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関連審決 無効2004-80048
関連ワード 技術的思想 /  進歩性(29条2項) /  発明特定事項 /  周知技術 /  援用権(援用) /  容易に想到(容易想到性) /  構成要件 /  設定登録 /  訂正明細書 /  公知事実 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10570号 審決取消請求事件
原告 三協アルミニウム工業株式会社
原告 立山アルミニウム工業株式会社
上記両名訴訟代理人弁理士 湯田浩一
被告 トステム株式会社
訴訟代理人弁理士 星野哲郎,復代理人弁理士 山本典輝
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/02/27
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
原告らの求めた裁判
「特許庁が無効2004-80048号事件について平成17年5月31日にした審決のうち特許第3472717号の請求項2に係る部分を取り消す。」との判決。
事案の概要
本件は,特許に対する無効審判請求の不成立部分の審決の取消しを求める事件であり,原告らは無効審判の請求人,被告は特許権者である。
1 特許庁における手続の経緯 (1) 被告は,発明の名称を「上げ下げ窓または上げ下げ窓付戸」とする特許第3472717号(請求項の数2。平成11年2月25日に出願,平成15年9月12日に設定登録。以下「本件特許」という。)の特許権者である。
(2) 原告らは,平成16年5月14日,本件特許について無効審判の請求をし(無効2004-80048号事件として係属),これに対し,被告は,平成17年2月28日,明細書の訂正(以下「本件訂正」という。)を請求した。
(3) 特許庁は,平成17年5月31日,「訂正を認める。特許第3472717号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。特許第3472717号の請求項2に係る発明についての審判請求は,成り立たない。」との審決をし,同年6月13日,その謄本を原告らに送達した。
2 請求項2に係る発明の要旨(本件訂正請求後のもの) 「上枠,下枠および左右の縦枠からなる枠体内の室外側に固定障子を,かつ室内側に上げ下げ可能な可動障子を設け,該可動障子をバネ力で巻取り付勢された吊り材を介して吊下げるバランサーを前記枠体に取付けてなる上げ下げ窓または上げ下げ窓付戸であって,前記可動障子には前記左右の縦枠の対向する縦溝内に位置して前記吊り材を支持する支持部材が縦溝内に嵌め込めるように引込み位置から縦溝方向へ突出可能で且つ調整可能に設けられ,前記支持部材は,支持部本体と,該支持部本体の端部に形成されるとともに,前記吊り材の先端に設けられた輪を回動可能に引掛けることのできる環状溝を有する支持部と,該支持部と同一又はそれ以上の径を有するとともに,前記縦溝内に収まる規制部と,を備え,前記支持部材を支点に前記可動障子は室内側に内倒し可能であることを特徴とする上げ下げ窓または上げ下げ窓付戸。」 3 本件発明についての審決の理由の要点 本件発明についての審決の理由は,以下のとおりであるが,要するに,本件訂正を認めるとした上,請求項2に係る発明(以下「本件発明」という。)は,特許法29条2項の規定に該当しないから,本件発明に係る特許は,同法123条1項2号の規定に該当せず,無効とすべきものとすることができない,というものである。
(1) 訂正の適否の判断 本件訂正は,特許法134条の2第1項ただし書及び同5項で準用する特許法126条3項及び4項の要件を満たすものであるから,訂正を認める。
(2) 無効理由についての検討 ア 引用刊行物記載の発明 (ア-1) ・・・実公昭61-33805号公報(本訴甲8,以下「刊行物1」という。)には,次の発明が記載されていると認められる。
