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関連審決 不服2000-17096
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  相違点の認定 /  相違点の判断 /  周知技術 /  作用の共通性 /  機能の共通性 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 14年 (行ケ) 281号 審決取消請求事件
原告 株式会社三共
訴訟代理人弁理士 根本恵司、今崎一司
被告 特許庁長官今井康夫
指定代理人 二宮千久、瀬津太朗、大野克人、大橋信彦、林栄二
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/09/25
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
特許庁が不服2000-17096号事件について平成14年4月23日にした審決を取り消す、との判決。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 本願は、原告が平成2年6月2日に出願した特願平2-144670号の一部を平成9年6月2日に分割した名称を「遊技機」とする発明についての出願である。
平成12年9月27日に本願について拒絶査定がされたので、原告は、平成12年10月26日に審判の請求をした(不服2000-17096号事件)が、特許庁は、平成14年4月23日、「本件審判の請求は成り立たない。」との審決をし、
その謄本を同年5月7日に原告に送達した。
2 本願発明の要旨(平成14年2月25日付けの手続補正書による補正後の特許請求の範囲) 「複数の識別情報が形成された回転部材の内側に遊技者が視認し得る識別情報を照射する発光部材を設け、複数の回転部材に可変表示される識別情報の停止時の組合せが、予め定められた特定の組合せで揃ったときに大当り状態を発生せしめる可変表示装置を備えた遊技機において、 可変表示中の前記複数の回転部材の表示態様と、最後の1つの回転部材が可変表示状態で且つ既に可変表示が停止状態となった回転部材の識別情報の組合せが前記特定の組合せであるリーチ状態中の可変表示が停止状態となった回転部材の表示態様と、すべての回転部材の可変表示が停止状態となってその識別情報の組合せが前記特定の組合せである大当り状態中の前記複数の回転部材の表示態様と、とが相互に異なるように前記発光部材が表示制御されると共に、可変表示中の回転部材の前記リーチ状態であるときの可変表示時間がリーチ状態でないときの可変表示時間よりも長くなるように可変表示制御されることを特徴とする遊技機。」 3 審決の理由の要旨 (1)本願発明は、第4引用例(実願昭60-118188号(実開昭62-27689号)のマイクロフィルム、甲3)に記載の発明(引用発明)及び第2引用例(特開平2-98387号公報、甲4)に記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるので、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
(2)なお、審決が上記認定判断をするにあたり、本願発明と引用発明との一致点及び相違点として認定した点は、次のとおりである。
【一致点】 「複数の識別情報が形成された回転部材の内側に遊技者が視認し得る識別情報を照射する発光部材を設け、複数の回転部材に可変表示される識別情報の停止時の組合せが、予め定められた特定の組合せで揃ったときに大当り状態を発生せしめる可変表示装置を備えた遊技機において、可変表示中の前記複数の回転部材の表示態様と、最後の1つの回転部材が可変表示状態で且つ既に可変表示が停止状態となった回転部材の識別情報の組合せが前記特定の組合せであるリーチ状態中の可変表示が停止状態となった回転部材の表示態様の両者に対する、すべての回転部材の可変表示が停止状態となってその識別情報の組合せが前記特定の組合せである大当り状態中の前記複数の回転部材の表示態様が相互に異なるように前記発光部材が表示制御される遊技機。」【相違点】相違点a:「可変表示中の前記複数の回転部材の表示態様と、最後の1つの回転部材が可変表示状態で且つ既に可変表示が停止状態となった回転部材の識別情報の組合せが前記特定の組合せであるリーチ状態中の可変表示が停止状態となった回転部材の表示態様とについて、本願発明は、相互に異なる表示態様となるように表示制御される構成であるのに対し、引用発明は、同一の表示態様になるように表示制御される構成である点。」相違点b:「本願発明は、可変表示中の回転部材の前記リーチ状態であるときの可変表示時間がリーチ状態でないときの可変表示時間よりも長くなるように可変表示制御される構成であるのに対し、引用発明は、該構成を備えていない点。」
