運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

関連ワード 技術的範囲 /  発明の詳細な説明 /  クレーム /  参酌 /  技術的意義 /  特許発明 /  実施 /  構成要件 /  差止請求(差止) /  侵害 /  請求の範囲 /  釈明 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
元本PDF 裁判所収録の別紙1PDFを見る pdf
事件 平成 15年 (ネ) 89号 特許権侵害差止等請求控訴事件
控訴人 株式会社ブイテックス
訴訟代理人弁護士 橘高郁文
補佐人弁理士 澤木誠一
補佐人弁理士 澤木紀一
被控訴人 SMC株式会社(旧商号・エスエムシー株式会社)
訴訟代理人弁護士 清永利亮
同 宮寺利幸
補佐人弁理士 千葉剛宏
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/06/26
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 当審における訴訟費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 控訴人 (1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人は,別紙目録1,2記載の型式番号のゲートバルブにつき,生産も,譲渡も,貸渡しも,譲渡若しくは貸渡しの申出も,いずれもしてはならない。
(3) 被控訴人は,その占有に係る前項記載のゲートバルブの製品,半製品及びこれらの製造用金型を廃棄せよ。
(4) 被控訴人は,控訴人に対し,9007万円及びこれに対する平成13年9月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(5) 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
2 被控訴人 主文と同旨
事案の概要
控訴人は,発明の名称を「ゲートバルブ」とする特許第2613171号の特許権(以下「本件特許権」といい,その発明を「本件発明」という。別紙特許公報参照。)の特許権者である。控訴人は,別紙目録1記載の製品(以下「被控訴人製品1」という。その構成は別紙「構成説明書1」のとおりである。ただし,同説明書末尾記載のとおり,一部について当事者間に争いがある。)は本件発明の技術的範囲に属しており,同目録2記載の製品(以下「被控訴人製品2」という。その構成は別紙「構成説明書2」のとおりである。ただし,同説明書末尾記載のとおり,一部について当事者間に争いがある。)は,本件発明に係る「物の生産にのみ使用する物」(特許法101条1号)に該当するので,被控訴人がこれらの製品を製造・販売する行為は,本件特許権を侵害すると主張して,同製品の製造・販売等を差し止め,損害の賠償を命じる裁判を求めた。原判決は,控訴人の請求を全部棄却した。
当事者間に争いのない事実等並びに争点及び当事者の主張は,次のとおり付加するほか,原判決の事実及び理由「第2 事案の概要」,「第3 争点に関する当事者の主張」記載のとおりであるから,これを引用する。
1 当審における控訴人の主張の要点 (1) 原判決は,被控訴人製品1,2(以下,両製品を併せて,単に「被控訴人製品」という。)が本件発明の技術的範囲に属しないと判断する理由として,次のように判示した。
構成要件Kにいう「ブロックを上下動……にガイドする」とは,単に,ブロックが上下動する際に何かの面に沿って動くことを意味するものではなく,上下動の際にブロックが弁座方向に振れることを防止するようにガイド(案内)することを意味するものであり,同構成要件によれば,そのような機能を備えた「ガイド」がピストンシリンダの側面に形成されていることを要するものである。」 「ところが,被告製品においては,このような方向に振れることを防止するようにブロックの上下動を案内する機能を有する部位が存在しない。」 「以上によれば,被告製品においては,「ブロックを上下動……にガイドするため……ピストンシリンダの側面に形成したガイド」に該当するものが存在しないから,「傾動自在にガイド」の点につき検討するまでもなく,同製品は,構成要件Kを充足しない。」 しかし,本件発明は,上下動の際にブロックが弁座方向に振れることを防止することまでをも意図した発明ではない。原判決は,本件発明の本質を誤解したものであって,誤りである。
