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事件 平成 14年 (行ケ) 184号 審決取消請求事件
原告 株式会社東洋精米機製作所
原告 財団法人雑賀技術研究所
両名訴訟代理人弁護士 清永利亮
両名訴訟代理人弁理士 小原英一
同 柳野隆生
被告 A(以下「被告A」という。)
訴訟代理人弁理士 大内康一
被告 株式会社サタケ( 旧商号株式会社佐竹製作所・以下「被告サタケ」とい う。)
訴訟代理人弁護士 牧野利秋
同 鈴木修
同 伊藤玲子
訴訟代理人弁理士 増井忠弐
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/09/04
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告ら 特許庁が無効2000-35448号事件,無効2000-35501号事件について平成14年3月22日にした審決をいずれも取り消す。
訴訟費用は被告らの負担とする。
2 被告ら 主文と同旨
当事者間に争いのない事実等
1 特許庁における手続の経緯 原告らは,発明の名称を「洗い米及びその包装方法」とする特許第2615314号の特許(平成1年3月14日出願(平成4年6月12日分割出願),以下「本件出願」という。),平成9年3月11日設定登録。以下「本件特許」という。請求項の数は2である。)の特許権者である。
被告Aは,平成12年8月25日付けで,請求項1に関して,被告サタケは,平成12年9月19日付けで,請求項1,2に関して,本件特許を無効にすることについて審判を請求した。
特許庁は,被告Aの請求を無効2000-35448号事件として,被告サタケの請求を無効2000-35501号事件として,これらを併合して審理し,平成13年11月22日付けで無効理由通知をした上で,平成14年3月22日,1通の審決書により,「特許第2615314号の請求項1及び2に係る発明についての特許を無効とする。」との審決をし,審決の謄本を同年4月2日に原告らに送達した。
2 特許請求の範囲(以下,【請求項1】に係る発明を,審決と同様に「本件発明」といい,【請求項2】に係る発明を,審決と同様に「本件請求項2に係る発明」という。) 【請求項1】洗滌時に吸水した水分が主に米粒の表層部にとどまっているうちに強制的に除水して得られる,米肌に亀裂がなく,米肌面にある陥没部の糠分がほとんど除去された,平均含水率が約13%以上16%を超えないことを特徴とする洗い米。
【請求項2】請求項1記載の洗い米を,気密性のある包装材を使用した包装用袋に入れ,当該米と包装用袋との間に,米粒群のみかけの体積が最も小さい状態を保持するに必要な空気のみを残し,余剰空気はすべて排除して密封することを特徴とする洗い米の包装方法。
3 審決の理由 別紙審決書写しのとおりである。要するに,本件発明は,本件出願時既に周知となっていた技術(判決注・主引用発明に当たる。)と,特開昭52-43664号公報(甲第5号証,以下審決と同様に「刊行物1」という。)に記載された発明(以下「引用発明1」という。)及び本件出願時の周知技術とに基づいて,本件請求項2に係る発明は,これらの周知技術及び引用発明1と,特公昭55-35302号公報(甲第6号証。以下審決と同様に「刊行物3」という。)に記載された発明とに基づき,いずれも当業者が容易に発明をすることができたものであり,本件特許は,請求項1,2のいずれについても,特許法29条2項に違反して特許されたものであるから,無効とすべきである,とするものである。
審決が,上記結論を導くに当たり,本件発明と主引用発明に当たる従来技術との一致点及び相違点として認定したところは,次のとおりである。
一致点 「精白米を除糠のために洗滌し,除水して得られる,米肌面にある陥没部の糠分がほとんど除去された洗い米」 相違点 「本件発明は,「洗滌時に吸水した水分が主に米粒の表層部にとどまっているうちに強制的に除水して得られる,米肌に亀裂がなく,平均含水率が約13%以上16%を超えない洗い米」である点」(以下「相違点1」という。)
原告ら主張の審決取消事由の要点
審決は,無効2000-35448号事件について,審判請求の趣旨に含まれていない請求について判断をし(請求項2のみについての取消事由1),周知技術でないものを周知技術と認定してこれを主引用発明としたため,本件発明と主引用発明である周知技術との一致点の認定を誤り(請求項1,2についての取消事由1),また,相違点1についての判断を誤ったものであり(請求項1,2についての取消事由2ないし4),これらの誤りが,それぞれ,請求項2,あるいは,請求項1,2についての審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,請求項1,2のいずれについても,違法として取り消されるべきである。
1 請求項2のみについての取消事由(審判請求の申立てがない事項について判断した誤り) 審決は,併合審理した無効2000-35448号及び無効2000-35501号の審判請求について,「特許第2615314号の請求項1及び2に係る発明についての特許を無効とする。」と判断した。しかし,無効2000-35448号審判請求事件においては,請求項1についての特許を無効とすることのみが求められており,請求項2についての特許を無効とすることは求められていない。
審決が,無効2000-35448号審判請求についても,請求項2についての本件特許を無効としたのは,特許法153条3項に違背し,違法である。
2 請求項1,2についての取消事由1(一致点認定の誤り) 審決は,「本件明細書の「従来の技術」の欄に「水で洗った後乾燥して得られる洗い米としては,従来例えば,精米した米を洗い,水切りをし自然乾燥または加熱乾燥したもの(特開昭57-141257号公報),精米した米を洗い,冷風または常温の送風により乾燥したもの(特開昭61-115858号公報),白米を水洗,水切りしたのち,水分を15%〜16%に調整したもの(特公昭51-22063号公報)などが知られている。」(2頁3欄4行〜11行)と記載されていることからも明らかなように,精白米を除糠のために洗滌し,除水して得られる,米肌面にある陥没部の糠分がほとんど除去された洗い米は,本件出願時当業者において周知のものであったと認める。」(審決書19頁30行〜20頁1行)と認定し,この認定を前提として,主引用発明となるべき技術を認定し,さらに,本件発明とこの技術との間で一致点・相違点を認定している。しかし,審決が主引用発明を認定する前提とした上記認定は誤りである。
本件出願の願書に添附した明細書(以下「本件明細書」という。)に従来技術として引用されている特開昭57-141257号公報(甲第15号証,以下「甲15文献」という。),特開昭61-115858号公報(甲第16号証,以下「甲16文献」という。),特公昭51-22063号公報(甲第17号証,以下「甲17文献」という。)に記載されているのは,上記のとおり,「精米した米を洗い,水切りをし自然乾燥または加熱乾燥したもの」,「精米した米を洗い,冷風または常温の送風により乾燥したもの」,「白米を水洗い,水切りしたのち,水分を15%〜16%に調整したもの」があったということだけである。本件発明における,精白米を除糠のために洗滌し,除水して得られる,「米肌面にある陥没部の糠分がほとんど除去された洗い米」(本件明細書の請求項1)のことなどは,上記各文献のいずれをみても,一切,記載も示唆もされていない。
