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関連審決 不服2001-19460
関連ワード インターネット /  アクセス /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  相違点の判断 /  寄せ集め /  周知技術 /  技術常識 /  先行技術 /  優先権 /  優先日 /  容易に想到(容易想到性) /  交換 /  構成要件 /  拒絶査定 /  合理的な理由 /  特許協力条約 / 
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事件 平成 14年 (行ケ) 187号 審決取消請求事件
原告 有限会社エルエスネット
同訴訟代理人弁理士 澤田俊夫
被告 特許庁長官今井康夫
同指定代理人 矢頭尚之
同 佐藤秀一
同 山本春樹
同 小林信雄
同 高橋泰史
同 涌井幸一
同 大橋良三
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/08/27
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が不服2001-19460号事件について平成14年2月13日にした審決を取り消す。
事案の概要
本件は、後記本願発明の出願人である原告が、拒絶査定を受けたので、これを不服として審判請求をしたところ、特許庁が、審判請求不成立の審決をしたことから、同審決の取消しを求めた事案である。
1 争いのない事実 (1) 原告は、平成10年9月18日、国際特許出願に基づく特許協力条約による優先権(優先日平成9年9月24日)を主張して、発明の名称を「加入者線を利用して情報を提供するための通信装置」とする発明について、特許出願をした(特願平11-515979号、以下「本願」という。)が、平成13年9月19日に拒絶査定を受けたので、同年11月1日、これに対する不服の審判の請求をした。
特許庁は、同請求を不服2001-19460号事件として審理した上、
平成14年2月13日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、同年3月20日、原告に送達された。
(2) 本願の請求項1記載の発明(以下「本願発明」という。)の要旨は、本件審決に記載された以下のとおりである。
加入者線の加入者交換手段側に共通端が接続され上記加入者交換手段に分岐端の一方が接続される分岐手段と、上記加入者交換手段に対応して設けられ、かつ上記分岐手段の分岐端の他方が接続されるLANと、上記加入者線を介することなく上記LANに接続され、上記LANおよび上記加入者線を介して加入者装置に情報を提供する情報提供サーバとを有することを特徴とする通信装置。
(3) 本件審決は、別紙審決書写し記載のとおり、本願発明が、引用刊行物(甲2、特開平9-168174号公報、以下「引用例」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。)及び周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとしたものである。
2 原告の主張の審決取消事由の要点 本件審決は、本願発明と引用発明との相違点の判断を誤り(取消事由1)、
本願発明の顕著な効果を看過した(取消事由2)ものであるから、違法として取り消されるべきである。
(1) 相違点の判断誤り(取消事由1)について ア 動機付けの欠如 (ア)本件審決は、本願発明と引用発明との相違点の判断において、「ローカルエリアネットワーク(LAN)に情報提供サーバを接続し、LANに接続されているワークステーション等に情報を提供することは周知の技術」と認定した(このことは認める。)上で、「引用刊行物に記載された発明において、上記周知の技術を適用し本願発明を構成することに格別の困難性はなく当業者であれば容易に想到し得ることである」と判断したが、引用発明に対して上記周知技術を適用する動機を欠くものであるから、上記の判断は誤りである。
(イ)すなわち、LANに対して、情報提供サーバを接続する場合もあるが、情報提供サーバを接続せずに外部の情報提供サーバを利用する場合もあり、LANに情報提供サーバを接続するかどうかは、LANを敷設する目的に依存する。
そして、引用発明では、LANが加入者線とインターネット等の外部のネットワークとの間を中継するという目的が示されるだけであり、その他の目的や動機は開示も示唆もされていないから、引用発明のLANは、インターネットのような外部のネットワークに接続することを目的とするものである。