(2) 本件発明の構成要件K(「上記ブロックを上下動及び傾動自在にガイドするため上記ピストンシリンダの側面に形成したガイドとより成り,」)は,構成要件D(「この弁ロッドを介して上記弁デスクを上記弁座に対向する位置と対向しない位置に移動自在ならしめ,上記弁デスクが上記弁座にこれから離間して対向する位置となった後,上記弁ロッドを傾動して上記弁デスクが上記弁座に押圧されるようにした,弁箱外部に設けた移動手段とよりなり,」)に記載された移動手段の構成の一部について述べたものである。構成要件Kのガイド(以下「本件ガイド」という。)は,「弁ロッドを介して弁デスクを上記弁座に対向する位置と対向しない位置に移動自在ならしめ」るために,ブロックを「上下動自在にガイドする」構成となっているものであって,上下動の際の振れ防止のためのガイドではない。すなわち,本件ガイドがブロックを上下動自在にガイドするとは,弁デスクを弁座に対向する位置に案内するためにブロックを案内することを意味するにすぎない。このことは,本件明細書の段落【0019】からも明らかである。
上下動の際にブロックが弁座方向に振れることをガイドが防止するものでなくとも,構成要件L(「上記ヨークを上記ブロックに対して接近するように押圧した際,上記ピン及び傾斜長孔を介して上記弁ロッドが上記ブロックを中心として傾斜し,上記弁デスクが上記弁座に押圧されるようになる」)に記載された機能を有することには,何の疑問もない。
原判決は,特許請求の範囲において本件ガイドの形状・構造等が何ら制限されていないにもかかわらず,特許請求の範囲に記載されていない要件を加えて,本件発明の技術的範囲を不当に狭く限定解釈した結果なされたものというべきである。
(3) 本件特許権に係る明細書(以下「本件明細書」という。)の発明の詳細な説明中の従来の技術,発明の課題,作用効果の記載等に照らすならば,本件発明は,弁デスクを上下動させて弁座に対向する位置になった後に,弁ロッドを傾動して弁デスクを弁座に押圧する構成を弁箱外に設けたことに,その本質があること,本件ガイドは,ブロックを上下動及び傾動自在にガイドして上記動作を助けるものであって,その動作に対する振れ防止までをも意図するものではないことが明らかである。
本件明細書の発明の詳細な説明中の「本件ガイド」に関する記載(段落【0014】,【0017】,【0019】)をみても,本件ガイドが「ブロックが弁座方向に振れることを防止するようにガイドする」形状,構造ないし機能を有する旨の記載はない。
本件明細書の上記のような記載状況に照らしても,原判決の本件ガイドについての上記解釈は,誤りであることが明らかである。
(4) 原判決は,上記解釈を採る根拠として,「仮にブロックが上下方向に移動する際に弁座方向に振れると,弁デスクが弁座に接触,摺動することとなり,その摩耗により弁箱内で不純物が発生するおそれを生じるが,それでは,本件特許発明の重要な課題である弁箱内における部材の接触,摩耗による不純物の発生の防止という課題が解決できず,本件特許発明の作用効果を奏することができないからである。」と述べているが,誤りである。
ア 原判決は,本件発明の課題の認識を誤っている。本件発明が問題としているのは,弁デスクを弁座に押圧する際に不純物が発生するおそれがあることであり,弁デスク押圧前の,弁デスクを上下動させて弁座近くまで移動させる際に,弁デスクが弁座に接触,摺動して不純物が発生するおそれがあること(以下「押圧前問題」という。)ではない。押圧前問題は,本件明細書において一言も触れられていない。
