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事件 平成 13年 (行ケ) 196号 特許取消決定取消請求事件
原告 セイコーエプソン株式会社
訴訟代理人弁理士 横井俊之,岩上渉,下出隆史
被告 特許庁長官今井康夫
指定代理人 東次男,関川正志,小林信雄,林栄二,高橋泰史,大橋信彦
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/07/17
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
「特許庁が異議2000-71505号事件について平成13年3月21日にした決定中,特許第2962310号の請求項1ないし6,8ないし13,15ないし20に係る特許を取り消すとの部分を取り消す。」との判決。
事案の概要
本件は,後記本件発明の特許権者である原告が,特許異議の申立てを受けた特許庁により,本件特許のうち,請求項1ないし6,8ないし13,15ないし20に係る特許を取り消す旨(請求項7,14,21に係る特許は維持)の決定がされたため,同決定のうち,特許を取り消すとの部分の取消しを求めた事案である。
1 前提となる事実等 (1) 特許庁における手続の経緯 (1-1) 本件特許 特許権者:セイコーエプソン株式会社(原告) 発明の名称:「画像処理装置,画像処理方法および画像処理プログラムを記録した媒体」 特許出願日:平成10年4月6日(特願平10-93743号) 特許設定登録日:平成11年8月6日 特許番号:第2962310号 (1-2) 本件異議手続 異議事件番号:異議2000-71505号 訂正請求日:平成12年8月29日(誤記の訂正) 異議の決定日:平成13年3月21日 決定の結論:「訂正を認める。特許第2962310号の請求項1ないし6,8ないし13,15ないし20に係る特許を取り消す。同請求項7,14,21に係る特許を維持する。」 決定謄本送達日:平成13年4月9日(原告に対し) (1-3) 訂正審判請求と審決取消訴訟(別訴) 原告は,平成13年5月2日,訂正審判の請求(訂正2001-39071号)をした。これに対し,特許庁は,同年10月19日,「本件審判の請求は,成り立たない」との審決をした。そこで,原告は,同年11月27日,審決取消訴訟を提起した(当庁平成13年(行ケ)第535号事件)。
(2) 本件発明の要旨(平成12年8月29日付け訂正後のもの。以下,請求項番号に対応して,それぞれの発明を「本件発明1」などという。)【請求項1】 画像をドットマトリクス状の画素で表現した画像データを取得する画像データ取得手段と,上記画像データに対して個々の画素における画像データを変更することによって各種の画像処理を実行するべく実行可能な画像処理を表示して選択を入力する画像処理選択手段と,この画像処理選択手段によって画像の拡大処理と画像のシャープさの変更処理とが共に選択されたか否かを判断する同時処理判断手段と,この同時処理判断手段によって画像の拡大処理と画像のシャープさの変更処理とが共に選択されたと判断されたときに,上記画像データにおける構成画素数を増やして画像を拡大するにあたり,この補間する画像データの変化度合いを調整することにより選択された画像のシャープさとなるように補間処理を実行可能な画素補間手段と,生成された画像データを出力する画像データ出力手段とを具備することを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】 上記請求項1に記載の画像処理装置において,上記画像処理選択手段は,拡大処理の選択とシャープさ変更の選択とを個別に選択可能であり,上記同時処理判断手段は,この画像処理選択手段にて拡大処理の選択とシャープさ変更の選択とが同時に選択されたか否かを判断することを特徴とする画像処理装置。
【請求項3】 上記請求項1に記載の画像処理装置において,上記画像処理選択手段は,拡大処理を選択可能であるとともに,上記同時処理判断手段は,上記画像処理選択手段にて拡大処理が選択されたときにシャープさの変更度合を選択させることを特徴とする画像処理装置。
【請求項4】 上記請求項1に記載の画像処理装置において,上記同時処理判断手段は,上記画像処理選択手段が画像処理に伴って解像度の変換処理を行うときに,シャープさの変更度合を選択させることを特徴とする画像処理装置。
【請求項5】 上記請求項1〜請求項4のいずれかに記載の画像処理装置において,上記画素補間手段は,高次関数を利用して画像データの変化態様を略S字型とし,画像データの低い側から高い側に移行するときに一旦は最低値よりも減少してから上昇して最高値を超して再び減少させ,その際のアンダーシュートと傾斜度合いとオーバーシュートとを上記高次関数のパラメータで調整して画像の変化度合いを最適なものとさせることを特徴とする画像データ補間装置。
【請求項6】 上記請求項5に記載の画像処理装置において,上記画素補間手段は,3次たたみ込み内挿法におけるパラメータを調整して画像のシャープさを変化させることを特徴とする画像処理装置。
【請求項7】 上記請求項1〜請求項6のいずれかに記載の画像処理装置において,上記画素補間手段は,画像のシャープさの変化度合いの異なる複数の補間処理を実行可能であるとともに,それぞれの補間倍率の割合を変化させて画像のシャープさを調整することを特徴とする画像処理装置。
【請求項8】 画像をドットマトリクス状の画素で表現した画像データについてその各画素の情報を変化させて所定の画像処理を行う画像処理方法であって,上記画像データを取得する工程と,上記画像データに対して個々の画素における画像データを変更することによって各種の画像処理を実行するべく実行可能な画像処理を表示して選択を入力する工程と,画像の拡大処理と画像のシャープさの変更処理とが共に選択されたか否かを判断する工程と,画像の拡大処理と画像のシャープさの変更処理とが共に選択されたと判断されたときに,上記画像データにおける構成画素数を増やして画像を拡大するにあたり,この補間する画像データの変化度合いを調整することにより選択された画像のシャープさとなるように補間処理を実行する工程と,生成された画像データを出力する工程とを具備することを特徴とする画像処理方法。
【請求項9】 上記請求項8に記載の画像処理方法において,拡大処理の選択とシャープさ変更の選択とを個別に選択可能であり,拡大処理の選択とシャープさ変更の選択とが同時に選択されたか否かを判断することを特徴とする画像処理方法。
【請求項10】 上記請求項8に記載の画像処理方法において,拡大処理を選択可能であるとともに,拡大処理が選択されたときにシャープさの変更度合を選択させることを特徴とする画像処理方法。
【請求項11】 上記請求項8に記載の画像処理方法において,画像処理に伴って解像度の変換処理を行うときに,シャープさの変更度合を選択させることを特徴とする画像処理方法。
【請求項12】 上記請求項8〜請求項11のいずれかに記載の画像処理方法において,高次関数を利用して画像データの変化態様を略S字型とし,画像データの低い側から高い側に移行するときに一旦は最低値よりも減少してから上昇して最高値を超して再び減少させ,その際のアンダーシュートと傾斜度合いとオーバーシュートとを上記高次関数のパラメータで調整して画像の変化度合いを最適なものとさせることを特徴とする画像データ処理方法。
【請求項13】 上記請求項12に記載の画像処理方法において,3次たたみ込み内挿法におけるパラメータを調整して画像のシャープさを変化させることを特徴とする画像処理方法。
【請求項14】 上記請求項8〜請求項13のいずれかに記載の画像処理方法において,画像のシャープさの変化度合いの異なる複数の補間処理を実行可能であるとともに,それぞれの補間倍率の割合を変化させて画像のシャープさを調整することを特徴とする画像処理方法。
【請求項15】 画像をドットマトリクス状の画素で表現した画像データについてコンピュータにて各画素の情報を変化させて所定の画像処理を行う画像処理プログラムを記録した媒体であって,上記画像データを取得するステップと,上記画像データに対して個々の画素における画像データを変更することによって各種の画像処理を実行するべく実行可能な画像処理を表示して選択を入力するステップと,画像の拡大処理と画像のシャープさの変更処理とが共に選択されたか否かを判断するステップと,画像の拡大処理と画像のシャープさの変更処理とが共に選択されたと判断されたときに,上記画像データにおける構成画素数を増やして画像を拡大するにあたり,この補間する画像データの変化度合いを調整することにより選択された画像のシャープさとなるように補間処理を実行するステップと,生成された画像データを出力するステップとをコンピュータに実行させることを特徴とする画像処理プログラムを記録した媒体。
【請求項16】 上記請求項15に記載の画像処理プログラムを記録した媒体において,拡大処理の選択とシャープさ変更の選択とを個別に選択可能であり,拡大処理の選択とシャープさ変更の選択とが同時に選択されたか否かを判断することを特徴とする画像処理プログラムを記録した媒体。
【請求項17】 上記請求項15に記載の画像処理プログラムを記録した媒体において,拡大処理を選択可能であるとともに,拡大処理が選択されたときにシャープさの変更度合を選択させることを特徴とする画像処理プログラムを記録した媒体。
【請求項18】 上記請求項15に記載の画像処理プログラムを記録した媒体において,画像処理に伴って解像度の変換処理を行うときに,シャープさの変更度合を選択させることを特徴とする画像処理プログラムを記録した媒体。
