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関連審決 不服2000-3019
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事件 平成 14年 (行ケ) 376号 審決取消請求事件
原告 創建工業株式会社
同訴訟代理人弁理士 鈴木正次
同 涌井謙一
同 山本典弘
被告 特許庁長官今井康夫
同指定代理人 長島和子
同 木原裕
同 大野克人
同 大橋良三
同 涌井幸一
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/08/27
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 (1) 特許庁が不服2000-3019号事件について平成14年6月18日にした審決を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
前提となる事実
1 特許庁における手続の経緯 (1) 原告は,平成8年8月9日,発明の名称を「格子状枠消波敷設材を使用した海岸の養浜工並びにその築造方法」とする発明につき特許出願(平成8年特許願第242461号。この出願を「本件出願」といい,同出願に係る発明を「本願発明」という。)をし,平成9年7月22日付けで手続補正の申立てをした。特許庁は,上記手続補正を認めた上,本件出願について,平成12年1月28日付けで特許を拒絶すべき旨の査定(以下「本件拒絶査定」という。)をし,その謄本は同年2月8日ころ原告に送達された(甲2の(1),(2),7,弁論の全趣旨)。
(2) 原告は,本件拒絶査定を不服として,平成12年3月3日,審判請求(以下「本件審判請求」という。)をするとともに,同月16日付けで手続補正の申立て(以下「本件手続補正」という。)をした。特許庁は,本件審判請求事件を不服2000-3019号事件として審理し,平成14年6月18日,本件手続補正を却下する旨の決定(以下「本件補正却下決定」という。)をするとともに,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,本件補正却下決定及び本件審決の謄本はいずれも同年7月2日に原告に送達された(甲1の(1),(2),2の(3),8,弁論の全趣旨)。
2 平成9年7月22日付け手続補正書による補正後の本願発明の要旨は,次のとおりである(甲2の(1),(2)。以下,次に記載する【請求項1】に係る発明を「本願発明1」という。)。
【請求項1】 溝形鋼,山形鋼,H形鋼または鉄筋コンクリート等の耐せん断力および引張抵抗力を有する材料をもって内方区画され,石またはブロック等の消波材が係合し,抜脱しない所要の大きさの格子状目を形成した格子状枠消波敷設材と,その上に設置,積層された石またはブロック等の消波材とにより築造され,海岸の汀線付近に汀線にほぼ平行に連続して設置され,波浪により自動的に沈下した消波構造物,および該消波構造物の背面陸側に堆積された砂とによって構成されることを特徴とした海岸の養浜工。
【請求項2】 溝形鋼,山形鋼,H形鋼または鉄筋コンクリート等の耐せん断力および引張抵抗力を有する材料をもって内方区画され,石またはブロック等の消波材が係合し,抜脱しない所要の大きさの格子状目を形成した格子状枠消波敷設材と,その上に設置,積層された石またはブロック等の消波材とにより築造され,海岸の汀線付近に汀線にほぼ平行に連続して設置された消波構造物,および当該消波構造物の前面海側に当該消波構造物と適当な間隔をおいてほぼ平行に築造された同様の消波構造物,および平行する該消波構造物の間に堆積された砂とによって構成されることを特徴とした海岸の養浜工。
【請求項3】 溝形鋼,山形鋼,H形鋼または鉄筋コンクリート等の耐せん断力および引張抵抗力を有する材料をもって内方区画し,石またはブロック等の消波材が係合し,抜脱しない所要の大きさの格子状目を形成した格子状枠消波敷設材を連続して海岸の汀線付近に,汀線にほぼ平行に設置し,その上に石またはブロック等の消波材を設置,積層して消波構造物を築造し,波浪により自動的に沈下させるとともに,該消波構造物の背面陸側に砂を堆積させることを特徴とした海岸の養海工の築造方法。
【請求項4】 溝形鋼,山形鋼,H形鋼または鉄筋コンクリート等の耐せん断力および引張抵抗力を有する材料をもって内方区画し,石またはブロック等の消波材が係合し,抜脱しない所要の大きさの格子状目を形成した格子状枠消波敷設材を連続して海岸の汀線付近に,汀線にほぼ平行に設置し,その上に石またはブロック等の消波材を設置,積層して消波構造物を築造し,さらにその前面海側に当該消波構造物と適当な間隔をおいてほぼ平行に同様の消波構造物を築造し,平行する該消波構造物の間に砂を堆積することを特徴とする海岸の養浜工の築造方法。
