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関連審決 異議1997-73919
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  相違点の認定 /  周知技術 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  参酌 /  置き換え /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  交換 /  設定登録 /  請求の範囲 /  変更 /  訂正明細書 /  取消決定 / 
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事件 平成 14年 (行ケ) 233号 特許取消決定取消請求事件
原告 株式会社小松製作所
訴訟代理人弁理士 木下實三
同 中山寛二
同 石崎剛
被告 特許庁長官今井康夫
指定代理人 橋本康重
同 井上茂夫
同 久保克彦
同 大橋良三
同 高木進
同 涌井幸一
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/07/29
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 (1) 特許庁が平成9年異議第73919号事件について平成14年3月20日にした決定を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,発明の名称を「流体加熱器」とする特許第2583159号の特許(平成3年6月13日特許出願(以下「本件出願」という。),平成8年11月21日設定登録,以下「本件特許」という。請求項の数は5である。)の特許権者である。
本件特許に対し,請求項1ないし5のすべてにつき,特許異議の申立てがあり,特許庁は,この申立てを,平成9年異議第73919号事件として審理した。
原告は,この審理の過程で,平成10年2月16日付けで,本件出願に係る願書に添付された明細書の訂正を請求した(以下,この訂正を「本件訂正」という。)。
特許庁は,審理の結果,平成14年3月20日,本件訂正は認められないとした上で,「特許第2583159号の請求項1ないし5に係る特許を取り消す。」との決定をし,平成14年4月10日にその謄本を原告に送達した。
2 本件訂正による訂正前の特許請求の範囲(以下,各請求項記載の発明をまとめて「本件発明」といい,請求項5記載の発明を「本件発明5」という。別紙図面A参照) 「【請求項1】管壁に流体の流入部及び流出部を有する第1の中空管の内部に,両端が開放された透明な第2の中空管を,前記第1の中空管の内壁との間に空間を有して配し,前記第2の中空管内部に,発熱体が内部に封入された透明な管からなる光源を前記第2の中空管の内壁との間に空間を有して配し,支持部材によつて該光源を前記第2の中空管内部に支持したことを特徴とする流体加熱器。
【請求項2】第1の中空管を,光反射部材製筺体内に配置したことを特徴とする請求項1記載の流体加熱器。
【請求項3】第1の中空管の外周に金属薄膜を設けたことを特徴とする請求項1記載の流体加熱器。
【請求項4】金属は金,アルミニウム,酸化錫,インジウム,クロムであることを特徴とする請求項3記載の流体加熱器。
【請求項5】第1の中空管が光吸収部材であることを特徴とする請求項1記載の流体加熱器。」 3 本件訂正による訂正後の特許請求の範囲(下線部が訂正された箇所である。
以下,各請求項記載の発明をまとめて「本件訂正発明」という。) 「【請求項1】管壁に流体の流入部及び流出部を有する第1の中空管の内部に,両端が開放された透明な第2の中空管を,前記第1の中空管の内壁との間に空間を有して配し,前記第2の中空管内部に,発熱体が内部に封入された透明な管からなるハロゲンランプを前記第2の中空管の内壁との間に空間を有し,かつ,ハロゲンランプの熱膨張を吸収可能に支持部材によって支持したことを特徴とする半導体プロセス用流体加熱器 。
【請求項2】第1の中空管を,光反射部材製筺体内に配置したことを特徴とする請求項1記載の半導体プロセス用流体加熱器。
【請求項3】第1の中空管の外周に金属薄膜を設けたことを特徴とする請求項1記載の半導体プロセス用流体加熱器。
【請求項4】金属は金,アルミニウム,酸化錫,インジウム,クロムであることを特徴とする請求項3記載の半導体プロセス用流体加熱器。
【請求項5】第1の中空管が光吸収部材であることを特徴とする請求項1記載の半導体プロセス用流体加熱器。」 4 決定の理由 別紙決定書の写しのとおりである。要するに,本件訂正発明は,いずれも,米国特許第4,534,282号明細書(以下,決定と同様に「刊行物」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。別紙図面B参照),及び,周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定に該当し,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである,したがって,本件訂正は,特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則6条1項の規定によりなお従前の例によるとされる,平成11年改正前の特許法120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法126条3項の規定により,認められない,と判断し,その上で,本件発明は,引用発明,及び,周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定に該当する,と判断した。
