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関連審決 無効2001-35319
関連ワード 発明の詳細な説明 /  参酌 /  技術的意義 /  訂正審判 /  請求の範囲 /  拡張 /  変更 / 
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事件 平成 14年 (行ケ) 385号 審決取消請求事件
原告 日東電工株式会社
訴訟代理人弁理士 杉谷勉
被告 リンテック株式会社
訴訟代理人弁理士 鈴木 俊一郎
同 牧村浩次
同 鈴木亨
同 八本佳子
同 森栄五
同 辻野 利永子
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/07/29
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が無効2001-35319号事件について平成14年6月17日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,発明の名称を「半導体ウエハの処理方法」とする特許第2877997号(平成3年8月29日特許出願(以下「本件出願」という。),平成11年1月22日登録。以下「本件特許」といい,本件特許にかかる発明を「本件発明」という。請求項の数は1である。)の特許権者である。原告は,平成12年10月31日に,本件特許につき訂正審判を請求した。特許庁は,審理の結果,平成13年2月7日,訂正を認める旨の審決をし,これが確定した(以下,この訂正を「本件訂正1」という。)。
被告は,平成13年7月17日,本件特許を無効とすることについて審判を請求し,特許庁は,これを無効2001-35319号事件として審理した。原告は,この審理の過程で,本件出願の願書に添付した明細書について,訂正を請求した(以下「本件訂正2」という。)。特許庁は,審理の結果,平成14年6月17日,「特許第2877997号発明の特許を無効とする。」との審決をし,同月27日にその謄本を原告に送達した。
2 特許請求の範囲 (1) 本件訂正1による訂正前の特許請求の範囲 「半導体ウエハの表面に保護粘着テープを貼付けて裏面を切削・研磨するバックグラインド工程と,バックグラインドされた半導体ウエハの裏面に粘着テープを貼付けてリング状のフレームにマウントし,前記マウントされた半導体ウエハをカッティングして個々の素子を分断するダイシング工程とを順に処理していく半導体ウエハの処理方法において, 前記ダイシング工程で半導体ウエハの裏面に粘着テープを貼付けてリング状のフレームにマウントした後に,前記バックグラインド工程で半導体ウエハの表面に貼付けられた前記保護粘着テープに剥離テープを貼付け,この剥離テープを介して前記保護粘着テープを剥離することを特徴とする半導体ウエハの処理方法。」 (2) 本件訂正1による訂正後の特許請求の範囲(下線部が訂正個所である。) 「半導体ウエハの表面に保護粘着テープを貼付けて裏面を切削・研磨するバックグラインド工程と,バックグラインドされた半導体ウエハの裏面に粘着テープを貼付けてリング状のフレームにマウントし,前記マウントされた半導体ウエハをカッティングして個々の素子を分断するダイシング工程とを順に処理していく半導体ウエハの処理方法において, 前記ダイシング工程で半導体ウエハの裏面に粘着テープを貼付けてリング状のフレームにマウントした後に,前記粘着テープを介して半導体ウエハをリング状のフレームに支持したウエハマウントフレームを,前記リング状のフレームの下面に貼付けられた前記粘着テープの全体にまで及ぶ範囲の広さを持った吸着テーブル上に載置して,前記粘着テープを介してリング状のフレームにマウントされた半導体ウエハを吸着テーブル上に吸着保持した状態で,前記 半導体ウエハの表面に貼付けられた前記保護粘着テープに剥離テープを貼付け,この剥離テープを介して前記保護粘着テープを剥離することを特徴とする半導体ウエハの処理方法。」 (3) 本件訂正2による訂正後の特許請求の範囲(下線部が訂正個所である。) 