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関連審決 不服2001-13349
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  発明特定事項 /  相違点の認定 /  周知技術 /  技術常識 /  容易に想到(容易想到性) /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 14年 (行ケ) 462号 審決取消請求事件
原告 株式会社ヘリオス
被告 特許庁長官今井康夫
同指定代理人 中村和夫
同 鈴木寛治
同 大野克人
同 涌井幸一
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/08/27
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 (1) 特許庁が不服2001-13349号事件について平成14年8月6日にした審決を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
前提となる事実
1 特許庁における手続の経緯 (1) Aは,平成9年9月19日,発明の名称を「遊技機」とする発明につき特許出願(特願平9-308065号)をし,また,平成12年3月31日,上記特許出願の一部を分割して,同一部につき新たな特許出願(特願2000-96015号。この出願を「本件出願」といい,同出願に係る発明を「本願発明」という。)をした。同人は,平成12年10月2日付け手続補正書により本願発明の明細書の全文を変更した。平成12年10月4日ころ,Aは,本件出願の出願人の地位を原告に譲渡し,その旨を特許庁に届け出た。原告は,平成13年3月6日付け手続補正書により本願発明の明細書の特許請求の範囲等を変更した。特許庁は,本件出願について,平成13年7月19日付けで特許を拒絶すべき旨の査定をした(甲6,11,乙1,2,弁論の全趣旨)。
(2) 原告は,上記拒絶査定を不服として,平成13年7月30日,審判請求(以下「本件審判請求」という。)をし,同日付け及び平成14年5月20日付けの各手続補正書により本願発明の明細書の特許請求の範囲等を変更した。特許庁は,本件審判請求を不服2001-13349号事件として審理した上,平成14年8月6日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は同月16日に原告に送達された(甲11,乙3,4,弁論の全趣旨)。
2 本願発明の要旨(特許請求の範囲)は,次のとおりである(以下,次に記載する請求項1ないし3に係る発明を「本願発明1ないし3」という。)。
【請求項1】 数字や絵などの図柄が変動する変動表示ゲームが開始され,前記図柄が所定の数だけ揃って停止する事によりリーチ状態になる一方,前記図柄が所定の数だけ揃わずに一旦非リーチ状態で停止した後,同一の変動表示ゲームで,停止した前記図柄の少なくとも1つ以上を変動させる再変動状態を経て,再変動後のリーチ状態に移行する遊技機において, 前記変動表示ゲームで前記図柄に加えて各種映像を同時に写し出す表示部と,前記変動表示ゲームにおける前記図柄の表示および前記各種映像の写し出しを制御する中央制御部とを具備し,前記中央制御部は,前記非リーチ状態となってから前記再変動後のリーチ状態に移行する再変動状態において,リーチ移行に際して登場する特別なキャラクターを各種映像として前記表示部に表示することにより前記変動後のリーチ状態に移行させる一方,前記非リーチ状態で一旦停止する以前には前記特別なキャラクターを表示しないこと,を特徴とする遊技機。
【請求項2】 数字や絵などの図柄が変動する変動表示ゲームが開始され,前記図柄が所定の数だけ揃って停止する事により大当り状態になる一方,前記図柄が所定の数だけ揃わずに一旦ハズレ状態で停止した後,同一の変動表示ゲームで,停止した前記図柄の少なくとも1つ以上を変動させる再変動状態を経て,再変動後の大当り状態に移行する遊技機において, 前記変動表示ゲームで前記図柄に加えて各種映像を同時に写し出す表示部と,前記変動表示ゲームにおける前記図柄の表示および前記各種映像の写し出しを制御する中央制御部とを具備し,前記中央制御部は,前記ハズレ状態となってから前記再変動後の大当り状態に移行する再変動状態において,大当り移行に際して登場する特別なキャラクターを各種映像として前記表示部に表示することにより前記再変動後の大当り状態に移行させる一方,前記ハズレ状態で一旦停止する以前には前記特別なキャラクターを表示しないこと,を特徴とする遊技機。
