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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成16ワ25576特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
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平成16ワ11096特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
関連ワード 発明者 /  考案者 /  公然知られ(29条1項1号) /  頒布された刊行物 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  公知技術 /  技術的範囲 /  技術的手段 /  発明の詳細な説明 /  登録実用新案 /  特許出願日 /  参酌 /  均等 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  構成要件 /  構成要件充足性 /  差止請求(差止) /  侵害 /  請求の範囲 /  拡張 /  変更 /  釈明 /  訂正要件 / 
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事件 平成 16年 (ワ) 14709号 特許権侵害差止等請求事件
原告 株式会社スワニー
訴訟代理人弁護士 山上和則
同 藤川義人
同 和田恵
被告 株式会社三洋
訴訟代理人弁護士 深井潔
補佐人弁理士 辻本一義
同 窪田雅也
同 神吉出
同 上野康成
同 森田拓生
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2005/11/10
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告は、別紙物件目録記載の物件を製造、販売、又は販売のために展示してはならない。
2 被告は、その所有する別紙物件目録記載の物件及びその半製品並びにその製造に用いられる材料を廃棄せよ。
3 被告は、原告に対し、840万円及びこれに対する平成17年1月20日(本訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は、原告が、「キャスター付きの鞄」に関する特許権を有しているところ、被告による製品の製造販売が上記特許権の侵害にあたると主張して、その製造販売の差止め等及び損害賠償を請求した事案である。
1 前提となる事実(証拠により認定した事実は末尾に証拠を掲げた。その余は争いがない事実である。) (1)ア 原告は、下記の特許権(以下「本件特許権」といい、その明細書の特許請求の範囲の請求項2に記載された発明を「本件発明」と、その明細書を「本件明細書」という。)の特許権者である(甲1、2)。
発明の名称 キャスター付きの鞄 出願日 平成8年11月8日 出願番号 特願平8-312735号 公開日 平成10年5月26日 公開番号 特開平10-137022号 登録日 平成10年7月17日 特許番号 第2802914号 特許請求の範囲の請求項2は、別紙特許公報(甲2)の該当欄記載のとおり イ 本件発明の構成要件は、次のとおり分説される。
A 開閉自在なケース本体(4)と、
B このケース本体(4)の底面四隅部に装着された自由な方向に走行可能なキャスター(1)と、
C ケース本体(4)に上方に引出し自在に装着されて、伸縮ロッド(5)の上端に握り部(3A)を有する取手(3)と、
D この取手(3)をケース本体(4)から引き上げた位置と、押し込んだ位置とに停止させるストッパー(10)とを備え、
E ケース本体(4)から引き上げられた握り部(3A)が、ケース本体(4)上面の左右の中央に位置して、ケース本体(4)上面の長手方向に向く姿勢に位置する鞄において、
F 取手(3)の伸縮ロッド(5)がケース本体(4)の側面に上下に固定されると共に、
G この伸縮ロッド(5)が固定されるケース本体(4)の側面が、伸縮ロッド(5)上端の握り部(3A)を引き上げた状態で、ケース本体(4)の左右の中央に位置させるように傾斜してなることを特徴とする H キャスター付きの鞄。
(2) 被告は、別紙物件目録記載のキャスター付き鞄(以下「イ号物件」という。)を販売している。
イ号物件は、少なくとも、本件発明の構成要件AないしD、F及びHをいずれも充足する。
2 争点 (1) イ号物件の構成要件E充足性(イ号物件の伸縮ロッド上端の握り部がケース本体上面の左右の「中央」に位置するか) 〔原告の主張〕 ア 「中央」の意味 (ア) 「中央」という用語の通常の意味は、「@空間的にまんなかの位置、A働きの中心となっている位置、また、その位置にあるものや場所」を指すものであり、「まんなか」とは、「線・物・場所や順序の、両端や周囲から内側に見て、全体のちょうど半分になるところ、また、そのあたり」を指すものである。
このような「中央」の持つ用語の意味合いからすれば、本件発明における「中央」という用語の通常の意味は、必ずしも、鞄の上面の左右から等距離にある位置と限定されるものではなく、その周辺部分も含んでいるものであり、構成要件Eにいう、「中央に位置」するという意味は、厳密に鞄の上面(厚さ方向)の左右端から等距離にある位置に限定されるものではなく、その周辺位置をも含む、
抽象的かつ包括的な記載である。
(イ) そこで、この「周辺位置」とはどの程度の位置であるかについては、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明の目的、技術的構成及び作用効果をも参酌すべきである。
本件明細書の発明の詳細な説明に記載された技術は、ケース本体の片側側面に伸縮ロッドを位置させたままで、握り手を軽く握って少ない力でも横幅の狭い側面を前面として前方に移動させるという作用効果を達成する技術であり、そこに本件発明の目的と実質的な価値があるのである。
このような本件発明の実質的価値から、その技術的範囲を解釈すれば、構成要件Eにいう「ケース本体上面の左右の中央に位置」するとは、伸縮ロッドと取っ手がケース本体の側面に固定されていながらも、取っ手の握り部を軽い力で押すだけでケース本体の側面を前面として前方に移動できるという目的を達成する程度に、握り部がケース本体の中心線付近に位置すれば足りるというべきである。
(ウ) また、本件明細書の発明の詳細な説明の項の段落【0011】の記載も、構成要件Eにいう、「中央に位置」するという意味が、正確に中央線上にある必要はなく、中心付近にあるものも含むことを明らかにするものである。