したがって,上記従来技術の記載に基づいて,本件発明の「米肌面にある陥没部の糠分がほとんど除去された洗い米」が本件出願時当業者において周知のものであったとする審決の認定は誤りである。
3 請求項1,2についての取消事由2(相違点1についての判断の誤り-その1) 審決は,相違点1に関して,「以上の点を踏まえると,すなわち,歩留率94%もしくはそれ以下の白米すなわち6分搗きもしくはそれ以上の精白度の白米に,米量に対して0.1〜3%の範囲で水を添加して,精米(精白)を行うと同時に除糠除水を行う混水精米において,添加水分が表面皮層(本件発明の「表層部」に相当する)にとどまっている20秒内外の短時間のうちに急速に除糠除水を行い,添加水分を米粒内質まで浸透させないようにして,米肌に亀裂がない白米を製造することが刊行物1に記載されていること,及び湿式精米法において,添加水分が米粒の表面皮層あるいは表面薄層(本件発明の「表層部」に相当する)にとどまっている短時間のうちに精白除糠,除水を行えば,すなわち水分と精白米との接触時間の短時間化で白米の亀裂発生,砕米化を防止できることが,本件特許の出願時当業者の技術常識であったことからすれば,その表面に糠層(糊粉層)が残存している中途精白米を加水量を増やして精白,除糠と除水をする場合,米粒の表面を覆い時間とともに内部に吸収される水分が米粒の表層部にとどまり米粒の内部に浸透するに至らないまでの短時間内に精白,除糠と除水を完了すれば,米肌に亀裂のない洗い米が得られることは,当業者であれば容易に想到し得ることである。」(審決書22頁23行〜23頁1行)と判断した(以下,審決のこの判断を「本件判断A」という。)。しかし,審決のこの判断は誤りである。
(1) 本件発明の「米粒の表層部」についての認定判断の誤り 審決は,本件判断Aの前に,その前提の一つとなるべきものとして,本件発明の「「洗滌時に吸水した水分が主に米粒の表層部にとどまっている」は,「洗滌時に」すなわち洗滌工程中「吸水した水分が主に米粒の表層部にとどまっている」であり,洗滌工程中の米粒の表層部を指すものと認められる。」(審決書20頁10〜12行)との判断をした。しかし,審決のこの判断は誤りである。
本件発明の「米粒の表層部」とは,本件明細書の特許請求の範囲(請求項1)に記載されているとおり,「洗滌時に」吸水した水分がとどまっている層を意味する。そして,「米粒の表層部」に留まっている水分は,「そこにとどまっているうちに強制的に除水」されるのである。
本件発明における洗滌,除糠及び除水は,数分以内という短時間で行われ,除水は,洗滌,除糠後,「米粒の表層部」に付着吸水した水分を除去するために行われるのであるから,本件発明の「米粒の表層部」とは,洗滌,除糠が行われた後の米粒の表層部を指している。したがって,本件発明の「米粒の表層部」を「洗滌工程中の米粒の表層部を指す」とした審決の上記判断は誤りである。
(2) 引用発明1の「亀裂」についての認定判断の誤り 審決は,本件判断Aの前に,その前提の一つとなるべきものとして,「刊行物1には,上記(a)〜(g)の記載からみて,歩留率94%もしくはそれ以下の白米すなわち6分搗きもしくはそれ以上の精白度の白米に,米量に対して0.1〜3%の範囲で水を添加して,精米(精白)を行うと同時に除糠除水を行う混水精米において,添加水分が表面皮層にとどまっている20秒内外の短時間のうちに急速に除糠除水を行い,添付水分を米粒内質まで浸透させないようにして,米肌に亀裂がない白米を製造することが記載されているものと認める。(刊行物1には,「亀裂」という用語を用いて説明する記載はないが,「従来は歩留り94%以下の高白度白米に水分を添加すると忽ち水分を粒内質深く浸透して砕米化するのが常識なので,白米に混水して精米するなどは夢想だにしなかったものである。」(2頁左下欄18行〜左下欄1行)と記載され,亀裂が原因で生ずる「砕米化」が避けられることが刊行物1に記載され,更に後記のとおり,湿式精米法において,添加水分が米粒皮層あるいは米粒表面の薄層にとどまっている短時間のうちに精白除糠,除水を行えば,すなわち水分と精白米との接触時間の短時間化で白米の亀裂発生,砕米化を防止できることが,本件特許の出願時当業者の技術常識であったことからすれば,添加水分が表面皮層にとどまっている20秒内外の短時間のうちに精白除糠,除水を行い,添加水分を米粒内質まで浸透させないようにすることで砕米化につながる亀裂発生を防止していることが刊行物1に開示されていることは,当業者であれば直ちに理解できることである。)」(審決書20頁29行〜21頁12行)との認定判断をしている。しかし,審決のこの認定判断は誤っている。
(ア) 審決が認定するとおり,刊行物1には,「除糠」,「除水」,「縦溝」(審決書18頁(a),(b)等参照)などの用語がみられる。しかし,刊行物1のこれらの用語は,本件発明の「除糠」,「除水」,「陥没部」とは,その意義を異にする。
すなわち,本件明細書には,本件発明は,「精白米の水中での洗滌,除糠工程及び除水工程を従来とは桁違いに短い時間内に行えば,米粒に亀裂が入らず炊飯に適する洗い米が得られる」(甲第2号証2頁4欄18行〜21行)という知見に基づくものであって,「本発明の洗い米は精白米を水中で洗滌,除糠を行い,更に強制的に除水を行い,この間米粒の主な吸水部は米粒の表層部にとどまり,水への浸漬から洗滌,除糠,除水までの数分以内に行ったものであって,米肌には亀裂が発生しておらず米肌面にある微細な陥没部の糠分がほとんど除去されて」(同欄22行〜27行)いる,と記載されている。本件発明は,このように,洗滌,除水の各工程での米粒の吸水部が米粒の表層部であるうちに洗滌と除水を行えば除水後に亀裂は入らない,との知見に基づくものである。
本件発明における「除糠」とは,「米肌面にある陥没部の糠分がほとんど除去された」(請求項1)状態にすることである。本件発明の洗い米における「米肌面にある陥没部」とは,「精白米表面にある肉眼では見えない無数の微細な陥没部」(甲第2号証3頁6欄13行〜14行)であって,「糠粉等が入り込んでいる陥没部は,開口面よりも深みが長く,しかも大半はミクロン単位の狭い開口面だから,その奥の方に入り込んでいる糠粉等を除去するには,水中に浸して激しく攪拌している間に,糠粉等を水に浮遊させて洗い流す以外にない。」(同4頁7欄44行〜49行)というものである。
本件発明における「糠分がほとんど除去された」(請求項1)こととは,そのまま炊飯しても飯が糠臭くない程度に陥没部の糠分が除去されたことをいうと解すべきである。
これに対して,審決が認定している刊行物1の記載(審決書18頁(a)〜19頁(g))中には,本件発明における「除糠」,「除水」,「陥没部」を意味するような記載は全く存しないのである。かえって,刊行物1には,「本発明は白米の最終仕上直前に混水して米粒面を極めて薄層に軟質化し糊粉層を精白し米粒面を平滑化し,光沢を帯びる素地を生成した後,グレージングドラムにおいて雪崩状の粒粒琢磨作用を施すので微粒子の密面仕上げになり容易に強度の光沢が発生」(甲第5号証3頁左上欄末行〜右上欄5行)すると記載されているのである。
(イ) 審決書18頁ないし19頁で引用されている刊行物1の「(a)ないし(g)」の記載中には,本件発明における「亀裂」に関する記載はない。
