関連審決 | 異議2000-71533 |
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関連ワード | 技術的思想 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 一致点の認定 / 相違点の認定 / 相違点の判断 / 周知技術 / 発明の詳細な説明 / 優先権 / 国内優先権 / 抵触 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 設定登録 / 請求の範囲 / 変更 / 取消判決 / 取消決定 / 公知事実 / 判決の拘束力 / |
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事件 |
平成
14年
(行ケ)
523号
特許取消決定取消請求事件
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原告 旭硝子株式会社 同訴訟代理人弁理士 三好秀和 同 岩崎幸邦 同 中村友之 被告 特許庁長官今井康夫 同指定代理人 安藤勝治 同 藤原伸二 同 高木進 同 涌井幸一 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2003/09/29 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁が異議2000-71533号事件について平成14年8月22日にした決定を取り消す。 |
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事案の概要
1 争いのない事実 (1) 原告は、発明の名称を「アタッチメント付き複層ガラス」とする特許第2963341号発明(平成6年7月7日出願、国内優先権主張日・平成5年7月7日、平成11年8月6日設定登録。)の特許(以下「本件特許」という。)を有する者である。 その後、訴外セントラル硝子株式会社より本件特許につき特許異議の申立てがなされ、同申立ては、異議2000-71533号事件として特許庁に係属した。原告は、平成12年9月26日、本件特許出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載の訂正の請求をした。特許庁は、上記事件につき審理した結果、平成13年12月11日、 「訂正を認める。特許第2963341号の請求項1〜3に係る特許を取り消す。」との決定(以下「1次決定」という。)をし、その謄本は、平成14年1月5日、原告に送達された。 原告は、上記1次決定を不服とし、その取消請求の訴えを提起した。東京高等裁判所は、同請求を平成14年(行ケ)第56号事件として審理し、平成14年6月19日、「特許庁が異議2000-71533号事件について平成13年12月11日にした決定を取り消す。」との判決(以下、「前取消判決」という。)をし、同判決は同年7月19日に確定した。 特許庁は、前記異議事件の審理を再開し、平成14年8月22日、再度「訂正を認める。特許第2963341号の請求項1〜3に係る特許を取り消す。」との決定(以下「本件決定」という。)をし、その謄本は、同年9月13日、原告に送達された。 (2) 本件特許の請求項1ないし3記載の発明(以下「本件発明1」ないし「本件発明3」という。)の要旨は、本件決定に記載された以下のとおりである。 【請求項1】複層ガラスの周縁部を包囲できる断面コ字状を呈するチャンネル状の補強材と、該補強材の複層ガラスに相対する内側面に一体的に設けた内部軟質材と、複層ガラス用サッシと係合する外側面の一部に一体的に設けた外部軟質材と、からなり、上記補強材を主材とするグレージング用のアタッチメントを複層ガラスの周縁部に被着したアタッチメント付き複層ガラス。 【請求項2】前記外部軟質材には、複層ガラス用サッシの取付け開口部の先端縁に係止される係止部が備えられている請求項1記載のアタッチメント付き複層ガラス。 【請求項3】前記内部軟質材及び外部軟質材は、ショアA硬度が60〜70°の塩化ビニル樹脂またはショアA硬度が60〜70°のアクリル樹脂からなる請求項1または2に記載のアタッチメント付き複層ガラス。 (3) 本件決定は、別紙異議の決定書写し記載のとおり、本件発明1が、刊行物1(甲7、実願昭56-195195号(実開昭58-101981号)のマイクロフィルム、以下「刊行物1」という。)に記載された発明(以下「刊行物発明1」という。)及び周知の技術に基づいて、本件発明2が、刊行物1に記載され刊行物発明1を引用する発明(以下「刊行物発明2」という。)に基づいて、本件発明3が、刊行物発明1又は2と刊行物2(「建築材料ハンドブック」,初版,株式会社朝倉書店,昭和44年4月15日,P836-839)に記載された技術事項(以下「引用技術事項」という。)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。 2 原告主張の本件決定の取消事由の要点 本件決定は、1次決定を取り消した前取消判決の拘束力に従わず、刊行物1に「アタッチメント付き複層ガラス」が記載されていると認定する(取消事由1)とともに、刊行物1を用いて本件発明1が容易に発明できたとする(取消事由2)から、行政事件訴訟法33条1項の規定に違反するものであって、違法として取り消されるべきである。 (1) 刊行物1の認定に関する拘束力違反(取消事由1)について ア 最高裁第三小法廷平成4年4月28日判決(民集46巻4号245頁、 以下「小法廷判決」という。)は、「特許無効審判事件についての審決の取消訴訟において審決取消の判決が確定したときは、審判官は特許法181条2項の規定に従い当該審判事件について更に審理を行い、審決をすることとなるが、審決取消訴訟は行政事件訴訟法の適用を受けるから、再度の審理ないし審決には、同法33条1項の規定により、右取消判決の拘束力が及ぶ。そして、この拘束力は、判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたるものであるから、審判官は取消判決の右認定判断に抵触する認定判断をすることは許されない。したがって、再度の審判手続において、審判官は、取消判決の拘束力の及ぶ判決理由中の認定判断につきこれを誤りであるとして従前と同様の主張を繰り返すこと、あるいは右主張を裏付けるための新たな立証をすることを許すべきではなく、審判官が取消判決の拘束力に従ってした審決は、その限りにおいて適法であり、再度の審決取消訴訟においてこれを違法とすることができないのは当然である。」と判示しており、上記判決は、特許無効審判事件についてのものであるが、特許異議事件についても当てはまることは明らかである。 イ 前取消判決は、1次決定が、刊行物1に「アタッチメント付き複層ガラス」が記載されていると誤った認定をした結果、本件発明1と刊行物発明1とが「アタッチメント付き複層ガラス」の点で一致すると誤認し、これが同決定の結論に影響を及ぼすことは明らかであるとして、1次決定を取り消し、確定したものである。 したがって、小法廷判決の上記判示内容から、当該特許異議事件についての更なる審理においては、行政事件訴訟法33条1項の規定により、前取消判決の拘束力が及び、刊行物1にアタッチメント付き複層ガラスが記載されていると認定することは許されない。 しかるに、本件決定は、刊行物発明1を、「複層ガラスをサッシ(外枠11)に係合(嵌着)するのに先がけてその場でアタッチメント(ビード)を複層ガラスの周縁部(複層ガラス10の端面から両表面端縁)に被着(外嵌)したもの。」と認定するところ、上記認定された「もの」は、以下の@ないしBの理由から、「アタッチメント付き複層ガラス」を意味していることが明らかであるから、 上記認定は、前取消判決の拘束力に違反している。 @ 本件決定は、相違点3の検討において、「本件発明1のアタッチメント付き複層ガラスが、上記『1』の場合 刊行物発明1の、複層ガラスをサッシに係合するのに先がけてその場で、アタッチメントを複層ガラスの周縁部に被着したものも、当然アタッチメント付き複層ガラスといえることは、明白である。したがって実質的には相違点3は存在しないといえる。」と判断している。 A 1次決定において、実質的に本件決定と同一の刊行物1の記載箇所を挙げて刊行物発明1を認定した上、本件発明1と対比し、一致点を、「グレージング用のアタッチメントを複層ガラスの周縁部に被着したアタッチメント付き複層ガラス。」