【請求項3】 数字や絵などの図柄が変動する変動表示ゲームが開始され,前記図柄が所定の数だけ揃って停止する事によりリーチ状態になる一方,前記図柄が所定の数だけ揃わずに一旦非リーチ状態で停止した後,同一の変動表示ゲームで,停止した前記図柄の少なくとも1つ以上を変動させる再変動状態を経て,再変動後のリーチ状態に移行し,及び,前記図柄が所定の数だけ揃って停止する事により大当り状態になる一方,前記図柄が所定の数だけ揃わずに一旦ハズレ状態で停止した後,同一の変動表示ゲームで,停止した前記図柄の少なくとも1つ以上を変動させる再変動状態を経て,再変動後の大当り状態に移行する遊技機において, 前記変動表示ゲームで前記図柄に加えて各種映像を同時に写し出す表示部と,前記変動表示ゲームにおける前記図柄の表示および前記各種映像の写し出しを制御する中央制御部とを具備し,前記中央制御部は,前記非リーチ状態となってから前記再変動後のリーチ状態に移行する再変動状態において,リーチ移行に際して登場する特別なキャラクターを各種映像として前記表示部に表示することにより前記再変動後のリーチ状態に移行させる一方,前記非リーチ状態で一旦停止する以前には前記特別なキャラクターを表示しないこと,又は,前記ハズレ状態となってから前記再変動後の大当り状態に移行する再変動状態において,大当り移行に際して登場する特別なキャラクターを各種映像として前記表示部に表示することにより前記再変動後の大当り状態に移行させる一方,前記ハズレ状態で一旦停止する以前には前記特別なキャラクターを表示しないこと,を特徴とする遊技機。
3 本件審決の理由の要旨(甲11) (1) 本願発明1と特開平9-122313号公報(以下「刊行物1」という。)記載の発明(以下「刊行物1発明」という。)とは,以下の点で相違し,その余の点で一致する。
ア 第1の相違点(以下「相違点@」という。) 本願発明1では,表示部に表示される表示事項として,変動する図柄に加えて各種映像を同時に写し出しているのに対し,刊行物1発明では,変動する図柄は記載されているが各種映像を同時に写し出すことは記載されていない点。
イ 第2の相違点(以下「相違点A」という。) 本願発明1では,再変動状態において,リーチ移行に際して特別なキャラクターを各種映像として表示部に表示するのに対し,刊行物1発明では,刊行物1の段落【0011】に記載されるように,再変動によるリーチ状態を表示させる点は記載されているが,当該表示がリーチ状態に移行させる際であるか否かについては明記されていない点,及び,当該表示が,特別なキャラクターであるか否かについても明記されていない点。
(2) 相違点についての検討 ア 相違点@について 可変表示ゲームの表示事項として,変動する図柄に加えてキャラクター等の各種映像を同時に写し出すことは,特開平7-155438号公報(以下「刊行物2」という。)に記載されているので,当該表示態様を採用することは当業者が容易になし得ることであり,当該採用による効果も予測の範囲内のものである。
したがって,相違点@は格別のものではない。
イ 相違点Aについて 可変表示ゲームにおいて,リーチ状態に移行させる,すなわち,リーチ状態に先立ってキャラクターを可変表示装置(特別図柄表示装置)に表示させることは,例えば特開平9-75521号公報,特開平9-56896号公報,特開平8-206313号公報(以下,これらの刊行物を「本件周知例」という。)に示されているように周知の表示手段であるから,刊行物1において,再変動によるリーチ表示として,本件周知例記載の表示手段を採用することは当業者ならば容易になし得ることであり,上記採用による効果も予測の範囲内のものである。
したがって,相違点Aも格別のものではない。 ウ 原告(審判請求人)は,刊行物1発明に本件周知例に記載の周知事項を組み合わせることは可能であるが,両者には「予告キャラクター表示の区間限定または区間選択」という技術思想の開示や示唆が一切ないので,本願発明1のように構成することは当業者と雖も不可能である旨主張する。
