関連審決 | 不服2000-13194 |
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関連ワード | 進歩性(29条2項) / 同一技術分野(同一の技術分野) / 容易に発明 / 相違点の判断 / 参酌 / 置き換え / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 拒絶査定 / 請求の範囲 / 変更 / 独立特許要件 / |
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事件 |
平成
14年
(行ケ)
598号
審決取消請求事件
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原告 株式会社プロスパークリエイティブ 訴訟代理人弁理士 伊丹勝、千且和也、田村和彦、大谷晴彦 被告 特許庁長官今井康夫 指定代理人 辻本泰隆、小曳満昭、徳永民雄、大橋信彦、林栄二 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2003/07/15 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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原告の求めた裁判
特許庁が不服2000-13194号事件について平成14年10月21日にした審決を取り消す、との判決。 |
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事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 原告は、平成8年12月6日、名称を「商品販売システム、その情報通信方法およびその記録媒体」(平成12年4月4日付け手続補正により、名称を「商品販売システム、その情報通信方法およびその端末装置」と補正)につき、特許出願(特願平8-327242号)をし、平成12年7月10日に拒絶査定を受けたので、 平成12年8月21日に審判の請求(不服2000-13194号)をし、平成12年9月20日付け手続補正書により本願明細書について特許法17条の2第1項3号に基づく手続補正(本件補正)をしたが、平成14年10月21日、「平成12年9月20日付けの手続補正を却下する。」との決定(補正却下決定)とともに、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決がされた(平成14年11月1日に謄本送達。)。 2 本願発明の要旨 (1) 本件補正前 本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(「本願発明」という。)は、平成12年4月4日付け手続補正書の特許請求の範囲によれば、次のとおりである。 「商品の購入に関する商品関連情報と注文を行うための指示情報とを有する案内情報を広域ネットワーク上に提供可能な情報サービス装置と、 前記広域ネットワークに接続可能な端末装置であって、前記案内情報を前記広域ネットワークを介して前記情報サービス装置から取得する第1通信手段と、当該取得された案内情報の商品関連情報および注文の指示のための特定情報を表示する表示手段と、前記特定情報を前記表示手段の表示画面上で指定するポインティング手段と、注文に関連する注文情報を入力する入力手段と、前記ポインティング手段による指定に応じて前記入力手段からの注文情報の入力を許可する制御手段と、当該入力された注文情報を前記広域ネットワークとは別の通信ネットワークを介して送信する第2通信手段とを有する端末装置と、 前記別の通信ネットワークを介して前記注文情報を受信する注文受け付け装置 とを具えたことを特徴とする商品販売システム。」 (2) 本件補正後 平成12年9月20日付け手続補正書(甲5)の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(「補正発明」という。)は、以下のとおりである(下線は補正箇所)。 