運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

関連ワード 一定の効果 /  製造方法 /  技術的範囲 /  援用権(援用) /  特許発明 /  実施 /  構成要件 /  差止請求(差止) /  侵害 /  減縮 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 14年 (ネ) 3419号 特許権侵害差止等請求控訴事件

控訴人(1審原告) フェザー株式会社(以下「原告」という。)
訴訟代理人弁護士 坂本倫子
同 生沼寿彦
被控訴人(1審被告) 株式会社クスノキ(以下「被告」という。)
訴訟代理人弁護士 小山雅男
補佐人弁理士 古田剛啓
裁判所 大阪高等裁判所
判決言渡日 2003/07/31
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は原告の負担とする。
事実及び理由
控訴の趣旨等
1 原判決を取り消す。
2 被告は、原判決別紙被告製品目録1ないし4記載の各ヘアピースを製造し、
販売し、輸入し、又は販売のために展示をしてはならない。
3 被告は、前項記載の製品及び半製品を廃棄せよ。
4 被告は、原告に対し、300万円及びこれに対する平成12年10月11日(本件訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え(当審における請求の減縮)。
5 訴訟費用は、1、2審とも被告の負担とする。
6 仮執行宣言
事案の概要
1 本件は、発明の名称を「ヘアピース」とする後記特許発明の特許権者である原告が、被告に対し、被告の販売するヘアピースは同特許発明技術的範囲に属すると主張して、その製造販売の差止め等と損害賠償を請求した事案である。
原審は原告の請求をいずれも棄却したので、原告が控訴を提起した。
2 争いのない事実等、争点、争点に関する当事者の主張は、次のとおり付加、
訂正するほかは、原判決「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」1及び2並びに「第3 争点に関する当事者の主張」1ないし3(ただし、後記(1)で訂正後の数字)に記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 6頁1行目の「縺れてしまう」を「もつれてしまう」と、同14行目冒頭の「2」を「3」と各改める。
(2) 6頁25行目の次に改行の上、次のとおり加える。
「4 当審における当事者の補充主張 〔原告の主張〕 構成要件Cの「連結部を中心にしてカールさせている」を原告主張のように解すべきことは、次の点からも明らかである。
(1) 鬘業、美容業等の当業者において、「カール」とは、毛束をカーリングパイプなどの中空の円筒に、毛先の方から根元へと巻き付けて形成することを意味する。
上記のように中空の円筒を使うのは、カールを形付けるために必要な熱を全体に行き渡らせるとともに、水分が蒸発しないために色がまだら状になったり、カールが形付きにくくなる失透現象を防止するためであり、また、毛束を毛先から根元(連結部)の方向へと巻き付けるのは、パイプにしっかりと毛束を巻き付けるためには連結部を固定する必要があるためであり、もしこれを連結部から巻くときは、パイプ上を一周以上巻き付けた場合に連結部と重なる部分が凹凸になる弊害が生じるためである。
このようなカール形成方法からすると、カールの始端(毛先)及び終端(連結部)は、いずれもカールの円周上に位置することになるのであって、カールの内部である中心点に連結部が位置するようなことは起こり得ず、これらのことは、当業者にとって、他に考えられないほど自明の事項である。
(2) 本件公報の【発明の実施の形態】においては、連結部を形成する過程及びねじりを形成する過程が説明されているが、カールを形成する過程は一切説明されていないところ、このようにカールを作るための特殊な技術が開示されていないことも、本件発明における「カール」が、出願時に存在した技術によって当業者が実施できる「カール」を前提としていることを示すものである。
(3) 他方、本件発明の「カール」が被告主張のようなものだとすると、多大の時間と手間、費用がかかるばかりか、鋭角部分のある、カールとはいえないような形状のものになるのみならず、その製造方法も極めて煩雑なものとなる上、連結部に錘をしてミノ毛をしっかりと固定することもできないため、毛髪が緩み、カールが付かないなど、製品化は到底不可能である。