また、技術常識として、LANに情報提供サーバを接続し、当該LANに同じく接続されている複数のワークステーション等に情報を提供できるようにし、基本的には、LANが敷設されている環境という限定された範囲において、その環境内の利用者に情報を共用させることが知られていた(情報共用目的のLAN)。他方、利用者からの複数の伝送路を集線する中継伝送路としてLANを用い、複数の利用者がより少ない通信回線、端的には一本の通信回線で外部ネットワークのサーバにアクセスできるようにすることも知られていた(集線目的のLAN)。そして、集線目的のみでLANを用いる場合には、当該LANに情報提供サーバは接続されないのである。
引用発明の前提とされる電話局において、インターネットアクセスする回線を集約するLANは、インターネットへの接続が目的であるので、そのLAN上にユーザ向けに情報提供サーバを設けないのである。
このように引用発明においては、その目的から、LANに情報提供サーバを接続する必然性はなく、このようなLANに情報提供サーバを接続するように構成して本願発明をなすことは、動機付けを欠いて困難といえる。
イ 組合せの阻害要因 (ア)本件審決は、「電話局の局内LANに情報提供サーバを接続することを阻害する格別の理由もないと考えられる」と判断するが、引用発明においては、
LANに情報提供サーバを接続する動機付けの阻害となる要因が存在するから、誤りである。
(イ)すなわち、引用発明において、「電話局の局内LAN」は、電話局に配置されるLANであるから、電話局の事務処理を行うための情報を提供するLANであると解される。そうすると、引用発明の電話局の局内LANに情報提供サーバを接続すると、その情報提供サーバが保持する電話局の事務処理を行うための情報が加入者装置に筒抜けになり、顧客のプライバシーや機密情報が損なわれることになってしまう。
仮に、プライバシーや機密情報を守るために、加入者装置から情報提供サーバへのアクセスができないように防御手段を講じているのであれば、それは、
本願発明の構成である「上記加入者線を介することなく上記LANに接続され、上記LANおよび上記加入者線を介して加入者装置に情報を提供する情報提供サーバ」の要件を充足しなくなる。
(ウ)また、引用発明において、LANに情報提供サーバを設け、同じく当該LANに接続されたワークステーション等に情報を提供するという周知の技術(情報共用目的のLAN)を採用すると、情報提供サーバの情報が加入者線を介して外部の加入者にもアクセス可能となるが、本来、情報提供サーバは、ワークステーションの利用者等、限定的な利用者の利用を前提としており、これが外部加入者からアクセス可能となると、セキュリティ上問題となる。
(エ)さらに、引用発明において、LANは、信号線の引き回しを少なくするために、モデム及び回線切替装置を介してMDF(主配線盤)に接続される(甲2、図2、図5)。しかし、このMDF配置場所は、加入者線を引き回す場所であり、基本的に、情報共用を行う事務作業領域から離れており、情報共用を目的とする情報提供サーバの配置場所としては不適切である。
(オ)以上のように、引用発明の電話局の局内LANには、情報提供サーバを接続するという周知技術の適用を阻害する要因が存在するから、本願発明の構成を容易に想到することはできない。
(2) 顕著な効果の看過(取消事由2)について ア 本願発明は、加入者交換局に対応する範囲の加入者に、限定的に情報提供サーバから情報を提供することができるという効果を奏するものであり、本件審決は、本願発明の有するこの顕著な作用効果を看過したものである。
すなわち、加入者交換局に対応する範囲は、通常、加入者交換局(電話局)のビルから数キロメータの範囲であり、いわばコミュニティを限定するものであり、コミュニティに属する加入者に限定的に情報提供サーバから情報を提供することができるということは、コミュニティに対して有益な情報発信源を提供することになる。これに対して、引用発明は、加入者端末装置が局用交換機を経由せずに、外部ネットワーク(例えばインターネット)にアクセスできるという効果を実現するものであり、また、LANに情報提供サーバを接続するという周知技術の構成では、LANに接続されたオフィス内の端末から情報提供サーバにアクセスするという効果を実現するだけである。
したがって、本願発明の前記効果は、引用発明の効果や、周知技術の構成の効果や、これらの効果をそのまま足し合わせたものとは、異質なものである。
イ 被告は、引用発明における電話局内のLANに情報提供サーバを接続した構成とすると、加入者交換手段に対応する範囲の加入者装置に限定的に情報提供サーバから情報を提供することは必然的であり、予想される効果にすぎないと主張するが、この主張は、いわゆる後知恵で発明の進歩性を否定するものであり、合理的な理由とならない。
