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関連審決 無効2002-35308
関連ワード 製造方法 /  新規性 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  周知技術 /  慣用技術 /  公知技術 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  参酌 /  技術的意義 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  加工 /  設定登録 /  請求の範囲 /  変更 /  訂正明細書 /  一部の訂正 / 
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事件 平成 15年 (行ケ) 40号 審決取消請求事件
原告 ニプロ株式会社
同訴訟代理人弁護士 小松 陽一郎
同訴訟代理人弁理士 山内康伸
被告 株式会社大塚製薬工場
同訴訟代理人弁理士 稲岡耕作
同 川崎実夫
同 松井宏記
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/09/29
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 (1) 特許庁が無効2002-35308号事件について平成14年12月19日にした審決を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
争いがない事実
1 特許庁における手続の経緯 (1) 原告(平成13年4月1日の商号変更前の旧商号は株式会社ニッショー)は,発明の名称を「医療用バックおよびその製造方法」とする特許第1908572号(昭和63年1月18日出願(以下「本件出願」という。)。平成7年2月24日設定登録。以下「本件特許」という。)の特許権者である。
(2) 被告は,平成14年7月19日,本件特許について,これを無効とすることを求めて審判の請求をし,同請求は無効2002-35308号事件として特許庁に係属した。
原告は,平成14年10月18日,特許庁に訂正請求書を提出し,本件特許について特許請求の範囲及び発明の詳細な説明一部の訂正を認めるよう求めた。
(3) 特許庁は,上記事件について審理を遂げ,平成14年12月19日,上記訂正を認めるとした上,「特許第1908572号の請求項1ないし4に係る発明についての特許を無効とする。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は平成15年1月9日に原告に送達された。
2 前記訂正後の本件発明の要旨は,次のとおりである(以下,請求項1ないし4に係る発明を,それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明4」という。)。
【請求項1】ポート部と薬液収納部を含んでなるポリオレフィン系合成樹脂製の袋体の製造において,前記ポート部を挿着するためのポート部挿着部分を除くフィルムの開放周縁部分を熱溶着(注:甲6(訂正明細書)の「熱容着」との記載は誤記)して薬液収納部を形成する工程と,該薬液収納部のポート部挿着部分に前記ポート部を挿入する工程,およびポート部挿着部分を中心とする前記薬液収納部の周縁部分に加熱金型を適用し,前記薬液収納部形成時の被加熱溶着部分の一部が再び加熱されるような位置で前記ポート部と薬液収納部を熱溶着する工程,とを含んでなる医療用バッグの製造方法。 【請求項2】薬液収納部が1対のシート状フィルムから形成されてなる請求項1記載の医療用バッグの製造方法。 【請求項3】薬液収納部がインフレーションフィルムから形成されてなる請求項1記載の医療用バッグの製造方法。 【請求項4】ポート部と薬液収納部を含んでなるポリオレフィン系合成樹脂製の袋体であって,前記薬液収納部が,前記ポート部を挿着するためのポート部挿着部分を除くフィルムの開放周縁部分が熱溶着されて形成されたものであり,かつ前記ポート部挿着部分に挿入されたポート部と前記薬液収納部とが,該ポート部挿着部分を中心とする薬液収納部の周縁部分で,加熱金型を用いて,被加熱部分が前記薬液収納部形成時の被加熱溶着部分の一部に及ぶように加熱溶着されたことを特徴とする医療用バッグ。 3 本件審決の理由の要旨は,次のとおりである。
(1) 本件発明1について ア 本件発明1と特開昭59-209535号公報(甲1。以下「刊行物1」という。)記載の発明(以下「刊行物1発明」という。)とは,「ポート部と薬液収納部を含んでなる袋体の製造において,前記ポート部を挿着するためのポート部挿着部分を除くフィルムの開放周縁部分を熱溶着して薬液収納部を形成する工程(以下「第1溶着工程」ともいう。)と,該薬液収納部のポート部挿着部分に前記ポート部を挿入する工程,およびポート部挿着部分を中心とする前記薬液収納部の周縁部分に(て),前記ポート部と薬液収納部を熱溶着する工程(以下「第2溶着工程」ともいう。),とを含んでなる医療用バッグの製造方法」である点で一致し,次の各点で相違する。
(ア) 袋体に関し,本件発明1が,「ポリオレフィン系合成樹脂製」とした のに対し,刊行物1発明は,その具体的な材料が明確にされていない点(以下「相違点a」という。) (イ) ポート部と薬液収納部を熱溶着する工程に関し,本件発明1が,「加熱金型を適用し」ているのに対し,刊行物1発明は,その具体的な手段 が明確にされていない点(以下「相違点b」という。) (ウ) ポート部と薬液収納部を熱溶着する工程に関し,本件発明1が,「薬液収納部形成時の被加熱溶着部分の一部が再び加熱されるような位置で」熱溶着するのに対し,刊行物1発明は,そのような位置関係が明確にされていない点(以下「相違点c」という。) イ 上記の相違点について検討する。
(ア) 相違点aについて 刊行物1発明における袋体に関連する材料について,刊行物1には,「可撓性容器キャップ70(判決注:この数字は刊行物1の説明図面記載の番号である。以下,各装置の各部分名の次に記載の各番号はいずれも各刊行物の説明図面記載の各番号を指す。),スリーブ24,及び小瓶受入れ口を製造するための好ましい材料は半透明のポリエステル又はポリプロピレンのプラスチック材料である。
然し,ポリ塩化ビニル又はポリエチレンの様な他の樹脂物質も使用し得る。」(13頁左下欄4〜8行)と記載されている。
