関連審決 | 異議2001-71065 |
---|
関連ワード | 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 発明の詳細な説明 / パリ条約 / 優先権 / 分割出願 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 設定登録 / 混同 / 請求の範囲 / 訂正明細書 / 取消決定 / |
---|
元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
---|---|
元本PDF | 裁判所収録の別紙1PDFを見る |
事件 |
平成
15年
(行ケ)
19号
特許取消決定取消請求事件
|
---|---|
原告 カミンズ−アリソン・コーポレーション 訴訟代理人弁護士 矢部耕三、伊藤玲子 同 弁理士 神田藤博 被告 特許庁長官今井康夫 指定代理人 平上悦司、田中秀夫、大野克人、林栄二,大橋信彦 |
|
裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2003/10/14 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。 |
事実及び理由 | |
---|---|
原告の求めた裁判
特許庁が異議2001-71065号事件について平成14年9月3日にした決定を取り消す、との判決。 |
|
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 本件特許の設定登録に至る経緯は下記(1)に記載のとおりであり、特許庁が異議の申立てを受けて本件特許を取り消すまでの経緯は下記(2)に記載のとおりである。 (1) 本件特許 特許権者 カミンズ-アリソン・コーポレーション(原告) 発明の名称 「通貨紙幣額面金額識別装置および方法」 特許番号 特許第3098420号 出願 平成5年5月18日(パリ条約に基づく優先権主張日平成4年5月19日米国、特願平6-503812号) 分割の表示 特願平6-503812号特許出願の一部を特願平8-64914号として分割出願 設定登録 平成12年8月11日 (2) 本件手続 特許異議 異議2001-71065号 異議の対象 本件特許の請求項1ないし12 取消理由通知 平成13年9月17日 訂正の請求 平成14年3月28日(取消理由通知の指定期間内) 決定の結論 「訂正を認める。特許第3098420号の請求項1ないし12に係る特許を取り消す。」 (出訴期間として90日を付加) 決定謄本送達 平成14年9月24日 2 特許請求の範囲の記載(上記訂正後のもの。各請求項に係る発明を、その請求項の番号に従い「本件発明1」などという。下線部は訂正箇所である。)【請求項1】積み重ね状態の種々の額面金額の通貨紙幣を受け取り、該紙幣のすべての額面金額を迅速に識別するための通貨紙幣額面金額識別装置であって、 識別すべき積み重ね状態の種々の額面金額の紙幣を受け取るための入口場所と、 識別した後の前記紙幣を受け取るための単一の出口場所と、 前記紙幣を一度に一枚ずつ前記入口場所から前記出口場所へと移送経路に沿って移送するための移送機構と、 前記紙幣を走査することによって各紙幣の額面金額を決定するようになされた、 紙幣 を識別するための額面金額識別ユニットにして、前記入口場所と前記出口場所との間の前記移送経路に沿って配置された検出器を備え、前記紙幣を計数し且つ該紙幣の額面金額の決定を行うようになされた識別ユニットと、 ある基準を満足するか又は満足しない紙幣についてフラグを出す手段にして、前記移送機構を停止させて、前記基準を満足するか又は満足しない紙幣が前記出口場所の認識可能な位置に位置づけられるようにする、フラグを出す手段と、 を備えている通貨紙幣額面金額識別装置。 【請求項2】前記基準が、前記額面金額識別ユニットが前記紙幣の額面金額の決定を行うことであり、該額面金額の決定がなされず、したがって前記紙幣が前記基準を満足しないとされたときに、前記フラグを出す手段が前記移送機構を停止させるようになされている、請求項1に記載の通貨紙幣額面金額識別装置。 【請求項3】前記フラグを出す手段が前記移送機構を停止させたとき、額面金額の決定がなされなかった紙幣が、前記出口場所へと移送される最後の紙幣となるようになされている、請求項2に記載の通貨紙幣額面金額識別装置。 【請求項4】複数の額面金額を有する積み重ね状態の通貨紙幣を受け取り、該積み重ね状態の紙幣の額面金額を迅速に決定するための、高速処理可能で、コンパクトで、単一の出口場所を有する、通貨紙幣額面金額識別装置であって、 識別すべき、複数の額面金額を有する積み重ね状態の紙幣を受け取るようになされた入口場所と、 識別した後の前記紙幣を受け取るようになされた単一の出口場所と、 前記紙幣を、該紙幣の幅狭寸法の方向へと、一度に一枚ずつ、前記入口場所から前記出口場所まで、1分間に約800枚以上の速さで、移送経路に沿って移送するようになされた移送機構と、 複数の額面金額を有する紙幣を含む紙幣のそれぞれの額面金額を、1分間に約800枚以上の速さで決定するようになされた額面金額識別ユニットと、 を備え、 該識別ユニットが額面金額を決定するところの紙幣が、複数の額面金額に対応するイメージを有しており、 前記識別ユニットは、前記入口場所と出口場所との間の前記移送経路に沿って配置された検出器を備えており、 該検出器は、通過する紙幣を走査してイメージ信号を作り出すようになされており、 前記識別ユニットは、該イメージ信号に基づいて紙幣の額面金額を決定するようになされており、 前記識別ユニットはさらに、紙幣の額面金額が該識別ユニットにより決定できなかったときに該紙幣についてフラグを出すようプログラムされた処理手段を含んでおり、 該処理手段は、前記移送機構と連係しており、紙幣の額面金額が前記識別ユニットによって決定されないときに、額面金額が決定されなかった紙幣が前記出口場所に給送される最後の紙幣となるよう、前記移送機構を停止させるようにプログラムされている、 通貨紙幣額面金額識別装置。 