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関連審決 審判1999-6202
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成17行ケ10767審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 方法の発明 /  製造方法 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  相違点の認定 /  相違点の判断 /  周知技術 /  技術常識 /  択一的 /  技術的意義 /  容易に想到(容易想到性) /  信義則 /  実施 /  加工 /  構成要件 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 12年 (行ケ) 475号 審決取消請求事件
原告 株式会社半導体エネルギー研究所
訴訟代理人弁理士 渡邉順之
被告 特許庁長官太田信一郎
指定代理人 岡和久
同 内野春喜
同 小林信雄
同 大橋良三
同 涌井幸一
同 高橋泰史
同 朽名一夫
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/06/26
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 (1) 特許庁が,平成11年審判第6202号事件について,平成12年10月23日にした審決を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実等
1 特許庁における手続の経緯 原告は,平成5年8月27日,名称を「半導体装置およびその作製方法」(後に「半導体装置の作製方法」と補正された。)とする発明につき特許の出願(平成5年特許願第235463号,以下「本件出願」といい,これに係る請求項1の発明を「本願発明」という。)をし,平成11年3月5日付けで拒絶査定を受け,同年4月15日,これに対する不服の審判を請求した。
特許庁は,これを,平成11年審判第6202号事件として審理し,その結果,平成12年10月23日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同年11月13日,その謄本を原告に送達した。
2 本願発明に係る特許請求の範囲の記載 (1) 絶縁表面上の非晶質珪素膜を熱アニールして,結晶性珪素膜を形成する第1の工程と, (2) 前記結晶性珪素膜でなる島状の活性層を形成する第2の工程と, (3) 酸化性雰囲気中で熱アニールまたは波長4μm〜0.5μmの光を照射する光アニールによって前記活性層表面を酸化して,酸化珪素膜を形成する第3の工程と, (4) 前記酸化珪素膜上に,化学的気相反応手段によって絶縁被膜を形成する第4の工程と, (5) 窒素または窒素化合物を含む雰囲気中で,前記絶縁被膜をアニールする第5の工程と, (6) 前記絶縁被膜上にゲイト電極を形成する第6の工程と, を有することを特徴とする半導体装置の作製方法。
(以下,それぞれ,「本願発明の第1の工程」,「本願発明の第2の工程」などという。ただし,本願発明の工程であることが明確な場合は,「本願発明の」を省略することがある。当該工程における処理内容に着目して,特に,非晶質珪素膜を結晶化する工程(本願発明の第1の工程がこれに当たる。)を「結晶化工程」と,結晶性珪素膜を熱アニール又は光アニールにより酸化して酸化珪素膜を形成する工程(本願発明の第3の工程がこれに当たる。)を「酸化処理工程」ということもある。) 3 審決の理由 審決の理由は,別紙審決書の写し記載のとおりである。要するに,本願発明は,特開平4-22127号公報(甲第5号証,以下「引用例」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。)及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるから,特許法29条2項の規定に該当し,特許を受けることができない,というものである。
審決が上記結論を導くに当たり認定した本願発明と引用発明との一致点・相違点は,次のとおりである。
(一致点) 「酸化性雰囲気中で光を照射する光アニールによって前記活性層表面を酸化して,酸化珪素膜を形成する第3の工程と, 前記酸化珪素膜上に,化学的気相反応手段によって絶縁被膜を形成する第4の工程と, 前記絶縁被膜上にゲイト電極を形成する第6の工程と, を有することを特徴とする半導体装置の作製方法」である点(審決書4頁40行目〜5頁6行目) (相違点) 「(1)本願第1発明(判決注・本願発明を指す)が絶縁表面上の非晶質珪素膜を熱アニールして,結晶性珪素膜を形成する第1の工程を有するのに対して,上記引用例(判決注・甲第5号証を指す。)記載の発明が赤外光を照射しアニールして雰囲気中の酸素と非晶質半導体薄膜との表面反応により酸化シリコン薄膜を形成するのと同時に絶縁表面上の非晶質半導体薄膜を結晶化し多結晶半導体薄膜を形成する工程を有する点 (2) 酸化性雰囲気中で光を照射する光アニールによって活性層表面を酸化して,酸化珪素膜を形成する工程において照射する光が,本願第1発明においては波長4μm〜0.5μmの光であるのに対し,上記引用例記載の発明においては赤外光である点。
(3) 本願第1発明が窒素または窒素化合物を含む雰囲気中で,前記絶縁被膜をアニールする第5の工程を有するのに対して,上記引用例記載の発明が,そのような工程を有していない点。
(4) 結晶性珪素膜でなる島状の活性層を形成する工程が,本願第1発明においては第2の工程であるのに対して,上記引用例記載の発明においては,ゲイト電極形成後である点」(審決書5頁8行目〜22行目)
原告の主張の要点
審決は,本願発明と引用発明との一致点の認定の誤り,相違点の認定の誤り(相違点の誤認ないし看過)があり,これらの誤りがそれぞれ結論に影響することは明らかであるから,取り消されるべきである。
1 一致点認定の誤りについて (1) 審決は,引用例に, 「ガラス基板等の耐熱性の低い基板上にピンホール密度の少ない,半導体薄膜とゲート絶縁膜との界面のトラップ等の欠陥の少ないゲート絶縁膜を形成する薄膜トランジスタの製造方法であって, 上記基板上に非晶質半導体薄膜を形成する工程, 酸素,酸素化合物あるいは水蒸気を少なくとも1種類以上含む雰囲気中で赤外光を照射しアニールして雰囲気中の酸素と非晶質半導体薄膜との表面反応により酸化シリコン薄膜を形成し,同時に非晶質半導体薄膜を結晶化し多結晶半導体薄膜を形成する工程, 上記酸化シリコン薄膜上にプラズマCVD法により窒化シリコン膜を形成する工程, 上記酸化シリコン薄膜と窒化シリコン膜の2層ゲート絶縁膜上にゲート電極を形成する工程, 多結晶半導体薄膜の島状の活性層を形成する工程 からなる薄膜トランジスタの製造方法」(審決書4頁21行目〜31行目)(以下,各工程を,それぞれ,「引用発明の第1の工程」,「引用発明の第2の工程」などと呼ぶ。ただし,引用発明の工程であることが明確な場合は,「引用発明の」を省略することがある。) が記載されていると認定した上で,本願発明と引用発明とが, 「酸化性雰囲気中で光を照射する光アニールによって前記活性層表面を酸化して,酸化珪素膜を形成する第3の工程と, 前記酸化珪素膜上に,化学的気相反応手段によって絶縁被膜を形成する第4の工程と, 前記絶縁被膜上にゲイト電極を形成する第6の工程と, を有することを特徴とする半導体装置の作製方法」(審決書4頁40行目〜5頁6行目) の点で一致する,としている(以下,上記第3の工程,第4の工程,第6の工程で一致する点を,それぞれ,「一致点1」,「一致点2」,「一致点3」という。)。
