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関連審決 不服2001-21703
関連ワード 技術的思想 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  相違点の認定 /  相違点の判断 /  周知技術 /  先行技術 /  発明の詳細な説明 /  容易に想到(容易想到性) /  構成要件 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 14年 (行ケ) 382号 審決取消請求事件
原告 日東電工株式会社
訴訟代理人弁理士 鈴木崇生
同 尾崎雄三
同 梶崎弘一
同 光吉利之
同 村田美由紀
被告 特許庁長官今井康夫
指定代理人 小曳満昭
同 鹿股俊雄
同 谷山稔男
同 大野克人
同 伊藤三男
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/08/20
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が不服2001−21703号事件について平成14年6月4日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
請求
主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,平成11年5月12日,名称を「偏光導光板及び偏光面光源」とする発明につき特許出願(特願平11-131429号)をしたところ,平成13年11月6日に拒絶査定を受けたので,同年12月5日,不服審判の請求をし,不服2001-21703号事件(以下「本件審判事件」という。)として特許庁に係属した。
特許庁は,同事件について審理した結果,平成14年6月4日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同月27日,原告に送達された。
2 平成13年3月23日付け手続補正書により補正された願書に添付した明細書(甲7,以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の【請求項1】の記載 透光性樹脂板の片面又は両面に,複屈折性の微小領域を分散含有して偏光方向により散乱異方性を示す偏光散乱板を積層してなり,側面より入射させた自然光の内,前記の散乱異方性にて散乱された直線偏光を表裏面から選択的に出射することを特徴とする偏光導光板。
(以下,上記【請求項1】記載の発明を「本願発明」という。) 3 審決の理由 審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本願発明は,特開平9-134607号公報(甲3,以下「引用例1」という。)に記載された発明(以下「引用例発明1」という。)と従来周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項により特許を受けることができないとした。
原告主張の審決取消事由
審決は,本願発明と引用例発明1との一致点の認定を誤り(取消事由1,2),相違点の判断を誤った(取消事由3,4)結果,容易想到性の判断を誤ったものであるから,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(直線偏光の出射箇所に係る一致点の認定の誤り) (1) 審決は,本願発明と引用例発明1が,「直線偏光を表裏面から選択的に出射する」ことを特徴とする偏光導光板である点で一致すると認定した(審決謄本3頁最終段落)が,誤りである。
本願発明の「偏光導光板」は,本件明細書(甲7)の特許請求の範囲の【請求項1】において,「側面より入射させた自然光の内,前記の散乱異方性にて散乱された直線偏光を表裏面から選択的に出射することを特徴とする」と規定されているところ,「表裏面」とは,偏光導光板の「表裏面」,すなわち,偏光導光板の「両面」を意味するから,本願発明は,直線偏光を偏光導光板の両面から選択的に出射する構成を採るものである。これに対して,引用例1(甲3)に記載の「ライトパイプ12および異方性層16」は,反射部材を設けている側の反対面からのみ直線偏光を出射するものであるから,両発明が「直線偏光を表裏面から選択的に出射する」点で一致するとした審決の認定は,誤りである。
