• この表をプリントする
  • ポートフォリオ機能


追加

関連審決 無効2001-35478
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  相違点の判断 /  寄せ集め /  周知技術 /  技術常識 /  権利移転 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  加工 /  構成要件 /  請求の範囲 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 14年 (行ケ) 583号 審決取消請求事件
原告 コロナ産業株式会社
同訴訟代理人弁護士 川田敏郎
同 弁理士 鈴木三義
同 高橋詔男
被告 日本電球協同組合
被告 株式会社ドウシシャ
被告 フアイエ エンタープライズ カンパニー リミテッド
被告ら3名訴訟代理人弁理士 清水千春
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/09/24
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2001-35478号事件について平成14年10月10日にした審決を取り消す。
事案の概要
1 争いのない事実 (1) 原告は、平成3年2月14日に名称を「装飾用電灯」とする発明につき特許出願(平成3年特許願第42754号)され、特許第2786019号として登録された特許(以下「本件特許」という。)について、平成11年10月18日に訴外Aから権利移転を受けた特許権者である。
被告らは、平成13年10月26日、本件特許について無効審判を請求した。
特許庁は、同請求を無効2001-35478号事件として審理した上、
平成14年10月10日、「特許第2786019号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、同月22日、原告に送達された。
(2) 本件特許の請求項1記載の発明(以下「本件発明」という。)の要旨は、
本件審決に記載された以下のとおりである。
電球と、当該電球を支持する支持部と、軸方向一端に前記支持部を装着する解放部を有するソケット本体とを備え、前記解放部の奥には前記電球のリード線に導通する一対の端子板が組み付けられた装飾用電灯において、前記解放部はソケット本体の軸方向一端側が円筒部に形成され、前記支持部は前記円筒部に嵌合する円柱部と、この円柱部から当該円柱部と同軸に突出し、かつ前記支持部に支持された電球のリード線を先端面から突出させる貫通孔が形成された角柱部とを有し、前記円柱部の外面は若干のテーパー度を有する先端先細り形状とされ、前記角柱部の両側面は前記円柱部の外面よりも若干大きなテーパー度を有する先端先細り形状とされ、前記角柱部の前記両側面の先端には当該角柱部の前記両側面よりも大きなテーパー度を有する面取り部がそれぞれ形成され、各面取り部には、前記貫通孔から突出する電球のリード線を角柱部の前記両側面側に折り曲げて案内し、かつ前記電球のリード線の折り曲げ部が没するような案内溝がそれぞれ形成されており、さらに、前記角柱部の貫通孔の先端開口には該先端開口付近のみを2分する縦板状の隔壁が形成されていることを特徴とする装飾用電灯。
(3) 本件審決は、別紙審決書写し記載のとおり、本件発明が、米国特許第4803396号明細書(甲4、以下「引用例」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。)並びに実公昭61-6564号公報(甲5、以下「技術文献1」という。)、実公昭44-9031号公報(甲6、以下「技術文献2」という。)、特開昭55-133778号公報(甲3、以下「技術文献3」という。)、財団法人日本規格協会発行「JIS 切削加工品の面取り及び丸み JIS B 0701」(甲12、 以下「技術文献4」という。)及び実願昭61-23605号(実開昭62-155454号)のマイクロフィルム(甲13、以下「技術文献5」という。)に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法29条2項の規定に違反してなされたものであり、同法123条1項2号に該当し、無効とすべきものであるとした。