本件明細書において従来技術として挙げられている実開昭52-93930号公報(甲第14号証)においても,「ゲートバルブの開放,閉塞の駆動時,ゲートバルブの面が両シール材に摺動するため,シール材の摩耗が激しく,その寿命が短かい。」(同号証1頁下から2行〜2頁2行),「この考案のゲートバルブ駆動装置によると・・・閉塞にあたり,流出側の開口面のシール材に摺動する時間がきわめて短かく,シール材の摩耗を防ぎ,その寿命が長大になる」(同5頁1行〜7行)と記載されているだけで,押圧(弁座閉塞)の際の接触,摺動による摩耗しか問題にされていない。
イ 本件発明において,「弁箱内で摩耗等による不純物を発生するおそれがない」との作用効果は,@弁箱内に押圧する機械的可動部分を設けない,A弁デスクは,弁座に対向する位置まで下降した後に,弁座に直角に押圧される,という構成を採用する限りでの作用効果にすぎない。上記@,Aは,いずれも押圧前問題を解決する構成でないことが明らかであるから,上記作用効果の中に,押圧前問題の解決という作用効果は含まれない。
ウ 弁デスクが弁座にさえ接触,摺動しなければ,弁箱内で不純物が発生しないというものではない。弁デスクは前後左右を弁箱の面(内壁)で囲まれているのであるから,弁デスクが上下動するとき弁座側にのみ傾斜してその他の3方向には傾斜しないということはあり得ない。接触,摺動を論ずるのであれば,弁座側だけでなく弁座の反対側及びこれと直交する両側の弁箱の面も問題にしなければならないはずである。弁座側に接触し,摺動し不純物が発生するというのであれば,その他の方向にも傾斜して同様の問題が発生するはずである。原判決は,弁座側の問題しか考えていない。
エ 弁デスクが傾斜して弁座に接触,摺動するかどうかは,条件によって異なる。例えば,弁デスクと弁座との間隔が相当程度空いていれば,このような問題は生じない。他にも,弁デスクの支持構造や弁デスクの長さなど種々の条件によって接触,摺動するかどうかが変化するのである。これらの条件は,当業者が適宜選択することができる,単なる設計上の問題にすぎない。実際にそのようなゲートバルブは無数に存在する(甲第10号証参照)。
原判決が,弁デスクの上下動の際にブロックが弁座方向に振れることを規制する装置を付けなければ当然に弁座と接触,摺動して不純物が発生してしまい本件発明の課題が解決できないとしたのは,誤りである。
オ 本件発明においては,本件ガイドを「ブロックが弁座方向に振れることを防止する」ために設ける必要はない。本件発明の実施例に示されているように,本件発明におけるブロックは弁座方向には振れないように構成されているからである(本件明細書段落【0019】,別紙参考図参照。ヨーク7から垂下している垂下部分14の内側面の下部14aにブロック10の左側面の上部10aが接しており,上記垂下部分14の下部14aによって弁ブロック10の上記回動が阻止されている。)。
(5) 原審においては,本件ガイドがブロックが弁座方向に振れることを防止するものである,との解釈は,当事者双方とも,全く想定していなかったことである。当事者が全く主張していないクレーム解釈を,裁判所が,求釈明等を何もすることなく自由に行って判断してもよいということになれば,当事者に対する不意打ちとなり,審級の利益も損なわれる。
2 当審における被控訴人の主張の要点 (1) 本件においては,特許請求の範囲にいう「上下自在にガイドする」との文言が何を意味するかが問題である。この文言から,直ちに,本件ガイドが上下動の際にブロックが弁座方向に振れることを防止するためのガイドではない,と結論付けることはできない。
構成要件Lは,上下動の際のガイドに関係のない構成要件であるから,構成要件Kの解釈についての原告の主張の根拠とはなり得ない。
(2) 本件発明は,上下動の際にブロックが弁座方向に振れることを防止することを意図したものではない,との被控訴人の主張は,本件明細書の発明の詳細な説明中の発明が解決しようとする課題及び発明の効果の記載に照らし,誤りであることが明らかである。
