関連審決 |
無効2001-35080
異議1999-71851
訂正2001-39222 |
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関連ワード | 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 課題の共通性 / 機能の共通性 / 発明の詳細な説明 / 着想 / 特許出願日 / 参酌 / 実施 / 加工 / 構成要件 / 設定登録 / 訂正審判 / 変更 / 異議申立 / |
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事件 |
平成
13年
(行ケ)
522号
審決取消請求事件
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原告 有限会社アマノエンジニアリングサービス 訴訟代理人弁理士 倉内義朗,谷昇 被告 ダイゲン工業株式会社 訴訟代理人弁護士 荒川雄二郎,弁理士 横井健至 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2003/09/30 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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原告の求めた裁判
「特許庁が無効2001-35080号事件について平成13年10月11日にした審決のうち,特許第2825792号の請求項1及び請求項2に係る発明に関する部分を取り消す。」との判決。 |
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事案の概要
本件は,後記本件発明の特許権者である原告が,被告請求に係る無効審判において,本件特許のうち,請求項1及び請求項2に係る発明についての特許を無効とするとの審決がされたため(ただし,請求項3に係る発明についての特許の無効審判請求は不成立とされた。),同審決のうち,請求項1及び請求項2に係る発明に関する部分の取消しを求めた事案である。 なお,本件判決においては,書証等を引用する場合を含め,公用文の用字用語例に従って表記を変えた部分がある。 1 前提となる事実等 (1) 特許庁における手続の経緯 (1-1) 本件特許 特許権者:有限会社アマノエンジニアリングサービス(原告) 発明の名称:「輪体のローリング成形装置」 特許出願日:平成8年7月10日(特願平8-201175号) 設定登録日:平成10年9月11日 特許番号:第2825792号 (1-2) 異議申立て手続 特許異議申立日:平成11年5月7日,同月17日(2件) 特許異議事件番号:平成11年異議第71851号 訂正請求日:平成11年10月12日 異議の決定日:平成11年11月25日 決定の結論:「訂正を認める。特許第2825792号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。」 異議決定確定:平成11年12月13日 (1-3) 本件無効審判手続 無効審判請求日:平成13年2月23日(無効2001-35080号) 審決日:平成13年10月11日 審決の結論:「特許第2825792号の請求項1及び請求項2に係る発明についての特許を無効とする。特許第2825792号の請求項3に係る発明についての特許の審判請求は成り立たない。」 審決謄本送達日:平成13年10月23日(原告に対し) (1-4) 本訴係属中にされた訂正審判手続 訂正審判請求日:平成13年12月6日(訂正2001-39222号) 審決日:平成14年7月16日 審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」(同審決に対する審決取消訴訟は提起されなかった。) (2) 本件発明の要旨(前記(1-2)の訂正後のもの。以下,請求項番号に対応して,それぞれの発明を「本件発明1」などという。なお,上記訂正後の本件発明に関する明細書は,甲9の9頁以下に記載のとおりであり,これを「本件明細書」という。) 【請求項1】中央周面に輪体成形部(9a)を形成した成形ローラ(9)と,中央周面に輪体成形部(13a)が形成されると共に,この輪体成形部の両側周面に転動面(13b,13b)を形成し,該輪体成形部が成形ローラと対向して配設されたマンドレル(13)と,このマンドレルを基準として上記成形ローラとは反対側に ,マンドレルの各転動面と対向して配設された左右一組の加圧ローラ(11a,11b)とで構成され,上記成形ローラ(9)が固定枠(4)に軸支され,また,マンドレルは平行な複数本のガイド軸(5c,5d)に沿って摺動自在に嵌挿された支持枠(8)に軸支され,さらに,加圧ローラが平行な複数本のガイド軸(5a〜5d)に沿って摺動自在に嵌挿された可動枠(7)に軸支されてなり,成形ローラを回転される(判決注:「回転させる」の誤記)と共に,加圧ローラをガイド軸に沿って摺動せしめてマンドレルの転動面を介し,該マンドレルを成形ローラに対し押圧移動することにより,マンドレルの輪体成形部に通挿保持されたワーク(W)をマンドレルと成形ローラとの間で成形加工することを特徴とする輪体のローリング成形装置。 【請求項2】前記加圧ローラ(11a,11b)の駆動部に一方向クラッチ(27)を介設すると共に,該加圧ローラを成形ローラ(9)の回転速度より低速度で回転させるようにしたことを特徴とする請求項1に記載の輪体のローリング成形装置。 