2 原告主張の本件審決の取消事由の要点 本件審決は、本件発明と引用発明との相違点1ないし3を一体的に認定せず、誤って分離して認定した(取消事由1)上、相違点1ないし3についての判断を誤り(取消事由2)、相違点4についての判断も誤ったものである(取消事由3)から、違法として取り消されるべきである。
(1) 相違点1ないし3の認定誤り(取消事由1)について ア 本件発明は、支持部の先端角部に面取り部と案内溝とリード線折り曲げ部とからなる三位一体の構成を採用して、支持部の挿入の容易性とリード線の擦過防止とリード線植え付け部にかかる引っ張り荷重の抑制とを同時に達成するものである。すなわち、本件審決記載の構成要件D「前記円柱部の外面は若干のテーパー度を有する先端先細り形状とされ、前記角柱部の両側面は前記円柱部の外面よりも若干大きなテーパー度を有する先端先細り形状とされ」、E「前記角柱部の前記両側面の先端には当該角柱部の前記両側面よりも大きなテーパー度を有する面取り部がそれぞれ形成され」、F「各面取り部には、前記貫通孔から突出する電球のリード線を角柱部の前記両側面側に折り曲げて案内し、かつ前記電球のリード線の折り曲げ部が没するような案内溝がそれぞれ形成されており」のそれぞれが一体不可分となって、以下の(ア)ないし(エ)記載の特有の効果を奏するものである。
しかし、本件審決は、本件発明と引用発明との相違点の抽出に当たり、
上記の一体不可分な構成要件D、E、Fを互いに分離し、相違点1、2、3として誤って個別に認定したものである(なお、相違点1ないし3の認定内容自体は争わない。)。
(ア)面取り部から角柱部両側面に突出するリード線は、角柱部両側面の先端角部を削って形成した面取り部と、この面取り部を更に切除して設けた案内溝のために、角柱部の長手方向において比較的電球側に近い位置で角柱部両側面上に突出して露出することになる。そのため、支持部をソケット本体の解放部内に挿入する際に、支持部の挿入ストロークに対して角柱部両側面に突出するリード線の挿入ストロークを短く設定でき、角柱部の解放部内への挿入工程の後期に至って両側面のリード線が端子板に押圧されることで導通し、リード線に与えられる引っ張り荷重を小さく抑えることができる。
(イ)案内溝内から角柱部両側面上に引き出されたリード線が、案内溝と角柱部両側面との交差部に沿って湾曲する場合、角柱部両側面が円柱部の外面よりも大きなテーパー度に形成されているために、案内溝の底面から角柱部両側面に至るリード線の湾曲角度は180度に近い大きなものになる。そのため、支持部を解放部内に挿入する際に、リード線の湾曲部が、端子板や解放部内面に押圧されて擦過する程度に外側に突出したりしない。この結果、支持部の挿入時において、リード線と端子板や解放部内面との擦過を防いで湾曲部のリード線の損傷を防止し、更にはリード線の湾曲部に引っ張り荷重が付与されるのを防止できる。
(ウ)上記(ア)で述べたように、面取り部と案内溝とによって、角柱部両側面に突出するリード線が、先端から電球側に近い位置に至って両側面上に露出するために、端子板に接触し得るリード線長さが短くてすむ。しかも、角柱部両側面が円柱部より大きなテーパー度で形成されているために、角柱部両側面上のリード線のうち端子板に接触・押圧されて導通する長さが更に短く設定され、確実に導通を達成できる。
この2つの要因によって、支持部の解放部内への挿入時に角柱部両側面上に露出して端子板との間で押圧されて引っ張り荷重が付与されるリード線領域は、更に短く設定されるから、支持部の挿入時にリード線の植え付け部に大きな引っ張り荷重がかかるのを抑制できて断線を確実に防止できるとともに、テーパー状の両側面によってリード線と端子板との確実な導通を達成できる。
(エ)支持部の各面取り部には、貫通孔から突出するリード線を角柱部の両側面側に案内する案内溝が形成され、しかも、この案内溝は、リード線の折り曲げ部全体が没するように形成されている。すなわち、面取り部と案内溝とリード線の折り曲げ部とが三位一体となって重ねて配設された構成を有している。
そのため、支持部をソケット本体内へ挿入する際、ソケット本体の解放部内面や端子板に衝突して最も挿入負荷を受ける支持部の先端角部に面取り部が当接することで、解放部内面や端子板の先端角部との挿入抵抗を低減してスムーズな挿入運動に転換できるとともに、案内溝によってこの領域のリード線折り曲げ部を保護できる。
