関連審決 | 無効2000-35232 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成14行ケ474審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成14行ケ472審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 創作性(創作) / 公然実施(29条1項2号) / 技術常識 / 実施 / 構成要件 / 設定登録 / 請求の範囲 / 拡張 / 変更 / |
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事件 |
平成
14年
(行ケ)
473号
審決取消請求事件
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原告A 訴訟代理人弁理士 富崎元成 同 葛西四郎 被告 株式会社西牟田重機 訴訟代理人弁理士 杉本丈夫 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2003/09/17 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁が無効2000-35232号事件について平成14年8月7日にした審決を取り消す。 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,名称を「ホイールクレーン杭打機」とする特許第2985172号発明(昭和58年11月24日特許出願,平成11年10月1日設定登録,以下,この特許を「本件特許」という。)の特許権者である。 株式会社石走商会外7名は,平成12年4月28日,本件特許を無効にすることについて審判の請求をし,特許庁に無効2000-35232号事件として係属したが,平成13年4月27日に株式会社大枝建機工業より参加申請がされ,同年8月20日に株式会社石走商会外7が請求を取り下げた後,同月28日に被告が参加申請をし,平成14年2月28日に株式会社大枝建機工業が参加を取り下げた。 特許庁は,同事件を審理した上,平成14年8月7日,「特許第2985172号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。」との審決をし,その謄本は,同月19日,原告に送達された。 2 願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1の記載 車台と,前記車台の下部に自走用の車輪を設け,前記車台の上にはクレーン本体を水平面内で回転自在に設け,前記クレーン本体を回転駆動する垂直軸駆動装置を設けたホイールクレーン車において,前記クレーン本体には伸縮する伸縮ブームの一端を揺動自在に設け,前記伸縮ブームの他端にはスパイラルスクリューを備え,前記スパイラルスクリューを回転駆動するための回転駆動機構を内蔵したアースオーガー装置を設け,前記伸縮ブームの揺動中心点の近傍に前記アースオーガー装置に垂直方向の押圧力を付与し被圧入物を地盤に圧入するために前記ブームを牽引し前記ホイールクレーン車の重量を用いて前記アースオーガー装置を強制的に押圧するための油圧シリンダ装置である牽引装置の一端を枢着して設け,前記牽引装置の他端を前記クレーン本体に枢着して設けたことを特徴とするホイールクレーン杭打機。 (以下,この発明を「本件発明」という。) 3 審決の理由 審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本件発明は,その特許出願前に公然実施をされた発明であり,本件特許は,特許法29条1項2号の規定に違反してされたものであるから,同法123条1項2号に該当し,無効とすべきものであるとした。 |
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原告主張の審決取消事由