【請求項3】請求項1又は2に記載の輪体のローリング成形装置において,該成形装置(1,1)の2台を夫々のガイド軸(5c,5d)又は(5a〜5d)を同一軸心に配列させるようにして各端部枠(3,3)が前後背中合わせとなるように対設させ,加圧ローラ(11a,11b)を各軸支する前後の可動枠(7,7)をこれら両可動枠間に介設せしめた復動型油圧シリンダ(30)の各ピストンロッド(31,31)により前後方向へ交互に進退させるようにしたことを特徴とする請求項1又は2に記載の輪体のローリング成形装置。 (3) 審決の理由の要旨 【別紙】の「審決の理由の要旨」(審決の「事実及び理由」の「第5 当審の判断」,「4 理由1について」のうち,「(3) 対比」及び「(4) 判断」の部分を抜粋したもの。)に記載のとおりである。 要するに,本件発明1は,甲第1号証(本訴甲1,特開平8-57567号公報)記載の発明及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,本件発明2は,甲第1号証記載の発明,甲第7号証(本訴甲7,特公平2-29414号公報)記載の事項及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,これらの発明に係る特許は,特許法29条の規定に反してされたものであり,無効とすべきものである(なお,本件発明3に係る特許について無効とすることができない。),というものである。 2 原告の主張(審決取消事由)の要点 審決は,本件発明の構成と技術的課題,目的及び作用効果との関係を看過誤認したことに起因して,本件発明と証拠との対比・判断(進歩性)を誤ったものであるから,取り消されるべきものである。 (1) 本件発明1について (1-1) 本件発明1の構成と技術的課題,目的及び作用効果との関係の看過誤認 本件発明1は,成形ローラを回転させるとともに,加圧ローラをガイド軸に沿って摺動せしめてマンドレルの転動面を介し,マンドレルを成形ローラに対し押圧移動することにより,マンドレルの輪体成形部に通挿保持されたワークをマンドレルと成形ローラとの間で成形加工する輪体のローリング成形装置にあって,加圧ローラやマンドレルを軸支している架台の機台上での移動が,各部に生じる負荷の増減,変化が原因で不安定になるのをいかにして排除するか,また,架台の機台上での移動が不安定になることに起因する装置の耐久性の低下及び製品の成形精度の低下をいかに防ぐかといった点を技術的課題の一つとしているものであり,この技術的課題を解決することを目的の一つとしているものである。 本件発明1は,上記目的を達成するための手段として,その構成を定めているのであるが,特に,「マンドレルを,平行な複数本のガイド軸(5c,5d)に沿って摺動自在に嵌挿された支持枠(8)に軸支すること」(構成要件E)及び「加圧ローラを,平行な複数本のガイド軸(5a〜5d)に沿って摺動自在に嵌挿された可動枠(7)に軸支すること」(構成要件F),すなわち,支持枠と可動枠を別体にし,これら各枠をそれぞれ個々に,平行な複数本のガイド軸に摺動自在に嵌挿せしめ,マンドレルと加圧ローラの各摺動動作を独立させた点に特徴を有するものである。 これにより,「成形ローラに対する上記支持枠並びに可動枠の機台上での移動を各部に生じる負荷の増減,変化にかかわらず可及的に安定した体勢で行わせ得るのである。」(甲9,段落【0008】)といった作用を奏する。 本件発明1は,「成形ローラに対するマンドレル並びに各回転軸のバランスが,複数本のガイド軸の案内により可動枠及び支持枠によりそれぞれ前後動させれるようにされ,各枠を円滑に摺動させるとともに,装置全体の耐久性が高められることにより,自動的に良好に保たれることになって成形品の加工精度が可及的に向上し,真円度の秀れた輪体を成形し得るのである。」(甲9,段落【0025】)といった特有の効果を発揮するものである。 しかしながら,審決には,本件発明1の上記の技術的課題及び目的を検討した形跡が全くみられないことから,審決は,当該技術的課題及び目的を完全に看過したものであるといわざるを得ない。 さらに,審決は,本件発明1の構成,特に上記E及びFの各構成要件に関して,一応,相違点2の検討において認識しておきながら,本件発明1が,これら各構成要件を備えていることにより,上記の作用及び効果を奏する点についても全く検討せず,そればかりか,「上記の構成の相違に基づく作用効果において本件発明1と甲第1号証記載の発明との間に格別の差異が見当たらず,マンドレル及び加圧ローラを,本件発明1のように別体の支持枠及び可動枠に各別に軸支するか,あるいは,甲第1号証記載の発明のように一つのスライダに軸支するかは,製作のしやすさや保守管理のしやすさ等を考慮して,適宜選択すればよい単なる設計的事項にすぎない。」などと,およそ牽強付会ともいえる結論を導き出している。また,このことは,審決が,本件発明1の技術的課題及び目的を完全に看過していることの証左ともいえる。 このように,審決は,本件発明1の技術的課題及び目的を完全に看過し,そのことにも起因して本件発明1の上記構成要件E及びFと作用効果との関係を看過誤認したことにより,本件発明1の特徴が自動調心作用を奏することにしかないと盲信し,さらには自動調心作用がマンドレル及び加圧ローラを別体の支持枠及び可動枠に各別に軸支することによるものではないなどと,的外れもはなはだしい結論を出している。 (1-2) 本件発明1と甲第1号証記載の発明との対比の仕方の誤り 甲第1号証記載の発明の技術的課題は,「リング状半製品の孔が偏心しているために生ずる肉厚変動による圧延工具の過負荷が避けられるようなリングを冷間圧延するための圧延機を作ること」(甲1,段落【0009】)であり,前記本件発明1の課題とは全く異なるものである。 