【請求項5】複数の額面金額を有する積み重ね状態の通貨紙幣を受け取り、該積み重ね状態の紙幣の額面金額を迅速に決定するための、高速処理可能で、コンパクトで、単一の入口場所および単一の出口場所を有する、通貨紙幣額面金額識別装置であって、 識別すべき、複数の額面金額を有する積み重ね状態の紙幣を受け取るようになされた入口場所と、 識別した後の前記紙幣を受け取るようになされた単一の出口場所と、 前記紙幣を、該紙幣の幅狭寸法の方向へと、一度に一枚ずつ、前記入口場所から前記出口場所まで、1分間に約800枚以上の速さで、移送経路に沿って移送するようになされた移送機構と、 複数の額面金額を有する紙幣を含む紙幣のそれぞれの額面金額を、1分間に約800枚以上の速さで決定するようになされた額面金額識別ユニットと、 を備え、 少なくとも2種類の額面金額の紙幣が同じ寸法を有しており、 前記識別ユニットは、前記入口場所と出口場所との間の前記移送経路に沿って配置された検出器を備えており、 前記識別ユニットは、紙幣を計数し且つ紙幣の額面金額を決定するようになされており、 前記識別ユニットはさらに、紙幣の額面金額が該識別ユニットにより決定できなかったときに該紙幣についてフラグを出すようプログラムされた処理手段を含んでおり、 該処理手段は、前記移送機構と連係しており、紙幣の額面金額が前記識別ユニットによって決定されないときに、額面金額が決定されなかった紙幣が前記出口場所に給送される最後の紙幣となるよう、前記移送機構を停止させるようにプログラムされている、 通貨紙幣額面金額識別装置。 【請求項6】前記識別ユニットの前記検出器が、前記移送機構によって前記入口場所および前記出口場所間を移送される各紙幣の少なくとも所定のセグメントを走査して該走査されたイメージを示す出力信号を作り出すための静止した光学走査ヘッドを備えており、前記識別ユニットが、前記出力信号を受け取り、走査された各紙幣の額面金額の決定を行うための信号処理手段を備えている、請求項1ないし5のいずれかに記載の紙幣識別装置。 【請求項7】前記入口場所が単一である、請求項1ないし4のいずれかに記載の通貨紙幣額面金額識別装置。 【請求項8】通貨紙幣額面金額識別装置を用いて、異なる額面金額を有する紙幣を計数し且つ識別するための方法にして、 識別すべき積み重ね状態の通貨紙幣を通貨紙幣額面金額識別装置の入口場所にて受け取る段階と、 前記紙幣を一度に一枚ずつ前記入口場所から単一の出口場所まで移送する段階と、 前記紙幣を走査してその走査されたイメージに基づいて該紙幣の額面金額を決定し且つ該紙幣を計数する段階と、 ある基準を満足するか又は満足しない紙幣についてフラグを出す段階と、を備え、 該フラグを出す段階が、前記基準を満足するか又は満足しない紙幣が、前記出口場所の認識可能な位置に位置づけられるよう、前記紙幣の移送を停止させることを含んでいる、方法。 【請求項9】前記基準が、前記額面金額の決定が行われることであり、前記額面金額の決定が行われなかったときに前記紙幣が前記基準を満足しなかったものとして該紙幣についてフラグが出されるようになされている、請求項8に記載の方法。 【請求項10】前記フラグを出す段階が、額面金額の決定がなされなかった紙幣が前記出口場所へと移送される最後の紙幣となるよう、前記移送を停止させるようになされている、請求項8または9に記載の方法。 【請求項11】通貨紙幣額面金額識別装置を用いて、紙幣を処理するための方法にして、 複数の額面金額を有する、識別すべき積み重ね状態の通貨紙幣を通貨紙幣額面金額識別装置の入口場所にて受け取る段階と、 識別した後の前記紙幣を通貨紙幣額面金額識別装置の単一の出口場所にて受け取る段階と、 前記紙幣を一度に一枚ずつ前記入口場所から前記出口場所まで移送経路に沿って移送する段階と、 前記入口場所と出口場所との間の前記移送経路に沿って配置された検出器と、処理手段とを有する識別ユニットを使用して、複数の額面金額を有する紙幣を含む紙幣のそれぞれの額面金額を、該紙幣の大きさに関係なく決定する段階と、 紙幣の額面金額が前記識別ユニットによって決定されなかったときに、前記紙幣の移送を停止させる段階と、 を含んでいる、方法。 【請求項12】通貨紙幣額面金額識別装置を用いて、異なる額面金額を有する紙幣を計数し且つ識別するための方法にして、 識別すべき積み重ね状態の通貨紙幣を通貨紙幣額面金額識別装置の単一の入口場所にて受け取る段階を含み、紙幣のうちの真正なものは複数の額面金額に関連づけられる複数のイメージを有しており、 さらに、 前記識別装置の制御のもとに、前記紙幣を一度に一枚ずつ前記入口場所から前記識別装置の単一の出口場所まで移送する段階と、 前記紙幣のそれぞれに関連づけられた前記イメージを走査する段階と、 前記識別装置の制御のもとに、前記紙幣を計数し且つ該紙幣の額面金額を決定する段階と、を備え、前記識別装置は、前記紙幣のそれぞれに関連づけられた前記イメージを走査することにより複数の額面金額を識別可能となされており、 さらに、 前記識別装置の制御のもとに、紙幣の額面金額が決定できなかったときに、該額面金額を決定できなかった紙幣が前記出口場所へと移送される最後の紙幣となるよう、前記積み重ね状態の紙幣の移送を停止する段階を備えており、 前記紙幣の移送および額面金額の決定が、1分間に少なくとも800枚の速さで行われる、方法。 3 決定の理由の要旨 別紙1決定書の理由欄記載のとおりである。要するに、本件発明1ないし4及び7ないし10は刊行物1(特公昭61-14557号公報、甲4)及び刊行物2(特開昭53-44089号公報、甲6)に記載の各発明に基づいて、本件発明5、6及び12は刊行物1ないし刊行物3(特開昭59-186079号公報、甲7)に記載の各発明に基づいて、本件発明11は刊行物1及び3に記載の各発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1ないし12についての特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものである、というものである。 |