審決は,株式会社多田野鉄工所(後に「株式会社タダノ」に商号変更。以下「タダノ」という。)製ラフタークレーンTR-151(以下「TR-151」という。)の構成の認定を誤り(取消事由1),TR-151の公然実施の認定を誤った(取消事由2)ものであるから,違法として取り消されるべきである。 1 取消事由1(TR-151の構成の認定の誤り) (1) 本件発明は,特許請求の範囲の請求項1に規定されているように,「前記アースオーガー装置に垂直方向の押圧力を付与し被圧入物を地盤に圧入するために前記ブームを牽引し前記ホイールクレーン車の重量を用いて前記アースオーガー装置を強制的に押圧するための油圧シリンダ装置である牽引装置の一端を枢着して設け」るというものである。審決は,タダノ作成のTR-151のパンフレット(本訴甲5,審判甲25)の記載を前提にして,本件発明の杭打ち機と,TR-151杭打ち機とは構成において同じであるとしたが,甲5に記載された起伏シリンダは,ブームを持ち上げるためにのみ使用され,倒伏方向に加圧できないのであるから,誤りである。甲5の写真には,ホイールクレーン車,アースオーガー装置,ブーム,及びスパイラルスクリューという各部を構成する物が写っているだけであり,「前記ブームを牽引し前記ホイールクレーン車の重量を用いて前記アースオーガー装置を強制的に押圧する」という機械内部の力学的な応力,動作までを含む事実認定は,甲5の写真のみからはできず,機械力学的にも,外観の写真のみから,内部の荷重,応力,機械の動作まで認定することはできない。甲5の5枚目には,TR-151のブームの先端にアースオーガー装置を設け,地盤に穴明け作業をしている写真が掲載されているが,当該アースオーガー装置は,ブーム,アースオーガー装置及び掘進用のスパイラルスクリューの自重とその回転により掘削しており,これで掘削できないときには,アースオーガー装置にウェイトを載せたり,ブームの先端に配置したC字状のフックにワイヤーを固定し,このワイヤーを既設の固定された埋設物等に引っ掛けて反力として掘削するものである。したがって,甲5には,ブームを持ち上げるために油圧シリンダによる起伏装置を使用することは記載されているが,審決が認定したブームの先端でアースオーガー装置を加圧することは記載されていない。審決は,「TR-151の主要諸元を記載した表(第7葉)(注,甲5の8枚目)において,『起伏装置 複動油圧シリンダ直押式2本』と記載されており,ここで,『複動油圧シリンダ』とは,ピストンの両側に交互に圧力油を供給して,両方向に推進力を与える油圧シリンダを意味するものとして当業者において周知の事項・・・であり,また,その場合にピストンに供給される油圧は特に圧力を異ならせる必要がある場合以外には同じ圧力が供給されるのであって,TR-151においてそのような特別な事情があるとも考えられない・・・から,当業者であれば,TR-151のブームを起伏させる起伏シリンダは,ピストンの両側に交互に同じ圧力の油を供給して,ブームを起伏させるものであると理解できる」(審決謄本8頁最終段落〜9頁第1段落)と認定したが,クレーンの技術常識を無視した認定である。従来のクレーンの起伏用シリンダにおいて,倒伏時にその上側に起立時の重量物を吊り上げたときと同一圧力の圧油が供給されると,ブームの先端では,〔ブームの自重による押圧力+(定格総荷重÷シリンダの面積)〕に等しい強力な下向きの押圧力が発生し,重量物は加速的に落下して危険極まりない事態となる。 (2) また,審決は,甲5の記載から事実認定をしたものであるから,その取消訴訟である本件訴訟において,甲5との関係が不明であり,しかも別個の証拠であるタダノ作成のTR-151の修理要領書及び修理マニュアル(乙1-1〜5),弁理士B作成の技術説明書(1)(乙2-1),タダノ作成のカウンタバランスバルブの修理マニュアル(乙2-2),タダノ作成の「油圧の基礎」(乙3)及びダダノ作成のTR-151に係る教育資料(乙4)を証拠とすることはできない。また,乙2-1は,独自の見解で技術説明のために作文されたものであり,図2がTR-151-Tの油圧回路図であることは認めるが,図3はTR-151-V型の油圧回路図であり,その他の図は独自に創作した説明図である。 (3) TR-151の油圧回路がブームを牽引するように作動するとしても,タダノ作成のTR-151の修理要領書の過負荷防止システム(甲11-2)に「モーメントが増加しeA=eMになるとモーメントリミッタ本体から出力信号がでてアンロード用のシャットオフソレノイドバルブに送られ,ウィンチの巻上げ,起伏の下げ,伸縮の伸び作動を自動的に停止します」(1頁)と記載されているように,TR-151の起伏シリンダにクレーン以外の機能をさせたとしても,例えば,ブームが何かと干渉して横方向の曲げモーメントが負荷されたとき,本件発明のように下から持ち上げられたとき等に「過負荷防止システム」が作動するから,「過負荷防止システム」を外した油圧回路にしない限りブームを押圧するようには作動しない。 