【請求項19】 上記請求項15〜請求項18のいずれかに記載の画像処理プログラムを記録した媒体において,高次関数を利用して画像データの変化態様を略S字型とし,画像データの低い側から高い側に移行するときに一旦は最低値よりも減少してから上昇して最高値を超して再び減少させ,その際のアンダーシュートと傾斜度合いとオーバーシュートとを上記高次関数のパラメータで調整して画像の変化度合いを最適なものとさせることを特徴とする画像処理プログラムを記録した媒体。
【請求項20】 上記請求項19に記載の画像処理プログラムを記録した媒体において,3次たたみ込み内挿法におけるパラメータを調整して画像のシャープさを変化させることを特徴とする画像処理プログラムを記録した媒体。
【請求項21】 上記請求項15〜請求項20のいずれかに記載の画像処理プログラムを記録した媒体において,画像のシャープさの変化度合いの異なる複数の補間処理を実行可能であるとともに,それぞれの補間倍率の割合を変化させて画像のシャープさを調整することを特徴とする画像処理プログラムを記録した媒体。
(3) 決定の理由 決定の理由は,【別紙】の「異議の決定の理由」に記載のとおりである。要するに,(@)平成12年8月29日付け訂正請求を認める,(A)本件発明1ないし6,8ないし13,15ないし20は,刊行物1ないし3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,(B)本件発明7,14,21についての特許は,取り消すべき理由はない,というものである。 なお,刊行物1とは,特開平9-50515号公報(審判甲1,本訴甲1),刊行物2とは,「Adobe Photoshop 4.0J ユーザガイド」37頁〜49頁(審判甲2,本訴甲2),刊行物3とは,雑誌「インターフェース(1998年4月号)」194頁〜202頁(審判甲3,本訴甲3)である。
2 原告の主張(決定取消事由)の要点 決定は,以下のとおり,本件発明1ないし6,8ないし13,15ないし20についての進歩性の判断を誤ったものであり,これらの発明についての特許を取り消すべきものとした部分は,取り消されるべきである。
(1) 本件発明1,8,15について (1-1) 本件発明1に関する相違点(あ)(画像処理選択手段)についての判断の誤り (1-1-1) 本件発明1は,「各種の画像処理が実行可能な状況で,画像の拡大処理と画像のシャープさの変更処理が共に選択されたと判断されたときに,画像を拡大するに当たり,補間する画像データの変化度合を調整して選択された画像のシャープさとなる補間処理を実行する」ものである。すなわち,複数機能の補間処理(例えばキュービック補間),単機能の補間処理(例えばニアリスト補間),単独でのシャープさ変更等が実行可能な状況においては,いずれの補間処理手法を実行するのかを一義的に決定できないので,本件発明では拡大処理とシャープさの変更とが同時に選択されたら複数機能の補間処理を行い,拡大処理のみが選択されたら単機能の補間処理(ニアリスト補間等)を行うように構成したものである。この構成によって,適切な補間処理が自動で選択されるという作用効果を奏する。
補間処理の結果得られる画像の画質やその処理速度は,個々の補間手法によって異なっており,いずれの補間処理手法が好ましいかは利用者が選択した画像処理によって異なってくるが,一般利用者は通常適切な補間処理を選択できない。しかし,本件発明1によれば,画像処理を選択するだけで適切な補間処理が実行される。
本件発明1の要旨は,以上のような作用効果を得ることを目的として構成されたものである。したがって,「実行可能な画像処理」としては,通常は拡大処理以外にも,コントラスト調整や単独でのシャープネス調整,明るさ調整など種々の画像処理が想定され,「画像処理選択手段」としては,少なくとも「画像の拡大処理と画像のシャープさの変更処理」とが選択可能であり,拡大処理を実行する補間手法が少なくとも二種類存在するとともに,利用者が補間処理を選択するための表示を行わないような構成となる。すなわち,本件発明にいう画像処理選択手段では「実行可能な画像処理」として拡大処理やシャープさの変更処理を表示するが,補間処理は選択させない。
(1-1-2) 決定は,画像処理選択手段の認定に関し,刊行物2(甲2)に開示された発明では,「画像の寸法(幅と高さ)と解像度という2つの画像処理についての数値の入力が可能」であり,「所望の処理を選択させるようにすることは慣用されているから」,刊行物1(甲1)において「実行可能な画像処理を表示して選択を入力する画像処理選択手段を具備させて拡大倍率に応じた値tと2次画像の所望の鮮鋭度に対応するパラメータαとを入力するようにすることは当業者が容易に想到し得る」としたが,以下の点で誤っている。
(1-1-3) 決定は,本件発明1でいう「実行可能な各種の画像処理を表示する画像処理選択手段」が,刊行物2(甲2)に開示されているかのように誤認し,さらにこの誤認した画像処理選択手段を刊行物1(甲1)の発明に適用したものである。
刊行物2に係る発明は,ピクセル寸法とプリントサイズ(解像度を含む)と補間処理とを利用者自らの意志で選択するものであり,選択されたピクセル寸法及びプリントサイズと補間処理との間に何ら因果関係がなく,まして自動で適切な補間処理を選択するものではない。本件発明1における画像処理選択手段では,「画像処理」が選択可能であるが,「補間処理」を選択させたのでは,上記目的が全く達成されないのである。
また,刊行物2でいう「画像の寸法と解像度」は,補間処理を実行する際のパラメータにすぎず,本件発明1でいう「実行可能な各種の画像処理」を表示しているわけではない。すなわち,現実の処理においては,画像の拡大の際に解像度をどのようにするのか決定しなくては拡大(補間処理)を行うことができないこと(解像度を明示的に指示しない場合であっても,それは解像度を維持するなど,あらかじめ決まっているにすぎない。)は公知の事実である。したがって,拡大と解像度の決定とは不可分であって,「画像の寸法と解像度」に関する処理は,それぞれ全く独立に実行することが不可能な類の処理である。決定は,「画像の寸法(幅と高さ)と解像度という『2つ』の画像処理」と認定し,本件発明1の「実行可能な各種の画像処理」と同視したものであって,誤りである。本件発明1では,シャープさの調整や拡大など本来個別に実行可能な画像処理を表示した上で,選択された画像処理の組み合わせから適切な補間処理を判断し,実行することを要旨としているのであり,拡大という「1つ」の画像処理について,利用者がその条件やパラメータを入力するUI(ユーザーインターフェイス)とは本質的に異なるからである。
(1-1-4) 決定は,刊行物1(甲1)に係る補間処理を実行する際に必須の「拡大倍率に応じた値t」及び「パラメータα」を入力する構成が,本件発明1でいう「実行可能な各種の画像処理」であるかのように誤認して,画像処理選択手段を刊行物1に適用している。
刊行物1に係る発明では,t及びαは必須のパラメータであって,拡大処理あるいはシャープさの変更処理のいずれかのみが選択されることは,はじめから予定していない発明であるか,あるいはt及びαを必須のパラメータとしたスプライン補間処理を開示した発明である。
しかし,この構成は「各種の画像処理を実行するべく実行可能な画像処理を表示して選択を入力する画像処理選択手段」を具備させることによって実現されるとはいえない。すなわち,必須パラメータの入力を待つ構成について「実行可能な画像処理」を表示するという文言では表現できないのであって,事実認定を誤っている。「実行可能な画像処理」は「各種の画像処理を実行するべく」表示するのであり,その画像処理の中に必須ではない画像処理が存在することを当然に予定しているからである。
(1-1-5) 刊行物1(甲1)は,「1つのスプライン補間演算だけで,より鮮鋭度調整の自由度が高い,画像データのスプライン補間演算方法及び装置を提供すること」を目的としている。したがって,刊行物1では複数種類の補間演算について全く考慮しておらず,刊行物1に係る発明から本件発明1に係る技術思想に想到することはあり得ない。本件発明1においては,複数の補間処理を前提としなければ適切な補間処理を選択するという観点が生まれるはずがないからである。すなわち,本件発明1では,適切な補間処理を選択することを目的としており,複数の補間処理が実行可能である状況が本質的に重要である。
決定は,上記本件発明1の要旨を誤認して無視した結果,本件発明1に係る画像処理選択手段を刊行物1に容易に適用可能であるといっており,認定に重大な瑕疵が存在する。
(1-2) 本件発明1に関する相違点(い)(う)(同時処理判断手段及び画素補間手段)についての判断の誤り 本件発明1にいう同時処理判断手段では「画像の拡大処理と画像のシャープさの変更処理とが共に選択されたか否かを判断」している。決定は,同時処理判断手段の認定に関し,刊行物2に開示された発明では「プリント寸法の変更と画像解像度の変更という画像処理ではあるが,2つの画像処理が共に選択されたことを判断すると認められる」としているが,上記のようにプリント寸法の変更と画像解像度の変更という処理は,補間処理を行う上で必須の決定事項であって,本件発明1にいう「実行可能な画像処理」の中から「拡大処理とシャープさ変更処理とが共に選択されたか否かを判断する」構成には該当しない。
