関連ワード | 特許を受ける権利 / 発明者 / 信義則 / 実施 / 侵害 / 不法行為(民法709条) / 実施権 / 移転登録 / 管轄 / |
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事件 |
平成
15年
(ワ)
14128号
特許権返還等請求事件
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原告A 被告 昭和産業株式会社 被告 敷島スターチ株式会社 上記2名訴訟代理人弁護士 岩丸豊紀 同 柴谷晃 同 久米智昭 同 野澤 吉太郎 |
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裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 2003/09/26 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 原告の特許権侵害による特許権の即刻返還を求める訴えを却下する。 2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨 被告らは,原告に対し,連帯して,下記の請求事項全3件(以下,それぞれ「本件請求事項(1)」,「本件請求事項(2)」及び「本件請求事項(3)」という。)を平成15年7月17日から実施せよ。 (1) 特許権侵害による特許権の即刻返還請求 (2) 別途提示する原告作成「陳謝書面」に,被告らの各代表者の直筆署名及び押印すること (3) 同完成「陳謝書面」を,全国紙及び地方紙の社会欄又は科学欄に葉書大にて「謝罪広告」すること 2 被告らの本案前の答弁 本件訴えを却下する。 3 被告らの本案の答弁 原告の請求をいずれも棄却する。 |
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当事者の主張
1 原告の主張は,別紙訴状(写)記載のとおりである。 2 被告らの本案前の主張 (1) 本件請求事項(1)は,特許権の返還を求めるものであるが,特許権の内容が特定されていない。また,一般に返還の対象は物であって,権利は返還の対象となり得ないから,請求それ自体が不適法である。さらに,請求の趣旨に「返還」という請求権の性質を掲記するのも不適法である。 (2) 本件請求事項(2)は,要するに,書面の形式により陳謝の意思を表明することを求めるものであるが,陳謝の意思の表明そのものは強制執行により実現することに適さない行為であるから,これを求める訴えは不適法である。 (3) 本件請求事項(3)は,謝罪広告の掲載を求めるものであるが,「全国紙」及び「地方紙」という言葉の意味が一義的に確定できないから,請求内容の特定性を欠いており,この請求も不適法である。 3 被告らの本案の主張 原告の主張は,論理的に整理されていないため一般人には理解し難く,主張自体失当である。 |
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当裁判所の判断
1 本件請求事項(1)について 本件請求事項(1)は,原告が,被告敷島スターチ株式会社に従業員として勤務していた間,下記の特許権(以下「本件特許@」などといい,併せて以下「本件各特許権」という。)に係る発明(以下「本件各発明」という。)をしたところ,被告らとの間で特許を受ける権利の譲渡契約を締結したこともないとして,被告らが有する本件各特許権の返還を求める趣旨のものと解される。 @ イノシトールの製造法(特許番号第1532071号) A フィチン及びフィチン酸の製造法(特許番号第1411449号) B METHOD FOR OBTAINING PHYTIN(米国特許。 USP:4,668,813) しかしながら,特許権のような実体法上の権利は,返還請求という給付の訴えの対象とはなり得ないから,本件請求事項(1)を求める訴えは,不適法である。 なお,本件請求事項(1)が本件各特許権の移転登録を求める趣旨であるとしても,本件特許@及びAについては,原告において出願すらしておらず,現行法の下において上記請求を認めるべき根拠はない。また,本件特許Bは米国特許であるところ,米国特許権の登録に係る訴えは,専ら同国における特許権の帰属の問題であって,我が国の裁判所の国際裁判管轄を認める余地はない。 2 本件請求事項(2)及び(3)について 本件請求事項(2)及び(3)は,(ア) 被告らが,東京地方裁判所平成14年(ワ)第21376号事件の準備書面において,原告が本件各発明をしたことについて,捏造による虚偽の主張を展開し,原告を愚弄し,原告の発明者名誉権を著しく毀損したこと,(イ) 被告らが,本件特許Bについて,原告に無断で発明権譲渡書(U.S.ASSIGNMENT)を偽造し,代理人を通じて米国特許庁に提出して特許権及び実施権を取得した上,この事実を隠蔽したこと,(ウ) 被告らが,本件各発明について,虚偽の発明者を設定し,原告から特許を受ける権利の譲渡を受けることなく,原告の特許権を剥奪したこと,(エ) 被告らが,本件各発明以外の原告の発明に係る特許について,原告に対し,「特許申請請求の放棄について」,「譲渡の申入れ」及び「譲渡証明書」を送付したことが,不法行為に当たるとして,民法723条に基づき,謝罪文の交付及び謝罪広告の掲載を求める趣旨のものと解される。 しかしながら,上記(ア)の行為を理由とする被告らに対する陳謝書面への署名押印を求める訴訟については,既に原告の請求を棄却する旨の判決が確定し,上記(ア)の行為を理由とする謝罪広告の掲載を求める訴訟については,既に訴えを却下する旨の判決が確定している(当庁平成15年(ワ)第5383号。乙1,2)。そうすると,上記(ア)の行為を理由とする主張は,前記訴訟の蒸し返しというべきであり,信義則に照らして許されない。また,民法723条は,「名誉ヲ毀損シタ」場合に「名誉ヲ回復スルニ適当ナル処分」を命ずることができる旨規定しており,同条にいう「名誉」とは,人格的価値に対する社会的評価であって,当該不法行為が単に相手方の名誉感情を侵害するにすぎない場合は,同条の保護の対象とはならないものであるところ(最高裁昭和43年(オ)第1357号同45年12月18日第二小法廷判決・民集24巻13号2151頁参照),上記(イ)ないし(エ)の行為は,人格的価値に対する社会的評価を侵害する行 為と認めることはできないから,「名誉ヲ毀損シタ」場合に当たらない。したがって,原告は,同条により謝罪文の交付及び謝罪広告の掲載を求めることはできず,他にこれを認める法律上の根拠はない。 よって,本件請求事項(2)及び(3)は理由がない。 3 なお,原告は,口頭弁論終結後に「審議再開申立書及び『訴訟請求事項』訂正・補填書」と題する書面を提出し,本件請求事項(1)ないし(3)を「原告発明特許『イノシトールの製造法』,『フィチン及びフィチン酸の製造法』及び『澱粉の流動性改良法』の出願に関る不法行為(無断出願・発明権譲渡書偽造・詐欺行為等)に対する謝罪請求」及び「前項に関する『謝罪広告』は,『朝日新聞』,『毎日新聞』,『中日新聞』及び『日本経済新聞』の各紙面に,葉書大にて掲載すること」に訂正すること並びに弁論の再開を求めた。 しかしながら,上記請求は,いずれも不法行為に基づき謝罪ないし謝罪広告の掲載を求めるものであり,民法723条を根拠とするものと解することができるが,前記2で述べたのと同様の理由により,いずれの請求も理由がないことが明らかであるから,弁論を再開せず,従前の主張について上記のとおり判断するものである。 4 結論 以上によれば,原告の請求のうち,本件請求事項(1)を求める訴えは不適法であるから却下し,本件請求事項(2)及び(3)は理由がないからいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 部眞規子 |
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裁判官 | 上田洋幸 |
裁判官 | 宮崎拓也 |