(2) 以下のとおり,引用例には,そもそも,本願発明の第1ないし第6の工程が全く記載されていない。
ア 引用例には,本願発明の第1の工程は開示されていない。
引用発明の第2の工程には「非晶質半導体薄膜を結晶化し多結晶半導体薄膜を形成する」工程が含まれている。しかし,これは,本願発明の第1の工程に相当するものではない。引用例の第2の工程は,酸化性雰囲気中で専ら酸化シリコン薄膜を形成するため短時間エネルギービームを照射する工程であり,この工程で,非晶質半導体薄膜が結晶化するのは,付随的に発生する現象にすぎない。このように付随的に非晶質半導体薄膜が結晶化することと,本願発明が,その第1の工程で,非酸化性雰囲気中で長期間熱アニールを行い非晶質半導体薄膜を結晶化することを,同一視することはできない。
引用例には,本願発明の第1の工程は,開示されていない。
イ 本願発明の第2の工程が,引用例に開示されていないことは,審決も認めている。
ウ 本願発明の第3の工程は,島状の活性層表面に酸化珪素膜を形成するものである。引用発明の第2の工程は,半導体膜を島状に形成する前に,酸化珪素膜を形成している。本願発明の第3の工程も,引用例に開示されていない。
エ 本願発明の第4の工程は,第3の工程で形成された酸化珪素膜上に,化学的気相反応手段によって,絶縁被膜を形成する工程である。
引用発明の第3の工程は,島状に活性層を形成する前に,絶縁被膜を形成するものであるから,本願発明の第4の工程を開示するものではない。
オ 本願発明の第5の工程は,第4の工程で形成した絶縁膜をアニールする工程である。引用例には,このような工程は記載されていない。
カ 本願発明の第6の工程で,ゲイト電極を形成する対象は,引用発明の第4の工程でゲート電極を形成する対象とは異なる。したがって,引用例には,本願発明の第6の工程は開示されていない。
本願発明は,後記3(2)のとおり,その工程内容・順序を採用することにより,顕著な効果を生ずる。工程内容・順序が異なる本願発明と引用発明のそれぞれから,その中の特定の工程のみを取り出して,両発明の全体としての工程内容・順序の相違を無視してこれらを比較することはできないのである。
(3) 一致点1の認定の誤りについて 審決は,本願発明と引用発明との一致点の一つとして,「酸化性雰囲気中で光を照射する光アニールによって前記活性層表面を酸化して,酸化珪素膜を形成する第3の工程」を有する点(一致点1)を認めた。しかし,この認定は誤りである。
本願発明において,表面に酸化珪素膜が形成される「前記活性層」とは,その第2の工程で形成された「島状」のものである。これに対し,引用発明において,表面に酸化シリコン(珪素)膜が形成される「非晶質半導体膜」は,島状のものとはなっておらず,「活性層」とも呼ばれていない。
引用発明では,酸化シリコン薄膜の形成と多結晶半導体薄膜の形成とは同時に行うものとされており,引用例には,この両者の形成を分離して行ってもよいことは記載されていない。まして,この両者の形成の間に,他の工程を介在させることは,何ら記載されていない。すなわち,引用例には,「あらかじめ形成された活性層を酸化する」ことなどは全く記載されていないから,審決が,「前記活性層表面を酸化」する点を一致点として認定したことは,誤りである。
引用例には,引用発明の第2の工程として,酸化性雰囲気中で光を照射する光アニールによって,活性層表面を酸化して,酸化珪素膜を形成すると同時に,非晶質半導体薄膜を結晶化する工程が記載されている。これに対し,本願発明では,結晶化工程(第1の工程)と酸化処理工程(第3の工程)は別々のものである。審決は,引用発明の一つの工程を,重複して本願発明の上記二つの工程と対比している。この点でも,審決の一致点1の認定は誤りである。
(4) 一致点2の認定の誤りについて 審決は,本願発明と引用発明との一致点の一つとして,「前記酸化珪素膜上に,化学的気相反応手段によって絶縁被膜を形成する第4の工程」を有する点(一致点2)を認定した。この認定も誤りである。引用発明の第3の工程は,技術的に見て,本願発明の第4の工程とは異なる。この認定も誤りである。
(5) 一致点3の誤りについて 引用発明では,工程は全部で5個である。したがって,引用発明に,「第6の」工程が存在するとして,一致点3を認定したのは誤りである。
2 相違点の看過ないし誤認について (1) 審決は,本願発明と引用発明との相違点を, 「(1)本願第1発明(判決注・本願発明を指す)が絶縁表面上の非晶質珪素膜を熱アニールして,結晶性珪素膜を形成する第1の工程を有するのに対して,上記引用例(判決注・甲第5号証を指す。)記載の発明が赤外光を照射しアニールして雰囲気中の酸素と非晶質半導体薄膜との表面反応により酸化シリコン薄膜を形成するのと同時に絶縁表面上の非晶質半導体薄膜を結晶化し多結晶半導体薄膜を形成する工程を有する点。
(2) 酸化性雰囲気中で光を照射する光アニールによって活性層表面を酸化して,酸化珪素膜を形成する工程において照射する光が,本願第1発明においては波長4μm〜0.5μmの光であるのに対して,上記引用例記載の発明においては赤外光である点。
(3) 本願第1発明が窒素または窒素化合物を含む雰囲気中で,前記絶縁被膜をアニールする第5の工程を有するのに対して,上記引用例記載の発明がそのような工程を有していない点。
(4) 結晶性珪素膜でなる島状の活性層を形成する工程が,本願第1発明においては第2の工程であるのに対して,上記引用例記載の発明においてはゲイト電極形成後である点」(審決書5頁8行目〜22行目) を認定した。以下,それぞれを「相違点1」,「相違点2」,「相違点3」,「相違点4」という。)。
(2) 引用発明には,本願発明にある,絶縁表面上の非晶質珪素膜を熱アニールして結晶性珪素膜を形成する第1の工程と,島状の活性層を形成する第2の工程が存在しない。これらの2工程が存在しないことを明示しなかった審決には,相違点の看過がある。
また,引用発明には,相違点1で摘示された工程の前に,1番目の工程があることを,審決は摘示していない。
(3) 相違点1の認定は,引用発明の第2の工程と,本願発明の第1の工程とを対比していることになる。しかし,工程の内容に照らすと,本願発明の第1ないし第3工程と,引用発明の第1の工程及び第2の工程とを対比するのが合理的である。そうすることによって,前記のとおり,引用発明には,本願発明の第1の工程及び第2の工程がないことが明らかになるのである。
審決の相違点1の認定は,工程の対比を誤っている。
