運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

関連審決 不服2001-6232
関連ワード 頒布された刊行物 /  容易に発明 /  一致点の認定 /  相違点の認定 /  周知技術 /  公知技術 /  上位概念 /  下位概念 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  優先権 /  登録実用新案 /  優先日 /  参酌 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  変更 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
元本PDF 裁判所収録の別紙1PDFを見る pdf
事件 平成 13年 (行ケ) 511号 審決取消請求事件
原告A
訴訟代理人弁護士 増田利昭
被告 特許庁長官今井康夫
指定代理人 西川一
同 大橋良三
同 小林信雄
同 涌井幸一
同 高橋泰史
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/07/15
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が不服2001-6232号事件について平成13年9月21日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文1,2項と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,平成9年1月20日(優先権主張平成8年11月14日),名称を「電波の検出装置」とする発明につき特許出願(平成9年特許願第21968号。
以下「本件出願」という。)をし,平成13年3月21日に拒絶査定を受けたので,平成13年4月20日に,これに対する不服の審判を請求した。
特許庁は,これを不服2001-6232号事件として審理した。原告は,この審理の過程で,平成13年8月10日付けの手続補正書により明細書の補正をした(以下,この補正後の明細書及び図面をまとめて「本願明細書」という。)。
特許庁は,審理の結果,平成13年9月21日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同年10月15日,その謄本を原告に送達した。
2 特許請求の範囲(別紙図面A参照) 「【請求項1】 導体と,この導体の先端部に接続された目的の周波数に同調させるためのLC共振回路と,このLC共振回路の両端部に両端部が接続された電波の検出回路とからなり,該電波の検出回路は前記LC共振回路で励振した高周波交流を直流に変換する整流用ダイオードと,この整流用ダイオードと直列接続された該整流用ダイオードからの直流電流の強弱により指示部が可動する直流表示メータあるいは点灯させることができる発光ダイオードとで構成されていることを特徴とする電波の検出装置。」(以下,請求項1の発明を審決と同様に「本願発明1」という。) (【請求項2】ないし【請求項4】は省略。) 3 審決の理由 別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本願発明1は,本願に係る優先権主張日(以下「本願優先日」という。)前に頒布された刊行物であるCQ ham radio 2月号別冊「エレクトロニクス製作アイデア集1[センサー編]」(1991年2月15日発行)CQ出版,213頁〜215頁(甲第3号証。以下,審決と同様に「刊行物1」という。)に記載された発明(以下「引用発明1」という。別紙図面B参照。),及び,同じく本願優先日前に頒布された刊行物であるCQ ham radio12月号臨時増刊「エレクトロニクス製作アイデア集3[ハムアクセサリー編]」(1992年12月15日発行)CQ出版,180頁〜181頁(甲第4号証。以下,審決と同様に「刊行物2」という。)に記載された発明(以下「引用発明2」という。)並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである,とするものである。
審決が,上記結論を導く過程において,本願発明1と引用発明1との一致点・相違点として認定したところは,次のとおりである。