と認定している。 B 本件においては、1次決定に先立ち、平成12年7月19日付け取消理由通知書(甲3、以下「本件通知書」という。)が原告に対し送付され、その取消理由には、本件発明1と刊行物発明1の一致点として、「グレージング用のアタッチメントを複層ガラスの周縁部に被着したアタッチメント付き複層ガラス。」と記載されており、本件決定は、上記一致点を前提として行われている。 (2) 刊行物1の使用に関する拘束力違反(取消事由2)について ア 前記小法廷判決は、「特定の引用例から当該発明を特許出願前に当業者が容易に発明することができたとはいえないとの理由により、審決の認定判断を誤りであるとしてこれが取り消されて確定した場合には、再度の審判手続に当該判決の拘束力が及ぶ結果、審判官は同一の引用例から当該発明を特許出願前に当業者が容易に発明することができたと認定判断することは許されないのであり、したがって、再度の審決取消訴訟において、取消判決の拘束力に従って再度の審決の認定判断を誤りである(同一の引用例から当該発明を特許出願前に当業者が容易に発明することができた)として、これを裏付けるための新たな立証をし、更には裁判所がこれを採用して、取消判決の拘束力に従ってされた再度の審決を違法とすることが許されないことは明らかである。」と判示している。 イ 1次決定は、結論として、「本件発明1は、刊行物1の発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものである」と判断するものであるところ、 前取消判決は、「本件決定の上記一致点の認定の誤りが本件決定の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、本件決定は取消しを免れない。」と判示しており、 この判決は、1次決定の内容から判断して、「刊行物1から本件発明1を特許出願前に当業者が容易に発明することができたとはいえない」と同じ法的意味を有することは明らかである。 これに対し、本件決定は、「以上を総合判断すれば、本件発明1は、刊行物発明1および周知事項に基づき当業者が容易に発明をすることができたものである。」と認定判断しているが、小法廷判決の判示内容から、本件決定において、 刊行物発明1を用いて本件発明1を当業者が容易に発明をすることができたと判断することが許されないことは明らかである。 (3) 被告の予備的主張について ア 被告は、本件発明1が、刊行物発明1及び周知事項に基づき当業者が容易に発明をすることができたと予備的に主張している。この周知事項は、本件決定における相違点3の判断において示されたものであり、相違点3は、「グレージング用のアタッチメントを複層ガラスの周縁部に被着したアタッチメント付き複層ガラス」であるから、本件発明1の対象そのものである。 ところで、発明の容易推考性の判断は、刊行物記載の技術内容を認定した上、これを小前提(刊行物発明)とし、出願前の当業者の技術水準を大前提としてなされる。ここでいう技術水準は、周知技術と同じであり、周知事項の補充として許されるのは、大前提のみである。 本件の場合、相違点3は、前記のとおり、本件発明1の対象そのものであるから、大前提ではなく小前提に当たる。したがって、新たな刊行物を示して対比判断すべきものである。ところが、被告は、後記本件周知例について「周知事項」といいながら、実際上は、小前提に当たる新たな刊行物として各々の文献に記載されている技術内容を引用している。このような被告の予備的主張は、最高裁大法廷昭和51年3月10日判決(民集30巻2号79頁、以下「大法廷判決」という。)に反し失当である。 イ 被告は、本件発明1と刊行物発明1とは「グレージング用のアタッチメント」において一致すると主張するところ、刊行物発明1が、複層ガラスの周縁部を包囲できる断面コ字状を呈するチャンネル状の補強材と、該補強材の複層ガラスに相対する内側面に一体的に設けた内部軟質材と、複層ガラス用サッシと係合する外側面に一体的に設けた外部軟質材と、からなるグレージング用シール材であるビードに関するものであり、このビードに複層ガラスが嵌着されている実施例が開示されていることは認める。 