関連審決 | 不服2002-20447 |
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関連ワード | 頒布された刊行物 / アクセス / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 技術常識 / 優先権 / 優先日 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 拒絶査定 / 請求の範囲 / 国際出願 / |
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事件 |
平成
17年
(行ケ)
10262号
審決取消請求事件
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原告 原告X 訴訟代理人弁理士 木村高久 被告 特許庁長官中嶋誠 指定代理人 小林信雄 同 久保田健 同 小池正彦 同 宮下正之 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2005/11/21 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 3 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が不服2002-20447号事件について平成16年10月18日にした審決を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 2 被告 主文第1,2項と同旨 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,発明の名称を「万能電子取引カード,システム及び方法」とする発明につき,1995年(平成7年)6月7日を国際出願日とする特許出願(平成8年特許願第502595号。優先日1994年6月20日,優先権主張国米国。以下「本願」という。)をした上,平成13年11月13日付け手続補正書による補正をしたが(同補正後における請求項の数は40である。以下,同補正後の明細書及び図面を「本願明細書」という。),平成14年7月10日,拒絶査定を受けたので,同年10月21日に審判を請求するとともに,同年11月20日付け手続補正書により,本願明細書の特許請求の範囲について補正をした。 特許庁は,上記審判請求を不服2002-20447号事件として審理した結果,平成16年10月18日,平成14年11月20日付け手続補正書による補正を却下するとともに,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をした。 その謄本は平成16年11月2日に原告に送達され,出訴期間として90日が付加された。 2 特許請求の範囲(平成13年11月13日付け手続補正書による補正後のもの) 「1.ユーザの個人情報,該ユーザがアカウントを持つサービス機関のアカウントのアカウント情報,該ユーザがアカウントを持つ複数のサービス機関のアカウントの取引情報を含む情報の記憶,伝送及び受信を行なう万能電子取引カードであって, 前記ユーザの個人情報,前記ユーザがアカウントを持つ複数のサービス機関のアカウント情報及び該アカウント情報が存在する各サービス機関の取引情報を含む情報を入力する入力手段と, 前記入力手段で入力された前記ユーザの個人情報,前記ユーザがアカウントを持つ複数のサービス機関のアカウント情報及び該アカウント情報が存在する各サービス機関の取引情報を含む情報を記憶するメモリ手段と, 前記個人情報,前記アカウント情報及び前記取引情報を含む情報を各サービス機関と電子的に通信する通信手段と, 前記個人情報,前記アカウント情報及び前記取引情報を含む複数のサービス機関のアカウントの情報を表示する表示手段と, 前記個人情報,前記アカウント情報及び前記取引情報を含む情報を処理する処理手段と, 前記入力手段,前記メモリ手段,前記通信手段,前記表示手段及び前記処理手段をポケット又は財布に適合するように収容する収容手段と, 電源を供給及び蓄積し,前記メモリ手段,前記入力手段,前記表示手段,前記処理手段及び前記通信手段に選択的に給電する給電手段と, 不正使用を防ぐとともに前記メモリ手段に記憶した情報への不正なアクセスを防ぐセキュリティ手段と を具備し,前記取引情報は,取引日,取引額およびユーザ認証を含む万能電子取引カード。」(以下,請求項1の発明を「本願発明」という。) 3 審決の理由 (1) 別紙審決書の写しのとおり。