|
原告主張の取消事由の要点
決定は、刊行物1に記載された発明の認定を誤り(取消事由1)、本件発明1ないし12と刊行物1に記載された発明との相違点を看過し(取消事由2)、その結果、本件発明1ないし12についての進歩性の判断を誤った(取消事由3)ものであるから、違法であり、取り消されるべきである。 1 刊行物1に記載された発明の認定の誤り(取消事由1) 刊行物1には、決定が認定したような発明イ(装置)及び発明ロ(方法)は記載されていない。 (1) 刊行物1に記載されている発明は、@特定の単金種のみを枚数カウント処理の対象とし、当該特定の単金種以外の紙幣を停止又は除外により枚数カウント処理から排除する発明(以下、装置に関するものを「刊行物発明A」、方法に関するものを「刊行物発明B」という。)及びAこれとは別個の、複数金種(「複合金種」)の紙幣を識別・計数するが、当該複数金種以外の紙幣を排除することができない発明(以下、装置に関するものを「刊行物発明C」、方法に関するものを「刊行物発明D」という。)である。決定は、単金種を計数する刊行物発明A、Bと、 これとは別個の発明である複数金種を計数する刊行物発明C、Dとを混同し、その結果、刊行物発明A、Bの一部である「停止又は排除により除外する」という構成と、刊行物発明C、Dの一部である「複合金種の紙幣を識別・計数する」という構成を誤って組み合わせ、その組み合わせをもって「発明イ」(装置)、「発明ロ」(方法)であると誤認したものである。 異金種があったときに金種照合装置からの照合信号により計数動作を停止させ又は異金種紙幣を排除するという構成は、次の(2)に述べるように、単金種を計数する発明(刊行物発明A、B)についてのものであって、複数金種を計数する発明(刊行物発明C、D)についてのものではない。 (2) 刊行物発明A、Bは、処理前に特定された単金種紙幣のみを計数し、異金種紙幣については、作動の停止により、又は、停止させずに当該異金種紙幣を排除することにより、計数の対象から除外し、特定単金種紙幣と異金種紙幣とを物理的に分別する、というものである。要するに、刊行物発明A、Bは、従来技術の問題点である「従来はオペレータが計数する紙葉類の種類を確認しており、誤って他の種類の紙葉類が混入していても、そのまま計数して枚数や金額を表示するようになってい」た(甲5の2欄25行目から3欄2行目)という技術課題を解決するために、上記「誤って(単金種紙幣束に混入している)他の種類の紙葉類」、換言すれば「当該特定の単金種ではない異金種紙幣」を計数の対象から外すために、計数動作を停止させるか又は当該異金種紙幣を排除して、特定単金種紙幣から分別するようにした発明なのである。 他方、刊行物発明C、Dは、「複合金種」を処理する発明であるが、それが刊行物発明A、Bと決定的に異なる点は、「識別装置112は金種を示す識別信号を出力するが、この時金種照合装置114はモード選択装置127よりモード信号MSを入力して、動作しないようになっている。」(11欄10行から13行)こと、すなわち、複数金種を処理する場合には、金種照合装置114が作動しないという点である。金種照合装置114が作動しないということは、計数処理から除外されるべき紙幣が混じっていても、計数動作の停止やその排除が行われることなく、計数されてしまうことを意味する。 以上のとおり、刊行物1には、決定が認定したような発明イ及び発明ロ、すなわち複数金種混合の紙幣を識別し、指定された金種以外の紙幣があったときには搬送を停止するようにした発明は記載されていないのである。 2 相違点の看過(取消事由2) (1) 前記1のとおり、刊行物1に記載された発明は、刊行物発明A、Bであるから、本件発明1ないし12と刊行物発明A、Bを対比すると、両者の間には下記相違点点@ないしDがある。決定は、これらの相違点を看過している。 相違点@: 本件発明1ないし12は、すべての金種の紙幣を当然に識別・計数するものであるが、刊行物1に記載された発明は、処理前に特定した特定の単金種の紙幣を計数するものである。 相違点A: 本件発明1ないし12は、すべての金種の紙幣を識別・計数するものであるため、金種の読み取れない汚損した紙幣や外国紙幣(識別対象となる当該国家の通貨紙幣のいずれの金種にも該当しない紙幣)をフラグを立てる等の何らかの方法でことさらに取り上げて処理対象から除外できるのに対し、刊行物1に記載された発明は、特定された単金種の紙幣しか計数できず、当該特定された単金種に該当しない紙幣についてはそのすべてを計数処理の対象から除外する。したがって、金種の読み取れない汚損した紙幣や、外国紙幣をことさらに取り上げてこれを識別することはできない。 相違点B: 本件発明1ないし12は紙幣の出口場所が単一(1箇所)であるが、刊行物1は紙幣の出口場所が2箇所である(この点は後記(2)で詳述する。)。 相違点C: 本件発明3、4、5、10、12は、フラグを出された紙幣が出口場所に給送される最後の紙幣となるように移送機構が停止させるようにされている発明であり、本件発明1及び8は、フラグを出された紙幣が出口場所の認識可能な位置に位置づけられるようにされている発明である。これに対して刊行物1には上記各点に関する開示も示唆もない。 相違点D: 本件発明4、5、12は処理された紙幣が1分間に800枚以上の速さで移送経路に沿って移送されるようにされた移送機構を備えるものであるのに対し、刊行物1には1分間に800枚以上という処理スピードについての開示も示唆もない。 (2) 刊行物1における出口の数 決定は、刊行物1における出口場所の個数につき、単一になることもありうると判断したが(決定書12頁17行から29行)、誤りである。以下の理由により、 刊行物1に開示されている出口の個数は常に2個であり、単一の出口の構成は排除されていると解するのが合理的である。 ア 刊行物1記載の発明の目的は「計数中に…異種類のものがあれば直ちに計数動作を停止又は排除させ得る紙様類の識別計数機を提供すること」(甲4の3欄3行から7行)にある。すなわち、異種類の紙様類(異金種紙幣)が発見された場合に、計数動作を停止するか、その異金種紙幣を排除口に排除するか、いずれかの動作を選択的に行うことのできる装置を提供することである。この目的を達成するための手段として、刊行物1は、請求項1、2のいずれにおいても「異種類のものがあれば直ちに計数動作を停止させるか又は排除させるように制御する搬送制御装置」という構成を掲げ、これを刊行物1の構成における必須要件とした。このことは「異金種紙幣を選択的に排除可能な構成」を備えていなければ刊行物1の発明は成立し得ないことを意味している。この点を示したのが実施例における「(堆積台23以外の)別途設けられている排除口」という構成である。そうであるならば、 刊行物1記載の発明において、「別途設けられている排除口」、すなわち、2個目の出口を設けることは必須であるといわざるを得ない。 以上のとおりであるから、刊行物1記載の発明においては、請求項1及び2の文言上も、出口が2個ある装置の構成を開示し、出口が単一である装置の構成を排除しているといえる。 イ 刊行物1の図1ないし図3 刊行物1が出口が単一である装置を排除しているということは、実施例を示した第1図ないし第3図からも明白に看取しうる。 第3図の中央上方には「異金種紙幣排除装置123」の制御ブロックが示されている。この回路が制御するのは「別途設けられている排除口」への紙幣移送であり、これに相応する構成が第1図及び第2図に記載されていることは当業者が容易に理解できる。すなわち、装置が識別できない紙幣に行き当たった場合、「搬送ベルト21」(「第2図」の下方)が逆に作動し(紙幣を識別した場合には当該ベルトは当該紙幣を堆積台23に向けて搬送する)、当該異金種紙幣は堆積台23とは反対側(第2図では左側)へ向けて送られる。そして「別途設けられている排除口」は搬送ベルト21の左端に隣接配置されていることは当業者には明白である。 第2図では、装置外壁であるハウジング線が左側で途切れていることからも分かるように、装置左側の構成の表示が省略されているだけである。そして第2図における左側の位置は第1図における後方位置に相当するので、第1図においても「別途設けられている排除口」が図面上省略されていることは当業者には容易に理解できるのである。 ウ 解決課題の基本的相違 本件発明1ないし12が出口場所を単一にするという構成を採用したことにより、装置の機構としての簡素化を実現しているのに対し、刊行物1に記載のものは出口場所を2箇所備えた装置に関する発明である。刊行物1は出口場所1箇所のみ備えた構成を示唆も開示もするものではなく、本件発明1ないし12のようなコンパクトで、価格が合理的であり、しかも装置構成が複雑でない装置について示唆や開示をするものでもない。 エ 刊行物1の公開特許公報(甲5)の記載 刊行物1に出口が2個ある装置の開示しかないことは、刊行物1に対応する公開特許公報(甲5)の「一方、123は金種照合装置114からの照合信号RFを入力してそれが不一致を示すものであれば、当該検出紙幣を紙幣堆積台23に搬送させないで排除させるための異金種紙幣排除装置」(444頁上段左欄19行目〜同右欄22行目)との記載からも裏付けられる。 「検出紙幣を紙幣堆積台23に搬送させないで排除させる」という記載は、紙幣堆積台23以外に紙幣を排除させる場所が別に1箇所存在することを明示しているものである。 3 本件発明1ないし12についての進歩性判断の誤り(取消事由3) (1) 技術的背景 本件明細書(甲3の全文訂正明細書)の従来技術についての記載「【0002】【従来の技術】自動通貨紙幣取扱いシステムの要求を満足するために種々の技術及び装置が使用されてきた。この技術分野で最も初歩のものは、特定額面金額のドル紙幣のような特定の種類の紙幣しか取り扱うことができず、全ての他の種類の紙幣をはねつけるシステムである。最も高度のものは、多数の額面金額のものを対象としてこれらを同定し、識別し、自動的に計数する複雑なシステムである。」に示されるように、従来技術は二つのグループに大別される。 1つは、上記記載において「最も初歩のもの」として位置づけられる「特定額面金額のドル紙幣のような特定の種類の紙幣しか取り扱うことができず、全ての他の種類の紙幣をはねつけるシステム」である(以下「第1グループ」と言う)。「特定の種類の紙幣しか取り扱うことができず」とは、事前にオペレータが紙幣の種類を仕分けして、同じ金種の紙幣のみを取り分け、その枚数を装置に数えさせる(以下その主たる機能を取り上げて「枚数カウンター」という。)ということを意味する。この枚数カウンターの欠点はオペレータが同じ金種の紙幣のみに分ける際、誤って他の金種の紙幣が混入していても、装置はそれを認識することができず枚数カウント処理の対象にしてしまうということであった。刊行物1に記載された発明(前述のとおり、これは決定の認定した発明イ、ロではなく、刊行物発明A、Bである。)は、この第1グループに属するものであって、この問題点を解決するために、装置が処理対象とする特定の単金種紙幣に該当しないものについては、これを計数カウント処理の対象から除外するという改良を加えたものである。よって刊行物1の発明ではオペレータが金種の仕分けを誤った場合の上記課題は解決されることになるが、依然としてオペレータによる金種ごとの仕分けという煩瑣な手作業が必要であることに変わりはない。