しかし、刊行物発明1には「アタッチメント付き複層ガラス」は全く記載されておらず、刊行物1の第4図に記載のものは、「ビード」に係る考案を説明するための補助的意味を持つにすぎないものであって、「ビード」が組み立てられた状態の断面図にすぎない。 これに対し、本件発明1は、「アタッチメント付き複層ガラス」の発明であり、その効果は、複層ガラスの周縁部にアタッチメントが被着されているので、そのままサッシ框に取り付けることができるというものであるが、そのような技術的意味をもつ「アタッチメント」は、刊行物1には全く記載されておらず、本件発明1と刊行物発明1との間には技術的思想の共通性があるとは到底いえない。 したがって、被告主張の上記事項を本件発明1と刊行物発明1との一致点とすることは、明らかに誤りである。 3 被告の反論の要点 本件決定の認定・判断は正当であり、原告主張の取消事由はいずれも理由がない。 (1) 取消事由1について ア 被告は、刊行物1にアタッチメント付き複層ガラスが記載されていない点に前取消判決の拘束力が働くことを認識している。 そして、本件決定は、この拘束力に従い、本件発明1の「アタッチメント付き複層ガラス」が「予め別工程で被着したもの」のみならず「その場で被着したもの」という2つの態様に具体的に特定される「被着」、を前提とした用語として用いられていることを、本件明細書【0013】の記載より忠実に読み取り、これを出発点としたものである。 しかるに、刊行物1には、「その場で被着したもの」のみが記載されているのであるから、このものは、上記具体的に特定された用語としての「アタッチメント付き複層ガラス」ではないとして、刊行物発明1については、「その場で被着したもの」と認定したのである。また、一致点としては、具体的に特定されていない「被着したもの」である点で共通するとし、その上で、相違点として、本件発明1については、「予め別工程で被着したもの」と「その場で被着したもの」との具体的に特定された「被着」を前提とする「アタッチメント付き複層ガラス」であるとし、また、刊行物発明1については、「その場で被着したもの」であるとしたのである。 イ 原告は、本件決定が刊行物発明1として認定した「もの」の意味が、 「アタッチメント付き複層ガラス」であると主張して、その根拠を相違点3の判断に求める。しかし、「もの」は、あくまでも「もの」であって、「アタッチメント付き複層ガラス」ではない。本件発明1の「アタッチメント付き複層ガラス」が、 「予め別工程で被着したもの」のみならず、「その場で被着したもの」をも含むものであるのに対して、刊行物発明1は、「その場で被着したもの」のみであることを前提とする。 すなわち、本件決定における「アタッチメント付き複層ガラス」は、 「予め別工程で被着したもの」あるいは「その場で被着したもの」という、具体的に特定されたものとして理解することができる。一致点が認定した「もの」は、 「予め別工程で被着したもの」と「その場で被着したもの」を含む広い概念を意味し、具体的に特定されない「もの」であり、具体的に特定された「アタッチメント付き複層ガラス」とは異なる。 ウ 原告は、刊行物発明1について、1次決定と本件決定とで、同じ記載箇所を挙げて発明を認定しているから、本件決定における一致点の認定も結局、1次決定の一致点の認定と同じであると主張する。しかし、同じ記載箇所を挙げたとして常に同じ認定になるわけではなく、認定が異なるものであることは上記のとおりである。 エ 本件通知書の取消理由は、前取消判決の指摘に従えば、結果的に一致点の認定に誤りがあったといえるが、相違点とすべきを相違点としなかった誤りがあるとしても、本件明細書の【0013】には、その相違点とすべき、「アタッチメント付き複層ガラス」について、「その場で被着したもの」をも含める意が明白に記載されており、この取消理由によって、原告には既に十分に、その意が通知されていたものと解されるから、再度の取消理由通知をしないことが、原告にとって、 何ら不意打ちとなるものではない。 (2) 予備的主張について 仮に、本件決定に前取消判決の拘束力違反があるとしても、本件決定は、 以下のとおり、変更して解釈することが可能であるから、結論において誤りがないことは明らかである。 