3 本件手続補正による補正後の本願発明(以下,次の「請求項1」に係る発明を「本願補正発明1」という。)の要旨(甲2の(1)ないし(3)) 【請求項1】 溝形鋼,山形鋼,H形鋼または鉄筋コンクリート等の耐せん断力および引張抵抗力を有する材料をもって内方区画し,石またはブロック等の消波材が係合できて,抜脱しない所要の大きさの格子状目を形成した格子状枠消波敷設材を連続して海岸の汀線付近に,汀線にほぼ平行に設置し,前記格子状枠消波敷設材の上に石またはブロック等の消波材を載置し,前記格子状枠消波敷設材と,前記石またはブロック等の消波材とを係合させ,積層して消波構造物を築造し,該消波構造物を波浪により自動的に沈下設定させるとともに,前記消波構造物の背面陸側に砂を堆積させたことを特徴とする海岸の養浜工。
【請求項2】 溝形鋼,山形鋼,H形鋼または鉄筋コンクリート等の耐せん断力および引張抵抗力を有する材料をもって内方区画し,石またはブロック等の消波材が係合できて,抜脱しない所要の大きさの格子状目を形成した格子状枠消波敷設材を連続して海岸の汀線付近に,汀線にほぼ平行に設置し,前記格子状枠消波敷設材の上に石またはブロック等の消波材を載置し,波浪により前記格子状枠消波敷設材と,石またはブロック等の消波材と係合させ,積層して消波構造物を築造し,さらにその前面海側に当該消波構造物と適当な間隔をおいてほぼ平行に同様の消波構造物を並列築造し,並列する前記消波構造物の間に砂を堆積させたことを特徴とする海岸の養浜工。
【請求項3】 溝形鋼,山形鋼,H形鋼または鉄筋コンクリート等の耐せん断力および引張抵抗力を有する材料をもって内方区画し,石またはブロック等の消波材が係合し,抜脱しない所要の大きさの格子状目を形成した格子状枠消波敷設材を連続して海岸の汀線付近に,汀線にほぼ平行に設置し,前記消波敷設材の上に石またはブロック等の消波敷設材を載置し,前記格子状枠消波敷設材と,石またはブロック等の消波材と係合させ,積層して消波構造物を築造し,該消波構造物を波浪により自動的に沈下させるとともに,前記消波構造物の背面陸側に砂を堆積させることを特徴とした海岸の養海工の築造方法。
【請求項4】 溝形鋼,山形鋼,H形鋼または鉄筋コンクリート等の耐せん断力および引張抵抗力を有する材料をもって内方区画し,石またはブロック等の消波材が係合し,抜脱しない所要の大きさの格子状目を形成した格子状枠消波敷設材を連続して海岸の汀線付近に,汀線にほぼ平行に設置し,前記消波敷設材の上に石またはブロック等の消波敷設材を載置し,前記格子状枠消波敷設材と,石またはブロック等の消波材と係合させ,積層して消波構造物を築造し,さらにその前面海側に当該消波構造物と適当な間隔をおいてほぼ平行に同様の消波構造物を並列築造し,並列する前記消波構造物の間に砂を堆積させることを特徴とする海岸の養浜工の築造方法。
4 本件補正却下決定及び本件審決の理由の要旨 (1) 本件補正却下決定の理由の要旨(甲1の(2)) ア 本願補正発明1と特開平7-3739号公報(平成7年1月6日発行,以下「本件刊行物」という。)記載の発明(以下「本件刊行物発明」という。)とを対比すると,両者は,「溝形鋼,山形鋼,H形鋼または鉄筋コンクリート等の耐せん断力および引張抵抗力を有する材料をもって内方区画し,石またはブロック等の消波材が係合できて,抜脱しない所要の大きさの格子状目を形成した格子状枠消波敷設材を設置し,前記格子状枠消波敷設材の上に石またはブロック等の消波材を載置し,前記格子状枠消波敷設材と,前記石またはブロック等の消波材とを係合させ,積層して消波構造物を築造し,該消波構造物を波浪により自動的に沈下設定させた消波構造物」との点で一致し,次の点で相違している。
すなわち,本願補正発明1は,消波構造物を構成する格子状枠消波敷設材を連続して海岸の汀線付近に,汀線にほぼ平行に設置し,上記消波構造物の背面陸側に砂を堆積させた海岸の養浜工であるのに対し,本件刊行物には,消波構造物が養浜工に用いられるものであることが明記されておらず,したがって,上記消波構造物を構成する格子状枠消波敷設材を連続して海岸の汀線付近に,汀線にほぼ平行に設置することも,上記消波構造物の背面陸側に砂を堆積させることについても明記されていない点で相違する。
イ 消波構造物が養浜に用いられること,これを養浜に用いた場合,その背面陸側に砂が堆積することは,周知事項(例えば,実公昭56-55297号公報,特公平7-30534号公報に記載のとおり。以下,前者の刊行物を「本件周知例1」と,後者の刊行物を「本件周知例2」といい,両者を併せて「本件各周知例」という。)であり,消波構造物を養浜に用いた場合,連続して海岸の汀線付近に,汀線にほぼ平行に設置することは当然の事項であるから,上記周知事項を本件刊行物発明に適用し,本願補正発明1と本件刊行物発明との上記相違点に係る構成とすることは,当業者が容易に想到できたことである。