また,甲第1号証記載の発明の目的は,「大きな公差で作られ場合によっては肉厚が大きく変動しているリング状半製品を利用することによって,リングを冷間圧延する際の経済性を高めることにある。」(甲1,段落【0008】)という点にあり,このように甲第1号証記載の発明は,目的においても本件発明1と相違する。 換言すれば,甲第1号証記載の発明は,本件発明1の技術的課題である,「輪体のローリング成形装置にあって,加圧ローラやマンドレルを軸支している架台の機台上での移動が,各部に生じる負荷の増減,変化が原因で不安定になるのをいかにして排除するか,また,架台の機台上での移動が不安定になることに起因する装置の耐久性の低下及び製品の成形精度の低下をいかに防ぐか」といった点については,対象外としており,当然のことながら本件発明1の目的などは全く想定外である。 したがって,甲第1号証記載の発明の構成は,その請求項1に記載されているとおり,本件発明1の構成とは大きく異なり,特に,本件発明1の前記EとFの各構成要件については,何ら開示も示唆もされていない。 そして,甲第1号証記載の発明の作用は,「作動ピストン12の前面における作動室30が液圧源34によって発生された液圧で高圧にされ,締付け力が発生されることにある。」(甲1,段落【0025】)という点,「リング状半製品の肉厚が異なっている場合,ブラケット7を形状ロールとともにマンドレルロール4に対して振動させることができる。その利点は,さもなければリング圧延機の剛性によってその圧延機全体の有害な振動ないしは大きな騒音発生のもとでしか圧延加工できないような肉厚が著しく変化しているリングも,問題なしに圧延できるということにある。」(甲1,段落【0027】)という点にある。 また,甲第1号証記載の発明の効果は,「肉厚がかなり大きく変動したリング状半製品が利用できることによって,リングを冷間圧延する際の経済性が高められる。またマンドレルロールを支持したスライダは速度制御装置で所定の特性曲線に応じて繰り出せ,リング状半製品の孔が偏心している場合でも,圧延工具に過負荷が生ずることはない。」(甲1,段落【0029】)というものである。 このように,本件発明1と甲第1号証記載の発明とは,そもそも技術的課題及び目的が全く異なるものであり,それゆえ構成が相違し,当然のことながら作用効果に至っては完全に異質のものである。それにもかかわらず,審決は,前述したように本件発明1の特徴である前記E及びFの構成要件及びそれによる作用効果を看過した上に,甲第1号証記載の発明における成形ローラ,マンドレル,加圧ローラの存在及びそれらの位置関係,並びにマンドレルを成形ローラに対して押圧移動する点にのみ着目して,本件発明1と甲第1号証記載の発明とを対比しており,これは明らかに本件発明1と甲第1号証記載の発明との対比の仕方を誤っているものである。 (1-3) 本件発明1の進歩性の判断の誤り 本件発明1の技術的課題及び目的は,自動調心作用を得ることもさることながら,前記のように,加圧ローラやマンドレルを軸支している架台の機台上での移動が,各部に生じる負荷の増減,変化が原因で不安定になるのをいかにして排除するか,また,架台の機台上での移動が不安定になることに起因する装置の耐久性の低下及び製品の成形精度の低下をいかに防ぐかといった点にもあるが,この点については甲第1ないし第7号証のいずれにも記載されておらず,示唆さえされていない。また,上記技術的課題及び目的を達成するための本件発明1の特徴,すなわち前記E及びFの構成も,甲第1ないし第7号証の特許公報のいずれにも開示されておらず,示唆さえされていない。 したがって,本件発明1の上記特徴を備えたことによる特有の効果は,甲第1ないし第7号証のいずれをどのように組み合わせたとしても到底得られるものではなく,本件発明1は,甲第1号証記載の発明並びに甲第5ないし第7号証に示されている従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。 しかしながら,審決は,自動調心作用に拘泥するあまり,前述したように,本件発明1について,その構成と技術的課題,目的及び作用効果との関係を看過誤認してしまい,これに起因して本件発明1と証拠との対比の仕方を誤ったために,本件発明1は甲第1号証記載の発明及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとの誤った進歩性の判断をしたものである。 (2) 本件発明2について 本件発明2は,本件発明1の従属項である請求項2に係る発明であり,本件発明1とその主要部を同じくするものであるから,審決が本件発明2に対してした進歩性の判断も,本件発明1の場合と同様の理由により,誤りである。 3 被告の主張の要点 審決には,原告の主張するような,本件発明の構成と技術的課題,目的及び作用効果との関係を看過誤認した点はなく,したがって,本件発明と証拠との対比・判断(進歩性)に誤りはなく,取り消されるべきものではない。 本件明細書(甲9の9頁以下)をみても,原告主張のような加圧ローラやマンドレルを軸支している架台の移動が不安定になることに起因する,装置の耐久性の低下や製品の成形精度の低下をいかに防ぐかという技術的課題は,記載されておらず,唯一,段落【0008】の【作用】の後半において,「マンドレルが平行な複数本のガイド軸に沿って摺動自在に俵挿された支持枠に軸支され,さらに,加圧ローラが平行な複数本のガイド軸に沿って摺動自在に嵌挿された可動枠に軸支されてなるので,成形ローラに対する上記支持枠並びに可動枠の機台上での移動を各部に生じる負荷の増減,変化にかかわらず可及的に安定した体勢で行わせ得るのである。」