「上枠1a,下枠および左右の縦枠1bからなる窓枠1内に上げ下げ可能な内障子2および外障子3を設け,該内障子2および外障子3はロープ4を介して連結されるとともに,ロープ4を巻装するバランサを有する上げ下げ窓であって,前記内障子2および外障子3は前記左右の縦枠1bの対向する溝部内に嵌め込まれており,前記内障子2および外障子3に前記溝部内に位置して前記ロープ4を支持する吊り金具7を設けてなり,前記吊り金具7は,前記ロープ4を支持するフック部7aを有し,該フック部7aに前記ロープ4の引掛け部4aを引掛けてなり,振れ止め具8が溝部方向へ突出可能で且つ調整可能に設けてなる上げ下げ窓。」 ・・・ イ 対比・判断 本件発明と刊行物1に記載された発明を対比すると,刊行物1に記載された発明における「窓枠1」,「ロープ4」,「バランサ」,「溝部」,「吊り金具7」,「フック部7a」及び「ロープ4の引掛け部4a」は,それぞれ,本件発明の「枠体」,「吊り材」,「バランサー」,「縦溝」,「支持部材」,「支持部」及び「吊り材の端部」に相当する。
また,刊行物1に記載された発明における「内障子2」は,開閉移動することから,可動障子とみなすことができる。
そして,刊行物1に記載された発明も,内障子2は,左右の縦枠1bの対向する溝部内に嵌め込まれていることから,縦枠1bの対向する溝部内に嵌め込めるように構成されていることは明らかである。
さらに,刊行物1に記載された発明における「振れ止め具8」と本件発明における「支持部材」は,いずれも,縦溝方向へ突出可能で且つ調整可能に設けられた部材である点で共通する。
よって,両者は,「上枠,下枠および左右の縦枠からなる枠体内に上げ下げ可能な可動障子を設け,該可動障子を吊り材を介して吊下げるバランサーを有する上げ下げ窓であって,前記可動障子には,前記左右の縦枠の対向する縦溝内に位置して縦溝方向へ突出可能で且つ調整可能に設けられた部材とともに,前記吊り材を支持する支持部材が設けられ,前記支持部材は吊り材を支持する支持部を有し,該支持部に前記吊り材の端部を引掛けてなる上げ下げ窓。」である点で両者は一致し,以下の点で相違する。
<相違点3> 本件発明では,バネ力で巻き取り付勢された吊り材を介して可動障子を吊り下げるバランサーが枠体に取付けられているのに対して,刊行物1に記載された発明では,バランサーを有するものの,バランサーの構造や取付けられた部位は不明であり,また,バランサー,吊り材,可動障子の関係が不明確である点。
<相違点4> 本件発明では,可動障子が有する縦溝方向へ突出可能で且つ調整可能に設けられた部材が支持部材であり,前記支持部材が可動障子の嵌め込みに邪魔にならない引込み位置から縦溝方向へ突出可能で且つ調整可能に設けられているのに対して,刊行物1に記載された発明では,そのような構成になっていない点。
<相違点5> 本件発明では,室外側に固定障子を,室内側に上げ下げ可能な可動障子を設けているのに対して,刊行物1に記載された発明では,そのような構成になっていない点。
<相違点6> 本件発明では,支持部材が,支持部本体と,該支持部本体の端部に形成されるとともに,前記吊り材の先端に設けられた輪を回動可能に引掛けることのできる環状溝を有する支持部と,該支持部と同一又はそれ以上の径を有するとともに,前記縦溝内に収まる規制部と,を備え,前記支持部材を支点に可動障子が室内側に内倒し可能であるのに対して,刊行物1に記載された発明では,そのような構成になっていない点。
上記相違点のうち,まず,相違点6について検討する。
<相違点6について> 可動障子を室内側に内倒し可能に構成すること自体は,従来周知の事項(必要あれば特開平6-313384号公報(本訴甲4),実公平2-47177号公報(本訴甲2。以下「刊行物3」という。)等参照)である。
しかしながら,支持部材が,吊り材の先端に設けられた輪を回動可能に引掛けることのできる環状溝を有する支持部を備えた構成は,刊行物1ないし刊行物3のいずれにも記載されておらず,また,請求人が提出した他の甲各号証及び各参考文献にも記載されていない。かつ,前記構成が,従来周知の事項であるということもできない。