この点において刊行物1は、未だ枚数カウンターの本質を出る発明ではなく、明らかに第1グループの系統に位置する。 他方は、上記で「最も高度のもの」とされる、「多数の額面金額のものを対象としてこれらを同定し、識別し、自動的に計数する複雑なシステム」である(以下「第2グループ」と言う)。第2グループは、第1グループと異なり、そもそもオペレータは処理対象となる紙幣束を事前に金種ごとに仕分ける必要はなく、紙幣処理前に手作業で金種毎に紙幣束を仕分けるという非常に煩雑な過程が省かれている。これが第2グループと第1グループとの基本的相違の一つである。本件発明においても処理の対象となるのは全金種であるから、オペレータが処理前に金種ごとに紙幣束を分別する必要はない。 (2) 本件発明1ないし12の進歩性 本件発明1ないし12は、第2グループに属する発明であるが、本件発明1ないし12が登場するまでは、第2グループの発明は識別される金種ごとに分けられた多数の出口場所を備える装置であった。全金種の識別処理をすれば移送機構により紙幣を金種ごとの多数の仕分け場所に送ることは当然と考えられていたため、当業者の当時の常識として「全金種の識別」と「処理後の金種ごとの仕分け」とを切り離して考えることは思いも及ばないことであった。ところが、多数の出口場所を備える装置は、機構の複雑化、装置全体の大型化を招き、その価格も何千万円もする高額なものとなり、ユーザーも銀行等に限られ、市場規模も限定されるという問題点があった。 これに対し、本件発明1ないし12は、全金種を識別する場合であっても処理後の紙幣を金種ごとに区分する必要は当面なく、その場で当該混合金種の紙幣束の総額さえ把握できればよいという新たな問題意識に基づき、「全金種の識別→全金種に応じた仕分けの出口場所」という当時の当業者の常識を打ち破り、全金種を識別する装置でありながら出口場所を単一とした 。その結果、装置の簡素化、小型化、 価格の合理化が達成され、ユーザー層が銀行のみならず、一般の小売店主等にまで広がり、市場規模も拡大し、顕著な商業的成功を収めるに至った。この点において本件発明は進歩性があり、出願当時の当業者が容易に想到しえない発想を実現したものである。 本件発明1ないし12は、未だ枚数カウンターの本質を出るものではない刊行物1記載の発明から当業者が容易に想到し得るものではない。 (3) また、決定は、決定の認定した相違点2(移送機構の停止に関し、本件発明1が「基準を満足しない紙幣が出口場所の認識可能な位置に位置づけられるようにする」としたのに対し、発明イは、係る紙幣の出口場所における位置関係が明確にされていない点。相違点Dに対応)について、上記相違点に係る事項は、刊行物2に記載されているとし、これを前提に、上記相違点に係る構成は当業者が容易に推考し得たものである旨判断した(決定13頁34行から14頁1行)が、刊行物2は単なる計数機に関する発明にすぎず、金種の識別・計数装置の処理スピードが1分間に800枚以上であることについての開示も示唆もないから、決定の上記判断も誤りである。 |
|
被告の反論の要点
1 取消事由1(刊行物1の認定の誤り)に対して 決定が刊行物1に記載された発明として、発明イ及びロを認定したことに誤りはない。 2 取消事由2(相違点の看過)に対して (1) 決定における刊行物1に記載された発明の認定に誤りはなく、相違点の看過はない。原告主張の相違点@ないしBは、刊行物1に発明イ及びロが記載されている以上、相違点として成立し得ないものである。また、原告主張の相違点C及びDについては、決定においてもこれを相違点として認定している。 (2) 原告は、刊行物1の発明における出口場所の個数は2個(原告主張の相違点B)であると主張するが、理由がない。 「金種照合装置114からの照合信号RFを入力してそれが不一致を示すものであれば搬送駆動部120を停止する。尚、異金種紙幣排除装置123を設け、 金種照合装置114からの照合信号RFを入力してそれが不一致を示すものであれば、 当該検出紙幣を紙幣堆積台23に搬送させないで別途設けられている排除口へ排除させるようにしてもよい。」(甲4の6欄36行から43行)との記載から、刊行物1のものにおいて、排除口へ排除させる動作が必須の要件とされているものでないことは明らかであるし、搬送駆動部120を停止する場合に排除口を必要としないことも明らかである。第1図及び第2図にも「別途設けられている排除口」は記載されていない。原告の主張は、「別途設けられている排除口」への紙幣移送に関する具体的構成について、刊行物1の記載に何ら基づかない主張である。 刊行物1に対応する公開広報(甲5)の記載も、刊行物1と同様、異金種の紙幣を堆積台23に搬送させずに必ず排除させるようにすることを記載したものではない。 3 取消事由3(進歩性判断の誤り)に対して 本件発明1ないし12の進歩性に関する決定の判断に誤りはない。 原告は、本件発明1ないし12は、全金種を識別しながら出口場所を単一としたことに進歩性があると主張するが、刊行物1には、複数金種を識別するものが記載されており、また、出口場所を単一とすることも示されているから、原告の主張は失当である。 |
|
当裁判所の判断
