関連審決 | 異議1998-73229 |
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関連ワード | 発明者 / 物の発明 / 新規性 / 29条1項3号 / 進歩性(29条2項) / 技術常識 / 先行技術 / 発明の詳細な説明 / 明細書の記載要件 / 参酌 / 技術的意義 / 実施 / 構成要件 / 設定登録 / 請求の範囲 / 独立特許要件 / 取消決定 / |
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事件 |
平成
14年
(行ケ)
342号
特許取消決定取消請求事件
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原告 大日本製薬株式会社 訴訟代理人弁理士 吉岡拓之 訴訟復代理人弁理士 塚脇正博 被告 特許庁長官今井康夫 指定代理人 柿崎良男 同 森田ひとみ 同 一色由美子 同 宮川久成 同 伊藤三男 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2003/09/24 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
特許庁が平成10年異議第73229号事件について平成14年5月24日にした決定を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
主文と同旨 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,名称を「防汚塗料組成物」とする特許第2696188号発明(平成4年7月8日特許出願,平成9年9月19日設定登録,以下「本件発明」といい,その特許を「本件特許」という。)の特許権者である。本件特許について,その後,特許異議の申立てがされ,平成10年異議第73229号事件として特許庁に係属し,原告は,平成12年9月18日,特許請求の範囲の記載について訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)をした。 特許庁は,同事件について審理した結果,平成14年5月24日,「特許第2696188号の請求項1ないし2に係る特許を取り消す。」との決定(以下「本件決定」という。)をし,その謄本は,同年6月12日,原告に送達された。 2 本件発明の要旨 (1) 本件特許出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の記載 【請求項1】亜酸化銅と化1 【化1】 (式中,nは1又は2である。)で表される2-ピリジンチオール-1-オキシドの銅塩を有効成分として含有することを特徴とするゲル化せず長期保存が可能な防汚塗料組成物。 【請求項2】亜酸化銅5〜30重量%と化2 【化2】 (式中,nは1又は2である。)で表される2-ピリジンチオール-1-オキシドの銅塩2〜15重量%を含有し,亜酸化銅と該銅塩の配合比が1:1〜3:1である請求項1記載のゲル化せず長期保存が可能な防汚塗料組成物。 (以下,上記【請求項1】,【請求項2】に係る発明をそれぞれ「本件発明1」,「本件発明2」という。) (2) 本件訂正請求に係る特許請求の範囲の記載 亜酸化銅と化1 【化1】 (式中,nは1又は2である。)で表される2-ピリジンチオール-1-オキシドの銅塩を有効成分として含有することを特徴とするゲル化せず長期保存が可能な防汚塗料組成物。 (以下,上記発明を「本件訂正発明」という。なお,本件訂正請求は,本件明細書の特許請求の範囲の記載中【請求項2】の削除を求めるものである。) 3 本件決定の理由 本件決定は,別添決定謄本写し記載のとおり,本件訂正発明は,特開昭53-27630号公報(甲3,以下「引用例」という。)に記載された発明(以下「引用例発明」という。)であり,特許法29条1項3号により特許出願の際独立して特許を受けること(以下「独立特許要件」という。)