イ 仮に、構成要件Dが、構成要件E、Fと一体不可分であることが認められないとしても、構成要件E、Fは一体不可分の構成であるというべきである。この点について、本件発明に係る明細書(甲2、以下「本件明細書」という。)には、「各面取り部にそれぞれ形成された案内溝に、前記電球のリード線の折り曲げ部が没するようになっているので」と記載されており、構成要件E、Fが一体不可分であることを述べている。
(2) 相違点1ないし3の判断誤り(取消事由2)について 本件発明においては、構成要件D、E、Fが一体不可分の構成であることから、前記(1)のような効果を奏するものであり、相違点1ないし3の判断も一体的に行われるべきところ、引用発明及び各技術文献は、本件発明の各一部の構成を別個無関係に開示しているにすぎず、これらの構成を組み合わせることについて開示はおろか示唆もしていない。
ア 相違点1について 技術文献1に記載される電球プラグが、外周面がテーパー状をなす円柱部とこの円柱部から同軸に突出する若干先細りの四角柱状の挿入部を有していること、技術文献2に記載されるランプホルダーが、円形の鍔部及び段部に四角錐部を設けたことは、いずれも認めるが、これらの技術文献には、円柱部が若干のテーパー度を有する先細り形状であり、かつ、角柱部がそれより大きなテーパー度を有するという構成が開示されていないから、本件発明の構成を容易に想到することはできない。
また、特開昭54-27649号公報 (甲7)、特開昭51-4623号公報(甲9)、特開昭64-71639号公報(甲10)、特開昭49-129053号公報(甲11、以下まとめて「周知例」という。)には、複数段のテーパー部を有し先端側のテーパー度を基端側より若干大きくする技術が開示されているが、これらはいずれも雄部材の雌部材への挿入を容易にするためのものでしかなく、本件発明の、リード線に過大な引っ張り荷重がかかるのを抑止するとともに確実な導通を図る技術思想は、開示も示唆もなされていない。
イ 相違点2について 本件発明は、単に解放部内等への支持部の挿入の容易化と確実な接続のために面取り部を設けたものではなく、円柱部と角柱部と面取り部からなる三段テーパー状構成に加えて面取り部に案内溝を設けたことで、支持部を解放部内へ挿入する際に角柱部両側面上のリード線に過大な引っ張り荷重がかかるのを抑制して断線を防止するとともに、端子板とリード線との確実な接触・導通を図るようにしたものである。
特開昭60-80096号公報(甲8)及び技術文献4は、解放部内等への支持部の挿入を容易にするために面取り部を設けることを開示するだけで、本件発明の技術思想については開示も示唆もしていない。
ウ 相違点3について 技術文献3の装飾用電灯が、リード線引出溝8中にリード線6が没する構成を開示していることは認めるが、この引出溝8は、凸条7に設けられるものであり、本件発明のように面取り部に形成され、リード線を電球に近い位置で角柱部両側面に突出させるるものではないから、角柱部両側面上のリード線が端子板と接触する位置がリード線の更に先端側になり、リード線が受ける引っ張り荷重が更に一層小さくなるという本件発明の効果を奏さない。
すなわち、技術文献3の引出溝は、本件発明の面取り部に設けた案内溝とは技術思想を異にするものであり、本件発明の効果は得られないから、本件発明の構成を容易に想到することはできない。
(3) 相違点4の判断誤り(取消事由3)について 本件審決は、引用例に記載されたノーズ34の貫通孔の先端開口には「ハッチング部分」(ノーズ34の貫通孔の先端開口に形成された該先端開口付近のみを2分する部分)があり、この「ハッチング部分」を、縦板状の隔壁とすることは、引用例のFIG.2及び技術文献5に示されるような周知事項から当業者が容易に想到し得ると判断しているが、以下のとおり、誤りである。
ア 引用例のFIG.2に示すハッチング部分は、略山形を呈するものであり、しかも、引用例の明細書中には、ハッチング部分について何らの説明もないから、ハッチング部分が、ボディ32内壁により支持されているとしても、FIG.2をもってハッチング部分が縦板状の隔壁であると認めることはできない。