ア 刊行物発明1の認定 複層ガラスの周縁部(複層ガラス10の端面から両表面端縁)を包囲できる断面コ字状を呈するチャンネル状の補強材(溝形本体16に挿入した軟鉄17)と、該補強材の複層ガラスに相対する内側面に一体的に設けた内部軟質材(軟鉄17より内側の圧接片15)と、複層ガラス用サッシ(外枠11)と係合(嵌着)する外側面に一体的に設けた外部軟質材(軟鉄17より外側の溝形本体16)とからなるグレージング用のアタッチメント(ビード)。 イ 本件発明1と刊行物発明1の一致点及び相違点 (一致点)複層ガラスの周縁部を包囲できる断面コ字状を呈するチャンネル状の補強材と、該補強材の複層ガラスに相対する内側面に一体的に設けた内部軟質材と、複層ガラス用サッシと係合する外側面に一体的に設けた外部軟質材と、からなるグレージング用のアタッチメント。 (相違点1)本件発明1においては、複層ガラス用サッシと係合する外側面の一部に外部軟質材を設けるのに対して、刊行物発明1においては、一部のみに設けるとしていない点。 (相違点2)本件発明1においては、補強材を主材とするというのに対して、刊行物発明1においては、軟鉄17が主材であるか不明な点。 (相違点3)本件発明1は、グレージング用のアタッチメントを複層ガラスの周縁部に被着したアタッチメント付き複層ガラスであるのに対して、刊行物発明1は、グレージング用のアタッチメントという、アタッチメント付き複層ガラスの部品である点。 ウ 相違点の判断 相違点1及び2は、本件決定の認定と同様であるから、これらについての判断も本件決定と同様である。そこで、相違点3の判断について検討する。 グレージング用のアタッチメントを複層ガラスの周縁部に被着してアタッチメント付き複層ガラスとすることは、下記公報等にも見られるとおり、従来周知である(乙1、実願昭59-30330号(実開昭60-143876号)のマイクロフィルム(以下「周知例1」という。)、乙2、実願昭58-187072号(実開昭60-94585号)のマイクロフィルム(以下「周知例2」という。)、乙3、実願昭58-62302号(実開昭59-167288号)のマイクロフィルム(以下「周知例3」という。)、乙4、実公昭47-4936号公報(以下「周知例4」という。)、乙5、特公昭42-19120号公報(以下「周知例5」という。)参照、以下まとめて「本件周知例」という。)。 そうすると、刊行物発明1に周知事項を適用して、すなわち、グレージング用のアタッチメントを複層ガラスの周縁部に被着してアタッチメント付き複層ガラスとなすことは、当業者が容易になし得ることである。 |
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当裁判所の判断
1 刊行物1の認定に関する拘束力違反(取消事由1)について (1) 前取消判決(甲6)は、刊行物1について、「『アタッチメント付き複層ガラス』が記載されているとの誤った認定をした」と判示しており、この判決の拘束力が、刊行物1に「アタッチメント付き複層ガラスが記載されていない」点にあることは、当事者間に争いがない。 そして、本件決定は、本件発明1と刊行物発明1との相違点3として、 「グレージング用のアタッチメントを複層ガラスの周縁部に被着したものが、本件発明1においては、アタッチメント付き複層ガラスというものであるのに対して、 刊行物発明1においては、複層ガラスをサッシに係合するのに先がけてその場で被着したものである点。」(甲1第6頁4〜7行)と認定した上、相違点3の検討において、本件発明1のアタッチメント付き複層ガラスが、框あるいはサッシに取り付けるのに先がけてその場で、アタッチメントを複層ガラスの周縁部に被着することにより得た態様である場合について、「刊行物発明1の、複層ガラスをサッシに係合するのに先がけてその場で、アタッチメントを複層ガラスの周縁部に被着したものも、当然アタッチメント付き複層ガラスといえることは、明白である。したがって実質的には相違点3は存在しないといえる。」(甲1第7頁14〜18行)と説示している。 