本件発明1の「同時処理判断手段」では上記『複数の補間処理』の中から適切な補間処理を選択するために「拡大処理とシャープさの変更処理との同時選択」を判断しており,「画素補間手段」では同時選択である場合に適切な補間処理(拡大とシャープさ変更を同時に行う補間処理)を実行する。しかし,決定においては,選択された2つの画像処理をそのまま実行するような当然の構成に基づいて,選択された画像処理が特定の2組であるときに,それらを一度に実行可能な補間処理を実行する構成までも公知であるとしている。選択された画像処理が特定の2組であるときに特定の補間処理を実行する構成については公知であるとする根拠が全くなく,公知事実の範囲を根拠なく拡大,誤認している。
決定は,刊行物1に開示された発明について「画像の拡大処理と画像のシャープさの変更処理という2つの画像処理を同時に行うものであるから…共に選択されたか『否か』を判断する同時処理判断手段を具備させ…共に選択されたと判断されたときに補間処理を実行可能にするようにすること」は,当業者であれば容易であるとしている。しかし,刊行物1に開示された発明で「否」の判断をしてしまえば,補間処理を実行できないのであり,決定の結論は「否」という判断時にニアリスト等の補間処理を実行することを当然に含んでいる本件発明1の要旨を誤認したことによってなされたものである。
(1-3) 本件発明8,15について 本件発明1についての決定の判断は,上記の誤認に基づいてなされたものであり,本件発明1に関する決定部分が取り消されるべきであることと同様に,本件発明8,15に関する決定の部分も取り消されるべきである。
(2) 本件発明2,9,16について (2-1) 本件発明2に関する相違点(え)(個別に選択可能な構成)についての判断の誤り 決定は,刊行物1に開示された発明においても「個別の処理が必要になることがあることは当業者に容易に予測され…設計的事項にすぎない」としている。しかし,上記のように,刊行物1に開示された発明において拡大倍率に応じた値tとパラメータαとは,双方とも必須の入力パラメータである。したがって,決定は,刊行物1に係る発明について,必須パラメータのどちらか一方のみが決定したら補間演算が可能であるかのように誤認し,その結果,本件発明に容易に想到することができるとしたものである。
(2-2) 本件発明9,16について 本件発明2についての決定の判断は,上記の誤認に基づいてなされたものであり,本件発明2に関する決定部分が取り消されるべきであることと同様に,本件発明9,16に関する決定の部分も取り消されるべきである。
(3) 本件発明3,10,17について (3-1) 本件発明3に関する相違点(お)(選択の順序)についての判断の誤り 決定は,刊行物2に開示された発明では「プリント寸法または解像度を変更し,次に『画像再サンプル』を選択して」いるとしている。しかし,上記のように刊行物2に開示された発明は,「ピクセル寸法とプリントサイズ(解像度を含む)と補間処理とをUIによって選択できる」ものである。刊行物2において「プリント寸法または解像度」と「画像再サンプル」とをいずれの順序で選択しても結果は同じであり,そこに何ら技術思想は存在しない。
一方,本件発明3は,「画像処理選択手段で拡大処理だけが選択可能になっており,シャープさを変更する選択までは入力しない。しかしながら,この画像処理選択手段にて拡大処理が選択されたときには,上記同時処理判断手段が独自に判断してシャープさの変更度合を選択させる。」とあるように,順次選択をさせることによって画像処理選択手段での選択肢が非常に簡素化される。すなわち,本件発明3においては,画像処理の逐次選択を可能にするのみならず,利用者に対して一度に提供する画像処理の選択肢を簡素化している。
決定は,刊行物2に係る発明には何らかの技術思想が包含された画像処理の順次選択が開示されていると誤認し,さらに,簡素化された「画像処理選択手段」について全く無視し,本件発明3の要旨を誤認して,刊行物2から本件発明3に容易に想到可能であると誤認した。
(3-2) 本件発明10,17について 本件発明3についての決定の判断は,上記の誤認に基づいてなされたものであり,本件発明3に関する決定部分が取り消されるべきであることと同様に,本件発明10,17に関する決定の部分も取り消されるべきである。
(4) 本件発明4,11,18について (4-1) 本件発明4に関する相違点(か)(選択の順序)についての判断の誤り 決定は,刊行物2に開示された発明では「プリント寸法または解像度を変更し,次に『画像再サンプル』を選択して」いるとしている。しかし,上記のように刊行物2に開示された発明は「ピクセル寸法とプリントサイズ(解像度を含む)と補間処理とをUIによって選択できる」ものである。したがって,刊行物2においては,「プリント寸法または解像度」と「画像再サンプル」とをいずれの順序ですることも可能であり,刊行物2に画像処理の順次選択が開示されているとする判断は,明らかに事実誤認である。
本件発明4は,「直接には画像処理を選択しているようには見えないが,実際には内部的に拡大処理するような場合」と示されているように,明示的に拡大処理を選択していなくても実質的に拡大処理を選択しているときには,さらにシャープさの変更をするか否かの受付を行うことを発明の要旨としており,刊行物2のように一画面で最初から拡大と解像度の選択が表示されているものとは明らかに構成が異なる。
決定は,刊行物2に係る発明に何らかの技術思想が包含された画像処理の順次選択が開示されていると誤認し,さらに,明示的な画像処理の選択でなくても同時処理判断を行うという本件発明4の要旨を誤認して,刊行物2から本件発明4に容易に想到可能であると誤認した。
(4-2) 本件発明11,18について 本件発明4についての決定の判断は,上記の誤認に基づいてなされたものであり,本件発明4に関する決定部分が取り消されるべきであることと同様に,本件発明11,18に関する決定の部分も取り消されるべきである。
(5) 本件発明5,6,12,13,19,20について 本件発明1ないし4,8ないし11,15ないし18についての決定の判断は,上記の誤認に基づいてなされたものであり,これらの発明に関する決定部分は,取り消されるべきであるから,これらの発明に従属する本件発明5,6,12,13,19,20に関する決定の部分も取り消されるべきである。
3 被告の主張の要点 (1) 本件発明1,8,15について (1-1) 本件発明1に関する相違点(あ)(画像処理選択手段)についての判断の誤りをいう主張に対して 原告の本件発明1に関する主張は,特許請求の範囲の記載に基づくものではなく失当であり,決定における画像処理選択手段の認定は,本件発明1における「実行可能な各種の画像処理を表示する画像処理選択手段」の構成を誤認などしていない。
刊行物2(甲2)には,画像の寸法(幅と高さ)と解像度について数値の入力が可能なダイアログボックス及び「画像の再サンプルを選択すると,プリント寸法と画像解像度を別々に変更」できることが記載されている。刊行物2には,画像解像度を固定(デフォルト)して寸法を変更する処理と,プリント寸法を固定(デフォルト)して画像解像度を変更する処理という点で,2つの画像処理が記載されているといえるものである。画像再サンプルを選択し,画像のプリント寸法(幅と高さ)を変更した場合には,画像解像度を固定(デフォルト)して寸法を変更する処理を実行し,画像解像度を変更した場合には,プリント寸法を固定(デフォルト)して画像解像度を変更する処理を実行するというように,単一の補間処理法で2つの画像処理を実行することが可能である。本件発明1は,それぞれの画像処理が複数の補間処理法によって実行されることを要件とするものではない。したがって,本件発明1でいう「実行可能な各種の画像処理」と同視したことに何ら誤りはない。
刊行物1(甲1)に記載された発明は,画像データに対して所定の信号処理を施す画像再生システムを発明の実施形態とするものであり,刊行物1に記載された発明においても,拡大処理やシャープさの変更処理等,個別の処理が必要になることがあることは,当業者に容易に予測できることであるから,これら個別の処理を選択するために,刊行物2に例示されるような,各種メニューを表示してその中から所望の処理を選択させるというような慣用技術を適用して,「画像データに対して個々の画素における画像データを変更することによって各種の画像処理を実行するべく実行可能な画像処理を表示して選択を入力する画像処理選択手段」を具備させて,拡大倍率に応じた値tと2次画像の所望の鮮鋭度に対応するパラメータαとを入力するようにすることは,当業者が容易に想到し得ることである。原告の主張は,本件発明1が拡大処理あるいはシャープさの変更処理のいずれかのみが(画像処理選択手段によって)個別的に選択されるという特許請求の範囲に記載のない誤った前提に基づくものであり,失当である。
決定は,慣用されていることの例示として刊行物2を挙げたものであり,画像処理において各種のメニューを表示し,その中から所望の処理を選択させることが慣用されていることは,特開平5-130398号公報(甲12)にも記載されているように,疑いのないことである。また,画像再生システムにおいて,画像の拡大処理とシャープさの変更処理を個別に行うことが技術常識,すなわち周知であることは,例えば,上記甲12の記載からも明らかである。
以上のように,決定は,本件発明1における画像処理選択手段の認定,刊行物1,2の認定について何ら誤認するものではなく,また,刊行物1への刊行物2の適用に誤認などはない。
(1-2) 本件発明1に関する相違点(い)(う)(同時処理判断手段及び画素補間手段)についての判断の誤りをいう主張に対して 前記のとおり,刊行物2に記載されたプリント寸法と画像解像度の変更は,本件発明1でいう「実行可能な各種の画像処理」ということができるものであり,ダイアログボックスのプリント寸法と画像解像度の値をそれぞれ入力した場合には,それらの値に応じた画像処理が行われるものであるから,刊行物2に開示された発明では「プリント寸法の変更と画像解像度の変更という画像処理ではあるが,2つの画像処理が共に選択されたことを判断すると認められる」とした点に何ら誤りはない。なお,刊行物2に開示された発明は,プリント寸法の変更処理と画像解像度の変更処理という特定の2組の画像処理が選択されたときに特定の補間処理を実行するものである。
