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関連審決 不服2000-5123
関連ワード 考案者 /  頒布された刊行物 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  相違点の認定 /  周知技術 /  登録実用新案 /  技術的意義 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 14年 (行ケ) 371号 審決取消請求事件
原告 株式会社岡田建築デザインルーム
被告 特許庁長官太田信一郎
指定代理人 鈴木憲子,田中弘満,大野克人,林栄二
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/06/24
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
「特許庁が不服2000-5123号事件について平成14年6月6日にした審決を取り消す。」との判決。
事案の概要
本件は,後記本願発明の特許出願をした原告が,拒絶査定を受け,これを不服として審判請求をしたところ,請求は成り立たない旨の審決がされたため,同審決の取消しを求めた事案である。
1 前提となる事実等 (1) 特許庁における手続の経緯 (1-1) 本願発明 出願人:株式会社岡田建築デザインルーム(原告) 発明の名称:「木造軸組在来構法の間口狭小建物における鋼製耐震ポストと鉄筋コンクリート地中梁を一体構造となす架構」 出願番号:特願平9-159103号 出願日:平成9年5月14日 (1-2) 本件手続 審判事件番号:不服2000-5123号 審決日:平成14年6月6日 審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」 審決謄本送達日:平成14年6月29日(原告に対し) (2) 本願発明の要旨【請求項1】 敷地条件に従った間口狭小の建物(3.6m〜6.3m…通称2間〜3.5間)での木造軸組在来構法において,夥しい実例として存在する店舗併用などの間口開放目的のために,その間口に面して耐力壁を設けることができない場合,間口左右両側の前角部の木軸柱に対し,脚部を,左右間一本に連結して鉄筋コンクリート打ちとした地中梁に埋設して固定させた直立柱状となる幅広(250o)の鋼材″溝形鋼″(以下耐震ポスト又はポストと呼称する)を抱き合せて貫通ボルトをもって互いに緊結し,鋼材の持つ耐力の特性を耐震柱状として背後の木造軸組からの地震揺れを確実に吸収できることを特徴とする,鋼製ポストと鉄筋コンクリート地中梁を一体構造となす架構。 (3) 審決の理由 審決の理由は,【別紙】の「審決の理由」に記載のとおりである。要するに,本願発明は,引用例1(登録実用新案第3025437号公報,本訴甲6)に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。 2 原告の主張(審決取消事由)の要点 審決は,本願発明と引用例1記載の発明(以下「引用考案」という。)との対比において,両者の相違点とすべき点を一致点とする誤りを犯し,その結果,本願発明の進歩性を否定したものであって,取り消されるべきものである。
すなわち,審決は,両者の対比として,「敷地条件に従った間口狭小の建物(3.6m〜6.3m…通称2間〜3.5間)での木造軸組在来構法において,夥しい実例として存在する店舗併用などの間口開放目的のために,その間口に面して耐力壁を設けることができない場合,間口左右両側の前角部の木軸柱に対し,脚部を,左右間一本に連結して地中に打設されたコンクリート構成部分に埋設して固定させた直立柱状となる幅広(250o)の鋼材″溝形鋼″を抱き合せて貫通ボルトをもって互いに緊結し,鋼材の持つ耐力の特性を耐震柱状として背後の木造軸組の間口における横揺れを強固に補足する,鋼製ポストと地中に打設されたコンクリート構成部分を一体構造となす架構」の点で一致するとし,「地中に打設されたコンクリート構成部分が,本願発明では,鉄筋コンクリート地中梁であるのに対し,引用考案では,地中コンクリートであって,地中梁とは明記されていない点。」を相違点と認定した。
