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関連審決 無効2001-35542
関連ワード 技術的思想 /  創作性(創作) /  進歩性(29条2項) /  同一技術分野(同一の技術分野) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  周知技術 /  技術的手段 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  発明が明確 /  容易に想到(容易想到性) /  特許発明 /  実施 /  加工 /  設定登録 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 14年 (行ケ) 447号 審決取消請求事件
原告A
訴訟代理人弁護士 安倉孝弘
同 弁理士 片田欽也
被告 有限会社小田食品
訴訟代理人弁護士 生沼寿彦
同 井垣太介
同 弁理士 鎌田文二
同 鳥居和久
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/10/06
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2001-35542号事件について平成14年7月22日にした審決を取り消す。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,名称を「自動食品焼成装置」とする特許第1670589号発明(昭和61年12月15日特許出願,平成4年6月12日設定登録,以下,この特許を「本件特許」という。)の特許権者である。
被告は,平成13年12月13日,本件特許を無効にすることについて審判の請求をした。
特許庁は,同請求を無効2001-35542号事件として審理した上,平成14年7月22日,「特許第1670589号の特許請求の範囲第1項ないし第6項に記載された発明についての特許を無効とする。」との審決をし,その謄本は,同年8月2日,原告に送達された。
2 特許請求の範囲第1項記載の発明(以下「本件発明」という。)の要旨 加熱されかつ加熱圧搾時に互いに嵌合される雄型と雌型とからなる加熱プレス型と,粉末状原料を定量宛供給する原料供給装置と,焼成された板状製品を雌型内から取り出す製品取出装置とを備え,原料の供給から製品の取り出しまでを順次自動的に行う自動食品焼成装置において,雌型が前後方向に位置決め可能に設けられ,雄型が上下動可能に設けられ,製品取出装置が上下動可能に設けられた吸着パットを備え,原料供給装置,雄型及び製品取出装置が雌型の移動通路と対向して前後方向に配置されていると共に,雌型の位置決め動作と関連して順次作動するように制御されていることを特徴とする自動食品焼成装置。
3 審決の理由 審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本件発明は,実公昭57-31746号公報(本訴甲2,審判甲2,以下「甲2公報」という。),実公昭57-32707号公報(本訴甲3,審判甲3,以下「甲3公報」という。)及び特開昭58-170434号公報(本訴甲4,審判甲4,以下「甲4公報」という。)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができず,特許請求の範囲第1項ないし第6項に記載された発明についての本件特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものであり,特許法123条1項2号の規定により無効とすべきものであるとした。
原告主張の審決取消事由
審決の本件発明と甲2公報記載の発明(以下「甲2発明」という。)との一致点の認定は認めるが,審決は,本件発明と甲2発明との相違点@の認定を誤り(取消事由1),相違点@,A以外の相違点を看過し(取消事由2),相違点@についての判断を誤り(取消事由3),相違点Aについての認定判断を誤り(取消事由4),本件発明の顕著な作用効果を看過した(取消事由5)ものであるから,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(相違点@の認定の誤り) 審決は,本件発明と甲2発明との相違点@として,「前者(注,本件発明)の『自動食品焼成装置』は,『粉末状原料を定量宛供給する原料供給装置』を備え,原料の供給を自動的に行うのに対し,後者の『いかせんべい製造機』は,甲第2号証(注,甲2公報)・・・に,『無人運転を可能にしようとするもの』とあることから,原料の自動供給を行なうものと推測されるものの,甲第2号証は,『原料供給装置』についての記載に欠けるので,後者が『原料供給装置』を備えているか否か不明な点」(審決謄本5頁第2段落)を認定した。しかし,上記認定のうち,「後者の『いかせんべい製造機』は・・・原料の自動供給を行なうものと推測される」との部分は誤りである。
甲2公報の「無人運転を可能にしようとするもの」(1欄下から第2段落)との記載は,「省力化を目的に製品を自動取出しして,無人運転を可能にしようとするものである」(同)との記載の一部であり,同記載及び「製品の取出しを自動化して,いかせんべい製造機の無人運転を可能」(2欄第5段落)との記載に照らし,「無人運転を可能にしようとするもの」は,製品の取出しの自動化によることであり,原料の供給の自動化をも含むことによるものではないことは明らかである。甲2公報において,原料の供給に関する記載は,「雌金型に材科を供給し,連続して昇降する雄金型の下降時に加圧焼成する」(1欄「実用新案登録請求の範囲」)との記載及び「雌金型1内に供給された前記原料を,上下動する雄金型2により圧搾焼成」(2欄第1段落)との記載のみであり,原料供給装置を具備していること又は原料の供給を自動的に行うことについては,何ら記載がない。
