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関連ワード 技術的範囲 /  援用権(援用) /  特許発明 /  実施 /  構成要件 /  差止請求(差止) /  侵害 /  実施権 /  専用実施権 /  通常実施権 /  独占的通常実施権 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 15年 (ネ) 793号 特許権侵害差止等請求控訴事件
控訴人(1審原告) 株式会社エクセル
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 井原紀昭
同 小泉哲二
被控訴人(1審被告) 株式会社静岡産業社
同代表者代表取締役 B
被控訴人(1審被告) 株式会社スペック
同代表者代表取締役 C
被控訴人両名訴訟代理人弁護士 上村正二
同 石葉泰久
同 石川秀樹
同 松村武
被控訴人両名補佐人弁理士 木村高久
裁判所 大阪高等裁判所
判決言渡日 2003/09/30
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 控訴人 (1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人らは、原判決別紙物件目録(以下「別紙物件目録」という。)記載の物件を製造し、譲渡し、貸し渡し、又は譲渡若しくは貸渡しのため展示してはならない。
(3) 被控訴人らは、前項記載の物件及びこれを製造するために必要な金型を廃棄せよ。
(4) 被控訴人らは、控訴人に対し、連帯して1120万円及びこれに対する被控訴人株式会社静岡産業社につき平成14年6月18日、被控訴人株式会社スペックにつき同年7月2日(それぞれ訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(5) 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人らの負担とする。
(6) 仮執行宣言 2 被控訴人 主文と同旨 (以下、控訴人を「原告」、控訴人株式会社静岡産業社及び被控訴人株式会社スペックを併せて「被告ら」という。また、略称は原判決中のそれによる。)
事案の概要
本件は、「ビデオテープカセット用カバーケース」の特許発明専用実施権者(平成14年8月20日以前は独占的通常実施権者)である原告が被告らに対し、被告らが製造、販売するビデオテープカセット用のカバーケースは上記特許発明技術的範囲に属すると主張して、専用実施権に基づき、その製造等の差止め、
金型の廃棄を請求するとともに、独占的通常実施権侵害による損害賠償として1120万円及びこれに対する各被告に訴状が送達された日の翌日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を請求した事案である。
原判決は、原告の請求をいずれも棄却したため、原告が本件控訴を提起した。
争いがない事実等及び争点は、原判決2頁9行目から3頁25行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、2頁18行目、3頁16行目及び同17行目の各「別紙」をいずれも「原判決別紙」と、3頁11行目の「日本国内全域」を「日本国内全区域」と各改める。
争点に関する当事者の主張
次のとおり付加、訂正するほか、原判決4頁1行目から8頁2行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。
(原判決の訂正等) 1 原判決4頁11行目の「ケース本体」から同12行目末尾までを「「上面及び幅広の一側面を開閉可能に構成し」と記載されているだけであり、」と改め、同14行目末尾の次にとおり加える。
「また、そもそも「可能」という言葉の意義は、a(現に実現していなくても)、実現の余地があること、b(しようと思えば)できること、c理論的矛盾なく、そういう状態が考えられることである。このような「可能」の意義からしても、開閉手段を具備していることは不要であり、もし、開閉手段の具備が必須であれば、特許請求の範囲の記載は「上面を開閉構成とし」との文言になるはずであるが、請求項1は、このような構成と区別するために「上面を開閉可能に構成し」とされたものである。さらに、本件明細書の【発明が解決しようとする課題】及び【課題を解決するための手段】の各項にも、ケース本体の上面開口部に開閉手段を具備することが必須であるとまでは記載されていない。」 2 同4頁22行目末尾の次に改行の上、次のとおり加える。
「 さらに、次のとおり、ビデオテープカセット用カーバーケースを購入、使用する顧客の用途は多様であり、これらの用途の違いにより、ケース本体の上面開口部に蓋体等の開閉手段を備えることが必要な場合と不要な場合がある。すなわち、ビデオレンタルショップがビデオテープカセットをレンタル用ケースに入れて店内に展示する場合には、上面開口部からビデオテープカセットを入れたレンタル用ケースを所定量露出させておく必要があり、ケース本体の上面開口部に蓋体等の開閉手段を備える必要はない。他方、ビデオソフトメーカーが新品のビデオカセットテープを販売する場合には、ケース本体の上面開口部に蓋体等の開閉手段を備える必要がある。また、ビデオレンタルショップがビデオテープカセットを一定期間レンタル用に使用した後に中古品として販売する際や一般家庭で保管する際にも、