上記記載のうちの「可撓性容器キャップ70」については,刊行物1中の他の記載部分全体に亘って,「キャップ70」及び「可撓性容器22」という互いに別部材を示すものとしての表記が統一して用いられていること,さらに,「キャップ70は,RF溶着又はヒート・シーリング・フランジ80のフランジ72への溶着によって,今やスリーブ24に付着可能」(13頁左上欄2〜4行)とされていることから,「キャップ70」は「スリーブ24」のキャップであっても,「可撓性容器22」のキャップとはなっていないこと,等を総合的に勘案すると,上記「可撓性容器キャップ70」との記載は,「可撓性容器22,キャップ70」の誤記と捉えるのが相当であり,結局,刊行物1には,「可撓性容器22」,「スリーブ24」等がポリプロピレン等のプラスチック材料やポリエチレン等の樹脂物質,すなわち,ポリオレフィン系合成樹脂,を使用した例が記載されているというべきである。
また,仮に,刊行物1中の上記「可撓性容器キャップ70」なる記載が誤記ではないとしても,米国特許第4610684号明細書(甲2。以下「刊行物2」という。)には,医療用バッグと認められる「器具10」を形成する「可撓性容器12」について,「可撓性容器12を製造するための好ましい材料は,透光性ポリエステルまたはポリプロピレンプラスチックであるが,ポリ塩化ビニルやポリエチレン等の,他の樹脂性材料を使用してもよい。」(5欄25〜30行)として,ポリオレフィン系合成樹脂を使用した例が記載されている以上,刊行物1発明における「可撓性容器22」をポリオレフィン系合成樹脂製とすることは,当業者にとって容易である。
そして,刊行物1発明において,「スリーブ24」と同じ円筒形状を有し,かつ「可撓性容器22」に挿着して熱溶着される「口74」について,「可撓性容器22」や「スリーブ24」と同じポリオレフィン系合成樹脂を使用することは,シールし易い材質として同じ樹脂同士を選択することがプラスチックの熱溶着における周知慣用技術であることを加味すれば,当業者が容易に推考し得るところである。
したがって,刊行物1発明において,「可撓性容器22」と「口74」を含んでなる袋体をポリオレフィン系合成樹脂製とすることは,当業者が容易に想到し得たものと認められる。
(イ) 相違点bについて a 熱溶着のための具体的な手法として,インパルスシーラー,加熱金型等が用いられることは良く知られているところであり,これらの手法のいずれを採用するかは,被溶着部の形状等に応じて当業者が適宜選択し得る事項である。
そして,刊行物1発明に係るポート部挿着部分のように,被溶着部の形状が円筒形状であれば,平面状の抵抗発熱体を有するインパルスシーラーではリークが発生し易すくなることは容易に理解されるところであり,かかる欠点を解消すべく,円筒形状の被溶着部に適した他の熱溶着手法として,被溶着部の形状に適合した溶着が可能な周知の加熱金型による手法を採用すればよいことは,当業者が容易に想到し得るところである。また,刊行物1発明のポート部と薬液収納部を熱溶着する工程において,加熱金型による熱溶着手法の適用を阻害する要因も何等認められない。
b なお,原告は,ポート部挿着部分の溶着工程において加熱金型を適用したことが新規であり,それにより本件発明に係る明細書に記載の効果が奏される旨主張しているが,例え上記の点に新規性を認めることができたとしても,それにより進歩性までが肯定されるということにはならず,また,上記明細書に記載の効果も,周知の加熱金型の溶着手法自体が有している効果,あるいは,当該溶着手法を適用した際に当然予測される効果にすぎない。
(ウ) 相違点cについて 刊行物1発明も,「ポート部を挿着するためのポート部挿着部分を除くフィルムの開放周縁部分を熱溶着して薬液収納部を形成する工程」(第1溶着工程)と,「ポート部挿着部分を中心とする前記薬液収納部の周縁部分に(て),前記ポート部と薬液収納部を熱溶着する工程」(第2溶着工程)の2つの溶着工程を有するものである。
そして,医療用バッグにおいて,薬液の漏れを防止するとの観点から,第1溶着工程と第2溶着工程における溶着部の一部は互いに重なり合う状態となっていることは容易に理解されるところである。
また,刊行物1の第1図には,「口74」の周囲部分に,「可撓性容器22」の「エッジ21」のシール部に施された右上がりのハッチングと同様のハッチングが施されており,かつ,この周囲部分が「エッジ21」のシール部の一部に重なり合っている状態が示されている。
さらに,刊行物2の図1には,「可撓性容器12」の底部におけるポート部(「投与口40」及び「添加口38」)の「シール部37」と「可撓性容器12」の「端部14」のシール部とが一部重なっている位置関係にあり,ポート部の「シール部37」が,刊行物1の第1図における「口74」の周囲部分と同形状に描かれている。
これらを総合的に勘案すると,刊行物1の第1図における,「口74」の周囲部分のハッチングが施された箇所は,シールされた領域を表すものと解釈するのが妥当であり,第1溶着工程における「エッジ21」のシール部と第2溶着工程における「口74」の周囲部分のシール部同士が一部重なり合っている状態は,結局,本件発明1の「薬液収納部形成時の被加熱溶着部分の一部が再び加熱されるような位置で」ポート部と薬液収納部を熱溶着する状態を示すものと捉えることができる。
したがって,相違点cは,本件発明1と刊行物1発明との間の実質的な相違点をなすものではない。
ウ そして,本件発明1により奏される効果は,刊行物1及び刊行物2に記載された内容から当業者が予測し得る程度のものである。
エ 以上のとおりであるので,本件発明1は,刊行物1及び刊行物2に記載された内容に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
(2) 本件発明2について 本件発明2は,本件発明1に,「薬液収納部が1対のシート状フィルムから形成されてなる」とする構成をさらに限定付加したものであるが,かかる構成は,刊行物1発明に「可撓性材料の二枚のシートからエッジ21でシールして可撓性容器22を形成する」として具備されているものである。
したがって,上記(1)での検討内容を踏まえれば,本件発明2も,本件発明1と同様に,刊行物1及び刊行物2に記載された内容に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3) 本件発明3について 本件発明3は,本件発明1に,「薬液収納部がインフレーションフィルムから形成されてなる」とする構成をさらに限定付加したものであるが,かかる構成は,特開昭61-90729号公報(甲4。以下「刊行物4」という。)に開示された発明に「ポリビニールまたはポリエチレンのようなプラスチックの筒状で不浸透性のたわみ材(「インフレーションフィルム」に相当。)を或る長さに切断した混合容器1(「薬液収納部」に相当。)として具備されているところであり,かかる構成を刊行物1発明に採用することも任意である。