(エ) 以上述べたところに照らせば、構成要件Eにいう、「握り部(3A)が、ケース本体(4)上面の左右の中央に位置」するという意味は、握り部が、ケース上面の左端と右端の間に位置し、握り部を握って移動方向を強く強制することなく、軽い力で好きな位置に楽に移動できるという作用効果を奏する程度にまでケース本体の中心線付近に位置すること、すなわち、別紙「計測図面@」におけるaの値(握手の中心とケース本体側面の中心線からの距離)が、Eの値よりも小さいこと、すなわち、aの値が、Dの値(壁面からケース本体側面の中心線までの距離)の半分以内にあることを意味すると解するべきである。
イ 被告の主張に対する反論 (ア) 被告は、構成要件Eに「中央」とあるのを、「ほぼ中央」と解釈することは、特許請求の範囲拡張するものであって許されないと主張する。
しかし、原告の上記主張アは、特許請求の範囲拡張するものではなく、特許請求の範囲に記載された「中央」という用語の意味を解釈・確定しているにすぎないから、被告の上記主張はあたらない。
(イ) 被告は、構成要件Eに「中央」とあるのを、「ほぼ中央」と解釈するならば、発明の外延が不明確となり、特許法36条6項2号違反の無効理由を包含することになると主張する。
しかし、原告の上記主張アのとおり、本件発明の作用効果等も考慮して総合的に判断すれば、当業者において、その意味を明確に解釈することができるのであるから、被告の上記主張はあたらない。
また、被告は、特許請求の範囲の記載に「ほぼ」を付加するような訂正は訂正要件を具備しないとも主張する。
しかし、訂正要件を具備するか否かは関係のない事項であるし、これが関係のあるものだとしても、明りょうでない事項の釈明に該当するものである。
(ウ) 被告は、特許請求の範囲に、「ほぼ中央」と記載されていない以上、「ほぼ」は出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要ではないと認めた事項であるから、「中央」はそのままの意味に捉えるべきであると主張する。
しかし、特許請求の範囲の記載だけでは、文言の解釈が一義的に明確ではない場合には、明細書の記載を参酌すべきであり、原告の上記主張アはそのことを述べているのであるから、被告の上記主張はあたらない。
(エ) 被告は、鞄の上面の左右の中央を貫く垂線に、握り部が全く接触しない場合には、「ほぼ」中央に位置しないと解すべきと主張する。
しかし、被告の上記主張を示唆する記載は、本件明細書のどこにも存在しないから、そのように限定して解釈すべき根拠はない。
ウ イ号物件の構成 (ア) 原告において、イ号物件10個について、別紙「計測図面@」のAないしEの寸法について計測を行い、aの値を算出した結果は、別紙「原告計測結果」のとおりである。
(イ) イ号物件10個の計測結果は、別紙「原告計測結果」のとおりそれぞれ異なるものである。
しかし、被告が同一工程により同一商品として製造したものである以上、本来であれば、イ号物件におけるaの値は、ごく小さい製造誤差が生じるとしても、ほぼ一致するはずである。それにもかかわらず、このようにばらつきが生じるのは、計測上の誤差のほか、製造から消費者の手元に渡る間に、徐々にねじの緩みなどの個別物件ごとの事情が生じたものと思われる。
そうであるならば、消費者の手元に渡ったイ号物件の実物を元に、イ号物件のaの値を計測する場合、個々の物件ごとに判断するのではなく、個々の物件の計測結果の平均値を採用して、構成要件充足性を判断するべきである。
構成要件Eの充足性 以上を前提に判断すると、原告における計測結果によっても、被告における計測結果によっても、イ号物件のaの値の平均値は、Eの値の平均値よりも小さい。
したがって、イ号物件は、構成要件Eを充足するものである。
〔被告の主張〕 ア 「中央」の意味 本件明細書の特許請求の範囲には、「ほぼ中央」ではなく、「中央」と記載されているのであるから、これを字義通り解釈すべきである。
イ 原告の主張に対する反論 (ア) 本件明細書の特許請求の範囲には、「中央」と記載されているのであるから、発明の詳細な説明の項に「ほぼ中央」と記載されているからといって、
本件発明の技術的範囲を、特許請求の範囲の記載よりも拡張することは許されない。
(イ) 「ほぼ」とは、「およそ」という漠然とした概念であり、どの程度の範囲が「ほぼ中央」になるのか、本件明細書の記載に照らしても明らかにならない。
したがって、「中央」を「ほぼ中央」と解するならば、本件発明の外延が不明確になり、特許法36条6項2号違反の無効理由を包含することになるから、そのような解釈は許されない。
なお、特許請求の範囲の記載に「ほぼ」を付け加える訂正は、訂正が認められる場合にあたらない上に特許請求の範囲拡張するものであって、訂正要件を具備しないものである。
(ウ) 原告が主張する「中央」の範囲は、ケースの上面のうち相当に広い範囲がこれに属することとなり、このような解釈が妥当でないことは明白である。
また、後記(5)〔被告の主張〕のとおり、引用例1記載の発明と引用例2記載の発明を組み合わせたものは、公知技術から容易に推考できたものであるから、自由技術である。そして、ここにおける握り部の位置は、鞄の上面幅の約50パーセントを占める範囲に位置するものであり、原告の主張する中央の範囲は従来の鞄におけるそれを含むことになってしまうが、このような解釈が妥当でないことも明らかである。
(エ) 本件明細書の発明の詳細な説明の項の段落【0011】の記載は、
上記(ア)で述べた理由のほか、いかなる位置が「ほぼ中央」に属する位置なのか、
具体的な内容・基準が一切述べられていないものであるから、これを参酌すべきではない。
そもそも、特許請求の範囲は、出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項の全てを記載しなければならないものであり、特許請求の範囲の記載に「ほぼ」と記載されていない以上、「ほぼ」は出願人が特許を受けようとする発明と特定するために必要ではないと認めた事項であるから、
「中央」はそのままの意味に捉えるべきである。
したがって、本件明細書の段落【0011】の記載を善解するとしても、上面の左右の中央を貫く垂線が、握り部の中央を正確に貫く厳密さを要求しない場合もあるけれども、この垂線が、握り部に全く接触しない場合は、「ほぼ中央」にも位置しないと解するべきである。
ウ イ号物件の構成 被告において、原告が計測したイ号物件10個について、別紙「計測図面A」のL1、L2及びEの寸法について計測を行い、aの値を算出した結果は、
別紙「被告計測結果A」のとおりである。
また、被告において、原告が計測したイ号物件10個について、別紙「計測図面@」のAないしEの寸法について計測を行い、aの値を算出した結果は、別紙「被告計測結果@」のとおりである。