すなわち、引用例や実願昭61-183202号(実開昭63-87792号)のマイクロフィルム(甲18)及び 実願昭53-001146号(実開昭54-106086号)のマイクロフィルム(甲19)に記載された、周知の一対のリード線挿入孔又は一対の小孔の形状を前提に考えれば、上記ハッチング部分は、原告作成の参考図(甲17)A、B、C(b)に示すような、互いに分離された一対の略円形断面を仕切る「鼓型の断面形状」を想起するのが、当業者の技術常識からみて妥当であり、まさに「自然な発想」である。
そして、ハッチング部分の先端形状が鼓型であると、縦板状の隔壁と比較してリード線挿入時にリード線がハッチング部分に衝突しやすく、貫通孔を見なくてもリード線を、簡単かつ1度で、迅速かつ確実に2分して挿入することができないという不具合を生じてしまう。
イ 本件審決は、技術文献5を示して、「複数のリード線のガイド穴への挿入ガイドとして縦板状の隔壁を用いること」が周知とするが、同文献は、蛍光ランプ装置に関するもので、本件発明とは技術分野を異にする。しかも、同文献記載の「隔壁」は、周知でない上に、本件発明における「縦板状の隔壁」とは、以下のとおり、用いる部所もその作用も相違する。
すなわち、同文献における隔壁(35)や隔壁(27)は、ガイド穴(26)の外部にあってピンとリード線との半田付け時等にリード線同士がたわんでショートするのを防止するために設けられたものである。また、隔壁(35)は、リード線の挿入方向を区分けして各ガイド穴(26)付近までガイドできるにすぎず、リード線は、ガイド穴(26)の周囲のべ一ス(15)の表面に衝突してしまうことがあり、各ガイド穴(26)内に確実かつ容易に挿入できるものではない。しかも、1つの穴(21)から導出された2本のリード線を、分離板(25a)を介して1つの引掛爪(24a)〜(24d)に引掛けた後に真上に延ばしてガイド穴(26)内に誘導する必要があるため、複数のリード線は、個別にガイド穴(26)に誘導することになり、本件発明のように、複数のリード線を電球とともに支持部の貫通孔内に挿入して縦板状の隔壁を介して同時に2分することはできない。
これに対して本件発明は、電球と電球に植え付けたリード線とを支持部の貫通孔内へ挿入し、リード線が貫通孔内で縦板状の隔壁に到達した際に、電球が貫通孔上部の電球着座部付近に位置するために作業者にとって貫通孔内が見えにくい状況にあることから、略平行にのばした一対のリード線を縦板状の隔壁に沿って挿入することで、熟練していない作業者であっても、貫通孔を見ずに縦板状の隔壁に沿って貫通孔の各区分内に確実にリード線を挿入して同時に2分できるというものである。
3 被告らの反論の要点 本件審決の認定・判断は正当であり、原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
(1) 取消事由1について 原告の主張する本件発明における各効果は、以下のとおり、構成要件D、
E、Fが一体不可分となった結果奏するものではなく、各々の構成要件D、E、Fが奏する作用効果の単なる寄せ集めにすぎない。
ア 効果(ア)、(ウ)についてみると、引用発明及び本件発明のいずれも、リード線は、支持部本体に形成された貫通孔から、引出し溝8のテーパ9又は案内溝18aを経て両側面に露出するのであるから、その突出位置に変わりがある道理はない。また、基準線からのリード線の突出距離を対比するのであれば、当該突出距離は、引用発明の凸条7に形成した引出し溝8の深さや本件発明の案内溝18aの深さに依存するものであることは明白であるから、上記構成要件D、E、Fが一体不可分となった結果生じる効果ではない。
イ 効果(イ)についてみると、仮に引用発明のテーパ9の傾斜角度が、本件発明の面取り部18と同様の45°であるとしても、本件発明における上記湾曲角度は、引用発明おけるそれと大差はない。したがって、効果(イ)が、上記構成要件D、E、Fが一体不可分となったことによって得られる、予想できない効果であるとする原告の上記主張は、強弁というべきである。
ウ 効果(エ)についてみると、これは、構成D、E、Fの各々が奏する効果であり、D、E、Fが一体不可分である効果ではない。
(2) 取消事由2について 本件発明の構成要件D、E、Fが一体不可分であるとの原告の主張は、根拠がなく、構成要件D、E、Fは当業者が容易に想到できることである。