そして,本件発明の発明特定事項が奏する訂正明細書に記載の,「【0036】・・・・。また,支持部材22は,ワイヤ12を回動可能に支持する支持部26を有しているため,可動障子3をピボット25を支点に室内側に倒す場合に,可動障子3を容易に倒すことができる。前記支持部26は,円形に形成され,その外周にワイヤ12の輪16を引掛ける環状溝27を形成してなるため,簡単な構造でワイヤ12を回動可能に支持することができ,また,部品の構造が簡素化され,部品点数が減少し,コストを抑えられる。」の作用効果は,刊行物1ないし刊行物3に記載の技術事項及び従来周知の事項から当業者が予測できる範囲以上のものと認められる。
よって,他の相違点について検討するまでもなく,本件発明は,刊行物1に記載の発明に,刊行物2に記載の発明,刊行物3に記載の発明及び従来周知の事項を適用したとしても,当業者が容易に本件発明の構成を得ることができたものということができないから,本件発明についての特許は,特許法29条2項の規定により,特許を受けることができない発明に対してなされたものではない。
(3) まとめ 本件発明は,特許法29条2項の規定に該当しないから,本件発明に係る特許は,同法123条1項2号の規定に該当せず,無効とすべきものとすることができない。
当事者の主張の要点
1 原告ら主張の審決取消事由(相違点6の判断の誤り) 審決は,本件発明と刊行物1に記載された発明との相違点6について,「支持部材が,吊り材の先端に設けられた輪を回動可能に引掛けることのできる環状溝を有する支持部を備えた構成は,刊行物1ないし刊行物3のいずれにも記載されておらず,また,請求人が提出した他の甲各号証及び各参考文献にも記載されていない。
かつ,前記構成が,従来周知の事項であるということもできない。」,「本件発明の・・・の作用効果は,刊行物1ないし刊行物3に記載の技術事項及び従来周知の事項から当業者が予測できる範囲以上のものと認められる。」と認定し,「よって,他の相違点について検討するまでもなく,本件発明は,刊行物1に記載の発明に,刊行物2に記載の発明,刊行物3に記載の発明及び従来周知の事項を適用したとしても,当業者が容易に本件発明の構成を得ることができたものということができない」と判断した。
(1) 実公昭61-16379号公報(甲13)は,本件発明の「支持部材が,吊り材の先端に設けられた輪を回動可能に引掛けることのできる環状溝を有する支持部」を備えた構成を開示している。
(2) そして,回動したり,揺動したりする物体の支持軸を吊り材で吊る場合に,吊り材の先端に設けた輪を支持軸の環状溝に嵌め込んで輪と支持軸との間を回動可能にすることは,以下のとおり,慣用の手段である。
例えば,特開平6-16381号公報(甲14)では,フック金具5,6が,フランジ61,62間に引っかけ部分64(溝)を有する頭部63を備え,この頭部63の引っかけ部分64にワイヤリング22,32を掛けてチェンブロックで吊り上げる構造となっている。吊り上げた状態のパネルを反転(回動)させるとき,ワイヤリング22,32に対してフック金具5,6が回動するので,パネルの反転が容易に行われる。
また,実開平5-71396号公報(甲15)では,ワイヤ44が,下端部でリング状とされ(図3),ドア本体26の下端部に突出形成された係止ピン48へ係止されている。そして,ワイヤのリング状部分と係止ピン48との係合個所を見ると(図3,図4),係合したリング状部分の両側にフランジ状部材が配置されて溝を形成しているところ,この構造は,オーバースライディングドアのドア本体26が横方向に配置された複数枚のパネル24からなり,オーバースライディングドアの開き作動の最終段階では最下段のパネル24(係止ピン48が取り付けられている)が垂直姿勢から水平姿勢へと係止ピン48を中心に回動するのを許容するためであり,これにより,最下段のパネル24は容易に回動する。