2 取消事由2(TR-151の公然実施の認定の誤り) (1) 審決は,甲7(審判甲11,30)の営業案内の発行者,発行日が不明としながら,本件特許出願前に,TR-151を用いたオーガースクリューによる杭打ち工法を奈良県吉野郡川上村立東小学校新築工事(以下「東小学校新築工事」という。)で実施したと認定したが,甲7の成立及び頒布については,立証がされていない。神戸地方裁判所平成7年(ワ)第290号事件における調査嘱託に対する回答書(乙10-2)によれば,甲7の「施工実績」に記載された工事中,東小学校新築工事,南海電気鉄道株式会社の「天見駅複線化工事の基礎杭打ち工事」,阪急電鉄株式会社の「宝塚線中山駅地下駅舎化工事」及び「宝塚線池田駅付近連続立体交差工事」については株式会社寺田組(以下「寺田組」という。)が工事をした旨の記載はなく,矛盾している。また,被告は,甲7と寺田組作成の営業案内(乙8)及び株式会社寺田基工作成の営業案内(乙9)は同一のものであると主張するが,同一の文書が3社から同時,又は時間差を置いて出版されたことになり不自然である。 (2) 寺田組が東小学校新築工事において,TR-151により行った杭打ち工法は,取消事由1に記載のとおりホイールクレーン車を用いた従来工法による杭打工法である。 (3) 審決は,甲7の記載から,本件特許出願前に,東小学校新築工事は不特定人がその使用状況を容易に知り得る状況の下で実施されたと認定したが,これは当時の工事現場の状況を全く無視しており,誤りである。株式会社朔鷹の従業員であるC作成の平成14年11月12日付け調査報告書(甲8)によると,東小学校新築工事は,ダムの建設に伴う移築工事であり,当時,山道以外に道路もない山の上に東小学校が新築されたものであり,その工事現場は工事関係者以外は出入りできる場所ではなく,また,その工事内容は,運動場を拡張し,校舎も新築で拡張する大がかりな工事であり,工事関係者以外は近づくことが許される状況になく,かつ,地形的にも集落から遠く,現在でも直接見ることができにくい場所に位置している。したがって,東小学校新築工事は不特定人がその使用状況を容易に知り得る状況の下で実施されたということはできない。 |
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被告の反論
審決の認定は正当であり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。 1 取消事由1(TR-151の構成の認定の誤り)について (1) 甲5の5枚目の写真は,TR-151のブーム起伏シリンダ及びブーム伸縮シリンダを操作し,ブームの先端に下向きの力を加えてスパイラルスクリューを土中へ貫入させている状態を開示するものである。当該写真中,ブームの先端にワイヤーを引っ掛けるためのC字状のフックが滑車の下部に吊り下げられているのは,TR-151を用いて重量物の運搬等を行う必要があるからであり,杭打ちを行うためではない。また,当該写真のような状態でアースオーガースクリューを土中へ貫入させていくに際しては,アースオーガースクリューの土中への貫入長さに比例してブームの全長を短縮させるとともに,油圧シリンダによる起伏装置によって前記ブームを倒伏させなければならないことは自明のことである。さらに,甲5記載のTR-151の起伏シリンダは,乙1〜4から,ブームを倒伏させる方向にも加圧することができるものであることが明らかである。 (2) TR-151の主要諸元表(甲5の8枚目)には,「TR-151V型主要諸元」との記載の下に,クレーンやキャリヤの諸元が明示されており,TR-151T型のみではなく,U型,V型も開示するものである。審決が甲5により認定したTR-151は,TR-151T型,U型及びV型を含むものである。