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関連審決 無効2000-35500
関連ワード 技術的思想 /  製造方法 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  周知技術 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  容易に想到(容易想到性) /  構成要件 /  設定登録 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 14年 (行ケ) 185号 審決取消請求事件
原告 株式会社東洋精米機製作所
原告 財団法人雑賀技術研究所
両名訴訟代理人弁護士 清永利亮
両名訴訟代理人弁理士 小原英一
同 柳野隆生
被告 株式会社サタケ(旧商号 株式会社佐竹 製作所)
訴訟代理人弁護士 牧野利秋
同 鈴木修
同 伊藤玲子
訴訟代理人弁理士 増井忠弐
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/09/04
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告ら 特許庁が無効2000-35500号事件について平成14年3月25日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実等
1 特許庁における手続の経緯 原告らは,発明の名称を「洗い米の製造方法」とする特許第2602090号の特許(平成1年3月14日出願(以下「本件出願」という。),平成9年1月29日設定登録。以下「本件特許」といい,その発明を審決と同様に「本件発明」という。請求項の数は1である。)の特許権者である。
被告は,平成12年9月19日,本件特許を無効にすることについて審判を請求した。
特許庁は,被告の請求を無効2000-35500号事件として審理し,平成13年12月3日付けで無効理由通知をした上で,平成14年3月25日,「特許第2602090号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。」との審決をし,審決の謄本を同年4月4日に原告らに送達した。
2 特許請求の範囲 「【請求項1】精白米を水に浸け,洗滌,除糠を行い,吸水部分が主に米粒の表層部である洗い米を得,更に除水工程において洗滌水と表面付着水の除水を行い,洗い米を製造する方法であって,水中への浸漬から除水までの工程を米粒の吸水量が極くわずかであるうちに完了し,水の浸透を主に米粒の表層部でとどめるようにし,かつ米粒の含水率が除水した時点で16%を超えないことを特徴とする米粒に亀裂を有さない洗い米の製造方法。」 3 審決の理由 別紙審決書写しのとおりである。要するに,本件発明は,本件出願時既に周知となっていた従来技術(判決注・主引用発明に当たる。)と,特開昭52-43664号公報(甲第5号証,以下審決と同様に「刊行物1」という。)に記載された発明(以下「引用発明1」という。)及び特開昭54-13382号公報(甲第6号証,以下審決と同様に「刊行物2」という。)に記載された発明(以下「引用発明2」という。)並びに本件出願時の周知技術とに基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,本件特許は,特許法29条2項に違反して特許されたものであるから,無効とすべきである,とするものである。
審決が,上記結論を導くに当たり,本件発明と主引用発明に当たる従来技術との一致点及び相違点として認定したところは,次のとおりである。
一致点 「精白米を水に浸け,洗滌,除糠を行って洗い米を得,更に除水工程において洗滌水と表面付着水の除水を行い,洗い米を製造すること」 相違点 「本件発明は,(ア)水中への浸漬から除水までの工程を米粒の吸水量が極くわずかであるうちに完了し,水の浸透を主に米粒の表層部でとどめるようにしている点,(イ)米粒の含水率が除水した時点で16%を超えないようにしている点,及び(ウ)得られる洗い米が亀裂を有さない洗い米である点」
原告ら主張の審決取消事由の要点
審決は,周知技術でないものを周知技術と認定してこれを主引用発明としたため,本件発明と主引用発明である周知技術との一致点の認定を誤り(取消事由1),また,相違点についての判断を誤ったものであり(取消事由2ないし4),これらの誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(一致点認定の誤り) 審決は,「本件明細書の「従来の技術」に「今までに知られている洗い米の製造法としては,例えば,精米した米を洗った後水切りをし,自然乾燥又は加熱乾燥する方法(特開昭57ー141257号公報),精米した米を洗った後冷風または常温の送風により乾燥する方法(特開昭61ー115858号公報),白米を水洗,水切りした後水分を15%〜16%に調整する方法(特公昭51ー22063号公報)が挙げられる。これらの方法はいずれも水中に浸した米を通常の方法で洗った後乾燥するものである」(特許公報第3欄4行〜11行)と記載されていることからも明らかなように,精白米を水に浸け,洗滌,除糠を行って洗い米を得,更に除水工程において洗滌水と表面付着水の除水を行い,洗い米を製造することは,本件特許の出願時に当業者において周知であったと認める。」(審決書10頁27行〜37行)と認定している。しかし,審決のこの認定は誤りである。
本件出願の願書に添附した明細書(以下「本件明細書」という。)に従来技術として引用されている特開昭57-141257号公報(甲第16号証,以下「甲16文献」という。),特開昭61-115858号公報(甲第17号証,以下「甲17文献」という。),特公昭51-22063号公報(甲第18号証,以下「甲18文献」という。)に記載されているのは,上記のとおり,「精米した米を洗い,水切りをし自然乾燥または加熱乾燥したもの」,「精米した米を洗い,冷風または常温の送風により乾燥したもの」,「白米を水洗い,水切りしたのち,水分を15%〜16%に調整したもの」があったということだけである。上記各文献のいずれをみても,本件発明における,「精白米を水に浸け,洗滌,除糠を行い,・・・洗い米を得,更に除水工程において洗滌水と表面付着水の除水を行い,洗い米を製造する方法」(本件明細書の請求項1)に相当するもののことなどは,一切,記載も示唆もされていない。
したがって,本件明細書中の上記従来技術の記載に基づいて,本件発明の「精白米を水に浸け,洗滌,除糠を行って洗い米を得,更に除水工程において洗滌水と表面付着水の除水を行い,洗い米を製造すること」が本件出願時当業者において周知のものであったとする審決の認定は誤りである。