そして,本願補正発明1の構成によってもたらされる効果も,本件刊行物発明及び上記周知事項から当業者が容易に予測し得る程度のものである。
ウ 以上のとおり,本願補正発明1は,その出願前に頒布された刊行物の記載及び上記周知事項に基づいて,当業者が容易に発明することができたものであるので,特許法29条2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって,本件手続補正は特許法17条の2第5項の準用する同法126条4項に規定する要件を満たしていない。
(2) 本件審決の理由の要旨(甲1の(1)) ア 本件手続補正は却下されたから,本件審判請求の対象となる発明は,前記2記載の請求項1ないし4により特定されたものと認められる。
イ 本願発明1と本件刊行物発明とを対比すると,両者は,「溝形鋼,山形鋼,H形鋼または鉄筋コンクリート等の耐せん断力および引張抵抗力を有する材料をもって内方区画され,石またはブロック等の消波材が係合し,抜脱しない所要の大きさの格子状目を形成した格子状枠消波敷設材と,その上に設置,積層された石またはブロック等の消波材とにより築造され,波浪により自動的に沈下した消波構造物」との点で一致し,次の点で相違する。
すなわち,本願発明1は,消波構造物が海岸の汀線付近に汀線にほぼ平行に連続して設置され,上記消波構造物の背面陸側に堆積された砂とによって構成される海岸の養浜工であるのに対し,本件刊行物には,上記消波構造物が養浜工に用いられることが明記されておらず,したがって,上記消波構造物が,海岸の汀線付近に汀線にほぼ平行に連続して設置されることも,上記消波構造物の背面陸側に堆積される砂のことについても明記されていない点で相違する。
ウ 消波構造物が養浜に用いられること,これを養浜に用いた場合,その背面陸側に砂が堆積することは,周知事項(例えば,本件各周知例に記載のとおり)であり,消波構造物を養浜に用いた場合,海岸の汀線付近に汀線にほぼ平行に連続して設置することは当然の事項であるから,上記周知事項を本件刊行物発明に適用し,本願発明1と本件刊行物発明との上記相違点に係る構成とすることは,当業者が容易に想到できたものである。
そして,本願発明1の構成によってもたらされる効果も,本件刊行物発明及び上記周知事項から当業者が容易に予測し得る程度のものである。
エ 以上のとおり,本願発明1は,本件刊行物及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
当事者の主張
(原告の主張) 1 取消事由1(本件補正却下決定の違法性と本件審判請求の対象となる発明の要旨の認定の誤り) 本件補正却下決定は,消波構造物が養浜に用いられること,これを養浜に用いた場合,その背面陸側に砂が堆積することは周知事項であるとし,この周知事項を本件刊行物発明に適用し,本願補正発明1と本件刊行物発明との相違点(前記第2の4(1)ア)に係る構成とすることは,当業者が容易に想到できたことである旨の判断をした。
しかし,後記2の記載と同様の理由により,本願補正発明1の進歩性を否定した本件補正却下決定の上記判断は誤りであり,本件手続補正は認められるべきである。したがって,本件手続補正が認められないことを前提とした本件審決は,本件審判請求の対象となる発明の要旨の認定を誤ったものというべきである。
2 取消事由2(本件審決の相違点の認定及び本願発明1と本件刊行物発明との相違点に係る構成についての容易想到性の判断の誤り) (1) 本件審決の相違点の認定の誤り 本件審決は,「本願発明1は,消波構造物が海岸の汀線付近に汀線にほぼ平行に連続して設置され,上記消波構造物の背面陸側に堆積された砂とによって構成される海岸の養浜工であるのに対し,本件刊行物には,上記消波構造物が養浜工に用いられることが明記されておらず,したがって,上記消波構造物が,海岸の汀線付近に汀線にほぼ平行に連続して設置されることも,上記消波構造物の背面陸側に堆積される砂のことについても明記されていない点」を相違点として認定した。
しかし,本件刊行物には,上記消波構造物を養浜工に用いることが明記されていないだけでなく,上記消波構造物を養浜工に用いることを示唆し,あるいは上記消波構造物が養浜に使用できることを予測できるような記載は一切ないのであって,このことも相違点に加えた上で本願発明1の進歩性について判断がされなければならない。しかるに,本件審決は上記相違点を看過し,本願発明1の進歩性の判断に当たり,この点を考慮しなかったものである。