甲5の裏表紙の部分である乙14-1には,作成年月日が「S-55-09」と記載され,甲5は,昭和55年9月に作成されたものであって,本件特許出願前に,上記3機種がTR-151として製造販売されていたことが認められるから,甲5記載のTR-151と乙2記載のTR-151の各図面との間の関係に,不明な点は全く存在しない。 (3) 甲11-2の1頁右欄によれば,「過負荷防止システム」は,起伏シリンダでブームを牽引し,ブームの先端に押圧力を加えると直ちに過負荷防止システムが作動してクレーンの作動が停止するものではない。「過負荷防止システム」のモーメント検出器が検出するモーメントは,「吊り上げ荷重+ブーム自重に依る総合モーメント」であって,具体的には「ブームの長さ×ブームの先端にかかる下向きの力(吊り上げ荷重+ブームの自重を含めた下向きの荷重)」で表わされるものであり,下向き方向のモーメントであって,杭打作業時にブームの先端に上向きにかかる突張り力による上向き方向のモーメント(ブームの長さ×上向きの突張り力)を検出する機能を具備しておらず,油圧回路内のリリーフバルブが作動しない限り,ブームの先端は下方向へ押圧されることになる。したがって,ブームの先端に下向きの押圧力を加えると,TR-151の過負荷防止システムが作動してブームが停止するため,ブームを(下方向へ)押圧するようには作動できないとする原告の主張は誤りである。 2 取消事由2(TR-151の公然実施の認定の誤り)について (1) 審決は,甲5,7,乙8から総合的に,本件発明と,寺田組が東小学校新築工事において使用したTR-151とは同一のものであり,かつ,上記工事において,TR-151は公然と実施されたことを認定したものであり,その認定に誤りはない。乙8は,甲7と記載内容が同一のものであり,発行者として寺田組の名称が記載されている。乙9は,乙8と同一のものであるが,寺田組が商号を「株式会社寺田基工」に変更した後に使用していたものである。乙15〜17(有限会社央基礎工業代表取締役D,株式会社大栄代表取締役E,有限会社和建商会代表取締役F各作成の陳述書)によれば,甲7の営業案内は,第一運輸作業株式会社が発行したものでなく,乙8の体裁の営業案内として,寺田組によって発行されかつ頒布されたものであり,また,乙9の体裁の営業案内が,寺田組が株式会社寺田機工に名称変更をした後も使用に供されていたことが明らかである。 (2) 乙8及び甲7の5頁の上欄左側の写真によれば,TR-151を用いた東小学校新築工事のための杭打ち作業は,運動場のような場所の一部で行われ,また,杭打ち作業の現場から離れた運動場の一部には,子供用の運動用具が据付けられている。さらに,甲8の4頁の「川上東小学校に係る調査報告」によれば,川上村立東小学校は,従前の川上第3小学校を解体してその跡地に校舎を新築し,運動場の整備を行うことにより新たに開校されたものであり,杭打ち工事の実施場所が,山道以外に道路もない,工事関係者以外は出入りできる場所でなかったということはできない。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(TR-151の構成の認定の誤り)について (1) 原告は,本件発明は,「前記アースオーガー装置に垂直方向の押圧力を付与し被圧入物を地盤に圧入するために前記ブームを牽引し前記ホイールクレーン車の重量を用いて前記アースオーガー装置を強制的に押圧するための油圧シリンダ装置である牽引装置の一端を枢着して設け」るというものであるのに対し,TR-151のパンフレットである甲5に記載された起伏シリンダは,ブームを持ち上げるためにのみ使用され,倒伏方向に加圧できないから,同記載を前提にして,本件発明の杭打ち機と,TR-151杭打ち機とは構成において同じであるとした審決の認定は誤りであると主張する。 甲5の4枚目の左頁には,「スムーズな同時操作を実現する3連ギヤポンプ採用。 図のように<巻上・巻下><伸縮・起伏><旋回>の各油圧回路が独立し,相互の影響を受けず,確実・スムーズな同時操作が行なえます。また,ポンプ容量も大きくなり,よりスピーディーに,作業できます」,「スムーズな伸縮。3段全油圧伸縮式ブーム。2本の直押式複動油圧シリンダを採用。1本のレバー操作で,なめらかにブーム伸縮が行なえます。ブームは,高張力鋼板を使用。軽量かつ耐久性に優れています」と記載され,同左欄の「ブーム起伏」を示す図には,左上,右下両方向の矢印が付されている。