要するに,本願発明は,本願の出願前に頒布された刊行物である米国特許第5276311号明細書(以下「引用例1」という。)に記載された発明(以下「引用例記載発明」という。)と,同明細書,実願昭62-167884号(実開平1-72662号)のマイクロフィルム(以下「引用例2」という。),特開平4-158489号公報(以下「引用例3」という。),特開平1-129379号公報(以下「引用例4」という。)に記載された事項及び周知事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,とするものである。 (2) 審決が,進歩性がないとの上記結論を導く過程において,本願発明と引用例記載発明との一致点及び相違点として認定したところは,次のとおりである。 【一致点】 「ユーザの個人情報,該ユーザがアカウントを持つサービス機関のアカウントのアカウント情報を含む情報の記憶,伝送及び受信を行なう万能電子取引カードであって, 前記ユーザの個人情報,前記ユーザがアカウントを持つ複数のサービス機関のアカウント情報を含む情報を入力する入力手段と, 前記入力手段で入力された前記ユーザの個人情報,前記ユーザがアカウントを持つ複数のサービス機関のアカウント情報を含む情報を記憶するメモリ手段と, 前記個人情報,前記アカウント情報を含む情報を電子的に通信する通信手段と, 前記個人情報,前記アカウント情報を含む複数のサービス機関のアカウントの情報を表示する表示手段と, 前記個人情報,前記アカウント情報を含む情報を処理する処理手段と, 前記入力手段,前記メモリ手段,前記通信手段,前記表示手段及び前記処理手段をポケット又は財布に適合するように収容する収容手段と, 電源を供給及び蓄積し,前記メモリ手段,前記入力手段,前記表示手段,前記処理手段及び前記通信手段に給電する給電手段と, 不正使用を防ぐセキュリティ手段と を具備する万能電子取引カード」である点。 【相違点1】 本願発明の万能電子取引カードは,「ユーザがアカウントを持つ複数のサービス機関のアカウントの取引情報」の記憶,伝送及び受信も行うのに対し,引用例記載発明はそうでない点。 【相違点2】 本願発明の入力手段,メモリ手段,通信手段,表示手段,処理手段が対象とする情報は,「該アカウント情報が存在する各サービス機関の取引情報」を含むのに対し,引用例記載発明はそうでない点。 【相違点3】 本願発明の通信手段は,「各サービス機関と」通信するのに対し,引用例記載発明はそうでない点。 【相違点4】 本願発明の「給電手段」は,「選択的に」給電するのに対し,引用例記載発明はそうでない点。 【相違点5】 本願発明のセキュリティ手段は,「前記メモリ手段に記憶した情報への不正なアクセスを防ぐ」機能も有するのに対し,引用例記載発明はそうでない点。 【相違点6】 本願発明の情報に含まれる「取引情報」は,「取引日,取引額およびユーザ認証を含む」のに対し,引用例記載発明はそうでない点。 |
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原告主張の取消事由の要点
審決は,相違点1〜3についての判断を誤った(取消事由1,2)結果,本願発明は引用例1〜4に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとしたものであり,これらの誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違法なものとして取り消されるべきである(平成14年11月20日付け手続補正書による補正を却下した点については,争わない。)。 1 取消事由1(相違点1,2の判断の誤り) 審決は,引用例2,3につき,「該取引データは,銀行や,クレジット会社側の装置から与えられるのであるから,引用例2,3には,該取引データの入力,通信,表示,処理がなされることが示唆されているといえる。」(審決書23頁5行〜7行)と認定し,「入力手段,メモリ手段,通信手段,表示手段,処理手段が対象とする情報として,アカウント情報が存在する各サービス機関の取引情報を追加することは,当業者が容易に想到し得ることである。」(審決書23頁15行〜18行)と判断しているが,この認定判断は誤りである。 (1) 引用例2,3につき「該取引データは,銀行や,クレジット会社側の装置から与えられる」と認定した誤り (ア) 審決が,引用例2,3につき,「該取引データは,銀行や,クレジット会社側の装置から与えられる」と認定したのは,誤りである。 すなわち,引用例2のインテリジェントカード装置に書き込まれる取引データは,引用例2の「ステップA9において金額データが入力されると,これらはステップA9において,アプリケーション取引データとして,メモリ部52の所定番地に書き込まれる。」