すなわち、評価対象の発明の効果は、個々の先行技術の効果や、それぞれの効果をそのまま足し合わせたものと、比較されるべきものであり、先行技術を組み合わせてもたらされた新たな構成から導き出される効果と比較されるべきではない。組合せにより初めて実現される効果が、個々の先行技術の効果と異質のものであったり、同質でも優れて際立った効果である場合には、発明の進歩性が肯定されるべきである。そもそも、発明のほとんどは先行技術の組合せであり、効果がその組合せから論理的に帰結される場合には進歩性がないというのであれば、ほとんどの発明は進歩性がなくなってしまい不合理である。
3 被告の反論の要点 本件審決の認定・判断は正当であり、原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
(1) 取消事由1について ア 動機付けの欠如について LANに情報提供サーバを接続しない場合もあることが周知であることは認めるが、一方で、原告も認めるように、LANに情報提供サーバを接続し、LANに接続されているワークステーション等に情報を提供することは周知の技術であり、引用発明に開示された局内のLANにおいても、このLANを介して情報を得ることを目的としているものであるから、引用発明において、本件審決が挙げた周知の技術を適用することに格別の困難性はない。
イ 阻害要因について (ア)引用例には、電話局内の局内LANに電話局の事務処理を行うための情報を提供する情報提供サーバが接続されるという記載はないから、この点に関する原告の主張は失当である。
また、引用発明に対して、LANに情報提供サーバを接続し、LANに接続されているワークステーション等に情報を提供するという周知の技術を適用した場合、周知の技術における「LANに接続されているワークステーション」とは、引用発明の加入者線を介して接続された外部の加入者装置に対応するのは明らかである。
したがって、情報提供サーバには外部の加入者に提供する情報を格納し、この情報提供サーバに加入者がアクセスする構成となり、原告が主張するような、ワークステーション等の利用者等、限定的な利用者の利用を前提とした情報提供サーバを接続する構成とはならず、セキュリティの問題は発生しないので、動機付けの障害も存在しない。
(イ)本件審決は、引用例に、「加入者端末装置につながる2線式電話回線の局用交換機側に共通端が接続され上記局用交換機に分岐端の一方が接続される回線切替装置と、上記局用交換機に対応して設けられ、かつ上記回線切替装置の分岐端の他方が接続される局内LANとを有する装置」の発明が開示されていると認定したのであり、引用発明として、LANが信号線の引き回しを少なくするために、
モデム及び回線切替装置を介してMDF(主配線盤)に接続されることを含めて認定するものではない。
原告は、本件審決が認定していない引用発明を前提として、引用発明においてLANに情報提供サーバを接続する動機付けの障害となると主張するものであり、その主張も失当である。
(2) 取消事由2について 引用発明においても、加入者交換手段に接続された加入者装置は、各加入者交換手段に対応する範囲の加入者装置である。したがって、加入者交換手段に対応して設けられたLANを介して加入者装置に提供される情報は、各加入者交換手段に対応する範囲の加入者装置に対してのみ提供されることは明らかである。
そうすると、引用発明における電話局内のLANに情報提供サーバを接続した構成とすると、加入者交換手段に対応する範囲の加入者装置に限定的に情報提供サーバから情報を提供可能になることは必然的であり、原告の主張する本願発明の効果は、容易に予想される効果にすぎない。
当裁判所の判断
1 相違点の判断誤り(取消事由1)について (1) 動機付けの欠如について ア 引用例(甲2)には、引用発明にLANを設ける目的、効果に関して、
次のとおりの記載がある。
【発明の属する技術分野】本発明は、電話網の加入者線(2線式電話回線)を、局用交換機を経由せずに、直接インターネット等のネットワークに接続し、コネクションレスサービスへのアクセスを可能にする回線切替装置に関するものである。(段落【0001】) 【従来の技術】近年、パーソナルコンピュータの進歩により、インターネットを始めとするコネクションレスサービス(LANの通信手順であるTCP/IPを使用し、エンドツーエンドの相互通信により電子メールや世界各地のサーバアクセス等を可能とするサービス)が急速に普及しており、このようなサービスを利用する個人、企業が急増している。(段落【0002】) 【発明が解決しようとする課題】前述のように、2線式電話回線は電話局の局用交換機につながっているから、2線式電話回線を通るデータ通信信号は、必ず局用交換機を経由することになる。ところが、前記のような電話回線を使ったコネクションレスサービスは、電話の通話と比べて、通信ルートが設定されてから解除されるまでの通信時間が一般に長く、電話の平均的な呼の頻度を前提にして容量等が定められた局用交換機にとっては、負荷が重いものになってしまう。