原告の仮定主張についても、構成要件Fは、当業者が容易になし得る事項であり、さらに、支持部の先端角部に周知の手段である面取り部(構成要件E)を形成すれば、支持部中央の貫通孔から両側面に導出されるリード線の案内溝(構成要件F)は、当然、上記面取り部に形成されることになるのである。したがって、
構成要件E及びFの組合せも、周知技術と当業者が容易になし得る事項とを組み合わせれば、必然的に構成されてしまうものである。
(3) 取消事由3について 技術文献5や、実公昭57-39899号公報(乙3)及び実願昭52-039510号(実開昭53-134491号)のマイクロフィルム(乙4)に示されるように、複数のリード線の挿入ガイドとして縦板状の隔壁を設けることは、
周知の技術である。
当裁判所の判断
1 相違点1ないし3の認定誤り(取消事由1)について 原告は、本件審決における相違点1ないし3の認定自体は認めるものの、本件発明の構成要件D、E、Fが一体不可分であるから、これに対応する相違点1ないし3を、本件審決が個別に認定したことは誤りであると主張する。
ところで、複数の構成要件が一体不可分というためには、ある技術的課題を解決するために採用される複数の構成要件が、互いに密接不可分であり、個々の構成要件によってはその技術的課題を解決できないという関係にあること、すなわち、個々の構成要件によっては奏されることのない作用効果が、構成要件同士の協働によって初めて奏されるという関係にあることが必要であると解される。そこで、原告の主張する前記効果(ア)ないし(エ)が、構成要件D、E、Fの協働により奏されるものであるか否かについて検討する。
(1) 効果(ア)について 本件発明において、面取り部に形成された案内溝は、貫通孔から突出する電球のリード線を角柱部の両側面側に折り曲げて案内するものであるから、リード線の突出位置は、角柱部の両側面における、案内溝の開口位置によって一義的に定まり、面取り部の形状、構造によって突出位置が左右されるものではない。つまり、案内溝の角柱部両側面への開口位置、すなわち、リード線の突出位置と、案内溝を面取り部に設けることとは、密接不可分の関係にあるとはいえない。
そうすると、面取り部の案内溝から角柱部両側面に突出するリード線の突出位置をより電球側に近い位置に設定することができ、挿入時におけるリード線の擦過距離を短くし得るという原告主張の効果(ア)は、案内溝の底面を深く形成すること又はその底面を傾斜させることによるものであって、面取り部に案内溝を形成すること等とは関連性がなく、案内溝と面取り部及び角柱部両側面のテーパーとの協働によって奏されるものとはいえない(なお、本件明細書の特許請求の範囲には、案内溝の底面を傾斜させることは記載されていない。)。 (2) 効果(イ)について 本件発明において、角柱部の両側面は、円柱部の外面よりも若干大きなテーパー度を有する先端先細り形状とされており、案内溝から突出するリード線は、
テーパー度を有する角柱部の両側面に沿うように湾曲されるものと認められる。この湾曲部における湾曲角度(案内溝底面と角柱部両側面との交差角度)の大小は、
案内溝底面の傾斜角度(案内溝の角柱部両側面への開口位置)によっても大きく異なり、この角度が180°に近くなるかどうかは、上記案内溝の開口位置を電球側に近い位置に設定して案内溝底面を大きく傾斜させるか否かにより定まるものと認められる。すなわち、上記案内溝の開口位置を電球側に近い位置に設定して案内溝底面を大きく傾斜させるなら、上記湾曲角度は大きくなり、180°に近づくこととなる。つまり、本件発明において、角柱部の両側面におけるテーパー角は、円柱部の外面よりも若干大きなものにすぎず、上記湾曲部における湾曲角度に大きく影響を及ぼすのは、案内溝底面の傾斜角度であるといえる。
そうすると、案内溝底面と角柱部両側面の交差角度が180°に近い鈍角となるため、突出位置におけるリード線の湾曲部が外側に突出せず、リード線湾曲部の擦過等が防止できるという原告主張の効果(イ)は、主として案内溝の底面の傾斜角度によって奏されるものであって、案内溝と角柱部両側面のテーパー及び面取り部との協働により奏されるものではない。