しかしながら,(ア)リーチ状態に先立ってキャラクターを可変表示装置に 表示する技術思想を刊行物1発明に適用するならば,変動ゲーム開始から非リーチ状態で一旦停止するまで,すなわち,開始〜一旦停止までの区間では,非リーチ状態であるからリーチ状態に先立つキャラクター表示が行われないことは明らかである。また,(イ)前記開始〜一旦停止までの区間において,所定の数のドラムが一旦停止して,リーチ状態になる場合については,本願発明1では,リーチ状態に先立ってキャラクターを可変表示装置に表示させるか否かについては明記されておらず,しかも,リーチ状態に先立ってキャラクター表示を行うこと,又は,行わないことも,それぞれ刊行物1,又は刊行物2,本件周知例に記載されているように既に行われていることを勘案すれば,リーチ状態に先立ってキャラクター表示を行うか否か,如何なる区間で行うかは当業者が容易になし得る程度の事項であると認められるので,請求人の上記主張は理由がない。
(3) 以上のように,上記各相違点は格別のものとは認められないものであるから,本願発明1は,刊行物1発明,刊行物2記載の発明及び本件周知例に記載の周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたもので,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。よって,さらに,本願発明2,3を検討する必要は認められない。
当事者の主張
(原告の主張) 1 取消事由1(本願発明1と刊行物1発明との相違点に関する認定の誤りと進歩性に関する判断の誤り) 本件審決は,本願発明1と刊行物1発明とを対比して,「本願発明1では,再変動状態において,リーチ移行に際して特別なキャラクターを各種映像として表示部に表示するのに対し,刊行物1発明では,刊行物1の段落【0011】に記載されるように,再変動によるリーチ状態を表示させる点は記載されているが,当該表示がリーチ状態に移行させる際であるか否かについては明記されていない点,及び,当該表示が,特別なキャラクターであるか否かについても明記されていない点。」を1つの相違点(相違点A)と認定した。
しかしながら,刊行物1の段落【0011】にある「請求項3に記載の本発明によれば請求項1に記載の発明の作用に加えて,前記可変表示制御手段の働きにより,前記再可変表示制御が行われた結果,前記可変表示部にリーチ状態を表示させるリーチ表示制御がなされる。」との記載,同段落【0048】にある「まず,図7および図10を参照して,リーチが成立した場合の可変表示動作の一例を説明する。」との記載からすれば,当該リーチ表示制御は,リーチ状態を形成した後の制御であって,リーチ状態において図柄の変動パターンを切り換えてリーチの成立を強調するものであり,少なくとも本願発明1におけるリーチ予告の表示制御と無関係であることは明白である。
本件審決は,相違点Aに関して相違点の認定を誤り,ひいては本願発明1の進歩性に関する判断を誤ったものである。
2 取消事由2(本願発明1と刊行物1発明との相違点の看過と進歩性に関する判断の誤り) 本願発明1は,「・・・前記中央制御部は,前記非リーチ状態となってから前記再変動後のリーチ状態に移行する再変動状態において,リーチ移行に際して登場する特別なキャラクターを各種映像として前記表示部に表示することにより前記再変動後のリーチ状態に移行させる一方,前記非リーチ状態で一旦停止する以前には前記特別なキャラクターを表示しないこと,を特徴とする遊技機。」であって,特別なキャラクターの表示区間を再変動状態に限定した点に特徴があり,このように,再変動区間(再変動状態)に限定して「特別なキャラクター」を登場させることにより,再変動遊技機の効果に加えて,予告キャラクターの持つ効果を相乗的に発揮させてピーク的効果を奏することができるものであり,この効果は,本願発明1に特有のものである。刊行物1発明は当然のことながらこのような構成及び効果を有しないものである。
本件審決は,本願発明1と刊行物1発明との対比において,上記相違点を看過し,その結果,本願発明1の進歩性に関し前記第2の3(2)のとおり判断し,その判断を誤ったものである。
3 取消事由3(刊行物1発明と本件周知例に記載の周知事項から本願発明1を想到することの容易性に関する認定判断の誤り) 上記2記載の相違点及び格別の作用効果の存在からみて,刊行物1発明と本件周知例に記載の周知事項を組み合わせて本願発明1を想到することは困難であるにもかかわらず,それが容易であるとした本件審決の判断は,次のとおり合理的理由のないものであり,誤りである。