(2) 本願発明1と本件刊行物発明との相違点に係る構成についての容易想到性の判断の誤り ア 本願発明1の進歩性について 本件刊行物発明は,「格子状消波敷設材と,それを使用した消波構造物」に関する発明であって,階段状の洗掘にも耐えられる格子状消波敷設材と消波構造物を提供することを目的としたものである。本件刊行物発明は,消波構造物として優れた作用効果があり,大きな波浪に耐え,長年に亘り散乱することなく原形を保つことが認められている。本願発明1は,本件刊行物発明に係る消波構造物を波浪により流砂の押し寄せる場所へ適切に配置し,その消波機能(本件刊行物発明の消波機能とは一致する。)により,抜群の養浜効果を奏するようにしたものである。
ところで,昔から,どのような構造物を用いれば,自然の猛威に耐えて安定した土砂を供給し,海浜の維持や造成が行えるかは従来から解決の困難な課題であった。本件刊行物発明が公知になった当時は,同発明に係る消波構造物の設置が上記養浜の効果を奏するか否かは不明であったものである。従来,消波構造物は汀線に沿って設置されていたが,流砂のある所には設置されていなかったので(散乱埋没する。),消波構造物を養浜の構造物としてそのまま使用するという技術思想はなく,その実例もなく,有効な養浜工は不可能と信じられていた。しかるところ,原告は,本件刊行物発明の実施例の観察を行っている段階で,同発明に係る消波構造物を海岸の汀線に沿って設置した場合にそれが養浜の機能を有する可能性があることを見出し,本願発明1を創造するに至ったものである。本願発明1は,上記課題を解決し,恒久的に使用できる養浜の構造と構成を提供するものである。
したがって,本願発明1に進歩性があることは明らかである。
イ 本件各周知例について 「消波構造物が養浜に用いられること,これを養浜に用いた場合,その背面陸側に砂が堆積すること」が周知事項といえるためには,消波構造物を汀線に設置することで養浜ができることが,現実に役に立つ状態(効用の大小は別にしても)においてその技術内容の各種提案がされ,その技術思想を集約することにより「消波構造物を汀線に設置する養浜なる技術思想」が当業者間に広く知られるに至った場合に限られるというべきである。
ところで,激波浪のない内海では流砂がないので養浜ができず,流砂・養浜を必要とする地域では,計測できないほどの波浪のエネルギーが存在し,普通の構造物は1〜3年以内に雲散霧消してしまう。したがって,特定の消波構造物が養浜の効果を奏するためには,それが上記の波浪の力に耐えるものでなければならない。しかるに,本件各周知例には,次に述べるとおり,いずれもこのような波浪の力に耐えるための対応策が何ら考慮されていないから,本件各周知例に記載の技術は,いずれも,空想の産物であり,養浜には程遠く,養浜について全く現実的な効果を期待できない陳腐な技術であるというほかなく,実用に供し得ないものである。本件各周知例に記載の技術等をもって周知事項というのは誤りである。
(ア) 本件周知例1(実公昭56-55297号公報。甲4)について 本件周知例1の考案においては,波浪の力(相当多量の砂が運ばれる。),特に大きな力(台風時)について全く考慮がされていない。
本件周知例1には,支柱及び網状フェンスの強度について上限は記載されていないので,強度を補強すればよいという反論があろうが,考案と言うからには,次の点に関する対応がされていなければ未完成考案となるといわざるを得ないが,本件周知例1においてそのような考慮はされていないし,その点の示唆もない。
@ 例えば支柱は,シリンダーパイル(構造用鋼管),H鋼杭又はコンクリートPC杭でなくてはならない。この支柱を地盤(恐らく地中3m〜5m)に打ち込み,地上3m〜5m突出させ,支柱を3m〜5m間隔に打ち込み,その上各支柱間に少なくとも10t/u以上の波浪に耐えうる強度のフェンスを取り付けなければならない。
A 上記@により十分波浪に耐えうるフェンスが完成した場合に,網目が大きいと流砂となって海へ戻されるし,網目が小さいと衝撃抵抗のためにフェンスが破綻することになる。また,波浪は往復に効くので,金属などが最も留意すべき繰り返し荷重を受けて金属疲労のために破断し,かつ摩耗と発錆のための強度低下なども考慮しなければならない。
B 上記Aの問題を解決したとしても,更に洗掘問題がある。すなわち,上記支柱は地盤中へ深く打ち込んでも支柱の周辺は深く掘られ,支柱頭部は前後左右に大きく揺れ,全体が動揺するから,構造物としては耐え難い。また,フェンスの下面が施工時の地表ならば,たちまち洗掘により,フェンス下面と地盤との間に大きな穴が開くので,フェンスの下面は少なくとも地盤面まで相当深く埋め込まなければならない。
(イ) 本件周知例2(特公平7-30534号公報。甲5)について この発明は砂防,消波などについて若干の効果を期待しているかも知れないが,養浜にはおよそ役に立たないことが明らかである。