との記載があるが,原告の主張する「装置の耐久性の低下及び製品の成形精度の低下をいかに防ぐか」といったことの記載はない。 枠体を可動するときに安定した体勢で行わせるために,その枠体をガイドするガイド軸を使用することは機構学的に慣用の周知の手段であり,そのガイド軸を平行な複数本とすることは,適宜採用される単なる設計事項の変更にすぎない。 原告は,支持枠と可動枠を別体にし,これら各枠をそれぞれ個々に,平行な複数本のガイド軸に摺動自在に嵌挿せしめ,マンドレルと加圧ローラの各摺動動作を独立させた点に特徴を有すると主張し,これにより,成形ローラに対する上記支持枠並びに可動枠の機台上での移動を可及的に安定した体勢で行わせ得るとの作用を奏すると主張している。しかし,枠体をガイド軸に通すと安定した体勢で可動できるのであり,独立させた点と格別に安定した体勢で可動できることとは,関係がないのに,原告は,あたかも関係があるがごとく述べているにすぎないものであり,原告の主張は失当である。 その他,原告の主張は,明細書の記載に基づかない主張であったり,議論をすり替えて審決を非難するものであって,失当である。 |
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当裁判所の判断
1 本件発明1について 原告主張の審決取消事由は,要するに,相違点2に対する判断の誤りをいうものである(第1回弁論準備手続調書における原告の陳述)。 (1) 原告は,まず,審決には本件発明1の構成と技術的課題,目的及び作用効果との関係の看過誤認があると主張するので,この点から検討する。 (1-1) 本件明細書(甲9の9頁以下)の段落【0003】【発明が解決しようとする課題】において,従来技術に係る成形装置の問題点として,次の2点が指摘されている。 すなわち,(a)「従来の成形装置は,マンドレルの中間部にワークを通挿保持し,該マンドレルの両側規制面を後背部から左右一対のサポートローラで支持させた状態で中間の対向正面から成形ローラを押圧するものであって,つまり該装置は両側2点をサポートさせて,その中間に保持したワークに成形ローラを押圧させているのである。このように,マンドレルの両側2か所を背後から支持させて該マンドレルの中間部に保持したワークに正面から成形ローラを押圧させる従来装置は,…一般に若干の寸法誤差の認められているこの種の回転,押圧成形装置にあっては各部に振れや,がたつきが生じることにより完璧な加工精度が期し難いのである。」という点と,(b)「また,上記成形ローラを軸支する架台(摺動ブロック)は前記特開昭62-176627号の第6図に記載のように機台に対して摺動時にがたつきの生じやすいあり(ばち形)構造を採用しているので耐久性を損ね,しかも製品の成形精度を著しく低下させるのである。」という点である。 本件明細書では,このように従来技術の問題点を指摘した上で,段落【0004】において,次のように,解決しようとする課題を記載している。 すなわち,「本発明は,このような弊害に鑑みなしたもので,前記成形ローラを定位置に固定し,この成形ローラに対して所要のワークを中間部に保持させたマンドレルの両側部を背後から左右一対の加工ローラにより転動状態で押圧させるようにしたもので各部の調心を自動的,かつ良好に保たせて製品の加工精度を可及的に向上させるとともに,構成を簡易となして各部の耐久性を高めることを課題とする。」というものである。 本件明細書の段落【0008】【作用】では,本件発明の作用について記載されている。 まず,(a)「固定枠に支持され,かつ所定速度で回転する成形ローラに対し,中央の輪体成形部にワークを保持させたマンドレルを該マンドレルの両側に形成した転動面へ背後から回転状態で転接させるようにした加圧ローラにより押圧させるのであるから,従来のように,左右2か所で支持させたマンドレルに対し中央正面から成形ローラで押圧する場合に比較して,前者の方がマンドレルに調心作用が自動的に生じてバランスが良好に保たれることになるのである。…すなわち,軸受各部に若干(許容範囲内)の誤差を有していても各ローラ,特にマンドレルに生じる振れ,がたつきなどは左右可及的平均に是正されて自動調心が適切,良好に保たれることにより前記従来装置に比較して圧造加工のばらつきを少なくして製品の精度を向上させ,真円度の高い輪体が得られるのである。」とし,さらに,(b)「マンドレルが平行な複数本のガイド軸に沿って摺動自在に嵌挿された支持枠に軸支され,さらに,加圧ローラが平行な複数本のガイド軸に沿って摺動自在に嵌挿された可動枠に軸支されてなるので,成形ローラに対する上記支持枠並びに可動枠の機台上での移動を各部に生じる負荷の増減,変化にかかわらず可及的に安定した体勢で行わせ得るのである。」としている。 さらに,本件明細書の段落【0021】,【0023】では,実施例につき,次のような記載がある。 まず,本件発明の奏する調心作用につき,(a)「上記輪体の成形時に際し,マンドレル13は輪体成形部13aの両側に形成した転動面13b,13bが左右一組とした加圧ローラ11a,11bにより転接状態で押圧されることで該マンドレル中間の上記成形部13aに通挿保持したワークWが正面の固定枠4に軸支した成形ローラ9へ圧接されることにより,つまり正面中央の成形ローラ9に対してマンドレル13が左右2か所の転動面により押圧されることになるため,各部の寸法誤差,あるいは組立て時に生じる上記マンドレル13を含む各回転軸の傾き,その他各ローラの振れ,がたつきなどは調心作用により自動的に修正されてバランスが良好に保たれることになって輪体の加工精度を可及的に向上させるのである。」