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関連審決 異議2001-71203
関連ワード 新規性 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  相違点の判断 /  発明の詳細な説明 /  パリ条約 /  優先権 /  共有 /  着想 /  優先日 /  参酌 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  請求の範囲 /  取消決定 /  異議申立 / 
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事件 平成 14年 (行ケ) 470号 特許取消決定取消請求事件
原告 フレセニウスアーゲー
同訴訟代理人弁護士 荒井鐘司
同 弁理士 河野尚孝
同 嶋崎 英一郎
被告 特許庁長官太田信一郎
同指定代理人 門前浩一
同 田中秀夫
同 高橋泰史
同 涌井幸一
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/07/09
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
請求
特許庁が異議2001-71203号事件について平成14年4月23日にした異議の決定を取り消す。
事案の概要
本件は、後記本件各発明の特許権者である原告が、特許庁から、特許取消しの決定を受けたので、同決定の取消しを求めた事案である。
1 争いのない事実 (1) 原告は、平成2年10月3日、ドイツ国への出願に基づくパリ条約による優先権(優先日平成1年10月3日)を主張して、名称を「体外循環全血液からLDLおよび内毒素のような生物巨大分子を除去するための吸着剤」とする発明につき、特許出願をし(特願平2-266144号、以下「本願」という。)、平成12年8月18日、特許権の設定の登録を受けた(特許第3100974号)が、異議申立人Aから、平成13年4月20日、特許異議の申立てがなされた。
特許庁は、同異議申立てを異議2001-71203号事件として審理した上、平成14年4月23日、「特許第3100974号の請求項1,2に係る特許を取り消す。」との決定(以下「本件決定」という。)をし、その謄本は、同年5月20日、原告に送達された。
(2) 本願の請求項1及び同2記載の発明(以下「本件発明1」及び「本件発明2」といい、両者を併せて「本件各発明」という。)の要旨は、本件決定に記載された以下のとおりである。
【請求項1】粒径範囲が50〜250μmであり、除去限界が少なくとも5×106ダルトンであるアクリル酸および/またはメタクリル酸のエステルあるいは(メタ)アクリルアミドのホモ-、コ-またはターポリマーで形成された実質的に球形の非凝集性多孔性担体物質に、スペーサーを介して有機リガンドを共有結合してなることを特徴とする全血液から生物巨大分子を除去するための吸着剤。
【請求項2】スペーサーが、二重結合を含まないことを特徴とする請求項1に記載の吸着剤。
(3) 本件決定は、別添異議の決定書写し記載のとおり、本件各発明が、刊行物1(甲4、特開昭59-102436号公報、以下「引用例1」という。)及び刊行物2(甲5、「ゲル濾過用充填剤TSK-GEL トヨパール」東洋曹達工業株式会社 1982年発行 1〜5頁、以下「引用例2」という。)に記載された発明(以下、それぞれ「引用発明1」及び「引用発明2」という。)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとしたものである。
2 原告の主張の決定取消事由の要点 本件決定は、本件発明1の認定を誤った結果、本件発明1と引用発明1との一致点の認定を誤り(取消事由1)、本件発明1と引用発明1との相違点に関する判断を誤った(取消事由2)ものであるから、違法として取り消されるべきである。
(1) 一致点の認定誤り(取消事由1)について ア 本件決定が、本件発明1と引用発明1について、「両者は、粒径範囲が50〜100μmであり」(甲2第5頁2〜3行)として、両発明で用いられる担体物質の粒径が一致するとしたことは、本件発明1の本質を正しく把握しないものであって、誤りである。
イ すなわち、本件各発明に係る願書に添付した明細書(甲1、以下「本件明細書」という。)には、従来技術として、「しかしながら、意外にも、一見、全血液に対して使用できると見られる50μmを超える粒径を有する、共有結合スペーサーおよびそれに共有結合したリガンド、例えばポリカルボン酸、例えばポリアクリル酸またはポリミキシンBを有する前記した担体物質は、例えば少なくとも5×106ダルトン(リボ蛋白で測定)の除去限界を要するLDLや内毒素の分離を目的として用いられた場合には、全く望ましくない血小板の凝集が起こることから、
このような生物巨大分子の除去の為には適さないということが判明したのである。」と記載されるように、本件発明1は、粒径が50〜100μmのものでは、
血小板の凝集が起こり、全血液から生物巨大分子を除去するには不十分な効果しか得られないという独自の知見に基づいて発明されたものであるから、粒径範囲が50〜100μmのものは除かれている。
つまり、明細書中で従来技術として記載されているものを、そのまま包含するように特許請求の範囲を規定することは、常識的に考えても不自然であり、
そのような特許請求の範囲の規定で特許査定されることはあり得ないというべきである。したがって、特許請求の範囲は、明細書に開示されている従来技術が含まれないように解釈されるべきものといえる。