(4) 本件公報の【発明の効果】における「ねじれた形状の連結部によって毛束がほぐれて広がり、毛束の毛髪が連結部の周囲を囲むようになる」(4欄15〜17行目)との記載は、ねじり→毛束がほぐれる→毛束が連結部の周囲を囲むようになる、という因果の流れを示しており(なお、構成要件AないしDを個別に見ると、ねじって(構成要件B)からカール(構成要件C)するかのようにも見えるかもしれないが、実際にはそのような順序の製造方法はあり得ず、カールしてからねじるのである。)、カールを「連結部を中心点とした円周状にする」こととは矛盾する記載である。すなわち、円の中心点に連結部があれば、もともと、ねじりの有無とは無関係に、毛髪は連結部の周囲を囲んでいるはずであって、ねじりによって「囲む」ようになることはないからである。
(5) 本件発明の「連結部を覆い隠す」という効果は、毛束を連結部を中心にカールするという構成を採ることによって得られるのではない。仮に、連結部をカールの円周の中心点にするものを形成した場合、カールは徐々に崩れて広がっていくから、連結部を覆い隠すという効果を期待することはできない。連結部をねじることによって、カールした複数の毛髪(毛束)が、連結部を中心にしてほぐれた状態となり、それらの毛髪が重なり合うことによって、初めて持続的に連結部を覆い隠すという効果が達成できるのである。
〔被告の主張〕 (1) 原告の主張は争う。
(2) 原告は、「連結部を中心点とした円周状」のカールを形成するためには多大の時間と手間、費用がかかるだけでなく、形もいびつになるなど、到底製品化は不可能であると主張するが、アルミ部材を用いてカール用パイプを組合わせ用の中空半円筒に成形することは簡単にできることであるのみならず、原告自身、平成9年5月1日に特許出願した発明の名称を「ヘア・ピース」とする発明(特願平9-113912号、特開平10-310923号)に係る明細書(乙16の2〜4、27の2)に、毛束の連結部を中心にカールさせたミノ毛を図示等していることからしても、その主張の理由がないことは明らかである。」
当裁判所の判断
当裁判所も、被告製品は本件発明の技術的範囲に属さず、原告の本件請求は、いずれも棄却すべきものと判断する。
その理由は、次のとおり付加するほかは、原判決の「事実及び理由」中の「第4 争点に対する判断」1及び2に記載のとおりであるから、これを引用する。
1 7頁5行目の「「カール」とは、」の次に「毛束が」を、同12行目の「被告製品」の次に「の直径約3〜4p程度の円周状に巻かれた一方の片側帯状毛束(片ミノ毛)」を各加える。
2 10頁24行目の次に改行の上、次のとおり加える。
「 なお、本件公報の【図1】(この発明のヘアピースを示す一部省略斜視図)と【図3】(従来のヘアピースを示す斜視図)とを比較検討すると、カールした毛束と連結部との関係につき、従来のヘアピースを示す【図3】では、連結部の一部が破線で示されていることから、当該部分の毛束が連結部より内側(手前側)にカールしていることが認められるのに対し、本件発明に係る実施例を示す【図1】では、上記【図3】の破線部分に対応する部分が実線で示されていることからして、当該部分の毛束が連結部の外側(向こう側)にカールしていることが認められる(なお、乙16の4の図のうち、従来例のカールを示す6枚目の図は本件公報の【図3】と同一のものと思われる。)。
これによると、従来のヘアピースの連結部がカールの外側(ないし円周上)に位置するのに対し、上記本件発明に係る実施例(本件公報に記載された唯一の実施例である。)の連結部はカールの内側(ないし中心側)に位置することが明らかであり、このことは上記のような解釈を裏付けるものといえる。」 3 12頁7行目の次に改行の上、次のとおり加える。
「カ なお、原告は、当審において、構成要件Cを原告主張のように解すべき理由を補充的に主張しているので、以下に検討する。
(ア) 原告は、鬘業、美容業等の当業者間では、「カール」の用語は、毛束をカーリングパイプなどの中空の円筒に、毛先の方から根元へと巻き付けて形成することを意味する旨主張し、甲37ないし40にも原告主張に沿う部分があるが、仮に、原告主張のとおりであるとしても、本件公報の図面等にそのような形成方法によっては形成し得ないカールの構成が明示されている以上、本件公報においては、「カール」の用語が、原告主張の当業者における一般的理解とは異なる、より一般的な用語例に従って用いられていると解するほかない。