(1)ア 本件審決は,「リーチ状態に先立ってキャラクターを可変表示装置に表示する技術思想を刊行物1発明に適用するならば,変動ゲーム開始から非リーチ状態で一旦停止するまで,すなわち,開始〜一旦停止までの区間では,非リーチ状態であるからリーチ状態に先立つキャラクター表示が行われないことは明らかである。」旨判断するが,この判断は誤りである。
すなわち,本件審決の上記論理に従って,「非リーチ状態でリーチ状態に先立つキャラクター表示が行われない」と仮定すると,再変動状態もまた非リーチ状態なのであるから,当該再変動状態においてもリーチ状態に先立つキャラクター表示を行うことができないということになり,そうすると,結果的に,再変動遊技機が再変動する場合,開始〜リーチ状態までの全ての区間において,本件周知例に記載の周知の予告キャラクター技術を組み合わせることはできないことになる。
しかるに,本件審決は,刊行物1発明に上記周知技術を組み合わせて,本願発明1を想到することは容易である旨の判断をしたものであり,この判断が誤りであることは明らかである。
イ 本願発明の先願である特願平8-103476号(特開平9-262349号)に係る発明(以下「原告引用先願発明」という。)の明細書には,本件審決が明確に否定した「開始〜一旦停止までの区間で,リーチ状態に先立つキャラクター表示を行う再変動遊技機」が開示されている。この事実すら否定する本件審決の認定には一切理由がない。
(2) 本件審決は,その理由中において,一方で,本願発明1が,「…前記非リーチ状態で一旦停止する以前には前記特別なキャラクターを表示しないこと,を特徴とする遊技機。」であることを認めながら,他方で,本願発明の請求項1につき,「前記開始〜一旦停止までの区間において,所定の数のドラムが一旦停止して,リーチ状態になる場合については,本願発明1では,リーチ状態に先立ってキャラクターを可変表示装置に表示させるか否かについては明記されておらず,…」と判断している。この判断が自己矛盾であり,誤りであることは明らかである。
(3) 本件審決は,「…しかも,リーチ状態に先立ってキャラクター表示を行うこと,又は,行わないことも,それぞれ刊行物1,又は刊行物2,本件周知例に記載されているように既に行われていることを勘案すれば,リーチ状態に先立ってキャラクター表示を行うか否か,如何なる区間で行うかは当業者が容易になし得る程度の事項であると認められる」と認定している。しかし,刊行物1,2,本件周知例には,再変動後のリーチ状態に先立って,一旦停止した非リーチ状態の前後でキャラクター表示を如何に工夫すれば最も効果を奏するかの点について何ら言及されていない。本件審決の上記判断は,単なる主観に基づくものであり,根拠を欠く。
(被告の主張) 1 取消事由1について 刊行物1には,「当該表示がリーチ状態に移行させる際であるか否かについては」記載されていない。刊行物1発明では,再変動によるリーチ状態を表示させる点は記載されているが,当該表示がリーチ状態に移行させる際であるか否かについては明記されていないとした本件審決の認定に誤りはない。
したがって,上記認定を前提として,本願発明1と刊行物1発明とが相違点Aにおいて相違するとした上,相違点Aに係る構成が当業者において容易に想到できるものであるとした本件審決の判断にも誤りはない。
2 取消事由2について 原告は,本件審決は,刊行物1発明と本願発明1とは,「前記非リーチ状態で一旦停止する以前には前記特別なキャラクターを表示しない」との発明特定事項が相違するものであるところ,本件審決は,当該相違点を看過したものである旨主張する。
しかしながら,「前記非リーチ状態で一旦停止する以前」とは,本願発明の請求項1の「数字や絵などの図柄が変動する変動表示ゲームが開始され・・・前記図柄が所定の数だけ揃わずに一旦非リーチ状態で停止した後,同一の変動表示ゲームで,停止した前記図柄の少なくとも1つ以上を変動させる再変動状態を経て」との記載にある「一旦非リ一チ状態で停止」する以前を意味することは明らかであり,しかも,上記の「一旦非リーチ状態で停止」するとは,3個の図柄の内停止した2つの図柄が揃わない状態である。
そうすると,上記の「前記非リーチ状態で一旦停止する以前」とは,図柄が変動する変動表示ゲームが開始され,後に再変動状態になることを前提として,3つの図柄の内2つの図柄が相違して停止することが決定されている場合において,当該停止をする前ということができる。