という記載からも明らかなように,ユーザにより入力される金額データであり,審決が認定するような「銀行や,クレジット会社側の装置から与えられる」ものではない。 また,引用例3において,カードの取引データ記憶手段に記憶されるクレジット取引に関するデータも,クレジット処理端末の操作により,クレジット処理端末から与えられるのであり,審決が認定するような「銀行や,クレジット会社側の装置から与えられる」ものではない。 (イ) 被告は,「審決において,引用例2,3を引用した趣旨は,引用例2,3においては,電子カードが他の装置に接続されていない状態で,電子カード自体で(単独で)取引データを電子カードに書き込むのではなく,電子カードが銀行やクレジット会社側の装置と接続された状態で,銀行やクレジット会社側の装置から,取引データが電子カードに与えられ,電子カードに書き込まれているという点である」旨を主張する。 しかし,引用例2についていえば,メモリ部52の所定番地に書き込まれる取引データ(アプリケーション取引データ)は,「入力された使用者情報」,「指定された振込先口座」,「入力された金額データ」を含むものである。また,ここでの「使用者情報の入力」,「振込先口座の指定」,「金額データの入力」は,インテリジェントカード装置13をターミナル14に装着した状態における,ターミナル14の顧客による操作に基づくものである。したがって,メモリ部52の所定番地に書き込まれる「使用者情報」,「振込先口座」,「金額データ」等の取引データ(アプリケーション取引データ)は,ターミナル14の顧客による操作により,ターミナル14から入力されたものとなる。ここで,ターミナル14は,銀行側の装置(コンピュータセンタ8)と公衆回線15を介して接続されているが,顧客(会社)1に設けられ,顧客が操作するものであるから,顧客側の装置というべきである。してみると,電子カード(インテリジェントカード装置13)が銀行側の装置と接続された状態で,電子カードに書き込まれる取引データは,銀行側の装置から与えられたものではなく,顧客の操作に基づき顧客側の装置から与えられるものである。 同様に,引用例3においても,カードの取引データ記憶手段に記憶されるクレジット取引に関するデータは,クレジット処理端末の操作により,クレジット処理端末から与えられるのであり,被告が主張するような,「銀行や,クレジット会社側の装置から与えられる」ものではない。 (2) 引用例2,3につき「引用例2,3には,該取引データの入力,通信,表示,処理がなされることが示唆されている」と認定した誤り (ア) 審決が,「引用例2,3には,該取引データの入力,通信,表示,処理がなされることが示唆されているといえる。」と認定したのは,誤りである。 すなわち,引用例2,3には,本願発明の万能電子取引カードのように,カード自体に,「前記個人情報,前記アカウント情報及び前記取引情報を含む情報を各サービス機関と電子的に通信する通信手段」を設ける構成の記載,又は,これを示唆する記載はない。 引用例2のインテリジェントカード装置13は,ターミナル14,19との通信機能は有していても,銀行側のコンピュータセンタ6との通信機能は有しておらず,コンピュータセンタ6との通信は,ターミナル14,19により行われる。また,引用例3においても,引用例3のカード1は,クレジット処理端末との間の通信機能は有していても,クレジット会社側の装置との間の通信機能は有しておらず,クレジット会社側の装置との通信は,クレジット処理端末により行われる。 (イ) 引用例2には,インテリジェントカード装置に記憶されたデータに基づいて,銀行とのデータのやりとりを行う構成が記載されているといえるが,引用例2のインテリジェントカード装置は,銀行に対する各種アプリケーションに基づく処理依頼を可能にするものでしかなく,本願発明のような各種取引決済を可能にするものではない。 (3) したがって,上記(1),(2)の誤った認定に基づいて,相違点1,2について容易想到であるとした審決の判断は誤りである。 2 取消事由2(相違点3の判断の誤り) 審決は,相違点3に関して,「後者(判決注・引用例記載発明。審決引用部分につき,以下同じ。)の通信手段は,直接的には,チェック端末と通信するものであるが,該チェック端末を介して中央コンピュータに繋がっており(記載(カ),図4),しかも,電子カードの銀行カードやクレジットカード等が使用される際,銀行やクレジット会社のコンピュータと情報を通信することは,引用例2,3に記載されているから,後者の通信手段がチェック端末を介して各サービス機関と通信するように構成することは,当業者が容易になし得ることである。」