そして、本件発明1は、同じ「ToyopearlR 」(トヨパール)でも、引用発明2に示されるような、粒子径等級が「S,F,C」(20〜100μm)ではなく、「SC」(スーパー粗粒)のもの、すなわち、本件明細書の従来の技術で確認された粒子条件である「50μmより小さな粒子を含まず、100μmよりも大きな粒子を含む」粒子グループのものを用いることによって、実現されたものである。
ウ 以上のとおり、本件発明1と引用発明1との一致点から、粒径範囲が50〜100μmであるものは除かれ、この点において両者は相違することとなる。
(2) 相違点の判断誤り(取消事由2)について ア 本件決定は、本件発明1の担体物質が実質的に球形で非凝集性であるのに対し引用発明1ではこの点の特定がないとの相違点(当事者間に争いがない。)の判断において、「担体物質の粒径が特定されていることからみて、常識的には刊行物1に記載された発明における担体物質の形状は粒状であると認められる。そして、一般に、粒状なる形状は球形に近い形状であるといえる。さらに、刊行物2には、高分子たんぱくのゲル濾過用分離剤の形状が球状で非凝集性であることが記載されている。これらのことから、刊行物1に記載された発明において、担体物質の形状を刊行物2に記載の実質的に球形の非凝集性のものとすることは、当業者が容易に想到し得たことであると認められる。」(甲2第5頁11〜20行)と判断したことは誤りである。
イ 確かに、引用発明1の実施例1で用いるとされた「ToyopearlR(トヨパール)」(HW55・HW60・HW65・HW75)は、粒径50〜100μmとされ、粒径が特定されているから、担体物質の形状は粒状であると常識的にはいえる。しかし、「近い」という曖昧な概念を用いて、一般に、粒状なる形状は球形に近い形状であるといえるというとき、あたかもほとんど球形であるかのような曲解を招きかねない危険性が生ずる。
一般に、色々な技術分野で粉粒体を用いるとき、粒径を特定することはよくあるが、粉粒体の形状は常に球形に近い形状であるとは限らず、角を有するもの等、不定形の粉粒体が用いられている。
本件明細書に、「担体物質として市販のToyopearlR76 SC(「ToyopearlR75 SC」の誤記である。)を用いており、これは球状でない点が上記の製品とは異なっている。更に、同じ粒径で不整状態(第4a図参照)の場合(粒子凝集の結果として)も示した。」と記載されているように、ToyopearlR(トヨパール)にも、形状が非球形で凝集性のものもある。
本件決定の認定は、引用発明1の実施例1で用いるとされた「ToyopearlR(トヨパール)」(HW55・HW60・HW65・HW75)に関しては妥当するが、それ以外のトヨパールに関しては、妥当するか否か検討し直す必要があり、正当なものとはいえない。
ウ また、本件決定が、「この担体物質の形状を実質的に球形の非凝集性のものとしたことにより当業者が予測し得ない格別顕著な効果が奏されたものと認められない。」(甲2第5頁21〜23行)と判断したことも誤りである。
エ すなわち、引用発明1は、本件発明1が新たに独自に知見した、「担体物質の粒径・形状・性質(凝集性であるか非凝集性であるか)によっては、全く望ましくない血小板の凝集が起こる」現象に気づいておらず、したがって、それらの現象が起こらないような、ないし現象の出現する程度を軽減することができるような、担体物質としては何があるのか、どのような条件を満たすものが好ましいのかに関して、検討もなされていないし示唆もされていない。引用発明2についても同様である。
本件発明1は、このように各引用発明に示唆されていない「生物巨大分子を除去するに際して血小板の凝集を起こらないような、ないし現象の出現する程度を軽減することができるような、担体物質を選定する」という課題を追求し、完成したものであるから、新規性進歩性を有している。
3 被告の反論の要点 本件決定の認定・判断は正当であり、原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
(1) 取消事由1について ア 本件明細書の請求項1には、多孔性担体物質の形状に関して、「粒径範囲が50〜250μmであり、・・・実質的に球形の非凝集性多孔性担体物質」と記載されており、この記載は「実質的に球形」とあるように、物質の個々の粒状の形状を特定するものであり、この物質の個々の粒径が50〜250μmの範囲内にあることが一義的に明確に理解できる。また、吸着剤として担体物質である粒子を複数個用いる場合であっても、上記記載が明確に理解できる以上、全ての粒子が50〜250μmの範囲内にあると理解すべきであるから、本件決定の認定に誤りはない。
イ 原告は、引用発明1における「トヨパール」が、いずれも、粒径50〜100μmとされており、本件発明1において”適さない”として従来例に示されるそのものであるから、粒径範囲が50〜100μmのものは本件発明1から除かれると主張し、これらの主張を前提として、本件発明1と引用発明1が、粒径範囲において相違する旨主張する。
しかし、前提となる原告の主張は、特許請求の範囲の記載に基づかないもので、失当である。引用発明1におけるトヨパールは、「粒径50〜100μm」の範囲の粒径を有する粒子の混合物であるため、個々の粒子が当然に粒径50μm〜250μmという条件を満たすことは明らかであり、本件決定が、本件発明1と引用発明1の担体物質粒子(トヨパール)が粒径範囲において一致するとしたことに誤りはない。