2 取消事由2(相違点の看過) 審決は,本件発明と甲2発明との相違点Aとして,「前者(注,本件発明)の『自動食品焼成装置』は,『雌型が前後方向に位置決め可能に設けられ,雄型が上下動可能に設けられ,製品取出装置が上下動可能に設けられた吸着パットを備え,原料供給装置,雄型及び製品取出装置が雌型の移動通路と対向して前後方向に配置されていると共に,雌型の位置決め動作と関連して順次作動するように制御されている』のに対し,後者の『いかせんべい製造機』は,製品取出装置の構造が異なるとともに,雌型が前後方向に位置固定であり,雄型及び製品取出装置は雌型の移動通路と対向して前後方向に配置されているものではなく,雌型の位置決め動作と関連して順次作動するように制御されているものでもない点」(審決謄本5頁第3段落)を認定した。しかし,本件発明と甲2発明との相違点は,上記認定の「後者の『いかせんべい製造機』は,製品取出装置の構造が異なるとともに,雌型が前後方向に位置固定であり,雄型及び製品取出装置は雌型の移動通路と対向して前後方向に配置されているものではなく,雌型の位置決め動作と関連して順次作動するように制御されているものでもない点」のみではなく,さらに,下記(1)〜(5)の点でも相違しているのに,審決は,これらの相違点を看過したものであり,誤りである。
(1) 甲2発明の製品取出装置は,「引掛針」が斜めに昇降するようになっており,本件発明の吸着パットのように上下動するものではないから,本件発明と甲2発明とは,製品取出装置の構造のみではなく,「引掛針」の動作形態の点でも相違している。
(2) 甲2発明の雌型は,前後方向に位置固定であるというよりも,単に固定設置されているにすぎないから,本件発明と甲2発明とは,雌型が前後方向に位置決め可能に設けられたものではない点,すなわち,前方及び後方に移動可能に設けられたものではなく,しかも,所定位置に移動停止するように制御されたものではない点においても相違している。
(3) 甲2発明の「雄型及び製品取出装置は雌型の移動通路と対向して前後方向に配置されているものではな」いが,甲2発明は,原料供給装置についても,雌型の移動通路と対向して前後方向に配置されているものではない点において相違している。
(4) 甲2発明は,「雌型の位置決め動作と関連して順次作動するように制御されているものでもない」が,本件発明とは,原料供給装置についても,雌型の移動通路と対向して前後方向に配置されているものではない点において相違している。
(5) 甲2発明の「いかせんべい製造機」は,製品の焼成から取出しまでを順次自動的に行う自動食品焼成装置であり,本件発明とは,原料の供給から製品の焼成及び製品の取出しまでを順次自動的に行う自動食品焼成装置ではない点においても相違している。
3 取消事由3(相違点@についての判断の誤り) (1) 審決は,相違点@について,「いかせんべい製造機等の食品焼成装置において,自動的に粉末状原料を定量宛供給する原料供給装置を備えたものは,例えば,特開昭58-89137号公報(注,本訴甲5,以下「甲5公報」という。),特公昭58-854号公報(注,本訴甲6,以下「甲6公報」という。)等に示すように周知であるので,『原料供給装置』により粉末原料を供給するよう構成することは,当業者が適宜なし得たことにすぎない」(審決謄本5頁第4段落)と判断したが,誤りである。
(2) 甲5,6公報に,「自動的に粉末状原料を定量宛供給する原料供給装量」を備えた食品焼成装置が記載されていることは認めるが,甲5,6公報記載の食品焼成装置は,いずれも焼成された製品を雌型から円滑に取り出すために,雌型の底部を昇降可能な構造としたものであり,甲2発明のいかせんべい製造機とは雌型の構造・形態が著しく異なる異質の食品焼成装置である。そして,甲5,6公報記載の食品製造装置は,その原料供給装置が雌型の底部の昇降動作と関連して原料供給するとともに,雌型から製品を自動的に取り出すようになっており,雌型の構造・形態と一体不可分であるから,甲2発明のいかせんべい製造機等の食品焼成装置において「自動的に粉末状原料を定量宛供給する原料供給装置」を備えたものが周知であると認定する根拠にはなり得ず,当業者が,甲2発明のいかせんべい製造機に,甲5,6公報記載の食品焼成装置における原料供給装置を適用することは困難である。また,甲2発明のいかせんべい製造機について,甲5,6公報記載の原料供給装置を適用し,連続して昇降する雄型及び雄型に同期して斜めに昇降する製品取出部材である引掛針の各動作と関連して原料供給装置を水平に往復作動させるようにすることも困難である。
4 取消事由4(相違点Aについての認定判断の誤り) (1) 審決は,「甲第4号証(注,甲4公報)には,落雁製造装置において,間歇回転台2を用いて,雌型3が間歇的に移動するように構成し,雌型3が,順次,材料供給装置4,同雌型3内の収容材料掻回機5,同収容材料中央凹部成形機6,餡供給用空間7,上記型3内の包餡材料圧下スタンプ8および成形落雁吸引取卸機9等の所に移動停止すると,自動的に材料供給,包餡材料圧下,吸引取出等が行われ,成型加工した包餡落雁が取り出せるようにしたものが開示されている」(審決謄本5頁下から第2段落)と認定した。しかし,甲4公報記載の落雁製造装置の雌型は,間けつ的に回動するようになっており,単に間けつ的に移動するようになっているものではない。また,甲4公報記載の落雁製造装置において,材料供給と包餡材料圧下とは,連続して行われるものではなく,まして技術的に直接関連するものでもない。