本件発明1の特許請求の範囲の記載は,同時処理判断手段が「否」と判断したときにニアリスト等の補間処理を実行することを規定するものではないから,「『否』という判断時にニアリスト等の補間処理を実行することを当然に含んでいる」とする原告の主張は,特許請求の範囲の記載に基づくものではなく,失当である。
(1-3) 本件発明8,15について 本件発明1についての決定の判断に誤りがないことは,上記のとおりであり,この判断が誤りであることを理由に,本件発明8,15に関する決定の違法をいう原告の主張は失当である。
(2) 本件発明2,9,16について (2-1) 本件発明2に関する相違点(え)(個別に選択可能な構成)についての判断の誤りをいう主張に対して 前記のとおり,刊行物1に記載された発明においても,拡大処理あるいはシャープさの変更処理等の個別の処理が必要となることがあることは,当業者に容易に予測できることであるから,拡大処理と鮮鋭度調整を個別に選択し得るように,画像処理選択手段を拡大処理の選択とシャープさの変更の選択とを個別に選択可能なものにすることは,設計的事項にすぎない。
したがって,相違点(え)についての決定の判断に誤りはない。
(2-2) 本件発明9,16について 本件発明2についての決定の判断に誤りがないことは,上記のとおりであり,この判断が誤りであることを理由に,本件発明9,16に関する決定の違法をいう原告の主張は失当である。
(3) 本件発明3,10,17について (3-1) 本件発明3に関する相違点(お)(選択の順序)についての判断の誤りをいう主張に対して 原告の主張は,特許請求の範囲請求項3に記載された構成に基づくものではなく,失当である。すなわち,請求項3には,画像処理選択手段について,「拡大処理を選択可能である」としているだけであり,「拡大処理だけが選択可能」とは記載されておらず,シャープさの変更については,選択が可能であるとも可能でないとも記載されていない。また,原告が主張する効果も,「拡大処理だけが選択可能」としたときに奏するものあり,請求項3の構成から奏されるものではない。
このように,本件発明3は,「何らかの技術思想が包含された画像処理の順次選択が開示されている」ものではなく,画像処理を順次選択するという点で,本件発明3と刊行物2に記載された発明とは,技術思想において何ら異なるものではないから,原告の主張は失当である。
なお,決定は,画像処理を順次選択するようにすることが慣用されていることの例示として,刊行物2を挙げたものであるが,このような画像処理の順次選択が慣用技術であることは,特開平4-319863号公報(乙1),特開平8-255257号公報(乙2)にも記載されているように,疑いのない事実である。
(3-2) 本件発明10,17について 本件発明3についての決定の判断に誤りがないことは,上記のとおりであり,この判断が誤りであることを理由に,本件発明10,17に関する決定の違法をいう原告の主張は失当である。
(4) 本件発明4,11,18について (4-1) 本件発明4に関する相違点(か)(選択の順序)についての判断の誤りをいう主張に対して 刊行物2におけるプリント寸法又は解像度の変更と,画像再サンプルの選択の順序がどうであれ,刊行物2のものは画像処理を順次選択を行うことに違いはないから,原告の主張は失当である。なお,決定が刊行物2を挙げた趣旨等については,前記(3-1)と同旨である。
決定に刊行物2に係る発明の誤認などはない。そして,本件発明4の技術的意味は,実施例の記載からみて,画像処理である印刷処理に伴い,画像処理選択手段C2を構成するステップST304で解像度変更処理を選択した後,同じく画像処理選択手段C2を構成するステップ310でシャープさの変更処理を選択させ,同時処理判断手段C3を構成するステップ312で解像度変更処理とシャープさの変更処理とが共に選択された否かを判断するという意味と解される。決定の趣旨は,本件発明4の技術的意味を上記のように理解した上で,このように解像度を選択した後シャープネスを選択させるような画像処理の選択の順とすることは,画像処理を順次選択するようにすることが慣用されていることからみて,当業者が適宜採用し得るというものであって,その判断に誤りはない。
なお,決定は,「画像処理の選択の順を解像度の変換,シャープさの変更の順に設定したにすぎず」とすべきところ,「画像処理の選択の順をシャープさの変更,解像度の変換の順に設定したにすぎず」と記載しているが,明白な誤記である。しかし,この誤記は結論に影響するものではない。
(4-2) 本件発明11,18について 本件発明4についての決定の判断に誤りがないことは,上記のとおりであり,この判断が誤りであることを理由に,本件発明11,18に関する決定の違法をいう原告の主張は失当である。
(5) 本件発明5,6,12,13,19,20について 決定における本件発明1ないし4,8ないし11,15ないし18についての判断に誤りがないことは,上記のとおりであるから,この判断が誤りであることを理由に,本件発明5,6,12,13,19,20に関する決定は違法であるとする原告の主張は失当である。
当裁判所の判断
1 本件発明1,8,15について (1) 本件発明1に関する相違点(あ)(画像処理選択手段)についての判断の誤りについて (1-1) 決定は,本件発明1と刊行物1記載の発明とを対比し,相違点(あ)として,「本件請求項1に係る発明は,『上記画像データに対して個々の画素における画像データを変更することによって各種の画像処理を実行するべく実行可能な画像処理を表示して選択を入力する画像処理選択手段』を具備するのに対し,刊行物1に記載された発明は,そのような手段を具備することについて明示しない点」と認定した(この認定は原告も争わない。)。 その上で決定は,相違点(あ)についての検討として,「画像の寸法(幅と高さ)と解像度という2つの画像処理についての数値の入力が可能な画像解像度のダイアログボックスが刊行物2に記載されており,また,画像処理装置において各種の処理メニューを表示し,その中から所望の処理を選択させるようにすることは慣用されているから,刊行物1に記載された発明において『画像データに対して個々の画素における画像データを変更することによって各種の画像処理を実行するべく実行可能な画像処理を表示して選択を入力する画像処理選択手段』を具備させて拡大倍率に応じた値tと2次画像の所望の鮮鋭度に対応するパラメータαとを入力するようにすることは当業者が容易に想到し得ることである。」と判断した。
決定の上記判断は,要するに,刊行物1の発明において摘示の慣用技術を適用することにより,相違点(あ)に想到することは容易であるという趣旨であると解される。そして,上記説示によれば,刊行物2は,慣用技術を示す例として摘示されているものと解される。
(1-2) これに対し,原告は,本件発明1の画像処理選択手段について,拡大処理とシャープさの変更とが同時に選択されたら複数機能の補間処理を行い,拡大処理のみが選択されたら単機能の補間処理を行うように構成したものであると主張し,拡大処理を実行する補間手法が少なくとも二種類存在するとともに,利用者が補間処理を選択するための表示を行わないような構成となると主張する。
そこで,検討するに,本件請求項1には,原告が主張するように,補間処理を選択するための表示を行う構成は記載されていない。しかし,拡大処理のみが選択された場合の処理については,請求項2,9,16に「拡大処理の選択とシャープさの変更の選択とを個別に選択可能」と記載されているだけであり,画像の拡大処理が個別に選択された場合にどのような処理を行うかについては,すべての請求項をみても記載がない。したがって,拡大処理を実行する補間手法が少なくとも二種類存在するとともに,利用者が補間処理を選択するための表示を行わないような構成とするという原告の主張は,特許請求の範囲の記載に基づくものではない。
(1-3) 原告は,また,刊行物2に記載された発明に関して,「画像の寸法と解像度」は補間処理を実行する際のパラメータにすぎず,本件発明1でいう「実行可能な各種の画像処理」を表示しているわけではなく,「画像の寸法と解像度」に関する処理はそれぞれ全く独立に実行することが不可能な類の処理であると主張し,本件発明1でいう「実行可能な各種の画像処理」と同視したことが誤りであると主張する。
検討するに,刊行物2(甲2)によれば,画像解像度ダイアログボックスにおいては,「ピクセル寸法」(幅,高さ)の入力ボックス,「プリントサイズ」(幅,高さ,解像度)の入力ボックス,「縦横比を固定」のチェックボックス,「画像の再サンプル」のチェックボックス等があり,それぞれ入力可能となっていること(45頁),上記「画像の再サンプル」の選択をしなかった(解除した)場合は,画像のピクセル総数が一定に維持されるので,プリントサイズの入力ボックスにおいて,寸法(幅,高さ)を変更すると解像度が調整され,解像度を変更すると寸法が調整されること(46頁),他方,「画像の再サンプル」の選択をした場合は,変更後のプリント寸法や解像度に対応して画像のピクセル総数が変わるのであり(46頁),プリント寸法又は解像度のいずれかを変更し,ピクセル寸法を変更することができること(44頁),また,プリント寸法と解像度を別々に変更できること(46頁),画像再サンプルを選択した場合には,3つの画像補間方式のうち1つを選択すること(48頁)が認められる。