(2) 取消事由2について ア 原告は、トヨパールにも形状が非球形で凝集性であるものが存在することを根拠に、本件決定の認定が曲解である旨主張するが、物体の大きさを規定する際に、長方形や長円形の物体であれば、普通は長径及び短径の2つのサイズで規定されることを考慮すると、引用発明1の担体物質のような、粒状であってただ1つの径で規定されているものは、完全な球といえないまでも長径と短径の差が小さく「球に近い形状」といえる。
したがって、本件決定の認定に誤りはない。
イ 原告は、本件各発明の技術的課題である血小板の凝集という現象が起らない、ないし起る程度を軽減するということについて、各引用発明に記載がない旨主張する。
確かに、各引用発明において、そのような課題は認識されていないが、
引用例2には「トヨパールは、写真(図3)のように球状をしています。」と記載され、特定のグレードのもののみが球形であるとはされていないこと、また、代表的なものを写真として掲載するのが通常であることからすると、写真(図3)に示されたFグレードのみならず、他のグレード、例えば、粒径50〜100μmであるCグレードのものであっても、球状でかつ非凝集性の担体物質が概ね多くを占めていることが推察される。そして、引用例2には、トヨパールが、「酵素等の高分子たんぱくの分離に使用することが比較的多く、好評を博しています。」と記載されているから、引用発明1において、その担体物質として、引用発明2に記載されているような球状で非凝集性のものを使用することは、当業者が普通に着想することである。
したがって、各引用発明に上記の課題の認識がないとしても、本件発明1における進歩性が肯定されるわけではない。
当裁判所の判断
1 一致点の認定誤り(取消事由1)について 原告は、本件発明1について、粒径が50〜100μmのものでは、血小板の凝集が起こり、全血液から生物巨大分子を除去するには不十分な効果しか得られないという独自の知見に基づいて発明されたものであるから、粒径範囲が50〜100μmのものは除かれている旨主張し、本件決定が、この点において引用発明1と一致すると認定したことが誤りであると主張する。
しかし、本件発明1の特許請求の範囲には、「粒径範囲が50〜250μmであり」と一義的かつ明確に記載されており、原告の主張は、この自ら出願した発明の特許請求の範囲の記載を否定するものであって、明らかに失当である(なお、
本件明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌しても、原告の上記主張を採用すべき特段の事情の存在も認められない。)から、その余の点について検討するまでもなく、到底これを採用することはできない。
したがって、本件発明1と引用発明1との一致点の認定に誤りがあるとする原告の主張も、これを採用する余地はない。
2 相違点の判断誤り(取消事由2)について (1) 引用発明1の実施例1で用いられるトヨパール(HW55,HW60,HW65,HW75)が、いずれも粒径が50〜100μmであり、球形で非凝集性のものであることは、当事者間に争いがない。
原告は、市販のトヨパールには、形状が非球形で凝集性のものもあるから、本件決定が、引用発明1における担体物質の形状が粒状で球形に近い形状であると認定したことが誤りであると主張する。
しかし、上記のとおり、引用発明1において、担体物質として形状が球形で非凝集性のものを用いることが開示されていることは、当事者間に争いがないのであるから、市販の該製品にこれとは異なる形状・性質のものがあるからといって、引用発明1についての上記認定が誤りとなるものでないことは明らかであり、
原告の主張は、それ自体失当なものといわなければならない。
したがって、引用発明1において、担体物質の形状を引用発明2に開示されるような実質的に球形の非凝集性のものとすることは、当業者が容易に想到し得たことであると認められる。
(2) 原告は、本件各発明の「生物巨大分子を除去するに際して血小板の凝集を起こらないような、ないし現象の出現する程度を軽減することができるような、担体物質を選定する」という技術課題が、各引用発明に開示されておらず、この点で本件発明1が新規性進歩性を有していると主張する。
確かに、各引用発明には、血小板の凝集の防止又は軽減というような技術課題が明示されてはいないものの、引用発明1が、血液中から生物巨大分子であるリポ蛋白、特に低密度リポ蛋白を除去する吸着剤であることは、当事者間に争いがなく、引用発明1をこの本来の用途に用いれば、原告主張のような効果を奏するものと推認されるところである。
したがって、前示のとおり、各引用発明から、本件発明1の構成が容易に想到されるものである以上、原告主張のような技術課題が明示されていないことをもって本件発明1の進歩性を裏付けることはできないから、原告の主張を採用することはできない。
(3) また、本件発明2と引用発明1の相違点は、本件発明1と引用発明1の相違点と同様である(原告はこの点を明らかに争わない。)から、本件発明2も、当業者が各引用発明から容易に想到し得たものであると認められる。
そうすると、本件各発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものとなり、これと同旨の本件決定に誤りはなく、その他本件決定にこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
3 結論 よって、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 北山元章
裁判官 青柳馨
裁判官 清水節