(3) 効果(ウ)について 支持部をソケット本体内に挿入する際、角柱部の両側面に露出するリード線が端子板と接触する位置を、案内溝からの突出位置の更に電球側とすることができるかどうかは、角柱部の両側面が、テーパーを有するかどうかによって定まり、
面取り部、案内溝の形状等と関連しないことが明かである。
そうすると、挿入時に、角柱部の両側面に露出するリード線が端子板と接触する位置を、案内溝からの突出位置の更に電球側とすることができ、リード線が端子板や解放部と擦過する距離を更に短くすることができるという原告主張の効果(ウ)は、角柱部の両側面のテーパーによって奏されるものであって、上記テーパーと面取り部及び案内溝との協働により奏されるものではない。
(4) 効果(エ)について リード線が面取り部に露出せず、支持部の解放部内への挿入がスムーズとなるかどうかは、案内溝をリード線の折り曲げ部全体が没するようなものとして形成するか否かによるものであり、折り曲げ部が端子板や解放部内面と接触するかどうかは、前示のとおり、案内溝底面の傾斜角度によって定まり、また、角柱部両側面におけるリード線の位置ずれが生ずるかどうかは、案内溝を設けるか否かによるものである。
そうすると、リード線が面取り部に露出せず、支持部の解放部内への挿入がスムーズとなり、折り曲げ部が端子板や解放部内面と接触することがないのでリード線を擦過せず断線が防止され、角柱部両側面におけるリード線の位置ずれがないので端子板との接触不良を防止できるという原告主張の効果(エ)は、案内溝の形成及びその底面の傾斜角度によって奏されるものであって、案内溝と面取り部及びテーパー度を有する角柱部の両側面部の協働によって奏されるものではない。
(5) 以上のとおり、原告が主張する効果(ア)ないし(エ)は、構成要件D又はFのいずれかによって奏されるものであり、本件発明において、構成要件D、E、
Fが一体不可分となって特有の効果を奏していると認めることはできない。
原告は、仮に、構成要件Dが、構成要件E、Fと一体不可分であることが認められないとしても、構成要件E、Fは一体不可分の構成であると主張するが、これを認めるに足りる根拠がないことは、前記説示のとおりである。
したがって、本件発明と引用発明との相違点1ないし3に関する本件審決の認定に誤りはなく、取消事由1には理由がない。
2 相違点1ないし3の判断誤り(取消事由2)について 原告は、本件発明の構成要件D、E、Fが一体不可分の構成であることから前記1のような効果を奏することを前提として、相違点1ないし3の判断が個別的に行われたことが誤りであり、そこに示された引用発明及び各技術文献は、本件発明の各一部の構成を別個無関係に開示しているにすぎず、これらの構成の組合せについて開示も示唆もしていないと主張する。
しかし、構成要件D、E、Fが一体不可分の構成とはいえず、相違点1ないし3が個別に認定されるべきことは、取消事由1において判断したとおりであるから、本件審決が、相違点1ないし3の判断を個別に行ったことに誤りはなく、以下、各相違点の判断を順次検討する。
(1) 相違点1について 原告は、技術文献1(甲5)及び2(甲6)には、本件発明のように、円筒部が若干のテーパー度を有する先細り形状であり、かつ、四角錐部がそれより大きなテーパー度を有するという構成を開示していないから、本件発明の構成を容易に想到することはできないと主張する。
しかし、技術文献1に記載される電球プラグが、外周面がテーパー状をなす円柱部とこの円柱部から同軸に突出する若干先細りの四角柱状の挿入部を有していること、技術文献2に記載されるランプホルダーが、円形の鍔部及び段部に四角錐部を設けたことは、いずれも当事者間に争いがない。そして、引用発明も、電球支持部(ベース18)をソケット本体(ソケット20)へ挿入するものであり、技術文献1及び2記載のものと同じ技術課題を有することは明白であるから、これらの文献の開示に基づき、引用発明において、若干のテーパー状をなす円柱部(ボディ32)から突出した突出部(ノーズ34)を、リード線を案内する両側面にテーパー度を有する先端先細り形状の角柱部とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
