関連審決 | 審判1999-6749 |
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関連ワード | 新規性 / 進歩性(29条2項) / 遡及 / 分割出願 / 拒絶査定不服審判 / 拒絶査定 / 拒絶理由通知 / 請求の範囲 / 不服申立 / |
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事件 |
平成
15年
(行ウ)
33号
裁決取消訴訟事件
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原告A 被告 特許庁長官今井康夫 指定代理人 千葉俊之 同 須藤哲也 同 小林進 同 佐藤一行 |
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裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 2003/08/28 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁長官が,14行服特許第35号事件につき,平成14年11月1日付けでした審査請求却下の裁決を取り消す。 |
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事案の概要
拒絶査定不服審判において,原告の提出した手続補正書について,特許庁審判長が補正命令を発したところ,原告は,当該補正命令は不当であるなどとして,補正命令の取消し等を求めて行政不服審査法による審査請求をした。これに対して,被告が「本件審査請求を却下する。」との裁決をしたため,原告が,同裁決には判断遺脱,判断の誤りの違法があるとして,同裁決の取消しを求めたのが,本件事案である。 |
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前提となる事実(末尾に証拠を掲げていない事実は,当事者間に争いがな
い。) 1 原告は,昭和62年8月17日,昭和62年特許願504785号の特許出願をした(以下「本件第1特許出願」という。)。 2 原告は,平成9年2月10日,特許法44条1項の規定に基づき,上記本件第1特許出願をもとの出願とする分割出願として,平成9年特許願第63735号の特許出願をした(以下「本件第2特許出願」という。)。 3 本件第2特許出願に対し,平成11年3月12日付で拒絶査定がされ,同謄本は,同月23日,原告に発送された。 4 原告は,平成11年4月23日,本件第2特許出願の拒絶査定を不服として,査定不服審判を申し立てたところ(平成11年審判第6749号。以下「本件査定不服審判」という。),担当審判官は,2回にわたり,拒絶理由通知を発した。 5 原告は,上記4に記載の2回目の拒絶理由通知に対し,平成14年4月8日付けで意見書及び手続補正書(甲15。以下「本件補正書」という。)を被告あてに提出した。 6 特許庁審判長は,原告に対し,本件補正書に方式上の不備があるとして,平成14年6月24日付けの「手続補正指令書(方式)」(甲3)を同年7月5日に発送した(以下「本件補正命令」という。)(甲3)。 本件補正命令の内容は,次のようなものである。 「平成14年4月8日付け提出の手続補正書について,方式上の不備がありますので,この指令の発送の日から30日以内に,下記事項を補正した手続補正書(方式)を提出しなければなりません。上記期間内に手続の補正をしないときは,特許法第133条3項の規定により平成14年4月8日付け提出の手続補正書に係る手続を却下することになります。 記 1 手続補正書の【手続補正1】を正確に記載した書面。 (注)特許出願について拒絶査定の謄本の送達があった後の補正をするときは,「【特許請求の範囲】」の欄を単位として補正しなければなりません(特許法施行規則様式第13の備考6参照)。 1 手続補正書の【手続補正2】の欄を削除した書面。 ※次の様式見本を参照して「手続補正書(方式)」を作成して下さい。 (以下,省略) 」 7 原告は,平成14年9月4日,本件補正命令は,「違法または不当な処分その他公権力の行使に当たる行為」であるとして,行政不服審査法に基づき,本件補正命令の取消を求める旨の審査請求(以下「本件審査請求」という。)をした。 原告が,本件審査請求を申し立てた理由の要旨は,本件第2特許出願の出願時は本件第1特許出願の出願時である昭和62年に遡及するから本件補正書に様式違反がないにもかかわらず,審判長及び審判官は経過規定における「なお従前の例による」との規定の解釈を誤り,現行の法令を適用して特許法施行規則所定の様式違反という誤った判断をした上,本来,昭和62年当時の特許法17条を適用すべきであったのに誤って現行特許法133条2項を適用して,本件補正命令を発したが,これは「違法または不当な処分その他公権力の行使に当たる行為」に該当する,というものである(甲2)。 8 被告は,本件審査請求に対し,平成14年11月1日,「本件補正命令は,特許法133条2項の規定によりなされたものであるところ,本件補正書に不備があることを指摘してその補正を促す行為であり,これにより審査請求人の権利又は法律上保護された利益に直接影響を及ぼすものではない。」,「手続の補正をすべきことを命じられた者が指定された期間内に補正をしないとき,特許法133条3項の規定により,特許法審判長によって手続を却下する処分が行われ,これによって,具体的な権利義務が形成されることはありうるが,それは,手続を却下する処分による効果であって,補正命令(特許法133条2項)による効果ではないと解すべきである。」などとし,本件補正命令は行政不服審査法上の不服申立ての対象となる行為ではないとして,行政不服審査法40条1項により,「本件審査請求を却下する」旨の裁決(以下「本件裁決」という。)をした(甲1)。 なお,原告は,本件審査請求の際に,本件拒絶査定不服審判が却下されないように,その執行の停止を求めたが,本件裁決は,原告の当該申立ては特許法133条3項の規定による却下の処分の停止を求めているものと解されるが,本案である本件審査請求が不適法なものである以上,執行停止をする必要はないとして,行政不服審査法34条4項ただし書により,執行停止をしなかった(甲1)。 |