ができないものであるから,本件訂正請求は,平成6年法律第116号による改正後の特許法120条の4第3項において準用する平成5年法律第26号による改正後の特許法126条3項に適合しないので,本件訂正請求に係る訂正(以下「本件訂正」という。)は認められないとした上,本件発明1は,引用例発明であって,特許法29条1項3号に違反して特許されたものであり,また,本件発明2は,平成2年法律第30号による改正後の特許法36条5項1号を満足しない出願に対して特許されたものであって,いずれも拒絶をしなければならない出願に対して特許されたものであるから,平成6年法律第116号附則14条に基づく,平成7年政令第205号4条2項により取り消すべきものであるとした。 |
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原告主張の審決取消事由
本件決定は,引用例発明の認定を誤り(取消事由1),本件訂正発明と引用例発明との相違点を看過(取消事由2)した結果,本件訂正発明は引用例発明であり,特許法29条1項3号に該当するとして,独立特許要件を誤って否定して本件訂正を認めず,ひいては本件発明1,2の特許性を誤って否定したものであるから,違法として取り消されるべきである。 1 取消事由1(引用例発明の認定の誤り) 本件決定は,「引用例には,実施例等の直接的記載はないにしても,ビス(2-ピリジルチオ-1-オキシド)の銅塩に亜酸化銅を混合して防汚塗料とすることは,記載されているに等しい事項といわざるを得ない」(決定謄本5頁下から第2段落)と認定するが,誤りである。 (1) 引用例(甲3)に記載されているのは,2-ピリジルチオ-1-オキシドの金属塩を防汚活性成分として含有する水中防汚塗料の発明であり,2-ピリジルチオ-1-オキシドの金属塩と亜酸化銅等他の公知の防汚性化合物の併用については実施例の記載もない。引用例は,「本発明(注,引用例発明)に係る・・・ピリジン系化合物は他の公知の無機または有機の防汚性化合物例えば亜酸化銅・・・等の化合物を加え混合して,通常の塗料原料および塗料製造法に従つて水中防汚塗料を製造することも可能である」(2頁左上欄第2段落〜左下欄第1段落)との記載(以下「記載A」という。)のとおり,引用例発明に係るピリジン系化合物以外の,亜酸化銅等の公知の防汚化合物を混合しても製造可能であるとして,単にアイデア(観念)としての使用可能性を述べているにとどまり,実際にこれらの公知の防汚化合物を混合した防汚塗料を製造したものであると読み取ることはできない。また,引用例中,「本発明に係る水中防汚塗料の代表的な活性効成分を例示すれば次の如くである・・・(7)ビス(2-ピリジルチオ-1-オキシド)銅塩・・・」(同頁左下欄第2段落〜右下欄第1段落)との記載(以下「記載B」という。)により,防汚活性成分である12種類の2-ピリジルチオ-1-オキシドの各金属塩の一つとして銅塩の防汚性能は確認されていても,塗料としての貯蔵安定性までを確認したものではない。したがって,引用例は,公知の防汚化合物との混合について,防汚性能の観点からの使用可能性を開示しているにすぎない。 (2) 引用例には,実施例3及び比較例2として,それぞれビス(2-ピリジルチオ-1-オキシド)の銅塩及び亜酸化銅を含有する防汚塗料を実際に得たこと並びに実施例3及び比較例2の防汚塗料について海水浸漬試験を行ったことが記載(以下「記載C」という。)されているが,本件訂正発明の構成に係る,両者を併用した防汚塗料については,実施例の記載がなく,その実体を伴った記載を欠いている。比較例2として挙げられている亜酸化銅は,他の列挙化合物と同列の観念的記載にすぎず,他の防汚化合物と違うものとして特別に記載されているものではない。ビス(2-ピリジルチオ-1-オキシド)の銅塩のみならず,他の11種類の金属塩も同様に実施例として記載されており,銅塩だけが金属塩のうち特別のものとして記載されているわけではない。したがって,引用例の記載A〜Cは,これに接した当業者が,その選択肢の中から,本件訂正発明の構成に係る特定の組合せを直ちに想起し得るようなものではない。 (3) 亜酸化銅が,本件特許出願前に,防汚活性を有する代表的化合物として古くから防汚塗料に使用されている物質であり,他の有機系の防汚性物質と併用して防汚塗料に使用されているものであることを示す刊行物として被告が引用する乙1〜7のうち,最も本件訂正発明の構成に近い乙7(米国特許第5057153号明細書)でさえ,ピリチオン亜鉛塩と亜酸化銅の併用についてのものであり,亜酸化銅と2-ピリジンチオール-1-オキシドの銅塩を有効成分とする「ゲル化せず長期保存が可能」な防汚塗料組成物については,何ら示唆するところがない。 2 取消事由2(本件訂正発明と引用例発明との相違点の看過) 本件決定は,「本件訂正発明が『ゲル化せず長期保存が可能である』と規定しているのに対し,引用例ではそのようなことが記載されていない点で一見相違しているかにみえる。しかし,この『ゲル化せず長期保存が可能である』ことは,亜酸化銅と2-ピリジンチオール-1-オキシドの銅塩を有効成分として含有する塗料組成物としたことにより当然に得られる結果に他ならないのであるから,この点の記載の有無をもって両発明が相違するということにはならない」(決定謄本6頁第1段落〜第2段落)と判断するが,誤りである。 (1) 本件訂正発明は,2-ピリジンチオール-1-オキシドの亜鉛塩と亜酸化銅の併用系塗料においては,経時的に増粘しゲル化するという欠点を有するところから,問題を解決するための手段を種々検討した結果,2-ピリジンチオール-1-オキシドの金属塩のうち銅塩のみが,他の金属塩とは異なり,亜酸化銅等の重金属化合物と併用した場合にも,ゲル化せず,長期保存安定性に優れた防汚塗料組成物が得られることを見いだし,発明の完成に至った(本件明細書〔甲2〕の段落【0008】〜段落【0010】)ものであるから,その特許請求の範囲の記載における「ゲル化せず長期保存が可能」との規定は,引用例発明と区別する構成要件であって,両発明の相違点を成しているのに,本件決定は,この点を看過している。 (2) 本件訂正発明は,「ゲル化せず長期保存が可能」な防汚塗料を提供した発明であるのに対し,引用例発明は,防汚活性のみに着目したものであり,このことは,2-ピリジンチオール-1-オキシドの亜鉛塩と亜酸化銅とを混合すると短期間にゲル化して防汚塗料として使用に耐えないことの認識が全くないことからも明らかである。 |
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被告の反論
本件決定の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。 1 取消事由1(引用例発明の認定の誤り)について (1) 亜酸化銅は,昭和38年11月15日共立出版縮刷版第1刷発行「化学大辞典5」471頁(乙1)及び昭和48年7月30日パワー社発行「塗料と塗装」202頁〜205頁(乙3)に記載されているとおり,本件特許出願前に,防汚活性を有する代表的化合物として古くから防汚塗料に使用されている物質であり,特開昭51-129435号公報(乙4),特開昭64-19010号公報(乙5),特開昭64-51480号公報(乙6)及び米国特許第5057153号明細書(乙7)に記載されているとおり,他の有機系の防汚性物質と併用して防汚塗料に使用されているものである。 (2) 引用例(甲3)には,2-ピリジルチオ-1-オキシドの銅塩について具体的に防汚活性を試験したことが記載されており(記載C),また,亜酸化銅は,防汚活性化合物の代表的なものであって,単独で,あるいは他の防汚活性化合物と併用して使用されているものであるから,引用例における記載A,すなわち,亜酸化銅を筆頭にする他の公知の活性化合物を混合して防汚塗料を製造することも可能であるとの記載からすれば,これら特定の活性化合物を混合して防汚塗料を製造することが引用例に記載されているに等しいとした本件決定の認定に誤りはない。 (3) 引用例において,防汚塗料が製造され,防汚塗料として使用されたことが事実として開示されているのであり,その貯蔵安定性まで確認されなければ,防汚塗料が製造されたことにならないわけではない。本件決定は,引用例において具体的根拠をもって記載されている銅塩を,本件訂正発明と対比させる出発点としたものであり,銅塩が特別のものとして記載されていなければ先行技術として対比し得ないということはない。 