「半導体ウエハの表面に保護粘着テープを貼付けて裏面を切削・研磨するバックグラインド工程と,バックグラインドされた半導体ウエハの裏面に粘着テープを貼付けてリング状のフレームにマウントし,前記マウントされた半導体ウエハをカッティングして個々の素子を分断するダイシング工程とを順に処理していく半導体ウエハの処理方法において, 前記ダイシング工程で半導体ウエハの裏面に粘着テープを貼付けてリング状のフレームにマウントした後に,前記粘着テープを介して半導体ウエハをリング状のフレームに支持したウエハマウントフレームを,一側面からみると前記リング状のフレームの下面に貼付けられた前記粘着テープの全体にまで及ぶ長さを持った吸着テーブル上に載置して,前記粘着テープを介してリング状のフレームにマウントされた半導体ウエハを吸着テーブル上に吸着保持した状態で,前記半導体ウエハの表面に貼付けられた前記保護粘着テープに剥離テープを貼付け,この剥離テープを介して前記保護粘着テープを剥離することを特徴とする半導体ウエハの処理方法。」 3 審決の理由 別紙審決書の写しのとおりである。要するに,@本件訂正2は,特許請求の範囲(本件訂正1による訂正後のもの)を実質的に拡張する訂正を含むから,平成6年法律第116号による改正前の特許法(以下「旧特許法」という。)134条5項で準用する同法126条2項の規定に適合しないので,同訂正は認められない,A本件訂正1により特許請求の範囲の一部とされた事項は,登録時の願書に添付した明細書及び図面(以下,併せて「登録時明細書」という。甲第2号証はこれに係る特許公報である。)に記載されておらず,かつ,これらから直接かつ一義的に導き出される事項でもないから,旧特許法126条1項ただし書の規定に違反するので,本件特許は,旧特許法123条1項7号に該当する,としたものである。
原告主張の審決取消事由の要点
審決は,本件訂正2が特許請求の範囲拡張するものではないにもかかわらず,誤って特許請求の範囲を実質的に拡張する訂正を含むと判断し(取消事由1),本件訂正1が当初明細書に記載された事項の範囲内においてされたものであるにもかかわらず,誤って当初明細書に記載されたものでないと判断し(取消事由2)たものであり,これらの誤りが,それぞれ,審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。
1 取消事由1(本件訂正2についての判断の誤り) (1) 審決は,本件訂正2について,次のとおり判断した。
「訂正後(判決注・本件訂正2による訂正後)の特許請求の範囲の請求項1の「一側面からみると・・・粘着テープの全体にまで及ぶ長さをもった吸着テーブル」という記載において,吸着テーブルは,「長さ」のみで特定されており,その「奥行き」については特定されていない。
つぎに,訂正前(判決注・本件訂正2による訂正前,本件訂正1による訂正後)の特許請求の範囲の請求項1に記載された,「粘着テープの全体にまで及ぶ範囲の広さをもった吸着テーブル」の「奥行き」について検討する。
訂正前における吸着テーブルは「粘着テープの全体にまで及ぶ範囲の広さ」を具備していることから,単に「長さ」が特定されているのではなく,「広さ」について特定されているものと解される。
ところで,「長さ」は一次元の大きさを表す文言であり,「広さ」は二次元の大きさを表す文言である。そして,大きさを比較する場合に次元を合わせる必要があること,つまり「広さ」を特定する場合,別の「広さ」を基準にしなければ,「広さ」の特定はできないことは自明である。
したがって,テーブルの「広さ」という二次元の大きさを特定する場合には,「長さ」という一次元の大きさを二つ(例えば,「長さ」と「奥行き」)使用して特定する必要があること,そして,粘着テープが長さと共に奥行き(幅)を持っていること,すなわち,何らかの「広さ」を持っていることも自明である。
つまり,「粘着テープ全体にまで及ぶ範囲の広さをもった吸着テーブル」の「広さ」は,粘着テープの「長さ」ではなく「広さ」を基準に特定されているものと解されるから,結局,訂正前の吸着テーブルは,「長さ」とともに「奥行き」についても特定されているものと認められる。
よって,訂正前の請求項1では,吸着テーブルについて,長さとともに奥行きの限定を有する構成を特定しているのを,訂正後の請求項1では,長さの限定だけで奥行きの限定を有しない構成を特定するものに訂正することとなり,結局,本件訂正2は,特許請求の範囲を実質的に拡張する訂正を含むものと認める。」(審決書4頁下から3行〜5頁25行) しかし,この判断は誤りである。