(審決書23頁20行〜26行)と判断するが,誤りである。 (1) 引用例1のチェック端末20に接続されている中央コンピュータは,署名の照合に用いるものであり,また,引用例2及び3には,カードに各サービス機関と通信する構成を設ける点については,全く記載されていない。 すなわち,引用例2,3には,カード自体に,「個人情報,アカウント情報及び取引情報を含む情報を各サービス機関と電子的に通信する通信手段」を設ける構成の記載はない。また,引用例1には,クレジットカード,小切手カード,身分証明カード等のデータをチェックのために,チェック端末と通信する構成が記載されているだけである。 (2) したがって,引用例記載発明に,引用例2,3を単に適用したところで,本願発明の万能電子取引カードのように,カード自体に,「前記個人情報,前記アカウント情報及び前記取引情報を含む情報を各サービス機関と電子的に通信する通信手段」を設ける構成はでてこないのであり,相違点3について容易想到であるとした審決の判断は誤りである。 |
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被告の反論の要点
審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。 1 取消事由1(相違点1,2の判断の誤り)について (1) 審決が,引用例2,3につき「該取引データは,銀行や,クレジット会社側の装置から与えられる」と認定した点について (ア) 原告は,引用例2のインテリジェントカード装置に書き込まれる取引データは,ユーザにより入力される金額データであり,銀行や,クレジット会社側の装置から与えられるものではなく,引用例3において,カードの取引データ記憶手段に記憶されるクレジット取引に関するデータも,クレジット処理端末の操作によりクレジット処理端末から与えられるのであり,銀行や,クレジット会社側の装置から与えられるものではない旨を主張する。 しかしながら,審決において,引用例2,3を引用した趣旨は,引用例2,3においては,電子カードが他の装置に接続されない状態で,電子カード自体で(単独で)取引データを電子カードに書き込むのではなく,電子カードが銀行やクレジット会社側の装置と接続された状態で,銀行やクレジット会社側の装置から,取引データが電子カードに与えられ,電子カードに書き込まれているという点である。 (イ) 引用例2について詳述すると,引用例2には,インテリジェントカード装置は,顧客1が口座を有する主銀行2のコンピュータセンタ8と接続された,顧客自身が所有するターミナル14又は主銀行の所有するターミナル19に装着された状態で,振込先口座を指定し,金額データが入力されると,これら振込先口座と金額データが,アプリケーション取引データとして,インテリジェントカード装置のメモリ部に書き込まれることが記載されている。ここにおいて,ターミナル19が,銀行側の装置であることは明らかである。また,ターミナル14は,顧客の所有物ではあるが,主銀行のコンピュータセンタのターミナルとして機能しており,インテリジェントカード装置との関係でみれば,銀行側の装置として把握できるものである。したがって,引用例2には,取引データが,銀行側の装置(ターミナル14,19)から,インテリジェントカード装置(電子カード)に与えられることが記載されている。 原告は,引用例2では,金額データの入力を,顧客が行っているとも主張するが,銀行振込において金額データを顧客が入力するのはむしろ当然のことであり,また,顧客が金額データを入力することと,金額データ(取引データ)がどのような経路でインテリジェントカード装置に与えられるかは,直接関係する事項ではない。引用例2では,顧客が銀行側の装置であるターミナルで金額データを入力し,この入力された金額データが,取引データとして,ターミナルに装着されたインテリジェントカード装置に与えられ,インテリジェントカード装置のメモリ部に書き込まれるのであるから,引用例2に,取引データが,銀行側の装置から電子カードに与えられることが記載されているとした審決の認定に誤りはない。 (ウ) 次に,引用例3について詳述すると,引用例3には,カードがクレジット処理端末に挿入された状態で,クレジット取引データが,クレジット処理端末で入力されると,この入力されたクレジット取引データが,クレジット処理端末からカードに伝送され,取引データ記憶エリアに記憶されることが記載されている。ここにおいて,クレジット処理端末は,クレジット会社側の装置であるから,引用例3には,取引データが,クレジット会社側の装置からカードに与えられることが記載されている。 (2) 審決が,引用例2,3につき「引用例2,3には,該取引データの入力,通信,表示,処理がなされることが示唆されている」と認定した点について (ア) 原告は,引用例3のカード1は,クレジット処理端末とデータのやりとりをするものでしかなく,本願発明の「前記個人情報,前記アカウント情報及び前記取引情報を含む情報を各サービス機関と電子的に通信する通信手段」を有するものではない旨主張している。 (イ) しかしながら,引用例3には,カードとクレジット処理端末との間で,データ伝送が行われることが記載されており,クレジット処理端末は,クレジット会社側の装置であるから,引用例3のカードは,クレジット会社側の装置と電子的に通信しており,そのための通信手段を有していることは,明らかである。 また,引用例3のクレジット処理端末は,店舗に配置されたものであり,クレジット会社のコンピュータとの関係について記載されていないが,クレジット処理端末は,「端末」という言葉からも明らかなように,通常,クレジット会社のコンピュータと接続されており,カードとクレジット処理端末との間で伝送されるデータ,すなわち,取引データは,クレジット会社のコンピュータにも伝送されることは,当業者の技術常識であるから,引用例3のカードは,クレジット会社側の装置であるクレジット処理端末を介して,クレジット会社のコンピュータと電子的に通信しているということもできる。 したがって,引用例3のカードは,ユーザがアカウントを有するクレジット会社との取引データをクレジット会社と電子的に通信しており,そのための通信手段を有している。 なお,端末を介してクレジット会社のコンピュータと電子的に通信することは,本願発明においても同様である。すなわち,本願明細書には,「POSコンピュータ23は,UETカードへの情報の読み書きをするためのCIUとのインターフェースを有し,クレジット証明等の顧客データベースに対するクレジット会社又は銀行カード会社のメインセントラルコンピュータと通信を行う。」と記載されており,本願発明でも,UETカードは,CIU(通信インターフェースユニット)及びPOSコンピュータを介して,クレジット会社のメインセントラルコンピュータと通信を行うものと解される。 (ウ) 原告は,引用例2のインテリジェントカード装置は,銀行に対する各種アプリケーションに基づく処理依頼を可能にするものでしかなく,本願発明のような各種取引決済を可能にするものではないと主張する。 しかしながら,引用例2のインテリジェントカード装置を用いてなされる送金等の処理は,銀行との取引そのものであるから,インテリジェントカード装置が備える各種アプリケーションに基づく処理は,銀行との各種取引決済を可能にするものである。 2 取消事由2(相違点3の判断の誤り)について 審決は,引用例1には,「クレジットカード,小切手カード,身分証明カード等のデータをチェック端末と電子的に通信する通信手段」が記載されていると認定した上で,本願発明と対比して,本願発明と引用例記載発明は,「前記個人情報,前記アカウント情報を含む情報を電子的に通信する通信手段」を具備する点で一致し,本願発明の通信手段は,「各サービス機関」と通信するのに対し,引用例記載発明はそうでない点を,相違点3として抽出しているのである。 そして,引用例2,3には,取引情報を,銀行やクレジット会社のコンピュータと電子的に通信することが記載されているということができるから,引用例記載発明において,通信手段が,チェック端末を介して,各サービス機関と通信するように構成することは,当業者が容易に想到し得ることというべきである。したがって,審決の判断に誤りはない。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点1,2の判断の誤り)について (1) 審決が,引用例2,3につき「該取引データは,銀行や,クレジット会社側の装置から与えられる」と認定した点について (ア) 原告は,引用例2のインテリジェントカード装置に書き込まれる取引データは,引用例2の「ステップA9において金額データが入力されると,これらはステップA9において,アプリケーション取引データとして,メモリ部52の所定番地に書き込まれる。」という記載からも明らかなように,ユーザにより入力される金額データであり,「銀行や,クレジット会社側の装置から与えられる」ものではない旨を主張する。 (イ) しかしながら,引用例2(甲2)には,次の記載がある。 「また,このコンピュータセンタ8には,公衆回線10を介して他銀行3のコンピュータセンタ11が接続されており,カード発行機6より入力された各種データは,この他銀行3のコンピュータセンタ11にも送られ,ファイル12に書込まれる。」