(4) 引用発明は,酸化珪素薄膜を形成する工程と,非晶質半導体薄膜を結晶化し多結晶半導体薄膜を形成する工程とを同時に行っている。すなわち,引用発明には,本願発明における,酸化珪素膜だけを形成する工程は存在しない。また,引用発明では,酸化珪素膜を形成する対象も,結晶化され,パターニングされたものではない。審決は,相違点2の認定において,そもそも対比の前提を誤っている。
酸化珪素膜を形成する工程に関して,本願発明の第3の工程では,光アニールと熱アニールの二つの処理を採用し得ることが述べられている。しかし,審決は,相違点2で,第3の工程(酸化処理工程)における光アニールの方法の違いに言及しているものの,本願発明の第3の工程が,熱アニールによる処理も採用し得ることについて,何ら言及していない。この点,相違点の看過がある。
(5) 審決は,前記相違点4の認定で,島状の活性層を形成する工程(本願発明の第2の工程)の前後の工程の存在及びそれらとの相互の関係における相違点について,何ら具体的に言及していない。
このような相違点の摘示では,引用発明に,本願発明の第1の工程及び第2の工程に相当する工程がないことが,明確にならない。
3 相違点についての判断の誤り (1) 1で述べたとおり,引用例には,本願発明の六つの工程は全く開示されておらず,本願発明の半導体製造方法は,引用発明のそれと全く異なる。強いていうとしても,せいぜい,非晶質珪素膜を形成し半導体装置を作成する方法である点で一致している,というにすぎない。しかし,この点で一致するとしても,そのことは,両者を比較する上で全く意味がない。このように極端に異なる技術を開示する引用例から,本願発明に容易に想到することはできない。
(2) 本願発明のような製造方法の発明においては,それぞれが,たとい,対応する個々の工程同士をとれば同一であるとしても,個々の工程を組み合わせる順番自体が極めて重要である。本願発明でも,その工程順序により,下記のとおり,顕著な効果を生ずる。工程の順番の変更,削除又は追加は,極めて重要な技術的意義を有するのである。審決は,この重要性を全く認識せず,あるいは配慮の外に置いている。
ア 本願発明の第1の工程及び第2の工程は,珪素膜を結晶化し,その後でパターニングするものである。
引用発明におけるように,パターニングした後で結晶化すると,熱アニールによる結晶化の際,基板に収縮が生じるなどして,島状の珪素膜の位置のずれあるいは形状の変化が生じる。本願発明によれば,そのようなことはない。
イ 本願発明において,その第2の工程の後に第3の工程を実施することにより,酸化珪素膜を,活性層上面だけでなく,側面にも形成することができる。
これにより,本願発明の第4の工程で,形成した絶縁被膜にクラックが発生した場合でも,リーク電流の発生を防止することができる。
ウ 本願発明の第3の工程により,@熱アニールを採用した場合,第1の工程で結晶化した領域の結晶性を更に向上させることができる,A光アニールを採用した場合,第1の工程で結晶化した珪素膜中の欠陥や不対結合手を減少させることができる,などの効果がある。
エ 本願発明の第4の工程で,第3の工程により形成された酸化珪素膜表面上に,更に厚い酸化珪素膜等の絶縁膜を重ねて形成させる。これにより,ピンホールに起因するリーク電流が小さくなり,歩留まりが向上するなどする。
オ 本願発明の第5の工程で,第4の工程で形成した島状活性層表面上の酸化珪素膜等の絶縁膜をアニールする。これにより,より安定した特性のTFTを得ることができる。
(3) 相違点1に係る容易想到性の判断の誤りについて 本願発明では,結晶化工程(第1の工程)と,酸化処理工程(第3の工程)を分離し,これにより,上述のような顕著な作用効果を得ている。
引用例からは,上記2工程を分離する思想は,うかがうこともできない。
審決は,特開平3-6865号公報(甲第6号証,以下「甲6公報」という。)により,非晶質珪素膜を熱アニールして結晶性珪素膜を形成することは周知であるとし,この周知技術を引用発明に採用することに格別の困難もないとする。
しかし,引用発明は,結晶化工程と酸化処理工程を同時に行う(引用発明の第2の工程)ものであり,その中の結晶化工程だけを取り出し,甲6公報記載の技術に変更することに,何ら合理性はない(なお,甲6公報記載の技術はボロンをドープしたシリコン薄膜に関するものであって,引用例の技術的課題とは何の関係もない技術的課題を解決するためのものである。引用例と甲6公報を結び付ける必然性は何ら存しない。)。
本訴において被告が乙第4号証ないし第6号証として提出した各公報(以下「乙4公報」などという。)によっても,上記変更に合理性を認めることはできない。
被告は,いったん,今後準備書面を提出する意思はないと述べたにもかかわらず,後に被告準備書面(第3回)を提出し,併せて乙4公報ないし乙6公報を証拠として提出した。原告は,被告が上記準備書面及び証拠を提出することは,信義に反するものであり許されない,と主張する。
(4) 相違点2に係る容易想到性の判断の誤りについて 審決は,「珪素膜に光が吸収され,絶縁基板を光が透過するようにして絶縁基板が過熱するのを防止するために波長0.3〜1.0μmまたは0.3〜3.0μmの光を採用することは特開昭59-75670号公報(判決注・甲第7号証,以下「甲7公報」という。)に示すように周知であり,」(審決書6頁10行目〜13行目)として,この周知技術を引用発明に適用して,赤外光に代えて波長4μm〜0.5μmの光を採用することに,格別の創意工夫を要しない,としている。
審決が,対比の前提を誤っていることは,既に述べたとおりである。すなわち,審決が認定したような周知技術が甲7公報に記載されていたとしても,前記のとおり,引用例には,本願発明の第3の工程「酸化性雰囲気中で光を照射する光アニールによって前記活性層表面を酸化して,酸化珪素膜を形成する工程」(すなわち,酸化処理だけを行う工程)は存しないのである。
また,甲7公報記載の光照射は,イオン注入領域を活性化するものであるから,本願発明の第3の工程に係る技術とは何の関係もない。
(5) 相違点(3)に係る容易想到性の判断の誤りについて 審決は,「窒素を含む雰囲気中で,絶縁被膜をアニールすることは特開昭63-133673号公報(判決注・甲第8号証,以下「甲8公報」という。)及び特開平1-128471号公報(判決注・甲第9号証,以下「甲9公報」という。)に示すように周知であり,」(6頁17行目〜19行目)として,本願発明が,第5の工程として絶縁被膜をアニールする工程を採用したことに格別の意義はなく,引用発明において,絶縁被膜をアニールする工程を採用することに格別の創意工夫は生じない,としている。
しかし,甲8公報及び甲9公報は,本願発明における,第1ないし第4の工程の後,第6の工程の前に実施される第5の工程としてのアニールを開示するものではない。これらには,引用発明と組み合わせて,その第4の工程と第5の工程の間に,アニールを介在させることを示唆する記載もない。
甲8公報に記載されているアニールは,ゲイト酸化膜とゲイト電極の形成後に行われるものであり,本願発明の第5の工程のように,ゲイト電極形成前の絶縁膜のアニールを開示するものではない。甲9公報は,活性層表面に形成された熱酸化膜をアニールする技術であり,本願発明の第5の工程のように,熱酸化膜上にCVD法により形成された絶縁膜をアニールする技術ではない。