一致点 「導体と,この導体に接続された目的の周波数に同調させるためのLC共振回路と,このLC共振回路の両端部に両端部が接続された電波の検出回路とからなり,該電波の検出回路は前記LC共振回路で励振した高周波交流を直流に変換するダイオードと,直流電流の強弱により指示部が可動する直流表示メータで構成されていることを特徴とする電波の検出装置。」 相違点 「(あ) LC共振回路が,本願発明1では「導体の先端部」に接続されるのに対し,上記刊行物1記載の発明では「アンテナの一端」に接続されている点。」(以下「相違点(あ)」という。) 「(い) 本願発明1の「導体」は「LC共振回路」に直接接続されているのに対し,上記刊行物1記載の発明ではコイルを介した誘導結合で「その両端に同調コンデンサC1が接続され共振回路として動作するコイル」と接続されている点。」(以下「相違点(い)」という。) 「(う) 本願発明1のダイオードは「整流用ダイオード」であるのに対し,上記刊行物1には,「ダイオードで検波」と記載されている点。」(以下「相違点(う)」という。) 「(え) 本願発明1はダイオード1個で半波整流回路を構成しているのに対し,上記刊行物1記載の発明はダイオード2個で半波倍電圧整流回路を構成している点。」(以下「相違点(え)」という。) 「(お) 本願発明1は,「整流用ダイオード」の出力が直接「指示部が可動する直流表示メータあるいは点灯させることができる発光ダイオード」に接続されているのに対し,上記刊行物1記載の発明は「トランジスタTr1」による増幅回路を介している点。」(以下「相違点(お)」という。)
原告主張の審決取消事由の要点
審決は,本願発明1と引用発明1との一致点の認定を誤り(取消事由1及び2),相違点の認定をも誤ったため(取消事由3ないし5),これにより真の相違点を看過して,これらの相違点についての判断を遺脱し,また,審決が認定した上記各相違点についての判断を誤ったものであり(取消事由6ないし9),これらの判断の誤りがそれぞれ結論に影響することは明らかであるから,違法として取り消されなければならない。
1 取消事由1(「LC共振回路の両端部の接続」に係る一致点の認定の誤り) 審決は,本願発明1と引用発明1とは,「このLC共振回路の両端部に両端部が接続された電波の検出回路とからなり」(審決書3頁末行〜4頁1行)という点で一致する,と認定している。
しかし,引用発明1においては,刊行物1の第4図(214頁)から明らかなように,LC共振回路と検波回路とは,いずれも一端においては接続されているものの,他端においては,接続されておらず,接地されている。本願発明1のLC共振回路の両端部と電波の検出回路の両端部との「接続」を,「接続」又は「接地」と安易に読み替えることはできないのであるから,引用発明1においてLC共振回路の両端部に電波の検出回路の両端部が接続されていることを前提とする,審決の上記一致点の認定は,誤りである。
2 取消事由2(「整流用ダイオード」に係る一致点の認定の誤り) 審決は,「上記刊行物1記載の発明の「ダイオードD1D2」は,本願発明1の「前記LC共振回路で励振した高周波交流を直流に変換するダイオード」に相当する。」(審決書3頁下からの行より5行)と認定した。
しかし,本願発明1の「整流用ダイオード」と,引用発明1のダイオードD1,D2とは,その構成も役割も全く異なるものである。端的に言えば,両発明のダイオードは,使用個数においても異なり(本願発明1では1個,引用発明1では2個である。),それらの属する回路の機能においても異なる(本願発明1のものは,半波整流により,効率よく電流を検知するものであるのに対し,引用発明1のものは,半波倍電圧整流により,効率よく電圧を検知するものである。)。したがって,両者のダイオードを単純に一致するとした審決の認定は誤りである。
本願明細書の【発明の詳細な説明】に,本願発明は,従来技術のものが,2個の整流用ダイオードを使用しており,その構造が複雑でコスト高になるという欠点を有することから,この欠点を除去すべく,従来のものの構造を簡単にしたものである,との趣旨の記載があること,及び,その実施例として,本願明細書の図3に,整流用ダイオードが1個のものが図示されていることからすれば,本願発明1の整流用ダイオードは,特許請求の範囲にその旨明記されていなくとも,1個であると解すべきである。
3 取消事由3(本願発明1と引用発明1との相違点の看過の1) 本願発明1は,LC共振回路の特徴を利用し,受信した電波の周波数に共振することにより,回路内での電流が最大(10ー3A以上)となる。これに対して,引用発明1は,最大化した電流をそのまま利用せず,あえて微弱電流のまま出力させ(10-8/2〜10ー6A程度),これをダイオードD1,D2により倍にし,トランジスタTrl(増幅器)により50ないし100倍としているのである。