上記の説示においては、刊行物発明1の、「複層ガラスをサッシに係合するのに先がけてその場で、アタッチメントを複層ガラスの周縁部に被着したもの」が、「アタッチメント付き複層ガラス」といえると認定しており、刊行物1にアタッチメント付き複層ガラスが記載されていると認定していることは明らかであるから、前取消判決の拘束力に反するものといわなければならない。 (2) 被告は、本件決定が前取消判決の拘束力に従ったものであるとした上、本件発明1が、「予め別工程で被着したもの」と、「その場で被着したもの」という2つの態様により具体的に特定される「アタッチメント付き複層ガラス」であるのに対して、刊行物発明1は、「その場で被着したもの」のみであることを前提とし、一致点として、「予め別工程で被着したもの」と「その場で被着したもの」を含む具体的に特定されない「被着したもの」を認定したのであり、刊行物1に、具体的に特定された「アタッチメント付き複層ガラス」が記載されていると認定したのではないと主張する。 しかし、本件発明1の「予め別工程で被着したもの」及び「その場で被着したもの」は、いずれも「アタッチメント付き複層ガラス」というべきものであり、同様に、被告が刊行物発明1について主張する、「その場で被着したもの」も、「アタッチメント付き複層ガラス」以外のものでないことが明らかである。刊行物発明1を「アタッチメント付き複層ガラス」と認定したものでないとする被告の主張は、それ自体誤りである上、本件決定の相違点3についての前記判断とも矛盾するものであり、到底これを採用することはできない。 そうすると、本件決定における刊行物発明1の認定は、前取消判決の拘束力に違反していると解すべきところ、本件決定は、許されない刊行物発明1の認定に基づいて本件発明1との対比を行っている以上、これに関連する本件発明1と刊行物発明1との一致点の認定及び相違点3の認定を誤ったものといわなければならない。 2 被告の予備的主張について 被告は、仮に、本件決定に前取消判決の拘束力違反がある場合においても、 本件決定は結論において誤りがないと主張するので検討する。 (1) 刊行物発明1が、複層ガラスの周縁部を包囲できる断面コ字状を呈するチャンネル状の補強材と、該補強材の複層ガラスに相対する内側面に一体的に設けた内部軟質材と、複層ガラス用サッシと係合する外側面に一体的に設けた外部軟質材と、からなるグレージング用シール材であるビードに関するものであり、このビードに複層ガラスが嵌着されている構成が開示されていることは、当事者間に争いがない。 (2) そこで、刊行物発明1と本件発明1とを対比すると、一致点は、「複層ガラスの周縁部を包囲できる断面コ字状を呈するチャンネル状の補強材と、該補強材の複層ガラスに相対する内側面に一体的に設けた内部軟質材と、複層ガラス用サッシと係合する外側面に一体的に設けた外部軟質材と、からなるグレージング用シール材及び該グレージング用シール材に嵌着される複層ガラス。」となり、相違点としては、まず、本件決定が認定した相違点1及び相違点2(甲1第5頁下から2行〜6頁3行)と同一の点が認められる。 そして、「グレージング用シール材及び該グレージング用シール材に嵌着される複層ガラスが、本件発明1においては、グレージング用シール材をアタッチメントとして複層ガラスの周縁部に被着したアタッチメント付き複層ガラスであるのに対して、刊行物発明1においては、グレージング用シール材はビードであり、 複層ガラスは外枠に嵌合する際に該ビードを使用するものであるが、アタッチメント付き複層ガラスではない点。」が、相違点3となるものと認められる。 (3) 上記相違点1及び2に関する本件決定の判断(甲1第6頁9〜末行)について、原告は、これを明らかに争わないものと認められる。 そこで、上記相違点3について検討する。 本件決定が相違点3の検討において提示した本件周知例のうち、周知例1には、「複層ガラスを既設のサッシ枠等に簡単に取り付けられるようにしたものとしてこの複層ガラスの周辺部に弾性ビードを介してアダプターを嵌め込んだ複数ガラスユニットが知られ、」(乙1明細書2頁7〜10行)、周知例2には、「周囲に、断面溝型で開口部両側縁に外側に向かう鍔を有する、厚みの薄い鋼箔からなる枠体が、その溝を複層ガラスの周縁に嵌合するようにして装着されてなる複層ガラス。」