本件明細書には,本件発明の「亀裂」に関して,「米を洗った場合,その間に吸水して含水率が高くなり,そのままでは腐敗したり,カビが生えたりしてしまうし,それを避ける為に乾燥させると,米にまず亀裂が入り,更に,砕粒化してしまう」(甲第2号証1頁2欄10行〜14行),「精白米は一旦水に漬けたら,これを乾燥せしめると必ず亀裂が入り」(同号証2頁3欄1行〜2行),「従来・・・精白米は除糠のため洗う場合,そのための充分な時間を必要とするから水分は米粒の表面からその内部(深層部)まで浸透して,これを乾燥する場合は,・・・膨張と急速な収縮による歪み現象及び含水量の多い米粒内部の組織と収縮した組織との調和即ち細胞組織の結合関係が崩壊して,米粒表面に亀裂が発生する」(同号証2頁3欄40行〜4欄1行)などの記載がある。これらの記載と,「亀裂」の用語は,一般に,「ひびがわれること。また,その裂け目,ひびわれ。」(広辞苑第4版)をいうものとされていることからすれば,本件発明における「亀裂」とは,「米粒の表面」に生じる「ひびわれ」のことであるというべきである。
これに対し,刊行物1には,「亀裂」に関して,「白米粒面を滑面化するとふん囲気との関係湿度により,例えば周囲の空気が60%以下の場合などに粒表面が空気に曝されると,その粒面に亀裂が発生する傾向があるが,これは普通の白米でも同様である。このような場合に塩分を皮層に含有すると亀裂を防止することができる。」(甲第5号証2頁右下欄8行〜14行)と記載されているのである。刊行物1における「亀裂」に関する記載がこのようなものであることからも分かるとおり,刊行物1には,本件発明における「亀裂」に関する技術についての開示はない。このように,刊行物1における「亀裂」は,審決の上記認定の「砕米化」とは別個の意義を有するのであるから,同刊行物に「砕米化」のことが記載されているからといって,「亀裂」のことが記載されていることになるわけではない。
(ウ) 審決は,本件判断Aの前に,その前提の一つとなるべきものとして,「少量の水を添加する湿式精米法において,添加水分が米粒皮層あるいは米粒表面の薄層にとどまっている短時間のうちに精白除糠,除水を行えば,すなわち水分と精白米との接触時間の短時間化で白米の亀裂発生,砕米化を防止できることは,本件特許の出願時当業者において広く知られていたものと認められる。」(審決書21頁13行〜17行)との認定をし,その根拠として,特公昭54-13382号公報(甲第27号証,以下「甲27文献」という。),特開昭61-283359号公報(甲第28号証,以下「甲28文献」という。),特公昭55-5381号公報(甲第31号証,以下「甲31文献」という。)及び特公昭61-10179号公報(甲第29号証,以下「甲29文献」という。)を挙げている(審決書21頁3段〜22頁1段)。しかし,これらの各文献における記載は,本件発明の「洗滌時に吸水した水分が主に米粒の表層部にとどまっているうちに除水して得られる,米肌に亀裂がなく,米肌面にある陥没部の糠分がほとんど除去された」という構成が本件出願時に当業者において広く知られていたということを何ら証明するものではない。これらの四つの文献には,本件発明における「除糠」,「除水」,「亀裂発生防止」に関する技術的意味をうかがわせるような開示は一切ないのである。
例えば,甲27文献には,「白米表面の薄層」(甲第27号証1頁2欄31行)という用語が記載されてはいるものの,それは,混水を施して軟質化する対象であって(同1頁2欄30行〜31行),本件発明にいう「米粒の表層部」のように,そこにとどまっている水分を強制的に除水する対象とは全く異なる。甲28文献には,「白米粒面の薄層」(甲第28号証2頁左上欄17行)という用語が見られるものの,それは,剥離する対象として述べられているにすぎない(同2頁左上欄16〜18行参照)。同文献には,「白米の薄層」(同4頁左下欄2行)という用語が見られるものの,これも剥離の対象にすぎない(同4頁左下欄1〜4行)。
(3) 引用発明1の「表面皮層」及び周知事項の「白米皮層」等は本件発明の「米粒の表層部」に相当するとした判断の誤り 審決は,本件判断Aの前に,その前提の一つとなるべきものとして,「刊行物1における「表面皮層」及び上記周知事項における「白米皮層」及び「白米の表面薄層」は,「米粒内質」と対になる概念で表示されており,しかも,吸水の結果生ずる米粒の亀裂発生を,米粒と水分との接触を短時間に抑えることで防止しようとするとき,この吸水が許容される米粒の表層の部位を指すことから,本件発明における「米粒内部(若しくは「深層部」)に対置して表示される本件請求項1に記載の「米粒の表層部」に相当する。」(審決書22頁16行〜22行)との判断をした。しかし,審決のこの判断は誤りである。
引用発明1の加湿精米では,米粒内質に吸湿しないうちに湿潤した「表面皮層」を速やかに剥離するため,剥離後の米粒にはもはや「表面皮層」は存在せず,当初は「米粒内質」だった部分が表面に露出した状態の最終精白米(目標とした精白度の米)に仕上がることになる。周知事項における「白米皮層」も同様である。
これに対し,本件発明では,通常の精米機,又は刊行物1に記載されているような加湿精米機によって,最終精白米に仕上げられた米粒に残存している無数で微細な陥没部の糠分を「洗滌」により「除糠」するものであるから,それには当然のことながら,刊行物1がいうところの「米粒内質」,すなわち,本件発明における「表層部」に吸水するものの,これを「除水」するものであるから,本件発明における「表層部」は剥離されず残るのである。
このように,本件発明と引用発明1とは,その技術的思想を全く異にするものである。
(4) 本件判断A自体の誤り 引用発明1及び審決が認定した周知技術は,本件発明の技術内容を示唆するものではなく,主引用発明とされた従来技術から本件発明に想到することを容易にするようなものではない。
審決は,引用発明1における加水の短時間処理との技術を分析し,認定しただけで,そこで砕米の防止のために必須とされている加水量の制御との技術について分析し,認定することはしていない。引用発明1では,少量ずつ加水するとの制御が必須であるのに,審決は,本件発明の大量の水を必要とする洗滌が,引用発明1から容易に想到し得るものである,と誤って認定判断したのである。
引用発明1においては,加水量を増やしても,水の損失率が増えるだけで洗い米は得られない。それどころか,特開昭61-283359号公報には,湿式精米においては,水分量が過剰なときは,米肌に亀裂のない洗い米が得られないだけでなく,砕米が生じ「精白室内の負荷が急激に増大して電動機の過負荷を誘起し,精白室内に白米が粉砕されて固体化して運転停止事故を招来する」(甲第28号証2頁右上欄4行〜11行)と記載されている。このように,加水量を増やすことについては,このような阻害要因が存在することが明白であったにもかかわらず,審決は,単に引用発明1において加水量を増せば洗滌作用が得られるものと誤解したものである。
4 請求項1,2についての取消事由3(相違点1についての判断の誤り-その2) 審決は,相違点1に関して,「濡れた米を除水して,含水量が約13%以上16%を超えない範囲内の所定の含水量になるようにすることは,本件特許の出願時に当業者において周知であった(必要なら,特開昭57-141257号公報(甲第13号証)(判決注・甲15文献),特公昭51-22063号(甲第7号証)(判決注・甲17文献),実開昭61-121946号のマイクロフィルム(甲第8号証)(判決注・本訴甲第18号証の2。以下「甲18文献」という。)等参照。)ことから,洗い米の平均含水率を「約13%以上16%を超えない」ように除水することは,当業者が容易になし得ることである。」(審決書23頁2行〜8行)と判断した。しかし,審決のこの判断は誤っている。