2 取消事由2(本件訂正発明と引用例発明との相違点の看過)について 本件訂正発明において,「ゲル化せず長期保存が可能」であるために格別の手段が講じられているというわけではなく,亜酸化銅と2-ピリジルチオ-1-オキシドの銅塩との併用により必然的に得られる結果を記載したにすぎないから,本件決定には原告主張の相違点の看過はない。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由2(本件訂正発明と引用例発明との相違点の看過)について (1) 原告は,本件訂正発明の特許請求の範囲の記載は「ゲル化せず長期保存が可能」と規定しているのに対し,引用例ではその記載がないのに,この点の記載の有無をもって両発明が相違するということにはならないとした本件決定の判断には,相違点を看過した誤りがある旨主張する。 そこで,まず,上記構成に係る本件訂正発明の技術的意義について検討すると,本件訂正発明は,発明の名称を「防汚塗料組成物」とし,特許請求の範囲として,「亜酸化銅と・・・2-ピリジンチオール-1-オキシドの銅塩を有効成分として含有することを特徴とするゲル化せず長期保存が可能な防汚塗料組成物」と記載され,本件明細書(甲2)の発明の詳細な説明中の【従来の技術および発明が解決しようとする課題】の欄に,「亜酸化銅と2-ピリジンチオール-1-オキシドの金属塩とは,いずれも防汚効果を有し,低毒性であり,しかも防汚効果を示す水棲生物の種類がお互いに補完しあうので,両者を併用することで優れた防汚塗料が得られるものと期待されていた」(段落【0007】),「ところが,代表的な2-ピリジンチオール-1-オキシドの金属塩である亜鉛塩と亜酸化銅とを併用した場合,経時的に増粘しゲル化するという欠点を有することがわかった」(段落【0008】),「防汚成分としての2-ピリジンチオール-1-オキシドの金属塩としては,種々の化合物が知られているが,本発明者が検討したところ,亜酸化銅等の重金属化合物と併用した場合には,亜鉛塩のみならず,鉄塩等でもゲル化することがわかった」(段落【0009】)との記載があり,【問題を解決するための手段】の欄に,「本発明者は種々検討を繰り返した結果,2-ピリジンチオール-1-オキシドの金属塩のうち銅塩のみが,他の金属塩とは異なり,亜酸化銅等の重金属化合物と併用した場合にもゲル化せず,長期保存安定性に優れた防汚塗料組成物が得られることを見出し,本発明を完成するに至った」(段落【0010】),【発明の効果】の欄に,「本発明の防汚塗料組成物は,亜酸化銅等の重金属化合物と2-ピリジンチオール-1-オキシドの銅塩とを防汚成分として含み,防汚性能に優れている上に,低毒性で人体に対して安全で,しかもゲル化せず,長期保存安定性に優れている」(段落【0017】)との記載がある。 これらの記載によれば,本件訂正発明は,ビス(2-ピリジルチオ-1-オキシド)の銅塩と亜酸化銅の組合せを選択することにより,ゲル化せず,長期保存が可能な防汚塗料組成物としたものであると解釈するのが相当である。 (2) 一方,引用例発明は,発明の名称を「水中防汚塗料」とし,引用例(甲3)には,特許請求の範囲として,「下記の一般式 NSOn M (式中Mは金属原子または NSO 基を示し,nは1〜3の整数を示す)で表わされる化合物を含有することを特徴とする水中防汚塗料」と記載され,発明の詳細な説明の欄の記載C中に,実施例3として,ビス(2-ピリジルチオ-1-オキシド)銅塩を防汚性化合物として含有する防汚塗料が記載される(3頁左上欄最終段落〜右上欄第1段落)とともに,記載A,すなわち,「本発明(注,引用例発明)に係る・・・ピリジン系化合物は他の公知の無機または有機の防汚性化合物例えば亜酸化銅・・・等の化合物を加え混合して,通常の塗料原料および塗料製造法に従って水中防汚塗料を製造することも可能である」(2頁左上欄第2段落〜左下欄第1段落)として,ビス(2-ピリジルチオ-1-オキシド)銅塩に混合して塗料を製造することが可能である防汚性化合物として亜酸化銅が他の化合物とともに例示され,また,記載C中には,比較例2として,亜酸化銅を防汚性化合物として含有する防汚塗料が記載されている(3頁左下欄)。 