決定が,上記結論を導くに当たり,引用発明と本件訂正発明あるいは本件発明との一致点及び相違点として認定したところは,次のとおりである(ただし,相違点については,本訴において原告が問題とするもののみを挙げ,それ以外のものは省略する。)。
本件訂正発明のすべてと本件発明に共通する一致点 「管壁に流入部及び流出部を有する第1の中空管の内部に,両端が開放された透明な第2の中空管を,前記第1の中空管の内壁との間に空間を有して配し,前記第2の中空管内部に,発熱体としての発熱要素を前記第2の中空管の内壁との間に空間を有し,かつ該発熱要素を支持部材によって支持した流体加熱器」 本件訂正発明のすべてと引用発明との相違点 本件訂正発明では,「発熱体としての発熱要素が,発熱体が内部に封入されたハロゲンランプであるのに対し,刊行物記載のものでは,長く延びた赤外線放射要素である点。」(以下「相違点(1)」という。) 本件訂正発明では,発熱要素を,「ハロゲンランプの熱膨張を吸収可能に支持部材によって支持したのに対し,刊行物記載のものでは,支持部材によって支持したものではあるが,発熱要素の熱膨張を吸収可能に支持する点について明記されていない点。」(以下「相違点(2)」という。) 本件訂正発明では,「半導体プロセス用流体加熱器であるのに対し,刊行物記載のものは,液体又は半液体食品の加熱器,すなわち食品を対象とする流体加熱器である点。」(以下「相違点(3)」という。) 本件発明5と引用発明との相違点 本件発明5では,「第1の中空管が光吸収部材であるのに対し,刊行物記載のものでは,第1の中空管に相当する外筒13は,内側表面が放射を反射するように磨かれた金属である点。」(以下「相違点(5)」という。)
原告主張の決定取消事由の要点
決定は,本件訂正発明と引用発明との一致点の認定を誤り(すべての請求項に共通する取消事由1,2),本件訂正発明と引用発明との相違点(1)及び(3)についての判断,並びに,相違点(2)についての判断を誤り(すべての請求項に共通する取消事由3,4),また,本件発明5と引用発明との相違点(5)についての判断を誤った(請求項5のみについての取消事由)ものであり,これらの誤りが,それぞれ,すべての請求項についての,あるいは請求項5についての,決定の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,すべての請求項につき,違法として取り消されるべきである。
1 すべての請求項に共通する取消事由1(「第1の中空管」に関する一致点認定の誤り) 決定は,引用発明の「外筒13」を,その機能に照らして,本件訂正発明の「管壁に流入部及び流出部を有する第1の中空管」に相当する(決定書5頁2段,8頁5段,9頁5段,10頁4段,11頁3段),と認定した。しかし,この一致点の認定は誤りである。
(1) 本件訂正発明における「第1の中空管」は,「第1の中空管」自体が管壁に流入部11及び流出部12を有しており,「第1の中空管」の内部に,両端が開放された透明な第2の中空管を,第1の中空管の内壁との間に空間を有して支持し得るものである。これに対して,引用発明における「外筒13」は,流入部11及び流出部12に相当するものを備えておらず,端部セルボディ14に入口ポート22及び出口ポート25が形成されているものであり,「筒状ジャケット12」や「赤外線放射要素11」と関連性のない,短尺の単なる筒状部材にすぎない。
(2) 被告は,本件訂正発明における「第1の中空管」に相当するものは,正しくは,引用発明における刊行物の「外筒13及びその両端の端部セルボディ14」であり,決定は,正しくは,そのように認定すべきであった,と主張する。
しかし,本件訂正発明における「第1の中空管」は,「管壁に流体の流入部及び流出部を有する」という特許請求の範囲の記載からみて,流体の流入部及び流出部が第1の中空管の管壁に一体的に形成されたものであると解するべきであり,引用発明における「外筒13」と「2つの端部セルボディ14」とを結合したものとは異なるものである。引用発明においては,「外筒13」と別部材である「2つの端部セルボディ14」とが結合しているため,その結合部から被加熱流体の漏れ又は汚染が生じるおそれがある。これに対し,本件訂正発明における「第1の中空管」は,一体成型されているため,被加熱流体の漏れ又は汚染が生じるおそれはないのである。
引用発明の端部セルボディ14は,赤外線放射要素11,筒状ジャケット12,及び外筒13から成る集合体を保持し,上下に配列された管状部材を連結する部材である。このような特有の機能を有するものは,外筒13とは別体の部材であり,外筒13の付属物ということはできない。
2 すべての請求項に共通する取消事由2(「第2の中空管」に関する一致点認定の誤り) 決定は,引用発明の「筒状ジャケット12」を,その機能に照らして,本件訂正発明の「両端が開放された透明な第2の中空管」に相当する(決定書5頁2段,8頁5段,9頁5段,10頁4段,11頁3段),と認定した。しかし,この一致点の認定は誤りである。
(1) 本件訂正発明は,「両端が開放された透明な第2の中空管」との構成により,この第2の中空管の内部に配置される光源の電極が常に外部空気にさらされるものである。これに対し,引用発明の筒状ジャケット12は,両端がガスケット16を介して端部セルボディ14によって保持され,端部セルボディ14がスクリューキャップ18によって閉じられていることから,その両端が,スクリューキャップ18により閉塞されている。