しかし,引用考案は,柱脚部を相互に連結されていない独立基礎に埋設したものであり,明細書(甲6)においても,「独立基礎」と明記されている。よって,相違点の認定としては,引用考案の「地中に打設されたコンクリート構成部分」は,審決のように「地中コンクリート」とすべきではなく,「地中コンクリート(独立基礎)」とすべきである。
一般的に,複数の柱を一つの基礎で支える構造とすること,さらにその基礎として鉄筋コンクリート地中梁を設けることが従来から行われていることについては,認める。
しかし,以下のとおり,本願発明には進歩性がある。すなわち,本願発明は,木造軸組構法建物の間口面における耐力壁が零という形態であるものを,左右二本のポスト鋼材の脚部を埋め込んで不動のものとした上で木造側をボルト緊結して一体構造化することにより耐震補強をなすという特定目的を持ち,かつ一連体のみという地中梁構成であって,前例を見ない独創的な発明である。
そして,引用考案の独立した基礎形状と本願発明の地中梁形状とは,究極の目的とする耐震抗力と効果において,構造計算書でも裏付けられるように,基本的に全く異質な構造体のものである。本願発明は,引用考案から必要に応じて当業者が適宜なし得る設計的事項というようなものではなく,異質な発明として格段に飛躍改良を果たしたものである。
なお,被告は,引用考案の第4次コンクリートの布基礎の形成を行う点を取り上げて,純然たる独立基礎ではないと主張するが,背面布基礎の方向性からみても,柱の引き抜き力に対する抗力にはある程度の寄与があるとしても,間口面の二柱間での横揺れ耐力にはほとんど無縁である。
3 被告の主張の要点 (1) 引用例1(甲6)の実用新案登録請求の範囲の請求項1には,「敷地条件に従った間口狭小の建物(3.6m〜5.4m…通称2間〜3間)での木造軸組在来工法において,多例として実在する店舗併用の間口開放目的のために,その間口に面して耐力壁を設けることができない場合,間口両側面の前角部の木軸柱に対し,脚部を地中コンクリートに埋設固定して直立柱状とした巾広の鋼材″溝形鋼″(以下耐震ポスト又はポストと呼称する)を抱き合わせて貫通ボルトをもって緊結し,鋼材の持つ耐力の特性を耐震柱状として背後の木造軸組へ伝達することを特徴とする鋼製ポストの架構。」と記載されており,引用考案の地中に打設されたコンクリート構成部分は,独立基礎に限定される旨の記載はないから,本願発明の地中コンクリートに相当すると解するのが妥当であって,当該コンクリート構成部分が,相互に連結されていない独立基礎のみを意味すると解すことはできない。
また,引用例1において,独立基礎を例示する記載の段落【0001】の「地中に打ち込んだ独立基礎コンクリートにアンカーボルトをもって直結させて直立固定した鋼材溝形柱を,更なるコンクリートの打ち込み固めによって不動の自立体とした…」のほかに,段落【0008】に「…耐震ポストの現場取り付けは,事前打ち込みされた独立基礎を第1次とし,それに続く第4次までに及ぶコンクリート打ち込みを順次行ないながらポストの自立固定を果たし」と記載されており,さらに,実施例においても,段落【0010】〜【0013】に「建築現場に搬入されたポストの取り付け手順は,先ず図2・3における符号7の第1次コンクリートの所定寸法位置に埋め込んだ4のアンカーボルトに,2のベースプレートの穴芯を合わせながらレッカーをもって吊り下げ,4ケ所のダブルナットの本締め調整を行ないながらポストの垂直自立を確認固定する。次いで…8の第2次コンクリートを打ち込む。第2次用型枠を外した後符号11の第3次ベースコンクリートを打つ。ベースコンクリート上で符号10の布型基礎の型枠を組み(ポストの背面は型枠の役をなす),5のアンカーボルトを挿入して水平支持の上で第4次コンクリートを打ち込み,…5のナットの本締めを行なってポストの・・自立固定が完了する。」と記載されている。このように,第1次コンクリート打ち込みである独立基礎以外に,第2次コンクリート打ち込みから,ポストの背面間を繋ぐ布型基礎の形成である第4次コンクリート打ち込みまでを行ってポストの自立固定を果たしており,第3次ベースコンクリート及び第4次コンクリートの下部は地中にあることからも,引用例1において,実用新案登録請求の範囲の「地中コンクリート」が,「相互に連結されていない独立基礎」のみを意味するとは解し得ない。