特開昭63-15468号公報(乙第7号証,以下「乙7公報」という。)には,窒素を含む雰囲気中で絶縁膜をアニールすることは記載されていない。特開平1-162377号公報(乙第8号証,以下「乙8公報」という。)には,窒素を含む雰囲気中で絶縁被膜をアニールすることが記載されている。しかし,それを引用発明に組み合わせることができるとする事情は何らうかがわれない。
原告は,乙7公報及び乙8公報を証拠として提出することについても,これに基づく主張をすることについても,上記(4)で述べたところと同様の理由から,信義に反するものであり許されない,と主張する。
(6) 相違点(4)に係る容易想到性の判断の誤りについて 審決は,「何れの工程で結晶性珪素膜でなる島状の活性層を形成するかは単なる設計的事項にすぎず」(審決書6頁25行目〜26行目)として,本願発明で島状の活性層の形成を第2の工程としたことは,当業者が任意になし得たことと認めている。
しかし,前記のとおり,島状活性層の形成を,結晶化工程と酸化処理工程との間に実施することは,顕著な作用効果を有するから,これを単なる設計的事項であるとすることはできない。
島状領域を形成した後,表面に酸化膜を形成することが周知であり,その際,基板絶縁膜がオーバーエッチングされること,クラックが発生するという問題が発生し得ることが周知であったとしても,これらと引用例とから,工程が引用発明と全く異なる本願発明に,容易に想到し得るとすることはできない。
被告の反論の要点
1 一致点の認定の誤り,の主張に対して (1) 審決は,本願発明と引用発明との対比において,これらの各工程を比較し,同じ工程,類似した工程を対比し,一致点・相違点を抽出したものである。
原告は,工程の順序が重要であると主張する。しかし,審決は,工程の順序の相違を相違点として正しく抽出し,それについて判断を加えているのである。
(2) 審決は,一致点の一つ(一致点1)として,「酸化性雰囲気中で光を照射する光アニールによって前記活性層表面を酸化して,酸化珪素膜を形成する第3の工程」を認定している。 この,審決の一致点の認定における「前記活性層」に関し,前記として引用すべき「活性層」は引用発明に存在しないから,この「前記」は誤記であり,「前記活性層」は,単に「活性層」の意味である。そして,活性層そのものは,引用例に記載されているから,一致点として抽出することについて何ら問題はない。
本願発明は,活性層の「側面」を酸化することを構成要件とするものではない。結局,「活性層表面を酸化」している点で,本願発明と引用発明は,何ら相違するものではない。そして,島状の活性層を形成する工程を実行する時点の相違は,相違点4で正しく指摘されている。
本願発明で,活性層が島状であることの意義は,島の周囲にオーバーエッチが生ずることである。しかし,基板絶縁膜がオーバーエッチングされること,絶縁膜にリークがあること,クラックが発生することも,周知である(甲第5号証,乙第2号証)。島状であることに,格別の意義はない。そして,審決は,島状活性層の工程順序が格別の意義を持たないことを,相違点4で論じているのである。
(3) 原告は,引用例の工程数は5であり,「第6の工程」はなく,また,引用例の第3,第4の工程も,審決が認定したような内容のものではない,と主張する。
審決に記載された引用発明の各工程の序数は,本願発明と対比しやすくするために,本願発明の請求項の記載された表現を合わせたにすぎない。引用発明の内容の理解に関して,その工程に付せられた序数に,特段意味はない。
2 相違点の誤認及び看過,の主張に対して (1) 前述のとおり,審決は,本願発明と引用発明の各工程を比較し,同じ工程,類似した工程同士を対比し,一致点・相違点を抽出したものである。原告が重要であるとする工程の順序も,正しく抽出して指摘している。
(2) 相違点1で,本願発明が,熱アニールによる結晶化工程と光アニールによる酸化処理工程とを分けて,前者を先に行うのに対し,引用発明ではこれらを同時に行うことを挙げている。島状活性層を形成する工程の順序についても,相違点4で摘示している。
原告の主張するような相違点の看過はない。
(3) 相違点2について,本願発明の請求の範囲は,「熱アニールまたは・・・光アニールによって」と,「熱アニール」と「光アニール」が択一的に記載されており,そのどちらか一方で発明が構成される。審決は,このうち,光アニールを構成要件とする発明について論じたものである。
3 相違点の判断の誤りに対して (1) 非晶質珪素膜を熱アニールすることにより結晶性珪素膜を形成する技術は,周知である(甲第6号証,乙第4号証ないし第6号証)。
(2) 半導体膜を島状とすることは,周知である。いずれの工程で島状とするかも,業者が適宜設定し得ることであり,それによる効果も容易に予測可能なものである。
本件明細書でも,その実施例1として,「Pチャネル型TFT(PTFTという)とNチャネル型TFT(NTFTという)とを相補型に組み合せた回路を形成する例である。」(甲第2号証7頁4行目〜6行目),「上記に示す回路は,PTFTとNTFTとを相補型に設けたCMOS構造であるが,上記工程において,2つのTFTを同時に作り,中央で切断することにより,独立したTFTを2つ同時に作製することも可能である。」(同2号証10頁12行目〜14行目)と記載している。このように,本願発明自体,実施例において,トランジスタ間を分離せずに連続させて作製した後で,分離することも許容している。この,トランジスタ構造を形成した後に,トランジスタを分離することは,まさに,「・・・何れの工程で結晶性珪素膜でなる島状の活性層を形成するかは単なる設計的事項にすぎず,本願第1発明が第2工程としたことに格別の意義も認められないから,上記相違点は当業者が任意になし得たことと認められる。」(審決書6頁25行目〜28行目)ことを示す一つの例に該当する。
(3) 島状活性層を形成して,その側面に絶縁膜を形成することは,甲6公報,甲7公報,特開平4-152624号公報(乙第1号証,以下「乙1公報」という。)に記載されており,周知の技術である。
(4) 窒素を含む雰囲気中で,絶縁膜をアニールすることは,周知技術である(甲8公報,乙7公報,乙8公報)。当業者が,引用発明を適宜変更して,本願発明の構成に至ることは容易である。
(5) 原告は,本願発明の作用効果,とりわけ,島状珪素膜の位置のずれないし形状の変化が生じないことについて述べる。しかし,これは,本件明細書の記載に基づかない主張である。
当裁判所の判断