「商品の購入に関する商品関連情報と注文を行うための指示情報とを有する案内情報を広域ネットワーク上に提供可能な情報サービス装置と、 前記広域ネットワークに接続可能な端末装置であって、前記案内情報を前記広域ネットワークを介して前記情報サービス装置から取得する第1通信手段と、当該取得された案内情報の商品関連情報および注文の指示のための特定情報を表示する表示手段と、前記特定情報を前記表示手段の表示画面上で指定するポインティング手段と、注文に関連する注文情報を入力する入力手段と、前記ポインティング手段による指定に応じて前記入力手段からの注文情報の入力を許可する制御手段と、当該入力された注文情報を登録 する 操作 により 前記広域ネットワークとは別の通信ネットワークと接続 し、前記注文情報 を前記別 の通信 ネットワーク を介して送信する第2通信手段とを有する端末装置と、 前記別の通信ネットワークを介して前記注文情報を受信する注文受け付け装置とを具えたことを特徴とする商品販売システム。」 3 補正却下決定の要旨 (1) 補正発明は、以下の(2)のとおり、引用例1(「バーチャル空間でお買い物-エレクトロニック・コマース最前線-」、日経MAC 95.11、日経BP社、1995年11月15日発行、pp.206-211、甲6)及び引用例2(特開平7-307813号公報、甲7)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、却下すべきものである。 (2) 補正発明と引用例1記載の発明との対比及び相違点についての判断 @.補正発明と引用例1記載の発明とを対比する。 引用例1記載の発明の「商品写真や説明、価格の情報」、「注文を行うためのボタンや文字列等の情報」、「サイバー・モールの情報は、それぞれ補正発明の「商品関連情報」、「注文を行うための指示情報」及び「注文の指示のための特定情報」、「案内情報」に相当する。 補正発明の「注文情報」は、請求項1の記載からその技術的意味を特定できないので、願書に最初に添付した明細書の記載を参酌すると、請求項2の「前記注文情報の中にはクレジットカードのID番号が含まれる」の記載及び段落【0003】、段落【0065】、段落【0069】の記載からみて、該注文情報は商品関連の情報と商品購入者に関する情報(クレジットカードのID番号を含む)を含んだものを意味していると解される。一方、引用例1記載の発明の「注文に関する情報」は、注文をInternetで実施し、クレジット・カード番号をInternetとは別の通信ネットワークである電話回線で送信することが記載されていることから、補正発明の「注文情報」と引用例1記載の発明の「注文に関する情報」は、クレジットカードのID番号を含むか含まないかの点を除いて、共通するものと認められる。 引用例1記載の発明の「第1の通信手段」、「表示手段」、「ポインティング手段」、「入力手段」、「パソコン」は、その機能からみてそれぞれ補正発明の「第1通信手段」、「表示手段」、「ポインティング手段」、「入力手段」、「端末装置」に相当する。 引用例1の注文に関する情報を直接入力する画面(図6)は、ユーザーが気に入った商品を見つけて、購入をする場合に表示される画面であって、ポインティング手段による指定に応じて当該画面が表示されるので、引用例1記載の発明の「制御手段」は、ポインティング手段による指定に応じて注文に関する情報の入力を許可する処理を行っていると認められるから、その機能からみて、補正発明の「制御手段」に相当する。 引用例1記載の発明の「WWWサーバー」は、その機能からみて補正発明の「情報サービス装置」に相当すると共に、注文情報を受信する点において、引用例1記載の発明の「WWWサーバー」と補正発明の「注文受け付け装置」は共通する。 そして、引用例1記載の発明の「エレクトロニック・コマースのシステム」は、 補正発明の「商品販売システム」に相当する。 よって、両者の一致点、相違点は次のとおりである。 [一致点]「商品の購入に関する商品関連情報と注文を行うための指示情報とを有する案内情報を広域ネットワーク上に提供可能な情報サービス装置と、 前記広域ネットワークに接続可能な端末装置であって、前記案内情報を前記広域ネットワークを介して前記情報サービス装置から取得する第1通信手段と、当該取得された案内情報の商品関連情報および注文の指示のための特定情報を表示する表示手段と、前記特定情報を前記表示手段の表示画面上で指定するポインティング手段と、注文に関連する注文情報を入力する入力手段と、前記ポインティング手段による指定に応じて前記入力手段からの注文情報の入力を許可する制御手段とを有する端末装置と、 前記注文情報を受信する注文受け付け装置とを具えたことを特徴とする商品販売システム。」