原告の主張
審決における本願発明と引用発明との対比(一致点及び相違点の認定)については争わない。
審決は、第2引用例(甲4)記載の発明の認定を誤り(取消事由1)、本願発明と引用発明の相違点についての判断を誤り(取消事由2)、本願発明の作用効果についての判断を誤った(取消事由3)結果、本願発明は特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとの誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(第2引用例記載の発明の認定の誤り) 審決は、「第2引用例(甲4)に記載の発明は、・・・図柄情報が可変表示される可変表示部の画面と、それに対応して配置された停止表示LEDの両者をもって、図柄情報にかかる可変表示手段を形成するものといえる」(審決書8頁32〜35行)とし、さらに、第2引用例の「停止表示LED」が本願発明の「発光部材」に相当すると認定している(同9頁2〜5行)が、かかる認定判断は、誤りである。
本願発明の可変表示装置は、複数の識別情報が形成された回転部材の内側に識別情報を照射する発光部材を設けた構成であるのに対し、第2引用例に記載された可変表示部は、それ自身が発光して種々の数字、文字、図柄等(本願発明の識別情報に相当)を表示する構成であるから、両者は相違している。
また、本願発明の発光部材は、複数の識別情報が形成された回転部材の内側に設け、遊技者が視認し得る識別情報を照射する、つまり、回転部材の裏側から識別情報を照らしてその表示態様を変える発光部材であるのに対し、第2引用例の停止表示LEDは、デジタル(可変表示部44の各画面44a〜44c)が停止したとき点灯してデジタルが停止したことを遊技者に表示する機能を有するのみであって、
デジタルに表示される図柄等を照射してその表示態様を変えることはできないから、第2引用例に記載された可変表示LEDは、本願発明の発光部材とは相違している。
したがって、第2引用例の「可変表示部の画面」と「停止表示LED」の両者を組み合わせても、その構成は、本願発明の「可変表示装置」とは明確に相違しており、その作用も上に述べたように異なっている。
2 取消事由2 (相違点の判断の誤り) 2-1 相違点aについての判断の誤り 審決は、引用発明における表示制御の構成に代えて第2引用例記載の発明の構成を採用し、相違点aに係る本願発明の構成とすることは、当業者にとって想到容易であると判断したが、その判断は、前提となる第2引用例の認定において既に誤っているから、誤りである。
そもそも第2引用例に記載されたものは、自身の発光により図柄情報が可変表示される可変表示部の画面と、それに対応してこれとは別体に配置され、デジタルが停止したことを単に遊技者に知らせるためのいわばパイロットランプとして機能する停止表示LEDにすぎないから、これらのものを組み合わせても本願発明でいう回転部材の「異なる表示態様」、すなわち、回転部材の内側に遊技者が視認し得る識別情報を照射する発光部材を設け、この発光部材を表示制御することで得られる回転部材の「異なる表示態様」を得ることはできない。
2-2 相違点bについての判断の誤り 引用発明のスロットマシンの入賞表示装置では、入賞(大当たり)に至る過程でリールをランダムなタイミングで停止させ、その偶然性によって遊技者の興感を引き付けようとしている。このようなスロットマシンの入賞表示装置においては、リーチ状態の表示時間のみを長く設定しようとしても、乱数発生部35を使用してランダムなタイミングでリールを停止させる構成では不可能であり、乱数発生部35の使用を止めて無理にリーチ状態の表示時間のみを長く設定する構成に変えたとすると、リールの停止をランダムなタイミングで停止制御することはもはや不可能となるから、興感も当然失われる。このことは、引用発明が特に乱数発生部35を使用してランダムなタイミングでリールを停止させてようとした狙いとは相容れないから、前記従来周知の事項を引用発明に適用する際の阻害要因となるのに、審決は、この点を考慮することなく、誤った判断をしたものである。