すなわち,窓を設けて,波浪の強さにより開度を定めるというような仕組みは1m〜2mの通常の波浪の場合にいえることであって,時化,台風などのように,12t/u〜15t/uのような波浪に対しては無力であり,たちまち吹き飛んで役に立たない。およそ養浜は波浪により運ばれた砂を,消波によりエネルギーを削減し,返る水の浮力を小さくして砂を沈殿させ,設置物の陸側に砂浜を自動造成するように,自然法則に則らなければ成功しないが,本件周知例2にはこの点について何らの記載もない。
本件周知例2の実施例は,十分強度を大きくしても構造物が台風時に自立することは難しいので,砂をためることはできず養浜にはならない。
ウ 上記のとおり,本願発明1が本件刊行物発明及び本件各周知例に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるとした本件審決の判断は誤りである。
(被告の主張) 1 取消事由1について 後記2記載の理由と同様の理由により,「消波構造物が養浜に用いられること,これを養浜に用いた場合,その背面陸側に砂が堆積すること」が周知事項であり,本願補正発明1は,本件刊行物及び上記周知事項に基づいて容易に発明することができたものであるとした本件補正却下決定の判断に誤りはない。
2 取消事由2について (1) (原告の主張)の2(1)は争う。
(2)ア (原告の主張)の2(2)は争う。
イ (原告の主張)の2(2)イについて (ア) 原告は,本件各周知例に記載のものは波浪の力,特に台風について考 慮がなされておらず,実用にならないから,周知事項とはいえないと主張する。
しかしながら,本件周知例1には,「その設置個所に応じて防砂,養浜及び消波等の作用をする多目的な構造物を得ることを目的とする。」(1頁1欄第26〜28行),「網状フェンス3はその使用目的に応じた大きさにし,その大きさに合わせた間隔に設置した支柱4間に係止具を介して張設して構築物とするものである。尚,網状フェンスの網目の大きさは使用目的等に応じて自由に選択することができる。」(1頁2欄2〜7行)と記載され,本件周知例2には,「養浜・消波として設置することにより」(2頁3欄19行),「このようにして構成する用材の大きさは設置場所の条件,使用目的等によって選択的に決められるものであり,窓の大きさや舌片の厚さ・重さ等も同様に選択的に決定される。」(2頁3欄48行〜4欄1行)と記載されており,したがって,本件各周知例に記載のものを,波浪に耐え得る強度となるよう設計すれば実用に供することができるものである。
また,原告作成の「格子網と格子カゴ 自然の海岸をとりもどす」と題する冊子(甲10)には,「汀線付近に設置された格子網工法による消波工は,打ち寄せる波を砕き,砂を含んで遡上した波は,引くときに砂を置き去り平坦な砂地盤ができあがる。(写真1,14,24:図2)」(3頁左欄8〜11行)と記載され,同5頁写真14には,「1996.6.6 左の写真(判決注:同5頁写真13)の反対側から見たところ。灯標は既に撤去された。大シケであるが,格子網状の消波工はなめらかに沈下し,安定している。消波と同時に堆砂効果も大きい。」という説明が記載されており,同8頁写真23には,「1995.5.11 写真24の1段低いところの横断。ブロックは散乱せず,ほぼ当初の形状のままで,陸側には砂が溜まっている。写真1のように頭が埋る程,海側にも砂がつくことがある。」という説明が記載されている。
さらに,特開昭62-115224号公報(発明の名称を「人工魚礁およびこれを利用した海底構築物」とする発明の特許出願に係るもの。乙3)には,「第11図は,前述した実施例において説明した基礎枠組40を応用して潜堤としての海底構築物を構成した実施例を示すものである。すなわち,本実施例においては,砂浜の浸触が著しい海岸に近接した海底に複数の基礎枠組40を組合せ配置し,これらの基礎枠組40の上に割栗石32を積上げて砕波用の潜堤60を構築したものである。このように構築した潜堤60は,海岸線との間における海域に対し,消波,砕波,防波および砂流出防止効果を発揮し,土砂62の堆積を促進して有効な護岸作用をなすと共に,基礎枠組40は人工魚礁としての機能も有効に利用することができる。」(4頁左下欄16行〜右下欄9行)と記載されている。
なお,原告は,本件出願の査定及び本件審判請求の審判の各段階で提出した意見書等において,「消波構造物が養浜に用いられること,これが養浜に用いられた場合,その背面陸側に砂が堆積すること」が周知事項であることを認めていたものである。
上記のとおり,本件各周知例を含む上記各刊行物は,本件出願時である平成8年(1996年)8月9日以前に,消波構造物が養浜に用いられ,その背面陸側に砂が堆積するという仕組みの技術が周知となっていたことを示すものである。したがって,消波構造物が養浜に用いられること,これが養浜に用いられた場合,その背面陸側に砂が堆積することについて,これを周知事項であるとした本件審決の判断に誤りはない。
(イ) 原告は,本件各周知例に記載の構造物は,従来の消波構造物の大きさ(甲10,11に示されているとおり。)からみて消波能力は著しく小さく,消波構造物とは言えないと主張している。