2 取消事由2(相違点(ア)及び(ウ)についての判断の誤り) 審決は,「以上の点を踏まえると,すなわち,歩留率94%もしくはそれ以下の白米すなわち6分搗きもしくはそれ以上の精白度の白米に,米量に対して0.1〜3%の範囲で水を添加して,精米(精白)を行うと同時に除糠除水を行う混水精米において,添加水分が表面皮層(本件発明の「表層部」に相当する)にとどまっている20秒内外の短時間のうちに急速に除糠除水を行い,添加水分を米粒内質まで浸透させないようにして,米肌に亀裂がない白米を製造することが刊行物1に記載されていること,及び歩留93%以下の白米に0.5〜1.5%位の範囲で水を添加し,添加水分が白米表面の薄層(本件発明の「表層部」に相当する)にとどまっている超短時間のうちに除糠除水を行い,添加水分を米粒内質に奥深く侵入させないようにすることで,すなわち,水と白米との接触時間の短時間化で白米の亀裂発生,砕米化を防止できることが刊行物2に記載されていることからすれば,その表面に糠層(糊粉層)が残存している中途精白米を加水量を増やして精白,除糠と除水をする場合,米粒の吸水量が極くわずかである短時間内に精白,除糠と除水を完了し,水の浸透を主に米粒の表層部にとどめるようにすれば,米肌に亀裂を有さない洗い米が得られることは,当業者であれば容易に想到し得ることである。」(審決書13頁10行〜26行)と判断した(以下,審決のこの判断を「本件判断A」という。)。しかし,審決のこの判断は誤りである。
(1) 本件発明の「米粒の表層部」についての認定判断の誤り 審決は,本件判断Aの前に,その前提の一つなる判断として,「請求項1の「水中への浸漬から除水までの工程を米粒の吸水量が極くわずかであるうちに完了し」は,吸水の結果生ずる米粒の亀裂発生を,米粒と水分との接触を短時間に抑えることで防止しようとするとき,この吸水が許容される米粒の吸水量であり,同じく「水の浸透を主に米粒の表層部にとどめるようにし」は,吸水の結果生ずる米粒の亀裂発生を,米粒と水分との接触を短時間に抑えることで防止しようとするとき,この吸水が許容される米粒の表層の部位であると認めることができる。 」(審決書11頁34行〜12頁4行)との判断をした。しかし,審決のこの判断は誤りである。
本件発明の「米粒の表層部」とは,本件明細書の特許請求の範囲に記載されているとおり,洗滌時に吸水した水分が留まっている層を意味する。そして,「米粒の表層部」に留まっている水分は,そこに留まっているうちに,米粒全体の含水率が16%以下になるように除水されるのである。すなわち,本件発明における洗滌,除糠及び除水は,数分以内という短時間で行われ,除水は,洗滌,除糠後,「米粒の表層部」に付着吸水した水分を除去するために行われるのであるから,本件発明の「米粒の表層部」とは,洗滌,除糠が行われた後の米粒の表層部を指しているのである。本件明細書には,本件発明の「米粒の表層部」の意義について,審決が認定したようなことは記載されていない。審決は,本件明細書の記載に基づかずに,本件発明の内容を認定したものである。
(2) 引用発明1の「亀裂」についての認定判断の誤り 審決は,本件判断Aの前に,その前提の一つ認定判断として,「刊行物1には,上記(a)〜(h)の記載(判決注・審決書9頁〜10頁参照)からみて,歩留率94%もしくはそれ以下の白米すなわち6分搗きもしくはそれ以上の精白度の白米に,米量に対して0.1〜3%の範囲で水を添加して,精米(精白)を行うと同時に除糠除水を行う混水精米において,添加水分が表面皮層にとどまっている20秒内外の短時間のうちに急速に除糠除水を行い,添加水分を米粒内質まで浸透させないようにして,米肌に亀裂がない白米を製造することが記載されている。
(刊行物1には,「亀裂」という用語を用いて説明する記載はないが,「従来は歩留り94%以下の高白度白米に水分を添加すると忽ち水分を粒内質深く浸透して砕米化するのが常識なので,白米に混水して精米するなどは夢想だにしなかつたものである。」(2頁左下欄18行〜左下欄1行)と記載され,亀裂が原因で生ずる「砕米化」が避けられることが刊行物1に記載され,さらに,湿式精米法において,添加水分が米粒皮層あるいは米粒表面の薄層にとどまっている短時間のうちに精白除糠,除水を行えば,すなわち水分と精白米との接触時間の短時間化で白米の亀裂発生,砕米化を防止できることが,本件特許の出願時当業者の技術常識であった(例えば,特公昭55ー5381号公報(甲第38号証),特公昭61ー10179号公報(甲第40号証),特開昭61-283359号公報(甲第16号証)参照。)ことからすれば,添加水分が表面皮層にとどまっている20秒内外の短時間のうちに除糠除水を行い,添加水分を米粒内質まで浸透させないようにすることで砕米化につながる亀裂発生を防止していることが刊行物1に開示されていることは,当業者であれば直ちに理解できることである。)」(審決書12頁10行〜31行)との認定判断をしている。しかし,刊行物1の審決認定の(a)〜(h)の記載から上記のような認定判断をすることはできず,審決のこの認定判断は誤っている。
(ア) 審決が認定するとおり,刊行物1には,「除糠」,「除水」,「縦溝」(審決書9頁(a),(b)等参照)などの用語がみられる。しかし,刊行物1のこれらの用語は,本件発明の「除糠」,「除水」,「陥没部」とは,その意義を異にする。
すなわち,本件明細書には,本件発明は,「精白米の水中での洗滌,除糠工程及び除水工程を従来とは桁違いに短い時間内に行えば,米粒に亀裂が入らず炊飯に適する洗い米が得られる」(甲第2号証2頁4欄18行〜21行)という知見に基づくものであって,「本発明の洗い米は精白米を水中で洗滌,除糠を行い,更に強制的に除水を行い,この間米粒の主な吸水部は米粒の表層部にとどまり,水への浸漬から洗滌,除糠,除水までの数分以内に行ったものであって,米肌には亀裂が発生しておらず米肌面にある微細な陥没部の糠分がほとんど除去されて」(同欄22行〜27行)いる,と記載されている。本件発明は,このように,洗滌及び除水の工程で吸水した米粒の部分が米粒の表層部であるうちに洗滌及び除水を行えば,除水後に亀裂は入らない,との知見に基づくものである。
本件発明における「除糠」とは,「米肌面にある陥没部の糠分がほとんど除去された」(請求項1)状態にすることである。本件発明の洗い米における「米肌面にある陥没部」とは,「精白米表面にある肉眼では見えない無数の微細な陥没部」(甲第2号証3頁6欄13行〜14行)であって,「糠粉等が入り込んでいる陥没部は,開口面よりも深みが長く,しかも大半はミクロン単位の狭い開口面だから,その奥の方に入り込んでいる糠粉等を除去するには,水中に浸して激しく攪拌している間に,糠粉等を水に浮遊させて洗い流す以外にない。」(同4頁7欄44行〜49行)というものである。
本件発明における「糠分がほとんど除去された」(請求項1)とは,そのまま炊飯しても飯が糠臭くない程度に陥没部の糠分が除去された,ということであると解すべきである。
これに対して,審決が認定している刊行物1の記載(審決書9頁(a)〜10頁(h))中には,本件発明における「除糠」,「除水」,「陥没部」を意味するような記載は全く存在しない。かえって,刊行物1には,「本発明は白米の最終仕上直前に混水して米粒面を極めて薄層に軟質化し糊粉層を精白し米粒面を平滑化し,光沢を帯びる素地を生成した後,グレージングドラムにおいて雪崩状の粒粒琢磨作用を施すので微粒子の密面仕上げになり容易に強度の光沢が発生」(甲第5号証3頁左上欄末行〜右上欄5行)すると記載されているのである。
(イ) 審決書9頁(a)ないし10頁(h)で引用されている刊行物1の記載中には,本件発明における「亀裂」に関するものはない。
本件明細書には,本件発明の「亀裂」に関して,「米を洗った場合,その間に吸水して含水率が高くなり,そのままでは腐敗したり,カビが生えたりしてしまうし,それを避ける為に乾燥させると,米にまず亀裂が入り,更に,砕粒化してしまう」(甲第2号証1頁2欄9行〜12行),「精白米は一旦水に漬けたら,これを乾燥せしめると必ず亀裂が入り」(同号証1頁2欄14行〜15行)などの記載がある。これらの記載と,「亀裂」の用語は,一般に,「ひびがわれること。
