さという。」(3頁5〜8行)と記載されており、この記載からすると「山頂」という概念が存在していたことが明らかであるし、この「山頂」が「局部山」の「山頂」を意味するものではないことも、甲8図2の記載から明らかである。してみると、当時のJISに用語として明記されてはいないものの、後に改訂されたJIS(甲9、甲10)に明記された「山」に対応する概念は、既に確立されていたというべきであり、刊行物2の「凹凸」を「山」と「谷」に対応するものとして理解することに妨げはない。
イ 「表面の凹凸の平均間隔」(Sm)と「凹凸の凸から凸までの距離」との関係 「表面の凹凸の平均間隔」(Sm)は、JIS B0601において、「粗さ曲線からその平均線の方向に基準長さだけ抜き取り、この抜き取り部分において一つの山及びそれに隣り合う一つの谷に対応する平均線の長さの和(以下、凹凸の間隔という。)を求め、この多数の凹凸の間隔の算術的平均値を・・・表したもの」と定義されているものである(甲10の8頁)。
一方、刊行物2における「凹凸の凸から凸までの距離」が、粗さ曲線における「山」から「山」までの距離(山と山の間隔)をいうものと解されることは、前記アのとおりである。この「凹凸の凸から凸までの距離」は、本件発明の「凹凸の平均間隔Sm」と厳密に対応するものではないが、刊行物2に記載された「凸と凸の間隔」が「山」と「山」の間隔を意味するのであるから、本件発明の「凹凸の平均間隔」に近い値のものとなることが明らかであり、表面粗さを表すための非常に近接したパラメーターであるということができる。
そして、本件発明1において「表面の凹凸の平均間隔(μm)Sm」が40以下とされているのに対し、刊行物2記載の発明において「凹凸の凸から凸までの距離」は、「10〜60〔μ〕」とされており、「表面の凹凸の平均間隔」(Sm)と「凹凸の凸から凸までの距離」とが、近い値のものであることからすると、両者は、客観的にみて、「表面の凹凸の平均間隔」(Sm)において、重複範囲を有していることは明白である。
ウ 以上ア、イによれば、本件発明1と刊行物2記載の発明との相違点Bは、
実質的な差異ではないというべきである。したがって、相違点Bに関する決定の判断に誤りはない。
(2) 相違点Aについて ア 本件発明1においては、「表面の凹凸の平均間隔」(Sm)、「表面の中心線平均粗さ(μm)」(Ra)について、次の条件; 80Ra≦Sm≦1000Ra (1) Sm≦40 (2) 0.03≦Ra≦0.30 (3)が規定されているところ、原告は、刊行物2には、SmとRaとの関係に関して何ら記載がないから、刊行物2記載の発明から、本件発明1の上記式(1)を見いだすことは困難であると主張する。
イ なるほど、刊行物2にはSmとRaとの関係について何ら記載するところがない。しかしながら、刊行物2において、Sm近似のパラメーターであり、
「山」と「山」の距離を示している「凹凸の凸から凸までの距離」について、適切な範囲を「10〜60〔μ〕」と設定し、「山」の高さを表すパラメーターである「中心線平均粗さ」を用いて、適切な範囲を「0.05〜0.5〔μ〕」と設定していることからすると、刊行物2において、「山」の高さと「山」間の距離とが、
それぞれ、防眩効果に影響を及ぼす因子であるとされていることは明らかである。
そして、一般的に、ある効果に影響を及ぼす因子が複数存在する場合、これらの間の関係の有無を確認することは、当業者ならば普通に行うことであるから、刊行物2の記載に基づいてSmとRaとの関係を見いだすことに格別の創意は要しないというべきである。
ウ しかも、刊行物2記載の発明が上記式(3)を満たすことについては、原告も争っておらず、また、上記式(2)を満たすものであることは、既に認定したとおりであるところ、刊行物2記載の発明が式(2)及び(3)を満たせば、式(1)をも満たす可能性が高いことは、本件発明1において、式(1)ないし(3)を満たす部分と式(2)及び(3)を満たす部分とが大部分重複している(甲2の2、本件訂正図面【図5】参照)ことから明らかであるから、上記式(1)自体が格別の技術的意義を有しているということはできない。
エ したがって、決定が相違点Aについて格別の差異はないと判断したことに誤りはない。
(3) 以上(1)(2)によれば、決定が判断したとおり、刊行物2記載の発明の数値範囲に換えて、本件発明1の式(1)から(3)を推考することは、当業者なら容易になし得たことというべきであり、決定の判断に誤りはない。
(4) 本件発明1の作用効果を看過したとの主張について 原告は、本件発明1においては式(1)ないし(3)の要件を満足する場合には顕著な作用効果が生じるのに、決定は、この点を看過して本件発明1の作用効果が顕著でないと認定していると主張する。