(イ) また、原告は、本件公報においてカールを形成する過程が一切説明されていないことから、カールを作るための特殊な技術が開示されていない以上、
出願時に存在した通常の方法によることを前提としていることは明らかであるとも主張するところ、本件公報には、カールを形成する過程が具体的に説明されていないことは原告主張のとおりであり、また、仮に本件発明の出願時点における一般的なカールの形成方法に係る技術が原告主張のとおりであるとしても、上記のように、その方法によっては形成できない構成を図面で明示しておきながら、その形成方法を原告主張のような形成方法に限定する理由とすることができないことは明らかである。
(ウ) さらに、原告は、被告主張のような構成のカールは、仮に何らかの方法でこれを形成したとしても、多大の時間と手間、費用がかかるばかりか、形もいびつになるなど、到底その製品化は不可能である旨主張し、甲37、39、40にも原告主張に沿う部分がある。しかしながら、コスト的にそれが見合うか否かはともかくとして、被告主張のような方法によってもその形成が可能であることは明らかであるし(乙27の1・3、弁論の全趣旨)、また、原告自身が平成9年5月1日に特許出願(特願平9-11392号)し、平成10年11月24日に公開(特開10-310923号)された名称を「ヘア・ピース」とする発明に係る公開特許公報(乙27の2)には、その図2及び図5に、連結帯1を基端にし、連結帯1を中心にして、かつ連結帯1を囲む方向にカールした巻き毛2bが図示されており(いずれも、カールを上部から見た平面図で、この平面図のカールした毛束は被告主張と同様の構成を示している。)、【発明の実施の形態】の項にも、「図1(a)、図1(b)および図2に示すヘア・ピース」(同公報2欄5〜6行。いずれも、特許出願の発明に係るヘア・ピースである。)の「巻き毛2bは・・・一方の中間形成体5の毛髪2を結束部4を中心にカールさせることにより形成される」(同欄31〜33行)と明記されていることからしても、その主張の理由がないことは明らかである。
(エ) 原告は、【発明の効果】の項の「ねじれた形状の連結部によって毛束がほぐれて広がり、毛束の毛髪が連結部の周囲を囲むようになる」(4欄15〜17行目)との記載につき、被告が主張するように円の中心点に連結部が位置するのであれば、もともと毛髪は連結部の周囲を囲んでいるはずであって、ねじりによって「囲む」ようになることはないのであるから、上記記載は被告の主張とは矛盾するとも主張しているが、上記記載は、連結部をねじることにより毛束がほぐれて広がれば、毛束の毛髪が連結部を四周から取り囲むようになることを意味するもので(このことは、上記記載に引き続いて「ので、ヘアピースの外観が軽やかになる。」と記載されていることからも明らかである。)、毛束を連結部を内側にしてカールすることとは別の状態を示すものにすぎないと解されるから、カールを、その形成する円の中心点に連結部が位置するように形成することと矛盾することはない。
(オ) また、原告は、本件発明の「連結部を覆い隠す」という効果は、毛束を連結部を中心にカールするという構成を採ることによって得られるのではなく、連結部をねじることによって、カールした複数の毛髪(毛束)が、連結部を中心にしてほぐれた状態となり、それらの毛髪が重なり合うことによって初めて達成できるとも主張しているが、毛束を連結部を中心にカールした場合、その構成自体に連結部を覆い隠す点で一定の効果があることは明らかであり、仮に、連結部をねじることによって毛束がほぐれた状態になることと相まって、本件発明における連結部を覆い隠す効果が更に高まるものとしても、それによって、「連結部を中心にしてカールさせている」の意義を前記判示のように解することが妨げられるものではない。」 4 12頁11行目の「主張するが、」の次に「原告の主張を前提としても(なお、被告製品を特定し、立証する責任が原告にあることはいうまでもない。)、」を加える。
5 その他、原審及び当審における当事者提出の各準備書面記載の主張に照らし、原審及び当審で提出、援用された全証拠を改めて精査しても、引用に係る原判決を含め、当審の認定、判断を覆すほどのものはない。
結論
以上によれば、原告の被告に対する本件各請求は、その余の争点について判断するまでもなく、いずれも理由がないものとして棄却すべきところ、これと同旨の原判決は相当であって、本件控訴は理由がない。
よって、主文のとおり判決する。
(平成15年7月17日口頭弁論終結)
裁判長裁判官 竹原俊一
裁判官 小野洋一
裁判官 黒野功久