1 取消事由1(刊行物1に記載された発明の認定の誤り)について 原告は、刊行物1には、複数金種を識別・計数し、指定された以外の金種の紙幣(異金種紙幣)については搬送を停止するという事項は記載されておらず、これが記載されているものとして発明イ及び発明ロを認定した決定は、誤っていると主張する。 (1) 刊行物1(甲4)には、次の記載がある(下線を付加)。 @ 「この発明は、紙幣、カード等の紙葉類を1枚ずつ取出して計数等の所要の処理をなさしめる紙葉類処理機において、その紙葉類を識別して確実に計数なさしめるようにした紙葉類識別係数機に関する。」(2欄15行から19行) A 「この発明の目的は、計数すべき紙葉類の種類を指定することにより、計数中に紙葉類の種類を自動的に識別し、異種類のものがあれば直ちに計数動作を停止又は排除させ得る紙葉類の識別計数機を提供することにある。」(3欄3行から7行) B 「計数機1の前面パネルには、・・・計数紙幣の金種を指定するための金種指定キー103 、・・・計数する紙幣の種類(普通紙、単金種、複合金種)を選択する計数種類選択ボタン105 、計数機の作動モード(計数モード、加算モード、バッチモード)を選択する作動モード選択手段106 ・・・が設けられている。」(同5欄末行から6欄14行) C 「上述の如き計数機は第3図に示す制御回路によって制御される。すなわち、第3図において、111は搬送される紙幣の金種を識別するための、搬送路に設けられたパターン検知装置であり、・・・また、112は、パターン検知装置111からのパターン検知信号を入力して当該紙幣の金種を識別するための識別装置、113は金種指定キー103で指定された金種データを記憶する金種記憶装置、114は識別装置112の識別金種と金種記憶装置113の記憶金種とを照合して照合信号を出力する金種照合装置である。さらに、121は紙幣の搬送を行う搬送駆動部120を駆動制御するための搬送制御装置であり、・・・載置台2に載せられた紙幣を順次1枚ずつ取り出して紙幣堆積台23上に搬送すると共に、金種照合装置114からの照合信号RFを入力してそれが不一致を示すものであれば搬送駆動部120を停止する。 尚、異金種紙幣排除装置123を設け、金種照合装置114からの照合信号RHを入力してそれが不一致を示すものであれば、当該検出紙幣を紙幣堆積台23に搬送させないで別途設けられている排除口へ排除させるようにしてもよい。」(6欄15行から43行) D 「作動モード選択ボタン106は、計数するモードを選択するものであり、(1) 載置台2に載せられた紙幣が無くなるまで計数し、・・・「普通紙」計数の時は枚数のみを、「単金種」及び「複合金種」の時には枚数及び金額表示を行わせる計数モードと、(2) 載置台2に載せられた紙幣を順次計数して、・・・「普通紙」計数の場合は枚数表示を、「単金種」及び「複合金種」の場合は、枚数、金額を表示される加算モードと、(3) ・・・所定枚数を計数し、その枚数を表示するバッチモードと、を含んでいる。」(9欄4行から30行) E 「このような構成において、今、単金種の紙幣を加算モードで計数する場合を例に挙げて説明する。・・・金種照合装置114はこの識別信号と金種指定キー103からの金種信号とを入力し照合し、「一致」又は「不一致」の照合信号RFを出力する。そして、「不一致」であれば搬送制御装置121は搬送駆動部120を停止させる。なお、搬送駆動部120を停止させずに異金種排除装置123を作動させて、異金種の紙幣を堆積台23に搬送させずに排除させるようにしても良い。」(9欄31行から33行、10欄11行から18行) F 「次に、計数種類選択ボタン105の「複合金種」及び作動モード選択ボタン106の「計数モード」を選択した場合について述べると、載置台2に複数金種混合の紙幣束が載せられると・・・紙幣が順次1枚ずつ送出搬送され(る。)・・・識別装置112は金種識別信号を出力するが、この時金種照合装置114はモード選択装置127によりモード信号MSを入力して、動作しないようになっている。・・・表示装置101の枚数表示部101A並びに金額表示部101Bにて金種別に枚数及び金額を表示する。」(11欄3行から20行) G 「次に、加算モードを選択した場合には載置台2に載せられた複数金種混合の紙幣が無くなり、・・・計数終了信号CFが出力されると、・・・枚数及び金額を表示装置101にて表示する。・・・なお、「複合金種」または「単金種」を選択した時、金種指定キー103にて計数すべき金種を指定しておき、識別装置112からの識別信号を金種照合装置114にて照合して、指定された金種以外の紙幣であれば異金種紙幣排除装置123により別途設けられている排除口へ排除し、 指定された金種のみの紙幣を堆積部23に搬送させて金種別に計数させても良い。」(11欄24行から12欄1行) (2) 上記各記載、特に前記(1)Bの「計数する紙幣の種類(普通紙、単金種、複合金種)を選択する計数種類選択ボタン」との記載及び制御装置のブロック図を表した第3図によれば、刊行物1に記載された紙葉類識別計数機は、単一の装置において複数金種、単金種のいずれでも処理し得る構成を有するものであることが明らかである。 そして、刊行物1の紙葉類識別計数機の制御回路についての説明(前記(1)C。なお別紙2刊行物1図面の第3図参照)には、金種照合装置114は金種種指定キーで指定された金種データを記憶する金種記憶装置113の記憶金種と識別装置112が識別した識別金種とを照合して照合信号RFを出力すること、搬送制御装置121は金種照合装置114から出力される照合信号RFが不一致を示すものであれば搬送駆動部停止させることが記載されているから、刊行物1に記載された紙葉類識別計数機にあっては、計数する紙幣の種類につき計数種類選択ボタン105「複合金種」を選択し、さらに、金種指定キー103で金種(複数)を指定した場合に、指定金種以外の紙幣が混じっていると、搬送制御装置121は、金種照合装置から入力された不一致を示す照合信号RFに基づき、搬送駆動部120を停止する(その結果、計数動作が停止される。)ものと認められる。 そうすると、刊行物1には、決定が認定したとおり、複数金種を識別・計数し、 かつ、紙幣が指定された金種以外の紙幣であるときには搬送を停止するようにした紙葉類識別計数装置及び方法が記載されているというべきである。 (3) 原告は、刊行物1には、特定の「単金種」のみをカウント処理の対象とする(計数する)発明と、これとは別個の「複合金種」を識別・計数する発明とが記載されており、指定された金種以外の紙幣を搬送停止又は除外によりカウント処理から排除するという構成は、前者(単金種)についてのみ記載されているもので、後者(複合金種)については異金種紙幣の排除は行われないと主張し、その根拠として、実施例の説明中に、金種について「複合金種」、作動モードについて「計数モード」を選択した場合について、「この時金種照合装置はモード選択装置127によりモード信号MSを入力して動作しないようになっている。」との記載があることを挙げる。 しかしながら、刊行物1が単一の装置において単金種、複数金種のいずれでも処理し得る装置及び方法を開示していると認められることは前示のとおりであるから、その動作態様を各モードに分けて説明している記載も互いに関連づけられたものとして統一的に理解すべきである。刊行物1について、ある部分は単金種を処理する発明の構成について説明した部分であり、他の部分は複数金種を処理する発明の構成について説明した部分であるというように、その説明記載をことさら2つの異なる発明に分断して理解することは、刊行物1の読み方として適切なものではない。そして、刊行物1の説明記載を一体的なものとして理解するなら、第3図に示される制御回路の動作についての説明は、「単金種」、「複合金種」のいずれを選択した場合についても当てはまり、金種が指定された場合、指定された金種以外の紙幣は、金種照合装置からの照合信号RFに基づき、搬送装置の停止又は他の排除口への排除によって計数対象から除外されることが明らかである。 原告は、「この時金種照合装置はモード選択装置127によりモード信号MSを入力して動作しないようになっている。」との記載を根拠に「複合金種」が選択された場合には金種照合装置は作動しない(したがって、不一致を示すRF信号により異金種を計数対象から除外することはできない。)と主張するが、上記記載は、 「複合金種」で「計数モード」を選択し、金種を指定しない場合についての説明であるから、金種を指定した場合についてまで金種照合装置が作動しないことを示すものとは認められない。かえって、上記記載のすぐ後の「複合金種」で「加算モード」を選択した場合についての説明において、「なお、 「複合金種」または「単金種」を選択した時、金種指定キー103にて計数すべき金種を指定しておき、識別装置112からの識別信号を金種照合装置114にて照合して 、指定された金種以外の紙幣であれば異金種紙幣排除装置123により別途設けられている排除口へ排除し、指定された金種のみの紙幣を堆積部23に搬送させて金種別に計数させても良い。」 とされていることからすれば、「複合金種」を選択した場合であっても、 金種(複数)を指定することによって、指定された金種以外の紙幣は金種照合装置からの照合信号に基づいて計数対象から除外されることが明らかである。なお、上記引用箇所では、異金種を計数対象から除外する態様として、「別途設けられている排除口へ排除する」態様だけが挙げられているが、「なお、・・・排除口へ排除し、・・・・ても良い。」との記載文言は、「排除口へ排除する」構成が付加的ないし選択的であることを示すものであって、これとは別の「搬送駆動部120を停止する」(6欄37、38行)という態様の存在を前提とした記述であることが明らかである(このことは、第3図の制御回路についての記述である「搬送駆動部120を停止する。尚、異金種排除装置114を設け、・・・当該検出紙幣を紙幣堆積台23に搬送させないで別途設けられている排除口へ排除させるようにしてもよい。」と対応させてみれば、一層明らかである。)。 したがって、原告の上記主張は採用できない。 (4) 原告は、また、決定が刊行物1に記載された発明として発明イを認定するに際し、一方では「すべての金種」を識別するとしながら、識別すべき「金種を指定」と認定していることは矛盾しており、「すべての金種の識別」と「識別すべき金種の指定」とは両立しないと主張する。しかしながら、決定にいう「すべての金種」とは、複数金種混合の紙幣束に含まれるすべての金種(例えば、刊行物1の発明の出願時における1万円、5千円、千円、5百円の4種)であることが文脈上明らかであり、そのすべてを識別すべき金種として指定することも当然できると解されるから、原告の主張するような矛盾はない(上記4種を金種指定すれば、指定金種から外れる外国紙幣や識別不能な汚損紙幣は、停止又は排除により計数対象から除外されることになる。)。 したがって、この点に関する原告の主張も採用できない。 (5) 以上のとおりであるから、刊行物1には複合紙幣を識別・計数し、異金種の紙幣(識別対象として指定されていない紙幣)を計数対象から除外する発明は記載されていないとして、これに反する決定における刊行物1発明イ及びロの認定は誤りであるという原告の主張は失当であって、原告主張の取消事由1は理由がない。 2 取消事由2(相違点の看過)について (1) 原告主張の相違点@、Aについて 相違点@及び相違点Aについての原告の主張は、刊行物1に記載された発明が特定の「単金種」のみを処理するものであることを前提とするものである。しかしながら、刊行物1に複合金種を識別・計数し、異金種の紙幣を計数処理の対象から除外する発明が記載されていることは前記1に認定したとおりであるから、原告の主張する相違点@、Aは、存在しない。 (2) 原告主張の相違点Bについて(刊行物1に記載された発明における出口の個数) 「金種照合装置114からの照合信号RFを入力してそれが不一致を示すものであれば搬送駆動部120を停止する。尚、異金種紙幣排除装置123を設け、 金種照合装置114からの照合信号RFを入力してそれが不一致を示すものであれば、当該検出紙幣を紙幣堆積台23に搬送させないで別途設けられている排除口へ排除させるようにしてもよい。」(甲4の6欄36行から43行)との記載によれば、刊行物1のものにおいて、異金種が検出された場合に、これを別途設けられた排除口に排除するようにすることは、必須の構成ではなく、付加的な構成にすぎないことが明らかである。