これによれば,刊行物2記載の発明は,「画像の再サンプル」の選択をした場合には,プリントの寸法(幅,高さ)を変更する処理とプリントの解像度を変更する処理があり,前者のみの変更,後者のみの変更,さらに両者共にする変更が可能であるものと認められる。確かに,両者を共に変更する処理においては,寸法と解像度はパラメータにすぎないとの見方も考えられなくもないが,寸法のみ,解像度のみを相互に独立して変更処理することが可能なのであるから,上記原告の非難は,一面の真理を突いたものにすぎず,直ちに採用することはできない。そうすると,プリントの寸法を変更する処理と,プリントの画像解像度を変更する処理という点で,刊行物2には2つの画像処理が記載されているという被告の主張及びこれと基本的に同旨であると解される決定の認定判断を誤りであると断ずることはできない。
なお,仮に,上記寸法と解像度がパラメータにすぎないとしても,刊行物2の記載に照らして決定の説示を善解すると,画像解像度ダイアログボックスを開いてプリントサイズの寸法(幅,高さ)と解像度を入力する処理は,画像処理の選択に相当するといえ,これに加え,「画像再サンプル」の選択も,上記のように,これを選択することにより3つの画像補間方式のうち1つを選ぶことができるものであることからすれば,画像処理に相当するといえるのであり,これらの意味において,刊行物2には2つの画像処理が記載されているという趣旨であると理解することも可能である。
さらに,前記のとおり,決定において,刊行物2は慣用技術を示す例として摘示されているものと解されるところ,甲12(特開平5-130398号公報)によれば,画像処理装置において各種の処理メニューを表示し,その中から所望の処理を選択させるようにすることは,慣用技術であることが認められる。
以上のとおり,上記いずれの観点からも,相違点(あ)についての決定の判断に誤りがあるとはいえない。
(1-4) 原告は,刊行物1に記載される補間処理を実行する際に必須の「拡大倍率に応じた値t」及び「パラメータα」を入力する構成が本件発明1でいう「実行可能な各種の画像処理」であるかのように誤認して画像処理選択手段を刊行物1に適用している点で,決定には誤認があると主張する。
しかし,決定が刊行物1の「拡大倍率に応じた値t」及び「パラメータα」の入力を本件発明1の「画像処理の選択」に対応させたものではないことは,相違点(あ)の認定から明らかである。決定は,刊行物2の記載の技術事項及び慣用技術から,刊行物1に記載された発明において,相違点(あ)に係る「各種の画像処理を実行するべく実行可能な画像処理を表示して選択を入力する画像処理選択手段」を具備させることは当業者が容易に想到し得ると判断したのである。本件発明1においても,請求項には記載されていないものの,その実施例では,画像の拡大処理と画像のシャープさの変更処理のパラメータの入力を行うものであるから(甲6段落【0038】〜【0039】),決定の判断が誤りであるということはできない。
(1-5) 原告は,さらに,刊行物1では複数種類の補間演算について全く考慮しておらず,刊行物1に係る発明から本件発明1に係る技術思想に想到することはあり得ないとも主張するが,複数種類の補間演算については,上記のように特許請求の範囲の記載に基づくものではないから,原告の主張は失当である。
(1-6) 以上のように,決定の相違点(あ)についての判断に誤りはないというべきである。
(2) 本件発明1に関する相違点(い)及び(う)(同時処理判断手段及び画素補間手段)についての判断の誤りについて (2-1) 決定は,相違点(い)及び(う)について,刊行物2の記載の画像解像度ダイアログボックスのプリント寸法と画像解像度の値を変更して「OK」ボタンをクリックすることにより,入力されたそれらの値に基づいてプリント寸法と画像解像度とを変更する(「画像再サンプル」を選択した場合)ことを引用し,2つの画像処理が共に選択されたことを判断してそれら画像処理を行うようにすることが公知であり,刊行物1に記載された発明は,入力された拡大倍率に応じた値t及び2次画像の所望の鮮鋭度に対応するパラメータαに基づく画像の拡大処理と画像のシャープさの変更処理という2つの画像処理を同時に行うものであるから,「画像処理選択手段によって画像の拡大と画像のシャープさの変更処理とが共に選択されたか否かを判断する同時処理判断手段」を具備させ,「この同時処理判断手段によって画像の拡大処理と画像のシャープさの変更処理とが共に選択されたと判断されたときに」補間処理を実行可能にするようにすることは,画像処理選択手段を具備させるようにしたことに伴って当業者が何ら困難性なく採用し得ることであると判断した。
(2-2) 原告は,刊行物2の引用に関し,刊行物2に記載された発明のプリント寸法の変更と画像解像度の変更という処理は補間処理を行う上での必須の決定事項であって,本件発明1にいう「実行可能な画像処理」の中から「拡大処理とシャープさ変更処理とが共に選択されたか否かを判断する」構成には該当しないと主張する。
しかし,上記(1-3)で判示したところからすれば,2つの画像処理が共に選択されたことを判断してそれら画像処理を行うようにすることが公知であるとした決定の認定に誤りはないというべきであり,原告の主張は採用の限りではない。
(2-3) 原告は,本件発明1の「同時処理判断手段」では「複数の補間処理」の中から適切な補間処理を選択するために「拡大処理とシャープさの変更処理との同時選択」を判断しており,「画素補間手段」では同時選択である場合に適切な補間処理を実行すると主張し,選択された画像処理が特定の2組であるときに特定の補間処理を実行する構成については公知であるとする根拠が全くないと主張する。
しかし,刊行物1は,画像の拡大処理とシャープさの変更処理を同時に実行するものである。刊行物1に画像処理選択手段についての明確な記載はないものの,各種の画像処理を実行すべく実行可能な画像処理を表示して選択を入力する画像処理選択手段は,甲12に記載されるように周知であり,画像の拡大処理やシャープさの変更処理が実行可能な画像処理であることも技術常識である。
そうであれば,画像の拡大処理とシャープさの変更処理を同時に行うことが刊行物1に記載され,画像処理選択手段において,2つの画像処理を同時に選択して所望の画像処理を行うことが刊行物2に記載されているのであるから,相違点(い)及び(う)に係る事項を採用することに困難はないというべきであり,原告の主張には理由がない。
(2-4) 原告は,本件発明1は同時処理判断手段が「否」と判断したときにニアリスト等の補間処理を実行することを当然に含んでいるが,決定はその要旨を誤認したなどとも主張するが,本件発明1の要旨に関する上記主張は,特許請求の範囲の記載に基づくものではなく,失当である。
(2-5) 以上のように,決定の相違点(い)及び(う)についての判断に誤りはないというべきである。
(3) 本件発明8,15について 本件発明8,15に関する原告の取消事由の主張は,本件発明1に対する上記取消事由を理由とするものであるから,上記説示に照らし,理由がないものというべきである。
2 本件発明2,9,16について (1) 本件発明2に関する相違点(え)(個別に選択可能な構成)についての判断の誤りについて (1-1) 決定は,相違点(え)について,画像の拡大処理とシャープさの変更処理を個別に行うようにすることは周知であり,刊行物1に記載された発明においてもそれら個別の処理が必要になることがあることは当業者に容易に予測されることであるから,拡大処理と鮮鋭度調整を個別に選択し得るように,画像処理選択手段を拡大処理の選択とシャープさの変更の選択とを個別に選択可能なものにすることは,設計的事項にすぎないと判断した。
(1-2) 原告は,刊行物1に記載された発明は,拡大倍率に応じた値tとパラメータαとは,双方とも必須の入力パラメータであるから,個別の処理を行うようにする構成が設計的事項であると判断したことは誤りであると主張する。
しかし,刊行物1にも,鮮鋭度の調整を行わない,すなわち鮮鋭度のパラメータの入力を必要としない拡大再生処理が記載されている(段落【0003】〜【0014】)。また,甲12に,「画像の拡大処理」と「シャープネスの調整」を個別に行うことが可能なフルカラー作像装置が記載されており(段落【0015】〜【0028】,【0039】〜【0041】,図3〜7,10),画像の拡大処理とシャープさの変更処理を個別に行うようにすることは周知であるといえる。したがって,決定が「画像の拡大処理とシャープさの変更処理を個別に行うようにすることは周知であり,刊行物1に記載された発明においてもそれら個別の処理が必要になることがあることは当業者に容易に予測されることである」から,「拡大処理と鮮鋭度調整を個別に選択し得るように,画像処理選択手段を拡大処理の選択とシャープさの変更の選択とを個別に選択可能なものにすることは,設計的事項にすぎない。」とした判断に誤りはない。
なお,原告が刊行物1の拡大倍率に応じた値tとパラメータαとは双方とも必須の入力パラメータであると主張する点については,刊行物1に記載された発明の目的は,「1つのスプライン補間演算だけで,より鮮鋭度調整の自由度が高い,画像データのスプライン補間演算方法及び装置を提供すること」(段落【0023】)であるから,拡大倍率に応じた値tとパラメータαを入力させる構成としているものと解される。そして,上記のように,画像の拡大処理とシャープさの変更処理を個別に行うようにすることが周知である以上,拡大処理と鮮鋭度調整を個別に選択し得るようにすることは設計的事項にすぎないというべきであり,刊行物1の記載からもこれに対する阻害要因は見出せない。