しかしながら、刊行物2記載の発明も式(1)ないし(3)を満たす部分を有していることは前示のとおりであるから、刊行物2記載の発明においても本件発明1と同様の作用効果が奏されるということができる。
したがって、決定が、本件発明1において、式(1)から(3)を用いたことにより格別顕著な作用効果が生じるものでもないと認定判断したことに誤りはない。
2 本件発明4ないし6について (1) 本件発明4と刊行物5記載の発明との相違点C’の認定について 原告は、成形型を用いて成形物を作製する場合、成形物が成形型のとおりに常に作製されるとは限らず、特に刊行物5(甲7)に記載されたようなミクロン単位以下の微小な凹凸が形成された成形型を用いた場合、それと同一の凹凸を有する成形物が作製されるとは考え難いから、刊行物5の透光性プラスチックフィルターが十点平均粗さ0.6μ、0.45μ、0.35μを有すると認定した決定には誤りがあると主張する。
しかしながら、特開平5-92484号公報(乙1の9欄2行〜4行)、特開平5-138736号公報(乙2の9欄42行以下)及びコロナ社刊「新版 精密工作便覧」(乙3の904頁)には、転写技術において、ミクロン単位で成形型と同一の凹凸を形成できることが記載されており、これらの記載からすれば、刊行物5のものでも成形型と同じ凹凸寸法を有する成型物が形成されるものと推認される。
原告の上記主張は採用することができない。
(2) 相違点C’についての判断について ア 刊行物5(甲7)には、「凹凸の平均間隔が30μで十点平均粗さがそれぞれ0.6μ、0.45μ、0.35μの表面粗さを有するガラス板、鏡面ガラス及びポリ塩化ビニル製ガスケツトで構成され、あらかじめ板厚1.5mmとなるように設定された鋳込重合用セルに、 メチルメタクリレート部分重合体 100重量部 2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル) 0.01〃 を混合したシラツプを注入し、50℃で6時間次いで120℃で2時間加熱し重合させた。型ガラスより剥離した樹脂板の光沢度、解像度、CRTフイルター前面に設置した場合の発光面の見易さについて評価したところ第1表の通りとなつた。」と記載されている(甲7の5頁左下欄10行〜右下欄4行)。
原告は、上記記載の「十点平均粗さ」は「中心線平均粗さ」と直接関係を有するものではないから、決定が、「刊行物5記載の発明の、十点平均粗さがそれぞれ0.6μ、0.45μ、0.35μに換えて、周知の中心線平均粗さRaを適用して、式(3)を満たすような数値範囲とするようなことは、当業者が容易に推考できたものといえる。」と判断したことは誤りであると主張する。
イ JIS B0601-1976(甲8)によれば、「十点平均粗さ」とは、「断面曲線から基準長さだけ抜き取った部分(以下、抜き取り部分という。)の平均線に平行な直線のうち高い方から3番目の山頂を通るものと、深い方から3番目の谷底を通るものを選び、この2本の直線の間隔を頁断面曲線の縦倍率の方向に測定してその値をマイクロメートル単位(μm)で表したものを、抜き取り部分の十点平均粗さという。」(甲8の3頁5〜8行)と説明されているところ、「十点平均粗さ」も、「中心線平均粗さ」も、「でこぼこの高さに関係した量」を表す周知のパラメーターであると認められる(甲8の14頁14〜18行)。
また、甲8には、「本文表8などでは、RaはRmaxあるいはRzの1/4に等しいように記載されているが、この関係が成立するのは、解説図1(a)に示した同じ高さの三角山が並んでいる場合だけで、解説図1(b)のように不規則なでこぼこの面に対しては大約にしか成立しない。」(17頁14〜16行)と記載されており、表8(8頁)及び解説表(19頁)には、中心線平均粗さRaが十点平均粗さRzの1/4である数値が表示されている。
これらの記載からすると、「十点平均粗さ」と「中心線平均粗さ」の比は、必ずしも、一定ではないが、中心平均粗さRaは、「大約」、十点平均粗さRzの1/4であるということができる。
そうであれば、「十点平均粗さ」と「中心線平均粗さ」とは、技術的に見て関連の深いパラメーターであるということができ、いずれを用いて表面粗さを表すかは、当業者が適宜選択し得るものというべきである。
そして、上記した比を用いて、刊行物5に記載の十点平均粗さ0.6μ、0.45μ、0.35μを中心線平均粗さRaに換算すると、夫々、0.15μ、0.1125μ、0.0875μになるから、刊行物5に記載のものは、本件発明4の式(3)を満たしているということができる。