[相違点] 補正発明の注文情報は、クレジットカードのID番号を含む情報であり、補正発明の端末装置は入力された注文情報を登録する操作により広域ネットワークとは別の通信ネットワークと接続し、前記注文情報を前記別の通信ネットワークを介して送信する第2通信手段とを有し、補正発明の注文受け付け装置は、前記別の通信ネットワークを介して前記注文情報を受信するのに対して、引用例1記載の発明の注文情報は、クレジットカードのID番号を含まない情報であり、引用例1記載の発明の端末装置は注文情報を広域ネットワークを介して送信し、引用例1記載の発明の注文受け付け装置は前記注文情報を広域ネットワークを介して受信し、クレジットカードのID番号はFAX等を介して送信する点。 A.上記の相違点について検討する。 引用例2には、通信販売サービスに用いる通信端末において、利用者の操作により、案内情報を受信する通信ネットワークとは別の通信ネットワークである電話回線と接続し、クレジットカード番号等の利用者情報を商品注文を示すデータと共に通信販売受付センタに送る通信手段を備えることが記載されており、引用例1には、 注文をInternetで実施し、クレジットカード番号をInternetとは別の通信ネットワークである電話回線で送信することに加えて、決済を電子化できれば取引に関わる作業が簡略化できると記載があるから、引用例1記載の発明に引用例2記載の発明を適用して、引用例1記載の発明の端末装置を、利用者の操作により、広域ネットワークとは別の通信ネットワークと接続し、クレジットカードのID番号を含む注文情報を前記別の通信ネットワークを介して送信するように構成することは当業者が容易に推考できたものであり、その際に、利用者の操作を、入力された注文情報を登録する操作とすることも、当業者が容易に推考できたものと認める。 そして、補正発明の効果は、引用例1記載の発明及び引用例2記載の発明の効果から予測できる程度のものであり、格別のものとは認められない。 4 審決の要旨 「平成12年9月20日付け手続補正書でなされた手続補正は、本審決と同日付けで、決定をもって却下された。」として、本願発明の要旨を認定した上、本願発明は、引用例1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、とした。 |
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原告主張の審決取消事由
補正却下決定は、引用例2記載の発明の認定を誤り(取消事由1)、補正発明と引用例1記載の発明との相違点についての判断を誤り(取消事由2)、補正発明の有利な効果を看過し(取消事由3)、その結果、補正発明の独立特許要件の判断を誤った違法がある。審決は、この違法な補正却下決定を前提としたため、本願発明の要旨の認定を誤り、本願発明の進歩性を否定したものであるから、取り消されるべきである。 1 取消事由1(引用例2記載の発明の認定の誤り) (1) 補正却下決定は、「引用例2には、通信販売サービスに用いる通信端末において、利用者の操作により、案内情報を受信する通信ネットワークとは別の通信ネットワークである電話回線と接続し、クレジットカード番号等の利用者情報を商品注文を示すデータと共に送る通信手段を備えることが記載されており」と認定するが、誤りである。 (2) 引用例2記載の発明では、利用者の操作により接続される電話回線で「商品の詳細情報」を受信し、閲覧し、利用者がそれを確認して購入の意思があれば注文スイッチの押下を行っており、この電話回線で受信される「商品の詳細情報」こそが「案内情報」であることが明らかである。したがって、引用例2では、 「案内情報」を、利用者情報と商品注文を示すデータとを送る通信回線(電話回線)と同じ通信ネットワークから受けていることになる。 これに対し、補正発明においては、「別の通信ネットワーク」とは、「注文情報」を「注文受付装置」に送信するためのネットワークであり、これは、既に商品選択が完了し、注文情報を登録する操作により接続されるものであるから、「案内情報」を受信する通信ネットワークとは別のものであることが明らかである。 補正却下決定は、商品の詳細情報という「案内情報」を受信する電話回線を、 「案内情報を受信する通信ネットワークと別の通信ネットワークである電話回線」と誤認したものである。 2 取消事由2(相違点の判断の誤り) (1) 補正却下決定は、「後者(引用例1)に引用例2の記載を適用して、後者の端末装置を、利用者の操作により、広域ネットワークとは別の通信ネットワークと接続し、クレジットカードのID番号を含む注文情報を前記別の通信ネットワークを介して送信するように構成することは、当業者が容易に推考できたものであり、その際に、利用者の操作を、入力された注文情報を登録する操作とすることも、当業者が容易に推考できたものと認める。」