構成要件Eの充足性 イ号物件の構成は、上記のとおりであり、イ号物件の握り部は上面の左右の中央を貫く垂線上に位置せず、これに接触もしていない。
そして、構成要件Eの「中央」を「ほぼ中央」と解するとしても、イ号物件における握り部の位置が「ほぼ中央」にあたると解することは、不当な拡大解釈であって、相当ではない。
したがって、イ号物件は構成要件Eを充足しない。
(2) イ号物件の構成要件G充足性(イ号物件の伸縮ロッドが固定されるケース本体の側面が、伸縮ロッド上端の握り部をケース本体の左右の中央に位置させるように傾斜しているか)について 〔原告の主張〕 ア イ号物件において、伸縮ロッド上端の握り部が、これを引き上げた状態で、ケース本体の左右の中央に位置していることは、上記(1)〔原告の主張〕のとおりである。
イ イ号物件は、伸縮ロッドが固定されるケース本体の側面が傾斜していることによって、伸縮ロッド上端の握り部が、これを引き上げた状態で、ケース本体の左右の中央に位置するようになるものである。
ウ(ア) 被告は、イ号物件において、伸縮ロッドが固定されるケース本体の側面は傾斜していないと主張する。
しかし、被告の主張によれば、伸縮ロッドの握り部が鞄の中央に向かって位置していることの説明がつかないから、この主張は事実に反するものである。
(イ) 被告は、イ号物件は、本件発明が要求する傾斜角度を充たさないと主張する。
しかし、本件明細書には、特許請求の範囲の記載にも、発明の詳細な説明の記載にも、側面の傾斜角度について限定する記載はないから、被告の上記主張はあたらない。
エ したがって、イ号物件は構成要件Gを充足するものである。
〔被告の主張〕 ア イ号物件において、伸縮ロッド上端の握り部が、これを引き上げた状態で、ケース本体の左右の中央に位置していないことは、上記(1)〔被告の主張〕と同様である。
イ イ号物件においては、伸縮ロッドが固定されるケース本体の側面は、傾斜するように設計されておらず、実際の物件においても、傾斜していない。
また、わずかに傾斜しているものについても、握り部が中央に位置するために要求される傾斜角度(これは各部の寸法から計算上自ずから定まるものである。)に至っていないから、イ号物件のケース本体の側面は、本件発明における技術的手段として作用していない。
ウ したがって、いずれにしても、イ号物件は構成要件Gを充足していない。
(3) イ号物件は構成要件E及びGを同時に充足するか 〔原告の主張〕 ア イ号物件が構成要件E及びGを同時に充足していることは、前記(1)及び(2)の各〔原告の主張〕のとおりである。
イ 被告は、本件発明は、「ケース本体上面の左右の中央」と、上面から底面に至るまでの「ケース本体の左右の中央」が一致していることが前提であり、また、それ故に、握り部を取り付けた側面と、これに対向する側面との両者の角度は同じである、左右対称のものでなければならないと主張する。
しかし、本件明細書を見ても、「ケース本体上面の左右の中央」と、
「ケース本体の左右の中央」とを意識的に使い分けている記述はなく、まして、被告が主張するように、鞄が、対向する両側面の角度が等しい、左右対称のものでなければならないことを示唆する記述もないから、被告の上記主張はあたらない。
〔被告の主張〕 ア 引き上げられた握り部の位置は、構成要件Eでは、「ケース本体上面の左右の中央」であり、構成要件Gでは、「ケース本体の左右の中央」とされているのであるから、本件発明においては、握り部は、ケース本体上面の左右の中央を貫く垂線上に位置するとともに、上面から底面(下面)に至るまでのケース本体の左右の中央を貫通する垂線上に位置するものである。
言い換えれば、本件発明は、ケース本体上面の中央と、上面から底面に至るまでのケース本体の左右の中央が一致していることが前提であり、上面の左右の中央を貫く垂線によってケース本体が左右均等に分割されるものである。
したがって、本件発明では、握り部を取り付けた側面と、これに対向する側面の傾斜角度が同じ、左右対称の鞄でなければならない。
イ イ号物件は、伸縮ロッドを取り付けた側の側面と、これに対向する側面の角度は異なっており、左右非対称の鞄である。
したがって、イ号物件が、構成要件E及びGを同時に充足することはない。
(4) イ号物件は本件発明の作用効果を奏するか 〔原告の主張〕 前記(1)〔原告の主張〕のとおり、イ号物件は、握り部をケース本体の左右の中央部分に配設することができるものであり、これによって、「取っ手の伸縮ロッドを、最も邪魔にならない位置に配設して、握り部を握って移動方向を強く強制することなく、好きな方向に楽に移動できる」という本件発明の作用効果を奏するものである。
〔被告の主張〕 本件明細書の発明の効果の欄には、「握り部をケース本体の左右の中央部分に配設できる」、「握り部を握って移動方向を強く強制することなく、好きな方向に楽に移動できる」と記載されている。
しかし、前記(1)〔被告の主張〕のとおり、イ号物件は、「握り部をケース本体の左右の中央部分に配設できる」ものではない。
また、イ号物件は、握り部が中央に位置せず、かつ、左右非対称の鞄であるため、握り部を持って直進しようとしても容易に曲がってしまい、「握り部を握って移動方向を強く強制することなく、好きな方向に楽に移動できる」ということもない。
以上のとおり、イ号物件は本件発明の作用効果を奏しない。
(5) 本件特許は特許無効審判により進歩性の欠如を理由に無効とされるべきものか 〔被告の主張〕 ア 無効理由@ (ア) 本件発明は、本件特許出願前に頒布された刊行物である米国特許第5,407,040号公報(乙1。以下「引用例1」という。)に記載された発明(以下「引用発明1」という。)と、いずれも本件特許出願前に頒布された刊行物である、実開平7-39544号公報(乙2。以下「引用例2」という。)、実開昭59-118414号公報(乙3)、登録実用新案第3028901号公報(乙4)、特開平8-24032号公報(乙5。以下「乙第5号証刊行物」という。)、登録実用新案第3014190号公報(乙6)、登録実用新案第3006468号公報(乙7)及び実開平7-39545号公報(乙8)の記載から、当業者によって容易に想到することのできたものである。
(イ) すなわち、引用発明1と本件発明は、@前者が2輪キャスターであるのに対し、後者が4輪キャスターであること、A前者が、取っ手を引き上げた位置でのみ停止するストッパを有するのに対し、後者は、取っ手を引き上げた位置と押し込んだ位置の両方で停止させるストッパを有すること、B引き上げた握り部の位置が、前者は鞄本体の上面の左右の中央寄りであるのに対して、後者は鞄本体の上面の左右の中央であること、の3点で相違し、その余はいずれも一致する。