(明細書6頁3行〜8行) 「そして,図示Eにおいて,インテリジェントカード装置13を使用した送金リストの作成が行なわれる。この場合,リスト作成には,顧客(会社)1自身が所有するターミナル14または主銀行2の所有するターミナル19が使用される。このようにして送金リストが作成されたインテリジェントカード装置13は図示Fのルートを経てターミナル14または図示Gのルートを経てターミナル19に装着され,送金リストの内容は公衆回線15,16を介して主銀行2のコンピュータセンタ8に送られる。この場合,送金リストの内容が主銀行2に対するものの場合は,コンピュータセンタ8にてコンピュータ処理され,他銀行3に対するものの場合は,コンピュータセンタ11にてコンピュータ処理される。」(明細書6頁14行〜7頁8行) 「その後,このようなインテリジェントカード装置13にアプリケーションの選択とともに,取引に関するデータの書込みが行なわれるが,ここでの動作は第5図に示すようになる。この場合,まずステップA1においてイニシャルPINが入力される。そして,ステップA2においてPIN照合が行なわれる。ここで,NGならばエラー処理される。一方,OKが取れると,ステップA3に進む。 ステップA3では,インテリジェントカード装置13をターミナル(ここでは,ターミナル14の場合を述べる。)に装着する。そして,ステップA4に進み,アプリケーション選択などの初期設定済みかが判断される。」(明細書13頁8行〜14頁1行) 「次いで,ステップA6において,使用者情報を入力し,ステップA7に進み,振込先口座を指定する。そして,ステップA9において金額データが入力されると,これらはステップA9において,アプリケーション取引データとして,メモリ部52の所定番地に書込まれる。その後,このような取引データの書込みが終了すると,ステップA10においてインテリジェントカード装置13はターミナル14より排出され,処理を終了する。」(明細書15頁12行〜20行) これらの記載によれば,引用例2には,各銀行のコンピュータセンタと接続されたターミナル19に装着された状態で,アプリケーション取引データが,インテリジェントカード装置13に書き込まれること,及び,ターミナル19は,主銀行2が所有することが開示されている。そうすると,引用例2において,ターミナル19は,主銀行が所有しているのであるから,銀行側の装置であることは,明らかである。したがって,「該取引データは,銀行・・・側の装置から与えられる」とした審決の認定に,誤りはないというべきである。 (ウ) 引用例3につき,原告は,引用例3において,カードの取引データ記憶手段に記憶されるクレジット取引に関するデータも,クレジット処理端末の操作により,クレジット処理端末から与えられるのであり,「銀行や,クレジット会社側の装置から与えられる」ものではないと主張する。 しかしながら,まず,クレジット処理端末が,クレジット会社のコンピュータと電子的に通信していることについては,当事者間に争いはない。 そして,引用例3(甲3)には,次の記載がある。 「カードリーダライタインタフェース3はクレジット処理を行なうために店舗などに設置されるクレジット処理端末装置とカード1との間でデータをやり取りするためのものであり,クレジット処理端末装置のカードリーダライタと電気的に接続される接点を有する。」(3頁左下欄5行〜10行) 「カード会社から発行されたカードを用いて,店舗などでクレジット取引が行なわれるとき,カード1はクレジット処理端末に挿入される。クレジット処理端末側の接触子とカード1のカードリーダライタインタフェース3の接点が接触して,カード1とクレジット処理端末との間でデータ伝送が可能になると,第4図に示す会員データ記憶エリア81に記憶されている会員番号データは読出されて,カードリーダライタインタフェース3を介してクレジット処理端末に伝送される。 クレジット処理端末では,伝送されたデータに基づいて,カード1の利用が可能か否かを調査する。カードの利用が可能である場合には,クレジット処理端末で入力され,かつその入力後にクレジット処理端末から伝送されるクレジット取引に関するデータ,すなわち,クレジットの利用日の日付,カード会社名,利用金額および支払条件を示すデータが,第5図に示す取引データ記憶エリア82に記憶される。」(5頁左下欄7行〜右下欄5行) 「クレジット取引に関するデータは集計処理され,それにより,支払日順,支払月別の利用金額ならびに支払残高を表示することができるので,各カード会社ごとに発行される利用明細書を待つまでもなく,かつ利用者が集計処理をするまでもなく,クレジットをどのくらい利用したかを容易に把握することができる。」