また,その裂け目,ひびわれ。」(広辞苑第4版)をいうものとされていることからすれば,本件発明における「亀裂」とは,「米粒の表面」に生じる「ひびわれ」のことであることが明らかである。
これに対し,刊行物1には,「亀裂」に関しては,「白米粒面を滑面化するとふん囲気との関係湿度により,例えば周囲の空気が60%以下の場合などに粒表面が空気に曝されると,その粒面に亀裂が発生する傾向があるが,これは普通の白米でも同様である。このような場合に塩分を皮層に含有すると亀裂を防止することができる。」(甲第5号証2頁右下欄8行〜14行)と記載されている。刊行物1における「亀裂」に関するこの記載によると,引用発明1には本件発明における「亀裂」に関する技術についての開示はない,という以外にない。引用発明1における「亀裂」は,審決の上記認定の「砕米化」とは別個の意義を有するのであるから,「砕米化」のことが記載されているからといって,「亀裂」のことが記載されていることになるわけではない。
(ウ) 審決が「湿式精米法において,添加水分が米粒皮層あるいは米粒表面の薄層にとどまっている短時間のうちに精白除糠,除水を行えば,すなわち水分と精白米との接触時間の短時間化で白米の亀裂発生,砕米化を防止できることが,本件特許の出願時当業者の技術常識であった」ことの根拠として引用した,特公昭55-5381号(甲第7号証,以下「甲7文献」という。),特開昭61-283359号(甲第28号証,以下「甲28文献」という。),及び特公昭61-10179号(甲第29号証,以下「甲29文献」という。)は,いずれも,本件発明の「水中への浸漬から除水までの工程を米粒の吸水量が極くわずかであるうちに完了し,水の浸透を主に米粒の表層部でとどめるようにし,かつ米粒の含水率が除水した時点で16%を超えない」という構成が本件出願時に当業者において広く知られていたということを何ら証明するものではない。これらの三つの文献には,本件発明における「除糠」,「除水」,「亀裂発生防止」に関する技術的意味をうかがわせるような開示は一切ないのである。
(3) 刊行物2に記載された発明の認定の誤り 審決は,本件判断Aの前に,その前提の一つとなる認定として,「刊行物2には,玄米に対する歩留93%以下の白米中に0.5〜1.5%位の範囲で混水を施し,白米表面の薄層を軟質化して混水仕上精米を行うとき,白米は吸水性に富むから水液が白米粒に接触する時間,すなわち米粒の濡れる時間は,糊粉層の剥離可能な軟質化の条件において,短い程亀裂に対しては安全率が大であること,及び混水の米粒接触時間が長いと米粒内質に奥深く侵入し精白完了後において空中に曝すと著しく亀裂を生じ砕米になる危険が伴うので米粒と水液の接触時間は超短時間であることが必須要件であることが記載されている。」(審決書12頁32行〜13頁3行)との認定をした。しかし,審決のこの認定は誤りである。
刊行物2の特許請求の範囲には,「1 多孔壁除糠精白筒からなる精白室に供給する米の流量を調節する調節装置と水の流量を計測できる流量計及び前記水の流量を調節できる流量調節装置とを併設し,前記米の流量を調節する調節装置と水の流量を調節できる流量調節装置を連動させたことを特徴とする加湿精米器における流量調節装置。」との記載がある。引用発明2は,この構成によって,「米粒と水液の接触時間は超短時間であること」(甲第6号証2欄13行)との課題を解決しているものであり,本件発明におけるように,「洗滌」,「除糠」及び「除水」という技術手段によって,「水中への浸漬から除水までの工程を米粒の吸水量が極くわずかであるうちに完了し,水の浸透を主に米粒の表層部でとどめるようにし,かつ・・・米粒に亀裂を有さない洗い米」(請求項1)を得るとの技術思想が何ら開示されていない。審決は,引用発明2の意義を検討せずに,刊行物2の記載の一部を恣意的に引用したものであり,上記認定は誤りである。
(4) 引用発明1の「表面皮層」及び引用発明2の「白米表面の薄層」が本件発明の「米粒の表層部」に相当するとした判断の誤り 審決は,本件判断Aの前に,その前提の一つとなる判断として,「刊行物1における「表面皮層」及び刊行物2における「白米表面の薄層」は,米粒内質と対になる概念で用いられており,吸水の結果生ずる米粒の亀裂発生を,米粒と水分との接触を短時間に抑えることで防止しようとするとき,この吸水が許容される米粒の表層の部位を指すことは明らかであるから,本件発明における「米粒内部」に対置して表示される「表層部」に相当するものである。」(審決書13頁4行〜9行)との判断をした。しかし,審決のこの判断は誤りである。
引用発明1の加湿精米では,米粒内質に吸湿しないうちに湿潤した「表面皮層」を速やかに剥離するため,精米後の米粒にはもはや「表面皮層」は存在せず,当初は「米粒内質」だった部分が表面に露出した状態の最終精白米(目標とした精白度の米)に仕上がることになる。引用発明2の「白米表面の薄層」も同様である。
これに対し,本件発明は,通常の精米機,又は引用発明1における加湿精米機などによって最終精白米に仕上げられた米粒に残存している無数で微細な陥没部の糠分を,「洗滌」により「除糠」するものであって,当然のことながら,刊行物1がいうところの「米粒内質」の一部,すなわち,本件発明における「表層部」にいったんは吸水するものの,後にこれを「除水」するものであるから,本件発明における「表層部」は剥離されず残るのである。
このように,本件発明と引用発明1とは,その技術的思想を全く異にするものである。
(5) 本件判断A自体の誤り 引用発明1,引用発明2及び審決が認定した周知技術は,本件発明の技術内容を示唆するものではなく,主引用発明とされた従来技術から本件発明に想到することを容易にし得るようなものではない。
審決は,引用発明1及び引用発明2における,加水の短時間処理,との技術を分析し,認定しただけで,そこで砕米の防止のため必須とされている加水量の制御との技術について分析し,認定することはしていない。引用発明1及び引用発明2では,少量ずつ加水するとの制御が必須であるのに,審決は,本件発明の大量の水を必要とする洗滌が,引用発明1及び引用発明2から容易に想到し得るものである,と誤って認定判断したのである。
引用発明1及び引用発明2においては,加水量を増やしても,水の損失率が増えるだけで洗い米は得られない。それどころか,特開昭61-283359号公報には,湿式精米においては,水分量が過剰なときは,米肌に亀裂のない洗い米が得られないだけでなく,砕米が生じ「精白室内の負荷が急激に増大して電動機の過負荷を誘起し,精白室内に白米が粉砕されて固体化して運転停止事故を招来する」(甲第28号証2頁右上欄4行〜11行)と記載されている。このように,加水量を増やすことについては,このような阻害要因が存在することが明白であったにもかかわらず,審決は,単に引用発明1及び引用発明2において加水量を増せば洗滌作用が得られるものと誤解したものである。