さらに、周知例に、雄部材の雌部材への挿入を容易にするため、複数段のテーパー部を有し先端側のテーパー度を基端側より若干大きくする技術が開示されていることは当事者間に争いがないところ、この周知の技術事項に基づき、上記引用発明の構成において、若干のテーパー状をなす円柱部に対し、これから突出した先端先細り形状の角柱部の両側面のテーパー度を更に大きくすることも、当業者にとって容易なことといわなければならない。
したがって、技術文献1及び2に本件発明の構成自体が開示されていないとしても、引用発明において本件発明の構成を想到することは容易であり、原告の上記主張を採用することはできない。
また、原告は、上記の周知例が、いずれも雄部材の雌部材への挿入を容易にするためのものでしかなく、本件発明の、リード線に過大な引っ張り荷重がかかるのを抑止するとともに確実な導通を図る技術思想が開示も示唆もされていないと主張する。しかし、これらの周知例に、本件発明の有する上記の技術思想が明示されていないとしても、雄部材の雌部材への挿入を容易にするという引用発明との共通の技術課題が存する以上、この観点から、引用発明に前記周知事項を適用することには何らの困難性もないから、原告の主張を採用する余地はない。
(2) 相違点2について 原告は、特開昭60-80096号公報(甲8)及び技術文献4(甲12)は、雄部材の雌部材への挿入を容易にするために面取り部を設けることを開示するだけで、本件発明のように、円柱部と角柱部と面取り部からなる三段テーパー状構成に加えて面取り部に案内溝を設けたことで、支持部を解放部内へ挿入する際に角柱部両側面上のリード線に過大な引っ張り荷重がかかるのを抑制して断線を防止するとともに、端子板とリード線との確実な接触・導通を図るという技術思想については、開示も示唆もしていないと主張する。
しかし、本件審決は、「雄部材の雌部材への円滑な侵入のために、傾斜面の先端に面取り部を形成する」という周知事項を導くために、上記公報及び技術文献を示したものであり、雄部材の雌部材への挿入を容易にするという共通の技術課題が存する以上、上記公報及び技術文献に本件発明の技術思想が明示されているか否かに関わらず、引用発明に当該周知事項を適用することに支障はないから、原告の主張は理由がないといわなければならない。なお、原告の上記主張が、円柱部と角柱部と面取り部からなる三段テーパー状構成に加えて、面取り部に案内溝を設けたことが一体不可分であることを前提とするものであるとすれば、これが誤りであることは、取消事由1において判断したとおりである。
(3) 相違点3について 原告は、技術文献3(甲3)のリード線引出溝8が、凸条7に設けられるものであり、本件発明の案内溝のように面取り部に形成され、リード線を電球に近い位置で角柱部両側面に突出させるものではないから、リード線が端子板と接触する位置が更に先端側になり、リード線が受ける引っ張り荷重が小さくなるという本件発明の効果を奏するものではなく、本件発明の構成を容易に想到することはできないと主張する。
しかし、取消事由1の(1)において判断したとおり、面取り部の案内溝から角柱部両側面に突出するリード線の突出位置をより電球側に近い位置に設定できるかどうかは、案内溝の底面を深く形成すること又はその底面を傾斜させることにより定まるものであって、面取り部に案内溝を形成することとは関連性がない。そうすると、面取り部に案内溝を形成したことにより、本件発明の上記効果が生じるとする原告の主張は、その前提を欠き、理由がない。
そして、引用発明において、突出部(ノーズ34)の両側面の先端に、電球のリード線を突出部の両側面側に折り曲げて案内する案内溝が形成されていることと、技術文献3が、リード線引出溝8中にリード線6が没する構成を開示していることは、いずれも当事者間に争いがないところ、これに基づいて、引用発明の案内溝の深さを、リード線の折り曲げ部が没する程度のものと構成すること及びこの構成よれば、リード線の損傷等を防止する効果を奏することは、当業者が容易に想到し得ることというべきである。
したがって、いずれにしても原告の上記主張を採用することはできない。