審決が引用した甲15文献の特許請求の範囲は,「1.精米後の米を水洗いし,この米を脱水乾燥させ,含水量が通常の精米より多い所定の含水量となった状態で該米を真空パックすることを特徴とする飯米のパック方法。」(甲第15号証,1頁左下欄5行〜8行)というものであり,その発明の詳細な説明の項には,「精米処理のみを施した米の含水量は通常12.4%であるが,上記の米(原告ら注・水切りをして自然乾燥させたもの)は含水量が14.7%まで乾燥したところで真空パックの専用機3にかけて,合成樹脂シートの袋4に詰め込む。」(同1頁右下欄17行〜2頁左上欄2行)と記載されている。しかし,この「含水量が14.7%」のものは,水切りをして自然乾燥させたものであるから,本件発明とは異なるものである。
甲17文献記載の発明は,耐熱性密封袋中で炊飯する方法に関するものである。甲17文献の発明の詳細な説明の項には,「白米を水洗いして円心分離機に入れて水切を行い水分を15〜16%程度に仕上げる。」(甲第17号証,1頁2欄3行〜4行)と記載されており,甲17文献記載の発明が本件発明とはその技術的意味を異にしていることは明らかである。
甲18文献にも,洗い米の平均含水率を「約13%以上16%を超えない」ように除水する旨の記載は一切ない。
このように,上記の各文献には,本件発明の構成要件である「洗滌」,「除水」などの技術的内容についての開示はないから,上記の各文献を見ても,本件発明のような技術手段によってその含水量にすることを容易に想到することなど,およそ考えられないのである。
5 請求項1,2についての取消事由4(本件発明の顕著な効果の看過) 審決は,「本件発明の効果を検討しても,先に記載したとおり中途精白米を加水量を増やして精白,除糠と除水をする場合,吸水した水分が主に米粒の表層部にとどまっている短時間のうちに精白,除糠と除水を完了することにより,米肌に亀裂が発生することを防止できることは,刊行物1及び上記周知事項に基づいて当業者が容易に想到し得ることであるから,本件発明の「米肌に亀裂がない」という効果は,当業者が容易に予測できる効果である。」(審決書23頁9行〜14行)と判断した。しかし,審決のこの判断は誤りである。
本件発明は,引用発明1や従来の洗い米と比較して,その作用効果において大きな相違が存在する。引用発明1では,肉眼でも確認できる「縦溝」の糠は削り落すにしても,本件発明の洗い米のように,米肌面の肉眼では見ることのできない微細な陥没部のミクロン単位の糠分をほとんど除去することは到底できないのである。引用発明1の混水(加湿)精米は,本件発明の洗い米のように,水を入れるだけで直ちに炊飯することができ,しかも炊飯されたものが糠臭くないもの,ではない。
審決は,本件発明の最も重要な効果である,水を加えるだけでそのまま炊いても糠臭くなくおいしい飯が得られる洗い米であることを正当に判断しなかったものである。
被告らの反論の骨子
審決に,原告ら主張の誤りはない。
1 請求項2のみについての取消事由(審判請求の申立てがない事項について判断をした誤り)について 審決は,併合して審理された無効2000-35448号審判請求事件と無効2000-35501号審判請求事件の双方について,1通の審決書によりなされたものである。審決は,審決理由において,まず,本件特許の請求項1に係る発明を「本件発明」とし,請求項2に係る発明を「本件請求項2に係る発明」として峻別し,被告Aが主張した無効理由については,そのすべてにわたり「本件発明」と明記して,被告Aの請求の趣旨が「請求項1に係る発明の特許無効の請求」であることを明確にした上で,結論に至っている。したがって,被告Aの請求(無効2000-35448)に対する結論が,「特許第2615314号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする」との部分のみであることは,審決の説示自体から明らかである。
2 請求項1,2についての取消事由1(一致点認定の誤り)について 本件発明における「米肌面にある陥没部の糠分がほとんど除去された・・・洗い米」(請求項1)とは,本件明細書に「そのまま炊飯した場合,飯が糠臭くない程度,即ち,現在一般的に消費者で洗米している程度」(甲第2号証6欄11行〜12行)と記載されていることから明らかなように,糠が除去され,そのまま炊飯しても糠臭くない程度のもののことである。一方,甲15文献には「この発明は,必要時に直ちに加熱して美味な米飯が炊き上げられるようにしたもので」(甲第15号証1頁右欄2行〜3行),「炊飯時に水洗いする必要がなくてその手間が省けるばかりでなく」(同2頁右欄10行〜11行)と記載され,甲16文献(甲第16号証3頁左欄14行〜16行)及び甲17文献(甲第17号証3欄37行〜42行)にも,同趣旨の記載がある。米肌面にある陥没部の糠分がほとんど除去された洗い米が周知であったと審決が認定したことに誤りはない。
3 請求項1,2についての取消事由2(相違点1についての判断の誤り-その1)について (1) 本件発明の「米粒の表層部」についての認定判断の誤り,の主張について 本件発明における「米粒の表層部」は,水の浸入を許容できる区画を意味するのであり,この意味において,審決の,本件発明の「「洗滌時に吸水した水分が主に米粒の表層部にとどまっている」は,「洗滌時に」すなわち洗滌工程中「吸収した水分が主に米粒の表層部にとどまっている」であり,洗滌工程中の米粒の表層部を指すものと認められる。」(審決書20頁10行〜12行)との認定と,原告の「本件発明の「米粒の表層部」とは洗滌,除糠が行われた後の米粒表層部を指している」との主張との間に,意味のある差異は全く存在しないのである。すなわち,審決にいう「洗滌工程中」とは「洗滌工程(洗米,除糠)の間」の意味であり,洗滌工程の間とは,始まりから完了までを意味するのであることは当然であるから,洗滌工程完了時との意味も当然に含むのであり,「米粒の表層部」について審決の認定と原告の主張との間にそもそも差異はないのである。
(2) 引用発明1の「亀裂」についての認定判断の誤り,の主張について 原告らは,引用発明1におけるのと本件発明におけるのとでは「亀裂」の意味内容が異なる,と主張して,刊行物1における「亀裂」に関する記述を挙げている。しかし,原告が指摘する,亀裂に関する刊行物1の記述は,水分添加に起因する亀裂とは関係のないものである。刊行物1には,「亀裂」との直接的な用語を用いて水分添加による亀裂に関して述べたものはない。しかし,審決が指摘するように,そこには,水分添加による砕米化のことは明確に記載されている。そして,砕米と亀裂の発生とは,ほぼ同意義,若しくは,砕米とは,亀裂の発生を原因として生じるものであると解するのが自然である。現に,本件明細書にも,砕粒化の原因は亀裂であると記載されているところである(甲第2号証5欄38行〜39行)。審決の判断に誤りがあるとする原告の主張こそ誤りである。
(3) 引用発明1の「表面皮層」及び周知事項の「白米皮層」等は本件発明の「米粒の表層部」に相当するとした判断の誤り,の主張について 原告らは,本件発明における「米粒の表層部」は,引用発明1における「表面皮層」及び周知事項における「白米皮層」等を除去した後の米粒を対象にした概念であるから,審決の判断は誤りである,と主張する。しかし,本件発明では,米粒は,表層部と内部(深層部)とに分けて認識されており,表層部はここまで水が進出しても後に除水すれば米粒に亀裂を発生しない区画,内部(深層部)はここまで水が浸透すると亀裂が不可避である区画とされているのであり,一方,引用発明1における「表面皮層」等も,水の不可侵区画である「米粒内質」に対する意味で使用されているのである。引用発明1も,本件発明も,いずれも水の不可侵区画を除いた部分という同じ部分を認識し,この同じ部分をそれぞれ「表面皮層」,「表層部」と異なった名で表現しているにすぎない。両者間には,表現上の差があるだけで,技術上の差異はない。