審決は,本願発明1と引用発明1との上記相違点を看過し,これについての判断を遺脱している。 4 取消事由4(本願発明1と引用発明1との相違点の看過の2) 本願発明1は閉回路であるのに対して,引用発明1は全体としては開回路である。
審決は,本願発明1と引用発明1との上記相違点を看過し,これについての判断を遺脱している。
5 取消事由5(本願発明1と引用発明1との相違点の看過の3) 本願発明1では,発光ダイオードの発光若しくはメーターの動作に必要な周波数に合わせ,当該電波に共振して,必要な電流を発生させるから,外部電源が不要である。これに対し,引用発明1では,トランジスタの作動等のために外部に電源を求めることが必要である。
審決は,本願発明1と引用発明1との上記相違点を看過し,これについての判断を遺脱している。
6 取消事由6(相違点(あ)についての判断の誤り) 審決は,相違点(あ)について,「上記刊行物1の「約10cmのホイップ・アンテナを取り付け」という記載,および,通常「ホイップ・アンテナ」とは直線上の導体の一端から給電される形態のアンテナを指すものであるところからみて,上記刊行物1記載の発明のLC共振回路は「アンテナの一端」に接続されるものであるが,ホイップアンテナの動作を勘案すると,本願発明1のようにその「先端部」に接続しても,また,上記引用例1記載の発明のように「先端部」とは限定されないその「一端」に接続しても,その電気的な動作はなんら異なることがないから,上記相違点(あ)は当業者が容易になし得たことにすぎない。」(審決書4頁5-1)と判断した。しかし,この判断は誤りである。
当業者は,刊行物1の214頁の第4図から,本願発明1のように回路部分のすべてを導体(具体的には携帯電話用アンテナ)の先端部に接続することを,容易に考えつくことはできない。なぜなら,引用発明1に係る実際の装置は,その回路部分が巨大であり(刊行物1の214頁の写真からみて,10p四方くらいありそうである。),これをアンテナの下端部に設置するというのであればともかく,細身なアンテナの先端部にこのような巨大な回路装置を設置しようとすれば,不安定となるだけで,電気的にその性能が向上するなどの見込みは何らないのであるから,あえてこのようなことをすることは,当業者が通常考えないことであるからである。回路装置をアンテナ先端部に設置しようとすれば,本願発明1のように,使用部品点数を極めて数少なく抑え,かつ,小型・軽量の部品のみにしなければならないはずである。したがって,引用発明1から,導体の先端へ回路装置を設置することを思いつくはずである,とは到底いえないのである。審決の上記判断は誤りである。
7 取消事由7(相違点(う)についての判断の誤り) 審決は,相違点(う)について,「上記周知例(判決注・別紙審決書3頁3.参照。)にも示されるように,検波とは整流の一種であるから,上記相違点(う)は単なる表現上の相違にすぎない。」(審決書5頁5-3)と判断した。しかし,この判断は,誤りである。
「検波」は「整流」の下位概念である。「整流」は,電圧及び電流を検出するという意味であるのに対し,「検波」は,電圧のみを検出するという意味である。本願発明1では,「整流用ダイオード」(半波整流回路)により電流及び電圧の検知をするのに対し,引用発明1では「ダイオードで検波」(半波倍電圧整流)することにより電圧を倍にして電圧のみを検知する,というものであり,検知の対象が異なっている。したがって,「検波」も「整流」も,「単なる表現上の相違にすぎない」とした審決の判断は誤っている。
8 取消事由8(相違点(え)についての判断の誤り) 審決は,相違点(え)について,「高周波信号を整流する回路として半波整流回路を用いることは,上記刊行物2第180頁第1図(c)や上記周知例にも示されるように周知の事項にすぎず,上記刊行物1記載の発明の半波倍電圧整流回路の代わりに半波整流回路を用いたことに格別の技術的困難性は認められない。」(審決書5頁5-4)と判断した。しかし,この判断は,誤りである。
引用発明1において,半波倍電圧整流回路を半波整流回路にすることは,検波回路部分で検知されるべき電圧が1/2になってしまうことから,検知性能が悪くなることを意味する。このような検知性能の劣化を意味するような変更を積極的にしようとすることは,当業者にとって容易ではないというべきである。