したがって,上記(1)での検討内容を踏まえれば,本件発明3は,刊行物1,刊行物2及び刊行物4に記載された内容に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4) 本件発明4について ア 本件発明4と刊行物1発明とは,「ポート部と薬液収納部を含んでなる袋体であって,前記薬液収納部が,前記ポート部を挿着するためのポート部挿着部分を除くフィルムの開放周縁部分が熱溶着されて形成されたものであり,かつ前記ポート部挿着部分に挿入されたポート部と前記薬液収納部とが,該ポート部挿着部分を中心とする薬液収納部の周縁部分で,加熱溶着された医療用バッグ」である点で一致し,次の各点で相違する。
(ア) 袋体に関し,本件発明4が,「ポリオレフィン系合成樹脂製」とした のに対し,刊行物1発明は,その具体的な材料が明確にされていない点(以下「相違点d」という。) (イ) ポート部と薬液収納部との加熱溶着に関し,本件発明4が,「加熱金型を用いて」いるのに対し,刊行物1発明は,その具体的な手段が明確にされていない点(以下「相違点e」という。) (ウ) ポート部と薬液収納部との加熱溶着に関し,本件発明4が,「被加熱部分が薬液収納部形成時の被加熱溶着部分の一部に及ぶように」しているのに対し,刊行物1発明は,そのような位置関係が明確にされていない点(以下「相違点f」という。) イ 上記の相違点について検討する。
相違点dないしfは,上記(1)における相違点aないしcとそれぞれ実質的に等価なものであるところ,上記(1)イにおいて検討したとおり,相違点dないしfも進歩性を基礎づけるような格別なものではない。
ウ そして,本件発明4により奏される効果も,刊行物1及び刊行物2に記載された内容から当業者が予測し得る程度のものである。
エ したがって,本件発明4は,刊行物1及び刊行物2に記載された内容に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
(5) 以上のとおり,本件発明1ないし4はいずれも新規性を欠く旨の被告主張の無効理由の有無について判断するまでもなく,本件発明1ないし4は,いずれも刊行物1,刊行物2及び刊行物4に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件発明1ないし4に係る特許は,特許法29条2項の規定に違反してなされたものであり,同法123条1項2号に該当し,無効とすべきものである。
当事者の主張
(原告の主張する本件決定の取消事由) 1 取消事由1(相違点cについての判断の誤り) (1) 相違点c(ポート部と薬液収納部を熱溶着する工程に関し,本件発明1が,「薬液収納部形成時の被加熱溶着部分の一部が再び加熱されるような位置で」熱溶着するのに対し,刊行物1発明は,そのような位置関係が明確にされていない点)について,本件審決は前記第2の3(1)イ(ウ)のとおり判断しているが,誤りである。
(2) 本件審決は,「医療用バッグにおいて,薬液の漏れを防止するという観点から,第1溶着工程と第2溶着工程における溶着部の一部は互いに重なり合う状態になっていることは容易に理解される」ことを上記判断の根拠とするが,液漏れ防止のためにすべての医療用バッグが2段階溶着となっているとは限らない。
(3) 本件審決は,刊行物1の第1図及び刊行物2の図1の記載をも上記判断の根拠とする。
ア しかしながら,刊行物1の第1図には,「口74」と「容器22」の接合部と推測できる位置に横に細長い四角形の線図が描かれており,刊行物2の図1には,「可撓性容器12」の底部におけるポート部(「投与口40」及び「添加口38」)と可撓性容器の接合部と推測できる位置に同様に横に細長い四角形の線図が描かれているが,それだけであって,刊行物1及び刊行物2の各明細書には,どのような手段や方法を用いて溶着したかなど実体を示す記載は全くないから,上記各図形に明確な技術思想を読みとることはできない。
イ 仮に刊行物1の第1図における,「口74」の周囲部分のハッチングが施された箇所がシールされた領域と推測できたとしても,どのような手段と方法でシールしたものかどうかは全く分からない。
すなわち,実開昭61-194638号公報(甲7),特開昭63-216570号公報(甲8)及び特開平7-148224号公報(甲9)の記載からすれば,被告が刊行物1の第1図においてシール跡と主張する線図は,ポート部でも容器でもない別のシール部材を用いてシールされたものである可能性が十分にあるし,また,特開平6-261930号公報(甲10)及び特開平4-191032号公報(甲11)の各記載からすれば,刊行物1の第1図の上記4角形の線図は,ポートと薬液収納部を含む袋体を3回に分けてシールした際の3回目のシール跡である可能性,1回シール用金型を用いてポート部と薬液収納部とを1回でシールする場合のだめ押しの跡である可能性もある。
そもそも,刊行物1において,「スリーブ24」はRFマンドレルシールされたものである(甲1の4頁右下欄10〜13行)から,「口74」(本件発明のポート部に相当)もマンドレルシールされている可能性が極めて高い。したがって,「口74」のシール跡は加熱金型を用いたものではなく,マンドレルシールの跡である可能性が高いというべきである。
ウ そうすると,刊行物1,2の記載から,「第1溶着工程におけるエッジ21のシール部と第2溶着工程における口74の周囲部分のシール部同士が一部重なり合っている状態は,結局,本件発明1の「薬液収納部形成時の被加熱溶着部分の一部が再び加熱されるような位置で」ポート部と薬液収納部を熱溶着する状態を示すものと捉えることができる」とした本件審決の判断は,全く根拠のない推測にすぎないものといわざるを得ず,その判断が誤りであることは明らかである。
2 取消事由2(相違点bについての判断の誤り) (1) 相違点b(ポート部と薬液収納部を熱溶着する工程に関し,本件発明1が,「加熱金型を適用し」ているのに対し,刊行物1発明は,その具体的な手段が明確にされていない点)について,本件審決は,前記第2の3(1)イ(イ)のとおり判断しているが,その判断は誤りである。
(2) 本件審判請求において被告が提出した各引用例である刊行物1,刊行物2及び刊行物4や実願昭60-199879号(実開昭62-111031号)のマイクロフィルム(甲3)のいずれにも,ポート部と薬液収納部との熱溶着に加熱金型を用いることは全く記載されていない。