本件発明は,従来技術において,ゲートバルブを斜めに下降させて閉塞すると,バルブとシール材が互いに摺動し,その摩耗により通路内の汚染が生じるという欠点を克服するため,弁デスクは弁座に対向する位置まで下降した後に弁座に直角に押圧されることにより,弁箱内での摩耗その他による不純物を発生しない,という特有の効果を奏するものである。弁デスクが弁座に対向する位置まで下降する,つまり弁デスクが上下動する際に,ブロックが弁座方向に振れると,弁デスクが弁座に接触,摺動するおそれがあり,摩耗その他による不純物を発生しないという本件発明の特有の効果を達成できないことになる。この効果を奏するためには,ブロックが弁座方向に振れることを防止するようにガイドする構成が不可欠なものとなるはずである。
(3) 控訴人は,弁デスク押圧前の,弁デスクを上下動させて弁座近くまで移動させる際に,弁デスクが弁座に接触,摺動して不純物が発生するおそれが生ずるとの問題(押圧前問題)は,本件発明の課題となっていない,と主張する。しかし,上記問題が本件発明の課題となっていることは,本件明細書の段落【0006】の記載から明らかである。
控訴人は,@弁デスクが弁座側に接触し,摺動し不純物が発生するというのであれば,その他の方向にも傾斜して同様の問題が発生するはずであるのに,原判決は,弁座側の問題しか考えていない,A弁デスクが傾斜して弁座に接触,摺動するかどうかは条件によって異なる,B本件発明の実施例に示されているように,本件発明におけるブロックは弁座方向に振れないように構成されているから,本件ガイドをブロックが弁座方向に振れることを防止するために設ける必要はない,と主張する。
しかし,これらの主張は本件発明の構成に基づかない仮定,推測による主張であって,発明の本質からの反論とは言い難い。
控訴人は,別紙参考図を示し,本件発明においては,垂下部材14の下部14aにより弁ブロック10の回動が阻止されている,と主張する。しかし,このようなことは本件明細書に全く記載がなく,これを示唆する記載もない。
(4) 控訴人は,原審において,被控訴人製品は,「ブロック50を上下動及び傾動自在にガイドしているシリンダチューブ32の側面33a,33b及び凹部26a,23bはピストンシリンダ30の側面に形成されているものであるから,本件発明の構成要件K(「上記ブロックを上下動及び傾動自在にガイドするため上記ピストンシリンダの側面に形成したガイドとより成り」を充足する,と主張した。
これに対し,被控訴人は,被控訴人製品にはブロックが上下動する際にこれを案内するガイドはなく,さらに,ブロック50が傾動する際にローラ60a,60bが当接するのは,ピストンシリンダ30の側面33a,33bではなく,むしろ,ベースプレート22の凹部26a,26bであるから,被控訴人製品にはブロックを上下動及び傾動自在に案内するガイドはないとして,控訴人の上記主張を否認した。
原判決は,控訴人が構成要件Kの充足を主張し,これに対し被控訴人がこれを否認したので,本件特許公報(甲第2号証)等の証拠に基づいて構成要件Kの充足の有無を判断したものである。原判決の判断は,弁論主義に従った適切な訴訟手続によりなされたものであることが明らかであり,これを,当事者にとって不意打ちであるとすることはできない。
当裁判所の判断
当裁判所も,原判決と同じく,控訴人の請求は理由がない,と判断する。その理由は,次のとおり付加するほか,原判決の事実及び理由「第4 当裁判所の判断」記載のとおりであるから,これを引用する。
1 控訴人は,本件発明の構成要件K(「上記ブロックを上下動及び傾動自在にガイドするため上記ピストンシリンダの側面に形成したガイドとより成り,」)は,構成要件D(「この弁ロッドを介して上記弁デスクを上記弁座に対向する位置と対向しない位置に移動自在ならしめ,上記弁デスクが上記弁座にこれから離間して対向する位置となった後,上記弁ロッドを傾動して上記弁デスクが上記弁座に押圧されるようにした,弁箱外部に設けた移動手段とよりなり,」)に記載された移動手段の構成の一部について述べたものであることを根拠として,構成要件Kにいう,「ブロックを上下動・・・自在にガイドする」とは,弁デスクを弁座に対向する位置に案内するためにブロックを案内することを意味するにすぎず,上下動の際の振れを防止することまで意味するものではない,と主張する。