(【0021】)とし,さらに,ガイド軸による支持構造に関し,(b)「前記可動枠7は上下左右のコーナ部に貫通させた4本のガイド軸5a〜5dにより,そして支持枠8は下方左右2本のガイド軸5c,5dによってそれぞれ前後に摺動案内されるので,これらの各枠は円滑に進退し得るとともに移動時のがたつきが少なく長期にわたり安定して使用し得るのである。」(【0023】)としている。 (1-2) 以上の記載を中心として本件明細書の内容を検討すると,次のように解される。 本件明細書は,従来技術の問題点として,(a)マンドレルを固定し,成形ローラを移動させて,ワークに成形ローラを押圧する従来の成形装置は,各部に振れや,がたつきが生じることにより完璧な加工精度が期し難い点と,(b)成形ローラを軸支する架台があり(ばち形)構造である従来の成形装置は,摺動時にがたつきが生じやすく,耐久性を損ね,製品の成形精度を著しく低下させる点を挙げている。 そして,上記問題点(a)に関し,(a)成形ローラを固定枠に支持し,マンドレル及び加圧ローラにより押圧させることにより,各ローラの振れ,がたつきなどは調心作用により自動的に修正されてバランスが良好に保たれることになって輪体の加工精度を可及的に向上させることができること,上記問題点(b)に関し,(b)マンドレルを複数本(実施例では2本)のガイド軸に沿って摺動自在に嵌挿された支持枠に軸支し,加圧ローラを複数本(実施例では4本)のガイド軸に沿って摺動自在に嵌挿された可動枠に軸支することで,移動時のがたつきが少なく,長期にわたり安定して使用し得ることになるとしている。 (1-3) 原告の主張においては,本件発明1は,特に,マンドレルを軸支する支持枠と加圧ローラを軸支する可動枠とを別体にし,マンドレルと加圧ローラの各摺動動作を独立させた点に特徴を有し,これによって,本件作用を奏するものであることが強調されている。 そこで,検討するに,確かに,本件明細書には,「成形ローラに対する上記支持枠並びに可動枠の機台上での移動を各部に生じる負荷の増減,変化にかかわらず可及的に安定した体勢で行わせ得る」作用を奏したり,「成形ローラに対するマンドレル並びに各回転軸のバランスが,複数本のガイド軸の案内により可動枠及び支持枠によりそれぞれ前後動させれるようにされ,各枠を円滑に摺動させるとともに,装置全体の耐久性が高められることにより,自動的に良好に保たれることになって成形品の加工精度が可及的に向上し,真円度の秀れた輪体を成形し得る」という効果を発揮することの記載がある。しかし,本件明細書には,上記作用を奏したり,上記効果を発揮することが,「支持枠と可動枠を別体」にしたことによってもたらされるとの記載は,存在しない。 本件明細書においては,前記(1-1),(1-2)で認定したように,従来技術であるとされるあり(ばち形)構造による支持構造との対比として,加圧ローラやマンドレルをガイド軸に沿って摺動自在に嵌挿された可動枠や支持枠に軸支することが記載されており,実施例として,マンドレルが2本のガイド軸に沿って摺動自在に嵌挿された支持枠に軸支され,加圧ローラが4本のガイド軸に沿って摺動自在に嵌挿された可動枠に軸支されるものが記載されている。このような本件明細書の記載に照らせば,本件発明1の上記支持構造は,あり(ばち形)構造による支持構造と比較して,その支持剛性は相当高いであろうことが推察されるところである。したがって,本件明細書の記載からは,本件発明1の上記剛性の高さは,上記のようなガイド軸,支持枠及び可動枠によって奏され,その結果,原告主張の作用効果を奏するものであることを理解し得るのであって,本件明細書の記載を精査しても,原告主張の作用効果が,「支持枠と可動枠を別体」にしたことによってこそもたらされるものであるとは認めることができない。 技術的観点からみても,どのような理由によって,「支持枠と可動枠を別体」にしたことから上記作用効果がもたらされるのかについて,納得し得るような主張立証が存在しない(原告は,ワークの加工時の加圧ローラ及びマンドレルの動作等について,模式図により説明したが(原告第4準備書面),本件明細書によれば,本件発明1におけるマンドレルの支持構造は極めて剛であり,ワークの内周テーパに倣ってマンドレルが大きく傾斜するというような挙動を示すとは考え難く,説明のためにあえて誇張したものであることを割り引いて考えても,原告の説明は首肯し難い。)。 以上の判示に照らせば,「(相違点2における)構成の相違に基づく作用効果において本件発明1と甲第1号証記載の発明との間に格別の差異が見当たらず,マンドレル及び加圧ローラを,本件発明1のように別体の支持枠及び可動枠に各別に軸支するか,あるいは,甲第1号証記載の発明のように一つのスライダに軸支するかは,製作のしやすさや保守管理のしやすさ等を考慮して,適宜選択すればよい単なる設計的事項にすぎない。」などとした相違点2に対する審決の判断に,原告主張の誤りがあるとはいえない。 本件発明1の構成と技術的課題,目的及び作用効果との関係の看過誤認があるとする原告の主張は,採用することができない。 (2) 原告は,本件発明1と甲第1号証記載の発明との対比の仕方に誤りがあると主張する。 進歩性の判断をする際,対象となる発明と引用発明との技術分野に関連性があること,課題の共通性があること,作用,機能の共通性があること,引用例中に示唆があることなどの事情があれば,想到容易性がより肯定されやすく,進歩性否定の判断につながりやすいといえる。