(6頁右下欄2行〜8行) これらの記載によれば,引用例3には,カード1が,店舗などに設置されるクレジット処理端末に挿入された状態で,クレジット処理端末から伝送されるクレジット取引に関するデータが,カード1の取引データ記憶エリア82に記憶されること,及び,クレジット取引に関するデータは,各カード会社ごとに利用明細書が発行されることが開示されている。 そうすると,各カード会社(すなわち,各クレジット会社)ごとに利用明細書が発行され,また,クレジット処理端末は,クレジット会社のコンピュータと電子的に通信しているのであるから,クレジット処理端末は,各クレジット会社のコンピュータと接続され,各クレジット会社に対応したクレジット処理を行い,また,クレジット取引に関するデータを,当然に,各クレジット会社にも伝送していることは,明らかである。したがって,引用例3において,クレジット処理端末は,クレジット会社が所有する装置とまではいえないにしても,カード1との関係からみれば,各クレジット会社のコンピュータと接続されたクレジット会社側の装置と解するのが相当である。したがって,「該取引データは,・・・クレジット会社側の装置から与えられる」とした審決の認定は,妥当なものである。 (2) 審決が,引用例2,3につき「引用例2,3には,該取引データの入力,通信,表示,処理がなされることが示唆されている」と認定した点について (ア) 原告は,引用例2,3には,本願発明の万能電子取引カードのように,カード自体に,「前記個人情報,前記アカウント情報及び前記取引情報を含む情報を各サービス機関と電子的に通信する通信手段」を設ける構成の記載,又は,これを示唆する記載はないと主張する。 しかしながら,後記2において判示するとおり,本願発明の「各サービス機関と電子的に通信する通信手段」とは,PCを介して各サービス機関と通信する構成を含むものであって,カード自体に各サービス機関と電子的に通信する通信手段が備わっていることまでは特定されていない。したがって,原告の上記主張は,本願発明の特許請求の範囲に基づかないものであり,採用できない。 (イ) 原告は,引用例2のインテリジェントカード装置は,銀行に対する各種アプリケーションに基づく処理依頼を可能にするものでしかなく,本願発明のような各種取引決済を可能にするものではない旨を主張する。 しかしながら,本願発明の請求項1には,「取引」に関し,「取引情報」,「万能電子取引カード」,「取引日」及び「取引額」と記載されているのみであり,「取引決済」についてまでは,特定されていない。したがって,原告のこの主張も,特許請求の範囲に基づかないものであり,採用できない(なお,引用例2のインテリジェントカード装置を用いてなされる送金等の処理は,銀行との取引そのものであるから,インテリジェントカード装置が備える各種アプリケーションに基づく処理は,銀行との各種取引決済を可能にするものということができ,原告の主張はいずれにしても採用できない。)。 (3) 以上のとおり,「該取引データは,銀行や,クレジット会社側の装置から与えられるのであるから,引用例2,3には,該取引データの入力,通信,表示,処理がなされることが示唆されているといえる。」とした審決の認定に誤りはなく,かかる認定に基づく相違点1,2についての審決の判断にも誤りはない。 2 取消事由2(相違点3の判断の誤り)について (1) 原告は,引用例1のチェック端末20に接続されている中央コンピュータは署名の照合に用いるものであり,また,引用例2及び3には,カードに各サービス機関と通信する構成を設ける点については,全く記載されていないので,引用例記載発明に引用例2,3を適用しても,カード自体に,「前記個人情報,前記アカウント情報及び前記取引情報を含む情報を各サービス機関と電子的に通信する通信手段」を設ける本願発明の構成はでてこないとして,相違点3について容易想到であるとした審決の判断は誤りであると主張する。 (2) しかしながら,本願明細書には,次の記載がある。 「第8図は,CIUの3つの異なるバージョンを示す図である。CIU Aは,UETカードとパーソナルコンピュータとの間の受動的なインターフェースである。CIU Aは,シリアルポート,パラレルポート又は家庭用/オフィス用PCと通信する他の手段とUETカードとで通信するための金属接触面を有する。CIU Aは,受動的な装置であり,処理能力,メモリ及び他のCIUに存在するソフトウエアを含まない。これらの機能は,複写を避けるとともにコストを低減するためにパーソナルコンピュータにおいて結合される。