(3) 以上のとおり,甲13ないし15に示されている技術事項が周知あるいは慣用されており,このような技術を採用して上げ下げ窓の支持部を本件発明のように構成することは,その採用に際して解決すべき技術的事項は何もないから,当業者が容易にできることである。
(4) さらに,実公昭61-16379号公報(甲13)に開示された上記(1)の構成によれば,内障子側の支軸16がワイヤーロープ18の輪に対し回動することができるから,内障子を容易に倒すことができ,また,部品の構造が簡素であり,部品点数も少なくて済むという作用効果を奏するところ,本件発明の作用効果は,これ以上のものでなく,このような周知の構成を採用すれば当然に発揮されるものにすぎない。
2 被告の反論 (1) 原告らが援用する甲13ないし15は,引用文献を補う周知技術を表す文献ではなく,むしろ,特許無効の審判において審理判断されず,本件訴訟において初めて提出された公知文献であって,原告らは,特許無効の審判において審理判断されなかった公知事実との対比における特許無効原因を主張するものであるから,主張として許されない。
(2) 仮に原告らの取消事由の主張が許されるとしても,原告らの主張は,以下のとおり,理由がない。
ア 本件発明に係る請求項2には,「該支持部本体の端部に形成されるとともに,前記吊り材の先端に設けられた輪を回動可能に引掛けることのできる環状溝を有する支持部と,」と記載され,ワイヤの端部にあらかじめ形成した輪を支持部材に容易に引掛けて取り付けることができることが構成要件として明確に示されている。ここで「引掛けることのできる」とは,当然に,ワイヤ端部の輪が支持部よりも大きな径を有していることを意味する。
これに対し,実公昭61-16379号公報(甲13)の第8図には,支持部よりも小さな径を有するワイヤ端部の輪が開示されているだけであって,「引掛けることのできる」という構成を欠いているから,実公昭61-16379号公報(甲13)は,「支持部材が,吊り材の先端に設けられた輪を回動可能に引掛けることのできる環状溝を有する支持部」を備えた構成を開示していない。
また,実開平5-71396号公報(甲15)の「係止ピン48が突出され(図3及び図4),係止ピン48には,ワイヤ44の下端部がリング状とされて嵌合係止され,」(段落【0015】)との記載や図3によれば,ワイヤ44の輪は,係止ピン48と略同じ径であり,かつ,「環状溝」を備えていないから,実開平5-71396号公報(甲15)も,本件発明の「支持部材が,吊り材の先端に設けられた輪を回動可能に引掛けることのできる環状溝を有する支持部」を備えた構成とは異なる。
イ 特開平6-16381号公報(甲14)は,1つの公知文献にすぎないから,これのみをもって,本件発明の構成要素である支持部材が慣用の手段であるということはできない。しかも,特開平6-16381号公報(甲14)には,「本発明は,積み上げられているALCパネル等のパネルを,簡単な作業により台車等に裏返して移載することにできる方法に関するものである。」(段落【0001】)との記載があり,本件発明とは属する技術分野が異なっているのであるから,これを適用すべき動機づけがない。
仮に上記手段が慣用の手段であり,かつ,本件発明の属する技術分野に適用することができるとしても,特開平6-16381号公報(甲14)の「ALCパネルを人力を用いることなく引上げ,引き上げた状態で,ALCパネルをフック金具を中心として反転させ,」(段落【0005】),「ALCパネルを台車等に移載した後は,フック金具をALCパネルから取り外す。」(段落【0006】)との記載によれば,ALCパネルは,鋼製ワイヤリング22,32との関係で反転が可能であり,かつ,取外しも容易であるから,吊り下げられた状態においてフック金具5,6の2点でしか支えられておらず,反転可能とされるとともに左右に揺動可能とされている。そして,環状である鋼製ワイヤリング22,32の径は,フック金具5,6のフランジ61,62に対して大幅に大きくされ,鋼製ワイヤリング22,32がフック金具5,6から取り外しやすくされていて,取付けと取外しの一連の動作が繰り返し行われる。これに対し,本件発明は,支持部材22にワイヤ12を取り付け容易とされているが,ワイヤ12は,一度取り付けると,支持部材22に安定して係止され,輪16も支持部材に取り付けるために必要な大きさ以上の径とはされていないから,本件発明の支持部材22とワイヤ12とについて,甲14の技術的思想である取外しも容易な構成を適用すれば,ワイヤ12は支持部材22から容易に離脱してしまい,本件発明は成り立たないことになる。