本願発明1においては,引用発明1におけるのとは異なり,ダイオード(半波整流回路)を1個だけ利用することによって,消費電力の低下をもたらし,これにより良好な性能を発揮することができるようになっている。本願発明1における半波整流回路の使用は,通常の当業者の発想からすると,逆転の発想であるから,当業者において容易に思い付くものではないのである。本願発明1が,電流の減少を防ぐことを主眼とする回路であるのに対し,引用発明1は,電圧の検知に主眼を置き,そのために電流の低下はいとわないとする回路である。両者は,その目的とするところが異なるのである。
9 取消事由9(相違点(お)についての判断の誤り) 審決は,「上記刊行物1には,上記刊行物1記載の発明で増幅回路を用いた理由として,「受信された信号だけではレベルが低いので,この信号をトランジスタでアンプし」と記載されていること,また,上記刊行物2には「電波の強度を測定する測定器としては,一般に電界強度計が使われます。アンテナでとらえた電波を同調回路で選択し,これをダイオードで整流して直流にし,メーターを振らせます。」との記載があることからみて,上記相違点(お)は,本願発明1が必要とする「感度」に応じて当業者が適宜選択したことにすぎない。」(審決書5頁5-5)と判断した。しかし,この判断は,誤りである。
引用発明1においては,共振回路から出力される電流は,「10-7A〜10-5/5A 」程度と極めて微弱である。そのため,メーターでこれを表示するためには,あらかじめ増幅器を使用して,電流を50ないし100倍に増幅しておかなければならないから,引用発明1における増幅器の使用は,回路構造上不可欠である。これに対して,本願発明1では,共振を最大限に利用することによって,閉回路内で10mA程度の電力がコンスタントに得られるようになっている。そのため,増幅器の使用は,回路の構造及び性能上,不要である。
引用発明1においても,本願発明1においても,増幅器の使用が「感度に応じて当業者が適宜選択」し得るものであるわけはなく,いずれも,回路構造上,その要否が決定されるものである。審決の上記判断は,明らかに誤りである。
被告の反論の骨子
審決の認定判断はいずれも正当であって,審決を取り消すべき理由はない。
1 取消事由1(「LC共振回路の両端部の接続」に係る一致点の認定の誤り)について 原告は,引用発明1においては,LC共振回路と検波回路とは,いずれも一端においては接続されているものの,他端においては,接続されておらず,接地されているのであり,LC共振回路の両端部が検波回路と接続されているということはない,と主張する。しかし,接地された部品同士は,接地を通じて電気的に接続されていることは技術常識であり,また,接続線で接続された回路を,接地記号を用いた回路図として描くことは,極めてよく行われていることであるから,原告の上記主張は失当である。
2 取消事由2(「整流用ダイオード」に係る一致点の認定の誤り)について 原告は,ダイオードの使用個数が本願発明1では1個,引用発明1では2個であり,回路の機能においても,本願発明1のものは,半波整流であるのに対し,引用発明1のものは,半波倍電圧整流であり,両者のダイオードは異なる,と主張する。しかし,原告のこの主張は,特許請求の範囲(請求項1)の記載に基づく主張ではなく,失当である。
3 取消事由3ないし5(本願発明1と引用発明1との相違点の看過1ないし3)について 原告の主張は,いずれも特許請求の範囲(請求項1)の記載に基づく主張ではなく,失当である。
4 取消事由6(相違点(あ)についての判断の誤り) 「導体の先端部」という概念は,導体の中央部に対立するものであり,導体の中央部に対する端部を指すものにすぎない。したがって,導体の両端部のいずれであっても,本願発明1の「導体の先端部」となり得る。導体の両端部のいずれにLC共振回路を接続するかは,任意になし得る設計的事項にすぎない。
仮に,導体の先端部を原告主張のように理解すべきであるとしても,導体の先端部に電波の検出装置を設けることは,本願明細書の【発明の詳細な説明】の【従来の技術】に記載されている「携帯電話機用表示装置(実用新案登録番号第3007220)」(乙第6号証【0002】)の実用新案登録公報(乙第5号証)にも記載されているように,従来から知られた構成であり,したがって,引用発明1において,電波の検出器を導体の先端部に設けることは,当業者が容易になし得るところである。この場合にも,審決の判断に誤りはない。
5 取消事由7(相違点(う)についての判断の誤り) 争う。
6 取消事由8(相違点(え)についての判断の誤り) 半波整流回路を用いることは極めてよく行われており,引用発明1における半波倍電圧整流回路に代えて半波整流回路を用いることに格別の技術的困難性はない。