(ウ) 上記相違点@については、引用例2及び実開昭59-118414号公報(乙3)に記載されているように、4輪キャスターの鞄は公然知られていたものであり、特に、引用例2及び登録実用新案第3028901号公報(乙4)に、2輪キャスターから、4輪キャスターに設計を変更することが記載されていることに照らせば、当業者において、引用発明1の2輪キャスターを4輪キャスターに変更することは、容易である。
(エ) 上記相違点Aについては、特開平8-24032号公報(乙第5号証刊行物)に記載されているように、取っ手を引き上げた位置と押し込んだ位置の両方で停止させるストッパは、公然と知られた典型的なロック機構であったから、
当業者において、引用発明1の取っ手のストッパを、そのように設計変更することは、容易である。
(オ) 上記相違点Bについては、もし、原告が主張するように、「中央」を「ほぼ中央」として解釈するのであれば、引用発明1における引き上げた握り部の位置も、この「ほぼ中央」にあたるから、実質的な相違点ではない。
「中央」について、原告主張のとおり解釈しなくても、引用例2には、4輪キャスターの鞄について、鞄を縦方向に移動するとき、そのバランスを考慮して、引き延ばした握り手を、鞄の上面の左右の中央に位置させることが記載されているのであるから、当業者において、引用発明1の握り部を、引き上げたときに上面の左右の中央に位置させるように設計変更することは、容易である。
さらに、引用例2、登録実用新案第3014190号公報(乙6)及び登録実用新案第3006468号公報(乙7)には、握り部の高さについて、使用者の利便性を考慮して適宜設計変更されるものであることが記載されており、引用発明1の鞄において、握り部の高さを調整すると、その位置は、「中央寄り」から「中央」の間を移動するものであるから、握り部の位置についての「中央」と「中央寄り」との差は、単なる設計事項にすぎない。
(カ) 以上のとおり、本件発明は、本件特許出願前に頒布された刊行物の記載に基づいて、当業者によって容易に想到することのできたものであり、進歩性を欠くものである。
(キ) なお、原告は、本件発明の作用効果の面から、その進歩性を主張するが、原告の主張は、本件発明と各刊行物記載の発明を個別に対比するだけであり、これら各刊行物記載の発明の組合せによる進歩性欠如を実質的に争うものではない。
イ 無効理由A (ア) 本件発明は、本件特許出願前に頒布された刊行物である引用例2に記載された発明(以下「引用発明2」という。)と、いずれも本件特許出願前に頒布された刊行物である、引用例1、特開平8-24032号公報(乙第5号証刊行物)及び特表平8-508438号公報(乙9)の記載から、当業者によって容易に想到することのできたものである。
(イ) すなわち、引用発明2と本件発明は、@前者が、取っ手を引き上げた位置でのみ停止するロック機構を有するのに対し、後者は、取っ手を引き上げた位置と押し込んだ位置の両方で停止させるストッパを有すること、A前者は、スーツケース本体の側面が垂直面であるのに対し、後者は、鞄本体の側面が傾斜していること、の2点で相違し、その余はいずれも一致する。
(ウ) 上記相違点@については、特開平8-24032号公報(乙第5号証刊行物)に記載されているように、取っ手を引き上げた位置と押し込んだ位置の両方で停止させるストッパは、公然と知られた典型的なロック機構であったから、
当業者において、引用発明2の取っ手のストッパを、そのように設計変更することは、容易である。
(エ) 上記相違点Aについて、本件発明が鞄の側面を傾斜させて達成しようとした技術的課題である、握り部を鞄上面の左右の中央に位置させることは、引用発明2において既に解決されているから、技術の進歩に貢献しない構成であり、
進歩性を充足するものではない。
しかも、引用例1及び特表平8-508438号公報(乙9)には、
スーツケースの側面の傾斜に伴ってそこに取り付けられた伸縮ロッドが傾斜していたり、握り部が横方向に延長しているといった記載があるのであるから、当業者において、引用例1の記載に基づき、引用発明2の伸縮ロッドを取り付けた側面を傾斜させることは、容易である。
(オ) 以上のとおり、本件発明は、本件特許出願前に頒布された刊行物の記載に基づいて、当業者によって容易に想到することのできたものであり、進歩性を欠くものである。
(カ) なお、原告は、上記相違点@及びAの他にも、本件発明には引用発明2に存在しない特徴があると主張するが、いずれも本件発明の特許請求の範囲に記載されていない事項を取り上げるものであり、主張としてあたらない。
ウ 以上のとおり、いずれにしても、本件発明は進歩性を欠くものであって、本件特許には特許法29条2項の無効理由がある。
〔原告の主張〕 ア 被告主張の無効理由@について (ア) 被告主張にかかる引用発明1と本件発明との相違点のうち、@は認め、Aは引用例1の訳文からは判然とせず、Bは、引用例1は、握り部がケース本体の中央に位置することが記載されていないから否認する。
(イ) 被告主張の相違点@について、2輪キャスターから4輪キャスターへの変更が容易であるとする被告の主張は争う。
2輪キャスターの場合には、取っ手はキャスターと同じ側に設けられるのであり、キャスターの数と取っ手(伸縮ロッド)の位置は密接な関係を有しており、その利用形態や機能も大きく異なっているから、これを4輪キャスターに変更することは当業者にとって容易ではない。
(ウ) 被告主張の相違点Bについて、握り部を中央に位置させることが容易であるとする被告の主張は争う。
引用例1には、取っ手が鞄の中央に位置していることを示す図面はない。
また、引用例1には、取っ手の位置が「中央寄り」、「中央」ということは何ら示唆されていないから、当業者が、握り部を伸ばしていくことによって「中央寄り」から「中央」に移動すると想到するとは考えられない。
(エ) 引用例1に記載された鞄は、2輪キャスターであり、本件発明の鞄のように、4輪キャスターではない。
引用例2に記載された鞄は、4輪キャスターであるが、伸縮ロッド上端の握り部を水平に押して移動させることから、握り部に作用する水平力がケース本体を菱形に変形させようとする。これに対し、本件発明では、ケース本体の側面に伸縮ロッドを固定するので、取っ手がケース本体を菱形に変形させようとする力が、ケース本体の傾斜面に直接作用することから、水平力がケース本体を菱形に変形させることを効果的に防止することができる。
乙第3、第4、第6号証に記載された鞄は、4輪キャスターで、ケースの本体の側面に取っ手を固定したものであるが、取っ手の握り部をケース本体の中央に配置していないから、ケース本体の長手方向に移動しようとして、握り部を縦方向に押すと、長手方向に移動しないで曲がってしまう。