被告は,プラスチック加工技術便覧編集委員会偏「プラスチック加工技術便覧 新版」(乙1)に「ヒートシールは溶着温度より高い温度に一定に保たれた発熱体を,直接または緩衝膜を介して溶着物に圧接し,熱伝導により溶着する方法の総称である。」と記載されていることから,刊行物1に記載された「ヒートシール」は,「発熱体を溶着物に圧接すること」,すなわち「加熱金型を用いて熱溶着すること」を示唆しているものである旨主張するが,乙1の刊行物にいう「発熱体」とは,平坦なフィルム同士を接合する平板やローラ状の発熱物体を意味するものであり,立体的な形状に成形しながら加熱して接合する金型までその範疇に含められるものではない。
(3) 本件発明1は,加熱金型を用いて2段階加熱する点に特徴があり,これにより金型で押圧するだけの工法をとったときに発生する押圧力のアンバランスやフィルムの浮き上りを極力抑えることを可能とし,フィルムの破れを抑えることができ,その結果,舟形ポートを用いずに溶着不良のないシールを達成できるという効果を奏するものである。この効果は,加熱金型のみによっては達成できないし,2段階溶着という方法のみによっても達成できないから,加熱金型と2段階溶着の後工程は必ず一体不可分のものとして技術的意義を有すると理解しなければならない。
しかるに,本件審決は,加熱金型の適用という点のみを2段階溶着工程と切り離して捉えたため,本件発明1が加熱金型と2段階溶着との組み合わせが格別の作用効果を奏するものであることを看過し,その結果,上記のとおり誤った判断をすることになったものである。
(4) 加熱金型のみによる溶着は,筒型ポートを用いても舟型ポートを用いても欠点があった。すなわち,筒型のポート部にフィルムを溶着する場合には,金型で押圧したときにフィルムが金型で溶けて伸び,フィルムに破れが生じて溶着不良が生じるおそれがあるという欠点がある。このような欠点を解消するため,ポート部を舟形にすることが考案されたが,ポート部を舟形にした場合,@舟型ポートはゴム栓取付けのためのフランジ部と舟型であるシート溶着部との間に挟まれた筒状の首部は直径が細くなっており,このような直径が変化する部材の製作には割り型を使用せざるを得ないため,量産効果が大きくならず,製作コストが高くなる,A舟型ポートは体積が大きいので樹脂を溶融させるのに多くの熱量が必要となり,溶着時間が長くなる,Bエアーかみが生じやすいなどの欠点が生じた。
さらに,これらの欠点を回避するため,筒型ポートとフィルムをRFマンドレルシールする方法も用いられていたが,この場合,耐薬品性の良好なポリオレフィン系樹脂材料は,誘電体損失が小さく,適用できないという問題があった。
要するに,加熱金型を用いる手法は,筒型ポートを用いても舟型ポートを用いても欠点があり,高周波溶着も適用できる材料に制約があって,医療用バッグには適さないという適用阻害要因があったものである。
しかるに,本件審決は,このような本件出願時の技術水準,適用阻害要因を参酌しなかったため,上記のように判断を誤ったものである。
3 取消事由3(相違点aについての判断の誤り) (1) 相違点a(袋体に関し,本件発明1が,「ポリオレフィン系合成樹脂製」としたのに対し,刊行物1発明は,その具体的な材料が明確にされていない点)について,本件審決は,第2の3(1)イ(ア)のとおり判断しているが,誤りである。
(2) 刊行物1には,可撓性容器及びポート部の材料がポリオレフィン系合成樹脂であるとする具体的な記載はなく,それを示唆する記載もない。
刊行物1の4頁右下欄の記載は,「スリーブ24」は「可撓性容器22」にマンドレル・シールされる部材であること,すなわち高周波加熱シールが可能な材料であることを意味しているから,「スリーブ24」及び「可撓性容器22」について,誘電体損失が小さく発熱しにくい故に高周波加熱シールが不可能なポリオレフィン系合成樹脂が用いられるはずはない。
刊行物1には,「可撓性容器キャップ70,スリーブ24,及び小瓶受入れ口を製造するための好ましい材料は半透明のポリエステル又はポリプロピレンのプラスチック材料である。然し,ポリ塩化ビニル又はポリエチレンの様な他の樹脂物質も使用し得る。」(13頁左下欄4〜8行)との記載があるところ,本件審決は,上記「可撓性容器キャップ70」との記載は,「可撓性容器22,キャップ70」の誤記と捉えるのが相当であるとし,刊行物1には,「可撓性容器22」,「スリーブ24」等について,ポリプロピレン等のプラスチック材料やポリエチレン等の樹脂物質,すなわち,ポリオレフィン系合成樹脂を使用した例が記載されているというべきであると認定している。
しかしながら,刊行物1の13頁左下欄4行目の「可撓性容器キャップ70」との記載は,「可撓性容器のキャップ70」と読むべきであり,そうすると,ポリオレフィン系合成樹脂は,「キャップ70」や「スリーブ24」に対しては適用されても,可撓性容器には適用されないことになる。
また,刊行物1中には「口74」の材料について全く記載されていない。
(3) 刊行物2には,「可撓性容器12」(薬液収納部に相当)と,「投与口40」及び「添加口38」(ポート部に相当)に同じポリオレフィン系材料を用いるという構成は開示されていない。
ア 刊行物2には,ポート部に相当する部材はすべてマンドレルシールされるものと記載されている(3欄13〜14行,3欄59〜60行,4欄10〜12行,4欄23〜25行)。マンドレルシールは,ポートに挿入されたマンドレル(芯金)を電極として高周波シールする技術であり,誘電体損失が小さく発熱しにくいが故に高周波シールに適しないポリオレフィン系樹脂材料を,ポート部や「可撓性容器12」に用いるはずがない。要するに,刊行物2発明の具体的な実施形態の説明においては,可撓性容器にポリオレフィン系樹脂を使うという記載はないというべきである。
イ 刊行物2には「プラスチックシート同士のシールは,加熱,RF技術または他のいかなる適切な方法を用いて行ってもよい。」と記載されている(5欄36〜37行)が,この記載は,プラスチックシート同士のシールに関するものであり,形状や形態も異なるポート部とシート部を溶着する場合に関するものではないし,その記載内容は極めて一般論的な説明であって,具体的にポリオレフィン系合成樹脂材料の適用可能性を示唆したものではない。
ウ 刊行物2には,「可撓性容器12(薬液収納部に相当)を製造するための好ましい材料は,透光性ポリエステルまたはポリプロピレンプラスチックであるが,ポリ塩化ビニルやポリエチレン等の,他の樹脂性材料を使用してもよい。」と記載されている(5欄25〜30行)が,この説明は,発明の一般論的な説明であって,具体的にポリオレフィン系合成樹脂材料の適用可能性を示唆したものではない。