本件発明の特許請求の範囲の記載自体から,本件ガイドは,少なくとも,弁デスクを弁座に対向する位置に案内するためにブロックを案内するものである,と理解することができること,上記特許請求の範囲中には,本件ガイドがブロックの上下動の際の振れを防止するものである旨を明示した記載がないことは,明らかである。
しかしながら,本件で問題とされるべきは,本件発明の特許請求の範囲の記載内容が上記のとおりのものであることを前提とした上で,本件発明の特許請求の範囲における,「ブロックを上下動・・・自在にガイドする」との文言を,ブロックの上下動の際の振れを防止する機能をも有するものとして解釈することができるかどうか,ということである。上記特許請求の範囲の記載自体からは,直ちに,上記解釈をおよそ採ることができない,ということはできないというべきである。同解釈を採ることができるか否かは,本件明細書の発明の詳細な説明の記載内容をも参酌して決する必要がある。
控訴人が,特許請求の範囲に明示されていないことをもって,直ちに,本件ガイドがブロックの上下動の際の振れを防止するものである,との解釈を採り得ない,と主張するのであれば,そのような主張を採用することができないことは,明らかである。
2 控訴人は,本件明細書の発明の詳細な説明中には,本件ガイドがブロックの上下動の際の振れを防止するものであるとの解釈を採るべき根拠となる記載はない,と主張する。
本件明細書(甲第2号証は,これに係る特許公報である。)には,次の記載がある。
ア「【従来の技術】半導体ウエハーや液晶基板等の処理装置においては,ウエハーや基板を種々の処理室に通路を介して出し入れすることが行われており,上記通路には夫々ゲートバルブが設けられている。上記の処理室にはできるだけ不純物が混入しないようにする必要がある。
また上記ゲートバルブとしては例えば実開昭51-115639号公報や実開昭58-156781号公報に示すものがある。このような例においては,弁デスクを弁座に対して離間した状態で上下動し,弁座に対向した位置で弁デスクをその側方から押圧することによって弁座に対接せしめている。
また,実開昭52-93930号公報に示すように弁箱の外側から挿入された弁ロッドを傾斜させることにより弁デスクを弁座に押圧するようにしたゲートバルブ駆動装置も既知である。」(段落【0002】〜【0004】) イ「【発明が解決しようとする課題】然しながら上記従来の前者のゲートバルブでは弁デスクを弁座に押圧するため,弁抑え,柱体,スプリング,ストッパー,ローラ等の多くの機械的可動部分が上記通路内に位置しており,これらから機械的摩耗等により発生する不純物が上記処理室内に混入するおそれが多い欠点があった。
また,上記従来の後者のものではゲートバルブを斜めに下向せしめてこれをシール材に当接し閉塞するものであり,僅かではあるが両者が互いに摺動するようになる。従ってシール材の摩耗による通路内の汚染はまぬがれない。
本発明は上記の欠点を除くようにしたものである。」(段落【0005】〜【0007】) ウ「【発明の効果】上記のように本発明のゲートバルブによれば,ベローズ9によって外部から気密に区劃された弁箱1内にはデスク3を弁座2に対し押圧するための機械部品が全く含まれておらず,また,弁デスク3は弁座2に対向する位置迄下降した後これに直角に押圧されるので従来のもののように弁箱1内で摩耗その他による不純物を発生するおそれが無いと共に,上記弁デスク3の傾動手段を極めて簡単な構成とすることができる。」(段落【0029】) 本件明細書の上記認定の記載によれば,ゲートバルブの発明においては,処理室にできるだけ不純物が混入しないように配慮する必要があり,本件発明は,@従来例である実開昭58-156781号公報に記載された発明(以下「従来例1」という。)における,通路内に位置する弁デスクを弁座に押圧するための機械的可動部分の機械的摩耗等により発生する不純物により処理室内が汚染されるという問題,A他の従来例である実開昭52-93930号公報に記載された発明(以下「従来例2」という。)