(段落【0005】) そのためには、局用交換機をバイパスさせて、2線式電話回線から直接ネットワークに接続し、コネクションレスサービスへのアクセスを可能にすることが最近の急ぐ課題となっている。本発明は、上述の技術的課題を解決し、局用交換機の負荷の増大を回避しながら、現在ある2線式電話回線を最大限有効に利用して、コネクション(レス)サービス利用の機会を広げることのできる回線切替装置を実現することを目的とする。(段落【0008】) 【発明の効果】以上のように請求項1記載の本発明の回線切替装置によれば、加入者端末装置からコネクションレスサービスへのアクセスを要求するときには、当該加入者端末装置は、局用交換機を経由せずに、直接ネットワークにつながる。したがって、局用交換機の負荷を軽減することができるとともに、データ通信の通信速度が局用交換機内部の伝送速度(周波数特性)の制限を受けなくなり、2線式電話回線の潜在的な伝送能力を最大限引き出して、データ通信のために利用することができる。この結果、インターネットを始めとするコネクションレスサービスの家庭、企業での普及を一層進めることができる。(段落【0038】) イ 以上の記載によれば、引用発明のLANは、局用交換機を経由することなく、直接ネットワークに接続するという目的、すなわち原告の主張する集線目的を有するとともに、LANにインターネットを始めとするコネクションレスサービス(LANの通信手順であるTCP/IPを使用し、エンドツーエンドの相互通信により電子メールや世界各地のサーバアクセス等を可能とするサービス)を設け、
その利用の機会の拡大を図り、普及を推進するという、情報提供の目的、あるいは情報共用目的を有するものであるといえる。
他方、LANに情報提供サーバを接続し、LANに接続されているワークステーション等に情報を提供することが周知の技術である点は、当事者間に争いがない。
そうすると、引用発明には、ワークステーションに該当する加入者端末装置から加入者交換局のLANを経由してコネクションレスサービスにアクセスするという情報提供サービスの形態が開示されているわけであるから、このような引用発明に対して、ワークステーション等に情報を提供するための情報提供サーバをLANに接続するという前記の周知技術を組み合せて、本願発明の構成を得ることに格別の困難性はないというべきである。
ウ 原告は、引用発明では、LANが加入者線とインターネット等の外部のネットワークとの間を中継するという目的が示されるだけであり、その他の目的や動機は開示も示唆もされていないと主張する。
しかし、引用発明のLANは、前示のとおり、局用交換機を経由することなく、直接、インターネットのような外部のネットワークに接続するという集線のみを目的とするものではなく、LANにインターネットを始めとするコネクションレスサービスを設けてその利用の機会の拡大及び普及の推進を図るという情報提供の目的が明示されているのであるから、原告の上記主張は採用することができない。
また、原告は、引用発明の前提とされる電話局において、インターネットアクセスする回線を集約するためのLANは、インターネットへの接続が目的であるので、そのLAN上にユーザ向けに情報提供サーバを設けないと主張するが、前示のとおり、引用発明のLANは、インターネットのような外部ネットワークへの接続に際しての回線の集約のみを目的とするものでなく、LANにコネクションレスサービスを設けてその利用の機会の拡大及び普及の推進を図るという情報提供の目的も有するのであるから、情報提供サーバを設けることも容易に想定され、原告の上記主張もまた採用することができない。
(2) 組合せの阻害要因 ア 原告は、引用発明において、電話局の局内LANが、電話局の事務処理を行うための情報を提供するLANであるとして、引用発明の電話局の局内LANに情報提供サーバを接続すると、その情報提供サーバが保持する電話局の事務処理を行うための情報が加入者装置に筒抜けになり、プライバシーや機密情報が損なわれると主張する。
しかし、引用発明には、前示のとおり、インターネットを始めとするコネクションレスサービスを利用するためのLANが開示されており、引用例を精査しても、引用発明の局内LANが、電話局の事務処理を行うための情報を提供するLANに限定される根拠はなく、LANに接続される情報提供サーバが電話局の事務処理を行うために機密情報等を保持していると解する根拠もない(なお、仮に、
引用発明に組み合わせるべき情報提供サーバが電話局の事務処理を行うために機密情報等を保持しているとすれば、加入者端末装置から当該事務処理上の情報にアクセスすることを制限するための何らかの対策を施すことは、当業者にとって当然の技術常識であり、そのために、LANに情報提供サーバを接続するという前記の周知技術が適用困難となるものでないことはいうまでもない。この点について、原告は、防御手段を講じるとすると本願発明の構成要件を充足しなくなると主張するが、防御手段の有無は、本願発明の構成要件と関係のない事柄であるから、上記主張は到底採用することができない。)。