と判断するが、誤りである。 (2) 引用例2のシステムでは、発呼スイッチの押下による電気通信網(電話回線)への接続に続く商品の詳細情報の受信は、購入商品の特定のために必須であり、その商品の詳細情報に基づいて注文操作が行われるので、引用例1記載の発明に引用例2記載の発明を適用しても、@広域ネットワークによる案内情報の受信閲覧をし、その後に、A利用者の発呼スイッチの操作により、広域ネットワークとは別の通信ネットワークに接続し、通信販売受付センタから商品の詳細情報を受信し、さらに、B購入の意思があれば、注文する商品の個数を入力し、注文スイッチの操作により電気通信網を介して注文情報を通信販売受付センタに送信するという構成になるにすぎない。 すなわち、上記組合せでは、Aの発呼スイッチの操作(補正発明の別の通信ネットワークに接続する操作に対応)と、Bの注文スイッチの操作(補正発明の送信操作に対応)という、2回の操作が必要になるのである(これに対し、補正発明では、接続操作と送信操作を登録という操作で同時に行っている。)。 (3) また、引用例2記載の発明は、前記のとおり、注文スイッチの操作により、注文と決済とを同時に行うものであるから、そもそも注文操作の手続の中から、決済手続の部分のみを取り出して考えることは困難である。 仮に決済手続の部分のみを取り出し、決済手続のみを電気通信網を介して行おうとした場合でも、注文情報の送信操作と注文スイッチの操作とは同時に行うことができない。注文情報の送信操作、発呼スイッチの操作及び注文スイッチの操作の全てを1つの「注文情報を登録する操作」に置き換えて補正発明のように構成することは、物理的に不可能であり、当業者が容易に推考し得たものということはできない。 以上のとおり、引用例1記載の発明と引用例2記載の発明を組み合わせても、補正発明の構成には至らない。 3 取消事由3(有利な効果の看過) 補正却下決定は、補正発明の効果は、引用例1、2記載の発明の効果から予測できる程度のものであると判断しているが、この判断も誤りである。 補正発明は、商品情報の閲覧から注文、決済までの全てを広域ネットワーク上で行うのと同様の操作性及びリアルタイム性を維持しつつ、セキュリティーの問題を解決することができる、別の通信ネットワークの通信トラフィックの集中を避けることができる、という引用例1に引用例2を組み合わせたものからは得ることのできない効果を奏するのに、審決は、これを看過している。 |
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被告の反論の要点
1 取消事由1に対して (1) 引用例2に記載された発明においては、通信販売番組の放送信号中の「通信販売情報」を、補正発明でいう「案内情報」に相当するものと考えることができるのであり、そのように考えれば、引用例2記載発明は、「案内情報」は放送という通信ネットワークで受信し、クレジットカード番号等の利用者情報は電話回線という別の通信ネットワークで送信するものといえるから、補正却下決定における引用例2記載発明の認定に、原告主張のような誤りはない。 (2) 引用例2における通信販売番組の放送信号中の情報を、補正発明でいう「案内情報」に相当するものと考えることができる理由は以下のとおりである。 補正発明の「案内情報」は、「商品の購入に関する商品関連情報」と「注文を行うための指示情報」とを有する情報であるところ(特許請求の範囲請求項1の記載)、引用例2における放送信号中の「通信販売情報」は、その段落【0007】にも記載されるように、「通信販売受付センタの電話番号」、「商品番号」、「販売期間」等を含む情報であり、利用者が注文を行う際に必要な情報であるから、本願補正発明の「注文を行うための指示情報」に相当するということができる(なお、仮に、補正発明の「注文を行うための指示情報」は、利用者がなすべき操作の案内情報であり、引用例2の「通信販売情報」とは異なるものであると考える余地があったとしても、引用例2に示されるような通信販売においては、利用者がなすべき操作の案内情報は放送信号中の番組情報中に含まれているのが通常であるから、引用例2の放送信号中に「注文を行うための指示情報」が含まれていることには変わりがない。)。また、引用例2の視聴者が視聴する番組情報は、商品がどのようなものであるのかを伝えるものであり、視聴者がそれによって欲しい商品を見つけるものであるから、補正発明の「商品関連情報」に相当することは明らかである。