(2) 審決は,「甲第4号証(注,甲4公報)記載の落雁製造装置の雌型は,間歇駆動されて,材料供給装置等の所に位置決め停止されるものであるから,本件特許発明(注,本件発明)の『雌型』と対応し,包餡材料圧下スタンプ8は昇降自在であって,雌型とともに製品である落雁の押圧成型を行うものであるから『雄型』と対応し,成形落雁吸引取卸機9は,昇降自在な吸盤21を備え,製品である落雁を雌型から吸着して取出すものであるから,『上下動可能に設けられた吸着パッドを備え』た『製品取出装置』と対応している。また,甲第4号証(注,甲4公報)記載の材料供給装置等は,雌型の移動通路と対向して,雌型の移動方向について前後方向に配置されているとともに,雌型の位置決め停止動作と関連して順次作動するようになっている」(審決謄本5頁最終段落〜6頁第1段落)と認定したが,誤りである。
甲4公報記載の落雁製造装置の雌型及び「包餡材料圧下スタンプ」が本件発明の雌型及び雄型にそれぞれ対応するか否かは,前者の雌型と「包餡材料圧下スタンプ」の機能構造及び関連をも考慮して総合的に判断されるべきであるところ,甲4公報記載のものは,@雌型に収容される原料は,前工程において成形された「包餡落雁」の外皮,「丸め餡」及び「被せ材料」であり,本件発明のように粉末状原料ではない点,A押圧成形は,「包餡落雁」の外皮があらかじめ所定の形状に成形されていることから,外皮をも成形するものではなく,「丸め餡」及び「被せ材料」を押庄し,外皮に一体化させて「包餡落雁」を成形するものであり,本件発明のように雌型内の原料を押圧して一度に製品を成形するものではない点,B「包餡材料圧下スタンプ」の押圧作用は,雌型内の「丸め餡」及び「被せ材料」を押圧し,外皮に一体化させることであり,また「包餡落雁」の底面を平面に形成すること,すなわち,「丸め餡」及び「被せ材料」を原料とし,「丸め餡」及び「被せ材料」を外皮に押込み,「被せ材料」の表面を平面に形成することであり,本件発明の雄型のように原料を押圧して雌型内に押し広げるものではない点,C「包餡材料圧下スタンプ」の構造は,甲4公報の第7図に示されるように,雌型の上端縁まで下降するが,雌型と「嵌合」するようになっておらず,雌型の構造は,甲4公報1頁右欄の記載及び同第7図に示されるように,「丸い饅頭形」であり,外皮を押型との協働により雌型の内面形状,すなわち,「丸い饅頭形」に形成するようになっていることから,「包餡材料圧下スタンプ」と「嵌合」するようになっていない点,において相違する。したがって,甲4公報記載の落雁製造装置の雌型及び「包餡材料圧下スタンプ」は,協働して包餡落雁を押圧成形するものであるが,本件発明の雌型及び雄型とは構造及び機能が全く相違する異質の技術的手段であり,対応するものではない。
また,甲4公報記載の雌型の移動方向は1方向であり,材料供給装置等は,雌型の移動方向に沿って順に配置されているにすぎず,前後方向に配置されているとはいえない。仮に,材料供給装置等が雌型の移動方向について前後方向に配置されているとしても,本件発明における前後方向とは,技術的概念が相違する。
本件発明においては,雌型が前後方向に位置決め可能に設けられ,雌型が前方及び後方の2方向に移動可能であり,移動行程の所定位置に停止可能になっている。
(3) 審決は,「甲第4号証(注,甲4公報)記載の落雁製造装置は,本件特許発明(注,本件発明)と同様に,菓子等の食品製造装置の技術分野に属するものであって,雌型に材料を供給し,押圧を伴った成型を行い,成型された食品を取り出す手段を備えた食品製造装置に係るものであるから,甲第4号証記載のものを,甲第3号証(注,甲第2号証の誤記と認める。)記載のいかせんべい製造機に適用し,相違点Aに係る本件特許発明の構成のようにしようとすることは,当業者が容易に想到し得たことである」(審決謄本6頁第2段落)としたが,誤りである。甲4公報記載の落雁製造装置と本件発明の自動食品焼成装置は,原料の性状,製品の性状及び製法が全く異なる異質の食品製造装置であり,同一の技術分野に属しない。原料については,前者は,いり粉,砂糖及び水飴等からなる硬い粘性状材料及び「丸め餡」であり,後者は,粉末状材料である。製品については,前者は,薄皮に「餡」を包み込んだまんじゅうであり,後者は,焼成された板状体である。製法については,前者は,原料を常温で押圧してまんじゅう形に成形するようになっており,後者は,原料を加熱しながら圧搾して成形するようになっている。
また,菓子には,和菓子,洋菓子,中華菓子等の種々があり,和菓子には,もち菓子,蒸し菓子,干菓子,生菓子,焼物菓子,煎餅等の種々がある。これらの菓子は,それぞれ製法が異なり,この製法の違いにより固有の性質,性状,構造,味等が異なることから,それぞれ固有のものとして取り扱われている。さらに,食品材料に熱を加えることにより,食品の性質,性状,構造,味等が異なり,熱の加え方によっても異なることが知られている。
したがって,甲4公報記載の落雁製造装置と本件発明の自動食品焼成装置は,菓子等の食品製造装置の技術分野に属するが,原料の性状,製品の性状及び製法が全く異なる異質な食品製造装置であり,同一の技術分野に属するものとはいえない。
また,甲4公報記載の落雁製造装置は,雌型に材料を供給する手段が押圧を伴った成形を行う手段とは何ら技術的に関連しないから,雌型に材料を供給し,押圧を伴った成形を行い,成形された食品を取り出す手段を備えた食品製造装置に係るものではない。
(4) 審決は,「位置決め精度は設計上の問題であって,雌型を移動可能としようとすることを,機構上不可能あるいはきわめて困難とするような阻害要因であるとまでは言えない」(審決謄本6頁第3段落),「特許請求の範囲第1項(注,本件特許に係る特許請求の範囲第1項)は,『雌型が前後方向に位置決め可能に設けられ』ていることを提案するにとどまり,雌型の位置決め精度を満足させるための格別な構成をその要旨に含むものとは認められない」(同頁下から第2段落)としたが,事実誤認及び予断に基づく評価であり,失当である。