しかし,これらの事情は,進歩性判断のひとつの観点であるにすぎず,これらを具備しない限り,進歩性を否定し得ないというものではない。 甲第1号証と本件明細書をみれば,確かに,課題,目的,作用効果の記載が文言上一致しているとはいい難い。しかし,両者は,マンドレルやローラ(ロール)による加圧により輪体を成形するという技術分野において共通性があり,本件発明1の課題(前認定のとおり)自体は,上記技術分野において特殊なものではなく,着想するのに特別の困難さはないといえる。また,甲第1号証の明細書でも,支持構造の剛性を十分なものにすることの示唆がされていることも認められる。したがって,たとえ,甲第1号証における課題,目的,作用効果の文言が本件明細書のそれと同じでないとしても,上記認定の事情をも総合して考慮すれば,本件において,甲第1号証を引用例として取り上げて対比することが許されないということはできない。そして,審決は,甲第1号証に開示された構成と本件発明1の構成とを対比して,一致点及び相違点を認定し,その上で想到容易性を判断したものであって,その対比の仕方において,原告主張のような違法とすべき点は見当たらない。 よって,この点に関する原告の主張も採用の限りではない。 (3) 原告は,審決が,本件発明1の構成と技術的課題,目的及び作用効果との関係を看過誤認し,これに起因して本件発明1と証拠との対比の仕方を誤ったために,進歩性の判断を誤ったと主張する。 原告の主張する進歩性の判断を誤った具体的な理由については,前記(1),(2)において,判示したとおりであり,原告の主張は採用することができない。よって,進歩性判断の誤りをいう原告の主張もまた採用の限りではない。 その他,原告の主張を精査しても,本件発明1が甲第1号証記載の発明及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとして,本件発明1の進歩性を否定した審決の判断に誤りがあるとはいえない。 2 本件発明2について 原告は,本件発明1に関して審決に前掲の誤りがあることを前提として,本件発明2に関する審決の進歩性の判断にも,同様の誤りがあると主張するものであるが,本件発明1に関する審決の認定判断に誤りがないことは,既に判示したとおりであるから,本件発明2に関する原告主張の審決取消事由も理由がないことに帰する。 3 結論 以上のとおり,原告主張の審決取消事由は理由がないので,原告の請求は棄却されるべきである。 |
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【別紙】審決の理由の要旨無効2001-35080号事件,平成13年10月11日付け審決(下記は,上記審決の「事実及び理由」の「第5当審の判断」,「4理由1について」のうち,「(3)対比」及び「(4)判断」の部分を抜粋したものであり,文書の書式を変更したが,用字用語の点を含め,その内容をそのまま掲載したものである。)事実及び理由第5当審の判断4理由1について(3)対比ア本件発明1について先ず、本件発明1と甲第1号証記載の発明とを対比すると、甲第1号証記載の発明の「ブラケット」、「支柱」及び「リング状半製品」は、それぞれ本件発明1の「固定枠」、「ガイド軸」及び「ワーク」に相当する。 また、甲第1号証記載の発明の「形状ロール」は、固定枠に軸支され、ワークをマンドレルロールとの間で成形加工する部材であるという限りで、本件発明1の「成形ローラ」に対応している。 また、甲第1号証記載の発明の「マンドレルロール」は、周面に転動面を形成し、成形ローラと対向して配設され、ワークを成形ローラとの間で成形加工する部材であるという限りで、本件発明1の「マンドレル」に対応し、甲第1号証記載の発明の「支持ローラ」は、マンドレルを基準として上記成形ローラとは反対側に、 マンドレルの転動面と対向して配設されている部材であるという限りで、本件発明1の「加圧ローラ」に対応している。 また、甲第1号証記載の発明の「スライダ」は、平行な複数本のガイド軸に沿って摺動自在に嵌挿された可動部材であって、マンドレル及び加圧ローラを軸支するものであるという限りで、本件発明1の「支持枠」及び「可動枠」に対応している。 さらに、甲第1号証記載の発明は、「リング圧延機」と表現されているが、本件発明1と同様「輪体のローリング成形装置。」と表現できるものである。 したがって、本件発明1と甲第1号証記載の発明とは、 成形ローラと、 周面に転動面を形成し、成形ローラと対向して配設されたマンドレルと、 このマンドレルを基準として上記成形ローラとは反対側に、マンドレルの転動面と対向して配設された加圧ローラとで構成され、 上記成形ローラが固定枠に軸支され、 また、マンドレル及び加圧ローラが平行な複数本のガイド軸に沿って摺動自在に嵌挿された可動部材に軸支されてなり、 成形ローラを回転させると共に、マンドレルを成形ローラに対し押圧移動することにより、マンドレルに通挿保持されたワークをマンドレルと成形ローラとの間で成形加工する輪体のローリング成形装置である点で一致し、以下の2点で相違している。 相違点1:本件発明1では、成形ローラは、その中央周面に輪体成形部が形成されており、 マンドレルは、その中央周面に輪体成形部が形成されると共に、この輪体成形部両側周面に転動面を形成し、該輪体成形部が成形ローラと対向して配設されており、 加圧ローラは、マンドレルの各転動面と対向して配設された左右一組のものであり、また、ワークは、マンドレルの輪体成形部に通挿保持されているのに対して、 甲第1号証記載の発明では、成形ローラ、マンドレル及び加圧ローラの具体的構成が明らかでなく、ワークが、マンドレルのどこに通挿保持されているのか明らかでない点。 