3 取消事由3(相違点(イ)についての判断の誤り) 審決は,「除糠のために濡らした白米を除水して,米粒の含水率を16%を超えない範囲に調整することは,本件特許の出願時に当業者において周知であった(必要なら,特開昭57ー141257号公報(甲第12号証)(判決注・甲16文献),特公昭51ー22063号(甲第7号証)(判決注・甲18文献),実開昭61-121946号のマイクロフイルム(甲第8号証)(判決注・本訴甲第20号証の2・以下「甲20文献」という。)等参照。)ことから,米粒の含水率を除水した時点で16%を超えないように除水を行うことは,当業者が容易になし得ることである。」(審決書13頁28行〜34行)と判断した。しかし,審決のこの判断は誤っている。
審決が引用した甲16文献の特許請求の範囲は,「1.精米後の米を水洗いし,この米を脱水乾燥させ,含水量が通常の精米より多い所定の含水量となった状態で該米を真空パックすることを特徴とする飯米のパック方法。」(甲第16号証,1頁左下欄5行〜8行)というものであり,その発明の詳細な説明の項には,「精米処理のみを施した米の含水量は通常12.4%であるが,上記の米(注・水切りをして自然乾燥させたもの)は含水量が14.7%まで乾燥したところで真空パックの専用機3にかけて,合成樹脂シートの袋4に詰め込む。」(同1頁右下欄17行〜2頁左上欄2行)と記載されている。しかし,この「含水量が14.7%」のものは,水切りをして自然乾燥させたものであるから,本件発明とは異なるものである。
また,甲18文献記載の発明は,耐熱性密封袋中で炊飯する方法に関するものである。甲18文献の発明の詳細な説明の項には,「白米を水洗いして円心分離機に入れて水切を行い水分15〜16%程度に仕上げる。」(甲第18号証1頁2欄3行〜4行)と記載されており,甲18文献記載の発明が本件発明とはその技術的意味を異にしていることは明らかである。
甲20文献にも,洗い米の平均含水率を「約13%以上16%を超えない」ように除水する旨の記載は一切ない。
このように,上記の各文献には,本件発明の構成要件である「洗滌」,「除水」などの技術的内容についての開示はないから,上記の各文献を見ても,本件発明の採用したような技術手段によってその含水量にすることを容易に想到することなど,およそ考えられないのである。
4 取消事由4(本件発明の顕著な効果の看過) 審決は,「本件発明の効果を検討しても,先に記載したとおり中途精白米を加水量を増やして精白,除糠と除水をする場合,米粒の吸水量が極くわずかである短時間内に精白,除糠と除水を完了し,水の浸透を主に米粒の表層部でとどめるようにすれば,米肌に亀裂が発生することを防止できることが,刊行物1及び刊行物2の記載に基づいて当業者が容易に想到し得ることである以上,本件発明の「米肌に亀裂を有さない洗い米が得られる」という効果は,当業者が容易に予測できる効果である。」(審決書13頁末行〜14頁6行)と判断した。しかし,審決のこの判断は誤りである。
本件発明は,引用発明1や引用発明2の洗い米と比較して,その作用効果において大きな相違が存在する。引用発明1や引用発明2では,肉眼でも確認できる「縦溝」の糠は削り落すにしても,本件発明の洗い米のように,米肌面の肉眼では見ることのできない微細な陥没部のミクロン単位の糠分をほとんど除去することは到底できないのである。引用発明1の混水(加湿)精米は,本件発明の洗い米のように,水を入れるだけで直ちに炊飯することができ,糠臭くないものとはならない。
審決は,本件発明の最も重要な効果である,水を加えるだけでそのまま炊いても糠臭くなくおいしい飯が得られる洗い米であることを正当に判断しなかったものである。
被告の反論の骨子
審決に,原告ら主張の誤りはない。
1 取消事由1(一致点認定の誤り)について 甲16文献には,「この発明は,必要時に直ちに加熱して美味な米飯が炊き上げられるようにしたもので」(甲第16号証1頁右欄2行〜3行),「炊飯時に水洗いする必要がなくてその手間が省けるばかりでなく」(同2頁右欄10〜11行)と記載され,甲17文献(甲第17号証3頁左欄14行〜16行)及び甲18文献(甲第18号証3欄37行〜42行)にも,ほぼ同趣旨の記載がある。これらの記載からすれば,精白米を水に浸け,洗滌,除糠を行って洗い米を得,更に除水工程において洗滌水と表面付着水の除水を行い,洗い米を製造することが周知であったとした審決の認定に誤りはない。
2 取消事由2(相違点(ア)及び(ウ)についての判断の誤り)について (1) 本件発明の「米粒の表層部」についての認定判断の誤り,の主張について 本件発明の「米粒の表層部」が,亀裂の発生防止という本件発明の目的との関係において吸水が許容される米粒の部位を指すものであることは,本件明細書と本件特許の出願経緯から明らかである。
(2) 引用発明1の「亀裂」についての認定判断の誤り,の主張について (ア) 刊行物1には,「添加水分が米粒内質に吸収浸透されないように米粒内質を保護する」(甲第5号証2頁左上欄6行〜7行),「本発明は添加水分を成るべく短時間に精白に利用し迅速に精白室外に糠と共に排除することを原則とするので・・・米粒内質の水分変化を防止する効果が得られる。」(同2頁左上欄12行〜17行),「せいぜい20秒内外の短時間処理なので」(同2頁右上欄7行〜8行),「表面だけを湿潤するのが立て前であって,表面皮層だけの軟質化を目的とするのである。」(2頁右上欄12行〜13行)と記載されている。審決の「刊行物1には,・・・添加水分が表面皮層にとどまっている20秒内外の短時間のうちに急速に除糠除水を行い,添加水分を米粒内質まで浸透させないようにして,米肌に亀裂がない白米を製造することが記載されている。」(審決書12頁10行〜16行)との認定は正当であり,何ら誤りはない。
(イ) 本件明細書には,「砕粒化の原因である亀裂が出来る」(甲第2号証5欄22行〜23行),「亀裂の入った米粒は1粒もなく・・・勿論,砕粒にもならず」(同8欄46〜47行)との記載があり,この記載から「亀裂」の発生が原因となって「砕粒化」(「砕米化」と同義である。)が発生することを理解することができる。米粒と添加水分との接触時間が長すぎると,水分が深層部(米粒内質)まで浸透して亀裂が発生し,亀裂が発生すると「砕米化」に至ることが多いということであるから,本件発明の課題との関係においては,「亀裂」の発生を防止するということと砕米化を防止するということとは同義である。砕米化を防止することが刊行物1に開示されているということは,「亀裂」の発生を防止することが開示されていることにほかならない。
審決は,「亀裂が原因で生ずる「砕米化」が避けられることが刊行物1に記載され」(審決書12頁21行)と「亀裂」の発生と「砕米化」との関係を正しく認定しているものであり,何ら誤りはない。
(3) 引用発明1の「表面皮層」及び引用発明2の「白米表面の薄層」が本件発明の「米粒の表層部」に相当するとした判断の誤り,の主張について 原告らは,審決が,「刊行物1における「表面皮層」及び刊行物2における「白米表面の薄層」は,「米粒内質」と対になる概念で用いられており,吸水の結果生ずる米粒の亀裂発生を,米粒と水分との接触を短時間に抑えることで防止しようとするとき,この吸水が許容される米粒の表層の部位」を指すことは明らかであるから,本件発明における「米粒内部」に対置して表示される「表層部」に相当するものである。」(審決書13頁4行〜9行)と判断しているのは誤りである,と主張する。
しかし,審決の上記認定は,本件発明における「米粒の表層部」が何を意味するかについての,「吸水の結果生ずる米粒の亀裂発生を,米粒と水分との接触を短時間に抑えることで防止しようとするとき,この吸水が許容される米粒の表層の部位であると認めることができる。」(審決書12頁1行〜4行)との認定を前提とするものである。