そして,「起伏」とは「高くなったり低くなったりすること」(広辞苑第5版),「複動」とは「両端に作動室を有するシリンダー中の往復動ピストンにおけるように,2方向で仕事をすること」(マグローヒル科学技術用語大辞典第3版)であるから,甲5の上記記載によれば,TR-151は,ポンプの油圧によりブームの起立方向と倒伏方向の両方向に付勢するものであることが認められ,このことは,乙4の油圧回路の図(図番TRCC01-0180),乙1-4の油圧回路の図及び乙4の起伏システムの図(図番TRCG03-0030)に,ギヤポンプからの圧油が四連切換弁11(マニアルコントロールバルブ)を切り換えることにより,起伏シリンダの下部室又は上部室へ供給されることが記載されていることからも裏付けられる。そして,甲5の5枚目の右頁左下には,TR-151のブームの先端にアースオーガー装置を設け,地盤を掘削している写真が示され,「営業案内 無振動・無騒音圧入工法ラフタクレーン搭載型<杭打機>」と題するパンフレットである甲7(その証明力については後記2の(1)において改めて検討する。)の2枚目左頁には,「ラフタークレーンの起伏シリンダーを利用した転石,岩盤掘削<ロックオーガー>」との見出しの下に,「特長」6として,「起伏シリンダーの圧入により,オーガーを強制掘進させるので転石,岩盤層での施工が可能です」と記載され,同右頁「全体図」には,TR151にアースオーガー装置を取り付けた図が示されている。以上によれば,TR-151は,起伏シリンダのピストンの両側に圧力油を供給し,倒伏時にはブーム及びアースオーガーを牽引する機能を有し,ブームの先端でアースオーガー装置を加圧するものであると認められ,本件発明の杭打ち機とTR-151杭打ち機とは同じであるとした審決の認定に誤りはない。 (2) 原告は,甲5には,本件発明の構成要件である「前記ブームを牽引し前記ホイールクレーン車の重量を用いて前記アースオーガー装置を強制的に押圧する」という機械内部の力学的な応力,動作までは開示されていないとも主張する。 しかしながら,審決は,「TR-151のブームを起伏させる複動油圧シリンダは,ブームを牽引する牽引装置ということができる。また,ブームを牽引してアースオーガー装置に垂直方向の押圧力を付与し被圧入物であるスパイラルスクリューを地盤に圧入するためには,その圧入による反力をホイールクレーン車の重量にて受け止めることは当然のことであって,・・・一方,本件発明において,『ホイールクレーン車の重量を用いて前記アースオーガー装置を強制的に押圧する』とは,・・・『ホイールクレーン車の重量を利用して得られる垂直分力によってアースオーガ装置を強制的に押圧する』を意味すると解されることから,本件発明とTR-151とは,ブームを倒伏させる油圧シリンダの機能において異なるところはない。そうすると,本件発明の杭打機と,TR-151搭載型杭打機とは,構成において同じということができる」(審決謄本9頁第2〜第5段落)と認定したものであるところ,上記のとおり,甲5記載のTR-151は,本件発明の杭打ち機と同様,ブームとクレーン本体との間に設けた牽引装置(起伏シリンダ)により,ブーム及びアースオーガー装置を牽引するものであるから,機械内部の力学的な応力,動作も同様であることは明らかであり,原告の上記主張は採用することができない。 (3) 原告は,従来のクレーンの起伏用シリンダにおいて,倒伏時にその上側に起立時の重量物を吊り上げたときと同一圧力の圧油を供給すると危険極まりない事態となると主張するが,審決の認定する倒伏時とは,クレーンが重量物を吊り上げた後に別の場所に降ろす時のことではなく,クレーンを使用して掘削作業をする際にアースオーガーに掘進力を与えるためにブームを倒伏する時であることは明らかであって,原告の上記主張は,審決を正解しないものであり,失当である。 (4) さらに,原告は,審決は,甲5の記載から事実認定をしたものであるから,その取消訴訟である本件訴訟において,甲5との関係が不明であり,しかも別個の証拠である乙1〜4(枝番省略。以下同じ。)を証拠とすることはできないとも主張する。しかしながら,審決は,甲5のパンフレットの記載及び写真から,アースオーガー装置を備えた場合のTR-151の構造を認定し,甲7から,TR-151の公然実施を認定したものであるから,審決のTR-151の構造の認定が正しいことを立証するために,TR-151の修理要領書,修理マニュアル,修理担当者の教育用資料である乙1〜4を提出することを妨げる理由はないというべきである。