また,上記の「前記特別なキャラクター」とは,「前記再変動後のリーチ状態に移行する再変動状態において,リーチ移行に際して登場する」キャラクターであるから,前記特別キャラクターは,リーチ移行に際して登場するものであり,かつ,そのリーチは再変動後のリーチであるということができる。
しかして,上記の「前記非リーチ状態で一旦停止する以前」とは,上記のように,一旦停止してもリーチにならないものであり,また,当該一旦停止は再変動する前であるから,リーチになること及び再変動後のリーチを前提条件とする「前記特別なキャラクター」が「前記非リーチ状態で一旦停止する以前」において表示されないことは,誰でも分かる当然の理である。
以上のように,本願発明の請求項1の「前記非リーチ状態で一旦停止する以前には前記特別なキャラクターを表示しない」との記載は,上記請求項1に記載された他の発明特定事項,「再変動後のリーチ状態に移行する再変動状態において,リーチ移行に際して登場する特別なキャラクター」等から当然に導き出される事項であるから,上記の他の発明特定事項の作用を確認的にさらに付加した記載であることは当業者にとっては明々白々なことである。
そして,本件審決は,上記の「前記非リーチ状態で一旦停止する以前には前記特別なキャラクターを表示しない」が確認的に付加されている,他の発明特定事項に関しては,相違点Aとして認定した上,相違点Aに係る構成の容易想到性について検討判断しているものであるから,本件審決に原告主張の相違点の看過はなく,原告の主張は失当である。
仮に,本件審決に原告主張の相違点を看過した瑕疵があったとしても,本件審決は,前記第2の3(2)ウに記載のとおり,当該相違点に係る構成の容易想到性について実質的に検討しており,しかも,その判断に誤りはないから,当該瑕疵は本件審決の結論に影響を与えるものではない。
3 取消事由3について (1) 原告は,本件審決の第2の3(2)ウ(ア)記載の論理に従って,「非リーチ状態 でリーチ状態に先立つキャラクター表示が行われない」と仮定すると,再変動状態もまた非リーチ状態なのであるから,当該再変動状態においてもリーチ状態に先立つキャラクター表示を行うことができないということになり,そうすると,結果的に,再変動遊技機が再変動する場合,開始〜リーチ状態までの全ての区間において,本件周知例に記載の周知の予告キャラクター技術を組み合わせることはできないことになる旨主張する。
しかしながら,そもそも,図柄が変動している最中を「非リーチ状態」と称しないことは技術常識である。何故ならば,図柄が変動している以上,図柄の組み合わせが確定できないことは理の当然であり,確定できない以上,リーチ状態であるか否か判明しないものであるから,その逆の非リーチ状態が判明しないことも当然の理である。このことは,本願発明に係る明細書でも,例えば,段落【0007】に「図柄が所定の数だけ揃って停止する事により,リーチ状態になる一方,」と,リーチ状態になるときは図柄が停止する旨の記載が存することからも明らかな事項である。原告の上記主張は,図柄の変動状態を技術常識に反して「非リーチ状態」とする誤った認識に基づくものであって,理由がない。
また,原告が仮定した前提は,本件審決において,「リーチ状態に先立ってキャラクターを可変表示装置に表示する技術思想を刊行物1発明に適用するならば,変動ゲーム開始から非リーチ状態で一旦停止するまで,すなわち,」との記載の言い換え部分,すなわち,「開始〜一旦停止までの区間では,非リーチ状態であるからリーチ状態に先立つキャラクター表示が行われないことは明らかである」の一部を抜き出したものである。
しかしながら,本件審決は,言い換え部分に関する「非リーチ状態」に関して,その対応箇所には「非リーチ状態で一旦停止するまで」と記載しているところ,当該記載は,ゲーム開始当初から非リーチ状態で一旦停止することが確定していることを表すものである。したがって,本件審決の言い換え部分が,ゲーム開始から非リーチ状態で一旦停止することが確定している場合において,上記一旦停止までの間にはリーチ状態にはならず,リーチ状態に先立つキャラクター表示が行われないことは明らかであるとの趣旨を説示したものであることは,前記技術常識を踏まえて本件審決を熟読すれば明らかなことである。
以上のように,原告の主張は,本件審決を正解しないものであり,失当である。