審決は,「吸水の結果生ずる米粒の亀裂発生を,米粒と水分との接触を短時間に抑えることで防止」できるという技術思想において,本件発明と引用発明1及び引用発明2とが共通している以上,「吸水が許容される米粒の表層の部位」を表す概念が本件発明においても,刊行物1及び刊行物2においても必要となり,この概念は,本件発明においては「米粒の表層部」,刊行物1においては「表面皮層」,刊行物2においては「白米の表面皮層」という用語によって,それぞれ表示されていると認定しているものである。審決には原告らが主張するような誤りは存在しない。
(4) 本件判断A自体の誤りについて 原告らは,審決は,引用発明1及び引用発明2における,加水の短時間処理,との技術を分析し,認定しただけで,そこで砕米の防止のために必須とされている加水量の制御との技術について分析し,認定することはしていない,と主張する。
しかし,審決は,刊行物1には「米粒と添加水分との接触時間に制限を課すことでたとえ吸水が澱粉層の一部に及んでも亀裂防止を図るという・・・技術思想」(審決書15頁11行〜12行)及び「米粒の亀裂発生防止に短時間の米粒-水接触が決定的要因をなし,米粒と水との接触時間を極めて短くすることで米粒の亀裂発生を防止できるという技術思想」(審決書16頁28行〜30行)が開示されており,このような技術思想は本件発明の技術思想そのものであるから,主引用発明とされた従来技術に引用発明1及び引用発明2並びに周知事項を加えることにより当業者が本件発明に容易に想到することができたと判断したものであり,引用発明1という特定の技術において加水量の上限をコントロールすることが不可欠であったか否かは,審決の上記判断とは全く関係のないことである。
そもそも,刊行物1には,少量に加水する制御が必須である,などということはどこにも記載されていない。原告らの主張は,その前提からして誤っている。
3 取消事由3(相違点(イ)についての判断の誤り)について 原告らは,審決が引用した甲16,甲18及び甲20文献には,本件発明のような技術手段による含水率の調整は開示されていないから,含水量に関する審決の判断は誤りである,と主張する。しかしながら,そもそも本件発明の「米粒の含水率が除水した時点で16%を超えない」との構成要件は,単に,ある程度の期間の保存が可能な乾燥洗い米(無洗米)であること,及び,農水省の定める農産物規格規定に適合する精白米であることを表示するものにすぎず,技術的には特段の意味のない,周知の技術事項にすぎない。
4 取消事由4(本件発明の顕著な効果の看過)について 原告らは,引用発明1では,本件発明の洗い米のように米肌面の肉眼では見ることのできない微細な陥没部のミクロン単位の糠分をほとんど除去することは到底できない,引用発明1の混水精米は,本件発明の洗い米のように,水を入れるだけで直ちに炊飯でき,糠臭くないものとはならない,と主張する。しかし,これは審決の取消事由とはなり得ない。
なぜなら,審決は,「米肌面にある陥没部の糠分がほとんど除去された洗い米は,本件出願時当業者において周知のものであった(審決書10頁34行〜末行)」と認定しているのであり,引用発明1によって得られる洗い米が,陥没部のミクロン単位の糠分をほとんど除去された,水を入れるだけで直ちに炊飯でき,糠臭くないものである,と判断しているわけではないのである。原告らの主張は,審決の判断とは関係がない点を論難するにすぎない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点認定の誤り)について 本件明細書には,「尚,ここに云う充分な洗米とは,そのまま炊飯した場合,飯が糠臭くない程度,即ち,現在一般的に消費者で洗米している程度を意味するものであり,物理的には精白米表面にある肉眼では見えない無数(判決注・「無数の」の誤記と認める。)微細な陥没部や,胚芽の抜け跡に入り込んでいるミクロン単位の糠粉等を,ほとんど除去している程度,即ち,再びそれを洗米した場合,洗滌水がほとんど濁らない状態を指すものである。」(甲第2号証5欄44行〜6欄1行)との記載がある。この記載から明らかなように,本件発明の「精白米を水に浸け,洗滌,除糠を行い・・・洗い米を得,更に除水工程において洗滌水と表面付着水の除水を行い,洗い米を製造する方法」(請求項1)における「洗い米」とは,「そのまま炊飯した場合,飯が糠臭くない」ものであり,それは「精白米表面にある肉眼では見えない無数の微細な陥没部や,胚芽の抜け跡に入り込んでいるミクロン単位の糠粉等を,ほとんど除去している」ものであると解することができる。
一般に,米を洗い米とする目的は,炊飯したときうまい飯となるような米を得ることであり,本件明細書が引用した3件の従来技術(甲16ないし甲18文献)がそのような洗い米を目的としたものであることは,甲16文献における「必要時に直ちに加熱して美味な米飯が炊き上げられるようにしたもの」(甲第16号証1頁右下欄2行〜3行),甲17文献における「購入後は米研ぎを必要としないですぐに炊飯できるようにしたもの」(甲第17号証1頁右下欄1行〜2行),甲18文献における「本品を熱湯に入れて15分温めると,炊きたてと同じ米飯が手軽に出来,直ちに食用に供する事が出来る。」(甲第18号証3欄40行〜42行)との記載から明らかである。甲16ないし甲18文献に記載された洗い米が,本件発明における「精白米を水に浸け,洗滌,除糠を行い,・・・洗い米を得,更に除水工程において洗滌水と表面付着水の除水を行い,洗い米を製造する方法」(請求項1)における「洗い米」に該当するものであることは明らかである。
原告らは,審決において挙げられた従来例における洗い米については,「精白米を水に浸け,洗滌,除糠を行い,・・・洗い米を得,更に除水工程において洗滌水と表面付着水の除水を行い,洗い米を製造する方法」(請求項1)のことなどは,一切,記載も示唆もされていない,と主張する。しかし,本件発明の解決すべき課題が「乾燥状態で亀裂の発生していない洗い米」の実現にあることは明白であり,本件明細書に挙げられた従来技術に係る乾燥洗い米が「陥没部に糠分が残り炊飯しても糠臭い」のであれば,そもそも食用に耐えないのであるから,このような洗い米について「乾燥後の亀裂の発生」を問題にしても無意味なことである。本件発明が,従来技術において問題となるのは乾燥後の亀裂であり,この問題を解決すれば実用に耐え得る乾燥洗い米が得られる,ということを前提としていることは,明らかである。本件発明は,従来例における乾燥洗い米が炊飯後における糠臭がないこと,すなわち,「陥没部に糠分が残っていない」ことを当然の前提としているものなのである。このことは,本件明細書において,「陥没の糠分をほとんど除去する」手段を格別に開示していないことからも,前記のとおり,各従来例に係る乾燥洗い米が炊飯後に糠臭を発しないものであることからも,明らかである。原告らの主張は失当である。