3 取消事由3(本願発明の作用効果についての判断の誤り) 審決は、回転部材の裏面に発光部材を設けたことにより、可変表示中とリーチ状態中と大当たり状態中とで発光部材の表示態様が互いに異なるので、リーチ状態及び大当たり状態をそれぞれ強烈にアピールすることができるという本願発明の作用効果は、引用発明に第2引用例(甲4)記載の発明を適用したものにおいて当業者が当然に予測し得ると判断したが、誤りである。
第2引用例記載の発明には、発光部材の表示制御により可変表示中の回転部材の回転態様を変化させ、しかもその可変表示時間をリーチ状態でないときの可変表示時間よりも長くなるように制御する手段に相当する強力なアピール手段は備わっておらず、本願発明の作用効果は期待できない。
また、既に述べたとおり、引用発明に第2引用例記載の発明を適用すること自体、困難であり、仮に適用しても、本願発明の前記作用効果は得られない。
被告の反論の要点
1 取消事由1(第2引用例記載の発明の認定の誤り)について 第2引用例に記載の停止表示LEDは、停止表示される図柄情報の組合せに応じて発光の態様が異なるように表示制御されるものであって、可変表示が停止したとき点灯して停止したことを遊技者に表示するという、単なる停止表示の機能にとどまるものではない。本願発明の発光部材と第2引用例の停止表示LEDとは、いずれも発光部材として識別情報(図柄情報)の組合せに応じて発光態様が異なるように表示制御される点において一致している。第2引用例に記載された可変表示装置は、複数の図柄情報が画面に可変表示される可変表示部と、前記画面に対応する停止表示LEDとからなる構成であり、審決は、前記の認定を踏まえて、可変表示部と停止表示LEDの両者をもって図柄情報にかかる可変表示手段を形成するものと認定したものである。審決は、第2引用例に記載の発明における図柄情報にかかる可変表示手段の機能作用の範囲において、第2引用例の「可変表示部の画面」と「停止表示LED」とからなる構成は、本願発明の「回転部材」と「発光部材」とからなる可変表示装置に相当するとしたのであり、その認定判断に誤りはない。
2 取消事由2(相違点の判断の誤り)について 2-1 相違点aについて 審決における第2引用例の認定に誤りはないから、誤りがあることを前提とする原告の主張は、失当である。
審決は、引用発明(第4引用例、甲3)に示される可変表示装置の構成を前提にして、その可変表示装置の表示態様として第2引用例に記載の発明に示される表示態様を採用し、相違点aに係る本願発明の構成のようにすることは、当業者が容易に想到できると判断したのであって、この判断に誤りはない。
2-2 相違点bについて リーチ状態であるときの識別情報の可変表示時間がリーチ状態でないときよりも長くするという周知技術(甲5の特開平2-98382号公報参照)を、引用発明の第1の実施例における各リール5〜7をランダムなタイミングで順次に停止する構成に適用することを考えたときに、乱数発生部35からランダムなタイミングでストップ信号を出力する引用発明の構成を維持したままで、最後に停止するリール7に対するストップ信号の伝搬時間を可変制御できるように、その制御経路に適宜に遅延回路手段を切換可能に付加して可変表示時間を長くする程度のことは、当業者が適宜になし得る単なる設計的事項である。
原告は、引用発明における乱数発生部35の使用を止めて無理にリーチ状態の表示時間のみを長く設定する構成に変えると、リールの停止をランダムなタイミングで停止制御することはもはや不可能となる旨主張するが、引用発明における乱数発生部35の使用を前提に、最後のリールの可変表示時間を長くすることは、単なる設計的事項にすぎない。