(2) 本願発明の請求項1には,原告引用先願発明の明細書に示された,再変動を行う際に再変動を行う前兆予測表示が行われること,当該前兆予測表示が行われた場合は,必ず,大当りかリーチになることは記載されていないばかりではなく,逆に本願発明の請求項1に記載されている「一旦非リーチ状態で停止」は,原告引用先願発明に係る上記明細書には記載されていない。
上記のとおり,原告引用先願発明と本願発明1とは別異のものであり,別異のものの明細書の記載を基に本願発明1を規定することができないことは明らかである。
(3) 原告のその余の主張もいずれも理由がないというべきであり,そのことは前記(1)及び(2)に記載したところから明らかである。
当裁判所の判断
1 取消事由1(本願発明1と刊行物1発明との相違点に関する認定の誤りと進歩性に関する判断の誤り)について 本件審決が,本願発明1と刊行物1発明とを対比し,本願発明1では,再変動状態において,リーチ移行に際して特別なキャラクターを各種映像として表示部に表示するのに対し,刊行物1発明では,刊行物1の段落【0011】に記載されるように,再変動によるリーチ状態を表示させる点は記載されているが,当該表示がリーチ状態に移行させる際であるか否かについては明記されていない点,及び,当該表示が特別なキャラクターであるか否かについても明記されていない点を相違点と認定したことは,前記第2の3(1)イに記載のとおりである。
原告の主張は,要するに,刊行物1発明におけるリーチ表示制御は,リーチ状態を形成した後の制御であって,リーチ状態において図柄の変動パターンを切り換えてリーチの成立を強調するものであり,本願発明1の少なくともリーチ予告の表示制御(リーチ状態が形成される前に,これに移行することを予告すべく表示を行うもの)とは無関係であるとした上,本件審決は,相違点Aに関する認定を誤り,ひいては本願発明1の進歩性に関する判断を誤ったというものである。
そこで,検討するに,刊行物1(甲1)の記載からすれば,刊行物1発明は,再変動によるリーチ状態を表示する表示制御が可能なものではあるが,当該リーチ状態への移行に際して一定のキャラクターを表示させるという本願発明1の特徴を備えていないと認めるのが相当であり,したがって,端的に,上記の点を本願発明1と刊行物1発明との相違点として把握するのが適切であったと考えられる。
しかしながら,本件審決は,刊行物1発明が,本願発明1の上記特徴を備えているかどうか明らかでないとしているにすぎず,本願発明1の上記特徴を備えていない場合があることを相違点として把握しているものであり,そのこと自体誤りということはできない。また,仮に,刊行物1発明が,リーチ状態への移行に際して一定のキャラクターを表示させるという本願発明の特徴を備えていないことを相違点として把握すべきであるとしても,後記2の(2)と同様の理由により,その相違点に係る構成は当業者において容易に想到できるものというべきであるから,上記相違点の把握の違いは,本件審決の結論に影響を及ぼすものではない。
2 取消事由2(本願発明1と刊行物1発明との相違点の看過と進歩性に関する判断の誤り)について (1) 原告は,本願発明1は,「前記非リーチ状態で一旦停止する以前には前記特別なキャラクターを表示しない」と特定し,特別なキャラクターの表示区間を再変動状態に限定した点に特徴があり,刊行物1発明はそのような特徴を備えていない点で両者は相違しているところ,本件審決はこの相違点を看過したものである旨主張する。
そこで,検討するに,本願発明の請求項1には,「数字や絵などの図柄が変動する変動表示ゲームが開始され・・・前記図柄が所定の数だけ揃わずに一旦非リーチ状態で停止した後,同一の変動表示ゲームで,停止した前記図柄の少なくとも1つ以上を変動させる再変動状態を経て,再変動後のリーチ状態に移行する遊技機において,」との前提事項の記載があり,上記請求項1に上記前提事項の後に「前記非リーチ状態で一旦停止する以前」と記載された部分は,上記前提事項にある「一旦非リ一チ状態で停止」する以前を意味すると解される。したがって,上記の「前記非リーチ状態で一旦停止する以前」とは,図柄が変動する変動表示ゲームが開始されて非リーチ状態で停止した後に再変動が存在する遊技機において,上記変動表示ゲームが開始され,再変動状態になる前に,所定の図柄が揃わずに非リーチ状態で停止することが決定されている場合に,その停止をする以前を意味するものということができる。