(4) 本件判断A自体の誤り,の主張について 審決は,刊行物1には「米粒と添加水分との接触時間に制限を課すことでたとえ吸水が澱粉層の一部に及んでも亀裂防止を図るという・・・技術思想」(審決書24頁32行〜33行)及び「米粒の亀裂発生防止に短時間の米粒-水接触が決定的要因をなし,米粒と水との接触時間を極めて短くすることで米粒の亀裂発生を防止できるという技術思想」(審決書26頁29行〜31行)が開示されていること,この技術思想は本件発明の技術思想そのものであることをを認定し,これらのことを,主引用発明から本件発明に容易に想到することができたとの判断の根拠の一つとしたものである。引用発明1という特定の技術において加水量の上限をコントロールすることが不可欠であるか否かは,審決の上記判断とは全く関係のないことである。
そもそも,刊行物1には,少量に加水する制御が必須である,などということはどこにも記載されていない。原告らの主張は,その前提からして誤っている。
4 請求項1,2についての取消事由3(相違点1についての判断の誤り-その2)について 原告らは,審決が引用した甲15,甲17及び甲18文献には,本件発明におけるような技術手段による含水率の調整は開示されていないから,含水量に関する審決の判断は誤りである,と主張する。しかしながら,含水率の調整は特定の目的を達成するためのもので,「洗滌」,「除糠」の後,水分が米粒の表層部にとどまる間に「除水」をして,含水率を特定値に設定しようと,審決が引用した甲15ないし甲17文献記載の手段方法により調整しようと,特定の含水量が有する作用効果に差異はない。審決は,含水量を約13%以上16%を超えないよう設定することが,甲15,甲17及び甲18文献からみて容易であると判断したのであり,含水量調整の方法・手段について判断したのではない。原告らの主張は,主張自体として失当である。
5 請求項1,2についての取消事由4(本件発明の顕著な効果の看過)について 原告らは,引用発明1では,本件発明の洗い米のように米肌面の肉眼では見ることのできない微細な陥没部のミクロン単位の糠分をほとんど除去することは到底できない,引用発明1の混水精米は,本件発明の洗い米のように,水を入れるだけで直ちに炊飯でき,しかも,炊飯されたものが糠臭くないもの,ではない,と主張する。しかし,これは審決の取消事由とはなり得ない。
なぜなら,審決は,「米肌面にある陥没部の糠分がほとんど除去された洗い米は,本件出願時当業者において周知のものであった(審決書19頁30行〜20頁1行)」と認定しているのであり,引用発明1によって得られる洗い米が,陥没部のミクロン単位の糠分がほとんど除去された,水を入れるだけで直ちに炊飯でき,しかも,炊飯されたものが糠臭くないもの,である,と判断しているわけではないのである。原告らの主張は,審決の判断とは関係がない点を論難するにすぎない。
当裁判所の判断
1 請求項2のみについての取消事由(審判請求の申立てがない事項について判断をした誤り)について (1) 以下の事実は当事者間に争いがない。
被告Aは,無効2000-35448号審判請求事件において,本件特許に対し,請求項1についてのみ無効審判を請求し,被告サタケは,無効2000-35501号審判請求事件において,本件特許に対し,請求項1及び請求項2の双方について無効審判を請求した。審決は,両事件を併合して審理し,両事件についての判断を1通の審決書にまとめて記載し,その「結論」を「特許第2615314号の請求項1及び2に係る発明についての特許を無効とする。」と,両事件についてまとめて記載している。
審決は,その理由の「2.当事者の主張」において,本件特許の請求項1に係る発明を「本件発明」とし,請求項2に係る発明を「本件請求項2に係る発明」として定義した上で,被告A(請求人)が無効2000-35448号審判請求事件において主張する無効理由1ないし4が,「(1)無効理由1・・・本件発明は,当業者が容易に成し得た発明であり・・・(2)無効理由2・・・本件発明は,発明として未完成であり・・・(3)無効理由3・・・請求項1は「発明の構成に欠くことができない事項のすべてが記載されている」とは到底考えられず・・・(4)無効理由4 本件請求項1に係る記載は単なる願望または公知課題に過ぎず・・・」というものであると記載して,被告Aが,本件特許の無効を,請求項1(本件発明)についてのみ求めていることを明記している。ただし,審決は,本件の無効理由通知(甲第4号証)及びその「4.当審の判断」においては,被告Aの請求と被告サタケの請求とを区別せずに論じた上で,本件特許を,請求項1及び請求項2に係る発明のいずれについても無効である,と判断している。
(2) 併合事件においては,審決を1通の審決書に記載する場合においても,本来,各事件の結論と理由が明確になるように記載すべきであり,特に,併合した二つの事件について,結論と理由の双方あるいはその一方が異なる場合には,それぞれの結論と理由が,どの事件についてのものであるかが明確になるように記載すべきである。この観点からすれば,審決が,「結論」及び「4.当審の判断」において,被告サタケ及び被告Aのそれぞれの無効審判請求を明確に区別せずに論じ,その結論を上記のように示したのは,審決の本来のあるべき記載形式からみて問題がないわけではない。しかし,審決の記載の一部に不明確な部分があったとしても,審決書全体を客観的に合理的に解釈して,審決の記載の趣旨を確定することができる場合は,審決をそのような趣旨のものとして解すべきであることは当然である。
本件においては,そもそも,審判においては,請求人が申し立てていない請求の趣旨については,審理し判断することができないことは,特許法153条3項に明記されていることであること,審決が被告Aの無効理由が請求項1(本件発明)についてのものであることを明記していること,及び,被告サタケは,請求項1及び請求項2のいずれについてもその無効理由を主張し,本件特許を無効とすることを求めており,審決がその両方について判断することは,被告サタケとの関係では当然であることからすれば,審決の上記の「結論」及び「4.当審の判断」中,本件請求項2に関する部分は,被告サタケの無効審判請求について答えたものであり,被告Aが請求していない部分について答えたものではない,と解するのが合理的である。したがって,審決の上記結論中,被告Aの請求,すなわち,無効2000-35448号審判請求事件についての結論は,「特許第2615314号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする」との部分だけであり,この部分については,被告サタケの請求に対する結論も兼ねている,と解するのが合理的である。審決は,上記のとおり解すべきであるから,原告ら主張の点をとらえて,審決を取り消すべき誤りとすることはできない,というべきである。
2 請求項1,2についての取消事由1(一致点認定の誤り)について 本件明細書には,「尚,ここに云う充分な洗米とは,そのまま炊飯した場合,飯が糠臭くない程度,即ち,現在一般的に消費者で洗米している程度を意味するものであり,物理的には精白米表面にある肉眼では見えない無数の微細な陥没部や,胚芽の抜け跡に入り込んでいるミクロン単位の糠粉等を,ほとんど除去している程度,即ち,再びそれを洗米した場合,洗滌水がほとんど濁らない状態を指すものである。」(甲第2号証6欄10行〜17行)との記載がある。この記載から明らかなように,本件発明における「米肌面にある陥没部の糠分がほとんど消去された・・・洗い米」とは,「そのまま炊飯した場合,飯が糠臭くない」ものであり,それは「精白米表面にある肉眼では見えない無数の微細な陥没部や,胚芽の抜け跡に入り込んでいるミクロン単位の糠粉等を,ほとんど除去している」ものであると解することができる。