3 取消事由3(本願発明の作用効果についての判断の誤り)に対して 可変表示時間を長くすることによってリーチ状態をアピールすることができるという原告主張の本願発明の作用効果は、審決が周知技術とした甲5の上記特許公報に既に示されており、その周知技術を適用したものであるから、当然予測されるものにすぎない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(第2引用例記載の発明の認定の誤り)について 第2引用例(甲3)の2頁右下欄10行から3頁右上欄12行、同12頁左上欄1行から右上欄15行、同左下欄13行から右下欄15行及び同14頁右上欄3行から11行の記載並びに図面によれば、第2引用例には、「複数の画面に可変表示される図柄情報が順々に停止するに伴って、複数の画面に対応して可変表示中は消灯状態にあった複数の停止表示LEDが、停止した図柄情報の組合せに大当たりの可能性があるときに順々に緑に点灯するとともに、大当たりになると前記複数の画面に対応するすべての停止表示LEDが緑色に点灯し、続いて大当たり状態中には前記複数の画面に停止表示されるすべての図柄情報が点滅するとともにすべての停止表示LEDが赤と緑に交互に切り換え点灯するパチンコ機」(審決7頁19行〜25行)と審決において認定したとおりの遊技機が記載されているものと認められる。
上記遊技機において、停止表示される図柄情報の組合せに応じて発光の態様が異なるように表示の制御がされることは明らかである。
そして、本願発明の「可変表示装置」も、第2引用例記載の発明における「可変表示部」と「停止LED」との組み合わせも、識別情報(図柄)に係る可変情報を表示するものであることに変わりはないから、審決が第2引用例記載の発明について「可変表示手段」を認定し、この「可変表示手段」について、可変表示中の可変表示手段の表示態様と、リーチ状態中の可変表示手段の表示態様と、大当たり状態中の可変表示手段の表示態様とを相互に異なるように表示することが示されていると認定したことに誤りはない。
原告は、第2引用例の「可変表示部」と「停止LED」とを組み合わせた構成は、本願発明の「可変表示装置」とは相違すると主張する。確かに、本願発明の可変表示装置は、「複数の識別情報が形成された回転部材の内側に遊技者が視認しうる識別情報を照射する発光部材を設けた」構成であるのに対し、第2引用例記載のものは、ドットマトリクス型の可変表示部44とこれに隣接して配置された停止表示LED51a〜51cという、異なる機器構成を備えるものであることは、原告主張のとおりである。しかしながら、第2引用例の「可変表示部及び停止LED」も本願発明の「可変表示装置」も可変表示という機能を共通にするとともに、リーチ状態や大当たり状態で発光部材(停止表示LED)が点滅等して興趣を盛り上げるという点でも共通するものであるから、かかる機能の共通性に着目するとき、両者は、ともに「可変表示手段」として把握し得るものである。原告は、機能・作用の共通性に着目して「可変表示手段」を認定することは不合理であるというが、発明が技術思想である以上、上記のような認定が不合理であるとはいえない。
取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(相違点についての判断の誤り)について 2-1 相違点aについて (1)相違点aについて、審決は、「第2引用例に記載の発明は、・・・可変表示中の図柄情報にかかる可変表示手段の表示態様と、リーチ状態中の可変表示が停止状態となった図柄情報にかかる可変表示手段の表示態様と、大当たり状態中の可変表示が停止状態となった図柄情報にかかる可変表示手段の表示態様を、相互に異ならせるパチンコ機である」と認定した上で、「引用発明に示される、可変表示中の前記複数の回転部材の表示態様と、・・・リーチ状態中の可変表示が停止状態となった回転部材の表示態様とが、同一の表示態様になるように表示制御される構成に代えて、前記第2引用例記載の発明に示される、可変表示中の可変表示手段の表示態様とリーチ状態中の可変表示手段の表示態様とが相互に異なる ように表示制御される構成を採用して、相違点aにかかる本願発明の構成のようにすることは、当業者が容易に想到できるものと認められる。」(下線を付加)と判断した。
原告は、審決の上記判断は、引用例2記載の発明の誤った認定に基づくものであるから誤りであると主張するが、引用例2記載の発明について、審決の認定に誤りがないことは前記1に認定判断したとおりであるから、原告の主張は、前提を欠くものであって、採用することができない。
(2)念のため、相違点aに係る本願発明の構成の想到容易性について検討する。