本件訂正発明は,「両端が開放された透明な第2の中空管」という構成を採用することにより,光源5の点灯時,外気との通気を確保して,最も強く加熱される光源5の端部9の冷却の促進を図るとともに,支持部材となるセラミックリング13,14を介して熱膨張を吸収することを可能にする方法で,光源5を支持し,熱膨張に伴う応力発生による破損を防止するという特有の効果を奏するものである。
(2) 被告は,第2の中空管について「両端が開放された」構成としたことは,流体加熱器の組立前の第2の中空管の形状を特定するものである,と主張する。
しかし,本件訂正発明は,複数の部品を組み合わせて構成されたものであるから,第2の中空管について「両端が開放された」構成とは,あくまでも組立後の状態を特定したものと解すべきである。
3 すべての請求項に共通する取消事由3(相違点(1)及び(3)についての判断の誤り) 引用発明の赤外線放射要素をハロゲンランプに置き換えること(相違点(1)),及び,液体又は半液体食品の加熱器を半導体プロセス用流体加熱器に置き換えること(相違点(3))は,それぞれを個々的にみれば,周知技術を採用する程度のことにすぎないといえるかもしれない。しかし,たといそうであるとしても,これら両者を同時に置き換えることを,当業者が容易に想到し得るものとすることはできない。決定の相違点(1)及び(3)についての判断は誤りである。
(1) 引用発明の赤外線放射要素は,ミルク,飲料等の低温殺菌を行うために設けられるものであるから,本件訂正発明のように,2000Kないし3000Kという極めて高温の加熱源が装着されることは予定されていない。
決定が,半導体プロセス用の流体加熱器を例示する資料として挙げた実願昭60-113396号(実開昭62-22462号)のマイクロフィルム(甲第7号証。以下「甲7文献」という。),特開昭63-75439号公報(甲第8号証。以下「甲8文献」という。),実願昭62-149877号(実開昭64-53854号)のマイクロフィルム(甲第9号証。以下「甲9文献」という。),及び,特開昭53-49353号公報(甲第10号証)には,超純水を約95℃まで加熱する流体加熱器が示されているだけである。これらの技術から,ハロゲンランプから成る高温の加熱源を採用することに想到することは,容易なことではない。
決定が,ハロゲンランプを加熱源として用いることを例示すものとして挙げた,特開昭58-133751号公報(甲第11号証),特開平2-290421号公報(甲第12号証),特開平3-5629号公報(甲第13号証),実願昭60-149995号(実開昭62-58886号)のマイクロフィルム(甲第14号証),特開昭64-5014号公報(甲第15号証。以下「甲15文献」という。),実願昭60-173296号(実開昭62-82730号)のマイクロフィルム(甲第16号証。以下「甲16文献」という。),実願昭60-52382号(実開昭61-167673号)のマイクロフィルム(甲第17号証)にそれぞれ記載された技術の中で,半導体製造装置の加熱源としてハロゲンランプを利用するものは,甲15文献及び甲16文献に記載されたもののみである。しかも,これらは,半導体プロセスに用いられる流体を加熱するものではない。
引用発明に上記各技術を組み合わせたとしても,加熱源として高温のハロゲンランプを利用することに容易に想到することはできない,というべきである。
(2) 被告は,特開平2-68452号公報(乙第1号証。以下「乙1文献」という。)及び実願平1-29971号(実開平2-122634号)のマイクロフィルム(乙第2号証。以下「乙2文献」という。)に示される周知の技術からみて,甲7文献ないし甲9文献に示される半導体プロセス用流体加熱器において,一般的な電気ヒータ,シーズヒータをハロゲンランプに置き換えることは,当業者にとって格別に困難なことではない,と主張する。
しかし,乙1文献及び乙2文献に記載された発明は,ハロゲンヒータが具備する発光特性を利用することを特徴とし,電気温水器,コーヒー製造装置の加熱源としてハロゲンランプを用いたものにすぎず,いずれも半導体プロセス用流体加熱器の加熱源としてハロゲンランプを使用したものではないから,被告の上記主張は失当である。
4 すべての請求項に共通する取消事由4(相違点(2)についての判断の誤り) (1) 引用発明の赤外線放射要素は,ミルク,飲料等の低温殺菌を行うために設けられるものであるから,本件訂正発明におけるような端部の効率的な冷却構造,及び,熱膨張を吸収する支持構造をとる必要性が認められない。
(2) 決定は,発熱体をその熱膨張の吸収が可能となるような方法で支持部材によって支持することが周知であるとして,実願昭63-97664号(実開平2-18293号)のマイクロフィルム(甲第18号証。以下「甲18文献」という。),実願昭62-70986号(実開昭63-179686号)のマイクロフィルム(甲第19号証。以下「甲19文献」という。),実願昭62-90337号(実開昭63-199491号)のマイクロフィルム(甲第20号証。以下「甲20文献」という。),実願昭61-96755号(実開昭63-4094号)のマイクロフィルム(甲第21号証。以下「甲21文献」という。)にそれぞれ記載されている技術を例示している(決定書6頁6段参照)。しかし,甲18文献ないし甲20文献に記載されているのは,電気ストーブやオーブン等に設けられるシーズヒータの支持構造に関するものであり,高温で発熱するハロゲンランプを備えた本件訂正発明とは産業上の利用分野を異にするものであるから,ハロゲンランプの支持構造としてシーズヒータの支持構造をそのまま採用することができないことは当業者であれば容易に分かることである。甲21文献には,確かに,清水加熱器のヒータ支持構造が記載されている。しかし,同文献に記載されているのは,その第1図に示されるように,加熱管2は両端が開放されたものではなく,本件訂正発明とはその構成を異にする。