一般に,米を洗い米とする目的は炊飯したときうまい飯となるような米を得ることであり,本件明細書が引用した3件の従来技術(甲15ないし甲17文献)がそのような洗い米を目的としたものであることは,甲15文献における「必要時に直ちに加熱して美味な米飯が炊き上げられるようにしたもの」(甲第15号証1頁右下欄2行〜3行),甲16文献における「購入後は米研ぎを必要としないですぐに炊飯できるようにしたもの」(甲第16号証1頁右下欄1行〜2行),甲17文献における「本品を熱湯に入れて15分温めると,炊きたてと同じ米飯が手軽に出来,直ちに食用に供する事が出来る。」(甲第17号証3欄40行〜42行)との記載から明らかである。甲15ないし甲17文献に記載された洗米が,本件発明にいう「米肌面にある陥没部の糠分がほとんど除去された・・・洗い米」(請求項1)に該当するものであることは明らかである。。
原告らは,審決において挙げられた従来例における米については,米肌面にある陥没部の糠分がほとんど除去されているとの記載がないから「精白米を除糠のために洗滌し,除水して得られる,米肌面にある陥没部の糠分がほとんど除去された洗い米は,本件出願時当業者において周知のものであった」との審決の認定は誤りである,と主張する。しかし,本件発明の解決すべき課題が「乾燥状態で亀裂の発生していない洗い米」の実現にあることは明白であり,本件明細書に挙げられた従来技術に係る乾燥洗い米が「陥没部に糠分が残り炊飯しても糠臭い」のであれば,そもそも食用に耐えないのであるから,このような洗い米について「乾燥後の亀裂の発生」を問題にしても無意味なことである。本件発明は,従来技術において問題となるのは乾燥後の亀裂であり,この問題を解決すれば実用に耐え得る乾燥洗い米が得られる,ということを前提としていることが明らかである。本件発明は,従来例における乾燥洗い米が炊飯後における糠臭がないこと,すなわち,「陥没部に糠分が残っていない」ことを当然の前提としているものなのである。このことは,本件明細書において,「陥没の糠分をほとんど除去する」手段を格別に開示していないことからも,前記のとおり,各従来例に係る乾燥洗い米が炊飯後に糠臭を発しないものであることからも,明らかである。原告らの主張は失当である。
3 請求項1,2についての取消事由2(相違点1についての判断の誤り-その1)について (1) 本件発明にいう「米粒の表層部」についての判断の誤り,の主張について 原告らは,本件発明の「米粒の表層部」とは,洗滌,除糠が行われた後の米粒の表層部を指しているのに対し,審決が「「洗滌時に吸水した水分が主に米粒の表層部にとどまっている」は,「洗滌時に」すなわち洗滌工程中「吸水した水分が主に米粒の表層部にとどまっている」であり,洗滌工程中の米粒の表層部を指すものと認められる。」(審決書20頁10行〜12行)と認定したのは,誤りである,と主張する。
確かに,中途精白米を洗滌した場合,洗滌によって除糠されることになるから,洗滌後に表面部分の一部(糊粉層)が除去されると,洗滌工程中の「米粒の表層部」と洗滌後(除水前)の「米粒の表層部」とは完全には一致しないことになる。しかし,本件発明における「米粒の表層部」とは,水の浸入を許容できる層のことであり,これは,「強制的に除水」しても「米肌に亀裂」が生じない層を意味する(甲第2号証)。この意味において,本件発明についての審決の,「「洗滌時に吸水した水分が主に米粒の表層部にとどまっている」は,「洗滌時に」すなわち洗滌工程中「吸水した水分が主に米粒の表層部にとどまっている」であり,洗滌工程中の米粒の表層部を指すものと認められる」(審決書20頁10行〜12行)との認定と,原告らの,本件発明の「米粒の表層部」とは洗滌,除糠が行われた後の米粒表層部のことである,との主張との間に,そもそも意味のある差異は全くないということができるのである。
また,審決がいう「洗滌工程中」が「洗滌工程(洗米,除糠)の間」の意味であることは明らかであり,「洗滌工程の間」は,当然に,洗滌の始まりから完了までを意味するから,審決の解釈によっても,洗滌完了時において「水分が主に・・・とどまっている」べき米粒の層が,「米粒の表層部」になると解することができる。審決の本件発明の「米粒の表層部」についての前記認定と,原告らの「米粒の表層部」についての前記の主張との間に意味のある差異がないことは,この点からも明らかである。審決の前記認定が誤りであるとする原告らの主張は,理由がない。
(2) 引用発明1の「亀裂」についての認定判断の誤り,の主張について 原告らは,(ア)刊行物1には本件発明でいう除糠,除水,陥没部を意味するような記載はない,(イ)刊行物1には,本件発明における「亀裂」に関する技術についての開示はない,刊行物1における「亀裂」は,審決の上記認定の「砕米化」とは別個の意義を有するのであるから,「砕米化」のことが記載されているからといって,「亀裂」のことが記載されていることになるわけではない,(ウ)審決が湿式精米法における技術常識として挙げた甲27ないし甲29文献,甲31文献には,本件発明にいう除糠,除水,亀裂発生防止に関する技術的意味をうかがわせるような開示はないから,刊行物1に「歩留率94%もしくはそれ以下の白米すなわち6分搗きもしくはそれ以上の精白度の白米に,米量に対して0.1〜3%の範囲で水を添加して,精米(精白)を行うと同時に除糠除水を行う混水精米において,添加水分が表面皮層にとどまっている20秒内外の短時間のうちに急速に除糠除水を行い,添加水分を米粒内質まで浸透させないようにして,米肌に亀裂がない白米を製造することが記載されている」(審決書20頁29行〜35行)とした審決の認定は誤りである,と主張する。
しかし,刊行物1には,審決が審決書18頁ないし19頁の(a)ないし(g)に摘記した記載がある。その一部を掲記すれば,次のとおりである。
「玄米に対する歩留率94%もしくはそれ以下の白米すなわち6分搗きもしくはそれ以上の精白度の白米を多孔壁除糠精白筒精白室により更に精白して精白度を進行させる過程において,その白米中に水または塩水その他水溶液を添加し直ちに精米を行なうと同時に前記多孔壁部を通して急速に除糠除水を行ない前記精白室から排出することを特徴とする混水精米法。」(甲第5号証1頁左下欄特許請求の範囲,審決書18頁(a)), 「本発明は94%以下の歩留率になつた高白度白米に対し,なるべく最終仕上歩留率に近い過程において混水し,通常米量に対し0.1〜3%の範囲で適量の加水を行ない白米粒の表面だけを湿潤して軟化し直ちに精白作用により精米すると糠を発生して含水糠となるので糠と水が同時に多孔壁部を通して精白室外に排除され,澱粉質の多い糠なので白米粒面に糠の附着が少なく除糠作用が容易となり,添加水分が米粒内質に吸収浸透されないように米粒内質を保護する」(甲第5号証1頁右下欄18行〜2頁左上欄7行,審決書18頁(c)), 「本発明は米粒総量に対する水分添加率こそ0.1〜3%であるが,せいぜい20秒内外の短時間処理なので,米粒面は水でベタ付き換言すれば米粒表面の細胞に対しては100%に近い水分添加と見てよいのである。要するに,調湿とは逆に飽くまで内質に水分が及ばないようにし,表面だけを湿潤するのが立て前であって,表面皮層だけの軟質化を目的とするのである。これによつて米粒表面に固着している糊粉層も難なく剥離され米粒全面が均一な高白度の白米となり粒面が高密度の光沢平滑面に仕上がるのである。」(甲第5号証2頁右上欄6行〜17行,審決書18頁(e)), 「従来は歩留り94%以下の高白度白米に水分を添加すると忽ち水分を粒内質深く浸透して砕米化するのが常識なので,白米に混水して精米するなどは夢想だにしなかつたものである。本発明は全く奇想天外ともいうべき処理法である。」(甲第5号証2頁左下欄18行〜右下欄1行,審決書19頁(f)) 刊行物1の上記記載から,引用発明1においては,精白・除糠時に20秒内外の短時間に水分を添加し,除水すること,短時間の除水により,表面だけを湿潤し,米粒内質に添加水分が吸収浸透しないようにすること,従来は,水分を添加すると,水分が米粒内質深く浸透し,砕米化することが常識であったのに対し,引用発明1は,これと全く異なり,砕米化しない方法であることが認められる。