本件発明の鞄は、取っ手の伸縮ロッドをケース本体の側面に固定すると共に、この側面を傾斜させることで、取っ手の握り部を中央に位置させて、押した方向に曲がらないように楽に移動できるようにしながら、取っ手に作用する力でケース本体が菱形に変形するのを効果的に防止できるという優れた特徴を実現する。
しかるに、引用例1、2及び乙第3、第4、第6号証に記載された鞄のいずれの構造によっても、本件発明の上記特徴は実現されない。また、乙第5、
第7ないし第9号証にも、本件発明の上記構造は記載されていない。
このように、本件発明は、引用例1、2及び乙第3ないし第9号証に記載されない独特の構造により、優れた特徴を実現するものであるから、上記刊行物によって、当業者が容易に発明できるものではない。
(オ) 以上のとおり、被告主張の相違点を解消することは、当業者によって容易に想到できるものではなく、また、本件発明の作用効果の面からも、当業者が容易に発明することができるものではないから、本件発明の進歩性は否定されない。
イ 被告主張の無効理由Aについて (ア) 被告主張にかかる引用発明2と本件発明との相違点があることは認めるが、引用発明2と本件発明の間には、この他にも、B前者は鞄の端で開閉するタイプであるのに対し、後者は鞄の中央で開閉するタイプである、C前者は取っ手のみで中央握り部が存在しないのに対し、後者は取っ手の他に中央握り部が存在する、D取っ手の伸縮ロッドが、前者はケース本体の狭い方の面に設置されているのに対し、後者はケース本体の広い方の面に設置されている、E取っ手の2本の伸縮ロッドが、前者はケース本体の別の面に設置されているのに対し、後者はケース本体の同じ面に設置されている、F前者は大きさについて制限があるのに対し、後者は大きさについて制限がない、という点においても相違する。
(イ) 被告主張の相違点@が、これが当業者において容易に想到することができることは争わない。
(ウ) 被告主張の相違点Aについて、引用発明2は、航空機持ち込みサイズのスーツケースであり、サイズも制限されていることから、形状自体に意味を有しているのであって、このようなスーツケースに傾斜を設けること自体が当業者に容易に想到できるという被告の主張は争う。
(エ) 以上のとおり、被告主張の相違点Aを解消することは、当業者によって容易に想到できるものではなく、また、被告主張の他にも、引用発明2と本件発明には多くの相違点が存在するから、本件発明の進歩性は否定されない。
ウ 以上のとおり、被告が主張する無効理由@及びAは、いずれも理由のないものである。
(6) 損害の額 〔原告の主張〕 被告は、遅くとも平成15年1月1日から平成16年12月27日までの間に、イ号物件を単価7000円で少なくとも4000個(売上高合計2800万円)販売した。
被告は、上記イ号物件の販売により、少なくとも840万円の利益を得た。
したがって、被告によるイ号物件の販売により、原告は、同額の損害を被った。
〔被告の主張〕 否認ないし争う。
当裁判所の判断
1 争点(1)(構成要件E充足性)について (1)ア 本件明細書(甲2)の発明の詳細な説明の項には、以下のとおりの記載がある。
(ア) 【発明の属する技術分野】 本発明は、キャスター付きの鞄に関し、とくに、上下に移動できる取手を有する鞄に関する。
(イ) 【従来の技術】 引出し自在な取手を備えるキャスター付きの鞄はすでに開発されて多く使用されている。この構造の鞄は、航空機に持込みできる程度の大きさ、あるいは、これよりも多少大きいタイプのものが多い。非常に大きい鞄は、直接に取手を装着して、楽に移動できる。また、小さい鞄は、引出し自在な取手を設け、移動させるときに取手を引き上げることにより楽に移動できる。
発明者は、…図2に示す構造の鞄を開発した。この図の鞄は、キャスター1を、ケース本体4の底面に装着している。キャスター1は、ケース本体4を垂直姿勢で自立できるように、底面の四隅に設けている。取手3の握り部3Aは、ケース本体4の上方で、その左右の中央に位置する。この構造の鞄は、…鞄を垂直に立てた姿勢で、図2の矢印で示す方向に移動させる。…このため、機内や混雑するところで便利に移動できる特長がある。
(ウ) 【発明が解決しようとする課題】 この構造の鞄は、取手の握り部を押して、4個のキャスターで軽く楽に移動できる。ただ、この構造の鞄は、取手上端の握り部を、ケース本体の左右の中央部に位置させる必要がある。自由に首振りできるキャスターを備える鞄は、…握り部3Aをケース本体4の片側に装着すると、握り部3Aを押したときに、図の矢印で示すように、曲がって移動するからである。片側に握り部3Aを固定して、
自由に首振りできるキャスター1を装備する鞄をまっすぐに移動させるには、握り部3Aをしっかりと掴んで移動させる必要がある。曲がろうとする鞄の移動方向を、握り部3Aを強く掴んで修正しながら移動させるからである。このため、握り部3Aを軽く握って楽に移動できない欠点がある。
左右の中央に取手を装着する鞄は、…取手3の伸縮ロッド5をケース本体4の内部で固定する必要がある。伸縮ロッド5は、握り部3Aをケース本体4の左右の中央に配設するために、ケース本体4の左右、すなわち、厚さ方向の中央を貫通する状態で固定される。この構造の鞄は、伸縮ロッド5が邪魔になって、ケース本体4の内部を有効に使用するのが難しくなる。
本発明は、これ等の欠点を解決することを目的に開発されたもので、
本発明の重要な目的は、伸縮ロッドを引き延ばした状態で、握り部をケース本体の左右の中央部分に配設できるにもかかわらず、伸縮ロッドを邪魔にならない位置に配設して、ケース本体の内部を有効に収納部分として使用できるキャスター付きの鞄を提供することにある。
(エ) 【課題を解決するための手段】 本発明の…鞄は、…伸縮ロッド5を固定しているケース本体4の側面を傾斜させて、伸長させた伸縮ロッド5の上端に固定される握り部3Aを、ケース本体4の左右の中央部に位置させる。この鞄は、収縮した伸縮ロッド5をケース本体4の側面に収納する。伸縮ロッド5を伸長させると、伸縮ロッド5は、垂直の姿勢から、多少傾斜する姿勢に伸長されて、伸縮ロッド5上端の握り部3Aを、ケース本体4の中央に位置させる。
本発明の鞄は、必ずしも、握り部3Aを正確にケース本体4の左右に中央に位置させる必要はなく、握り部3Aをケース本体4のほぼ中央に位置させるものも含む。
(オ) 【発明の効果】 本発明のキャスター付きの鞄は、取手の伸縮ロッドをケース本体の側面に固定して、しかも、伸縮ロッドを引き延ばすと握り部をケース本体の左右の中央部分に配設できる。このため、取手の伸縮ロッドを、最も邪魔にならない位置に配設して、握り部を握って移動方向を強く強制することなく、好きな方向に楽に移動できる特長がある。