7 取消事由9(相違点(お)についての判断の誤り) 増幅回路を用いるかどうかは,当業者が直流表示メータ等の必要な感度に応じて適宜選択すべき事項にすぎない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(「LC共振回路の両端部の接続」に係る一致点の認定の誤り)について 電気及び電子工学の技術分野において,「接続」とは電気的接続を意味する言葉であり,接地された部品同士は接地を通じて電気的に接続されていることは,いずれも技術常識に属することであることを考慮すれば,引用発明1における接地個所同士は,互いに電気的に接続されていること,が明らかである(乙第1号証,弁論の全趣旨)。同号証の30頁「〈図4〉(b)実装を意識した回路図」に示されるように接続線で「接続」された回路を,同頁「〈図4〉(a)実装を考えずに書いた回路図」のように接地記号を用いて回路図として描くことは,よく行われていることである(乙第1号証,弁論の全趣旨)。これらのことからすれば,当業者にとって,図4(a)のように接地記号を用いて記述された回路図が,実際には図4(b)の回路図と同じことを意味するものであることは,自明のことであるというべきである。
上述したところを前提にすると,本願発明1の「LC共振回路」と「電波の検出回路」のそれぞれに相当する引用発明1の各構成同士は,刊行物1の214頁第4図のとおり,一端は接続され,他端はそれぞれ接地されているのであるから(甲第3号証),互いに両端において接続されているとみることができる。審決が本願発明1と引用発明1との一致点として「このLC共振回路の両端部に両端部が接続された電波の検出回路とからなり」(審決書3頁〜4頁4-1)と認定したことに,誤りはない。原告の取消事由1の主張は,採用することができない。
2 取消事由2(「整流用ダイオード」に係る一致点の認定の誤り)について 審決は,引用発明1の「ダイオードD1D2」と本願発明1の「LC共振回路で励振した高周波交流を直流に変換するダイオード」が,共に「LC共振回路で励振した高周波交流を直流に変換する」という点で一致した機能を有していることから,引用発明1の「「ダイオードD1,D2」は,本願発明1の「LC共振回路で励振した高周波交流を直流に変換するダイオード」に相当する。」(審決書3頁4-1下から3段)と認定したものであることは,その説示自体で明らかである。
そして,この判断に何ら誤りはない。
原告は,両発明のダイオードは,使用個数においても異なり(本願発明1では1個,引用発明1では2個である。),それらの属する回路の機能においても異なる(本願発明1のものは,半波整流により,効率よく電流を検知するものであるのに対し,引用発明1のものは,半波倍電圧整流により,効率よく電圧を検知するものである。)ものであって,異なるものである,したがって,両者のダイオードを単純に一致するとした審決の認定は誤りである,本願明細書の【発明の詳細な説明】に,従来技術のものが,2個の整流用ダイオードを使用しており,その構造が複雑でコスト高になるという欠点があることから,この欠点を除去すべく,従来のものの構造を簡単にしたものである,との趣旨の記載があること,及び,その実施例として,本願明細書の図3に,整流用ダイオードが1個のものが図示されていることからすれば,本願発明1の整流用ダイオードは,特許請求の範囲にその旨明記されていなくとも,1個のものと解すべきである,と主張する。
しかし,本願発明1に係る特許請求の範囲(請求項1)において,「ダイオード」は,「前記LC共振回路で励振した高周波交流を直流に変換する整流用ダイオード」と規定されているだけである。したがって,本願発明1において,ダイオードの個数が1個に限定されているとみるべき理由も,半波倍電圧整流のものが,「整流用ダイオード」から除外されているとみるべき理由もない。本願発明1の「整流用ダイオード」につき,その個数を1に,あるいは,半波整流回路のものに限定しようとするとき,請求項1にその旨の記載をすることには,何らの困難もない。原告の上記主張は,特許請求の範囲に容易にその旨の記載をすることができるにもかかわらず,その旨の記載をしないでおいて,その旨の記載があるのと同じように扱えと要求するものであり,採用することができないものであることが明らかである。また,本願発明1の特許請求の範囲の記載は,それ自体でその内容は十分特定されており,本願明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌しなければ,その内容を特定し得ない,との特段の事情も存しない。本願明細書の発明の詳細な説明参酌して,特許請求の範囲に記載のない構成を加えて,本願発明1の要旨認定をする必要は認められない。原告の主張は,いずれも特許請求の範囲(請求項1)の記載に基づく主張ということができず,失当である。