しかしながら,甲10には,発行日が記載されておらず,また,その頒布日も明らかではないので,甲10そのものが,本件出願時の技術レベルを示すものではない。甲10の各写真の構造物がそれぞれ当該写真の撮影日以前に公然と実施されたものであり,そのことから,上記構造物が本件出願時の技術レベルを示すものであるといえるとしても,同書証に記載の構造物が消波構造物の一例であるということができるだけである。また,甲11は,平成13年10月31日に発行されたもので,本件出願時より後のものであるから,本件出願時の技術レベルを示すものではないし,その内容も消波構造物の一例を示すものにすぎない。したがって,甲10,11に基づいて,本件各周知例記載のものが消波構造物ではないということはできない。
当裁判所の判断
1 取消事由2(本件審決の相違点の認定及び本願発明1と本件刊行物発明との相違点に係る構成についての容易想到性の判断の誤り)について (1) 本件審決は,「本願発明1は,消波構造物が海岸の汀線付近に汀線にほぼ平行に連続して設置され,上記消波構造物の背面陸側に堆積された砂とによって構成される海岸の養浜工であるのに対し,本件刊行物には,上記消波構造物が養浜工に用いられることが明記されておらず,したがって,上記消波構造物が,海岸の汀線付近に汀線にほぼ平行に連続して設置されることも,上記消波構造物の背面陸側に堆積される砂のことについても明記されていない点」を相違点として認定しているところ,原告は,本件刊行物(甲3)には,消波構造物を養浜工に用いることが明記されていないだけでなく,消波構造物を養浜工に用いることを示唆し,あるいは消波構造物が養浜に使用できることを予測できるような記載は一切ないのであって,このことも相違点に加えた上で本願発明1の進歩性について判断がされなければならない旨主張する。
ところで,出願に係る発明が進歩性を有するか否かの判断は,一般には,当該発明の構成等の特許発明特定事項と特定の公知発明のそれとを対比して一致点及び相違点を明らかにした上,この相違点に係る構成等が当業者において容易に想到できるものか否かの判断を第1次的に行い,同判断に加え,あるいは同判断の過程において,当該発明の課題,効果と上記公知発明のそれとの対比の結果を斟酌してこれを行うのが相当と考えられる。
本件についてみれば,本願発明1の特許発明特定事項と本件刊行物発明のそれとを対比した場合,その相違点は本件審決認定の点(前記第2の4(2)イ)に尽きるというべきであり,本件刊行物に,消波構造物を養浜工に用いることを示唆し,あるいは消波構造物が養浜に使用できることを予測できるような記載は一切ないという点は,特許発明特定事項に関するものではなく,本件審決認定の上記消波構造物を上記相違点に係る用法とすることが当業者において容易に想到できるものであるか否かを判断するに当たって斟酌すべき事情であるにすぎない。
本件審決の相違点の認定に原告主張の誤りはない。
(2) 原告は,本願発明1が本件刊行物(甲3)及び本件各周知例(甲4,5)に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるとした本件審決の判断は誤りである旨主張する。
ア そこで,検討するに,本願発明1は,原告の先願特許である本件刊行物に記載された消波構造物を海岸の汀線付近に汀線にほぼ平行に設置し,波浪により自動的に沈下させることにより,上記消波構造物の背面陸側に砂が堆積されることによって構成される海岸の養浜工であることは,本件審決に認定するとおりである。
上記のとおり,本願発明1で使用される消波構造物は本件刊行物に開示されているものと全く同じ構成のものであり,したがって,本件刊行物発明との相違点は,本件審決の認定するとおり,上記消波構造物を汀線に平行に設置し,これを養浜の用途に使用するとした点にあるということになる。
しかして,特定の発明に係る物の新しい性質,機能を発見し,これを本来想定していた用途と異なる用途に利用することが,用途発明として上記物の発明とは別異の発明としての評価を受けることはあり得ることである。しかしながら,特定の発明に係る物が有する本来の性質,機能と異なる性質,機能を利用するといっても,その性質,機能が従来の公知技術から当業者において容易に想到できるものである場合や,それらが周知事項に属するものである場合には,少なくとも,その用途に係る発明に進歩性を認めることはできないというべきである。
イ(ア) 本願発明1についてみると,本件出願前に刊行された本件各周知例等 には次のとおりの記載がある。