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当事者の主張
1 原告の主張 原告は,本件裁決には,判断の遺脱,判断の誤りがあって違法であるので,裁決の取消を求めるとして,要旨,次のとおり主張する。 (1) 判断の遺脱 ア 原告は,本件補正書が方式を違反していないにもかかわらず,方式違反しているという理由で出された本件補正命令は無効であるから,本件補正命令の取消を求めていたにもかかわらず,本件裁決は,本件補正命令の方式違反の有無や無効かどうかの判断を全くしていない。 イ 本件第2特許出願については,出願時が昭和62年に遡及し,昭和62年当時の特許法が適用されるため,現行の特許法133条ではなく特許法(昭和62年当時)17条の規定に基づいて本件補正命令は出されるべきであるから,本件補正命令は無効であるとして本件補正命令の取消を求めたにもかかわらず,本件裁決は,遡及出願年や条文適用の誤りについて全く判断していない。 (2) 本件裁決の合議体が,原告と「和解」を試みなかったことは,行政不服審査法1条1項に規定する「‥‥‥簡易迅速な手続による国民の権利利益の救済を図るとともに行政の適正な運営を確保することを目的とする。」との法律の趣旨に反する。 (3) 本件裁決は,本件補正命令を合法的な補正命令であるとの前提で判断しているが,次のとおり,本件補正命令は,義務のないことを原告に行わせるもので,これに従わないと権利を剥奪されることになる違法な命令である。 ア 「本件補正手続が却下処分されてから行政不服審査法による審査請求をすべき」との本件裁決の判断は誤っており,同法1条1項,4条1項,5条1項及び40条1項の各規定に違反している。 イ 本件裁決は,本件補正命令が行政不服申立ての対象となるかどうかにつき,『補正命令』という名前だけで判断し,行政不服審査法の趣旨に基づいてその実体を判断しなかったものであり,このことは,同法1条1項,4条1項,5条1項及び40条1項の各規定に違反している。 ウ 本件裁決において,本件補正命令が行政不服審査法に基づく不服申立ての対象とならないと判断したことは,同法1条1項,4条1項,5条1項,40条1項及び特許法(昭和62年当時)17条の2の各規定に違反している。 エ 本件裁決において,本件補正命令が特許法133条2項により本件補正書の不備を指摘して,その補正を促す行為であると認定判断したことは,同法1条1項,4条1項,5条1項,40条1項及び特許法(昭和62年当時)17条の2の各規定に違反している。 オ 以上のとおり,本件補正命令は,本件裁決のいう行政不服審査法の対象たる「国民の権利義務に直接関係し,国民の法律上の利益に影響を与える,行政庁の違法又は不当な処分その他公権力の行使」そのものであって,違法な補正命令を合法的な補正命令と同様に扱うべきではない。 (4) 被告は,本件補正命令は行政不服申立ての対象とならない旨主張しているが,行政不服申立ての対象は,行政庁の「処分」と「不作為」であるところ,行政行為及びこれに準じる行為は「処分」に該当し,本件補正命令は「下命」という行政行為の一つであるから,本件補正命令は,行政不服申立ての対象である。 また,本件補正命令は,行政機関が特定の人又は団体に対し,一定の作為又は不作為の義務を課する具体的な処分を意味する場合に用いられる命令(=処分命令)に含まれることは明らかであって,「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に該当する。 2 被告の主張 (1) 行政不服審査法は,同法4条1項ただし書に定める処分を除く,行政庁の「処分」及び「不作為」が同法による不服申立ての対象となるものと定めているところ(同法1条1項,2条,4条,7条),行政不服審査法にいう上記「処分」とは,取消訴訟の対象となる「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」(行政事件訴訟法3条2項)と同義であると解されている(最高裁昭和42年(行ツ)第47号同43年4月18日第一小法廷判決・民集22巻4号936頁参照)。 そして,上記の「処分」とは,「公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち,その行為によって,直接国民の権利義務を形成し,またはその範囲を確定することが法律上認められているもの」(最高裁昭和37年(オ)第296号同39年10月29日第一小法廷判決・民集18巻8号1809頁)である。 ところで,特許法には,特許庁審判長は,審判事件に係る手続(審判の請求を除く。)について,同法133条2項各号の掲げる事由に該当するときは,相当の期間を指定して,その補正をすべきことを命ずることができ(同法133条2項),同項の規定により手続の補正を命じた者が同項の規定により指定した期間内にその補正をしないときは,決定をもってその手続を却下することができる(同条3項)と規定されている。 したがって,特許庁審判長がなす補正命令は,同条2項各号所定の手続において瑕疵があることを指摘し,その補正の機会を与えるものであるから,手続を補正すべきことを命ぜられた者に対し,補正を促すにとどまるものであって,その行為によって,直接手続の補正をすべきことを命ぜられた者の権利義務を形成し,又はその範囲を確定するものであるとはいえず,行政処分であるとはいえない。 本件補正命令が,特許法133条2項の規定に基づいてなされたものであることは明らかであって,行政不服審査法に基づく不服申立ての対象となる行政庁の処分に当たるものではないから,本件審査請求を却下した本件裁決に何ら違法な点は存しない。 (2) 仮に,本件補正命令に応じなければ,当該手続は却下されることになるとしても,それは特許法133条3項の規定に基づく処分であって,本件補正命令に基づくものではない。 |