(2) 被告は,「表裏面」とは,その文言及び本件審判事件の審判請求書(乙1)の【本願発明が特許されるべき理由】3-3の記載から見て,偏光導光板の「表面又は裏面のいずれか一方」の意味に解すべきである旨主張するが,審判請求書の上記部分の「本願発明による偏光導光板は・・・表裏面の少なくとも一方より出射させるものであ」るとの記載は,本件明細書(甲2)の【発明の効果】段落【0006】〜【0008】の記載に基づいて,それを説明した箇所にすぎず,審判請求書の記載の全体の趣旨に照らせば,上記のとおり,偏光導光板の「両面」を意味することは明らかである。
(3) 被告は,また,両発明が「直線偏光を表裏面から選択的に出射する」点で一致しないとしても,直線偏光の出射箇所が片面からであるか,両面からであるかという相違は,審決が,相違点Aにおいて,別途取り上げ,検討している以上,一致点の認定に係る表面的な誤りは,審決の結論に影響しない旨主張するが,相違点Aの判断の箇所においては,上記「表裏面」について一切検討されていない。
2 取消事由2(偏光導光板に係る一致点の認定の誤り) (1) 審決は,「本願発明の・・・『偏光導光板』は,・・・引用例1記載のものの・・・「ライトパイプ12および異方性層16」に相当する」(審決謄本3頁最終段落)と認定したが,誤りである。
引用例1に記載の照明装置は,「ライトパイプ12および異方性層16」によってのみ成立する発明ではなく,ライトガイドから出射光となるように制御された「反射部材」と組み合わせて初めて成立する発明である。これに対し,本願発明の「偏光導光板」は,反射板は特に制限されていないから,本願発明の「偏光導光板」と引用例1の「ライトパイプ12および異方性層16」は,根本的に異なる機構に基づくものである。
(2) 被告は,審決は,引用例1記載の照明装置も全体として見れば本願発明でいう「偏光導光板」に相当することを示したものにすぎず,その限りでは誤りがない旨主張するが,この主張によれば,「反射部材」を引用例発明1の構成要件とした意味がなくなるから,それ自体失当である。
(3) 被告は,また,偏光導光板に係る一致点の認定に誤りがあったとしても,審決が本願発明と引用例発明1との構成上の相違を相違点Aとして取り上げた上で,その容易想到性を検討しているのであるから,相違点の看過はなく,その誤りは,審決の結論には影響しない旨主張するが,審決は,相違点Aの検討において,「引用例1の『ライトパイプ12および異方性層16』が本願発明の『偏光導光板』に相当する」とした点が誤りであることを覆すに足りる検討を行っていない。
3 取消事由3(相違点Aの判断の誤り) (1) 審決は,相違点Aとして認定した,「光学素子板が,本願発明は,複屈折性の微小領域を分散含有して偏光方向により散乱異方性を示す偏光散乱板であるのに対して,引用例1記載のものは,第1の偏光状態のほぼ全てを,該第1の偏光状態に直交する第2の偏光状態から分離する異方性層16からなる点」(審決謄本3頁最終段落〜4頁第1段落)について,引用例1のほか,特開平9-297204号公報(甲4,以下「引用例2」という。),特開平9-274108号公報(甲5,以下「引用例3」という。)及び特開平8-76114号公報(甲6,以下「引用例4」という。)を認定した上,「複屈折性の微小領域を分散含有して偏光方向により散乱異方性を示す偏光散乱板とすることは,引用例2〜4に記載されているように従来周知の技術手段に過ぎない。そして,引用例1〜4は,いずれも偏光を利用した光学素子であるから,引用例2〜3に開示されたような従来周知技術を,引用例1の異方性層16に換えて用いるようなことは,当業者なら容易に推考できる」(同4頁第2〜第3段落)と判断したが,誤りである。
(2) 引用例2〜4には,微小領域を含有する異方性散乱素子(偏光素子,異方性散乱体)が例示されているが,その微小領域は,いずれも「直線偏光」を透過させるものであり,散乱光は,いずれも偏光が解消され,自然光になっている。
したがって,相違点Aに係る「偏光方向により散乱異方性を示す偏光散乱板」は,引用例2〜4には開示されていないから,本願発明の「偏光散乱板」は,審決の認定するように,従来周知の技術手段であるとはいえない。