確かに,上記第4次コンクリート打ち込みにより形成される【図3】の布型基礎は,建物の間口側から奥方向に向かって形成されるような記載となっている。しかし,引用例1のような建物においては,布型基礎は,建物の四方周囲に形成されるものであるから,間口にある二本の柱の間にも当然に形成されるものであり,したがって,引用例1の実用新案登録請求の範囲の「地中コンクリート」は,左右間一本に連結された構成を含むものというべきである。
また,引用例1に記載された「独立基礎」は,上記のように布型基礎と接合されたものであり,純然たる独立基礎とは異なるというべきである。
(2) 原告も認めるように,基礎部分に鉄筋コンクリート地中梁を設けることは従来から行われていることであり,地中梁は独立基礎間を連結して,柱脚の回転を拘束し,地震荷重などの水平力による柱脚の応力に抵抗する役目をするものであるから,独立基礎単独より上記抵抗する力(耐力)が増すことは当然である。また,引用考案においても,第1次コンクリート打ち込みである独立基礎に加えて,段落【0013】の記載を参照すると,第4次コンクリート打ち込みで,ポストの背面間を繋ぐ布型基礎の形成を行ってポストの自立固定を果たしているように,独立基礎だけでは,所望の耐力が得られなければ,本願出願前に周知技術である,布基礎や地中梁を設けて必要な耐力を得るようにすることは,当業者が当然想到する程度のことであって,必要に応じ適宜なし得る設計的事項にすぎない。
なお,原告は,引用考案と本願発明との耐力の格段の違いを示すものとして甲4(構造計算書)を挙げるが,甲4は,設定した条件の柱脚間を,設定した条件の地中梁で繋いだ場合,同じく設定した条件である強い水平力を受けても耐え得ることを計算でチェックしているだけであって,本願発明との関係は不明である。さらに,独立基礎のみの場合とを比較して説明しようとしているものでもなく,本願発明と引用考案との比較の根拠に何ら関与しないものである。
(3) 原告主張の取消事由は,理由がないものであるから,審決の認定,判断に誤りはなく,取り消されるべき理由は存在しない。
当裁判所の判断
1 審決は,要するに,本願発明と引用考案との対比において,「左右間一本に連結して地中に打設されたコンクリート構成部分」を一致点であると認定し,相違点は,「本願発明では,鉄筋コンクリート地中梁であるのに対し,引用考案では,地中コンクリートであって,地中梁とは明記されていない点」にすぎないと認定したものであり,その前提に立って,「基礎部分に鉄筋コンクリート地中梁を設けることは従来から行われていることであり,引用考案において,地中コンクリートを鉄筋コンクリート地中梁とすることは,必要に応じて当業者が適宜なしうる設計的事項にすぎない。」として,本願発明の進歩性を否定したものである。
引用考案の考案者でもある原告は,引用考案は柱脚部を相互に連結されていない独立基礎に埋設したものであり,本願発明は進歩性に欠けるものではないとして,争うものである。
2 まず,引用考案の基礎部分の構成について検討する(なお,以下の説示においては,本件で対象とされる間口狭小建物につき,外部から間口正面に向かって見た状態における位置関係を前提として「左右」,「手前」,「奥」などと表現する。)。
(1) 引用考案の実用新案登録請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(甲6)。
「敷地条件に従った間口狭小の建物(3.6m〜5.4m…通称2間〜3間)での木造軸組在来工法において,多例として実在する店舗併用の間口開放目的のために,その間口に面して耐力壁を設けることができない場合,間口両側面の前角部の木軸柱に対し,脚部を地中コンクリートに埋設固定して直立柱状とした巾広の鋼材″溝形鋼″(以下耐震ポスト又はポストと呼称する)を抱き合わせて貫通ボルトをもって緊結し,鋼材の持つ耐力の特性を耐震柱状として背後の木造軸組へ伝達することを特徴とする鋼製ポストの架構。」 このように,脚部を埋設固定する基礎部分については,「地中コンクリート」とのみ記載されており,間口左右の各脚部が埋設固定された「地中コンクリート」が,左右で独立しているとも,一本に連結されているとも,特段の限定はされていない。
(2) 次に,引用考案の明細書(甲6)の「考案の詳細な説明」欄をみると,引用考案の説明の一環として,基礎部分につき,次のような記載がある。