1 本願発明と引用発明との,一致点・相違点の認定について (1) 本願発明の構成要件が, 「絶縁表面上の非晶質珪素膜を熱アニールして,結晶性珪素膜を形成する第1の工程と, 前記結晶性珪素膜でなる島状の活性層を形成する第2の工程と, 酸化性雰囲気中で熱アニールまたは波長4μm〜0.5μmに光を照射する光アニールによって前記活性層表面を酸化して,酸化珪素膜を形成する第3の工程と, 前記酸化珪素膜上に,化学的気相反応手段によって絶縁被膜を形成する第4の工程と, 窒素または窒素化合物を含む雰囲気中で,前記絶縁被膜をアニールする第5の工程と, 前記絶縁被膜上にゲイト電極を形成する第6の工程と, を有することを特徴とする半導体装置の作製方法。」 であること,及び引用発明が, 「ガラス基板等の耐熱性の低い基板上にピンホール密度の少ない,半導体薄膜とゲート絶縁膜との界面のトラップ等の欠陥の少ないゲート絶縁膜を形成する薄膜トランジスタの製造方法であって, 上記基板上に非晶質半導体薄膜を形成する工程, 酸素,酸素化合物あるいは水蒸気を少なくとも1種類以上含む雰囲気中で赤外光を照射しアニールして雰囲気中の酸素と非晶質半導体薄膜との表面反応により酸化シリコン薄膜を形成し,同時に非晶質半導体薄膜を結晶化し多結晶半導体薄膜を形成する工程, 上記酸化シリコン薄膜上にプラズマCVD法により窒化シリコン膜を形成する工程, 上記酸化シリコン薄膜と窒化シリコン膜の2層ゲート絶縁膜上にゲート電極を形成する工程, 多結晶半導体薄膜の島状の活性層を形成する工程 からなる薄膜トランジスタの製造方法」(審決書4頁21行目〜31行目) であることについては,当事者間に争いがなく,また,甲第2号証ないし第5号証によりこれを認めることができる。
(2) 引用例の「基板」,「非晶質半導体薄膜」,「プラズマCVD法」,「窒化シリコン膜」,「多結晶半導体薄膜」及び「薄膜トランジスタ」が,それぞれ,本願発明の「絶縁表面」,「非晶質珪素膜」,「化学的気相反応手段」,「絶縁被膜」,「結晶性珪素膜」及び「半導体装置」に相当することは,甲第1号証ないし第5号証により明らかである。
(3) 上記の本願発明と引用発明とを比較すると,引用発明では,多結晶島状半導体薄膜における島状の活性層を形成する工程は,一番最後とされており,活性層が形成されるのは最後の工程においてであるとされているのであるから,審決の認定した一致点の一つ「酸化性雰囲気中で光を照射する光アニールによって前記活性層表面を酸化して,酸化珪素膜を形成する第3の工程」を有する点中の「前記活性層表面」を酸化して,ということはあり得ない。この点において,審決には一致点認定の誤りがある。
しかし,両発明は,「酸化性雰囲気中で光を照射する光アニールによって,半導体薄膜(珪素膜)を酸化して酸化珪素膜を形成する工程」を有するという点では共通しており,一致点1の認定も,その限度では正しい。また,「(光アニールによって形成された)酸化珪素膜上に,化学的気相反応手段によって絶縁被膜を形成する工程があること」も,「前記絶縁被膜上にゲイト電極を形成する工程があること」も,一致している。したがって,一致点2及び同3の認定も誤りではない。
(4) 原告は,審決には,一致点の認定において,引用発明の工程の数,工程の摘示内容において誤りがある,と主張する。しかし,審決は,発明の対比の便宜上,本願発明の記載に合わせて,一致点・相違点の認定を記載しているものである。このような手法自体に何の問題もないことは,いうまでもないところである。
原告が主張するような誤りはない。
(5) 本願発明と引用発明とが,工程数や各工程の内容,工程の順序で,相違していることは事実である。しかし,両者を比較した場合,引用発明において,@結晶化工程と酸化処理工程とを分離し,結晶化工程で熱アニールを用いることとし,A結晶化工程を第1の工程とし,B活性層を島状に形成する工程を,前記結晶化工程の直後,酸化処理工程の直前におき,C酸化処理工程において,光アニールに用いる光を,赤外光に替えて,波長4μm〜0.5μmの光とし,D第4の工程で化学的気相反応手段により形成した絶縁被膜をアニールする工程(本願発明の第5の工程)を設ければ,本願発明と同一の構成となることは明らかである。
そして,上記@の点は相違点1に,A及びBの点は相違点1及び4に,Cは相違点2に,Dの点は相違点3において,それぞれ抽出されているから,審決の相違点の認定に看過・誤認はない。そして,前記一致点1における認定の誤りについても,島状に活性層を形成する工程の順序が,本願発明と引用発明とで異なることは,相違点4において正しく指摘されているから,結局,相違点認定の誤りをもたらしていない。前記一致点1の認定の誤りは,単なる誤記であるというべきである。
以上のとおり,審決には,原告が指摘するような一致点・相違点の認定の誤りはない。
(6) 原告は,本願発明の工程は,引用例に全く記載されていない,と主張する。しかし,個々の工程の内容を比較すれば,上記認定のとおり,一致点があることは明らかである。
原告の主張は,要するに,製造方法の発明で,特定の工程順序によらなければならないとされている場合は,これと最初の工程が少しでも異なる発明との比較は全くできない,というに等しい。しかし,そのように考えるときは,製造方法の発明において,ある工程で差異があるときは,その後の工程において,いかに共通点があっても,引用例との比較は一切できない,ということになる。そのような判断が適切でないことは明らかである。
原告は,本願発明のような製造方法の発明においては,たとい,対応する個々の工程同士をとればそれぞれ同一であるとしても,個々の工程を組み合わせる順番自体が極めて重要である,と主張する。製造方法の発明において,工程順序の差異は,進歩性の判断,すなわち,引用例記載の個々の工程の内容の分離や併合,工程の順序の入れ替え,ある工程の付加をすることによって,特許性が問題となっている発明の工程と同一のものにすることが,当業者にとって容易に想到できることであるか否か,の観点から検討すれば足りるものであることが,明らかである。
本願発明と引用例に示された方法(引用発明)との間には,工程の内容・順序において異なるものがある以上,引用例中に,本願発明の内容の開示は一切ない,とする原告の主張は,失当という以外にない。 以下,証拠上開示されている周知技術事項の内容,これを引用発明に適用する動機,適用を阻害する要因の有無を検討して,当業者が,引用発明の工程順序を組み替え,あるいは,引用発明にない工程を付加するなどして,本願発明の工程の内容・順序に想到することが,容易であるか否かを検討する。
2 相違点についての判断について (1) 相違点1について ア(ア) 甲6公報(特開平3-6865号公報・出願日平成元年6月5日,公開日平成3年1月14日)には,「[従来の技術]非晶質絶縁基板あるいは非晶質絶縁膜上に,結晶方位の揃った結晶粒径の大きな多結晶シリコン薄膜・・・を形成する方法は,・・・知られている。・・・大きく分類すると,再結晶化法・・・がある。再結晶化法には,・・・溶融する温度までは昇温させずに固相成長させる固相成長法の2つに分類される。比較的低温で再結晶化できるという点で固相成長法が優れている。」(甲第6号証1頁右欄3行目〜17行目),「[実施例]・・・はじめに非晶質絶縁基板1-1上にボロンドープ非晶質シリコン薄膜1-2を堆積させる。・・・次に,前記ボロンドープ非晶質薄膜1-2を固相成長させる。固相成長方法は,石英管による炉アニールが便利である。アニール雰囲気としては,窒素ガス,水素ガス,アルゴンガス,ヘリウムガスなどを用いる。・・・固相成長アニール温度は,500℃〜700℃とする。」(2頁右上欄12行目〜右下欄13行目),「次に・・・ゲート酸化膜1-5を形成する。該ゲート酸化膜の形成方法としてはLPCVD法,あるいは光励起CVD法・・・などのような500℃以下の低温方法がある。該低温方法で成膜されたゲート酸化膜は,熱処理することによってより緻密で界面準位の少ない優れた膜となる。非晶質絶縁基板1-1として石英基板を用いる場合は,熱酸化法によることができる。」(3頁左上欄6行目〜16行目),「ボロンドープ非晶質シリコン薄膜を固相成長させるので,・・・より大きな結晶粒を持つシリコン薄膜が得られる。結晶粒径が大きくなれば薄膜トランジスタのON電流は増大する。」(4頁左上欄1行目〜5行目)との記載がある。