5 請求項5のみについての取消事由(相違点(5)についての判断の誤り) 決定は,本件発明5と引用発明との相違点の一つ(相違点(5))について,「本件請求項5に係る発明における光吸収部材に相当する「フッ素樹脂」で流体加熱器の外管等を構成することが上記周知例で挙げた特開昭63-75439号公報等で知られているとともに,光吸収部材に光(熱)を吸収させ,熱回収等を行うことは従来周知である(例えば,特開平2-152188号公報,特開昭62-131490号公報,特開昭63-80112号公報参照)。してみると,第1の中空管を光吸収部材で形成し,熱回収を図る程度のことは,上記周知の事項等を参酌して当業者が容易に想到し得たことである。」(決定書16頁8段)と判断した。
しかし,引用発明は,「流動食品を少なくとも部分的に殺菌することができる処理方法および装置を提供する」ものであり,「従来の熱処理システムにおける流動食品の風味を損なうこと,流動食品の茶褐色化,焦げ臭くなること,焦げたものの堆積といったプレート表面上の熱交換により生ずる種々の不利な点を解消する」(甲第5号証1欄「OBJECTS OF INVENTION」の1〜8行)ことを目的としている。
引用発明は,外筒13として内側表面が放射を反射するように磨かれた金属を採用しており,赤外線放射要素11から放射された赤外線は外筒13の内側表面でほぼ全反射して再度流動食品を加熱するように構成されている。引用発明のこのような外筒13をフッ素樹脂等の光吸収部材に代替させた場合,赤外線放射要素11から放射された赤外線のほとんどが光吸収部材からなる外筒13で吸収され,これに伴い,外筒13が加熱され,筒状ジャケット12の外側及び外筒13の内側を流れる流動食品は,加熱された外筒13の加熱表面に直接さらされることとなり,引用発明の上記目的を達成することができない。したがって,引用発明に,光吸収部材から成る外筒を適用することについては阻害要因があるというべきである。
被告は,引用発明は,その用途がミルク等の低温殺菌に限られるものではなく,加熱源を交換して他の種類の流体を加熱できる汎用性のある構造である,と主張する。しかし,刊行物中には,赤外線放射要素を食品以外の他の流体に適用することが可能であるとの記載は一切なく,また,赤外線放射要素が組み込まれるFig.1の処理装置が,紫外線殺菌部分も具備することからすれば,引用発明の赤外線放射要素は,用途が食品に限定されたものとして解釈すべきである。
被告の反論の骨子
決定の認定判断は,いずれも正当である。決定を取り消すべき理由はない。
1 すべての請求項に共通する取消事由1(「第1の中空管」に関する一致点認定の誤り)について (1) 本件訂正発明における「第1の中空管」に相当するものは,正しくは,引用発明における「外筒13及びその両端の端部セルボディ14」であり,決定は,一致点をそのように認定すべきであった。しかし,決定のこの一致点認定の誤りは,相違点の認定に影響を与えるものではなく,決定の結論に影響を及ぼす誤りということはできない。
(2) 本件訂正発明の特許請求の範囲には,「管壁に流体の流入部及び流出部を有する第1の中空管」が一体成形されたものであることを意味する記載はない。本件訂正発明における「第1の中空管」が一体形成されたものに限られる,との原告の主張は,本件訂正明細書実施例についての記載に基づく主張であって,特許請求の範囲の記載に基づく主張ではない。
2 すべての請求項に共通する取消事由2(「第2の中空管」に関する一致点認定の誤り)について 本件訂正発明において,第2の中空管を,「両端が開放された」構成としたことの技術的意味は,両方向のいずれからも加熱源を交換することができるようにしたことにある。そうである以上,「両端が開放された・・・第2の中空管」は,流体加熱器の組立前の第2の中空管の形状を特定するものであって,組立後における,その形状を特定するものではないというべきである。
3 すべての請求項に共通する取消事由3(相違点(1)及び(3)についての判断の誤り)について 引用発明の赤外線放射要素が,ミルク,飲料等の低温殺菌を行うものであるとしても,その第1の中空管,第2の中空管,支持部材から成る二重管構造は,それ自体としてみたとき,使用目的がミルク,飲料等の低温殺菌を行うことに限られるものではなく,加熱源を他の物に交換して他の種類の流体を加熱するときにも使用することのできる汎用性のある構造であるから,これを半導体プロセス用流体加熱器として使用することは,当業者が容易に想到し得ることである。被加熱流体の種類と用途に応じて,加熱源を代えることは,当業者が必要に応じて適宜行う設計事項に属する,というべきであるから,引用発明を半導体プロセス用流体加熱器として使用し,強力な加熱源を必要とする場合に,ハロゲンランプを採用することも,当業者であれば容易になし得ることというべきである。