2 取消事由2(相違点(ア)及び(ウ)についての判断の誤り)について (1) 本件発明にいう「米粒の表層部」についての判断の誤り,の主張について 原告らは,本件発明の「米粒の表層部」とは,洗滌,除糠が行われた後の米粒の表層部を指しているのに対し,審決が「請求項1の「水中への浸漬から除水までの工程を米粒の吸水量が極くわずかであるうちに完了し」は,吸水の結果生ずる米粒の亀裂発生を,米粒と水分との接触を短時間に抑えることで防止しようとするとき,この吸水が許容される米粒の吸水量であり,同じく「水の浸透を主に米粒の表層部にとどめるようにし」は,吸水の結果生ずる米粒の亀裂発生を,米粒と水分との接触を短時間に抑えることで防止しようとするとき,この吸水が許容される米粒の表層の部位であると認めることができる。 」(審決書11頁34行〜12頁4行)と判断したのは,誤りである,と主張する。
確かに,中途精白米を洗滌した場合,洗滌によって除糠されることになるから,洗滌後に表面部分の一部(糊粉層)が除去されると,洗滌工程中の「米粒の表層部」と洗滌後(除水前)の「米粒の表層部」とは完全には一致しないことになる。しかし,本件発明において「米粒の表層部」とは,水の浸入を許容できる層であり,「除水」しても「米粒に亀裂」(請求項1)が生じない層を意味するものである(甲第2号証)。この意味において,審決が,「請求項1の「水中への浸漬から除水までの工程を米粒の吸水量が極くわずかであるうちに完了し」は(判決注・「・・・完了し」における「吸水量」は,とするのが正確である。),吸水の結果生ずる米粒の亀裂発生を,米粒と水分との接触を短時間に抑えることで防止しようとするとき,この吸水が許容される米粒の吸水量であり,同じく「水の浸透を主に米粒の表層部にとどめるようにし」は(判決注・「・・・にし」における「表層部」は,とするのが正確である。),吸水の結果生ずる米粒の亀裂発生を,米粒と水分との接触を短時間に抑えることで防止しようとするとき,この吸水が許容される米粒の表層の部位である」(審決書11頁34行〜12頁3行)と認定したことと,原告らの「本件発明の「米粒の表層部」とは洗滌,除糠が行われた後の米粒表層部を指している」との主張との間に,本件発明の進歩性を論ずる上で,意味のある差異はないというべきである。審決の前記認定が誤りであるとする原告らの主張は,理由がない。
(2) 引用発明1の「亀裂」についての認定判断の誤り,の主張について 原告らは,(ア)刊行物1には本件発明でいう除糠,除水,陥没部を意味するような記載はない,(イ)刊行物1には,本件発明における「亀裂」に関する技術についての開示はない,刊行物1における「亀裂」は,審決の上記認定の「砕米化」とは別個の意義を有するのであるから,「砕米化」のことが記載されているからといって,「亀裂」のことが記載されていることになるわけではない,(ウ)湿式精米法における技術常識として挙げた甲7,甲28,甲29文献には,本件発明にいう除糠,除水,亀裂発生防止に関する技術的意味をうかがわせるような開示はないから,刊行物1に「歩留率94%もしくはそれ以下の白米すなわち6分搗きもしくはそれ以上の精白度の白米に,米量に対して0.1〜3%の範囲で水を添加して,精米(精白)を行うと同時に除糠除水を行う混水精米において,添加水分が表面皮層にとどまっている20秒内外の短時間のうちに急速に除糠除水を行い,添加水分を米粒内質まで浸透させないようにして,米肌に亀裂がない白米を製造することが記載されている。」(審決書12頁10行〜16行)とした審決の認定は誤りである,と主張する。
しかし,刊行物1には,審決が審決書9頁(a)ないし10頁(h)に摘記した記載がある。その一部を掲記すれば,次のとおりである。
「玄米に対する歩留率94%もしくはそれ以下の白米すなわち6分搗きもしくはそれ以上の精白度の白米を多孔壁除糠精白筒精白室により更に精白して精白度を進行させる過程において,その白米中に水または塩水その他水溶液を添加し直ちに精米を行なうと同時に前記多孔壁部を通して急速に除糠除水を行ない前記精白室から排出することを特徴とする混水精米法。」(甲第5号証1頁左下欄特許請求の範囲,審決書9頁(a)), 「本発明は94%以下の歩留率になつた高白度白米に対し,なるべく最終仕上歩留率に近い過程において混水し,通常米量に対し0.1〜3%の範囲で適量の加水を行ない白米粒の表面だけを湿潤して軟化し直ちに精白作用により精米すると糠を発生して含水糠となるので糠と水が同時に多孔壁部を通して精白室外に排除され,澱粉質の多い糠なので白米粒面に糠の附着が少なく除糠作用が容易となり,添加水分が米粒内質に吸収浸透されないように米粒内質を保護する」(甲第5号証1頁右下欄18行〜2頁左上欄7行,審決書9頁(c)), 「本発明は米粒総量に対する水分添加率こそ0.1〜3%であるが,せいぜい20秒内外の短時間処理なので,米粒面は水でベタ付き換言すれば米粒表面の細胞に対しては100%に近い水分添加と見てよいのである。要するに,調湿とは逆に飽くまで内質に水分が及ばないようにし,表面だけを湿潤するのが立て前であって,表面皮層だけの軟質化を目的とするのである。これによつて米粒表面に固着している糊粉層も難なく剥離され米粒全面が均一な高白度の白米となり粒面が高密度の光沢平滑面に仕上がるのである。」(甲第5号証2頁右上欄6行〜17行,審決書9頁(e)), 「従来は歩留り94%以下の高白度白米に水分を添加すると忽ち水分を粒内質深く浸透して砕米化するのが常識なので,白米に混水して精米するなどは夢想だにしなかつたものである。本発明は全く奇想天外ともいうべき処理法である。」(甲第5号証2頁左下欄18行〜右下欄3行,審決書10頁(f)) 刊行物1の上記記載からは,引用発明1においては,精白・除糠時に20秒内外の短時間に水分を添加し,除水すること,短時間の除水により,表面だけを湿潤し,米粒内質に添加水分が吸収浸透しないようにすること,従来は,水分を添加すると,水分が米粒内質深く浸透し,砕米化することが常識であったのに対し,引用発明1は,これと全く異なり,砕米化しない方法であることが認められる。
原告らは,刊行物1に,本件発明における「除糠」,「除水」,「陥没部」を意味するような記載は全く存しないと主張し,その根拠として,刊行物1には,「本発明は白米の最終仕上直前に混水して米粒面を極めて薄層に軟質化し糊粉層を精白し米粒面を平滑化し,光沢を帯びる素地を生成した後,グレージングドラムにおいて雪崩状の粒粒琢磨作用を施すので微粒子の密面仕上げになり容易に強度の光沢が発生」(甲第5号証3頁左上欄末行〜右上欄5行)することが記載されていることを挙げる。しかし,刊行物1に本件発明にいう除糠,除水が記載されていることは,上述したところから明らかである。刊行物1に,それ以外に原告ら主張の上記記載があるからといって,刊行物1の前記の記載の趣旨が変わるわけではない。原告らの主張は理由がない。