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当裁判所の判断
1 「前提となる事実」欄(前記第3)に記載したとおり,本件裁決は,本件補正命令を対象とする本件審査請求を不適法として却下したものである。 2(1) 行政不服審査法は行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為に対して不服申立てを認めているが(同法1条),それは,この種行為が直接国民の権利義務を形成し,又はその権利義務の範囲を確定するものであるという理由に基づくものであるから,行政庁の行為であっても,その性質上このような法的効果を有しないものは同法による不服申立ての対象とならないというべきである(最高裁昭和42年(行ツ)第47号同43年4月18日第一小法廷判決・民集22巻4号936頁,最高裁昭和37年(オ)第296号同39年10月29日第一小法廷判決・民集18巻8号1809頁,最高裁昭和28年(オ)第296号同30年2月24日第一小法廷判決・民集9巻2号217頁参照)。 (2) 原告が本件審査請求において不服申立ての対象としている本件補正命令は,特許法133条2項の規定に基づいてされたものであるところ,同項の補正命令は,審判事件に関する手続の方式に関して瑕疵があった場合,これを審判長が指摘し,審判当事者に対してその補正の機会を与え,その補正を促すにとどまるものであって,手続の補正を命ぜられた審判当事者の権利義務を直接形成し,あるいはその権利義務の範囲を確定するものではない。 したがって,本件補正命令は,行政不服審査法に基づく不服申立ての対象となる「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に該当するものとはいえない。 手続の補正を命ぜられた審判当事者が補正命令に応じなければ,結果的に特許法133条3項により当該手続が却下されることになるが,当該手続が却下されることになるのは,あくまでも同項の規定に基づく却下決定という処分により発生する効果であり,本件補正命令そのものによる効果ではない。審判当事者とすれば,補正命令に不服であるとしても,これに続いてされる手続の却下決定を待って,当該却下処分の取消しを求める手続の中で補正命令の誤りを主張すれば足りるものであって,補正命令につき独立してその取消しを求める利益があるものではない。 なお,行政不服審査法2条1項は,同法にいう「処分」には公権力の行使に当たる事実上の行為で,人の収容,物の留置その他その内容が継続的性質を有するものが含まれるものと規定しているが,同項にいう事実行為とは,「公権力の行使に当たる事実上の行為」,すなわち,意思表示による行政庁の処分に類似する法的効果を招来する権力的な事実上の行為を指すものであるから(前掲昭和43年4月18日第一小法廷判決参照),本件補正命令がこれに当たらないことは上述した点に照らし,明らかである。 上記のとおり,本件補正命令は,行政不服審査法に基づく不服申立ての対象となる「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に該当するものではないから,これと同旨の判断により本件審査請求を不適法なものとして却下した本件裁決に,原告主張のような違法はない。 3 その他,本件裁決の違法として原告の主張する点は,いずれも独自の見解であって採用できないものであり,本件裁決には,原告のいうような違法はない(ちなみに,原告は,本件補正書に係る手続が特許法133条3項により却下されることを避けるため,既に,本件補正命令に応じて,平成14年8月5日付け手続補正書(甲16)を特許庁長官あてに提出している。)。 4 なお,上記のとおり,本件補正命令は,行政不服審査法に基づく不服申立ての対象となる「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に該当するものではないから,本件審査請求を不適法なものとして却下した本件裁決に違法はないものであるが,事案にかんがみ,本件補正命令につき原告が違法と主張する点について,この機会に若干の説示をすることとする。 原告は,本件第2特許出願については,本件第1特許出願時である昭和62年当時の特許法が適用されるため,本件補正書に方式違反はないなどと主張する。 しかし,分割に係る新たな特許出願は,発明の新規性,進歩性(特許法29条),先願(同法39条)の要件については,もとの特許出願の時を基準として判断される(同法44条2項)ものではあるが,あくまでも,もとの特許出願とは別個の独立した特許出願であるから,別段の定めのない限り,その手続については分割に係る新たな特許出願がされた時点における法令の定める方式によるべきものである。したがって,平成9年にされた本件第2特許出願に関する本件補正書に特許法施行規則様式第13に違反する方式上の不備があるとした本件補正命令は,法令を正当に適用したものというべきであり,また,本件補正書に対して特許法133条2項に基づき本件補正命令を発した点も正当である。 5 以上によれば,本件裁決の取消しを求める原告の請求は理由がない。 よって,主文のとおり,判決する。 |
裁判長裁判官 | 三村量一 |
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裁判官 | 青木孝之 |
裁判官 | 松岡千帆 |