(5) 審決は,「吸引取卸器により,板状の製品を型から取り出せるであろうことは,甲第4号証の記載に接した当業者が容易に予測し得た程度の事項であると認められるとともに,本件特許発明は,いかせんべいを吸引把持するための,格別の構成をその要件として含むものでもない」(審決謄本6頁最終段落〜7頁第1段落)としたが,事実誤認及び予断に基づく評価であり,失当である。吸着パットは,被吸着物の吸着面が平面で,通気性がないことが要求され,「包餡落雁」は適合しているが,本件発明の板状焼成食品は,一般に表面が凹凸状で,多孔質構造で通気性があることから,吸着パットの適用条件には適合しない。そのため,板状焼成食品の取り出しに吸着パットを採用することは困難である。また,板状焼成食品の製造技術分野において,本件発明の出願時に吸着パットにより製品を取り出すことを試みることがあったとしても,それを実施可能な程度まで完成させた例は見当たらない。本件発明は,吸着パットの吸引力,雌型内の製品への押し付け力,吸着パットの吸着部の形状・構造等について,長年にわたり数々の工夫を積み重ね,吸着パットを備えた製品取出装置を実施可能なものとして完成し,創作されたものである。加えて,甲4公報記載のものと本件発明のものとでは,製品取出位置が異なり,甲4公報には,本件発明のように製品取出位置を下方の所定の位置に設定することについて開示されておらず,甲2発明においては,下方に設定されているとしても所定の位置ではないから,両者の組合せには阻害要因がある。
(6) 以上のとおり,審決の相違点Aについての認定判断は,前提に事実誤認及び評価の誤りがあるから,誤りである。
5 取消事由5(本件発明の顕著な作用効果の看過) 審決は,「本件特許発明(注,本件発明)の効果は,甲第2号証ないし甲第4号証(注,甲2〜4公報)に記載された事項に基いて当業者が予測し得た程度の事項にすぎない」(審決謄本7頁第2段落)としたが,事実誤認及び予断に基づく評価であり,失当である。
本件特許に係る明細書(甲10,以下「本件明細書」という。)の発明の詳細な説明の「発明の効果」(第20欄最終段落〜第21欄第1段落)記載のように,本件発明は,@原料供給装置が雌型の移動通路と対向して配置されていることにより,原料を雌型の直上から雌型の中心部を中心として適切に供給し得るため,従来のように形が不安定になったり,厚みが不均一になることがなく,所定形状で均一な厚みの製品を焼成し得る,A製品取出装置が雌型の移動通路と対向して配置され,しかも吸着パットを備えているため,従来のように製品を破損することがなく,良好に取り出し得る,B取り出された製品は,吸着パットが下降した後に吸着が解除され,製品取出位置の直上から落下載置されるため,従来のようにしわや折れ曲がり等を生ずることがなく,しかも一定の向きに載置され,向きをそろえる手数を省略し得る,C雌型が前後方向に位置決め可能に設けられ,原料供給装置,雄型及び製品取出装置が雌型と対向して前後方向に配置されていることから,雄型の上限をその下面がわずかな間隙をもって雌型の上端面より上方に位置するように設定し得,雄型と雌型の対向空間には,従来のように原料供給と製品取出しの各操作を行う空間を設ける必要がなく,雄型の上限位置を任意に設定し得,その結果,雄型の作動ストロークを短くする場合には,加熱圧搾作動の高速化及び雄型の駆動装置の小型化等を図り得,前記間隙を板状製品の厚さ以下に設定する場合には,成形後に板状製品が雄型に焼き付いたとしても雌型の移動により剥離されて雌型内に落下し,製品取出装置で取り出されるため,二度焼成を防止し得る,という顕著な効果を奏するものである。
被告の反論
審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
1 取消事由1(相違点@の認定の誤り)について 審決は,甲2発明のいかせんべい製造機は,「無人運転を可能にしようとするもの」とあることから,原料の自動供給を行なうものと推測されるものの,甲2公報には「原料供給装置」についての記載に欠けるので,「原料供給装置」を備えているか否か不明であると認定したものであり,甲2公報に,原料の供給を自動的に行うことについて記載されていると認定したものではない。
2 取消事由2(相違点の看過)について 原告は,その主張に係る相違点(1)〜(5)について,審決が看過していると主張するが,原告主張に係る相違点(1)は,「製品取出装置の構造が異なる」との認定に含まれている。同(2)について,原告の主張する「位置固定」と「固定設置」とを区別する理由はない。同(3)〜(5)は,「原料供給装置」の有無に基づく相違であり,審決は,相違点@において,甲2発明が「原料供給装置」を備えているか否か不明であるとし,その相違点を正しく認定している。したがって,審決の相違点Aの認定に何ら誤りはない。
3 取消事由3(相違点@についての判断の誤り)について 本件発明においては,「原料供給装置」について,「粉末原料を定量宛供給する原料供給装置」とだけ特定しており,雌型や,製品取出装置との関係で,その構造を特定しているわけではない。また,本件発明は,単に,自動食品焼成装置と特定するだけであり,いかせんべい製造機を特定しているものでもない。したがって,「自動的に粉末原料を定量宛供給する原料供給装置」を備えた食品焼成装置が記載された甲5,6公報をもって,「粉末原料を定量宛供給する原料供給装置」を周知技術の例示とした審決に,何ら誤りはない。