ウ 原告は、試験結果報告書(甲19)を提出し、防眩材料として使用されている種々の塗工フイルムについて行った実験では、中心線平均粗さRaと十点平均粗さRzとの間には、5.1倍〜6.5倍の範囲に散らばった結果が得られているから、中心平均粗さRaは十点平均粗さRzの約1/4であるということはできないと主張するが、仮に、十点平均粗さ(Rz)と中心線平均粗さ(Ra)とが原告主張のような5.1倍〜6.5倍すなわち1/6.5〜1/5.1の関係にあるとして、甲9記載の十点平均粗さ0.6μ、0.45μ、0.35μを中心線平均粗さRaに換算すると、それぞれ、0.09〜0.12μ、0.07〜0.09μ、
0.05〜0.07μとなり、0.03〜0.30μの範囲内であり、本件発明4の式(3)を満たしているということができる。
エ 以上のとおり、刊行物5記載の発明において、表面粗さを表すパラメーターを「十点平均粗さ」から「中心線平均粗さ」に変更することに当業者が格別の創意を要したともいえないし、変更後の数値範囲をみても、本件発明4におけるものと変わりはないのであるから、決定が、刊行物5記載の発明において十点平均粗さを表す0.6μ、0.45μ、0.35μの数値に換えて、従来周知の中心線平均粗さRaを用い、式(3)を満たすような数値範囲とすることは、当業者が容易に推考できたものといえると判断した点に誤りはない。 (3) 本件発明4と刊行物5記載の発明との相違点A’について ア 原告は、決定は、相違点B’についての検討で用いたものではなく、本件発明1の相違点Bについての検討で用いた「10〜60」という値を、相違点A’の判断に用いており、決定の判断は根拠のない不明なものである、と主張する。
確かに、決定は、相違点A’の検討において、相違点B’で検討した値「5〜50」を用いるべきところを、相違点Bに係る「10〜60」という数値を用いて検討を行った誤りがある。しかしながら、決定の「相違点A’について検討すると、・・・重複する部分がある。してみれば、上記相違点B’で検討した値10〜60と上記相違点C’で検討した値Ra=0.03〜0.30を満たせば、自ずから式(1)を満たす部分を含むことになり、格別の差異はないといえる。」との判断は、相違点B’についての検討において、刊行物5における値5〜50μは、式(2)のほとんどの部分を満たすから、相違点B’は実質的な差異ではないとした判断(原告は、この判断について争っていない。)を前提にしていることが文脈上明らかであるし、値5〜50μを用いて判断をしたとしても、判断結果が変わるものではないから、上記判断が根拠不明であるということはできない。
イ 本件発明4においては、「表面の凹凸の平均間隔(μm)(Sm)」、
「表面の中心線平均粗さ(μm)(Ra)」について、次の条件; 80Ra≦Sm≦1000Ra (1) Sm≦40 (2) 0.03≦Ra≦0.30 (3)が規定されているところ、SmとRaとの関係を見いだすのに格別の創意を要しないことは、前記1(2)イで説示したとおりである。
しかも、刊行物5記載の発明が、上記式(2)を満たすことについては、原告も争っておらず、また、上記式(3)を満たすものであることは、前記2(2)ウのとおりであるところ、刊行物5記載の発明がこれら式(2)及び(3)を満たせば上記式(1)をも満たす可能性が高いことは、本件発明4において、式(1)ないし(3)を満たす部分と、式(2)及び(3)を満たす部分とが、大部分重複している(本件訂正図面【図5】参照)ことからして明らかであるから、上記式(1)自体が格別の技術的意義を有しているということはできない。
したがって、決定が、刊行物5記載の発明の数値範囲に換えて、本件発明4の式(1)から(3)を推考することは、当業者なら容易になし得たといえる、とした判断に誤りはない。
(4) 本件発明4の作用効果について 原告は、本件発明4においては式(1)ないし(3)の要件を満足する場合には顕著な作用効果が生じると主張するが、刊行物5記載の発明も、式(1)〜(3)を満たす部分を有していることは上述したとおりであるから、本件発明4と同様の作用効果が奏されるということができる。
したがって、決定が、本件発明4において、式(1)から(3)を用いたことにより格別顕著な作用効果が生じるものでもないと認定判断した点に誤りはない。
3 結論 以上によれば、決定が本件発明1ないし6についてした認定判断に誤りがあるとする原告の主張は、いずれも理由がないから、本訴請求は棄却されるべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 古城春実
裁判官 田中昌利