したがって、引用例2における放送信号中には、「注文を行うための指示情報」に相当する情報と、「商品関連情報」に相当する情報とが含まれているのであり、これが補正発明でいう「案内情報」に相当するのは明らかである。 (3) 原告は、補正発明の「案内情報」に相当するものは、引用例2においては電話回線を通じて受信される「商品の詳細情報」であると主張するが、この「詳細情報」は、「注文を行うための指示情報」を有するものではないから、補正発明でいう「案内情報」には相当しないものである。 仮に、引用例2の「商品の詳細情報」が本願補正発明でいう「案内情報」に相当するといい得る余地があったとしても、引用例2からは、「商品の詳細情報」を「案内情報」に対応させた発明も把握可能であるのであるから、「放送信号中の情報」を「案内情報」に対応させた発明が把握できるとした補正却下決定の認定の正当性はなんら影響を受けない。 2 取消事由2(相違点の判断の誤り)に対して (1) 原告の主張は、引用例2のシステムにおいて商品の詳細情報の受信が必須であるとの前提において失当である。 (2) 引用例2からは、商品の詳細情報に基づいて注文操作を行う発明ではなく、「利用者の操作により、案内情報を受信する通信ネットワークとは別の通信ネットワークである電話回線と接続し、クレジットカード番号等の利用者情報を商品注文を示すデータと共に送る通信手段を備え」た発明を把握できる(このことは、 引用例2と類似の通信販売システムであって、1回の操作で電話回線へ切り替えた後に、商品の詳細情報の受信を行うことなく、情報を送信するものもよく知られている事実(乙1、2)からも明らかである。)から、そのような発明を引用例1記載の発明に適用し、必要に応じた設計変更を行えば、補正発明が得られるのは明らかである。 さらに詳述すれば、引用例1には、補正却下決定の「2.引用例記載の発明(引用例1)(ウ)」のとおり、「決済まで電子化できれば、取引に関わる作業が簡略化でき、余計なコストを省くことができる。」との記載もあり、注文及び決済の電子化を実現するために、クレジットカードIDを端末装置と異なるFAXで送信している点を、決済まで電子化できれば、取引に関わる作業が簡略化できることが示唆されている。そこで、このような課題を解決すべき状況において、引用例1記載の発明に引用例2記載の発明を適用すれば、電気通信網による商品の詳細情報の受信・閲覧を省いた構成が実現されるのは明らかである。その際、発呼スイッチ操作と注文スイッチ操作という2回のスイッチ操作を1回の注文情報の登録操作で行うことは、当業者にとっては何の困難もない設計変更である(注文スイッチ操作で電話回線への接続及び情報の送信を行うことは、上記乙1、2にも開示されている。)。 3 有利な効果の看過(取消事由3)に対して 引用例1記載発明に引用例2記載発明を適用して所要の設計変更を行えば本願補正発明が得られることは、上記2(2)で述べたとおりであり、そのようにして得られた発明が、原告主張のような作用効果を奏し得ることは、その構成から自明である。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(引用例1記載の発明の認定の誤り)について (1) 原告は、補正却下決定の「引用例2には、通信販売サービスに用いる通信端末において、利用者の操作により、案内情報を受信する通信ネットワークとは別の通信ネットワークである電話回線と接続し、クレジットカード番号等の利用者情報を商品注文を示すデータと共に通信販売受付センタに送る通信手段を備えることが記載されており」との認定が誤りであるとし、その理由として、引用例2のものでは、利用者が通信販売受付センタを呼び出した後電話回線を通じて受信する「商品の詳細情報」こそが補正発明にいう「案内情報」に対応するものであるから、案内情報を受信する通信ネットワークと電話回線が「別の通信ネットワーク」であるとはいえないと主張する。 (2) しかしながら、引用例2(甲7)には、「(10) 通信販売受付センタ1は、通信端末6から送られた商品番号から商品の詳細データを検索し、そのデータを映像端末6に送る。商品の詳細データとは、例えば商品の外観の映像及び商品を説明する音声やバックグラウンド・ミュージックである。(11) 通信端末6の制御部66は、通信販売受付センタ1から送られてきた商品の外観映像や商品説明音声をディスプレイハンドセット65に表示・出力する。(12) 利用者は、それを視聴し、 購入の意思があれば、通信端末6の注文スイッチ64を押す。注文スイッチ64にはテンキーなども含まれ、個数なども入力する。注文スイッチ64が押されると、 通信端末6は、通信販売受付センタ1に商品注文を示すデータを送る。」