したがって,原告の上記主張は失当である。 (5) 原告は,TR-151の油圧回路がブームを牽引するように作動するとしても,「過負荷防止システム」を外した油圧回路にしない限りブームを下方向に押圧するようには作動しないと主張する。 しかしながら,甲11-2の1頁右欄には,「システムの概要 過負荷防止システムは,モーメント検出器,ブーム長さ検出器,角度検出器,モーメントリミッタ本体に依って構成されており,オーバロードに依るクレーンの破損,転倒を未然に防止する為,モーメントが定格値に達する前に光と音で予告警報を出すと共に,定格値でクレーンの作動を自動的に停止させます。吊り上げ荷重+ブーム自重に依る総合モーメントを検出するモーメント検出器からの電気信号(eM)と各ブーム状態に於ける定格総荷重性能をあらかじめ記憶しているメモリーユニット(角度検出器内)からの電気信号(eA)は,増幅,整流されたうえで演算部に送られ,eM/eAの割算が行なわれ,百分率で荷重計に表示します。割算の結果,eA≧0.9eMに達するとブザーとランプの点滅で警報を発します。モーメントが増加しeA=eMになるとモーメントリミッタ本体から出力信号がでてアンロード用のシャットオフソレノイドバルブに送られ,ウィンチの巻上げ,起伏の下げ,伸縮の伸び作動を自動的に停止します」と記載され,甲5の7枚目左欄には,「信頼性の高い電子モーメントリミッタ(A.M.L)。・・・吊上げ荷重とブーム重量の合成モーメントが定格モーメントの90%に達すると予告警報し,100%に達すると警報を発し,クレーン作業を自動停止します」と記載されている。これらの記載によれば,TR-151の「過負荷防止システム」は,「吊り上げ荷重+ブーム自重」による総合モーメントが定格総荷重のモーメントを超える前にクレーンの作動を自動的に停止させることにより,オーバーロードによるクレーンの破損,転倒を未然に防止するものであると認められる。そうすると,杭打ち作業を行う際には,吊上げ荷重は存在しないから,起伏シリンダがブームを押圧しても,押圧によるモーメントとブーム重量のモーメントの合計が定格総荷重のモーメントに近くなるまでは,「過負荷防止システム」が機能しないことは明らかである。したがって,「過負荷防止システム」の存在により,TR-151の油圧回路はブームを下方向に押圧することができないとの原告の上記主張も理由がない。 (6) 以上検討したところによれば,原告の取消事由1の主張は理由がない。 2 取消事由2(TR-151の公然実施の認定の誤り)について (1) 原告は,審決が,甲7の営業案内の発行者,発行日が不明としながら,本件特許出願前に,TR-151を用いたオーガースクリューによる杭打ち工法を東小学校新築工事で実施したと認定したものの,甲7の成立及び頒布については,立証がされていないから,誤りであると主張する。 しかしながら,乙15〜17(有限会社央基礎工業代表取締役D,株式会社大栄代表取締役E,有限会社和建商会代表取締役F各作成の陳述書)によれば,本件特許出願前に,寺田組は,乙8の営業案内を作成して,取引先等に頒布していたこと,第一運輸作業株式会社は,寺田組から頒布された乙8の体裁のものを,「株式会社寺田組」の商号を削除した上,「第一運輸作業株式会社」の商号を押捺して甲7の体裁のものを作成し,自社の営業案内として取引先等に頒布していたものであること,また,乙9の体裁のものは,寺田組が昭和61年1月8日に「株式会社寺田機工」に商号変更をした後に使用に供されていたところ,これらの営業案内の「施工実績」欄に記載された工事中,神戸地方裁判所平成7年(ワ)第290号事件における調査嘱託に対する回答書(乙10-2)によって工事が確認されたものについては,同回答書の内容とほぼ一致していることが認められる。そして,いずれも自社の営業内容を紹介するために取引先等に頒布されたこれらの営業案内に,殊更,虚偽の事実を記載する理由は見いだし難いから,「甲第11号証(注,本訴甲7)のパンフレットに記載された事項はほぼ正確と認められ,少なくとも奈良県吉野郡川上村立東小学校新築工事における杭工事においてTR-151搭載型杭打機が用いられたことが十分に認められ,発行者,発行日が不明であることのみをもって,記載された写真の内容や,記載事項すべてが信頼できないとすることはできない」(審決謄本14頁第3段落)とした審決の説示は,首肯するに足りる。