(3) 引用例2〜4の引用例1への適用には,以下のとおり阻害事由があるから,その容易想到性を肯定した審決の判断は,誤りである。すなわち,@引用例1の異方性層は,ライトパイプとともに一体として用いられ,側面より入射した自然光を出射光(偏光)として取り出すものである。これに対し,引用例2〜4に記載されている異方性散乱素子は,いずれもバックライト(導光板)からいったん出射した自然光を偏光として取り出すものである上,バックライト(導光板)からは空気層を介して用いられており,照明装置内における適用箇所がそれぞれ異なる部材である。引用例2〜4には,異方性散乱素子を,引用例1の異方性層のように適用箇所の変更を示唆する記載は一切ない。A引用例1には「散乱」させるという概念がなく,「散乱」を利用した引用例2〜4をどのようにして引用例1に適用するか動機付けが全く示されていない。B本願発明が引用例1〜4には認められない作用効果を奏するものであることを看過している。
4 取消事由4(相違点Bの判断の誤り) (1) 審決は,相違点Bとして認定した,「本願発明は,散乱異方性にて散乱された直線偏光であるのに対して,引用例1には,そのような記載が無い点」(審決謄本4頁第1段落)について,「上記相違点Aの検討で述べた,従来周知の偏光散乱板を用いたことによって,当然に生ずることに過ぎない」(同頁第5段落)と判断したが,誤りである。相違点Bは従来周知の事項ではないし,引用例2〜4には,「直線偏光」を透過させるとする記載しかなく,相違点Bに係る「散乱異方性にて散乱された直線偏光」を取り出すという技術的思想が全くないから,引用例2〜4から当然に,あるいは,引用例1に引用例2〜4を組み合わせて容易に想到し得るというものではない。
(2) 引用例1の「ライトパイプ12および異方性層16」は,いずれの面からも偏光が出射しないのであるから,引用例1に引用例2〜4を組み合わせたとしても,相違点Bに係る「散乱異方性にて散乱された直線偏光」が得られることを論理付けることはできない。
被告の反論
1 取消事由1(直線偏光の出射箇所に係る一致点の認定の誤り)について (1) 原告は,本件明細書(甲7)の特許請求の範囲の【請求項1】の「直線偏光を表裏面から選択的に出射する」にいう「表裏面」とは,偏光導光板の「表裏面」,すなわち,偏光導光板の「両面」を意味し,本願発明は,直線偏光を偏光導光板の両面から選択的に出射する構成を採るものである旨主張するが,「表裏面」は,その文言から見て,偏光導光板の「表面又は裏面のいずれか一方」の意味に解すべきである。原告も,本件審判事件の審判請求書(乙1)の【本願発明が特許されるべき理由】3-3の項において,「本件発明による偏光導光板は・・・直線偏光を選択的に形成して,それを偏光導光板の表裏面の少なくとも一方より出射させるものであります」と主張している。したがって,本願発明の「直線偏光を表裏面から選択的に出射する」とは,「偏光導光板の表面又は裏面のいずれか一方」から直線偏光を出射する場合を意味し,本願発明と引用例発明1が「直線偏光を表裏面から選択的に出射する」点で一致するとした審決の認定に誤りはない。
(2) 原告は,審判請求書の上記記載は,本件明細書(甲2)の【発明の効果】段落【0006】〜【0008】に基づいて,それを説明した箇所にすぎず,審判請求書の全体の趣旨に照らせば,上記のとおり,偏光導光板の「両面」を意味することは明らかであると主張するが,失当である。本件明細書(甲2)の特許請求の範囲の【請求項5】には,「請求項1〜4に記載の偏光導光板の少なくとも一側面に光源を有し,かつ表裏面の一方に鏡面反射層を有することを特徴とする偏光面光源」と記載されているところ,上記段落【0006】〜【0008】には,請求項5に係る発明の効果のみが記載されているわけではないし,審判請求書(乙1)の【本願発明が特許されるべき理由】3-3の項においても,請求項5に係る発明についての主張である旨の記載はなく,かえって,その直前には,「少なくとも一方より出射」の主語として「本件発明による偏光導光板は」と記載され,「本件発明による偏光面光源は」と記載されていないことにかんがみれば,審判請求書において,原告は,「表面又は裏面のいずれか一方」からの出射との趣旨を主張していたことは明らかである。