(4頁左欄18行〜28行)と記載されており、そこでいう商品の詳細データ(「商品の詳細情報」)について、他に商品の注文を選択するためのボタンスイッチを含む情報であるとも、商品の注文を選択するためのテンキーに対応する情報を含むものであるとも記載されていない。 そうすると、引用例2における「商品の詳細情報」は、補正発明にいう「商品の購入に関する商品関連情報」ではあるが、「注文を行うための指示情報」まで含むものとは認められないので、補正発明の「案内情報」に相当するということはできない。したがって、引用例2における「商品の詳細情報」が補正発明の「案内情報」であることを前提として、引用例2記載の発明は「案内情報」の受信と注文情報の送信とを同じ通信ネットワークを介して行うものであるという原告の主張は、 その前提を欠くものであって、失当である。 (3) ところで、引用例2(甲7)においては、通信販売番組の放送信号中に「通信販売情報」が含まれているところ、この放送信号中の情報は、補正発明でいう「案内情報」のうち、「商品の購入に関する商品関連情報」は含むものであるが、注文を行うための指示情報まで含むものではないと認められる。すなわち、引用例2(甲7)の「【作用】例えば通信販売サービスの場合、テレビやラジオ番組の放送信号中に、通信販売受付センタの電話番号やその時点で紹介している商品番号、その商品の販売期間などの通信販売情報を入れておき、受信した放送信号中の通信販売情報を抽出して通信端末にそれら情報を自動設定する。これにより、通信端末の発呼スイッチを押すだけで自動的に通信販売受付センタに正確に電話がかかる。また、今放送している商品番号を自動的に通信販売受付センタに送ることにより、商品選択を自動化できる。即ち、利用者は、テレビまたはラジオ番組中で欲しい商品を見つけたならば、その番組を視聴中または視聴直後に通信端末のスイッチを押すだけで、利用者宅の通信端末からその商品のさらに詳細な情報の入手と共に、もし購入したいなら続けて購入手続きを行うことができる。」(【0007】)との記載によれば、テレビやラジオ番組からの情報が「商品の購入に関する商品関連情報」であることは論をまたないが、上記記載にいう「通信販売情報」は「通信販売受付センタの電話番号やその時点で紹介している商品番号、その商品の販売期間など」であるから、商品の注文を選択するためのボタンスイッチを含む情報である「注文を行うための指示情報」であるとは認められない。 しかし、引用例2の放送信号が「案内情報」のうちの一方である「商品の購入に関する商品関連情報」しか含まないとしても、引用例2においては、「注文情報」を送信する通信ネットワークである電話通信網を通じて「案内情報」を受信することはないのであるから、注文情報を送信する通信ネットワーク(電話通信)が「案内情報」を提供する「広域ネットワーク」とが別のものであることは明らかである。 以上のとおり、引用例2では、電話通信網を介して「案内情報」を受信することがないのであるから、補正却下決定が引用例2には「案内情報を受信する通信ネットワークとは別の通信ネットワークである電話回線と接続し、クレジットカード番号等の利用者情報を商品注文を示すデータと共に送る通信手段を備えることが記載されており」と認定したことに誤りはない。 2 取消事由2(相違点の判断の誤り)について (1) 原告は、補正却下決定の「引用例1記載の発明に引用例2の記載を適用して、引用例2の端末装置を、利用者の操作により、広域ネットワークとは別の通信ネットワークと接続し、クレジットカードのID番号を含む注文情報を前記別の通信ネットワークを介して送信するようにすることは、当業者が容易に推考できたものであり、その際に、利用者の操作を、入力された注文情報を登録する操作とすることも当業者が容易に推考できたものである。」との判断は誤りであると主張する。 (2) 引用例2(甲7)の実施例に関する下記ア、イの記載によれば、引用例2には、補正却下決定が認定したとおり、「通信端末6は、通信販売情報抽出器5を内蔵する構成のものでもよく、網インタフェース62、発呼スイッチ63、制御部66などで構成される。利用者は、欲しい商品を見つけたとき、通信端末6の発呼スイッチ63を押す。発呼スイッチ63が押されると、通信端末6の制御部66は、網インタフェース62を通じて通信販売受付センタ1に電話をかけ、通信販売受付センタ1との接続を確認した後、注文スイッチ64が押されると、利用者の名前、住所、利用者番号、クレジットカード番号等の利用者情報を商品注文を示すデータと共に通信販売受付センタ1に送る。」