3 取消事由3(本願発明1と引用発明1との相違点の看過の1)について 原告は,本願発明1は,LC共振回路の特徴を利用し,受信した電波の周波数に共振することにより,回路内での電流が最大(10ー3A以上)となる,これに対して,引用発明1は,最大化した電流をそのまま利用せず,あえて微弱電流のまま出力させ(10-8/2〜10ー6A程度),これをダイオードD1,D2により倍にし,トランジスタTrlにより50ないし100倍としている,と主張する。
しかし,本願発明1は,LC共振回路と,整流用ダイオード及び直流表示メータあるいは発光ダイオードから成る特許請求の範囲(請求項1)記載の構成の電波の検出回路であり,原告が主張するような,「回路内での電流が最大(10ー3A以上)となる」ものであることは,特許請求の範囲(請求項1)には記載されていない事項であり,これを本願発明1の構成とみることはできない。原告の主張は,特許請求の範囲の記載に基づかないものである。また,仮に,上記事項を本願発明1の構成とみることができるとしても,審決は,引用発明1が,トランジスタTrl(増幅回路)を介している点を相違点(お)として認定(審決書5頁5-5)した上で,これについての判断を示しており,この点についての相違点の看過はない。いずれにせよ,原告の上記主張はいずれも失当である。
4 取消事由4(本願発明1と引用発明1との相違点の看過の2)について 原告は,本願発明1が閉回路であるのに対して,引用発明1は,全体としては開回路であることを審決が看過している,と主張する。しかし,本願発明1の特許請求の範囲(請求項1)においては,その回路が閉回路か,開回路かは,何ら規定されていないのであるから,原告のこの主張も,特許請求の範囲の記載に基づかない主張であり,失当である。
5 取消事由5(本願発明1と引用発明1との相違点の看過の3)について 原告は,本願発明1では,発光ダイオードの発光若しくはメーターの動作に必要な周波数に合わせ,当該電波に共振して,必要な電流を発生させるから,外部電源が不要であるのに対し,引用発明1では,トランジスタの作動等のために外部に電源を求めることが必要である,と主張する。
しかし,本願発明1の特許請求の範囲(請求項1)には,外部電源を不要とする回路である,との記載はない。原告の上記主張は,特許請求の範囲の記載に基づかない主張であり,失当である。
6 取消事由6(相違点(あ)についての判断の誤り)について 審決は,「刊行物1記載の発明のLC共振回路は「アンテナの一端」に接続されるものであるが,ホイップアンテナの動作を勘案すると,本願発明1のようにその「先端部」に接続しても,また,上記引用例1記載の発明のように「先端部」とは限定されないその「一端」に接続しても,その電気的な動作はなんら異なることがないから,上記相違点(あ)は当業者が容易になし得たことにすぎない。」(審決書4頁5-1)と判断した。
電気回路として,LC共振回路をアンテナの「先端部」に接続することと,アンテナの「一端」に接続することとは,電気的な動作において何ら変わりがないことは,明らかである(甲第2,第3号証。原告も,審決のこの判断部分については,異論を唱えていない。)。
原告は,引用発明1に係る実際の装置は,その回路部分が巨大であり,これをアンテナの下端部に設置するというのであればともかく,細身なアンテナの先端部にこのような巨大な回路装置を設置しようとすれば,不安定となるだけで,電気的にその性能が向上するなどの見込みは何らないのであるから,あえてこのようなことをすることは,当業者が通常考えないことである,と主張する。
原告の上記主張は,本願発明1の導体の先端部に接続される回路装置が,小型のものであることを前提とした主張である。しかしながら,原告の上記主張は,導体の先端部に接続される回路装置がどの程度に小型のものであれば,本願発明1に包含されないものとなるのか,そもそも不明確な主張である。また,本願明細書の特許請求の範囲(請求項1)には,本願発明1の電波検出装置が小型のものである,との記載はなく,単に,「導体の先端部に接続された」との記載しかないのであるから,本願発明1は,導体の先端部に,LC共振回路と電波の検出回路を設けた,請求項1記載の構成の電波検出装置であれば,一見して小型のものであろうとなかろうと,これを包含するものとみるべきである。