この形態において,PCには,メインコンピュータセンターにダイアリングできるように通信ソフトウエア及びモデムが提供される。」(甲5,18頁16行〜24行) この記載によれば,本願明細書には,UETカードが,PCを介して,メインコンピュータセンターと通信する実施例が開示されている。したがって,本願発明の「前記個人情報,前記アカウント情報及び前記取引情報を含む情報を各サービス機関と電子的に通信する通信手段」が,PCを介して,各サービス機関と通信する構成を含むものであることは,明らかである。 ここで,引用例1のチェック端末20に接続されている中央コンピュータは,署名の照合に用いるものであることについては,当事者間に争いはない。そうすると,引用例記載発明が,チェック端末を介して,中央コンピュータ(本願発明の「サービス機関」に相当)と電子的に通信する手段を有することも,明らかである。 そして,引用例2に,各銀行のコンピュータセンタと接続されたターミナル19に装着された状態で,アプリケーション取引データが,インテリジェントカード装置13に書き込まれることが開示されていること,及び,ターミナル19が銀行側の装置であることは,前示のとおりである。そうすると,引用例2において,インテリジェントカード装置13は,銀行側の装置であるターミナル19を介して,各銀行のコンピュータセンタと通信する構成を有するものと解される。また,引用例3に,カード1が,クレジット処理端末に挿入された状態で,クレジット処理端末から伝送されるクレジット取引に関するデータが,カード1の取引データ記憶エリア82に記憶されることが開示されていること,及び,クレジット処理端末は,各クレジット会社のコンピュータと接続されたクレジット会社側の装置と解されることは,前示のとおりである。そうすると,引用例3において,カード1は,クレジット会社側の装置と解されるクレジット処理端末を介して,各クレジット会社のコンピュータと通信する構成を有すると認められる。したがって,引用例2及び3には,カードが,サービス機関の装置を介して,各サービス機関と通信する構成を有することが記載されている。 そうすると,引用例記載発明の電子多機能カードが,チェック端末を介して,サービス機関と電子的に通信する手段を有し,また,引用例2,3には,カードが,サービス機関の装置を介して,各サービス機関と通信する構成を有することが記載されており,そして,本願発明の「各サービス機関と電子的に通信する通信手段」が,PCを介して各サービス機関と通信する構成を含むのであるから,引用例記載発明の電子多機能カードに,引用例2,3の各サービス機関と通信する構成を適用し,本願発明の「各サービス機関と電子的に通信する通信手段」とすることに,何ら困難性はないというべきである。 審決は,「後者の通信手段は,直接的には,チェック端末と通信するものであるが,該チェック端末を介して中央コンピュータに繋がっており(記載(カ),図4),しかも,電子カードの銀行カードやクレジットカード等が使用される際,銀行やクレジット会社のコンピュータと情報を通信することは,引用例2,3に記載されているから,後者の通信手段がチェック端末を介して各サービス機関と通信するように構成することは,当業者が容易になし得ることである。」と判断しているものであるが,審決のこの判断は,上記と同旨をいうものと解されるから,是認することができる。 原告は,本願発明が,カード自体に「各サービス機関と電子的に通信する通信手段」を設ける構成を有していることを主張するが,上記のとおり,本願発明の「各サービス機関と電子的に通信する通信手段」とは,PCを介して各サービス機関と通信する構成を含むのものであって,カード自体に各サービス機関と電子的に通信する通信手段が備わっていることまでは特定されていないのであるから,原告の上記主張は,本願発明の特許請求の範囲に基づかないものであり,採用できない。 3 結論 以上によれば,原告主張の取消事由1,2には理由がなく,その他,審決に,これを取り消すべき誤りは見当たらない。 よって,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担並びに上告及び上告受理の申立てのための付加期間について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,96条2項を適用して,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 佐藤久夫 |
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裁判官 | 三村量一 |
裁判官 | 古閑裕二 |