4 取消事由4(本件発明1の進歩性判断の誤り) (1) 本件審決は,本件発明1は,刊行物1及び刊行物2に記載された内容から当業者が容易に発明をすることができたものであると判断したが,誤りである。
(2) 前記1ないし3に記載したとおり,刊行物1及び刊行物2には,相違点aないしcに係る構成について開示も示唆もなく,当然のことながら上記各構成により奏される効果の記載もないのに,この点に関する判断を誤り,その結果,本件発明の進歩性に関する判断を誤ったものである。
5 取消事由5(本件発明2ないし4の進歩性判断の誤り) 本件発明2ないし4についての進歩性を否定した本件審決の判断は,本件発明1は,前記4(1)記載のとおり,容易に発明をすることができたとする誤った判断を前提とするものであり,誤りである。
(被告の主張) 1 取消事由1(相違点cについての判断の誤り)について (1) 第1溶着工程及び第2溶着工程の2つの溶着工程を経る医療用バッグの製造において,第1溶着工程で行われた溶着部と第2溶着工程で行われる溶着部との間に隙間をあけたのでは,その隙間から薬液が漏れることは自明であるから,溶着部の一部が互いに重なり合うように,第2溶着工程の溶着が行われることは当然のことであり,極めて容易に理解されることである。2つの溶着部が互いに重なり合わないように,しかも薬液の漏れを生じないように隙間をあけずに溶着することの方が,むしろ困難である。
(2) 刊行物1には,「二区画容器の製造及び組立ての方法は色々あるが,側壁29及び31を形成するために可撓性材料の二枚のシートから可撓性容器を形成することで始めるのが好ましい。・・・同様に口74も可撓性容器22へRFシール又はヒートシールする。」(12頁右下欄1〜10行)との記載があり,この記載を参酌して第1図を観察すれば,第1溶着工程における「エッジ21」のシール部と,第2溶着工程における「口74」の周囲部分のシール部が一部重なり合っている状態を容易に読みとることができる。
(3) 原告は,仮に刊行物1の第1図における,「口74」の周囲部分のハッチングが施された箇所がシールされた領域と推測できたとしても,どのような手段と方法でシールしたものかどうかは全く分からない旨主張する。
しかしながら,本件審決は,刊行物1発明が第1溶着工程及び第2溶着工程の2つの溶着工程を有するものであり,第2溶着工程がポート部と薬液収納部を熱溶着する工程に関するものであることを前提にした上で,第1溶着工程における被加熱溶着部分の一部が再び加熱されるような位置で第2溶着工程が行われるか否かが明確でないという点を相違点cとして指摘したものである。
そして,本件審決は,上記第2溶着工程の溶着部の位置関係につき,刊行物1の第1図に,シール領域の重なりが表されているとしているのであり,シールの手段やシールの方法を議論しているものではない。刊行物1の第1図において,シール部が重なり合っている状態が開示されていることは,甲7ないし11のシール手段に関する記載内容とは無関係である。
原告の上記主張は,本件審決の結論に影響を及ぼすものではない。
2 取消事由2(相違点bについての判断の誤り)について (1) 刊行物1発明が,第1溶着工程及び第2溶着工程という2つの溶着工程を有することは明らかであり,かかる公知技術と加熱金型との組合せに技術的意義があるとする原告の主張は,根拠が不明である。
(2) 原告は,「加熱金型を用いる手法は筒形ポートを用いても,舟形ポートを用いても欠点があり,・・・医療用バッグには適さないという適用阻害要因があった」と主張するが,この主張の前提は,加熱金型により,フィルムの開放周縁部分及びポート部を同時に加熱するという条件の下での欠点であり,刊行物1のように,第1溶着工程と第2溶着工程の2つの溶着工程を有する製造時においては,原告主張の欠点は生じない。
(3) 刊行物1には,「口74も可撓性容器22へヒートシールする」(12頁右下欄9〜10行)と記載されている。「ヒートシールは溶着温度より高い温度に一定に保たれた発熱体を,直接または緩衝膜を介して溶着物に圧接し,熱伝導により溶着する方法の総称である。」(乙1)から,刊行物1にいう上記「ヒートシール」は,「発熱体を溶着物に圧接すること」すなわち「加熱金型」を適用することを示唆しており,したがって,刊行物1の上記記載は,加熱金型を用いて,「口74」と「可撓性容器22」とを熱溶着することを示唆しているというべきである。
3 取消事由3(相違点aについての判断の誤り)について (1)ア 次の点を考慮すれば,刊行物1発明において,「可撓性容器22」にポリオレフィン系合成樹脂を用いること,「スリーブ24」と同じ円筒形状を有し,かつ「可撓性容器22」に装着して熱溶着される「口74」を「スリーブ24」と同じポリオレフィン系合成樹脂で作ることは,当業者が容易になし得ることであるというべきである。
(ア) 刊行物1には「スリーブ24及び口は無菌条件で組立て可撓性容器2 2のエッジを通してRFマンドレルシール又はヒートシールする。同様に口74も可撓性容器22へRFシール又はヒートシールする。」と記載されており,「可撓性容器22」と「口74」とはヒートシール可能な材料であることが開示されている(12頁右下欄7〜10行)。
(イ) 刊行物1には,「可撓性容器キャップ70,スリーブ24,及び小瓶受入れ口を製造するための好ましい材料は半透明のポリエステル又はポリプロピレンのプラスチック材料である。」と記載され,「スリーブ24」の好ましい材料としてポリオレフィン系合成樹脂が開示されている。
(ウ) 刊行物2には,医療用バッグの可撓性容器において,ポリオレフィン系合成樹脂を使用した例が記載されている(刊行物2には,プラスチックシートのシールは加熱シールでよいことが開示され,「可撓性容器12」の好ましい材料としてポリプロピレン等のポリオレフィン系合成樹脂が記載されている。)。
(エ) 刊行物1発明において,「スリーブ24」と同じ円筒状を有し,かつ,「可撓性容器22」に装着し熱溶着させる「口74」について,「スリーブ24」と同じポリプロピレン等のポリオレフィン系合成樹脂材を使用することは,当業者が容易に推考できることである。
(オ) シールし易い材質として同じ樹脂同士を選択することは,プラスチックの熱溶着における周知慣用技術である(甲7,乙3ないし5)。
イ さらにいえば,医療用バッグにおいて,ポート部及び薬液収納部にポリオレフィン系合成樹脂を使用することは,本件出願当時,周知慣用技術であったということもできる(甲7,乙3,乙5)。