(1-3) 以上のように,決定の相違点(え)の判断に誤りはなく,相違点(あ)ないし(う)の判断も前記のように誤りはないから,原告主張の取消事由は理由がない。
(2) 本件発明9,16について 本件発明9,16に関する原告の取消事由の主張は,本件発明2に対する上記取消事由を理由とするものであるから,上記説示に照らし,理由がないものというべきである。
3 本件発明3,10,17について (1) 本件発明3に関する相違点(お)(選択の順序)についての判断の誤りについて (1-1) 決定は,相違点(お)について,刊行物2にプリント寸法又は解像度を変更し,次に「画像再サンプル」を選択して画像補間方式を選ぶことが記載されているように,画像処理を順次選択するようにすることは慣用されており,相違点(お)における本件発明3の構成は,画像処理の選択の順を拡大処理,シャープさの変更の順に設定したにすぎないから,当業者が適宜採用し得るものであると判断した。
(1-2) 原告は,上記判断に対し,刊行物2において「プリント寸法または解像度」と「画像再サンプル」とをいずれの順序で選択しても,結果は同じであるから,決定は,刊行物2に何らかの技術思想が包含された画像処理の順次選択が開示されていると誤認し,さらに,簡素化された「画像処理選択手段」について全く無視して,本件発明3の要旨を誤認して,刊行物2から本件発明3に容易に想到可能であるとしていると主張する。
しかし,決定は,「刊行物2にプリント寸法または解像度を変更し,次に「画像再サンプル」を選択して画像補間方式を選ぶことが記載されている」と認定したのである。「プリント寸法または解像度の変更」は,「イメージ/画像解像度」を選択して画像解像度ダイアログボックスを開く操作を含み,「画像再サンプル」の選択は,画像解像度ダイアログボックスが開かれた後に選択される処理である。したがって,決定が,画像処理を順次選択するようにすることは慣用されていると認定した点に誤りはなく,相違点(お)における本件発明3の構成は,画像処理の選択の順を拡大処理,シャープさの変更の順に設定したにすぎないから,当業者が適宜採用し得るものであるとの決定の判断にも誤りはない。
(1-3) 以上のように,決定の相違点(お)の判断に誤りはなく,相違点(あ)ないし(う)の判断も前記のように誤りはないから,原告主張の取消事由は理由がない。
(2) 本件発明10,17について 本件発明10,17に関する原告の取消事由の主張は,本件発明3に対する上記取消事由を理由とするものであるから,上記説示に照らし,理由がないものというべきである。
4 本件発明4,11,18について (1) 本件発明4に関する相違点(か)(選択の順序)についての判断の誤りについて (1-1) 決定は,相違点(か)について,刊行物2にプリント寸法又は解像度を変更し,次に「画像再サンプル」を選択して画像補間方式を選ぶことが記載されているように,画像処理を順次選択するようにすることは慣用されており,相違点(か)における本件発明4の構成は,画像処理の選択の順をシャープさの変更,解像度の変換の順に設定したにすぎず,当業者が適宜採用し得るものであると判断した。
(1-2) 原告は,上記判断に対して,決定は,刊行物2に係る発明に何らかの技術思想が包含された画像処理の順次選択が開示されていると誤認し,さらに,明示的な画像処理の選択でなくても同時処理判断を行うという本件発明4の要旨を誤認して,刊行物2から本件発明4に容易に想到可能であるとしていると主張する。
しかし,前判示のとおり,決定が,刊行物2にプリント寸法又は解像度を変更し,次に「画像再サンプル」を選択して画像補間方式を選ぶことが記載されているように,画像処理を順次選択するようにすることは慣用されているとした認定に誤りはない。また,決定が,相違点(か)における本件発明4の構成は,画像処理の選択の順をシャープさの変更,解像度の変換の順(注:「解像度の変換,シャープさの変更の順」の誤記であることが明らかである。)に設定したにすぎず,当業者が適宜採用し得るものであるとした判断にも誤りはないというべきである。
(1-3) 以上のように,決定の相違点(か)の判断に誤りはなく,相違点(あ)ないし(う)の判断も前記のように誤りはないから,原告主張の取消事由は理由がない。
(2) 本件発明11,18について 本件発明11,18に関する原告の取消事由の主張は,本件発明4に対する上記取消事由を理由とするものであるから,上記説示に照らし,理由がないものというべきである。
5 本件発明5,6,12,13,19,20について 上記発明に関する原告の取消事由の主張は,本件発明1ないし4,8ないし11,15ないし18についての決定の判断が誤認に基づいてなされたものであることを理由とするものである。しかし,本件発明1ないし4,8ないし11,15ないし18についての決定の判断は,上記1ないし4で判示したとおり誤りはない。
したがって,本件発明5,6,12,13,19,20に関する決定部分が取り消されるべきものとする原告の主張は,理由がないものというべきである。
6 訂正審判の請求とその審決に対する審決取消訴訟の係属 原告は,平成13年5月2日,訂正審判の請求(訂正2001-39071号)をし,特許庁は,同年10月19日,「本件審判の請求は,成り立たない」との審決をした。そこで,原告は,同年11月27日,審決取消訴訟を提起し,当庁平成13年(行ケ)第535号審決取消請求事件として当部(本件と同一裁判体)に係属した(別訴)。別訴は,平成13年12月18日の弁論準備手続期日以後,本訴と同時並行して審理され,本訴と同日に判決言渡しに至ったものである。
上記訂正審判請求において,原告は,特許請求の範囲請求項1につき,より限定を加えた内容としたが,審決では,本訴における甲12を刊行物1とし,本訴の甲13を刊行物2とした上,訂正審判請求に係る請求項1に係る発明は,これら刊行物1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるとして,訂正審判請求を不成立としたものである。
上述のように,訂正審判においては,本件において引用された刊行物とは異なる刊行物に差し替えられた上,審決は,より限定された請求項1について,容易に想到し得るものとしたものである。そして,当裁判所は,別訴判決において判示したとおり,請求項1以外に係る発明も含めて訂正審判請求を成り立たないとした審決は是認し得るものと判断したものである。
7 結論 以上のとおり,原告主張の決定取消事由はいずれも理由がないので,原告の請求は棄却されるべきである。
追加
【別紙】異議の決定の理由異議2000-71505号事件,平成13年3月21日付け決定(下記は,上記決定の理由部分について,文書の書式を変更したが,用字用語の点を含め,その内容をそのまま掲載したものである。)理由1.手続の経緯本件特許第2962310号の請求項1乃至21に係る発明についての出願は、
平成10年4月6日に特許出願され、平成11年8月6日にそれら発明について特許の設定登録がなされ、その後、異議申立人相原光政より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成12年8月29日に訂正請求がなされたものである。
2.訂正の適否について(1)訂正の内容特許権者が求めている訂正の内容は、「第七図のST112、第十図のST216、第十三図のST316及び第二十一図の二点鎖線の説明においてハイブリッドバイキュービックと記載されているのをMキュービックと訂正する。」というものである。
(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張変更の存否上記訂正は、誤記の訂正を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、
実質上特許請求の範囲拡張又は変更するものでもない。
(3)むすびしたがって、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項で準用する第126条第2項乃至同条第4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
3.特許異議の申立てについて(1)申立ての理由の概要異議申立人相原光政は、証拠として甲第1号証(特開平9-50515号公報)、甲第2号証(「AdobePhotoshop4.01jユーザーガイド」37頁〜49頁)、甲第3号証(雑誌「インターフェース(1998年4月号)」194頁〜202頁)及び甲第4号証(特開平9-130597号公報)を提出し、本件請求項1乃至21に係る発明は、甲第1号証に記載された発明、又は甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたもの、あるいは甲第1号証乃至甲第4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第1項又は同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件請求項1乃至21に係る発明の特許を取り消すべき旨主張している。なお、異議申立人は、甲第2号証が本件の出願前に頒布されたことを明らかにするために甲第2号証に係るアプリケーションソフトの発売に関するMacWeekの1996年11月26日付け及び1996年12月3日付けの記事を提出している。
(2)本件請求項1乃至21に係る発明本件請求項1乃至21に係る発明は、平成12年8月29日付けで訂正された明細書の特許請求の範囲の請求項1乃至21に記載された事項により特定されるとおりのものである。