における,ゲートバルブとシール材とのわずかな摺動によりシール材が摩耗することにより発生する不純物により通路内(弁箱内)ひいては処理室が汚染されるという問題を解決すべき課題として認識し,@の課題を,弁デスクを弁座に押圧するための機械部品を弁箱内に置かないことにより,Aの課題を,弁デスクを弁座に対向する位置まで下降させた後直角に押圧するようにすることにより,弁箱内で摩耗等による不純物が発生することを防止するようにして,解決したものである,ということができる。
これによれば,本件発明の技術的意義は,弁箱内で摩耗等による不純物が発生しないような構成を採用したことにある,というべきである。
本件発明において,本件ガイドがブロックの上下動の際の振れを防止するものではなく,ブロックが弁座方向に振れて弁デスクが弁座に接触し摺動することがあるとすると,弁箱内で摩耗等により不純物が発生することを防止することができないことになり,その点では,従来例2の上記欠点と同様の欠点から逃れられないものとなる。弁箱内で摩耗等により不純物が発生することを防止するためには,本件ガイドがブロックの上下動の際の振れを防止するように案内するとの構成は,必須の構成であるというべきである。
本件明細書の発明の詳細な説明中の記載中に,本件ガイドがブロックの上下動の際の振れを防止するものであるとの解釈を採るべき根拠となる記載は見当たらない,との控訴人の主張を採用することができないことは,上に説示したところから明らかである。
3 控訴人は,本件発明が問題としているのは,弁デスクを弁座に押圧する際に不純物が発生するおそれがあることであり,弁デスク押圧前の,弁デスクを上下動させて弁座近くまで移動させる際に,弁デスクが弁座に接触,摺動して不純物が発生するおそれがあること(押圧前問題)ではないから,押圧前問題を本件発明の課題とした原判決は,本件発明の課題の認識を誤っている,と主張する。
しかしながら,上記2イで認定した本件明細書の記載(「また,上記従来の後者のものではゲートバルブを斜めに下向せしめてこれをシール材に当接し閉塞するものであり,僅かではあるが両者が互いに摺動するようになる。従ってシール材の摩耗による通路内の汚染はまぬがれない。」)によれば,同記載は,弁デスクを押圧する際の不純物の発生だけのおそれに限ることなく,弁デスク押圧前における弁デスクの弁座への接触,摺動による不純物の発生のおそれをも含めて,本件発明において解決すべき課題としていると理解するのが相当である。押圧前においても弁デスクが弁座に接触,摺動して不純物を発生するおそれがあるというべきであり,押圧前と押圧時とを区別する合理的理由を見い出すことはできない。本件明細書中には,他にも,押圧前問題を本件発明の課題から除外していると認めるべき記載は見当たらない。
控訴人は,本件明細書に記載された従来例2(実開昭52-93930号公報・甲第14号証)においても,押圧前問題は問題とされていない,と主張し,その主張の根拠として,従来例2中の「ゲートバルブの開放,閉塞の駆動時,ゲートバルブの面が両シール材に摺動するため,シール材の摩耗が激しく,その寿命が短かい。」(甲第14号証1頁下から2行〜2頁2行),「この考案のゲートバルブ駆動装置によると・・・閉塞にあたり,流出側の開口面のシール材に摺動する時間がきわめて短かく,シール材の摩耗を防ぎ,その寿命が長大になる」(同5頁1行〜7行)との記載を引用する。しかしながら,控訴人が引用した上記記載中の「閉塞」とは,傾斜させた弁ロッドによりゲートバルブを斜めに下降させてシール材と摺動させることによってゲートを閉塞するものであり,閉塞の開始から終了まで摺動が短い時間ながらも一定時間継続するものである。このような従来例2において,押圧前と押圧時とを区別していると理解することができないことは,明らかである。
控訴人は,本件発明において,「弁箱内で摩耗等による不純物を発生するおそれがない」との作用効果は,押圧前問題の解決とは関係がない,と主張する。しかし,この主張を採用することができないことは,上に説示したところから明らかである。