4 すべての請求項に共通する取消事由4(相違点(2)についての判断の誤り)について 加熱源である発熱体とその支持構造との間で熱膨張の違いによりひずみや変形が発生しないようにスライドさせる工夫は,電気加熱装置に関する各種の技術分野において広く行われている周知の技術手段である。本件訂正発明において,強力な熱源であるハロゲンランプを使用する際に,予想される熱膨張に備えて上記周知技術を適用することは,当業者であれば容易に想到できたことというべきである。
5 請求項5のみについての取消事由(相違点(5)についての判断の誤り)について 引用発明を半導体プロセス用流体加熱器として使用することが,当業者が容易に想到し得ることであることは,前記のとおりである。原告の主張は,引用発明が赤外線放射要素11を加熱源として流動食品を加熱する用途に限られるものであることを前提とした主張であって,失当である。
当裁判所の判断
1 すべての請求項に共通する取消事由1(「第1の中空管」に関する一致点認定の誤り)について (1) 決定は,引用発明の「外筒13」を,その機能に照らして,本件訂正発明の「第1の中空管」に相当する(決定書5頁2段),と認定した。原告は,この一致点の認定は誤りである,と主張する。
本件訂正発明の「第1の中空管」は,「管壁に流入部及び流出部を有する」ものであり,その「内部に,・・・透明な第2の中空管を」,その「内壁との間に空間を有して配」するものである(本件訂正明細書・特許請求の範囲(請求項1))。
刊行物には「筒状ジャケット12は,内側表面が放射を反射するように磨かれた金属により形成された外筒13によって空間を有して囲まれている。2つの似たような端部セルボディ14が前記集合体を保持している。一方の端部セルボディ14は,入口ポート22および環状空間27と連通する入口室15を画成している。また,他方の端部セルボディ14は,同様の出口室24を画成しており,この出口室24は出口ポート25および環状空間27と連通している。」(甲第5号証訳文1頁1段第4文,第5文),「液体あるいは半液体食品は,比較的薄い層状となって前記環状空間27を通過する過程において処理され,その間において,前記赤外線放射要素11からの照射を受ける。」(同2頁2段)との記載がある。刊行物のFig.2には,外筒13が2つの端部セルボディ14によりその両端を保持されていることが明示されている(甲第5号証)。
刊行物の上記記載及び図面によれば,引用発明においては,一方の端部セルボディ14の入口ポート22から流入した液体は,入口室15と,端部セルボディ14により保持された外筒13の内側と筒状ジャケット12から成る環状空間を通過し,その後,出口室24と,他方の端部セルボディ14の出口ポート25から流出するものであり,引用発明の外筒13とその両端を保持している二つの端部セルボディ14とが,「管壁に流体の流入部及び流出部を有」し,その「内部に,・・・透明な第2の中空管を」,その「内壁との間に空間を有して配」するものであり,本件訂正発明の「第1の中空管」に相当するものである,ことが明らかである(これを否定する原告の主張についての判断は後に示す。)。
以上からすれば,決定が,引用発明の「外筒13」を,その機能に照らして,本件訂正発明の「第1の中空管」に相当する,と認定したのは明らかな誤りであり,決定は,正しくは,引用発明の外筒13とその両端を保持している二つの端部セルボディ14とを,本件訂正発明の「第1の中空管」に相当する,と認定すべきであったということができる。ただし,決定のこの誤りが,決定の認定判断において,相違点の看過に結び付いたことも,相違点の誤りに結び付いたことも,原告自身主張しておらず,また,本件全証拠によっても認めることができないから,決定の上記誤りは,単に,本件訂正発明と引用発明との間の「第1の中空管」に関する一致点の認定において,「外筒13」のほかに「端部セルボディ14」を記載することを怠ったことを意味するにすぎないことになり,その誤りは,決定の結論に影響を及ぼす誤りとすることができないことが明らかである。
(2) 原告は,本件訂正発明の「第1の中空管」は,一体成形されているものであり,引用発明の「外筒13」と「2つの端部セルボディ14」とが結合したものは,本件訂正発明の「第1の中空管」に相当しない,と主張する。
本件訂正発明の第1実施例ないし第3実施例における第1の中空管は,本件訂正明細書の【図1】ないし【図3】から明らかなように,いずれも二つの部材が結合されたものではなく,一体成形されたものが示されている(甲第2,第4号証)。しかし,本件訂正明細書の特許請求の範囲(請求項1)には,「第1の中空管」について,「管壁に流体の流入部及び流出部を有する第1の中空管」と記載されているにすぎず,第1の中空管の管壁に流体の流入部及び流出部を有することが規定されているだけで,第1の中空管が一体成形されているべきことについては何ら規定されていない。
本件訂正発明の「第1の中空管」を一体成形されているものに限定しようとするとき,それを特許請求の範囲において明確にすることは,極めて容易なことであるから,特許請求の範囲の記載が上記のとおりである以上,原告の上記主張は,本件訂正発明の実施例には当てはまっても,本件訂正発明そのものには当てはまらないものというべきである。
念のために,本件訂正発明の「第1の中空管」が,一体成形されたものに限られるかどうかという観点から,本件訂正明細書発明の詳細な説明を検討する。
本件訂正明細書には,次の記載がある(甲第4号証)。
【0005】 【発明が解決しようとする課題】 しかるに上記従来例には次の問題点がある。図5の流体加熱器では,電気ヒータ51の外周側からの輻射赤外線は断熱材56方向へ輻射されて該断熱材56に吸収されてしまい,被加熱流体Cの加熱には寄与し難い。・・・ 【0009】 特開昭61年116246号の流体加熱器では,赤外線輻射体を封入する石英管と被加熱流体とが直接接触している。この構成は下記の問題を有している。