(3) 仮に,原告主張のように,本願発明と引用例発明1が「直線偏光を表裏面から選択的に出射する」点で一致しないとしても,直線偏光の出射が片面からであるか,両面からであるかという相違は,光学素子板が,引用例1記載の異方性層16か,本願発明の偏光散乱板かという構成上の相違に起因する現象面の相違にすぎないから,当該構成上の相違について検討されていれば足りるところ,審決は,この点について,相違点Aにおいて別途取り上げて検討しており,一致点の認定に係る誤りは,審決の結論に影響しない。
2 取消事由2(偏光導光板に係る一致点の認定の誤り)について (1) 審決における一致点の認定は,引用例発明1と本願発明との比較に基づいて行われているのであり,引用例発明1の「ライトパイプ12および異方性層16」と本願発明の「偏光導光板」とを比較したものではないから,この点に関する原告主張は,審決における一致点の認定に誤りがあることを根拠付けるものではない。
(2) 引用例1に記載の照明装置が,「ライトパイプ12および異方性層16」によってのみ成立する発明ではなく,「反射部材」と組み合わせて初めて成立する発明であるとする原告の主張にかんがみると,確かに,「引用例1の『ライトパイプ12および異方性層16』が本願発明の『偏光導光板』に相当する」とするのではなく,「引用例1の『ライトパイプ12,異方性層16および反射部材18』が本願発明の『偏光導光板』に相当する」とした方がより正確であるかもしれない。しかしながら,この点は,誤記ともいうべきであるのみならず,審決の趣旨とするところは,引用例1記載の照明装置も全体として見れば本願発明でいう「偏光導光板」に相当すること示す点にあるから,その限りで誤りはない。
(3) 仮に,原告主張の誤りがあったとしても,審決は,本願発明と引用例発明1との構成上の相違を相違点Aとして取り上げた上で,その容易想到性を検討しているのであるから,相違点の看過はなく,上記誤りは,審決の結論に影響しない。
3 取消事由3(相違点Aの判断の誤り)について (1) 原告は,引用例2〜4に例示されている異方性散乱素子(偏光素子,異方性散乱体)に含有される微小領域は,「直線偏光」を透過させるものであり,相違点Aに係る「偏光方向により散乱異方性を示す偏光散乱板」は,引用例2〜4には開示されていない旨主張する。しかしながら,引用例2〜4に示される微小領域を含有する異方性散乱素子(偏光素子,異方性散乱体)は,引用例2(甲4)の段落【0012】,引用例3(甲5)の段落【0022】,引用例4(甲6)の段落【0010】の記載等からみて,自然光の中の一方の偏光成分を透過させるとともに,他方(一方と直交する)の偏光成分を散乱させる機能を有する素子であるという意味において,本願発明の偏光散乱板と同様の機能を有するものと考えることができる。したがって,引用例1の異方性層16(および反射部材18)に換えて,引用例2〜4に示される異方性散乱素子(偏光素子,異方性散乱体)を設ければ,相違点Aに係る構成が得られることは明らかである。
(2) 原告は,引用例2〜4の引用例1への適用の容易想到性を肯定した審決の判断は誤りである旨主張するが,失当である。すなわち,@引用例2〜4に示される異方性散乱素子(偏光素子,異方性散乱体)は,入射光の中から直線偏光を分離する機能を有するものである。引用例1は,入射光の中から直線偏光を分離し,これを選択的に出射することを目指したものであるから,入射光の中から直線偏光を分離する機能を有するものがあれば,それの適用を試みることは,当業者が容易に想到することであり,また,その際,利用形態を,引用例1の構成に合わせて適宜工夫することも当然のことである。A引用例2〜4に示される異方性散乱素子(偏光素子,異方性散乱体)は,入射光の中から直線偏光を分離する機能を有するものであるから,たとえ引用例1に「散乱」させるという概念がなくても,引用例2〜4を適用すべき動機付けは十分である。B本願発明の効果は,引用例2〜4を引用例1に適用して得られる構成において当然に生ずる効果にすぎない。