ア 審決は、引用発明を、「複数のシンボルが形成されたリールの内側に遊技者が視認し得るシンボルを照射するランプユニットを設け、複数のリールに可変表示されるシンボルの停止時の組合せが、予め定められた特定の組合せで揃ったときに入賞状態を発生せしめる可変表示装置を備えたスロットマシンにおいて、可変表示中の前記複数のリールの表示態様と、最後の1つのリールが可変表示状態で且つ既に可変表示が停止状態となったリールのシンボルの組合せが前記特定の組合せであるリーチ状態中の可変表示が停止状態となったリールの表示態様を同じくするのに対して、すべてのリールの可変表示が停止状態となってそのシンボルの組合せが前記特定の組合せである入賞状態中の前記複数のリールの表示態様が異なるように前記ランプユニットが表示制御される 」(審決4頁38行〜5頁98行)ものであると認定した。この認定は、原告も争わないところである。
イ 次に、第2引用例についてみると、第2引用例(甲4)には、以下の記載がある。
「デジタル44a〜44cの図柄の回転を停止する際に、図柄を緩やかな速度でスクロール、つまりドットマトリクス型の表示装置により図柄が流れるように表示および更新されるため、図柄および図柄の切り換わりが大変見やすくなり、このため遊技者にとって各デジタル44a〜44cが目標(当たり)の図柄で停止するかどうかの高い期待感が得られる。また、デジタル44a〜44cの停止直前にランダムに停止図柄がオーバランするため、意外性も有り、特にオーバランする図柄やその次の図柄等が当たり目のときには、スクロール表示とによって当たりに対する期待感が一層高められる。また、この場合各デジタル44a〜44cが停止するのに伴い停止表示LED51a〜51cが、例えば左デジタル44aが停止すると対応する停止表示LED51aが緑に点灯し、次に中デジタル44bが左デジタル44aと同図柄で停止すると対応する停止表示LED51bが同じく緑に点灯し、さらに右デジタル44cがこのとき左、中デジタル44a、44bと異なる図柄で停止すると対応する停止表示LED51cが赤に点灯するが、左、中デジタル44a、44cと同図柄で停止すると停止表示LED51cがLED51a、51bと同じく緑に点灯する(第21図(B)の4.130〜4.136)。このため、当たりの可能性が有るときは、デジタル44a〜44bの停止に伴って停止表示LED51a〜51bが順々に緑に点灯するため、先のLED51a、51bが緑になれば、デジタル44a、44bの停止図柄と共に当たりの可能性が高いことを知ることができ、最後のデジタル44cがどの図柄で停止するかあるいは最後のLED51cが緑になるかどうかの当たりの可能性への高い期待感が得られる。」(22頁左上欄1行〜右上欄15行)。 「そして、当たりとなれば、所定のウェイトタイム経過後に変動入賞装置5のアタッカー(可動部材56a、56b)が開かれるのであるが、このウェイトタイム期間中ファンファーレ音が出力され、LED-A、Bに“0”が表示されると共に(第20図(F)の3.509、3.511、第20図(H)の3.705)、デジタル44の大当たり時のディスプレイ表示が行われる(第21図(D)4.161〜4.169)。また、当たりにより停止表示LED51a〜51cは9つのLEDが赤と緑に交互に切り換え点灯され、飾りランプ18a〜18g、42a〜42f、
当たり表示ランプ19a、19b、20a、20b、72a〜72cが点滅される(第23図(A)の4.181〜4.186、第23図(B))。デジタル44は当たり図柄の点滅表示後、第29図のように小文字、中文字、大文字の“デ”が順に横方向に送り表示され、次に“デター”が下方から浮きだすように表示される。次に、第30図(A)、(B)のように人形図柄がバンザイを行いながら横方向に移動表示され、その後、第31図(A)、(B)のように当たり図柄が伸び縮み表示される。」(22頁左下欄13行〜右下欄15行) 第2引用例の上記記載及び図面によれば、第2引用例には、複数の画面に可変表示される図柄情報が順次停止するに伴い、停止した画像に大当たりの可能性がある場合は停止表示LEDが順次緑色に点灯し、大当たりになると停止表示LEDがすべて緑色に点灯し、次いで大当たり状態中になると、図柄情報が点滅するとともにすべての停止表示LEDが緑と赤に切り替えられて点滅する遊技機が記載されていること、すなわち、可変状態、リーチ状態、大当たり状態に応じて表示態様をそれぞれ変化させることが開示されていると認められる。