もっとも,本願明細書の図1,図10,図17等においては,アンテナの先端部に取り付けられた小型の回路装置が示されており,また,【発明の詳細な説明】においても,「【発明の効果】・・・【0029】(2)前記(1)によって,構造が簡単であるので,小型,軽量,安価で,容易に製造することができる。」(乙第6号証)との記載があることは事実である。しかし,前者の図1,図10,図17等に示されるものについては,上述のとおり,本願明細書の特許請求の範囲(請求項1)には,導体の先端部に接続される回路装置がどの程度大型のものになれば,本願発明1から除外されるものとなるかについて,何ら記載されていないのであるから,本願発明1の典型的な実施例の形態にすぎず,このような小型のもの以外のものも,請求項1に規定された構成を具備するものであれば,本願発明1に含まれると解すべきである。また,これを前提にすると,後者についても,小型のものを製造した場合の本願発明1の効果が記載されているだけであると理解するのが相当である。したがって,本願発明1の導体の先端部に接続される回路装置が小型のものに限られることを前提とした原告の上記主張は,採用することができない。
仮に,相違点(あ)に係る本願発明1の構成が,上記のような本願明細書の発明の詳細な説明及び図面を参酌して,小型のものに限られると解すべきであるとしても,本願発明1の上記構成は,次のとおり,引用発明1と周知技術とから,容易に想到することができるものである。
刊行物1の213頁には,より小型の簡易タイプの電界強度計が,その回路図とともに示されており,また,刊行物2には,「電波の強度を測定する測定器としては,一般に電界強度計が使われます.アンテナで捕らえた電波を同調回路で選択し,これをダイオードで整流して直流にし,メーターを振らせます.今回製作した装置は,できるだけ簡単にするために同調回路をカットして,アンテナから直接ダイオードで整流してメーターを振らせようとするものです.製作する回路はいたって簡単です.回路を第1図に示します.」(甲第4号証180頁中欄3段〜右欄2段)との記載があり,その第1図の回路図及び181頁の写真には,アンテナから発信される電波の強度を測定する電界強度計として,導体の先端部に接続し,本願明細書の図1に示された上記態様で使用することが可能な程に,かなり小型化されたものが示されている(甲第4号証)。
本願発明1の従来技術として,本願明細書の【発明の詳細な説明】に記載されている「携帯電話機用表示装置(実用新案登録番号第3007220号)」(甲第2,乙第6号証【0002】)は,同登録実用新案公報の図1から明らかなように,携帯電話のアンテナの先端部に取り付けられている小型のものである(乙第5号証)。
これらのことから,電波検出装置について,上記のような小型のものを製造することができることは,本願優先日当時において,当業者にとって周知の技術であったものと認められる。刊行物1の第4図の回路図により構成されるものについて,小型化との課題が与えられれば,刊行物2の第1図に示された回路図のもの,すなわち,増幅器がなく,ダイオードを1個としたものなどを参考とし,本願発明1の実施例の構成の回路に想到することは,当業者であれば容易であることは明らかである。
以上からすれば,引用発明1のものを,より小型のものとするとの要請がある場合に,引用発明2の技術を組み合わせて,本願発明1のものに想到することは,当業者であれば何ら困難なことではないということができる。
上記のような周知事項を前提にして審決をみれば,相違点(あ)について,「当業者が容易になし得たことにすぎない。」とした審決の上記認定判断は,表現が簡単で不正確であるとはいえ,上記の趣旨をも含むと理解することが可能である。
いずれにせよ,原告の主張は採用することができない。
7 取消事由7(相違点(う)についての判断の誤り)について 「整流」が「検波」の上位概念であることは明らかである(弁論の全趣旨)。本願発明1が「整流用ダイオード」を用いているのに対し,引用発明1は「ダイオードで検波」しているのであるから,「整流」が「検波」の上位概念であるということからすれば,引用発明1のダイオードは,本願発明1の「整流用ダイオード」に包含されるものであることが明らかである。本願発明1と引用発明1は,この点では一致しているのであり,審決はこのことを「単なる表現上の相違にすぎない」(審決書5頁5-3)としたものである。原告は,「整流」は,電圧及び電流を検出するという意味であるのに対し,「検波」は,電圧のみを検出するという意味である,と主張する。しかし,「整流」も「検波」も,電流と電圧を検出するものである(検波について,乙第4号証81頁(2.171)式,(2.172)式,82頁(2.178)式)から,原告のこの主張は失当であり,審決の上記判断が誤りであるとする原告の主張に理由がないことは明らかである。