また,上記調査嘱託書に対する回答書に基づき,東小学校新築工事における杭打ち工法の実施時期が,本件特許出願前の昭和56年12月〜昭和57年2月であるとした審決の認定(審決謄本12頁(ウ))を覆すに足りる証拠はない。 (2) 原告は,上記回答書によれば,「施工実績」に記載された工事中,東小学校新築工事,南海電気鉄道株式会社の「天見駅複線化工事の基礎杭打ち工事」,阪急電鉄株式会社の「宝塚線中山駅地下駅舎化工事」及び「宝塚線池田駅付近連続立体交差工事」については寺田組が工事をした旨の記載はなく,矛盾しているとも主張するが,工事を施工した下請業者のすべてが回答書に記載されたわけではないから,この点は,上記認定及び判断を左右するものではない。 (3) 原告は,寺田組が東小学校新築工事において,TR-151により行った杭打ち工法は,取消事由1記載のとおりホイールクレーン車を用いた従来工法による杭打工法であると主張するが,TR-151は,起伏シリンダのピストンの両側に圧力油を供給し,倒伏時にはブーム及びアースオーガーを牽引する機能を有し,ブームの先端でアースオーガー装置を加圧するものであり,本件発明の杭打ち機とTR-151杭打ち機とは同じであることは上記1の(1)のとおりであるから,原告の上記主張は失当である。 (4) 原告は,東小学校新築工事は,その工事現場は工事関係者以外は出入りできる場所ではなく,また,工事関係者以外は近づくことが許される状況になく,かつ,地形的にも直接見ることができにくい場所であったから,不特定人がその使用状況を容易に知り得る状況の下で実施されたということはできないと主張する。 乙8及び甲7の5頁の上欄左側の写真によれば,TR-151を用いた東小学校新築工事のための杭打ち作業は,運動場のような場所の一画で行われ,上記作業が他から見えないようにする措置も何ら採られていないことが認められるから,上記作業は,不特定人により認識され得る状態で実施されたものと優に推認することができる。C作成の平成14年11月12日付け調査報告書(甲8)には,「3.調査結果 (1)昭和56年12月から昭和57年2月にかけて行われた奈良県吉野郡川上村立東小学校新築工事は,不特定人がその工事の状況を容易に知りうる状況下で行われたものではない。 4.理由 (1)別紙の写真1,2及び3は,当時村民の集落の道路,住居から現在の東小学校を展望したものであるが,樹木,地形の関係で全くみることができない。 (2)別紙の当時の地図,当時の航空写真から理解されるように,東小学校はダムの建設に伴う移築工事であり,山道以外に道路もない山の上に新築されたものであり,工事関係者以外は出入りする場所ではなかった」と記載されている。しかしながら,上記理由(1)については,工事現場が,道路,住居から見えないとしても,上記作業が他から見えないようにする措置は何ら採られていないことは上記のとおりであるから,上記推認を覆すに足りない。また,理由の(2)については,甲8の4頁の「川上東小学校に係る調査報告」には,「1.昭和55年頃より川上第一小学校・川上第二小学校・川上第三小学校を廃止し,川上西小学校・川上東小学校として整理統合し,川上第三小学校を解体し跡地に,校舎・運動場を新築し川上東小学校として,昭和58年4月に開校した」と記載されており,この記載によれば,川上東小学校は,川上第三小学校の跡地に新築され開校されたものであって,小学校が山道以外に道路もない山の上にあったとは認め難いから,東小学校新築工事の現場が,工事関係者以外は出入りする場所ではないと認めることもできない。原告の上記主張は採用の限りではない。 (5) 以上検討したところによれば,原告の取消事由2の主張も理由がない。 3 以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。 よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 篠原勝美 |
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裁判官 | 岡本岳 |
裁判官 | 早田尚貴 |