(イ) 乙4公報(特開平4-196312号公報・出願日平成2年11月28日,公開日平成4年7月16日)には,「[従来の技術]従来,非晶質材料上に半導体薄膜を成長させるさまざまな結晶形成技術が提案されている。そのうちの一つの方法として,基板上にあらかじめ形成された非晶質薄膜を融点以下の低温における熱処理によって固相成長させる方法が提案されている。これは例えば,非晶質酸化シリコン上に形成された,膜厚100nm程度でイオン注入によって非晶質化されたシリコン薄膜を,窒素雰囲気中において600℃,数十時間熱処理することにより,前記非晶質シリコン薄膜を結晶化すると,ミクロンオーダーの大粒径樹枝状多結晶薄膜が得られ,そこに作製されたトランジスタ特性が良好であることが報告された。(T.Noguchi, H.Hayashi, and H.Ohshima 1987 Mat.Res.Sor.Symp.Proc., 106, Polysillicon and Interfaces 293, Elsevier Science Publishing, New York 1988).」(乙第4号証2頁左上欄1行目〜18行目),「(実施例1)・・・多結晶シリコン薄膜102を0.1μm堆積し・・・非晶質化した。さらにこのシリコン薄膜102を,窒素中で600℃で50時間加熱し,固相成長により最大5μmにも達する大粒径樹枝状多結晶を得た。・・・この基体をランプアニール装置内に設置し,酸素雰囲気中でタングステンハロゲンランプのインコヒーレント光で上下より照射した。・・・この後,温度を下げて取り出し,シリコン薄膜102上に形成された保護膜104としての酸化シリコン薄膜104の膜厚を測定した・・・」(3頁右下欄7行目〜4頁左上欄8行目),「(実施例5)・・・非晶質シリコン薄膜を0.1μm堆積した。・・・このシリコン薄膜402を,窒素中で600℃で50時間加熱し,固相成長により最大5μmにも達する大粒径樹枝状多結晶を得た・・・この基体をランプアニール装置内に設置し,酸素雰囲気中でタングステンハロゲンランプで上下より照射した。・・・この後,温度を下げてこの試料を取り出し,シリコン薄膜402上に形成された酸化シリコン薄膜404の膜厚を測定した・・・」(6頁左上欄10行目〜右上欄9行目)との記載がある。
(ウ) 乙5公報(特開昭64-22060号公報・出願日昭和62年7月17日,公開日平成元年1月25日)には,「〔従来の技術〕・・・多結晶シリコン(Poly-Si)を成膜し,・・・TFT(薄膜トランジスタ)を作製していた。この場合,Poly-Siの結晶粒径は2000〜3000Å以下であり,電子の移動度も10〜20cm2/V・sec以下であった。」(乙第5号証1頁右欄5行目〜14行目),「[問題点を解決するための手段]本発明に基づく固体撮像装置は・・・石英基板上にシリコン層を形成する工程,熱処理により該シリコン層を多結晶化する工程,ゲート絶縁膜を形成する工程を有する・・・」(2頁左上欄8行目〜16行目),「その製造方法としては,石英基板上に,非晶質シリコン(a-Si)・・・を・・・成膜する工程,上記シリコン層を500〜1200℃程度で熱処理を行ない,非晶質シリコン・・・を多結晶化・・を行う工程・・を有する。上述の製造方法によれば,Poly-Siの結晶粒径は1μm以上に成長させることができる。又,・・・結晶粒径を数百μm以上まで増大させることも可能である。その結果,結晶粒径に応じて,電子の移動度を20〜800cm2/V・secの広範囲にわたり制御が可能となった。これは,C-Si(判決注・単結晶シリコンを指す。)を素子材としたMOSトランジスタに近い特性であり,固体撮像装置の高解像度化,高速化が,容易となる。」(2頁右上欄7行目〜左下欄7行目),「〔実施例〕・・・(a)は石英基板101上に非晶質シリコン・・・を・・・成膜する工程。(b)は上記シリコン層・・・を・・・熱処理を行い,非晶質シリコン又は微結晶シリコンの多結晶化,(多結晶シリコンの場合は粒径の増大)を行ない,多結晶シリコン層・・・を形成し,パターン形成を行う工程。(c)はゲート絶縁膜103を熱酸化法により形成し,・・・」(2頁左下欄8行目〜右下欄1行目),との記載がある。
(エ) 乙7公報(特開昭63-15468号公報・出願日昭和61年7月8日,公開日昭和63年1月22日)には,「薄膜トランジスタの活性層としては,通常,アモルファスシリコンや多結晶シリコンが用いられるが,駆動回路まで一体化して薄膜トランジスタで形成しようとする場合には動作速度の速い多結晶シリコンが有望視されている。・・・」(2頁左上欄3行目〜7行目)と記載されている。
イ 上記各公報のこれらの記載によれば,本件出願時(平成5年8月27日)において,非晶質珪素膜を結晶化すると,そこに作製されるトランジスタの特性(高速動作性)がよくなるという事実も,このようにトランジスタの特性をよくするため,絶縁表面上に形成した非晶質珪素膜をアニールして,結晶性珪素膜を形成する技術も,まずこの結晶化工程を行ってから,熱処理によりゲート酸化膜を形成する酸化処理工程を別途実施する工程順序も,いずれも周知であったと認められる。そして,同じ半導体に関する「絶縁膜の製造方法及び薄膜トランジスタの製造方法」に係る引用発明に,これら周知の技術事項を適用する動機があることは当然というべきである。
甲6公報,乙4公報,乙5公報及び乙7公報に記載された上記周知技術を引用発明に適用することは,同業者が,容易に想到し得ることであったと認められる。
ウ 原告は,甲6公報は,ボロンドープ半導体に関するものであり,引用発明に適用することはできない,と主張する。しかし,ボロンドープ半導体において用いられている結晶化及び酸化処理並びにこれらの分離(別の工程で行うこと)の技術のノンドープ半導体への適用を阻害する具体的事実は,本件全証拠によっても何ら認められない。かえって,甲6公報には「・・・ボロンなどの不純物を含む非晶質シリコン薄膜は,ノンドープシリコン薄膜に比べて固相成長し易いことが知られている・・・」(甲第6号証2頁右下欄18行目〜3頁左上欄1行目),との記載がある。この記載からは,むしろ,ノンドープ半導体では,よりよい結晶を得るために,結晶化工程を別に設けて実施することへの誘因の存在をうかがうことができる。
エ 原告は,乙4公報ないし乙6公報と,後掲の乙7公報及び乙8公報について,被告がこれらを提出しこれらに基づく主張をすることが信義則に反すると主張する。しかし,訴訟の過程のある段階で,被告が主張立証を補充する意図がないことを表明したからといって,そのことにより当然に,その後の弁論準備手続での主張立証の補充が禁止されると解すべき理由はない。この点に関する原告の主張は失当である。
他にも,被告が上記主張立証をすることを禁止すべき理由は見当たらない。
オ 原告は,引用例からは,結晶化工程と酸化処理工程とを分離する思想をうかがうことはできない,と主張する。