相違点2:本件発明1では、マンドレルは平行な複数本のガイド軸に沿って摺動自在に嵌挿された支持枠に軸支され、加圧ローラが平行な複数本のガイド軸に沿って摺動自在に嵌挿された可動枠に軸支されてなり、加圧ローラをガイド軸に沿って摺動せしめてマンドレルの転動面を介し、該マンドレルを成形ローラに対し押圧移動するのに対して、甲第1号証記載の発明では、マンドレル及び加圧ローラが平行な複数本のガイド軸に沿って摺動自在に嵌挿された1つのスライダに軸支されており、スライダをガイド軸に沿って成形ローラに向かって摺動せしめてマンドレルを成形ローラに対し押圧移動する点。 イ本件発明2について次に、本件発明2と甲第1号証記載の発明とを対比すると、本件発明2は、第3の2に示されるように、本件発明1に構成要件Hを付加するものであるから、本件発明2と甲第1号証記載の発明とは、本件発明1と甲第1号証記載の発明との一致点及び相違点を有する外、以下の点で相違している。 相違点3:本件発明2では、加圧ローラの駆動部に一方向クラッチを介設すると共に、該加圧ローラを成形ローラの回転速度より低速度で回転させるようにしているのに対して、甲第1号証記載の発明では、そのようになっていない点。 (4)判断ア本件発明1について相違点1について:輪体のローリング成形装置において、中央周面に輪体成形部を形成した成形ローラと、中央周面に輪体成形部が形成されると共に、この輪体成形部の両側周面に転動面を形成し、該輪体成形部が成形ローラと対向して配設されたマンドレルと、このマンドレルを基準として上記成形ローラとは反対側に、マンドレルの各転動面と対向して配設された左右一組の受けロール又はサポートローラとを備え、ワークをマンドレルの輪体成形部に通挿保持することは、甲第5,6及び7号証に示されているように従来周知である。 そして、この従来周知の事項における「受けロール又はサポートローラ」は、マンドレルを支持するローラという限りで、甲第1号証記載の発明の「加圧ローラ」に対応している。 したがって、上記従来周知の事項を甲第1号証記載の発明に適用して、成形ローラ、マンドレル及び加圧ローラを本件発明1のように構成すると共にワークをマンドレルの輪体成形部に通挿保持するように構成することに格別の困難性はない。 相違点2について:甲第1号証には、マンドレルをスライダにどの様に軸支するかについては明記されていないが段落【0017】に「・・・マンドレルロール4が・・・・支持ローラ6に線接触で接触支持される・・・」と記載されていることから、スライダをガイド軸に沿って成形ローラに向かって摺動せしめることにより、加圧ローラがマンドレルの転動面を介し、該マンドレルを成形ローラに対し押圧移動するものと解される。 そうすると、本件発明1と甲第1号証記載の発明との相違点2における相違は、 本件発明1では、マンドレルは平行な複数本のガイド軸に沿って摺動自在に嵌挿された支持枠に軸支され、加圧ローラが平行な複数本のガイド軸に沿って摺動自在に嵌挿された可動枠に軸支されているのに対して、甲第1号証記載の発明では、マンドレル及び加圧ローラが平行な複数本のガイド軸に沿って摺動自在に嵌挿された1つのスライダにそれぞれ軸支されている点に帰着する。 しかしながら、この構成の相違に基づく作用効果において本件発明1と甲第1号証記載の発明との間に格別の差異が見当たらず、マンドレル及び加圧ローラを、本件発明1のように別体の支持枠及び可動枠に各別に軸支するか、或いは、甲第1号証記載の発明のように1つのスライダにそれぞれ軸支するかは、製作のし易さや保守管理のし易さ等を考慮して、適宜選択すればよい単なる設計的事項にすぎない。 なお、本件発明1は、訂正後の明細書の、例えば、段落【0021】に「然して上記輪体の成形時に際し、マンドレル13は輪体成形部13aの両側に形成した転動面13b,13bが左右一組とした加圧ローラ11a,11bにより転接状態で押圧されることで該マンドレル中間の上記成形部13aに通挿保持したワークWが正面の固定枠4に軸支した成形ローラ9へ圧接されることにより、つまり正面中央の成形ローラ9に対してマンドレル13が左右2ケ所の転動面により押圧されることになるため、各部の寸法誤差、あるいは組立て時に生じる上記マンドレル13を含む各回転軸の傾むき、その他各ローラの振れ、がたつきなどは調心作用により自動的に修正されてバランスが良好に保たれることになって輪体の加工精度を可及的に向上させるのである。」と記載されているように、自動調心作用を奏すことをその特徴とするものであるところ、相違点1についての検討で示した上記従来周知の事項を甲第1号証記載の発明に適用することによって構成されるものも、輪体の成形時に際し、マンドレルは輪体成形部の両側に形成した転動面が左右一組とした加圧ローラにより転接状態で押圧されることで、正面中央の成形ローラに対してマンドレルが左右2ケ所の転動面により押圧されることになることから、本件発明1と同様自動調心作用を奏するものである。 このように、自動調心作用は、正面中央の成形ローラに対してマンドレルが左右2ケ所の転動面により押圧されることにより齎されるものであって、請求人が弁駁書の第5頁第3〜10行でその旨主張しているように、マンドレル及び加圧ローラを別体の支持枠及び可動枠に各別に軸支することによるものではない。 したがって、本件発明1は、甲第1号証記載の発明及び上記従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 イ本件発明2について相違点1及び相違点2については、上記のとおりである。 