原告らは,刊行物1に,本件発明における「除糠」,「除水」,「陥没部」を意味するような記載は全く存しないと主張し,その根拠として,刊行物1には,「本発明は白米の最終仕上直前に混水して米粒面を極めて薄層に軟質化し糊粉層を精白し米粒面を平滑化し,光沢を帯びる素地を生成した後,グレージングドラムにおいて雪崩状の粒粒琢磨作用を施すので微粒子の密面仕上げになり容易に強度の光沢が発生」(甲第5号証3頁左上欄末行〜右上欄5行)する旨が記載されていることを挙げる。しかし,刊行物1に本件発明にいう除糠,除水が記載されていることは,上述したところから明らかである。刊行物1に,それ以外に原告ら主張の上記記載があるからといって,刊行物1の前記の記載の趣旨が変わるわけではない。原告らの主張は理由がない。
原告らは,刊行物1には,「亀裂」に関して,「白米粒面を滑面化するとふん囲気との関係湿度により,例えば周囲の空気が60%以下の場合などに粒表面が空気に曝されると,その粒面に亀裂が発生する傾向があるが,これは普通の白米でも同様である。このような場合に塩分を皮層に含有すると亀裂を防止することができる。」(甲第5号証2頁右下欄8行〜14行)との記載があり,刊行物1におけるこのような記載によると,同刊行物における「亀裂」は,審決の上記認定の「砕米化」とは別個の意義を有するのである,と主張する。しかし,原告らがここで指摘する「亀裂」に関する刊行物1の記載が,水分添加に起因する「亀裂」に関するものではないことは,記載内容自体で明らかである。そして,刊行物1には,水分添加に起因して「亀裂」が生じる,との記載はないものの,水分添加に起因して「砕米化」が生じるとの記載があることは上記認定のとおりである。そして,亀裂が発生することにより,砕米が発生することは,本件明細書においても「砕粒化の原因である亀裂が出来る」(甲第2号証5欄38行〜39行),「亀裂の入った米粒は1粒もなく…勿論,砕粒にもならず」(同10欄32行〜34行)として,水分添加によりもたらされる「砕粒化」の原因が亀裂であることを当然のこととしていることから明らかである。米粒と添加水分との接触時間が長すぎると,水分が米粒内質まで浸透して亀裂が発生し,亀裂が発生すると「砕米化」に至ることが多いということであるから,「亀裂」の発生を防止するということと砕米化を防止するということとは同義であり,砕米化を防止することが刊行物1に開示されているということは,「亀裂」の発生を防止することが開示されていることになるのである。原告らは,刊行物1にたまたま「亀裂」との言葉があり,これが水分添加による亀裂以外の意味で使用されていることから,上記主張をなすものであり,その主張に理由がないことは明らかである。
審決が認定しているとおり,甲27文献には,「混水の米粒接触時間が長いと米粒内質に奥深く浸入し精白完了後において空中に曝すと著しく亀裂を生じ砕米になる危険が伴うので米粒と水液の接触時間は超短時間であることが必須要件であり,」(甲第27号証2欄10行〜14行),「例えば玄米に対する歩留93%以下の白米中に0.5〜1.5%位の範囲で混水を施し,・・・白米表面の薄層を軟質化し,しかも白米は吸水性に富むから水液が白米粒に接触する時間,米流の濡れる時間は糊粉層の剥脱可能な軟質化の条件において,短い程亀裂に対しては安全率が大である。」(同2欄27行〜35行)との記載があり,甲28文献には,「加湿精米機の特性は,精白室に供給される白米に適量の水分を添加して白米の極めて薄層の粒表面を湿潤軟質化し,精白転子と多孔壁通風除糠精白筒とによって白米粒面の薄層だけを剥離する」(甲第28号証2頁左上欄14行〜18行),「水分量が過剰なときは白米粒に水分が厚層に浸透し,しかもこの浸透層が極めて僅かでも適当な厚さの限界を超えると,直ちに米粒表皮に著しい亀裂を発生し,」(同2頁右上欄4行〜8行)との記載があり,甲29文献には,「米粒面に添加する水分量と米粒面に吸湿する皮層の厚さが極めて微妙であって,その厚さは,その加湿時から精白の始まるまでの経過時間,すなわち予備時間によって定まるから,予備時間の精密な調節が必要である。この適切な標準時間は,通常10秒間以内であるが,この時間が長すぎると米粒に亀裂を生じ粒面が粗面化し,」(甲第29号証1欄21行〜28行)との記載があり,甲31文献には,「従来の加水加湿等の湿潤法を用いた精白作用は,・・・添加水分が米粒内質に浸透し亀裂併発の欠陥を伴う」(甲第31号証2欄12行〜18行),「米粒内質への水分の浸透を防ぎ,米質を損傷したり亀裂を生じない」(同3欄1行〜3行)との記載がある。
これらの各文献の記載からすれば,水分を添加して精白・除糠を行う際に添加水分が米粒皮層あるいは米粒表面の薄層にとどまっている(すなわち米粒と水分が接触する時間が短い)うちに除水までの工程を行えば米粒の亀裂発生・砕米化を防止できることは当業者に周知であったと優に認めることができる。そして,この周知事項を前提にすれば,刊行物1に接した当業者にとって,引用発明1は,「歩留り94%以下の高白度白米に水分を添加すると忽ち水分を粒内質深く浸透して砕米化する」(甲第5号証2頁左下欄18〜20行)という従来の常識に立って,このような砕米化を防止するために,「せいぜい20秒内外の短時間処理」により除水していることを容易に理解することができることは,明らかである。
原告らは,これらの各文献における記載は,本件発明の「洗滌時に吸水した水分が主に米粒の表層部にとどまっているうちに除水して得られる,米肌に亀裂がなく,米肌面にある陥没部の糠分がほとんど除去された」という構成が本件出願時に当業者において広く知られていたということを何ら証明するものではない,と主張する。しかし,審決は,「精白米を除糠のために洗滌し,除水して得られる,米肌面にある陥没部の糠分がほとんど除去された洗い米」は,本件明細書における従来技術の記載からみて,本件出願時当業者に周知のものであった(審決書19頁36行〜20頁1行)と認定しているのであり,このことを甲27ないし甲29文献及び甲31文献に基づいて認定しているわけではない。審決は,あくまで,「添加水分が米粒皮層あるいは米粒表面の薄層にとどまっている短時間のうちに精白除糠,除水を行えば,すなわち水分と精白米との接触時間の短時間化で白米の亀裂発生,砕米化を防止できること」(審決書21頁2段)という技術思想が甲27ないし甲29文献,及び甲31文献に開示されており周知であったと認定しているものである。原告らの主張は失当である。