原告らは,刊行物1には,「亀裂」に関して,「白米粒面を滑面化するとふん囲気との関係湿度により,例えば周囲の空気が60%以下の場合などに粒表面が空気に曝されると,その粒面に亀裂を発生する傾向があるが,これは普通の白米でも同様である。このような場合に塩分を皮層に含有すると亀裂を防止することができる。」(甲第5号証2頁右下欄8行〜14行)との記載があり,このような刊行物1における記載によると,引用発明1における「亀裂」は,審決の上記認定の「砕米化」とは別個の意義を有するのである,と主張する。しかし,原告らがここで指摘する「亀裂」に関する引用発明1の記載が,水分添加に起因する「亀裂」に関するものではないことは,記載内容自体で明らかである。そして,刊行物1には,水分添加に起因して「亀裂」が生じる,との記載はないものの,水分添加に起因して「砕米化」が生じるとの記載があることは上記認定のとおりである。そして,亀裂が発生することにより,砕米が発生することは,本件明細書においても「砕粒化の原因である亀裂が出来る」(甲第2号証5欄22行〜23行),「亀裂の入った米粒は1粒もなく・・・勿論,砕粒にもならず」(同8欄46行〜47行)として,水分添加によりもたらされる「砕粒化」の原因が亀裂であることを当然のこととしていることから明らかである。米粒と添加水分との接触時間が長すぎると,水分が米粒内質まで浸透して亀裂が発生し,亀裂が発生すると「砕米化」に至ることが多いということであるから,「亀裂」の発生を防止するということと砕米化を防止するということとは同義であり,砕米化を防止することが刊行物1に開示されているということは,「亀裂」の発生を防止することが開示されていることになるのである。原告らは,刊行物1にたまたま「亀裂」との言葉があり,これが水分添加による亀裂以外の意味で使用されていることから,上記主張をなすものであり,その主張に理由がないことは明らかである。
甲28文献には,「加湿精米機の特性は,精白室に供給される白米に適量の水分を添加して白米の極めて薄層の粒表面を湿潤軟質化し,精白転子と多孔壁通風除糠精白筒とによって白米粒面の薄層だけを剥離する」(甲第28号証2頁左上欄14行〜18行),「水分量が過剰なときは白米粒に水分が厚層に浸透し,しかもこの浸透層が極めて僅かでも適当な厚さの限界を超えると,直ちに米粒表皮に著しい亀裂を発生し,」(同2頁右上欄4行〜8行)との記載があり,甲29文献には,「米粒面に添加する水分量と米粒面に吸湿する皮層の厚さが極めて微妙であって,その厚さは,その加湿時から精白の始まるまでの経過時間,すなわち予備時間によって定まるから,予備時間の精密な調節が必要である。この適切な標準時間は,通常10秒間以内であるが,この時間が長すぎると米粒に亀裂を生じ粒面が粗面化し,」(甲第29号証1欄21行〜28行)との記載があり,甲7文献には,「従来の加水加湿等の湿潤法を用いた精白作用は,・・・添加水分が米粒内質に浸透し亀裂併発の欠陥を伴う」(甲第7号証2欄12行〜18行),「米粒内質への水分の浸透を防ぎ,米質を損傷したり亀裂を生じない」(同3欄1行〜3行)との記載がある。
これらの各文献の記載からすれば,水分を添加して精白・除糠を行う際に添加水分が米粒皮層あるいは米粒表面の薄層にとどまっている(すなわち米粒と水分が接触する時間が短い)うちに除水までの工程を行えば米粒の亀裂発生・砕米化を防止できることは当業者に周知であったと優に認めることができる。そして,この周知事項を前提にすれば,刊行物1に接した当業者にとって,引用発明1が,「歩留り94%以下の高白度白米に水分を添加すると忽ち水分を粒内質深く浸透して砕米化する」(甲第5号証2頁左下欄18行〜20行)という従来の常識に立って,このような砕米化を防止するために,「せいぜい20秒内外の短時間処理」により除水しているものであることを理解することは,容易であったことが明らかである。審決の上記認定に誤りはない。
原告らは,これらの各文献における記載は,本件発明の「水中への浸漬から除水までの工程を米粒の吸水量が極くわずかであるうちに完了し,水の浸透を主に米粒の表層部でとどめるようにし,かつ米粒の含水率が除水した時点で16%を超えない」という構成が本件出願時に当業者において広く知られていたということを何ら証明するものではない,と主張する。しかし,審決は,あくまで,「湿式精米法において,添加水分が米粒皮層あるいは米粒表面の薄層にとどまっている短時間のうちに精白除糠,除水を行えば,すなわち水分と精白米との接触時間の短時間化で白米の亀裂発生,砕米化を防止できることが,本件特許の出願時当業者の技術常識であった」(審決書12頁22行〜25行)ことが甲7,甲28,甲29文献に開示されており周知であったと認定しているものであって,上記各文献からそれ以上のことを認定しているわけではなく,このことは上記に認定したところから明らかである。原告らの主張は失当である。
(3) 刊行物2に記載された発明の認定の誤り,の主張について 刊行物2には,「混水の米粒接触時間が長いと米粒内質に奥深く浸入し精白完了後において空中に曝すと著しく亀裂を生じ砕米になる危険が伴うので米粒と水液の接触時間は超短時間であることが必須要件であり」(甲第6号証1頁2欄10行〜14行),「混水仕上精米において,米粒の亀裂を防止できる効果は白米粒が水に接する時間と水分率(水量/米量)の2要件によって定まるものである。」(同欄18行〜21行),「玄米に対する歩留93%以下の白米中に0.5〜1.5%位の範囲で混水を施し・・・白米表面の薄層を軟質化し,しかも白米は吸水性に富むから水液が白米粒に接触する時間,米流の濡れる時間は糊粉層の剥奪可能な軟質化の条件において,短い程亀裂に対しては安全率が大である。」(同欄27行〜35行)との記載がある。
審決は,刊行物2の上記記載から「刊行物2には,玄米に対する歩留93%以下の白米中に0.5〜1.5%位の範囲で混水を施し,白米表面の薄層を軟質化して混水仕上精米を行うとき,白米は吸水性に富むから水液が白米粒に接触する時間,すなわち米粒の濡れる時間は,糊粉層の剥離可能な軟質化の条件において,短い程亀裂に対しては安全率が大であること,及び混水の米粒接触時間が長いと米粒内質に奥深く侵入し精白完了後において空中に曝すと著しく亀裂を生じ砕米になる危険が伴うので米粒と水液の接触時間は超短時間であることが必須要件であることが記載されている。」(審決書12頁32行〜13頁3行)と認定したのであり,その認定に誤りがないことは明らかである。
原告らは,刊行物2には,本件発明におけるように,「洗滌」,「除糠」及び「除水」という技術手段によって,「水中への浸漬から除水までの工程を米粒の吸水量が極くわずかであるうちに完了し,水の浸透を主に米粒の表層部でとどめるようにし,かつ・・・米粒に亀裂を有さない洗い米」(請求項1)を得るとの技術思想が何ら開示されていない,と主張する。しかし,審決は,前記のとおり,「精白米を水に浸け,洗滌,除糠を行って洗い米を得,更に除水工程において洗滌水と表面付着水の除水を行い,洗い米を製造すること」(審決書10頁34行〜36行)を本件発明と主引用発明とされた従来技術との一致点と認定した上で,その相違点(ア)「水中への浸漬から除水までの工程を米粒の吸水量が極くわずかであるうちに完了し,水の浸透を主に米粒の表層部でとどめるようにしている点」(審決書11頁3行〜5行)について,引用発明1及び引用発明2から容易に想到し得る事項であると判断しているのである。すなわち,審決は,刊行物2には,米粒の濡れる時間が短いほど,水分が米粒内質に奥深く侵入することがないため,亀裂が生じにくい,との技術思想が開示されていると認定し,当業者であれば,その技術思想を本件出願当時の周知の従来技術である洗い米に適用することが容易である,と判断したものであり,刊行物2に原告らが主張するような本件発明の構成が開示されている,と認定しているわけではない。原告らの主張は理由がないことが明らかである。