4 取消事由4(相違点Aについての認定判断の誤り)について 甲4公報記載の雌型と「包餡材料圧下スタンプ」は,協働して「包餡落雁」を押圧成形するものであり,雌型が供給された原料を収容し,「包餡材料圧下スタンプ」が雌型内の原料を押圧するものである点において,本件発明の雌型及び雄型にそれぞれ対応している。また,甲4公報記載の雌型の移動方向も,本件発明における雌型の移動方向も実質的には全く同一である。本件発明は,雌型の移動方向に関し,「雌型が前後方向に位置決め可能に設けられ・・・原料供給装置,雄型及び製品取出装置が雌型の移動通路と対向して前後方向に配置されている」と特定しているから,雌型は,原料供給装置の位置,雄型の位置,製品取出装置の位置に順次移動し,原料供給装置の位置に戻ることになる。すなわち,雌型が原料供給装置の位置に移動して,原料の供給を受け,次に,雄型の位置に移動して製品の成形が行われ,その後,雌型が製品取出装置の位置に移動して,製品の取出しが行われ,更にその後,再び,雌型が原料供給装置の位置に戻って,雌型内に原料の供給がなされるということが繰り返される。本件発明は,原料供給装置の位置,雄型の位置,製品取出装置の位置に順次移動し,原料供給装置の位置に戻る雌型の繰り返し動作を行うために,雌型が前後方向に位置決め可能とし,原料供給装置,雄型及び製品取出装置が雌型の移動通路と対向して前後方向に配置されているものである。甲4公報のものにおいても,雌型が,「間歇回転台2」により,順次,材料供給位置,成形位置,製品吸引取出位置に移動し,再び,材料供給位置に戻るように移動するものであるから,材料供給位置,成形位置,製品吸引取出位置に移動し,再び,材料供給位置に戻るということが繰り返されるという技術的観点からすると,雌型の移動方向は,本件発明も甲4公報記載のものも同一であり,雌型が回転するかどうかとは無関係である。したがって,審決が,甲4公報記載の材料供給装置等は,雌型の移動通路と対向して,雌型の移動方向について前後方向に配置されているとともに,雌型の位置決め停止動作と関連して順次作動するようになっているとした点に,何ら誤りはない。
5 取消事由5(本件発明の顕著な作用効果の看過)について 原告が主張する本件発明の効果は,いずれも本件発明の特定事項に基づかない主張であり,失当である。
当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点@の認定の誤り)について 原告は,審決の相違点@の認定のうち,「後者(注,甲2発明)の『いかせんべい製造機』は・・・原料の自動供給を行なうものと推測される」(審決謄本5頁第2段落)との部分は誤りであると主張する。しかしながら,審決は,甲2発明のいかせんべい製造機は,「無人運転を可能にしようとするもの」とあることから,原料の自動供給を行なうものと推測されるものの,甲2公報には「原料供給装置」についての記載に欠けるので,「原料供給装置」を備えているか否か不明であると認定したものであって,甲2公報に原料の供給を自動的に行うことについて記載されていると認定したものではなく,「原料供給装置」を備えているか否か不明である点を,上記のとおり相違点として認定しているのであるから,審決の相違点@の認定に誤りはない。原告の取消事由1の主張は,審決を正解しないものであり,失当である。
2 取消事由2(相違点の看過)について 原告は,その主張に係る相違点,すなわち,(1)甲2発明の製品取出装置は,「引掛針」が斜めに昇降するようになっており,本件発明の吸着パットのように上下動するものではないから,本件発明と甲2発明とは,製品取出装置の構造のみではなく,「引掛針」の動作形態の点でも相違している点,(2)甲2発明の雌型は,前後方向に位置固定であるというよりも,単に固定設置されているにすぎないから,本件発明と甲2発明とは,雌型が前後方向に位置決め可能に設けられたものではない点,すなわち,前方及び後方に移動可能に設けられたものではなく,しかも,所定位置に移動停止するように制御されたものではない点においても相違している点,(3)甲2発明の「雄型及び製品取出装置は雌型の移動通路と対向して前後方向に配置されているものではな」いが,甲2発明は,原料供給装置についても,雌型の移動通路と対向して前後方向に配置されているものではない点においても相違している点,(4)甲2発明の「雌型の位置決め動作と関連して順次作動するように制御されているものでもない」が,甲2発明は,本件発明とは,原料供給装置についても雌型の移動通路と対向して前後方向に配置されているものではない点においても相違している点,(5)甲2発明の「いかせんべい製造機」は,製品の焼成から取出しまでを順次自動的に行う自動食品焼成装置であり,本件発明とは,原料の供給から製品の焼成及び製品の取出しまでを順次自動的に行う自動食品焼成装置ではない点においても相違している点について,審決が看過していると主張する。
しかしながら,上記(1)の点は,審決が相違点Aとして認定した「製品取出装置の構造が異なる」点に含まれ,上記(2)の点は,審決が同じく認定した「雌型が前後方向に位置固定」である点に含まれることが明らかである。また,上記(3)〜(5)の点は,「原料供給装置」の有無に基づく相違点であり,同相違点について,審決が相違点iとして認定していることは,上記のとおりである。
したがって,原告主張に係る相違点(1)〜(5)の看過をいう原告の取消事由2の主張は理由がない。
3 取消事由3(相違点@についての判断の誤り)について 原告は,(1)甲5,6公報記載の食品製造装置は,その原料供給装置が雌型の底部の昇降動作と関連して原料供給するとともに,雌型から製品を自動的に取り出すようになっており,雌型の構造・形態と一体不可分であるから,甲2発明のいかせんべい製造機等の食品焼成装置において「自動的に粉末状原料を定量宛供給する原料供給装置」を備えたものが周知であると認定する根拠にはなり得ず,甲2発明のいかせんべい製造機に,甲5,6公報記載の食品焼成装置における原料供給装置を適用することは困難であること,(2)甲2発明のいかせんべい製造機について,甲5,6公報記載の原料供給装置を適用し,連続して昇降する雄型及び雄型に同期して斜めに昇降する製品取出部材である引掛針の各動作と関連して原料供給装置を水平に往復作動させるようにすることは困難であることを理由に,「いかせんべい製造機等の食品焼成装置において,自動的に粉末状原料を定量宛供給する原料供給装置を備えたものは,例えば,特開昭58-89137号公報(注,甲5公報),特公昭58-854号公報(注,甲6公報)等に示すように周知であるので,『原料供給装置』により粉末原料を供給するよう構成することは,当業者が適宜なし得たことにすぎない」(審決謄本5頁第4段落)とした審決の判断は誤りであると主張する。