a 本件周知例1(甲4)には,考案の名称を「砂防,養浜及び消波等用構築物」とし,実用新案登録請求の範囲を「金属チェンによって形成した網体の金属チェンの外周面に該金属チェンを縮めた状態でゴムをモールドして形成した網状フェンスを,使用目的の大きさにし,その大きさに合せた間隔に設置した支柱間に張設したことを特徴とする砂防,養浜及び消波等用構築物。」とする考案が開示されており,考案の詳細な説明には,「以上の様にして構築した構築物は,第3図に示す如く,海岸に構築して砂防用としたり,第4図に示す如く養浜用に海底に構築してもよく,更には消波用として構築してもよいので,その他種々の使用目的に応じて構築することができるものである。」(1頁1欄12〜17行)との記載がある。
b また,本件周知例2(甲5)には,発明の名称を「砂防・養浜・消波用材」とし,特許請求の範囲を「【請求項1】 基板に所定の間隔で所望形状の窓を形成し,この各窓に舌片を窓に開放するように取り付けたことを特徴とする砂防・養浜・消波用材。 【請求項2】 請求項1において,基板に所定の間隔で所望形状の窓を形成し,この各窓に舌片を窓が開閉可能となるように取り付けたことを特徴とする砂防・養浜・消波用材。」などとする発明が開示されており,発明の詳細な説明には,「【0005】【作用】以上の構成によると,砂防・防風としての林帯の前方に設置することにより・・・風によって運ばれた砂を用材基部に堆砂させることができると共に風の直接の影響を後方の林帯に与えないようにして林帯を保護・育成することができる。また,養浜・消波として設置することにより,波力により舌片を動かして窓を波力に応じた角度だけ開けることにより消波させると共に運ばれてくる砂を用材基部に堆砂させることができることになる。」との記載(2頁3欄12〜22行),「【0016】【発明の効果】以上詳細に説明した本発明によると,基板に所定の間隔で窓を形成し,この各窓に舌片を窓を開閉可能となるように取り付けたことにより,砂防として設置すると,・・・砂を用材基部に堆砂させることができると共に風の直接の影響を防ぐことができて塩害防止又は飛砂防止の効果を有する。【0017】また,養浜・消波として海中に設置すると,波力により舌片を回動させて窓を波力に応じた角度だけ開くことになって消波させると共に運ばれてくる砂を用材基部に堆砂させることができることになる効果を有する。」との記載(3頁5欄7〜20行)がある。
c さらに,特公昭62-115224号公報(乙3)には,発明の名称を「人工魚礁およびこれを利用した海底構築物」とし,特許請求の範囲を「(1) 水平面への据置きに際しいずれかの側面に傾斜面を形成するよう構成した基礎枠組と,所定の寸法に破砕した多数の割栗石とからなり,前記基礎枠組の傾斜面部分およびその周辺部分に前記割栗石を積上げて構成することを特徴とする人工魚礁。(2) 特許請求の範囲第1項記載の人工魚礁において,基礎枠組は三角形側部と水平底部と垂直側部と緩傾斜面部とから形成し,前記傾斜面部を受小梁材で格子状に結合構成し,これらの格子部分にそれぞれ耐久年数の比較的短い受網材を張設してなる人工魚礁。」などとする発明が開示され,「第11図は,前述した実施例において説明した基礎枠組40を応用して潜堤としての海底構築物を構成した実施例を示すものである。すなわち,本実施例においては,砂浜の浸触が著しい海岸に近接した海底に複数の基礎枠組40を組合せ配置し,これらの基礎枠組40の上に割栗石32を積上げて砕波用の潜堤60を構築したものである。このように構築した潜堤60は,海岸線との間における海域に対し,消波,砕波,防波および砂流出防止効果を発揮し,土砂62の堆積を促進して有効な護岸作用をなすと共に,基礎枠組40は人工魚礁としての機能も有効に利用することができる。」(4頁13欄16行〜同14欄9行)と記載されている。
(イ) 上記(ア)認定の事実によれば,消波構造物が養浜に用いられること,こ れを養浜に用いた場合,その背面陸側に砂が堆積することは,本件出願当時,周知事項であったものと認められる。なお,原告も,本件出願の審査過程において提出した平成11年12月20日付けの意見書(乙1)において,「消波構造物を汀線付近に汀線にほぼ平行に設定した時に,その背面陸側に砂が堆積することは当業者には知られておりますが,どのような消波構造物を用いれば自然の猛威に耐えて安定した土砂を供給し海浜の維持や造成が行えるかは昔から解決の困難な問題であり」と記載し,また,本件審判請求の審判の過程で提出した平成12年3月16日付け手続補正書(乙2)において,「海浜地の構造物の基礎が安定し,消波効果があれば,砂が溜まることは知られていた。」と記載し,消波構造物を養浜に用いた場合,その背面陸側に砂が堆積することが周知事項であることを認めていたものである。