また,上記請求項1の記載によれば,「前記特別なキャラクター」とは,「前記再変動後のリーチ状態に移行する再変動状態において,リーチ移行に際して登場する」キャラクターであるから,特別なキャラクターが登場するのは,リーチ移行に際してであり,かつ,そのリーチは再変動後のリーチであるということになるから,再変動状態に入る前段階である「前記非リーチ状態で一旦停止する以前」において,再変動後にリーチに移行する場合に表示されるべき「前記特別なキャラクター」が表示されないことは,当然のことというべきである。
以上から明らかなとおり,本願発明の請求項1に記載された「前記非リーチ状態で一旦停止する以前には前記特別なキャラクターを表示しない」との特定事項は,上記請求項1に記載された「再変動後のリーチ状態に移行する再変動状態において,リーチ移行に際して登場する特別なキャラクターを各種映像として前記表示部に表示することにより前記変動後のリーチ状態に移行させる」との特定事項から当然に導き出される事項であり,その意味で,前者の特定事項は後者の特定事項で既に明らかな事項を確認的に記載したにとどまるものというべきである。
そうすると,後者の特定事項に関する相違点に係る構成が当業者において容易に想到することができるものであれば,前者の特定事項に関する相違点に係る構成も同様の結論になるべきものであり,本願発明1の進歩性の判断に当たって,後者の特定事項に関する相違点のほかに,前者の特定事項に関する相違点を取り上げて,これを別途に検討すべき必要性は認められない。
(2) しかして,特開平9-75521号公報(甲3),特開平9-56896号公報(甲4)及び特開平8-206313号公報(甲5)(本件周知例)に示されているように,可変表示ゲームにおいて,リーチ状態に移行させる際,すなわち,リーチ状態に先立ってキャラクターを可変表示装置(特別図柄表示装置)に表示させることは周知の表示手段であるから,刊行物1発明において,再変動後のリーチ状態に移行する際に,上記周知の表示手段を採用することは当業者ならば容易になし得ることであり,当該表示手段の採用による効果も当該表示手段を採用した構成から通常予測できる範囲内のものであるというべきである。相違点Aに係る構成及び効果に格別のものはないとした本件審決の判断に誤りがあるとはいえない。
3 取消事由3(刊行物1発明と本件周知例に記載の周知事項から本願発明1を想到することの容易性に関する認定判断の誤り)について (1) 原告は,刊行物1及び本件周知例には,「予告キャラクター表示の区間限定又はその区間の選択」という技術思想の開示や示唆は一切ないから,本願発明1のように,「前記非リーチ状態となってから前記再変動後のリーチ状態に移行する再変動状態において,リーチ移行に際して登場する特別なキャラクターを各種映像として前記表示部に表示することにより前記変動後のリーチ状態に移行させる一方,前記非リーチ状態で一旦停止する以前には前記特別なキャラクターを表示しないこと,を特徴とする」構成とすることは当業者といえども困難である旨主張する。
しかしながら,前記2に説示したとおり,「前記非リーチ状態で一旦停止する以前には前記特別なキャラクターを表示しない」との構成は,上記請求項1に記載された「再変動後のリーチ状態に移行する再変動状態において,リーチ移行に際して登場する特別なキャラクターを各種映像として前記表示部に表示することにより前記変動後のリーチ状態に移行させる」という構成から当然に導き出されるものであり,後者の構成が当業者において容易に想到できれば,前者の構成は,その結果として,当然に導かれるものである。 そして,前記2(2)に認定したとおり,リーチ状態に先立ってキャラクター表示を行うということは,周知の技術であるから,リーチ状態に先立ってキャラクター表示を行うか否か,行うとして変動ゲーム中のどの区間で行うかは,当業者が容易に選択し得る事項というべきであり,刊行物1に上記周知技術を適用して,本願発明1の上記構成を導くことに格別の阻害要因があると認めることはできない。
(2) なお,原告は,前記(1)記載の原告主張を排斥した本件審決の判断について種々論難するが,以下に説示するとおり,いずれも理由がない。
ア 原告は,本件審決の論理に従い,「非リーチ状態でリーチ状態に先立つキャラクター表示が行われない」と仮定すると,再変動状態もまた非リーチ状態なのであるから,当該再変動状態においてもリーチ状態に先立つキャラクター表示を行うことができないこととなり,本件審決は,開始〜一旦停止までの区間だけではなく,一旦停止〜リーチ状態においても,キャラクター表示は不能と認定していることになるが,そうすると,結果的に,再変動遊技機が再変動する場合,開始〜リーチ状態までの全ての区間において,本件周知例記載の周知の予告キャラクター技術を組み合わせることはできないことになる旨主張する。