しかしながら,自動的に原料供給を行う装置は,作動される雄・雌型と同期した構成が必要であることは当然であり,同期のために,雄・雌型の動作と一体不可分な具体的構成を必要とすることも,技術常識に属し,当業者が容易に想到し得ることであるから,原告の上記(1)の主張は採用することができない。また,審決が,甲2発明のいかせんべい製造機等の食品焼成装置において,「『原料供給装置』により粉末原料を供給するよう構成することは,当業者が適宜なし得たことにすぎない」と説示した趣旨は,甲2発明が,本件発明との一致点として認定した「加熱されかつ加熱圧搾時に互いに嵌合される雄型と雌型とからなる加熱プレス型と,焼成された板状製品を雌型内から取り出す製品取出装置とを備え,製品の焼成から製品の取り出しまでを順次自動的に行う自動食品焼成装置において,雄型が上下動可能に設けられ,雄型及び製品取出装置が順次作動するように制御されていることを特徴とする自動食品焼成装置」(本件発明と甲2発明とが上記の点において一致することは,原告の自認するところである。)であることを前提に,このような構成を有する自動食品焼成装置について,「『原料供給装置』により粉末原料を供給するよう構成することは,当業者が適宜なし得たことにすぎない」と判断したものであり,甲2発明の「連続して昇降する雄型及び雄型に同期して斜めに昇降する製品取出部材である引掛針」を有するとの具体的な構成を前提として,上記の判断をしたものではないことは,その説示から明らかである。したがって,原告の上記(2)の主張は,審決の認定した甲2発明に基づかない主張であり,失当である。
以上のとおり,相違点@についての審決の判断に原告主張の誤りはなく,原告の取消事由3の主張は理由がない。
4 取消事由4(相違点Aについての認定判断の誤り)について (1) 原告は,「甲第4号証(注,甲4公報)には,落雁製造装置において,間歇回転台2を用いて,雌型3が間歇的に移動するように構成し,雌型3が,順次,材料供給装置4,同雌型3内の収容材料掻回機5,同収容材料中央凹部成形機6,餡供給用空間7,上記型3内の包餡材料圧下スタンプ8および成形落雁吸引取卸機9等の所に移動停止すると,自動的に材料供給,包餡材料圧下,吸引取出等が行われ,成型加工した包餡落雁が取り出せるようにしたものが開示されている」(審決謄本5頁下から第2段落)とした審決の認定は誤りであると主張する。
甲4公報には,「本発明を図面に示す実施例について説明すると,機枠1に間歇回転台2を設け,同台2の上面に落雁成形雌型3を凹設し,同雌型3への材料供給装置4,同雌型3内の収容材料掻回機5,同収容材料中央凹部成形機6,餡供給用空間7,上記型3内の包餡材料圧下スタンプ8および成形落雁吸引取卸機9を・・・昇降自在に形成した落雁製造装置に関するものである」(1頁左下欄最終段落〜右下欄),「餡供給用空間7は第1図に示すように回転台2上に形成した空間であって外周に餡および被せ材料供給用の固定台19が設けられる。上記スタンプ8は昇降枠20に設けられ上記吸引取卸機9は吸盤21を同昇降枠20に水平軸管22の回りに回動自在に設け,同軸管22に自動開閉弁23を介して吸引ホース24を接続する」(2頁左上欄),「本発明では材料供給函10に・・・混合材料15を収容し攪拌機11を回動させると同材料15は雌型3内に収容される。そして回転台2を45度回動して停止させると上記雌型3が上記掻回機5の直下に停止するから同機5を回動させて下降し同機5の上記指14で雌型3内の材料15を掻回し中央部に小穴があけられる。その後上述同様に台2を45度回動させると上記成型機6の直下に上記雌型3が停止し,収容材料15の上記小穴に直立回転軸16を中心として偏心回動している押型17を下降押圧することによって材料15の中央部に餡挿入用凹部18を成形し,同押型17の偏心回動外周と雌型3の内面との間に落雁の薄皮を成形することができる。その後さらに45度回動して上記空間7に停止し,同空間7において予め準備していた丸め餡を上記凹部18に挿入し,さらに,同台2を45度回動して同空間7内に停止し餡の上面に材料15を被せて包餡する。その後さらに45度回動し上記包餡作業を点検し,さらに45度回動させて停止させると同雌型3は上記スタンプ8の直下に停止し同スタンプ8が下降して包餡落雁34を押圧成形して包餡落雁34の底面を平面に形成する。その後さらに回転台2を45度回転して停止すると包餡落雁34の底面は吸盤21の直下に停止し,同吸盤21を下降させてこれに同底面を吸着させることができる。そして同吸盤21を上昇させると・・・・包餡落雁(落雁製品)34を受取板30上に取卸すことができる」(2頁右上欄第2段落〜左下欄第1段落)との記載がある。上記記載によれば,甲4公報記載の落雁製造装置では,間けつ的に回転される「間歇回転台2」の上に設けられた雌型3に対して,回転台2の回転に伴い,混合材料15の供給,餡押入用凹部18の形成,丸餡の挿入,被せ材料15の供給,押圧成形,製品の取出の各工程が順次施されるように構成され,雌型が,「間歇回転台2」により,順次,材料供給位置,成形位置,製品吸引取出位置に移動し,再び,材料供給位置に戻るように移動するものであるから,材料供給位置,成形位置,製品吸引取出位置に移動し,再び,材料供給位置に戻るということが繰り返されるものであることが認められる。したがって,「甲第4号証(注,甲4公報)には,落雁製造装置において,間歇回転台2を用いて,雌型3が間歇的に移動するように構成し,雌型3が,順次,材料供給装置4,同雌型3内の収容材料掻回機5,同収容材料中央凹部成形機6,餡供給用空間7,上記型3内の包餡材料圧下スタンプ8および成形落雁吸引取卸機9等の所に移動停止すると,自動的に材料供給,包餡材料圧下,吸引取出等が行われ,成型加工した包餡落雁が取り出せるようにしたものが開示されている」(審決謄本5頁下から第2段落)とした審決の認定に誤りはない。