(2) 「広さ」という文言は,一般に,物の二次元の大きさを表す場合だけに限らず,物の一次元の大きさである「幅」を表す場合にも使用される(甲第13ないし第16号証,第18ないし第20号証参照)。そして,本件訂正2による訂正前の特許請求の範囲,すなわち本件訂正1による訂正後の特許請求の範囲に記載された「広さ」の文言が,上のいずれを意味するかは,特許請求の範囲の文言だけでは,明確に定めることができない。そうである以上,上記「広さ」が上記のいずれを表すかは,本件訂正1に係る明細書及び図面(以下「訂正1明細書」という。)の全体を参酌して定める以外にないというべきである。
訂正1明細書の図5(登録時明細書の図5と同じ。別紙図面1参照)を参酌するならば,訂正1明細書の特許請求の範囲中の「広さ」とは,吸着テーブルの「幅」,すなわち「一側面からみた長さ」のことであり,奥行きを限定するものではないことが明らかである。すなわち,本件訂正2による訂正前の,「粘着テープの全体にまで及ぶ範囲の広さをもった吸着テーブル」と同訂正後の「一側面からみると・・・粘着テープの全体にまで及ぶ長さをもった吸着テーブル」とは同じ意味なのである。
本件訂正2は,何ら,特許請求の範囲拡張するものではない,というべきである。
2 取消事由2(本件訂正1についての判断の誤り) (1) 審決は,本件訂正1について,次のとおり判断した。
「登録時における願書に添付した明細書には,吸着テーブル30について,「図5に示すように,粘着テープ15を介してリングフレームFにマウントされたウエハWを吸着テーブル30上に吸着保持する。」(段落【0016】)と記載されているのみであって,吸着テーブルの広さについては,何らの記載もない。また,願書に添付した図面には,第5図,第6図及び第7図に,保護粘着テープの剥離方法の例を説明する図面が示されており,吸着テーブルを側面から見た図が示されているが,紙面に対する奥行き方向について記載した図面はない。また,吸着テーブルの側面図のみから,奥行き方向の寸法が特定されるわけではない。
そうすると,登録時における願書に添付した明細書又は図面に吸着テーブルの奥行き情報が記載されていたと認めることは出来ない。
ところで,本件訂正1の訂正は,上記2(4)で検討したとおり,吸着テーブルの奥行きについて,「粘着テープ全体にまで及ぶ範囲の広さ」との限定を付加するものと認められる。
しかしながら,前記のとおり,登録時における願書に添付した明細書又は図面には,吸着テーブルの奥行き情報が記載されていたとすることはできないから,「粘着テープの全体にまで及ぶ範囲の広さをもった吸着テーブル」は,願書に添付した明細書又は図面に記載されておらず,かつこれらから,直接的かつ一義的に導き出される事項でもない。」(審決書7頁30行〜8頁9行) しかし,この判断は誤りである。
(2) 審決は,本件訂正1の訂正事項中の「粘着テープの全体にまで及ぶ範囲の広さ」という事項について,吸着テーブルの奥行きをも規定するものである,と判断した。しかし,1で述べたとおり,一般的に,「広さ」という文言は,物の二次元の大きさを表わす場合にも,物の一次元の大きさである「幅」を表す場合にも使用される文言であり,登録時明細書(図5)を参酌するならば,本件訂正1の訂正事項中の「広さ」の文言は,吸着テーブルの奥行きを特定するものではなく,吸着テーブルの「幅」,すなわち「一側面からみた長さ」であることが明らかである。
本件訂正1は登録時明細書に記載されていた事項の範囲内の訂正である,というべきである。
被告の反論の要点
審決の認定,判断は正当であり,審決に,取消事由となるべき誤りはない。
1 取消事由1(本件訂正2についての判断の誤り)について (1) 訂正1明細書の特許請求の範囲(本件訂正1による訂正後の特許請求の範囲)の「粘着テープの全体にまで及ぶ範囲の広さをもった吸着テーブル」との記載によれば,参考図1(別紙図面2参照)に示すとおり,吸着テーブル30は,リング状のフレームFの下面に貼付けられた粘着テープ15の全体にまで及ぶ範囲の広さを持っているものに限定されている。
これに対し,本件訂正2による訂正後の特許請求の範囲の「一側面からみると前記リング状のフレームの下面に貼付けられた前記粘着テープの全体にまで及ぶ長さをもった吸着テーブル」との記載によれば,参考図2ないし5(別紙図面2参照)に示すような吸着テーブルも,特許請求の範囲に含まれることになる。