(4) 引用発明1の「表面皮層」及び引用発明2の「白米表面の薄層」が本件発明の「米粒の表層部」に相当するとした判断の誤り,の主張について 原告らは,引用発明1の「表面皮層」も引用発明2の「白米表面の薄層」も,加湿精米により剥離される層であり,精米後の米粒には存在していない層であるのに対し,本件発明の「表層部」は除水後も剥離されずに残っている層である,審決が,「刊行物1における「表面皮層」及び刊行物2における「白米表面の薄層」は,米粒内質と対になる概念で用いられており,吸水の結果生ずる米粒の亀裂発生を,米粒と水分との接触を短時間に抑えることで防止しようとするとき,この吸水が許容される米粒の表層の部位を指すことは明らかであるから,本件発明における「米粒内部」に対置して表示される「表層部」に相当するものである。」(審決書13頁4行〜9行)と認定したことは誤りである,と主張している。
しかしながら,本件発明の「米粒の表層部」も,引用発明1の「表面皮層」や引用発明2の「白米表面の薄層」も,米粒の亀裂発生・砕米化を防ぐためには,水分が米粒の表面からどの程度の範囲まで浸透することを許容し得るかを表現するためのものである点で一致するものであることは,前記(1)ないし(3)に認定したところから明らかである(米粒の精白の程度等によって,その表面側に除去されるべき糊粉層が存在するかどうかの点で差異が生じ得るだけである。)。これと同旨の審決の認定に誤りはない。
(5) 本件判断A自体の誤り,の主張について 原告らは,審決が,引用発明1及び引用発明2における加水の短時間処理の技術を分析し,認定しただけで,そこで砕米の防止のために必須とされている加水量の制御との技術について分析し,認定することはしていない,引用発明1及び引用発明2において,加水量を増やしても,水の損失率が増えるだけで洗い米は得られないにもかかわらず,単に引用発明1に加水量を増せば,本件発明の洗滌作用が得られるものと誤解したものである,と主張している。
しかし,審決が,米粒の亀裂発生・砕米化防止のためには,米粒への水の浸透を許容範囲に抑制することが必要であり,そのためには米粒と水の接触時間を短時間にすることが決定的に重要であって,これにより米粒の亀裂を防止することができる,との技術思想が刊行物1及び刊行物2に開示されていることから,これらに接した当業者にとって,その技術思想を本件出願当時の周知の従来技術である洗い米に適用することは容易である,と判断したものであることは,審決書から明らかである。
引用発明1及び引用発明2における水の浸透の抑制は水との接触時間を短時間にしたことによるものであることが明らかにされているのであるから(甲第5,第6号証),周知の従来技術である洗い米に引用発明1又は引用発明2の技術を適用する際に,原告らが主張するような加水量の制御について検討する必要性は認められない。
審決は,引用発明1又は引用発明2において「洗滌」が行われているか否かを問題にしているわけではなく,引用発明1又は引用発明2において加水量を増やせば「洗滌」を行えることを当業者が容易に想到し得るか否かを問題にしているわけでもない。審決が「単に加水量を増やせば洗滌作用が得られるものと誤解」している,との原告らの主張は,審決を誤解するものであり,主張自体失当であることが明らかである。
原告らの主張には理由がない。
3 取消事由3(相違点(イ)についての判断の誤り)について 原告らは,審決の「除糠のために濡らした白米を除水して,米粒の含水率を16%を超えない範囲に調整することは,本件特許の出願時に当業者において周知であった・・・ことから,米粒の含水率を除水した時点で16%を超えないように除水を行うことは,当業者が容易になし得ることである。」(審決書13頁28行〜34行)との認定判断につき,審決が引用する甲16,甲18及び甲20文献のいずれにも本件発明の構成要件である「洗滌」,「除水」などの技術的内容についての開示はないから,上記の各文献を見ても,本件発明のような技術手段によってその含水量にすることを容易に想到することなど,およそ考えられない,と主張する。
しかしながら,そもそも本件発明の「米粒の含水率が除水した時点で16%を超えないこと」との構成要件は,容易想到性の観点から客観的にみるときは,単に,直ちに炊飯するための洗い米ではなく,ある程度の期間の保存が可能な乾燥洗い米(無洗米)であることを表示する,という意味を有するものにすぎず,技術的には特段の意味がない周知の技術事項にすぎない。すなわち,農水省の定める農産物規格規定において,精白米の含水率は16%以下であることを要するとされており(乙第16号証),本件発明の「米粒の含水率が除水した時点で16%を超えないこと」との構成要件は,含水率16%を超える精白米は流通することができないことに起因する制限を,そのまま特許請求の範囲に記載したにすぎないことになる。本件発明の上記構成要件は,その容易想到性の判断においては,何の意味も持たないものである。
米粒における含水率の調整は,このように本件発明の目的とは関係のない特定の目的を達成するために不可欠のものであり,「洗滌」,「除糠」の後に,水分が米粒の表層部にとどまる間に「除水」をなして,含水率を特定値に設定しようと,審決が引用した甲16,甲18及び甲20文献記載の手段方法により調整しようと,本件発明の「米粒の含水率が除水した時点で16%を超えないこと」との特定の含水率の構成に差異はない。審決の上記判断は,米粒の含水率を16%を超えないように設定することが,上記各文献からみて容易であるというものであり,含水率の調整の方法手段についての判断を含むものではない。また,そのような判断をする必要もない。原告らの主張する取消事由に理由はない。
4 取消事由4(本件発明の顕著な効果の看過)について 原告らは,本件発明は,引用発明1や引用発明2の洗い米と比較して,その作用効果において大きな相違が存在する,引用発明1や引用発明2では,肉眼でも確認できる「縦溝」の糠は削り落すにしても,本件発明の洗い米のように,米肌面の肉眼では見ることのできない微細な陥没部のミクロン単位の糠分をほとんど除去することは到底できないのである,引用発明1の混水(加湿)精米は,本件発明の洗い米のように,水を入れるだけで直ちに炊飯することができ,糠臭くないものとはならない,と主張する。
しかしながら,原告らの上記主張は,主張自体として失当である,構成自体については容易想到性の認められる発明について,効果の顕著性を根拠に特許性(進歩性)を認めるためには,その効果の顕著性は,当該構成の効果として予想されるものとの対比において認められなければならないと解すべきであるのに,原告らの主張する顕著性は,従来技術(引用発明1を含む。)との対比におけるものにすぎないからである。
のみならず,原告らの主張が的を射たものでないことは,別の点からも明らかである。審決は,「精白米を水に浸け,洗滌,除糠を行って洗い米を得,更に除水工程において洗滌水と表面付着水の除水を行い,洗い米を製造することは,本件特許の出願時に当業者において周知であった」(審決書10頁34行〜37行)と認定しているのであり,引用発明1によって得られる洗い米が,陥没部のミクロン単位の糠分をほとんど除去され,水を入れるだけで直ちに炊飯でき,糠臭くないものであると認定しているわけではない。原告らのこの主張は,審決が認定判断していないことを認定しているとして,それを論難するものであり,その主張自体失当であることが明らかである。
結論
以上に検討したところによれば,原告らの主張する取消事由にはいずれも理由がなく,その他,審決には,これを取り消すべき誤りは見当たらない。そこで,原告らの本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 設樂隆一
裁判官 高瀬順久