原告は,甲4公報記載の落雁製造装置の雌型は,間けつ的に回動するようになっており,単に間けつ的に移動するようになっているものではないと主張するが,雌型の移動が回動によって実現されているものであっても,これにより雌型が間けつ的に移動できるものであることは上記のとおりである。また,原告は,甲4公報記載の落雁製造装置において,材料供給と「包餡材料圧下」とは,連続して行われるものではなく,まして技術的に直接関連するものでもないとも主張するが,同装置において,材料供給と「包餡材料圧下」とが,連続して行われることは上記のとおりであり,その技術的思想が開示されていることは明らかである。原告の上記主張は,審決を正解しないものというほかない。
(2) 原告は,甲4公報記載の落雁製造装置の雌型及び「包餡材料圧下スタンプ」は,協働して「包餡落雁」を押圧成形するものであるが,@雌型に収容される原料は,前工程において成形された「包餡落雁」の外皮,「丸め餡」及び「被せ材料」であり,本件発明のように粉末状原料ではない点,A押圧成形は,「包餡落雁」の外皮があらかじめ所定の形状に成形されていることから,外皮をも成形するものではなく,「丸め餡」及び「被せ材料」を押庄し,外皮に一体化させて「包餡落雁」を成形するものであり,本件発明のように雌型内の原料を押圧して一度に製品を成形するものではない点,B「包餡材料圧下スタンプ」の押圧作用は,雌型内の「丸め餡」及び「被せ材料」を押圧し,外皮に一体化させることであり,また「包餡落雁」の底面を平面に形成すること,すなわち,「丸め餡」及び「被せ材料」を原料とし,「丸め餡」及び「被せ材料」を外皮に押込み,「被せ材料」の表面を平面に形成することであり,本件発明の雄型のように原料を押圧して雌型内に押し広げるものではない点,C「包餡材料圧下スタンプ」の構造は,甲4公報の第7図に示されるように,雌型の上端縁まで下降するが,雌型と「嵌合」するようになっておらず,雌型の構造は,甲4公報1頁右欄の記載及び同第7図に示されるように,「丸い饅頭形」であり,外皮を押型との協働により雌型の内面形状,すなわち,「丸い饅頭形」に形成するようになっていることから,「包餡材料圧下スタンプ」と「嵌合」するようになっていない点,において相違することを理由に,本件発明の雌型及び雄型とは構造及び機能が全く相違する異質の技術的手段であり,対応するものではないと主張する。しかしながら,甲4公報記載の雌型と「包餡材料圧下スタンプ」は,協働して「包餡落雁」を押圧成形するものであり,雌型が供給された原料を収容し,「包餡材料圧下スタンプ」が雌型内の原料を押圧するものであるから,本件発明の雌型及び雄型にそれぞれ対応しているものということができ,「甲第4号証(注,甲4公報)記載の落雁製造装置の雌型は・・・本件特許発明(注,本件発明)の『雌型』と対応し,包餡材料圧下スタンプ8は・・・『雄型』と対応」(審決謄本5頁最終段落)するとした審決の判断に誤りはない。原告の主張する上記@〜Cの各点は,使用する材料,製造する製品の相違から生ずる微差を殊更に主張するものにすぎず,本件発明には,上記各点について甲4公報記載のものも含まれるから,上記対応関係を左右するものではない。
また,原告は,甲4公報記載の雌型の移動方向は1方向であり,材料供給装置等は,雌型の移動方向に沿って順に配置されているにすぎず,前後方向に配置されているとはいえないから,本件発明における前後方向とは,技術的概念が相違するとも主張する。確かに,甲4公報記載の雌型の移動方向は1方向であり,材料供給装置等は,雌型の移動方向に沿って順に配置されているが,本件発明に係る請求項にも,雌型の移動通路の形状は特定されておらず,多数の雌型が直線様に並べられ,前後2列に設けられた具体的な構成は,実施例の記載にすぎない。加えて,本件明細書(甲10)の「雌型が前後二列に設けられている場合には,一方の雌型から製品が取り出されている間に他方の雌型で加熱圧搾し得るため,設定枚数の製品を従来よりも遙かに短時間で焼成し得る」(20欄最終段落〜21欄第1段落)との記載は,本件発明において採用し得る形態の一つではあっても,これに限定されるものではないとする趣旨であると当業者に理解されるから,甲4公報記載の落雁製造装置のように,各工程作業が回転することで行われるものを,本件発明が明確に排除しているということはできない。したがって,上記の点は,「成形落雁吸引取卸機9は,昇降自在な吸盤21を備え,製品である落雁を雌型から吸着して取出すものであるから,『上下動可能に設けられた吸着パットを備え』た『製品取出装置』と対応している。また,甲第4号証(注,甲4公報)記載の材料供給装置等は,雌型の移動通路と対向して,雌型の移動方向について前後方向に配置されているとともに,雌型の位置決め停止動作と関連して順次作動するようになっている」(審決謄本5頁最終段落〜6頁第1段落)との審決の認定を左右するものということはできず,本件発明における前後方向とは技術的概念が相違するとする原告の主張は,採用し難い。