(3) 引用発明1の「表面皮層」及び周知事項の「白米皮層」等は本件発明の「米粒の表層部」に相当するとした判断の誤り,の主張について 原告らは,引用発明1の「表面皮層」や周知事項の「白米皮層」等は加湿精米により剥離される層であり,剥離後の米粒にはそのような層は存在していないのに対し,本件発明の「表層部」は除水後も剥離されずに残っている層である,したがって,審決が,「刊行物1における「表面皮層」及び上記周知事項における「白米皮層」及び「白米の表面薄層」は,「米粒内質」と対になる概念で表示されており,しかも,吸水の結果生ずる米粒の亀裂発生を,米粒と水分との接触を短時間に抑えることで防止しようとするとき,この吸水が許容される米粒の表層の部位を指すことから,本件発明における「米粒内部」(若しくは「深層部」)に対置して表示される本件請求項1に記載の「米粒の表層部」に相当する。」(審決書22頁16〜22行)と認定したことは誤りである,と主張している。
しかしながら,本件発明の「米粒の表層部」も,引用発明1の「表面皮層」や周知事項の「白米皮層」等も,米粒の亀裂発生・砕米化を防ぐためには,水分が米粒の表面からどの程度の範囲まで浸透することが許容し得るかを表現するためのものである点で一致するものであることは前記(1)及び(2)に認定したところから明らかである(米粒の精白の程度等によって,その表面側に除去されるべき糊粉層が存在するかどうかの点で差異が生じ得るだけである。)。これと同旨の審決の認定に誤りはない。
(4) 本件判断A自体の誤り 原告らは,審決が,引用発明1における加水の短時間処理の技術を分析し,認定しただけで,そこで砕米の防止のために必須とされている加水量の制御との技術について分析し,認定することはしていない,引用発明1において,加水量を増やしても,水の損失率が増えるだけで洗い米は得られないにもかかわらず,単に引用発明1に加水量を増せば,本件発明の洗滌作用が得られるものと誤解したものである,と主張している。
しかし,審決は,米粒の亀裂発生・砕米化の防止のためには,米粒への水の浸透を許容範囲に抑制することが必要であり,そのためには米粒と水との接触時間を短時間にすることが決定的に重要であって,これにより米粒の亀裂を防止することができる,との技術思想が刊行物1に開示されていることから,これに接した当業者にとって,その技術思想を本件出願当時の従来技術である洗い米に適用することは容易である,と判断したものである。
引用発明1における水の浸透の抑制は水との接触時間を短時間にしたことによるものであることが明らかにされているのであるから,従来技術である洗い米に同発明の技術を適用する際に,原告らが主張するような加水量の制御について検討する必要性は認められない。
審決は,引用発明1において「洗滌」が行われているか否かを問題にしているわけではなく,引用発明1において加水量を増やせば「洗滌」を行えることを当業者が容易に想到し得るか否かを問題にしているわけでもない。審決が単に加水量を増やせば洗滌作用が得られるものと誤解している,との原告らの主張は,審決の認定を誤解するものであり,主張自体として失当であることが明らかである。
4 請求項1,2についての取消事由3(相違点1についての判断の誤り-その2)について 原告らは,審決の「濡れた米を除水して,含水量が約13%以上16%を超えない範囲内の所定の含水量になるようにすることは,本件特許の出願時に当業者において周知であった・・・ことから,洗い米の平均含水率を「約13%以上16%を超えない」ように除水することは,当業者が容易になし得ることである」(審決書23頁2行〜8行)との認定判断につき,審決が引用する甲15,甲17及び甲18文献のいずれにも本件発明の構成要件である「洗滌」,「除水」などの技術的内容についての開示はないから,上記の各文献を見ても,本件発明のような技術手段によってその含水量にすることを容易に想到することなど,およそ考えられない,と主張する。
しかしながら,そもそも本件発明の「平均含水率が約13%以上16%を超えない」との構成要件は,単に,直ちに炊飯するための洗い米ではなく,ある程度の期間の保存が可能な乾燥洗い米(無洗米)であることを表示するものにすぎず,技術的には特段の意味がない周知の技術事項にすぎない。すなわち,農水省の定める農産物規格規定において,精白米の含水率は16%以下であることを要するとされており(乙第16号証),本件発明の「平均含水率が…16%を超えない」との構成要件は,含水率16%を超える精白米は流通することができないことに起因する制限を,そのまま特許請求の範囲に記載したにすぎない。また,「13%」の下限についても,本件明細書中に「従って米粒の深層部の含水率は通常の精白米と同じ(13%前後)」(甲第2号証4欄39行〜40行)とあることからも明らかなように,通常の精白米の含水率を記載したものにすぎない。このように,本件発明の「平均含水率が約13%以上16%を超えない」との構成要件は,その容易想到性の判断においては,何の意味も持たないものである。
米粒における含水率の調整は,このように本件発明の目的とは関係のない特定の目的を達成するために不可欠のものであり,「洗滌」,「除糠」の後に,水分が米粒の表層部にとどまる間に「除水」をなして,含水率を特定値に設定しようと,審決が引用した甲15,甲17及び甲18文献記載の手段方法により調整しようと,本件発明の「平均含水率が約13%以上16%を超えない」との特定の含水率の構成に差異はない。審決の上記判断は,いかなる方法・手段によるにせよ実現すべき米粒の含水率として約13%以上16%を超えないものを選ぶことが,上記各文献からみて容易であるというものであり,含水率の調整の方法手段についての判断を含むものではない。また,そのような判断をする必要もない。原告らの主張する取消事由に理由はない。
5 請求項1,2についての取消事由4(本件発明の顕著な効果の看過)について 原告らは,本件発明は,引用発明1や従来の洗い米と比較して,その作用効果において大きな相違が存在する,引用発明1では,肉眼でも確認できる「縦溝」の糠は削り落すにしても,本件発明の洗い米のように,米肌面の肉眼では見ることのできない微細な陥没部のミクロン単位の糠分をほとんど除去することは到底できないのである,引用発明1の混水(加湿)精米は,本件発明の洗い米のように,水を入れるだけで直ちに炊飯することができ,糠臭くないものとはならない,と主張する。
しかしながら,原告らの上記主張は,主張自体として失当である,構成自体については容易想到性の認められる発明について,効果の顕著性を根拠に特許性(進歩性)を認めるためには,その効果の顕著性は,当該構成の効果として予想されるものとの対比において認められなければならないと解すべきであるのに,原告らの主張する顕著性は,従来技術(引用発明1を含む。)との対比におけるものにすぎないからである。
のみならず,原告らの主張が的を射たものでないことは,別の点からも明らかである。審決は,「米肌面にある陥没部の糠分がほとんど除去された洗い米は,本件出願時当業者において周知のものであった」(審決書19頁末行〜20頁1行)と認定しているのであり,引用発明1によって得られる洗い米が,陥没部のミクロン単位の糠分がほとんど除去され,水を入れるだけで直ちに炊飯でき,糠臭くないものであると認定しているわけではない。原告らのこの主張は,審決が認定判断していないことを認定しているとして,それを論難するものであり,その主張自体失当であることが明らかである。
結論
以上に検討したところによれば,原告らの主張する取消事由にはいずれも理由がなく,その他,審決には,これを取り消すべき誤りは見当たらない。そこで,原告らの本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 設樂隆一
裁判官 高瀬順久