(2)ア 原告は,刊行物1の4頁右下欄の記載は,「スリーブ24」は「可撓性容器22」にマンドレル・シールされる部材であること,すなわち高周波加熱シールが可能な材料であることを意味しているから,「スリーブ24」及び「可撓性容器22」について,誘電体損失が小さく発熱しにくい故に高周波加熱シールが不可能なポリオレフィン系合成樹脂が用いられるはずはない旨主張する。
しかしながら,マンドレル(芯金)を用いるシールがすべて高周波シールというわけではなく,ヒートシール(すなわち加熱金型を用いるシール方法)においてもマンドレルが用いられる(乙2ないし4)から,原告の主張はその前提において誤りである。
イ 刊行物1には,「可撓性容器キャップ70,スリーブ24,及び小瓶受入れ口を製造するための好ましい材料は半透明のポリエステル又はポリプロピレンのプラスチック材料である。」(13頁左下欄4〜6行)と記載されており,「可撓性容器22」及び「口74」の具体的材料は明示されていない。しかし,これは,刊行物1の説明が,「キャップ70」,「スリーブ24」及び「小瓶受入れ口」を中心になされているためであり,「可撓性容器22」や「口74」の具体的材料が記載されていないからといって,それらがポリオレフィン系合成樹脂であってはならないということではない。
(3)ア 刊行物2には,プラスチックシートのシールは,加熱シールでよいこと(5欄36行)が開示され,しかも,「可撓性容器12」を製造するための好ましい材料としてポリプロピレンプラスチックというポリオレフィン系合成樹脂が例示されている(5欄25〜28行)。
イ 原告は,刊行物2には,ポート部に相当する部材はすべてマンドレルシールされるものと記載されている(3欄13〜14行,3欄59〜60行,4欄10〜12行,4欄23〜25行)が,マンドレルシールは,ポートに挿入されたマンドレル(芯金)を電極として高周波シールする技術であり,したがって,誘電体損失が小さく発熱しにくいが故に高周波シールに適しないポリオレフィン系樹脂材料を,ポート部や「可撓性容器12」に用いるはずがない旨主張する。
しかしながら,上記主張は,前述したとおり,マンドレルシールは高周波シールする技術であるとの誤った技術知識に基づくものであり,誤りである。
4 取消事由4(本件発明1の進歩性判断の誤り)について 原告の主張は争う。
5 取消事由5(本件発明2ないし4の進歩性判断の誤り)について 本件発明1についての判断に誤りはなく,したがって,これを前提として本件発明2ないし4の進歩性を否定した本件審決の判断にも誤りはない。
当裁判所の判断
1 刊行物1(甲1)には,「本発明は,・・・二区画に仕切られた容器に関する。・・・予め定められた量の粉末化したか液体の形の薬剤を添加物移送部材の起動に依り,稀釈剤に添加し,得られる溶液を患者(客体)に非経口的に投与することが可能である。」(3頁右下欄6〜13行),「発明の一態様の詳細な説明に入り,手動操作の二区画容器20は図1-4で一般的に示される。これはエッジ21でつなぎ合わされ且つシールされている相対する2枚の可撓性物質シートから成る可撓性容器と共に使用するのが相応しい。容器22は例えば29と31の様な相対する側壁体の間に稀釈剤のための流体にタイトな区画25を提供する様に構成されている。」(4頁右下欄3〜9行),「可撓性容器22の底部には一般的に1個の口74があり,液体稀釈剤82で可撓性容器22を満たし又は流体82と小瓶30の中に保有されている薬剤84との混合物83を投与するために使用出来る。」(5頁左下欄5〜8行),「二区画容器の製造及び組立ての方法は色々あるが,側壁29及び31を形成するために可撓性材料の二枚のシートから可撓性容器を形成することで始めるのが好ましい。スリーブ24又は口14,114,414及び515のために容器の上部に開口86を設けておき,容器の底に口74のための開口を設けておく。カバー42,55,342,スリーブ24及び口は無菌条件で組立て可撓性容器22のエッジを通してRFマンドレルシール又はヒートシールする。
同様に口74も可撓性容器22へRFシール又はヒートシールする。その結果,可撓性容器22は口74を過して稀釈剤82を無菌的に充填出来る。充填後“H”型の投与口76及びキャップ78を口74にかぶせる。」(12頁右下欄1〜12行)と記載されている。
上記記載に可撓性材料のシート同士のシールに関する技術常識を考え併せれば,刊行物1には,医療用バッグ(容器)について,ポート部を挿着するためのポート部挿着部分を除くフィルムの開放周縁部分を熱溶着する工程(第1溶着工程)と,ポート部と薬液収納部を熱溶着する工程(第2溶着工程)との2段階で製造する方法が開示されているということができる(本件審決が本件発明1との一致点として認定するところであり,この点は当事者間に争いがない。)。
2 取消事由3(相違点aについての判断の誤り)について (1)ア 前記1に認定したとおり,「スリーブ24」は「口74」と同様に可撓性容器に挿着して熱溶着されるものであるところ,刊行物1(甲1)には,刊行物1発明における袋体に関連する材料について,「可撓性容器キャップ70,スリーブ24,及び小瓶受入れ口を製造するための好ましい材料は半透明のポリエステル又はポリプロピレンのプラスチック材料である。然し,ポリ塩化ビニル又はポリエチレンの様な他の樹脂物質も使用し得る。」(13頁左下欄4〜8行)と記載され,「スリーブ24」についてポリプロピレン等のプラスチック材料やポリエチレン等の樹脂物質,すなわち,ポリオレフィン系合成樹脂を使用し得ることが記載されている(なお,本件審決は,上記「可撓性容器キャップ70」との記載は,「可撓性容器22,キャップ70」の誤記と捉えるのが相当であるとするが,上記記載が誤記であるとする合理的な根拠はなく,上記記載は,その記載文言の有する通常の意味,すなわち「可撓性容器のキャップ70」を意味するものと解するのが相当である。)。
また,刊行物2(甲2)には,医療用バッグと認められる「器具10」を形成する「可撓性容器12」について,「可撓性容器12を製造するための好ましい材料は,透光性ポリエステルまたはポリプロピレンプラスチックであるが,ポリ塩化ビニルやポリエチレン等の,他の樹脂性材料を使用してもよい。」(5欄25〜30行)と記載されており,医療用バッグの可撓性容器について,ポリプロピレンプラスチック,ポリエチレン等のポリオレフィン系合成樹脂を使用し得ることが開示されている。
そして,シールし易い材質として同じ樹脂同士を選択することがプラスチックの熱溶着における周知慣用技術である(甲7,乙3ないし5)と認められ,このことをも勘案すれば,刊行物1発明において,ポート部及び薬液収納部を含む袋体すべてにポリオレフィン系合成樹脂を使用することは当業者において容易に想到できたことであったと認められる。