したがって、いずれにしても原告の上記主張を採用する余地はない。
イ また、原告は、引用発明において、LANに情報提供サーバを設け、当該LANに接続されたワークステーション等に情報を提供するという周知技術を採用すると、限定的な利用者の利用を前提とした情報提供サーバの情報が、加入者線を介して外部の加入者にもアクセス可能になり、セキュリティ上問題となると主張する。
しかし、本件審決は、LANに情報提供サーバを接続し、LANに接続されているワークステーション等に情報を提供するという周知技術を引用発明に適用するに際して、2線式電話回線を介して局内LANに接続される加入者端末装置をワークステーション等に対応させ、該加入者端末装置に情報を提供する情報提供サーバを局内LANに接続することが容易に想到し得ると判断したのである。これに対して、原告は、限定的な利用者よりなるワークステーション等と該利用者の利用を前提とした情報提供サーバを設けたLANを周知技術と解して、外部の加入者から当該LANへのアクセスによりセキュリティ上の問題が生じると主張するものであるから、前記審決の判断を誤解するものであり、明らかに失当な主張といえる。したがって、これを採用することはできない。
ウ さらに、原告は、引用発明において、LANは、信号線の引き回しを少なくするために、モデム及び回線切替装置を介してMDF(主配線盤)に接続されるが、このMDF配置場所は、加入者線を引き回す場所であり、基本的に、情報共用を行う事務作業領域から離れており、情報共用を目的とする情報提供サーバの配置場所としては不適切であると主張する。
しかし、引用発明の局内LAN及び情報提供サーバを事務作業用のものに限定すべきでないことは、前示のとおりであるから、MDF配置場所が事務作業領域から離れているとしても、情報提供サーバの配置場所として不適切であるとはいえない。しかも、本願発明は、その発明の要旨から明らかなように、LAN及び情報提供サーバの敷設場所を特定するものではないから、特定の場所にこれらを設けることが不適切であることを理由に、前記周知技術の適用を否定することはできない。
したがって、原告の上記主張に理由がないことは明らかである。
2 顕著な効果の看過(取消事由2)について (1) 原告は、本願発明が、加入者交換局に対応する範囲の加入者に、限定的に情報提供サーバから情報を提供することができるという効果を奏するものであり、
本件審決は、本願発明の有するこの顕著な作用効果を看過したものであると主張する。
しかし、引用発明においても、加入者装置を有する加入者は、電話局の各加入者交換手段に対応する範囲の者に限定されるから、このような加入者交換手段に対応して設けられたLANに、前記周知技術を適用して情報提供サーバを接続した構成とすると、原告の主張する、該加入者に対してのみ限定的に情報提供サーバから情報を提供するという作用効果を生じることは明らかであり、当該作用効果は容易に予想されるものであるから、原告の上記主張は採用できない。
また、原告は、本願発明が、コミュニティに属する加入者に限定的に情報提供サーバから情報を提供することができ、コミュニティに対して有益な情報発信源を提供する点を顕著な効果として強調する。
しかし、本件審決が認定するように、情報提供サーバ等に格納された地域に密着した情報を利用者に提供するサービスは、特開平8-340583号公報(乙1)及び特開平9-69892号公報(乙2)等に記載されるように周知であり、この点は当事者間に争いがないから、この点をもって、本願発明が進歩性を有するものでもない。
(2) さらに、原告は、組合せにより初めて実現される効果が、個々の先行技術の効果と異質のものであったり、同質でも優れて際立った効果である場合には、発明の進歩性が肯定されるべきであると主張する。
しかし、原告の主張する本願発明の効果は、上記効果とは異なり、前示のとおり、引用発明と周知技術寄せ集めの域を出ず、しかも、それ自体周知の課題及びその解決策と認められるから、いずれにしても、原告の主張を採用する余地はない。
(3) そうすると、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものとなり、これと同旨の本件審決に誤りはなく、その他本件審決にこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
3 結論 よって、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 北山元章
裁判官 青柳馨
裁判官 清水節