したがって,本件発明と特開平6-16381号公報(甲14)に記載された発明とでは,技術的思想が異なり,互いに異なる構成を備えているから,特開平6-16381号公報(甲14)の構成を上げ下げ窓に適用しても,本件発明にはならない。
ウ さらに,実公昭61-16469号公報(甲13)は,「引掛けることのできる」という構成を欠いているから,本件発明の「ワイヤ12の端部を支持部材22に容易に引掛けられることにより組み立て容易となり,その結果作業コストを含めコストを抑えることができる。」という作用効果を奏しない。
当裁判所の判断
1 実公昭61-16469号公報(甲13)には,「内障子戸枠14の縦框15の下端部に支軸16が固定され,その支軸16に回転自在に嵌設された下部ガイドローラ17は,前記縦枠12における室内側の縦溝に嵌設され,かつ前記支軸16に一端部が連結されているバランス用ワイヤロープ18・・・の他端部は外障子戸枠9の上部に連結され,内障子戸13を昇降移動すると,これに連動して外障子戸21が自動的に昇降移動されるように構成されている。」(1欄26行ないし2欄10行)との記載があり,第5図及び第8図には,支軸16の断面が円形であること,ワイヤロープ18の他端部に形成された輪を支軸16の環状溝に連結することが示されている。これらによると,実公昭61-16469号公報(甲13)には,「支持部材が,吊り材の先端に設けられた輪を回動可能に引掛けることのできる環状溝を有する支持部」を備えた構成が開示されていると認められる。
また,特開平6-16381号公報(甲14)には,「フック金具6の頭部63は,一対のフランジ61,62の間が脚部と同径の円柱部分64によって連結されている。この円柱部分64が,上記のチェイン・ブロックの側のワイヤリング32の引っかけ位置となっている。」(段落【0013】)との記載があり,実開平5-71396号公報(甲15)には,「係止ピン48には,ワイヤ44の下端部がリング状とされて嵌合係止され」(段落【0015】)との記載がある。これらによると,特開平6-16381号公報(甲14)や実開平5-71396号公報(甲15)には,「回動したり,揺動したりする物体の支持軸を吊り材で吊る場合に,吊り材の先端に設けた輪を支持軸ないしは支持軸の環状溝に嵌め込んで輪と支持軸との間を回動可能とすること」が記載されていると認められる。
実公昭61-16469号公報(甲13)に記載された技術は内障子戸に,特開平6-16381号公報(甲14)に記載された技術はパネルに,実開平5-71396号公報(甲15)に記載された技術はオーバースライディングドアにそれぞれ適用されるものであって,対象となる物品を異にするが,物品の吊り下げ技術である点では共通するから,上記各公報の記載からすると,吊り材の先端の輪を,支持部(支持軸ないしは支持軸の環状溝)に引掛けて,被吊持物品を回動ないし揺動させるようにすることは,本件出願前において,周知の慣用手段であると認められる。
2 しかし,本件発明の支持部材は,「支持部本体と,該支持部本体の端部に形成されるとともに,前記吊り材の先端に設けられた輪を回動可能に引掛けることのできる環状溝を有する支持部と,該支持部と同一又はそれ以上の径を有するとともに,前記縦溝内に収まる規制部と,を備え,前記支持部材を支点に可動障子が室内側に内倒し可能である」というものであって,単に,吊り材の先端の輪を支持部に引掛けて,可動障子を回動ないしは揺動させるようにしたものにとどまらず,@「該支持部と同一又はそれ以上の径を有するとともに,前記縦溝内に収まる規制部」を備え,かつ,A「前記支持部材を支点に可動障子が室内側に内倒し可能である」ようにされていることを構成上の特徴とするのである。