(3)引用刊行物に記載された発明当審が平成12年6月16日付けで通知した取消の理由において引用した刊行物1乃至3(異議申立人が提出した甲第1号証乃至甲第3号証)にはそれぞれ次のとおりの発明が記載されている。
ア.刊行物1:特開平9-50515号公報画像の拡大処理に際して画像データを補間する補間演算方法及び装置、特に3次のスプライン補間演算方法及び装置に関し(5頁右欄47行〜同50行の記載参照)、1つのスプライン補間演算だけで、より鮮鋭度調整の自由度が高い、画像データのスプライン補間演算方法及び装置を提供することを目的とし(7頁右欄49行〜8頁左欄2行の記載参照)、画像データ記憶装置10に予め記憶されている1次画像データをマルチフォーマッタ20により読み出し、その1次元画像データを補間演算手段30に入力すること(14頁左欄41行〜同47行の記載参照)、補間演算手段30では、図示しない他の入力手段から入力された拡大倍率に応じた値tと入力手段32に入力された2次画像の所望の鮮鋭度に対応するパラメータαとを用いた演算により求められた補間係数と画像データ記憶装置10からの原画像データとに基づき3次のスプライン補間関数演算式にしたがってtごとの補間点Xpの補間画像データYpを算出し、このようにして得られたすべての補間点の補間画像データを再生手段40に出力し、再生手段40では補間画像データに基づいた画像を可視画像として再生すること(14頁左欄48行〜同右欄45行の記載参照)、この可視画像は、入力するパラメータαの値を変化させるだけで簡単に鮮鋭度が調節されるものであること(14頁右欄45行〜同47行の記載参照)、が記載されている。
イ.刊行物2:「AdobePhotoshop4.01jユーザーガイド」37頁〜49頁プリント寸法と画像解像度の変更に関し、画像解像度ダイアログボックスの「画像の再サンプル」を選択すると、プリント寸法と画像解像度を別々に変更でき、この場合、新しいプリント寸法や解像度に対応して画像のピクセル総数が変わり、
「画像の再サンプル」の選択を解除した場合は、寸法を変更すると解像度が調節され、解像度を変更すると寸法が調節されて、画像のピクセル総数が一定に維持されること(46頁右欄の記載参照)、画像解像度ダイアログボックスは、プリントサイズとして画像の寸法(幅及び高さ)及び解像度を入力するようなものであること(45頁の図参照)、プリント寸法と画像解像度を変更するには、プリント寸法または解像度を変更し、その変更に合わせてピクセル総数を調節するには、「画像の再サンプル」を選択して用意されている3つの画像補間方式(ニアレストネイバー法(高速)、バイリニア法及びバイキュービック法(高画質))のうちの1つを選ぶこと(47頁左欄、48頁左欄〜49頁左欄の記載参照)、が記載されている。
なお、刊行物2は、異議申立人が提出した、アプリケーションソフト「AdobePhotoshop4.01j」の発売に関するMacWeekの1996年11月26日付け及び1996年12月3日付けの記事から、本件の出願前に頒布されたと認められる。
ウ.刊行物3:甲第3号証(雑誌「インターフェース(1998年4月号)」194頁〜202頁ディジタル画像の解像度変換及び拡大に関し、キュービックコンボルーション補間法ではパラメータαの選択によりリンギングが発生し、リンギングの大小により画質が異なること(200頁右欄「リンギング」の項の記載参照)、パラメータαを例えば-0.5あるいは-2とした場合、低い側から高い側に移行するときの画像データの変化態様は略S字型になること(200頁の図13参照)、が記載されている。
(4)対比・判断本件請求項1に係る発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると、
ア.刊行物1に記載された「マルチフォーマッタ20」は、画像データ記憶装置10に予め記憶されている1次画像データを読み出すものであり、その1次画像データは、画像をドットマトリックス状の画素で表現したものであることが当業者に明らかであるから、刊行物1に記載された発明は、画像をドットマトリックス状の画素で表現した画像データを取得する画像データ取得手段を具備する、
イ.刊行物1に記載された「補間演算手段34」は、補間により画像データにおける構成画素数を増やして画像を拡大すると共に、パラメータαに従って画像の鮮鋭度、すなわちシャープさを調整するものであるから、本件請求項1に係る発明と刊行物1に記載された発明とは、画像データにおける構成画素数を増やして画像を拡大するにあたり、この補間する画像データの変化度合いを調整することにより選択された画像のシャープさとなるように補間処理を実行可能な画素補間手段を具備するという点で差異がない、
ウ.刊行物1に記載された「再生手段40」は、補間演算手段34により生成された補間画像データに基づいた画像を可視画像として再生するものであるから、刊行物1に記載された発明は、生成された画像データを出力する画像データ出力手段を具備するから、本件請求項1に係る発明と刊行物1に記載された発明とは、
「画像をドットマトリックス状の画素で表現した画像データを取得する画像データ取得手段と、
前記画像データにおける構成画素数を増やして画像を拡大するにあたり、この補間する画像データの変化度合いを調整することにより選択された画像のシャープさとなるように補間処理を実行可能な画素補間手段と、
生成された画像データを出力する画像データ出力手段とを具備する画像処理装置。」である点で一致し、次の(あ)乃至(う)の点で相違する。
(あ)本件請求項1に係る発明は、「上記画像データに対して個々の画素における画像データを変更することによって各種の画像処理を実行するべく実行可能な画像処理を表示して選択を入力する画像処理選択手段」を具備するのに対し、刊行物1に記載された発明は、そのような手段を具備することについて明示しない点。
(い)本件請求項1に係る発明は、「この画像処理選択手段によって画像の拡大処理と画像のシャープさの変更処理とが共に選択されたか否かを判断する同時処理判断手段」を具備するのに対し、刊行物1に記載された発明は、そのような手段を具備することについて明示しない点。
(う)本件請求項1に係る発明は、画素補間手段が補間処理を実行可能であるのが「この同時処理判断手段によって画像の拡大処理と画像のシャープさの変更処理とが共に選択されたと判断されたときに」であるのに対し、刊行物1に記載された発明は、そのようなことを明示しない点。
まず、相違点(あ)について検討すると、画像の寸法(幅と高さ)と解像度という2つの画像処理についての数値の入力が可能な画像解像度のダイアログボックスが刊行物2に記載されており、また、画像処理装置において各種の処理メニューを表示し、その中から所望の処理を選択させるようにすることは慣用さているから、
刊行物1に記載された発明において「画像データに対して個々の画素における画像データを変更することによって各種の画像処理を実行するべく実行可能な画像処理を表示して選択を入力する画像処理選択手段」を具備させて拡大倍率に応じた値tと2次画像の所望の鮮鋭度に対応するパラメータαとを入力するようにすることは当業者が容易に想到し得ることである。
次に、相違点(い)及び(う)について検討すると、刊行物2に画像解像度ダイアログボックスのプリント寸法と画像解像度の値を変更して「OK」ボタンをクリックすることにより、入力されたそれらの値に基づいてプリント寸法と画像解像度とを変更する(「画像再サンプル」を選択した場合)ことが記載されており、画像処理装置としてはプリント寸法の変更と画像解像度の変更という画像処理ではあるが、2つの画像処理が共に選択されたことを判断すると認められる。そして、上述のように、2つの画像処理が共の選択されたことを判断してそれら画像処理を行うようにすることが公知であり、刊行物1に記載された発明は、入力された拡大倍率に応じた値t及び2次画像の所望の鮮鋭度に対応するパラメータαに基づく画像の拡大処理と画像のシャープさの変更処理という2つの画像処理を同時に行うものであるから、「画像処理選択手段によって画像の拡大と画像のシャープさの変更処理とが共に選択されたか否かを判断する同時処理判断手段」を具備させ、「この同時処理判断手段によって画像の拡大処理と画像のシャープさの変更処理とが共に選択されたと判断されたときに」補間処理を実行可能にするようにすることは、画像処理選択手段を具備させるようにしたことに伴って当業者が何ら困難性なく採用し得ることである。
本件請求項8、15に係る発明は、本件請求項1に係る発明を「画像処理方法」、「画像処理プログラムを記録した媒体」として表したものであり、画像処理内容をプログラム化して媒体に記録するようにすることも刊行物2に見られるように一般的に行われていることであるから、それらの発明に対しての判断は、本件請求項1に係る発明についての判断と同様である。
本件請求項2に係る発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると、相違点(あ)乃至(う)に加えて次の(え)の点で相違する。
(え)本件請求項2に係る発明は、「上記画像処理選択手段は、拡大処理の選択とシャープさの変更の選択とを個別に選択可能」であるのに対し、刊行物1に記載された発明は、そのようなことを明示しない点。
相違点(え)について検討すると、画像の拡大処理とシャープさの変更処理を個別に行うようにすることは周知であり、刊行物1に記載された発明においてもそれら個別の処理が必要になることがあることは当業者に容易に予測されることであるから、拡大処理と鮮鋭度調整を個別に選択し得るように、画像処理選択手段を拡大処理の選択とシャープさの変更の選択とを個別に選択可能なものにすることは、設計的事項にすぎない。