という発明が記載されていると認められる(以下の引用文の下線は判決)。 ア 「通信端末6は、メモリ61、網 インタフェース 62 、発呼 スイッチ 63、注文スイッチ64、ディスプレイハンドセット65、制御部 66 などで 構成 される 。・・・なお、通信販売情報抽出器 5が該通信端末 6に内蔵 されてもよい 。」(【0012】) イ 「次に、図1の構成での通信販売サービスの提供の様子を、図3サービス提供手順にもとづいて説明する。 (1) 通信販売受付センタ1は、センタの電話番号、テレビ放送で紹介する商品の番号、その商品の販売期間などからなる通信販売情報を、あらかじめ放送局2に連絡する。 (2) 放送局2は、通信販売受付センタ1から連絡された通信販売情報の符号化データを図2のように作成して映像信号中に挿入し、放送する。 (3) 利用者は、自宅のテレビ受像機4で放送局2より放送されるテレビ番組を受信し視聴する。テレビ受像機4で現在受信している映像信号は、通信販売情報抽出器5に送られる。 (4) 通信販売情報抽出器5は、映像信号中から通信販売情報符号化データを抽出し復号し、通信販売受付センタ1の電話番号、商品番号、販売期間などの通信販売情報符号化データを映像端末6に送る。 (5) 通信端末6は、通信販売情報抽出器5から送られたデータをメモリ61に記録すると共に、該通信販売情報が有効であることを同メモリ61に記録する。 (6) 利用者は、テレビ受像機4で視聴しているテレビ番組中で欲 しい 商品 を見つけたとき 、通信端末 6の発呼 スイッチ 63 を押す。 (7) 発呼 スイッチ 63 が押されると 、映(「 通」の誤記 )信端末 6の制御部 66 は時計等を内蔵し、まず、メモリ61を参照することにより通信販売情報が有効かどうか及び通信販売期間中かどうかチェックし、それらが共に有効である場合、メモリ61から通信販売受付センタ1の電話番号を読み取り、網インタフェース 62 を通じて 、その番号の通信販売受付センタ1に電話 をかける 。 (8) 通信販売受付センタ1は、通信端末6からの呼を受け、電気通信網3を介して通信端末6と接続する。 (9) 通信端末6の制御部 66 は、通信販売受付 センタ 1との 接続 を確認 した 後、メモリ9から商品番号を読みとり、そのデータを通信販売受付センタ1に送る。 (10) 通信販売受付センタ1は、通信端末6から送られた商品番号から商品の詳細データを検索し、そのデータを映像端末6に送る。商品の詳細データとは、例えば商品の外観の映像及び商品を説明する音声やバックグラウンド・ミュージックである。 (11) 通信端末6の制御部66は、通信販売受付センタ1から送られてきた商品の外観映像や商品説明音声をディスプレイハンドセット65に表示・出力する。 (12) 利用者は、それを視聴し、購入の意思があれば、通信端末6の注文 スイッチ 64を押す。注文スイッチ64にはテンキーなども含まれ、個数なども入力する。注文スイッチ 64 が押されると 、通信端末6は、通信販売受付センタ1に商品注文を示すデータを送る。このとき、あらかじめメモリ61に利用者の名前 、住所 、利用者番号 、クレジットカード 番号 または銀行の口座番号等 の利用者情報 を設定しておき、注文スイッチ64が押されたとき、制御部66がそれら利用者情報をメモリ61から読み出し、商品注文を示すデータ と共に通信販売受付 センタ 1に送る。 (13) 通信販売受付センタ1は、商品注文データと利用者情報を受け取り、商品受注処理を行い、商品を利用者宅に発送する。」(【0013】) (3) 上記記載により認められる引用例2に記載された発明は、原告が「発呼スイッチの押下による電気通信網への接続に続く商品の詳細情報の受信は、購入する商品の特定のために必ず必要となる処理で、この商品の詳細情報に基づいて注文操作が行われるというものである。」と主張するような商品の詳細データの受信を必ずしも不可欠の構成要素とするものではない。 (4) また、引用例2(甲7)には、 「【請求項1】 利用者通信端末から電気通信網を介してリクエスト受付センタを発呼して所望リクエストを行うシステムにおける利用者リクエスト受付方法において、テレビ放送又はラジオ放送の放送信号中に少なくともリクエスト受付センタの番号情報(以下、発信先番号情報という)を挿入し、利用者宅側で、受信放送信号中に挿入されている前記発信先番号情報を抽出して通信端末に設定し、前記設定された発信先番号情報にもとづいてリクエスト受付センタを自動的に発呼してリクエストを行う、ことを特徴とする放送メディア利用の利用者リクエスト受付方法。」