(a)「地中に打ち込んだ独立基礎コンクリートにアンカーボルトをもって直結させて直立固定した鋼材溝形柱を,更なるコンクリートの打ち込み固めによって不動の自立体とした…」(段落【0001】【考案の属する技術分野】) (b)「本考案は,間口狭小の両脇角柱自体を,地中コンクリートに直結固定させた鋼材ポストを強固な介添えとして…」(【0003】【考案が解決しようとする課題】) (c)「事前打ち込みの地中独立基礎(第1次コンクリート)に埋め込み済みのアンカーボルトに…土間仕上材下端までを高さとした第2次コンクリート打ち込みをもって…」(【課題を解決するための手段】【0006】) (d)「事前打ち込みされた独立基礎を第1次とし,それに続く第4次までに及ぶコンクリート打ち込みを順次行いながらポストの自立固定を果たし…」(【0008】) (e)「建築現場に搬入されたポストの取り付け手順は,先ず図2・3における符号7の第1次コンクリートの所定寸法位置に埋め込んだ4のアンカーボルトに,2のベースプレートの穴芯を合わせながらレッカーをもって吊り下げ,4ケ所のダブルナットの本締め調整を行ないながらポストの垂直自立を確認固定する」(【0010】) (f)「次いで符号5の横方向のアンカーボルトの最下段の1本をナット締め状で取り付けて水平を仮支持の上,8の第2次コンクリートを打ち込む」(【0011】) (g)「第2次用型枠を外した後符号11の第3次ベースコンクリートを打つ」(【0012】) (h)「ベースコンクリート上で符号10の布型基礎の型枠を組み(ポストの背面は型枠の役をなす),5のアンカーボルトを挿入して水平支持の上で第4次コンクリートを打ち込み,約2週間の養生期間を置いて5のナットの本締めを行なってポストの逆T字型に強固に支持された自立固定が完了する」(【0013】) (i)「図2・3における符号10・11の布型基礎と12・13の土台・柱が先行既存している場合で,その前面に接して7の独立基礎を4のアンカーボルトと共に打ち込み,約1週間のコンクリート養生期間を経てから1のポストを建て込み,5の穴より10・11の既存コンクリートの木口へ長さ200mm以上・外径16mmの全ネジボルト用の穴を穿ってケミカルアンカー(化学変化薬剤との同時圧入をもって驚異の接着支持力を発揮する)として1の腰部をナット緊結し,次いで8のコンクリート打ち込みによって逆T字型の固定目的をなし,約2週間の凝固養生の後,6の抱き締め貫通ボルトを径15mmのねじ込みコーチボルトに換えて柱断面寸法の過半以上まで達する長さをもって締め込み緊結し,内部の仕上がり部分へは手を加えることなくポストの耐力性能を後取付工法で既存建物へも伝達せしめて所期の目的を達成することができる…。…既存建物の老朽具合や独立基礎のための地盤硬軟度などの事前検討は必須条件であり…」(【考案の効果】【0018】) (j) 「…独立・布型基礎…」(【図3】の説明) (3) 引用考案に関する各図面(甲6)では,いずれも一本の鋼材ポストとそのコンクリート基礎が記載されているだけで,間口の左右の二本の鋼材ポストの基礎同士の関係については図示されていない。ただ,一方の基礎から他方の基礎方向に向かって基礎が伸びているような記載があるわけでもない。
(4) 以上によれば,実用新案登録請求の範囲においては,「地中コンクリート」と記載されているのみである。一方,引用考案の詳細な説明中には,「独立基礎」との文言が記載されており,この用語は,一般的には,「一本の柱を一個のフーチングで支える基礎」との意義を有する(乙1)。しかしながら,引用考案においては,「独立基礎」とはいいながら,上記のように,布型基礎(複数の柱を支持する長く連続した基礎。乙1,2)とボルト及びポストを介して連結されるように記載され(両基礎のコンクリートが一体構造となっているわけではない。),これを「独立・布型基礎」と表記するなどしている。
よって,実用新案登録請求の範囲における「地中コンクリート」が上記一般的意味における独立基礎であるとして定義されていると解するには疑義があり,少なくとも,他の柱を支える基礎と連結されていない基礎のみを指す記載であるとは解し難い。