イ ところで、本件特許出願日以前である平成7年7月18日に公開された引用例2(乙2)は、本件特許と出願人及び発明者(考案者)をそれぞれ同じくする実用新案登録出願に係る公開実用新案公報であるが、これには、以下のとおりの記載がある。
(ア) 実用新案登録請求の範囲の項 縦、横、厚さの全体の寸法が航空機の機内に持込みできる最大の大きさよりも小さく、底面にはキャスター(1)が固定されており、さらに、上方に引出し自在の取っ手(3)を有する機内持ち込み用のスーツケースにおいて、スーツケースは厚さを10cmよりも厚く、横の寸法が20cmよりも長く、底面に固定されたキャスター(1)は底面の四隅に配設して固定されており、かつ、スーツケースから引き出した取っ手(3)は、スーツケース上面の中央に位置すると共に、
長手方向に延長する握り部(3A)を有することを特徴とする航空機内持ち込みサイズのスーツケース。
(イ) 考案の詳細な説明の項の【産業上の利用分野】 この考案は航空機内に持ち込みできる大きさのスーツケースに関し、
とくに、キャスターで走行できるスーツケースに関する。
(ウ) 考案の詳細な説明の項の【従来の技術】 キャスターがあって航空機内に持ち込みできるスーツケースはすでに開発されて多く使用されている。
(エ) 考案の詳細な説明の項の【考案が解決しようとする課題】 この構造のスーツケースは、…スーツケースを傾け、取っ手3を引っ張って移動できる。スーツケースが傾斜すると、キャスター1が床に接触し、脚2は床から離れる。この状態で取っ手3を引っ張ると、キャスター1が回転して楽に移動できる。しかしながら、このようにして移動するスーツケースは、航空機内ではキャスター1を使用しないで、手で持ち上げて移動する必要がある。キャスター1で走行させるとスーツケースの横幅が広くなって、航空機内の座席の間の狭い通路を移動できないからである。
この考案は、この欠点を解決することを目的に開発されたものである。この考案の重要な目的は、重く大きくて航空機内でキャスターを使用して楽に移動できる航空機内持ち込みサイズのスーツケースを提供することにある。
(オ) 考案の詳細な説明の項の【課題を解決するための手段】 この考案の航空機内持ち込みサイズのスーツケースは、…縦、横、厚さの全体の寸法を航空機の機内に持込みできる最大の大きさよりも小さくしている。スーツケースの底面には走行用のキャスター1を固定している。さらに、スーツケースの上方には、引出し自在に取っ手3を設けている。
さらにこの考案のスーツケースは、…スーツケースの底面に固定されたキャスター1は、スーツケースの底面の四隅に配設して固定している。また、スーツケースから引き出した取っ手3は、スーツケース上面の中央に位置して、長手方向に延長する握り部3Aを有する。
(カ) 考案の詳細な説明の項の【作用】及び【考案の効果】 この考案の航空機内持ち込みサイズのスーツケースは、相当に重い物を収納して、航空機内においても極めて楽に移動できる特徴がある。とくに、航空機内の狭い座席の間を、キャスター1で走行させながら楽に移動できる。それは、
図2に示すように、スーツケースを垂直に立てた状態で取っ手3を引き出し、取っ手3の握り部3Aを矢印の方向に押して移動できるからである。このようにしてスーツケースを押して移動させるとき、上方に引き出した握り部3Aは高くなり、無理な姿勢を強いられることなく、楽に押して移動できる。
底面の四隅に設けたキャスター1で自立できる…スーツケースは、上方に引き出されて上面の中央に位置する握り部3Aで押して移動できるので、左右のバランスを崩すことなく、垂直に自立して走行できる。とくに、…スーツケースの長手方向に押して移動させるので、スーツケースを転倒させることなく、狭い通路を邪魔にならずに移動できる特長がある。このようにして移動できるこの考案のスーツケースは、狭い航空機の座席の間にある通路を、キャスターで走行させることによって極めて楽に、また、航空機の座席や他の客に衝突させることなく移動できる。
この考案の航空機内持ち込みサイズのスーツケースは、航空機内に持ち込みできる最大の大きな寸法に設計しても、航空機内において楽に移動できる。
航空機内の座席の間にある狭い通路を、キャスターで走行させながら移動できるからである。この考案のスーツケースは従来のように傾斜して引っ張って移動させるものではない。スーツケースを垂直に立て、上方に引き出した取っ手の握り部を押して移動させる。握り部はスーツケース上方の中央に位置し、長手方向に延長して配設されているので、ここを握ってスーツケースを押して移動させると、スーツケースは横幅が広くなることなく、航空機内の狭い通路を、座席や他の乗客に衝突することなく楽に移動できる特長がある。
ウ 以上のとおりの本件明細書及び引用例2の各記載に照らせば、本件発明は、従来から、ケース底面の四隅にキャスターを配設し、ケースから引き出す取っ手の握り部が、ケース上面の中央に位置し、長手方向に延長するようになり、利用者が、この握り部を長手方向の進行方向に押すことによって、ケース底面のキャスターの車輪を回転させて移動させる鞄が存在したところ、その握り部の位置を維持しつつ、ケースに固定される取っ手の伸縮ロッドが、ケースの利用に際して邪魔にならないようにするために、伸縮ロッドを、ケース本体の側面に固定する(構成要件F)と共に、その側面を傾斜させて、握り部を引き上げた状態でケースの左右の中央に位置させる(構成要件G)という構成を採用したものであると解することができる。
そして、本件発明(及び引用例2に記載された発明)において、取っ手の握り部を、ケース本体上面の左右の中央に位置し、ケース本体上面の長手方向に向く姿勢に配設する理由は、握り部を押したときに、強い力を加えて進行方向を維持しなくとも、ケースをまっすぐに移動させることができるようにするためであると解される。
(2)ア 上記(1)のとおり解される、本件発明の意義及び本件発明において握り部をケース本体上面の左右の中央に位置させる意義に照らせば、握り部の位置は、
ケース内に荷物を詰めた状態での鞄全体の重心位置の鉛直上方に所在するのが、最も望ましいものであるといえる。
しかしながら、この位置は、ケースの内容物の状態により、その時々で変動するものであって、一定の位置をとるものではないから、鞄を製造するときに、この位置に合わせて握り部の位置を決定することはできない。
そこで、握り部の位置を、その時々で変動するであろう、ケース内に荷物を詰めた状態での鞄全体の重心位置の鉛直上方にできるだけ近づくようにするために、本件発明の構成要件Eにおいて、引き上げられた状態における握り部の位置を「ケース本体上面の左右の中央」としたものと解するのが相当である。