(【特許請求の範囲】)、 「【請求項3】 請求項1記載の放送メディア利用の利用者リクエスト受付方法に用いる通信端末であって、受信した放送信号から、当該放送信号中に挿入されている発信先番号情報を抽出する情報抽出器と、情報抽出器により抽出された発信先番号情報を格納するメモリと、発呼スイッチの操作に応答して、前記メモリから発信先番号情報を読み出して発信先を発呼するとともに、リクエスト情報を送信する制御部とを有することを特徴とする通信端末。」(【特許請求の範囲】)、 「(3) 請求項3の発明の通信端末によれば、発呼スイッチを押すだけで、リクエスト受付センタを発呼するとともに、商品の発注等のリクエスト情報を送信することができる。」(【0032】)として、発呼スイッチと注文スイッチという2個のスイッチを用いる構成ではなく、発呼スイッチの操作に応じて電話回線の接続のための発呼と商品の発注の送信とをすることが記載されている。 (5) 引用例1記載の発明及び引用例2記載の発明は、ともに商品販売システムという同一技術分野に属しており、その組合せを阻害する要因は見当たらない。 そして、引用例2には、原告の主張する2つのスイッチを用いる発明だけでなく、上記(4)のとおり、1つのスイッチを用いることも記載されている。また、 ポインティング手段の指定による入力はスイッチの操作による入力ともに周知の技術手段であり、スイッチを用いるかポインティング手段を用いるかは当業者が適宜行うことのできる設計的事項と認められる。 そうすると、引用例2記載の発明を、引用例1記載の発明に適用するに際し、その入力・指示手段をポインティング手段の指定による入力とし、端末装置を、利用者の操作により、広域ネットワークとは別の通信ネットワークと接続し、クレジットカードのID番号を含む注文情報を前記別の通信ネットワークを介して送信するように構成することは、当業者が容易に想到し得たというべきである。 また、商品販売システムにおいて、注文情報を登録することは、本件出願の発明が解決しようとする課題に「電話による方法は購入者と店の人間が直接的に話をするので、店の人間は注文情報の登録のためにコンピュータを手動操作して注文情報、 たとえば、商品名、購入者の名前、住所、代金決済方法等の情報を入力しなければならない。このため、多数の購入者の注文に応じるには限界がある。」(甲3の【0003】)にも記載されているように、周知慣用手段にすぎないと認められ、 引用例1記載の発明及び引用例2記載の発明においても、注文をホスト局、WWWサーバー、通信販売受付センターに対し登録させることが当然に行われていることは明らかであるから、利用者の操作を、入力された注文情報を登録する操作とすることも、当業者が容易に想到し得たというべきである。 (6) 以上のとおりであるから、相違点に係る構成は当業者が容易に推考し得たものであるとした補正却下決定の判断に誤りはない。 原告主張の取消事由2は理由がない。 3 取消事由3(有利な効果の看過)について 原告は、補正発明の効果は引用例1及び引用例2に記載の発明の効果から予測できる程度のものであり、格別のものとは認められないとした補正却下決定の判断が誤りであると主張する。 しかし、引用例1に引用例2を組み合わせたものと比較して補正発明が格別な効果を奏するとは認められない。しかも、原告の主張は、「引用例1に引用例2を組み合わせたものは、発呼スイッチの操作と注文スイッチの操作、又は注文情報の送信操作と注文スイッチの操作を同時に行うことができない」、「引用例1と2の組み合わせのシステムでは、電気通信網への接続ののち、商品の詳細情報の視聴又は決済情報の入力が必ず必要となる」ことを前提としているところ、その前提が成り立たないことは前記2の(3)、(4)に説示したところから明らかである。原告の主張は、採用することはできない。 したがって、原告主張の取消事由3も理由がない。 4 結論 以上のとおり、補正発明は当業者が容易に発明をすることができたものであるとして補正を却下した決定に誤りはないから、審決が補正前の請求項1の記載に基づいて本願発明の要旨を認定した上、本願発明は、引用例1、2記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、と認定判断したことに誤りはない。原告主張の取消事由はいずれも理由がないから、原告の請求は棄却されるべきである。 |
裁判長裁判官 | 塚原朋一 |
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裁判官 | 古城春実 |
裁判官 | 田中昌利 |