控訴人は,弁デスクが弁座にさえ接触,摺動しなければ,弁箱内で不純物が発生しないというものではないから,弁デスクの接触,摺動を問題にするのであれば,弁座の反対側及びこれと直交する両側の弁箱の面との接触,摺動をも問題にしなければならないのに,原判決は,弁座側の問題しか考えていない,と主張する。
しかしながら,本件発明において課題とされているのは,前記のとおり,最終的に弁座に押圧して通路を閉塞する必要がある弁デスクを,不純物の発生を防止するため,弁座と接触,摺動させないようにすることである。弁座側の面以外の面との接触,摺動は本件明細書において,全く問題とされていない。これは,弁座側の面以外の面については,弁デスクとの接触,摺動による不純物の発生はそもそも問題とならない構造をとるものであることが当然の技術的な前提とされているためであると考えられる。控訴人の主張は,本件明細書の記載内容に適合しないものであり,採用することができない。
控訴人は,弁デスクが傾斜して弁座に接触,摺動するかどうかは条件によって異なり,接触,摺動は,弁デスクと弁座との間隔を相当程度空けることによって,避けられるのであって,これらの条件は,当業者が適宜選択することができる,単なる設計上の問題にすぎない,と主張する。しかしながら,仮に,弁デスクと弁座との間隔を相当程度明ける構成を採用することによって両者の接触,摺動を避けることができるとしても,本件発明は,このような構成を要件とするものではない。本件発明は,このような構成を採用しないものにおいても,それが要件として採用している構成自体によって,両者の接触,摺動を避けるものである。ところが,本件ガイドが弁デスクが弁座方向に振れて接触,摺動することを防止するようにブロックの上下動を案内する機能を有しない場合には,弁デスクと弁座との接触,摺動による不純物の発生を避けることができず,本件発明に特有の作用効果を奏することができないことになる。控訴人の主張は,採用することができない。
控訴人は,本件発明におけるブロックは,別紙参考図に記載されているように,ヨーク7から垂下している垂下部分14の内側面の下部14aにブロック10の左側面の上部10aが接し,上記垂下部分14の下部14aによって弁ブロック10の上記回動が阻止されており,そもそも弁座方向に振れないように構成されているから,本件ガイドをブロックが弁座方向に振れるのを防止するために設ける必要はない,と主張する。しかしながら,別紙参考図に記載された上記構成は,本件発明の実施例の構成にすぎず,本件発明の構成がこれに限られるものでないことは明らかである。控訴人の主張は,本件発明の構成に基づかないものであり,失当である。
4 控訴人は,原判決の,本件ガイドがブロックが弁座方向に振れることを防止するものである,との解釈は,原審において,当事者双方とも,全く想定しておらず,主張していなかったことであり,裁判所がこのようなクレーム解釈を求釈明等を何もすることなく行うことは,当事者に対する不意打ちであり,審級の利益も損なわれるから,本件訴訟を原審に差し戻すべきである,と主張する。
しかしながら,原判決が採用した特許請求の範囲の解釈が,当事者双方のいずれも主張していなかったものであり,かつ,原審裁判所がこの解釈につき当事者に事前に告げていなかったとしても,原判決の上記解釈の内容の当否について,続審である当審において,当事者に十分主張,立証の機会が与えられ,当審において判断がなされる,というだけでは足りず,この点につき改めて原審において審理させるために本件訴訟を差し戻すことが必要である,とまでは認められない。
控訴人の主張は,採用することができない。
結論
以上によれば,控訴人の請求をすべて棄却した原判決は正当である。そこで,本件控訴を棄却することとし,当審における訴訟費用の負担につき民事訴訟法67条,61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 阿部正幸
裁判官 高瀬順久