3 以上のとおり,引用考案においては,「独立基礎」と記載された基礎が建物の手前から奥に向かう布型基礎と連結される構成を含むものである。そして,奥行き方向と間口左右方向との間で,「独立基礎」と記載された基礎を連結する技術的意義を区別すべき事情を見いだすこともできないので,本願発明が構成とする「左右間一体に連結して地中に打設されたコンクリート構成部分」も,引用考案の上記構成から導き出される設計変更の範囲にとどまるものと認めることができる(連結部分を地上に露出させることなく,地中に設置する点も設計事項の域を出ないものと認められる。)。そうすると,審決が「左右間一本に連結して地中に打設されたコンクリート構成部分」を一致点と認定した点に誤りはなく,したがって,相違点の認定にも誤りはないのであって,原告主張の取消事由は理由がない。
4 ちなみに,原告が主張するとおり,引用考案の「地中コンクリート」が連結されていないものと解すべきで,この点が本願発明との相違点になるものであるとしても,本願発明は特許を受けることができないものというべきである。
(1) すなわち,基礎は,その形式により,独立基礎,連続基礎(布基礎),複合基礎,べた基礎等に分類され,一本の柱を一個のフーチングで支える基礎のほか,複数の柱を一つの基礎で支える構造のものがあることは,当然の周知技術事項であると認められる(乙1,2。なお,原告もこの限度では争う趣旨ではない。)。そこで,引用考案において,耐震性を更に強化しようとすれば,引用考案に上記周知技術を適用して,基礎を地中で連結した構成とし,さらに連結した基礎(梁)部分を鉄筋コンクリートとすることは,当業者が容易に想到し得るものと認められる。
そうである以上,本願発明の奏する効果も引用考案から予測し得ないような格別顕著なものであるともいえない。したがって,本願発明は,引用考案から当業者が容易に想到し得るものというべきである。
(2) なお,原告は,本願発明は,木造軸組構法建物の間口面における耐力壁が零という形態であるものを,左右二本のポスト鋼材の脚部を埋め込んで不動のものとした上で木造側をボルト緊結して一体構造化することにより耐震補強をなすという特定目的を持ち,かつ一連体のみという地中梁構成であって,前例を見ない独創的な発明であると主張する。
しかしながら,上記の目的として主張する点自体は,引用考案における目的と同旨であり,両者の相違点にはなり得ず,上記主張は,一連体として地中で連結された点が独創的であるというものに帰するところ,地中での連結自体は,周知技術であることは前記のとおりであり,引用考案は,既に上記目的を有するのであるから,これに周知技術を適用して本願発明の構成とすることは容易に想到し得るものというべきである(周知技術の適用を妨げるべき事情も認められない。)。原告の主張は採用することができない。
(3) 結局,上記前提の下に検討しても,審決の結論は是認し得るものである。
5 結論 以上のとおり,いずれにしても,原告主張の審決取消事由は理由がないので,原告の請求は棄却されるべきである。
追加
【別紙】審決の理由不服2000-5123号事件,平成14年6月6日付け審決(下記は,上記審決の理由部分について,文書の書式を変更したが,用字用語の点を含め,その内容をそのまま掲載したものである。)理由1.手続きの経緯・本願発明本願は、平成9年5月14日の出願であって、その請求項1に係る発明は、出願当初の明細書および図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、その請求項1に記載された発明(以下「本願発明1」という。)は次のとおりである。
【請求項1】敷地条件に従った間口狭小の建物(3.6m〜6.3m・・・通称2間〜3.5間)での木造軸組在来構法において、夥しい実例として存在する店舗併用などの間口開放目的のために、その間口に面して耐力壁を設けることができない場合、間口左右両側の前角部の木軸柱に対し、脚部を、左右間一本に連結して鉄筋コンクリート打ちとした地中梁に埋設して固定させた直立柱状となる幅広(250mm)の鋼材″溝形鋼″(以下耐震ポスト又はポストと呼称する)を抱き合せて貫通ボルトをもって互いに緊結し、鋼材の持つ耐力の特性を耐震柱状として背後の木造軸組からの地震揺れを確実に吸収できることを特徴とする、鋼製ポストと鉄筋コンクリート地中梁を一体構造となす架構。