3 相違点4の判断誤り(取消事由3)について (1) 原告は、引用例のFIG.2の略山形を呈する「ハッチング部分」について、実願昭61-183202号(実開昭63-87792号)のマイクロフィルム(甲18)及び 実願昭53-001146号(実開昭54-106086号)のマイクロフィルム(甲19)に記載された、周知の一対のリード線挿入孔又は一対の小孔の形状を前提に考えれば、互いに分離された一対の略円形断面を仕切る「鼓型の断面形状」を想起するのが、当業者の技術常識であり、「縦板状の隔壁」であると認めることはできないと主張する。
ところで、技術文献5(甲13)には、蛍光ランプ装置の考案に関して、
実用新案登録請求の範囲に「仕切板上に導出された前記複数のリード線の間を仕切板近くまで延在する隔壁を一体に付設したことを特徴とする」と記載され、作用として、「上記本考案におけるベースに付設した隔壁は、仕切板上に導出された・・・リード線のショートし易い仕切板上近くの部分の間に在って、リード線同士のショートを防止する。・・・ガイド部の下面に上述隔壁を付設すれば、この隔壁がガイド穴へのリード線の挿入のガイド板として作用する。」(同号証7頁10〜18行)と記載され、第4図及び第5図の隔壁(27)、第10図及び第11図の隔壁(35)には、縦板状のものが示されている。
上記の記載等によれば、技術文献5においては、リード線のショートを防止するために縦板状の隔壁が用いられ、このような隔壁が、リード線の挿入のガイドとしても機能することが開示されているものと認められる。このことを踏まえると、当業者は、引用例のFIG.2についても、ハッチング部分自体が縦板状の隔壁であると認識するか、あるいは、少なくともハッチング部分に縦板状の隔壁を採用できると認識することは、自然なことであるといわなければならない。そうすると、上記各マイクロフィルムに、一対のリード線挿入孔又は小孔の形状が開示されていることを考慮しても、挿入孔又は小孔でなければリード線のショートを防止できないという事情も認められない以上、当業者が、引用例のハッチング部分を一対の略円形断面を仕切る「鼓型の断面形状」に限定して認識するとの原告の主張は、
根拠を欠き、これを採用することはできない。
(2) 原告は、技術文献5について、本件発明とは技術分野を異にすると主張するが、技術文献5の蛍光ランプと本件発明の装飾用電球とは、技術分野が近接することが明らかであり、技術文献5の開示する技術事項を装飾用電球に適用することは、当業者にとって何らの困難性もないから、原告の主張は採用の余地がない。
また、原告は、同文献の隔壁(35)や隔壁(27)が、その設置態様からみて、本件発明のように、複数のリード線を電球とともに同時に支持部の貫通孔内に挿入して縦板状の隔壁を介して同時に2分することはできないと主張するが、
複数のリード線を電球とともに支持部の貫通孔内に挿入して2分することは、ハッチング部分を有する引用例に既に開示されていることである。その上で、本件審決は、技術文献5に、ガイド穴へのリード線の挿入のガイドとしても機能する縦板状の隔壁が技術事項として開示されていることを指摘したものであり、これが正当な指摘であることは、前示のとおりである。そして、上記の開示事項は、技術文献5に記載された当該発明の実施例において、原告が主張するような縦板状隔壁の具体的な設置態様が示されていることにより左右されるものではないから、原告の上記主張もまた採用することができない。
なお、原告は、本件発明の縦板状の隔壁により、熟練していない作業者であっても、貫通孔を見ずに縦板状の隔壁に沿って貫通孔の各区分内に確実にリード線を挿入して同時に2分できるという格別の効果を生じると主張するが、引用例のFIG.2には、ハッチング部分が上方に向かうに従って幅狭な形状となることが示されており、引用発明においても、2本のリード線は、この幅狭部分に案内され、貫通孔の各区分内に円滑に2分されて挿入されるものと認められるから、原告の主張する上記の効果は、本件発明のような形状の「縦板状の隔壁」により初めて達成されるものとはいえない。
4 結論 そうすると、原告主張の取消事由には、いずれも理由がなく、本件発明は、
特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものとなるから、これと同旨の本件審決に誤りはなく、その他本件審決にこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 北山元章
裁判官 青柳馨
裁判官 清水節
  • この表をプリントする