8 取消事由8(相違点(え)についての判断の誤り)について 審決は,「(え) 本願発明1はダイオード1個で半波整流回路を構成しているのに対し,上記刊行物1記載の発明はダイオード2個で半波倍電圧整流回路を構成している点。」を相違点(え)と認定し,同相違点について,「高周波信号を整流する回路として半波整流回路を用いることは,上記刊行物2第180頁第1図(c)や上記周知例にも示されるように周知の事項にすぎず,上記刊行物1記載の発明の半波倍電圧整流回路の代わりに半波整流回路を用いたことに格別の技術的困難性は認められない。」(審決書5頁5-4)」と判断した。
しかし,本願発明1の特許請求の範囲(請求項1)においては,整流用ダイオードについては,「このLC共振回路の両端部に両端部が接続された電波の検出回路とからなり,該電波の検出回路は前記LC共振回路で励振した高周波交流を直流に変換する整流用ダイオード」と記載されているだけである。そこでは,整流用ダイオードが,ダイオード1個で,半波整流回路を構成しているものと規定されているわけではない。したがって,本願発明1は,「LC共振回路で励振した高周波交流を直流に変換する整流用ダイオード」であれば,ダイオード2個で半波倍電圧整流回路を構成しているものも排除していないと解すべきであり,相違点(え)は,本来,本願発明1と引用発明1との相違点として認定する必要のなかったものである。
審決が,相違点(え)を認定した上で,上記のとおり判断したことは,本来,判断する必要のない相違点について判断したものということができるものの,この点を,審決の結論に影響する誤りである,という必要がないことは明らかである。
なお,仮に,相違点(え)が,本願発明1と引用発明1との相違点であると解する余地があるとしても,甲第4号証(180頁1図(c)),及び,審決で引用した周知例(トランジスタ技術編集部編「実用電子回路ハンドブック(1)」第16版(昭和54年3月1日発行)CQ出版 215頁)に「直線検波は図3-81に示す半波整流回路の一種であって,出力電圧波形は入力のAM波eiのピーク値の包落線に相当する出力電圧eoになります。」との記載があること(弁論の全趣旨により認められる。),並びに,弁論の全趣旨によれば,半波整流回路を用いることは極めてよく行われていることが認められ,これを前提とすれば,引用発明1の半波倍電圧整流回路の代わりに半波整流回路を用いたことに格別の技術的困難性はないことが明らかである。
9 取消事由9(相違点(お)についての判断の誤り)について 審決は,相違点(お)について,「上記刊行物1には,上記刊行物1記載の発明で増幅回路を用いた理由として,「受信された信号だけではレベルが低いので,この信号をトランジスタでアンプし」と記載されていること,また,上記刊行物2には「電波の強度を測定する測定器としては,一般に電界強度計が使われます。アンテナでとらえた電波を同調回路で選択し,これをダイオードで整流して直流にし,メーターを振らせます。」との記載があることからみて,上記相違点(お)は,本願発明1が必要とする「感度」に応じて当業者が適宜選択したことにすぎない。」(審決書5頁5-5)」と判断した。
原告は,引用発明1においては,共振回路から出力される電流は,「10-7A〜10-5/5A 」程度と極めて微弱である,そのため,メーターでこれを表示するためには,あらかじめ増幅器を使用して,電流を50ないし100倍に増幅しておかなければならないから,引用発明1における増幅器の使用は,回路構造上不可欠である,と主張する。
しかし,刊行物2には,審決が認定するとおり,ダイオードと直流表示メーターを増幅器を介さずに直列接続した電波測定装置(引用発明2)が示されており(甲第4号証180頁),このような公知技術もあることからすれば,引用発明1において,増幅回路を使用するかどうかは,同調回路の出力と直流表示メーター等に必要な感度に応じて,当業者が適宜選択すべき任意の事項にすぎないことが明らかであり,これと同旨の審決の上記判断に誤りはない。
10 結論 以上に検討したところによれば,原告の主張する取消事由にはいずれも理由がなく,その他,審決には,これを取り消すべき誤りは見当たらない。そこで,原告の請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 設樂隆一
裁判官 高瀬順久