本件訂正2が特許請求の範囲拡張又は変更するものであることは,明白である。
(2) 訂正1明細書の特許請求の範囲では,吸着テーブルについて「広さ」で規定しているのに対し,本件訂正2による訂正後の特許請求の範囲では,吸着テーブルについて「長さ」で規定している。
一般的に「広さ」の文言は,長さとともに奥行きの情報も含んだ二次元的な範囲を示すものである。これに対し,「長さ」の文言は,奥行きの情報を含まない一次元的な範囲を示すものである。
本件訂正2は,訂正前において吸着テーブルについて長さとともに奥行きの情報をも含んだ範囲を示しているのを,長さの限定だけで奥行きの限定を有しない範囲に訂正するものであるから,特許請求の範囲を実質的に拡張又は変更するものであることが明白である。
2 取消事由2(本件訂正1についての判断の誤り)について 本件訂正1は,吸着テーブルに関して,「粘着テープの全体にまで及ぶ範囲の広さをもった吸着テーブル」と訂正している。すなわち,同訂正は,吸着テーブルの奥行きについて規定するものである。
登録時明細書には,吸着テーブルの奥行きに関する情報となるべきものは一切記載されていない。このような状況で,上記「粘着テープの全体にまで及ぶ範囲の広さを持った吸着テーブル」を登録時明細書に記載された事項,あるいは,同明細書に記載された事項から直接的かつ一義的に導き出される事項であるとすることは,不可能である。
当裁判所の判断
1 取消事由1(本件訂正2についての判断の誤り)について 審決は,本件訂正1による訂正後の特許請求の範囲(訂正1明細書の特許請求の範囲)における「粘着テープの全体にまで及ぶ範囲の広さをもった吸着テーブル」との構成について,「広さ」とは二次元の大きさ(「長さ」と「奥行き」)を表す文言であって吸着テーブルの大きさを「長さ」と「奥行き」とにより限定するものである,と解し,本件訂正2は,吸着テーブルの大きさを「長さ」により限定するだけで,「奥行き」により限定しない構成に訂正するものであるから,特許請求の範囲を実質的に拡張することになる,と判断した(審決書4頁下から3行〜5頁25行参照)。
原告は,@「広さ」という文言は,一般に,物の二次元の大きさを表す場合だけに限らず,物の一次元の大きさを表す「幅」を表す場合にも使用される,A訂正1明細書の特許請求の範囲中の「広さ」の文言は,登録時明細書の図5(別紙図面参照)を参酌するならば,「幅」,すなわち「一側面からみた長さ」であることが明らかである,として,これを前提に,訂正1明細書の特許請求の範囲における「粘着テープの全体にまで及ぶ範囲の広さをもった吸着テーブル」との構成中の「広さ」とは,吸着テーブルの「幅」,すなわち「一側面からみた長さ」のことをいい,奥行きを限定するものではないから,本件訂正2による訂正後の「一側面からみると・・・粘着テープの全体にまで及ぶ長さをもった吸着テーブル」と同じ意味である,と主張する。
証拠(いずれも辞典である甲第13ないし第16号証)によれば,「広さ」の文言は,一般的に,@面積の大きさ,という意味で用いられる(例・「土地の広さ」)だけでなく,A幅の大きさ(長さ),という意味でも用いられることがあること(例・「道の広さ」,「川の広さ」)が認められる。
したがって,審決が,「広さ」という文言の有する意味のうち上記@のもののみを考慮に入れ,Aのものを考慮に入れていないのは,その限りでは誤りというべきである。しかし,本件で問題となるのが,「広さ」という文言が一般的にどのような意味で用いられているかではなく,訂正1明細書(甲第3号証参照)の特許請求の範囲中の「広さ」が,どのような意味で用いられているか,であることは,いうまでもないところである。そして,上記特許請求の範囲の「粘着テープの全体にまで及ぶ範囲の広さをもった吸着テープ」との記載を通常の日本語の用法に従って理解する限り,ここにいう「広さ」とは,「粘着テープの全体にまで及ぶ範囲」という,面積の大きさのことであることが,明らかである。
訂正1明細書の発明の詳細な説明において,「粘着テープ」について,どのように述べられているかについてみる。