原告は,本件各周知例には,いずれも,養浜に用いる構造物について波浪の力に耐えるための対応策が何ら考慮されていないから,本件各周知例に記載の養浜の技術は,いずれも,空想の産物であり,養浜には程遠く,養浜について全く現実的な効果を期待できない陳腐な技術であるというほかなく,実用に供し得ない(産業上利用できない)ものであり,本件各周知例に記載の技術をもって周知事項というのは誤りである旨主張する。しかしながら,本件各周知例には,同各周知例記載の構造物を海底に設置した場合に,上記構造物の基部及びその付近に波浪が運んできた砂を堆積させる効果を奏することが開示されているというべきであり,本件各周知例記載の考案ないし発明に係る構造物が実際にどの程度に養浜の効果を有するかは別としても,上記に示された技術は自然の法則にかなうものと考えられ,これをもって単なる空想の技術であるということはできない。また,本件周知例1(甲4)には,「その設置個所に応じて防砂,養浜及び消波等の作用をする多目的な構造物を得ることを目的とする。」(1頁1欄26〜28行),「網状フェンス3はその使用目的に応じた大きさにし,その大きさに合せた間隔に設置した支柱4間に係止具を介して張設して構築物とするものである。尚,網状フェンスの網目の大きさは使用目的等に応じて自由に選択することができる。」(1頁2欄2〜7行)との記載があり,本件周知例2(甲5)には,「養浜・消波として設置することにより」(2頁3欄19行),「このようにして構成する用材の大きさは設置場所の条件,使用目的等によって選択的に決められるものであり,窓の大きさや舌片の厚さ・重さ等も同様に選択的に決定される。」(2頁3欄48行〜4欄1行)との記載があるのであって,これらの記載からすれば,本件各周知例に記載の構造物について,これを一定の波浪に耐え得る強度となるよう設計することは可能と認められる。したがって,本件各周知例記載の養浜の技術をもって全く実用に供し得ないものと断ずることはできない。
なお,原告は,従来,消波構造物は,高さが通常の水面から3m〜5m,奥行は7m〜9mなくてはならないとされていたとし(甲10,11),これを根拠に,本件各周知例記載の構造物は,高さは定かでないが,奥行が全く考慮されていないので,消波能力,耐波能力は著しく小さく,それらは消波構造物ともいえない旨主張している。しかしながら,甲10(原告作成の「格子網と格子カゴ 自然の海岸をとりもどす」と題する冊子)に記載の構造物は,消波構造物の一例を示すものにすぎない。また,甲11(土木学会・海岸工学委員会・研究現況レビュー小委員会「新しい波浪算定法 これからの海域施設の設計法」)は,平成13年10月31日に発行されたもので,本件出願後のものであるから,これに記載された構造物は本件出願時の技術レベルを示すものとはいえないし,上記構造物も消波構造物の一例を示すものにすぎない。したがって,本件各周知例記載の構造物が甲10,11記載の構造物の基準に合わないからといって消波構造物に該当しないということはできない。しかして,消波力の程度はともかく,その構造物の構成からして,消波の能力があると考えられる構造物について,これを消波構造物ということに何ら問題はなく,原告の主張は採用できない。
ウ そうすると,本願発明1と本件刊行物発明との相違点(前記第2の4(2)イ),すなわち,本件刊行物発明に係る消波構造物を汀線に平行に設置し,これを養浜の用途に使用するとした点は,本件刊行物発明に周知事項を適用して当業者が容易に想到できることというべきである。
原告は,どのような構造物を用いれば,自然の猛威に耐えて安定した土砂を供給し,海浜の維持や造成が行えるかは従来から解決の困難な課題であったが,本願発明1はこの課題を解決し,恒久的に使用でき,抜群の養浜の効果を奏する養浜の構造と構成を提供するものである旨主張するが,本件に関していえば,上記課題の解決は,消波構造物をどのように構成するかにかかっているところ,本願発明1で用いられる消波構造物の構成は本件刊行物にすべて開示されているものであり,原告の主張する養浜工としての作用効果は上記消波構造物が本来的に有する作用効果にすぎないというべきであり,これをもって,本願発明1の進歩性を基礎づける格別の作用効果と解することはできない。
2 取消事由1(本件補正却下決定の違法性と本件審判請求の対象となる発明の要旨の認定の誤り)について 前記1(2)に説示した理由と同様の理由により,前記周知事項を本件刊行物発明に適用し,本願補正発明1と本件刊行物発明との相違点(前記第2の4(1)ア)に係る構成とすることは,当業者が容易に想到できたことというべきである。
したがって,本件補正却下決定に原告主張の瑕疵はなく,本件審決が本件審判請求の対象となる発明の要旨の認定を誤ったということはできない。
3 以上によれば,原告が取消事由として主張するところはいずれも理由がなく,その他本件審決にこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の本件請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 北山元章
裁判官 青柳馨
裁判官 沖中康人