イ 上記アで述べたところに照らせば、構成要件Eにいう「ケース本体上面の左右の中央」とは、厳密にケース本体上面の左右の中心線上にあることを意味するものではないと解する余地があるとしても、少なくとも、原告の主張するように、握り手の中心とケース本体側面の中心線からの距離(a)が、鞄の取っ手が取り付けられている側の端部から鉛直上方に伸ばした線とケース本体側面の中心線までの距離(D)の半分以内にあれば(すなわち、握り手の中心が、ケース本体側面の中心線と、この線と鞄の取っ手が取り付けられている側の端部から鉛直上方に伸ばした線との間の中心線との間にあれば)足りるという程度にまで、幅の広いものであると解することができない。
その理由の第1は、原告の主張は、本件明細書において何ら示唆されているものでないからである。
その理由の第2は、原告の主張する「中央」の範囲は、例えばケース本体側面が左右対称であるとするならば、ケース本体底面の左右の幅の半分に達する(したがって、ケース側面が傾斜していることを考慮すれば、ケース本体上面の左右の幅の半分を超える)もの、逆にいえば、「中央」でない部分は、両側にケース本体の底面の左右の幅の各4分の1ずつしかない(したがって、ケース本体上面の左右でみれば、「中央」でない部分は、両側に各4分の1未満しかない)ものであり、このように構成された鞄とその握り部が、上記アで述べた趣旨に合致し、上記(1)ウで述べた作用効果を奏するかは明らかではないからである。仮に、原告の主張のとおりに構成要件Eを解釈し、これに基づいて構成した鞄が、本件発明の作用効果を奏するとは限らないとなれば、本件特許は無効理由を有することとなるから、そのように解釈するべきではない。
その理由の第3は、もし、「中央」の意味をそのように広く解すると、
本件発明は、引用例1、2及び乙第5号証刊行物記載の発明から容易に発明することができたものとなり、本件特許は無効理由を有するものとなってしまうため、そのように広く解釈することはできないからである。
(3) 上記理由の第3を補足説明すると、次のとおりである。
ア 引用発明1について (ア) 引用例1(乙1)には、開閉自在なケース本体(1、2)と、このケース本体(1、2)の底面四隅のうち片側両隅部に装着された走行可能な二輪のキャスター(38)と、他の片側両隅部に装着された脚と、ケース本体(1,2)に上方に引出し自在に装着されて、伸縮ロッド(68)の上端に握り部を有する取っ手(4)と、この取っ手(4)をケース本体(1、2)から引き上げた位置に停止させるストッパー(91)とを備え、ケース本体から引き上げられた握り部が、
ケース本体上面の左右の幅の4分の1程度の中央寄りに位置して、ケース本体上面の長手方向に向く姿勢に位置する鞄において、取っ手(4)の伸縮ロッド(68)がケース本体(1、2)の側面に上下に固定されると共に、この伸縮ロッド(68)が固定されるケース本体の側面(1)が、伸縮ロッド(68)上端の握り部を引き上げた状態で、ケース本体(1、2)の左右の中央の幅の4分の1程度の中央寄りに位置させるように傾斜してなることを特徴とする、キャスター付きの鞄が記載されていることが認められる。
(イ) したがって、本件発明と引用発明1は、次の点で相違し、その余の点で一致する。
a 相違点1 本件発明が底面四隅部に装着された自由な方向に走行可能なキャスターを備えているのに対し、引用発明1は片側両隅部に装着された走行可能な二輪のキャスターと、他の片側両隅部に装着された脚とを備えている点 b 相違点2 本件発明が取っ手をケース本体から引き上げた位置と、押し込んだ位置とに停止されるストッパーとを備えているのに対し、引用発明1は取っ手をケース本体から引き上げた位置に停止させるストッパーを備えているものの、押し込んだ位置に停止されるストッパーを備えているかどうかは不明である点 c 相違点3 本件発明が、ケース本体から引き上げられた握り部が、ケース本体上面の左右の中央に位置しているのに対し、引用発明1は、ケース本体から引き上げられた握り部が、ケース本体上面の左右の幅の4分の1程度の中央寄りに位置している点 d 相違点4 本件発明が、伸縮ロッドが固定されるケース本体の側面が、伸縮ロッド上端の握り部を引き上げた状態で、ケース本体の左右の中央に位置するように傾斜するのに対し、引用発明1は、伸縮ロッドが固定されるケース本体の側面が、
伸縮ロッド上端の握り部を引き上げた状態で、ケース本体の左右の中央の幅の4分の1程度中央寄りに位置するように傾斜している点 イ 相違点1について 引用例2(乙2)には、「【図1】従来の航空機内持ち込みサイズのスーツケースの一例を示す斜視図」として、ケース本体の底面四隅のうち片側両隅部に装着された走行可能な二輪のキャスター(1)と、他の片側両隅部に装着された脚(2)とを備えた鞄が図示されるとともに「キャスター1で走行させるとスーツケースの横幅が広くなって、航空機内の座席の間の狭い通路を移動できないからである。」(【0003】【考案が解決しようとする課題】)との記載が、「【図2】この考案の実施例にかかる航空機内持ち込みサイズのスーツケースの斜視図」として、底面四隅部に装着された自由な方向に走行可能なキャスター(1)を備えた鞄が図示されるとともに「スーツケースの底面には走行用のキャスター1を固定している。」(【0006】【課題を解決するための手段】)、「キャスター1は自由に首振りできるもので、通称『自在車』と呼ばれるものを使用する。」(【0027】)との記載がある。
そして、片側両隅部に装着された走行可能な二輪のキャスターと、他の片側両隅部に装着された脚も、底面四隅部に装着された自由な方向に走行可能なキャスターも、鞄を下から支えるとともに移動にも使用しようとするものであるから、引用例2に接した当業者は、引用発明1の片側両隅部に装着された走行可能な二輪のキャスターと、他の片側両隅部に装着された脚に代えて、引用例2の底面四隅部に装着された自由な方向に走行可能なキャスターを用いることを、容易に想到することができたと認められる。
この点に関して、原告は、キャスターの数と取っ手(伸縮ロッド)の位置は密接な関係を有しているから、2輪キャスターを4輪キャスターに変更することは容易ではないと主張する。しかし、前記のとおり、両者とも鞄を下から支えるものであるうえ、2輪キャスターを4輪キャスターに変更したところで動かせなくなるわけではないから、両者の変更を妨げる理由があるとは認められない。まして、上記引用例2の記載によれば、引用例2には、2輪キャスターを4輪キャスターに変更することが示唆されているというべきであるから、変更は尚更容易である。
ウ 相違点2について 特開平8-24032号公報(乙第5号証刊行物)には、「旅行カバンのハンドル装置…の幾つかは、二つ以上の位置、典型的には伸張位置と収納位置にハンドル装置を固定する手段を備えている」(【0002】)、「ロック装置21及び22は、同一要素を有し、伸張位置と収納位置にパイプ組立体11及び12をロックする」(【0014】)との記載がある。上記記載に接した当業者は、引用発明1の取っ手を、乙第5号証刊行物のようにケース本体から引き上げた位置だけでなく押し込んだ位置にも停止されるストッパーを備えるようにすることに、容易に想到し得たものと認められる。