本件請求項9、16に係る発明は、本件請求項2に係る発明を「画像処理方法」、「画像処理プログラムを記録した媒体」として表したものであるから、それらの発明に対しての判断は、本件請求項2に係る発明についての判断と同様である。
本件請求項3に係る発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると、相違点(あ)乃至(う)に加えて次の(お)の点で相違する。
(お)本件請求項3に係る発明は、「上記画像処理選択手段は、拡大処理を選択可能であるとともに、上記同時処理判断手段は、上記画像処理選択手段にて拡大処理が選択されたときにシャープさの変更度合を選択させる」のに対し、刊行物1に記載された発明は、そのようなことを明示しない点。
相違点(お)について検討すると、刊行物2にプリント寸法または解像度を変更し、次に「画像再サンプル」を選択して画像補間方式を選ぶことが記載されているように、画像処理を順次選択するようにすることは慣用されており、相違点(お)における本件請求項3に係る発明の構成は、画像処理の選択の順を拡大処理、シャープさの変更の順に設定したにすぎないから、当業者が適宜採用し得るものである。
本件請求項10、17に係る発明は、本件請求項3に係る発明を「画像処理方法」、「画像処理プログラムを記録した媒体」として表したものであるから、それらの発明に対しての判断は、本件請求項3に係る発明についての判断と同様である。
本件請求項4に係る発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると、相違点(あ)乃至(う)に加えて次の(か)の点で相違する。
(か)本件請求項4に係る発明は、「上記同時処理判断手段は、上記画像処理選択手段が画像処理に伴って解像度の変換処理を行うときに、シャープさの変更度合を選択させる」のに対し、刊行物1に記載された発明は、そのようなことを明示しない点。
相違点(か)について検討すると、刊行物2にプリント寸法または解像度を変更し、次に「画像再サンプル」を選択して画像補間方式を選ぶことが記載されているように、画像処理を順次選択するようにすることは慣用されており、相違点(か)における本件請求項4に係る発明の構成は、画像処理の選択の順をシャープさの変更、解像度の変換の順に設定したにすぎず、当業者が適宜採用し得るものである。
本件請求項11、18に係る発明は、本件請求項4に係る発明を「画像処理方法」、「画像処理プログラムを記録した媒体」として表したものであるから、それらの発明に対しての判断は、本件請求項4に係る発明についての判断と同様である。
本件請求項5に係る発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると、相違点(あ)乃至(か)に加えて次の(き)の点で相違する。
(き)画素補間手段が、本件請求項5に係る発明は、「高次関数を利用して画像データの変化態様を略S字型とし、画像データの低い側から高い側に移行するときに一旦は最低値よりも減少してから上昇して最高値を超して再び減少させ、その際のアンダーシュートと傾斜度合いとオーバーシュートとを上記高次関数のパラメータで調整して画像の変化度合いを最適なのもとさせる」ものであるのに対し、刊行物1に記載された発明は、3次のスプライン関数を利用するものであり、それによる画像データの変化態様が明らかでない点。
相違点(き)について検討すると、高次関数である3次の補間関数を用いるキュービックコンボルーション補間法によりディジタル画像の解像度変換及び拡大を行うこと、その関数におけるパラメータの選択によりリンギング、すなわちアンダーシュートと傾斜度合いとオーバーシュートとが変化し、画質が違ってくることくることが刊行物3に記載されているから、刊行物1に記載された画素補間手段(補間演算手段)を「高次関数を利用して画像データの変化態様を略S字型とし、画像データの低い側から高い側に移行するときに一旦は最低値よりも減少してから上昇して最高値を超して再び減少させ、その際のアンダーシュートと傾斜度合いとオーバーシュートとを上記高次関数のパラメータで調整して画像の変化度合いを最適なのもとさせる」ものにすることは当業者が容易になし得ることである。
本件請求項12、19に係る発明は、本件請求項5に係る発明を「画像処理方法」、「画像処理プログラムを記録した媒体」として表したものであるから、それらの発明に対しての判断は、本件請求項5に係る発明についての判断と同様である。
本件請求項6に係る発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると、相違点(あ)乃至(き)に加えて次の(く)の点で相違する。
(く)画素補間手段が、本件請求項6に係る発明は、「3次たたみ込み内挿法におけるパラメータを調整して画像のシャープさを変化させる」ものであるのに対し、
刊行物1に記載された発明は、3次のスプライン関数を利用するものであり、それにおけるパラメータ(補間係数)を調整して画像のシャープさを変化させるものである点。
相違点(く)について検討すると、刊行物3には3次の補間関数を用いるキュービックコンボルーション補間法によるディジタル画像の解像度変換及び拡大において、パラメータの選択によりリンギングの程度が変化し、画質が違ってくることが記載されており、これは3次たたみ込み内挿法におけるパラメータの調整により画像のシャープさが変化することを示唆しているから、刊行物1に記載された画素補間手段(補間演算手段)を「3次たたみ込み内挿法におけるパラメータを調整して画像のシャープさを変化させる」ものにすることは当業者が容易になし得ることである。
本件請求項13、20に係る発明は、本件請求項6に係る発明を「画像処理方法」、「画像処理プログラムを記録した媒体」として表したものであるから、それらの発明に対しての判断は、本件請求項6に係る発明についての判断と同様である。
本件請求項7に係る発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると、相違点(か)乃至(く)に加えて次の(け)の点で相違する。
(け)画素補間手段が、本件請求項7に係る発明は、「画像のシャープさの変化度合いの異なる複数の補間処理を実行可能であるとともに、それぞれの補間倍率の割合を変化させて画像のシャープさを調整する」ものであるのに対し、刊行物1に記載された発明は、1つのスプライン補間演算を行って画像のシャープさを調整するものである点。
相違点(け)について検討すると、刊行物1乃至3に記載された発明は、相違点(け)における本件請求項7に係る発明の構成について開示も示唆もしない。そして、本件請求項7に係る発明は、この構成を具備することにより一定の補間倍率を実現しつつ、複数の分担割合で画像のシャープさを調整することができ、複数の補間処理でありながら実質的には画像のシャープさに応じた補間処理を実現でき、分担割合を変化させて両者の中間的な強度でシャープさを変化させることができるという明細書記載の効果(段落【0065】の記載参照)を奏するものであるから、
刊行物1乃至3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
本件請求項14、21に係る発明は、本件請求項6に係る発明を「画像処理方法」、「画像処理プログラムを記録した媒体」として表したものであるから、それらの発明に対しての判断は、本件請求項7に係る発明についての判断と同様である。
なお、異議申立人は、甲第4号証(特開平9-130597号公報)を提出し、
甲第4号証には複数の補間処理における補間倍率の割合を変えることで、所望の倍率に変換する技術、プリンタエンジンの特性及び人間の視覚特性に応じたn、mの値の最適化設計が実現できることが記載されており、この記載は、本件請求項7、
14、21に係る発明の「画像のシャープさの変化度合いの異なる複数の補間処理を実行可能であるとともに、それぞれの補間倍率の割合を変化させて画像のシャープさを調整する」ことと差異がないと主張しているが、甲第4号証に記載された発明は、まず解像度変換部で縦横(n×m)倍し、続いて濃度パターン部で縦(N/n)倍、横(M/m)倍にして結果的に縦横(N×M)倍の画像情報を得るようにすることにより、低解像度で多階調の画像情報を2値化する画像処理方法及び装置に関するものであり、シャープさの変化度合いの異なる複数の補間処理の補間倍率の割合を変化させて画像のシャープさを調整することについて開示も示唆もしないから、異議申立人のかかる主張は、失当であって採用できない。
4.むすび以上のとおりであるから、本件請求項1乃至6、8乃至13、15乃至20に係る発明は、刊行物1乃至3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、それらについての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、特許法113条第2項に該当し、取り消されるべきものであり、本件請求項7、14、21に係る発明についての特許は、特許異議申立の理由及び証拠によっては取り消すことはできず、また、他に本件請求項7、14、21に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
平成13年3月21日
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 塩月秀平
裁判官 田中昌利