引用例は,「・・・本発明の製造方法を用いることにより,電気的特性に優れた絶縁膜を低温で形成することが可能である。」(甲第5号証3頁左下欄17行目〜19行目)としており,その発明の名称及び特許請求の範囲を見ても,絶縁膜の形成に関する発明に係る公報であることが明らかである。赤外光を照射して非晶質半導体薄膜を結晶化することは,引用発明の第一次的な目的とはなっていない。
引用例には,「実施例・・・エネルギービーム照射によって非晶質半導体薄膜2は部分的に溶融あるいは半溶融状態となり,雰囲気ガス中の酸素との表面反応を起こし非晶質半導体薄膜表面に酸化シリコン膜3を形成する。また,同時に,非晶質半導体薄膜はエネルギービームの照射により結晶化し多結晶半導体薄膜となる。・・・」(甲第5号証3頁左下欄20行目〜右下欄14行目),「・・・本発明によれば,半導体薄膜の表面に低温で良質な絶縁膜を形成することが可能である。また,絶縁膜の形成と同時に半導体薄膜の改質を同時に行うことが出来る。」(4頁右上欄14行目〜17行目)とあり,確かに,結晶化工程と酸化処理工程を同時に行う構成が記載されている。しかし,これらの工程を分離して,結晶化工程を先に行う構成を採用することを阻害する要因も,何ら記載されていない。
結局,結晶化工程と酸化処理工程を同時に行うか,別々に行うかは,工程を簡便なものにするか,設計の自由度をどれだけ取るかの観点から,適宜選択し得るものと認められる。
カ 原告は,結晶化工程の後に酸化処理工程を設けることにより,結晶性を更に向上させることができること,光アニールで酸化処理をする場合,結晶化工程で結晶化された珪素膜中の欠陥や不対結合手を減少させることができるとの顕著な効果がある,主張する。
しかし,結晶化を先ず行った後,光アニールにより酸化処理を行うこと自体は周知であったこと,この周知事項を引用発明に適用することに困難は認められないことは前記のとおりである。そして,原告主張のような効果は,上記工程順序を採用することにより当然得られるものにすぎない。このようなとき,原告主張の効果が本件発明の特許性(進歩性)の根拠となることはあり得ない。
キ 以上のとおりであるから,相違点1に係る本願発明の構成は,当業者が容易に想到し得ることであるというべきである。
(2) 相違点2について 甲7公報(特開昭59-75670号公報・出願日昭和57年10月25日,公開日昭和59年4月28日)には,「本発明は,絶縁基板透過波長領域のインコヒーレント放射光により,選択的に薄膜能動素子部のみを高温に熱処理する・・・」(2頁左上欄10行目〜12行目),「・・・CVD法によりpolySi膜ゲート電極4を形成した後,大電流イオン注入によりソース,ドレイン領域6を形成する。イオン注入後,アーク放電フラッシュ・ランプ(放射光波長0.3〜1.0μm)又はタングステン抵抗ハロゲンランプ(放射光波長0.3〜3.0μm)で,短時間高温熱処理を行ない,イオン注入領域の活性化及びゲート電極下のSiO2膜質を緻密にする。」(2頁左上欄2行目〜10行目)との記載がある。甲7公報のこの記載からは,酸化処理の方法として,光アニールを採用し得ること,アニールする部分を選択的に加熱するために,絶縁基板を透過する波長のインコヒーレント放射光を使用すべきことが周知技術であった,と認めることができる。そうすると,この周知技術を引用発明に適用し,基板の材質に応じ,それに実質的に吸収されないような波長の赤外光を採用する程度のことは,当業者が容易に想到し得る,と認めることができる。
審決の相違点2の判断にも,誤りはない。
(3) 相違点3について ア(ア) 甲9公報(特開平1-128471号公報・出願日昭和62年11月13日,公開日平成元年5月22日)には,「構成・・・絶縁基板としての透明石英ガラス1を十分に洗浄した後,活性層となる多結晶シリコン半導体層11を・・・堆積する。・・・しかる後,多結晶半導体層11をパターニングする。・・・多結晶シリコン半導体層11を1,000℃で乾燥酸素中で熱酸化し,熱酸化膜4を・・・形成する。・・・前記ゲート熱酸化膜4をN2またはHe,Arなどの不活性ガスの雰囲気中で・・・熱処理する。」(2頁右上欄14行目〜右下欄4行目),「効果・・・ゲート絶縁膜を熱処理することによって,ゲート絶縁膜の膜質を改良して多結晶シリコン上の熱酸化膜と多結晶シリコンとの界面の固定電荷及び界面準位密度を低減し,動作の安定なオン・オフ比の高い薄膜トランジスタを得ることができる。」(3頁右上欄12行目〜18行目),との記載がある。
(イ) 乙7公報(特開昭63-15468号公報・出願日昭和61年7月8日,公開日昭和63年1月22日)には,「(へ)実施例・・・バイレックスガラス基板1上面に,真空蒸着法により多結晶シリコン薄膜2を蒸着する。・・・この多結晶シリコン薄膜2をパターン化して活性層部を形成する。・・・次いで,常圧CVD法により420℃でゲート絶縁膜となるシリコン酸化膜3をその膜厚が500Åとなるまで推積(判決注・「堆積」の誤記と認める。)し,窒素雰囲気中でアニールする。・・・」(2頁左下欄15行目〜右下欄13行目)),との記載がある。
(ウ) 乙8公報(特開平1-162377号公報・出願日昭和62年12月18日,公開日平成元年6月26日)には,「実施例1 第1図(a)〜(d)は本発明の工程を説明するための断面図である。第1図(a)は絶縁基板1上にP型半導体膜2を形成し,次にN型半導体膜3を形成し,ビームエネルギー3でアニールする工程である。・・・次にP型半導体膜2とN型半導体膜3を550℃N2中で60分アニールし,・・・次にビームエネルギー3でアニールする。・・・この結果,2層構造半導体は溶融し再結晶半導体膜4になる。・・・第1図(c)は,・・・酸素5雰囲気中でにアニールを行う工程である。・・・これにより再結晶半導体膜4のチャネル部表面が薄く酸化され,チャネル部の界面が改善される。
第1図(d)は,ゲート絶縁膜7を堆積し,・・形成する工程である。ゲート絶縁膜7は,・・・ここではSiNxをプラズマCVD法で堆積する。・・・堆積後N2雰囲気中で550℃60分のアニールを行い,ゲート絶縁膜を緻密なものにする。・・・」(2頁左上欄6行目〜右下欄7行目)との記載がある。
イ 上記各工法のこれらの記載によれば,化学的気相反応手段によって形成された(ただし,甲9刊行物のものは異なる。)絶縁被膜を,窒素又は窒素化合物を含む雰囲気中でアニールして改良することは,周知であり,アニールにより絶縁膜の膜質を改良するということが,引用発明にとっても好ましいことは明らかである。このアニールの工程を引用発明に適用することは,絶縁膜を改良する当業者が容易に想到し得ることと認めることができる。
ウ 原告は,甲9公報のものは,絶縁被膜をアニールする段階が,本願発明におけるそれと異なり,これと引用発明とを組み合せても,本願発明の構成に至ることはない,また,乙7公報及び乙8公報を,引用発明に組み合わせることができる事情はない,と主張する。しかし,上記のとおり,窒素雰囲気中で熱アニールすることにより,ゲート絶縁膜を改質できることは技術常識であったのであるから,当業者が,これを,引用例のゲート絶縁膜に適用することができると考え,薄膜トランジスタの特性を高めるためにはそれが望ましいと考えることは,当然である。