(1)流体加熱器内に流入してくる低温被加熱流体と,赤外線輻射体を封入するため高温になっている石英管とが直接接触するため,該石英管への熱衝撃が大きく,その寿命を著しく縮める要因となる。・・・ (2)赤外線輻射部には寿命があるため,交換することがある。そのときには流体加熱器内の液体を除去しなければならない。・・・ 【0011】 【課題を解決するための手段】 図4の構成において用いる流体加熱器(500)において,管壁に流体の流入部及び流出部を有する第1の中空管の内部に,両端が開放された透明な第2の中空管を,前記第1の中空管の内壁との間に空間を有して配し,前記第2の中空管内部に,発熱体が内部に封入された透明な管からなるハロゲンランプを前記第2の中空管の内壁との間に空間を有し,かつ,ハロゲンランプの熱膨張を吸収可能に支持部材によってする構成とする。
【0012】 【作用】 前記ハロゲンランプにより輻射される光は前記第2の中空管内壁との間の空間を経て前記流体流路へ入り,赤外領域の光によって液体が共振加熱される。
ここでは,前記ハロゲンランプと前記第2の中空管内壁との間の空間に存在する空気と透明な第2の中空管によってわずかに吸収される分を除いて輻射光は必ず流体を通過する。従って,輻射された赤外線はほとんどが流体加熱に消費される。また,ハロゲンランプと石英管とが直接には接触しないため,ハロゲンランプの石英管への熱衝撃が大幅に緩和される。ハロゲンランプの交換はその支持部材を外すのみで済み,流体加熱器内から液体を除く必要がなく,流路内に異物を持ち込むこともない。ハロゲンランプだけを容易に装着,取り外し等の交換作業が出来,ハロゲンランプ交換時に流路内から流体を除去する必要がない。またハロゲンランプを構成する透明な管の表面の付着源を流路内に持ち込むことがない。しかもハロゲンランプは被加熱流体流路の更に内側にてクリアランスを持った部品で支持されているだけであるため,ハロゲンランプの熱膨張は該クリアランスで吸収されてしまい,熱膨張が他の部分に負荷をかけて損傷を引き起こすことがない。
本件訂正発明に係る特許請求の範囲の記載を前提に本件訂正明細書の上記記載をみれば,本件訂正発明は,第1の中空管の内部に,両端が開放された透明な第2の中空管を,空間を有して配し,第2の中空管内部の空間に,ハロゲンランプをその熱膨張を吸収することが可能な支持部材により支持する,との構成を採用し,このような2重管構造により,ハロゲンランプにより輻射された赤外線のほとんどが流体加熱に使用され,ハロゲンランプの石英管への熱衝撃が大幅に緩和され,また,ハロゲンランプの交換は,その支持部材を外すだけですみ,流体加熱器内から液体を除く必要がなく,ハロゲンランプだけを容易に取り外し,装着することができ,流路内に異物を持ち込むこともなく,ハロゲンランプの熱膨張を支持部材で吸収することができる等の効果を奏するものであることが認められる。このような本件訂正発明の構成及び作用効果からすれば,本件訂正発明における第1の中空管は一体成形されたものでなければならない,と解すべき根拠はないというべきである。本件訂正明細書発明の詳細な説明のその余の部分にも,そのことを明示する記載も,示唆する記載も見当たらない(甲第4号証)。
いずれにせよ,本件訂正発明の「第1の中空管」は,一体的に形成されたものに限定して解釈すべき根拠はなく,引用発明の「外筒13と2つの端部セルボディ14」がこれに相当する,と判断すべきである。原告の上記主張も採用することができない。
2 すべての請求項に共通する取消事由2(「第2の中空管」に関する一致点認定の誤り)について 原告は,決定が,引用発明の「筒状ジャケット12」が,その機能に照らして,本件訂正発明の「両端が開放された透明な第2の中空管」に相当すると認定したことは誤りである,本件訂正発明は,複数の部品を組み合わせて構成されたものであるから,第2の中空管について「両端が開放された」構成とは,あくまでも組立後の状態を特定したものと解すべきである,引用発明の筒状ジャケット12は,両端が端部セルボディ14によって保持され,端部セルボディ14がスクリューキャップ18によって閉じられていることから,スクリューキャップ18により閉塞されている,と主張する。
しかし,本件訂正明細書の特許請求の範囲(請求項1)には,第2の中空管とその外部との関係については,「両端が開放された透明な第2の中空管を,前記第1の中空管の内壁との間に空間を有して配し」として,両端が開放された第2の中空管が第1の中空管の内部に配設されることが規定されているだけである。また,本件訂正発明においては,両端が開放された第2の中空管については,「前記第2の中空管内部に,・・・ハロゲンランプを・・・ハロゲンランプの熱膨脹を吸収可能に支持部材によって支持した」ものを備えていればよく,この支持部材によって,第2の中空管の両端が密閉されるのかどうかについては,特に規定していない。そうである以上,本件訂正発明の特許請求の範囲の記載によれば,第2の中空管について,原告が主張するように,「両端が開放された」構成とは,あくまでも組立後の状態を特定したもののことである,として,両端が開放された第2の中空管の両端を別途の部材で閉塞する場合を排除し,その両端を開放したままのものに限定して解釈すべき根拠はない,という以外にない。