2.引用例これに対して、原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に国内において頒布された刊行物である、登録実用新案第3025437号公報(以下、「引用例1」という。)には、実用新案登録請求の範囲の請求項1に「敷地条件に従った間口狭小の建物(3.6m〜5.4m・・・通称2間〜3間)での木造軸組在来工法において、多例として実在する店舗併用の間口開放目的のために、その間口に面して耐力壁を設けることができない場合、間口両側面の前角部の木軸柱に対し、脚部を地中コンクリートに埋設固定して直立柱状とした巾広の鋼材”溝形鋼”(以下耐震ポスト又はポストと呼称する)を抱き合わせて貫通ボルトをもって緊結し、鋼材の持つ耐力の特性を耐震柱状として背後の木造軸組へ伝達することを特徴とする鋼製ポストの架構。」と、段落【0001】考案の属する技術分野に「本考案は、間口狭小敷地に建てる店舗付住居などの木造軸組在来工法において、その間口に面して開放を得るために耐力壁を設けることのできない弱点を強力に補足するもので、
地中に打ち込んだ独立基礎コンクリートにアンカーボルトをもって直結させて直立固定した鋼材溝形柱を、更なるコンクリートの打ち込み固めによって不動の自立体とした上で、背後に抱き合う木軸柱とボルト緊結して木造軸組の間口方向での横揺れ耐力の不備への補足を可能とするものである。」と、段落【0003】に「・・・本考案は、間口狭小の両脇角柱自体を、地中コンクリートに直結固定させた鋼材ポストを強固な介添えとして脆弱な間口耐力の補足を可能とし、」と記載されており、これらの記載及び図1〜5を参照すると、引用例1には「木造軸組の間口方向での横揺れ耐力の不備を補足するため、敷地条件に従った間口狭小の建物(3.6m〜5.4m・・・通称2間〜3間)での木造軸組在来工法において、多例として実在する店舗併用の間口開放目的のために、その間口に面して耐力壁を設けることができない場合、間口両側面の前角部の木軸柱に対し、脚部をコンクリート打ちとした地中コンクリートに埋設固定して直立柱状とした巾広の鋼材”溝形鋼”(以下耐震ポスト又はポストと呼称する)を抱き合わせて貫通ボルトをもって緊結し、鋼材の持つ耐力の特性を耐震柱状として背後の木造軸組へ伝達する、鋼製ポストを地中コンクリートに不動の自立体となす架構」が記載されていると認められる。
3.対比・判断本願発明1と引用例1に記載された発明を対比すると、引用例1に記載された発明の「地中コンクリート」と、本願発明1の「鉄筋コンクリート地中梁」とは、
「地中に打設されたコンクリート構成部分」で共通しており、引用例1に記載された発明が「木造軸組の間口方向での横揺れ耐力の不備を補足する」ことを目的課題としているのに対し、本願発明1は背後の軸組建物の最も脆弱な間口における横揺れを強固に補足する目的課題を達成する。」(段落【0006】)とあり、同じ目的課題を達成するものであるから、両者は、「敷地条件に従った間口狭小の建物(3.6m〜6.3m・・・通称2間〜3.5間)での木造軸組在来構法において、夥しい実例として存在する店舗併用などの間口開放目的のために、その間口に面して耐力壁を設けることができない場合、間口左右両側の前角部の木軸柱に対し、脚部を、左右間一本に連結して地中に打設されたコンクリート構成部分に埋設して固定させた直立柱状となる幅広(250mm)の鋼材″溝形鋼″(以下耐震ポスト又はポストと呼称する)を抱き合せて貫通ボルトをもって互いに緊結し、鋼材の持つ耐力の特性を耐震柱状として背後の木造軸組の間口における横揺れを強固に補足する、鋼製ポストと地中に打設されたコンクリート構成部分を一体構造となす架構」の点で一致し、下記の点で相違している。
a.地中に打設されたコンクリート構成部分が、本願発明1では、鉄筋コンクリート地中梁であるのに対し、引用例1記載の発明では、地中コンクリートであって、
地中梁とは明記されていない点。
しかしながら、基礎部分に鉄筋コンクリート地中梁を設けることは従来から行われていることであり、引用例1記載の発明において、地中コンクリートを、鉄筋コンクリート地中梁とすることは、必要に応じて当業者が適宜なしうる設計的事項にすぎない。
そして、本願発明1によってもたらされる効果も、引用例1に記載された発明から当業者であれば予測することができる程度のものであって、格別顕著なものとはいえない。
4.むすびしたがって、本願発明1は、引用例1に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
平成14年6月6日
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 塩月秀平
裁判官 田中昌利