イ 原告は,刊行物1の4頁右下欄の記載は,「スリーブ24」は「可撓性容器22」にマンドレル・シールされる部材であること,すなわち高周波加熱シールが可能な材料であることを意味しているから,「スリーブ24」及び「可撓性容器22」について,誘電体損失が小さく発熱しにくい故に高周波加熱シールが不可能なポリオレフィン系合成樹脂が用いられるはずはない旨主張する。
しかしながら,証拠(乙2ないし4)及び弁論の全趣旨によれば,マンドレル(芯金)を用いるシールがすべて高周波シールというわけではなく,ヒートシール(加熱金型を用いるシール方法もその1つである。)においてもマンドレルが用いられることが認められるのであって,原告の主張はその前提を誤るものである。そして,前記1の刊行物1の記載のとおり,刊行物1には,むしろ,刊行物1発明の「スリーブ24」及び「可撓性容器22」等について,ヒートシール可能な材料を用いることができることが示されている。
原告の上記主張は採用できない。
ウ 原告は,刊行物2には,ポート部に相当する部材はすべてマンドレルシールされるものと記載されている(3欄13〜14行,3欄59〜60行,4欄10〜12行,4欄23〜25行)ところ,マンドレルシールは,ポートに挿入されたマンドレル(芯金)を電極として高周波シールする技術であり,したがって,誘電体損失が小さく発熱しにくいが故に高周波シールに適しないポリオレフィン系樹脂材料を,ポート部や「可撓性容器12」に用いるはずがない旨主張する。
しかしながら,マンドレルシール(芯金)を用いるシールがすべて高周波シールというわけではないことは上記イに説示したとおりであり,また,刊行物2(甲2)には,「プラスチックシートのシールは,加熱,RF技術または他のいかなる適切な方法を用いて行ってもよい。」(5欄36,37行)と記載されているのであるから,上記主張は誤りである。
(2) のみならず,甲7(実願昭60-77803号(実開昭61-194638号)のマイクロフィルム)には,「ポリエチレン・・・製輸液袋(寸法140×250mm,容量500ml)に注出入口(材質;低密度ポリエチレン,外径17mφ×高さ35mm)をヒートシールするに際し・・・」(5頁6〜10行)と記載され,乙3(特開昭58-4567号公報)には,容器本体と容器本体に固定された管状の口部下部を具えた医療用容器について,「このような口部下部3は,加熱ないし高周波融着可能な材料から形成される。加熱融着可能な材料としては,例えば,ポリエチレン,ポリプロピレン等が好適である。・・・なお,容器本体を形成する材料については特に制限はないが,特に本体が上記のような本袋1であるときには,本袋は,通常,口部下部と融着されるものであり,用いる融着法に応じ,その材質は,上記したような各種融着可能な材料から選択されることになる。」(4頁左上欄12行〜右上欄4行)と記載され,乙5(特開昭62-254760号公報)には,「排出口部と容器部を有する柔軟な容器であって,容器部は少なくとも内層が外層よりも融点が低いポリエチレン系樹脂製の多層シートで形成され,排出口部は多層構造を成し少なくとも内層が合成樹脂で外層が前記容器部の外層及び前記排出口部の内層よりも低い融点を有するポリオレフィン系樹脂で形成され,前記容器部と前記排出口部が熱溶着され,少なくとも前記多層シートは電離性放射線の照射により架橋されていることを特徴とする高圧蒸気滅菌に耐える医療用容器」(特許請求の範囲(1))が記載されており,これらの記載からすれば,医療用バッグにおいて,ポート部及び薬液収納部にともにポリオレフィン系合成樹脂を用いて熱溶着することは,本件出願前に周知であったと認められる。
そうすると,ポート部と薬液収納部を熱溶着する工程を含む刊行物1発明において,ポート部と薬液収納部の各部分をいずれもポリオレフィン系合成樹脂製とすることは,上記の周知技術から当業者が容易に想到し得たものと認められる。
(3) したがって,相違点aに係る構成は当業者が容易に想到できたものであるとした本件審決の判断に,原告主張の誤りはない 3 取消事由2(相違点bについての判断の誤り)について (1) 刊行物1及び刊行物2並びに甲3及び4に,熱溶着の手法として加熱金型を用いることの開示がないことは原告主張のとおりである。
しかしながら,本件訂正明細書(甲6)に,<従来の技術>として,「誘電体損失が小さく,高周波ウェルダーを用いて溶着させることができない熱可塑性樹脂を溶着する方法としては,一般にインパルスシーラーを用いて溶着する方法,加熱した金型を用いて溶着する方法および超音波発生装置を用いて溶着する方法が知られている。」(4頁27〜末行)と記載されており,この記載によれば,熱可塑性樹脂であるポリオレフィン系樹脂材料の溶着の手段として加熱金型等を用いることは本件出願前に周知であったと認められる。
しかして,熱溶着の手法として上記周知の手法のいずれを採用するかは,被溶着部の材料,形状等に応じて当業者が適宜選択し得る事項というべきところ,刊行物1発明において,薬液収納部に熱溶着する部材は円筒等の立体形状のポート部であり,上記加熱金型による熱溶着の手法を採用すれば,この形状に適した熱溶着が可能となることは,当業者が容易に想到できることと考えられる。
(2) 原告は,本件発明1は2段階加熱に加熱金型を組み合わせる点に特徴があり,それにより金型で押圧するだけの工法をとったときに発生する押圧力のアンバランスやフィルムの浮き上りを極力抑えることを可能とし,フィルムの破れを抑えることができ,その結果,舟形ポートを用いずに溶着不良のないシールを達成できるという効果を奏することを根拠に,加熱金型と2段階溶着の後工程とは一体不可分のものとして技術的意義を有すると理解しなければならない旨主張する。
原告の上記主張は,ポート部と薬液収納部を含んでなる袋体の製造において,2段階加熱に加熱金型を組み合わせることにより,金型で押圧するだけの工程をとる場合,すなわち,加熱金型によりフィルムの開放周縁部分及びポート部を同時に(1段階で)加熱する場合と比較した場合に生じる問題点を解決できるということをいうものと解される(甲6の7頁12〜27行参照)が,その問題解決は,上記製造において,第1溶着工程と第2溶着工程に分けて溶着を行う方法を採用することにより基本的に達成できるものと考えられる。そして,第2溶着工程において溶着の手段として何を用いるかは,その形状,材質いかんにより決定されるべき事柄であり,また,2段階加熱に加熱金型を組み合わせることにより,それぞれの作用効果の総和以上の作用効果が生ずるというわけのものではない。