エ 相違点3について 引用例1によれば、引用例1のFig15、16に接した当業者は、引用発明1の伸縮ロッドの、伸張位置まで伸ばした際の高さは、本体及び蓋体の高さのほぼ8割程度と認識すると認められる。
しかし、鞄の大きさや伸縮ロッドの長さは、収納する目的物に必要な容量と、人間の身長が様々であることからして、当業者において、常識的な範囲内で適宜変更できる設計事項というべきである。
他方、引用例2には、「高さが10pであるキャスター1を固定するスーツケースは、スーツケース本体4と蓋体5の高さを40pとする」(【0016】)、「キャスター1の下端から握り部3Aまでの高さは、60〜100pの範囲で変更することもできる。」(【0022】)との記載がある。上記記載によれば、引用発明1の鞄の本体及び蓋体の高さを40pにしたり、キャスターの下端から握り部までの位置を100pに変更することも、常識的な範囲内というべきである。そして、引用発明1の鞄の本体及び蓋体の高さを40pにした場合、引用発明1の伸縮ロッドの高さはその8割程度、すなわち32p程度となるところ、これをキャスターの下端から握り部までの位置を100pになるように変更すると、高さが10pのキャスターが普通に使用されることは引用例2の前記記載から明らかであるから、その場合の伸縮ロッドの高さは50p(算式は、100p-40p-10p=50p)となる。
ところで、そのようにすると、伸縮ロッドの長さは、50%以上長くなるが(算式は、50p÷32p=約1.56)、引用発明1の伸縮ロッドが固定されるケース本体の側面がケース本体の中央に向かって傾斜しているため、伸縮ロッド上端の握り部を引き上げた状態でのケース本体上面の左右の中央寄りの程度は、
ケース本体上面の左右の4分の1よりも多くなり、さらにそれまでの5割程度中央寄りに位置することになる。
引用例1には、伸縮ロッド上端の握り部を引き上げた状態で、ケース本体の中央に位置させることが記載されていないため、上記設計変更により、それがケース本体上面の左右の中央に位置することになるとは認められないけれども、設計変更後のものの握り部は、必然的にケース本体上面の左右の中央付近まで来てしまうのである。
オ 相違点4について 相違点3について、引用発明1の本体及び蓋体の高さと伸縮ロッドの長さを上記エのとおり設計変更すると、設計変更後のものの握り部は、必然的にケース本体の左右の中央付近まで来てしまうことは、引用例1のFig16、17、18から明らかである。
カ 以上の次第で、構成要件Eにいう「中央」が、上記エの設計変更により実現してしまうような「中央付近」まで含むものと解するならば、本件発明は、引用例1、2及び乙第5号証刊行物記載の発明から容易に発明できたものというべきであるから、進歩性がなく、本件特許は無効理由を有することとなる。したがって、構成要件Eにいう「中央」は、上記のような「中央付近」を含まないものというほかはない。
(4)ア そこで、イ号物件が本件発明の構成要件Eを充足するか否か検討する。
イ イ号物件の寸法については、イ号物件10個について、原告と被告がそれぞれ計測を行っており、その主張する結果は必ずしも一致していない。
しかしながら、原告の主張するところによれば、別紙計測図面@のように計測した、イ号物件において握り部を引き上げた状態での握り部の中心とケース本体の左右の中心線との距離(a)は、39oないし62.5oである(なお、原告の主張によれば、ケース本体底面の左右の長さ(D×2)は、208oないし258oである。)。
また、原告と同様の計測方法についての被告の主張によれば、イ号物件において握り部を引き上げた状態での握り部の中心とケース本体の左右の中心線との距離(a)は、41oないし63.5oである(なお、被告の主張によれば、この計測方法によるケース本体底面の左右の長さ(D×2)は、206oないし255oである。)。
さらに、被告の主張によれば、被告が相当と主張する方法により計測した、イ号物件において握り部を引き上げた状態での握り部の中心とケース本体の左右の中心線との距離(a)は、35oないし47oである。
以上のように、計測方法や計測値について当事者間に争いはあるものの、イ号物件において、イ号物件において握り部を引き上げた状態での握り部の中心とケース本体の左右の中心線との距離が、少なくとも、35o以上であるという限りで、当事者間に争いはない。
また、別紙計測図面@のように計測した、イ号物件の、握り部を引き上げた状態での握り部の中心とケース本体の左右の中心線との距離(a)とケース本体底面の左右の長さの2分の1(D)との比率(a/D)は、最小値が、原告の測定では37.5%(甲検2)、被告の測定では38%強(甲検6)である。そして、イ号物件において、握り部を引き上げた状態での握り部の中心とケース本体上面の左右の中心線との距離とケース本体上面の左右の長さの2分の1との比率が、
上記(a/D)より小さくなると認めるに足りる証拠はない。
ウ 以上のとおり、イ号物件は、握り部を引き上げた状態での握り部の中心とケース本体上面の左右の中心線との距離は35o以上ある。また、原告主張に係る計測方法である別紙計測図面@のように計測したときの、握り部を引き上げた状態での握り部の中心とケース本体上面の左右の中心線との距離とケース本体上面の左右の長さの2分の1との比率は、37.5%以上ある。この程度にまでケース本体上面の左右の中心線から離れた位置は、前記(2)、(3)認定に係る「中央」の意味に照らし、前記(3)にいう「中央付近」ということはできても、本件発明の構成要件Eにいうケース本体上面の左右の「中央」に含まれるということはできないところである。
エ なお、別紙計測図面Aのように計測した距離(a)と壁面からケース上面の左右の中央(L2)との比率(a/L 2)は、最小値が被告の測定では35%(甲検3)であるが、この事実も、上記認定に反するものということはできない。
オ よって、イ号物件は、本件発明の構成要件Eを充足すると認めることはできない。
2 結論 以上のとおりであるから、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がない。
よって、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山田知司
裁判官 高松宏之
裁判官 守山修生
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