4 取消事由4(相違点Bの判断の誤り)について 原告は,引用例2〜4には,「直線偏光」を透過させるとする記載しかなく,相違点Bに係る「散乱異方性にて散乱された直線偏光」を取り出すという技術的思想が全くないとして,周知技術の適用容易性ないし引用例1〜4に基づく容易想到性を争うが,この主張が失当であることは,相違点Aに係る上記3の反論と同様である。
当裁判所の判断
1 取消事由1(直線偏光の出射箇所に係る一致点の認定の誤り)について (1) 本願発明の「偏光導光板」は,本件明細書(甲7)の特許請求の範囲の【請求項1】において,「側面より入射させた自然光の内,前記の散乱異方性にて散乱された直線偏光を表裏面から選択的に出射することを特徴とする」と規定されているところ,審決は,引用例1(甲3)には,「ライトパイプ12の片面に,第1の偏光状態のほぼ全てを,該第1の偏光状態に直交する第2の偏光状態から分離する異方性層16を積層してなり,側面より入射させた自然光の内,前記の異方性層16からの直線偏光を表面から選択的に出射することを特徴とするもの」(審決謄本2頁第1段落)が記載されているとした上,本願発明と引用例発明1とは「直線偏光を表裏面から選択的に出射する」ことを特徴とする偏光導光板で一致すると認定した。この点について,原告は,「表裏面」とは,偏光導光板の「表裏面」,すなわち,偏光導光板の「両面」を意味することを前提として,一致点の認定の誤りを主張するのに対して,被告は,偏光導光板の「表面又は裏面のいずれか一方」を意味し,審決の一致点の認定に誤りはない旨反論する。
(2) そこで,引用例1が,「直線偏光を表裏面から選択的に出射する」構成を開示すものであるか否かについて検討すると,審決の認定によっても,引用例1には,上記のとおり,「直線偏光を表面から選択的に出射する」構成が記載されているとするものであって,「表裏面」からの出射が記載されているとしているわけではない。さらに,引用例1(甲3)には,「本願発明(注,引用例発明1)・・・の目的とするところは,効率良く直線偏光を出力する小型の照明装置を提供することにある」(段落【0011】),「使用時においては,光源10からの非偏光の光が,ライトパイプ12と異方性層16との界面に入射する。図1に点で示す紙面に垂直な偏光を有する非偏光の成分のほぼ全ては,ライトパイプ12と異方性層16との界面を通過し,反射部材18で反射する。好ましくは,反射部材18は,入射光の偏光は保存し,反射光の角度は変化させる。この構成によれば,ライトパイプ12を通って戻ってきた光は,第1のリターダ20,第2のリターダ22,偏光弱保存拡散部材24およびLCD26を透過する」(段落【0038】),「ライトパイプ12の屈折率は異方性層16の異常光屈折率に等しいため,ライトパイプ12と異方性層16との境界では,図1に点で示す成分の光はほとんど反射しない。したがって,この成分の光のほとんどは,反射部材18で反射し,LCD26に向かって透過する」(段落【0039】),「ライトパイプ12の屈折率が異方性層16の常光屈折率よりも小さいために,図1に両方向矢印で示す第2の直交成分の光は,ライトパイプ12と異方性層16との境界で内面全反射する。したがって,この成分の光は反射部材18に入射せず,LCD26に向かって反射しない」(段落【0040】),「ライトパイプ12は若干の異方性を有することが多く,これにより,光はライトパイプ12に沿って反射するにつれて,偏光の変換が起こる。したがって,結果的に,第2の成分の光のほぼ全てが,第1の偏光成分の光に変換され,反射部材18で反射してライトパイプ12を出る」(段落【0045】)との記載がある。
これらの記載によれば,引用例1には,光源10からの非偏光の光のうち,図1に点で示す紙面に垂直な偏光を有する第1の偏光成分のほぼすべては,ライトパイプ12の屈折率が異方性層16の異常光屈折率に等しいため,ライトパイプ12と異方性層16との境界でほとんど反射せずにこの界面を通過し,反射部材18で反射してライトパイプ12から出射し,また,上記非偏光の光のうち,図1に両方向矢印で示す第2の直交成分の光は,ライトパイプ12の屈折率が異方性層16の常光屈折率よりも小さいために,ライトパイプ12と異方性層16との境界で内面全反射し,この後,ライトパイプ12に沿って反射するにつれて,偏光の変換が起こり,結果的に,第2の成分の光のほぼすべてが,第1の偏光成分の光に変換され,反射部材18で反射されてライトパイプ12から出射する照明装置が開示されていることが認められる。