相違点3について:本件の訂正後の明細書の段落【0009】の記載によると、本件発明2において、相違点3の構成、即ち、「加圧ローラの駆動部に一方向クラッチを介設すると共に、該加圧ローラを成形ローラの回転速度より低速度で回転させるようにしたこと」を採用した理由は、ワークに圧造加工がなされる際の成形ローラと加圧ローラとの回転速度の差ならびにワークの成形進行に応じて生じるワークの内外径による周速度の影響が低速回転側の加圧ローラに介設された一方向クラッチに吸収されることによりワークが常時円滑に回転して真円度の秀れた圧延成形がなされることにある。 ところで、先に認定したように、甲第7号証には、ベアリングの輪体成形装置において、成形ローラとワークとの周速変動を防止して、周速差に基づくワークの振動や変形をなくして、品質の良い輪体の成形が得られると共に、成形ローラの長期の使用が得られるようにするために、成形ローラ及びサポートローラの各駆動系に一方向クラッチを介設して動力伝達し、成形ローラがワークから速い周速を受けると、この成形ローラの駆動系に一方向クラッチが介設されているため、このクラッチがフリーとなり、成形ローラはワークの周速と等速で回転し、相互に周速差を回避し、また、成形ローラの周速が速いときは、サポートローラ側の駆動系に介設した一方向クラッチがフリーとなり、ワークと成形ローラとの周速を同一にすることができ、ワークと成形ローラとにいかなる周速の変動が生じても、両者は常に同一の周速となることが記載されている。 甲第1号証記載の発明及び甲第7号証記載の事項は、共に輪体のローリング成形装置に関するものであることから、甲第7号証に記載されているマンドレルを支持するサポートローラの駆動系に一方向クラッチを介設することを甲第1号証記載の発明に適用して、マンドレルを支持する加圧ローラの駆動部に一方向クラッチを介設するように構成することに格別の困難性はない。 また、本件発明2では、加圧ローラを成形ローラの回転速度より低速度で回転させるようにしているのに対して、甲第7号証では、その実施例として成形ローラとサポートローラとを等速で回転するものが示されているが、同じ甲第7号証の従来の技術の項に「成形ローラ31とサポートローラ33との回転数を、例えば、同一回転数のように、固定的に設定すると、・・・」と記載されていることからも窺えるように、成形ローラとサポートローラとを等速で回転することは一例にすぎず、 輪体のローリング成形装置において、成形ローラとサポートローラとの回転速度の関係をどの様に定めるかは、成形ローラの輪体成形部の径、ワークの加工前及び加工後の内・外径、マンドレルの輪体成形部及び転動面の各径、サポートローラの径の大きさ等に基づいて、適宜定めればよい設計的事項であって、本件発明2において加圧ローラを成形ローラの回転速度より低速度で回転させることに格別の発明性はない。 したがって、本件発明2は、甲第1号証記載の発明、甲第7号証記載の事項及び上記従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 ウ被請求人の主張に対して(ア)被請求人は、甲第1号証記載の発明は、圧延の際に衝撃的な荷重が生ずることを避けるために、特に、成形ロール側は可動状態にあり、固定されたものではなく、この点で、成形ロール側が固定される本件発明1とは根本的な構成上の違いがあり、本件発明1の自動調心作用は、成形ローラ側が固定状態に維持されることにより初めて達成されるのであって、甲第1号証記載の発明の場合のように、成形ローラ側が可動状態では発揮されない旨主張している。 なるほど、甲第1号証に【実施例】として示されているものでは、成形ロール、 即ち、形状ロール8を支持するブラケット7は、衝撃的に生じる荷重によって変位可能に構成されているが、図3に示されるような衝撃的な荷重が作用しない通常の場合には、ブラケット7は、変位することなくワークの圧延加工が行われる。 また、甲第1号証の段落【0001】【産業上の利用分野】には「・・・形状ロールが垂直の直立支柱で支持された水平の不動ブラケットに回転可能に支持されている・・・」と記載されており、同じく【従来の技術】を説明する段落【0005】には「・・・液圧式に発生された圧延圧がスライダによって支持された内側ロールに与えられるようなリング圧延機が知られている。その内側ロールは不動の外側ロール(当審注:本件発明1の「成形ロール」に相当。)に向けて半径方向にロールギャップを減少して移動できる。」と記載されているように、甲第1号証記載の従来のものでは、ブラケットは不動であり、(3)のアで示したように、この「ブラケット」は、本件発明1の「固定枠」に相当することが明らかである。 (イ)また、被請求人は、甲第1号証記載の発明は、装置が縦型のものだけに限定されているのに対して、本件発明1の「ガイド軸」は、水平であることを前提要件としている旨主張している。 しかしながら、本件の訂正後の請求項1にみられるように、ガイド軸が水平であることは、本件発明1の構成要件となっていないだけでなく、訂正後の明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌しても、本件発明1において、ガイド軸が水平であることを前提要件としなければならない理由は見当たらない。 (以上) |
裁判長裁判官 | 塚原朋一 |
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裁判官 | 塩月秀平 |
裁判官 | 田中昌利 |