同明細書には,「粘着テープ」について,「前記ダイシング工程で半導体ウエハの裏面に粘着テープを貼付けてリング状のフレームにマウントした後に,前記粘着テープを介して半導体ウエハをリング状のフレームに支持したウエハマウントフレームを,前記リング状のフレームの下面に貼付けられた前記粘着テープの全体にまで及ぶ範囲の広さをもった吸着テーブル上に載置して,前記粘着テープを介してリング状のフレームにマウントされた半導体ウエハを吸着テーブル上に吸着保持した状態で」(段落【0006】),「半導体ウエハの裏面に粘着テープを貼付けてリング状のフレームにマウントする」(段落【0007】),「ウエハWは,粘着テープ15の送りによってマウント箇所Qまで搬送されて,ここで一旦停止する。マウント箇所Qにあるフレーム位置決め機構16は,リングフレームFを吸着保持するもので,マウント箇所Qに停止したウエハWの中心に対してリングフレームFの中心が一致するように位置決めを行ったのち,下降して粘着テープ15の上方から僅かに離れた位置に止まる。」(段落【0013】),「マウント箇所Qにおいて粘着テープ15の下方には,フレーム貼付けローラ18とテープカッタ19とを周辺部に装着して縦軸周りに回転する回転テーブル17が待機している。フレーム貼付けローラ18とテープカッタ19とは互いに独立して昇降されるように構成されている。まず,フレーム貼付けローラ18が上昇して粘着テープ15を押し上げてリングフレームFに接触させる。この状態で回転テーブル17が回転し,フレーム貼付けローラ18がリングフレームFに沿って転動し粘着テープ15を貼付けていく。次いで,テープカッタ19を上昇させてリングフレームFに接触させ,リングフレームFと粘着テープ15の貼付け領域を外側と内側とに二分するように切り目を入れる。」(段落【0014】)などの記載がある(甲第3号証)。
訂正1明細書の発明の詳細な説明中のこれらの記載によれば,同明細書中に記載された「粘着テープ」は,半導体ウエハの裏面及びリングフレームの下面に貼付されるものであって,幅及び奥行きを持ったものとしての技術的意義を与えられているものであることが,明らかである。
このようにみてくると,他に反対に解すべきよほど明確な事情が認められない限り,訂正1明細書の特許請求の範囲に記載された粘着テープの全体にまで及ぶ範囲の「広さ」は,幅及び奥行きを持った二次元の大きさを表す,と解する以外にないというべきである。
原告は,訂正1明細書の図5(別紙図面参照)によれば,上記「広さ」とは,吸着テーブルの「幅」,すなわち「一側面からみた長さ」であることは明らかである,と主張する。同図面は,側面図であり,吸着テーブルの一側面からみた長さを表すにとどまり,奥行きまで特定するものでないことは,原告の主張するとおりである。しかしながら,同図面は,側面図にすぎないから,訂正1明細書の特許請求の範囲中の粘着テープの全体にまで及ぶ範囲の「広さ」の文言を上記のとおり,幅及び奥行きを持った二次元の大きさを表すものであると解することと何ら矛盾するものではなく,このような解釈を採ることを妨げるものでないことは,論ずるまでもないところである。他に,上記「広さ」の文言を原告主張のように限定して解すべき事情を認めることはできない。
本件訂正2が特許請求の範囲を実質的に拡張することになる,との審決の上記判断に誤りはない。取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(本件訂正1についての判断の誤り)について 審決は,本件訂正1の訂正事項は,登録時明細書に記載されておらず,かつこれらから,直接的かつ一義的に導き出される事項でもない,と判断した(審決書7頁29行〜8頁12行参照)。
原告は,訂正1明細書にいう「広さ」は,吸着テーブルの奥行きを規定するものではなく,吸着テーブルの「幅」,すなわち「一側面からみた長さ」であるから,本件訂正1は登録時明細書に記載されていた事項の範囲内の訂正である,と主張する。
しかしながら,原告の主張に理由がないことは,1で説示したところから明らかである。
取消事由2も理由がない。
結論
以上のとおりであるから,原告主張の審決取消事由は,いずれも理由がなく,その他審決にはこれを取り消すべき誤りは見当たらない。よって,原告の請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 設樂隆一
裁判官 阿部正幸