そして、搬送駆動部120を停止する構成をとる場合に、 排除口を設ける必要がないことも明らかであるから、刊行物1には、紙幣の出口が1つ(堆積台23への出口)のみのものが記載されているということができる。このことは刊行物1の第1図(外観図)及び第2図(内部機構を示す図)のいずれにも別の「排除口」が示されていないことからも裏付けられる。 原告は、刊行物1の請求項1及び2の記載に基づき、刊行物1の装置は異金種が検出された場合に搬送を「停止」する動作と「排出」する動作のいずれをもなし得る装置でなければならないから、排出口の存在は必須であり、その結果出口は必然的に2個になると主張する。しかしながら、請求項1、2に記載されたものが仮に原告主張のとおりのものであるとしても、刊行物1の発明の詳細な説明中及び図面には、出口が1つのものが開示されていると認められることは前示のとおりである。刊行物1に対応する公開広報(甲5)の記載も、刊行物1と同様、異金種の紙幣を堆積台23に搬送させずに必ず排除させるようにすることを記載したものとは認められない。 したがって、原告の主張する相違点Bは、存在しない。 (3) 原告主張の相違点C、Dについて 原告主張の相違点Cは、決定においても、相違点として認定されている。 すなわち、決定は、「b.移送機構の停止に関し、本件発明1が「基準を満足しない紙幣が出口場所の認識可能な位置に位置づけられるようにする」としたのに対し、発明イは、かかる紙幣の出口場所における位置関係が明確にされていない点(以下、「相違点2」という。)で相違している。」(決定13頁15行から19行)、「本件発明3は、本件発明2に「フラグを出す手段が移送機構を停止させたとき、額面金額の決定がなされなかった紙幣が、出口場所へと移送される最後の紙幣となるようになされている」構成をさらに限定したものである」(決定14頁20行から22行)、「e.紙幣の額面金額が識別ユニットによって決定されないときの移送機構に関し、本件発明1が「額面金額が決定されなかった紙幣が出口場所に給送される最後の紙幣となるよう」に制御されるのに対し、発明イは、かかる紙幣の出口場所における位置関係の制御が明確にされていない点(以下、「相違点5」という。)で相違している。」(決定16頁15行から20行、甲第1号証)、「h.基準を満足しない紙幣の移送の停止に関し、本件発明8が「出口場所の認識可能な位置に位置づけられるよう」にしたのに対し、発明ロでは、紙幣の出口場所における位置関係が明確にされていない点(以下、「相違点8」という。)、で相違している。」(決定19頁10行から14行)、「本件発明10は、本件発明8又は9に「フラグを出す段階が、額面金額の決定がなされなかった紙幣が出口場所へと移送される最後の紙幣となるよう、前記移送を停止させるようになされている」構成をさらに限定したものである」(決定20頁5行から8行)、「i.紙幣の額面金額が決定できなかったときに、本件発明12が「額面金額を決定できなかった紙幣が前記出口場所へと移送される最後の紙幣となるよう」に移送を停止したのに対し、発明ロは、該紙幣の出口場所における位置関係が明確にされていない点(以下、「相違点9」という。)」(決定22頁12行から15行)と認定し、その上で、それらの容易性について判断していることが認められる。 また、原告主張の相違点Dは、決定においても、「c.移送機構及び額面金額識別ユニットの各処理速度に関し、本件発明1が「1分間に約800枚以上の速さ」としたのに対し、発明イは、かかる速度の限定がなされていない点(以下、「相違点3」という。)」(決定16頁8行から10行)、「j.本件発明12が「紙幣の移送および額面金額の決定が、1分間に少なくとも800枚の速さで行われる」としたのに対し、発明ロは、かかる速度について明確にされていない点(以下、 「相違点10」という。)、で相違している。」(決定22頁16行から19行)として、相違点として認定した上で、その容易性について判断していることが認められる。 (4) 以上(1)ないし(3)に示したところによれば、決定が本件発明1ないし12と刊行物1記載の発明との対比において相違点を看過したということはできず、原告主張の取消事由2は理由がない。 3 取消事由3(進歩性判断の誤り)について 前記1及び2に認定判断したところを踏まえて検討すると、本件発明1ないし12は、いずれも刊行物1ないし3に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものであるというべきである。その理由は、決定の理由欄の「(3)対比・判断」に示されるとおりであり、当裁判所も同様に判断するものである。 なお、原告は、刊行物2(甲6)は、単なる計数器に関する発明にすぎず、金種の識別能力を備えた識別・計数装置の処理スピードが1分間に800枚以上であるという開示はない旨主張するが、刊行物2の「ここでくり返し行われる偽造検知作用は計数動作が完全に自動的に行われている間並行して行われる。通常の高速計数動作中、装置10を通過する各紙幣はその純粋の一定特性により試験される。その特性試験の全てを満足しない紙幣は機械を直ちに自動的に停止させ警報ランプ65を点燈させる。これと同時に疑わしい紙幣は、第1図に示されている書類群24において最上部に位置する紙幣になる。疑わしい紙幣は、それから次に述べる試験を受けるため書類群24から簡単容易に移動される。」(甲6の6頁右下欄11行から7頁左上欄第2行)との記載によれば、刊行物2に記載のものは、偽造検知も行うのであるから、紙幣の識別能力を有することは明らかである。刊行物2についての原告の主張は採用することができない。 4 結論 以上のとおり、原告主張の取消事由1ないし3はいずれも理由がないから、原告の請求は棄却されるべきである。 |
裁判長裁判官 | 塚原朋一 |
---|---|
裁判官 | 古城春実 |
裁判官 | 田中昌利 |