加熱金型と2段階溶着の後工程とは一体不可分のものとして技術的意義を有するとする原告の主張は根拠を欠くものであり,前記(1)の判断を左右するものではない。
(3) 原告は,加熱金型を用いる手法は筒型ポートを用いても舟型ポートを用いても欠点があり,高周波溶着も適用できる材料に制約があって,医療用バッグには適さないという適用阻害要因があったとも主張する。
しかしながら,原告の主張する加熱金型を用いる際の欠点は,加熱金型によりフィルムの開放周縁部分及びポート部を同時に(1段階で)加熱する際に生じる欠点であると解される(甲6の6頁13〜24行,同7頁12〜27行参照)のであって,2段階溶着工程を有する刊行物1発明に加熱金型を適用する場合に,同じ欠点が生じることにはならない。また,刊行物1発明において,ポート部や薬液収納部に高周波溶着が適用できない材料を使用する場合,他に周知の溶着手法である加熱金型を適用することは当業者が容易に想到できたことというべきである。
刊行物1発明に加熱金型を適用することに原告主張の適用阻害要因があるとはいえない。
(4) したがって,相違点bに係る構成は当業者が容易に想到できたものであるとした本件審決の判断に,原告主張の誤りがあるとはいえない。
4 取消事由1(相違点cについての判断の誤り)について (1) 刊行物1に,医療用バッグ(容器)について,ポート部を挿着するためのポート部挿着部分を除くフィルムの開放周縁部分を熱溶着する工程(第1溶着工程)と,ポート部と薬液収納部を熱溶着する工程(第2溶着工程)との2段階で製造する方法が開示されていることは,前記1に認定したとおりである。
(2)ア ところで,刊行物1(甲1)の第1図には,同図の「口74」の周囲部分に,「可撓性容器22」の「エッジ21」のシール部に施されたハッチング(ひだをパターン上で示す斜線)と同様のハッチングが施され,この円周部分のハッチングと「エッジ21」のハッチングが一部重なり合っている状態が示されている。
この図の意味について検討するに,フィルムをもって薬剤を収納するバッグを製造する場合においては,薬剤の漏れを防止するために,フィルムの完全なシールが要求されるのは自明であるところ,刊行物1発明において,第1溶着工程と第2溶着工程の2つの工程による各溶着部の間に隙間が生じないようにし,フィルムの完全なシールを実現するためには,上記各溶着部を重なるように溶着を施行するのが技術常識にかなうというべきである。また,製造工程からみても,医療用バッグを上記のとおり第1溶着工程と第2溶着工程の2段階に分けて施行する場合,第1溶着工程による溶着部に一部が重なり合うように第2溶着工程を施行する方が自然である。これらの点を考慮すれば,刊行物1の第1図の「口74」の周辺部分のハッチングが施された箇所及びその右側の同様の形状部分は,シールされた領域を表すものであり,同図には,第1溶着工程における「エッジ21」のシール部と第2溶着工程における「口74」の周囲部分のシール部同士が一部重なり合っている状態が示されていると解するのが相当である。そして,このシール部の一部が重なっている状態は,まさに,薬液収納部形成時の被加熱溶着部分の一部が再び加熱されるような位置で第2溶着工程による熱溶着が行われることを示すものと認めるべきである。
イ 原告は,被告が刊行物1の第1図においてシール跡と主張する線図は,ポート部でも容器でもない別のシール部材を用いてシールされたものである可能性が十分にあるし,また,刊行物1の第1図の上記4角形の線図は,ポートと薬液収納部を含む袋体を3回に分けてシールした際の3回目のシール跡である可能性,1回シール用金型を用いてポート部と薬液収納部とを1回でシールする場合のだめ押しの跡である可能性もある旨主張する。 しかしながら,上記(1)に記載のとおり,刊行物1(甲1)には,医療用のバッグ(容器)について,ポート部を挿着するためのポート部挿着部分を除くフィルムの開放周縁部分を熱溶着する工程(第1溶着工程)と,ポート部と薬液収納部を熱溶着する工程(第2溶着工程)との2段階で製造する方法が開示されているのであり,3回に分けてシールしたり,1回でシールする方法は開示されていない。また,第2溶着工程において,薬液収納部の部材及びポート部の部材以外の別の部材を用いることの開示もない。
そうすると,刊行物1の第1図において「口74」の周囲部分にハッチングが施された部分については,上記アに記載のとおりに認定するのが相当であり,原告の上記主張は採用できない。
ウ したがって,相違点cは本件発明1と刊行物1発明の間の実質的な相違点をなすものではないとした本件審決の判断に,誤りはないというべきである。
(3) のみならず,仮に,刊行物1(甲1)において第1溶着工程と第2溶着工程の各溶着部が一部重なり合うよう設けられることが開示されていると認められないとしても,上記(2)のとおり,刊行物1発明において,上記各溶着部を重なるように溶着を施工することは技術常識に属し,また,製造工程上も自然なことというべきであるから,刊行物1に接した当業者は相違点cに係る構成を容易に想到できたものと認められる。
したがって,相違点cは本件発明1と刊行物1発明の間の実質的な相違点をなすものではないとした本件審決が誤りであるとしても,そのことは本件発明1の進歩性を否定した本件審決の結論に影響を及ぼすものではない。
5 取消事由4(本件発明1の進歩性判断の誤り)について 原告は,刊行物1及び刊行物2には,相違点aないしcに係る構成について開示も示唆もなく,当然のことながら上記各構成により奏される効果の記載もないのに,本件審決はこの点に関する判断を誤ったものである旨主張する。
しかしながら,相違点aないしcに係る構成は刊行物1及び刊行物2に基づき当業者が容易に想到できたものであるとした本件審決の判断に原告主張の誤りがないことは既に説示したとおりであり,また,前記1ないし3で検討したところからすれば,本件発明1により奏される効果は,刊行物1及び刊行物2に記載された内容に基づいて当業者が予測できる程度のものであり,格別の効果とは認められない。
6 取消事由5(本件発明2ないし4の進歩性判断の誤り)について 原告主張の取消事由1ないし4はいずれも理由がないから,本件審決に取消事由1ないし4があることを前提に本件発明2ないし4の進歩性を否定した本件審決の違法性をいう原告の主張も理由がない。
7 以上の次第で,原告が取消事由として主張するところはいずれも理由がなく,本件審決に他にこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 北山元章
裁判官 青蜉]
裁判官 清水節