そうすると,引用例発明1は,ライトパイプ12の屈折率と異方性層16の異常光屈折率と常光屈折率の相対的大小関係を規定することにより,光源10の非偏光の光から所定の直線偏光成分を分離し,この分離した直線偏光を反射部材18により反射して,ライトパイプ12の「表面」から選択的に出射するものであって,上記分離した所定の直線偏光をライトパイプ12の「両面」から出射するものではない。そして,他に,引用例1には,引用例発明1が「直線偏光を表裏面から選択的に出射する」ものであることを裏付ける文言は見当たらないから,本願発明と引用例発明1が「直線偏光を表裏面から選択的に出射する」ことを特徴とする偏光導光板で一致するとした審決の認定は,誤りであるといわざるを得ない。
(3) 被告は,「表裏面」とは,その文言から見て,偏光導光板の「表面又は裏面のいずれか一方」の意味に解すべきである旨主張するが,通常,「表裏面」という文言は,表面と裏面という意味を表すにとどまり,この「表裏面」という文言だけから,被告主張のように,「表面又は裏面のいずれか一方」との意味を表すと解すべき根拠はない。また,「直線偏光を表裏面から選択的に出射する」との記載について見ても,「選択」とは,通常,「えらぶこと」を意味すると解されるが,「前記の散乱異方性にて散乱された」に続く「直線偏光を表裏面から選択的に出射する」という記載を,偏光散乱板の散乱異方性により散乱された直線偏光を選んで出射すると解することはできても,更に進んで,直線偏光の出射面を表裏面から選び,偏光導光板の「表面又は裏面のいずれか一方」から出射すると解することまではできない。このことは,本件明細書(甲2)の発明の詳細な説明の【発明の効果】の欄に,「・・・側面よりの入射光は空気界面との屈折率差により全反射されて導光板内を伝送されつつ偏光散乱板に入射しその入射光の内,微小領域との最大屈折率差(Δn1)を示す軸方向(Δn1方向)に平行な振動面を有する直線偏光が選択的に強く散乱されてその一部が全反射角よりも小さい角度となり導光板より出射する」(段落【0007】)と記載され,直線偏光が選択的に強く散乱されて出射することが開示されていることからも明らかである。
(4) 被告は,また,原告も,本件審判事件の審判請求書(乙1)の【本願発明が特許されるべき理由】3-3の項において,「表裏面」とは,その文言から見て,偏光導光板の「表面又は裏面のいずれか一方」の意味であることを自認している旨張する。
しかしながら,被告が引用する審判請求書(乙1)の上記【本願発明が特許されるべき理由】3-3の記載は,「すなわち本件発明(注,本願発明)による偏光導光板は,段落【0006】〜【0008】で説明した通り,透光性樹脂板の側面より入射させた自然光を,その樹脂板を介し伝送しつつ,その伝送光を光透過軸と光散乱軸を有する偏光散乱板に入射させて,その散乱軸方向の振動面を有する光成分のみを散乱させ,その散乱で当該伝送光を透光性樹脂板の表裏面方向,すなわち厚さ方向に光路変換すると共に,散乱軸方向の直線偏光を選択的に形成して,それを偏光導光板の表裏面の少なくとも一方より出射させるものであります」というものである。この記載からすれば,被告が指摘する箇所は,本件明細書(甲2)の発明の詳細な説明の【発明の効果】を説明した段落【0006】〜【0008】に基づいた記載であることが明らかであるから,この段落の記載事項について見ると,段落【0006】には,「【発明の効果】本発明(注,本願発明)によれば,上記の構成により・・・側面より自然光を入射させて表裏面より直線偏光を効率よく出射させることができ,・・・またかかる偏光導光板の表裏面の一方に鏡面反射層を配置して偏光導光板の他方の一面より出射させることで一面よりの出射効率がより向上し,拡散性にも優れる直線偏光が得られてその上に偏光軸を平行にして液晶表示素子を配置することで通常よりも2倍近い輝度を達成することも可能である」との記載があり,段落【0007】及び【0008】において,更にこれが具体的に記載されている。これらの記載に照らすと,上記段落【0006】〜【0008】では,請求項1に係り,「側面より入射させた自然光の内,前記の散乱異方性にて散乱された直線偏光を表裏面から選択的に出射する」本願発明の効果が説明された後,請求項1を「表裏面の一方に鏡面反射層を有する」構成に限定した請求項5に係る発明の効果が説明されていると解すべきである。