原告は,被告が乙7公報及び乙8公報を証拠として提出し,これらに基づく主張をすることは,信義則に反し許されない,と主張する。しかし,前記のとおり,採用できない。
(4) 相違点4について ア(ア) 甲6公報には,「・・・次に前記固相成長したボロンド-プシリコン薄膜1-3をフォトリソグラフィ法によりパターニングして第1図(c )に示すように島状にする。次に,第1図(d)に示されているように,ゲート酸化膜1-5を形成する。」(3頁左上欄3行目〜7行目),との記載がある。
(イ) 甲8公報(特開昭63-133673号公報・出願日昭和61年11月26日,公開日昭和63年6月6日)には,「・・・酸素雰囲気中で熱処理を施すことによって,・・・ゲート酸化膜(3)を再酸化する。・・・このため,イオン注入も含めてゲートのパターニング,レジストの剥離等の工程においてゲート酸化膜(3)に絶縁破壊が生じている場合であっても・・・」(2頁右上欄9行目〜19行目),との記載がある。
(ウ) 甲9公報には,「絶縁基板としての透明石英ガラス1を十分に洗浄した後,活性層となる多結晶シリコン半導体膜11を・・・堆積する。しかる後,多結晶シリコン半導体層11をパターニングする。・・・多結晶シリコン半導体層11を・・・乾燥酸素中で熱酸化し,熱酸化膜4を・・・形成する。・・・前記ゲート熱酸化膜4をN2またはHe,Arなどの・・・雰囲気中で熱処理する。・・・前記熱処理されたゲート熱酸化膜4上にゲート電極6となる多結晶シリコン・・・被覆し,通常のフォトリソグラフィー技術によってパターニングする。」(2頁左下欄8行目〜右下欄9行目),との記載がある。
(エ) 乙1公報には,「[実施例]・・・石英基板1-1上に,・・・非晶質Si膜1-2を堆積させる。・・・続いて,該非晶質Si膜を,400℃〜500℃で熱処理して水素を放出させる。・・・次に前記非晶質シリコン薄膜1-2をフォトリソグラフィ法によりパターニングして・・・島状非晶質シリコン薄膜にする。次に,前記島状非晶質シリコン薄膜1-3を固相成長させる。」(3頁右上欄6行目〜左下欄16行目),との記載がある。
(オ) 乙2公報(特開昭58-61671号公報・出願日昭和56年10月8日,公開日昭和58年4月12日)には,「第1図は従来の一般的な薄膜トランジスターの製造工程を示す断面図である。先ず・・・石英基板1上にCVD酸化膜2を被着しさらに多結晶シリコン膜3を形成する。次に第1図-bで前記多結晶シリコン膜3を写真蝕刻し所定のパターニングを行ない表出している多結晶シリコン膜表面層を熱酸化しゲート膜4を形成し,つづいて基板全面に多結晶シリコン膜5を形成する。」(2頁左上欄1行目〜9行目),との記載がある。
(カ) 乙3公報(特開昭64-65875号公報・出願日昭和62年9月4日,公開日平成元年3月13日)には,「〔従来の技術〕従来の薄膜トランジスタは,・・・絶縁性基板上に11に半導体層の島12を形成したのちに,ゲート膜となる絶縁性膜13を形成し,引続きゲート電極14を形成する。次にゲート電極をマスクに絶縁性膜をエッチング除去するとともに,ソースおよびドレイン領域15を形成する。次に層間絶縁膜となる酸化シリコン膜16等をCVD法等により形成したのちにコンタクトホールを開口し,ソース配線17およびドレイン電極18を形成する。」(1頁右欄12行目〜2頁左上欄5行目),「〔実施例〕・・・絶縁性基板1上に多結晶シリコン膜の島2を形成したのちに,表面を酸化し,ゲート電極となる多結晶シリコン膜4を形成したのちにホトリソグラフィー技術により所望の形状に加工する。次にゲート電極をマスクに絶縁性膜をエッチング除去するとともに,ソース・ドレイン領域に不純物を拡散し,ソースドレイン部を形成した・・・」(2頁左下欄5行目〜16行目),との記載がある。
(キ) 乙5公報には,「〔実施例〕本発明の・・・一例を示す。・・・石英基板101上に多結晶シリコン・・・等のシリコン層102を・・・成膜する工程。・・・上記シリコン層102を500〜1200℃程度で熱処理を行ない,非晶質シリコン又は微結晶の多結晶化・・・を行ない,多結晶シリコン膜102を形成し,パターン形成を行なう工程。(c)はゲート絶縁膜103を熱酸化法により形成し,続いて,ゲート電極104を形成し,該ゲート電極をマスクとしてイオン打込み等の方法により,ソース,ドレイン領域105を形成する工程。・・・」(2頁左下欄8行目〜右下欄4行目),との記載がある。
(ク) 乙7公報には,「・・・バイレックスガラス基板1上面に・・・多結晶シリコン薄膜2を蒸着する。・・・この多結晶薄膜2をパターン化して活性層部を形成する。・・・次いで,・・・ゲート絶縁膜となるシリコン酸化膜3を・・・堆積し,窒素雰囲気中でアニールする。次いで,・・・シリコン酸化膜3の全面に酸素プラズマを照射する。・・・」(2頁右下欄3行目〜15行目) (ケ) 乙8公報には,「2.特許請求の範囲・・・(a)絶縁基板上に非晶質または多結晶P型半導体膜を形成し,その上に非晶質または多結晶のN型半導体を形成した後,エネルギービームで前記半導体膜をアニールして再結晶半導体膜にする工程。(b)前記再結晶半導体膜に,イオン注入若しくは低抵抗半導体によりソース領域とドレイン領域を形成する工程。(c)素子を分離するために,前記再結晶半導体膜を島状にエッチングした後アニールし,次に全面にゲート絶縁膜を堆積する工程・・・」(1頁左欄4行目〜16行目),との記載がある。
イ 上記各公報の以上の記載によると,活性層を島状に形成する工程は,適宜の段階で行うことができるものであることのみならず,結晶化工程の直後に活性層を島状に形成する工程を行う構成(甲6公報,乙5公報)を採り得ること自体も周知であったことが認められる。したがって,相違点(4)も,当業者が容易に想到し得たものと認めることができる。
ウ 原告は,結晶化,島状の活性層の形成,酸化処理の順序に工程を設けることにより,顕著な作用効果を生じるものであること,その具体的な内容として,島状活性層を形成した後に結晶化を行うと,熱アニールの際,基板に収縮が生じるなどして,島状の珪素膜の位置のずれや形状の変化が生じるが,本願発明の構成ではそのようなことはないこと,及び,本願発明では,その第2の工程(島状活性層の形成)の後に第3の工程(酸化処理工程)を行うことにより,酸化珪素膜を,活性層上面だけでなく,側面にも形成できること,を主張する。
しかしながら,原告の上記主張は,本願発明の効果がその構成のものとして予測される効果の比較において顕著であるとするものではなく,本願発明とは異なる構成の発明の効果との比較において顕著であるとするものにすぎない。そして,本願発明の構成を引用発明及び周知技術に基づいて容易に推考できたものであることは,上述のとおりである。そうだとすると,本願発明の効果自体は原告主張のとおりであったとしても,この効果が,本願発明の特許性(進歩性)の根拠となることはあり得ない,という以外にない。原告の上記主張は,主張自体失当である。
3 結論 以上のとおりであるから,原告主張の取消事由は,いずれも理由がなく,その他,審決には,取消しの事由となるべき誤りは認められない。そこで,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 阿部正幸
裁判官 高瀬順久