しかしながら,引用例には,ビス(2-ピリジルチオ-1-オキシド)の銅塩と亜酸化銅を組み合わせて成る防汚塗料について,実施例等として具体的に記載するところがなく,引用例発明に係る水中防汚塗料が「ゲル化せず長期保存が可能」との性質を有するとの点についても何ら記載がなく,また,この性質について示唆する記載も見いだすことができない。 (3) 一般に,効果の予測が困難な化学的な組成物に関する技術分野において,先行発明を記載した先行文献に,特定の成分を組み合せた組成物が実施例等として具体的に記載されている場合には,これと同一の成分の組合せから成る組成物発明において特定の性質を構成要件に加えて特許請求の範囲としても,物の発明としては先行発明と同一であって,別発明となるわけではないが,先行文献に特定の成分の組合せが具体的に記載されておらず,これにより当業者に認識されていなかった顕著な作用効果を奏することとなる場合には,先行発明とは別発明である選択発明の一種として新規性及び進歩性が認められるというべきである。 本件において,本件訂正発明は,引用例に具体的に記載されていない,ビス(2-ピリジルチオ-1-オキシド)の銅塩と亜酸化銅の組合せを選択し,「ゲル化せず長期保存が可能」な防汚塗料組成物としたものと解釈できることは上記のとおりであるから,「ゲル化せず長期保存が可能」という性質が,上記組合せを選択することにより,先行発明である引用例発明では当業者に認識されていなかった顕著な作用効果を奏することとなる場合には,本件訂正発明は,引用例発明とは別発明である選択発明の一種として新規性及び進歩性が認められるのであって,その特許性を否定するためには,上記構成に係る本件訂正発明が,上記のとおり選択発明として成立するに足りる作用効果を奏するか否かについての検討を経ることが必要であるといわなければならない。 そうすると,「ゲル化せず長期保存が可能」という性質は,本件訂正発明の構成要件となっているのに対し,引用例には,この性質について何らの記載も示唆もない以上,少なくとも,この要件の有無を相違点として認定した上で,この性質が選択発明を構成するに足りるものであるか否かについて,実施例及び比較例や本件特許出願時の技術常識を参酌するなどして判断すべきものである。したがって,このような判断過程を経ることなく,「ゲル化せず長期保存が可能」という本件訂正発明の構成要件を切り離して,ビス(2-ピリジルチオ-1-オキシド)の銅塩と亜酸化銅を混合した単なる防汚塗料を,引用例に記載されているに等しい事項であると認定した上,この認定を前提に,「ゲル化せず長期保存が可能」という性質は成分の組合せにより当然に得られる結果にほかならず,両発明が相違することにはならないとした本件決定の判断手法は,選択発明の成立の余地を否定するものであって,誤りといわざるを得ない。 (4) 被告は,「ゲル化せず長期保存が可能」というために,本件訂正発明において格別の手段が講じられているというわけではないと主張する。 しかしながら,その趣旨が,このような性質を得るために必要な手段が特許請求の範囲の記載において特定されていない,あるいは,特許請求の範囲に規定された構成のみではこのような性質が得られないというのであれば,それは特許法36条が定める明細書の記載要件の問題として検討すべき事柄であって,本件訂正発明の新規性を否定する根拠にはなり得ないから,被告の上記主張は失当である。 (5) したがって,本件決定には相違点を看過した誤りがあり,この誤りが本件決定の結論に影響を及ぼすことは明らかである。 2 以上のとおり,原告の取消事由2の主張は理由があるから,その余の点について判断するまでもなく,本件決定は違法として取消しを免れない。 よって,原告の請求は理由があるから認容することとし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 篠原勝美 |
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裁判官 | 岡本岳 |
裁判官 | 長沢幸男 |