刊行物のFig.2には,筒状ジャケット12が,両端が開放された中空管であり,2つの端部セルボディ14によりその両端を保持されており,その内壁との間に赤外線放射要素11が空間を有して支持されていることが明示されている(甲第5号証)。また,刊行物には,「赤外線放射要素11は,筒状ジャケット12によって空間を有して囲まれている。・・・この筒状ジャケット12は,内側表面が放射を反射するように磨かれた金属により形成された外筒13によって空間を有して囲まれている。・・・両端部セルボディ14は,保持プレート17,17および支持要素26によって前記赤外線放射要素11を保持している。・・・前記赤外線放射要素11は,前記赤外線加熱セル内の液体の流れを停止することなく,取り外すことができる。前記要素11は,液体から完全に隔絶されており,また前記スクリューキャップ18および前記保持プレート17,17を取り外すことによって,前記要素11を取り外すことができる。・・・液体あるいは半液体食品は,比較的薄い層状となって前記環状空間27を通過する過程において処理され,その間において,前記赤外線放射要素11からの照射を受ける。食品は,石英により形成された前記ジャケット12が熱くならないので,加熱表面に晒されることなく,所望の低温殺菌温度に加熱される。」(甲第5号証訳文1頁1段〜2頁2段)と記載されている。
刊行物のFig.2及び上記記載によれば,筒状ジャケット12は,両端が開放された透明な中空管であり,そのため,前記赤外線加熱セル内の液体の流れを停止することなく,赤外線放射要素11を取り外すことができるものと認められ,引用発明の「筒状ジャケット12」が,その機能に照らして,本件訂正発明の「両端が開放された透明な第2の中空管」に相当する,とした決定の認定に誤りがないことは明らかである。
3 すべての請求項に共通する取消事由3(相違点(1)及び(3)についての判断の誤り)について (1) 決定は,相違点(1)について,「発熱体が内部に封入されたハロゲンランプを加熱源(発熱要素)として用いることは半導体の製造分野を含め種々の技術分野において従来周知である[例えば,・・・参照](判決注・甲第11〜第17号証)。してみると,刊行物の記載において,発熱源として(すなわち,発熱体としての発熱要素として),上記従来周知の「発熱体が内部に封入されたハロゲンランプ」を採用する程度のことは当業者が容易に想到し得たものである。」(決定書6頁5段)と判断し,相違点(3)について,「流体の流入部及び流出部を有し,被加熱流体を通過させてその間で被加熱流体を加熱する半導体プロセス用流体加熱器は従来周知であり[例えば,・・・参照](判決注・甲第7〜第10号証),刊行物に記載されたような流体加熱器を半導体プロセス用流体加熱器として用いることは当業者が容易に想到し得ることである。なお上記周知例では,被加熱流体が,半導体チップ等の製造過程において使用される主として超純水(純水)で説明されている。そして半導体チップ等の製造過程において使用される超純水(純水)が,半導体プロセス用流体であることは明らかである。」(決定書7頁1段,2段)と判断した。
原告は,引用発明の赤外線放射要素をハロゲンランプに置き換えること(相違点(1)),又は,液体又は半液体食品の加熱器を半導体プロセス用流体加熱器に置き換えること(相違点(3))は,個々的にみれば,周知技術を採用する程度のことにすぎないといえるとしても,両者を同時に置き換えることを,当業者が容易に想到し得るものとすることはできない,と主張する。
しかし,甲第7号証(特にその第1図),甲第9号証(特にその図面),甲第10号証(特にそのFig.1,3)と弁論の全趣旨とにより,「流体の流入部及び流出部を有し,被加熱流体を通過させてその間で被加熱流体を加熱する半導体プロセス用流体加熱器」(決定書7頁1行〜2行)は本件出願時において既に周知であったと認められ,このことを前提にすると,これらと同じ構成を備えた引用発明の流体加熱器に着目し,これを,そのまま,あるいは,必要に応じて適宜変更を加えた上で,半導体プロセス用流体加熱器として用いることが,当業者にとって容易に想到し得ることであったことは,明らかである。
そして,流体加熱器において,ハロゲンランプを加熱源として用いることは周知の技術であり(甲第11ないし第17号証),流体加熱器の用途,被加熱流体の種類,流速等に応じて流体加熱器の加熱源(発熱要素)を適宜決定することは当業者が適宜なし得る事項であることも明らかであるから,引用発明の「流体加熱器」の用途を,上記のとおり半導体プロセス用流体加熱器とした場合(このことが当業者が容易に成し得る程度の事項であることは上記のとおりである。),その加熱源(発熱要素)をハロゲンランプとすることが当業者が必要に応じて適宜成し得る設計的事項の範囲にあることは,明らかである。
決定の上記判断に誤りはない。
(2) 原告は,決定が,半導体プロセス用の流体加熱器を例示する資料として挙げた甲7文献ないし甲9文献等には,超純水を約95℃まで加熱する流体加熱器が示されているだけであり,これらの技術から,ハロゲンランプからなる高温の加熱源を採用する必然性は認められない,と主張する。しかし,決定は,甲7文献ないし甲9文献等を,これらと同じ構成を備えた引用発明の流体加熱器を,半導体プロセス用流体加熱器として用いることが容易であることの根拠として示しているのであり,甲7文献ないし甲9文献等から,高温の加熱源を採用した半導体プロセス用の流体加熱器を容易に想到し得ると判断したものではない。