以上によれば,段落【0006】〜【0008】の説明に基づいた記載であると認められる審判請求書の上記【本願発明が特許されるべき理由】3-3の記載も,当然に,請求項1に係り,「直線偏光を表裏面から選択的に出射する」本願発明の効果だけではなく,「表裏面の一方に鏡面反射層を有する」請求項5に係る発明の効果も含んだ総括的なものと解するのが相当である。そうすると,審判請求書の上記【本願発明が特許されるべき理由】3-3に,「本件発明による偏光導光板は・・・表裏面の少なくとも一方より出射させるものであります」との記載があるからといって,この記載だけをとらえて,「直線偏光を表裏面から選択的に出射する」本願発明の構成について,偏光導光板の「表面又は裏面のいずれか一方」の意味に解すべき理由はない。このことは,上記段落には請求項5に係る発明の効果のみが記載されているわけではないこと,審判請求書の上記箇所においても請求項5に係る発明についての主張である旨の記載はないこと,審判請求書の上記箇所の直前には「少なくとも一方より出射」の主語として「本件発明による偏光導光板は」と記載されており,「本件発明による偏光面光源は」とは記載されていないことなど,被告が指摘する点を考慮しても,左右されるものではない。
(5) 被告は,さらに,本願発明と引用例発明1が「直線偏光を表裏面から選択的に出射する」点で一致しないとしても,光の出射が片面からであるか,両面からであるかという相違は,光学素子板が,引用例1記載の異方性層16か,本願発明の偏光散乱板かという構成上の相違に起因する現象面の相違にすぎないから,当該構成上の相違についての検討がされていれば足り,審決が,この点について,相違点Aにおいて別途取り上げて検討している以上,一致点の認定に係る誤りは,審決の結論に影響しないと主張する。
しかしながら,特許出願の願書に添付した明細書の特許請求の範囲の請求項に記載した事項は,特許出願人が出願に係る発明を特定するために必要と認める事項であるから,先行技術に係る引用例との対比における当該発明の容易想到性の判断において,被告主張のように,単に構成上の相違に起因する現象面の相違にすぎないとして,これについての一致点及び相違点の認定判断を省略することが許されると解すべき根拠は見いだし難い。また,被告が主張する審決中の相違点Aの検討に関する記載を見ても,複屈折性の微小領域を分散含有して偏光方向により散乱異方性を示す従来周知の偏光散乱板を,引用例1の異方性層16に換えて用いることは容易である旨の記載しか見当たらず,一致しない点に係る構成の容易想到性を判断しているものではない。審決の認定した相違点Aが,「光学素子板が,本願発明は,複屈折性の微小領域を分散含有して偏光方向により散乱異方性を示す偏光散乱板であるのに対して,引用例1記載のものは,第1の偏光状態のほぼ全てを,該第1の偏光状態に直交する第2の偏光状態から分離する異方性層16からなる点」(審決謄本3頁最終段落〜4頁第1段落)であることに照らすと,審決は,相違点Aの認定に際し,引用例1記載の発明が異方性層16のみにより,所定の直線偏光を分離できることを前提にしていると解されるが,引用例1記載の異方性層16は,上記のとおり,その異常光屈折率及び常光屈折率とライトパイプ12の屈折率の相対的大小関係を規定することにより初めて,光源10の非偏光の光から所定の直線偏光成分を分離することができるものであって,異方性層16のみで,所定の直線偏光成分を分離することができるものではない。したがって,被告の上記主張は採用することができない。
(6) 以上のとおり,本願発明と引用例発明1との直線偏光の出射箇所に係る一致点の認定の誤りは,審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであり,原告の取消事由1の主張は理由がある。
2 よって,その余の点について判断するまでもなく,審決は取消しを免れず,原告の請求は理由があるから認容することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 岡本岳
裁判官 早田尚貴