(乙2明細書1頁実用新案登録請求の範囲第1項)、「予め工場において複層ガラスの周縁に枠体が装着されているようにすれば、施行時には枠体の部分を障子枠の溝内に嵌入させるだけで良い。」(同5頁14〜17行)、周知例3には、 「一対の板ガラスを周囲にシール材を介して対向させ、この板ガラスの縁を断面略U字状のグレイジングチャンネル内に嵌込み、グレイジングチャンネルの内底面中央に沿って凹溝を凹設してシール材とグレイジングチャンネルとを絶縁させると共に凹溝の両側の段部を板ガラスに当接させ、凹溝の部分においてグレイジングチャンネルに水抜き孔を穿孔して成るペアガラス。」(乙3明細書1頁実用新案登録請求の範囲(1))、「このペアガラスはアルミサッシに嵌めて二重窓等として使用されるものである。」(同3頁8〜10行)、周知例4には、「適間隙を隔てて並立させた二枚若しくは数枚の板ガラス周縁部に、内周面にこれと嵌合する溝を設けたゴム又は合成樹脂質の材料から成る帯状のパッキングを着設し、該パッキングの両側面に建具框の内縁部に嵌合する適形状の切欠溝を設けると共に、板ガラス周縁部とパッキングの各溝底部間に硬化後においても弾力性のある接着剤を介在せしめ、両者を一体に結合固着したことを特徴とする複層ガラス。」(乙4第2欄実用新案登録請求の範囲)、周知例5には、「2枚以上の複数枚の硝子板を適当な間隙を隔てて常温において加硫出来る液状ゴムをもって固定しその外周を硝子板の厚みとほぼ同じ幅の複数の溝を有し、かつ弾力性を有するガスケットをもって被包固定したことを特徴とする気密性多重硝子板」(乙5第2頁特許請求の範囲)と、それぞれ記載されている。 以上の本件周知例の各記載によれば、グレージング用のシール材であるビード、ガスケット等を、アタッチメントとして用い、これらを複層ガラスの周縁部に被着してアタッチメント付き複層ガラスとすることは、従来、周知の技術であったものと認められる。そうすると、当業者は、上記周知技術に基づき、刊行物発明1に開示されるビードをアタッチメントとして用いて複層ガラスに装着し、アタッチメント付き複層ガラスとすることを容易に想到できるものといわなければならない。 原告は、本件発明1が「アタッチメント付き複層ガラス」であり、その効果は、複層ガラスの周縁部にアタッチメントが被着されているので、そのままサッシ框に取り付けることができるというものであるが、そのような技術的意味をもつ「アタッチメント」は、刊行物1には記載されておらず、本件発明1と刊行物発明1との間には技術的思想の共通性があるとはいえないと主張する。 しかし、刊行物発明1自体はアタッチメント付き複層ガラスではないとしても、刊行物1には、前示のとおり、グレージング用のシール材であるビードが開示されており、このビードに複層ガラスを嵌着した実施例の構成も示されているのであるから、本件発明1と技術的共通性があることは明らかであり、しかも、このようなシール材であるビードについて、アタッチメントとして用いて複層ガラスの周縁部に被着するという周知技術を適用すれば、当該複層ガラスをそのままサッシ框に取り付けることができるという原告主張の効果を奏することも明白であるから、原告の上記主張を採用することはできない。 (4) 以上のとおり、本件決定は、前取消判決の拘束力に違反して刊行物発明1を認定した結果、本件発明1と刊行物発明1との一致点の認定及び相違点3の認定をも誤ったものであるが、上記のように、前取消判決の拘束力に反することなく、 刊行物発明1の認定を行い、これに基づいて一致点及び相違点の認定を行った場合には、新たに認定される相違点3に関しても、本件決定が従来の相違点3の検討において掲示した本件周知例に示される周知技術に基づいて、当業者が容易に想到できるものといえる。 したがって、本件決定の前記誤りは、その結論に影響しないというべきであり、被告の予備的主張は、上記判断と同旨のものと解するのが相当である。 (5) 原告は、相違点3が、「グレージング用のアタッチメントを複層ガラスの周縁部に被着したアタッチメント付き複層ガラス」であり、本件発明1の対象そのものであることを理由に、被告が、相違点3の判断において、新たな刊行物を示すことなく、本件周知例を「周知事項」といい、実際上は、小前提に当たる新たな刊行物として記載されている技術内容を引用して予備的主張を行うことは、大法廷判決に反すると主張する。 