原告は,決定が,ハロゲンランプを加熱源として用いることを例示するものとして挙げた甲第11ないし第17号証の中で,半導体製造装置の加熱源としてハロゲンランプを利用するものは,甲15文献及び甲16文献に記載された技術のみであり,しかも,これらは半導体プロセスに用いられる流体を加熱するものではない,と主張する。しかし,決定は,流体加熱器において,加熱源としてハロゲンランプを用いることが周知技術であることの根拠として甲第11ないし第17号証を示しているにすぎない。
決定は,引用発明の構成の流体加熱器を,半導体プロセス用流体加熱器の用途に使用することが,当業者が容易に想到し得ることであり,この場合に,その加熱源(発熱要素)をハロゲンランプとすることは当業者が必要に応じて適宜成し得る設計的事項の範囲内にある,と判断しているのであり,決定のこの判断に誤りはない。
相違点(1)及び(3)を同時に置き換えることは,当業者が容易に想到し得るものということはできない,との原告の主張は,採用することができない。
4 すべての請求項に共通する取消事由4(相違点(2)についての判断の誤り)について 決定は,相違点(2)について,「刊行物には,発熱体としての発熱要素である赤外線放射要素の熱膨張を吸収可能に支持する点について明記されていない。
しかしながら,物体が熱膨張すること及び加熱機器等において熱膨張を考慮せずに機器を設計した場合機器の破損等が生じることは技術常識であり,また発熱体の熱膨張を吸収可能に支持部材によって支持することも従来周知である〔例えば,・・・参照〕(判決注・甲第18〜第21号証)。してみると,発熱要素としてハロゲンランプを採用するに際し,ハロゲンランプの熱膨張を吸収可能に支持部材によって支持する程度のことは当業者が容易に想到し得ることである。」(決定書6頁6段)と判断した。
(1) 原告は,引用発明の赤外線放射要素は,ミルク,飲料等の低温殺菌を行うために設けられるものであるから,本件訂正発明のような端部の効率的な冷却構造,及び,熱膨張を吸収する支持構造をとる必要性が認められない,と主張する。
しかし,引用発明の流体加熱器を,半導体プロセス用流体加熱器の用途に使用することは,当業者が容易に想到し得ることであること,及び,この場合に,その加熱源(発熱要素)をハロゲンランプとすることは当業者が必要に応じて適宜成し得る設計的事項であることは,前記のとおりである。そして,甲第18ないし第21号証によれば,発熱体をその熱膨張を吸収することができるように支持部材によって支持することは,本件出願時に周知であったと認められる。そうだとすると,引用発明の赤外線放射要素に代えて,高温加熱となるハロゲンランプを使用する場合に,ハロゲンランプをその熱膨張を吸収することができるように支持部材によって支持する程度のことは,当業者が容易に想到し得ることであることが明らかである。決定の上記判断に誤りはない。
(2) 原告は,甲18文献ないし甲20文献に記載されているのは,電気ストーブやオーブン等に設けられるシーズヒータの支持構造に関するものであり,高温で発熱するハロゲンランプを備えた本件訂正発明とは産業上の利用分野を異にするものである,甲21文献には,確かに清水加熱器のヒータ支持構造が記載されているものの,同文献の第1図に示されるように,そこに記載されている加熱管2は両端が開放されたものではなく,本件訂正発明とはその構成を異にする,と主張する。
しかし,決定は,上記のとおり,「発熱体の熱膨張を吸収可能に支持部材によって支持することも従来周知である」と認定しただけであり,このような支持部材が,半導体プロセス用の流体加熱器におけるヒータの支持構造として周知であると,認定したわけではない。そして,ハロゲンランプも発熱体であることに変わりはないことからすれば,流体加熱器における発熱体の熱膨張の問題に関する限り,ハロゲンランプを使用する場合に上記周知技術を適用することを妨げる理由はないというべきである。
原告の上記主張は採用することができない。
5 請求項5のみについての取消事由(相違点(5)についての判断の誤り)について 原告は,引用発明は,外筒13として内側表面が放射を反射するように磨かれた金属を採用している,引用発明のこのような外筒13をフッ素樹脂等の光吸収部材に代替させた場合,赤外線放射要素11から放射された赤外線のほとんどが光吸収部材からなる外筒13で吸収され,これに伴い,外筒13が加熱され,筒状ジャケット12の外側及び外筒13の内側を流れる流動食品は,加熱された外筒13の加熱表面に直接さらされることとなり,流動食品の風味を損なうこと,流動食品の茶褐色化,焦げ臭くなること等を解消する,との引用発明の目的を達成することができない,と主張する。
しかし,引用発明の構成の流体加熱器を,半導体プロセス用流体加熱器の用途に使用することが,当業者が容易に想到し得ることであることは,前記のとおりである。そして,半導体プロセス用流体加熱器において,流体加熱器の外管をフッ素樹脂等の光吸収部材で構成することは,本件出願時既に周知の技術であった(甲第8,第9号証)。そうだとすれば,引用発明を出発点としてこれを半導体プロセス用流体加熱器とするに当たり,その外筒13を光吸収部材で形成し,熱回収を図る程度のことは,当業者が容易に想到し得たことというべきである。原告の主張は,引用発明が流動食品の加熱器として使用される場合に当てはまっても,これを半導体プロセス用流体加熱器として用いる場合に当てはまるものでないことは,自明である。
決定の上記判断に誤りはない。
6 結論 以上に検討したところによれば,原告の主張する取消事由はいずれも理由がなく,その他,決定には,いずれの請求項についても,これを取り消すべき誤りは見当たらない。そこで,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 設樂隆一
裁判官 阿部正幸