審決は、以上の点を踏まえて、第2引用例には、「 図柄情報が可変表示中の前記複数の画面に対応する停止表示LEDの表示態様と、最後の1つの画面が可変表示状態で且つ既に可変表示が停止状態となった画面の図柄情報の組合せが前記特定の組合せであるリーチ状態中の可変表示が停止状態となった画面に対応する停止表示LEDの表示態様と、すべての画面の可変表示が停止状態となってその図柄情報の組合せが前記特定の組合せである大当り状態中の前記複数の画面に対応する停止表示LEDの表示態様が相互に異なるように表示制御されるとともに、大当り状態中の前記複数の画面に停止表示される図柄情報の表示態様が可変表示中及びリーチ状態中とは異なるように表示制御されるパチンコ機。」(審決7頁32行〜8頁1行)が記載されていると認定しており、この認定に誤りがないことは、既に示したところから明らかである。
ウ 以上のような引用発明及び第2引用例の内容を踏まえると、引用発明の表示制御の方式に代えて、第2引用例の可変表示手段の表示制御方式を適用することは、当業者が容易になし得ることと判断される。
原告は、第2引用例記載の発明における機器構成が本願発明と相違することを指摘するが、たとえ機器構成が異なっていても、両者は、可変中の図柄情報を順次停止してその停止図柄に応じて大当たり状態が特定されるという形式の遊技機にあって、大当たりに至る過程で表示態様を変化させて興趣を盛り上げるという目的が共通している。そして、表示態様の変更は、機器の構造上の変更によらずとも電気的な制御を工夫することによって実現され得るものであるから、第2引用例が採用した表示態様の制御方式を引用例に適用することは、遊技機の設計者であれば容易になし得ることというべきである。
相違点aについての審決の判断に誤りはない。
2-2 相違点bについて 原告は、スロットマシンの入賞表示装置において、リーチ状態の表示時間のみを長く設定しようとしても、引用発明のような乱数発生部35を使用してランダムなタイミングでリールを停止させる構成では不可能であり、乱数発生部35の使用を止めて無理にリーチ状態の表示時間のみを長く設定する構成に変えると、リールの停止をランダムなタイミングで停止制御することはもはや不可能となるから、興感も当然失われる、と主張する。
しかしながら、甲5の特開平2-98382号公報に、「上記のように左右の可変表示器が同じ識別情報を表示したときに可変表示速度を遅くなるように切り換えるのは、3つの識別情報の組み合せのうち左右の2つの識別情報が揃った場合には、残りの1つが揃えば、特定表示態様となるため、遊技者が非常に期待感を寄せ、その期待感をより盛り上げるために最後の可変表示器161dの可変表示を遅くなるようにしたためである。また、その効果をより演出するために、時間TR4のための20通りの時間は、時間TR3のための20通りの時間よりも相対的に長い時間が設定される。」(19頁右上欄第15行〜左下欄5行)と記載されているように、遊技機がリーチ状態に入ったときは興趣を盛り上げるために最後の表示器の停止タイミングを遅らせることは従来から行われている周知技術と認められるから、これを引用発明に適用することは、遊技機の開発に従事する当業者であれば容易に行い得る単なる設計的事項にすぎない。
なお、引用発明において、ランダムなタイミングで各リールの停止制御が行われているとしても、リーチ状態に至ったときに最後のリールの停止制御を遅延回路等を用いて遅延させる程度のことに技術的な困難は認められない。
2-3 以上のとおり、相違点a、bについての審決の判断に誤りはなく、取消事由2は理由がない。
3 取消事由3について 原告は、第2引用例は本願発明のようにリーチ状態を強烈にアピールする構成を備えていないと主張する。しかしながら、引用発明に、リーチ状態について特別の表示態様を提示して興趣を盛り上げる引用例2の思想を適用し、さらに、リーチ状態でのリール回転を長引かせて興趣を増そうとする甲5のごとき周知技術を適用すれば本願発明の効果が得られることは明らかであるから、本願発明の効果は当業者が当然予測できるものであるとした審決の認定判断に誤りはない。
取消事由3は理由がない。
4 結論 以上のとおり、原告の主張する取消事由はいずれも理由がないから、原告の請求は棄却されるべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 古城春実
裁判官 田中昌利