そして,本件発明と引用発明との相違点6は,第2の3(2)に記載のとおりであるから,上記1のとおり,吊り材の先端の輪を支持部に引掛けて,被吊持物品を回動ないしは揺動させることが周知の慣用手段であるとしても,この周知の慣用手段は,上記@,Aの構成上の特徴点を示唆するものではない。
そうであれば,相違点6に係る構成は,当該周知の慣用手段に基づいて,当業者が容易に想到することができるということはできない。
3 もっとも,審決は,「支持部材が,吊り材の先端に設けられた輪を回動可能に引掛けることのできる環状溝を有する支持部を備えた構成は,・・・従来周知の事項であるということもできない。」と認定して,「本件発明は,刊行物1に記載の発明に,刊行物2に記載の発明,刊行物3に記載の発明及び従来周知の事項を適用したとしても,当業者が容易に本件発明の構成を得ることができたものということができない」と判断しているのであって,相違点6のうち,上記@,Aの構成上の特徴点に係る構成については,当業者が容易にこれを得ることができたかどうかについて明示していない。
しかし,審決は,本件発明の作用効果として,「支持部材22は,ワイヤ12を回動可能に支持する支持部26を有しているため,可動障子3をピボット25を支点に室内側に倒す場合に,可動障子3を容易に倒すことができる。前記支持部26は,円形に形成され,その外周にワイヤ12の輪16を引掛ける環状溝27を形成してなるため,簡単な構造でワイヤ12を回動可能に支持することができ,また,部品の構造が簡素化され,部品点数が減少し,コストを抑えられる。」(段落【0036】)と認定しているところ,「支持部材22は,ワイヤ12を回動可能に支持する支持部26を有しているため,可動障子3をピボット25を支点に室内側に倒す場合に,可動障子3を容易に倒すことができる。」という作用効果は,本件明細書に,「前記支持部材22は,吊り材であるワイヤ12を回動可能に支持する支持部26を有している。この支持部26は,前記ピボット25の端部に円形に形成されており,その外周にワイヤ12の輪16を回動可能に引掛けるための環状溝27を有している。このワイヤ12を回動可能に支持する構造は,特に後述するシングルハング式の上げ下げ窓における可動障子(内障子)3をピボット25を支点に室内側に倒す場合に役立つようになっている。」(段落【0021】),「ピボット25の基部側は略上半分が切除されており,その上面にピボットバー24が載置されて下方からネジ28で固定されている。ピボットバー24の先端は,円形の支持部26に形成した嵌入溝29に嵌入されて一体的に固定されている。前記ピボット25の基部側略下半分は,前記支持部26と同じか若干大きい径の規制部30として形成されており,図2に示すように,この規制部30が縦枠1cの縦溝19の開口部19aに収まることにより可動障子2,3の室内外方向の動き(振れ)を規制(抑制)するようになっている。」(段落【0022】)と記載されているように,上記@,Aの構成上の特徴点に係る構成を必須とする。
そうすると,審決は,本件発明の支持部材が上記@,Aの構成上の特徴点に係る構成を備えていることを前提にして,「本件発明は,刊行物1に記載の発明に,刊行物2に記載の発明,刊行物3に記載の発明及び従来周知の事項を適用したとしても,当業者が容易に本件発明の構成を得ることができたものということができない」と判断したものと解することができる。
4 そうであれば,上記2のとおり,相違点6に係る構成は,吊り材の先端の輪を支持部に引掛けて,被吊持物品を回動ないしは揺動させるという周知の慣用手段に基づいて,当業者が容易に想到することができないから,これと同旨の審決に誤りはなく,原告ら主張の審決取消原因は,理由がないといわざるを得ない。
結論
以上のとおり,原告ら主張の審決取消事由は理由がないから,原告らの請求は棄却されるべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 野輝久
裁判官 佐藤達文