しかし、本件発明1は、その発明の要旨で示されるように、チャンネル状の補強材、内部軟質材、外部軟質材などを規定してアタッチメント自体を特定するものであり、これを除外した上記相違点3のアタッチメント付き複層ガラスが本件発明1の内容であるとすることは、明らかに誤りであるから、原告の主張はその前提を欠くものといえる。 また、大法廷判決は、「審決の取消訴訟においては、抗告審判の手続において審理判断されなかった公知事実との対比における無効原因は、審決を違法とし、又はこれを適法とする理由として主張することができないものといわなければならない。」と判示するものであるところ、被告の予備的主張及び当裁判所の判断は、特許異議の手続において審理判断された刊行物1について、審理判断された引用箇所のみに基づいて、刊行物発明1の認定の誤りを是正するとともに、本件決定において掲示された周知技術に基づいて新たな相違点の判断を行い、その結果、本件発明1が刊行物発明1及び周知技術に基づき当業者が容易に発明をすることができたと判断するものであり、当該手続において審理判断されなかった公知事実を問題としているわけではないから、上記大法廷判決の説示に反するものでないことが明らかである。 いずれにしても、原告の上記主張を採用する余地はない。 (6) なお、原告は、本件決定の取消事由2として、小法廷判決の判示内容から、刊行物発明1を用いて本件発明1を当業者が容易に発明をすることができたと判断することが許されないと主張するので、この点について検討する。 前取消判決(甲6)は、「本件決定が、刊行物1に『アタッチメント付き複層ガラス』が記載されているとの誤った認定をした結果、本件発明と刊行物1記載の発明が『アタッチメント付き複層ガラス』において一致するとの誤った一致点の認定をしたことについて、被告は明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。そうすると、本件決定の上記一致点の認定の誤りが本件決定の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、本件決定は取消しを免れない。」と判示し、刊行物1にアタッチメント付き複層ガラスが記載されていると認定することが誤りであると説示するにすぎず、刊行物1自体を本件発明1の進歩性判断のための刊行物として考慮することを否定するものではない。 したがって、前示判断のように、刊行物1を用いて他の刊行物や周知技術をも考慮した上、本件発明1の進歩性を検討することは、前取消判決の拘束力に反するものではないから、小法廷判決の判示内容を適用する前提を欠いており、原告の上記主張は理由がない。 (7) 以上のとおり、本件発明1は、刊行物発明1及び周知技術に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明1を引用する本件発明2もまた、同様の判断により、刊行物発明1を引用する刊行物発明2及び周知技術に基づき当業者が容易に発明をすることができたものといえる。また、本件発明1及び2を引用する本件発明3について、原告は、本件決定の判断(甲1第8頁8〜29行)を明らかに争わず、本件発明3も、刊行物発明1又は2と周知技術及び引用技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。 そうすると、本件発明1ないし3は、いずれも特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであり、これと同旨の本件決定の結論には誤りがなく、その他本件決定にこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。 3 結論 よって、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 北山元章 |
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裁判官 | 青柳馨 |
裁判官 | 清水節 |