上記の開閉手段を備える必要がある場合がある。このような顧客の多様な用途に対応できる多機能の兼用ケースであるためには、ケース本体の上面開口部が開閉可能となるような蓋状の部材を取り付けることが可能な構成となっていることが必要であり、かつ、それで十分である。むしろ、このような開閉手段を備えることが必須のものであれば、ビデオレンタルショップにおいてはレンタル用ケースの展示のために不要な蓋体まで購入しなければならず、コスト高になり有害であり、多機能の兼用ケースとしての機能を果たさない。そして、本件発明の本質的部分、特徴的部分は、ビデオテープカセット用カバーケース本体の幅広の両側のいずれか一方の内側にストッパを突設し、レンタル用に使用される場合には、レンタル用ケースの底部がストッパに当接し、同ケースの上部が所定寸法だけ上面開口部から上方へ露出し、また、ビデオテープカセットの販売、家庭での保管用に使用される場合には、
幅広の側面がストッパに邪魔されることなく閉じきることができるように、同ストッパの突設位置及び寸法を設定し、もって、ビデオレンタルショップにおける貸出用、販売用、家庭での保管用のいずれにでも使用できる構成(多機能の兼用ケース)を採用したことにある。また、本件明細書の【発明の作用・効果】の項に記載されている本件発明の作用・効果は、いずれもこの構成により生じるものである。」 3 同4頁23行目の「このことからすると」を「以上の点からすると」と改める。
4 同5頁9行目末尾の次に改行の上、次のとおり加える。
「 なお、被告らは、原告から通告書による被告物件の製造、販売の中止を要求されるまでは蓋体の製造及びケース本体の上面開口部への取付を予定し、そのために断面コ字状部材5a、5bを設けたのである。この点に関し、被告らは、下向きのコ字状に折れ曲がった形状になっているのは強度を増すためであると主張するが、コ字状にするよりは単に肉厚にする方がより一層強度が増し、成型も容易であることに照らし、被告らの主張は不合理である。」 5 同6頁22行目末尾の次に改行の上、次のとおり加える。
「 なお、原告は、ビデオテープカセット用カバーケースを購入、使用する顧客の用途の多様性とこれに対する対応について述べているが、この問題は特許権の取得の仕方や販売の形態において考慮されるべき問題であって、特許権の取得後における本件発明の技術的範囲の解釈に関する問題ではない。」
当裁判所の判断
当裁判所も、原告の請求はいずれも理由がないと判断するが、その理由は、
次のとおり付加、訂正等するほか、原判決8頁4行目から13頁11行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。
(原判決の訂正等) 1 原判決10頁22行目の「レンタル用ビデオカセット」から同23行目の「不用となり」までを「レンタル用ビデオテープカセットを購入する時ビデオテープカセットを格納しているカバーケースが不要となり」と改め、11頁19行目末尾の次に改行の上、次のとおり加える。
「ウ 原告は、「可能」という言葉の意義から、蓋体等の開閉手段を具備していることは不要である旨主張する。
しかしながら、「可能」を「(しようと思えば)できること」の意味に用いたとしても、「開閉」という言葉は、開くことと閉じることの意味を有するから、構成要件Bの「(本体の)上面を開閉可能に構成」するとは、ケース本体の上面が開いた状態にある場合には閉じること及び閉じた状態にある場合には開くことのいずれもできる構成を備えていることを意味し、ケース本体は常に開いた状態か閉じた状態かのいずれかの状態にあるのは明らかであるから、このような構成を備えるためには、ケース本体に蓋体等の開閉手段を具備していることが必須であるというべきである。原告の上記主張は採用できない。」 2 同11頁20行目冒頭の「ウ」を削り、同行目の「原告は、」の前に「また、」を加え、12頁1行目の「単に」から同3行目末尾までを次のとおり改める。
「単に「上面を蓋体にて構成」したのではなく、「本体に着脱可能な蓋体にて構成」し、さらに「蓋体を上面開口に沿って起立するように取り付ける取付手段を設けたこと」を特徴とするものである。」 3 同12頁10行目末尾に改行の上、次のとおり加える。
「 さらに、原告は、上面開口部に蓋体等の開閉手段を具備していることを必須であるとすると、ビデオレンタルショップにおいてはレンタル用ケースの展示のために不要な蓋体まで購入しなければならなくなるなど、ビデオテープカセット用カバーケースを購入、使用する顧客の多様な用途に対応できる機能を果たさない旨主張する。
しかし、上記のような顧客の多様な用途に対する対応の問題は、前記ア、
イで検討した点を踏まえれば、本件発明の技術的範囲の確定とは別個の問題であり、特許権の取得を求める権利の範囲の選定などの特許権取得の仕方や特許権取得後における商品の実際の販売の形態に関して考慮されるべき問題であって、上記の原告の主張も採用することができない。」 4 同12頁22行目の「しかも、」を「原告は、被告らが原告から通告書による被告物件の製造、販売の中止を要求されるまでは蓋体の製造及びケース本体の上面開口部への取付を予定し、そのために断面コ字状部材5a、5bを設けた旨主張する。しかし、」と、13頁2行目の「証拠はないことからすると、」の次に「被告物件の製造、販売に至る前の商品化の計画段階における被告らの検討内容はともかくとして、およそ、」を各加える。
5 同13頁11行目の末尾に改行の上、次のとおり加える。
「(4) その他、原審及び当審における原告及び被告ら提出の各準備書面記載の主張に照らして、原審及び当審で提出、援用された全証拠を改めて精査しても、引用に係る原判決を含め、当審の認定判断を覆すほどのものはない。」
結論
以上によると、原告の請求はいずれも理由がないから棄却すべきところ、これと同旨の原判決は相当であるから、本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。
(当審口頭弁論終結日 平成15年7月22日)
裁判長裁判官 竹原俊一
裁判官 小野洋一
裁判官 黒野功久