しかしながら,本願発明1に係る遊技機は,変動表示ゲームが開始され,図柄が所定の数だけ揃わずに一旦非リーチ状態で停止した場合には,再変動が生じて,再変動後のリーチ状態に移行することのある遊技機であるところ,本件審決は,変動表示ゲームが非リーチ状態で一旦停止する場合をとらえ,その場合,ゲームの開始から非リーチ状態で一旦停止するまでの区間では,非リーチ状態になることが決定されているから,その間においてリーチ状態にならず,リーチ状態に先立つキャラクター表示が行われないことは明らかであるとしているにすぎない。
そして,原告の上記主張は,図柄が変動している最中を「非リーチ状態」であるとの認識の下に,本件審決の上記判断に従えば,一旦停止後,再変動状態を経てリーチ状態になるまでの間においてもリーチ状態に先立つキャラクター表示を行うことは不能ということになるとするものと解されるが,図柄が変動している以上,図柄の組み合わせが確定できないことは理の当然であり,このような場合を非リーチ状態といわないことは技術常識に属する事柄である。
原告の上記主張は,本件審決を正解せず,また,非リーチ状態に関する誤った認識に基づき,本件審決を論難するものであって,採用できない。
イ 原告は,原告引用先願発明(特願平8-103476号)には,本件 審決が明確に否定した「開始〜一旦停止までの区間で,リーチ状態に先立つキャラクター表示を行う再変動遊技機」が開示されているのであって,この事実すら否定する本件審決の認定には理由がない旨主張する。
特願平8-103476号(特開平9-262349号。甲9)の明細書には,再変動を行う遊技機に関して,再変動をした場合にはリーチか大当たりになること,再変動する場合には,キャラクターを登場させて再変動を行う前兆予測表示を行ってもよいことが開示されており,キャラクターを登場させて前兆予測表示を行う場合には,リーチか大当たりになることからすれば,上記明細書には,開始〜一旦停止までの区間でキャラクター表示を行う再変動遊技機が開示されているとみることができる。
しかしながら,本件審決は,リーチ状態に先立ってキャラクターを可変表示装置に表示する技術思想を刊行物1発明に適用した場合に,一般的に開始から一旦停止までの区間でリーチ状態に先立つキャラクター表示が行われないことは明らかであるとしたものでなく,本願発明1のように,変動表示ゲームが開始され,一旦非リーチ状態で停止した後,再変動を生じる設定の場合に限定して,この場合には,開始〜一旦停止までの区間では非リーチ状態であるから,リーチ状態に先立つキャラクター表示が行われないことは明らかである旨説示したにすぎず,原告引用先願発明の明細書に上記技術の開示があることを否定するものではない。このことは,本件審決の説示内容に照らして明らかというべきである。
原告の上記主張は,本件審決の上記判断を正解せず,本件審決を論難するものであって,採用できない。
ウ 原告は,本件審決が,@本願発明1は,「…前記非リーチ状態で一旦停止する以前には前記特別なキャラクターを表示しないこと,を特徴とする遊技機。」であることを認めながら,同じ理由中において,A請求項1につき,「前記開始〜一旦停止までの区間において,所定の数のドラムが一旦停止して,リーチ状態になる場合については,本願発明1では,リーチ状態に先立ってキャラクターを可変表示装置に表示させるか否かについては明記されておらず,…」と認定判断しているのは,自己矛盾であり,認定判断を誤ったものというべきである旨主張する。
しかしながら,本件審決の上記Aの判断は,変動表示ゲームが開始して,非リーチ状態で一旦停止する場合でなく,リーチ状態で停止する場合について述べたものと解するのが相当であり,したがって,その認定判断が上記@の判断と矛盾するということはできない。
エ (原告の取消事由)3(3)の主張は,前記(1)の判断に反する独自の見解に立つものであって,採用することができない。
4 以上の次第で,原告が取消事由として主張するところはいずれも理由がなく,その他,本件審決にこれを取り消すべき瑕疵は見出せない。
よって,原告の本件請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 北山元章
裁判官 青柳馨
裁判官 沖中康人