(3) 原告は,甲4公報記載の落雁製造装置と本件発明の自動食品焼成装置は,菓子等の食品製造装置の技術分野に属するが,原料の性状,製品の性状及び製法が全く異なる異質な食品製造装置であり,同一の技術分野に属するものとはいえないと主張するが,甲4公報記載の落雁製造装置と本件発明の自動食品焼成装置は,落雁を製造する自動食品焼成装置を包含しているから,いずれも菓子等の食品製造装置の同一の技術分野に属するものであることが明らかであり,これを異なる異質な食品製造装置であるということはできない。
また,原告は,甲4公報記載の落雁製造装置は,雌型に材料を供給する手段が押圧を伴った成形を行う手段とは何ら技術的に関連しないと主張するが,甲4公報記載の雌型と「包餡材料圧下スタンプ」は,協働して「包餡落雁」を押圧成形するものであり,雌型が供給された原料を収容し,「包餡材料圧下スタンプ」が雌型内の原料を押圧するものであることは上記のとおりであって,甲4公報記載の落雁製造装置が,本件発明と同様,雌型に材料を供給し,押圧を伴った成型を行い,成型された食品を取り出す手段を備えた食品製造装置に係るものであるとした上,甲4公報記載のものを甲2発明に適用して,相違点Aに係る本件発明の構成とすることの容易想到性を肯定した審決に誤りがあるとはいえない。
(4) 原告は,@「位置決め精度は設計上の問題であって,雌型を移動可能としようとすることを,機構上不可能あるいはきわめて困難とするような阻害要因であるとまでは言えない」(審決謄本6頁第3段落),A「特許請求の範囲第1項(注,本件発明に係る請求項)は,『雌型が前後方向に位置決め可能に設けられ』ていることを提案するにとどまり,雌型の位置決め精度を満足させるための格別な構成をその要旨に含むものとは認められない」(同頁下から第2段落)とした審決の判断を,事実誤認及び予断に基づく評価であり,失当であると主張する。しかしながら,@については,位置決め精度が設計上の問題であることは,事柄の性質上当然のことであり,そうである以上,この点について,「雌型を移動可能としようとすることを,機構上不可能あるいはきわめて困難とするような阻害要因であるとまでは言えない」とした審決に誤りはなく,また,Aについては,本件発明に係る請求項には,雌型の位置決め精度を満足させるための格別な構成について何ら記載はないから,審決の上記Aの認定にも誤りはない。
(5) 原告は,吸着パットは,被吸着物の吸着面が平面で,通気性がないことが要求され,「包餡落雁」は適合しているが,本件発明の板状焼成食品は,一般に表面が凹凸状で,多孔質構造で通気性があり,吸着パットの適用条件には適合しないため,板状焼成食品の取り出しに吸着パットを採用することは困難であるから,「吸引取卸器により,板状の製品を型から取り出せるであろうことは,甲第4号証(注,甲4公報)の記載に接した当業者が容易に予測し得た程度の事項であると認められるとともに,本件特許発明は,いかせんべいを吸引把持するための,格別の構成をその要件として含むものでもない」(審決謄本6頁最終段落〜7頁第1段落)とした審決の判断は,事実誤認及び予断に基づく評価であり,失当であると主張する。しかしながら,本件発明に係る本件明細書(甲10)には,吸着パットを板状焼成食品の取出しに採用するに当たって,格別な構成について何ら記載はなく,また,本件発明に係る請求項には製品取出位置について何ら規定されていないから,原告の上記主張は,明細書の記載に基づかないものというほかなく,失当である。
(6) 以上のとおり,審決の相違点Aについての認定判断に,原告主張の事実誤認及び評価の誤りはなく,原告の取消事由4の主張は理由がない。
5 取消事由5(本件発明の顕著な作用効果の看過)について 原告は,本件発明は,@原料供給装置が雌型の移動通路と対向して配置されていることにより,原料を雌型の直上から雌型の中心部を中心として適切に供給し得るため,従来のように形が不安定になったり,厚みが不均一になることがなく,所定形状で均一な厚みの製品を焼成し得る,A製品取出装置が雌型の移動通路と対向して配置され,しかも吸着パットを備えているため,従来のように製品を破損することがなく,良好に取り出し得る,B取り出された製品は,吸着パットが下降した後に吸着が解除され,製品取出位置の直上から落下載置されるため,従来のようにしわや折れ曲がり等を生ずることがなく,しかも一定の向きに載置され,向きを揃える手数を省略し得る,C雌型が前後方向に位置決め可能に設けられ,原料供給装置,雄型及び製品取出装置が雌型と対向して前後方向に配置されていることから,雄型の上限をその下面がわずかな間隙をもって雌型の上端面より上方に位置するように設定し得,雄型と雌型の対向空間には,従来のように原料供給と製品取出しの各操作を行う空間を設ける必要がなく,雄型の上限位置を任意に設定し得,その結果,雄型の作動ストロークを短くする場合には,加熱圧搾作動の高速化及び雄型の駆動装置の小型化等を図り得,前記間隙を板状製品の厚さ以下に設定する場合には,成形後に板状製品が雄型に焼付いたとしても雌型の移動により剥離されて雌型内に落下し,製品取出装置で取り出されるため,二度焼成を防止し得る,という顕著な効果を奏するものであると主張する。
しかし,@の原料を雌型の直上から雌型の中心部を中心として適切に供給し得ることについては,本件発明の請求項には記載がないから,本件発明の効果ということはできない。A及びBについては,吸着パットを備えることにより当然予測し得た効果というべきであり,Cの効果は,原料供給装置,雄型及び製品取出装置を雄型と雌型の対向空間のどこに配置するのかが特定されて初めて生ずる効果であって,同事項は,本件発明に係る請求項に特定されるものではないから,本件発明の効果ということはできない。
したがって,原告の上記主張はいずれも理由がなく,審決が,本件発明の顕著な作用効果を看過したということはできないから,原告の取消事由5の主張も理由がない。
6 以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 岡本岳
裁判官 早田尚貴